【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例、比較例等により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0048】
本実施例における主な略号の意味を以下に示す。
Phg(C#CH
2):L-β-ホモフェニルグリシン
Ac-Nal:アセチルナフチルアラニン
Sar:L-サルコシン
CH
2-NH:-psi[CH
2NH]-結合(シュード結合ともいう)
Fmoc:フルオレニルメチルオキシカルボニル
Boc:t-ブチルオキシカルボニル
TFA:トリフルオロ酢酸
Trt:トリチル
HBTU:N-[(1H-ベンゾトリアゾール-1-イル(ジメチルアミノ)メチレン]-N-メチルメタンアミニウムヘキサフルオロホスフェートN-オキシド
HOBt:1-ヒドロキシベンゾトリアゾール
DCC:N,N'-ジシクロヘキシルカルボジイミド
TIPS:トリイソプロピルシラン。
【0049】
化合物の合成
モチリンの分解酵素による分解経路、13位メチオニンの安定性、またモチリン生理活性の維持などを考え、以下に示すモチリン類似ペプチド化合物を合成した。また比較対象として、天然型モチリンの合成も実施した。比較化合物1および2、化合物1〜13のアミノ酸配列は以下の通りである。
【0050】
天然型モチリン:Phe Val Pro Ile Phe Thr Tyr Gly Glu Leu Gln Arg Met Gln Glu Lys Glu Arg Asn Lys Gly Gln(SEQ ID NO: 1);
比較化合物1(
13Leu-モチリン):Phe Val Pro Ile Phe Thr Tyr Gly Glu Leu Gln Arg Leu Gln Glu Lys Glu Arg Asn Lys Gly Gln(SEQ ID NO: 16);
比較化合物2(MT139):Phe*Val Pro Ile Phe Thr Tyr Gly Glu Leu Gln Arg Met Gln Glu Lys Glu Arg Asn Lys Gly Gln(SEQ ID NO: 17);
化合物1(MT095):Phe Val Pro Ile Phe Thr Tyr Gly Glu Leu Gln Arg Met Gln Glu Lys Glu Arg Asn Lys Pro Gln(SEQ ID NO: 3);
化合物2(MT114):Phe Val Pro Ile Phe Thr Tyr Gly Glu Leu Gln Arg Leu Gln Glu Lys Glu Arg Asn Lys Pro Gln(SEQ ID NO: 4);
化合物3(MT116):Phe Val Pro Ile Phe Thr Tyr Gly Asp Leu Gln Arg Leu Gln Glu Lys Glu Arg Pro Lys Pro Gln(SEQ ID NO: 5);
化合物4(MT124):Phg(C#CH
2) Val Pro Ile Phe Thr Tyr Gly Glu Leu Gln Arg Leu Gln Glu Lys Glu Arg Pro Lys Pro Gln(SEQ ID NO: 6);
化合物5(MT126):Phg(C#CH
2) Val Sar Ile Phe Thr Tyr Gly Glu Leu Gln Arg Leu Gln Glu Lys Glu Arg Pro Lys Pro Gln(SEQ ID NO: 7);
化合物6(MT140):Phe*Val Pro Ile Phe Thr Tyr Gly Glu Leu Gln Arg Met Gln Glu Lys Glu Arg Asn Lys Pro Gln(SEQ ID NO: 8);
化合物7(MT141):Phe*Val Pro Ile Phe Thr Tyr Gly Glu Leu Gln Arg Leu Gln Glu Lys Glu Arg Asn Lys Pro Gln(SEQ ID NO: 9);
化合物8(MT107):Phe Val Pro Ile Phe Thr Tyr Gly Glu Leu Gln Arg Met Gln Glu Lys Glu Arg Pro Lys Pro Gln(SEQ ID NO: 10);
化合物9(MT115):Phe Val Pro Ile Phe Thr Tyr Gly Glu Leu Gln Arg Leu Gln Glu Lys Glu Arg Pro Lys Pro Gln(SEQ ID NO: 11);
