【解決手段】PD−1に対して耐性のあるモノクローナル抗体及びその適用が提供される。前記PD−1に対して耐性のあるモノクローナル抗体は、特定のアミノ酸配列を有するFcRn結合部位領域を含む。
【発明の概要】
【0005】
本開示の実施形態は、関連技術に存在する問題の少なくとも1つを少なくともある程度まで解決することを目的とする。この目的のために、本開示の目的は、FcRnに対する増加した結合親和性及び延長した血清半減期を示す、プログラム死−1(PD−1)に対する新規モノクローナル抗体を提供することである。本開示は、以下の発見及び研究に従って本発明者らによって達成されることに留意されるべきである。
【0006】
IgG抗体は、IgG抗体のヒンジ領域のN末端におけるジスルフィド結合を切断することによって、パパインで加水分解されることができ、それによって3つのフラグメント、即ち抗体結合性の2つの同一のフラグメント(即ち、Fab)及び結晶化できるフラグメント(即ち、Fc)を得ることができる。抗体の結晶化できるフラグメントFcは、様々なFc受容体及びリガンドと相互作用し、それによって、補体依存性細胞傷害(CDC)、ファゴサイトーシス、及び抗体依存性細胞介在性細胞傷害(ADCC)の開始、並びにトランスサイトーシスを介した細胞バリアによる抗体の輸送を含む、抗体に対して重要なエフェクター機能を与える。更に、Fcフラグメントは、IgG様抗体の血清半減期を維持するのに重要である。
【0007】
胎児性Fc受容体(FcRn)は、上皮細胞による免疫グロブリンG(IgG)の能動輸送を担う受容体であり、非共有結合で結合されている、α鎖サブユニットとβ鎖サブユニットからなるヘテロ二量体である。IgG抗体のFcフラグメントは、2つの同一のポリペプチド鎖を含み、それぞれはその個々のFcRn結合部位によって単一のFcRn分子に結合する。成体哺乳動物において、IgG抗体は、Fcフラグメントを介してFcRnに結合し、それによってIgG抗体を分解から保護するので、Fcフラグメントは血清抗体レベルを維持する上で極めて重要である。内皮細胞によって形質膜陥入された後にFcRnに結合したIgG抗体は、血流中を循環し、一方FcRnに結合しなかったIgG抗体は、リソソームによって分解される。したがって、Fcフラグメントは、IgG抗体がFcRnにどれだけ強力に結合するかにおいて重要である。
【0008】
上記に基づき、本発明者らは、対象としてのPD−1を特異的に認識するIgG様抗体H2L2を用いて、IgG様抗体の重鎖定常領域の配列(即ち、Fcフラグメントの配列)を変更することにより、IgG様抗体の血清半減期を延長させ、FcRnに対するIgG様抗体の結合親和性を増加させることを試みた。即ち、本発明者らは、IgG様抗体H2L2のFcフラグメント中のアミノ酸を変異させることによって、血清半減期及びFcRnに対する結合親和性を向上させることを目的とする。驚くべきことに、一連の実験計画及び研究の後、H2L2抗体のFcフラグメントにアミノ酸変異を導入することによって、FcRnに対するIgG様抗体H2L2の結合親和性が改善されることができ、それによってIgG様抗体H2L2の血清半減期を増加させることが、本発明者らによって見出された。具体的には、IgG様抗体H2L2のFcフラグメントは、アミノ酸254番目、308番目、及び434番目の位置で、野生型IgG様抗体(アミノ酸変異を含まない)におけるものとは異なるアミノ酸で変異し、それによって野生型IgG様抗体と比べて延長した血清半減期を示す最適化された抗体を得て、抗原PD−1に対する結合親和性及び認識特異性が維持される。
【0009】
したがって、一態様において、実施形態における本開示は、PD−1に対するモノクローナル抗体又はその抗原結合性フラグメントを提供する。幾つかの実施形態においては、前記モノクローナル抗体は、配列番号5のアミノ酸配列を有する胎児性Fc受容体(FcRn)−結合部位を含む。
【化1】
四角で囲まれているアミノ酸は、それぞれ、前記PD−1に対するモノクローナル抗体の重鎖定常領域のFcRn−結合部位における254番目、308番目、及び434番目の位置のアミノ酸を表す。即ち、実施形態においては、本開示のPD−1に対するモノクローナル抗体(即ち、IgG様抗体)は、前記重鎖定常領域のFcRn−結合部位において、254番目の位置のアミノ酸トレオニン、308番目の位置のアミノ酸プロリン、及び434番目の位置のアミノ酸アラニンを有する。驚くべきことに、本発明者らは、前記PD−1に対するモノクローナル抗体が、FcRnに対する強い結合親和性及び延長された血清半減期、並びに抗原PD−1に対する強い結合親和性及び良好な認識特異性を示すことを見出した。
【0010】
幾つかの実施形態においては、前記PD−1に対するモノクローナル抗体は、配列番号1のアミノ酸配列を有する重鎖、及び配列番号3のアミノ酸配列を有する軽鎖を含む。本明細書では、H8L2と名付けられた前記PD−1に対するモノクローナル抗体は、野生型H2L2抗体と比べて、前記重鎖定常領域のFcRn−結合部位において、254番目の位置におけるトレオニンへのアミノ酸変異、308番目の位置におけるプロリンへのアミノ酸変異、及び434番目の位置におけるアラニンへのアミノ酸変異を有する。したがって、本開示のPD−1に対するモノクローナル抗体(即ち、H8L2)は、前記野生型H2L2抗体と比べて、FcRnに対する強い結合親和性及び延長された血清半減期を示し、抗原PD−1に対する結合親和性及び認識特異性は維持される。
【0011】
他の態様においては、実施形態における本開示は、単離されたポリヌクレオチドを提供する。幾つかの実施形態においては、前記ポリヌクレオチドは、上記に記載される抗体又はその抗原結合性フラグメントをコードする。幾つかの実施形態においては、前記単離されたポリヌクレオチドによってコードされた抗体は、FcRnに対する強い結合親和性及び延長された血清半減期、並びに抗原PD−1に対する強い結合親和性及び良好な認識特異性を示す。
【0012】
幾つかの実施形態においては、前記ポリヌクレオチドは、配列番号6のヌクレオチド配列又はその相補的配列を含み、前記配列番号6のヌクレオチド配列は、前記配列番号5のアミノ酸配列を有するFcRn−結合部位をコードする。
【化2】
【0013】
