特許第5648081号(P5648081)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5648081
(24)【登録日】2014年11月14日
(45)【発行日】2015年1月7日
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 25/04 20060101AFI20141211BHJP
   H02P 27/06 20060101ALI20141211BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20141211BHJP
   H02M 7/797 20060101ALI20141211BHJP
【FI】
   H02P7/63 301S
   H02M7/48 M
   H02M7/797
【請求項の数】12
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-90881(P2013-90881)
(22)【出願日】2013年4月24日
(62)【分割の表示】特願2008-58918(P2008-58918)の分割
【原出願日】2008年3月10日
(65)【公開番号】特開2013-141411(P2013-141411A)
(43)【公開日】2013年7月18日
【審査請求日】2013年4月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】100100310
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 学
(74)【代理人】
【識別番号】100098660
【弁理士】
【氏名又は名称】戸田 裕二
(72)【発明者】
【氏名】井堀 敏
(72)【発明者】
【氏名】内野 禎敬
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 弘
(72)【発明者】
【氏名】平賀 正宏
【審査官】 高橋 祐介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−086764(JP,A)
【文献】 特開昭62−025885(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 25/04
H02M 7/48
H02M 7/797
H02P 27/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電源の交流電圧を整流して直流電圧に変換する順変換器と、
前記順変換器の直流電圧を平滑する平滑コンデンサを有する直流中間回路と、
前記直流中間回路の電圧を検出する検出回路と、
前記直流中間回路に設けた抵抗とパワー半導体を備える回生制動回路と、
前記検出回路が規定の電圧を検出したとき、前記回生制動回路を駆動するドライブ回路と、
前記回生制動回路の動作累積時間を積算するタイマと、
前記順変換器の直流電圧を交流電圧に変換する逆変換器と、
を備える可変電圧可変周波数の交流電力を出力する電力変換装置において、
前記抵抗の許容負荷時間率である第一の許容負荷時間率と前記抵抗の抵抗値とは設定可能であり、
前記抵抗値と前記パワー半導体の許容負荷時間率との関係を示すデータに基づき、前記パワー半導体の許容負荷時間率である第二の許容負荷時間率を決定することを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
請求項1記載の電力変換装置であって、
前記抵抗値と許容負荷時間率との関係を示すデータは予めメモリに格納されていることを特徴とする電力変換装置。
【請求項3】
請求項2記載の電力変換装置であって、
前記メモリは不揮発性であることを特徴とする電力変換装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の電力変換装置であって、
記抵抗値と前記パワー半導体の許容負荷時間率との関係を示すデータは、一以上の直線で近似されていることを特徴とする電力変換装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の電力変換装置であって、
前記抵抗値と前記パワー半導体の許容負荷時間率との関係は、前記パワー半導体の発生損失に基づいて求められることを特徴とする電力変換装置。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれかに記載の電力変換装置であって、
