特許第5648924号(P5648924)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5648924
(24)【登録日】2014年11月21日
(45)【発行日】2015年1月7日
(54)【発明の名称】シートベルト用リトラクタ
(51)【国際特許分類】
   B60R 22/48 20060101AFI20141211BHJP
   B60R 22/46 20060101ALI20141211BHJP
【FI】
   B60R22/48 B
   B60R22/46
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2011-540528(P2011-540528)
(86)(22)【出願日】2010年11月10日
(86)【国際出願番号】JP2010070045
(87)【国際公開番号】WO2011059010
(87)【国際公開日】20110519
【審査請求日】2013年8月6日
(31)【優先権主張番号】特願2009-258071(P2009-258071)
(32)【優先日】2009年11月11日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503358097
【氏名又は名称】オートリブ ディベロップメント エービー
(74)【代理人】
【識別番号】503175047
【氏名又は名称】オートリブ株式会社
(74)【復代理人】
【識別番号】100105474
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 弘徳
(74)【復代理人】
【識別番号】100108589
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 利光
(72)【発明者】
【氏名】前村 英二
(72)【発明者】
【氏名】緑川 幸則
【審査官】 木原 裕二
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2006/123750(WO,A1)
【文献】 特開2006−103657(JP,A)
【文献】 特開2004−042782(JP,A)
【文献】 特開2005−088838(JP,A)
【文献】 特開2006−282097(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 22/00 − 22/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートベルトを巻き取るスピンドルと、
該スピンドルを回転させる動力を発生する電動アクチュエータと、
前記スピンドルに作用して前記シートベルトを引き込む火薬式のプリテンショナー機構と、
前記電動アクチュエータからの動力を前記スピンドルへ伝達する動力伝達機構と、
を備えるシートベルト用リトラクタであって、
前記動力伝達機構は、
前記プリテンショナー機構が作動したとき、前記電動アクチュエータから前記スピンドルへの動力伝達を遮断可能なクラッチと、
前記電動アクチュエータに機械的に連結される第1ギヤと、前記クラッチに機械的に連結される第2ギヤと、を少なくとも有し、前記電動アクチュエータからの動力を前記クラッチに伝達するギヤ機構と、
前記第1ギヤと前記第2ギヤとの間で所定値を越えるトルク差が生じたときに、前記第1ギヤと前記第2ギヤとの相対的な空転を許容するトルクリミッターと、を備え、
前記第1ギヤが取り付けられる第1軸と、前記第1軸と同軸上に配置され前記第2ギヤが取り付けられる第2軸とが、前記スピンドルの回転軸線とはねじれの位置にある回転軸線上に位置することを特徴とするシートベルト用リトラクタ。
【請求項2】
シートベルトを巻き取るスピンドルと、
該スピンドルを回転させる動力を発生する電動アクチュエータと、
前記スピンドルに作用して前記シートベルトを引き込む火薬式のプリテンショナー機構と、
前記電動アクチュエータからの動力を前記スピンドルへ伝達する動力伝達機構と、
を備えるシートベルト用リトラクタであって、