化合物10(MT125):Phg(C#CH
2)ValSarIlePheThrTyrGlyGluLeuGlnArgMetGlnGluLysGluArgProLysProGln(SEQ ID NO: 12);
化合物11(MT128):Ac-Nal Val Pro Ile Phe Thr Tyr Gly Glu Leu Gln Arg Met Gln Glu Lys Glu Arg Asn Lys Pro Gln(SEQ ID NO: 13);
化合物12(MT154):Phe*Val Pro Ile Phe Thr Tyr Gly Asp Leu Gln Arg Leu Gln Glu Lys Glu Arg Pro Lys Pro Gln(SEQ ID NO: 14);
化合物13(MT155):Phe*ValProIlePheThrTyrGlyAspLeuGlnArgMetGlnGluLysGluArgProLysProGln(SEQ ID NO: 15)。
【0051】
これらの化合物において、第1番目アミノ酸(すなわちX1に相当)とValとの間の結合として-psi[CH
2NH]-結合が使用されている場合、その結合を「*」で示す。
【0052】
ペプチド鎖の延長は主にペプチド合成機(433A、アプライドバイオシステムズ社製)を使用し、Fmoc法にて保護ペプチド誘導体-樹脂を構築し、最後にN末端にBoc-アミノ酸を導入した。得られた保護ペプチド樹脂はトリフルオロ酢酸(TFA)、あるいは種々のスカベンジャーを含む希釈TFAで脱保護し、遊離したペプチドを精製に供した。C18カラムを用いた逆相HPLCにて精製すると共に純度を確認し、質量分析にて構造を確認した。
【0053】
本発明のペプチド化合物は通常のペプチド合成法にて合成することができ、代表的な合成例として、化合物1(MT095)および化合物6(MT140)の合成の例を以下に示す。
【0054】
実施例1:化合物1(MT095)の合成
本実施例は、化合物1(MT095、SEQ ID NO: 3)を化学的に合成することを目的として行った。
【0055】
Fmoc-Gln(Trt)-Alko樹脂(渡辺化学社製、47.6 mg、0.03 mmol)を20%ピペラジンで20分間処理したのち、SEQ ID NO: 3のC末端側から順次、HBTU/HOBtによるFmoc-アミノ酸導入とピペラジンによる脱Fmocを繰り返し、Fmoc-ペプチド-樹脂を構築した。最後にDCC/HOBtにてBoc-Phe-OHを導入した後、得られた保護ペプチド樹脂を90%トリフルオロ酢酸、その他フェノール、水、TIPSを含む脱保護試薬(5.0 mL)を加え、室温で2時間攪拌した。樹脂をろ去し、ろ液を濃縮後、残渣にエーテルを加え沈殿とした。沈殿をろ取、乾燥し、粗ペプチド約30 mgを得た。
【0056】
本品を1.0 mLの1 N酢酸に溶解してInertsil PREP ODSカラム(φ20 mm×250 mm、ジーエルサイエンス社製)に添加し、0.1%トリフルオロ酢酸中、アセトニトリル0%〜50%までの50分間直線グラジエント(流速:10 mL/min)で溶出させた。UV(220 nm)でモニタリングし目的画分を分取後、凍結乾燥し、約5.0 mgの目的物を得た。
【0057】
得られた目的物をInertsil PREP ODSカラム(φ4.6 mm×250 mm、ジーエルサイエンス社製)に添加し、0.1%トリフルオロ酢酸中、アセトニトリル5%〜65%までの30分間直線グラジエント(流速:1.5 mL/min)で溶出させ、UV(220 nm)でモニタリングすることにより目的物の純度を測定した。
【0058】
得られた目的物はMALDI TOF-MS (Daltonics BIFLEX III、Bruker社製)により分子量を確認するとともに、アミノ酸分析(6 N-HCl中110℃にて24時間処理することによりアミノ酸に加水分解し、HPLCにて各アミノ酸を定量)によりペプチド含量を確認した。MALDI-TOF MS測定値:2738.718(理論値2739.2)、分析HPLC純度 96.0%、アミノ酸分析によるペプチド含量:643μg/mg。
【0059】
実施例2:化合物6(MT140)の合成
本実施例は、化合物6(MT140、SEQ ID NO: 8)を化学的に合成することを目的として行った。
【0060】