前記第二の許容負荷時間率は、前記抵抗値に基づいて求められることを特徴とする電力変換装置。
【請求項7】
請求項5記載の電力変換装置であって、
前記パワー半導体の発生損失は前記回生制動回路を備える直流中間回路の電圧値に基づいて求められることを特徴とする電力変換装置。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載の電力変換装置であって、
前記回生制動回路の累積積算時間が前記第一の許容負荷時間率または前記第二の許容負荷時間率のいずれか小さい方の値になった場合に前記パワー半導体を遮断することを特徴とする電力変換装置。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかに記載の電力変換装置であって、
前記第一の許容負荷時間率と前記第二の許容負荷時間率の両方が100%またはそれ以上である場合は、前記回生制動回路は連続使用可能であることを特徴とする電力変換装置。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれかに記載の電力変換装置であって、
前記回生制動回路の抵抗の値が予め定めた閾値以上でない場合に前記回生制動回路を動作させないことを特徴とする電力変換装置。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれかに記載の電力変換装置であって、
さらに、前記第二の許容負荷時間率を表示する表示部を備えることを特徴とする電力変換装置。
【請求項12】
請求項11記載の電力変換装置であって、
前記回生制動回路の抵抗の値が予め定めた閾値以上でない場合に前記表示部に0%を表示することを特徴とする電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電力変換装置であるインバータは、産業界をはじめ家電製品にも交流電動機の速度制御
装置として多く採用されている。交流電動機を減速する場合、電動機の減速時回転エネル
ギーは、電力変換装置の直流中間回路にある平滑コンデンサに静電エネルギーとして蓄積
されるが、その処理できる蓄積量は小さいため平滑コンデンサの両端電圧が上昇し、電力
変換装置の直流中間回路に設けられた過電圧検出保護回路が動作し電力変換装置が停止す
る。
【0003】
このため、電力変換装置には、前記直流中間回路に回生制動回路が搭載されており、前
記交流電動機の減速時回転エネルギーを回生制動抵抗器で熱エネルギーとして消費する構
成になっている。
【0004】
前記回生制動抵抗器及び回生制動回路内のパワー半導体の定格は有限であるため、その
許容電力容量を超えて更に使用すれば、回生制動抵抗器及びパワー半導体には極めて大き
な電力が印加され電気的発熱で熱破壊に至ってしまう。このため、回生制動抵抗器には、
許容可能な定量的数値である許容負荷時間率(以下、%EDと記載する)が予め定められて
いる。
【0005】
このため電力変換装置は、前記直流中間回路に設けられた回生制動回路の動作累積時間
を管理し、その百分率が前記回生制動抵抗器の%EDを超えて使用した場合、回生制動抵抗
器を電気的発熱に起因した熱破壊から保護するため、前記直流中間回路に設けられた回生
制動回路内のスイッチング素子を遮断し、回生制動抵抗器に流れる電流を遮断する構成に
なっている。
【0006】
しかし、電力変換装置内部の直流中間回路に設けられた回生制動回路のスイッチング素
子用パワー半導体の許容負荷時間率としての%EDPM については、厳密に規定されておらず
、主に回生制動抵抗器との相関で%EDRのみが決定されている。
【0007】
電力変換装置に用いられるIGBTなどのパワー半導体は、電力変換時における電気発生損
失により発熱し、半導体素子の動作限界温度を超えてもなお発熱したままで使用すれば、
半導体素子は熱破壊に至り動作しなくなる虞がある。このため、パワー半導体を冷却する
冷却フィンと冷却ファンとを備え、発熱体であるパワー半導体からの熱を冷却フィンに熱
伝導させ、冷却ファンによって冷却フィンに空気を送り熱交換させて放熱させる構造とな
っている。
特許文献1の段落(0007)には、「前記平滑用コンデンサの両端に接続される制動抵抗と
スイッチの直列回路と、前記平滑用コンデンサの両端の電圧が所定の値を超えたときに前
記スイッチを閉路させる電圧検出回路と、外部からの開始指令に基づいて、所定期間(T)
内の前記スイッチが閉路している時間を集計し、この集計時間(Σt)を出力する集計回路
と、前記期間(T)と集計時間(Σt)とから前記制動抵抗の使用率(X%:X=(Σt/T)*100)を演
