特許第5648230号(P5648230)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5648230
(24)【登録日】2014年11月21日
(45)【発行日】2015年1月7日
(54)【発明の名称】速度超過・低下防止方法
(51)【国際特許分類】
   E01F 9/053 20060101AFI20141211BHJP
   G08G 1/09 20060101ALI20141211BHJP
【FI】
   E01F9/053
   G08G1/09 S
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-20688(P2012-20688)
(22)【出願日】2012年2月2日
(65)【公開番号】特開2013-159915(P2013-159915A)
(43)【公開日】2013年8月19日
【審査請求日】2012年11月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】505398952
【氏名又は名称】中日本高速道路株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100134647
【弁理士】
【氏名又は名称】宮部 岳志
(72)【発明者】
【氏名】山本 浩司
(72)【発明者】
【氏名】天利 健一
(72)【発明者】
【氏名】阿部 鎮太郎
(72)【発明者】
【氏名】広 正樹
(72)【発明者】
【氏名】内川 惠二
(72)【発明者】
【氏名】金子 寛彦
(72)【発明者】
【氏名】福田 一帆
(72)【発明者】
【氏名】川島 祐貴
【審査官】 須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−138437(JP,A)
【文献】 特開2004−192556(JP,A)
【文献】 特開平07−150528(JP,A)
【文献】 特開2004−176255(JP,A)
【文献】 特開昭57−166699(JP,A)
【文献】 実開平04−090299(JP,U)
【文献】 特開2011−248427(JP,A)
【文献】 特開2009−013685(JP,A)
【文献】 特開2004−178162(JP,A)
【文献】 特開2011−081458(JP,A)
【文献】 川島祐貴,内川惠二,金子寛彦,福田一帆,山本浩司,木屋研二,道路側面に設置された点滅柱状物体により生起する視覚誘導自己運動感覚を交通工学的に応用した自動車運転者の速度感覚変化手法,映像情報メディア学会誌,日本,一般社団法人 映像情報メディア学会,2011年 9月 1日,Vol.65(2011)No.6,833-840頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01F 9/016
E01F 9/053
G08G 1/052
G08G 1/09
G08G 1/095
CiNii
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の視線誘導灯と、複数の路側制御機と、監視制御装置とで構成され、前記視線誘導灯は、速度抑止又は速度回復の対象車両が走行する道路に沿って所定の設置間隔で並べられ、前記路側制御は、調光センサを備え、前記監視制御装置から送信される発光時間、発光切替時間及び発光サイクル時間の制御信号に基づいて、前記視線誘導灯に発光用電源の供給を行ない、前記視線誘導灯の複数を所定の発光時間、所定の発光切替時間及び所定の発光サイクル時間で点滅させるとともに、輝度の割合を、野外輝度が4000[cd/m]以上の昼間を100%とし、野外輝度が1000[cd/m]以上4000[cd/m]未満の昼間に25%、野外輝度が1000[cd/m]未満の夜間に0.5〜2%とする前記視線誘導灯の調光を行うことを特徴とする速度超過・低下防止システム。
【請求項2】
前記設置間隔が、前記対象車両が抑止対象速度又は低下止対象速度において1秒間に走行する距離の4〜40%である請求項1に記載の速度超過・低下防止システム。
【請求項3】
前記視線誘導灯の発光色が緑である請求項1又は2に記載の速度超過・低下防止システム。
【請求項4】
前記視線誘導灯の発光面は正面視で矩形をなす請求項1、2又は3に記載の速度超過・低下防止システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路を走行する車両の走行速度が安全な範囲を超えること、及び交通集中渋滞の発生の原因となる範囲になることを防止するための速度超過・低下防止方法及びその方法を使用した速度超過・低下防止システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
