(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5647634
(24)【登録日】2014年11月14日
(45)【発行日】2015年1月7日
(54)【発明の名称】ラマン分光分析によって液体の組成を測定するシステム
(51)【国際特許分類】
G01N 21/65 20060101AFI20141211BHJP
【FI】
G01N21/65
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-33899(P2012-33899)
(22)【出願日】2012年2月20日
(65)【公開番号】特開2013-170873(P2013-170873A)
(43)【公開日】2013年9月2日
【審査請求日】2014年2月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000220262
【氏名又は名称】東京瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100105463
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 三男
(74)【代理人】
【識別番号】100129861
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 滝治
(72)【発明者】
【氏名】白川 裕
(72)【発明者】
【氏名】今西 宏徳
【審査官】
横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−258160(JP,A)
【文献】
特開平03−108641(JP,A)
【文献】
特開昭61−281950(JP,A)
【文献】
特開2005−221415(JP,A)
【文献】
特開2009−168455(JP,A)
【文献】
特開2011−179949(JP,A)
【文献】
特開2010−210624(JP,A)
【文献】
特表2010−517043(JP,A)
【文献】
特開2008−032719(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00−21/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の物質からなる液体が存在する収容体にレーザー透過性の窓が設けてあり、
前記窓の外側にラマンプローブが配され、該ラマンプローブが導線を介して分光器に繋がれてラマン散乱光が送信されるようになっており、
前記窓によってラマンプローブが前記液体と非接触の状態で、該液体に該窓を介してレーザー光を照射してラマン散乱光を受光するようになっているラマン分光分析によって液体の組成を測定するシステムであって、
前記液体は、LNG、LPG、液化エチレン、液化エタン、液体窒素、液体酸素、液化炭酸ガスのうちのいずれか一種であり、
前記収容体において、前記窓に対向する位置に別途の窓が設けてあり、該別途の窓が収容体の内部を確認する部位となっているラマン分光分析によって液体の組成を測定するシステム。
【請求項2】
前記収容体は前記液体が流通する配管である請求項1に記載のラマン分光分析によって液体の組成を測定するシステム。
【請求項3】
複数の物質からなる液体が存在する収容体にレーザー透過性の窓が設けてあり、
前記窓の外側にラマンプローブが配され、該ラマンプローブが導線を介して分光器に繋がれてラマン散乱光が送信されるようになっており、
前記窓によってラマンプローブが前記液体と非接触の状態で、該液体に該窓を介してレーザー光を照射してラマン散乱光を受光するようになっているラマン分光分析によって液体の組成を測定するシステムであって、
前記液体は、LNG、LPG、液化エチレン、液化エタン、液体窒素、液体酸素、液化炭酸ガスのうちのいずれか一種であり、
前記液体が流通する配管にバイパスラインを形成する別途の配管が設けてあり、かつ、前記収容体が該別途の配管を構成しており、
前記別途の配管において、その途中に前記窓が設けられ、該窓に対向する位置に別途の窓が設けてあり、該別途の窓が別途の配管の内部を確認する部位となっているラマン分光分析によって液体の組成を測定するシステム。
【請求項4】
前記窓の両側に開閉弁が設けられている請求項3に記載のラマン分光分析によって液体の組成を測定するシステム。
【請求項5】
前記別途の窓の外側に反射鏡が設けられている請求項3または4に記載のラマン分光分析によって液体の組成を測定するシステム。
【請求項6】
