(54)【発明の名称】空気入りタイヤの耐空気漏れ性能シミュレーション試験方法及び空気入りタイヤの耐空気漏れ性能シミュレーション用コンピュータプログラム並びに空気入りタイヤの耐空気漏れ性能シミュレーション試験機
【文献】
加部和幸 ,タイヤ工業におけるシミュレーション技術について,日本複合材料学会誌,2001年 2月15日,Vol.27,No.1,40-48
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記空気入りタイヤの内部の気圧を前記空気入りタイヤの外部の気圧で除した値に、前記外表面から漏れ出る単位時間あたりの空気量を乗算し、その値を前記空気入りタイヤの内部の体積で除すことで、単位時間あたりの空気漏れ率を算出することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の空気入りタイヤの耐空気漏れ性能シミュレーション試験方法。
複数の要素に分割されて表現された空気入りタイヤの有限要素モデルを用いて、空気入りタイヤの耐空気漏れ性能を試験する空気入りタイヤの耐空気漏れ性能シミュレーション試験機であって、
前記有限要素モデルの各要素を空気が透過しようとする際の前記各要素に対する空気の透過のしやすさを示す空気透過係数に基づいて、前記各要素のそれぞれを透過する単位時間あたりの空気量を算出し、
前記各要素のそれぞれを透過する単位時間あたりの空気量の情報群の中から、前記空気入りタイヤの前記有限要素モデルの外表面に位置する複数の要素のそれぞれを透過する単位時間あたりの空気量を抽出し、
前記外表面に位置する複数の要素のそれぞれを透過する単位時間あたりの空気量を、前記外表面に位置するすべての要素で総和して、前記外表面から漏れ出る単位時間あたりの空気量を算出し、
前記空気入りタイヤは、複数の材料が組み合わされて構成される複合材料を有し、
前記空気入りタイヤの耐空気漏れ性能シミュレーション試験機は、複数の材料のそれぞれの前記空気透過係数から算出された前記複合材料全体での等価空気透過係数に基づいて、前記複合材料を表現する要素を透過する単位時間あたりの空気量を算出し、
前記複合材料は、空気が透過しようとする方向が異なると、空気が透過しようとする方向毎に前記等価空気透過係数が異なるものがあり、
前記空気入りタイヤの耐空気漏れ性能シミュレーション試験機は、空気が透過しようとする方向毎に算出された前記等価空気透過係数に基づいて、前記複合材料を表現する要素を透過する単位時間あたりの空気量を算出することを特徴とする空気入りタイヤの耐空気漏れ性能シミュレーション試験機。
前記空気入りタイヤの内部の気圧を前記空気入りタイヤの外部の気圧で除した値に、前記外表面から漏れ出る単位時間あたりの空気量を乗算し、その値を前記空気入りタイヤの内部の体積で除すことで、単位時間あたりの空気漏れ率を算出することを特徴とする請求項6又は7に記載の空気入りタイヤの耐空気漏れ性能シミュレーション試験機。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されている技術は、空気に比べれば、タイヤの内部から外部へのガス漏れを低減できる。しかしながら、タイヤの内部から外部へ漏れ出すガスは、実際は0にはならない。また、タイヤの内部に充填される気体は、空気が一般的である。よって、空気入りタイヤは、自身(空気入りタイヤ)の構造が改良されることにより、空気入りタイヤの内部から外部へと漏れ出る空気が低減されることが好ましい。
【0005】
空気入りタイヤの構造を改良するためには、新たに設計された空気入りタイヤが、空気入りタイヤの内部から外部へと漏れ出る空気量をどの程度低減できるかを試験する必要がある。以下、空気入りタイヤの空気圧保持能力を示す性能を、空気入りタイヤの耐空気漏れ性能という。空気入りタイヤの耐空気漏れ性能は、例えば、実際に試作された試験体を用いて、月当たりの空気入りタイヤの充填空気圧の低下量を実測する事により求められる。
【0006】
