特許第5647848号(P5647848)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5647848ダイカスト用プランジャチップおよびダイカスト方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5647848
(24)【登録日】2014年11月14日
(45)【発行日】2015年1月7日
(54)【発明の名称】ダイカスト用プランジャチップおよびダイカスト方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 17/20 20060101AFI20141211BHJP
【FI】
   B22D17/20 G
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2010-223360(P2010-223360)
(22)【出願日】2010年10月1日
(65)【公開番号】特開2012-76107(P2012-76107A)
(43)【公開日】2012年4月19日
【審査請求日】2013年9月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098305
【弁理士】
【氏名又は名称】福島 祥人
(72)【発明者】
【氏名】山木 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】松山 均
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 克叔
(72)【発明者】
【氏名】小倉 純一
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 大八郎
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 克美
(72)【発明者】
【氏名】内山 智章
【審査官】 川崎 良平
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−295119(JP,A)
【文献】 特開昭49−038825(JP,A)
【文献】 特開2006−075848(JP,A)
【文献】 実開平06−029756(JP,U)
【文献】 米国特許第04667729(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 17/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円柱部と、
前記円柱部の軸方向の一端に一体的に設けられる突出部とを備え、
前記突出部は、前記円柱部から先端まで漸次減少する外径を有し、前記先端に凹部が形成されたことを特徴とするダイカスト用プランジャチップ。
【請求項2】
前記軸方向における前記凹部の深さは、前記円柱部の半径の5%以上200%以下であることを特徴とする請求項1記載のダイカスト用プランジャチップ。
【請求項3】
前記凹部は、前記円柱部の軸に関して回転対称な内周面および底部を有し、前記内周面の内径は前記先端から前記底部まで直線的に減少し、前記突出部の前記軸方向の断面において前記内周面が前記軸方向に対してなす角度は、5度以上45度以下であることを特徴とする請求項1または2記載のダイカスト用プランジャチップ
【請求項4】
前記円柱部と前記突出部との境界での前記突出部の半径と前記円柱部の半径との差は、前記円柱部の半径の0%以上50%以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のダイカスト用プランジャチップ。
【請求項5】
前記軸方向において前記円柱部と前記突出部との境界から前記突出部の前記先端までの長さは、前記円柱部の半径の20%以上200%以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のダイカスト用プランジャチップ。
【請求項6】
前記突出部は、円錐台形状の外周面を有し、前記突出部の前記軸方向の断面において前記突出部の外周面が前記軸方向に対してなす角度は、5度以上45度以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のダイカスト用プランジャチップ。
【請求項7】
前記突出部は、前記先端に円環状の端面を有し、半径方向における前記端面の幅は、前記円柱部の半径の1%以上80%以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のダイカスト用プランジャチップ。
