(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本願の開示するリニアモータシステムの実施形態を、図面を参照しながら具体的に説明する。なお、以下に示す実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0011】
図1Aは、実施形態に係るリニアモータシステムを示す説明図である。
図1Aに示すように、リニアモータシステム100は、リニアモータ1と制御装置2とを備える。
【0012】
本実施形態に係るリニアモータ1は、巻線の集合体である電機子巻線ユニット11が複数配設された固定子12と、固定子12と対向して配設された可動子13とを備える。
【0013】
電機子巻線ユニット11の設置数は適宜に設定可能であるが、以下では、説明を容易にするために、固定子12は、6つの電機子巻線ユニット11が配設された構成とする。なお、以下では、6つの電機子巻線ユニット11を、便宜的に第1ユニット111〜第6ユニット116として表記する場合がある。
【0014】
また、リニアモータ1は、いわゆるMM(Moving Magnet)形リニアモータであり、可動子13は永久磁石131を備える。
【0015】
固定子12は、6つの電機子巻線ユニット11が所定間隔をあけて列状に配置され可動子13の移動路3を構成する。すなわち、6つの電機子巻線ユニット11が可動子13の移動方向に間引いて配置される。そのため、省配線となりコスト低減を図ることができ、例えば長距離搬送用として好適に用いることができる。
【0016】
図示するように、可動子13の移動路方向長さは、各電機子巻線ユニット11の移動路方向長さ以上に設定される。そして、6つの電機子巻線ユニット11は、少なくとも1つの電機子巻線ユニット11の全体が可動子13に覆われるように配置される。
【0017】
制御装置2は、給電制御機能を有し、対向する可動子13に全体がかかるように位置する電機子巻線ユニット11を給電対象として順次切替え、給電対象となった電機子巻線ユニット11に順次給電することにより可動子13を駆動する。
【0018】
かかる給電制御機能は、具体的には、給電対象となる電機子巻線ユニット11毎に、速度指令に基づく給電制御の演算を行い、かかる演算の結果に基づいて、給電対象となる電機子巻線ユニット11に順次給電する機能である。こうして、制御装置2は、可動子13を駆動することができる。
【0019】
また、制御装置2は、給電対象である電機子巻線ユニット11を切り替える際に、切り替え先の電機子巻線ユニット11に対する給電制御の切替補償を行う給電切替補償機能を有する。
【0020】
すなわち、本実施形態に係るリニアモータシステム100の制御装置2は、給電対象である電機子巻線ユニット11を切り替える際に、給電制御の処理についても給電対象毎に順次切り替える。
【0021】
かかる給電制御の処理を切り替える際に、可動子13の速度変化によって生じる衝撃、いわゆる切替えショックが発生するおそれがある。そこで、給電切替補償機能を付加することにより、実施形態に係るリニアモータシステム100では、給電対象である電機子巻線ユニット11が切り替わる際の切替えショックを効果的に抑制することができる。
【0022】
ここで、実施形態に係るリニアモータシステム100について、制御装置2をより具体的な構成例で示した
図1Bを参照して説明する。
図1Bは、本実施形態に係るリニアモータシステム100の具体的な構成例を示す図である。
【0023】
図1Bに示すように、制御装置2は、6つの電機子巻線ユニット11にそれぞれ対応して設けられた6つの第2制御装置22と、これら第2制御装置22の上位装置となる第1制御装置21とを備える。
【0024】
第1制御装置21は、速度指令を第2制御装置22へ出力するとともに、可動子13が対向した電機子巻線ユニット11に対応する第2制御装置22を給電制御対象として順次選択する。
【0025】