前記動力伝達機構は、
前記プリテンショナー機構が作動したとき、前記電動アクチュエータから前記スピンドルへの動力伝達を遮断可能なクラッチと、
前記電動アクチュエータに機械的に連結される第1ギヤと、前記クラッチに機械的に連結される第2ギヤと、を少なくとも有し、前記電動アクチュエータからの動力を前記クラッチに伝達するギヤ機構と、
前記第1ギヤと前記第2ギヤとの間で所定値を越えるトルク差が生じたときに、前記第1ギヤと前記第2ギヤとの相対的な空転を許容するトルクリミッターと、を備え、
前記第1ギヤが取り付けられる第1軸と、前記第1軸と同軸上に配置され前記第2ギヤが取り付けられる第2軸とが、前記スピンドルとは異なる回転軸線上に位置し、
前記第2ギヤは、ウォームギヤを構成することを特徴とするシートベルト用リトラクタ。
【請求項3】
シートベルトを巻き取るスピンドルと、
該スピンドルを回転させる動力を発生する電動アクチュエータと、
前記スピンドルに作用して前記シートベルトを引き込む火薬式のプリテンショナー機構と、
前記電動アクチュエータからの動力を前記スピンドルへ伝達する動力伝達機構と、
を備えるシートベルト用リトラクタであって、
前記動力伝達機構は、
前記プリテンショナー機構が作動したとき、前記電動アクチュエータから前記スピンドルへの動力伝達を遮断可能なクラッチと、
前記電動アクチュエータに機械的に連結される第1ギヤと、前記クラッチに機械的に連結される第2ギヤと、を少なくとも有し、前記電動アクチュエータからの動力を前記クラッチに伝達するギヤ機構と、
前記第1ギヤと前記第2ギヤとの間で所定値を越えるトルク差が生じたときに、前記第1ギヤと前記第2ギヤとの相対的な空転を許容するトルクリミッターと、を備え、
前記第1ギヤが取り付けられる第1軸と、前記第1軸と同軸上に配置され前記第2ギヤが取り付けられる第2軸とが、前記スピンドルとは異なる回転軸線上に位置し、
前記トルクリミッターは、第1ホルダと、第2ホルダと、付勢部材と、から構成され、
前記第1ホルダは、前記第1ギヤが取り付けられた前記第1軸の一方側端部に設けられて、前記第1軸と前記第1ギヤとともに第1ギヤアッセンブリを構成し、
前記第2ホルダは、前記第2ギヤが取り付けられた前記第2軸の一方側端部に設けられて前記第1ホルダと噛合し、前記第2軸と前記第2ギヤとともに第2ギヤアッセンブリを構成し、
前記付勢部材は、前記第2ギヤアッセンブリを前記第1ギヤアッセンブリ側に付勢することを特徴とするシートベルト用リトラクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートベルト用リトラクタに関し、特に、電動アクチュエータと火薬式のプリテンショナー機構とを備えたシートベルト用リトラクタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のシートベルト用リトラクタでは、車両の急減速状態をセンサで検出し、モータによってスピンドルを巻取方向に回転させる。そして、衝突の可能性がある場合には、シートベルト(ウェビング)を一定量巻き取って乗員を軽拘束し、また、衝突時には、火薬式のプリテンショナー機構を作動させて、シートベルトを強制的に巻き取り、乗員を確実に保持する(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
モータによってシートベルトを一定量巻き取って乗員を軽拘束する際、シートベルトがスピンドルに巻き取られ、シートベルトの僅かな緩み、所謂「スラック」が解消されると、シートベルトによる乗員身体に対する拘束力が向上し、仮に、その後に乗員が車両急制動(急ブレーキ)の操作を行ない、車両が急減速状態になったとしてもシートベルトが確実に乗員の身体を保持する。
【0004】
さらに、上述の如く「スラック」が解消された状態では、乗員の身体が障害となり基本的にはそれ以上スピンドルにシートベルトを巻き取ることはできなくなる。この状態でモータがさらに巻取方向に回転してシートベルトを巻き取ろうとすると、必要以上の力でシートベルトが乗員を締め付けることになり好ましくない。
【0005】