この試験方法の場合、設計した空気入りタイヤの試験体を試作する必要があるため、試験体の試作に要する時間が増加する。また、実際の試験体を用いて、空気入りタイヤの内部から外部へ漏れ出た空気量の実測にも時間を要する。結果として、空気入りタイヤの耐空気漏れ性能の試験は、膨大な時間を要する。なお、空気入りタイヤの構造の改良には、試作と試験の繰り返しの作業が含まれる。よって、空気入りタイヤの耐空気漏れ性能の試験に要する時間が増大すると、空気入りタイヤの構造の改良は、さらに膨大な時間を要することになる。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、空気入りタイヤの耐空気漏れ性能の試験に要する時間を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る空気入りタイヤの耐空気漏れ性能シミュレーション試験方法は、空気入りタイヤの耐空気漏れ性能を試験する空気入りタイヤの耐空気漏れ性能シミュレーション試験方法であって、前記空気入りタイヤを複数の要素に分割して表現する有限要素モデルを作成し、前記有限要素モデルの各要素を空気が透過しようとする際の前記各要素に対する空気の透過のしやすさを示す空気透過係数に基づいて、前記各要素のそれぞれを透過する単位時間あたりの空気量を算出し、前記各要素のそれぞれを透過する単位時間あたりの空気量の情報群の中から、前記空気入りタイヤの前記有限要素モデルの外表面に位置する複数の要素のそれぞれを透過する単位時間あたりの空気量を抽出し、前記外表面に位置する複数の要素のそれぞれを透過する単位時間あたりの空気量を、前記外表面に位置するすべての要素で総和して、前記外表面から漏れ出る単位時間あたりの空気量を算出することを特徴とする。
【0009】
本発明の好ましい態様としては、前記空気入りタイヤの内部の気圧を前記空気入りタイヤの外部の気圧で除した値に、前記外表面から漏れ出る単位時間あたりの空気量を乗算し、その値を前記空気入りタイヤの内部の体積で除すことで、単位時間あたりの空気漏れ率を算出することが望ましい。
【0010】
本発明の好ましい態様としては、前記空気入りタイヤは、複数の材料が組み合わされて構成される複合材料を有し、複数の材料のそれぞれの前記空気透過係数から算出された前記複合材料全体での等価空気透過係数に基づいて、前記複合材料を表現する要素を透過する単位時間あたりの空気量を算出することが望ましい。
【0011】
本発明の好ましい態様としては、前記等価空気透過係数は、並列型複合則によって算出された値であることが望ましい。
【0012】
本発明の好ましい態様としては、前記複合材料は、空気が透過しようとする方向が異なると、空気が透過しようとする方向毎に前記等価空気透過係数が異なるものがあり、空気が透過しようとする方向毎に算出された前記等価空気透過係数に基づいて、前記複合材料を表現する要素を透過する単位時間あたりの空気量を算出することが望ましい。
【0013】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る空気入りタイヤの耐空気漏れ性能シミュレーション用コンピュータプログラムは、請求項1から5のいずれか一項に記載の空気入りタイヤの耐空気漏れ性能シミュレーション試験方法をコンピュータに実行させることを特徴とする。
【0014】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る空気入りタイヤの耐空気漏れ性能シミュレーション試験機は、複数の要素に分割されて表現された空気入りタイヤの有限要素モデルを用いて、空気入りタイヤの耐空気漏れ性能を試験する空気入りタイヤの耐空気漏れ性能シミュレーション試験機であって、前記有限要素モデルの各要素を空気が透過しようとする際の前記各要素に対する空気の透過のしやすさを示す空気透過係数に基づいて、前記各要素のそれぞれを透過する単位時間あたりの空気量を算出し、前記各要素のそれぞれを透過する単位時間あたりの空気量の情報群の中から、前記空気入りタイヤの前記有限要素モデルの外表面に位置する複数の要素のそれぞれを透過する単位時間あたりの空気量を抽出し、前記外表面に位置する複数の要素のそれぞれを透過する単位時間あたりの空気量を、前記外表面に位置するすべての要素で総和して、前記外表面から漏れ出る単位時間あたりの空気量を算出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、空気入りタイヤの耐空気漏れ性能の試験に要する時間を低減できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記の実施の形態により、本発明が限定されるものではない。また、下記実施の形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるものまたは実質的に同一のものが含まれる。