道路を走行する車両の運転者に対し、走行速度が安全な範囲を超えていること、及び交通集中渋滞の発生の原因となる範囲になることを認識させるための方法は、これまでにも提案されている。例えば、走行速度が安全な範囲を超えていることを認識させる方法として、特開2004−192556号公報には、トンネル内に敷設された車道に沿って、トンネルの出口まで所定間隔で配列する一連の発光部を順次に遅延点灯するように制御することで、車両の運転者に走行速度を抑制させる心理効果を与え得る交通システムが提案されている。
【0003】
また、特開平7−26523号公報には、車両の走行路進行方向右側の側壁に、点滅可能な複数の表示体を、間隔をおいて略水平方向直線状に取付け、表示体の点滅により任意の注意喚起表示体を形成し、注意喚起表示体を車両の進行方向に抗して進むよう点滅制御する過スピード走行防止装置が提案されている。
【0004】
一方、走行速度が交通集中渋滞の発生の原因となる範囲になることを認識させるための方法として、特開2005−259046号公報には、サグ部底付近及び下流地点に第1及び第2速度センサを設置し、それら速度センサの測定結果に応じて、サグ部底より後方の地点に設置された第1表示装置と、下流地点より後方の地点に設置された第2表示装置に、ドライバに追突注意を喚起するサイン又はドライバに加速を促すサインを表示させる交通渋滞防止システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−192556号公報
【特許文献2】特開平7−26523号公報
【特許文献3】特開2005−259046号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、発光体の点滅や発光体による表示を利用した従来の装置では、車両運転者の意識が発光体そのものに集中してしまい、走行方向全体に対する注意力が散漫になる傾向があった。そのため、走行方向に発生している渋滞や、落下物の存在に気付くのが遅れ、却って、事故を引き起こすおそれがあった。
【0007】
そこで、本発明は、運転者の走行方向全体に対する注意力をそぐことなく、速度超過・低下を認識させることができる速度超過・低下防止システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る速度超過・低下防止システムは、複数の視線誘導灯と、複数の路側制御機と、監視制御装置とで構成される。前記視線誘導灯は、速度抑止又は速度回復の対象車両が走行する道路に沿って所定の設置間隔で並べられ、前記路側制御機は、調光センサを備え、前記監視制御装置から送信される発光時間、発光切替時間及び発光サイクル時間の制御信号に基づいて、前記視線誘導灯に発光用電源の供給を行ない、前記視線誘導灯の複数を所定の発光時間、所定の発光切替時間及び所定の発光サイクル時間で点滅させるとともに、輝度の割合を、野外輝度が4000[cd/m]以上の昼間を100%とし、野外輝度が1000[cd/m]以上4000[cd/m]未満の昼間に25%、野外輝度が1000[cd/m]未満の夜間に0.5〜2%とする前記視線誘導灯の調光を行う。
【0009】
本発明において、発光時間とは、視線誘導灯が継続して点灯する時間を、発光切替時間とは、発光した視線誘導灯に対し車両の進行方向に隣接配置されている次の視線誘導灯を発光させるまでの切換時間を、発光サイクル時間とは、一つの視線誘導灯における消灯から点灯までの時間(点灯間隔であり、発光時間に対する倍数で表現したもの)を意味する。なお、発光切替時間を速度で表現したものを、発光速度というものとする。
【0010】
発光時間は、視線誘導灯の設置間隔を刺激速度(対象車両の運転者が感じる速度)で除することにより求めることができる。例えば、4m間隔で設置した視線誘導灯で160km/hの刺激速度を得るためには、以下の計算式により求められた発光時間(90ms)で順次点灯させればよい。
【数1】
【0011】
なお、視線誘導灯の昼間の表示輝度は、アスファルト路面を想定し、平均輝度1cd/mを得る平均照度換算係数を15ルクス(lx)とした場合、280〜28000cd/mとすることが好ましく、夜間の発光輝度は60〜240cd/mとすることが好ましい。
【0013】
前記設置間隔は、前記対象車両が抑止対象速度又は低下止対象速度において1秒間に走行する距離の4〜40%とすることが好ましい。
【0014】