【請求項8】
金型装置のキャビティに連通するようにシリンダスリーブを前記金型装置に取り付けるとともに、前記シリンダスリーブ内に請求項1〜7のいずれかに記載のダイカスト用プランジャチップを挿入するステップと、
前記シリンダスリーブ内の前記プランジャチップと前記金型装置との間の空間に溶融材料を注入するステップと、
前記プランジャチップを前記金型装置に向かって前記シリンダスリーブ内で移動させることにより前記シリンダスリーブ内の前記溶融材料を前記金型装置の前記キャビティ内に押し出すステップとを有することを特徴とするダイカスト方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイカスト用プランジャチップおよびそれを用いたダイカスト方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋳造品を製造するためにダイカスト装置が用いられる。ダイカスト装置は、金型装置および射出装置により構成される。金型装置の内部には、鋳造品の形状に対応した形状を有するキャビティ(空洞)が形成される。射出装置のシリンダスリーブがキャビティに連通するように金型装置に取り付けられる。シリンダスリーブには、シリンダロッドの先端に取り付けられたプランジャチップが挿入される。シリンダスリーブ内のプランジャチップの前方に、溶湯(溶融金属等の溶融材料)が供給される。
【0003】
シリンダロッドによりプランジャチップが前進することによりシリンダスリーブ内の溶湯が金型装置のキャビティ内に押し出される。それにより、キャビティ内に溶湯が充填される。
【0004】
シリンダスリーブは水平方向に延びるように設けられる。そのため、シリンダスリーブの内周面の下部に接触する溶湯の部分が凝固する傾向にある。それにより、シリンダスリーブ内の下部に凝固層が形成される。この状態でプランジャチップが前進すると、プランジャチップの先端面で凝固層が削り取られることにより、凝固層の一部が凝固片として剥離する。凝固片が金型装置のキャビティ内の溶湯中に混入すると、鋳造品の品質が低下する。
【0005】
特許文献1には、凝固片が溶湯中に混入することを防止するプランジャチップが記載されている。そのプランジャチップの先端面は溶湯押出面を構成し、溶湯押出面の少なくとも下部に切欠部が形成される。切欠部は、水平壁と鉛直壁とにより構成される。剥離した凝固片は切欠部内に充填され、水平壁により上昇が阻止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−295119号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、シリンダスリーブ内の溶湯の温度が低下し場合、または、シリンダスリーブ内の溶湯の量が減少した場合には、シリンダスリーブ内の凝固層の厚みが増加する。また、シリンダスリーブ内への溶湯の供給からプランジャチップによる溶湯の押出しまでの時間に遅れが生じた場合にも、シリンダスリーブ内の凝固層の厚みが増加する。このような場合には、凝固層から剥離する凝固片の量が多くなる。そのため、特許文献1のプランジャチップを用いても、凝固片が切欠部から溶湯中に溢れ出る。それにより、金型装置のキャビティ内の溶湯中に混入する凝固片の量が多くなる。その結果、鋳造品の品質が劣化する。
【0008】
本発明の目的は、金型装置のキャビティ内の溶融材料中に混入する凝固片の量を低減することが可能なプランジャチップおよびそれを用いたダイカスト方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明に係るダイカスト用プランジャチップは、円柱部と、円柱部の軸方向の一端に一体的に設けられる突出部とを備え、突出部は、円柱部から先端まで漸次減少する外径を有し、先端に凹部が形成されたものである。
【0010】
このダイカスト用プランジャチップを用いてダイカスト法により鋳造品を製造する際には、金型装置にシリンダスリーブが取り付けられるとともに、プランジャチップがシリンダスリーブ内に挿入される。それにより、シリンダスリーブ内の空間が金型装置のキャビティに連通する。次に、シリンダスリーブ内のプランジャチップと金型装置との間の空間に溶融材料が注入される。
【0011】
シリンダスリーブ内に注入された溶融材料のうちシリンダスリーブの内周面の下部に接触する溶融材料の部分は凝固する傾向にある。溶融材料が凝固することにより、シリンダスリーブ内の下部に凝固層が形成される。
【0012】
その後、プランジャチップが金型装置に向かってシリンダスリーブ内で前進することにより、シリンダスリーブ内の溶融材料が金型装置のキャビティ内に押し出される。その結果、金型装置のキャビティに溶融材料が充填される。