【0018】
(実施形態)
図1は、線対称に形成される空気入りタイヤの片側を示す断面図である。まずは、空気入りタイヤ1の構造を説明する。本実施形態では、空気入りタイヤの構造の一例として、乗用車用タイヤの構造を説明する。空気入りタイヤ1は、
図1に示すように、トレッド部10と、ビード部11と、サイドウォール部12とを含む。トレッド部10は、地面と接触する部分である。ビード部11は、ホイールに組み付けられる部分である。サイドウォール部12は、トレッド部10とビード部11との間の部分である。空気入りタイヤ1は、カーカス13を備える。カーカス13は、コードがゴムで被覆されて形成される。カーカス13は、空気入りタイヤ1の骨格を形成する。カーカス13は、トレッド部10からサイドウォール部12を介してビード部11に掛け渡される。
【0019】
トレッド部10は、カーカス13以外に、ベルト層14と、トレッド17とを含む。ベルト層14は、カーカス13よりもタイヤ径方向の外周に設けられる。ベルト層14は、カーカス13に沿って周方向に設けられて、トレッド部10を補強する。トレッド17は、ベルト層14よりもタイヤ径方向の外周に設けられる。すなわち、トレッド17は、タイヤ径方向の外周であって、タイヤ径方向の最も外側に設けられる。
【0020】
ビード部11は、カーカス13以外に、ビードコア15を含む。ビードコア15は、例えば、スチールのワイヤであるビードワイヤ15bがリング状に巻かれることにより形成される。ビード部11は、カーカス13とビードコア15とによって形成される空間にビードフィラ15aが配置される。ビードフィラ15aは、カーカス13をビードコア15に固定すると共にビード部11の形状を整える。さらに、ビードフィラ15aは、ビード部11の剛性を高める。サイドウォール部12は、カーカス13以外に、サイドトレッド18を含む。サイドトレッド18は、サイドウォール部12に生じた外傷がカーカス13に達するおそれを低減する。
【0021】
図2は、タイヤ内部の空気がタイヤ外部に漏れる経路を示す説明図である。
図2に示す空気入りタイヤ1のうちタイヤ径方向内側の面をタイヤ内表面といい、空気入りタイヤ1のうちタイヤ径方向外側の面をタイヤ外表面という。また、タイヤ内表面よりもタイヤ径方向の内側の空間をタイヤ内部といい、タイヤ外表面よりもタイヤ径方向の外側の空間をタイヤ外部という。また、タイヤ内部の空気の圧力を内圧Pinとし、タイヤ外部の空気の圧力を大気圧Poutとする。
【0022】
空気入りタイヤ1が使用される際、内圧Pinは、大気圧Poutよりも大きい。よって、タイヤ内部の空気は、例えば
図2の各矢印で示す経路でタイヤ外部に向かって漏れ出そうとする。具体的には、タイヤ内部の空気は、矢印Dで示すようにビード部11とホイール19aとの隙間から漏れ出したり、矢印Eで示すようにタイヤ内部に空気を充填するためのバルブ19bから漏れたりすることがある。この他に、タイヤ内部の空気は、矢印Aが示すようにタイヤ径方向外側に向かってトレッド部10を透過したり、矢印Bが示すようにサイドウォール部12の厚み方向に向かってサイドウォール部12から透過したりすることがある。
【0023】
また、タイヤ内部の空気は、矢印Cが示すようにビード部11を透過することがある。ビード部11を透過する空気は、ビード部11の厚み方向にビード部11を透過するものもあるが、カーカス13のコード方向に沿ってビードコア15側に向かい、
図1に示すビードコア15で折り返すように透過するものもある。このように、ビード部11は、空気が透過しようとする部材に対する空気の透過のしやすさが透過する方向によって異なる。本実施形態の空気入りタイヤの耐空気漏れ性能シミュレーション試験機は、
図2の矢印Aから矢印Cで示す経路でトレッド部10と、ビード部11と、サイドウォール部12とを透過してタイヤ内部からタイヤ外部に漏れ出す空気量を算出し、最終的に月あたりの空気漏れ率を算出する。なお、以下、空気入りタイヤの耐空気漏れ性能シミュレーション試験機を単に耐空気漏れ性能シミュレーション試験機という。
【0024】