前記視線誘導灯の発光色は、緑であることが好ましく、また、発光面は正面視で矩形をなすものが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、速度抑止又は速度回復の対象車両が走行する道路に沿って所定の設置間隔で並べられ、所定の発光時間、所定の発光切替時間及び所定の発光サイクル時間で点滅する複数の視線誘導灯が、所定速度を超過した車両の運転者に向って進むように、また、所定速度を低下した車両の運転者に添って進むように見える。そのため、運転者に対し所定の速度を超過した高速度で走行していること、又は、運転者に対し所定の速度を低下した速度で走行していることを認識させることができる。しかも、複数の視線誘導灯は、周囲の輝度にあわせて調光されるため、周囲から際立つことなく前方視野に一体化し、走行方向全体に対する注意力をそぐことなく、速度超過や速度低下を認識させることができる。
【0016】
視覚誘導性自己運動錯覚(ベクション)を利用して速度超過を認識させるにあたり、視野の一部として発光手段の発光刺激を呈示して自動車運転者に仮現運動を知覚させ、その呈示刺激の速度を実際の走行によって生じる視野中の物体の運動速度以上にすることによって、運転者に、より大きな速度感覚を与えられることは当業者に広く知られているところである。また、逆に、その呈示刺激の速度を実際の走行によって生じる視野中の物体の運動速度以下にすることによって、運転者に、より小さな速度感覚を与えることができることも同様である。これらの知見に関し、本発明者は、発光刺激を呈示する発光手段である視線誘導灯が周囲から際立つことにより運転者の意識が発光体そのものに集中してしまい、走行方向全体に対する注意力を散漫にするおそれがあること、そして、発光手段である視線誘導灯の輝度が高くなくても発光刺激を呈示できることを見出した。本発明は、この新たな知見に基づくものである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係る速度超過・低下防止システムの構成図である。
図2】設定データの一例を示すテーブルである。
図3】視線誘導灯の設置間隔と発光時間の関係を模式的に示す図である。
図4】発光標識の視認性がベクションに及ぼす影響を確認するための試験に用いた動画の一場面を示す図である。
図5】発光標識のサイズが速度感覚に与える影響を示すグラフである。
図6】発光標識の設置間隔が速度感覚に与える影響を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1を参照しながら、本発明に係る速度超過・低下防止システムについて説明する。
この速度超過・低下防止システムは、図1に示すように、複数の視線誘導灯1と、複数の路側制御機2と、監視制御装置3とで構成される
【0019】
視線誘導灯1は、直方体をなす筐体の一面に表示部を設けたものである。筐体はアルミニウム押し出し材で形成し、大きさは、幅80mm、高さ570mm、奥行き50mmである。また、表示部の幅は、縦185mm、横60mmであり、道路幅10.7mに対し、それぞれ0.6%、1.7%とされている。表示部は60個の発光ダイオードが横4列、縦15列に配列され、形成されたものとなっており、発光ダイオードには、発光色が緑(波長515〜535nm)、最大輝度25,000[cd/m]以上、配光半値角15度(2θ 1/2)、光半減期4000時間のものが採用されている。
【0020】
路側制御機2は、監視制御装置3から送信される発光時間、発光切替時間及び発光サイクル時間などの制御信号に基づいて、視線誘導灯1に発光用電源の供給を行なうことで、複数の視線誘導灯1を順次発光させるものである。また、図示しない調光センサを備え、周囲照度に応じて調光を行う機能を有するとともに、保守機能としてランプチェック等の機能を有している。
【0021】
監視制御装置3は、複数の路側制御機2を統括し、交通量計測設備からの平均速度により、視線誘導灯1の発光を自動制御するとともに、システム全体の運用状態の監視等を行なうものである。公知のコンピュータを転用したもので、表示画面と操作キーボードを備える操作卓4と、演算処理装置を備えるサーバ5で構成され、表示画面に、監視情報が表示されるとともに発光条件を入力するための入力設定画面が表示される。そして、操作キーボードを介して、入力設定画面の指示に従い視線誘導灯の発光を制御するための設定データを入力する。なお、設定データに内容とその範囲は以下の通りである。
(1)発光時間:30〜105ms(5m/sステップ)
(2)発光切替時間:−15〜15ms(5msステップ)
(3)発光サイクル時間:1〜8(1ステップ、発光時間に対する倍数で表現したもの)
(4)調光:1〜100%
【0022】
