(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
平板状の円形をなし、すくい面となる上面と、前記上面と対向して配置されて該上面より小径の底面と、前記上面と前記底面をつなぐ円錐状をなして逃げ面となる外周面と、前記上面から前記底面を貫通するねじ挿通孔と、前記すくい面と前記逃げ面によって形成された稜線部に切れ刃を備えた円形のインサートを、前記ねじ挿通孔に挿入したねじ部材のねじ締結により工具本体のインサート固定部に着脱自在に取付ける刃先交換式切削工具において、
前記インサートはその前記外周面に、少なくとも一つの回動防止面を備え、
前記インサートの厚さをh1、前記底面から前記回動防止面の上端までの高さをh2、前記底面から前記回動防止面の下端までの高さをh3としたとき、前記h2は下記の式(1)を、前記h3は下記の式(2)を満足し、
前記工具本体の前記インサート固定部は、
前記インサートの前記底面が着座する着座面と、
前記着座面の端部から立設され、前記着座面に着座した前記インサートの前記外周面を拘束する2つの円弧形状をなす受け面と、
前記2つの受け面の間であって前記着座面から立設され、前記着座面に着座して取付けられた前記インサートの前記回動防止面に当接する回動防止部と、
を備え、
前記工具本体の前記着座面に取付ける前記インサートの前記切れ刃の軸方向すくい角の正負に対応させて、前記インサートを前記着座面に取付けるための前記ねじ部材を右ねじ又は左ねじとしていることを特徴とする刃先交換式切削工具。
(1/2)h1≦h2≦(2/3)h1 ・・・・・・・式(1)
(1/10)h1≦h3≦(1/3)h1 ・・・・・・式(2)
前記工具本体の前記インサート固定部が備えている前記回動防止部であって、前記着座面に取付けられた前記インサートの前記回動防止面に当接させる箇所となる拘束面を、平坦面又は凸円弧面に形成していることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の刃先交換式切削工具。
前記工具本体の前記着座面と受け面と回動防止部には、周期律表4a、5a、6a族金属、Al、Si、Bの元素から選択される1種以上の元素を含有する窒化物、炭窒化物、酸窒化物のいずれかからなる硬質皮膜が被覆されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の刃先交換式切削工具。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明に係る刃先交換式切削工具の一実施形態の構成を、
図1から
図3を参照して説明する。
図1に示すように、本発明の一実施形態となる刃先交換式切削工具(1)は、工具本体(2)の先端部の外周面に沿って等間隔で形成された複数のインサート固定部(11)に設けた着座面(13)のそれぞれに、円形の超硬合金製からなるインサート(3)(以下、単に「インサート(3)」と記載する場合がある)をねじ部材である止めねじ(10)によって固定する構成になっている。なお、工具本体(2)は、その着座面(13)にインサート(3)を固定したときに、インサート(3)の切れ刃の軸方向すくい角が適切な正角又は負角になるような構成として予め製造されている。
【0023】
円形のインサート(3)は、
図1〜
図3に示すように、平板状をなし、平面視で円形をなしている。インサート(3)の中央部には、このインサートを工具本体(2)の着座面(13)へねじ締結により固定するための止めねじ(10)を挿入するためのねじ挿通孔(9)が、すくい面となる上面(4)から底面(5)へ貫通させて設けられている。また、上面(4)と対向する底面(5)は、上面(4)よりも小径の円形をなしている。そして、インサート(3)の上面(4)と底面(5)を繋ぐ外周面は円錐状の外周面(7)とされ、この外周面(7)はインサート(3)を工具本体(2)のインサート固定部(11)に固定するための第1の固定面となる。なお、上面(4)と外周面(7)とが交わる稜線部には、この稜線部の全周にわたって切れ刃(6)が形成されている。
【0024】
円錐状をなす外周面(7)には、回動防止面(8)が形成されている。回動防止面(8)は、円錐状の外周面(7)に少なくとも一つ設ければよいが、円錐状の外周面(7)に等間隔で複数個(複数面)設けることが望ましい。回動防止面(8)は、
図2に示すように、その上面部は円弧状をなしているが、この円弧状の上面部から底面(5)に向かう面は平面状(平坦面)、あるいは凹状の形状(凹部形状)(
図8参照)にする。
なお、
図2(
図3)に示すように、インサート(3)の外周面(7)が備えている回動防止面(8)は、外周面(7)に対して窪んだ状態になっており、超硬合金粉末によるインサート(3)の成形時に回動防止面(8)を形成するようにする。
【0025】
図4〜
図6は、
図2に示すインサート(3)の側面図において、各矢印A、B、Cで示す位置における底面(5)と平行な面における断面図を示している。
【0026】
図2のAにおける断面図を示す
図4においては、この断面が回動防止面(8)を横切っていないために、円形の外周面(7)とねじ挿通孔(9)のみが示されている。これに対して、
図2のBにおける断面図を示す
図5においては、この断面が回動防止面(8)を横切っているために、6つの回動防止面(8)が外周面(7)を介して示されている。このことは、
図2に示すインサート(3)の円錐状の外周面(7)に、等間隔で6個(面)の回動防止面(8)を設けたことを示している。
また、
図2のCにおける断面図を示す
図6においては、この断面が回動防止面(8)を横切っていないために、円形の外周面(7)とねじ挿通孔(9)のみが示されている。
【0027】
本発明においては、少なくとも1つの回動防止面(8)を円錐状の外周面(7)に設けている。また、外周面(7)に複数の回動防止面(8)を設ける場合には、所定の間隔、すなわち、円錐状の外周面(7)を介して複数の回動防止面(8)を設けるようにする。このように、複数の回動防止面(8)を設ける場合には、
図5に示すように、回動防止面(8)が互いに交わることなく、かつ円錐状の外周面を構成する外周部分を介して、等間隔で回動防止面(8)が隣り合うように配置することにより、インサート(3)をインサート固定部(11)に取付けるための第1の固定面となるである外周面(7)が、この外周面(7)の上面部から下面部(底面(5))に至るまで連続している部分が必ず存在するため、インサート固定部(11)の後述する受け面(12a)及び(12b)に対して強固にインサート(3)の外周面(7)を拘束して固定することが可能になる。
【0028】
ここで、
図2に示すように、円形インサート(3)の厚さをh1(mm)、インサート(3)の底面(5)から回動防止面(8)の上端までの高さをh2(mm)、インサート(3)の底面(5)から回動防止面(8)の下端までの高さをh3(mm)と定義する。また、円形インサート(3)の回動防止面(8)の傾斜角度をθ1と定義する。なお、この傾斜角度θ1は、インサート(3)の上面(4)と垂直な線分と回動防止面(8)とがなす角度を示す。さらに、外周面(7)の傾斜角度をθ3と定義する。傾斜角度θ3は、インサートの上面(4)と垂直な線分と外周面(7)とがなす角度を示す。
【0029】
本発明の刃先交換式切削工具は、インサート固定部(11)に取付けるインサート(3)は次のような構成を備えている。
すなわち、前記したように、インサート(3)の厚さをh1とし、インサート(3)の底面(5)から回動防止面(8)の上端までの高さをh2としたとき、h2は、
(1/2)h1≦h2≦(2/3)h1・・・・・・・・式(1)
を満足するように、回動防止面(8)の上端位置を外周面(7)に配置していることに第1の特徴がある。
【0030】
上記した式(1)において、高さh2を「h2≦(2/3)h1」を満たすように規定することにより、インサート(3)の上面4から回動防止面(8)の上端に至るまでの高さを(1/3)h1以上確保できるので、切れ刃(6)の刃先強度を十分に維持することができる。また、高さh2を「(1/2)h1≦h2」を満たすように規定することにより、回動防止面(8)の高さ、すなわち、インサート(3)の厚さh1方向の長さを十分に確保できるので、後述するように、工具本体(2)に設けた回動防止部(15)の拘束面(15)aを回動防止面(8)に当接させる長さを十分確保して、インサート(3)の回動防止効果を得ることができるようになる。
