(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、このようなガスセンサの検出素子では、使用等による劣化で素子インピーダンス(内部抵抗)が徐々に増加する。このため、劣化した検出素子では、劣化前に比して、同一温度とした場合の素子インピーダンス(内部抵抗)が相対的に高くなる。従って、正確に温度を検知することが難しい。また、上述のヒータへのフィードバック制御を行うと、素子インピーダンスを目標インピーダンスに近づけるべく、素子インピーダンスを下げる方向、即ち、素子温度を上げる方向に制御がなされる。このため、素子温度が素子インピーダンスの増加に伴って上昇しこの温度上昇により、検出素子の劣化が促進されるなどの問題があった。
【0005】
この問題を解決するため、例えば、特許文献1には、検出素子の素子インピーダンスが増加した劣化状態を判定する劣化判定手段と、検出素子が劣化状態であると判定されたときに目標インピーダンスを増加させる目標インピーダンス変更手段とを備えた酸素濃度検出装置が開示されている。そして、具体的な劣化判定手段として、ヒータに供給されるヒータ供給電力と所定の判定値とを比較するヒータ供給電力比較手段が示されている。
しかしながら、ガスセンサの構成上、ヒータが必須となるうえに、ヒータ供給電力の変化は、検出素子の劣化による素子インピーダンスの増加のみで決まるものではなく、様々な外乱の影響を受けやすいため、検出素子の劣化の程度を適切に検知することが難しかった。
【0006】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであって、ガスセンサの検出素子の劣化の程度を適切に検知することができるガスセンサ処理装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
その一態様は、
ジルコニアを主体とした酸素イオン伝導性の固体電解質体からなり、一対の電極を有し、特定ガスのガス濃度を検出する検出素子を有するガスセンサの出力を処理するガスセンサ処理装置であって、上記検出素子の上記電極間に生じている検出素子電圧を、シフト前電圧から、これと異なるシフト後電圧までシフトさせる電圧シフト手段と、上記電圧シフト手段による電圧シフト期間の終了に続いて、上記検出素子の内部抵抗及び内部容量による自己放電により、上記検出素子電圧を、上記シフト後電圧から上記シフト前電圧に戻す回復手段と、上記回復手段による回復期間に生じる電圧変化に基づいて、上記検出素子の劣化の程度を示す劣化指標を検知する劣化指標検知手段と、を備えるガスセンサ処理装置である。
【0008】
固体電解質体からなる検出素子は、概略400℃以上で、酸素イオン伝導性を示す。この状態の検出素子を等価回路で表すと、その電極間に、酸素など特定ガスのガス濃度に応じて起電力を発生する電池(濃淡電池)と、素子温度の温度上昇に応じてその大きさが小さくなる特性を持つ内部インピーダンスが直列接続された回路を有していると見なすことができる。さらに、この内部インピーダンスは、純抵抗の内部抵抗のみならず、これに内部容量が並列接続されていると見なすことができる。
【0009】
そこで、このガスセンサ処理装置では、電圧シフト手段によって、検出素子の電極間に生じている検出素子電圧を、シフト前電圧からシフト後電圧に電圧をシフトさせる。例えば、起電力を生じている検出素子の電極間に、これよりも大きい電圧を外部から印加するなどして、検出素子の電極間に生じている検出素子電圧を強制的に変化させる。すると、電圧シフトで上乗せされた電圧により、検出素子の内部抵抗に電流が流れて電圧降下が生じる。このとき、検出素子の起電力が一定であるとすれば、電圧シフトで上乗せされた電圧が、検出素子の内部抵抗による電圧降下分に相当する。そして、この電圧シフトを行っている電圧シフト期間において、上乗せされた電圧によって、内部抵抗に電流が流れると共に、検出素子がなす内部容量に電荷が蓄積される。
【0010】
さらに、電圧シフト期間の終了に続いて、検出素子電圧をシフト後電圧からシフト前電圧に戻す。そして、劣化指標検知手段では、検出素子電圧がシフト後電圧からシフト前電圧に向かって戻る回復期間に生じる電圧変化に基づいて、検出素子の劣化の程度を示す劣化指標を検知する。回復期間では、電圧シフトで上乗せされた電圧により検出素子がなす内部容量に蓄積された電荷は、検出素子の内部抵抗を通じて自己放電される。これにより、検出素子の電極間には、おおむね検出素子の内部抵抗及び内部容量で決定される時定数によって指数関数的に減衰して、シフト後電圧からシフト前電圧に戻る電圧変化を生じる。
【0011】
ところで、検出素子が劣化すると、検出素子の素子インピーダンスが増加傾向となり、同一温度における内部抵抗が増加すると共に、内部容量も変化する。このため、劣化の進行程度により、上述の指数関数的な電圧変化のしかた(傾向)に差(違い)が生じる。また、この電圧変化は、外乱の影響を受け難く、検出素子の素子インピーダンスによりほぼ定まる。従って、この電圧変化に基づいて、劣化指標を検知するこのガスセンサ処理装置では、ガスセンサの検出素子の劣化の程度を適切に検知することができる。換言すると、本発明では、内部抵抗と内部容量の影響によって、自己放電時の電荷の放電の様子(上述の電圧変化)に違いが生じるという特性を利用して、劣化判定を行う。
【0012】
なお、検出素子電圧を、シフト前電圧から、これと異なるシフト後電圧にシフトさせる手法としては、例えば、検出素子の電極間に、トランジスタやFET等のスイッチング素子を介して定電圧を印加する手法や、スイッチング素子と検出素子との間にさらに外部抵抗を介して、抵抗分圧の形態で定電圧を印加する手法、また、定電流源により検出素子に定電流を流して、内部抵抗に電圧降下を生じさせる手法などが挙げられる。
また、検出素子の自己放電により、検出素子電圧をシフト後電圧からシフト前電圧に戻す手法としては、例えば、検出素子の電極間を通じて流れる外部電流あるいは外部から印加される外部電圧を無くす(遮断する)手法が挙げられる。
【0013】
また、回復期間に生じる電圧変化に基づいて、検出素子の劣化の程度を示す劣化指標を検知する手法としては、例えば、電圧シフト期間内の所定のタイミングにおける検出素子電圧と、電圧シフト期間終了後の回復期間内の所定のタイミングにおける検出素子電圧とをそれぞれ計測し、これらの差を、劣化指標として検知する手法が挙げられる。また、回復期間内の2つの所定のタイミングにおける検出素子電圧をそれぞれ計測し、これらの差を、劣化指標として検知する手法も挙げられる。さらに、回復期間内に検出素子の電極間に生じる検出素子電圧を逐次計測し、その変化曲線から、この曲線に近似する指数関数の時定数を劣化指標として検知する手法も挙げられる。劣化指標の検知にあたっては、検出素子の内部抵抗が予め定められた値であるときに行うなど、検知時の条件を揃えるのが好ましい。
