(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ベースフィルム上に、透明電極と、バインダー中に蛍光体微粉末および強誘電体超微粒子を分散してなる発光層と、バインダー中に誘電体微粉末を分散してなる誘電層と、背面電極とを積層して構成される分散型EL素子の製造方法において、
前記強誘電体超微粒子は、酸化ジルコニウムの超微粒子であり、
前記発光層は、前記強誘電体超微粒子を有機媒質中に分散した分散液を調製する工程と、前記分散液と前記蛍光体微粉末をバインダー中に分散混合した塗料を得る工程と、前記塗料を、前記ベースフィルム上に形成された前記透明電極上に均一な厚さで塗布する工程とにより形成されることを特徴とする分散型EL素子の製造方法。
前記誘電層は、強誘電体超微粒子を媒質中に分散した分散液を得る工程と、前記分散液をバインダー中に分散混合した塗料を得る工程と、によって得られた前記塗料を、前記発光層上に均一な厚さで塗布することにより形成されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の分散型EL素子の製造方法。
前記誘電層において、前記強誘電体超微粒子の混入率は、バインダーに対する体積比で0.8以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の分散型EL素子の製造方法。
【背景技術】
【0002】
従来から面発光型光源として知られている分散型EL素子110は、
図7に示すように、ポリエチレンテレフタレート等からなるベースフィルム101の片面に、ITO(酸化インジウム)等からなる透明電極102と、バインダー103A中に蛍光体微粉末103Bを分散してなる発光層103と、バインダー104A中に誘電体微粉末104Bを分散してなる誘電層104と、アルミニウム等からなる背面電極105とを順次積層して構成される。
【0003】
分散型EL素子の発光輝度、効率を改善するためには、誘電層104のバインダー104Aや誘電体微粉末104Bとして誘電率の高い材料を用いてその容量を大きくして発光層103に加わる電界を高めるとよいことが知られている。さらに発光層103においても、バインダー103Aに誘電率が高いフッ素ゴム、シアノセルロースなどを用いて、蛍光体微粉末103Bに加わる電界を高める工夫がなされている。
【0004】
しかし、バインダーは誘電率が高いものを選んだとしてもその比誘電率はせいぜい15程度であり、酸化物系の
高誘電体材料よりも1〜2桁も小さい。また誘電率が高い樹脂は誘電損失(いわゆるtanδ)も大きく電力ロスにつながるという欠点がある。
【0005】
このような問題点を解決するため、特許文献1では発光層103のバインダー103Aとして、誘電率は小さいが低誘電損失である樹脂を用い、同時に
図7に示すように
高誘電体微粉末103Cを分散することが提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の段落[0031]にも記載されているように、
高誘電体微粉末103Cは光に対して不透明であり、粒径が1μmオーダーもある粉末を分散することで、発光層103の光透過率が低下し、分散型EL素子110の発光強度が期待されるほど増加しないという欠点があった。
【0008】
光透過率の低下を防ぐために、
高誘電体微粉末103Cの粒径を100nm以下程度まで小さくすることを考えられるが、粒径がこのオーダーまで小さい超微粒子となると、粒子同士が凝集し、バインダー103A中に均一に分散することが困難となる問題があった。
【0009】
本発明は、上述した問題点に鑑みてなされたものであり、発光層中に
高誘電体超微粒子が均一分散された分散型EL素子を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
一般的に、分散型EL素子は、ベースフィルム上に、透明電極と、バインダー中に蛍光体微粉末および
高誘電体超微粒子を分散してなる発光層と、バインダー中に誘電体微粉末を分散してなる誘電層と、背面電極とを積層して構成される。本発明に係る分散型EL素子の製造方法は、前記発光層の形成過程が、前記
