【実施例1】
【0028】
本実施例においては、ZnO(0001)基板を、EDTA溶液と無水エチレンジアミンを10:1の体積比で混合した溶液でエッチングした後、バッファードフッ酸(pH=5)でエッチング処理を行った。より具体的な処理の手順は以下の通りであった。
(i) CMP研磨された表面を有するZnO(0001)基板を準備する。
(ii) ZnO(0001)基板の結晶成長を行なわない面(-c面:O面)がエッチングされないように耐薬品性の保護テープを裏面に貼ることにより保護した。
(iii) 0.2mol/lのEDTA溶液とEDA(無水)を10:1の体積比で混合した溶液で、6時間のエッチングを行った。
(iv) 純水置換を実施した後、フッ化水素アンモニウムとフッ化アンモニウムと水をそれぞれ15%、28%、57%の割合で混合した溶液(バッファードフッ酸:pH=5/ダイキン工業(株)製BHF110)で、基板表面を5分間エッチングした。
(v) その後、純水置換を実施した後、アセトン及びイソプロピルアルコールによる超音波洗浄を実施した。
(vi) その後、基板表面の乾燥を行った。
【0029】
ここでバッファードフッ酸のpHを、より酸性側(たとえばpH<4)にすると、エッチピットが発生するので、pH値としては4以上が良く、pH=5〜7がより好ましい。またシリカ以外の微粒子の再付着を抑えるため、界面活性剤を微量(例えば、0.1%以下)加えても良い。
【0030】
[比較例1〜3(基板処理)]
本発明による基板処理の評価のため、比較例1〜3として以下の方法で基板の処理を行った。各比較例の具体的な処理の手順について以下に詳述する。
【0031】
<比較例1>
比較例1における処理の手順は以下の通りであった。
(i) CMP研磨された表面を有するZnO(0001)基板を準備した。
(ii) アセトン及びイソプロピルアルコールによる超音波洗浄を実施した。
(iii) その後、基板表面の乾燥を行った。
【0032】
<比較例2>
比較例2においては、ZnO基板をEDTA溶液とEDAの混合溶液でエッチングを行った。より詳細な処理の手順は以下の通りであった。
(i) CMP研磨された表面を有するZnO(0001)基板を準備した。
(ii) ZnO(0001)基板の結晶成長を行なわない面(-c面:O面)がエッチングされないように耐薬品性の保護テープを裏面に貼ることにより保護した。
(iii) 0.2mol/lのEDTA溶液とEDA(無水)を10:1の体積比で混合した溶液で、6時間のエッチングを行った。
(iv) その後、純水置換を実施した後、アセトン及びイソプロピルアルコールによる超音波洗浄を実施した。
(v) その後、基板表面の乾燥を行った。
【0033】
<比較例3>
比較例3においては、ZnO基板をEDTA溶液とEDAの混合溶液でエッチングを行った後、塩酸(HCl)溶液(pH=2)によるエッチングを行った。より詳細な処理の手順は以下の通りであった。
(i) CMP研磨された表面を有するZnO(0001)基板を準備した。
(ii) ZnO(0001)基板の結晶成長を行なわない面(-c面:O面)がエッチングされないように耐薬品性の保護テープを裏面に貼ることにより保護した。
(iii) 0.2mol/lのEDTA溶液とEDA(無水)を10:1の体積比で混合した溶液で、6時間のエッチングを行った。
(iv) 純水置換を実施した後、HCl溶液(pH=2)で10分間のエッチングを行った。
(v) その後、純水置換を実施した後、アセトン及びイソプロピルアルコールによる超音波洗浄を実施した。
(vi) その後、基板表面の乾燥を行った。
【実施例2】
【0034】
次に、本発明の実施例1による処理を行った基板を用いたエピタキシャル成長の具体的な実施例として、分子線エピタキシー法(MBE:Molecular Beam Epitaxy)による結晶成長を例にして、以下に説明する。
【0035】
