【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (刊行物1)アメリカ化学会、ACS Nano,Volume4,No.7,4027−4032、オンライン発行日2010年7月1日、冊子発行日2010年7月27日、http://pubs.acs.org/doi/pdf/10.1021/nn101177n
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (刊行物2)アメリカ化学会、刊行物1とともに公開された付随情報(Supporting Information、全10頁)、オンライン発行日2010年7月1日、http://pubs.acs.org/doi/suppl/10.1021/nn101177n/suppl_file/nn101177n_si_001.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記相対的な組成比が、前記単層カーボンナノチューブの集合体の分散液を遠心分離処理して単離された半導体チューブと金属チューブとを再度混合することにより前記所定の値となるように調整されている
請求項6または請求項7に記載の熱容量測定センサー。
前記感温部における単層カーボンナノチューブの前記第1の集合体と前記発熱部における単層カーボンナノチューブの前記第2の集合体とのいずれかまたは両方がインクジェット印刷によって基板または前記被測定物の絶縁面上に形成されている
請求項9に記載の熱容量測定センサー。
前記第3および前記第4の集合体それぞれにおける前記半導体チューブと前記金属チューブとの相対的な組成比が、前記単層カーボンナノチューブ集合体の分散液を遠心分離処理して単離された半導体チューブと金属チューブとを再度混合することにより前記同一のまたは別々の所定の値となるように調整されている
請求項13に記載の熱伝導率測定器。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について説明する。以下の説明に際し特に言及がない限り、全図にわたり共通する部分または要素には共通する参照符号が付されている。また、図中、各実施形態の要素のそれぞれは、必ずしも互いの縮尺比を保って示されてはいない。
【0030】
<第1実施形態:温度センサー>
[温度センサーの概略構成]
図1は、本実施形態における温度センサー100の構成を示す平面図であり、
図2は、温度センサー100の構成を示す概略断面図である。温度センサー100は、薄層状のSWCNT集合体を含む感温部10を備えている。感温部10には測温用配線対14および16のそれぞれの一端が電気的に接続されている。
図1には、測定のための回路構成が模式的に描かれている。
【0031】
感温部10のSWCNT集合体は、矩形の領域においてある厚みをなす薄層状に形成される単層カーボンナノチューブ(SWCNT)集合体である。拡大して観察すると、このSWCNT集合体は、繊維状のSWCNTのみが多数寄せ集められた構造を有している。また、一本一本のSWCNTは互いに重なり合ったり絡み合ったりしており、各SWCNTの間隙には何らの物質も配置されていない。本実施形態において、感温部10は基板12の一方の面に形成されている。その基板12の典型例は例えば絶縁性の樹脂フィルムや表面に絶縁膜が形成された金属箔である。温度センサー100を用いる際には、
図2に示すように、例えば基板12の他方の面を被測定物20に接触させることにより、被測定物20と感温部10との温度が互いに近づけられる。つまり、基板12は厚みや材質が適宜選択され、基板12と被測定物20との間の熱抵抗が低減されることにより、これらが互いに熱的に接した状態となっている。本出願において熱的に接している、または熱的に結合しているとは、目的に合った十分な熱の流れが確保されている、直接的な、または他の物体を介した間接的な接触状態をいう。したがって、必要に応じて、基板12と被測定物20との間に熱抵抗を低減させるための部材、例えば熱伝導グリース(図示しない)を配置することも好ましい。
【0032】
感温部10には、典型的には電極対14Pおよび16Pが設けられており、電極対14Pおよび16Pのそれぞれには、測温用配線対14および16が接続されている。なお、測温用配線対14および16は、
図2には示していない。さらに、これらの測温用配線対14および16を用いることは必ずしも必須ではなく、例えば、圧力による接触によって導通をとるための探針(プローブ)を用いて電極対14Pおよび16Pの各位置における感温部10表面の間の電気的接続を確保するような接続のための構成を採用することもできる。
【0033】
感温部10において測定されるのは、感温部10をなすSWCNT集合体の薄層のシート抵抗値またはSWCNT集合体の電気抵抗率である。このシート抵抗値または電気抵抗率は、典型的には四探針法(または四端子法)によって測定される。つまり、印加した電流に対する電位差が、例えばブリッジ回路によって測定され、各種の換算が行なわれてシート抵抗値や抵抗率が算出される。このため、測温用配線対14は、電流源142からの所定の電流を電極対14Pを通じて感温部10に流す電流印加用の配線としての役割を担う。このため、電極対14Pの位置は、電流が印加される電流印加位置となる。一方、測温用配線対16は、その電流が流れる際に感温部10の電極対16Pの間に生じる電位差を電圧信号として拾う(pick up)。つまり、測温用配線対16は模式的に描かれている電圧計162によって電圧を測定するための電圧測定用の配線としての役割を担う。電極対16Pは、電極対14Pの位置(電流印加位置)のうちの一方から他方までの間となる二つの位置において、感温部10に配置される。なお、電極対14Pおよび16Pを用いず探針を用いる場合であっても、同様の接続点の位置関係を保って四探針法による測定が行なわれる。
【0034】
[SWCNTの組成に影響される性質]
次に感温部10の構成について説明する。感温部10は、上述したように薄層状に形成されたSWCNT集合体を含んでいる。ここで、SWCNT集合体の組成、すなわち、半導体チューブと金属チューブにおける互いの相対的な比率である組成比は、例えば測定に必要な温度域を勘案した上で決定される。
【0035】
図3は、組成比が異なるいくつかのSWCNT集合体における電気抵抗の温度依存性を示すグラフである。特に、
図3(a)は、金属チューブのみからなるSWCNT集合体と半導体チューブのみからなるSWCNT集合体との抵抗率の温度依存性を示し、
図3(b)は、中間的な組成も含めたSWCNT集合体の電気抵抗値の温度依存性を示す。また、
図4は、SWCNTの組成による吸光度スペクトルの違いを示すグラフである。さらに、
図5は、SWCNT集合体において金属チューブと半導体チューブとの組成比を変更した場合の電気抵抗値の温度変化を示すグラフである。
【0036】
本願の発明者らは、SWCNT集合体の電気抵抗の温度依存性が、金属チューブと半導体チューブとで大きく異なっていることを実験的に確認した。しかも、SWCNT集合体における金属チューブと半導体チューブとの相対的な組成比を変化させた場合、SWCNT集合体の電気伝導特性が制御されることも見出した。
【0037】
具体的には、まず
図3(a)に示したように、絶対温度1K程度から100Kを超える温度域において、金属チューブと半導体チューブと対比させると、これらは互いに異なる電気抵抗率の温度依存性を示す。つまり、金属チューブのみからなるSWCNT集合体からは、温度にかかわらずほぼ一定した抵抗率を示す抵抗率測定点32が得られる。これに対して、半導体チューブのみからなるSWCNT集合体において温度を変化させながら電気抵抗を測定すると、抵抗率測定点34に現われているように、そのSWCNT集合体の電気抵抗率は温度の上昇に伴って低下する振る舞いを示す。なお、これらの測定における電気抵抗率は、各組成のSWCNT集合体のバッキーペーパーを作製し、10mm×5mm×10μm(厚み)のサイズに切り出して四探針法によって測定されたシート抵抗の値から換算して得られたものである。測定時には、SWCNT集合体に直径0.05mmの金ワイヤーが探針として圧接され、ヘリウム雰囲気において測定されている。また、測定に先立ち、10
−6Torr(1.33×10
−4Pa)にて500℃、1時間のアニール処理が行なわれている。そして、ここでの測定は、物理特性測定装置(Physical Properties Measurement System, Quantum Design Co. 製)を用いて実行された。
【0038】
図3(b)には、金属チューブのみ、半導体チューブのみ、および金属チューブに対して半導体チューブを混合したこれらの中間の三つの組成比、という各場合について、組成が異なるSWCNT集合体から得られる電気抵抗の温度依存性を示している。
図3(b)において縦軸に示したのは、各組成のSWCNT集合体の測定試料それぞれを対象にして、絶対温度約3Kから約380Kの範囲における電気抵抗値を測定し、各値を同じ測定試料の380Kにおける電気抵抗値によって除算した値である。符号「36−0」によって参照される測定点(以下、「測定点36−0」という)は、金属チューブのみからなるSWCNT集合体の電気抵抗の温度変化を示しており、測定点36−26は、金属チューブ74%、半導体チューブ26%の組成のSWCNT集合体の電気抵抗の温度変化を示している。同様に、測定点36−65、36−77、および36−100は、半導体チューブの組成比が、それぞれ、65%、77%、および100%のSWCNT集合体によって測定された電気抵抗値の温度変化を示している。いずれの組成比のSWCNT集合体であっても、温度の上昇時と下降時で電気抵抗値が異なるヒステリシスは見られない。これ以降、SWCNT集合体における組成比を簡易に表現するために、半導体チューブと金属チューブとの合計のうち、半導体チューブが占める相対的な組成比をパーセンテージによって示す。
【0039】
[SWCNTの組成比の表現]
本出願において言及されるSWCNT集合体における組成比は吸光度スペクトルに基づいて決定される。この組成比の決定手法について説明する。
図4は、金属チューブと半導体チューブとの相対的な組成比が異なるSWCNT集合体から得られる可視および近赤外領域の吸光度スペクトルを示すグラフである。ここでの測定波長範囲は380nm以上1300nm以下であり、測定量は正規化した吸光度としている。
【0040】
SWCNT集合体を用いて吸光度を測定するためには、感温部10(
図1)を構成するSWCNTのみからなる集合体(バッキーペーパー)を一旦形成した後、そのバッキーペーパーを液体に分散させて測定する。本実施形態で採用される分散媒は、1%のデオキシコレート・ナトリウム塩(deoxcholate sodium salt、DOC)の水溶液である。