前記反射鏡がスライド自在である請求項5に記載のラマン分光分析によって液体の組成を測定するシステム。
【請求項7】
前記液体が流通する配管において、前記バイパスラインを形成する別途の配管が繋がる2箇所の間の位置にオリフィスが設けてある請求項3〜6のいずれかに記載のラマン分光分析によって液体の組成を測定するシステム。
【請求項8】
前記収容体の内面のうち、少なくとも前記窓が設けられている領域は黒色である請求項1〜7のいずれかに記載のラマン分光分析によって液体の組成を測定するシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の物質からなる液体に対し、ラマン分光分析によって液体の組成測定をおこなうシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今、各種の産業活動、市民生活から排出される二酸化炭素の排出量削減を如何なる手段で実現するかという問題は、国家的かつ国際的な問題となっており、我が国においてもその対策の立案に向けた活発な議論が展開されている。
【0003】
そして、その中でも、LNG(液化天然ガス)はその燃焼時に硫黄酸化物や煤塵を発生せず、他の化石燃料に比して二酸化炭素や窒素酸化物の排出量が少ないことから、環境負荷の少ない、いわゆるクリーンエネルギーとして注目を集めている。
【0004】
一方、我が国のガス関連産業においては、我が国で使用される都市ガス等の原料となるLNGの多くを、オーストラリアやアラスカ、東南アジア、中東をはじめ、世界各国からLNGタンカー等を介して輸入しているのが現状である。
【0005】
LNGタンカーで搬送されてきたLNGは、LNG受け入れ基地のバースに着岸し、ここでタンカーのローディングアームを介して受け入れ配管に送られ、受け入れ配管を介して基地内の貯蔵タンクに送られるようになっている。そして、貯蔵タンクで貯蔵されたLNGは払い出しラインを構成する配管を介して気化器に送られ、ここで気化されて都市ガスとなり、需要者へ提供されることになる。
【0006】
ところで、上記するようにLNG受け入れ基地に受け入れられるLNGは様々な国から輸入されることから、輸入先である各国(産地)ごとにLNGを構成する物質(各物質の含有割合を含む)が異なっており、結果としてLNGの密度や粘度、熱量などの物理量が相違している。したがって、LNGの単位量当たりの熱量によって輸入価格が決定される場合には、受け入れの際にLNGを構成する物質を可及的に精緻に特定することが重要となる。
【0007】
また、含有物質の異なるLNGを一つの貯蔵タンク内で貯蔵することが一般におこなわれているが(異種LNG混合貯蔵)、この異種LNG混合貯蔵においては、密度ごとに固有のLNGが層を成す層状化という現象が生じる(一般に420〜470kg/m
3程度の範囲で密度が異なる)。ところで、貯蔵タンク内に貯蔵されているLNGは、常圧、-162℃にて気液平衡状態となっており、これに自然入熱等が作用することでBOG(ボイルオフガス)が発生し、貯蔵タンク内に充満している。したがって、このような極低温のLNGを貯蔵する貯蔵タンクには断熱構造が要求されている。しかしながら、断熱構造を呈しているとしても、貯蔵タンク内に自然入熱が作用することは避けられず、この自然入熱等により、貯蔵タンク内部のLNGはその一部が気化することでLNG層ごとに固有の対流が生じている。そして、外部からの熱の作用が最も大きなLNG層は、貯蔵タンクの側面と底面からの熱が作用する最下層のLNG層であり、加えて、上層が蓋の役割を果たし、下層からのBOGによる放熱を阻害することから、最下層のLNG層がそれよりも上方のLNG層に比して相対的に高温となり、この温度上昇に伴ってLNGの液密度が小さくなっていく。そして、異種LNGの液密度が同程度になるまでは、各層ごとに各層内に固有の比較的小さな対流が生じていたものが、上下層の液密度が同程度となったことで上下層の全体に亘る大きな対流が生ぜしめられ、この大きな対流によってそれまで下層に蓄積されていた熱が多量のBOG発生を促進し、これが、貯蔵タンク内部の内圧を急激に上昇させたり、場合によっては貯蔵タンクの破損、損傷に至ることもあり、貯蔵タンクオペレーションにとっての大きなリスク原因の一つとなっている(ロールオーバー現象)。
【0008】
このロールオーバーを未然に防ぐには、たとえば上記LNGの受け入れの際に異種LNGそれぞれの構成物質を可及的精緻に特定しておき、この特定結果に基づいて各LNGの密度を割り出し、さらに、各LNG間の密度差を割り出しておくことで、異種LNG間で液密度が同程度となるまでの時間を特定することができ、ロールオーバーが生じ得ない様々な対策が事前に講じられる、貯蔵タンクオペレーションシステムの構築に供することができる。