Fmoc-Gln(Trt)-Alko樹脂(渡辺化学社製、47.6 mg、0.03 mmol)を20%ピペラジンで20分間処理したのち、SEQ ID NO: 8のC末端側から順次、HBTU/HOBtによるFmoc-アミノ酸導入とピペラジンによる脱Fmocを繰り返し、Fmoc-ペプチド-樹脂を構築した。最後にシアノトリヒドロホウ酸ナトリウム/1%酢酸にてBoc-Pheアルデヒドを導入した後、得られた保護ペプチド樹脂を90%トリフルオロ酢酸、その他フェノール、水、TIPSを含む脱保護試薬(5.0 mL)を加え、室温で2時間攪拌した。樹脂をろ去し、ろ液を濃縮後、残さにエーテルを加え沈殿とした。沈殿をろ取、乾燥し、粗ペプチド約30 mgを得た。
【0061】
本品を1.0 mLの1 N酢酸に溶解してInertsil PREP ODSカラム(φ20 mm×250 mm、ジーエルサイエンス社製)に添加し、0.1%トリフルオロ酢酸中、アセトニトリル0%〜50%までの50分間直線グラジエント(流速:10 mL/min)で溶出させた。UV(220 nm)でモニタリングし目的画分を分取後、凍結乾燥し、約5.0 mgの目的物を得た。
【0062】
得られた目的物をInertsil PREP ODSカラム(φ4.6 mm×250 mm、ジーエルサイエンス社製)に添加し、0.1%トリフルオロ酢酸中、アセトニトリル5%〜65%までの30分間直線グラジエント(流速:1.5 mL/min)で溶出させ、UV(220 nm)でモニタリングすることにより目的物の純度を測定した。
【0063】
得られた目的物はMALDI TOF-MS (Daltonics BIFLEX III、Bruker社製)により分子量を確認した。MALDI-TOF MS測定値:2725.040(理論値2725.2)、分析HPLC純度98.7%、アミノ酸分析によるペプチド含量:707μg/mg。
【0064】
以下、同様の手法で天然型モチリン、ならびに化合物1〜13(それぞれSEQ ID NO: 3〜15)、そして比較化合物1および2(それぞれSEQ ID NO: 16および17)を製造した。それらのMS値、またアミノ酸分析によるペプチド含量をそれぞれ表1にまとめた。
【0065】
【表1】
注:化合物8〜13については、アミノ酸含量を測定していない。また、比較化合物2、化合物6、7、12および13における「*」はアミノ酸間の結合が-psi[CH
2NH]-結合であることを示す。
【0066】
実施例3:空腹期IMC惹起活性の測定
本実施例は、実施例1および2に記載された方法により作製された化合物を用いて、イヌの体内における空腹期の肛側伝播性強収縮帯(IMC)惹起活性を測定することを目的として行った。
【0067】
化合物の空腹期IMC惹起活性は、ITOHらの方法(Zen Itoh et al, Gastroenterologia Japonica 12; 275-283, 1977)に従い、イヌの消化管にフォーストランスデューサーを縫着し、覚醒下で消化管収縮運動を測定することにより実施した。すなわち、麻酔下でイヌの胃前庭部、十二指腸、空腸、回腸の漿膜面に輪状筋に沿ってフォーストランスデューサーを逢着する手術を施した後に、トランスデューサーのひずみを増幅器を介して記録計に出力した。
【0068】
覚醒下において、空腹期の自然発生のIMCが終了した約10分後(胃の強収縮10分後)に、天然型モチリンまたはモチリン誘導体化合物の0.1 μg/kgを急速に静脈内投与し、消化管収縮運動を観察した。被験物質投与により胃の強収縮が惹起され、これが十二指腸まで伝播したものをIMCと定義し、0.1μg/kgでIMCを惹起した化合物をIMC惹起活性ありと判定した。
【0069】
図1に、それぞれ0.1μg/kgの天然型モチリン、化合物4(MT124)および化合物6(MT140)を静脈内投与したときの空腹期IMC惹起活性についての図を、表2に天然型モチリンおよびモチリン誘導体化合物の空腹期IMC惹起活性の有無を示した。
図1において、矢印は、天然型モチリン、化合物4および6の投与時期を示す。
図1において示されるように、天然型モチリンを投与した場合(図中、「↑」で示された時点)に胃前底部での収縮が開始し、その収縮は10分程度継続される。胃前底部の収縮が開始した直後に、その収縮が十二指腸に伝播し、胃前底部の場合と同様にその収縮が10分程度継続される。化合物4(MT124)および化合物6(MT140)を静脈内投与した場合においても、上述したような天然型モチリンを投与した場合の収縮パターンと同様の収縮パターンが見られた。また、
