特許第5648891号(P5648891)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5648891
(24)【登録日】2014年11月21日
(45)【発行日】2015年1月7日
(54)【発明の名称】放射線測定方法及び放射線測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01B 15/02 20060101AFI20141211BHJP
   G01N 23/08 20060101ALI20141211BHJP
【FI】
   G01B15/02 A
   G01N23/08
   G01B15/02 B
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2010-62123(P2010-62123)
(22)【出願日】2010年3月18日
(65)【公開番号】特開2011-196753(P2011-196753A)
(43)【公開日】2011年10月6日
【審査請求日】2012年9月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】市沢 康史
(72)【発明者】
【氏名】大日方 祐彦
【審査官】 須中 栄治
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−113007(JP,A)
【文献】 特開2006−064580(JP,A)
【文献】 特開平05−240632(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B15/00−15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一線源から照射された放射線を複数の材質からなる被測定物に照射して透過させ、透過した透過線量から被測定物の物理量を測定する放射線測定方法において、透過した放射線を少なくとも2種類の検出器により検出し、それぞれの検出器からの出力を検量線を用いて弁別演算を行う工程と、弁別演算した値を用いて各層の坪量を演算する工程を含み、
前記被測定物の厚さがt1,t2の2層からなる厚み(坪量)を有するときに、下記の演算式を用いて前記t1,t2の2層の厚みを演算することを特徴とする放射線測定方法。

【数1】
【数2】
【数3】
但し、x1;低エネルギーに対する感度の大きな検出器の出力
2;高エネルギーに対する感度の大きな検出器の出力
μ1Low;t1層の低エネルギー帯における吸収係数
μ2low;t2層の低エネルギー帯における吸収係数
μ1H1;t1層の高エネルギー帯における吸収係数
μ1H2;t2層の高エネルギー帯における吸収係数
E1Low;t1層の低エネルギー帯における感度
E2low;t2層の低エネルギー帯における感度
E1Hi;t1層の高エネルギー帯における感度
E2Hi;t2層の高エネルギー帯における感度
【請求項2】
前記被測定物の厚さ測定においてE1Hi≒0、E2low≒0と見做せるときに、下記の演算式を用いて前記t1,t2の2層の厚みを演算することを特徴とする請求項1に記載の放射線測定方法。

【数4】
【数5】
但し、x1;低エネルギーに対する感度の大きな検出器の出力
2;高エネルギーに対する感度の大きな検出器の出力
μ1Low;t1層の低エネルギー帯における吸収係数
μ2low;t2層の低エネルギー帯における吸収係数
μ1H1;t1層の高エネルギー帯における吸収係数
μ1H2;t2層の高エネルギー帯における吸収係数
E1Low;t1層の低エネルギー帯における感度
E2low;t2層の低エネルギー帯における感度
E1Hi;t1層の高エネルギー帯における感度
E2Hi;t2層の高エネルギー帯における感度
【請求項3】
請求項1に記載のt1,t2の演算式または請求項2に記載のt1,t2の演算式を用い2種類の材質が混合された試料の割合を重量比または坪量として演算するようにしたことを特徴とする請求項1記載の放射線測定方法。
【請求項4】
同一線源から照射された放射線を複数の材質からなるシート状の被測定物に照射して透過させ、透過した透過線量から被測定物の物理量を第1,第2検出器により測定する放射線測定装置であって、前記第1,第2検出器は搬送される前記被測定物に対して上面が同じ高さになるように一致させるとともに搬送方向に対して直交するように併設して配置され、前記第1検出器は数KeVの低エネルギー域から数MeVの高エネルギー域までの吸収特性を有し、前記第2検出器は10KeV〜100KeV程度のエネルギー域の吸収特性を有するように構成するとともに、これら吸収特性の異なる前記第1検出器と前記第2検出器により得られた検出信号に対してエネルギー弁別を行い、弁別した値を用いて各層の坪量を演算することを特徴とする放射線測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線(例えばX線,ベータ線、ガンマ線等)を用いた放射線測定方法に関し、1つの線源に対して複数の異なるシンチレータを具備した検出器を用い、特に高エネルギーを十分に受け止める結晶シンチレータと高エネルギーは大部分を透過するプラスチックシンチレータを組み合わせ、夫々のシンチレータを透過する線量の割合からエネルギー弁別を含む厚さ測定を行う放射線測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