【0009】
ところで、従来一般におこなわれているLNGを構成する物質の分析方法(組成分析)は、たとえば配管中のLNGをサンプリングベーパライザーなどに導入し、加熱気化させて気化ガスとしてガスホルダーに貯めた後、気化ガスをボンベに詰めて分析室に移送し、ガスクロマトグラフにて組成分析をおこなうものである(いわゆるオフライン分析法)。また、気化ガスをガスホルダーに貯めることなく、配管から直接ガスクロマトグラフに導入して組成分析をおこなう方法もある(いわゆるオンライン分析法)。そして、このように気化ガスをガスクロマトグラフに導入して組成分析をおこなう方法が特許文献1,2に開示されている。
【0010】
しかしながら、上記するようにLNG等の液体を気化させた後に組成分析をおこなう方法では、加熱するためのスチームをはじめとする気化設備が必要になるといった問題や、オフライン分析法の場合にはさらにこのガスホルダーが必要になることに加えてボンベ詰めやボンベ搬送が必要になるといった問題、さらには、オフライン分析法、オンライン分析法ともに分析後の気化ガスを大気放散させたり、これを防ぐためにはタンク回収が必要になるといった問題がある。すなわち、これらを総括すれば、組成分析に多大なコストと時間が必要になるといった問題があり、そのため、気化ガスをガスクロマトグラフに導入して組成分析をおこなう分析方法を改良し、分析に要するコストと時間を削減することのできる新たな組成分析法に対する要請が極めて高くなっているのが現状である。
【0011】
このような現状に鑑み、LNGを液体のままで組成分析をおこなおうとする技術の開発がおこなわれようとしている。その一つの分析法として、本来は固体の被分析対象を分析するラマン分光分析法を適用した組成分析法が注目されている。この分析方法は、使用されるラマンプローブの先端を配管内を流通するLNGに露出させ、該ラマンプローブからレーザー光を照射し、合焦点で発せられるラマン散乱光をラマンプローブの先端で受光し、導線を介して分光器(ラマン分光器)に送り、ここでラマン分光分析をおこなうものである。なお、このラマン分光分析を用いた組成分析に関する技術が特許文献3,4に開示されている。
【0012】
この方法によれば、たとえばLNGを液体のまま、その組成分析をおこなうことができ、気化ガスをガスクロマトグラフに導入して組成分析をおこなう際の上記課題は全て解消される。
【0013】
しかしながら、ラマンプローブの先端を配管内に露出させるようにして配管に取り付けることから、実際には配管にラマンプローブを繋ぐとともに開閉弁を備えた接続装置を取り付け、開閉弁を開けて接続装置にラマンプローブの先端を挿入して配管内に臨ませることにより、配管へのラマンプローブの取付けがおこなわれる。そして、ラマンプローブの先端のメンテナンスの際には、接続装置からラマンプローブを取り外すと同時に開閉弁を閉じて先端のメンテナンスをおこなう必要が生じ、ラマンプローブの配管への取付けや配管からの取り外しのほか、ラマンプローブのメンテナンスには多大な労力と時間を必要とする。さらに、この方法で使用される接続装置は、このように開閉弁を備えてラマンプローブの出し入れを自在としながら、さらにはシール性や安全性を保証するものであることから自ずとその構造が複雑にならざるを得ず、接続装置自体のコストも高価なものとなるなど、ラマンプローブを使用してLNGを液体のままで組成分析する際においても別途の課題が存在している。
【0014】
この課題に対して本発明者等は、ラマンプローブを使用してたとえばLNGを液体のままで組成分析するに当たり、高価な接続装置も配管へのラマンプローブの取付けも不要とすることができ、ラマンプローブのメンテナンスも極めて容易である組成測定システムの発案に至っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開平7−83895号公報
【特許文献2】特開2005−351817号公報
【特許文献3】特開2008−241640号公報