したがって、前記単離されたポリヌクレオチドによってコードされた抗体は、前記重鎖定常領域のFcRn−結合部位において、アミノ酸254番目、308番目、及び434番目の位置で、それぞれトレオニン、プロリン、及びアラニンを有する。更に、前記抗体は、FcRnに対する強い結合親和性及び延長された血清半減期、並びに抗原PD−1に対する強い結合親和性及び良好な認識特異性を示す。
【0014】
幾つかの実施形態においては、前記ポリヌクレオチドは、配列番号2のヌクレオチド配列のものである。したがって、前記単離されたポリヌクレオチドによってコードされた抗体は、前記野生型H2L2抗体と比べて、前記重鎖定常領域のFcRn−結合部位において、254番目の位置におけるトレオニンへのアミノ酸変異、308番目の位置におけるプロリンへのアミノ酸変異、434番目の位置におけるアラニンへのアミノ酸変異を有する。更に、本開示のPD−1に対するモノクローナル抗体は、前記野生型H2L2抗体と比べて、FcRnに対する強い結合親和性及び延長された血清半減期を示し、抗原PD−1に対する結合親和性及び認識特異性が維持される。
【0015】
他の態様においては、実施形態における本開示は、発現ベクターを提供する。幾つかの実施形態においては、前記発現ベクターは、上記に記載されたポリヌクレオチドを含む。
【0016】
更に他の態様においては、実施形態における本開示は、組換え細胞を提供する。幾つかの実施形態においては、前記組換え細胞は、上記に記載された発現ベクターを含む。
【0017】
本発明者らは、上記に記載された組換え細胞を培養することにより、幾つかの実施形態に係るPD−1を特異的に認識する抗体又はその抗原結合性フラグメントが効率的に合成され得ることを見出した。したがって、更なる態様において、実施形態における本開示は、上記に記載された抗体又はその抗原結合性フラグメントを調製するための方法を提供する。幾つかの実施形態においては、前記方法は、上記に記載された組換え細胞を培養することを含む。前記PD−1を特異的に認識する抗体又はその抗原結合性フラグメントに関して、上記に記載された特徴及び利点は、前記方法に等しく適用可能であり、本明細書では記載しない。
【0018】
更に別の態様においては、実施形態における本開示は、抗体又はその抗原結合性フラグメントの調製における、上記に記載されたポリヌクレオチド、発現ベクター、又は組換え細胞の使用も提供し、前記抗体は、PD−1に対して特異的に結合する。したがって、本発明者らは、上記に記載されたポリヌクレオチド、発現ベクター、又は組換え細胞を用いることで、延長された血清半減期、FcRnに対する強い結合親和性、並びに抗原PD−1に対する強い結合親和性及び良好な認識特異性を有する、PD−1に特異的に結合することができる抗体又はその抗原結合性フラグメントが効率的に生成されることができることを見出した。更に、その受容体に対するPD−1の結合は、調製された抗体又はその抗原結合性フラグメントによって、効果的に遮断され、更にPD−1受容体(SHP1/2など)関連シグナル経路を遮断し、それによって効果的に腫瘍の増殖を抑制する。
【0019】
更なる態様においては、実施形態における本開示は、T細胞の活性化及び増殖を促進する、サイトカインの発現及び分泌を制御する、又は抗腫瘍細胞を刺激し、より強い免疫応答を生じさせるための医薬の調製における、上記に記載された抗体又はその抗原結合性フラグメント、ポリヌクレオチド、発現ベクター、又は組換え細胞の使用を提供する。
【0020】
更なる態様においては、実施形態における本開示は、医薬組成物を提供する。幾つかの実施形態においては、前記医薬組成物は、上記に記載された抗体又はその抗原結合性フラグメント、ポリヌクレオチド、発現ベクター、又は組換え細胞を含む。したがって、前記医薬組成物は、T細胞の活性化及び増殖を効果的に促進すること、サイトカインの発現及び分泌を制御すること、又は抗腫瘍細胞を刺激し、より強い免疫応答を生じさせることにおいて有用であることができる。
【0021】
更に他の態様においては、実施形態における本開示は、PD−1に結合することができる医薬を同定する方法を提供する。幾つかの実施形態においては、前記方法は、候補物質の存在下で、上記に記載された抗体又はその抗原結合性フラグメントをPD−1又はそのフラグメントである抗原に接触させ、前記抗原に対する前記抗体又はその抗原結合性フラグメントの第1の結合量を決定することと;前記候補物質の非存在下で、上記で記載された抗体又はその抗原結合性フラグメントをPD−1又はそのフラグメントである抗原に接触させ、前記抗原に対する前記抗体又はその抗原結合性フラグメントの第2の結合量を決定することと、を含み、前記第1の結合量よりも高い前記第2の結合量は、前記候補物質が、PD−1に結合する能力を有することの指標である。したがって、PD−1に結合する候補物質は、この方法を使用することによってスクリーニングされることができる。
【0022】
PD−1及びCTLA−4の両方を遮断することは、通常、標準的な腫瘍療法(例えば化学療法)と組み合わせて適用されることに留意すべきである。例えば、PD−1ブロッキング剤及びCTLA−4ブロッキング剤の両方が化学療法下で組織に効果的に結合するであろう。抗PD−1抗体及び抗CTLA−4抗体の両方と組み合わせて用いられる場合、少ない用量で化学療法薬剤によって同じ有効性が達成され得ることが臨床試験によって実証されている。抗PD−1抗体及び抗CTLA−4抗体の両方と組み合わせたデカルバジン(Decarbazine)(ドセタキセル、抗癌薬剤)又はインターロイキン−2(IL−2)がメラノーマの処置に有用であることが、文献で報告されている。一方で、化学療法薬剤は、細胞死を誘導し、次に腫瘍細胞によって発現される抗原のレベルを増加させる。他方で、PD−1及びCTLA−4の組み合わせた遮断は、放射線療法、外科手術、ホルモン療法などとの相乗効果を高め、これらはそれぞれ体内の抗原の供給源を拡大する。更に、抗PD−1抗体及び抗CTLA−4抗体の両方と組み合わせて、血管新生抑制剤を用いて血管増殖を阻害し、それによって体内での抗原の発現増加からも生じ得る腫瘍細胞増殖を更に抑制することもできる。
【0023】
更に別の態様では、実施形態における本開示は、合剤を提供する。幾つかの実施形態においては、前記合剤は、