X線を用いた透視による解析や検査はX線の透過強度を画像化したもので、それを画像処理することでX線の強度情報を得ている。しかし、X線の強度情報のみでは物質の影絵を見ているに過ぎず、物質内部の形状はわかっても材質や状態を詳しく知るには限界がある。一方、人間の目は光の強度情報だけでなく、光の波長(色)情報を捉えることが出来るため、物質の材質や状態を詳しく認識することが出来る。X線の強度情報を捉えるだけではなく、X線の持つエネルギー(波長)情報を捉えるとこが出来れば内部の材質や状態を解析することができる。
【0003】
図7はX線、β線の2種類の線源1a,1bを用いて異なる素材の厚さ(坪量)を測る装置の一例を示す要部斜視図およびブロック構成図である。被測定物は矢印P方向へ一定速度で流れており、それぞれの線源1a,1bに対して夫々の検出器(電離箱2a,2b)が正対した位置に配置してある。夫々の線源1a,1bと検出器2a,2bを搭載した異なるフレーム(11a:x線測定装置,11b:β線測定装置)で、x線源1aは電源回路11cおよびx線駆動回路11dを介して、β線源1bはシャッタ駆動回路1eを介して被測定物(シート)の同一箇所を測定できる様に構成されている。被測定物3としては例えば、磁気フィルムで薄いベースシート上に異なる物質(磁性体)を薄く塗布(蒸着)した複合材料などであり、塗布(蒸着)量及びベースシートの厚さをそれぞれ測るような用途に用いられる。
【0004】
透過測定方式の吸収の式は、測定厚さをx、透過前の検出器出力をI0、透過後の検出器出力をIとすると、I=I0exp(-μx)と表わすことができる。吸収係数μは、β線源の場合はそのエネルギーによって一定値に定まり、被測定物3には影響されない特徴があるため、測定厚さ範囲によって線源の種類を選ぶことになる。
【0005】
紙・プラスチック等の測定には、通常85Krまたは147Pmのような弱いエネルギーのβ線源が使用される。
X線の場合は被測定物3によっても吸収係数は変化するので測定範囲を考慮して管電圧を最適に選ぶ必要がある。紙やシート材の例では品種や厚さにより変化し、μ=a*x+b(a,bは品種によって決まる定数)と表すことができる。4.5keVのX線の例では、磁気フィルムのベースシートに対し磁性層では約5倍の吸収係数を示す。
【0006】
透過してきた厚さ情報を持った放射線はキセノンなどの希ガスを封じた電離箱2a,2bで検出される。この際、X線、β線いずれの場合においても線源1a,1bと検出器(電離箱2a,2b)間の空気層も同時に測定してしまうため、この空気層の温度変化の影響が大きい。この影響を除くために、空気層の温度を温度検出器6a,6bで検出して温度補償し、電離箱の微小検出電流を増幅回路4a,4b(プリアンプ)で増幅する。
【0007】
その出力はA/D変換器5a,5bでA/D変換されて演算部16(マイクロコンピュータ)に含まれる信号処理部7a,7bへ送られて演算に供される。信号処理部7a,7bでは、予め被測定物3と同一の材質であって厚さの異なる坪量が既知の試料の測定により作成された検量線の校正データ8a,8bと比較することにより、所望材質の厚さを判定することが出来る。これを測定に用いる夫々の線源1a,1bについて行っておき、記憶部(図示せず)に格納しておく。特に、上記に示した複合材料による積層の材料で夫々の厚さを求める際には、夫々の線源により得られた測定値が材料毎の吸収係数と厚さの積の総和である事から、これを比較演算処理部9で連立演算として解く事により算出が可能となる。
なお、それらの厚さ情報は表示部や生産管理サーバ10へ送出される。
【0008】
また、センサ部(線源1a,1bおよび電離箱2a,2b)は被測定物(シート)の幅方向に機械的に走査され、厚さの幅方向分布を測定できるように構成されている。双方の測定ポイントは同一箇所を比較演算できるように同期を取っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−271333
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、上記従来の放射線測定装置においては、
1)異なる線源を2台搭載するとともに、測定装置を2台配置したシステム構成にしなければならないため、システム価格が高価となり、また、線源や検出器のスペースも2台分必要になる。