【特許文献4】特開2011−232220号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は上記する問題に鑑みてなされたものであり、ラマンプローブを使用して複数の物質からなる液体を液体のままで組成分析するに当たり、液体が収容される収容体とラマンプローブを高価な接続装置を介して接続することを不要とでき、ラマンプローブのメンテナンスも極めて容易であって、組成分析に要するコストを削減しながら精度よく組成分析をおこなうことのできる、ラマン分光分析によって液体の組成を測定するシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記目的を達成すべく、本発明によるラマン分光分析によって液体の組成を測定するシステムは、複数の物質からなる液体が存在する収容体にレーザー透過性の窓が設けてあり、前記窓の外側にラマンプローブが配され、該ラマンプローブが導線を介して分光器に繋がれてラマン散乱光が送信されるようになっており、前記窓によってラマンプローブが前記液体と非接触の状態で、該液体に該窓を介してレーザーを照射してラマン散乱光を受光するようになっているものである。
【0018】
本発明のシステムが測定対象とする「液体」としては、少なくとも複数の物質からなるものであれば特に限定されるものではないが、たとえば、LNGやLPG、液化エチレン、液化エタン、液体窒素、液体酸素、液化炭酸ガスなどを挙げることができる。たとえば、液体窒素や液体酸素なども、多分に不純物を含むことから「複数の物質からなる液体」に包含される。
【0019】
本発明のシステムでは、液体が存在する収容体にレーザー透過性の窓を設けておき、この窓を介して、すなわち、液体と非接触の状態でラマンプローブからレーザー光を照射し、液体の内部でレーザー光が合焦した合焦点で発せられたラマン散乱光をラマンプローブで受光し、導線を介してラマン散乱光を分光器に送信し、ここで組成分析をおこなうものである。このように、ラマンプローブを液体と非接触の状態としてラマン散乱光を受光する構成としたことにより、既述するような高価な接続装置は一切不要となり、さらには、ラマンプローブのメンテナンスも極めて容易となる。たとえば、ラマンプローブのメンテナンスの際に、接続装置からラマンプローブを取り出して開閉バルブを閉めるといった操作なども必要ない。
【0020】
なお、ラマンプローブと分光器を繋ぐ導線には、数百メートルの延長が可能で変形自在であり、かつ防爆で着火の虞の無い光ファイバーを使用するのが望ましい。
【0021】
液体がLNGの場合には、ラマン散乱光を受信した分光器にてラマンスペクトルピークを与えるラマンシフトからその構成物質(メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン等)を特定でき、さらには各物質の濃度も特定できる。
【0022】
特定された物質やその濃度に基づいて、測定対象のLNGの密度(RSK法、ラマン分光法など適用)や粘度、熱量などの各種物理量が算出される。
【0023】
また、上記する「収容体」としては、液体がその内部を流通する配管(配管内で流通する液体が収容されている)や、液体を貯蔵するボンベ、タンクなどを挙げることができる。たとえば、LNGタンカーからLNGを受け入れ、貯蔵タンクにて貯蔵し、払い出して気化器にて都市ガスを生成するLNG生成プラントにおいては、LNGタンカーからLNGを受け入れる受け入れ配管や、貯蔵タンクからLNGが払い出される払い出し配管、貯蔵タンクなどが「収容体」の対象となる。
【0024】
さらに、収容体に設けられるレーザー透過性の「窓」としては、一般素材のガラスのほか、ラマン散乱光の透過性に優れた石英ガラスを使用することができる。また、窓の表面で空気中の水分が結露するのを防止することや窓の耐圧性を高めるべく、真空二重断熱構造の窓(フローサイトグラスなど)としたり、乾燥窒素を適宜吹き付ける機構を備えた窓などを使用することもできる。
【0025】
また、本発明による液体の組成を測定するシステムの好ましい実施の形態として、前記収容体において、前記窓に対向する位置に別途の窓が設けてあり、該別途の窓が収容体の内部を確認する部位となっている実施の形態を挙げることができる。
【0026】
たとえばLNGを取り上げると、配管内を気液平衡状態で流通するLNGは、配管が外部から受ける吸熱によって温められ、その一部が蒸発して気化した気泡を部分的に含む可能性がある。この場合、気泡を含む領域のLNGをラマン分光分析した際には、気泡が抜けた部分のLNG、すなわち成分の変化したLNGを測定することとなってしまい、当初受け入れたLNGの組成を精緻に分析したことにはならない。
【0027】
そこで、収容体に設けられた窓に対向する位置に別途の窓を設けておくことにより、この別途の窓を介して気泡を含まない領域のLNGを測定しているか否かを確認することが可能となる。
【0028】
また、この別途の窓を設けることにより、それまで使用していた窓のメンテナンスの際には、この別途の窓の外側にラマンプローブを移動させ、ラマン分光分析を継続することも可能となる。