図3は、耐空気漏れ性能シミュレーション試験機の全体の構成及び演算装置が有する機能を示す説明図である。耐空気漏れ性能シミュレーション試験機20は、演算装置30と、表示装置21と、入力装置22とを備える。演算装置30は、コンピュータである。表示装置21は、演算装置30と電気的に接続されて、ユーザーによる指令の入力を補助するための画像や、試験結果を示すための画像を表示する装置である。入力装置22は、演算装置30と電気的に接続されて、ユーザーが演算装置30に指令を信号として入力するための装置である。入力装置22は、例えば、キーボードやマウスである。
【0025】
次に、演算装置30が有する各機能を説明する。演算装置30は、1つの装置が
図3に示す各機能を実現してもよいし、
図3に示す各機能をそれぞれ別個に実現する複数の装置が電気的に接続されることで各機能を実現してもよい。または、演算装置30は、
図3に示す各機能をそれぞれ別個に実現する複数の装置間で、フレキシブルディスクや、コンパクトディスクのような記録媒体を介して情報がやり取りされることで各機能を実現してもよい。なお、計算量によっては手動により以下の各手順を実行してもよいが、各手順に含まれる計算量は膨大になる傾向がある。よって、より迅速に試験結果を導き出すために、以下では、各手順に含まれる演算を演算装置30が実行する態様を説明する。
【0026】
演算装置30は、入出力部(Input/Output)37と、記憶部38と、処理部31とを含む。入出力部37は、表示装置21と、入力装置22とに電気的に接続される。記憶部38は、耐空気漏れ性能シミュレーション試験に必要な情報を記憶する。記憶部38は、例えば、ハードディスクである。処理部31は、CPU(Central Processing Unit)である。処理部31は、情報取得部32と、モデル作成部33と、要素分割部34と、演算部35と、表示装置制御部36との各機能を有する。情報取得部32は、入出力部37を介して入力装置22からユーザーの指令を信号として取得する。また、情報取得部32は、記憶部38から耐空気漏れ性能シミュレーション試験に必要な情報を取得する。モデル作成部33は、空気入りタイヤ1のモデルを作成する。本実施形態では、モデル作成部33は、空気入りタイヤ1の子午断面の二元モデルを作成する。モデル作成部33は、例えば、入出力部37に記憶されているCAD(Computer Aided Design)のプログラムを用いることで、空気入りタイヤ1のモデルを作成する。
【0027】
図4は、要素分割された空気入りタイヤの有限要素モデルを示す断面図である。
図3に示す要素分割部34は、
図4に示すように、空気入りタイヤ1の有限要素モデル2を作成する。有限要素モデル2とは、モデル作成部33が作成した空気入りタイヤ1のモデルが、
図4に示すように複数の要素(メッシュ)ELで分割されて表現されたものである。各要素ELは、三角形または四角形である。本実施形態では、各要素ELは、四角形である。要素分割部34は、例えば、記憶部38に記憶されている有限要素法プリポストプロセッサのプログラムを用いることで、モデル作成部33が作成した空気入りタイヤ1のモデルを、複数の要素ELに分割して表現する。
図3に示す演算部35は、記憶部38に記憶されている数式を用いて演算をする。表示装置制御部36は、表示装置21に表示させようとする画像を信号として送信する。表示装置制御部36は、入出力部37を介してこの信号を表示装置21へ信号を送信することで、表示装置21にユーザーの入力を補助するための画像や、試験結果を示すための画像を表示させる。次に、演算装置30が実行する一連の手順を説明する。
【0028】
図5は、耐空気漏れ性能シミュレーション試験で演算装置が実行する手順を示すフローチャートである。ステップST01で、モデル作成部33は、空気入りタイヤ1のモデルを作成する。具体的には、まず、情報取得部32が記憶部38に記憶されているCADのプログラムを取得する。次に、モデル作成部33が、CADのプログラムを実行する。CADのプログラムを実行中、情報取得部32は、ユーザーが入力装置22へ入力した指令としての信号を受け付ける。当該指令は、空気入りタイヤ1の形状や、部分毎の材料を指定するための指令である。そして、モデル作成部33は、情報取得部32が取得した指令としての信号に基づいて、空気入りタイヤ1のモデルを作成する。モデル作成部33が作成した空気入りタイヤ1のモデルは、記憶部38に記憶される。