a)上記に記載される抗体又はその抗原結合性フラグメント、ポリヌクレオチド、発現ベクター、又は組換え細胞と;
b)a)とは異なる免疫増強剤と、
を含む。
【0024】
したがって、前記合剤は、腫瘍に対するより良好な治療効果を達成する。
【0025】
幾つかの実施形態においては、前記a)とは異なる免疫増強剤は、抗細胞傷害性Tリンパ球抗原4(CTLA−4)抗体、抗CD40抗体、ブデソニド、及びサリチレートからなる群から選択される少なくとも1つを含み;任意に、前記サリチレートは、スルファサラジン、オルサラジン、バルサラジド、及びメサラミンの少なくとも1つを含む。
【0026】
更に、本明細書で用いられる「アミノ酸」という用語は、特定の定義された位置に存在することができる20個の天然アミノ酸又はその非天然類似体の任意の1つを意味することに留意されたい。前記20個の天然アミノ酸は、3文字コード又は1文字コードに略されることができる。
【表1】
【0027】
254番目、308番目、及び434番目の位置のアミノ酸などの「n番目の位置のアミノ酸」という表現は、タンパク質のアミノ酸配列における特定のアミノ酸位置を指す。本開示のFcフラグメントについて、アミノ酸位置は、KabatにおけるEUインデックスに従って番号付けされることができる。
【0028】
本開示の更なる態様及び利点は、部分的に以下の説明に記載され、その一部は、その説明から明らかになるか、又は本開示の実施から理解されるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本開示の実施例を詳細に参照する。当業者であれば、以下の実施例は説明のためのものであり、本開示の範囲を限定するものと解釈されることができないことを理解するであろう。具体的な技術又は条件が実施例において明記されていない場合、当技術分野における文献(例えば、J.Sambrookら(Huang PTにより翻訳)、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第3版、Science Pressを参照)に記載されている技術又は条件に従って、又は製品の説明書に従って、工程が行われる。試薬又は機器の製造元が明記されていない場合、試薬又は機器は、例えば、Illumina Companyから商業的に利用可能であることがある。
【0031】
実施例1 H8L2抗体のタンパク質発現
ヒト化H2L2抗体(PD−1に対するIgG様抗体)において、重鎖定常領域のFcRn−結合部位における254番目、308番目、及び434番目の位置のアミノ酸は、それぞれトレオニン、プロリン、及びアラニンに変異し、PD−1に対するIgG様抗体H8L2(即ち、H8L2抗体)として名付けられたバリアントを得る。
【0032】
即ち、目的のH8L2抗体は、重鎖定常領域のFcRn−結合部位におけるアミノ酸位置254番目でトレオニン変異、アミノ酸位置308番目でプロリン変異、及びアミノ酸位置434番目でアラニン変異を有し、残ったアミノ酸は、ヒト化H2L2抗体と比較して変わらなかった。
【0033】
実際には、遺伝子合成を介して形成されたヒト化H8L2抗体をコードする核酸配列を発現ベクター中で構築し、哺乳類細胞293細胞にトランスフェクトした。トランスフェクション後、哺乳類細胞293細胞によって、ヒト化H8L2抗体が発現され、分泌された。次いで、得られたヒト化H8L2抗体をプロテイン−Aアフィニティーカラムで精製し、精製されたヒト化H8L2抗体を得て、標準的なSDS−PAGE法及びSEC−HPLC法による品質同定後の薬理学研究に使用される。
【0034】
これらの中でも、SDS−PAGE法及びSEC−HPLC法によって同定されたヒト化H8L2抗体の結果をそれぞれ
図13及び
図14に示す。
【0035】
図13は、H8L2抗体のSDS−PAGE結果を示し、レーン1は、還元されていないH8L2を指し、レーン2は、還元されたH8L2を指し、レーン3は、ウシ血清アルブミン(BSA)を指し、レーンMは、DNAスタンダード(14.4KDa、18.4KDa、25KDa、35KDa、45KDa、66.2KDa、及び116KDaを含む)を指す。候補物質抗体18A10 H8L2は、全体として高い純度のものであることとが理解できる。
【0036】
図14は、H8L2抗体のSEC−HPLC結果を示し、候補物質抗体18A10 H8L2は、積分定量によって確認された後、98.19%の純度のものであることが理解できる。
【0037】
上記に記載されるように、ヒト化H2L2抗体とヒト化H8L2抗体との間の差は、重鎖定常領域のFcRn−結合部位における254番目、308番目、及び434番目の位置のアミノ酸のみにあるので、参考までに単にH8L2抗体のアミノ酸配列を提供する。
【0038】
ヒト化H8L2抗体の重鎖は、下記のアミノ酸配列のものである。
【化3】
H8L2抗体の重鎖可変領域に下線を引き、H8L2抗体の変異部位(H2L2抗体に対して)は、四角で囲み、それぞれ、重鎖定常領域のFcRn−結合部位における254番目、308番目、及び434番目の位置のアミノ酸変異である。
【0039】
具体的には、H8L2抗体の重鎖定常領域のFcRn−結合部位におけるアミノ酸変異について、ヒト化H2L2抗体と比較して、254番目の位置のアミノ酸は、セリンからトレオニンに変異し、308番目の位置のアミノ酸は、バリンからプロリンに変異し、254番目の位置のアミノ酸は、アスパラギンからアラニンに変異している。
【0040】
ヒト化H8L2抗体の重鎖をコードする核酸配列は、下記の通りである。
【化4】
重鎖可変領域をコードする核酸配列に線が引かれる。
【0041】
ヒト化H8L2抗体の軽鎖は、下記のアミノ酸配列のものである。
【化5】
H8L2抗体の軽鎖可変領域に下線が引かれる。
【0042】
ヒト化H8L2抗体の軽鎖をコードする核酸は、下記のヌクレオチド配列のものである。
【化6】
軽鎖可変領域をコードする核酸配列に線が引かれる。
【0043】
実施例2 組み換えのヒト化H8L2抗体のELISA実験
ヒト化H2L2抗体及び実施例1で調製したヒト化H8L2抗体を、以下に詳細に記載されるように、比較のためにELISA結合実験及び競合ELISA実験に付した。