高誘電体超微粒子を有機媒質中に分散した分散液を調製する工程と、前記分散液と前記蛍光体微粉末をバインダー中に分散混合した塗料を得る工程と、前記塗料を、前記ベースフィルム上に形成された前記透明電極上に均一な厚さで塗布する工程とにより構成される。
【0011】
上述の構成においては、発光層形成の第1工程で、あらかじめ
高誘電体超微粒子を有機媒質に分散した分散液を調製し、この分散液を蛍光体微粉末と共にバインダー中に混合するようにしている。このため、ナノメーターオーダーの
高誘電体超微粒子が凝集することなくバインダー中に均一分散される。
【0012】
ここで、分散性を高めるために、
高誘電体超微粒子に、有機媒質に対して親和性を持たせる表面処理を施しても良い。また、発光層の密着性を考慮すると、
高誘電体超微粒子のバインダー中の体積比は、0.5以下であることが好ましい。また、光透過率を考慮すると、
高誘電体超微粒子は、粒径が100nm以下とするのが好ましい。特に、酸化チタンまたは酸化ジルコニウムの超微粒子は入手が容易であるため、好適である。
【0013】
また、バインダー中に
高誘電体超微粒子を均一分散した誘電層を、上記発光層と同様の工程により形成することも可能である。この場合、誘電層の密着性を考慮すると、
高誘電体超微粒子のバインダー中の体積比は、0.8以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、マイクロメーターオーダーの
高誘電体微粉末を分散していた従来の発光層と比べて、発光層の光透過率が向上し、散乱も少ないので、発光効率の向上に寄与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1を用いて、本発明の第1の実施形態に係る分散型EL素子の概略構成を説明する。
図1に示す分散型EL素子10は、基本的構造については
図7に示した従来の分散型ELと同じであり、ベースフィルム1の片面に、透明電極2と、発光層3と、誘電層4と、背面電極5とを積層してなる。なお、分散型EL素子10の外面を保護コートにより密封してもかまわない(特許文献1参照)。
【0017】
ベースフィルム1としては、透湿性、吸湿性が低い任意の樹脂フィルムを用いることができるが、耐熱性が良好であることから、ポリエチレンテレフタレートなどの耐熱性樹脂フィルムが特に好適である。また膜厚に関しては、面状発光体のフレキシビリティを改善するため、0.30mm以下のものが特に好ましい。
【0018】
透明電極2は、ITO等の透明導電体を前記ベースフィルム1の片面に、例えば、スパッタ成膜等することによって形成される。
【0019】
発光層3は、架橋性樹脂からなるバインダー3A中に、蛍光体微粉末3Bと
高誘電体超微粒子3Cとを均一分散したものからなる。
【0020】
バインダー3Aを構成する材料としては、架橋性の樹脂、例えばフッ素ゴム系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、シリコン系樹脂、エポキシ系樹脂、アクリルシリコン系樹脂、アクリルエポキシ系樹脂、ブチラール系樹脂、フェノール系樹脂など、熱あるいは硬化剤によって架橋する樹脂材料が用いられる。
【0021】
また、蛍光体微粉末3Bとしては、公知に属する任意の蛍光体の微粉末を用いることができるが、強い発光強度が得られることなどから、硫化亜鉛中に銅と塩素とを添加したものなどが特に好適である。バインダー3Aに対する蛍光体微粉末3Bの混入率は、体積比で1以上、より好ましくは2程度であることが特に好ましい。
【0022】
さらに
高誘電体超微粒子3Cとしては、公知に属する任意の
高誘電体の超微粒子を用いることができるが、誘電率が高いことから、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化イットリウム、チタン酸バリウム又はチタン酸ジルコン酸バリウムなどの金属酸化物の超微粒子が特に好適である。バインダー3Aに対する
高誘電体超微粒子3Cの好ましい混入率については後述する。
【0023】
高誘電体超微粒子3Cの粒径の上限については、光学顕微鏡で見える限界サイズが約100nmといわれていることから、粒径100nm以下の粒子を均一に分散したものであれば発光層3の透明性にほとんど影響がないと考えてよい。また、粒子による光の散乱はレイリー散乱の理論で扱われ、同理論によると一定の波長より短い波長の光はほとんど後方へ散乱されてしまう。レイリー散乱が起こる条件は波長をλ、粒径をDとして、λ/π≪Dなので、可視光の短波長端を400nmとして散乱の起こらない粒径Dは約130nm以下となり、上述の粒径の上限値はこの範囲にも入っていて好ましい。