また、必要以上にモータがシートベルトを巻き取ろうとした場合には、乗員がシートベルトの巻き取りの障害となり、モータがシートベルトを巻き取るための巻取力に応じた大きさの引張力が、乗員の身体からシートベルトに付与される。この引張力はモータがシートベルトを巻き取る方向と反対に作用するため、引張力がシートベルトに付与されることでモータからの動力をスピンドルに伝達するギヤ機構には、所定値以上の荷重(所謂「オーバーロード」)が作用する。
【0006】
引用文献1、2では、必要以上の力でシートベルトが乗員を締め付けることを防止するとともにギヤ機構に所定値以上の荷重が作用することを防止するため、トルクリミッター機構を構成するスプリング爪をクラッチ機構の外径側に同軸上に配置している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】日本国特開2006−103657号公報
【特許文献2】日本国特開2004−42782号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1、2に記載のシートベルト用リトラクタでは、トルクリミッター機構がクラッチ機構の外径側に同軸配置されているため、クラッチ機構の外径寸法が大きくならざるを得ずシートベルト用リトラクタの径方向の寸法を小さくするための制約となっていた。
【0009】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、モータによってシートベルトを一定量巻き取って乗員を軽拘束する際、必要以上の力でシートベルトが乗員を締め付けることを防止するとともにギヤ機構に所定値以上の荷重が作用することを防止し、且つ、径方向寸法を小さくすることが可能なシートベルト用リトラクタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の上記目的は、以下の構成によって達成される。
(1)シートベルトを巻き取るスピンドルと、
該スピンドルを回転させる動力を発生する電動アクチュエータと、
前記スピンドルに作用して前記シートベルトを引き込む火薬式のプリテンショナー機構と、
前記電動アクチュエータからの動力を前記スピンドルへ伝達する動力伝達機構と、
を備えるシートベルト用リトラクタであって、
前記動力伝達機構は、
前記プリテンショナー機構が作動したとき、前記電動アクチュエータから前記スピンドルへの動力伝達を遮断可能なクラッチと、
前記電動アクチュエータに機械的に連結される第1ギヤと、前記クラッチに機械的に連結される第2ギヤと、を少なくとも有し、前記電動アクチュエータからの動力を前記クラッチに伝達するギヤ機構と、
前記第1ギヤと前記第2ギヤとの間で所定値を越えるトルク差が生じたときに、前記第1ギヤと前記第2ギヤとの相対的な空転を許容するトルクリミッターと、を備え、
前記第1ギヤが取り付けられる第1軸と、前記第1軸と同軸上に配置され前記第2ギヤが取り付けられる第2軸とが、前記スピンドルの回転軸線とはねじれの位置にある回転軸線上に位置することを特徴とするシートベルト用リトラクタ。
(2) シートベルトを巻き取るスピンドルと、
該スピンドルを回転させる動力を発生する電動アクチュエータと、
前記スピンドルに作用して前記シートベルトを引き込む火薬式のプリテンショナー機構と、
前記電動アクチュエータからの動力を前記スピンドルへ伝達する動力伝達機構と、
を備えるシートベルト用リトラクタであって、
前記動力伝達機構は、
前記プリテンショナー機構が作動したとき、前記電動アクチュエータから前記スピンドルへの動力伝達を遮断可能なクラッチと、
前記電動アクチュエータに機械的に連結される第1ギヤと、前記クラッチに機械的に連結される第2ギヤと、を少なくとも有し、前記電動アクチュエータからの動力を前記クラッチに伝達するギヤ機構と、
前記第1ギヤと前記第2ギヤとの間で所定値を越えるトルク差が生じたときに、前記第1ギヤと前記第2ギヤとの相対的な空転を許容するトルクリミッターと、を備え、
前記第1ギヤが取り付けられる第1軸と、前記第1軸と同軸上に配置され前記第2ギヤが取り付けられる第2軸とが、前記スピンドルとは異なる回転軸線上に位置し、