【0029】
次に、ステップST02で、要素分割部34は、
図4に示すような有限要素モデル2を作成する。具体的には、要素分割部34は、ステップST01で作成された空気入りタイヤ1のモデルを、
図4に示すように複数の要素ELに分割して表現する。詳しくは、まず、
図3に示す情報取得部32が記憶部38に記憶されている有限要素法プリポストプロセッサのプログラムを取得する。さらに、情報取得部32は、記憶部38から空気入りタイヤ1のモデルを取得する。そして、要素分割部34は、有限要素法プリポストプロセッサのプログラムを実行することで、ステップST01で作成された空気入りタイヤ1のモデルを複数の要素ELに分割して表現する。要素分割部34が作成した有限要素モデル2は、記憶部38に記憶される。次に、
図5に示すステップST03で、情報取得部32は、初期の内圧Pinの値と、大気圧Poutの値とを、信号として入力装置22から取得する。初期の内圧Pinの値及び大気圧Poutは、ユーザーによって入力装置22に入力される。
【0030】
次に、ステップST04で、情報取得部32は、各要素ELの空気透過係数を取得する。空気透過係数は、
図4に示す有限要素モデル2の各要素ELを空気が透過しようとする際、各要素ELに対する空気の透過のしやすさを示す値である。空気透過係数は、各要素ELの材料の種類によって変化する値である。記憶部38は、材料毎の空気透過係数をデータベースとして記憶する。情報取得部32は、記憶部38から各要素ELに対応する空気透過係数を取得する。各材料の空気透過係数は、試験によって実測される。例えば、ゴムの気体透過係数は、例えば、JIS K 7126のプラスチック―フィルム及びシート―ガス透過度試験方法に準じた試験で求められる。空気入りタイヤ1は、ゴムや、コードなどの複数の材料から構成される。
【0031】
空気入りタイヤ1を構成する数ある材料の中には、単一の材料ではなく、複数の材料が組み合わされた複合材料も有する。複合材料の空気透過係数は、複合材料を構成する各材料の空気透過係数に基づいて算出される。このようにして算出された複合材料の空気透過係数を等価空気透過係数Peという。等価空気透過係数Peは、例えば、下記の式(1)に示す並列型複合則で算出される。なお、下記の式(1)に含まれるP1は、複合材料を構成する第1材料の空気透過係数である。V1は、複合材料の全体積に対する第1材料の体積の比率(体積分率)である。P2は、複合材料を構成する第2材料の空気透過係数である。V2は、複合材料の全体積に対する第2材料の体積の比率(体積分率)である。
Pe=P1×V1+P2×V2 ・・・(1)
【0032】
さらに、空気入りタイヤ1に含まれる材料には、空気が透過しようとする方向によって、空気透過係数が異なるものもある。例えば、
図1に示すカーカス13やベルト層14は、空気が透過しようとする方向によって、空気透過係数が異なる。カーカス13を例に説明すると、カーカス13は、コード(ファイバー)とゴムの複合材料である。ゴムは、空気が透過しようとする方向が異なっても空気透過係数の変化量が0または無視できる程度に微量である。しかしながら、コードは、空気が透過しようとする方向が異なると空気透過係数も異なる。具体的には、コードは、コードに沿う方向の空気透過係数が、コードに直交する方向の空気透過係数よりも大きい場合がある。そのような場合、カーカス13全体の空気透過係数も、空気が透過しようとする方向によって変化する。
【0033】
そこで、記憶部38は、空気が透過しようとする方向によって空気透過係数が変化する材料の場合、異なる方向毎の空気透過係数を記憶する。例えば、記憶部38は、コードに沿う方向のカーカス13の等価空気透過係数Peと、コードに直交する方向のカーカス13の等価空気透過係数Peとを記憶する。コードに沿う方向のカーカス13の等価空気透過係数Peは、式(1)のP1にゴムの空気透過係数が代入され、V1にカーカス13の体積に対するゴムの体積分率が代入され、P2にコードに沿う方向のコードの空気透過係数が代入され、V2にカーカス13の体積に対するコードの体積分率が代入されることで算出される。コードに沿う方向のコードの空気透過係数は、専用の試験機によって実測される。