6つの電機子巻線ユニット11である第1ユニット111〜第6ユニット116にそれぞれ対応する6つの第2制御装置22は、1対1で対応する電機子巻線ユニット11に電力を供給する。各第2制御装置22は、給電制御対象として選択された場合、第1制御装置21から出力される速度指令に基づいて給電制御の演算を行い、当該演算の結果に基づいて対応する電機子巻線ユニット11に給電する。また、給電制御の演算を行う際には、給電制御処理に対して前述の切替補償を行う。なお、以下の説明では、6つの第2制御装置22を、第1ユニット111〜第6ユニット116にそれぞれ1対1で対応する第1アンプ221〜第6アンプ226と表す場合がある。
【0026】
図1Bに示すように、可動子13の現在位置に応じて、間引き配置された第1ユニット111〜第6ユニット116に対し、それぞれ1対1で対応する6つの第1アンプ221〜第6アンプ226から順次駆動電力が供給される。例えば、
図1Bに示すように、可動子13が対向する第2制御装置22が、第5ユニット115から第6ユニット116に移って行く場合、電力を供給する第2制御装置22は、第5アンプ225から第6アンプ226へと切り替わる。
【0027】
また、
図1Bに示すように、可動子13の移動路3における複数の電機子巻線ユニット11の配設領域は、位置決め領域31と送り領域32とに区画される。
【0028】
位置決め領域31は、後述する位置センサの検出信号を用いて、可動子13の高精度な位置決めがなされる領域である。一方、送り領域32は、位置センサからの検出信号を用いることなく、可動子13を略一定速で移動させる領域である。
【0029】
本実施形態に係るリニアモータシステム100では、図示するように、可動子13がリニアスケール4を備えており、位置決め領域31に配設された電機子巻線ユニット11に、位置センサの一例であるスケール検出ヘッド5が設けられる。ここでは、図示するように、スケール検出ヘッド5は、それぞれ位置決め領域31に配設された第1、第2ユニット111,112および第5、第6ユニット115,116に設けられる。
【0030】
スケール検出ヘッド5は、リニアスケール4を磁気的あるいは光学的に検出するように構成されており、リニアスケール4を検出した結果に基きパルス信号からなる位置検出信号を生成する。そして、スケール検出ヘッド5は、第2制御装置22とケーブル51を介して電気的に接続されており、スケール検出ヘッド5から出力される位置検出信号は第2制御装置22に入力される。
【0031】
このように、制御装置2は、位置決め領域31においては、スケール検出ヘッド5からの位置検出信号の入力に基づいて、可動子13の位置を導出し、その駆動を制御している。
【0032】
一方、送り領域32に配設された電機子巻線ユニット11にはスケール検出ヘッド5は設けられない。送り領域32では、制御装置2は、スケール検出ヘッド5による位置検出信号を用いないセンサレス制御を行うようにしている。かかるセンサレス制御については後に詳述する。
【0033】
上述してきたように、本実施形態に係るリニアモータシステム100では、可動子13にリニアスケール4を設け、かかるリニアスケール4を、複数のスケール検出ヘッド5により検出するようにしている。したがって、リニアスケール4を短くすることができ、スケール歪みなどの心配がなくなるとともに、コスト低減にも寄与することができる。
【0034】
また、上述したように、本実施形態に係るリニアモータシステム100では、位置決め領域31に配設された電機子巻線ユニット11にスケール検出ヘッド5を設けるようにした。しかし、位置決め領域31を拡大したり、あるいは可動子13の移動路3に位置決め領域31を増やしたりする場合に備え、送り領域32に配設した電機子巻線ユニット11についてもスケール検出ヘッド5を設置しておくこともできる。
【0035】
ここで、
図2A〜
図4を参照しながら、本実施形態に係るリニアモータシステム100の構成について、より具体的に説明する。
図2Aは、本実施形態に係るリニアモータシステム100の構成を示すブロック図、
図2Bは、送り領域32に配設された電機子巻線ユニット11に対応する第2制御装置22が備える速度・磁極演算部を示すブロック図である。また、
図3は、移動路3の一部を示す説明図、
図4は、給電切替補償部の構成を示すブロック図である。
【0036】
図2Aに示すように、リニアモータシステム100は、リニアモータ1と制御装置2とを備える。
【0037】