【0044】
2.1 18A10 H8L2抗体及び18A10 H2L2抗体のELISA結合実験
具体的には、ELISA結合実験を下記の通り行った。
【0045】
工程a):抗体コーティング
ELISAプレートを0.25μg/ml(ウェル当たり100μl)の濃度のPD−1−his抗原で塗布し、4℃で一晩インキュベーションした。
【0046】
工程b):ブロッキング
PBSバッファ中1%BSAを用いて、PD−1−his抗原で塗布したELISAプレートを37℃で2時間ブロッキングし、1%Tween−20を含む1×PBSTバッファで3回洗浄し、穏やかに叩いて乾燥させた。
【0047】
工程c):一次抗体によるインキュベーション
18A10 H8L2抗体及び18A10 H2L2抗体を、それぞれ2μg/mlから1:3ずつ段階希釈し、7つの勾配抗体溶液を得た。ブランクコントロールとしてのPBS溶液と共に、18A10 H8L2抗体及び18A10 H2L2抗体のそれぞれの7つの勾配抗体溶液を、ブロッキングしたELISAプレートにそれぞれ添加し、37℃で1時間インキュベーションした。
【0048】
工程d):二次抗体とのインキュベーション
ELISAプレートをPBSTバッファで3回洗浄し、穏やかに叩いて乾燥させた後、二次抗体として、1:10000希釈のヤギ抗ヒトIgG−HRP(H+L)(ウェル当たり100μl)を添加し、37℃で1時間インキュベーションした。
【0049】
工程e)発色(developing)
ELISAプレートをPBSTバッファで3回洗浄し、再び穏やかに叩いて乾燥させた後、発色剤(developer)としての3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン(TMB)をウェル当たり100μl添加し、5分間〜10分間室温でインキュベーションした。
【0050】
工程f):発色の終了
ウェル当たり50μlの2MのH
2SO
4溶液を添加して、発色を終了させた。
【0051】
工程g):読み(reading)
マイクロプレートリーダーを用いて、450nmの波長で各ウェル中の溶液の吸光度を測定した。
【0052】
図1は結果を示し、PD−1に結合するH8L2及びH2L2のEC
50値は、それぞれ0.04nM及び0.05nMであると算出される。
図1から分かるように、FcRN−結合部位における変異は、PD−1への抗体の結合に影響を及ぼさない。
【表2】
【0053】
2.2 PDL1と、18A10 H8L2抗体及び18A10 H2L2抗体との競合ELISA実験
具体的には、以下のようにして競合ELISA実験を行った。
【0054】
工程a):抗体コーティング
96ウェルELISAプレートを0.5μg/ml(ウェル当たり50μl)の濃度のPD−1−hIgGFc抗原で塗布し、4℃で一晩インキュベーションした。
【0055】
工程b):ブロッキング
PBSTバッファで3回洗浄し、穏やかに叩いて乾燥させた後、37℃で2時間、PBSバッファ中1%BSAで、96ウェルELISAプレートをブロッキングし、1%Tween−20を含有する1×PBSTバッファで3回洗浄した。
【0056】
工程c):一次抗体によるインキュベーション
18A10 H8L2抗体及び18A10 H2L2抗体を、それぞれ6μg/mlから1:3ずつ段階希釈し、7つの勾配抗体溶液を得た。ブランクコントロールとしてのPBS溶液と共に、18A10 H8L2抗体及び18A10 H2L2抗体のそれぞれの7つの勾配抗体溶液(ウェル当たり50μl)を、ブロッキングした96ウェルELISAプレートにそれぞれ添加し、室温で10分間インキュベーションした。
【0057】
工程d):リガンドとのインキュベーション
ウェル当たり50μlで、0.6μg/mlのPDL1−mIgG2aFc溶液を添加し、37℃で1時間インキュベーションした。
【0058】
工程e):二次抗体とのインキュベーション
96ウェルELISAプレートをPBSTバッファで3回洗浄し、穏やかに叩いて乾燥させた後、二次抗体としての1:5000希釈のヤギ抗マウスIgG−HRP(H+L)(ウェル当たり50μl)を添加し、37℃で1時間インキュベーションした。
【0059】
工程f):発色
96ウェルELISAプレートをPBSTバッファで3回洗浄し、再び穏やかに叩いて乾燥させた後、発色剤としてのTMBをウェル当たり50μl添加し、5分間〜10分間室温でインキュベーションした。
【0060】
工程g):発色の終了
ウェル当たり50μlの2MのH
2SO
4溶液を添加して、発色を終了させた。
【0061】
工程h):読み
マイクロプレートリーダーを用いて、450nmの波長で各ウェル中の溶液の吸光度を測定した。
【0062】
図2は結果を示し、PD−L1の存在下でPD−1に競合的に結合するH8L2抗体及びH2L2抗体のEC
50値は、それぞれ0.474nM及び0.783nMであり、FcRN−結合部位における変異は、PD−L1の存在下で、PD−1に対する競合的な結合に影響を及ぼさないことを実証する。
【表3】
【0063】
2.3 PDL2と、18A10 H8L2抗体及び18A10 H2L2抗体との競合ELISA実験
具体的には、以下のようにして競合ELISA実験を行った。
【0064】
工程a):抗体コーティング
96ウェルELISAプレートを1.0μg/ml(ウェル当たり100μl)の濃度のPD−1−hIgGFc抗原で塗布し、4℃で一晩インキュベーションした。
【0065】
工程b):ブロッキング
PBSTバッファで3回洗浄し、穏やかに叩いて乾燥させた後、37℃で2時間、PBSバッファ中1%BSAで、96ウェルELISAプレートをブロッキングし、1%Tween−20を含有する1×PBSTバッファで4回洗浄した。
【0066】
工程c):一次抗体によるインキュベーション
18A10 H8L2抗体及び18A10 H2L2抗体を、それぞれ20μg/mlから1:3ずつ段階希釈し、7つの勾配抗体溶液を得た。ブランクコントロールとしてPBS溶液と共に、18A10 H8L2抗体及び18A10 H2L2抗体のそれぞれの7つの勾配抗体溶液(ウェル当たり50μl)を、ブロッキングした96ウェルELISAプレートにそれぞれ添加し、室温で10分間インキュベーションした。
【0067】