【0034】
一方、コードに直交する方向のカーカス13の等価空気透過係数Peは、P2にコードに直交する方向のコードの空気透過係数が代入されることで算出される。P2は、試験によって実測される。なお、コードに直交する方向のカーカス13の等価空気透過係数Peを算出するために式(1)に代入されるP1と、V1と、V2とは、コードに沿う方向のカーカス13の等価空気透過係数Peを算出するために式(1)に代入されるP1と、V1と、V2と同一である。記憶部38は、このようにして算出されたカーカス13の複数の等価空気透過係数Peを記憶する。
図5に示すステップST04では、
図3に示す情報取得部32は、各要素ELの材料や、形状に対応した空気透過係数または等価空気透過係数Peを記憶部38から取得する。
【0035】
次に、ステップST05で、
図3に示す演算部35は、有限要素法を用いて空気漏れ解析を行う。より具体的には、演算部35は、有限要素法による伝熱解析を応用することで空気漏れ解析を行う。空気漏れ解析では、伝熱解析での温度が空気圧(内圧Pin、大気圧Pout)に相当する。演算部35は、空気漏れ解析を行うことで、少なくとも各要素ELの単位時間あたりの空気透過量を算出する。空気透過量とは、各要素ELのそれぞれを透過する単位時間あたりの空気量である。なお、演算部35によって算出された解析結果(各要素ELのそれぞれを透過する単位時間あたりの空気量の情報群)は、記憶部38に記憶される。
【0036】
次に、ステップST06で、情報取得部32は、ステップST05で算出した解析結果(各要素ELのそれぞれを透過する単位時間あたりの空気量の情報群)の中から、
図4に示すタイヤ外表面の各要素ELoの単位時間あたりの空気透過量AFLiを抽出する。すわなち、情報取得部32は、記憶部38に記憶されている解析結果の中から、タイヤ外表面の各要素ELoの単位時間あたりの空気透過量AFLiのみを取得する。本実施形態では、単位時間を例えば1秒とする。タイヤ外表面の各要素ELoは、
図4に示す複数の要素ELのうち、有限要素モデル2のタイヤ径方向外側に配置された要素であり、タイヤ外部に面した要素である。次に、ステップST07で、演算部35は、タイヤ外表面の各要素ELoの各表面積AEiを算出する。より具体的には、まず情報取得部32が記憶部38からタイヤ外表面の各要素ELoの接点の座標に関する情報を取得する。そして、情報取得部32が取得した情報に基づいて演算部35が表面積AEiを算出する。表面積AEiは、各要素ELoの断面面積である。なお、ここでいう断面とは、空気入りタイヤの回転中心軸を含む仮想平面で有限要素モデル2を切った断面である。
図4では、四角形の要素ELoの面積が表面積AEiに相当する。記憶部38によって算出されたタイヤ外表面の各要素ELoの各表面積AEiは、記憶部38に記憶される。
【0037】
次に、ステップST08で、演算部35は、下記の式(2)を用いて、単位時間あたりのタイヤ外表面の空気透過量AFLを算出する。具体的には、まず、情報取得部32が下記の式(2)を記憶部38から取得する。また、情報取得部32は、記憶部38からタイヤ外表面の各要素ELoの単位時間あたりの空気透過量AFLi及び表面積AEiを取得する。そして、演算部35は、下記の式(2)にタイヤ外表面の各要素ELoの単位時間あたりの空気透過量AFLi及び表面積AEiを代入する。各要素ELoの単位時間あたりの空気透過量AFLiは、各要素ELoの一点を単位時間あたりに透過する空気量である。よって、ステップST08では、演算部35は、各要素ELoの単位時間あたりの空気透過量AFLiと、各要素ELoの各表面積AEiとを乗算することで、各要素ELo全体で単位時間あたりに各要素ELoを透過する空気量を算出し、その値をすべての要素ELoで総和することで単位時間あたりのタイヤ外表面の空気透過量AFLを算出する。記憶部38によって算出された単位時間あたりのタイヤ外表面の空気透過量AFLは、記憶部38に記憶される。
AFL=Σ(AFLi×AEi)・・・(2)
【0038】