図1および表2に示したとおり、天然型モチリン、化合物4(MT124)および化合物6(MT140)だけでなくいずれのモチリン誘導体化合物も自然発生のIMCと同様の空腹期IMCを惹起し、その強度は天然型モチリンとほぼ同程度であった。
【0070】
【表2】
【0071】
これらの結果から、実施例1および2において作製された全ての化合物が、天然型モチリンと同様の空腹期IMC惹起活性を有することが明らかになった。
【0072】
比較例1:ラットを用いた静脈内投与による天然型モチリンの薬物動態実験
天然型モチリンをラットに静脈内投与し、血漿中濃度を測定した。
【0073】
静脈内投与は、予め大腿動脈にポリエチレンチューブ(PE-50、クレイ・アダムス社製)を挿入したラットを用いて実施した。試験系として、7週齢の雄性SD系ラット(日本チャールズ・リバー社製)1群に3匹を実験に供した。天然型モチリンを5%マンニトール溶液に溶解して100μg/mLの溶液を調製し、この溶液を1 mL/kgの投与容量で、尾静脈より注射筒および26Gの注射針(ともにテルモ社製)を用いて投与した。投与前、および投与後1、3、5、10、20、30および60分後に大腿動脈に挿入したポリエチレンチューブより血液を採取した。
【0074】
採取した血液には直ちに1/100容量の10%EDTA・2Na・2H
2O溶液を添加後、遠心して血漿を分離した。血漿にはただちに1/10容量の5,000 IU/mLアプロチニン溶液を添加、混合し、測定に供するまで-80℃で保管した。
【0075】
天然型モチリンの血漿中濃度測定は、抗モチリン抗体を用いたラジオイムノアッセイ(RIA)法により実施した。すなわち、血漿試料に抗モチリン抗体を加えたのち、[
125I-Tyr7]モチリンを加えて競合反応させた。これに二次抗体を加えて抗モチリン抗体に結合したモチリンを沈殿させ、上清分離後に沈殿画分中の放射能をγ-カウンター(パーキンエルマー社製)で測定した。
【0076】
得られた血漿中天然型モチリン濃度推移を
図2に示した。また得られた血漿中天然型モチリン濃度推移から、薬物速度論的パラメータとして時間0における血漿中濃度(C0)および血漿中濃度曲線下面積(AUC)を算出した。C0は外挿法にて、AUCは台形法にて求めた。その結果、天然型モチリンを100μg/kgの用量で静脈内投与したときのC0は1797 ng/mL、AUCは3598 ng・分/mLと算出された。
【0077】
実施例4:ラットを用いた経肺投与による天然型モチリンおよびモチリン誘導体化合物の薬物動態実験
本実施例においては、天然型モチリンおよびモチリン誘導体化合物をラットに経肺投与し、その後の血漿中濃度の変化をRIA法を用いて測定することを目的とした。なおRIA法を用いた場合、抗モチリン抗体と抗原抗体反応を示す物質が全て検出されるため、未変化体のほかに抗体に反応する代謝物をも検出する可能性がある。そこで天然型モチリンおよびモチリン誘導体化合物をラットに経肺投与し、得られた血漿をHPLC分画して各画分中の免疫活性を測定することにより、抗体に反応する物質が未変化体であることを明らかにし、血漿中濃度の変化を測定方法としてRIA法が適していることを確認した。
【0078】
すなわち7週齢の雄性SD系ラット(日本チャールズ・リバー社製)の気管にポリエチレンチューブ(PE-240、クレイ・アダムス社製)を挿入し、天然型モチリンあるいは化合物2(MT114)を0.1 N酢酸水溶液に溶解して1 mg/mLの溶液を調製し、この溶液25μLを、気管内液体噴霧装置(MicroSprayer:Penn Century社製)を用いて気管のポリエチレンチューブ内に投与した。投与5分後に腹大動脈より血液を採取し、採取した血液を比較例1と同様に処理して血漿を分離した。採取した血漿をSep-Pak C18カートリッジ(Waters社製)を用いて前処理し、次いでCosmosil 5C18カラム(ナカライテスク社製)を装着したHPLC(LC-10A, 島津製作所製)に試料を注入して分画を実施した。各試料について、試料注入直後から40分まで1分毎に溶出液を採取し、各画分中の免疫活性をRIA法により測定した。その結果、いずれの血漿試料においても、投与した化合物(未変化体)に対応する溶出位置にのみ免疫活性ピークが検出され、他のピークは観察されなかった。以上の結果から、経肺投与後の血漿中に検出された化合物は未変化体の化合物であり、代謝物が存在する可能性は非常に小さいことが示唆されたことから、本実施例の測定法としてRIA法が適していることが示された。
【0079】