リニアモータ1は、図示を省略した複数の電機子巻線ユニット11を備える固定子12(
図1A、
図1Bを参照)と可動子13とを備える。また、制御装置2は、複数の第2制御装置22と、これら第2制御装置22の上位装置である第1制御装置21とを備える。
【0038】
なお、複数の第2制御装置22は、
図1A、1Bに示した可動子13の移動方向を示すX軸方向(移動路3の長手方向)に間引いて配置された複数の電機子巻線ユニット11にそれぞれ対応して配置される。
【0039】
そして、これら複数の第2制御装置22は、第1制御装置21との通信接続用バス23を介して互いにそれぞれ接続される。また、ここにおいても、電機子巻線ユニット11の配設領域は、位置決め領域31と送り領域32とに区画されている(
図1Bを参照)。
【0040】
図示するように、第1制御装置21は、各第2制御装置22に速度指令Spd
*を出力する速度指令出力部211と、可動子13の位置を演算する可動子位置演算部213と、IDを出力する制御アンプ選択部212(以下、「選択部212」と表す)とを備える。
【0041】
すなわち、第1制御装置21は、可動子13の位置に応じて、複数の第2制御装置22の中から電機子巻線ユニット11への給電制御を行う第2制御装置22を給電制御対象として選択し、給電制御のための指令を出力する。
【0042】
このとき、可動子位置演算部213は、給電制御対象であることを示すIDを第2制御装置22に出力する。かかるIDは、第2制御装置22の選択番号を示すものである。例えば、第2制御装置22として6つの電機子巻線ユニット11にそれぞれ対応する第1アンプ221〜第6アンプ226がある場合(
図1B参照)、ID1〜ID6が第1アンプ221〜第6アンプ226に対応する。
【0043】
可動子位置演算部213は、通信接続用バス23を介して得た可動子13の位置検出信号Pos1〜6に基き、可動子13の位置を示す位置信号Posを選択部212に出力する。
【0044】
本実施形態に係るリニアモータシステム100では、リニアスケール4は移動路3の全体に亘ってではなく、可動子13にのみ設けられている。そのため、このままでは可動子13の位置を得ることができない。そこで、第1制御装置21は、スケール検出ヘッド5からの位置検出信号を入力する第2制御装置22を切り替えながら、2つの第2制御装置22から得られる位置情報に基づいて可動子13の位置を演算している。
【0045】
図3は、移動路3の一部を示した説明図である。ここでは、複数の電機子巻線ユニット11を、
図1A、
図1Bと同容に、第1ユニット111、第2ユニット112、第3ユニット113・・と区別して表している。また、同様に、第2制御装置22についても、第1アンプ221、第2アンプ222、第3アンプ223・・と区別して表している。
【0046】
ここでは、図示するように、可動子13が、位置決め領域31にあって、第1ユニット111から第2ユニット112の方へ移動する場合とする。第1アンプ221からは、スケール検出ヘッド5から得たスケール情報が初期値Pos(A)として出力される。一方、第2ユニット112に対応する第2アンプ222からは、リニアスケール4から得られる差分位置がdPos(B)として出力される。
【0047】
第1制御装置21の可動子位置演算部213は、上述した2つの位置情報から、次の式(1)に基づいて可動子13の位置(Posi)を得る。
【0048】
Posi=Pos(A)+dPos(B)・・・・・・・(1)
【0049】
他方、可動子13が送り領域32にある場合、可動子位置演算部213は、スケール検出ヘッド5による位置検出信号はないため、第2制御装置22で推定した位置情報に基づいて可動子13の位置(Posi)を導出することになる。なお、送り領域32における第2制御装置22による可動子13の位置推定については後述する。
【0050】
可動子位置演算部213から、可動子13の位置(Posi)を示す位置信号Posを入力した選択部212は、かかる位置信号Posに基き、可動子13が対向した電機子巻線ユニット11を給電対象に切り替えるためのIDを第2制御装置22に出力する。
【0051】