【0024】
発光層3の形成過程は、
図2に示すように、主に、
高誘電体超微粒子3Cを有機媒質中に分散した分散液を調製する工程(ステップS1)と、分散液と蛍光体微粉末3Bをバインダー3A中に分散混合した塗料を得る工程(ステップS2)と、塗料をベースフィルム1上に形成された透明電極2上に均一な厚さで塗布する工程(ステップS3)とから構成される。
【0025】
ステップS1において、
高誘電体超微粒子3Cの分散媒質としては、公知に属する任意の有機溶媒を用いることができるが、親水性もあるメチルエチルケトンやメタノールが好適である。
【0026】
高誘電体超微粒子3Cは、上述のように100nm以下の粒子であり、このようなナノメーターサイズの粒子間には互いに凝集する力が働くので、そのままでは孤立して分散させることが困難である。そのため、適切な表面処理を施した後に分散媒質と混合するのが好ましい。具体的には、
高誘電体超微粒子3Cは、上述のように無機材料である金属酸化物が用いられるので、有機媒質中との親和性を高めるために、表面処理剤としてシランカップリング剤や界面活性剤を用いて表面修飾する処理を施している。これらの処理剤は、親水基と有機官能基を持っており、親水基が金属酸化物と結合することによって無機材料に有機物である有機媒質と親和性のある表面状態が実現される。
【0027】
表面処理剤で無機材料を表面修飾する方法としては、湿式法と乾式法が知られている。湿式法では、無機材料を媒質中に分散させ、シランカップリング剤や界面活性剤のような表面処理剤も水または有機媒質で希釈して激しくかき混ぜながら無機材料に添加する。乾式法では、無機材料をかき混ぜながら表面処理剤を高速で噴霧して表面に付着させる。
【0028】
このようにして表面処理した金属酸化物超微粒子を有機媒質中に分散させると、有機官能基の働きによって媒質中に均一でかつ凝集しない状態で分散される。このとき、表面処理した金属酸化物粒子の媒質への親和性をさらに高めるための添加剤(分散剤)を媒質に加えてもよい。
【0029】
次に、ステップS2で、上述のようにして調製した分散液を、蛍光体微粉末3Bと共に、バインダー3Aを溶剤に溶かしたものと混合し、粘度調整、脱泡などの処理を加えてペースト状の塗料を作製する。
【0030】
高誘電体超微粒子3Cの混入率は、バインダー3Aに対する体積比で0.1〜1が適当である。また、蛍光体微粉末3Bの混入率は、バインダー3Aおよび
高誘電体超微粒子3Cに対する重量比で2〜5が適当である。
【0031】
そして、ステップS3で、上述のようにして得られた塗料を、ベースフィルム1上に形成された透明電極2上に、例えばスクリーン印刷などすることにより、発光層3が均一な厚さで形成される。
【0032】
誘電層4は、バインダー4A中に
高誘電体微粉末4Bを均一に分散したものからなる。誘電層4は、バインダー4Aを溶剤に溶かしたものに、
高誘電体微粉末4Bを分散混合して得られる塗料を、発光層3上に、例えばスクリーン印刷等することによって均一な厚さに形成される。
【0033】
高誘電体微粉末4Bとしては、上述の発光層3に混入される
高誘電体超微粒子3Cと同種のものを用いることができ、バインダー4Aの材料としては、上述の発光層3のバインダー3Aの材料と同種のものを用いることができる。
【0034】
背面電極5は、例えばアルミニウムなどの導電性金属材料を、誘電層4上に真空成膜することで形成される。また銀ペーストなどの導電性ペーストをスクリーン印刷することもできる。
【0035】
本実施の形態では、発光層形成の第1工程で、あらかじめ
高誘電体超微粒子を有機媒質に分散した分散液を調製し、この分散液を蛍光体微粉末と共にバインダー中に混合するようにしている。このため、ナノメーターオーダーの
高誘電体超微粒子が凝集することなくバインダー中に均一分散された発光層を形成することが可能となった。これにより、マイクロメーターオーダーの
高誘電体微粉末を分散していた従来の発光層と比べて、発光層の光透過率が向上し、散乱も少ないので、発光効率の向上に寄与することができる。