算する使用率演算回路と、前記使用率(X%)を前記期間(T)が終了時に外部へ表示する表示
回路とを備える。」と記載されている。
【0008】
また、特許文献2及び特許文献3には、回生制動抵抗の過負荷保護及び過熱保護を行うこ
とが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3648932号
【特許文献2】特開平5-168287号公報
【特許文献3】特許平10-229607号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記従来技術は、回生制動抵抗器の許容負荷時間率%ED管理による過負荷保護及び過熱
保護についての記載はあるが、回生制動回路内のパワー半導体に関する%ED管理について
は配慮がなされている記載はない。このため、電気発生損失により発熱し、前記回生制動
回路内のパワー半導体素子の動作限界温度を超えてもなお発熱したままで使用すれば、パ
ワー半導体素子は熱破壊に至り動作しなくなる虞があるという点についての配慮がなされ
ていないという問題があった。
本発明の目的は、電力変換装置内部に設けられた回生制動回路内のパワー半導体の許容
負荷時間率%EDについても管理し、パワー半導体の有効利用を図りつつ電力変換装置の性
能を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を解決するための本発明の具体的態様は、以下の通りである。交流電源の交流
電圧を整流して直流電圧に変換する順変換器と、この順変換器の直流電圧を平滑する平滑
コンデンサを有する直流中間回路と、前記直流中間回路の電圧を検出する検出回路と、前
記直流中間回路に設けた回生制動回路と、前記回生制動回路の動作累積時間を積算するタ
イマと、前記順変換器の直流電圧を交流電圧に変換する逆変換器とを備え、可変電圧可変
周波数の交流電力を出力する電力変換装置において、前記直流中間回路に備えた回生制動
回路に接続される回生制動抵抗器の許容負荷時間率%EDと回生制動抵抗器の抵抗値Rをそれ
ぞれ個別に設定できる構成とした。
【0012】
さらには、上記の態様において、より好ましい具体的な形態は以下の通りである。
(1)前記制動抵抗器の%EDRと制動抵抗器の抵抗値Rを設定する操作パネルを備え、表示部が
この操作パネルに設けられていること。
(2) 予め演算で求めた制動抵抗器の抵抗値Rに対応した前記回生制動回路内のパワー半導
体の%EDPM の相関一覧データとして記憶した不揮発性のメモリを有すること。
(3) 前記設定された制動抵抗器の抵抗値Rに対応した前記回生制動回路内のパワー半導体
の%EDPMを前記不揮発性のメモリから読み出せる構成にしてあること。
(4) 前記検出回路によって検出した電圧が規定の電圧以上になったときに、前記回生制動
回路を動作させる駆動回路を有すること。
(5) 前記回生制動回路が動作した時間(t)を積算(Σt)するタイマを有すること。
(6) 前記タイマで積算した累積時間百分率(Σt/T*100)が、前記回生制動抵抗器の%EDR
前記回生制動回路内のパワー半導体の%EDPMのどちらか小さい方に達した場合に、前記電
力変換装置の出力は遮断されず、前記回生制動回路のみが遮断されること。
(7) 前記タイマで積算した累積時間は、予め規定された時間T経過後に自動クリア(積算
時間を零にする)されること。
(8) 前記回生制動回路のみが遮断されたとき、前記操作パネルの表示部にその異常を表示
すること。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、電力変換装置内部に設けられた回生制動回路内のパワー半導体の許容
負荷時間率%EDについても管理することができ、回生制動回路内のパワー半導体の有効利
用を図りつつ電力変換装置の性能を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】電力変換装置の主回路構成の概要図である。
図2】電力変換装置の主回路部品配置図の一例である。
図3】回生制動回路に流れる電流ルート図である。
図4】設定抵抗値と回生制動回路内IGBTの許容負荷時間率(%ED)相関データに関 する不揮発性メモリ内容の一例である。
図5】回生制動器の%EDと抵抗値の設定一例である。
図6】設定抵抗値Rと回生制動回路内IGBTの許容負荷時間率(%ED)相関図の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の具体的な実施例を図1図6により説明する。なお、本発明は図示例に限
定されるものではない。
【実施例1】
【0016】