前記第2ギヤは、ウォームギヤを構成することを特徴とするシートベルト用リトラクタ。
(3) シートベルトを巻き取るスピンドルと、
該スピンドルを回転させる動力を発生する電動アクチュエータと、
前記スピンドルに作用して前記シートベルトを引き込む火薬式のプリテンショナー機構と、
前記電動アクチュエータからの動力を前記スピンドルへ伝達する動力伝達機構と、
を備えるシートベルト用リトラクタであって、
前記動力伝達機構は、
前記プリテンショナー機構が作動したとき、前記電動アクチュエータから前記スピンドルへの動力伝達を遮断可能なクラッチと、
前記電動アクチュエータに機械的に連結される第1ギヤと、前記クラッチに機械的に連結される第2ギヤと、を少なくとも有し、前記電動アクチュエータからの動力を前記クラッチに伝達するギヤ機構と、
前記第1ギヤと前記第2ギヤとの間で所定値を越えるトルク差が生じたときに、前記第1ギヤと前記第2ギヤとの相対的な空転を許容するトルクリミッターと、を備え、
前記第1ギヤが取り付けられる第1軸と、前記第1軸と同軸上に配置され前記第2ギヤが取り付けられる第2軸とが、前記スピンドルとは異なる回転軸線上に位置し、
前記トルクリミッターは、第1ホルダと、第2ホルダと、付勢部材と、から構成され、
前記第1ホルダは、前記第1ギヤが取り付けられた前記第1軸の一方側端部に設けられて、前記第1軸と前記第1ギヤとともに第1ギヤアッセンブリを構成し、
前記第2ホルダは、前記第2ギヤが取り付けられた前記第2軸の一方側端部に設けられて前記第1ホルダと噛合し、前記第2軸と前記第2ギヤとともに第2ギヤアッセンブリを構成し、
前記付勢部材は、前記第2ギヤアッセンブリを前記第1ギヤアッセンブリ側に付勢することを特徴とするシートベルト用リトラクタ。
【発明の効果】
【0011】
本発明のシートベルト用リトラクタによれば、モータによってシートベルトを一定量巻き取って乗員を軽拘束する際、トルクリミッターにより必要以上の力でシートベルトが乗員を締め付けることを防止するとともにギヤ機構に所定値以上の荷重が作用することを防止することができる。また、第1ギヤが取り付けられる第1軸と、第1軸と同軸上に配置され第2ギヤが取り付けられる第2軸とが、スピンドルの回転軸線とはねじれの位置にある回転軸線上に位置するので、シートベルト用リトラクタの径方向寸法を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明にかかるシートベルト用リトラクタの一部分を分解して示す分解斜視図である。
図2】ギヤホイールとクラッチハウジングの組み付け状態を示すクラッチハウジングの一部を切り欠いて示す斜視図である。
図3】モータが作動していない状態であってクラッチの非係合状態を説明するための図である。
図4】モータからの動力を伝達するクラッチの係合状態を説明するための図である。
図5図4の状態からプリテンショナー機構が作動してパウルがクラッチハウジングに弾かれた状態を説明するための図である。
図6図5の状態からパウルがパウル摺動溝内で停止した状態を説明するための図である。
図7】(a)はトルクリミッター非作動時における第1ホルダと第2ホルダが係合した状態のトルクリミッターの概略図であり、(b)は(a)のA−A線矢視図である。
図8】トルクリミッター作動時における第1ホルダと第2ホルダの非係合となった状態のトルクリミッターの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明の一実施形態にかかるシートベルト用リトラクタについて図面を参照して詳細に説明する。
図1に示すように、本実施形態のシートベルト用リトラクタ10は、シートベルト(図示せず)を巻き取るスピンドル12と、スピンドル12をシートベルトの巻き取り方向へ付勢する巻き取りバネ装置13と、加速度センサ(図示せず)によって検出される加速度に応じてシートベルトの引出動作をロックするロック機構(図示せず)と、スピンドル12を回転させる動力を発生する電動アクチュエータであるモータ34と、スピンドル12を回転させる他の動力を発生するプリテンショナー機構15と、モータ34からの動力をスピンドル12に伝達可能な動力伝達機構19と、を有している。