2)2つの線源の安定制御(安定駆動)にそれぞれ独立した制御機構を設ける必要がある。特に、成膜の高速化により同一位置を測定するための同期制御は困難になってきている。また、同一位置を正確にトラッキング(線源及び検出器のシート幅方向への走査位置)ができない場合には測定誤差を大きくする事になる。
3)線源の経時変化補正の如何によって、測定精度が悪くなる可能性がある。
という課題があった。
【0011】
従って本発明は、複層膜厚の測定のために2つの線源を用いなくても、1つの線源と異なるシンチレータの組み合わせにより高精度にエネルギー弁別が行える安価でコンパクトな装置を用いて複層膜厚の同時独立算出を可能にした放射線測定方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このような課題を達成するために、本発明のうち請求項1記載の放射線測定方法の発明は、
同一線源から照射された放射線を複数の材質からなる被測定物に照射して透過させ、透過した透過線量から被測定物の物理量を測定する放射線測定方法において、透過した放射線を少なくとも2種類の検出器により検出し、それぞれの検出器からの出力を検量線を用いて弁別演算を行う工程と、弁別演算した値を用いて各層の坪量を演算する工程を含み、
前記被測定物の厚さがt1,t2の2層からなる厚み(坪量)を有するときに、下記の演算式を用いて前記t1,t2の2層の厚みを演算することを特徴とする。
【0014】
【数1】
【0015】
【数2】
【0016】
【数3】
【0017】
但し、x1;低エネルギーに対する感度の大きな検出器の出力
2;高エネルギーに対する感度の大きな検出器の出力
μ1Low;t1層の低エネルギー帯における吸収係数
μ2low;t2層の低エネルギー帯における吸収係数
μ1H1;t1層の高エネルギー帯における吸収係数
μ1H2;t2層の高エネルギー帯における吸収係数
E1Low;t1層の低エネルギー帯における感度
E2low;t2層の低エネルギー帯における感度
E1Hi;t1層の高エネルギー帯における感度
E2Hi;t2層の高エネルギー帯における感度
【0018】
請求項2においては、請求項1に記載の放射線測定方法において、
前記被測定物の厚さがt1,t2の2層からなる厚み(坪量)を有するときに、下記の演算式を用いて前記t1,t2の2層の厚みを演算することを特徴とする。
【0019】
【数4】
【0020】
【数5】

但し、x1;低エネルギーに対する感度の大きな検出器の出力
2;高エネルギーに対する感度の大きな検出器の出力
μ1Low;t1層の低エネルギー帯における吸収係数
μ2low;t2層の低エネルギー帯における吸収係数
μ1H1;t1層の高エネルギー帯における吸収係数
μ1H2;t2層の高エネルギー帯における吸収係数
E1Low;t1層の低エネルギー帯における感度
E2low;t2層の低エネルギー帯における感度
E1Hi;t1層の高エネルギー帯における感度
E2Hi;t2層の高エネルギー帯における感度
【0021】
請求項3においては、請求項1に記載のt,tの演算式または請求項2に記載のt,tの演算式を用い2種類の材質が混合された試料の割合を重量比または坪量として演算するようにしたことを特徴とする。
請求項4においては、
同一線源から照射された放射線を複数の材質からなるシート状の被測定物に照射して透過させ、透過した透過線量から被測定物の物理量を第1,第2検出器により測定する放射線測定装置であって、前記第1,第2検出器は搬送される前記被測定物に対して上面が同じ高さになるように一致させるとともに搬送方向に対して直交するように併設して配置され、前記第1検出器は数KeVの低エネルギー域から数MeVの高エネルギー域までの吸収特性を有し、前記第2検出器は10KeV〜100KeV程度のエネルギー域の吸収特性を有するように構成するとともに、これら吸収特性の異なる前記第1検出器と前記第2検出器により得られた検出信号に対してエネルギー弁別を行い、弁別した値を用いて各層の坪量を演算することを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば以下のような効果がある。
請求項1〜4によれば、
1.密度が大きく(原子番号の大きい)厚さの薄い被測定物と密度が小さく(原子番号の小さい)厚い被測定物で透過線量が同じであっても、材質(物質)により区別が可能になる。
2.線源が1つで済むため、システム価格が低く抑えられ、またスペースも2台分の測定フレームが必要になくなるため、フットプリントに有利であり生産ラインの短縮に寄与する。
3.線源の安定制御(安定駆動)は1つの線源について行えば良いため、1つの制御機構で済む。
4.透過特性の校正も、1つの線源から得られ、事前の校正データ取得が容易である。
5.線源の経時変化補正が高精度でなくても、夫々の検出器は1つの線源に同期して依存するためエネルギー弁別精度が悪くならない。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施形態の一例を示す要部斜視図(a)、および要部ブロック構成図(b)である。。