【0013】
この場合、プランジャチップが前進することにより、シリンダスリーブ内の凝固層の一部が凝固片として剥離する。剥離した凝固片は、プランジャチップが前進するにつれて突出部の外周面とシリンダスリーブの内周面との間の空間に捕捉される。突出部は円柱部から先端まで漸次減少する外径を有するので、突出部の外周面とシリンダスリーブの内周面との間の空間は後方に向かって徐々に狭くなる。それにより、突出部の外周面とシリンダスリーブの内周面との間の空間で凝固片が凝集される。
【0014】
また、凝固片の量が多い場合には、突出部の外周面とシリンダスリーブの内周面との間の空間から溢れ出た凝固片が突出部の凹部内に捕捉される。それにより、金型装置のキャビティ内の溶融材料中に混入する凝固片の量が低減される。その結果、鋳造品の品質の低下が防止される。
【0015】
(2)軸方向における凹部の深さは、円柱部の半径の5%以上200%以下であることが好ましい。
【0016】
凹部の深さが円柱部の半径の5%以上であることにより、凹部の内部に十分な容積を有する空間を確保することができる。また、凹部の深さが円柱部の半径の200%以下であることにより、突出部の十分な剛性を確保することができるとともに凹部の底部への応力集中を低減することができる。したがって、プランジャチップの強度を低下させることなく、十分な量の凝固片を凹部内に捕捉することが可能となる。
【0017】
(3)凹部は、円柱部の軸に関して回転対称な内周面および底部を有し、内周面の内径は先端から底部まで直線的に減少し、突出部の軸方向の断面において内周面が軸方向に対してなす角度は、5度以上45度以下であることが好ましい。
【0018】
軸方向に対する凹部の内周面の角度が5度以上であることにより、突出部の十分な剛性を確保することができる。また、溶融材料の押し出しにより溶融材料の液面が上昇する際に、凹部内にガスが捕捉されることが防止される。さらに、金型装置から鋳造品を取り出す際に、プランジャチップの凹部から材料を容易に分離することができる。また、軸方向に対する凹部の内周面の角度が45度以下であることにより、凹部の内部に十分な容積を有する空間を確保することができる。
【0019】
(4)円柱部と突出部との境界での突出部の半径と円柱部の半径との差は、円柱部の半径の0%以上50%以下であることが好ましい。
【0020】
突出部の半径と円柱部の半径との差が円柱部の半径の50%以下であることにより、突出部の外周面とシリンダスリーブの内周面との間の空間に捕捉された凝固片が突出部の外周面とシリンダスリーブの内周面との間で凝集されやすくなる。したがって、凝固片が突出部の前方に流出することが防止される。
【0021】
(5)軸方向において円柱部と突出部との境界から突出部の先端までの長さは、円柱部の半径の20%以上200%以下であることが好ましい。
【0022】
円柱部と突出部との境界から突出部の先端までの長さが円柱部の半径の20%以上であることにより、突出部の外周面とシリンダスリーブの内周面との間に十分な容積を有する空間を確保することができる。したがって、突出部の外周面とシリンダスリーブの内周面との間から溢れ出る凝固片の量を低減することができる。また、円柱部と突出部との境界から突出部の先端までの長さが円柱部の半径の200%以下であることにより、突出部の十分な剛性を確保することができる。
【0023】
(6)突出部は、円錐台形状の外周面を有し、突出部の軸方向の断面において突出部の外周面が軸方向に対してなす角度は、5度以上45度以下であることが好ましい。
【0024】
軸方向に対する突出部の外周面の角度が5度以上であることにより、突出部の外周面とシリンダスリーブの内周面との間に十分な容積を有する空間を確保することができる。したがって、突出部の外周面とシリンダスリーブの内周面との間から溢れ出る凝固片の量を低減することができる。また、軸方向に対する突出部の外周面の角度が45度以下であることにより、突出部の外周面とシリンダスリーブの内周面との間に凝固片を確実に捕捉することができる。
【0025】
(7)突出部は、先端に円環状の端面を有し、半径方向における端面の幅は、円柱部の半径の1%以上80%以下であることが好ましい。
【0026】
突出部の端面の幅が円柱部の半径の1%以上であることにより、突出部が溶融材料を押し出す際の圧力に十分に耐える強度を有することができる。また、突出部の端面の幅が円柱部の半径の80%以下であることにより、突出部の外周面とシリンダスリーブの内周面との間に十分な容積を有する空間を確保することができるとともに、凹部の内部に十分な容積を有する空間を確保することができる。