すなわち、選択部212は、可動子13の位置を示す位置信号Posによって、給電対象となる電機子巻線ユニット11を識別する。そして、これに対応する給電制御対象としての第2制御装置22を選択し、選択した給電対象を示すIDを第2制御装置22に出力して給電制御を実行させる。
【0052】
ところで、
図2Aにおいて、速度指令Spd
*およびIDの信号伝達は、便宜上、第1制御装置21から所定の第2制御装置22のみに直接出力されているように示したが、実際には通信接続用バス23を介して全ての第2制御装置22へ通信されるものである。
【0053】
このように、第1制御装置21は、可動子13の位置に基づいて、可動子13が対向した電機子巻線ユニット11に対応する第2制御装置22を給電制御対象として順次切り替えて行くことができる。そして、給電対象となった電機子巻線ユニット11に第2制御装置22から順次給電させて推力を発生させることにより、可動子13を駆動することができる。
【0054】
次に、第2制御装置22について説明する。第2制御装置22は、上述した第1制御装置21からの速度指令Spd
*に基き、IDを入力して給電制御対象として選択されたときに、対応する電機子巻線ユニット11に対する給電制御を行う。かかる第2制御装置22は、例えば、
図1Bに示した第1アンプ221〜第6アンプ226として機能するもので、1対1で対応する電機子巻線ユニット11に給電する。
【0055】
複数の第2制御装置22は、それぞれ、給電制御部24と、給電切替補償部25とを備える。
【0056】
給電制御部24は、速度・磁極演算部241(以下、単に「演算部241」とする場合がある)と、減算部242と、速度制御部243と、乗算部244と、電流制御部245とを備える。
【0057】
そして、給電制御部24は、第1制御装置21の速度指令出力部211から出力される速度指令Spd
*に基づいて給電制御の演算を行い、かかる演算結果に基づき、所定の電圧Vuvwで対応する電機子巻線ユニット11に給電する。
【0058】
演算部241は、通信接続用バス23を介して、給電対象として切り替わる前の電機子巻線ユニット11に対応する第2制御装置22の位置情報であるX軸の位置パルスPosx(Posx’)を入力する。そして、かかる位置パルスPosx(Posx’)を差分演算などで速度に変換して可動子13の速度信号Spdxを減算部242に出力するとともに、可動子13の磁極位置θを演算して電流制御部245に出力する。なお、ここで、X軸とは移動路3における可動子13の移動方向を示す。
【0059】
ここで、位置パルスPosx、Posx’、および速度フィードバック値Spdx’について説明を加える。なお、以下の説明では、可動子13が対向した電機子巻線ユニット11に対応する第2制御装置22を自局装置と表し、それ以外を他局装置と表す場合がある。
【0060】
位置パルスPosxは、スケール検出ヘッド5から出力される信号であり、自局装置がスケール検出ヘッド5を介して入力する情報、つまり、可動子13の移動路3上の位置を制御するための位置情報に相当する。一方、位置パルスPosx’は、他局装置が、自局装置がスケール検出ヘッド5を介して入力する信号を通信接続用バス23を介して入力する信号である。あるいは、位置パルスPosx’は、自局装置以外の他局装置が推定演算した信号である。
【0061】
また、速度フィードバック値Spdx’は、他の第2制御装置22(他局装置)から得られる可動子13の推定速度、または可動子13が対向した電機子巻線ユニット11に対応する第2制御装置22(自局装置)に入力された信号を微分演算した信号である。
【0062】
また、
図2Bに示すように、送り領域32に配設された電機子巻線ユニット11に対応する第2制御装置22の演算部241は、所定の検出器により検出された電流値Iuvwと、電流制御部245から出力される電圧指令Vuvw
*とを入力する。そして、後述する推定部71(
図5参照)で推定位相θ^[k]および推定速度ω^
lpf[k]を推定するとともに、推定した推定位相θ^[k]および推定速度ω^
lpf[k]に基づき、可動子位置posx^[k]および可動子速度spdx^[k]を推定する。さらに、可動子位置posx^[k]と、上記した位置パルスPosx’とから磁極θを算出するとともに、可動子速度spdx^[k]と、上記した速度フィードバック値Spdx’とから可動子速度spdxを算出する。
