【実施例1】
【0016】
図1は本実施例における電力変換装置の回路構成の概要図である。1は交流電力を直流電
力に変換する順変換器、2は直流中間回路にある平滑用コンデンサ、3は直流電力を任意の
周波数の交流電力に変換する逆変換器、4は交流電動機である。
【0017】
6は前記順変換器及び逆変換器内のパワーモジュールを冷却するための冷却ファン、7は
電力変換装置の各種制御データを設定、変更、異常状態及びモニタ表示が行えるデジタル
操作パネルである。
【0018】
5は逆変換器のスイッチング素子を制御すると共に、電力変換装置全体の制御を司る働
きをするもので、マイコン(制御演算装置)が搭載された制御回路であり、デジタル操作
パネル7から入力される各種の制御データに応じて必要な制御処理が行なえるように構成
されている。制御回路5は、デジタル操作パネル7によって入力される各種の制御データに
基づいて逆変換器3のスイッチング素子を制御する他、装置全体に必要な制御処理を行う
。
【0019】
内部構成は省略するが、各種の制御データが格納された記憶部の記憶データからの情報
に基づいて演算を行うマイコン(制御演算装置)が搭載されている。8は逆変換器のスイ
ッチング素子を駆動するドライバ回路である。ドライバ回路8は、制御回路5からの指令に
基づいて逆変換器3のスイッチング素子や回生制動回路9内のスイッチング素子を駆動する
。前記直流中間回路の電圧V
PN検出回路の検出値が規定の電圧以上になったとき、前記回
生制動回路9内のスイッチング素子を駆動する構成になっている。更に、制御回路5に搭載
されたマイコンが、前記回生制動回路の動作累積時間をタイマで積算管理する。
【0020】
そして、該タイマで積算した累積時間百分率が、規定の%EDを超過したとき、前記電力
変換装置の出力は遮断せず、前記回生制動回路のみの動作を遮断し、前記デジタル操作パ
ネル7にその異常を表示する構成になっている。また、ドライバ回路8内にはスイッチング
レギュレータ回路(DC/DCコンバータ)が搭載されており、電力変換装置の運転に必要な
各直流電圧を生成し、これらを各構成に対して供給する。9は直流中間回路に設けられた
回生制動回路、10は電力変換装置である。
【0021】
前記回生制動回路9内には、代表的なスイッチング素子としてIGBTが搭載されている。
当然、この素子はIGBTに限定されるものではなく、スイッチング素子としての形態を有す
るものであれば良い。BRは回生制動抵抗器であり、交流電動機の減速時回転エネルギーを
熱エネルギーとして消費する役割を果たすものである。
【0022】
前記回生制動回路9内に搭載されているIGBTの定格電流は有限であるため、該IGBTを破
壊させないために、回生制動回路に接続可能な制動抵抗器BRの許容最小抵抗値Rminも電力
変換装置の容量毎に予め製品仕様として定められている。この許容最小抵抗値Rminは、電
力変換装置の製品カタログや取扱説明書に記載されている。
【0023】
電力変換装置の各種制御データは、操作パネル7から設定及び変更が可能である。操作
パネル7には異常表示が可能な表示部が設けられており、電力変換装置における異常が検
出されると当該表示部に表示される。本実施例の操作パネル7としては、特に種類が限ら
れるものではないが、デジタル操作パネルとして装置使用者の操作性を考慮して表示部の
表示を見ながら操作が行えるように構成している。
【0024】
なお、表示部は必ずしも操作パネル7と一体に構成する必要はないが、操作パネル7の操
作者が、表示を見ながら操作できるように一体構成とすることが望ましい。
【0025】
操作パネル7から入力された電力変換装置の各種制御データは図示しない記憶部に格納
される。電力変換装置であるインバータは公知の技術であるため、詳細な説明は割愛する
。
【0026】
図2は、主回路部品配置図の一例である。順変換器1と逆変換器3及び回生制動回路9が一
個のモジュール内に搭載された複合モジュールである。複合モジュールとして構成された
パワー半導体11を冷却する冷却フィン12と冷却ファン6とを備え、発熱体であるパワー半
導体11からの熱を冷却フィン12に熱伝導させ、冷却ファン6によって冷却フィンに空気を
送り熱交換させて放熱させる構造となっている。
【0027】
14は主回路基板で、13は樹脂モールドケースである。複合モジュールとして構成された
パワー半導体11の中には、温度検出器が搭載されておりパワーモジュール内部の温度を検
出する。この温度検出器は、温度により抵抗値が変化するサーミスタで構成されている。
【0028】