【0014】
さらに、上述のガスセンサ処理装置であって、前記ガスセンサは、前記検出素子を加熱するヒータを有し、前記ガス濃度を検出する際の上記検出素子の内部抵抗である第1内部抵抗を検知する第1内部抵抗検知手段と、上記第1内部抵抗が目標抵抗値となるように、上記ヒータへの通電をフィードバック制御する第1ヒータ通電制御手段と、前記劣化指標検知手段により検知された前記劣化指標に応じて、上記目標抵抗値を補正する目標抵抗値補正手段と、を備えるガスセンサ処理装置とすると良い。
【0015】
このガスセンサ処理装置では、検出素子の劣化状態に応じて目標抵抗値を変化させて、ヒータへの通電を適切にフィードバック制御できるので、素子温度を適切な活性化温度に保つことができる。加えて、素子温度の上昇による劣化の促進を防止することができる。
【0016】
さらに、上述のガスセンサ処理装置であって、前記劣化指標検知手段により、前記劣化指標を検知するのに先立ち、前記検出素子の内部抵抗、及び、上記内部抵抗によって生じる内部抵抗分電圧のいずれかである抵抗指標を検知する抵抗指標検知手段を備え、前記劣化指標検知手段は、上記抵抗指標が、予め定めた検知許容値であるときに、前記劣化指標を検知するガスセンサ処理装置とすると良い。
【0017】
このガスセンサ処理装置では、抵抗指標が検知許容値となっている期間に劣化指標を検知する。これにより、劣化指標の検知にあたって、検知時の条件を揃えることができ、適切に劣化指標を検知することができる。
【0018】
さらに、上述のガスセンサ処理装置であって、前記ガスセンサは、前記検出素子を加熱するヒータを有し、前記抵抗指標検知手段により検知された前記抵抗指標が、前記検知許容値となるように、前記ヒータへの通電をフィードバック制御する第2ヒータ通電制御手段を備えるガスセンサ処理装置とすると良い。
【0019】
このガスセンサ処理装置では、抵抗指標が検知許容値となっているタイミングで、確実に劣化指標を検知することができる。
【0020】
さらに、上述のガスセンサ処理装置であって、前記劣化指標検知手段は、前記劣化指標として、前記電圧シフト期間内の第1検知タイミングにおける前記検出素子電圧である第1電圧と、上記電圧シフト期間終了後の前記回復期間内の第2検知タイミングにおける上記検出素子電圧である第2電圧との差である1−2電圧差を検知するガスセンサ処理装置とすると良い。
【0021】
このガスセンサ処理装置では、電圧シフト期間内の第1検知タイミングにおける第1電圧及び電圧シフト期間終了後の回復期間内の第2検知タイミングにおける第2電圧の2つの電圧を計測すれば良く、簡易に劣化指標としての1−2電圧差を得ることができる。
【0022】
なお、第1検知タイミングは、電圧シフト期間内の適宜のタイミングを選択すれば良い。好ましくは、電圧シフト期間のうちでも、検出素子電圧がシフト後電圧に近づく後期の期間内、さらに好ましくは、検出素子電圧がシフト後電圧となる電圧シフト期間の終期(終了時)のタイミングを選択すると良い。
また、第2検知タイミングは、回復期間内の適宜のタイミングを選択すれば良いが、好ましくは、回復期間のうちでも、検出素子電圧がシフト前電圧に収束するよりも早い段階を選択すると良い。さらに好ましくは、劣化の進行度合いの違いによって、検知される検出素子電圧の差異がなるべく大きくなるタイミングを選択すると良い。
【0023】
さらに、上述のガスセンサ処理装置であって、前記抵抗指標検知手段と、前記電圧シフト手段とは、前記検出素子の前記検出素子電圧を、前記シフト前電圧から前記シフト後電圧までシフトさせる回路を兼用してなるガスセンサ処理装置とすると良い。
【0024】
このガスセンサ処理装置では、抵抗指標検知手段と電圧シフト手段とで別々の回路を用意する必要がなく、安価且つコンパクトな処理装置とすることができる。
【0025】
さらに、上述のガスセンサ処理装置であって、前記劣化指標検知手段は、前記検出素子の内部抵抗が、前記ガス濃度を検出する際の上記内部抵抗である第1内部抵抗よりも大きい期間に、前記劣化指標を検知するガスセンサ処理装置とすると良い。
【0026】
特定ガスのガス濃度を検出する際には、検出素子は十分高温とされ活性化されて、その内部抵抗は、例えば、100Ω以下の低い値に制御される。このため、このような状態の検出素子について、劣化指標検知手段で劣化指標を検知しようとしても、回復期間に生じる電圧変化が小さく且つ変化が早いため、精度良く劣化指標を検知しにくい。
【0027】
これに対し、このガスセンサ処理装置によれば、回復期間に生じる検出素子電圧の電圧変化が大きく、緩やかになるので、劣化指標を適切に検知できる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しつつ説明する。
図1は、ガスセンサ処理装置である酸素センサ制御装置1の概略構成を示す図である。酸素センサ制御装置1は、図示しないエンジンを備える車両(図示しない)に搭載され、酸素センサ2と共に用いて、これを制御し、エンジンの排気ガス中の酸素濃度を検出する。
【0030】
この酸素センサ2は、ジルコニアを主体とした酸素イオン伝導体である固体電解質体に一対の電極3P,3Nを形成した検出素子3と、この検出素子3を加熱するヒータ4を有している。より具体的には、有底筒状をなした固体電解質体からなる検出素子3の外周面に形成した一方の電極3Nは排気ガスに晒され、内周面に形成した他方の電極3Pは基準ガス(大気)に晒されている。そして、検出素子3の有底筒状の内部空間には、棒状のヒータ4を内挿されて酸素センサ2が構成されている。この固体電解質体からなる検出素子3は、活性化状態となる600℃を越える活性化温度に、ヒータ4で加熱されることで、良好な酸素イオン伝導性を示し、これにより、酸素濃度の検出が可能となっている。そして、酸素センサ2は、酸素センサ制御装置1により、検出素子3が活性化温度内の一定温度を維持するように、ヒータ4への通電が制御される。
【0031】