図4において、吸光度測定値42−0は、金属チューブのみからなるSWCNT集合体を用いて測定される各波長における吸光度である。これに対し、吸光度測定値42−100は、半導体チューブのみからなるSWCNT集合体を用いて測定される吸光度である。吸光度測定値42−0および42−100の間に示されている吸光度測定値42−26、42−65、および42−77は、それぞれ、金属チューブに対して半導体チューブを混合した混合状態であって半導体チューブの組成比が異なるSWCNT集合体の吸光度曲線である。
【0041】
組成比が未知であるSWCNT集合体の吸光度測定値の波長依存性(吸光度スペクトル)は、金属チューブのみからなるSWCNT集合体の吸光度測定値42−0と半導体チューブのみからなるSWCNT集合体の吸光度測定値42−100とのそれぞれの吸光度スペクトルの線形結合を用いてフィッティングすることによって再現することが可能である。そこで、本出願においては、その線形結合を行なう際の係数の互いの比率をもって、半導体チューブと金属チューブとの相対的な組成比とする。より詳細には、吸光度測定値42−0および吸光度測定値42−100のそれぞれの吸光度に対して係数を乗じて加算することにより得られる試行関数の吸光度スペクトルと、組成比が未知の試料から得られた吸光度測定値との残差二乗和を求める。そして、その残差二乗和が最小となるような試行関数の吸光度スペクトルを与える上記二つの係数を求め、その係数の相対比をもって組成比とする。吸光度測定値42−26、42−65、および42−77は、こうして決定された半導体チューブの組成比が、それぞれ、26%、65%、および77%であるような組成比のSWCNT集合体から得られた吸光度の測定値である。
【0042】
なお、本出願において、半導体チューブ「のみを含む」SWCNT集合体、または半導体チューブ「のみからなる」SWCNT集合体と表現されているSWCNT集合体であっても、少ない比率の金属チューブ、例えば1%未満の金属チューブを含有している可能性を残している点には注意が必要である。ごく厳密には、
図4の吸光度の測定によっては検出されない程度の組成比の金属チューブが残存している可能性がある。さらに、吸光度の測定に基づいて決定される組成比には、一定程度の誤差も許容される。例えば、上述した光吸収の測定方法の精度についても、本願発明者らは、実際のバッキーペーパーにおいて半導体チューブと金属チューブとの合計の組成比が、95%を超えた値であることを確認している。SWCNT集合体を作製する段階における組成比は、半導体チューブと金属チューブとの合計に占める半導体チューブの混合率により調整しうるため、十分に小さい誤差で組成比を定めることが可能である。
【0043】
[SWCNTの組成と測定温度域]
本願の発明者らは、組成比の異なるSWCNT集合体を用いることによって、測定する温度域に適した感温部10を作製しうることに気づいた。この点を説明するため再び
図3(b)を参照する。まず、測定点36−100によって示されるSWCNT集合体つまり半導体チューブのみからなるSWCNT集合体は、広い温度域にわたって電気抵抗値が大きく変化している。すなわち、測定点36−100は広い温度域にわたって電気抵抗値の温度変化が大きい。この電気抵抗値の温度変化は、測定点36−100から測定点36−77、測定点36−65という順に、つまり、半導体チューブの組成比が減少するにつれて小さくなる。そして、測定点36−0つまり金属チューブのみからなるSWCNT集合体では、電気抵抗の温度依存性はほとんどなくなる。
【0044】
上述したように、半導体チューブのみからなるSWCNT集合体の測定点36−100が最も電気抵抗値の温度変化が大きい。ここで、抵抗値を測定して温度測定を実施する場合、
図1に示した構造の温度センサーをSWCNT集合体によって作製する際の感度は、電気抵抗値の温度変化を、その時点での電気抵抗値との相対的な比率として決定することができる。仮に電気抵抗値の温度変化が大きくても、電気抵抗値それ自体が大きければ測定に誤差が生じやすくなるためである。
【0045】
加えて、実用性をさらに高めるためには、電気抵抗値が過度に大きくならないようにすることが好ましい。というのも、抵抗型の温度センサーを使用する場合、高い測定感度を得るためにACレジスタンスブリッジ回路などの電気抵抗測定装置を用いることが多い。その場合に電気抵抗値が過大であると、ACレジスタンスブリッジ回路による電気抵抗値の測定範囲の上限を超えてしまうためである。特に
図3(b)の測定点36−100に示されるように、半導体チューブのみからなるSWCNT集合体の場合、低温側にて抵抗値が大きくなっているため、低温側の温度の測定が難しくなる場合がある。
【0046】
実用面に着目した観点から有用性が大きいのは、SWCNT集合体の電気抵抗の値それ自体を調整可能なことである。電気抵抗の値を調整することにより、測定に用いる上記ACレジスタンスブリッジ回路の測定レンジの境界値を避けることが可能となるためである。この点を数値例に基づいて説明する。ACレジスタンスブリッジ回路が、20Ω以上200Ω以下(以下、「20Ω〜200Ω」と記す)の第1の測定レンジ、200Ω〜2kΩ以下の第2の測定レンジ、2kΩ〜20kΩの第3の測定レンジ、・・・というようにレンジを有しているとする。なお、例えば200Ω〜2kΩ以下の第2の測定レンジによって、200Ω未満の電気抵抗の値は測定が不可能ではないが、測定精度が劣るため通常は行われない。上記の測定レンジの組み合わせの場合、測定レンジの境界値は、200Ω、2kΩ、20kΩ・・・である。このような場合に従来の温度センサーを使用してしばしば生じる状況は、測定温度域における測定レンジの切り替えである。例えば、測定を行いたい温度域、例えば20K近傍のある幅の温度域において、試料の冷却に応じて温度センサーの抵抗値が2kΩなどのレンジの境界値に向かって上昇してゆくとする。この場合、ACレジスタンスブリッジ回路の測定レンジを、第2の測定レンジから第3の測定レンジへと切り替えなくてはならない。そうすると、測定レンジの切り替えの温度を境界にして、測定誤差幅が変化する。このような測定レンジの切り替えを避けるためは、一つには、例えば第3の測定レンジにおいて測定することである。しかし、2kΩに満たない段階での測定精度の面からはそのような測定は望ましくない。このような場合に、測定温度と測定回路の測定レンジとの関係に合わせた適切な範囲の抵抗値を示すように温度センサーそれ自体を調整して作製できることは有用である。
【0047】
より具体的には、精密に測定を行いたい温度における温度センサーの抵抗を、測定温度域においてより高い測定精度が実現するような測定レンジに合わせて調整することが有用となる場合もある。例えば、2.1kΩと1.9kΩの抵抗値をもつ二つの温度センサーを比較する。この比較において、温度センサーの抵抗値以外が同一であるとして、温度センサー自体の示す感度、つまり、電気抵抗値の温度変化の電気抵抗値に対する相対的な比率が同一であり、例えば1K当たり10%変化する、とする。この場合であっても、2.1kΩの温度センサーを2k〜20kΩの第3の測定レンジによって測定するよりも、1.9kΩの温度センサーを200〜2kΩの第2の測定レンジによって測定するほうが、通常は抵抗値の測定誤差が少ない。上述したように、通常のACレジスタンスブリッジ回路では、測定レンジごとに、各測定レンジの最大値に対してある割合の誤差が生じるためである。つまり、測定レンジをまたがるような測定温度域において温度を測定する場合には、抵抗値を調整可能であることが、測定精度を確保する上で有用となる。このように、温度センサーの抵抗値を測定温度域や測定回路の状況に合わせて任意に設定できることは、温度の測定精度を高めるために意図的な抵抗値の設定が可能になるということにつながり、測定精度を限界まで高める目的には極めて有用といえる。
【0048】
なお、
図1に示した構成の温度センサー100の電気抵抗値は、感温部10のサイズを調整することによっても調整可能である。例えば電流の流れにとっての断面積を決定する感温部10の幅や厚みを大きくし、電流の経路長に当たる感温部10の長さを小さくすることによって感温部10の電気抵抗値を小さくするような調整が可能である。この点で、SWCNT集合体という形状の調整が容易な材質を感温部10に用いる本実施形態の温度センサー100は有利である。ただし、例えば測定点36−100に示されている変化は、電気抵抗値の変化幅がサイズの調整によって調整可能な範囲を超えるほどに大きい変化でもある。このため、感温部10に用いるSWCNT集合体それ自体の電気伝導特性を調整することは測定温度域を所望の範囲に設定するために必要な対処である。
【0049】
このような場合には、
図3(b)の各測定点に示される各組成のSWCNT集合体の電気抵抗の温度依存性に注目し、半導体チューブと金属チューブとの組成比が目的とする測定温度域に対応する所定の値に調整されたSWCNT集合体を、温度センサーの感温部に採用することとすることが好ましい。組成比を調整して金属チューブと半導体チューブとを含むようにされたSWCNT集合体では、低温側においても電気抵抗値が測定可能な範囲に収めることができ、ACレジスタンスブリッジ回路などの測定回路の測定レンジを考慮して電気抵抗値を決定できるためである。この調整の状況のために用いられる電気特性を端的に示すのが
図5である。
【0050】
図5に示す抵抗率測定点52、54、および56は、半導体チューブ65%のSWCNT集合体、半導体チューブ77%のSWCNT集合体、および、半導体チューブのみからなるSWCNT集合体を用いた各場合における感温部10(
図1)が示す電気抵抗値の温度依存性を示している。電気抵抗値は、SWCNT集合体の抵抗率の測定値から、長さL=10mm、幅W=5mm、厚みt=10μmの形状のSWCNT集合体において、長さ方向に向かって電流が流されると仮定した場合の電気抵抗値である。
図5には説明のため、測定回路において精度良く測定可能な電気抵抗値の上限(2MΩ)を点線にて明示している。例えば温度センサーの感温部を半導体チューブのみからなるSWCNT集合体によって作製すると、
図5の抵抗率測定点56のように、10K程度よりも低い温度において電気抵抗値の測定上限を超えてしまう。この場合には、10K程度よりも低い温度の測定に支障を来す。このような場合には、SWCNT集合体における金属チューブの比率を高め、その分だけ半導体チューブの比率を下げることが有効である。つまり、例えば、SWCNT集合体を半導体チューブ77%のSWCNT集合体(抵抗率測定点54)としたり、半導体チューブ65%のSWCNT集合体(抵抗率測定点52)としたりすることによって、十分な感度を保ったまま測定可能な温度域を低温側に段階的に広げることが可能となる。なお、抵抗率測定点52、54および56から、選択される測定温度域によっては、複数の組成のSWCNT集合体を温度センサーとして用いることも可能である。この場合、一般には、半導体チューブの組成比がより高いSWCNT集合体が選択される。例えば、抵抗率測定点56は、測定温度域が30K付近である場合には、抵抗率測定点52および54に比べて高い抵抗値であることを示している。このため、半導体チューブのみからなるSWCNT集合体を感温部10に用いる温度センサーは、30K付近において、半導体チューブ65%のSWCNT集合体、半導体チューブ77%のSWCNT集合体、を感温部に有する温度センサーに比して高い感度を示す。その理由は、一つには、半導体チューブの組成比を高めることによって電気抵抗値の温度勾配が大きくなり、温度測定の感度が高まるためである。もう一つ、同じ電圧で感温部に流れる測定電流による感温部からのジュール熱による発熱が抑止されるためでもある。ただし、測定レンジの点からは感度が大きすぎることが測定レンジの切り替えの原因となることもある。その点から、半導体チューブの組成比の大きいものが常に選ばれるとは限らない。この点については、実施例1の後半において測定数値に基づいて詳述する。