図1は本実施例における電力変換装置の回路構成の概要図である。1は交流電力を直流電
力に変換する順変換器、2は直流中間回路にある平滑用コンデンサ、3は直流電力を任意の
周波数の交流電力に変換する逆変換器、4は交流電動機である。
【0017】
6は前記順変換器及び逆変換器内のパワーモジュールを冷却するための冷却ファン、7は
電力変換装置の各種制御データを設定、変更、異常状態及びモニタ表示が行えるデジタル
操作パネルである。
【0018】
5は逆変換器のスイッチング素子を制御すると共に、電力変換装置全体の制御を司る働
きをするもので、マイコン(制御演算装置)が搭載された制御回路であり、デジタル操作
パネル7から入力される各種の制御データに応じて必要な制御処理が行なえるように構成
されている。制御回路5は、デジタル操作パネル7によって入力される各種の制御データに
基づいて逆変換器3のスイッチング素子を制御する他、装置全体に必要な制御処理を行う
【0019】
内部構成は省略するが、各種の制御データが格納された記憶部の記憶データからの情報
に基づいて演算を行うマイコン(制御演算装置)が搭載されている。8は逆変換器のスイ
ッチング素子を駆動するドライバ回路である。ドライバ回路8は、制御回路5からの指令に
基づいて逆変換器3のスイッチング素子や回生制動回路9内のスイッチング素子を駆動する
。前記直流中間回路の電圧VPN検出回路の検出値が規定の電圧以上になったとき、前記回
生制動回路9内のスイッチング素子を駆動する構成になっている。更に、制御回路5に搭載
されたマイコンが、前記回生制動回路の動作累積時間をタイマで積算管理する。
【0020】
そして、該タイマで積算した累積時間百分率が、規定の%EDを超過したとき、前記電力
変換装置の出力は遮断せず、前記回生制動回路のみの動作を遮断し、前記デジタル操作パ
ネル7にその異常を表示する構成になっている。また、ドライバ回路8内にはスイッチング
レギュレータ回路(DC/DCコンバータ)が搭載されており、電力変換装置の運転に必要な
各直流電圧を生成し、これらを各構成に対して供給する。9は直流中間回路に設けられた
回生制動回路、10は電力変換装置である。
【0021】
前記回生制動回路9内には、代表的なスイッチング素子としてIGBTが搭載されている。
当然、この素子はIGBTに限定されるものではなく、スイッチング素子としての形態を有す
るものであれば良い。BRは回生制動抵抗器であり、交流電動機の減速時回転エネルギーを
熱エネルギーとして消費する役割を果たすものである。
【0022】
前記回生制動回路9内に搭載されているIGBTの定格電流は有限であるため、該IGBTを破
壊させないために、回生制動回路に接続可能な制動抵抗器BRの許容最小抵抗値Rminも電力
変換装置の容量毎に予め製品仕様として定められている。この許容最小抵抗値Rminは、電
力変換装置の製品カタログや取扱説明書に記載されている。
【0023】
電力変換装置の各種制御データは、操作パネル7から設定及び変更が可能である。操作
パネル7には異常表示が可能な表示部が設けられており、電力変換装置における異常が検
出されると当該表示部に表示される。本実施例の操作パネル7としては、特に種類が限ら
れるものではないが、デジタル操作パネルとして装置使用者の操作性を考慮して表示部の
表示を見ながら操作が行えるように構成している。
【0024】
なお、表示部は必ずしも操作パネル7と一体に構成する必要はないが、操作パネル7の操
作者が、表示を見ながら操作できるように一体構成とすることが望ましい。
【0025】
操作パネル7から入力された電力変換装置の各種制御データは図示しない記憶部に格納
される。電力変換装置であるインバータは公知の技術であるため、詳細な説明は割愛する
【0026】
図2は、主回路部品配置図の一例である。順変換器1と逆変換器3及び回生制動回路9が一
個のモジュール内に搭載された複合モジュールである。複合モジュールとして構成された
パワー半導体11を冷却する冷却フィン12と冷却ファン6とを備え、発熱体であるパワー半
導体11からの熱を冷却フィン12に熱伝導させ、冷却ファン6によって冷却フィンに空気を
送り熱交換させて放熱させる構造となっている。
【0027】
14は主回路基板で、13は樹脂モールドケースである。複合モジュールとして構成された
パワー半導体11の中には、温度検出器が搭載されておりパワーモジュール内部の温度を検
出する。この温度検出器は、温度により抵抗値が変化するサーミスタで構成されている。
【0028】
図3は、回生制動回路が動作した場合に流れる電流ルートを示した図である。電力変換