工程d):リガンドとのインキュベーション
1.0μg/mlのPDL2−his tag溶液をウェル当たり50μl添加し、37℃で1時間インキュベーションした。
【0068】
工程e):二次抗体とのインキュベーション
96ウェルELISAプレートをPBSTバッファで5回洗浄し、穏やかに叩いて乾燥させた後、1:750希釈(ウェル当たり50μl)で、二次抗体としてのHRP−結合モノクローナルマウス抗his tagを添加し、37℃で1時間インキュベーションした。
【0069】
工程f):発色
96ウェルELISAプレートをPBSTバッファで6回洗浄し、再び穏やかに叩いて乾燥させた後、発色剤としてのTMBをウェル当たり100μl添加し、30分間室温でインキュベーションした。
【0070】
工程g):発色の終了
ウェル当たり50μlの2MのH
2SO
4溶液を添加して、発色を終了させた。
【0071】
工程h):読み
マイクロプレートリーダーを用いて、450nmの波長で各ウェル中の溶液の吸光度を測定した。
【0072】
図3は結果を示し、PDL2の存在下でPD−1に競合的に結合するH8L2抗体及びH2L2抗体のEC
50値は、それぞれ1.83nM及び1.58nMであり、FcRN−結合部位における変異は、PDL2の存在下で、PD−1に対する競合的な結合に影響を及ぼさないことを実証する。
【表4】
【0073】
2.4 カニクイザルのPD1−hFcに対するH8L2抗体の結合活性
この実験では、非ヒト抗原(カニクイザルのPD1など)に対するH8L2抗体の結合活性をELISA法で検出し、H8L2抗体と非ヒト抗原との交差反応性を反映させた。
【0074】
0.125μg/ml(ウェル当たり50μl)の濃度のカニクイザルのPD1−hFcで、ELISAプレートを塗布し、4℃で一晩インキュベーションした。PBSTバッファで1回洗浄し、穏やかに叩いて乾燥させた後、PBSバッファ中1%BSA(ウェル当たり300μl)でELISAプレートを37℃で2時間ブロッキングした。PBSバッファで、ブロックされたELISAプレートを1回洗浄し、穏やかに叩いて乾燥させた。プレート中で、ブランクコントロールとしてのPBS溶液と共に、開始濃度として7nMに希釈したH8L2抗体を1:3で更に段階希釈し、続いてブロッキングしたELISAプレートにウェル当たり100μlで添加し、37℃で30分間インキュベーションし、二重測定で行った。PBSTバッファでELISAプレートを3回洗浄した後、二次抗体としてのヤギ抗ヒトIgG F(ab’)2−HRPをウェル当たり50μl添加し、37℃で30分間インキュベーションした。PBSTバッファでELISAプレートを4回洗浄し、発色剤としてのTMBをウェル当たり50μl添加し、暗所において5分間室温でインキュベーションした。2MのH
2SO
4溶液をウェル当たり50μl添加し、発色を終了し、マイクロプレートリーダーを用いて、450nmの波長でELISAプレートを測定し、各ウェルにおける溶液の吸光度を得て、SoftMax Pro 6.2.1ソフトウェアによるデータ分析と処理を行った。
【0075】
波長450nmにおけるカニクイザルのPD1−hFcに対するH8L2抗体の結合活性の検出結果を下記の表に示す。
【表5】
【0076】
表中の450nmの波長における結果は、カニクイザルのPD1−hFcに結合するH8L2抗体のEC
50値が0.219nMであることを示す。
【0077】
2.5 ラットのPD1に対するH8L2抗体の結合活性(ELISA法)
この実験において、非ヒト抗原(ラットのPD1など)に対するH8L2抗体の結合活性をELISA法によって検出し、H8L2抗体と非ヒト抗原との交差反応性を反映させた。
【0078】
1μg/ml(ウェル当たり50μl)の濃度のラットのPD1で、ELISAプレートを塗布し、4℃で一晩インキュベーションした。PBSTバッファで1回洗浄し、穏やかに叩いて乾燥させた後、PBSバッファ中1%BSA(ウェル当たり300μl)でELISAプレートを37℃で2時間ブロッキングした。ブロッキングしたELISAプレートをPBSTバッファで3回洗浄し、穏やかに叩いて乾燥させた。プレート中で、ブランクコントロールとしてのPBS溶液と共に、開始濃度として7nMに希釈したH8L2抗体を1:3で更に段階希釈し、続いてブロッキングしたELISAプレートにウェル当たり100μl添加し、37℃で30分間インキュベーションし、二重測定で行った。PBSTバッファでELISAプレートを3回洗浄した後、二次抗体としてのヤギ抗ヒトIgG−HRPをウェル当たり50μl添加し、37℃で30分間インキュベーションした。PBSTバッファでELISAプレートを4回洗浄し、発色剤としてのTMBをウェル当たり50μl添加し、暗所において5分間室温でインキュベーションした。2MのH
2SO
4溶液をウェル当たり50μl添加し、発色を終了し、マイクロプレートリーダーを用いて、450nmの波長でELISAプレートを測定し、各ウェルにおける溶液の吸光度を得て、SoftMax Pro 6.2.1ソフトウェアによるデータ分析及び処理を行った。
【0079】
波長450nmにおけるラットのPD1に対するH8L2抗体の結合活性の検出結果を下記の表に示す。
【表6】
【0080】
表中の450nmの波長における結果は、ラットのPD1とH8L2抗体との間にほとんど結合活性がないことを示す。
【0081】
実施例3 Fortebio分子間相互作用機器を用いたH8L2抗体及びH2L2抗体の速度論的特性パラメータの決定
比較のために、Fortebio分子間相互作用機器を用いて、実施例1で調製したH8L2抗体及びH2L2抗体の速度論的特性パラメータを決定し、詳細を下記に記載する。
【0082】
SAセンサーの表面にビオチン標識PD−1抗原を固定化した。PBSTバッファで平衡化した後、PBSTを用いて1:3で段階希釈したH8L2抗体(それぞれ200nM、66.67nM、22.22nM、7.41nM、2.47nM、0.82nM、0.27nM、及び0nM)をビオチン標識PD−1抗原に結合するためのSAセンサーに適用し、その後、解離(disassociation)のためにPBSTをSAセンサーに適用した。H2L2抗体についてのアッセイは、H8L2抗体と同じである。H8L2抗体及びH2L2抗体の速度論的特性パラメータの結果を