【0051】
[磁場下における測定]
次に、磁場の存在下において温度センサー100による温度測定を実施するためのSWCNT集合体について説明する。
図6は、磁場を印加した場合に各組成のSWCNT集合体が示す電気抵抗のグラフである。このグラフが測定された温度は絶対温度2Kであり、磁束密度が0T〜6Tとなる範囲で磁場を印加している。グラフの縦軸にとったのは抵抗値の磁場依存性である。ここでの磁場依存性は、磁場が印加されていないときの抵抗値R(0)を分母にとり、磁場Hが印加されているときの抵抗値R(H)とR(0)との差を分子にとった分数として示しており、相対的な抵抗値変化を磁束密度に対して示すものである。測定点62−0、測定点62−26、および測定点62−65は、それぞれ、金属チューブのみからなるSWCNT集合体、半導体チューブ26%のSWCNT集合体、および半導体チューブ65%のSWCNT集合体を用いて測定したものである。なお測定に際しては、
図3に示した電気抵抗の測定と同様に準備されたサンプルを、同様の測定系を用いて測定している。また、磁場の印加方向は、薄層状のSWCNT集合体の面に垂直方向である。
【0052】
図6に示すように、絶対温度2Kにおける電気抵抗値の磁場依存性は、半導体チューブ65%のSWCNT集合体の場合が最も小さい。このため、半導体チューブの組成比65%のSWCNT集合体を用いて感温部を作製した温度センサーは、金属チューブのみからなるSWCNT集合体や半導体チューブ26%のSWCNT集合体を用いる場合に比較して、測定される抵抗値に磁場の影響が現れにくくなる。このため、磁場による測定温度のシフトが問題となるような場合には、感温部に半導体チューブの組成比65%のSWCNT集合体を用いることにより、抵抗値から算出される温度の測定精度も向上させることが可能となる。
【0053】
なお、
図6に示したような電気抵抗値の磁場依存性は、半導体チューブの各組成比に対して一意に定まり、半導体チューブの組成比が同一であるSWCNT集合体に対しては繰り返し測定を行っても変化しない。また、この磁場依存性は、SWCNT集合体にける半導体チューブの組成比に対して緩やかまたは単調な変化を示す。これらの性質から、測定されていない半導体チューブの組成比に対しても、既知の強さの磁場中で使用する限り、磁場依存性を数値的に予測することは可能である。具体的には、代表的な半導体チューブの組成比のSWCNT集合体に対して例えば温度を変化させて磁場依存性を測定しておくことにより、任意の組成比のSWCNT集合体に対する磁場依存性を例えば補間処理によって求めることが可能となる。したがって、所望の測定温度域における測定精度を高める目的で半導体チューブの組成比を調整してSWCNT集合体を形成した場合であっても、磁場が印加される環境においてそのSWCNT集合体を用いる温度センサーを用いて温度測定を実施することに支障はない。
【0054】
[温度センサーの作製方法]
次に、SWCNT集合体を用いた温度センサー100の作製方法について説明する。
図7は、SWCNT集合体を用いた温度センサーの作製方法を示すフローチャートである。特に
図7(a)は、所望の組成比のSWCNT集合体の分散溶液を調製するまでの工程(前半)を示している。
図7(b)および
図7(c)は、いずれも
図7(a)に続いて行なわれる工程(後半)を示している。つまり
図7(b)は、SWCNT集合体が形成される処理である後半の処理の一例であり、
図7(c)はSWCNT集合体が形成される処理である後半の処理の別例である。
【0055】
本実施形態において温度センサーの感温部10(
図1)に用いるSWCNT集合体を形成するためには、まずSWCNTが合成される(S102)。ここでSWCNTの合成手法はSWCNTを合成可能な任意の手法が適宜採用される。SWCNTの合成が可能な手法には、例えば、アーク放電法、レーザー蒸発法、およびCVD(化学気相成長)法が含まれている。なお、例えばSWCNTについて市販されているものを採用する場合、合成工程S102は省略される。
【0056】
次いで、遠心分離によってSWCNTに対する分離処理が行なわれる(S104)。ここで、合成されたままのSWCNTは、種々の構造または性状のSWCNTの混合物である。この混合物に含まれるSWCNTには、微視的に見ると、例えば複数のSWCNTが分子間力により束(バンドル)となっている(bundled)ものもあれば、孤立した(isolated)単一のSWCNTになっているものもある。また、バンドルとなっていたり孤立したりしているSWCNTであっても、螺旋ベクトルによって区別される別々の構造のSWCNTが混在し、半導体チューブと金属チューブも混在したものである。この合成されたままのSWCNTを対象にして密度勾配遠心分離処理が行なわれる。そのためには、まず合成されたままのSWCNTが密度勾配遠心分離処理のための界面活性剤を含む溶液に分散されて分散液が準備される。そして、密度勾配が設けられている溶液層とともに遠心チューブ内に配置され、所定のプロトコルにしたがって超遠心分離処理が行なわれる。その結果、遠心チューブ内の分散液中のSWCNTが、半導体チューブと金属チューブとに層状に分離すなわち単離される。なお、ここで用いられるプロトコルの実例については別途詳述する(「密度勾配遠心分離法」の欄参照)。
【0057】
遠心分離の処理により、半導体チューブが100%の組成比のものと金属チューブが100%のものとにSWCNT集合体を分離することができる。この時点で得られるSWCNT集合体は、液中に分散された状態の半導体チューブ100%の組成のSWCNT集合体と、半導体チューブ0%の組成のSWCNT集合体(金属チューブのみからなるSWCNT集合体)とである。この分散媒は、例えば水やアルコール(メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなど)である。また、半導体チューブが100%の組成比のSWCNT集合体は、分散液において、孤立した単一のSWCNTとなっていることも、また、バンドルとなっていることもある。一般には、これらの混合物となっている。同様に、金属チューブが100%のSWCNT集合体も、バンドルとなっていることも、また、孤立していることもある。
【0058】
ちなみに、密度勾配遠心分離法(S104)に代えて、半導体チューブと金属チューブとを分離することができる他の任意の分離手法も採用することが可能である。例えば、何らかの化学吸着を利用することも可能である。
【0059】
密度勾配遠心分離法を終えると精製処理が行なわれる(S106)。遠心分離によって得られたままのSWCNT集合体の分散液には、例えば、遠心分離処理に用いた界面活性剤(デオキシコレート・ナトリウム塩など)や密度勾配媒体からの混入物質といった不純物が残存している。これらの不純物は精製処理によりそれぞれのSWCNT集合体分散液から除去される。この精製処理の実例も別途詳述する(「精製処理」の欄参照)。また、図示しないが、実際に得られるSWCNT集合体における半導体チューブの組成を吸光度により決定して組成比を確認する工程を必要に応じて実行することもできる。
【0060】
次いで、半導体チューブの組成が目的の組成比となるように、半導体チューブ100%と半導体チューブ0%とのSWCNT集合体分散液が調合される(S108)。この調合に際しては、目的の組成比を得るために必要な操作が行なわれる。例えば調合に必要な指標(例えば半導体チューブ100%と半導体チューブ0%とのSWCNT集合体分散液との重量比)と吸光度による組成比との関係を示す検量線が予め作成されている。一例として、最終的に作製されるSWCNT集合体における半導体チューブの組成比が65%のものであるとする。吸光度によって決定される組成比により半導体チューブ65%という値の調合を行なうため必要な重量比の相対比が、半導体チューブ100%のSWCNT集合体分散液と半導体チューブ0%のSWCNT集合体分散液とに対してその検量線から特定される。
【0061】
その後の工程は、本実施形態においてはいくつかの態様にて実施することが可能である。その一つの態様が
図7(b)に示されている。
図7(b)の処理では、
図7(a)に示された調合処理(S108)に引き続き、目的の組成比に調合されたSWCNT集合体分散液からバッキーペーパーが作製される(S112)。ここで、バッキーペーパーとは、SWCNTの薄層状の集合体であり、その外見は黒い紙状の物体である。バッキーペーパーは、典型的にはSWCNT集合体分散液からSWCNTの繊維を濾し取って乾燥することによって作製される。その後は必要に応じて、十分な温度(例えば200℃以上)と例えば10
−6Torr(1.33×10
−4Pa)程度の真空下にてアニール処理(図示しない)が施される。次いで、薄層状に形成されたSWCNT集合体(バッキーペーパー)から必要なサイズの部分が切り出される(S114)。このとき、バッキーペーパーの形態にて形成された薄層状のSWCNT集合体は、紙の切断に用いる器具によって容易に切り出すことが可能である。切り出されたSWCNT集合体は、必要に応じて基板12(
図1)に配置される。その後、
図1に示したように配線対が接続される(S116)。この時点で、さらに必要に応じて電極(電極対14Pおよび16P、
図1)が形成されてもよい。この電極は、例えば、使用条件にあわせて、バッキーペーパーに浸透しないように濃度を調整したカーボンペースト、銀ペースト、金ペーストを配置して形成される。以上の処理を実施することによって、本実施形態の温度センサー100が完成する。その後は、温度センサー100による測定のために、温度センサー上に被測定物が載置されるなど熱的に接した状態にされ、測定が行なわれる。
【0062】
図7(c)に示されているのは、
図7(a)に示された後の工程の本実施形態における別の態様である。
図7(b)と同様に
図7(c)は調合処理(
図7(a)、S108)の後の処理を記載している。
図7(c)は、本実施形態において、調製されたSWCNT集合体分散液からインクジェット印刷の技法によって層状または膜状のSWCNT集合体を形成する処理を示している。インクジェット印刷による処理(S122)において、SWCNT集合体分散液は、例えば適当なキャリッジに搭載され往復移動するインクジェットヘッドから吐出され、被測定物または基板12(