【0031】
さらに、インサート(3)の底面(5)から回動防止面(8)の下端までの高さをh3としたとき、h3は、
(1/10)h1≦h3≦(1/3)h1・・・・・・・式(2)
を満足するように、回動防止面(8)の下端位置を外周面(7)に配置していることに第2の特徴がある。
【0032】
上記した式(2)において、高さh3を「(1/10)h1≦h3」を満たすように規定することにより、h3値は、インサート(3)の底面(5)から(1/10)h1以上の高さを確保することができるので、インサート(3)を取付ける第2の固定面となる円形をなす底面(5)及び底面(5)近傍の外周面(7)の強度を十分確保することができ、さらに、底面(5)を工具本体(2)の着座面(13)に取付けたきにその接触面積(固定面積)を十分に確保することができるので、インサート(3)の回動防止に有効になる。また、高さh3を「h3≦(1/3)h1」を満たすように規定することにより、底面(5)から回動防止面(8)下端までの高さを制限し、回動防止面(8)の高さ、すなわち、インサート(3)の厚さh1方向の長さの減少を抑制して、前記した回動防止部(15)の拘束面(15)aを回動防止面(8)に当接させる長さを十分確保することができるようになる。
【0033】
このように、本発明の刃先交換式切削工具に用いるインサート(3)は、前記した第1及び第2の特徴から、インサート(3)の外周面7に設けた回転防止面(8)を、その下端の位置は底面(5)から(1/10)h1以上とし、上端の位置は底面(5)から(2/3)h1以下の範囲内になるように設けるとともに、さらに、回動防止面(8)の下端の位置は底面(5)から(1/3)h1以下とし、上端の位置は底面(5)から(2/3)h1以下の範囲内になるように設けている。
【0034】
また、回動防止面(8)がインサート(3)の外周面(7)の円周方向に対する幅L(
図3参照)は、回動防止部(15)の拘束面(15)aを当接させて有効な回動防止効果が得られるように、インサート(3)の大きさ(内接円の寸法)、その厚さh1、回動防止面(8)を設ける数(回動防止面数)等に基づいて、適切に設定するようにする。
なお、回動防止面(8)を設ける数は、4〜6個程度設けることが望ましい。インサート(3)は、例えば、切削加工の累計時間が所定の時間値に達すると、止めねじ(10)を緩めてこのインサート(3)を着座面(13)に対して所定の角度ほど回転させて、再度、止めねじ(10)によりインサート(3)を着座面(13)に再固定し、未使用の切れ刃(6)部分を切削加工に使用する。このとき、回動防止部(15)の拘束面(15)aは、他の回動防止面(8)に当接することになる。
【0035】
また、本発明の刃先交換式切削工具において、
図2に示すように、インサート(3)の外周面(7)の傾斜角度をθ3(度)、回動防止面(8)の傾斜角度をθ1(度)としたとき、h3値を(1/10)h1≦h3として、底面(5)から回転防止面(8)の下端までの厚さを十分に確保するためには、0<θ1<θ3とすることが好ましい。
【0036】
図7は、回動防止面(8)について他の実施形態を示す断面図であって、回動防止面(8)の形状を凹部形状とした場合に、
図2のBにおける断面図を示している。
このように、回動防止面(8)の形状を
図7に示すような凹部形状とした場合には、後述する工具本体(2)に設けた回動防止部(15)の拘束面(15a)を、例えば凸円弧面として、インサート(3)の凹部形状をなす回動防止面(8)に当接させることにより、両者の接触面積を大きくすることが可能になる。これにより、インサート固定部(11)の着座面(13)に固定したインサート(3)に対して、切削加工中において優れた回動防止効果を得ることができるようになる。
【0037】
続いて、工具本体(2)にインサート(3)を取付けるために設けたインサート固定部(11)の構成例を、
図8(a)、(b)と
図9を参照して説明する。
図8(a)、(b)は、工具本体(2)に設けたインサート固定部(11)を上方から見た平面図を示し、
図9は
図8(a)(又は
図8(b))に示すD−D線における断面を示す図である。なお、
図8(a)は回動防止部(15)の拘束面(15a)を平面状の平坦面にした場合を示し、
図8(b)は拘束面(15a)を凸円弧面とした場合を示している。
【0038】
インサート(3)を装着して固定する手段となるインサート固定部(11)は、インサート(3)の底面(5)を受ける着座面(13)と、インサート(3)の外周面(7)と当接してこの外周面(7)を受け止めて支持する拘束面であって、着座面(13)の隅部側(工具本体の回転軸線側)の周辺部から立設し、上面視で円弧状をなす2つの受け面(12a)及び(12b)と、受け面(12a)と(12b)の間であって着座面(13)の周辺隅部から立設する回動防止部(15)を備えている。
【0039】
回動防止部(15)は、着座面(13)にインサート(3)を装着して固定したときに、
図8(a)(
図8(b))に示す回動防止部(15)の拘束面(15a)を、インサート(3)に設けた回動防止面(8)に当接させて、インサート(3)の回動を防止する作用を行うために設けたものである。
図8(a)、(b)に示すように、平面視で幅Wを有する回動防止部(15)の拘束面(15a)は、受け面(12a)、(12b)に対して工具本体(2)の外周(止めねじ挿入孔(14))方向に突出させている。また、回動防止面(8)に当接する回動防止部(15)の拘束面(15a)の形状は、
図8(a)に示すように平坦面、あるいは
図8(b)に示すように凸円弧面とする。なお、着座面(13)には、止めねじ(10)を挿入してねじ締結するためにねじ山を刻設した止めねじ挿入孔(14)が形成されている。
【0040】
図9に示すように、工具本体(2)の着座面(13)から回動防止部(15)の上端までの高さをT1(mm)、着座面(13)から回動防止部(15)の下端までの高さをT2(mm)、回転防止部(15)の傾斜角度をθ2(度)として示している。角度θ2は、着座面(13)と垂直な線分と回動防止部(15)の端面(拘束面(15a))とがなす角度である。
【0041】
なお、
図9において、着座面(13)から回動防止部(15)の下端まで高さT2を有する部分を設けた理由は、インサート(3)を工具本体(2)に装着して取付ける際に、インサート(3)の取付け誤差による取付け精度の劣化を回避するためである。この高さT2を有する部分(垂直壁面)は、着座面(13)に対して垂直な面としてT2の距離を確保するように設けられている。これにより、インサート(3)の外周面(7)と底面(5)との稜線部が、工具本体(2)の着座面(13)の周辺縁におけるエッジ隅部で干渉することを回避することができる。しかし、T2値が小さいとこのエッジ隅部で干渉が生じることから、取付け誤差によるインサート(3)の固定位置の精度劣化を招く。これは、エッジ隅部を機械加工で形成するときに、円弧状曲面が生じてしまうからである。
【0042】
本発明においては、さらに、インサート固定部(11)に形成した着座面(13)から回動防止部(15)の上端までの高さT1を、下記の式(3)を満足すようにすることが望ましい。
(4/10)h1≦T1≦(6/10)h1 ・・・・・・・式(3)
【0043】
上記高さT1が、上記した式(3)を満たすことが望ましい理由は次の通りである。T1値が(6/10)h1を超えて大きいと、インサート(3)の回動防止面(8)の上端よりも回動防止部(15)の上端が高い位置になり、回動防止面(8)に回動防止部(15)の当接が不完全(確実に接触しない状態)になって、インサート(3)に対する回動防止効果が得られなくなるためである。一方、T1値が(4/10)h1未満では、回転防止部(15)が切削加工時の衝撃に耐えられる十分な強度を得ることが不可能になるからである。