ヒータ4は、タングステンあるいは白金を主体とした発熱抵抗体5と、この発熱抵抗体5に繋がる端子4P,4Nを有する。ヒータ4の一方の端子4Pは、バッテリ20の+極に接続されている。なお、このバッテリ20の−極は、車両のシャーシGNDである基準電位(以下、GNDという)に接続されている。さらに、ヒータ4のもう一方の端子4Nは、ヒータ制御回路13のうち、図示しない電流制限抵抗を介して、スイッチング素子であるNPN型のトランジスタTr1のコレクタ出力に接続されている。また、トランジスタTr1のエミッタは、GNDに接続されており、ベースは、マイクロプロセッサ10のPWM出力ポート18に接続されている。そして、ヒータ4は、このヒータ制御回路13によって、PWM制御による通電が行われ、これにより、検出素子3が加熱される。また、検出素子3を活性化温度内の一定温度に維持する際には、マイクロプロセッサ10によるPID制御またはPI制御で、PWM制御のデューティ比が決定される。なお、ヒータ制御回路13を構成するスイッチング素子は、トランジスタTr1に限らず、FET等を用いて構成しても良い。なお、バッテリ20からは、図示しない電源回路により、酸素センサ制御装置1で用いる+5V電源やマイクロプロセッサ10のVCC電源(図示しない)が生成されている。
【0032】
検出素子3は、内部抵抗Riを有しており、その抵抗値は、固体電解質体の温度上昇に応じて低下する特性を有する。そして、この内部抵抗Riと検出素子3の素子温度との間には、所定の相関関係があることが知られており、内部抵抗Riが目標抵抗値となるように制御することにより、素子温度を所定の温度に維持することが可能である。
【0033】
また、固体電解質体からなる検出素子3は、概略400℃以上で、酸素イオン伝導性を示し、電極3Nと電極3Pとの間の酸素濃度の違いにより、酸素濃淡電池となって、酸素濃度差に応じた起電力EVを発生する。このため、検出素子3の等価回路は、
図1に示すように、電極3P,3N間に、起電力EVを発生する電池(酸素濃淡電池)と内部インピーダンスとが直列接続された回路を有していると見なすことができる。なお、内部インピーダンスは、純抵抗の内部抵抗Riのみならず、これに内部容量Ciが並列接続されていると見なすことができる。
【0034】
ところで、前述の通り、検出素子3を構成する固体電解質体は、固体電解質体の温度上昇に応じて内部抵抗Riが低下する特性を有するが、非活性時のうち、固体電解質体の温度が低いときは、内部抵抗Riが高く、検出素子3の電極3P,3N間は、ほぼ絶縁状態となる。そして、固体電解質体の温度が上昇するに伴い内部抵抗Riは低下し、検出素子3が活性化した場合(活性時)には、内部抵抗Riは低い値を示す。また、固体電解質体の温度上昇に伴って、検出素子3が、電極3P,3N間に酸素濃度差に応じた起電力EVを示すようになる。活性時における起電力EVは、素子温度により異なるが、具体的には、排気ガスの空燃比がリッチ側にある場合には約900mV前後を示し、リーン側にある場合には約50mV前後を示す。そして、リッチ側とリーン側の間の理論空燃比となるλ=1付近を境に、起電力EVは、急峻に変化する。
【0035】
酸素センサ制御装置1(
図1参照)の説明に戻る。抵抗器R1と抵抗器R2との直列回路で構成されて、+5V電源をこの抵抗器R1と抵抗器R2とで分圧するバイアス回路14は、本実施形態では、具体的には、R1=100kΩ,R2=10kΩとされており、+5V電源を抵抗器R1と抵抗器R2とで分圧したP点の電位が約450mVとなるように設定されている。このP点の電位は、上述した、リッチ側の約900mVとリーン側の約50mVのおおよそ中間の電圧値となるように選択したものである。そして、このP点の電位が、電流制限抵抗である抵抗器R3(具体的には、R3=10kΩ)を介して、Q点で、検出素子3の電極3Pに接続されている。また、検出素子3のもう一方の電極3Nは、GNDに接続されている。
【0036】
さらにQ点は、抵抗器R4(具体的には、R4=8.25kΩ)及びスイッチング素子であるPNP型のトランジスタTr2を介して、+5V電源に接続されている。なお、スイッチング素子は、トランジスタTr2に限らず、FET等を用いても良い。一方、Q点は、抵抗器R5とコンデンサC1からなるノイズ除去用のローパスフィルタ回路15(具体的には、R5=10kΩ,C1=0.033μF)にも接続されており、このローパスフィルタ回路15の出力であるS点が、出力検出回路12に接続されている。出力検出回路12は、図示しないサンプルホールド回路を内蔵し、その出力がマイクロプロセッサ10のA/D入力ポート17に接続されている。
【0037】
また、上述のトランジスタTr2は、エミッタが+5Vに接続され、コレクタが抵抗器R4に接続されている。そして、トランジスタTr2のベースには、ベース−エミッタ間抵抗の抵抗器R7とベース入力抵抗の抵抗器R6が接続されており、これら抵抗器R6,R7、トランジスタTr2及び抵抗器R4で、電圧シフト回路19を構成している。また、この電圧シフト回路19のうち、抵抗器R6の一方端であるT点には、パルス信号出力回路11が接続されている。パルス信号出力回路11は、マイクロプロセッサ10のI/O出力ポート16に接続されており、このI/O出力ポート16の出力が、パルス信号出力回路11を通して、T点にパルス信号SPとして出力される。パルス信号SPは、通常は、電圧シフト回路19のトランジスタTr2をオフするため、トランジスタTr2のエミッタ電位と同じ+5Vとされており、トランジスタTr2をオンとする期間だけ一時的に0Vに下がって、再び+5Vに戻る負論理の矩形状パルス電圧である。そして、このパルス信号SPを出力するパルス信号出力回路11と電圧シフト回路19により、後述する電圧シフトが行われる。
【0038】
なお、パルス信号出力回路11は、具体的には、マイクロプロセッサ10のI/O出力ポート16の出力を反転または非反転でバッファすると共に、出力電圧をマイクロプロセッサ10のVCC電源から+5Vにレベル変換するための回路がレベル変換用のバッファICやトランジスタなどで構成されている。本実施形態では、I/O出力ポート16の出力がLレベルのとき、パルス信号出力回路11の出力のT点が+5Vとなり、I/O出力ポート16の出力がHレベルのとき、パルス信号出力回路11の出力のT点が0Vとなる反転型のバッファ回路とされている。
【0039】
これらの回路の動作について、まず、電圧シフト回路19のトランジスタTr2がオフの場合について考える。トランジスタTr2がオフのときは、抵抗器R4には電流が流れない。そして、検出素子3は、非活性時のうち、固体電解質体の温度が低いときには、起電力EVが発生しない(EV=0V)。また、その内部抵抗Riは、絶縁状態に近く、抵抗器R2の10kΩよりも十分に大きい。このため、検出素子3には電流が流れず、電流制限抵抗R3にも電流が流れないので、固体電解質体の温度が低いときには、P点の電位は、抵抗器R1と抵抗器R2との分圧による約450mVとなる。そして、Q点及びS点もP点と同電位となり、出力検出回路12には、約450mVが入力される。一方、固体電解質体の温度が十分高くなった活性時には、例えば、検出素子3の素子温度が約700℃のときには、検出素子3の内部抵抗Riは、100Ω以下となり、抵抗器R2や抵抗器R3に比べて十分に小さい値となる。この活性時においては、検出素子3に起電力EVも発生する(リッチ側で約900mV前後、リーン側で約50mV前後)が、内部抵抗Riが上述のように十分に小さいので、Q点の電位は、抵抗器R2や抵抗器R3を流れる電流にほとんど影響を受けず、ほぼ起電力EVが示す値となる。そして、このQ点の電位が、ローパスフィルタ回路15を通して、S点で出力検出回路12に入力されており、出力検出回路12で検出素子3の起電力EVを検出することが可能となっている。