装置10により駆動される交流電動機4が減速する場合、回転体である交流電動機の慣性に
より回転エネルギーが電源である電力変換装置内部の平滑コンデンサ2に帰還される。こ
の場合、平滑コンデンサ2は前記回転エネルギーを静電エネルギーとして蓄積するが、回
転エネルギーが大きい場合、該平滑コンデンサの両端電圧VPNが増加するため、この電圧V
PNを検出し、検出電圧値が規定電圧VPND0以上になると電力変換装置の出力を遮断する構
成にし、該平滑コンデンサ2をこの過電圧から保護するための過電圧保護機能が付加され
ている。
【0029】
このため、過電圧保護機能の動作を回避する目的で、電力変換装置には交流電動機が減
速する際に発生する回転エネルギーを回生制動抵抗器BRで熱として消費するための回生制
動回路9が付加されている。交流電動機が減速する際に発生する回転エネルギーを回生制
動抵抗器BRで熱として消費するための回生制動回路9に流れる電流ルートが図に点線で示
されている。
【0030】
回生制動回路の動作について説明する。直流中間回路にある平滑コンデンサ2の両端電
圧VPNを常時検出監視し、この検出電圧VPNDが予め規定された電圧VPND1以上に達した時に
回生制動回路9内のスイッチング素子であるIGBTをドライバ回路8で駆動する。また、該検
出電圧VPNDが予め規定された電圧VPND2以下になった時に回生制動回路9内のスイッチング
素子であるIGBTをドライバ回路8で遮断するように構成されている。この際、前記回生制
動回路の動作累積時間をタイマで積算する構成にしてある。
【0031】
ここで、前記直流中間回路に設けられた電圧検出回路の検出電圧VPND0とVPND1とVPND2の間には、 VPND0>VPND1>VPND2の関係が必ず成立している。交流電動機が減速する際に発
生する回転エネルギーを回生制動抵抗器BRで熱エネルギーとして消費することになるが、
回生制動抵抗器に無限のエネルギーを熱として消費させることはできない。制動抵抗器は
、交流電動機の回転エネルギーを熱エネルギーに変換して消費するため、動作限界温度を
超えてもなお発熱したままで使用すれば異常発熱による焼損及び火災に至る可能性のある
部品と言える。
【0032】
当然、消費する電力と時間との積(VPND2/R*t)がエネルギーである。つまり消費する
電力(VPND2/R)をどの位の時間許容できるかは、回生制動抵抗器の仕様で決定されるも
のである。印加許容累積時間(Σt)をある定められた時間間隔Tで除した百分率の数値が、
%ED(%ED=Σt/T*100)である。
【0033】
例えば、回生制動抵抗器の許容負荷時間率が5%EDであれば、時間間隔Tを100(s)とした
場合、累積積算時間として5(s)間(5/100*100)だけ電力を印加許容できるという意味で
ある。このように、電力変換装置を製造しているメーカは、回生制動抵抗器をオプション
として販売しており、回生制動抵抗器の抵抗値とその%EDを仕様として予め定めてある。
【0034】
つまり、メーカの純正部品である回生制動抵抗器を購入した場合には、その抵抗器の仕
様である%EDを越えて使用することはできない。メーカの純正部品である回生制動抵抗器
の抵抗値(%ED規定)の種類は有限であり、無数の種類の回生制動抵抗器が準備されている
訳ではない。
【0035】
このため、ユーザが自ら機械システムの運転に合った回生制動抵抗器の抵抗値と%EDを
設計し、この設計抵抗値を有する回生制動抵抗器がメーカの純正部品になかった場合、抵
抗器の専業メーカに製造依頼することも多い。この場合、ユーザは電力変換装置の製品カ
タログや取扱説明書に記載された許容最小抵抗値(Rmin)以上の制動抵抗器BRを設計しなけ
ればならない。
【0036】
設計した制動抵抗器BRが、許容最小抵抗値(Rmin)以上を満たしてはいるが、メーカの純
正部品にはない抵抗値であった場合、専業抵抗器メーカに製造依頼した制動抵抗器BRAか
あるいはユーザが保管してあった別の制動抵抗器BRBを回生制動回路に接続することにな
る。この際、ユーザは制動抵抗器BRを電気的発熱から保護するため、制動抵抗器の許容負
荷時間率(%EDR)を前記デジタル操作パネル7から設定しなければならない。
【0037】
しかし、前記制動抵抗器BRAあるいはBRBの抵抗値Rで、前記回生制動回路内に搭載され
ているIGBTの許容負荷時間率(%EDPM)がどの位になるのか、あるいはこの設定した制動抵
抗器の許容負荷時間率(%EDR)で熱的に大丈夫かはユーザでは判断できないという問題が発
生する。
【0038】
このため、ユーザが新規に設計した制動抵抗器の許容負荷時間率(%EDR)とその抵抗値R