【0044】
また、本発明においては、上記T1、T2について(T1−T2)値を、下記の式(4)を満足すようにすることが望ましい。この(T1−T2)値は、回動防止部(15)がインサート(3)の回動防止面(8)に当接する高さに相当する。
(3/10)h1≦T1−T2 ・・・・・・・・・・・・・式(4)
(T1−T2)が、上記した式(4)を満たすことが望ましい理由は、(T1−T2)が(3/10)h1未満では、回転防止部(15)が切削加工時の衝撃に耐えられる十分な強度を得ることが出来ないからである。
【0045】
さらに、本発明においては、着座面(13)から回動防止部(15)の下端までの高さT2を、下記の式(5)を満足すようにすることが望ましい。
(1/20)h1≦T2 ・・・・・・・・・・・・・・・・式(5)
T2が上記した式(5)を満たすことが望ましい理由は、T2が(1/20)h1未満では、着座面(13)から立設する回動防止部(15)の基部となる前記した垂直壁面が切削加工時の負荷により摩耗あるいは変形し易くなる。この摩耗又は変形が生じると、インサート(3)を工具本体(2)のインサート固定部(11)に装着する際に、インサート(3)の取付け誤差が生じて取付け精度の低下が発生するからである。
【0046】
さらに、本発明においては、
図8(a)に示す回動防止部(15)の幅(横幅)Wは、下記の式(6)を満足すようにすることが望ましい。
(1/2)L≦W≦2L ・・・・・・・・・・・・・・・・式(6)
【0047】
回動防止部(15)の幅Wが上記した式(6)を満たすことが望ましい理由は、次の通りである。W値が2Lを超えて大きいと、回動防止部(15)の横幅が大きくなって、インサート(3)の外周面(7)と工具本体(2)の受け面(12a)及び(12b)との接触面積が減少してしまうため、インサート(3)の着座面(13)への固定が不十分となりその取付け精度が低下する。また、切削加工時においても、インサート(3)にかかる切削加工負荷(衝撃)を工具本体(2)で十分に受けることができなくなり、インサート(3)の切れ刃(6)等に欠損を引き起こす可能性が生じる。一方、W値が(1/2)L未満では、回転防止部(15)が切削加工時の衝撃に耐えられる十分な強度を得ることができなくなるからである。
【0048】
さらに、本発明においては、回転防止部(15)の傾斜角度θ2は、下記の式(7)を満足すようにすることが重要である。
(θ1−1)≦θ2≦(θ1+1) ・・・・・・・・・・式(7)
【0049】
回動防止面(8)の傾斜角度θ1と回動防止部(15)の傾斜角度θ2とは、同じ角度にすることが最も望ましい。しかし、回動防止部(15)の機械加工による加工精度を考慮するとθ1値とθ2値の角度差の絶対値は「1度」以内にして、インサート(3)を着座面(13)に取付けたときに、インサート(3)の回動防止面(8)と工具本体(2)の回動防止部(15)との間に隙間が生じないようにして、インサート(3)に対して十分な回動防止効果が得られるようにすることが重要である。
【0050】
図10は、インサート(3)を止めねじ(10)により工具本体(2)のインサート固定部(11)に取付けたときの状態を示す平面図(ただし、止めねじ(10)は図示せず)、
図11は
図10に示すE―E線における断面を示す図である。
図10、
図11に示す状態においては、インサート(3)は止めねじ(10)による締付け力により着座面(13)に固定されると共に、工具本体(2)に設けた回動防止部(15)の拘束面(15a)とインサート(3)に設けた回動防止面(8)とが当接して密に接触した状態になること、及び、インサート固定部(11)に設けた円弧状をなす受け面(12a)及び(12b)がインサート(3)の外周面(7)に接触している。これにより、切削加工中においてインサート(3)に作用する加工切削負荷に対して、インサート(3)の回動を強固に防止することが可能になる。
【0051】
さらに、本発明の刃先交換式切削工具においては、インサート(3)の円錐状の外周面(7)は、回動防止面(8)が存在しているにもかかわらず、この回動防止面(8)の上端及び下端はそれぞれインサート(3)の上面(4)又は底面(5)に達しないように形成しているので、インサート(3)をインサート固定部(11)に強固に固定する作用を発揮することができる。
【0052】
本発明の刃先交換式切削工具は、このように、インサート(3)をインサート固定部(11)に強固に固定する作用とその効果を有しているが、これらをさらに説明すると下記(1)〜(4)に記載のようになる。
【0053】
(1)着座面(13)に固定したインサート(3)の外周面(7)に設けた回動防止面(8)に、工具本体(2)に設けた回動防止部(15)の拘束面(15a)を当接させるので、インサート(3)の回動を防止させることができるようになる。
【0054】
(2)回動防止部(8)は、前記した(式)1と(式)2で規定する条件を満足するようにインサート(3)の外周面(7)に配置している。すなわち、回動防止部(8)の下端は、インサート(3)の底部(5)に達しないように形成している。これにより、円形をなす底部(5)の面積が減少することがないので、着座面13によりインサート(3)の底部(5)を確実に支持して固定することができると共に、底部(5)と外周面(7)との稜線部又はこの稜線部近傍の強度低下を防止することができる。このため、切削加工負荷により、インサート(3)の底部(5)と外周面(7)との稜線部又はこの稜線部近傍の変形あるいは破壊を防止することが可能になる。
【0055】
(3)前記した(式)1に基づいて、回動防止部(8)の上端は、インサート(3)のすくい面となる上部(4)に達しないように形成している。これにより、インサート(3)の外周面(7)に一つ以上の回動防止部(8)を設けても、インサート(3)の強度を十分に確保することができる。さらに、インサート(3)の上部(4)と外周面(7)との稜線部又はこの稜線部近傍の変形あるいは破壊を防止することが可能になり、切削加工中における切れ刃(6)の欠損を防ぐことができるようになる。
【0056】
(4)インサート(3)の外周面(7)に回動防止部(8)が配置されていない箇所に相当する外周面(7)の部分を、インサート固定部(11)に設けた円弧状をなす受け面(12a)及び(12b)で確実に支持することができる。これにより、受け面(12a)、(12b)の摩滅(すり減り)や変形を防止することが可能になり、インサート(3)を確実に拘束して支持することができるようになる。
【0057】
本発明の刃先交換式切削工具は、上記した作用と効果(1)〜(4)により、円形のインサート(3)を取付けたインサート固定部(11)に、切削加工負荷が作用しても円形のインサート(3)は回動することなくその取付け位置の精度を良好に維持することができる。そして、例えば、切削加工時間の累計が所定の時間値に達すると、止めねじ(10)を緩めてこのインサート(3)を着座面(13)に対して所定の角度ほど回転させて、再度、止めねじ(10)によりインサート(3)を着座面(13)に再固定し、未使用の切れ刃(6)部分を切削加工に使用するという、1枚のインサートを回動防止部(8)の数の回数ほど繰り返して使用しても、切削加工中にインサートの回動を防止することができるようになる。
さらに、被削材や切削加工の条件及び用途等に応じて、インサート(3)と工具本体(2)との最適な構成等の組み合せにより、円形のインサート(3)の回動を防止することができる信頼性の高い刃先交換式切削工具を提供することができ、その結果として、被削材に対して高能率加工を達成することが可能になる。
【0058】
本発明の刃先交換式切削工具(1)においては、工具本体(2)はSKD61相当の合金工具鋼から製作し、その硬度はHRC44〜50を有していることが好ましい。この理由は、工具本体(2)の硬度がHRC44未満であると切削加工時の加工負荷の影響により、回動防止部(15)等が塑性変形する可能性が生じ、その結果として工具本体(2)とインサート(3)との間に隙間が発生して、インサート(3)に対して十分な回動防止効果が得られなくなる可能性が生じるからである。一方、工具本体(2)の硬度がHRC50を超えて大きいと、靭性が低下して、切削時の衝撃力により回動防止部(15)等が破損する可能性が生じるからである。また、工具本体(2)に損傷の発生が早くなる可能性が生じるからである。