【0029】
また、本発明による液体の組成を測定するシステムの好ましい実施の形態として、前記液体が流通する配管にバイパスラインを形成する別途の配管が設けてあり、かつ、前記収容体が該別途の配管を構成しており、前記別途の配管において、その途中に前記窓が設けられ、かつ該窓の両側に開閉弁が設けられている実施の形態を挙げることができる。
【0030】
たとえばLNGを取り上げると、その受け入れ配管や払い出しラインを構成する配管はφ1000mm程度もの大径のものが使用されており、そこに窓を配設しようとすると、窓も自ずと配管の規模に相応する規模のものにならざるを得ず、極めて不経済である。
【0031】
そこで、受け入れ配管や払い出し配管といった主配管の途中に、この主配管よりも小径もしくは小寸法のバイパスラインを形成する別途の配管を設けておき、この別途の配管に窓を設けるものである。
【0032】
さらに、バイパスラインにおける窓の両側に2つの開閉弁を設けておくことで、バイパスラインに設けられた窓をメンテナンスする際には2つの開閉弁を閉じ、バイパスラインにたとえばLNGが流入しないようにした状態でメンテナンスをおこなうことが可能となる。
【0033】
また、本発明による液体の組成を測定するシステムの好ましい実施の形態として、前記液体が流通する配管にバイパスラインを形成する別途の配管が設けてあり、かつ、前記収容体が該別途の配管を構成しており、前記別途の配管において、その途中に前記窓が設けられ、該窓に対向する位置に別途の窓が設けてあり、かつ該別途の窓の外側に反射鏡が設けられている実施の形態を挙げることができる。
【0034】
ラマン散乱光は極めて微弱な反射光であり、そのために、液体内で合焦して発せられるラマン散乱光を感度よく受光するのは容易なことではない。
【0035】
そこで、本実施の形態では、液体が流通する配管にバイパスラインを形成する別途の配管を設け、この別途の配管の途中に窓が設けられることに加えて、この窓に対向する位置に別途の窓が設けられ、この別途の窓の外側に反射鏡を設けた構成としたものである。この構成により、窓を介して別途の配管内に照射され、合焦点で発せられたラマン散乱光は対向する別途の窓に入射し、この別途の窓の外側にある反射鏡で反射して該別途の窓を介して再び別途の配管内に入射し、最初の合焦点で合焦することでラマン散乱光の強度が増幅され、この強度が増幅されたラマン散乱光をラマンプローブにて受光することができる。
【0036】
ここで、反射鏡は、レーザー光の合焦点と反射光の合焦点が一致するように別途の窓からの離間やその角度が調整されている。
【0037】
また、たとえば極低温のLNGが流通してくる前の段階と流通後の段階ではバイパスラインを構成する別途の配管も若干温度変形するため、この温度変形によってもレーザー光の合焦点と反射光の合焦点が一致するように、反射鏡はスライド自在な構成となっているのが望ましい。
【0038】
また、上記するバイパスラインにLNG等の液体を十分に流通させるべく、前記液体が流通する配管において、前記バイパスラインを形成する別途の配管が繋がる2箇所の間の位置にはオリフィスを設けておき、主たる配管内における流量をバイパスライン付近で絞るようにしておいてもよい。
【0039】
さらに、本発明による液体の組成を測定するシステムの好ましい実施の形態として、前記収容体の内面のうち、少なくとも前記窓が設けられている領域は黒色となっているのがよい。
【0040】
既述するようにラマン散乱光は極めて微弱な反射光であることから、配管等の収容体の内面が金属色のままであったり、あるいは白色系等の明るい色で塗装されていると、ラマン散乱光よりもこれが内面で反射した反射光の方が強度が強くなり、ラマンプローブにて感度よくラマン散乱光を受光することができなくなってしまう。そこで、収容体の内面のうちの少なくとも窓が設けられている領域を黒色としておくことにより(たとえば黒色塗装処理など)、ラマン散乱光を感度よくラマンプローブにて受光することが可能となる。
【発明の効果】
【0041】
以上の説明から理解できるように、本発明によるラマン分光分析によって液体の組成を測定するシステムによれば、液体が存在する収容体にレーザー透過性の窓を設けておき、この窓を介して、液体と非接触の状態でラマンプローブからレーザー光を照射し、液体の内部でレーザー光が合焦した合焦点で発せられたラマン散乱光をラマンプローブで受光する構成としたことにより、収容体とラマンプローブを高価な接続装置を介して繋ぐ必要がなくなり、さらには、ラマンプローブのメンテナンスも極めて容易となるため、物質分析に要するコストを削減しながら、効率的に、しかも精度よく液体の組成の特定をおこなうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【