【0040】
次に、電圧シフト回路19のトランジスタTr2がオンの場合について考える。トランジスタTr2がオフしている間は、前述の通り、抵抗器R4に電流が流れない。一方、トランジスタTr2がオンすると、抵抗器R4に電流Iが流れる。そして、検出素子3が活性時においては、検出素子3の内部抵抗Riは、抵抗器R3や抵抗器R2に比べて十分に小さいので、電流Iのほとんどは、検出素子3に流れる。従って、次述する内部容量Ciに流れる電流が収束してほとんど無くなった状態では、電流Iの大きさは、+5Vから検出素子3の起電力EVとトランジスタTr2のエミッタ−コレクタ間電圧(≒0V)を引いた値を、抵抗器R4と検出素子3の内部抵抗Riとの和(直列合成抵抗)で除した値となる(I≒(5−EV)/(R4+Ri))。トランジスタTr2がオフの間もオンの間も、電極3P,3N間の酸素濃度差に変化がなく、起電力EVが一定であるとすると、トランジスタTr2がオンの間の検出素子電圧VEは、オフの間の検出素子電圧VEに対して、内部抵抗Riに生じる電圧降下Ri×Iだけ上乗せさることとなる。即ち、トランジスタTr2がオンすることにより、検出素子電圧VEが、オフの時点でのシフト前電圧VE1(=EV)からシフト後電圧VE2(=EV+Ri×I)までシフトされる、電圧シフトを生じさせることができる。
【0041】
これによって生じる、シフト後電圧VE2とシフト前電圧VE1との差分(VE2−VE1)をシフト電圧VSとする。すると、シフト前電圧VE1は、トランジスタTr2がオフのため、検出素子3の発生する起電力EVとなるので、シフト電圧VSは、内部抵抗Riに電流が流れることによって生じる電圧降下に相当する内部抵抗分電圧Viとなる。この内部抵抗分電圧Viは、Vi=Ri×(5−EV)/(R4+Ri)として与えられる。従って、出力検出回路12で、シフト前電圧VE1(=EV)及びシフト後電圧VE2(=VE1+VS=EV+Vi)をそれぞれ検知することで、シフト電圧VS、即ち、内部抵抗分電圧Viの大きさが分かる。またさらに、抵抗器R4の大きさとの比から、内部抵抗Riの大きさを求めることができる。
【0042】
ところで、トランジスタTr2をオンして、シフト前電圧VE1からシフト後電圧VE2への電圧シフトを行っている期間を電圧シフト期間TSとする(
図2参照)と、この電圧シフト期間TSには、内部抵抗Riに電流が流れると共に、検出素子3がなす内部容量Ciに、時定数Ci・Riに従って、電荷が蓄積される。
一方、その後トランジスタTr2をオフさせて、電圧シフト期間TSを終了させる。すると、検出素子3(その電極3P,3N間)には、外部から電流が流れ込まなくなると共に、外部電圧が印加されなくなる。すると、内部容量Ciに蓄積された電荷が、内部抵抗Riを通じて自己放電される。これにより、検出素子電圧VEは、回復期間TKに亘り、おおむね検出素子3の内部抵抗Ri及び内部容量Ciで決定される時定数によって指数関数的に減衰して、シフト後電圧VE2からシフト前電圧VE1に戻る電圧変化を生じる。
【0043】
ところで、検出素子3が劣化すると、検出素子3の素子インピーダンスが増加傾向となって、同一温度における検出素子の内部抵抗Riが増加すると共に、内部容量Ciも変化する。このため、劣化の進行程度により、上述の指数関数的な電圧変化のしかた(傾向)に差(違い)が生じる。また、この電圧変化は、外乱の影響を受け難く、検出素子3の素子インピーダンス(内部抵抗Ri及び内部容量Ci)によりほぼ定まる。従って、この電圧変化に基づいて、検出素子3の劣化の程度を示す劣化指標ID(後述する)を検知することができる。
【0044】
なお、前述の通り、酸素濃度(特定ガスのガス濃度)を検出する際には、検出素子3を酸素濃淡電池として十分機能させるため、600℃を越える活性化温度(例えば、上述の約700℃)にまで素子温度を上げて使用する。検出素子3の素子温度が約700℃のときは、検出素子3の内部抵抗Riは、100Ω以下の小さな値となる。しかるに、本実施形態では、抵抗器R4は、これより遥かに大きいR4=8.25kΩであるので、トランジスタTr2をオンした場合に、内部抵抗Riによって生じる内部抵抗分電圧Vi(シフト電圧VS)も小さな値となる。このため、回復期間TKに生じる電圧変化も小さく、上述の劣化指標IDを精度良く検知しにくい。
【0045】
しかしながら、酸素濃度の検出時には、検出素子3の素子温度を高く(例えば700℃)保つ必要があるが、劣化指標IDを検知する場合は、素子温度をこれほど高く保つ必要は無い。検出素子3を構成する固体電解質体は、400℃程度で酸素イオン伝導性を示しはじめる。また、同時に検出素子3の内部抵抗Riも、絶縁状態に比べて十分低い値を示す一方、上述の活性化状態(例えば700℃)に比して十分高い値となる。例えば、本実施形態では、素子温度が400℃のときの検出素子3の内部抵抗Riは、約2560Ωとなり、700℃の場合の数10倍の大きさとなり、抵抗器R4の1/3程度の大きさとなる。従って、この状態で、劣化指標IDを検知すれば、内部抵抗Riに比例するシフト電圧VSも大きくでき、回復期間TKに生じる電圧変化も大きくできる。
【0046】
そこで、劣化指標IDを検知するに当たり、本実施形態では、検出素子の内部抵抗Riが、特定ガスのガス濃度を検出する際(特定ガスのガス濃度を検出可能な期間)の内部抵抗Ri(第1内部抵抗Ri1)よりも大きい状態で検知する。具体的には、素子温度が約400℃で、内部抵抗Riが2560Ωのときに劣化指標IDを検知するようにする。更に具体的には、車両の運転を終了し(従って、検出素子3が活性化状態とされる酸素センサ2による酸素濃度の検知を終了し)、エンジンの停止と共に、酸素センサ2のヒータ4への通電を停止し、10分間の待ち時間を設けて、検出素子3が冷却するのを待つ。その後、内部抵抗Riが2560Ωとなるように目標抵抗値を定めて、ヒータ4の通電制御を再度行い、内部抵抗Riを2560Ωとしてから、劣化指標IDを検知する。
【0047】
図2に、本実施形態の酸素センサ制御装置1により、劣化指標IDを検知するにあたり、検出素子3について電圧シフトをさせたときの、電圧シフト期間TS及び回復期間TKにおける、検出素子電圧VEの変化波形を示す。なお、劣化指標IDの検知にあたり、検出素子3の内部抵抗Riが2560Ωとなるように、ヒータ4を通電制御している。