【0059】
さらに、本発明の刃先交換式切削工具(1)においては、工具本体(2)のインサート固定部(11)を構成する着座面(13)と、受け面(12a)、(12b)と、回動防止部(15)には硬質皮膜が被覆されていることが好ましい。硬質皮膜は周期律表4a、5a、6a族金属、Al、Si、Bの元素から選択される1種以上の元素を含有する窒化物、炭窒化物、酸窒化物のいずれかであることが好ましい。硬質皮膜を被覆する理由は、インサート(2)が工具本体(2)に繰り返して着脱することで生じる接触部の摩耗、摩滅を抑制することができ、工具本体(2)の受け面の精度劣化を回避し、確実に精度良く取付けることができるからである。硬質皮膜の膜厚は、例えば、0.5〜1.5μm程度にすればよい。また、インサート(3)の底面(5)と回動防止面(8)を含む外周面(7)にも上記した硬質皮膜を被覆してもよい。
【実施例】
【0060】
本発明に係る刃先交換式切削工具を試作して、切削加工の試験を行った。以下、この切削加工の試験例とその試験結果について説明する。
【実施例1】
【0061】
本発明例に相当する刃先交換式切削工具を6種、同じく比較例に相当する刃先交換式切削工具を2種、同じく従来例に相当する刃先交換式切削工具を6種試作した。そして、SCM440材からなる被削材について切削加工(切削条件については後記)を実施して、工具本体に取付けて固定したインサートの回動の有無の確認、すなわち、切れ刃について刃先位置の変化量の検出と、工具本体(2)のインサート固定部(11)及びインサートの損傷状況を観察してその評価を行った。
なお、工具本体に取付けるインサートは超硬合金製とし、その内接円寸法が8mm、10mm、12mmの3種とし、この3種のいずれかを取付けることができる工具本体を試作した。
【0062】
試作した工具本体は、本発明例、比較例及び従来例ともにその材質はSKD61相当の合金工具鋼とし、刃先径が50mm、インロー部の穴径が22.225mm、長さ50mm、インサートを3個取付けた3枚刃を有するボア形状とした。また、試作した工具本体は、旋盤加工により外観形状を整えて表面硬度HRC44〜46に調質した後、アーバとの取付け面およびインロー部を研磨加工により仕上げた。
さらに、工具本体のインサート固定部である着座面、受け面や回動防止部は、マシニングセンターにてフライス加工により形成し、その硬度は全てHRC45とした。なお、試作した工具本体の着座面と回動防止部等には硬質皮膜の被覆は実施しなかった。また、工具本体に取付けたインサートの軸方向すくい角はいずれも正角の「+4度」とし、着座面にインサートを固定するための止めねじは右ねじとし、締付け時のトルクを3.0(Nm)の条件で締付けてインサートを工具本体の着座面に取付けた。
【0063】
試作した工具本体について、その回動防止部の仕様は次のようにした。
取付けるインサートの内接円寸法(上面(4)の直径)が12mmの場合、回転防止部の幅Wを3.00mm、着座面から回動防止部上端までの高さT1を2.80mm、着座面から回動防止部下端までの高さT2を0.50mm、回動防止部の傾斜角度θ2を1度に設定した。
同様に、インサートの内接円寸法が10mmの場合、回転防止部の幅Wを2.50mm、着座面から回動防止部上端までの高さT1を2.40mm、着座面から回動防止部下端までの高さT2を0.50mm、回動防止部の傾斜角度θ2を1度とした。
同様に、インサートの内接円寸法が8mmの場合、回転防止部の幅Wを2.00mm、着座面から回動防止部上端までの高さT1を1.50mm、着座面から回動防止部下端までの高さT2を0.30mm、回動防止部の傾斜角度θ2を1度とした。
【0064】
なお、上記した本発明例に相当する刃先交換式切削工具とは、少なくとも、上記した式(1)と式(2)で規定されたh2、h3に係る条件を満足している刃先交換式切削工具を示す。また、上記した比較例に相当する刃先交換式切削工具とは、上記した式(1)〜式(2)で規定された条件のうち少なくとも一つを満たしていない刃先交換式切削工具を示す。また、上記した従来例に相当する刃先交換式切削工具とは、上面(すくい面)の形状は円形をなしているが底面は回動防止機能を発揮させるために多角形(4角形又は6角形)とした従来の円形のインサートを工具本体に取付けた刃先交換式切削工具を示している。
【0065】
図12は、上記により試作した刃先交換式切削工具についてその試料番号ごとに、工具本体に取付けたインサートとこの工具本体の仕様を示している。
図12に示すように、インサートについてはその仕様として、内径寸法、インサートの厚さh1、インサートの底面から回動防止面の上端までの高さh2、インサートの底面から回動防止面の下端までの高さh3、インサートの回動防止面の傾斜角度θ1、インサートの外周面の傾斜角度θ3、回動防止面の幅L、回動防止面の数(回動防止面数)、底面の形状(底面形状)、底面の面積となるP値、等を示している。
同様に、工具本体については、着座面から回動防止部の上端までの高さT1、着座面から回動防止部の下端までの高さT2、回転防止部の傾斜角度θ2、θ1−θ2、回動防止部の幅W、等の仕様を示している。
【0066】
図12に示す試料番号ごとの仕様の概要を説明すると、次のようになる。
本発明例となる試料番号1の円形インサートは超硬合金製であり、内接円寸法が12mm、厚さ寸法h1が4.76mm、インサート外周面の傾斜角度θ3を15度に設定した。また、回動防止面は回動防止面の上端からインサート底面までの高さh2を3.00mm、回動防止面の下端からインサート底面までの高さh3を0.50mmとし、回動防止面の円周方向の幅Lを4.0mmとし、インサート回動防止面の傾斜角度θ1を1度とし、回動防止面数を4面とした。本発明例となる試料番号2は、回動防止面数を6面とした。
【0067】
本発明例となる試料番号3は内接円寸法が10mmであり、厚さ寸法h1が4.00mm、インサート外周面の傾斜角度θ3を15度に設定した。また、回動防止面は回動防止面の上端からインサート底面までの高さh2を2.50mm、回動防止面の下端からインサート底面までの高さh3を0.40mmとし、回動防止面の円周方向の幅Lを3.3mm、インサート回動防止面の傾斜角度θ1を1度とし、回動防止面数を4面とした。本発明例となる試料番号4は、回動防止面数を6面とした。
【0068】
本発明例となる試料番号5は内接円寸法が8mmであり、厚さ寸法h1を2.50mm、インサート外周面の傾斜角度θ3を15度に設定した。また、回動防止面は回動防止面の上端からインサート底面までの高さh2を1.65mm、回動防止面の下端からインサート底面までの高さh3を0.30mmとし、回動防止面の円周方向の幅Lを2.7mmとし、インサート回動防止面の傾斜角度θ1を1度とし、回動防止面数を4面とした。本発明例となる試料番号6は、回動防止面数を6面とした。
また、本発明例となる試料番号1〜6については、工具本体(2)の回転防止部(15)における拘束面(15a)の形状は平坦面とし、この拘束面(15a)とインサート(3)の回動防止面(8)とが、線接触或いは面接触をするようにインサート(3)を着座面(13)に取付けた。
【0069】
比較例となる試料番号7は、円形インサートの回動防止面を回動防止面の上端からインサート底面までの高さh2を4.00mm、回動防止面の下端からインサート底面までの高さh3を0.50mmとし、回動防止面の円周方向の幅Lを4.0mmとし、インサート回動防止面の傾斜角度θ1を1度とし、回動防止面数を4面とした。
【0070】
比較例となる試料番号8は、円形インサートの回動防止面を回動防止面の上端からインサート底面までの高さh2を4.40mm、回動防止面の下端からインサート底面までの高さh3を0.50mmとし、回動防止面の円周方向の幅Lを4.0mmとし、インサート回動防止面の傾斜角度θ1を1度とし、外周面の周面方向に4面設けた。
