特許第5647776号(P5647776)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 光洋サーモシステム株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5647776-ガス浸炭処理装置 図000002
  • 特許5647776-ガス浸炭処理装置 図000003
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5647776
(24)【登録日】2014年11月14日
(45)【発行日】2015年1月7日
(54)【発明の名称】ガス浸炭処理装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 8/22 20060101AFI20141211BHJP
   C21D 1/06 20060101ALI20141211BHJP
   C21D 1/76 20060101ALI20141211BHJP
   F27D 7/00 20060101ALI20141211BHJP
【FI】
   C23C8/22
   C21D1/06 A
   C21D1/76 Q
   F27D7/00 A
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2009-181322(P2009-181322)
(22)【出願日】2009年8月4日
(65)【公開番号】特開2011-32552(P2011-32552A)
(43)【公開日】2011年2月17日
【審査請求日】2012年6月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000167200
【氏名又は名称】光洋サーモシステム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】特許業務法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長嶋 靖
(72)【発明者】
【氏名】山本 亮介
【審査官】 祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 独国特許出願公開第04110361(DE,A1)
【文献】 特開2009−179816(JP,A)
【文献】 特公昭56−051227(JP,B1)
【文献】 特開昭54−028378(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 8/00−12/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素ガスを用いてワークに対して浸炭処理を行うように構成されたガス浸炭処理装置であって、
浸炭処理されるワークを収容するように構成された処理室と、
前記処理室内のワークを加熱するための加熱手段と、
前記処理室に対して浸炭用の炭化水素ガスを導入するように構成された浸炭用ガス導入部と、
前記処理室内のガスを排出するように構成されたガス排出部と、
前記ガス排出部に設けられ、前記処理室から排出されるガスから水素ガスを捕集して分離可能に構成された水素分離ユニットと、
前記水素分離ユニットに案内されたガスのうち水素ガス以外のガスを前記処理室に帰還させるように、前記ガス導入部から分離して構成されたガス帰還部と、
を備え、
前記浸炭用ガス導入部は、前記処理室の内部の圧力が一定となるように前記処理室に対して前記炭化水素ガスを導入するリリーフ弁を備えた、ガス浸炭処理装置。
【請求項2】
前記処理室に希釈用ガスを供給する希釈用ガス導入部をさらに備え、
前記希釈用ガス導入部は、前記処理室の内部の圧力が一定となるように前記処理室に対して前記希釈用ガスを導入するリリーフ弁を備え、
前記浸炭用ガス導入部及び前記希釈用ガス導入部は、それぞれ浸炭処理時及び拡散処理時に、択一的に有効にされる請求項1に記載のガス浸炭処理装置。
【請求項3】
前記ガス排出部によって構成される排出経路における前記水素分離ユニットの上流に配置された昇圧機構と、
前記ガス帰還部によって構成される帰還経路に配置された保圧機構と、を
さらに備えた請求項1又は2に記載のガス浸炭処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、炭化水素ガスを用いてワークに対して浸炭処理を行うように構成されたガス浸炭処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