図3は、回生制動回路が動作した場合に流れる電流ルートを示した図である。電力変換
装置10により駆動される交流電動機4が減速する場合、回転体である交流電動機の慣性に
より回転エネルギーが電源である電力変換装置内部の平滑コンデンサ2に帰還される。こ
の場合、平滑コンデンサ2は前記回転エネルギーを静電エネルギーとして蓄積するが、回
転エネルギーが大きい場合、該平滑コンデンサの両端電圧V
PNが増加するため、この電圧V
PNを検出し、検出電圧値が規定電圧V
PND0以上になると電力変換装置の出力を遮断する構
成にし、該平滑コンデンサ2をこの過電圧から保護するための過電圧保護機能が付加され
ている。
【0029】
このため、過電圧保護機能の動作を回避する目的で、電力変換装置には交流電動機が減
速する際に発生する回転エネルギーを回生制動抵抗器BRで熱として消費するための回生制
動回路9が付加されている。交流電動機が減速する際に発生する回転エネルギーを回生制
動抵抗器BRで熱として消費するための回生制動回路9に流れる電流ルートが図に点線で示
されている。
【0030】
回生制動回路の動作について説明する。直流中間回路にある平滑コンデンサ2の両端電
圧V
PNを常時検出監視し、この検出電圧V
PNDが予め規定された電圧V
PND1以上に達した時に
回生制動回路9内のスイッチング素子であるIGBTをドライバ回路8で駆動する。また、該検
出電圧V
PNDが予め規定された電圧V
PND2以下になった時に回生制動回路9内のスイッチング
素子であるIGBTをドライバ回路8で遮断するように構成されている。この際、前記回生制
動回路の動作累積時間をタイマで積算する構成にしてある。
【0031】
ここで、前記直流中間回路に設けられた電圧検出回路の検出電圧V
PND0とV
PND1とV
PND2の間には、 V
PND0>V
PND1>V
PND2の関係が必ず成立している。交流電動機が減速する際に発
生する回転エネルギーを回生制動抵抗器BRで熱エネルギーとして消費することになるが、
回生制動抵抗器に無限のエネルギーを熱として消費させることはできない。制動抵抗器は
、交流電動機の回転エネルギーを熱エネルギーに変換して消費するため、動作限界温度を
超えてもなお発熱したままで使用すれば異常発熱による焼損及び火災に至る可能性のある
部品と言える。
【0032】
当然、消費する電力と時間との積(V
PND2/R*t)がエネルギーである。つまり消費する
電力(V
PND2/R)をどの位の時間許容できるかは、回生制動抵抗器の仕様で決定されるも
のである。印加許容累積時間(Σt)をある定められた時間間隔Tで除した百分率の数値が、
%ED(%ED=Σt/T*100)である。
【0033】
例えば、回生制動抵抗器の許容負荷時間率が5%EDであれば、時間間隔Tを100(s)とした
場合、累積積算時間として5(s)間(5/100*100)だけ電力を印加許容できるという意味で
ある。このように、電力変換装置を製造しているメーカは、回生制動抵抗器をオプション
として販売しており、回生制動抵抗器の抵抗値とその%EDを仕様として予め定めてある。
【0034】
つまり、メーカの純正部品である回生制動抵抗器を購入した場合には、その抵抗器の仕
様である%EDを越えて使用することはできない。メーカの純正部品である回生制動抵抗器
の抵抗値(%ED規定)の種類は有限であり、無数の種類の回生制動抵抗器が準備されている
訳ではない。
【0035】
このため、ユーザが自ら機械システムの運転に合った回生制動抵抗器の抵抗値と%EDを
設計し、この設計抵抗値を有する回生制動抵抗器がメーカの純正部品になかった場合、抵
抗器の専業メーカに製造依頼することも多い。この場合、ユーザは電力変換装置の製品カ
タログや取扱説明書に記載された許容最小抵抗値(Rmin)以上の制動抵抗器BRを設計しなけ
ればならない。
【0036】
設計した制動抵抗器BRが、許容最小抵抗値(Rmin)以上を満たしてはいるが、メーカの純
正部品にはない抵抗値であった場合、専業抵抗器メーカに製造依頼した制動抵抗器BRAか
あるいはユーザが保管してあった別の制動抵抗器BRBを回生制動回路に接続することにな
る。この際、ユーザは制動抵抗器BRを電気的発熱から保護するため、制動抵抗器の許容負
荷時間率(%ED
R)を前記デジタル操作パネル7から設定しなければならない。
【0037】
しかし、前記制動抵抗器BRAあるいはBRBの抵抗値Rで、前記回生制動回路内に搭載され
ているIGBTの許容負荷時間率(%ED
PM)がどの位になるのか、あるいはこの設定した制動抵