まず結晶成長に用いたMBE装置の概要について説明する。用いたMBE装置は、真空チャンバに、亜鉛(Zn)ソースガン、マグネシウム(Mg)ソースガン、酸素(O)ソースガンを備える。Znソースガン及びMgソースガンは、それぞれ固体Zn(純度:7N)ソース、固体Mg(純度:6N)ソースを、PBN(Pyrolitic Boron Nitride)製るつぼに入れ、加熱することにより、分子線として基板に供給する。Oソースガンは、O
2(純度:6N)ガスをマスフローコントローラを介して無電極放電管に導入し、高周波(13.56 MHz)によりプラズマ化し、Oラジカルとして基板に供給する。放電管材料としては、高純度石英を使用した。また真空チャンバ内には、基板加熱ヒータを含み、基板を保持する基板ホルダが配置されている。また、水晶振動子を用いた膜厚モニタが備えられ、膜厚モニタで測定される付着速度からZnビーム等の固体ソースから照射されるフラックス強度が求められる。反射高速電子線回折(RHEED:Reflection High-Energy Electron Diffraction)用のガン、RHEED像を映すスクリーン及び固体撮像装置とモニタとを含むRHEED像の表示装置も備える。
【0036】
実施例1で準備したZnO基板上に、ホモエピタキシャル成長を行った。
図10はエピタキシャル成長を行った成長層を示す断面図である。具体的には、実施例1の処理を行ったZn面ZnO(0001)基板10を、基板ホルダを介して基板加熱ヒータにセットした。超高真空中でZnO基板10を900℃に加熱することにより、基板表面のクリーニング(サーマルクリーニング)を30分間行なった。続いて基板温度を300℃まで下げて、ZnO基板10上に成長温度300℃(Znビーム:0.1nm/s、O
2流量2sccm/RFパワー300W)でZnOバッファ層11Aを30nm成長し、その後900℃で10分間アニールを行い、結晶性及び表面平坦性の改善を行なった。その上に成長温度900℃(Znビーム:0.3nm/s、O
2流量2sccm/RFパワー300W)でアンドープZnO層11を約1000nm成長した。
【0037】
[比較例4〜6(結晶成長)]
実施例1による処理を行ったZnO基板上にホモエピタキシャル成長を行った成長層との比較評価のため、比較例1〜3の方法により処理を行った基板上に結晶成長を行った。すなわち、比較例4、5、6においては、それぞれ比較例1、2、3の方法により処理を行ったZnO基板上にアンドープのZnO層をホモエピタキシャル成長した。用いた基板を除き、成長装置(MBE装置)、成長手順、成長条件等の成長方法は、実施例4の場合と同じである。なお、以下においては、理解の容易さのため、実施例1,2及び比較例1〜6の処理基板又は成長層をEMB1,2,CMP1〜6と略記して説明する場合がある。
【0038】
[分析及び評価]
1.処理基板評価(ToF−SIMS評価)
上記した実施例1、比較例1〜3の方法による表面処理を施したZnO基板の表面を飛行時間型二次イオン質量分析法(ToF-SIMS:Time-of-Flight Secondary Ion Mass Spectrometry)により、最表面の分析を行なった。なお、ToF−SIMSは、試料に1×10
12 ions/cm
2以下のパルス一次イオンビーム(Bi)を照射し、スパッタされた二次イオンが試料から検出器に到達するまでの時間を測定することによって質量分離する方法で、検出深さは表面の第1分子層程度であり、高い質量分解能(M/ΔM > 7000)で測定が可能な、最表面の構造解析手法である。
【0039】
図11、12は、ToF−SIMS分析結果を示す。測定領域は500μm角である。図の横軸m/zは、イオンの質量数(m)を電荷(z)で割った値で、縦軸はイオンの数(cps:counts per second)である。
図11(a)〜(d)、
図12(a)〜(b)はそれぞれSi,SiO
2, SiHO
3, Si
2O
5H, SiZnO