サーバ5は、上記設定データに基づき路側制御機2に対し制御信号を送り、視線誘導灯1の発光を制御する。また、サーバ5には交通量計測設備からの交通量情報が入力されるものとなっており、自動制御モードとされている場合は、その交通量情報から得られる平均速度に応じて予め決められている設定データに基づき、路側制御機2に対し制御信号を送るものとなっている。平均速度に応じて決められる設定データの一例を図2に示す。また、図2に示すデータを設定した場合の、視線誘導灯1の設置間隔と発光時間の関係を図3に示す。
【0023】
この速度超過・低下防止システムによれば、監視制御装置3において発光継続時間及び発光サイクル時間を設定することで、発光速度の調整がなされた視線誘導灯1の一連の点滅を、所定速度を超過した車両の運転者に対し向って進むように見せることができる。そのため、運転者に対し所定の速度を超過した高速度で走行していることを認識させることができる。なお、発光速度の調整がなされた視線誘導灯1の一連の点滅を、所定速度を低下した車両の運転者に対し添って進むように見せることができ、この場合には運転者に対し所定の速度を低下した低速度で走行していることを認識させることができる。また、視線誘導灯1の発光部の面積と高さが周囲環境にあわせて適切に設定されていることに加え、周囲照度に応じて調光されるため、視線誘導灯1が周囲から際立つこともなく運転者には前方視野に一体化させた形で意識させることができるため、走行方向全体に対する注意力をそぐことなく、速度超過・低下を認識させることができる。
【実施例】
【0024】
図4に示す走行風景の動画に視線誘導灯の視認性の違いを反映させたものを被験者に示し、被験者の速度感を調べることにより、視線誘導灯の視認性がベクションに及ぼす影響を確認した。なお、走行風景の動画の視野角は、鉛直方向が85度、水平方向が120度である。また、動画は、30秒の順応区間とこれに続く45秒の試験区間で構成し、更に試験区間は20秒の前半区間、20秒の後半区間、及び前半区間と後半区間をつなぐ5秒の順応区間で構成した。更に、比較用として通常の走行風景の動画(以下、比較走行という)を用意し、順応区間は比較走行動画としたうえで、前半区間と後半区間のいずれかを比較走行と、残りの区間を視線誘導灯の視認性が加味された動画(以下、テスト走行という)とした。そして、テスト走行は前半区間か後半区間のどちらかに、ランダムに映し出されるものとし、被験者の予測による影響が除外されるものとした。走行速度は、テスト走行の120km/hに対し、比較走行は120km/h、130km/h及び160km/hの3種類とした。
【0025】
<実施例1>
視線誘導灯のサイズが速度感覚に与える影響を調べるため、視線誘導灯の発光部の幅を変えることなく、高さを185mm、370mm、555mmとした。その結果を図5に示す。なお、図5において、選択率とは、テスト走行が比較走行よりも速いとされた割合である。
テスト走行と同じ120km/hの標準刺激がもたらす感覚特性と、ベクションを利用した比較刺激がもたらす感覚特性が等しい時、比較刺激は標準刺激の等価刺激(equivalent stimulus)といい、この時の比較刺激値を主観的等価値(PSE:point of subjective equality)というが、この値が視線誘導灯の高さ間で有意な差がなかったため、視線誘導灯の大きさは速度感覚にあまり影響しないことが確認された。従って、視覚誘導性自己運動錯覚(ベクション)を利用して速度超過・低下を認識させるにあたり、運転者の走行方向全体に対する注意力をそがないためには、視認できる範囲で小さくすることが好ましいといえる。
なお、選択率が0.5となる比較走行の速度は、被験者がテスト走行で実感している速度(PSE)となる。従って、高さ185mmの場合は、実際の走行速度120km/hに対し、140km/h台後半と感じていることがわかる。
【0026】
この実施例1における視線誘導灯のサイズは、汎用性の高い185mmと、その定数倍としている。そして、185mmより小さなサイズでの実験は実施していないが、この実施例1では185mmが最も良い結果であったことを考慮すると、サイズはより小さいものにすることも可能であることが推察され、実際の実施においては、100〜250mm程度が好ましいといえる。
【0027】
<実施例2>
発光標識の設置間隔が速度感覚に与える影響を調べるため、発光標識の設置間隔を2m、4m、6mとした。その結果を図6に示す。この結果、設置間隔が6mのときの効果が小さく(120km/h走行に対して130km/hに知覚)、設置間隔が2m及び4mのとき、効果が大きいという傾向が見られた。また、被験者の中には、設置間隔を4mにすると、光の分離(動き)がはっきりと認識できると感じる者もいた。これらの結果を考慮すると、設置間隔は2〜4mが好ましいといえる。
図1
図2
図3
図5
図6
図4