図2】NaI(TI)のエネルギーレベルに対するシンチレータの吸収特性を示す図である。
図3】PVTのエネルギーレベルに対するシンチレータの吸収特性を示す図である。
図4】演算部の処理についての説明図である。
図5】材質の異なる2種の試料を透過した後の信号を模式的に示す図である。
図6】検出器の出力に対する検出素子の出力レベルを模式的に示す図(a)および層別した画素毎に画像を分けて表示した図(b)である。
図7】従来放射線測定装置の一例を示す要部斜視図(a)およびブロック構成図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下本発明を、図面を用いて詳細に説明する。図1(a,b)に本発明の構成図を示す。図1(a)は要部斜視図、図1(b)は要部ブロック構成図である。これらの図において、従来例の図7と同一要素には同一符号を付している。
【0025】
X線、β線、またはγ線などの放射線源21に正対する位置に第1シンチレータを具備する第1検出器(ラインセンサ・・・カメラ)22aと第2シンチレータを具備する第2検出器(ラインセンサ)22bを近接させ且つ、被測定物3の搬送方向pに対して直交するように併設してある。なお、放射線源21には余分な放射線が漏れないようにコリメータ23や照射筒(図示せず)などが設けられている。

【0026】
第1検出器22aと第2検出器22bは上面が略一致するように揃えてあり、被測定物 (シート状試料)3は夫々のセンサの上空を通過するものとし、夫々のセンサの検出部間の距離と被測定物の搬送速度から、第1検出器22aと第2検出器は22bは同一の測定箇所を同期して演算できるように構成されている。
【0027】
夫々の検出器には、透過線量に応じた微小検出電流をプリアンプ部4a,4bで高精度な高抵抗を用いて電圧に変換し、A/D変換器5a,5bでA/D変換して演算処理部7a,7bに送る。一方、空気層の温度変化による影響を除くために、空気層の温度及び検出器温度、線源温度を検出し温度補償し、演算処理部7a,7bにて校正データ8a,8bを用いて検量線による演算を行う。
【0028】
前記第1シンチレータは低エネルギー域(数KeV)から高エネルギー域(数MeV)までの吸収特性のある、例えば、NaI(TI)(ヨウ化ナトリウム(タリウム))やCsI(Tl)(ヨウ化セシウム(タリウム))などの結晶系シンチレータが用いられる。
図2はNaI(TI)のエネルギーレベルに対するシンチレータの吸収特性を示す図である。横軸に放射線エネルギーを縦軸に吸収係数(%)を示している。
【0029】
一方、第2シンチレータは、PVT(ポリビニールトルエン)やGOS(Ce(Gd2(SiO4)O:Ce))やGd2O2S:Tb(酸硫化ガドリニウム)に代表されるプラスチックシンチレータなどの安価で使い勝手のよいシンチレータで、検出エネルギー領域は10KeV-100KeV程度であり、それ以上の高エネルギー域ではシンチレータに吸収されず透過してしまい燐光にあまり寄与しない特性を示すものである。
【0030】
図3はPVTのエネルギーレベルに対するシンチレータの吸収特性を示す図である。横軸に放射線エネルギーを縦軸に吸収係数(%)を示している。
結晶シンチレータ(第1シンチレータ)と、プラスチックシンチレータ(第2シンチレータ)を組み合わせ、第1シンチレータにより被測定物の坪量を算出し、第2シンチレータによりエネルギー弁別する。
【0031】
図4は異なる二つの検出器において信号値を厚さに変換するための検量線演算に関わる様子を示している。同じ線源から同じ試料を透過した同質のエックス線であっても、検出器のエネルギー感度が異なると、厚さを求める際の検量線は異なるものとなる。この性質を利用して複層膜厚の弁別演算を行うことを模式化したものである。なお、縦軸はvまたはmA、横軸g/m2またはμmであるが正規化して無単位となっている。
【0032】
検出器1及び2で検出されたそれぞれの検出信号は演算部6(図1参照)で正規化され、それぞれの値から予め既知の試料を用いて作成された検量線を用いて弁別演算を行い、弁別演算した値を用いて各層の坪量を演算する。
【0033】
図5は、異なる二つの検出器においてどの様に信号値を得るかを模式化して示したものである。t1、t2の厚さを持つ二つの層からなる試料をエックス線が透過した後に二つの異なる検出器から得る信号演算値をそれぞれX1、X2とする。X1は低エネルギーに感度が大きく、X2は高エネルギーに感度が大きな検出器である。
なお、図5ではt1、t2の厚さを持つ二つの層として示しているが、2種類の材質が混合された試料であってもその混合の割合を重量比または坪量として演算することができる。
【0034】