この
図2においては、電圧をシフトさせる以前(時刻t=0以前)には、電圧シフト回路19のトランジスタTr2がオフとされており、検出素子電圧VEは、1.02Vになっている。この検出素子電圧VEは、素子温度約400℃のときの検出素子3の起電力EVを示している。これをシフト前電圧VE1(=EV)とする。
【0048】
その後、時刻t=0で、電圧シフト回路19のトランジスタTr2をオンさせ、電圧シフトを開始する(電圧シフト期間TSの開始)と、検出素子3に電流が流れて、検出素子3の内部抵抗Riに電圧降下を生じると共に、内部容量Ciに電荷を蓄積しつつ、検出素子電圧VEが立ち上がる。本実施形態では、電圧シフト期間TSは3msecとした。この電圧シフト期間TSのうち、その終期(終了時)である第1検知タイミングt1(時刻t=t1)には、検出素子電圧VEは、ほぼ平衡状態に近づいて、シフト後電圧VE2となる。そこで、この第1検知タイミングt1で、検出素子電圧VEを検知して、これを第1電圧V1(=シフト後電圧VE2)とする。
【0049】
内部抵抗Riが一定値(本実施形態では、Ri=2560Ω)となるように制御されている条件の下で、電圧シフト期間TS(本実施形態では3msec)を時定数Ci・Riよりも十分長くすれば(例えば、3倍以上)、シフト後電圧VE2(第1電圧V1)は、内部抵抗Riで定まる値に収束し、劣化の程度によらず、ほぼ同じ値となる。また、時刻t=t1では、シフト後電圧VE2とシフト前電圧VE1との差分(VE2−VE1)であるシフト電圧VSが、内部抵抗Riによって生じる内部抵抗分電圧Viとなり、シフト後電圧VE2=起電力EV+内部抵抗分電圧Vi(シフト電圧VS)となる。
【0050】
トランジスタTr2をオフさせ、電圧シフト期間TSを終了させると、これに続いて、検出素子電圧VEを、シフト後電圧VE2からシフト前電圧VE1に戻す回復期間TKとなる。この回復期間TKには、トランジスタTr2がオフとなっているので、
図1から容易に理解できるように、シフト電圧VSにより内部容量Ciに蓄積された電荷は、内部抵抗Riを通じて自己放電される。これにより、検出素子3の電極間3P,3Nには、おおむね検出素子3の内部抵抗Ri及び内部容量Ciで決定される時定数によって指数関数的に減衰して、シフト後電圧VE2からシフト前電圧VE1に戻る電圧変化を生じる(
図2参照)。本実施形態では、この回復期間TKのうち、電圧シフト期間TSの終了から3msec後である第2検知タイミングt2(時刻t=t2)で、検出素子電圧VEを検知して、これを第2電圧V2とする。
【0051】
前述したように、検出素子3の内部抵抗Riが2560Ωとなるように制御されているので、シフト後電圧VE2(第1電圧V1)は、劣化の程度によらずほぼ同じ値となる。回復期間TKに生じる電圧変化は、劣化の程度により異なり、劣化が進行するほど電圧がゆっくり減衰して、第2電圧V2は大きな値となる。即ち、第1電圧V1と第2電圧V2との差である1−2電圧差V1−2(=V1−V2)は、劣化の程度により異なり、劣化が進行するほど小さな値となる。従って、検出素子3の劣化の程度を示す劣化指標IDとして、この1−2電圧差V1−2を用いることができる。
【0052】
なお、本実施形態では、内部抵抗Riが2560Ω(素子温度は約400℃)のときの、劣化指標IDである1−2電圧差V1−2を検知するようにした。しかし、劣化指標ID(1−2電圧差V1−2)を検知する際の内部抵抗Riの値は、検出素子3の劣化の程度の違いが、劣化指標ID(1−2電圧差V1−2)の違いとして判別可能な範囲で、適宜決めれば良い。
【0053】
次いで、本実施形態に係る酸素センサ制御装置1の制御を、特にそのマイクロプロセッサ10の動作を中心に、
図3のフローチャートを参照して説明する。
図3に示す制御プログラムは、マイクロプロセッサ10が実行するプログラムの1つとして、ヒータ4の通電制御のためのPWM出力ポート18の出力更新タイミング毎に(従って、一定周期毎に)繰り返し呼び出される。また、必要な初期設定は、このプログラムが呼び出される前に別途実行されており、I/O出力ポート16の出力はLレベルとされている。これにより、パルス信号出力回路11の出力のT点は+5Vとなっており、トランジスタTr2はオフしている。
【0054】
先ず、ステップS1では、エンジンが停止しているか否かを判断する。そして、エンジンが停止していない場合(No、即ち、エンジンの運転中)には、ステップS2に進む。これ以降は、酸素濃度を検出する際(酸素濃度を検出可能な期間)の検出素子3の内部抵抗Riである第1内部抵抗Ri1の検知、ヒータ通電制御のPWMデューティ出力及び酸素濃度検出を行う。先ず、ステップS2では、第1内部抵抗Ri1を検知する。
【0055】
次いで、ステップS3では、先回のエンジン運転後に、後述する劣化検知処理ルーチンにより、劣化指標IDとして検知され、不揮発性メモリ(図示しない)に記憶されていた1−2電圧差V1−2(
図6参照:ステップS1078)が読み出される。
【0056】
次いで、ステップS4では、1−2電圧差V1−2(劣化指標ID)の値に応じて、目標抵抗値RTを補正して補正後目標抵抗値RThを得る。検出素子3の素子温度を700℃一定に制御するため、補正後目標抵抗値RThは、1−2電圧差V1−2の値が小さい(劣化が進行している)ほど、大きな値に補正される。これは、検出素子3の劣化が進行するほど、同一温度での第1内部抵抗Ri1が大きくなるためであり、素子温度を一定に制御するためには、この第1内部抵抗Ri1の増加に合わせて、補正後目標抵抗値RThを大きくする必要がある。
【0057】
次いで、ステップS5では、補正された補正後目標抵抗値RThと第1内部抵抗Ri1とを用いて、第1内部抵抗Ri1が補正後目標抵抗値RThとなるように、ヒータ4を通電制御する。具体的には、PID制御またはPI制御によりヒータ通電制御のPWMデューティ比を決定し、PWM出力ポート18からPWMパルスを出力する。これにより、ヒータ4は、PWM制御され、検出素子3の素子温度が、検出素子3の劣化の程度に拘わらず、700℃一定に制御される。
【0058】
次いで、ステップS6では、酸素濃度検出タイミングであるか否かを判断する。本実施形態では、ステップS2〜ステップS5によるヒータ通電制御のPWMデューティ比の更新回数10回に対して、酸素濃度の検出を1回の割合で実行する。ステップS6では、このタイミングを判断する。酸素濃度検出タイミングではない場合(No)は、そのまま処理を終了する。また、酸素濃度検出タイミングの場合(Yes)は、ステップS7に進む。
【0059】