4, SiZnO
4Hに着目した分子量のところを見た結果である。ここでSiは正イオンを、SiO
2, SiHO
3, Si
2O
5H, SiZnO
4, SiZnO
4Hは負イオンを分析した結果である。図中、実施例1を実線で、比較例1、2をそれぞれ一点鎖線、破線で示している。
【0040】
図11(a)において、m/z=27.98にSiのピークが観測される。またSiの右側に現れるピークは、それぞれCO、CH
2N、C
2H
4である。
図11(b)において、m/z=59.97にSiO
2のピークが観測される。またSiO
2の右側に現れるピークは、それぞれCO
3、C
5である。
図11(c)において、m/z=76.97にSiHO
3のピークが観測される。またSiHO
3の右側に現れるピークはC
6H
5である。
図11(d)において、m/z=136.94にSi
2O
5Hのピークが観測される。
図12(a)において、m/z=155.89にSiZnO
4のピークが観測される。
図12(b)において、m/z=156.89にSiZnO
4Hのピークが観測される。
【0041】
これらのToF−SIMS分析結果から、比較例1(市販のZnO基板のアセトン及びイソプロピルアルコールによる超音波洗浄)の処理による基板(CMP1)では、上記いずれのピークも観測されており、ZnO基板表面に研磨剤であるコロイダルシリカ由来と考えられシリカやZnOと反応した亜鉛シリケートが存在していることがわかる。
【0042】
比較例2(EDTA:EDA=10:1の混合溶液で6時間エッチング)の処理による基板(CMP2)では、上記ピークの大幅な減少が観測された。しかしながら表面から4μmものZnOをエッチングしているにも関わらず、Siに関与したピークはなくなっていない。従って、これらシリカは、表面に付着していたシリカがエッチングにより一旦表面から剥離し、エッチング液中に分散した後、表面に再付着したためと考えられる。また使用した基板中にはSiが元々存在しており、あるいはCMP後の熱処理などの加工プロセス中に形成されたシリカも含まれるものと考えられる。
【0043】
実施例1(EDTA及びEDAの混合溶液でエッチング後、BHFでのエッチング)の処理による基板(EMB1)では、これらSiに関与したピークは、ほぼ0(ゼロ)となっていることがわかる。
【0044】
液体中に分散している微粒子のゼータ電位の絶対値が増加すれば、粒子間の反発力が強くなり粒子の安定性は高くなる。逆にゼータ電位がゼロに近くなると、粒子は凝集しやすくなる。またZnO基板に対して、ゼータ電位の電荷の符号が同じであれば、基板への再付着は起こりにくく、逆に電荷がことなっていれば、基板表面に付着しやすく、除去しにくいことが推察される。ここでEDTA:EDA=10:1の混合溶液のpHは10.9のアルカリ性である。この領域におけるSiO
2及びZnOのゼータ電位はいずれも−40meV以上で、電荷はマイナス(−)となり同符合であることから、シリカ微粒子はZnOと反発しあい、再付着しにくいはずである。しかしながら実際のエッチング液中では、さらに複雑に、いろいろな微粒子等などの相互作用によって、一部再付着が生じているものと考えられる。
【0045】
またバッファードフッ酸のpHは5の酸性であるが、この領域においてもSiO
2及びZnOのゼータ電位はマイナス(−)となり同符合であることから、シリカ微粒子はZnOと反発しあい、再付着しにくいはずである。またそもそもSiO
2そのものが溶解するため、微粒子として存在できなくなるため、ZnO基板表面のSiがほぼ0(ゼロ)となるように、除去できたものと考えられる。
【0046】
図13に本実施例のZnO基板処理のフローチャートを示す。上記した実験1〜3の結果、及び実施例1と比較例1〜3の処理による基板についての評価結果から、本実施例の基板処理について以下のことがわかった。すなわち、表面平坦化(CMP研磨)を行った基板(