図1)の表面に向けて吹き付けられる。適当な乾燥工程(図示しない)を経ると薄層状のSWCNT集合体のパターンが被測定物または基板12の目的の位置に目的の形状で形成される。その後、必要に応じて配線対が接続される(S124)。SWCNT集合体が被測定物に直接印刷される場合には、この時点で測定が可能となる。また、インクジェット印刷が基板12に対して行なわれる場合には、基板12(
図1)を被測定物に貼付することによって測定が実行される。なお、
図7(c)には示していないが、インクジェット印刷(S122)の前に、SWCNT集合体分散液からバッキーペーパーなど適当な形態のSWCNT集合体を一旦作製しておき、そのSWCNT集合体を再度溶媒に分散させてインクジェット印刷用のSWCNT集合体分散液を準備することもできる。この場合に分散媒として用いることができる液体の典型例は、水や各種のアルコール類である。
【0063】
温度測定のための回路構成は、温度センサーがバッキーペーパーから切り出されている場合またはインクジェット印刷によって形成されている場合のいずれにおいても同様である。つまり、薄層状のSWCNT集合に電流を流す電流源とその電流によって生じる電気抵抗値を測定する測定器とが、例えば
図1に模式的に示したように接続される。また、測定が行なわれると、直接求まる電位差から薄層状のSWCNT集合体のシート抵抗が求められ、さらに必要に応じて換算することによって体積抵抗率が得られる。シート抵抗または体積抵抗率から温度の値が換算される。なお、ここでの換算手法は任意である。例えば、薄層状のSWCNT集合体の厚みやパターンなどから、測定される電気抵抗値とシート抵抗または体積抵抗率との関係を求めておき、
図3または
図5に示した温度依存性を用いて温度へと最終的に換算される。また、換算手法の別の例としては、より直接的に、温度センサーが完成した段階で測定される抵抗値と、特性が既知の参照用温度センサーが示す温度との対応関係を参照テーブルとして取得しておき、その参照テーブルが温度への換算の際に参照される。磁場の存在下における測定においても同様である。
【0064】
このように、本実施形態においては、薄層状への成形性や溶媒への可溶性といったSWCNT集合体の特質が活用されて温度センサーを作製することが可能である。すなわち、薄層状に形成されたSWCNT集合体は特段サイズの制約は無いため、超小型の温度センサーを作製することも可能となる。また、液中に分散させたSWCNT集合体を例えばインクジェット技術を用いて基板や被測定物に吹き付けることによって、任意の形状やパターンにパターニングして薄層に形成することが可能になる。いずれの場合であっても、SWCNT集合体は、基板の絶縁面または被測定物の絶縁面の上またはその上方に配置され、基板等を通じてまたは直接、被測定物に熱的に接するようにされる。
【0065】
[密度勾配遠心分離法]
次に、本実施形態において採用される遠心分離法の典型例について詳述する。本実施形態においては、密度勾配遠心分離法と呼ばれる手法を採用する。密度勾配遠心分離法の具体的な態様は二種類の処理条件にて実施することができる。第1の処理条件は、典型的には、以下の5ステップにて行なわれる。
(ステップ1)SWCNT(Arc−SOタイプ、株式会社名城ナノカーボン)100mgが、バス型の超音波洗浄機(UT−206H、シャープ株式会社)によって1%のデオキシコレート・ナトリウム塩(DOC、東京化成工業株式会社)溶液100mlに分散される。
(ステップ2)当該溶液30mgが、デジタルソニファイアー(ブランソン、250DA)を用いて、20%出力において4時間にわたり分散される。
(ステップ3)分散溶液が、40000rpmにて30分間遠心分離される(Rotor P40ST、日立工機株式会社)。上澄み液が得られる。
(ステップ4)次の5つの溶液を用いて遠心チューブ(40PAシールチューブ、345321A、日立工機株式会社)内に密度勾配が形成される。
(1)イオジキサノール(iodixanol)25%、ドデシル硫酸ナトリウム(sodium dodecyl sulfate)(SDS、Aldrich)1.5%、およびコール酸ナトリウム(sodium cholate)(SC、Aldrich)1.5%、
(2)イオジキサノール30%、SDS1.5%、およびSC1.5%、
(3)イオジキサノール32.5%、SDS1.5%、およびSC1.5%、
(4)イオジキサノール35%、SDS1.5%、およびSC1.5%、
(5)イオジキサノール40%、SDS2.4%、SC0.5%、DOC0.33%、およびSWCNT(溶液は上記ステップにて得られた上澄み液を用いて調整される)。
ここで、イオジキサノールの濃度は、Optiprep(イオジキサノール60%溶液、コスモ・バイオ株式会社)によって調整される。
(ステップ5)遠心チューブが50000rpmにて9時間、22℃にて遠心処理される(Rotor P50VT2、日立工機株式会社)。
以上の5ステップを実行すると、高純度の金属チューブが遠心チューブの上部にて得られ、高純度の半導体チューブがその下部にて得られる。
【0066】
また、本実施形態における密度勾配遠心分離法の第2の処理条件は、以下の5ステップにて行なわれる。
(ステップ1)SWCNT100mgが、バス型の超音波洗浄機(UT−206H、シャープ株式会社)によって2%DOC溶液100mlに分散される。
(ステップ2)当該溶液30mgが、デジタルソニファイアー(ブランソン、250DA)を用いて、20%出力において4時間にわたり分散される。
(ステップ3)分散溶液が、40000rpmにて30分間遠心分離される(Rotor P40ST、日立工機株式会社)。上澄み液が得られる。
(ステップ4)次の6つの溶液を用いて遠心チューブ(40PAシールチューブ、345321A、日立工機株式会社)内に密度勾配が形成される。
(1)上記ステップにて得られたSWCNT溶液、
(2)イオジキサノール25%、SDS2%、
(3)イオジキサノール30%、SDS2%、
(4)イオジキサノール32.5%、SDS2%、
(5)イオジキサノール35%、SDS2%、
(6)イオジキサノール40%、SDS2%。
(ステップ5)遠心チューブが50000rpmにて9時間、22℃にて遠心処理される(Rotor P50VT2、日立工機株式会社)。
以上の5ステップを実行すると、高純度の金属チューブが遠心チューブの上部にて得られ、高純度の半導体チューブがその下部にて得られる。
【0067】
[精製処理]
上述した精製処理(S106)の具体的処理としては、典型的には以下の(ステップ1)〜(ステップ5)が採用される。
(ステップ1)SWCNT分散溶液にメタノールが添加される。すると、SWCNTが再バンドル化され、その溶液が濾され(ポアサイズ0.2μm、Millipore Co.)、温水(約70〜100℃)がフィルターの表面上に形成されたSWCNTに注がれる。
(ステップ2)SWCNTが、超音波洗浄機(UT−260H、シャープ株式会社)を利用してよく分散されてメタノール溶液とされ、溶液が濾され、温水が注がれる。このステップが4回繰りかえされる。
(ステップ3)SWCNTが分散されてメタノール溶液とされた後、濾される。
(ステップ4)SWCNTが、超音波洗浄機を使って分散されてトルエン溶液とされ、濾される。このステップが2回繰りかえされる。
(ステップ5)SWCNTがよく分散されてメタノールの溶液とされる。
【0068】
[二探針法による測定]
本実施形態の温度測定においては必ずしも四探針法を用いることは要さない。すなわち、半導体チューブと金属チューブとの混合物をSWCNT集合体の感温部に用いる温度センサーによる温度測定の電気抵抗の測定のために、二探針法(二端子法)を採用することも可能である。
図8には二探針法による測定によって温度を測定する場合の配線図を示している。感温部10Aに用いる薄層状のSWCNT集合体は、例えば半導体チューブと金属チューブの混合物であるため、測定のための感度が高い温度域では電気抵抗値自体が高い値となる。したがって、感温部10Aの測温用配線の接触部または電極部における接触抵抗の影響が無視できるようになり、二探針法を採用しても十分な精度で電気抵抗値が測定される場合がある。その場合、感温部10Aには、例えば電極対14Pを利用することによって電流源142からの電流が配線対14から印加され、電圧計144によって電極対14Pに現われる電位差が測定される。また、必要に応じて電流計146も用いられる。こうして、感温部10Aの抵抗値が算出され、その抵抗値が温度へと換算される。
【0069】
<第2実施形態:ヒーター>
[SWCNT集合体によるヒーターの作製]
本発明の第2実施形態は、SWCNT集合体を用いたヒーターとして実施される。SWCNT集合体において組成を適切に選択すれば、温度によらずに抵抗値が一定となるヒーターを作製することができる。そのヒーターは、例えば温度が変化してもジュール熱を一定に保つことが容易なヒーターとなる。
【0070】
図9は、本実施形態におけるヒーターのいくつかの構成を示す概略平面図である。
図9(a)は、その発熱部50をなすSWCNT集合体が矩形形状において薄層上に形成されているヒーター200を示している。発熱部50は、基板12の一方の面の上に膜状または薄層状に形成されており、発熱部50には、配線対14によって電流を流すための電極対14Pが形成されている。電極対14Pを通じて発熱部50に電流が流されると、それに伴って発生したジュール熱が、例えば、基板12を通じた熱伝導によって被測定物(図示しない)に伝わってゆく。
【0071】
本実施形態のヒーターの発熱部をなすSWCNT集合体はまた、矩形以外の形状の領域を占めるように形成されていてもよい。
図9(b)は、その一例として蛇行する電流経路をなすように発熱部50Aを形成したヒーター200Aを示している。このような構成のヒーター200Aの発熱部50Aは、例えば、発熱部50Aに流れる電流によるジュール熱を調整して測定に適する値となるようにすることが容易に行える。
【0072】
また、本実施形態のヒーターの発熱部50または50AをなすSWCNT集合体は、その組成比を、典型的には、半導体チューブの組成比が0%、すなわち、金属チューブのみからなる組成比とすることが好ましい。これは、
図3(a)および(b)に示したように、金属チューブのみからなるSWCNT集合体は、温度にほとんど依存しない抵抗値を示すため、測定温度が変化しても発熱量を制御することが容易なためである。
【0073】
なお、金属チューブのみからなるSWCNT集合体は、好ましくは、
図9(b)のような蛇行する電流経路をなすように形成される。金属チューブのみからなるSWCNT集合体は、
図3(b)に示されるように他の組成比のSWCNT集合体に比べると抵抗値が小さくなることが多いからである。例えば薄層状のSWCNT集合体の厚みを薄く形成しにくい場合であっても、電流経路の実質的な幅を狭く電流経路の実質的な長さを長くすることによって、発熱量を測定に適するよう設定することが容易となる。