図4に示し、FcRN−結合部位における変異は抗体の速度論的特性パラメータに影響を及ぼさないことが理解できる。
【0083】
実施例4:FACS法によるH8L2抗体の直接的及び競合的結合活性の検出
以下に詳細に記載されるFACS法を用いることによって、実施例1で調製したH8L2抗体の直接的及び競合的結合活性を検出した。
【0084】
4.1 FACS法を用いたPD1に対するH8L2抗体の結合活性の検出
この実験においては、実験細胞としてPD1と安定的にトランスフェクトされた293T細胞株を用いて、細胞膜の表面上のPD1に対するH8L2抗体の結合活性をFACS法によって検出した。
【0085】
具体的には、以下のようにして結合実験を行った。
【0086】
工程a)PD1を安定的にトランスフェクトされた293T細胞株を消化し、10
6細胞/mlの最終濃度の細胞懸濁液を得るために数えた。
【0087】
工程b)各群について1.5mlのEPチューブに、100μlの細胞懸濁液を添加し、1群当たり10
5細胞とした。
【0088】
工程c)個々の群に、H8L2抗体(0.01nM、0.10nM、1.00nM、2.50nM、5.00nM、10.00nM、20.00nM、及び50.00nMの濃度)をそれぞれ添加し、氷上で1時間インキュベーションした。
【0089】
工程d)各群を遠心分離した後、PBSバッファで1回洗浄した。
【0090】
工程e)各群に、二次抗体としてのFITCヤギ抗ヒトIgGを添加し、氷上で暗所にて1時間インキュベーションした。
【0091】
工程f)4000r/分間で、5分間低温で各群を遠心分離した後、PBSバッファで1回洗浄し、200μlの懸濁用のPBSを添加して、オンライン検出用の懸濁液を得た。
【0092】
図15及び下記の表は、FACS法を用いて検出された細胞膜の表面上のPD1に対するH8L2抗体の結合活性の結果を示す。
【表7】
【0093】
図15及び表は、PD−1に結合するH8L2抗体のEC
50値が3.40nMであることを示す。
【0094】
4.2 FACS法を用いたPDL1存在下でのPD1に対するH8L2抗体の結合活性の検出
この実験では、実験細胞としてPD1を安定にトランスフェクトした293T細胞株を用いて、細胞膜表面上のPD1へのPDL1(即ち、競合タンパク質)の結合活性をFACS法で検出し、PDL1の存在下でのPD1へのH8L2抗体の結合活性を反映させた。
【0095】
具体的には、以下のようにして結合実験を行った。
【0096】
工程a)PD1を安定的にトランスフェクトされた293T細胞株を消化し、10
6細胞/mlの最終濃度の細胞懸濁液を得るために数えた。
【0097】
工程b)各群について1.5mlのEPチューブに、100μlの細胞懸濁液を添加し、1群当たり10
5細胞とした。
【0098】
工程c)個々の群に、H8L2抗体(0.10nM、1.00nM、2.50nM、5.00nM、10.00nM、20.00nM、50.00nM、及び100.00nMの濃度)をそれぞれ添加し、氷上で0.5時間インキュベーションした。
【0099】
工程d)リガンドPDL1−mFcを20nMの最終濃度で各群に添加し、続いて更に0.5時間インキュベーションした。
【0100】
工程e)各群を遠心分離した後、PBSバッファで1回洗浄した。
【0101】
工程f)各群に、二次抗体としてのFITCヤギ抗ヒトIgG/IgMを添加し、氷上で暗所にて1時間インキュベーションした。
【0102】
工程g)4000r/分間で、5分間低温で各群を遠心分離した後、PBSバッファで1回洗浄し、200μlの懸濁用のPBSを添加して、オンライン検出用の懸濁液を得た。
【0103】
図16及び以下の表は、FACS法を用いて検出されたPDL1の存在下での細胞膜表面上のPD1に対するH8L2抗体の結合活性の結果を示す。
【表8】
【0104】
図16及び表は、PDL1の存在下で、PD−1に結合する18A10 H8L2抗体のEC
50値が19.65nMであることを示す。
【0105】
実施例5 混合リンパ反応下のPD1に対する抗体の生物学的活性のアッセイ
比較のために、混合リンパ反応(MLR)により、実施例1で調製したH8L2抗体及びH2L2抗体の刺激下で、IL−2分泌及びIFNγ分泌についてTリンパ球を分析し、以下に詳細に記載される。
【0106】
MLRについては、DC細胞の抗原提示機能下で、T細胞がIL−2及びIFNγを分泌するように、異なるヒト供給源からのT細胞(TC)及び樹状細胞(DC)を混合した。具体的には、サイトカインGM−CSF及びIL−4の誘導下で血中の単球が未成熟DC細胞に分化し、その後、未成熟DC細胞が腫瘍壊死因子アルファ(TNFα)の刺激を介して成熟するように誘導された。続いて、成熟DC細胞と同種異系(allogeneic)TC細胞を混合し、5日間培養した後、細胞上清中の分泌されたIL−2及びIFNγを決定した。この実施例では、TC細胞(ウェル当たり1×10
5)及び成熟DC細胞(ウェル当たり1×10
4)を96ウェルプレート中で混合し、その後個々の抗体の存在下で、8つの勾配濃度(即ち、10μM〜0.09765625nM)で5日間培養し、その後細胞上清中のIL−2の量をIL−2アッセイキットで検出した。同様に、TC細胞(ウェル当たり1×10
5)及び成熟DC細胞(ウェル当たり1×10
4)を96ウェルプレート中で混合し、その後個々の抗体の存在下で、5つの勾配濃度(即ち、300nM〜0.1nM)で5日間培養し、その後、細胞上清中のIFNγの量をIFNγアッセイキットで検出した。
【0107】
図5は、それぞれH8L2抗体及びH2L2抗体の刺激下でT細胞によって分泌されたIL−2の含有量を示し、H8L2抗体及びH2L2抗体は、T細胞を刺激し、効果的にIL−2を分泌することができることが分かり、FcRN−結合部位における変異が抗体の刺激下で、T細胞によるIL−2分泌に影響を及ぼさないことを実証する。
【0108】
図6は、それぞれH8L2抗体及びH2L2抗体の刺激下でT細胞によって分泌されたIFNγの含有量を示し、H8L2抗体及びH2L2抗体は、T細胞を刺激し、効果的にIFNγを分泌することができることが分かり、FcRN−結合部位における変異が抗体の刺激下で、T細胞によるIFNγ分泌に影響を及ぼさないことを実証する。