抗器の許容負荷時間率(%ED
R)で熱的に大丈夫かはユーザでは判断できないという問題が発
生する。
【0038】
このため、ユーザが新規に設計した制動抵抗器の許容負荷時間率(%ED
R)とその抵抗値R
を前記デジタル操作パネル7から設定できる構成にする。このような構成にすることによ
り、デジタル操作パネル7からユーザが設定した制動抵抗器の抵抗値Rから、回生制動回路
内に搭載されているIGBTに流れる電流Iを以下の式(数1)により容易に導き出すことが
できる。
【0039】
(数1) I= V
PND/R
ここで、V
PNDは、前記直流中間回路の電圧V
PNの検出値で、前記回生制動回路9内のスイ
ッチング素子を駆動する予め定められた規定の電圧(V
PND=V
PND1)である。
上記計算式の電流Iを制御回路5に搭載されたマイコン(制御演算装置)が実行し、この演
算電流から回生制動回路9内に搭載されているIGBTの発生損失を計算、IGBTの許容負荷時
間率(%ED
PM)を求める。
【0040】
前記IGBTの発生損失Pは、以下の式(数2)で一般的に表される。
【0041】
(数2) P=Pon+Poff+Psat
ここで、Ponはパワー半導体であるIGBTがオフ状態からオン状態に移行する際のオン損
失、Poff はパワー半導体であるIGBTがオン状態からオフ状態に移行する際のオフ損失、P
satは定常損失である。
【0042】
上記発生損失Pの詳細な計算式は、パワー半導体メーカのアプリケーションノートなど
に開示されており公知であるので、ここでは割愛する。
【0043】
上記パワー半導体の損失詳細計算式を前記不揮発性のメモリに予め格納し、設定された
制動抵抗器の抵抗値Rから回生制動回路内に搭載されているIGBTに流れる電流(I= V
PND/R
)を計算、前記メモリ内の損失計算式を用いて該IGBTの発生損失をマイコンが演算し、こ
の演算損失から前記IGBTの許容負荷時間率(%ED
PM)を求め、前記デジタル操作パネル7に表
示する。
【0044】
前記デジタル操作パネル7からユーザが設定した制動抵抗器の許容負荷時間率(%ED
R)
と設定された制動抵抗器の抵抗値Rから演算で求めた回生制動回路内に搭載されているIGB
Tの前記許容負荷時間率(%ED
PM)とを比較し、前記タイマ累積積算時間百分率(Σt/T*100)
が前記回生制動抵抗器の%ED
Rと前記パワー半導体の%ED
PMの小さい方の値に達したとき、
前記電力変換装置の出力は遮断せず、前記回生制動回路内のパワー半導体のみを自動的に
遮断する構成にしてある。
【0045】
この際設定された制動抵抗器の抵抗値Rが電力変換装置の容量毎に予め決められた許容
最小抵抗値(図示しない記憶部に格納されたデータ)以下であれば、IGBTの許容負荷時間率
を0%EDと前記デジタル操作パネル7に表示する。この場合の前記デジタル操作パネル7に表
示されたIGBTの許容負荷時間率(%ED
PM)は、ユーザが設定した前記制動抵抗器の抵抗値Rで
良いかを告知するための表示目的であり、0%EDの表示にこだわる必要はなく、0表示であ
っても0%表示であっても本発明の意図を損なうものではない。
【0046】
例えば、明確に設定抵抗値異常と表示しても、設定抵抗値異常を意味するNG-Rであって
も良い。この表示内容については、その表示の意味が装置使用者に区別できる形態であれ
ば十分であり、表示内容を限定するものではない。
【0047】
このようにデジタル操作パネル7に結果を表示することにより、操作者に設定した状態
を知らしめることができるため、その表示内容から状況を明確に判断することができる。
【0048】
この場合には、設定された制動抵抗器の抵抗値Rから求めた回生制動回路9内に搭載され
ているIGBTの許容負荷時間率(%ED
PM)の方が短く、しかも0%になるため回生制動回路は一
切動作しないことを意味する。これは、制動抵抗器の抵抗値Rが電力変換装置の容量毎に
予め決められた許容最小抵抗値Rmin以下に選定したことが誤りであり、回生制動回路9内
に搭載されているIGBTが破壊する虞を未然に防止することができるようにしたものである
。
【0049】
図4は他の実施例であり、制動抵抗値Rに対応した回生制動回路内のIGBT許容負荷時間率
(%ED
PM)相関データを予め計算し、この結果を不揮発性のメモリに記憶させ、該メモリか
ら読み出す構成にした例である。
【0050】
前記パワー半導体の発生損失Pに対する損失演算シミュレーションは、パワー半導体メ
ーカのHPからもダウンロードできる。
【0051】