次に、ステップST09で、演算部35は、下記の式(3)を用いて月あたりのタイヤ外表面の空気透過量Aoutを算出する。具体的には、まず、情報取得部32が下記の式(3)を記憶部38から取得する。また、情報取得部32は、記憶部38から単位時間あたりのタイヤ外表面の空気透過量AFLを取得する。そして、演算部35は、下記の式(3)に単位時間あたりのタイヤ外表面の空気透過量AFLを代入する。記憶部38によって算出された単位時間あたりのタイヤ外表面の空気透過量AFLは、記憶部38に記憶される。なお、本実施形態では、演算部35は、月あたりにタイヤ外表面から漏れ出る空気量を算出するが、例えば、演算部35は、一日や、一時間や、一分や、一秒あたりにタイヤ外表面から漏れ出る空気量を算出してもよい。
Aout=AFL×30(days)×24(h)×60(min)×60(sec)・・・(3)
【0039】
次に、ステップST10で、演算部35は、タイヤ内容積TLを算出する。タイヤ内容積TLは、タイヤ内部の総容積であって、タイヤ内表面とホイールとで囲まれる空間の体積である。具体的には、まず、ステップST01でモデル作成部33が作成したモデルを情報取得部32が記憶部38から取得する。演算部35は、取得したモデルの情報に基づいて、タイヤ内容積TLを算出する。記憶部38によって算出されたタイヤ内容積TLは、記憶部38に記憶される。次に、ステップST11で、演算部35は、下記の式(4)を用いて、月あたりの空気漏れ率Aoutrを算出する。具体的には、まず、情報取得部32が下記の式(4)を記憶部38から取得する。また、情報取得部32は、記憶部38から月あたりのタイヤ外表面の空気透過量Aoutと、内圧Pinと、大気圧Poutと、タイヤ内容積TLとを取得する。そして、演算部35は、下記の式(4)に月あたりのタイヤ外表面の空気透過量Aoutと、内圧Pinと、大気圧Poutと、タイヤ内容積TLとを代入する。記憶部38によって算出された月あたりの空気漏れ率Aoutrは、記憶部38に記憶される。
Aoutr=Aout×(Pin/Pout)/TL×100・・・(4)
【0040】
次に、ステップST12で、
図3に示す表示装置制御部36は、試験結果を示すための画像を表示装置21に表示させる。具体的には、情報取得部32が記憶部38から試験結果を取得する。そして、表示装置制御部36が、表示装置21にその試験結果を示す画像を表示させる。試験結果は、ステップST08で演算部35が算出した単位時間あたりのタイヤ外表面の空気透過量AFLと、ステップST09で演算部35が算出した月あたりのタイヤ外表面の空気透過量Aoutと、ステップST11で演算部35が算出した月あたりの空気漏れ率Aoutrとのうちの少なくとも1つである。本実施形態では、例えば、表示装置制御部36は、単位時間あたりのタイヤ外表面の空気透過量AFLと、月あたりのタイヤ外表面の空気透過量Aoutと、月あたりの空気漏れ率Aoutrとの3つを表示装置21に表示させる。ステップST12を実行すると、演算装置30は、一連の手順の実行を終了する。
【0041】
ステップST08で演算部35が算出した単位時間あたりのタイヤ外表面の空気透過量AFLのみを表示装置制御部36が表示装置21に表示する場合、演算部35は、ステップST09〜ステップST11の手順を省略できる。よって、表示装置制御部36は、より迅速に表示装置21に試験結果を表示できる。ステップST09で演算部35が算出した月あたりのタイヤ外表面の空気透過量Aoutのみ、または、月あたりのタイヤ外表面の空気透過量Aout及び単位時間あたりのタイヤ外表面の空気透過量AFLを表示装置制御部36が表示装置21に表示する場合、演算部35は、ステップST10及びステップST11の手順を省略できる。よって、表示装置制御部36は、迅速に表示装置21に試験結果を表示できる。一方、ステップST11で演算部35が算出した月あたりの空気漏れ率Aoutrは、空気入りタイヤ1の耐空気漏れ性能の指標として一般的である。よって、月あたりの空気漏れ率Aoutrを表示装置制御部36が表示装置21に表示する場合、表示装置制御部36は、空気入りタイヤ1の耐空気漏れ性能の指標として一般的な試験結果を表示装置21に表示できる。
【0042】
図6は、空気漏れ解析の解析結果を示す説明図である。また、表示装置制御部36は、上述の試験結果(単位時間あたりのタイヤ外表面の空気透過量AFLと、月あたりのタイヤ外表面の空気透過量Aoutと、月あたりの空気漏れ率Aoutrとのうちの少なくとも1つ)に加えて、例えば
図6に示す空気漏れ解析の解析結果を示す画像を表示装置21に表示させてもよい。