ステップS7では、第1内部抵抗Ri1が補正後目標抵抗値RThとなっているか否かを判断する。酸素濃度を検出する際には、検出素子3の素子温度が所定の活性化温度(本実施形態では700℃)となっている(従って、第1内部抵抗Riが補正後目標抵抗値RThとなっている)必要がある。よって、酸素濃度を検出する前に、ステップS7で、これを判断する。ステップS7で、第1内部抵抗Ri1が補正後目標抵抗値RThでない場合(No)は、そのまま処理を終了する。一方、第1内部抵抗Ri1が補正後目標抵抗値RThである場合(Yes)には、ステップS8に進む。そして、ステップS8で、酸素濃度を検出した後、処理を終了する。
【0060】
一方、ステップS1において、エンジンが停止している場合(Yes)には、ステップS9に進む。そして、ステップS9では、エンジン停止後、10分が経過したか否かを判断する。10分経過していない場合(No)には、ステップS13に進み、ヒータ通電制御のPWMデューティ比を0%として、PWM出力ポート18から出力した後に、処理を終了する。これにより、エンジン停止後10分間は、ヒータ4に通電されないため、検出素子3の素子温度は徐々に低下する。
【0061】
エンジン停止から10分が経過すると、ステップS9でYesとなり、ステップS10に進み、劣化検知処理ルーチンを実行する。この劣化検知処理ルーチン(ステップS10)の終了後は、ステップS11に進む。このステップS11で、後述する検知完了フラグ(
図4参照:ステップS108)がオフの場合(即ち、劣化指標IDの検知が完了していない場合)には(No)、そのまま処理を終了する。一方、検知完了フラグがオンの場合(即ち、劣化指標IDの検知が完了している場合)には(Yes)、ステップS12に進み、ヒータ4の通電を完全に停止した後、処理を終了する。
そして、以上の一連の処理は、一定周期毎に再度プログラムが呼び出されて、ステップS1から実行される。ただし、エンジンが停止し、検知完了フラグがオンとなってこの処理を終了した後は、再びエンジンが始動するまで、このプログラムの呼び出しは停止される。
【0062】
次いで、ステップS10で示した劣化検知処理ルーチンについて、
図4のフローチャートを参照して説明する。
先ず、ステップS101では、後述する電圧シフトサブルーチンを実行する(詳細は後述する。)。この電圧シフトサブルーチンでは、検出素子電圧VEの電圧シフトを行うと共に、シフト前電圧VE1、シフト後電圧VE2及びシフト電圧VSを取得する。また、この電圧シフトサブルーチンの終了時点で、I/O出力ポート16の出力はHレベルとされ、パルス信号出力回路11の出力のT点は0Vとなって、トランジスタTr2はオンしている。
【0063】
次いで、ステップS102に進み、I/O出力ポート16の出力をLレベルに戻す。すると、パルス信号出力回路11の出力のT点は+5Vとなり、トランジスタTr2はオフにされる。
【0064】
次いで、ステップS103に進み、電圧シフトサブルーチン(ステップS101)で取得したシフト電圧VS(内部抵抗分電圧Vi)及びシフト前電圧VE1(起電力EV)を用いて内部抵抗Riを計算する。そして、続くステップS104では、得られた内部抵抗Riが目標の第2目標抵抗値RU(本実施形態では、RU=2560Ω)となるように、ヒータ4を通電制御する。具体的には、PID制御またはPI制御によりヒータ通電制御のPWMデューティ比を決定し、PWM出力ポート18からPWMパルスを出力する。これにより、ヒータ4は、PWM制御され、検出素子3の温度が、約400℃に制御される。
【0065】
次いで、ステップS105では、劣化指標検知タイミングであるか否かが判断される。そして、続くステップS106では、劣化指標IDを検知する前に、取得した内部抵抗Riが第2目標抵抗値RU(=2560Ω)であるか否かが判断される。本実施形態では、ステップS101〜ステップS104によるヒータ通電制御のPWMデューティ比の更新回数10回に対して、ステップS105の判断を1回の割合で実行する。劣化指標検知タイミングでない場合(No)は、そのままこの劣化検知処理ルーチンを終了する。また、劣化指標検知タイミングの場合(Yes)は、ステップS106に進んで、内部抵抗Riが第2目標抵抗値RUであるか否かを判断する。ステップS106で、内部抵抗Riが第2目標抵抗値RUでないと判断された場合(No)は、そのままこの劣化検知処理ルーチンを終了する。
【0066】
一方、ステップS106で、内部抵抗Riが第2目標抵抗値RUであると判断された場合(Yes)は、ステップS107に進み、劣化指標IDを検知する劣化指標検知サブルーチン(詳細は後述する。)を実行する。そして、その終了後、ステップS108で、劣化指標IDの検知が完了したことを示す検知完了フラグをオンして、この劣化検知処理ルーチンを終了する。
【0067】
次いで、ステップS101の電圧シフトサブルーチンについて、
図5のフローチャートを参照して説明する。この電圧シフトサブルーチンは、前述したように、電圧シフト回路19を用いて、検出素子電圧VEをシフトさせると共に、シフト前電圧VE1、シフト後電圧VE2及びシフト電圧VSを取得する。
【0068】
先ず、ステップS1011において、マイクロプロセッサ10は、A/D入力ポート17を通じて、出力検出回路12により、次述する電圧シフト前のS点の電位、従って、ローパスフィルタ回路15を介してQ点の電位(シフト前電圧VE1)を測定する。この際、I/O出力ポート16の出力はLレベルとされており、パルス信号出力回路11の出力のT点は+5Vに、トランジスタTr2はオフにされている。このため、抵抗器R4には電流が流れず、Q点(及びS点)の電位は、検出素子3自身の起電力EVを示す値となっている。従って、このステップS1011で測定するS点(Q点)の電位の値(シフト前電圧VE1)は、起電力EVの値となる(VE1=EV)。
【0069】
次いで、ステップS1012に進み、I/O出力ポート16の出力をHレベルとする。すると、パルス信号出力回路11の出力のT点は0Vとなり、トランジスタTr2がオンする。なお、このタイミングは、
図2における時刻t=0に該当する。更に引き続いて、ステップS1013に進み、3msecの時間を計時するタイマをスタートさせる。
トランジスタTr2がオンすると、抵抗器R4に電流Iが流れ、この電流Iが検出素子3に流れ込む。すると、この電流Iにより、内部抵抗Riに電圧降下を生じさせると共に、内部容量Ciに電荷が徐々に蓄積される。このため、Q点の電位は、起電力EVから開始し、内部容量Ciへの電荷蓄積の進行と共に上昇する。Q点の電位において、起電力EVに上乗せされる電圧分は、内部抵抗Ri及び内部容量Ciの端子間電圧である。
【0070】