【0036】
以下に、本実施の形態に係る分散型EL素子の実施例を掲げ、本発明の分散型EL素子の製造方法の効果を明らかにする。
【0037】
<実施例1>
中心粒径約10nmのルチル型の酸化チタン超微粒子をあらかじめメチルエチルケトン中に分散させた。このとき、粒子の凝集が起こらないように表面処理、分散剤の添加などを行い、ほぼ透明な分散液を準備した。
【0038】
次にこの分散液と蛍光体粉末(オスラムシルバニア社製、商品名GG25)を、フッ素ゴム系のバインダーを溶剤に溶かしたものと混合し粘度調整、脱泡などの処理を加えて、ペースト状の塗料を得た。得られた塗料を用いて、従来の方法で
図1に示すような分散型EL素子10を作製した。なお、発光層3の膜厚は50μmとする。
【0039】
実施例1の分散型EL素子を用いて、発光層の可視光に対する光透過率を測定した。その結果を
図3に示す。測定は、バインダーに対する酸化チタンの体積比を変えて行った。
図3に示すように、酸化チタンの粒径が小さいほど酸化チタンの混入率を増やしても光透過率が低下しにくくなる傾向が見られる。この結果から酸化チタンの粒径は50nm以下が好ましく、10nm以下であればさらに好ましい。
【0040】
また、酸化チタン超微粒子の混入率の異なる実施例1の分散型EL素子の4つのサンプル(バインダーに対する体積比で、0、0.15、0.4および0.5)を用意し、発光効率を測定した。その結果を
図4に示す。測定は各サンプルについて正弦波駆動、周波数2kHzで電圧を変えて行った。
図4に示すように、酸化チタン超微粒子を発光層のバインダー中に均一分散することで、発光効率が向上する効果が得られることがわかる。その効果は、酸化チタンの混入率が体積比で0.1以上で発現し、約0.5で飽和する。なお、これ以上に酸化チタンの混入率を多くすると、発光層の光透過率や密着性に支障が出るので好ましくない。
【0041】
<実施例2>
実施例1において、発光層3の形成過程で、酸化チタン超微粒子に代えて中心粒径約20nmの酸化ジルコニウム超微粒子をあらかじめメタノール中に分散した分散液を用いた以外は、実施例1と同様の方法で
図1に示すような分散型EL素子10を作製した。
【0042】
そして、酸化ジルコニウム超微粒子の混入率の異なる実施例2の分散型EL素子の4つのサンプル(バインダーに対する体積比で、0、0.15、0.2および0.4)を用意し、発光効率を測定した。その結果を
図5に示す。測定は各サンプルについて正弦波駆動、周波数2kHzで電圧を変えて行った。
図5に示すように、酸化ジルコニウム超微粒子を発光層のバインダー中に均一分散した場合にも、発光効率が向上する効果があった。酸化ジルコニウム超微粒子の混入率は、体積比0.15程度で最大に近い効果が現れ、約0.4まで効果はほぼ一定である。なお、体積比が0.5を超えると、発光層の密着性が低下し始めるため好ましくない。
【0043】
次に、
図6を用いて、本発明の他の実施形態に係る分散型EL素子の構成を説明する。
図6に示した実施形態に係る分散型EL素子20では、上述した実施形態に係る分散型EL素子10(
図1参照。)において、誘電層4’として、バインダー4A中に
高誘電体超微粒子4Cを均一分散したものを採用している。本実施の形態に係る分散型EL素子20のその他の構成は、上述した実施形態に係る分散型EL素子10と同一である。誘電層4’は、
図2のステップS2において蛍光体微粉末を添加しないこと以外は、基本的に発光層3の形成課程の同様の工程で形成することができる。
【0044】
高誘電体超微粒子4Cは、基本的に
高誘電体超微粒子3Cと同一の材料を用いることができ、混入率は、バインダー4Aに対する体積比で0.8程度まで増やすことが可能である。なお、これ以上に
高誘電体超微粒子4Cの混入率を増やすと誘電層4の密着性に支障が生じるので好ましくない。
【0045】
本実施の形態に係る分散型EL素子20によると、誘電層4’の誘電率を均一にする効果が奏され、分散型EL素子の発光効率のさらなる向上に寄与する。
【0046】
上述の実施形態の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲には、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。