【0027】
(8)本発明に係るダイカスト方法は、金型装置のキャビティに連通するようにシリンダスリーブを金型装置に取り付けるとともに、シリンダスリーブ内に上記の本発明に係るダイカスト用プランジャチップを挿入するステップと、シリンダスリーブ内のプランジャチップと金型装置との間の空間に溶融材料を注入するステップと、プランジャチップを金型装置に向かってシリンダスリーブ内で移動させることによりシリンダスリーブ内の溶融材料を金型装置のキャビティ内に押し出すステップとを有するものである。
【0028】
このダイカスト方法においては、上記の本発明に係るダイカスト用プランジャチップが用いられる。シリンダスリーブ内の下部に溶融材料の凝固層が形成された場合、プランジャチップが前進することにより、シリンダスリーブ内の凝固層の一部が凝固片として剥離する。
【0029】
剥離した凝固片は、プランジャチップが前進するにつれて突出部の外周面とシリンダスリーブの内周面との間の空間に捕捉される。突出部は円柱部から先端まで漸次減少する外径を有するので、突出部の外周面とシリンダスリーブの内周面との間の空間は後方に向かって徐々に狭くなる。それにより、突出部の外周面とシリンダスリーブの内周面との間の空間で凝固片が凝集される。
【0030】
また、凝固片の量が多い場合には、突出部の外周面とシリンダスリーブの内周面との間の空間から溢れ出た凝固片が突出部の凹部内に捕捉される。それにより、金型装置のキャビティ内の溶融材料中への凝固片の混入量が低減される。その結果、鋳造品の品質の低下が防止される。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、金型装置のキャビティ内の溶融材料中に混入する凝固片の量が低減される。その結果、鋳造品の品質の低下が防止される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明の一実施の形態に係るプランジャチップを備えたダイカスト装置の構成を示す模式図である。
図2】本発明の一実施の形態に係るプランジャチップの斜視図である。
図3図2のプランジャチップの軸方向に沿った断面図である。
図4図2のプランジャチップを前方から見た図である。
図5図2のプランジャチップを後方から見た図である。
図6】シリンダスリーブ内でのプランジャチップの取り付け構造を示す断面図である。
図7】プランジャチップの各部の寸法を説明するための図である。
図8】本発明の他の実施の形態に係るプランジャチップの軸方向に沿った断面図である。
図9】本発明の他の実施の形態に係るプランジャチップの軸方向に沿った断面図である。
図10】本発明の他の実施の形態に係るプランジャチップの軸方向に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施の形態に係るプランジャチップおよびそれを用いたダイカスト方法について図面を参照しながら説明する。
【0034】
図1は本発明の一実施の形態に係るプランジャチップを備えたダイカスト装置の構成を示す模式図である。図1に示すダイカスト装置100は、射出装置10および金型装置60を備える。
【0035】
金型装置60は、可動部材61、金型部材62,63および固定部材64により構成される。金型部材62は、可動部材61に取り付けられる。金型部材63は、固定部材64に取り付けられる。
【0036】
可動部材61が水平方向に移動することにより、金型部材62が金型部材63に接合された状態と、金型部材62が金型部材63から離間した状態とに切り替えられる。金型部材62,63が接合された状態で、キャビティ65が形成される。キャビティ65は、鋳造品の形状に対応した形状を有する。固定部材64および金型部材63には、溶湯供給口66が形成される。また、金型部材63には、ランナー67が形成される。
【0037】
射出装置10は、プランジャチップ1、シリンダスリーブ11、シリンダロッド13および駆動装置14を備える。シリンダスリーブ11は、円筒形状を有する。シリンダスリーブ11の先端が金型装置60の溶湯供給口66にはめ込まれる。シリンダスリーブ11は水平方向に延びる。シリンダスリーブ11の上部には、注入口12が形成される。
【0038】
プランジャチップ1は、シリンダスリーブ11内に挿入される。以下、プランジャチップ1が金型装置60に向かう方向を前方と呼び、プランジャチップ1が金型装置60から離れる方向を後方と呼ぶ。
【0039】
プランジャチップ1の後端には、シリンダロッド13が取り付けられる。シリンダロッド13は、シリンダスリーブ11内で水平方向に延びる。駆動装置14は、シリンダロッド13を前後方向に移動させる。