試料の経肺投与も上記と同様、予め大腿動脈にポリエチレンチューブを挿入したラットを用いて実施した。試験系として、7〜10週齢の雄性SD系ラット(日本チャールズ・リバー社製)1群につき3匹を実験に供した。天然型モチリンあるいはモチリン誘導体化合物を0.1 N酢酸水溶液に溶解して1 mg/mLの溶液を調製し、この溶液25μLを、気管内液体噴霧装置(MicroSprayer:Penn Century社製)を用いて気管のポリエチレンチューブ内に投与した。投与前、および投与後5、10、20、30および60分後に大腿動脈に挿入したポリエチレンチューブより血液を採取した。採取した血液を比較例1と同様に処理して血漿を分離し、血漿中天然型モチリンおよびモチリン誘導体化合物濃度をRIA法により測定した。なお、測定の際にはそれぞれの誘導体を標準物質として用いて検量線を作成し、血漿中濃度を求めた。
【0080】
天然型モチリン、化合物2(MT114)および化合物6(MT140)を経肺投与した後のこれらの化合物の血漿中濃度推移を
図3に示した。
図3においても示されるように、天然型モチリンをラットに経肺投与した後の血漿中モチリン濃度の推移と比較して、化合物2(MT114)および化合物6(MT140)をラットに経肺投与した後の血漿中化合物濃度は、投与後のピーク血漿中濃度が高く、天然型モチリンと比較して、より長い時間、生体内で高い濃度を維持できることが示された。
【0081】
これらの試験によって得られた血漿中の天然型モチリンあるいはモチリン誘導体化合物濃度推移から、薬物速度論的パラメータとして最高血漿中濃度(Cmax)および血漿中濃度曲線下面積(AUC)を算出した。Cmaxは実測値より、AUCは台形法にて求めた。これらの値を使用して、生物学的利用率(バイオアベイラビリティー:BA)(%)を以下の数式により算出した。
BA(%)=[(AUC/Dose)/(AUC(motilin_iv)/Dose(motilin_iv))]×100
AUC:経肺投与後のAUC(ng・分/mL)
Dose:経肺投与における投与量(μg/kg)
AUC(motilin_iv):天然型モチリン静脈内投与後のAUC(ng・分/mL)
Dose(motilin_iv):天然型モチリン静脈内投与における投与量(μg/kg)。
【0082】
また天然型モチリンおよびモチリン誘導体化合物の薬物速度論的パラメータを以下の表3に示した。
【0083】
【表3】
【0084】
表3中に示した結果から示されるように、化合物1(天然型モチリンの21位アミノ酸のグリシンをプロリンに置換。
21Pro-モチリン、SEQ ID NO: 3)をラットに経肺投与したときの生物学的利用率(以下、BAと略す)は5.3%であり、天然型モチリン経肺投与時のそれ(3.3%)と比較して高かった。また化合物2(天然型モチリンの13位アミノ酸であるメチオニンをロイシンに置換、さらに21位アミノ酸をプロリンに置換。
13Leu-、
21Pro-モチリン、SEQ ID NO: 4)をラットに経肺投与したときのBAは10.4%であり、比較化合物1(
13Leu-モチリン、SEQ ID NO: 16)(2.8%)と比較して顕著にBAが向上した。さらに化合物6(-psi[CH
2NH]-結合、
21Pro-モチリン、SEQ ID NO: 8)を経肺投与したときのBAは11.5%であり、比較化合物2(-psi[CH
2NH]-モチリン、SEQ ID NO: 17)(4.1%)と比較して顕著にBAが向上した。このように、21位をプロリン置換したモチリン誘導体である化合物1〜13のラット経肺投与におけるBAは5.3〜18.7%であり、いずれも天然型モチリンのBA(3.3%)と比較して向上していた。この結果から、天然型モチリンあるいはモチリン類似ペプチド化合物の21位をプロリン置換することにより、経肺投与時の吸収性向上が認められた。
【0085】
以上のように、21位をプロリン置換したモチリン誘導体である化合物1〜13をラットに経肺投与した場合、粘膜から生体内への吸収効率が顕著に向上し(表3を参照)、その結果、天然型モチリンと比較して、吸収された化合物の生体内における濃度がより長い時間、高く維持されることが示された。
【0086】
比較例2:サルを用いた静脈内投与による天然型モチリンおよびモチリン誘導体化合物の薬物動態実験
本比較例では、天然型モチリンおよびモチリン誘導体化合物をサルに静脈内投与し、血漿中濃度を測定した。
【0087】