メタン等の炭化水素ガスで合金鋼等を浸炭処理する際、炭化水素ガスが分解され水素ガスが発生する。このため、浸炭処理中において、処理室の浸炭ガス濃度を管理して被処理品の浸炭深さを把握するためには、浸炭時に発生する水素ガスを廃棄するために十分な換気を行ったり、処理室内の水素ガス濃度を正確に検出したりする必要があった。
【0003】
従来、浸炭ガス濃度条件をより高精度に管理して所望の浸炭深さを得るために、高速かつ高精度な浸炭ガス流量制御を行ったり、処理室内のガス濃度を測定したりすることが好ましいとされていた。
【0004】
例えば、従来技術の中には、浸炭処理時における処理室内の全圧力に対する水素分圧比を検知する水素分圧比検出手段を設け、水素分圧比の時間変化に基づいて被処理品への炭素流入速度を求めるものがある(例えば、特許文献1参照。)。そして、このような技術を採用することより、被処理品の浸炭深さの推定値を得ることができるとされていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−113046号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の特許文献1に係る技術では、被処理品の浸炭状態を把握するために、処理室内の水素ガスの濃度を検出するためのセンサ等を設ける必要があるため、装置の生産コストが高価になる傾向があった。
【0007】
また、上述の特許文献1に係る技術を含む従来技術では、処理室内のガスを排気する際に、未分解浸炭ガスも同時に廃棄されるため、多量のガスを廃棄することを余儀なくされてしまう。そして、ガスの廃棄に伴って処理室からの放熱が発生するため、多くの熱エネルギーを無駄してしまっていた。
【0008】
本発明の目的は、処理室内の水素ガスの濃度を検出するためのセンサを設けることなくワークの浸炭状態を把握することが可能であり、かつ、ガスの廃棄量を最小限に抑えることが可能なガス浸炭処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係るガス浸炭処理装置は、炭化水素ガスを用いてワークに対して浸炭処理を行うように構成される。このガス浸炭処理装置は、処理室、加熱手段、ガス導入部、ガス排出部、水素分離ユニット、およびガス帰還部を備える。
【0010】
処理室は、浸炭処理されるワークを収容するように構成される。加熱手段は、処理室内のワークを加熱するように構成される。加熱手段の代表例として、高周波誘導加熱用コイルが挙げられるがこれに限定されるものではない。例えば、赤外線や紫外線を用いる光加熱を行うもの、およびレーザー光を用いるレーザー加熱を行うもの等の各種のヒータを用いることが可能である。
【0011】
浸炭用ガス導入部は、処理室に対して少なくとも浸炭用の炭化水素ガスを導入するように構成される。浸炭用の炭化水素ガスとしてはメタンガスが好ましいが、メタンガス以外の炭化水素ガスを用いることも可能である。また、浸炭用ガス導入部は、処理室の内部の圧力が一定となるように前記処理室に対して前記炭化水素ガスを導入するリリーフ弁を備えている。ガス排出部は、処理室内のガスを排出するように構成される。
【0012】
水素分離ユニットは、ガス排出部に設けられ、処理室から排出されるガスから水素ガスのみを捕集して分離可能に構成される。水素分離ユニットの構成例としては水素分離膜を備えたものが挙げられるが、使用可能な水素分離膜の構成には特に制限はなく、公知の水素分離膜を適宜利用することが可能である。ガス帰還部は、水素分離ユニットに案内されたガスのうち水素ガス以外のガスを処理室に帰還させるように構成される。
【0013】
この構成においては、未分解炭化水素ガスや希釈用ガス等を廃棄する必要がなくなり、浸炭処理時に発生した水素ガスだけを選択的に廃棄または回収することが可能になるため、ガスの消費量を低減することが可能になる。
【0014】
また、水素ガスだけを廃棄するようにすることで、処理室内の浸炭用炭化水素ガス濃度を容易に一定に保持できるようになるため、水素ガス濃度センサ等を設けなくとも、ワークへの炭素流入速度等を把握することが可能になる。
【0015】