を前記デジタル操作パネル7から設定できる構成にする。このような構成にすることによ
り、デジタル操作パネル7からユーザが設定した制動抵抗器の抵抗値Rから、回生制動回路
内に搭載されているIGBTに流れる電流Iを以下の式(数1)により容易に導き出すことが
できる。
【0039】
(数1) I= VPND/R
ここで、VPNDは、前記直流中間回路の電圧VPNの検出値で、前記回生制動回路9内のスイ
ッチング素子を駆動する予め定められた規定の電圧(VPND=VPND1)である。
上記計算式の電流Iを制御回路5に搭載されたマイコン(制御演算装置)が実行し、この演
算電流から回生制動回路9内に搭載されているIGBTの発生損失を計算、IGBTの許容負荷時
間率(%EDPM)を求める。
【0040】
前記IGBTの発生損失Pは、以下の式(数2)で一般的に表される。
【0041】
(数2) P=Pon+Poff+Psat
ここで、Ponはパワー半導体であるIGBTがオフ状態からオン状態に移行する際のオン損
失、Poff はパワー半導体であるIGBTがオン状態からオフ状態に移行する際のオフ損失、P
satは定常損失である。
【0042】
上記発生損失Pの詳細な計算式は、パワー半導体メーカのアプリケーションノートなど
に開示されており公知であるので、ここでは割愛する。
【0043】
上記パワー半導体の損失詳細計算式を前記不揮発性のメモリに予め格納し、設定された
制動抵抗器の抵抗値Rから回生制動回路内に搭載されているIGBTに流れる電流(I= VPND/R
)を計算、前記メモリ内の損失計算式を用いて該IGBTの発生損失をマイコンが演算し、こ
の演算損失から前記IGBTの許容負荷時間率(%EDPM)を求め、前記デジタル操作パネル7に表
示する。
【0044】
前記デジタル操作パネル7からユーザが設定した制動抵抗器の許容負荷時間率(%EDR
と設定された制動抵抗器の抵抗値Rから演算で求めた回生制動回路内に搭載されているIGB
Tの前記許容負荷時間率(%EDPM)とを比較し、前記タイマ累積積算時間百分率(Σt/T*100)
が前記回生制動抵抗器の%EDRと前記パワー半導体の%EDPMの小さい方の値に達したとき、
前記電力変換装置の出力は遮断せず、前記回生制動回路内のパワー半導体のみを自動的に
遮断する構成にしてある。
【0045】
この際設定された制動抵抗器の抵抗値Rが電力変換装置の容量毎に予め決められた許容
最小抵抗値(図示しない記憶部に格納されたデータ)以下であれば、IGBTの許容負荷時間率
を0%EDと前記デジタル操作パネル7に表示する。この場合の前記デジタル操作パネル7に表
示されたIGBTの許容負荷時間率(%EDPM)は、ユーザが設定した前記制動抵抗器の抵抗値Rで
良いかを告知するための表示目的であり、0%EDの表示にこだわる必要はなく、0表示であ
っても0%表示であっても本発明の意図を損なうものではない。
【0046】
例えば、明確に設定抵抗値異常と表示しても、設定抵抗値異常を意味するNG-Rであって
も良い。この表示内容については、その表示の意味が装置使用者に区別できる形態であれ
ば十分であり、表示内容を限定するものではない。
【0047】
このようにデジタル操作パネル7に結果を表示することにより、操作者に設定した状態
を知らしめることができるため、その表示内容から状況を明確に判断することができる。
【0048】
この場合には、設定された制動抵抗器の抵抗値Rから求めた回生制動回路9内に搭載され
ているIGBTの許容負荷時間率(%EDPM)の方が短く、しかも0%になるため回生制動回路は一
切動作しないことを意味する。これは、制動抵抗器の抵抗値Rが電力変換装置の容量毎に
予め決められた許容最小抵抗値Rmin以下に選定したことが誤りであり、回生制動回路9内
に搭載されているIGBTが破壊する虞を未然に防止することができるようにしたものである
【0049】
図4は他の実施例であり、制動抵抗値Rに対応した回生制動回路内のIGBT許容負荷時間率
(%EDPM)相関データを予め計算し、この結果を不揮発性のメモリに記憶させ、該メモリか
ら読み出す構成にした例である。
【0050】
前記パワー半導体の発生損失Pに対する損失演算シミュレーションは、パワー半導体メ
ーカのHPからもダウンロードできる。
【0051】
このシミュレーションソフトを使用して、制動抵抗器の前記設定抵抗値Rから前記パワ
ー半導体に流れる電流I= VPND/Rを求め、任意の動作条件におけるパワー半導体の発生損
失Pを計算し、この計算損失から前記設定抵抗値Rに対する前記IGBTの許容負荷時間率(%ED
PM)を予め求めておくことは容易に実行可能である。