図13、ステップS11)を、EDTA溶液とEDAとの混合溶液によるエッチング処理(ステップS12)により、加工変質層が除去され、かつエッチピット形成のないステップ&テラス構造を有する非常に平坦な表面をもつ+c面ZnO表面が実現可能となった。また、バッファードフッ酸(BHF)によるエッチング処理(ステップS13)により、エッチピット形成のないステップ&テラス構造を有する平坦な表面を維持しつつ、表面Si濃度を0(ゼロ)とすることが可能となった。なお、BHFによるエッチング後、純水・有機溶剤洗浄による基板の清浄化及び乾燥が行われる(ステップS14)。
【0047】
なお、上記においてはEDTA:EDA混合溶液にEDTA・2Naを用いた場合を例に説明したが、他のエチレンジアミン四酢酸(EDTA)又はそのナトリウム塩などのEDTAキレート化合物とEDAとの混合溶液を用いることができる。より詳細には、EDTAキレート化合物には、例えばNaが付加しないEDTA、Naが1つついたEDTA・1Na、2つついたEDTA・2Na、同様にEDTA・3Na、EDTA・4Naなどがある。このうち、アルカリ性のEDAと混合して用いるには酸性のEDTA・1Na、EDTA・2Naを用いることが好ましい。
【0048】
また、EDTA:EDA混合溶液によるエッチング(ステップS12)の前にBHFによるエッチングを行い、表面付着シリカの除去・低減を行なっても良い。なお、この場合、界面活性剤入りのバッファードフッ酸を用いることによって、表面汚染物等による疎水性表面に対して、濡れ性が向上し、均一な薬液による化学反応が起きるため、表面平坦性の向上を図ることができる。また、EDTA:EDAエッチング後のバッファードフッ酸によるエッチング処理(ステップS13)において、バッファードフッ酸に界面活性剤を加えることによって、シリカ以外の微粒子の再付着防止と表面平坦性維持をより一層図ることができる。このようにエッチング液及びpHの調整により、薬液中での基板・粒子のゼータ電位制御や、表面濡れ性の向上による搬送時の外気からの汚染防止により、基板表面への粒子付着を効果的に抑制することができる。
【0049】
なお、本発明の具体的な実施例として、ZnO(0001)基板を用いた表面処理方法を例に説明したが、他のZnO系化合物の基板についても適用可能である。例えば、Mg
xZn
1-xO(0≦x≦0.6)基板についても、ZnO基板と同様に、EDTAとEDAとの混合溶液によるエッチングにより、加工変質層が除去され、非常に平坦な表面を実現できる。また、その後のバッファードフッ酸(BHF)によるエッチングにより、平坦な表面を維持しつつ、表面Si濃度を0(ゼロ)とすることが可能となる。2.成長層評価
2.1 RHEED
図14(a)、(b)にそれぞれ実施例2及び比較例4のZnO基板のサーマルクリーニング後のRHEEDパターンを示す。実施例2のZnO基板は、(1×1)ストリークパターンを示し、そのロッド間隔はZnOの原子間距離に対応しているのに対し、比較例4のZnO基板は、(1×3)の再構築ストリークパターンを示し、そのロッド間隔はZnOより約6%短く(ZnOの内側に現れ)、ZnOより原子間隔の広い化合物が形成されることが示唆された。また比較例5及び6については、実施例2と同様に(1×1)ストリークパターンを示した。
【0050】
2.2 XRD
図15A−15Hにホモエピタキシャルサンプルの2θ/ωスキャンによるX線回折(XRD)パターンを示す。より詳細には、
図15A、
図15Bは比較例4(CMP4)の、
図15C、
図15Dは比較例5(CMP5)の、
図15E、
図15Fは比較例6(CMP6)の、
図15G、
図15Hは実施例2(EMB2)の結果を示す。また、
図15A、15C、15E、15GはZnO(0002)回折面の、
図15B、15D、15F、15HはZnO(0004)回折面の結果である。
【0051】