なお、上述の構成に対して、ガス排出部によって構成される排出経路における水素分離ユニットの上流に配置された昇圧機構と、ガス帰還部によって構成される帰還経路に配置された保圧機構と、をさらに設けることが好ましい。その理由は、水素分離ユニットに圧力を加えることで、より多くの水素ガスを分離することが可能になるからである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、処理室内の水素ガスの濃度を検出するためのセンサを設けることなくワークの浸炭状態を把握することが可能であり、かつ、ガスの廃棄量を最小限に抑えることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第1の実施形態に係るガス浸炭処理装置の概略を示す図である。
図2】本発明の第2の実施形態に係るガス浸炭処理装置の概略を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1を用いて、本発明の実施形態に係るガス浸炭処理装置10を説明する。ガス浸炭処理装置10は、浸炭処理される合金鋼等のワーク22を収容するように構成された処理室20を備える。ガス浸炭処理装置10はさらに、浸炭用ガス供給部242、希釈用ガス供給部244、ガス導入部12、高周波誘導加熱用コイル18、ガス排出部14、ガス帰還部16、およびこれらの動作を統括的に制御する制御部30を備える。
【0019】
浸炭用ガス供給部242は、処理室20に供給すべき浸炭用炭化水素ガス(例えば、メタンガス)を、制御部30からの制御内容に基づいて選択的に出力するように構成される。希釈用ガス供給部244は、希釈用ガス(例えば、窒素ガス)を、制御部30からの制御内容に基づいて選択的に出力するように構成される。この実施形態では、浸炭用炭化水素ガスとしてメタンガスを用いるとともに、希釈用ガスとして窒素ガスを用いるようにしているが、使用するガスの種類はこれらに限定されるものではない。
【0020】
ガス導入部12は、浸炭用ガス供給部242と処理室20とを接続するように構成されたガス導入管127、および希釈用ガス供給部244と処理室20とを接続するように構成されたガス導入管128を備える。ガス導入管127には、オンオフ切換弁121、流量調整弁バルブ123、およびリリーフ弁125が設けられる。一方で、ガス導入管128には、オンオフ切換弁122、流量調整弁バルブ124、およびリリーフ弁126が設けられる。これらのオンオフ切換弁121、122、および流量調整弁バルブ123、124は、制御部30の制御内容に基づいて動作が制御される。ただし、これらの弁をマニュアル操作するように構成することも可能である。ガス導入部12は、この発明の浸炭用ガス導入部及び希釈用ガス導入部を含む。
【0021】
高周波誘導加熱用コイル18は、処理室20の内側に配置されており、制御部30の制御内容に基づいてワーク22を誘導加熱するように構成される。ただし、高周波誘導加熱用コイル18の配置位置はこれに限定されるものではなく、例えば、高周波誘導加熱用コイル18を処理室20の外側に配置してもよい。
【0022】
ガス排出部14は、処理室20からガスを排出するように構成されており、第1の排気ダクト145、水素分離ユニット142、第2の排気ダクト147、および第1のポンプ144を備えている。第1の排気ダクト145は、処理室20に接続される。水素分離ユニット142は、水素分離膜を備えており、第1の排気ダクト145を介して処理室20から排出された水素ガスおよび炭化水素ガスを含む混合ガスから水素ガスのみを捕集して分離するように構成される。第2の排気ダクト147は、水素分離ユニット142に接続されており、水素分離ユニット142によって捕集された水素ガスを排出するように構成される。第1のポンプ144は、水素分離ユニット142によって捕集された水素ガスを第2の排気ダクト147に吸引するための吸引力を発生させるように構成される。
【0023】
ガス帰還部16は、水素分離ユニット142および処理室20を結ぶように接続された帰還ダクト165を備えており、水素分離ユニット142に案内された混合ガスのうちの水素以外のガス(主に炭化水素ガス)を再び処理室20に帰還させるように構成される。
【0024】
続いて、ガス浸炭処理装置10におけるワーク22に対する浸炭処理方法を簡単に説明する。浸炭処理時には、まず、ワーク22が処理室20内のワーク支持部(図示省略)に載置される。このとき処理室20の内部は大気圧と略等しくなっている。その後、制御部30は、浸炭用ガス供給部242および希釈用ガス供給部244から処理室20に、メタンガスおよび必要に応じて窒素ガスを供給させる。なお、希釈用ガス供給部244と処理室20との間のオンオフ切換弁122は、浸炭処理時には閉じられる。このため、浸炭処理時には、窒素ガスは専ら循環再利用される。