このシミュレーションソフトを使用して、制動抵抗器の前記設定抵抗値Rから前記パワ
ー半導体に流れる電流I= V
PND/Rを求め、任意の動作条件におけるパワー半導体の発生損
失Pを計算し、この計算損失から前記設定抵抗値Rに対する前記IGBTの許容負荷時間率(%ED
PM)を予め求めておくことは容易に実行可能である。
【0052】
制動抵抗器の前記設定抵抗値Rに対応した回生制動回路内のIGBT許容負荷時間率(%ED
PM)
相関データに関する不揮発性メモリ内容の一例を
図4に示してある。該メモリ内容は、実
際には二進数で格納されているが、理解し易くするため十進数で記載しているだけで、本
発明の意図を損なうものではない。また、記載された各数値は、一例でありこの数値に限
定されるものでもない。
【0053】
この結果を制動抵抗器の設定抵抗値Rに対応した回生制動回路内のIGBT許容負荷時間率(
%ED
PM)の相関データとして予め不揮発性のメモリに記憶させ、設定された制動抵抗器の抵
抗値Rに対応したIGBTの許容負荷時間率(%ED
PM)を不揮発性のメモリから読み出す構成にし
たものである。
【0054】
マイコンの負荷率から判断しても、複雑なパワー半導体の発生損失をマイコンに演算さ
せるより、制動抵抗器の設定抵抗値Rに対応した回生制動回路内のIGBT許容負荷時間率(%E
D
PM)の相関データとして予め不揮発性のメモリに記憶させ、設定された制動抵抗器の抵抗
値Rに対応したIGBTの許容負荷時間率(%ED
PM)を不揮発性のメモリから読み出す構成にして
おく方が、より現実的なシステム構成であると言える。
【0055】
図5は、ユーザが前記デジタル操作パネル7から設定した回生制動抵抗器BRの%ED
R とその抵抗値Rの一例である。ユーザにて設定された制動抵抗器が、%ED
R=20.0/抵抗値R=3.6(Ω)仕様の物であるが、この抵抗値に対応した回生制動回路内のIGBT許容負荷時間率(%ED
PM)は、
図4の不揮発性メモリから読み出された値、すなわち%ED
PM=3.3であることになる。
【0056】
この場合、制動抵抗器の%ED
R=20.0と不揮発性メモリから読み出された回生制動回路内
のIGBT許容負荷時間率の値%ED
PM=3.3を制御回路内のマイコンが比較し、前記制動回路が
動作した時間の累積積算値百分率(Σt/T*100)が前記2値(%ED
R=20.0と%ED
PM=3.3)の小さ
い方、すなわちΣt/T*100=%ED
PM=3.3に達した時点で前記制動回路の動作のみを遮断し、
前記デジタル操作パネル7にその異常を表示する構成になっている。
【0057】
図6は、回生制動抵抗器の設定抵抗値Rと回生制動回路内IGBTの許容負荷時間率(%ED
PM)相関図の一例である。この相関図のデータ曲線値が、前記不揮発性メモリに格納されている。
【0058】
横軸が制動抵抗器の設定抵抗値Rであり、縦軸が回生制動回路内IGBTの許容負荷時間率(
%ED
PM)である。回生制動抵抗器の許容最低抵抗値Rminにおける前記IGBTの許容負荷時間率
は、%ED
PM=%EDminであり、この値以下では前記IGBTの許容負荷時間率(%ED
PM)は0%となる
。つまり、許容最低抵抗値Rmin以下の抵抗値では、前記回生制動回路内のIGBTを動作させ
ることはできないことを意味する。
【0059】
また、抵抗値R
100は、前記IGBTの許容負荷時間率(%ED
PM)が100%となる抵抗値であるた
め、この抵抗値R
100以上の抵抗であれば前記回生制動回路内のIGBTは、連続使用可能であ
ることを意味する。
【0060】
図6に記載した回生制動抵抗器の設定抵抗値Rと回生制動回路内IGBTの許容使用率(%ED
PM)相関図の関係は、一次曲線に近似してあるが厳密なn次曲線であっても本発明の意図を損なうものではない。
【0061】
本発明によれば、前記デジタル操作パネル7から回生制動抵抗器BRの(%ED
R)とその抵抗
値Rを設定することにより、自動的に該設定抵抗値Rに対応した前記回生制動回路内のIGBT
許容負荷時間率(%ED
PM)を読み出し、前記デジタル操作パネル7に表示すると共に、前記制
動回路が動作した時間の累積積算値百分率(Σt/T)が前記2値の小さい方に達した時点で前
記制動回路の動作のみを遮断し、前記デジタル操作パネル7にその異常を表示する構成に
してあるため、電力変換装置内部に設けられた回生制動回路内のパワー半導体であるIGBT
の許容負荷時間率(%ED
PM)についても管理することができ、回生制動回路内のパワー半導
体の有効利用を図りつつ電力変換装置の性能を向上させることが可能となる。