続くステップS1014では、ステップS1013の3msecのタイマがタイムアップするのを待つ。即ち、タイマがタイムアップしていない間(No)は、ステップS1014を繰り返す。従って、この間、内部容量Ciへの電荷の蓄積が進み、Q点の電位は上昇すると共に、平衡状態に近づく。そして、3msec経過し、タイマがタイムアップする(Yes)と、ステップS1015に進む。
【0071】
ステップS1015では、トランジスタTr2をオンしてから、3msec経過した第1検知タイミングt1(時刻t=t1=3msec,
図2参照)で、再び、A/D入力ポート17を通じて出力検出回路12により、S点の電位(従って、ローパスフィルタ回路15を通じたQ点の電位)を測定する。Q点の電位は、時刻t=0の立ち上がり開始後、3msecの期間(電圧シフト期間TS)が経過する間に、概略平衡状態に達しており(
図2参照)、このステップS1015で測定した、時刻t=t1の時点の値をシフト後電圧VE2とする。
【0072】
次いで、ステップS1016に進み、シフト電圧VSを、既に取得したシフト後電圧VE2とシフト前電圧VE1との差分(VE2−VE1)として求めて、電圧シフトサブルーチンを終了する。
【0073】
次いで、ステップS107の劣化指標検知サブルーチンについて、
図6のフローチャートを参照して説明する。なお、この劣化指標検知サブルーチン(ステップS107)は、前述したように、ステップS106で、検出素子3の内部抵抗Riが、第2目標内部抵抗値RU(=2560Ω)に等しいと判断された場合(Yes)に、実行される。
【0074】
先ず、ステップS1071では、劣化検知処理ルーチン(ステップS10)におけるステップS101と同じ電圧シフトサブルーチンを実行する。この電圧シフトサブルーチンの終了時点(ステップS1016の終了時点)で、I/O出力ポート16の出力はHレベルとされ、パルス信号出力回路11の出力のT点は0Vとなって、トランジスタTr2はオンしている。
【0075】
次いで、ステップS1072に進み、I/O出力ポート16の出力をLレベルに戻す。すると、パルス信号出力回路11の出力のT点は+5Vとなり、トランジスタTr2はオフにされる。これにより、電圧シフト期間TSが終了し、これに引き続いて、回復期間TKが開始される。
【0076】
続くステップS1073では、電圧シフトサブルーチンのステップS1015(第1検知タイミングt1)で取得したシフト後電圧VE2を、第1電圧V1として取得(コピー)する(V1=VE2)。
次いで、ステップS1074に進み、3msecの計時を行うタイマをスタートさせる。
トランジスタTr2をオフさせたため、検出素子3に、+5V電源を通じて外部電圧は印加されず、電流も流れない。このため、検出素子3では、内部容量Ciに蓄積された電荷を、内部抵抗Riを通じて自己放電する。このため、Q点の電位は、おおむね内部抵抗Ri及び内部容量Ciで決定される時定数によって指数関数的に減衰して、シフト後電圧VE2からシフト前電圧VE1に戻る電圧変化を生じる。
【0077】
続くステップS1075では、ステップS1074のタイマがタイムアップするのを待つ。即ち、タイマがタイムアップしていない間(No)は、ステップS1075を繰り返す。そして、3msec経過し、タイマがタイムアップする(Yes)と、ステップS1076に進む。
【0078】
ステップS1076では、トランジスタTr2をオフしてから、3msec経過した第2検知タイミングt2(時刻t=t2=6msec,
図2参照)で、A/D入力ポート17を通して出力検出回路12により、S点の電位(ローパスフィルタ回路15を通じて、Q点の電位)を測定する。このステップS1076で測定した、時刻t=t2の時点の値を第2電圧V2とする。
【0079】
次いで、ステップS1077に進み、劣化指標IDである1−2電圧差V1−2を、既に取得した第1電圧V1と第2電圧V2との差(V1−V2)として求める。
さらに、ステップS1078に進み、取得した1−2電圧差V1−2を、不揮発性メモリに保存して、この劣化指標検知サブルーチンを終了する。
【0080】
なお、本実施形態において、パルス信号出力回路11、電圧シフト回路19、ローパスフィルタ回路15、出力検出回路12及びステップS101〜S103を実行しているマイクロプロセッサ10が、抵抗指標検知手段に相当し、ここで検知する内部抵抗Riが抵抗指標IRに相当する。また、パルス信号出力回路11、電圧シフト回路19及びステップS1071を実行しているマイクロプロセッサ10が、電圧シフト手段に相当する。さらに、パルス信号出力回路11、電圧シフト回路19及びステップS1072を実行しているマイクロプロセッサ10が、回復手段に相当する。
【0081】
ここで、抵抗指標検知手段と電圧シフト手段とは、電圧シフトに用いるパルス信号出力回路11及び電圧シフト回路19を兼用している。なお、本実施形態では、抵抗指標検知手段と電圧シフト手段とで、電圧シフトサブルーチン(ステップS101,S1071)を兼用し、抵抗指標検知手段で、電圧シフト手段の電圧シフト期間TSと同様に、3msec間の電圧シフトを行った。しかし、抵抗指標検知手段で抵抗指標IRを検知する際の電圧シフトの期間は、劣化指標IDを検知する際の、電圧シフト手段による電圧シフト期間TSと異なっていても良く、実行するサブルーチンは別々でも良い。また、電圧シフト手段で電圧シフト回路19のトランジスタTr2をオンにし、回復手段でこれをオフにしており、電圧シフト手段と回復手段は、同一の回路(パルス信号出力回路11及び電圧シフト回路19)を用いている。
【0082】
また、ステップS106〜S107を実行しているマイクロプロセッサ10が、劣化指標検知手段に相当し、内部抵抗Riが第2目標抵抗値RU(=2560Ω)であるときに、劣化指標IDである1−2電圧差V1−2を検知する。また、第2目標抵抗値RU(=2560Ω)が検知許容値IPに相当する。
さらに、ステップS2を実行しているマイクロプロセッサ10が、第1内部抵抗検知手段に相当し、ステップS4を実行しているマイクロプロセッサ10が、目標抵抗値補正手段に相当する。
また、ヒータ制御回路13及びステップS5を実行しているマイクロプロセッサ10が、第1ヒータ通電制御手段に相当し、ヒータ制御回路13及びステップS104を実行しているマイクロプロセッサ10が、第2ヒータ通電制御手段に相当する。
【0083】
以上で説明したように、本実施形態の酸素センサ制御装置1では、検出素子電圧VEを、シフト前電圧VE1からシフト後電圧VE2までシフトさせる電圧シフト手段(
図6参照:ステップS1071)と、電圧シフト手段による電圧シフト期間TSの終了に続いて、検出素子電圧VEを、検出素子3の内部抵抗Ri及び内部容量Ciによる自己放電により、シフト後電圧VE2からシフト前電圧VE1に戻す回復手段(