図1】LNG基地のバースに停泊するLNGタンカーからのLNGの受け入れ、および、LNGの貯蔵タンクへの貯蔵と貯蔵タンクからの払い出しを模擬した模式図である。
【
図2】本発明の液体の組成を測定するシステムの実施の形態1を説明した模式図である。
【
図3】本発明の液体の組成を測定するシステムの実施の形態2を説明した模式図である。
【
図4】本発明の液体の組成を測定するシステムの実施の形態3を説明した模式図である。
【
図5】本発明の液体の組成を測定するシステムの実施の形態4を説明した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、図面を参照して本発明の液体の組成を測定するシステムの実施の形態を説明する。なお、図示するシステムはLNG基地にある配管をその構成要件(収容体)とし、かつ測定対象とする液体がLNGであるが、本発明のシステムの構成要素である収容体としては配管以外にもボンベなどの液体を貯蔵するものであってもよく、また、測定対象はLNG以外にも、LPGや液化エチレン、液化エタン、液体窒素、液体酸素、液化炭酸ガスなどであってもよい。
【0044】
(LNG基地へのLNGの受け入れとLNGの払い出しの概要)
図1は、LNG基地のバースに停泊するLNGタンカーからのLNGの受け入れ、および、LNGの貯蔵タンクへの貯蔵と貯蔵タンクからのLNGの払い出しを模擬した模式図である。
【0045】
LNG基地のバースに停泊したLNG船のローディングアーム1aを介して、LNG基地にある受け入れ配管2にLNGが受け入れられ(X1方向)、受け入れ配管2を介して貯蔵タンク3にLNGが移送されてここで貯蔵される。
【0046】
貯蔵タンク3内には払い出しポンプ3aがあり、これでポンプアップされたLNGは払い出し配管4を介して気化器5に送られ(X2方向)、ここで海水にて昇温されて気化され、生成された都市ガスが払い出し配管4を介して需要者(家庭、企業、プラントなど)へ提供されることになる(X3方向)。
【0047】
なお、図示を省略するが、LNG基地においては、貯蔵タンク3内に発生したBOGが払い出されて導かれる不図示の熱交換器があり、貯蔵タンク3から出る払い出し配管4がこの熱交換器を通過するように構成され、極低温のLNGが熱交換器を通過することによって熱交換器に導入されたBOGが液化され、液化されたBOGが払い出されたLNGに合流して気化器で気化されるような形態であってもよい。さらに、不図示のLPG用の貯蔵タンクから払い出されたLPGが気化器の前後でLNGに提供され、LNGの最終的な熱量調整がおこなわれた後に都市ガスが払い出されるような形態であってもよい。
【0048】
世界各国からLNGタンカー1を介して輸入されてくるLNGは、それぞれに固有の組成(各物質の含有割合も相違)を有しており、含有される物質や各物質の含有割合の相違によって様々な物理的数値(密度や粘度、熱量など)が異なってくる。そこで、ローディングアーム1aから受け入れられたLNGの組成分析をおこなうシステムを、受け入れ配管2を含む態様で構成する。以下、システムの実施の形態1〜4を順に説明する。
【0049】
(液体の組成を測定するシステムの実施の形態1)
図2は、本発明の液体の組成を測定するシステムの実施の形態1を説明した模式図である。同図で示すシステム100は、その内部をLNGが流通(収容)する収容体である受け入れ配管2と、この受け入れ配管2の途中位置に設けられた窓7と、窓7の外側に配設されたラマンプローブ8と、管理塔K内にあって、ラマンプローブ8と光ファイバー9を介して繋がれた分光器10とから大略構成されている。
【0050】
窓7は、その表面で空気中の水分が結露するのを防止することや窓の耐圧性を高めるべく、フローサイトグラスなど真空二重断熱構造のものが適用されるのがよい。
【0051】
ラマンプローブ8は、図示するように必ずしも払い出し配管2に直接取り付けられる必要はなく、窓7の外側においてLNGと非接触の状態で位置決めされる。したがって、ラマンプローブが接続装置に挿入され、その先端が配管に臨むようにして配管に取付けられる従来の技術と比べると、このような取付けの必要も接続装置も不要となる。さらに、ラマンプローブ8のメンテナンスも極めて容易におこなうことができるし、そもそも、ラマンプローブ8の先端が配管内に臨むものでないことからその先端のメンテナンスの頻度は極めて少なくてよい。