比較例4では、ホモエピタキシャル成長にも関わらず(0002)回折面における2θ/ωスキャンにおいて、エピ層のピークが基板より高角度側に現れ、ピーク分離が見られた(
図15A)。これはエピ層のc軸長が基板より短くなっていることを示している。この時の格子ミスマッチ量は、-0.045%である。また回折面を(0004)面にすることで、同じ格子ミスマッチ量における角度差が大きくなるためピークの分解能を上げることができる。
図15Bに示すように、格子ミスマッチ量は、-0.043%と(0002)回折面の結果とほぼ同じ値を示した。
【0052】
比較例5では、(0002)回折面では明瞭なピーク分離は観測されなかった(
図15C)が、
図15Dに示すように、(0004)回折面ではピーク分離が観測され、格子ミスマッチ量が-0.023%と算出された。
【0053】
比較例6においても、比較例2と同様に(0002)回折面では明瞭なピーク分離は観測されなかった(
図15E)が、
図15Fに示すように、(0004)回折面ではピーク分離が観測され、格子ミスマッチ量が-0.023%と算出された。
【0054】
実施例2では、(0002)回折面及び(0004)回折面のいずれもピーク分離は観測されず、基板とエピ層に格子ミスマッチが存在しないことが示唆された。
【0055】
以下の表1にホモエピタキシャルサンプルのωスキャンによるX線回折ロッキングカーブ(XRC)の半値幅(FWHM:full width at half maximum)の結果を示す。なお、(0002)回折面での半値幅はらせん転位に、(10-10)回折面での半値幅は刃状転位に関係しており、転位密度が増加すると半値幅も広がる。
【0056】
【表1】
【0057】
比較例4では、 (0002)回折面におけるωスキャンのXRC半値幅が62.3 arcsecと基板(25 arcsec)に比べ若干広がっており、(10-10)回折面におけるωスキャンのXRC半値幅が138 arcsecと基板(24 arcsec)に比べて非常にブロードとなることが観測された。エピ層中にらせん転位及び刃状転位の生成が示唆され、特に刃状転位の生成が多いものと思われる。比較例5では、(0002)回折面及び(10-10)回折面におけるωスキャンのXRC半値幅がそれぞれ39.4 arcsec、92.6 arcsecであった。比較例6においては、(0002)回折面及び(10-10)回折面におけるωスキャンのXRC半値幅が50.2 arcsec、181 arcsecであった。
【0058】
一方、実施例2では、(0002)回折面及び(10-10)回折面におけるωスキャンのXRC半値幅がそれぞれ24.8 arcsec、24.5 arcsecと、基板の半値幅とほぼ同じ値であり、ZnO基板の結晶性が維持されたホモエピタキシャル層が得られていることがわかった。
【0059】
図16は、実施例2及び比較例4〜6によるホモエピタキシャル成長層の格子ミスマッチ量とXRC半値幅の関係をまとめたものを示す。比較例1の処理(すなわち、EDTA:EDA混合溶液によるエッチングを行わなかった場合)によるZnO基板を用いた成長層(比較例4)では、格子ミスマッチ量が-0.045% 〜 -0.167%を示した。また、比較例2の処理(すなわち、EDTA:EDA混合溶液によるエッチングを行った場合)によるZnO基板を用いた成長層(比較例5)では、格子ミスマッチ量が-0.015% 〜 -0.037%を示した。同様に、EDTA:EDA混合溶液によるエッチングを行った比較例3の処理によるZnO基板を用いた成長層(比較例6)の場合も、比較例5と同様の結果を示した。実施例1の処理によるZnO基板を用いた成長層(実施例2)では格子ミスマッチがなく、格子ミスマッチ量が大きくなるに従い、XRC半値幅、特に(10-10)回折面の半値幅が増大することがわかった。これは格子ミスマッチが起きることにより、エピ層に刃状転位が生成されたことを示している。
【0060】
図17(a)は実施例2のホモエピタキシャル成長サンプルのAFM観察像及び断面TEM像を示し、