【0063】
減算部242は、通信接続用バス23を介して得た第1制御装置21からの速度指令Spd
*と、演算部241から入力された速度信号Spdxとを比較して、速度指令Spd
*と速度信号Spdxとの偏差、すなわち速度偏差を速度制御部243に出力する。
【0064】
速度制御部243は、減算部242からの速度偏差と、後述する給電切替補償部25の積分値補償部251から入力されるX軸の積分補償値Intg compとを入力して演算し、所定のトルク指令F
*を出力する。
【0065】
かかる速度制御部243は、
図4に示すように、積分器TsKiと加算器246とトルクフィルタ248を備えており、減算部242から入力される速度偏差を積分した速度積分値を用いてトルク指令Fx
*を生成する。
【0066】
乗算部244は、速度制御部243からのトルク指令F
*と、後述する給電切替補償部25の分配率演算部252から出力される分配率αとを乗算し、補償された適切なトルク指令F
*を電流制御部245に出力する。
【0067】
電流制御部245は、インバータ回路などからなる図示しない電力変換部などを備えている。かかる電流制御部245は、速度指令Spd
*に応じたトルク指令F
*に基づき、対応する電機子巻線ユニット11への給電電流を制御して、所定の電圧Vuvwで固定子12を構成する電機子巻線ユニット11に給電する。
【0068】
次に、給電切替補償部25について説明する。給電切替補償部25は、第1制御装置21から出力されたIDが入力される際に、給電制御部24に対する切替補償を行う機能を有する。すなわち、給電制御部24による給電制御の演算を補償する機能を有する。
【0069】
本実施形態に係る切替補償は、例えば、積分値補償や分配率演算であり、
図2に示すように、給電切替補償部25は、積分値補償部251および分配率演算部252を備える。
【0070】
本実施形態に係る積分値補償部251は、直前に給電制御対象として選択された第2制御装置22が有する速度積分値を、切り替え先である第2制御装置22の速度制御部243の速度積分値として設定するようにしている。例えば、
図1Bを参照して説明すると、可動子13が第5ユニット115を通過して第6ユニット116に移動する場合、積分値補償部251は、第5アンプ225が有する速度積分値を、第6アンプ226の速度制御部243で用いる速度積分値として設定する。
【0071】
積分値補償部251は、
図4に示すように、スイッチ部255と、加算部256とを備える。かかる積分値補償部251による処理が実行されるタイミングは、第1制御装置21から出力されたIDを入力したときである。
【0072】
図示するように、本実施形態に係る積分値補償部251は、第1制御装置21から給電対象として選択されたことを示すIDを入力すると、スイッチ部255が切り替わるように構成される。
【0073】
そして、前述したように、例えば、可動子13が第5ユニット115を通過して第6ユニット116に移動する場合であれば、第6アンプ226の速度制御部243で用いる速度積分値として、第5アンプ225の速度偏差積分値Intgx’が入力される。その後、スイッチ部255が切り替えられて通常のループとなり、積分値補償部251から速度制御部243にX軸の積分補償値Intg compが速度積分値として出力される。
【0074】
このように、本実施形態に係るリニアモータシステム100は、給電制御対象として切り替えられる2つの第2制御装置22、22の間で、切替直前の速度積分値が引き継がれることにより、切替時のショックが抑制される。なお、切り替え前の第2制御装置22から速度偏差積分値Intgx’が入力される構成としては、必ずしもスイッチ部255を備える必要はない。給電制御対象が切り替えられるタイミングで切替直前の第2制御装置22の速度偏差積分値Intgx’が入力されるのであればいかなる構成であっても構わない。
【0075】
また、分配率演算部252は、分配率演算器258を備えており、例えば、可動子13が移動する際に、可動子13が円滑に移動できるようにトルクの分配率を演算して、第2制御装置22同士の出力干渉を抑制する。