図6中の「IgG」は、コントロールとしてのアイソタイプ抗体である。
【0109】
実施例6 カニクイザルの血清濃度研究
カニクイザルにおける、実施例1で調製したH8L2抗体及びH2L2抗体の血清濃度を比較のためにそれぞれ検出し、以下に詳細に記載する。
【0110】
4頭のカニクイザルについて、1群当たり2頭の動物で、それらの体重として2つの群に無作為に分け、それぞれH8L2群とH2L2群と名付けた。それぞれ投与前、及び投与後5分間、5時間、24時間、72時間、168時間、及び240時間で、全血をサンプリングして、1mg/kgの用量で各群をその個々の抗体で静脈内注射により投与した。血清を全血から分離し、H8L2抗体及びH2L2抗体の含有量をそれぞれELISA法によって測定し、
図7及び下記の表で見ることができる。
【表9】
【0111】
実施例7 カニクイザルの薬物動態研究
カニクイザルにおける、実施例1で調製したH8L2抗体及びH2L2抗体の薬物動態を比較のために試験し、詳細を下記に記載する。
【0112】
24頭のカニクイザルについて、1群当たり6頭の動物(各群において雄と雌半分)で、それらの体重として4つの群に無作為に分け、それぞれH2L2群(10mg/kg)と、異なる投与量における3つのH8L2群(投与量が低い1mg/kg、中程度の3mg/kg、及び高い10mg/kg)と名付けた。静脈内注射により、各群にその個々の抗体を投与し、それぞれ投与前、及び投与後5分間、30分間、1時間、2時間、4時間、8時間、24時間、48時間、144時間、及び216時間で全血をサンプリングした。全血から血清を分離し、PhoenixWinNonlin(Pharsight)6.4によって計算された関連する薬物動態パラメータを用いて、H8L2抗体及びH2L2抗体の含有量をそれぞれ、ELISA法によって測定した。
【0113】
単回投与前には、全カニクイザルの個体におけるH2L2抗体及びH8L2抗体の血清濃度は、定量の下限値よりも低い。投与後、3つのH8L2群のカニクイザルにおけるH8L2抗体の血清濃度は、投与量につれて上昇し、低投与量群(即ち、1mg/kg)、中投与量群(即ち、3mg/kg)、及び高投与量群(即ち、10mg/kg)の有効平均半減期は、それぞれ、215.72時間(
図8を参照)、288.78時間(
図9を参照)、及び268.92時間(
図10を参照)である。更に、野生型H2L2群の有効平均半減期(10mg/kgの投与量)は224時間である(
図11を参照)。10mg/kgの同じ投与量下で、H8L2群は野生型H2L2群よりも長い有効平均半減期を示すことが見られる(
図12を参照)。
【0114】
実施例8 ヒト非小細胞肺癌HCC827細胞株の皮下移植腫瘍MiXenoモデルにおけるH8L2抗体の抗腫瘍効果
NSGマウスにおいてヒト非小細胞肺癌HCC827細胞株を用いて樹立された皮下移植腫瘍MiXenoモデルを使用することによって、実施例1で調製したH8L2抗体の抗腫瘍効果を調査し、詳細を下記に記載する。
【0115】
非肥満性糖尿病(NOD)、Prkdc
scid、及びIL2rg
null欠失又は変異を特徴とするNSGマウスは、最も高い免疫不全を有すので、ヒト由来細胞及び組織に対して拒絶することなく、ヒト由来細胞移植に最も適したツールとなる。上記に基づき、本発明者らは、NSGマウスへのヒト末梢血単核細胞(PBMC)の養子移植によって樹立された移植片対宿主病(GVHD)モデルによって、in vivoでのH8L2抗体の薬学的効果を評価した。また、本発明者らは、NSGマウスを用いて皮下移植腫瘍モデル(即ち、MiXenoモデル)を樹立し、ヒト非小細胞肺癌HCC827細胞株の皮下移植腫瘍MiXenoモデルにおけるH8L2抗体の抗腫瘍効果を更に見出した。
【0116】
具体的には、0日目(Day0)にマウス当たり5×10
6細胞の用量で、各40頭のNCGマウス(32頭の実験用マウス及び予備用に8頭のマウス)の背面右側に、皮下注射によってHCC827細胞を接種した。接種後6日目(Day6)に、66mm
3までの腫瘍の大きさを有する32頭のNCGマウスを1群当たり8頭のマウスで4つの群に分け、そして各マウスを0.1mlのPBMC(PBSバッファ中で懸濁)の尾静脈内移植に付した。表1に示されるように、4つの群(即ち、32頭のマウス)において、H8L2 5mg/kg処置群(群1)、H8L2 10mg/kg処置群(群2)、ポジティブコントロールとしてのOpdivo 5mg/kg処置群(群3)、及びコントロールとしてのアイソタイプ抗体(ヒトIgG4)5mg/kg群(群4)をそれぞれ接種後6日目、9日目、13日目、16日目、19日目、及び22日目に、全部で6回の投与によって、尾静脈を介して皮下投与した。相対腫瘍増殖抑制値(TGI
RTV)に従って有効性を評価し、マウスの体重変化及び死亡によって、安全性を評価した。
【表10】
【0117】
表2を参照すると、コントロールとしてのアイソタイプ抗体(ヒトIgG4)5mg/kg群に対して、H8L2 10mg/kg処置群は、腫瘍細胞の接種後9日目及び13日目に、腫瘍増殖の有意な抑制を示し、相対腫瘍増殖抑制値(TGI
RTV)は、それぞれ、30%(p=0.007)及び30%(p=0.039)であり、H8L2 5mg/kg処置群も、腫瘍細胞の接種後9日目及び13日目に、腫瘍増殖の有意な抑制を示し、相対腫瘍増殖抑制値(TGI
RTV)は、それぞれ、18%(p=0.049)及び25%(p=0.041)であるが、一方、Opdivo 5mg/kg処置群は、腫瘍細胞の接種後9日目及び13日目に、腫瘍増殖の有意な抑制を示さず、相対腫瘍増殖抑制値(TGI
RTV)は、それぞれ、17%(p=0.084)及び23%(p=0.073)である。結果は、H8L2抗体が、ポジティブコントロールとして使用されるOpdivo群よりも更に良好な有効性で、ヒト非小細胞肺癌HCC827細胞株の腫瘍MiXenoモデルの腫瘍増殖を有意に抑制することができることを実証する。更に、H8L2 5mg/kg処置群及びH8L2 10mg/kg処置群は、最初の投与から16日間以内に(即ち、接種後6日目から22日目)に、Opdivo 5mg/kg処置群と同様の薬剤関連毒性(重度の体重減少又は死亡など)を発症せず、H8L2抗体の処置に対する良好な寛容性を示す。