図17(b)は比較例4のホモエピタキシャル成長サンプルのAFM観察像(上段)及び断面TEM像(下段)を示す。AFM観察においては、両者とも表面にステップ&テラス構造を有する原子レベルで平坦な良好なモフォロジを示している。ステップ高さは、両者ともZnOのc軸長に当たる0.52 nmであった。また表面粗さRMS値は、それぞれ0.16 nm、0.29 nmであった。一方、断面TEM観察によれば、比較例4ではエピ/基板界面が明確であり、界面に多数の欠陥が存在し、またエピ層中にも表面に向かって刃状転位と思われる貫通転位も多数観測される。しかしながら、実施例2では、エピ/基板界面にもエピ層中にも、ほとんど欠陥が観測されなかった。これらの結果は、
図15,表1で示したX線回折の結果と一致する。ここでAFM及びTEM分析で使用した試料のXRDの結果は、比較例4では格子ミスマッチ量が-0.117%で、(0002)及び(10-10)XRC半値幅はそれぞれ67.8 arcsec及び585 arcsecであった。一方、実施例2では、格子ミスマッチは無く、(0002)及び(10-10)XRC半値幅は24.8 arcsec及び24.5 arcsecであった。
【0061】
このようにエピ/基板界面及びエピ層中に生成した転位は、ダングリングボンドの増加や不純物の偏析により、電気的特性(特に、p型化)に悪影響を及ぼす。またデバイスを形成した際のリーク源となるなど、その特性を悪化させるため、できる限り減らす必要がある。
【0062】
ここで、そもそもホモエピタキシャル成長をしているにも関わらず、なぜ格子ミスマッチは生じるのかを考察してみる。それは以下のように考えられる。
【0063】
図18(a)〜(d)は、それぞれ実施例2及び比較例4,5,6のホモエピタキシャル成長したサンプルのSIMSデプスプロファイル(深さプロファイル)を示す。前述のように、基板上にZnOバッファ層(層厚:30nm)成長した後、アンドープZnO層を約1000nmの層厚で成長した。従って、SIMSデプスプロファイルにおいて、深さが1μm程度までがエピ層に対応し、従って、その深さ位置にエピ層と基板との界面が存在する。なお、用いたn型ZnO基板中には、Li(リチウム),Si,Al(アルミニウム)などの不純物が元々含まれている。
【0064】
図18(b)に示すように、比較例4の成長層(CMP4)では、エピ/基板界面に5.2×10
20 cm
-3ものSiのパイルアップが見られ、界面近傍のエピ層中に3×10
18 cm
-3程度のSiが、またエピ層中にも1×10
17 cm
-3程度のSiが混入しており、界面から拡散していることがわかる。またAl,Liについても界面にパイルアップが見られ、AlはSiと同様、エピ層中への拡散が見られた。界面での結晶性悪化により拡散が起こっていると考えられる。
【0065】
図18(c)に示すように、比較例5の成長層(CMP5)では、エピ/基板界面に4.7×10
19 cm
-3のSiのパイルアップが見られた。エピ層中のSi濃度はバックグラウンドレベルであった。またAl,Liについては界面でのパイルアップも、エピ層への拡散も見られなかった。
【0066】
図18(d)に示すように、比較例6の成長層(CMP6)では、エピ/基板界面に4.3×10
19 cm
-3のSiのパイルアップが見られた。エピ層中のSi濃度はバックグラウンドレベルであった。またAl,Liについては界面でのパイルアップも、エピ層への拡散も見られなかった。
【0067】
一方、
図18(a)に示すように、実施例2の成長層(EMB2)では、エピ/基板界面にSiのパイルアップは全く観測されず、エピ層中においてもSi濃度はバックグラウンドレベルであった。またAl,Liについても、界面におけるパイルアップも、エピ層への拡散も見られなかった。
【0068】