【0076】
すなわち、分配率演算部252は、第1制御装置21から給電対象として選択されたことを示すIDを入力すると、直前に給電制御対象として選択された第2制御装置22との間の制御干渉を抑制するために、可動子13の位置関係でトルク分配率αを決定する。そして、かかるトルク分配率αが、電流制御部245に入力されるトルク指令F
*に乗算部244で乗算されることによって切替補償がなされる。
【0077】
例えば、
図1Bに示すように、移動中の可動子13が、第5ユニット115と第6ユニット116に跨った状態になるときを想定する。分配率演算部252は、第5ユニット115および第6ユニット116の推力の立上がり、立下りが線形になるトルク指令F
*が電流制御部245に出力されるように、トルク分配率αを決定する。
【0078】
すなわち、分配率演算部252は、可動子13と第5ユニット115および第6ユニット116とのそれぞれの距離に応じたトルク分配率αを決定し、第5ユニット115と第6ユニット116との間での制御干渉を抑制させるようにしている。
【0079】
そのため、第5ユニット115では推力が所定の傾きで漸次減少し、第6ユニット116では推力が所定の傾きで漸次増加するように切替補償が行われ、その結果、可動子13は、第5ユニット115から第6ユニット116の間をスムーズに移動することになる。
【0080】
このように、本実施形態に係る給電切替補償部25は、電機子巻線ユニット11が給電対象に切り替わる際に、直前に給電制御対象として選択された第2制御装置22の制御状態に基づいて、切り替え先の電機子巻線ユニット11に対する給電制御の切替補償を行う。したがって、給電対象である電機子巻線ユニット11が切り替わる際の可動子13に対する切替えショックを抑制することができる。
【0081】
ここで、可動子13が略一定速度で移動する送り領域32に配設された電機子巻線ユニット11に対応する第2制御装置22が実行するセンサレス制御について説明するとともに、かかる推定部71による推定結果を利用した切替補償について説明する。
【0082】
図5は、センサレス制御を行う第2制御装置22の給電制御部24が演算部241内に備える推定部71のブロック図である。なお、この場合の第2制御装置22は、
図1Bにおいて、送り領域32に配設された第3ユニット113および第4ユニット114にそれぞれ対応する第2制御装置22である第3アンプ223と第4アンプ224とした。よって、
図5の上段に示されるのは第3アンプ223の推定部71であり、下段に示されるのは第4アンプ224の推定部71である。なお、これら2つの推定部71の構成はいずれも同じである。
【0083】
図示するように、推定部71は、誘起電圧推定部711と、位相推定部712と、位相演算部713とを備える。誘起電圧推定部711は、例えば、誘起電圧推定器やオブザーバなどであり、推定誘起電圧E^
γ,E^
δを位相推定部712に出力する。
【0084】
位相推定部712は、PLL回路を備えており、入力した推定誘起電圧E^
γ,E^
δに基づいて、推定速度ω^
lpf[k]を出力する。また、推定速度ω^
lpf[k]を位相演算部713に入力して積分することにより、推定位相θ^[k]を出力する。また、推定部71は、前述したように、推定位相θ^[k]および推定速度ω^
lpf[k]に基づき、磁極θを算出するための可動子位置posx^[k]と、可動子速度spdxを算出するための可動子速度spdx^[k]を推定する。図示するように、可動子位置posx^[k]は、第1演算部714により、磁極−可動子位置の変換係数であるK1を乗算して得られる。また、可動子速度spdx^[k]は、第2演算部715により、電気角速度−可動子速度の変換係数K2を乗算して得られる。
【0085】
かかる推定部71において、給電対象として切り替わる前の電機子巻線ユニット11に対応する第2制御装置22の推定部71で演算された推定位相θ^[k]および推定速度ω^
lpf[k]を第2制御装置22同士で受け渡すようにしている(矢印a1を参照)。つまり、推定部71により推定した推定位相θ^[k]および推定速度ω^