【0025】
処理室20内に浸炭雰囲気が形成された後、高周波誘導加熱用コイル18にワーク22を誘導加熱させる。この実施形態では、高周波誘導加熱用コイル18は、ワーク22を約1200℃程度に加熱するように制御されているが、加熱温度の例はこれに限定されるものではない。
【0026】
浸炭処理時には、処理室20内のメタンガスが分解され水素ガスが発生する。このため、制御部30は、浸炭処理時において、第1のポンプ144によって第1の排気ダクト145内に負圧を発生させ、処理室20内の水素ガスおよびメタンガスを含む混合ガスが第1の排気ダクト145に吸引されるようにする。第1の排気ダクト145に導入された水素ガスおよびメタンガスを含む混合ガスは、水素分離ユニット142によって水素ガスが分離される。そして、混合ガスに含まれる水素ガスは第2の排気ダクト147を介して排出され、それ以外のガスは、帰還ダクト165を介して処理室20内に戻される。
【0027】
このとき、浸炭時に発生した水素ガスだけを回収し、回収された水素ガスと同量の炭化水素ガスを供給すれば、処理室20内の圧力が一定に保たれるため、処理室20内の炭化水素ガス濃度を一定に保つことが可能になる。なお、メタンガスの場合、廃棄または回収される水素ガス量の約半分が補充される。ここでは、水素ガスの回収で処理室20内の圧力が下がったときにリリーフ弁125が開いて、負圧になった分の炭化水素ガスが補充される仕組みを採用している。このような仕組みを利用することによって、ガス濃度測定器、および浸炭用炭化水素ガス流量制御器などが不要になり、ガス浸炭処理装置10の生産コストを低減することが可能となる。
【0028】
浸炭処理の後は、拡散処理へと移行する。その際、浸炭用ガス供給部242と処理室20との間のオンオフ切換弁121が閉じられる一方で、希釈用ガス供給部244と処理室20との間のオンオフ切換弁122が開放される。よって、拡散処理への移行時にも、処理室20内に窒素ガスが適宜的に補充される。
【0029】
続いて、図2を用いて第2の実施形態に係るガス浸炭処理装置11を説明する。ガス浸炭処理装置11の基本的構成は、上述のガス浸炭処理装置10のものと同様であるため説明を省略する。ガス浸炭処理装置11では、上述のガス浸炭処理装置10に加えて、第2のポンプ146およびリリーフ弁162がさらに設けられている。
【0030】
第2のポンプ146は、水素分離ユニット142の上流に配置され昇圧機構として機能する一方で、リリーフ弁162は水素分離ユニット142の下流に配置され保圧機構として機能する。このように、水素分離ユニット142を挟むように第2のポンプ146およびリリーフ弁162を配置したことにより、第2のポンプ146を作動させることによって水素分離ユニット142に加えられる圧力を増加させることが可能になる。水素分離ユニット142の水素分離膜は、一般的に、加えられる圧力の増加によって分離される水素の量がより多くなることから、水素分離ユニット142によってより多くの水素ガスを分離することが可能となる。その結果、水素分離ユニット142を小型化しても、適切に水素ガスの分離を行うことが可能となる。通常、高精度な水素分離膜は高価であるため、水素分離ユニット142の小型化が図られることにより、水素分離ユニット142の生産コストが低減される。
【0031】
以上の実施形態によれば、処理室20から廃棄されるガスの量を低減することが可能であるため省ガス化を達成することが可能になる。また、それに伴って、処理室20から放出される熱の量も低減することが可能であるため、省エネルギー化を実現することが可能になる。
【0032】
また、水素ガスだけを廃棄するようにすることで、処理室20内の浸炭用炭化水素ガス濃度を容易に一定に保持できるようになるため、水素ガス濃度センサ等を設けなくとも、ワーク22への炭素流入速度等を把握し、ワーク22の浸炭状態を把握することが可能になる。
【0033】
上述の実施形態の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲には、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0034】
10−ガス浸炭処理装置
12−ガス導入部
14−ガス排出部
16−ガス帰還部
18−高周波誘導加熱用コイル
20−処理室
22−ワーク
30−制御部
242−浸炭用ガス供給部
244−希釈用ガス供給部
図1
図2