試験系として、8〜9歳の雄性カニクイザル(N=各1〜2)を実験に供した。天然型モチリンおよび化合物2を5%マンニトール溶液に溶解して100μg/mLの溶液を調製し、この溶液を0.1 mL/kgの投与容量で、右橈側皮静脈より注射筒および注射針(ともにテルモ社製)を用いて投与した。投与前、および投与後5、10、15、20、30および60分後に左橈側皮静脈より血液を採取した。
【0088】
採取した血液には直ちに1/100容量の10%EDTA・2Na・2H
2O溶液を添加後、遠心して血漿を分離した。血漿にはただちに1/10容量の5,000 IU/mLアプロチニン溶液を添加、混合し、測定に供するまで-80℃で保管した。
【0089】
天然型モチリンおよびモチリン誘導体化合物の血漿中濃度測定は、抗モチリン抗体を用いたラジオイムノアッセイ(RIA)法により実施した。すなわち、血漿試料に抗モチリン抗体を加えたのち、[
125I-Tyr7]モチリンを加えて競合反応させた。これに二次抗体を加えて抗モチリン抗体に結合したモチリンを沈殿させ、上清分離後に沈殿画分中の放射能をγ-カウンター(パーキンエルマー社製)で測定した。
【0090】
得られた血漿中天然型モチリン濃度推移を
図4に示した。また得られた天然型モチリンおよびモチリン誘導体化合物の血漿中濃度推移から、薬物速度論的パラメータとして時間0における血漿中濃度(C0)および血漿中濃度曲線下面積(AUC)を算出した。C0は外挿法にて、AUCは台形法にて求めた。その結果、天然型モチリンおよび化合物2を10μg/kgの用量で静脈内投与したときのC0は233および273 ng/mLであり、AUCは786および926 ng・分/mLと算出された。
【0091】
実施例5:サルを用いた経鼻投与による天然型モチリンおよびモチリン誘導体化合物の薬物動態実験
本実施例においては、天然型モチリンおよびモチリン誘導体化合物をサルに経鼻投与し、その後の血漿中濃度の変化をRIA法により測定することを目的とした。
【0092】
実験には10〜11歳の雄性カニクイザルを用いた。天然型モチリンあるいは化合物2と結晶セルロースを1:40の割合で混合して経鼻製剤を調製し、20 mgをゼラチンカプセルに充填した。1カプセルを経鼻投与用デバイス(日立オートモティブシステム社製)でカニクイザルの右鼻腔内に投与した。投与前、および投与後5、10、15、20、30、60、120および180分後に橈側皮静脈より血液を採取した。採取した血液を比較例2と同様に処理して血漿を分離し、血漿中天然型モチリンおよびモチリン誘導体化合物濃度をRIA法により測定した。なお、測定の際にはそれぞれの誘導体を標準物質として用いて検量線を作成し、血漿中濃度を求めた。
【0093】
天然型モチリンおよび化合物2(MT114)をサルに経鼻投与した後のこれらの化合物の血漿中濃度推移を
図5に示した。
図5においても示されるように、天然型モチリンをサルに経鼻投与した後の血漿中モチリン濃度の推移と比較して、化合物2(MT114)をサルに経鼻投与した後の血漿中化合物濃度は、投与後のピーク血漿中濃度が高く、天然型モチリンと比較して、より長い時間、生体内で高い濃度を維持できることが示された。
【0094】
これらの試験によって得られた血漿中の天然型モチリンあるいはモチリン誘導体化合物濃度推移から、薬物速度論的パラメータとして最高血漿中濃度(Cmax)および血漿中濃度曲線下面積(AUC)を算出した。Cmaxは実測値より、AUCは台形法にて求めた。これらの値を使用して、生物学的利用率(バイオアベイラビリティー:BA)(%)を以下の数式により算出した。
BA(%)=〔(AUC/Dose)/(AUC(iv)/Dose(iv))〕×100
AUC:経鼻投与後のAUC(ng・分/mL)
Dose:経鼻投与における投与量(μg/kg)
AUC(iv):各化合物を静脈内投与後のAUC(ng・分/mL)
Dose(iv):各化合物を静脈内投与における投与量(μg/kg)。
【0095】
また天然型モチリンおよびモチリン誘導体化合物の薬物速度論的パラメータを以下の表4に示した。
【0096】
【表4】
【0097】
表4中に示した結果から示されるように、化合物2をサルに経鼻投与したときの生物学的利用率(以下、BAと略す)は5.1%であり、天然型モチリン経鼻投与時のそれ(3.6%)と比較して高かった。以上のように、21位をプロリン置換したモチリン誘導体である化合物2をサルに経鼻投与した場合、粘膜から生体内への吸収効率が向上し、その結果、天然型モチリンと比較して、吸収された化合物の生体内における濃度がより長い時間、高く維持されることが示された。