【0052】
また、ラマンプローブ8と分光器10が数百メートルの延長が可能な光ファイバー9で繋がれていることから、受け入れ配管2におけるラマンプローブ8の配設位置と管理塔Kの間の離間の制約は少なく、さらに、導線に対する着火の虞も無くなる。
【0053】
受け入れ配管2内を流通する極低温のLNGに対し、ラマンプローブ8からレーザー光Lが照射され、その合焦点Fで発せられたラマン散乱光Rがラマンプローブ8にて受光される。
【0054】
受光されたラマン散乱光Rは、光ファイバー9を介して分光器10に送信され、ここで、ラマン分光分析に基づいて受け入れられたLNGの物質分析がおこなわれる。
【0055】
より具体的に説明するに、分光器10にラマン散乱光Rが送信されると、このラマン散乱光Rにおける液体を構成する物質種と各物質の濃度が特定され、特定された液体を構成する物質種と各物質の濃度に関するデータは、様々な物理量を算定する各種の算定部やこれら算定部を実行させる中央処理演算部(CPU)、RAMやROMなどが格納されたハードウエア(コンピュータ11)へ送られる。
【0056】
ここで、ラマン散乱光Rから液体物質種等を特定するアルゴリズムについて概説する。
光が液体分子に衝突すると、入射光よりも波長の長い光が散乱されることがあり、これが一般にラマン散乱と称されている。ここで、入射光の波長:λLと、ラマン散乱光の波長:λSの間には以下の式1の関係がある。
【0058】
ここで、ωR:ラマンシフト(振動数)であり、液体はそれぞれに固有の値を有することから、ラマン散乱光を分光することで、分光されたラマン光の波長から物質種の特定が可能となるもの。
【0059】
たとえば液体がLNGの場合には、ラマン散乱光を受信した分光器にてラマンスペクトルピークを与えるラマンシフトからその構成物質(メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン等)を特定するとともに、各物質の濃度が特定されることになる。
【0060】
図示するシステム100によれば、ラマンプローブ8がLNGと非接触の状態で位置決めされてシステムが構成されていることから、ラマンプローブ8のメンテナンスも容易であり、ラマンプローブ8を配管2に繋ぐ高価な接続装置も不要となる。したがって、このような装置を要する従来の組成分析方法に比して組成分析に要するコストを大幅に削減することができる。なお、システム100によれば、従来の気化ガスをガスクロマトグラフに導入して組成分析をおこなう際の既述する様々な課題が生じ得ないことは勿論のことである。
【0061】
ここで、受け入れ配管2の内面の色について言及するに、受け入れ配管2の内面のうち、少なくとも窓7が設けられている領域は黒色塗装などが施されて黒色を呈しているのがよい。ラマン散乱光は極めて微弱な反射光であることから、受け入れ配管の内面が白色系等の明るい色で塗装されていると、ラマン散乱光よりもこれが内面で反射した反射光の方が強度が強くなり、ラマンプローブにて感度よくラマン散乱光を受光することができなくなってしまう。そこで、受け入れ配管2の内面のうちの少なくとも窓7が設けられている領域を黒色としておくことにより、ラマン散乱光Rを感度よくラマンプローブ8にて受光することが可能となる。
【0062】
(液体の組成を測定するシステムの実施の形態2)
図3は、本発明の液体の組成を測定するシステムの実施の形態2を説明した模式図である。同図で示すシステム100Aと
図1で示すシステム100との違いは、システム100Aにおいては、受け入れ配管2において、その途中位置に設けられた窓7に対向する位置に別途の窓7Aが設けられている点である。
【0063】
この別途の窓7Aを設けることでこれを介して配管2内を確認することができる。なお、この別途の窓7Aも窓7と同様に、フローサイトグラスなどの真空二重断熱構造のものが適用されるのがよい。
【0064】
特に、配管2内を気液平衡状態で流通するLNGは、配管2が外部から受ける吸熱によって温められ、その一部が蒸発して気化した気泡(不図示)を部分的に含んでいるため、この気泡を含む領域のLNGをラマン分光分析した場合には、気泡が抜けた部分のLNG、すなわち成分の変化したLNGを測定することとなってしまい、当初受け入れたLNGの組成を精緻に分析したことにはならない。そこで、受け入れ配管2に設けられた窓7に対向する位置に別途の窓7Aを設けておくことにより、この別途の窓7Aを介して気泡を含まない領域のLNGを測定しているか否かを確認することが可能となる。さらに、この別途の窓7Aを設けることにより、それまで使用していた窓7のメンテナンスの際には、この別途の窓7Aの外側にラマンプローブ8を移動させ、ラマン分光分析を継続することも可能となる。