lpf[k]を、給電対象である電機子巻線ユニット11を切り替える際に、第2制御装置22同士で受け渡すのである。こうして、給電対象として切り替わる前の推定位相θ^[k]および推定速度ω^
lpf[k]が、そのまま切り替え後の推定位相θ^[k]および推定速度ω^
lpf[k]として設定されることになる。
【0086】
そして、かかる推定位相θ^[k]および推定速度ω^
lpf[k]に基づく推定位置パルスPosx’を推定位置情報として出力する。すなわち、送り領域32に配設された電機子巻線ユニット11に対応する第2制御装置22は、スケール検出ヘッド5からの位置パルスPosxを用いることができない。そのため、スケール検出ヘッド5からの位置パルスPosxに代わる情報として、推定部71により推定した推定位置パルスPosx’を出力するようにしている。
【0087】
なお、かかる推定部71による推定結果を利用した切替補償の実行タイミングは、第1制御装置21からIDが出力されるタイミングよりも若干早いタイミング、すなわち、積分値補償や分配率演算による補償よりも早いタイミングとすることが好ましい。そのためには、例えば、可動子13が送り領域32にあると第1制御装置21が判断した場合、上述したIDとは別に、推定部71による切替補償の実行タイミングの指令となる信号を出力するなど、適宜の方法を採用することができる。
【0088】
このように、本実施形態に係るリニアモータシステム100では、センサレス制御を行う第2制御装置22の給電制御部24が備える推定部71についても、給電切替補償部の一例として機能することになる。かかる切替補償を行うことにより、センサレス制御を行う送り領域32において、給電制御対象の切替時における立ち上げを早くすることができ、センサレス制御における応答性を高めて推定誤差を可及的に早く収束させることができる。
【0089】
ところで、上述した例では、矢印a1で示したように、給電対象として切り替わる前の電機子巻線ユニット11に対応する第2制御装置22の推定部71で演算された推定位相θ^[k]および推定速度ω^
lpf[k]を第2制御装置22同士で受け渡すようにした。しかし、例えば、
図5中の矢印a2で示すように、速度推定部712で得られる推定速度ω^[k]を第2制御装置22同士で受け渡すこともできる。
【0090】
このように、位置決め領域31に配設された電機子巻線ユニット11に対応する第2制御装置22と、送り領域32に配設された電機子巻線ユニット11に対応する第2制御装置22とでは、給電制御部24の演算部241による処理の設定のみが異なる。本実施形態に係るリニアモータシステム100では、複数の第2制御装置22の構成は共通のものとしている。その上で、送り領域32に配設された電機子巻線ユニット11に対応する第2制御装置22の演算部241については、可動子13の推定位相θ^[k]と推定速度ω^
lpf[k]とを推定させるようにしている。勿論、送り領域32に配設された電機子巻線ユニット11に対応する第2制御装置22と、位置決め領域31に配設された電機子巻線ユニット11に対応する第2制御装置22とで、互いに構成を異ならせてもよい。
【0091】
図6は、給電切替補償前の動作波形を示す図、
図7は、給電切替補償後の動作波形を示す図である。
図7に示すように、本実施形態に係るリニアモータシステム100は、給電切替補償部25を備えるため、給電対象の切替前後において速度偏差を示す動作波形が安定し、急激な変動は生じない。すなわち、
図6に示す給電切替補償前の動作波形と比較して、給電切替補償後は、
図7に示すように、動作波形の変動が穏やかになる。
【0092】
なお、
図6および
図7の上段のグラフは速度偏差を示し、
図6および
図7の下段のグラフは推力指令を示す。また、
図6および
図7の上段のグラフにおいて、給電制御対象である第2制御装置22の切替えがなされるタイミング250を含む領域を円状に囲って示した。
【0093】
図8は、本実施形態に係るリニアモータシステム100における位置決め領域31と送り領域32とにおける速度指令および推力指令の変化を示す図である。
図8の上段のグラフが速度指令の変化、下段のグラフが推力指令の変化を示す。なお、図において、送り動作区間(センサレス)と示した領域が送り領域32に相当し、高精度位置決め区間(センサ付)と示した領域が位置決め領域31に相当する。