【0074】
[SWCNT集合体の作製方法]
本実施形態におけるSWCNT集合体の作製方法は、SWCNT集合体の組成比を除き、上述した第1実施形態のSWCNT集合体の作製方法(
図7)と同様である。
図9(a)および(b)に示した薄層状のSWCNT集合体による発熱部50および50Aは、いずれも、バッキーペーパーを切り出して形成したり、インクジェット印刷の技法によって形成したりすることが可能である。さらに、薄層状のSWCNT集合体による発熱部50および50Aは、いずれも、
図9に示したように基板12に形成してから被測定物に貼付しても、あるいは、被測定物に直接貼付または印刷しても、同様に動作させることが可能である。薄層状のSWCNT集合体による発熱部50および50Aは、いずれもサイズに特段の制約がないため、被測定物が微小である場合にも、それに合わせて発熱部50および50Aを小型に形成することもできる。
【0075】
<第3実施形態:熱容量センサー>
[SWCNT集合体を用いる熱容量センサー]
本発明の第3実施形態は、SWCNT集合体を用いる熱容量センサー300として実施される。その熱容量センサー300は、概念的には、第1実施形態にて上述した温度センサー100と第2実施形態にて上述したヒーター200または200Aとを組み合わせた構造を備えている。本実施形態の説明は、最初に
図10に基づいて、熱容量センサー300が用いられる手法(緩和法熱容量測定)の測定系全体の構成を説明し、その後、
図11に基づき熱容量センサー300について説明する。最後に、緩和法による熱測定について説明する。
【0076】
[測定系]
図10は、試料ステージ92と、熱浴部94とからなる緩和法熱容量測定の測定系の構成図である。このうち、
図10(a)は、試料ステージ92と熱浴部94のベース部94Bとを組み合わせた構成を示す斜視図であり、
図10(b)は、試料ステージ92と熱浴部94との構成を示す概略断面図である。緩和法熱容量測定(以下、「緩和法」という)は、試料ステージ92と熱浴部94との間に生じる熱移動を少なくしておき、試料ステージ92にて熱を発生させ、温度変化を精密に測定することにより行なわれる。測定されるのは、試料ステージ92に載置した被測定物96の熱容量である。この際、試料ステージ92における熱はヒーター1004(
図11)からのジュール熱により与えられ、試料ステージ92における温度変化は感温部1020(
図11)により測定される。この試料ステージ92が熱容量センサー300として動作する。
【0077】
図10(b)に示すように、熱浴部94はシールド部94Aとベース部94Bとからなる。ここで、ベース部94Bには必要に応じて凹部94Cが設けられており、
図10(a)に示すように、凹部94Cのつくる空間またはその上方に、被測定物96とともに試料ステージ92が接続ワイヤー98によって宙づりにされている。ただし、凹部94Cは、試料ステージ92および被測定物96が熱浴部に接する可能性がない場合には、必ずしも必要ではない。測定の際には、凹部94Cおよびベース部94Bの上方空間がシールド部94Aにより覆われる。つまり、測定時の熱浴部94には、被測定物96とベース部94Bとを囲み、凹部94Cをその一部とするような内部空間が存在し、試料ステージ92と被測定物96とがその内部空間において宙づりになっている。この熱浴部94のシールド部94Aとベース部94Bは、銀や無酸素銅などの熱の良導体により作られており、熱浴部94全体の温度が温度制御装置(図示しない)によって温度制御されている。また、
図10には図示しないが、接続ワイヤー98以外にも、試料ステージ92の感温部1020の動作およびヒーター1004の動作に必要な電気信号または電力供給のための配線が、熱浴部94の金属部から絶縁されて外部に引き出されている。熱浴部94Bのいずれかの位置に貫通孔を設けるなどによって、上記内部空間から容易に排気を行えるように構成することも好ましい。
【0078】
熱浴部94の内部空間は、熱容量の測定時には真空排気されて減圧される。このため測定時には、試料ステージ92および被測定物96と外界との間の対流、放射および熱伝導による熱的な結合がほぼ遮断される。測定時に残されている熱の伝達経路は、接続ワイヤー98と、電気信号または電力供給のための配線とを通じた熱伝導による伝達経路のみである。つまり、試料ステージ92は、測定時には接続ワイヤー98およびその他の配線のみを通じて熱浴部94に対して熱的に接
触しまたは熱的に結合している。この熱的な接触の程度または結合の強さは、接続ワイヤー98の材質およびその太さや長さを変更することにより調整され、被測定物96の所望の熱特性が測定できるようにされる。
【0079】
[熱容量センサー]
図11は、試料ステージ92(熱容量センサー300)を拡大して構成を示す分解斜視図である。基板1002には、ヒーター1004が形成されており、そのヒーター1004には加熱用配線対1006が接続されている。そのヒーター1004には、加熱用配線対1006を通じて必要なタイミングで必要な量の電流が供給される。ヒーター1004の
図11における上面には、絶縁層1010を介して感温部1020が形成されている。感温部1020には、それ自体の電気抵抗値を測定するための配線対1022が少なくとも一対接続されている。感温部1020の電気抵抗は、例えばブリッジ回路による測定によって測定されて温度に換算される。四探針法による測定を行なう場合には、配線対1022は、感温部1020に電流を流すための配線対と電圧を測定するための配線対(図示しない)とによって構成される。そして、感温部1020は、さらに絶縁層1030によって被覆される。被測定物96は、測定の際には絶縁層1030に接して配置される。この配置は、ヒーター1004が被測定物96に熱を与え、感温部1020が被測定物96に熱的に接する配置である。図示しないが、絶縁層1030と被測定物96との間には、熱抵抗を低減させて熱的に良好な接触状態を実現するための伝熱グリースなどが配置されていてもよい。基板1002には、熱浴部94との熱的な結合を確保するための接続ワイヤー98が接続されている。
【0080】
[緩和法による熱容量測定]
本実施形態における試料ステージ92(熱容量センサー300)による熱容量の測定は、次のような手順によって行なわれる。まず、測定のための準備、すなわち、試料ステージ92への被測定物96の配置、熱浴部94内の真空排気、および熱浴94の温度の安定化が行なわれる。その際、独立した温度制御機器(図示しない)により熱浴部94が一定の温度に保たれ、熱浴部94内が熱平衡に達するのに十分なだけの時間その状態が維持される。次に、ヒーター1004へ電流を流し始める(加熱期間の開始)。その時点からは、ヒーター1004によって試料ステージ92が被測定物96とともに加熱されてゆく。この加熱が継続されている間、試料ステージ92および被測定物96の温度は上昇してゆき、試料ステージ92の温度と熱浴部94の温度との間に温度差が生じ始める。ここで、接続ワイヤー98を通じて試料ステージ92から熱浴部94へと散逸する熱量は、この温度差に比例する。したがって、加熱開始後十分な時間を経過すると、ヒーター1004の発熱量と散逸する熱量とが釣り合って試料ステージ92および被測定物96の温度はほぼ一定となり、上記温度差はそれ以上拡大しなくなる。次に、その状態からヒーターによる加熱を停止する(冷却期間の開始)。加熱を停止すると、試料ステージ92の温度は低下しはじめ、一定に保たれている熱浴部94の温度に漸近してゆく。この過程において、熱浴部94の温度は十分に一定に保たれている。
【0081】
ここで、加熱停止後つまり冷却期間における試料ステージ92の温度Tの時間変化は、
T=T
(熱浴)+ΔT exp(−kt/C
P)
の式に従う。ここで、T
(熱浴)は一定に保たれている熱浴94の温度、tは冷却開始後の時間、ΔTは直前の加熱期間の最後における試料ステージ92の温度と熱浴部94の温度との間の温度差、kは接続ワイヤーの熱伝導率、そしてC
Pは熱容量(定圧熱容量)である。つまり、上式の右辺第2項は、加熱停止後における試料ステージ92と熱浴94との温度差の時間変化を表現している。この温度差の時間変化は、ヒーター1004による熱量と、試料ステージ92および熱浴部94の間の接続ワイヤー98の熱伝導率kとによって決定される時定数に従って緩和する指数関数に比例している。よって、熱容量C
Pを算出するためには加熱停止後の温度Tの時間変化を測定すればよい。この手法を緩和法という。なお、ここで算出される熱容量C
Pは、試料ステージ92と被測定物96とを総合した物体の熱容量C
Pである。
【0082】
上述した緩和法は、熱容量測定の一般的な手法として知られている。上述したものとは異なり、加熱時の温度変化を測定に用いたり、または、試料ステージ92と被測定物96との間の熱的な結合が不十分な場合にもその効果を勘案して精度を確保する測定も行なわれている。しかし、被測定物96が微小な場合には特に、被測定物96の熱容量の測定精度を十分に高めるための工夫が行なわれる。すなわち、感温部(温度センサー)1020やヒーター1004を被測定物96に熱的にできるだけ強く結合させること、感温部(温度センサー)1020やヒーター1004をできるだけ高精度化すること、そして、試料ステージ92を小型化することが望ましい。このための具体的な手法として、本実施形態においては、試料ステージ92に薄層状のSWCNT集合体による感温部1020と薄層状のSWCNT集合体によるヒーター1004とを用いることによって、試料ステージ92と感温部1020およびヒーター1004との熱的な結合を高めている。
【0083】
本実施形態の熱容量センサー300(試料ステージ92)の高精度化は、ヒーター1004の発熱量の高精度化や温度センサー(感温部1020)の高感度化によって達成される。例えば金属チューブのみからなるSWCNT集合体(第2の集合体)をヒーター1004の材質として選択することにより電気抵抗が温度によらず一定となり、ヒーター1004の発熱量が高精度に制御可能となる。また、感温部1020の高感度化は、
図5に示したように半導体チューブの組成比が測定温度域に合わせて調整されている金属チューブと半導体チューブとからなるSWCNT集合体(第1の集合体)によって感温部1020を作製することにより達成される。その際に、SWCNT集合体における半導体チューブと金属チューブとの組成比を調整して電気抵抗値を磁場によって変化しにくくすることにより、熱容量測定においても磁場印加時に高精度な測定が可能となる。とりわけ、半導体チューブと金属チューブとの組成比を吸光度スペクトルに基づく相対的な組成比において65:35とすることは、上述したような測定を行う上で好適である。また、必要な温度感度を達成するために感温部1020として磁場依存性が大きい組成比のSWCNT集合体を使用せざるをえない場合であっても、磁場中における較正等による対処は十分に可能かつ現実的である。これは、SWCNT集合体の電気抵抗値の磁場依存性が緩やかまたは単調なためであり、熱容量センサー温度センサーに関連して説明した補間などの手法を熱容量センサー300に対しても採用することが可能なためである。このため、65:35のSWCNT集合体のように、磁場依存しないSWCNT集合体を用いる場合も磁場が印加される条件での測定を実行することが可能である。加えて、本実施形態の薄層状のSWCNT集合体からなる感温部1020を用いて10Kを超える温度域の温度測定の精度が高められた熱容量センサー300は特に有用である。10Kを超える温度域に対しては高精度化および大幅な小型化を両立させうる温度センサーは従来知られていないためである。