【0040】
シリンダスリーブ11の内部の空間は、金型装置60の溶湯供給口66およびランナー67を通してキャビティ65に連通する。シリンダスリーブ11の注入口12から溶融材料が注入される。溶融材料は、溶融金属、溶融合金または溶融樹脂等である。溶融材料として、例えば溶融アルミニウムが用いられる。以下、溶融材料を溶湯70と呼ぶ。
【0041】
駆動装置14によりシリンダロッド13が前方に駆動されると、プランジャチップ1がシリンダスリーブ11内で前進する。それにより、シリンダスリーブ11内の溶湯70が金型装置60の溶湯供給口66およびランナー67を通してキャビティ65内に押出される。それにより、キャビティ65内に溶湯70が充填される。
【0042】
図2は本発明の一実施の形態に係るプランジャチップ1の斜視図である。図3図2のプランジャチップ1の軸方向に沿った断面図である。図4図2のプランジャチップ1を前方から見た図である。図5図2のプランジャチップ1を後方から見た図である。
【0043】
図2に示すように、プランジャチップ1は、円柱部2、突出部3および取付部4からなる。以下、円柱部2の中心軸を円柱部2の軸Axと呼び、円柱部2の軸Axに平行な方向を軸方向と呼ぶ。プランジャチップ1は、例えばSKD61等の鋼材、ニッケル合金等により形成される。なお、プランジャチップ1の材料はこれらの材料に限定されない。
【0044】
突出部3は、円柱部2の軸方向の前端面に一体的に設けられる。取付部4は、円柱部2の軸方向の後端面に一体的に設けられる。
【0045】
図3に示すように、突出部3は、円柱部2から先端まで漸次減少する外径を有する。本実施の形態では、突出部3は、円錐台形状の外周面31を有する。突出部3の先端面には、凹部5が形成される。本実施の形態では、凹部5は、円柱部2の軸Axに関して回転対称な内周面51および底部52を有する。内周面51の内径は先端から底部52まで直線的に減少する。これにより、凹部5は、逆円錐台形状を有する。凹部5の最大半径は、突出部3の外周面3の先端の半径よりも小さい。それにより、突出部3の先端には、図3および図4に示すように、円環状の端面32が形成される。
【0046】
さらに、突出部3と円柱部2との境界で突出部3の半径は円柱部2の半径よりも小さい。それにより、図3および図4に示すように、突出部3と円柱部2との境界に円環状の肩部21が形成される。
【0047】
突出部3が押圧部として機能し、本実施の形態では、突出部3の外周面31、端面32、凹部5の内周面51および底部52ならびに肩部21が押圧面を構成する。
【0048】
図3に示すように、円柱部2には、軸Axに関して回転対称な円柱状の内部空間22が形成される。また、取付部4は、図5に示すように、断面正方形状を有する。図3および図4に示すように、取付部4には、軸Axに関して回転対称な円柱状の開口23が形成される。円柱部2の内部空間22と開口23との間には、軸Axに関して回転対称な取り付け孔24が形成される。内部空間22の内径は取り付け孔24の内径よりも大きい。開口23の内径は取り付け孔24の内径よりも大きい。取り付け孔24の内周面には雌ねじ24aが形成される。
【0049】
図6はシリンダスリーブ11内でのプランジャチップ1の取り付け構造を示す断面図である。
【0050】
図6に示すように、プランジャチップ1に連結部材15を用いてシリンダロッド13が取り付けられる。連結部材15は、後端面から先端面まで貫通する貫通孔を有する。連結部材15の先端部の外周面には、プランジャチップ1の取り付け孔24の雌ねじ24a(図3)に対応した雄ねじが形成される。プランジャチップ1の取り付け孔24(図3)に開口23(図3)を通して連結部材15が取り付けられる。シリンダロッド13は、管状に形成される。シリンダロッド13の先端は、連結部材15の後端部に取り付けられる。なお、シリンダロッド13と連結部材15とが一体的に形成されてもよい。
【0051】
シリンダロッド13および連結部材15の内部空間を貫通するように、冷却水用パイプ16が挿入される。冷却水用パイプ16の先端は、プランジャチップ1の内部空間22内に突出する。冷却水用パイプ16を通して、プランジャチップ1の内部空間22に冷却水が供給される。内部空間22内の冷却水は、シリンダロッド13の内周面と冷却水用パイプ16の外周面との間の空間を通して外部に排出される。
【0052】
この状態で、プランジャチップ1およびシリンダロッド13がシリンダスリーブ11内に挿入される。シリンダスリーブ11の内径とプランジャチップ1の円柱部2の外径とはほぼ等しい。シリンダロッド13が前後に移動することにより、プランジャチップ1がシリンダスリーブ11内で前後にスライドする。