このように、比較例となる試料番号7と8は、h2>(2/3)h1であって前記した式(1)を満足しない仕様、すなわち、回動防止面の上端が、インサートの上面に形成した切れ刃に接近した状態になっている。
【0071】
図12に示す従来例となる試料番号9〜14は、回動防止面の下端からインサートの底面までの高さh3を0mm、すなわち、回動防止面の下端がインサートの底面に達するように回動防止面を形成した。また、回動防止面の上端からインサート底面までの高さh2は、試料番号9と10では3.00mm、試料番号11と12では2.50mm、試料番号13と14では1.70mmとした。
回動防止面の円周方向の幅Lは、試料番号9と10では4.0mm、試料番号11と12では3.3m、試料番号13と14では2.7mmとした。インサートの外周面に設けた回動防止面数は、試料番号10と12と14では4面、試料番号9と11と13では6面とした。
【0072】
このように、従来例となる試料番号9〜14においては、インサートに設けた回動防止面は、その下端がインサートの底面にまで達するようにした。従って、これら試料番号9〜14に採用したインサートの底面の形状はいずれも円形とはならないために、着座面との接触面積が減少することになる。このことは、
図12において、各インサートの底面の面積を示すP値との比較から明らかである。例えば、
図12に示すように、試料番号9の様に6角形の場合には、底面の面積は38.6mm
2となり、試料番号10の様に4角形の場合には、26.1mm
2とさらに小さくなっている。
【0073】
実施例1においては、
図12に示す仕様を備えた刃先交換式切削工具を用いて、SCM440材からなる被削材についてポケット形状を等高線加工してその切削加工の結果を評価した。なお、この切削加工の試験では、試作した刃先交換式切削工具を工具保持具であるアーバへ取付けた後、フライス盤の主軸に装着した。そして、下記した切削条件1に基づいて、被削材にポケット形状の等高線加工を30分間ほど行った後、工具本体のインサート固定部の精度劣化についてマスターインサートを用いて評価した。この評価は、切削加工が終了した後の損傷状態の目視による観察と、切削加工の開始前の切れ刃の刃先位置を基準値とし、加工終了後における刃先位置を、画像処理を応用した測定装置を利用してμm単位で測定し、その変位量(刃先位置の変化量)から評価した。この刃先位置は、インサートを取付けた刃先交換式切削工具において、回転軸線方向における最下点となるインサートの切れ刃の位置とした。
【0074】
実施例1で試験した切削加工の条件(切削条件1)は、下記の通りである。
(切削条件1)
・被削材 :SCM440相当材、硬さHRC30
・切削速度 :200m/分
・主軸の回転数 :1273回転/分
・切込み量 :2mm
・径方向切込み幅 :25mm
・1刃の送り :0.8mm
・テーブル送り :3055mm/
・加工方法 :乾式、等高線加工
【0075】
実施例1による切削加工の試験を行った結果を表1に示している。表1には、切削加工を行った結果の評価として、刃先位置の変化量とインサート固定部(インサートも含む)の損傷状態を、試料番号別に示している。
【0076】
【表1】
【0077】
実施例1による切削加工の試験結果から、次の事項が明らかになった。
(1)本発明例となる試料番号1〜6の刃先交換式切削工具においては、刃先位置の変化量はいずれも認められなく(変化量が「0」)、インサート固定部(11)に取付けた円形のインサート(3)は回動していないことが確認された。また、インサート固定部(11)の受け面(12a)、(12b)や着座面(13)等の摩滅、変形も観察されず、インサート固定部(11)の状態は良好であった。
【0078】
なお、前記した「摩滅」とは、インサート固定部(11)の受け面(12a)、(12b)や着座面(13)が、インサート(3)の回動により、インサート(3)と工具本体(2)との摩擦によって摩耗(すり減)ること、あるいは変形することを意味する。インサート(3)は超硬合金製であり、工具本体(2)は合金工具鋼(SKD61相当材)製のため、この摩耗により、受け面(12a)、(12b)や着座面(13)の方がすり減る、あるいは変形するという不具合が発生する可能性がある。
【0079】
(2)一方、比較例となる試料番号7は、刃先位置の変化量は見られなかったが、h2の値を4.00mmと大きくしたために切れ刃に欠損が生じた。この切れ刃の欠損は、h2の値を4.00mmと大きくしたために十分な刃先強度が得られなかったために、インサートの切れ刃となる稜線部から逃げ面(外周面)にかけての部位であって、回動防止面の上端に近接した切れ刃の箇所に欠損が発生していた。比較例となる試料番号8は、切削初期段階にて上記と同様な欠損を引き起こした。
【0080】
このように、回動防止面の上端の位置が切れ刃に接近し過ぎたインサートは、切れ刃の逃げ面における摩耗が、回動防止面の方向へ成長することによって、切れ刃に欠損が発生しやすくなると考えられる。従って、h2について、前記した式(1)の規定はインサートの回動を防止するための条件として重要であると考えられる。
また、試料番号7、8は回動防止面の円周方向の幅Lを4.0mmと大きくしたので、隣接する回動防止面どうしの間隔が狭くなって、インサートの側面に相当する円錐形の外周面(7)の表面積が減少して、工具本体の受け面(12a)、(12b)とインサートの外周面(7)との接触面積が減少している。これにより、インサートの取付け精度が低下して切れ刃に欠損が発生したことも考えられる。
【0081】
(3)従来例となる試料番号9〜14は、表1に示すように、8μm〜10μmの刃先位置の変化量が認められ、さらに、インサート固定部の受け面と着座面に褐色をおびた接触痕が観察された。この原因は、従来例のインサートは回動防止面の下端がインサートの底面に達しているために、インサートの底面は多角形(4角形又は6角形)をなしているので、底面と着座面との接触面積が減少している。このため、止めねじによる締付け力に対して着座面がインサートの底面を拘束する拘束力が減少し、その結果として、インサートに作用する切削加工負荷によりインサートが回動して、円形のインサートを着座面に高精度に固定して維持することができなくなって、上記した刃先位置の変化量が発生したと考えられる。
従って、インサートの底面は円形にしてその表面積を大きくすること、及びインサートの外周面(7)には、インサートの底面から回動防止面の下端までは、前記した式(3)を満足するように、高さh3の外周面(7)を介在させることが極めて重要であることが分かった。
【実施例2】
【0082】
(実施例2−1)
続いて、前記した本発明例となる試料番号1と、試料番号15〜21の刃先交換式切削工具を試作して切削加工を行い、工具本体の劣化現象を観察するための試験を行った。なお、試料番号15〜20は本発明例となる刃先交換式切削工具、試料番号21は比較例となる刃先交換式切削工具である。実施例2−1に用いた刃先交換式切削工具に関する仕様を、試料番号別に表2と表3に示している。
【0083】
実施例2−1に用いた円形インサートは、本発明例となる試料番号1で用いたインサートと同形状、同材質のものを用いた。このインサートは超硬合金製であり、内接円寸法が12mm、厚さ寸法h1が4.76mm、インサート外周面の傾斜角度θ3は15度に設定した。また、回動防止面(8)は、回動防止面(8)の上端からインサート(3)の底面(5)までの高さh2を3.00mm、回動防止面(8)の下端からインサート(3)の底面(5)までの高さh3を0.50mmとし、回動防止面(8)の円周方向の幅Lを4.0mmとし、回動防止面数を4面とした。そして、底面(5)も円形としたこの円形のインサート(3)を、右ねじの止めねじ(10)を用いて締付けトルクを3.0Nmとして工具本体に固定した
【0084】
【表2】
【0085】
【表3】
【0086】
また、実施例2−1に用いた工具本体は、刃先径を50mm、インロー部の穴径を22.225mm、長さ50mm、3枚刃を有するボア形状とした。さらに、本発明例となる試料番号1、15〜20に採用した工具本体(2)のインサート固定部(11)については、回動防止部(15)がインサートの回動防止面(8)に当接する拘束面(15a)の形状は平坦面とした。さらに、全ての試料番号についてインサートを着座面に固定するための止めねじの種類は「右ねじ」とした。また、工具本体の着座面に固定したインサートはその切れ刃の軸方向すくい角は、正角である「+4度」となるようにした。