【表11】
【0118】
H8L2抗体(即ち、PD−1に対するモノクローナル抗体)は、それぞれ10mg/kg及び5mg/kgの投与量で注射した場合、ヒト非小細胞肺癌HCC827細胞株の腫瘍MiXenoモデルにおいて腫瘍増殖の有意な抑制を示し、10mg/kgの投与量でH8L2抗体が腫瘍増殖の更に有意な抑制を示し、ポジティブコントロールとしてのOpdivo 5mg/kg処置群よりも良好な有効性を示し、10mg/kg及び5mg/kgの両方の用量下で担癌マウスにおける良好な寛容性を有する。
【0119】
実施例9 MC38マウス結腸直腸癌細胞株のHuGEMMモデルにおけるH8L2抗体の抗腫瘍効果
結腸直腸癌の処置に対する実施例1で調製したH8L2抗体の有効性は、PD−1 HuGEMM MC38保有マウスにおいて臨床前に検証され、下記に詳細に記載される。
【0120】
MC38細胞株は、C57BL/6マウスに由来するマウス結腸直腸癌細胞株である。PD−1 HuGEMMモデルは、C57BL/6マウス中のPD−L1タンパク質分子と相互作用するマウスPD−1タンパク質の幾つかのフラグメントを対応するヒト由来タンパク質で置き換えることによって遺伝子操作されたモデル化マウスである。
【0121】
マウス1頭当たり1×10
6細胞の用量で、皮下注射により各対象マウスの右側にMC38細胞を接種した。134mm
3までの腫瘍の大きさを有するマウスを腫瘍の大きさとして4つの群に無作為に分け、1群当たり8頭のマウス及びケージ当たり4頭のマウスとし、群1〜群4と名付け、それぞれ、H8L2 5mg/kg処置群、H8L2 10mg/kg処置群、ポジティブコントロールとしてのKeytruda 10mg/kg処置群、及びコントロールとしてのアイソタイプ抗体(ヒトIgG4)5mg/kg群である。各群に対応する抗体をマウスの尾静脈を介して静脈内投与し、合計6回投与した(表3を参照)。
【表12】
【0122】
群分け後13日目に、群1のマウスは、1933.67mm
3までの平均腫瘍の大きさを有し、群2(Keytruda 10mg/kg処置群、高用量)、群3(H8L2 5mg/kg処置群、低用量)、及び群4(H8L2 10mg/kg処置群、高用量)は、それぞれ85%、93%、及び90%の腫瘍増殖抑制(TGI)(%)を有し(表4を参照)、4つの群は、それぞれ8.72%、0.94%、−2.07%、及び1.68%の体重変化率を有する。各マウスは、有意な予想外の体重減少又は死亡を示さない。群2〜群4は、群1と比較して抑制効果において統計的に有意な差を示し、それぞれP<0.05である。
【表13】
【0123】
群2〜群4では、T−C値(マウスの腫瘍の大きさが1000mm
3までに達したとき)は、それぞれ10日、14日、及び14日超(>14日)であった。更に、群2〜群4については、55日目に実験が完了したときに、1ヵ月以上も腫瘍が完全に退行したマウスが、それぞれ3頭、5頭、及び5頭残った(表5を参照)。
【表14】
【0124】
H8L2抗体(5mg/kg及び10mg/kgのそれぞれの用量において)は、PD−1 HuGEMM MC38保有マウスにおいて、統計的に有意な抗腫瘍効果を示し、Keytruda 10mg/kg処置群と比較して腫瘍の完全な退行においてより効果的である。
【0125】
実施例10 H8L2 抗体のADCC効果及びCDC効果
実施例1で調製したH8L2抗体のADCC効果及びCDC効果を調べ、以下に詳細に記載する。
【0126】
10.1 FcγRIIIaとのH8L2抗体の結合定数の決定
Fc受容体FcγRIIIa(CD16aとも呼ばれる)は、IgG抗体のFcフラグメントに結合することができるので、抗体依存性細胞介在性細胞傷害(ADCC)に関与する。治療用モノクローナル抗体の安全性及び有効性は、モノクローナル抗体のFc受容体への結合能力によって影響を受けるであろう。この実験において、FcγRIIIaとH8L2抗体との結合定数をFortebio分子間相互作用機器を用いて検出し、Fc受容体に対するH8L2抗体の結合能力を評価した。
【0127】
FcγRIIIaとH8L2抗体との結合定数は、Fortebio Octet分子間相互作用機器を用いて検出した。具体的には、PBSTバッファ中の1μg/mlのFcγRIIIa−ビオチンをSAセンサーの表面に300秒間固定化した。4000nMの濃度のH8L2抗体をSAセンサーに適用し、FcγRIIIaに結合させた。120秒間結合させた後、PBSTバッファをSAセンサーに適用して解離させ、180秒間保持した。Fortebio Data Acquisition 7.0ソフトウェアでデータを集め、Fortebio Data Analysis 7.0ソフトウェアで分析した。
【0128】
図17は結果を示し、H8L2抗体とFcγRIIIaとの間に結合がないことを示す。
【0129】
10.2 C1qとAK103抗体との結合定数の決定
血清補体C1qは、IgG抗体のFcフラグメントに結合することができ、補体依存性細胞傷害(CDC)に関与する。治療用モノクローナル抗体の安全性及び有効性は、モノクローナル抗体の血清補体C1qへの結合能力によって影響されるであろう。この実験において、血清補体C1qとH8L2抗体との結合定数は、Fortebio分子間相互作用機器を用いて検出し、血清補体C1qに対するH8L2抗体の結合能力を評価した。
【0130】
血清補体C1qとH8L2抗体との結合定数は、Fortebio Octet分子間相互作用機器を用いて検出した。具体的には、PBSTバッファ中の100μg/mlのH8L2抗体をFAB2Gセンサーの表面に300秒間固定化した。3.13nM〜200nMの濃度の血清補体C1qをFAB2Gセンサーに適用し、H8L2抗体に結合させた。120秒間結合させた後、PBSTバッファをSAセンサーに適用して解離させ、180秒間保持した。Fortebio Data Acquisition 7.0ソフトウェアでデータを集め、Fortebio Data Analysis 7.0ソフトウェアで分析した。
【0131】
図18は結果を示し、H8L2抗体と血清補体C1qとの間に結合がないことを示す。