このように、ZnO基板表面にシリカを残したままの状態で、エピタキシャル成長を行なうと、エピ/基板界面にSiが残留してしまう。もともとシリカ残渣はアモルファスであるが、ZnOと下記のように反応し、ZnSiO
3あるいはZn
2SiO
4といった結晶を形成する。
【0069】
【数1】
成長前に実施するZnO基板のサーマルクリーニングにより、基板表面に付着している有機物(炭化水素、カルボン酸)、アミン類、水分、Zn(OH)
2など金属水酸化物などの揮発性物質は基板から分解脱離するが、基板表面にSiO
2などが残留していると、上記反応によりZnSiO
3やZn
2SiO
4のような亜鉛シリケートを基板表面に形成される。基板表面に残留しているシリカが多い場合(比較例4)は、原子間隔の広い亜鉛シリケートの表面被覆率が大きくなり、RHEEDパターンでロッド間隔が小さくなる。この際ZnO基板と表面に形成された亜鉛シリケートはエピタキシャル関係にある。一旦ZnOより原子間隔の広い亜鉛シリケートが形成された表面にZnO膜をエピタキシャル成長させると、エピ層は横方向に引っ張られ、成長方向であるc軸方向が本来のZnOの格子間隔より縮む。その結果が、
図15のX線回折の2θ−ωスキャンで見られたように、エピ層のX線回折ピークがZnO基板の高角側に現れ(c軸長が、本来のZnOより縮んだ)、格子ミスマッチが生じた。格子ミスマッチ量は、ZnO基板に残留していたシリカ残渣量に比例、言い換えればZnO基板表面に形成された亜鉛シリケートの被覆率に比例しているものと考えられる。格子ミスマッチ量が増加するに従い、刃状転位が生成され、
図16、表1に示したようにX線ロッキングカーブの半値幅が増加したと考えられる。実際、
図17の断面TEM像により、界面及びエピ層中の転位が観察された。
【0070】
以上詳細に説明したように、本発明によれば、EDTA:EDA混合溶液によるエッチングにより、エッチピットが形成されることなく、加工変質層の除去が可能であり、且つステップ&テラス構造を有する原子レベルで平坦な表面が得られることがわかった。また、加工変質層を除去した後の、バッファードフッ酸によるエッチングにより、エッチピットが形成されることなく、表面平坦性を維持しながら、表面再付着シリカを溶解、除去できることがわかった。また、上記したようにエッチング液及びpHの選択により、薬液中での基板・粒子のゼータ電位制御や、表面濡れ性の向上による搬送時の外気からの汚染防止により、基板表面への粒子付着を効果的に抑制することができる。
【0071】
また、ZnO基板表面から、シリカ及びシリケートを除去することにより、エピ/基板界面での欠陥生成をなくし、高品質なエピタキシャル成長を行うことが可能となった。従って、エピ層への転位密度の低減により、デバイス特性の悪化を抑制することが可能となる。
【0072】
なお、上記においては、ZnO基板上にZnOをホモエピタキシャル成長した場合について説明したが、Mg
xZn
1-xO(0≦x≦0.6)半導体層等のZnO系化合物半導体層を積層する場合にも適用できる。例えば、
図19に模式的に示すように、ZnO単結晶基板10の+c面上にエピタキシャル層としてn型Mg
xZn
1-xO(0≦x≦0.6)半導体層12、ZnO系化合物半導体活性層13、p型Mg
xZn
1-xO(0≦x≦0.6)半導体層14からなる発光デバイス層を形成した成長層付き基板15に適用することができる。また、当該成長層付き基板15を用いて発光素子、例えば、LED(発光ダイオード)を形成することで、優れた特性の発光素子を実現できる。この場合においても、エピ/基板界面においてSi、Al,Liのパイルアップがないこと、例えば、SIMSで深さ方向分析を行った場合に、Si濃度が1×10
17 cm
-3以下であることが好ましい。
【0073】
従って、半導体素子等への適用においても、本発明による処理を行った基板を用いることにより、不純物のパイルアップや結晶欠陥の無い、高品質なエピタキシャル成長を行うことが可能である。従って、優れた特性の半導体素子を提供することができる。