図6に示す画像は、各要素ELの単位時間あたりの空気透過量AFLiを色で示す画像である。表示装置制御部36が
図6に示す画像を表示装置21に表示させることにより、耐空気漏れ性能シミュレーション試験機20は、空気入りタイヤ1のどこの部分から空気が漏れやすいかをユーザーに図示できる。なお、
図6に示す画像は、静止画でもよいし、各要素ELの単位時間あたりの空気透過量AFLiの時間による変化を示すための動画(アニメーション)でもよい。
【0043】
本実施形態では、演算部35は、ステップST05で、解析結果が収束するまで解析を継続する。すなわち、演算部35は、各要素ELの単位時間あたりの空気透過量AFLiが定常となるまで、つまり、単位時間あたりの空気透過量AFLiの時間変化量が0、または、所定値以内になるまで解析を継続する。ステップST06で演算部35が抽出する各要素ELの単位時間あたりの空気透過量AFLiは、定常となった時点での単位時間あたりの空気透過量AFLiでもよいし、非定常の時点での単位時間あたりの空気透過量AFLiでもよい。但し、演算部35が非定常の時点での単位時間あたりの空気透過量AFLiを抽出する場合、タイヤ外表面側の各要素ELoの単位時間あたりの空気透過量AFLiが0である場合もある。よって、本実施形態では演算部35は、ステップST06で、定常となった時点での単位時間あたりの空気透過量AFLiを抽出する。
【0044】
または、演算部35は、単位時間あたりの空気透過量AFLiが非定常から定常となるまでの複数の時点での、単位時間あたりの空気透過量AFLiを複数抽出してもよい。この場合、ステップST08で、演算部35は、各時点での単位時間あたりのタイヤ外表面の空気透過量AFLを算出する。そして、ステップST12で、表示装置制御部36は、各時点での単位時間あたりのタイヤ外表面の空気透過量AFLを示す画像を表示装置21に表示させる。この場合、耐空気漏れ性能シミュレーション試験機20は、単位時間あたりのタイヤ外表面の空気透過量AFLの時間変化をユーザーに示すことができる。次に、耐空気漏れ性能シミュレーション試験機の精度について説明する。
【0045】
図7は、耐空気漏れ性能シミュレーション試験機の精度を示すための図表である。
図7には、基準サンプル〜サンプル3の各空気入りタイヤ1のシミュレーション値と、サンプル2を除く基準サンプル〜サンプル3の各空気入りタイヤ1の実測値とが示されている。シミュレーション値は、耐空気漏れ性能シミュレーション試験機20を用いて算出した月あたりの空気漏れ率Aoutrである。実測値は、実物の空気入りタイヤ1で測定した月あたりの空気漏れ率Aoutrである。基準サンプルのシミュレーション値をX(%)とし、基準サンプルの実測値をY(%)とする。
【0046】
XとYとは必ず一致するとは限らないが、
図7に示すように、基準サンプルに対する各サンプルの比は、シミュレーション値と実測値とで近似する。仮に、XとYとが一致しない場合であっても、ユーザーにとって大事な情報は、どのサンプル(空気入りタイヤ1)が、耐空気漏れ性能に優れるかである。よって、耐空気漏れ性能シミュレーション試験機20は、実用に足る精度で空気入りタイヤ1の耐空気漏れ性能をシミュレーションできる。
【0047】
以上のように、耐空気漏れ性能シミュレーション試験機20は、試験体を実際に試作する必要もなく、また、試験体の内部から外部へ漏れ出る空気量を実測する必要もなく、空気入りタイヤ1の耐空気漏れ性能を試験できる。空気入りタイヤ1のモデルの作成に要する時間や、
図4に示す空気入りタイヤ1の有限要素モデル2の作成に要する時間は、試験体を実際に試作するために要する時間よりも短い。また、各種演算に要する時間は、試験体の内部から外部へ漏れ出る空気量を実測する場合よりも短い。よって、耐空気漏れ性能シミュレーション試験機20は、空気入りタイヤ1の耐空気漏れ性能の試験に要する時間を低減できる。結果として、耐空気漏れ性能シミュレーション試験機20は、空気入りタイヤ1の構造の改良に要する時間を低減できる。また、耐空気漏れ性能シミュレーション試験機20を用いれば、ユーザーは、試験体を試作する場合よりも、気軽に空気入りタイヤ1の構造を変更できる。よって、耐空気漏れ性能シミュレーション試験機20を用いれば、ユーザーは、より積極的に空気入りタイヤ1の構造を変更できる。