【0053】
ここで、図1および図6を参照しながら本実施の形態に係るプランジャチップ1を用いたダイカスト方法について説明する。
【0054】
まず、図1に示すように、金型装置60の溶湯供給口66にシリンダスリーブ11を取り付ける。また、シリンダロッド13が取り付けられたプランジャチップ1をシリンダスリーブ11内に挿入する。それにより、シリンダスリーブ11内のプランジャチップ1の前方の空間が金型装置60のキャビティ65にランナー67を通して連通する。
【0055】
次に、シリンダスリーブ11の注入口12から溶湯70をシリンダスリーブ11内のプランジャチップ1の前方の空間に注入する。シリンダスリーブ11内に注入された溶湯70のうちシリンダスリーブ11の内周面の下部に接触する溶湯70の部分は凝固する傾向にある。溶湯70が凝固することにより、図6に示すように、シリンダスリーブ11内の下部に凝固層71が形成される。
【0056】
その後、図1の駆動装置14によりシリンダロッド13を前進させることにより、プランジャチップ1を金型装置60に向かってシリンダスリーブ11内で移動させる。それにより、シリンダスリーブ11内の溶湯70が金型装置60内のキャビティ65内に押し出される。その結果、金型装置60のキャビティ65およびランナー67に溶湯70が充填される。
【0057】
このとき、図6に示すように、プランジャチップ1が前進することにより、シリンダスリーブ11内の凝固層71の一部が凝固片72として剥離する。剥離した凝固片72は、プランジャチップ1が前進するにしたがって突出部3の外周面31とシリンダスリーブ11の内周面との間の空間に捕捉される。突出部3は円柱部2から先端まで漸次減少する外径を有するので、突出部3の外周面31とシリンダスリーブ11の内周面との間の空間は後方に向かって徐々に狭くなる。それにより、突出部3の外周面31とシリンダスリーブ11の内周面との間の空間に凝固片72が凝集される。
【0058】
また、凝固層71の量が多い場合には、突出部3の外周面31とシリンダスリーブ11の内周面との間の空間から溢れ出た凝固片72が突出部3の凹部5内に捕捉される。それにより、図1の金型装置60のキャビティ65内の溶湯70中に混入する凝固片72の量が低減される。その結果、鋳造品の品質の低下が防止される。
【0059】
図7はプランジャチップ1の各部の寸法を説明するための図である。
【0060】
図7において、プランジャチップ1の円柱部2の半径をRとする。シリンダスリーブ11内の溶湯70の凝固層71から剥離される凝固片72の量は、シリンダスリーブ11の半径に依存する。プランジャチップ1の円柱部2の半径Rはシリンダスリーブ11の半径にほぼ等しいため、凝固片72の量は円柱部2の半径Rに依存する。したがって、プランジャチップ1の各部の好ましい寸法は円柱部2の半径Rを基準として表される。
【0061】
円柱部2の軸方向(軸Axの方向)における凹部5の深さをDとする。凹部5の深さDは、円柱部2の半径Rの5%以上200%以下であることが好ましい。凹部5の深さDが円柱部2の半径Rの5%以上であることにより、凹部5の内部に十分な容積を有する空間を確保することができる。また、凹部5の深さDが円柱部2の半径Rの200%以下であることにより、突出部3の円環状の底部の幅bに対する突出部3の軸方向の高さの割合が大きくなりすぎない。それにより、突出部3の十分な剛性を確保することができるとともに凹部5の底部52への応力集中を低減することができる。したがって、プランジャチップ1の強度を低下させることなく、十分な量の凝固片を凹部5内に捕捉することが可能となる。
【0062】
突出部3の軸方向の断面において軸方向に対して凹部5の内周面51がなす角度をαとする。内周面51の角度αは5度以上45度以下であることが好ましい。内周面51の角度αが5度以上であることにより、突出部3の十分な剛性を確保することができる。また、溶湯70の押し出しにより溶湯70の液面が上昇する際に、凹部5内にガスが捕捉されることが防止される。さらに、金型装置60から鋳造品を取り出す際に、プランジャチップ1の凹部5から凝固した材料を容易に分離することができる。また、内周面51の角度αが45度以下であることにより、凹部5の内部に十分な容積を有する空間を確保することができる。
【0063】
円柱部2と突出部3との境界での突出部2の半径をrとする。円柱部3の半径Rと突出部3の半径rとの差は肩部21の幅に相当する。肩部21の幅をΔRとする。肩部21の幅ΔRは円柱部2の半径Rの0%以上50%以下であることが好ましい。肩部21の幅ΔRが円柱部2の半径Rの50%以下であることにより、突出部3の外周面31とシリンダスリーブ11の内周面との間の空間に捕捉された凝固片72が突出部3の外周面31とシリンダスリーブ11の内周面との間で凝集されやすくなる。したがって、凝固片72が突出部3の前方に流出することが防止される。