【0087】
本発明例となる試料番号15は、回転防止部(15)の幅Wが3.00mm、着座面(13)から回動防止部(15)の上端まで高さT1を1.90mm、着座面(13)から回動防止部(15)の下端までの高さT2を0.50mm、回動防止部(15)の傾斜角度θ2を1度である。回動防止部(15)を含むインサート固定部(11)の硬度はHRC45とした。試料番号15は、本発明例となる試料番号1に対して高さT1を1.9mmとしたので、前記した式(3)である「(4/10)h1≦T1≦(6/10)h1」を満足しているが、式(4)である「(3/10)h1≦T1−T2」を満足していない。
【0088】
表3に示すように、本発明例となる試料番号16は、回転防止部の幅Wが5.00mm、着座面から回動防止部上端までの高さT1を2.80mm、着座面から回動防止部下端までの高さT2を0.50mm、回動防止部の傾斜角度θ2を1度にした。また、回動防止部の硬度はHRC45とした。本発明例となる試料番号1に対して、回転防止部の幅Wを大きな値である5.00mmとしている。
【0089】
本発明例となる試料番号17は、回転防止部の幅Wを1.00mm、着座面から回動防止部上端までの高さT1を2.80mm、着座面から回動防止部下端までの高さT2を0.50mm、回動防止部の傾斜角度θ2を1度にした。また、回動防止部の硬度はHRC45とした。本発明例となる試料番号1に対して回動防止部の幅Wを小さな値となる1.00mmとしたので、幅Wは上記式(6)である「(1/2)L≦W≦2L」を満足していない。
【0090】
本発明例となる試料番号18は、回転防止部の幅Wを3.00mm、着座面から回動防止部上端までの高さT1を2.80mm、着座面から回動防止部下端までの高さT2を0.50mm、回動防止部の傾斜角度θ2を3度にした。また、回動防止部の硬度はHRC45とした。本発明例となる試料番号1に対して、回動防止部の傾斜角度θ2を3度としたので、傾斜角度θ2は上記式(7)である「(θ1−1)≦θ2≦(θ1+1)」を満足していない。
【0091】
本発明例となる試料番号19は、回転防止部の幅Wを3.00mm、着座面から回動防止部上端までの高さT1を2.80mm、着座面から回動防止部下端までの高さT2を0.50mm、回動防止部の傾斜角度θ2を1度にした。また、回動防止部の硬度はHRC40と低くした。このように、本発明例となる試料番号1の回動防止部の硬度HRC45に対して、硬度を低くした。
【0092】
本発明例となる試料番号20は、回転防止部の幅Wを3.00mm、着座面から回動防止部上端までの高さT1を2.80mm、着座面から回動防止部下端までの高さT2を0.50mm、回動防止部の傾斜角度θ2を1度とした。また、回動防止部の硬度はHRC45とし、工具本体表面にTi(CN)膜からなる硬質皮膜を被覆した。硬質皮膜を被覆した理由は、本発明例1に対して、回動防止部を含むインサート固定部(11)に硬質皮膜を被覆することにより、インサートを繰り返し着脱することで生じる接触部の摩耗、摩滅を抑制することができ、これにより、切削加工中において工具本体のインサート固定部(11)でインサートの取付け精度劣化を防止することが可能であるかを確認するためである。
比較例となる試料番号21については、インサートの構成は試料番号1と同じ構成としたが、工具本体には回動防止部を設けない構成とした。
【0093】
実施例2−1において、工具本体の基材は、SKD61相当の合金工具鋼を用いて旋盤加工により外観形状を整えて表面硬度HRC44から46に調質した後、アーバとの取付け面およびインロー部を研磨加工により仕上げた。また、工具本体のインサート固定部である着座面や回動防止部は、マシニングセンターにてフライス加工により形成した。
【0094】
そして、表2、表3に示す試料番号の刃先交換式切削工具を、工具保持具であるアーバへ取付けた後、フライス盤の主軸に装着して切削加工の試験を行った。この切削加工では、下記の切削条件2を用いて、単一刃切削にてポケット形状を等高線加工した。加工時間は10時間行い、インサートは30分の加工を行うごとに新規のインサートと交換を行った。
【0095】
実施例2−1においては、工具本体のインサート固定部の回動防止部の精度劣化を確認するため、切削加工前と切削加工後でその損傷状態を観察した。そして、本発明例については、回動防止部に発生した摩滅値を縦方向(回動防止部の高さ方向)と横方向(回動防止部の幅の方向)について摩滅幅を測定した。また、30分毎で交換したインサートの摩耗値についてその平均値(平均摩耗量)を測定し、回動防止効果による切削状態の安定性を評価した。この評価結果を表3の「評価結果」欄に示している。
【0096】
なお、上記した「摩滅」とは、前記したように、工具本体の回動防止部が、インサートの回動による摩耗によってすり減ることを示す。この摩滅によって生じた損傷個所の幅と高さを、摩滅値として測定した。また、上記した「インサートの摩耗値」とは、切れ刃の逃げ面において発生した摩耗幅を示す。
【0097】
実施例2−1で試験した切削加工の条件(切削条件2)は、下記の通りである。
(切削条件2)
・被削材 :SCM440相当材、硬さHRC30
・切削速度 :200m/分
・主軸の回転数 :1273回転/分
・切込み量 :2mm
・径方向切込み幅:25mm
・1刃の送り :0.8mm
・テーブル送り :3055mm/分
・切削時間 :10時間(インサートは30分毎に交換)
・加工方法 :乾式、等高線加工、単一刃切削
【0098】
表3の評価結果欄に示すように、本発明例となる試料番号1と試料番号15〜20は回動防止部を設けたことにより、比較例となる試料番号21に比べて、インサートの平均摩耗量が約30〜75%減少し、回動防止効果が得られたことが判明した。また、本発明例のうち、試料番号1と20においては、回動防止部の摩滅幅と平均摩耗量は、他と比べて良好な状態であったが、特に、試料番号20は、硬質皮膜であるTi(CN)皮膜を被覆したことで、工具本体のインサート固定部(11)の表面硬度が増し、回動防止部の変形量も無く、回動防止の効果が高くなることが明らかになった。
【0099】
一方、本発明例となる試料番号15〜19は、比較例となる試料番号21に比べて回動防止効果は得られるものの、本発明例となる試料番号1と20に比べて回動防止部の摩滅幅は大きくなっていた。切削加工後のインサートの平均摩耗値も試料番号1と20と比較して大きくなり、回動防止部の摩滅により回動防止効果が少なくなっていた。
本発明例となる試料番号15は回転防止部のT1値を1.90mmと小さく、試料番号17は回転防止部のW値を1.00mmと小さく設定したために、回動防止部の強度が足りずに回動防止部の摩滅幅が大きくなったと推測される。
【0100】
本発明例となる試料番号16は、回動防止部の幅Wを5.00mmと大きくしてその強度は十分に設定していたが、幅Wを大きくしたために、インサート固定部(11)の受け面12a、12bの面積が少なくなったため、切削加工時にインサートの振動が激しくなりインサートの平均摩耗量が大きくなったと推測される。
本発明例となる試料番号18は、回動防止部の摩滅は少なかったが、回動防止部の傾斜角度θ2を3度と大きく設定したために、回動防止部と回動防止面との接触が不十分となってインサートの着座面に対する固定精度が低下したために、インサートの平均摩耗量が大きくなったと推測できる。
また、本発明例となる試料番号19は、回動防止部の硬度をHRC40と低目に設定したので、回動防止部の摩滅幅が大きくなっていた。
【0101】
(実施例2−2)
上記した実施例2−1で実施した切削加工試験においては、切削加工時間が30分に達した毎に、インサートを固定している止めねじを取り外す操作を行うときに、この止めねじの取り外し時のトルク値を測定して、試料番号ごとにその平均値を求め、10時間の切削加工試験が終了したときの着座面の状態と併せて評価した。以下、この実施例2−2による測定結果を示す表4に基づいて説明する。