図6参照:ステップS1072)とを備えている。そしてさらに、回復手段による回復期間TKに生じる検出素子電圧VEの電圧変化に基づいて、検出素子3の劣化指標ID(1−2電圧差V1−2)を検知する劣化指標検知手段(
図4参照:ステップS107)を備えている。回復期間TKでは、検出素子3の電極3P,3N間には、おおむね検出素子3の内部抵抗Ri及び内部容量Ciで決定される時定数によって指数関数的に減衰して、シフト後電圧VE2からシフト前電圧VE1に向かって戻る電圧変化を生じる。さらに、検出素子3が劣化すると、検出素子3の素子インピーダンスが増加傾向となり、同一温度における内部抵抗Riが増加すると共に、内部容量Ciも変化する。このため、劣化の進行程度により、上述の指数関数的な電圧変化のしかたに差が生じる。また、この電圧変化の差は、外乱の影響を受け難く、検出素子3の素子インピーダンスによりほぼ定まる。従って、この電圧変化に基づいて、劣化指標を検知する本実施形態の酸素センサ制御装置1では、酸素センサ2の検出素子3の劣化の程度を適切に検知することができる。
【0084】
さらに、本実施形態の酸素センサ制御装置1では、第1内部抵抗検知手段(
図3参照:ステップS2)と第1ヒータ通電制御手段(ステップS5)に加えて、劣化指標検知手段により検知された劣化指標ID(1−2電圧差V1−2)に応じて、フィードバック制御の目標抵抗値RTを補正して補正後目標電圧値RThとする目標抵抗値補正手段(ステップS4)を備えている。これにより、検出素子3の劣化状態に応じて目標抵抗値RTを変化させて、ヒータ4への通電を適切にフィードバック制御できるので、素子温度を適切な活性化温度に保つことができる。加えて、素子温度の上昇による劣化の促進を防止することができる。
【0085】
さらに、本実施形態の酸素センサ制御装置1では、劣化指標ID(1−2電圧差V1−2)を検知するのに先立ち、内部抵抗Ri(抵抗指標IR)を検知する抵抗指標検知手段(
図4参照:ステップS101〜S103)を備え、劣化指標検知手段(ステップS106〜S107)は、この内部抵抗Ri(抵抗指標IR)が第2目標抵抗値RU(=2560Ω:検知許容値IP)であるとき(ステップS106で判定)に劣化指標IDを検知する。これにより、劣化指標IDの検知にあたって、検知時の条件を揃えることができ、適切に劣化指標ID(1−2電圧差V1−2)を検知することができる。
【0086】
さらに、本実施形態の酸素センサ制御装置1では、内部抵抗Ri(抵抗指標IR)が第2目標抵抗値RU(検知許容値IP)となるように、ヒータ4への通電をフィードバック制御する(第2ヒータ通電制御手段、
図4参照:ステップS104)。これにより、内部抵抗Ri(抵抗指標IR)が第2目標抵抗値RU(検知許容値IP)となっているタイミングで、確実に劣化指標ID(1−2電圧差V1−2)を検知することができる。
【0087】
さらに、本実施形態の酸素センサ制御装置1では、内部抵抗Ri(抵抗指標IR)が第2目標抵抗値RU(検知許容値IP)であるときに、電圧シフト期間TS内の第1検知タイミングt1(
図5参照:ステップS1015)における第1電圧V1(=シフト後電圧VE2)及び電圧シフト期間TS終了後の回復期間TK内の第2検知タイミングt2(
図6参照:ステップS1076)における第2電圧V2の2つの電圧を計測すれば良く、簡易に劣化指標IDとしての1−2電圧差V1−2を得ることができる。
【0088】
さらに、本実施形態の酸素センサ制御装置1では、抵抗指標検知手段(
図4参照:ステップS101〜S103)は、電圧シフト手段(
図6参照:ステップS1071)と同様に、検出素子電圧VEをシフト前電圧VE1からシフト後電圧VE2までシフトさせており(ステップS101)、これに用いるパルス信号出力回路11及び電圧シフト回路19を電圧シフト手段と兼用している。このため、抵抗指標検知手段と電圧シフト手段とで別々の回路を用意する必要がなく、安価且つコンパクトな処理装置とすることができる。
【0089】
さらに、本実施形態の酸素センサ制御装置1では、エンジン停止後10分以上が経過して、劣化指標ID(内部抵抗Ri)を検知しており、劣化指標検知手段は、検出素子3の内部抵抗Riが、特定ガスのガス濃度(酸素濃度)を検出する際の内部抵抗Riである第1内部抵抗Ri1(100Ω以下)よりも大きい期間(内部抵抗Ri=2560Ω)に、劣化指標IDを検知する。これにより、回復期間TKに生じる検出素子電圧VEの電圧変化が大きくなるので、劣化指標IDを適切に検知できる。
【0090】
以上において、本発明のガスセンサ処理装置を、本実施形態の酸素センサ2の酸素センサ制御装置1に即して説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できることはいうまでもない。
例えば、本発明における「ガスセンサ」は、酸素濃度を検出する酸素センサに限られず、窒素酸化物(NOx)の濃度を検出するNOxセンサ、炭化水素の濃度を検出するHCセンサなどであっても良い。
また、本発明は、ヒータを有さないガスセンサの出力を処理するガスセンサ処理装置に適用しても良い。
また、本実施形態では、抵抗指標IRとして、内部抵抗Riを用いたが、内部抵抗分電圧Viに相当するシフト電圧VSを抵抗指標IRとして用いても良い。
また、本実施形態では、劣化指標IDとして、前述の1−2電圧差V1−2を取得し、これを用いて、目標抵抗値RTを補正した。しかし、劣化指標IDとしては、これに限らない。例えば、本実施形態では、1−2電圧差V1−2を得るに当たり、第2電圧V2として、時刻t2=3msecにおけるシフト後電圧VE2を用いた(V1=VE2)が、回復期間TK内の2つの所定のタイミング(例えば、
図2における時刻t3=3.5msecと、t4=6.5msec)における検出素子電圧VE(VE3,VE4)をそれぞれ計測し、これらの差を、劣化指標IDとしても良い。また、回復期間TK内に検出素子3の電極3P,3N間に生じる検出素子電圧VEを逐次計測し、その変化曲線から、この曲線に近似する指数関数の時定数を取得して、これを劣化指標IDとすることもできる。
【0091】
また、本実施形態では、劣化指標IDを検知する際の内部抵抗Riを、検出素子温度が約400℃となったときに相当する第2目標抵抗値RU=2560Ωに等しくなったときとした。しかし、第2目標抵抗値RUは、劣化指標IDを適切に検知できる範囲で適宜選択すれば良い。
また、電圧シフト期間TSを3msec、第1検知タイミングt1から第2検知タイミングt2までの期間を3msecとしたが、これらの値も、劣化指標IDが適切に検知できる範囲で適宜選択すれば良い。