【0065】
(液体の組成を測定するシステムの実施の形態3)
図4は、本発明の液体の組成を測定するシステムの実施の形態3を説明した模式図である。同図で示すシステム100Bは、受け入れ配管2の途中にバイパスラインを形成する別途の配管2Aが設けてあり、この別途の配管2Aにおいて、その途中に窓7が設けられ、かつ窓7の両側に2つの開閉弁2B,2Bが設けられているものである。
【0066】
一般に、受け入れ配管2や払い出し配管4はφ1000mm程度もの大径のものが使用されており、そこに窓を配設しようとすると、窓も自ずと配管の規模に相応する規模のものにならざるを得ない。そこで、受け入れ配管2(主配管)の途中に、この主配管よりも小径もしくは小寸法のバイパスラインを形成する別途の配管2Aを設けておき、この別途の配管2Aに窓7を設けるものである。
【0067】
バイパスライン2AにLNGを十分に提供するべく、バイパスライン2Aが受け入れ配管2と流体連通する2箇所の間の位置にはオリフィス2Cが設けられている。なお、このオリフィス2Cはオートマチックにスライド自在に構成されているのがよく、たとえば、組成分析をおこなわない場合にはオリフィスが受け入れ配管2から完全に取り除かれるようにスライドし、組成分析がおこわなれる場合には受け入れ配管2の内部に所望量だけスライドして突出し、この領域での流れの一部をバイパスライン2Aに良好に提供できるような形態が挙げられる。
【0068】
バイパスライン2Aを流通したLNG(X4方向)は、バイパスライン2Aの途中にある窓7の位置において、ラマンプローブ8からのレーザー光Lの照射とラマン散乱光Rの受光がおこなわれることになる。
【0069】
また、バイパスライン2Aにおける窓7の両側に2つの開閉弁2B,2Bを設けておくことで、バイパスライン2Aに設けられた窓7をメンテナンスする際には2つの開閉弁2B,2Bを閉じ、バイパスライン2AにLNGが流入しないようにした状態でメンテナンスをおこなうことが可能となる。
【0070】
(液体の組成を測定するシステムの実施の形態4)
図5は、本発明の液体の組成を測定するシステムの実施の形態4を説明した模式図である。同図で示すシステム100Cは、受け入れ配管2にバイパスライン2Aが設けてあり、このバイパスライン2Aにおいて、その途中に窓7が設けられ、この窓7に対向する位置に別途の窓7Aが設けてあり、さらに、別途の窓7Aの外側に反射鏡2Dが設けられているものである。
【0071】
既述するように、ラマン散乱光は極めて微弱な反射光であり、そのために、LNG内で合焦して発せられるラマン散乱光を感度よく受光するのは容易なことではない。そこで、窓7を介してバイパスライン2A内にレーザー光Lが照射され、合焦点Fで発せられたラマン散乱光R1を対向する別途の窓7Aに入射させ、この別途の窓7Aの外側にある反射鏡2Dで反射させ、この反射したラマン散乱光R2を別途の窓7Aを介して再びバイパスライン2A内に入射させて当初の合焦点Fで合焦させることにより、当初生成されたラマン散乱の強度が増強され、強度が高められたラマン散乱光R3をラマンプローブ8にて受光することができる。
【0072】
ここで、反射鏡2Dは、レーザー光Lの合焦点Fと反射鏡2Dで反射されたラマン散乱光R2の合焦点Fが一致するように別途の窓7Aからの離間やその角度が調整されている。また、極低温のLNGが流通してくる前の段階と流通後の段階ではバイパスライン2Aを構成する配管が若干温度変形することから、この温度変形によってもレーザー光の合焦点Fと反射鏡で反射されたラマン散乱光R2の合焦点Fが一致するように、反射鏡2Dはたとえばオートマチックにスライド自在な構成となっているのが望ましい。
【0073】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0074】
1…LNGタンカー、1a…ローディングアーム、2…受け入れ配管(収容体)、2A…バイパスライン(別途の配管(収容体))、2B…開閉弁、2C…オリフィス、2D…反射鏡、3…貯蔵タンク、4…払い出し配管、5…気化器、7…窓、7A…別途の窓、8…ラマンプローブ、9…導線(光ファイバー)、10…分光器、11…コンピュータ、100,100A,100B,100C…システム(液体の組成を測定するシステム)、K…管理塔、L…レーザー光、R…ラマン散乱光、R1…(反射鏡へ入射する)ラマン散乱光、R2…(反射鏡で反射された)ラマン散乱光、R3…強度が高められたラマン散乱光、F…合焦点