【0102】
【表4】
【0103】
表4に示す実施例2−2の結果から、次のことが判明した。
(1)本発明例となる試料番号1と試料番号15〜20は、何れも右ねじを使用し、軸方向すくい角の設定を正の値「+4度」としたが、止めねじ取付け時の締め付けトルク値(a)と、取外し(緩め)時のトルク(b)の平均値との差は、0.2(Nm)の負の値、すなわち、締付け時のトルクである3.0Nmと比較して緩くなった。しかし、この差の値は、取付け時の締め付けトルク値である3.0(Nm)の10%以下の値であることから、許容範囲内であると判断できる。また、切削加工の試験後の着座面の状態を目視により観察した結果は、中程度の接触痕(接触痕中)が見られたものの、さらなる連続使用が可能な状態であって許容範囲内であった。
【0104】
なお、上記した締め付けトルクの許容範囲とは、止めねじ(10)に対する締め付けトルク値の変化量(取外し時と締付け時との差)の幅を示す。締付け時よりも取外し時のトルク値が小さく(緩く)なると、切削加工中にインサートが止めねじが緩む方向に動いたと考えられる。逆に、止めねじが固く締まりすぎても、ねじが傷んでしまう。本発明では、これらを考慮して、止めねじ(10)の締付けトルク値(a)と、取外し時のトルク(b)の差が、締付けトルク値である3.0(Nm)の±20%、(−0.6〜+0.6)の範囲を「許容範囲」と設定し、トルク値の差(b−a)が負値になると緩みの場合を示し、正値になると締りの場合を示すとしている。
【0105】
(2)一方、比較例となる試料番号21は、上記したトルク値の平均値の差が0.5(Nm)の負の値となり、ねじの緩みが顕著であった。また、着座面の観察結果では、連続使用ができなくなるような大きな接触痕が残っていた。
【0106】
(3)上記(1)、(2)に記載した事項から、インサートの回動防止の機能をさらに向上させるためには、インサートを着座面に固定する止めねじの締付勝手、すなわち、止めねじを右ねじにするか、あるいは左ねじのどちらを使用するかも影響すると考えられた。さらに、工具本体の着座面に固定するインサートについて、その切れ刃の軸方向のすくい角の「正」又は「負」についても考慮する必要があると考えられた。そこで、下記する実施例3による切削加工の試験を行った。
【0107】
なお、
図13は、工具本体(2)の着座面(13)に固定した円形のインサート(3)の切れ刃の軸方向すくい角αを示しており、この軸方向すくい角αは「正角」である例を示している。
図13に示す点線の直線Oは、工具本体(2)の回転軸線を示している。
【実施例3】
【0108】
前記した本発明例となる試料番号1と、試料番号22〜28の刃先交換式切削工具を試作して、被削材の切削加工試験を行い、その切削加工結果の評価を行った。この実施例3においては、本発明例となる試料番号1の刃先交換式切削工具に係るインサートと工具本体の仕様をベースにして、夫々、回動防止部の拘束面の形状(回動防止部形状)、拘束面の形状を凸円弧面とした場合にはその円弧の半径R、インサートを着座面に固定するための止めねじの右又は左ねじの仕様(止めねじの種類)、インサートの切れ刃の軸方向すくい角を、パラメータとして変化させた刃先交換式切削工具を試作した。この試作した刃先交換式切削工具の仕様を、試料番号別に
図14(a)、(b)に示している。なお、
図14(a)にはインサートと工具本体の仕様を、
図14(b)にはこの切削加工試験の結果とその評価を示している。
【0109】
また、実施例3においては、切削加工中にインサートが回動したときに回動防止部の拘束面も摩滅することに着目して、回動防止部の拘束面の形状を平坦面にした場合と、凸円弧面にした場合についても、切削加工後の結果について比較した。
図14(a)に示すように、試料番号1と22〜24は拘束面の形状を平坦面とし、試料番号25〜28は凸円弧面とした。
【0110】
さらに、本発明例となる試料番号25〜28については、
図14(a)のR欄に示すように、この凸円弧面における円弧半径RをR1(22.5mm)とした試料番号25〜26、円弧半径RをR2(56.3mm)とした試料番号27〜28の2種の拘束面(15a)を備えた工具本体(2)を試作した。そして、ここで拘束面となる凸円弧面の中点において、受け面(12a)((12b))方向の接線と、拘束面(15a)の端部との距離をクリアランス距離とした。このとき、円弧半径Rが上記R1である22.5mmの場合ではこのクリアランス距離は0.05mm、円弧半径Rが上記R2である56.3mmの場合ではこのクリアランス距離は0.02mmであった。
【0111】
実施例3で行った切削加工の条件は、実施例2−1で試験した切削加工の条件(切削条件2)と同一とした。実施例3による切削加工試験の結果を
図14(a)、(b)に基づいて説明すると、次のようになる。
【0112】
(1)本発明例となる試料番号1と22とを比較すると、切れ刃の軸方向すくい角が負の値「−4度」とした試料番号22は、止めねじとして右ねじを選択することによって、
図14(b)に示すように、この止めねじを着座面からの取り外し時のトルク値(b)が増大し、締り勝手となって好都合であることが分かった。
本発明例となる試料番号23と24とを比較すると、上記とは反対に、切れ刃の軸方向すくい角を正の値「+4度」とした試料番号23は、止めねじとして左ねじを選択することによって、取り外し時のトルク値が増大し、締り勝手となってより好都合であることが分かった。
【0113】
(2)本発明例となる試料番号1と試料番号22〜24は、いずれも取り外し時のトルク値の差(変化量)は小さく、前記した許容範囲内であった。また、これら試料番号22〜24は、表14(a)に示すように、いずれも回動防止部の拘束面の形状を平坦面とした場合であり、表14(b)の評価結果欄に記載しているように、切削加工試験後の着座面の観察結果では、着座面にインサートの接触痕が見られたものの、この刃先交換式切削工具の評価結果は、さらなる連続使用が可能な中程度であり、許容範囲内と評価することができた。
【0114】
(3)本発明例となる試料番号25〜28は、いずれも回動防止部の拘束面の形状が凸円弧面とした場合であり、切削試験後の着座面の観察結果は、表14(b)の評価結果欄に記載しているように、着座面にインサートの接触痕は少なく、さらなる刃先交換式切削工具の連続使用について全く問題の無い状態であった。
【0115】
(4)表14(b)に示す本発明例となる試料番号25と27(軸方向すくい角が「+4度」)、及び試料番号26と28(軸方向すくい角が「−4度」)とを比較すると、クリアランス距離の大きい円弧半径RをR1とした試料番号25と26の方がインサートの平均摩耗量が少なく有効であった。この理由は、下記の通りであると考えられる。上記したクリアランス距離を0.05mmとした場合の方が、この値より小さい0.02mmになる場合と比較して、回動防止部(15)の拘束面(15a)とインサート(3)の回動防止面(8)との線接触長さが長く、あるいは面接触する面積が広くなる。すなわち、回動防止部(15)の拘束面(15a)の形状を凸円弧面とし、クリアランス距離を大きくした場合は、この回動防止部(15)の拘束面(15a)と、インサート(3)の回動防止面(8)とが線接触或いは面接触する位置が、拘束面となる凸円弧面の中点に近い位置となって、接触長さが長く、接触面積が広くなる。これにより有効な回動防止効果が得られることになる。このように、インサートの回動を防止することによって、切削加工に伴う切れ刃の摩耗は正常摩耗の状態となり、異常摩耗が低減されて切れ刃の平均摩耗量が少なくなるという効果が生じる。
【0116】
(5)また、回動防止部の拘束面の形状を凸円弧面とした試料番号25〜28は、工具本体の回動防止部の拘束面とインサートの回動防止面とが、線接触あるいは面接触となることにより、拘束面の摩滅幅は縦方向に長くなり、横方向に短くなる傾向を示した。
また、試料番号25と26との比較、試料番号27と28との比較においても、前述の試料番号1と22との結果と同様に、軸方向すくい角が負の値「−4度」の場合は、右ねじを選択することによって、締り勝手となり好都合であった。