【0084】
そして、本実施形態の熱容量センサー300(試料ステージ92)の小型化は、試料ステージ92におけるヒーター1004や感温部1020の小型化によって達成される。第1実施形態および第2実施形態において説明したように、SWCNT集合体のサイズには特段の下限はなく、薄層状にSWCNT集合体を任意のパターンに形成することも原理的に容易である。したがって、例えば、切削用の器具によってバッキーペーパーから切り出したり、インクジェット印刷によってパターニングしたりすることによりヒーター1004や感温部1020を小型化することができる。そして、小型化されたヒーター1004や感温部1020を用いることによって、試料ステージ92自体も小型化され、例えば1.3mm×0.7mm×0.05mm程度のサイズによって作製することが可能となる。試料ステージ92の小型化によって、本実施形態の熱容量センサー300においては微小な被測定物試料を用いた場合の測定精度が高められる。その理由は、試料ステージ92それ自体を小型化すれば、熱浴部94に対して放出される熱のうち被測定物96からの熱が占める割合が大きくなり、試料ステージ92の熱容量が被測定物96の熱容量の測定に対して及ぼす影響が軽減されるためである。
【0085】
さらに熱容量センサー300では、試料ステージ92の小型化ばかりではなく、感温部1020の測定温度域の調整や電気抵抗値の調整も容易に行うことができる。測定温度域の調整や電気抵抗値の調整のためには、感温部1020に用いるSWCNT集合体における半導体チューブの組成比や、感温部1020それ自体の形状が調整される。これらの調整は、感温部1020にSWCNT集合体を採用する熱容量センサー300では容易に行うことができる。
【0086】
なお、本実施形態の熱容量センサーとして動作する試料ステージ92において、基板1002の両面のうち、ヒーター1004や感温部1020が形成されたのと同じ側の面の上に被測定物96を載置することは必須ではない。例えば試料ステージ92の逆の面(
図11において下方の面)に被測定物96を接触させても測定が可能である。さらに、試料ステージ自体の構造も、
図11に示した試料ステージ92以外の構造を採用することが可能である。例えば、ヒーターと感温部を別々の面に配置するように構成することも本実施形態の一態様である。
【0087】
<第4実施形態:熱伝導率測定器>
[SWCNT集合体を用いる熱伝導率測定器]
本発明の第4実施形態は、SWCNT集合体を用いた熱伝導率測定器400として実施される。
図12は本実施形態の熱伝導率測定器400の構成を示す概略斜視図である。
【0088】
本実施形態の熱伝導率測定器400は、発熱部1202と第1感温部1204と第2感温部1206とを備えている。発熱部1202は、板状の被測定物1250の一方の端部に設けられていてその端部に熱的に接して熱を与えるようになっている。その発熱部1202には、二つの加熱用配線対1222が接続されている。被測定物の他方の端部には熱浴となる物体1212(以下、「熱浴1212」)が熱的に接している。第1感温部1204は、被測定物の一方の端部と他方の端部との間の位置において熱的に接するように配置されている。第1感温部1204は、薄層状に形成されているSWCNT集合体(第3の集合体)を含んでいる。その第1感温部1204の位置を第1の表面位置とすると、第2感温部1206は、その第1の表面位置と被測定物1250の他方の端部との間の位置である第2の表面位置において被測定物1250に対して熱的に接している。第2感温部1206も、薄層状に形成されているSWCNT集合体(第4の集合体)を含んでいる。
【0089】
図12に示した熱伝導率測定器400の第1感温部1204と第2感温部1206は、それぞれ二端子法によって測定が行なわれる。そのため、第1感温部1204と第2感温部1206とには、それぞれ、測温用配線対1224および1226が一対ずつ接続されている。第1感温部1204と第2感温部1206との少なくとも一方または両方において四探針法による測定を行なう場合には、必要な測温用配線(図示しない)が追加される。なお、本出願において被測定物の端部とは、被測定物の各部分のうち互いに重ならないようにある領域をおいて離れている二つの部分それぞれをいう。
【0090】
熱伝導率測定器400により測定を行なう際には、
図10にて熱容量センサーの場合に示した熱浴部94のようなシールド部とベース部とからなるケース(図示しない)に熱伝導率測定器400が収められる。そのケースの一部が、被測定物1250を伝わった熱の到達先となることによって熱浴1212として機能する。熱浴1212は、ケースごと温度制御部(図示しない)によって温度が制御されている。板状の被測定物1250は、上述した発熱部1202と第1感温部1204と第2感温部1206以外に熱浴1212にも熱的に接している。
【0091】
加熱用配線対1222に電流を流して発熱部1202からジュール熱を発生させると、その熱は、被測定物1250内の熱流束となる。その熱流束は、被測定物1250のうち発熱部1202が設けられている一方の端部側から熱浴1212に接している他方の端部側に向かって流れる。ただし、加熱開始直後は過渡状態であるため測定は行なわれない。発熱部1202からの熱は、加熱開始直後は被測定物1250の内部を熱浴1212へと伝わりながら被測定物1250の各部の温度を上昇させる。加熱開始から時間が経過すると、やがて定常状態へと移行してゆく。定常状態では、発熱部1202からの熱が被測定物1250の各部の温度上昇にはもはや寄与せず、各部の温度は、位置による温度分布を維持しつつ時間的には変化しなくなる。その際の被測定物1250の各位置の温度分布による温度勾配は、発熱部1202から生成される熱浴1212へと流れる被測定物1250内の熱流束を生じさせる。この定常状態の被測定物1250が測定の対象となる。
【0092】
定常状態における被測定物1250の熱流束は、熱流束に直交する断面積あたりの値が、被測定物1250の温度勾配と被測定物1250の熱伝導率との積として記述される。ここで、温度勾配は、第1感温部1204と第2感温部1206との測定による温度差を、被測定物1250中の第1感温部1204の位置(第1の位置)と第2感温部1206の位置(第2の位置)との間の距離d(
図12)によって除算して求められる。また、断面積あたりの熱流束は、発熱量すなわち発熱部1202から発熱量と被測定物1250の形状によって決定される。したがって、被測定物1250の熱伝導率は、断面積あたりの熱流束を温度勾配によって除算することにより算出される。
【0093】
本実施形態の熱伝導率測定器400の高感度化は、発熱部1202の発熱量の高精度化や第1感温部1204および第2感温部1206の高感度化によって達成される。発熱部1202の発熱量の高精度化は、例えば金属チューブのみからなるSWCNT集合体を発熱部1202の材質として選択することにより、温度によらずに抵抗値が一定となって達成される。また、第1感温部1204および第2感温部1206の高感度化は、合成されたままの未分離のSWCNT集合体から遠心分離処理によって得られた金属チューブおよび半導体チューブを再度混合して、第1感温部1204におけるSWCNTの第3の集合体および第2感温部1206におけるSWCNTの第4の集合体のそれぞれの組成比を所定の値に調整することによって達成される。この際、第1感温部1204および第2感温部1206における組成比は、同一の値とされても、また、別々の値とされていてもよい。
特に、
図5に示したように半導体チューブの組成比が測定温度域に合わせて調整されているような金属チューブと半導体チューブとからなるSWCNT集合体を採用すれば、目的の温度域に適合させた第1感温部1204および第2感温部1206を作製することも可能となる。
【0094】
熱伝導率測定器400では、第1感温部1204および第2感温部1206の測定温度域の調整や電気抵抗値の調整も容易に行うことができる。測定温度域の調整や電気抵抗値の調整のためには、各感温部に用いるSWCNT集合体における半導体チューブの組成比や、各感温部それ自体の形状が調整される。これらの調整は、各感温部にSWCNT集合体を採用する熱伝導率測定器400では容易に行うことができる。
【0095】
さらに、その調整の際に、SWCNT集合体における半導体チューブと金属チューブとの組成比を、磁場中においても電気抵抗値が変化しにくい値に調整すること、特に、半導体チューブと金属チューブとの組成比を65:35とすることにより、熱伝導率測定においても磁場印加時に高精度な測定が可能となる。ただし、必要な温度感度を達成するために磁場依存する組成比のものを使用せざるをえない場合であっても、磁場中における較正等による対処は十分に可能かつ現実的である。これは、SWCNT集合体の電気抵抗値の磁場依存性が単調なためである。そのため、半導体チューブと金属チューブとの組成比を65:35としていないSWCNT集合体を用いる場合も磁場が印加される条件での測定を実行することが可能である。
【実施例】
【0096】
[実施例1:温度センサー]
本発明の実施例1として、第1実施形態に従って作製された
図1に示した温度センサー100と同一またはほぼ同一の構造を有する温度センサーについて説明する。表1に、実施例1にて作製した温度センサーのサンプル(以下、「サンプルA〜G」という)の作製条件のうち互いに相違する条件をまとめている。
【表1】
【0097】
表1に掲げた各サンプルについて、
図1の参照符号を用いて説明する。表1に示すように、本実施例の各サンプルの感温部10は、サンプルA〜Fについてはバッキーペーパーを切り出して形成し、サンプルGについてはインクジェット印刷を用いて形成した。また基板12については、サンプルF以外は厚み50μmのポリイミドフィルムを用いた。サンプルFは基板を使用せず、バッキーペーパーの感温部を被測定物に直接貼付して測定した。被測定物は純銅片を用いた。
【0098】
各サンプルの感温部10には、組成比組成比の異なるSWCNT集合体を採用した。まず、第1実施形態において上述したように、半導体チューブと金属チューブとに占める半導体チューブの相対的な比率として、100%(サンプルA)、77%(サンプルB)、65%(サンプルC、F、G)、26%(サンプルD)、0%(サンプルE)を選択した。これらのサンプルの温度センサーの作製方法は、
図7に関連して上述したとおりとした。つまり、サンプルA〜Fは、前半の工程である