試料厚に対応する検出信号は、吸収係数×厚さを基本式として表すことができる。これにエネルギー帯における感度係数をEとして掛け合わせそれぞれの検出器における信号量として表している。Eの添え字は、1、2がそれぞれX1、X2に対応する感度であることを示し、Hi、Lowがそれぞれ高エネルギー帯、低エネルギー帯に対応することを示している。
【0035】
また、吸収係数μについては、t1試料における低エネルギー帯の吸収係数をμ1Low、高エネルギー帯の吸収係数をμ1Hiとして示し、t2試料における吸収係数を同様にμ2Lowおよびμ2Hiで示している。
【0036】
図5は材質の異なる2種(例えばアルミニウムや樹脂材料)の試料を透過した後の信号を模式的に示す図である。
予め標準的に用意する材料(例えばアルミニウムや樹脂材料)を用いて夫々の検出器に合わせた検量線を作成しておくものとする。以下に算出式の一例を示す。
【0037】
第1検出器22a、第2検出器22bで得た信号値を元に検量線演算を行った値をX1、X2とすると、(吸収線量)×(厚さ)を基本式として1、2の式が得られる。
【0038】
【数6】
【0039】
【数7】
1式より
【0040】
【数8】
【0041】
【数9】
【0042】
【数10】
【0043】
【数11】
【0044】
【数12】
【0045】
1´式を2式に代入してX2を求めると、
【0046】
【数13】
となる。
上式よりt2を求めると、
【0047】
【数14】
となる。
【0048】
そして、3式を1´式に代入して
【0049】
【数15】
【0050】
【数16】
【0051】
【数17】
【0052】
【数18】
【0053】
【数19】
【0054】
【数20】
【0055】
1、2式の連立方程式を解くと3、4式で複層の厚さを夫々得る事が出来る。
特に、
E1hi≒0、E2Low≒0
の時(低エネルギー側検出器に高エネルギー感度が無く高エネルギー側検出器に低エネルギー感度が無いとき)は、
3、4式は以下の様になる。
【0056】
3式より
【0057】
【数21】
4式より
【0058】
【数22】
実用的には、5,6式においても弁別が可能で複層膜の厚さを同時的に算出できる。
【0059】
実際には、数百〜数千画素の1次元の検出素子にて検出し、時系列に演算して2次元の画像にし、厚さと物質の構成割合などを把握することになる。
図6aは第1検出器22aの出力に対する検出素子の出力レベルを模式的に示すもので、シンチレータに搭載された検出素子が16画素の1次元センサであったとした場合である。
出力に応じてレベルの高い方からレベル1、レベル2、レベル3と層別する。
【0060】
図6bは層別した画素毎に画像を分けて表示したものである。分類した層別画像毎に、第1検出器22aの透過線量の出力に合わせたコントラストで表示すると、夫々同じ物質での厚さ(坪量)比較が出来る。層別画像ごとに異なる単色光で表示すれば画像を重ね合わせても物質判別が可能な画像とすることが出来る。
【0061】
なお、以上の説明は、本発明の説明および例示を目的として特定の好適な実施例を示したに過ぎない。実施例では、異なるシンチレータを具備したラインセンサのような検出器を2台並べた構成としたが、TDI(Time Delay Integration:移動積分スキャン)ラインセンサであってもよい。
【0062】
TDIラインセンサは、1列ではなく複数列(例えば4列、8列、・・・・128列)並んだ構成のものがあり、CCDの電荷読み出しの際、転送のタイミングとCCD面に入射している対象像が移動するタイミングを合わせることで,CCDの垂直段数だけ露光するものである。このような複数列の検出部に夫々異なるシンチレータを設置し、積算範囲をシンチレータの種類毎に限定したり、もしくは積算しないで夫々独立して取り出すことで1台のセンサから2つの検出結果を求めるようにしてもよい。
【0063】
また、実施例では1次元のラインセンサであったが、2次元のエリアセンサーであっても単体のセンサを2つ以上組み合わせたものであっても良い。また、線源は必ずしも1つの線源でなく複数であっても構わない。
【0064】
また、複層の試料に対し、いずれか一方の膜厚変動が少ない場合には、適宜、一方のシンチレータ検出器の素子数を減じ、代表値を求める事によってコストダウンを図っても良い。更に、極めて膜厚変動が小さい場合やコストダウン要請の強い場合には一方の検出素子を1つとしたり、シンチレータの代わりに電離箱を用いても良い。
従って本発明は、上記実施例に限定されることなく、その本質から逸脱しない範囲で更に多くの変更、変形を含むものである。
【符号の説明】
【0065】
1,21 線源
2 電離箱
3 被測定物(試料)
4 プリアンプ
5 A/D変換器
6 温度検出器
7 信号処理部
8 校正データ
9 比較演算処理部
10 表示部、生産管理サーバ
11a X線測定装置
11b β線測定装置
11c 電源回路
11d X線駆動回路
11e シャッタ制御部
16 演算部(マイクロコンピュータ)
22a 第1検出器
22b 第2検出器
図1
図4
図7
図2
図3
図5
図6