【0117】
(6)以上に記載した実施例3の結果から、インサートの切れ刃の軸方向すくい角を負とした場合には、このインサートを着座面に固定するために使用する止めねじは、「右ねじ」を選択することが有効であると判断できる。また、インサートの切れ刃の軸方向すくい角を正とした場合には、このインサートを着座面に固定するために使用する止めねじは、「左ねじ」を選択することが有効であると判断できる。
【実施例4】
【0118】
続いて、実施例4について説明する。実施例4では、基本的には前記した本発明例となる試料番号1のインサートと工具本体の形状をベースにして新たに6種の参考例となる刃先交換式切削工具を試作した(
図15に示す試料番号29〜34)。参考例となる試料番号29〜34の刃先交換式切削工具を試作する際には、試料番号1の形状に対して下記に示すh2値、h3値、T1値、T2値を変更した。すなわち、試料番号29はh2値を、試料番号30、31はh3値を、試料番号32、33はT1値を、試料番号34はT2値を変更し、これらの変更を行った刃先交換式切削工具を用いて切削加工試験を行った際に、工具本体やインサートに与える影響を確認してその評価を行った。
試作した試料番号29〜34に係る刃先交換式切削工具の仕様を
図15(a)に、さらに切削加工を行った結果とその評価を、試料番号別に
図15(b)に示している。
【0119】
以下に、試作した刃先交換式切削工具の仕様の概要と、切削加工試験の結果を、
図15を参照して説明する。
【0120】
参考例となる試料番号29は、h2値を2.30mmとし、(h2/h1)値を0.48に設定した場合を示す。h2値を2.30mmと(1/2)h1値未満に設定したのでh2は上記式(1)を満足せず、インサートの底面からインサート回動防止面の上端位置までの高さが、試料番号1より低くなって回動防止面の面積が小さくなった。なお、上記の(h2/h1)の値を検証する理由は、h2値が上記した式(1)で規定する範囲外となった場合に、如何なる不具合が生じるかを確認することによって、式(1)で規定するh2の範囲規定が適正であるか否かを確認するためである。
また、工具本体の回動防止部のT1値(2.80mm)に対してh2値(2.30mm)が小さいために、回動防止面と回動防止部とが良好に接触しないため回動防止効果を得ることができず、
図15(b)に示すように、インサートが回動して回動防止面に変形が生じた。
【0121】
また、試料番号29において、例えば、T1値を2.80mmより小さくした場合には、インサートの回動防止面の面積が小さくなるので、切削加工時に回動防止面の単位面積当たりに作用する力の値が増大する。これにより、回動防止効果を得ることができず、インサートが回動してしまうと推測される。この理由は、切削加工時に円形インサートに作用する回転モーメントに比例した力により、回動防止面の単位面積当たりに作用する力の値が増大して、インサートの回動防止面が、この力に耐えられる十分な強度を得ることができないからである。
【0122】
さらに、試料番号29においては、h2値を(1/2)h1値未満に設定したことによって、回動防止面のインサート半径方向への奥行量が小さくなってしまう。これにより、工具本体の回動防止部が回動防止面へ侵入する長さが短くなってしまう。従って、回動防止効果を得ることができず、インサートが回動してしまうと推測される。
【0123】
試料番号30は、h3値を1.70mmとし、(h3/h1)値を0.36に設定した場合を示す。h3値が(1/3)h1値である1.59mmを超えて大きかったため、h3は前記した式(2)を満足せず、インサートの底面から回動防止面の下端位置までが高くなった。これにより回動防止面の面積が小さくなって回動防止効果を得ることができず、インサートが回動して、
図15(b)に示すように回動防止面に変形が生じた。これは、回動防止面の単位面積当たりに作用する切削加工負荷が増大して、インサートの回動防止面がこの力に耐えられる十分な強度を得ることができなかったためと推測される。
さらに、h3値を(1/3)h1値を超えて大きく設定したことによって、回動防止面のインサート半径方向への奥行量が小さくなって工具本体の回動防止部が回動防止面へ侵入する長さが短くなってしまった。これにより、回動防止効果を得ることができず、インサートが回動したと推測される。
【0124】
試料番号31は、h3値を0.40mmとし、(h3/h1)値を0.08に設定した場合を示す。h3値が、(1/10)h1値未満であったため、回動防止面の下端位置がインサートの底面に接近することからインサート外周面(7)の面積が小さくなり、工具本体の受け面(12a)、(12b)とインサートの外周面(7)との接触面積が減少したので、インサートが回動してインサートの取付け精度が劣化したと推測される。
【0125】
試料番号32は、T1値を3.00mmとし、(T1/h1)値を0.63に設定した場合を示す。T1値が、(6/10)h1値を超えて大きかったため、インサート回動防止面(8)の上端位置よりも回動防止部(15)の上端位置が高い位置になった。このために、回動防止面(8)と回動防止部(15)とが良好に接触しないため回動防止効果を得ることができず、インサートが回動したと推測される。
【0126】
試料番号33は、T1値を1.80mmとし、(T1/h1)値を0.38に設定した場合を示す。T1値が、(4/10)h1値未満であったため、工具本体の回転防止部(15)が、切削加工時に円形インサートに作用する回転モーメントに比例した力に耐えられる十分な強度を得ることができないため、回動防止部(15)の変形や摩滅が増大したと推測される。
【0127】
試料番号34は、T2値を0.20mmとし、(T2/h1)値を0.04に設定した場合を示す。T2値が(1/20)h1値未満であったため、インサートを工具本体に装着する際に、インサートの外周面と底面との稜線部が、工具本体の着座面(13)周辺のエッジ隅部で干渉してしまい、取付け誤差が生じて精度劣化をおこした。これは、上記エッジ隅部を機械加工で形成するときには、通常、コーナーR面を形成するようにするが、インサートの外周面と底面との稜線部がこのコーナーR面と干渉してしまったためと考えられる。
【0128】
上記した実施例4の結果から、次のことが明らかになった。
(1)h2値が、前記した式(1)を満足することによって、切刃(6)の刃先強度を十分に維持することができ、また、着座面(13)にインサート(3)を取付けた際に、工具本体(2)に設けた回動防止部(15)をインサート(3)の回動防止面(8)に当接させると、インサート(3)の回動防止効果を得ることに好都合であることが明らかとなった。
【0129】
(2)h3値が、前記した式(2)を満足することによって、インサート(3)を取付ける第2の固定面となる円形状をなす底面(5)の強度と工具本体(2)の着座面(13)の面積(固定面積)を十分に確保することができ、また、インサート(3)の外周面(7)に形成した回動防止面(8)の、インサート(3)の厚さh1方向に対する長さの減少を抑制することができるので、回動防止部(15)が回動防止面(8)に当接する長さを十分確保することに好都合であることが明らかとなった。
【0130】
(3)T1値が、前記した式(3)を満たすことによって、着座面(13)にインサート(3)を取付けた際に、インサート回動防止面(8)の上端が回動防止部(15)の上端より高い位置になり、回動防止面(8)に回動防止部(15)が良好に接触して、インサート(3)に対する回動防止効果が得られる。これにより、回転防止部(15)が切削加工時の衝撃に耐えられる十分な強度を得るのに好都合であることが明らかとなった。
【0131】
(4)T2値が、前記式(5)を満たすことによって、着座面(13)から立設する回動防止部(15)の基部が切削加工時の負荷により摩耗あるいは変形を回避し易くなる。従って、インサート(3)を工具本体(2)のインサート固定部(11)に装着する際に、インサート(3)の取付け誤差を少なくして取付け精度を維持することに好適になる。