【0052】
制動抵抗器の前記設定抵抗値Rに対応した回生制動回路内のIGBT許容負荷時間率(%EDPM)
相関データに関する不揮発性メモリ内容の一例を図4に示してある。該メモリ内容は、実
際には二進数で格納されているが、理解し易くするため十進数で記載しているだけで、本
発明の意図を損なうものではない。また、記載された各数値は、一例でありこの数値に限
定されるものでもない。
【0053】
この結果を制動抵抗器の設定抵抗値Rに対応した回生制動回路内のIGBT許容負荷時間率(
%EDPM)の相関データとして予め不揮発性のメモリに記憶させ、設定された制動抵抗器の抵
抗値Rに対応したIGBTの許容負荷時間率(%EDPM)を不揮発性のメモリから読み出す構成にし
たものである。
【0054】
マイコンの負荷率から判断しても、複雑なパワー半導体の発生損失をマイコンに演算さ
せるより、制動抵抗器の設定抵抗値Rに対応した回生制動回路内のIGBT許容負荷時間率(%E
DPM)の相関データとして予め不揮発性のメモリに記憶させ、設定された制動抵抗器の抵抗
値Rに対応したIGBTの許容負荷時間率(%EDPM)を不揮発性のメモリから読み出す構成にして
おく方が、より現実的なシステム構成であると言える。
【0055】
図5は、ユーザが前記デジタル操作パネル7から設定した回生制動抵抗器BRの%EDR とその抵抗値Rの一例である。ユーザにて設定された制動抵抗器が、%EDR=20.0/抵抗値R=3.6(Ω)仕様の物であるが、この抵抗値に対応した回生制動回路内のIGBT許容負荷時間率(%EDPM)は、図4の不揮発性メモリから読み出された値、すなわち%EDPM=3.3であることになる。
【0056】
この場合、制動抵抗器の%EDR=20.0と不揮発性メモリから読み出された回生制動回路内
のIGBT許容負荷時間率の値%EDPM=3.3を制御回路内のマイコンが比較し、前記制動回路が
動作した時間の累積積算値百分率(Σt/T*100)が前記2値(%EDR=20.0と%EDPM=3.3)の小さ
い方、すなわちΣt/T*100=%EDPM=3.3に達した時点で前記制動回路の動作のみを遮断し、
前記デジタル操作パネル7にその異常を表示する構成になっている。
【0057】
図6は、回生制動抵抗器の設定抵抗値Rと回生制動回路内IGBTの許容負荷時間率(%EDPM)相関図の一例である。この相関図のデータ曲線値が、前記不揮発性メモリに格納されている。
【0058】
横軸が制動抵抗器の設定抵抗値Rであり、縦軸が回生制動回路内IGBTの許容負荷時間率(
%EDPM)である。回生制動抵抗器の許容最低抵抗値Rminにおける前記IGBTの許容負荷時間率
は、%EDPM=%EDminであり、この値以下では前記IGBTの許容負荷時間率(%EDPM)は0%となる
。つまり、許容最低抵抗値Rmin以下の抵抗値では、前記回生制動回路内のIGBTを動作させ
ることはできないことを意味する。
【0059】
また、抵抗値R100は、前記IGBTの許容負荷時間率(%EDPM)が100%となる抵抗値であるた
め、この抵抗値R100以上の抵抗であれば前記回生制動回路内のIGBTは、連続使用可能であ
ることを意味する。
【0060】
図6に記載した回生制動抵抗器の設定抵抗値Rと回生制動回路内IGBTの許容使用率(%EDPM)相関図の関係は、一次曲線に近似してあるが厳密なn次曲線であっても本発明の意図を損なうものではない。
【0061】
本発明によれば、前記デジタル操作パネル7から回生制動抵抗器BRの(%EDR)とその抵抗
値Rを設定することにより、自動的に該設定抵抗値Rに対応した前記回生制動回路内のIGBT
許容負荷時間率(%EDPM)を読み出し、前記デジタル操作パネル7に表示すると共に、前記制
動回路が動作した時間の累積積算値百分率(Σt/T)が前記2値の小さい方に達した時点で前
記制動回路の動作のみを遮断し、前記デジタル操作パネル7にその異常を表示する構成に
してあるため、電力変換装置内部に設けられた回生制動回路内のパワー半導体であるIGBT
の許容負荷時間率(%EDPM)についても管理することができ、回生制動回路内のパワー半導
体の有効利用を図りつつ電力変換装置の性能を向上させることが可能となる。
【符号の説明】
【0062】
1…順変換器、2…平滑用コンデンサ、3…逆変換器、4…交流電動機、5…制御回路、6…
冷却ファン、7…デジタル操作パネル、8…ドライバ回路、9…回生制動回路、10…電力変
換装置、11…パワー半導体、12…冷却フィン、13…樹脂モールドケース、14…主回路基板
、R,S,T…入力電源交流端子、BR…回生制動抵抗器
図1
図2
図3
図4
図5
図6