図7(a)の工程の後に、後半の工程である
図7(b)の工程を実施した。また、サンプルGは、前半の工程である
図7(a)の工程の後に後半の工程である
図7(c)の工程を実施した。なお、サンプルFについては、前半の工程である
図7(a)の工程の後に
図7(b)の工程を行なって得られたバッキーペーパーの温度センサーを、基板12を用いずに被測定物に貼付した。被測定物が導電体であるため、測定面には、ワニスを塗布して絶縁処理を施し、その上から切り出したバッキーペーパーを貼付して温度センサーとして動作させた。ワニスに関しては、エタノール等の溶媒によって希釈して塗布しており、皮膜は数μm程度以下であった。
【0099】
各サンプルの作製方法の詳細について説明する。まず、SWCNTとして市販品(Meijyo Arc Soタイプ、名城ナノカーボン株式会社製)を採用した。
図7(a)の合成(S102)は行なっていない。このSWCNTは、アーク放電法によって作製された単層カーボンナノチューブである。分離処理(S104)および精製処理(S106)は上述した密度勾配遠心分離法および精製処理の通りの処理とした。半導体チューブが100%と金属チューブが100%のSWCNT集合体それぞれを得た後、それらを用いて上述のサンプルA〜D、F、およびG用のSWCNT集合体分散液を調製した(S108)。サンプルEには、金属チューブ100%のものを用いた。この際、調製のために重量比から吸光度による組成比を割り出す検量線が予め作成され、その検量線によって所定の組成比が得られるようにした。
【0100】
次に、サンプルA〜Fについては、各サンプル用のSWCNT集合体分散液からバッキーペーパーを作製した。各サンプルに合わせて調製されているSWCNT集合体の分散液をメンブレンフィルター(ポアサイズ0.2μm、Millipore Co.製)により濾すことによってバッキーペーパーを作製した。作製されたバッキーペーパーのサイズは、直径約2.5cmの円形外形を持ち厚み10μmであった。バッキーペーパーは、約10
−6Torr(1.33×10
−4Pa)の真空下にて200℃の設定温度にてアニール処理された。そのバッキーペーパーが実体顕微鏡下にて10mm×5mm×10μm(厚み)に切り出された(S114)。この際の工具としてはナイフを用いた。サンプルA〜Eについては、その後、ポリイミド基板に配置した。熱伝導グリースがポリイミド基板の面にごく薄く塗布され、バッキーペーパーはその粘着性によってポリイミド基板に保持された。そして、ポリイミド基板のもう一方の面を被測定物に貼付した。サンプルFについては、被測定物のワニスの面に熱伝導グリースが塗布され、同様に被測定物にバッキーペーパーが保持された。そして、サンプルA〜Fについて配線の接続(S116)に代えて、4つのプローブを
図1の各電極の配置となるように接触させた。ここで、プローブとしては直径0.05mmの金ワイヤーを用いている。
【0101】
一方、サンプルGについては、調製処理(S108)によって調製されたSWCNT集合体分散液を、インクジェット印刷法によってポリイミド基板上に印刷することによって作製した。インクジェット印刷法は、本実施例ではMicrojet社製インクジェット式超微量スポッターPicojet−1000Wを用いた。なお、ポリイミド基板の被印刷面にはプラズマ改質によって予め親水化処理を行なっておいた。印刷時にSWCNT集合体分散液がはじかれず濡れて、薄層状のSWCNT集合体が均一な厚みに形成されるようにするためである。印刷後は、水分を含んでいるSWCNT集合体の乾燥処理として、80℃に設定された真空オーブン中にて1秒間加熱が行われた。その後、サンプルGについても、ポリイミド基板の面のうちSWCNT集合体が形成されたのとは逆の面をサンプルA〜Eと同様に被測定物に貼付し、配線の接続(S116)に代えて、4つのプローブを
図1の各電極の配置となるように接触させた。
【0102】
さらに、被測定物(純銅片)を対象に、バッキーペーパーを被測定物上のワニスの面の上に配置したサンプルFを用いて電気抵抗値の測定を行なった。その結果、上述のサンプルCと同様の極低温領域(3〜11K)において良好な感度が得られ、低温領域(11〜40K)において測定が可能であった。さらにインクジェット印刷を利用したサンプルGによって同様の被測定物を用いた測定を行なったところ、極低温(3〜11K)において良好な感度が得られ、低温領域(11〜40K)において測定が可能であった。
【0103】
さらに、磁場による効果を調査した。具体的には、温度センサーのサンプルC〜Eを用いて、被測定物にも温度センサーにも磁場が印加されていない状態を基準にして、磁束密度3Tに相当する磁場を、SWCNT集合体の面に垂直の方向に被測定物にも温度センサーにも印加した状態の電気抵抗値を比較した。温度は2Kとしている。
【0104】
磁場が印加されている場合、各サンプルの電気抵抗値は以下のとおりであった。サンプルCでは磁場がないときに比べて電気抵抗値が約1.7%低下した。これに対し、サンプルDでは約4%の低下が見られ、サンプルEでは約5%低下した。このように、電気抵抗値が磁場により影響される程度は、半導体チューブの組成比によって異なり、半導体チューブが65%の組成比において、SWCNT集合体の電気抵抗は磁場に対する依存性が小さくなった。
【0105】
さらに、
図8に示した二探針法によってサンプルA〜Gの電気抵抗値を測定した。その結果、サンプルEでは、四探針法による電気抵抗値よりも二探針法による電気抵抗値が大きく測定された。それ以外のサンプルA〜D、FおよびGでは、測定誤差以上の違いは見られなかった。
【0106】
以下、特にサンプルA〜Cによって得られた測定値に基づいて、温度センサーの調整手法についてより具体的に説明する。そのために、上述したようにして作製された各サンプルの電気抵抗を、
図4と同様の温度域(3K以上約380K以下)において測定し、温度センサーとして利用可能な温度域を調査した。測定された各サンプルのSWCNT集合体の電気抵抗率は、長さL=10mm、幅W=5mm、厚みt=10μmの形状において長さ方向に電流を流した場合の電気抵抗値へと換算した。その結果、
図5と同様の測定値が得られた。まず、温度の上限側については、サンプルA〜Cのいずれについても、約380Kまでの範囲において、ACレジスタンスブリッジ回路による測定が可能な範囲の抵抗値、すなわち2mΩ〜2MΩの範囲であった。ところが、温度の下限側では測定が困難な場合があった。以下、温度の下限側の測定結果を中心に各サンプルについて説明する。各サンプルは、二つの温度域を対象に、温度測定の可否と、感度および測定の実用面とについて説明する。説明において想定する温度域は、極低温および低温の温度域として、それぞれ、3K以上11K未満(以下、「3〜11K」と記す)および11K以上40K以下(「11〜40K」)とする。
【0107】
まず、その結果の測定値を表2に、また、測定可否および感度の判定結果を表3にまとめている。
【表2】
【表3】
【0108】
まず、サンプルAは11K未満の温度において電気抵抗値が2MΩを超えてしまい、ACレジスタンスブリッジによる測定が不可能であった。このため、サンプルAは、極低温領域(3〜11K)においては測定が不可能であった。また、11K以上の温度で計測したところ、サンプルAの抵抗値は温度により変化することが確認された。その数値は、表2に示した通りであった。したがって、サンプルAは、低温領域(11〜40K)において測定が可能であった。また、サンプルAの感度を低温領域(11〜40K)において調べたところ、十分な感度が得られた。サンプルAの1Kあたり抵抗値の変化率は温度が低いほど大きかった。
【0109】
次に、サンプルBを用いて同様の測定を行なったところ、測定温度域の下限である3K以上約380K以下の温度域全域において抵抗値の測定が可能であった。具体的にはサンプルBからは、表2に示したような測定値が得られた。サンプルBは、極低温領域(3〜11K)の範囲で良好な感度を示した。サンプルBにおいて1Kあたり抵抗値が10%以上変化したのは3K以上約11K未満の温度域であったためである。特に3K以上8K以下の温度域では1Kあたり抵抗値が20%以上変化し、サンプルBは極低温において鋭敏な感度を示した。ただし、低温領域(11〜40K)においてサンプルBは、温度に対して抵抗値の変化が小さくなって、サンプルAに比べると感度が低下した。なお、サンプルBにおいても、1Kあたりの抵抗値の変化率は温度が低いほど大きいという傾向は変わらなかった。
【0110】
さらにサンプルCを用いて同様の測定を行なった。サンプルCにおいても、測定範囲である3K以上約380K以下のすべての温度域において抵抗値の測定が可能であった。サンプルCの具体的な測定値も、表2に示している。サンプルCが良好な感度を示した極低温領域(3〜11K)の範囲であった。サンプルCにおいて1Kあたり抵抗値が10%以上変化したのは3K以上11K未満の温度域である。特に3K以上6.5K以下の温度域では1Kあたり抵抗値が20%以上変化し、サンプルCは温度に対して鋭敏な感度を示した。ただし、低温領域(11〜40K)において、サンプルCは、温度に対して抵抗値の変化が小さくなって、サンプルAに比べると感度が低下した。なお、サンプルCにおいても、1Kあたり抵抗値の変化率は温度が低いほど大きいという傾向は変わらなかった。
【0111】
なお、温度域を一致させて極低温(3〜11K)とした場合、サンプルBとCとを比較すると、抵抗値の温度変化(感度)から、サンプルBのほうがサンプルCよりもわずかに感度が高く温度測定に適していた(表3には示していない)。また、温度域を一致させて低温領域(11〜40K)とした場合、サンプルA〜Cを比較すると、抵抗値の温度変化(感度)から、サンプルAが最も温度測定に適しており、サンプルBおよびCは、サンプルAほどの感度を得られなかった。
【0112】
以上のように、2mΩ〜2MΩの測定可能な抵抗値の範囲を持つ測定回路を用いる場合には、極低温領域(3〜11K)の温度域においてサンプルAの温度センサーによって測定を行うことは不可能であった。この温度域では、サンプルBとサンプルCが共に良好な感度を示したが、両者の比較ではサンプルBが高い感度であった。これに対し低温領域(11〜40K)の温度域では、サンプルA〜Cのすべての温度センサーにより温度の測定を行うことが可能であった。ただし、この温度域においてサンプルA〜CのなかではサンプルAの温度センサーが高い感度を示した。
【0113】
次に、サンプルBとサンプルCの温度センサーの極低温における高い感度をより効果的に温度測定に反映させる手法を例示するため、測定用のACレジスタンスブリッジ回路の測定レンジとの関連について調査した。本実施例において用いるACレジスタンスブリッジ回路では、測定可能な抵抗値の範囲2mΩ〜2MΩが一桁ごとの抵抗値の範囲に応じて区切られた測定レンジの系列によってカバーされている。ここでは説明のため、その系列中の測定レンジのうち、20Ω〜200Ωの第1の測定レンジ、200Ω〜2kΩ以下の第2の測定レンジ、2kΩ〜20kΩの第3の測定レンジのみに関して説明する。そして、説明を明確にする目的のため、これ以降、これらの例示の測定レンジ以外のものが使用できないことを仮定する。