【0094】
図示するように、本実施形態に係るリニアモータシステム100によれば、送り領域32では、速度指令に応じて推力指令は変動する。例えば、スケール検出ヘッド5による検出信号を用いないセンサレス制御が実行される送り領域32において、速度指令に応じて一定速度で可動子13は移動するが、そのときの推力指令は、図示するように、極めて変動が小さいことが分かる。
【0095】
すなわち、本実施形態に係るリニアモータシステム100では、給電制御対象となる第2制御装置22が切替えられるタイミングTを含む送り領域32においても、上述した切替補償がなされるため、切替えショックが抑制されていることが分かる。
【0096】
ところで、
図2Aで示した構成からなる本実施形態に係るリニアモータシステム100では、速度指令に基づいて電機子巻線ユニット11への給電制御を行うようにしている。これに対し、上位の制御装置からのトルク指令によって、下位装置であるアンプが給電対象となる電機子巻線ユニット11への給電制御を行うこともある。
【0097】
ここで、
図9Aと
図9Bとを比較しながら、速度指令に基づく給電制御の優位性について説明する。
図9Aは、トルク指令切替における速度指令と速度偏差を比較例として示す図であり、
図9Bは、実施形態に係るリニアモータシステム100おける速度指令切替における速度指令と速度偏差を示す図である。なお、
図9A、
図9Bのそれぞれにおいて、上段のグラフは速度指令に対する応答の速度を示し、下段のグラフが速度偏差を示す。
【0098】
図9Aの比較例に示すように、上位装置と下位装置との間を、通信接続用バス23を介して接続しているため、通信遅れに起因して、速度偏差を示す信号の変動が大きくなっている。したがって、制御の精度を高めることが難しいことが分かる。
【0099】
それに対し、
図9Bに示すように、速度指令に基づく給電制御の場合、速度偏差は比較的安定する。したがって、速度指令に基づく給電制御が、トルク指令に基づく給電制御に比べてより高精度の制御が実現可能であることが分かる。
【0100】
以上、説明したように、本実施形態に係るリニアモータシステム100は、永久磁石を有する可動子13を備えたMM(Moving Magnet)形リニアモータを用い、電機子巻線ユニット11を、可動子13の移動方向に間引いて配置した。したがって、本リニアモータシステム100は、省配線化が実現でき、コスト低減を図ることができるため、長距離搬送用として好適に用いることができる。
【0101】
また、本実施形態に係るリニアモータシステム100は、複数の第2制御装置22が、第1制御装置21との通信接続用バス23を介して互いにそれぞれ接続されている。そして、給電制御対象として選択される第2制御装置22の給電切替補償部25は、直前に給電制御対象として選択された第2制御装置22が給電制御に用いた制御値を切替前後で引き継いで切替補償を行うように構成される。
【0102】
したがって、給電制御の切替補償精度を高めることができ、リニアモータシステム100において、より安定した給電制御が可能となる。そして、切替補償の実行タイミングとしては、上述した例に限らず、適宜設定することができる。
【0103】
ところで、リニアモータシステム100における移動路3における位置決め領域31および送り領域32の数や設定位置は、上述した実施形態の態様に限定されることはなく、自由に設定することができる。
【0104】
また、さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付の特許請求の範囲およびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。
【解決手段】所定間隔をあけて複数の電機子巻線ユニットが配設された固定子と、永久磁石を有する可動子と、制御装置とを備える。制御装置は、可動子が対向する電機子巻線ユニットを給電対象とし、給電対象毎に速度指令に基づく給電制御の演算を行い、電機子巻線ユニットに順次給電する。また、制御装置は、給電対象を切り替える際の給電切替補償機能を有する。