【0064】
軸方向において円柱部2と突出部3との境界(肩部21)から突出部3の先端までの長さをHとする。突出部3の長さHは円柱部2の半径Rの20%以上200%以下であることが好ましい。突出部3の長さHが円柱部2の半径Rの20%以上であることにより、突出部3の外周面31とシリンダスリーブ11の内周面との間に十分な容積を有する空間を確保することができる。したがって、突出部3の外周面31とシリンダスリーブ11の内周面との間から溢れ出る凝固片72の量を低減することができる。また、突出部3の長さHが円柱部2の半径Rの200%以下であることにより、突出部3の十分な剛性を確保することができる。
【0065】
突出部3の軸方向の断面において軸方向に対して突出部3の外周面31がなす角度をβとする。突出部3の外周面31の角度βは5度以上45度以下であることが好ましい。突出部3の外周面31の角度βが5度以上であることにより、突出部3の外周面31とシリンダスリーブ11の内周面との間に十分な容積を有する空間を確保することができる。したがって、突出部3の外周面31とシリンダスリーブ11の内周面との間から溢れ出る凝固片72の量を低減することができる。また、突出部3の外周面31の角度が45度以下であることにより、突出部3の外周面31とシリンダスリーブ11の内周面との間に凝固片72を確実に捕捉することができる。
【0066】
突出部3の円環状の端面53の幅をWとする。突出部3の端面53の幅Wは円柱部2の半径Rの1%以上80%以下であることが好ましい。突出部3の端面53の幅Wが円柱部2の半径Rの1%以上であることにより、突出部3が溶湯70を押し出す際の圧力に十分に耐える強度を有することができる。また、突出部3の端面53の幅Wが円柱部2の半径Rの80%以下であることにより、突出部3の外周面31とシリンダスリーブ11の内周面との間に十分な容積を有する空間を確保することができるとともに、凹部5の内部に十分な容積を有する空間を確保することができる。
【0067】
図8図9および図10は本発明の他の実施の形態に係るプランジャチップ1の軸方向の断面図である。
【0068】
図8のプランジャチップ1では、突出部3の外径が円柱部2から先端まで凹状の曲線に沿うように減少する。それにより、突出部3の外周面31は凹状に湾曲する。また、凹部5の内径は先端から底部52まで凹状の曲線に沿うように減少する。それにより、凹部5の内周面51は凹状に湾曲する。
【0069】
図9のプランジャチップ1では、突出部3の外径が円柱部2から先端まで凸状の曲線に沿うように減少する。それにより、突出部3の外周面31は凸状に湾曲する。また、凹部5の内径は先端から底部52まで凸状の曲線に沿うように減少する。それにより、凹部5の内周面51は凸状に湾曲する。
【0070】
図10のプランジャチップ1では、突出部3の外径が円柱部2から先端まで階段状に減少する。また、凹部5の内径は先端から底部52まで階段状に減少する。
【0071】
図3図8図9および図10のいずれかのプランジャチップ1の突出部3の外周面31の形状と図3図8図9および図10のいずれかのプランジャチップ1の凹部5の内周面51の形状とを組み合わせてもよい。
【0072】
プランジャチップ1が上記実施の形態における突出部3の外周面31の形状と異なる形状を有してもよい。また、プランジャチップ1が上記実施の形態における凹部5の内周面51の形状と異なる形状を有してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、ダイカスト法により種々の鋳造品を製造するため等に利用することができる。
【符号の説明】
【0074】
1 プランジャチップ
2 円柱部
3 突出部
4 取付部
5 凹部
10 射出装置
11 シリンダスリーブ
12 注入口
13 シリンダロッド
14 駆動装置
15 連結部材
16 冷却水用パイプ
22 内部空間
23 開口
24 取り付け孔
24a 雌ねじ
31 外周面
51 内周面
52 底部
53 端面
60 金型装置
61 可動部材
62,63 金型部材
64 固定部材
65 キャビティ
66 溶湯供給口
67 ランナー
70 溶湯
71 凝固層
72 凝固片
100 ダイカスト装置
Ax 軸
D 深さ
H 長さ
R 半径
W 幅
α,β 角度
ΔR 幅
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10