【0114】
表2に示したように、サンプルBの抵抗値は、3Kおよび10Kにおいて、それぞれ、20kΩおよび1.5kΩであり、同様にサンプルCでは、同温度において、それぞれ2.2kΩおよび260Ωであった。したがって、極低温領域(3〜11K)の温度域の温度を測定するためにサンプルBの温度センサーを用いる場合、抵抗値を測定するためにACレジスタンスブリッジ回路に第3の測定レンジ(2k〜20kΩ)を採用することにより、3K付近は抵抗値が測定レンジの最大値に近く、良好な測定精度によって測定が行える。それに対し10K付近では、要求される測定精度によっては、抵抗値が低くなりすぎる。
【0115】
一方、本実施例においてサンプルBに代えてサンプルCの温度センサーによって測定する場合、第2の測定レンジ(200〜2kΩ)によって測定を行うこととなる。この場合10K付近では、測定レンジの範囲内であるため測定が可能であり、そこから温度が下がるにつれて感度が上昇する。ただし今度は3K付近になると抵抗値が測定レンジの最大値を超えるため測定が不可能になってしまう。
【0116】
さらに、本実施例において得られた測定結果に基づいて、測定目的に合わせて温度センサーを構成する手法について説明する。本実施例にて得られた結果から、SWCNT集合体を用いる温度センサーは、種々の観点から測定目的に合わせて特性を自在に調整することが可能である。実際の温度測定においては、測定の目的、温度域、抵抗の測定レンジ、温度センサーのサイズの上限等の要求に合わせて、SWCNT集合体における半導体チューブの組成または形状が調整される。ここでは、説明のため、いくつかの代表的な調整目的に対して、調整の具体的な手法について説明する。
【0117】
測定精度を向上させるための調整のための目的の設定は、多種の設定の仕方が考えられる。説明の出発点としてまず、測定済のサンプルを用いる範囲で説明する。調整の目的を3Kのごく近傍における測定精度を高めることとすると、サンプルBを第3の測定レンジにより測定する。また、調整の目的を10Kのごく近傍における測定精度を高めることとすると、サンプルBを第2の測定レンジにより測定する。これらは、サンプルBがサンプルCに比べて感度が高いことを利用して測定温度域が狭くても温度の違いに対して鋭敏な抵抗値の変化を検出するためである。
【0118】
次に測定済のサンプルにとらわれず、さらに感度の高さを追求するために組成比を調整する手法について説明する。そのためには、典型的には、サンプルBの組成比(77%)から出発して、半導体チューブの組成比をそれよりも高い値に変更することにより、一層高い感度の測定を行いうる半導体チューブの組成比を決定する。その組成比の典型的な決定手法は、まず、ACレジスタンスブリッジ回路のいずれの測定レンジによって測定を行うかを予め決定しておく。次に、その測定レンジにおいて測定誤差の生じにくいような抵抗値の値が実現されるように上記組成比を決定する。具体的には、例えば、10Kのごく近傍の温度の精度を高めるために用いられる半導体チューブの組成比を推測すれば、77%の組成比よりも100%に近い組成比となるであろう。逆に、3Kのごく近傍の温度の精度を高めるために用いられる半導体チューブの組成比は、10K近傍の感度を高める組成比よりも少ないが、77%よりは高い値となるであろう。さらに、SWCNT集合体の感温部のサイズを変更することにより、抵抗値の調整が可能であるため、組成の変更と合わせてサイズの変更も行って抵抗値を調整すれば、より柔軟に温度センサーの抵抗値の範囲を調整することができる。
【0119】
次に、測定温度域に渡って測定レンジを変更することなく測定を行える、という条件を満たしつつ、可能な限り感度を高める手法について説明する。このような手法は、温度を連続的に、かつ、可能な限り正確に測定することが必要な場合に有用である。この場合に考慮に入れられる情報は、半導体チューブの組成比が高いほど温度変化に対して抵抗値の変化が大きいことである。そのため、ACレジスタンスブリッジ回路の測定レンジが1桁つまり最小と最大の抵抗値の比率が1:10に限定されている場合には、感度を高め過ぎると測定レンジの変更が避けられなくなる。そこで、目的の測定温度域の上限と下限とにおいて、組成調整後のSWCNT集合体が示すべき抵抗値の比率を、測定レンジの上限と下限の比率、より一般的には、測定レンジのうち、許容誤差の範囲において測定が可能な範囲の上限と下限の抵抗値の比率に応じて決定する。例えば、測定レンジが上述した1桁である場合、すなわち、最小と最大の抵抗値の比率を1:10とすることにより測定回路による測定誤差が許容範囲である場合には、温度センサーの抵抗値の比率もその1:10の比率以下となるように決定する。そしてその比率を達成できるような範囲で可能な限り高い感度が得られる組成比に決定する。SWCNT集合体の感温部のサイズを変更すれば、目的の測定レンジの範囲で、測定レンジの変更を伴わずに測定を行うことができる。
【0120】
より具体的に測定済のサンプルに基づいて説明する。測定温度域を3〜10Kとする。その場合に、サンプルBでは、表2に示したように、その温度域で温度センサーの抵抗値の比率が1:10を超えて変化している。これに対してサンプルCでは、温度センサーの抵抗値の比率は、1:10以内である。したがって、半導体チューブの組成比として65%から77%までの範囲には、抵抗値の比率が丁度1:10程度となるような組成比の値が存在するといえる。したがって、必要に応じて適切な余裕を見込んだ上で、抵抗値の比率が1:10程度になるような組成比のSWCNT集合体の薄膜を形成する。SWCNT集合体の感温部の形状は、抵抗値を高めたければ、厚みを薄く、電流経路を長く、または、電流経路を横切る向きの幅を狭くする、という少なくともいずれかの変更を行う。抵抗値を低くしたい場合には、これらの逆に形状を調整する。
【0121】
以上のような調整を行うことによって、実施形態1の温度センサーにおいて、測定温度範囲と、ACレジスタンスブリッジ回路などの測定回路のもつ測定レンジの切り替えに伴う測定誤差といった実用面の誤差要因という二つの要因に対して調整された温度センサーを作製することが可能となる。なお、測定温度域を3〜10Kとして説明したが、より狭い温度範囲を測定温度域とする場合には、温度センサーの抵抗値の比率の変化量が小さいことから、測定レンジを超えることが無く、半導体チューブの組成比が大きいSWCNT集合体を用いて高い感度での測定が行える。また、一つの測定レンジの範囲においても測定回路の誤差が異なる場合に、より高精度な測定のためには、その測定レンジの範囲で高精度な測定が可能な範囲を対象に、上述したような調整を実施することが可能である。
【0122】
[実施例2:ヒーター]
本発明の実施例2として、第2実施形態に従って作製されたSWCNT集合体を用いたヒーターのサンプルについて説明する。表4に作製したサンプルの構成を示す。
【表4】
表4に示したように、実施例2においては、
図9(a)における発熱部50を金属チューブのみからなるSWCNT集合体のバッキーペーパーから作りサンプルKとし、同様に、
図9(b)における発熱部50Aを金属チューブのみからなるSWCNT集合体分散液からインクジェット印刷により形成しサンプルLとした。サンプルKおよびLにおいては、ともにポリイミドフィルムを基板に用い、上述した温度センサーの実施例1のサンプルAおよびGに準じて作製した。ただし、SWCNT集合体の組成はこれらとは異なり、いずれも金属チューブのみのSWCNT集合体(またはその分散液)を用いた。また、
図9(b)に示すように、サンプルLは蛇行した経路とするようにインクジェット印刷のパターンを設定した。
【0123】
このようにして作製したヒーターのサンプルKおよびLの電気抵抗値は、いずれも、温度にほとんど依存しない値となった。そして、特にサンプルLでは、
図9(b)に示したヒーター200Aと同様に、実質的な幅が狭く、実質的な長さが長く掲載された電流経路が実現されたため、電流量の制御が容易なヒーターが作製された。
【0124】
[実施例3:熱容量センサー]
本発明の実施例3として、第3実施形態に従ってSWCNT集合体を用いた熱容量センサーのサンプルMを作製した。サンプルMは、
図10および11に示した熱容量センサー300の構造に作製した。すなわち、試料ステージ92(
図11)と同様に、ポリイミドフィルムを基板1002として用い、ヒーター1004を基板上に形成し、加熱用配線対1006を接続した。さらに、ボリイミドフィルムによる絶縁層1010を介して感温部1020を形成し、配線対1022を接続した。
【0125】
ヒーター1004はサンプルK(実施例2)と同様に条件により、また、感温部1020はンプルC(実施例1)と同様の条件により作製した。つまり、ヒーター1004は金属チューブのみのSWCNT集合体のバッキーペーパーを採用し、感温部1020は半導体チューブの組成比が65%のSWCNT集合体のバッキーペーパーを採用した。これらの構成によって、熱容量センサー300(試料ステージ92)のサイズは、1.3mm×0.7mm×0.05〜0.2mm程度のサイズに作製することが可能であった。
【0126】
このようなSWCNT集合体を用いた熱容量センサーのサンプルMを用いて緩和法による熱容量測定を行なったところ、ヒーターによる加熱の精度も高く、温度測定の精度も高精度で測定を行なうことができた。
【0127】
[実施例4:熱伝導率測定器]
次いで、本発明の実施例4として、第4実施形態に従って作製された熱伝導率測定器のサンプルNについて説明する。サンプルNは、SWCNT集合体を用いた熱伝導率測定器400のとおりに作製した。サンプルNの発熱部1202はサンプルK(実施例2)と同様に、また、第1感温部1204のSWCNT集合体(第3の集合体)と第2感温部1206のSWCNT集合体(第4の集合体)とは、ともにサンプルC(実施例1)と同様に作製した。このサンプルNは、薄いポリイミドフィルムの一方の面に形成された。熱伝導率の被測定物は、そのポリイミフィルムのもう一方の面に接触されて測定される。このサンプルNと被測定物をシールド部とベース部とからなるケース(図示しない)に収めて熱伝導率を測定した。測定は、加熱開始後十分に時間をおき、定常状態にて行った。算出された熱伝導率は、薄層状のSWCNT集合体を用いる発熱部1202の発熱量が高精度化され、第1感温部1204および第2感温部1206も高感度化されていたため、高い精度にて測定された。
【0128】
以上、本発明の実施形態を具体的に説明した。上述の各実施形態および実施例は、発明を説明するために記載されたものであり、本出願の発明の範囲は、特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきものである。また、各実施形態の他の組合せを含む本発明の範囲内に存在する変形例もまた、特許請求の範囲に含まれるものである。