【0014】
スピンドル12は、両端がリトラクタフレーム11によって回転可能に支持されている。また、スピンドル12内には、一端側(図1において左端側)でスピンドル12に接続され、他端側(図1において右端側)でプリテンショナー機構15からの力が入力されるトレッドヘッド(不図示)と接続されるトーションバー(図示せず)が設けられている。
【0015】
リトラクタフレーム11の図中右側面には、該プリテンショナー機構15と、バネ装置13と、が取り付けられている。プリテンショナー機構15は、火薬を点火して発生したガスによってボール(図示せず)を強く押し出し、ボールがピニオン(図示せず)の溝に沿って移動する。ピニオンの回転は、ロック機構を介してトレッドヘッド、トーションバー、スピンドル12へと伝達される。
【0016】
一方、リトラクタフレーム11の図中左側面には、アウターギヤカバー26との間に、プリテンショナー機構15が作動したときモータ34からスピンドル12への動力伝達を遮断可能なクラッチ61と、モータ34からの動力をクラッチ61に伝達するギヤ機構60と、モータ34側とスピンドル12側のトルク差に応じてギヤ機構60内でギヤ間の相対的な空転を許容するトルクリミッター70と、を含む動力伝達機構19が収容される空間が形成される。
【0017】
リトラクタフレーム11の下方に位置するモータアセンブリ16は、モータケース31、モータ34、キャップ37、モータギヤ35から構成されている。なお、モータギヤ35はモータ34の回転軸に取り付けられており、ギヤ機構60の第1ギヤ54と噛合する。
【0018】
ギヤ機構60は、第1軸55aに取り付けられモータギヤ35と噛合する第1ギヤ54と、第1軸55aと同軸上に配置された第2軸55bに取り付けられた第2ギヤ56と、スピンドル12と同じ回転軸線a上に設けられたギヤホイール57の外周面に形成され第2ギヤ56と噛合するファイナルギヤ58と、から構成される。ここで、第2ギヤ56はねじ歯車をなし、ファイナルギヤ58ははす歯歯車をなし、第2ギヤ56とファイナルギヤ58でウォームギヤを構成している。従って、第1軸55a、第2軸55bの回転軸線bはスピンドル12の回転軸線aと異なる回転軸線上に位置する。即ち、第1軸55a、第2軸55bの回転軸線bと、スピンドル12の回転軸線aとは同一平面状にない、所謂ねじれの位置にある。
【0019】
第1ギヤ54と第2ギヤ56との動力伝達経路上には、図7及び図8にも示すように、トルクリミッター70が設けられ、第1ギヤ54と第2ギヤ56間のトルク差が所定値以下であれば、モータ34からの動力がトルクリミッター70を介して第1ギヤ54から第2ギヤ56に伝達され、第2ギヤ56からファイナルギヤ58に伝達される。一方、第1ギヤ54と第2ギヤ56間のトルク差が所定値を越えると、トルクリミッター70により第1ギヤ54から第2ギヤ56への動力伝達が遮断される。
【0020】
第1軸55aには、一端(図7(a)において上端)に第1ホルダ71が例えば圧入により取り付けられて、他方側(図7(a)において下方)に第1ギヤ54が例えばスプライン嵌合により取り付けられて、これら第1ギヤ54、第1軸55a、第1ホルダ71が一体に回転し、第1ギヤアッセンブリ72を構成している。第1ギヤアッセンブリ72は、第1軸55aが軸受73a、73bによりアウターギヤケース26に回転自在に支持されている。
【0021】
第2軸55bには、一端(図7(a)において下端)に第2ホルダ74が例えば圧入により取り付けられて、他方側(図7(a)において上方)に第2ギヤ56が例えばスプライン嵌合により取り付けられて、これら第2ギヤ56、第2軸55b、第2ホルダ74が一体に回転且つ軸方向に一体に移動可能な第2ギヤアッセンブリ75を構成している。また、第2ギヤアッセンブリ75は、付勢部材である皿ばね76により第1ギヤアッセンブリ72側に付勢され、軸受77と支持プレート78により軸方向に移動可能且つ回転自在にアウターギヤケース26に支持されている。具体的に、第2ギヤ56と支持プレート78間には、ブッシュ79、スラスト抑え部材80、皿ばね76が第2軸55b上に設けられ、支持プレート78の貫通孔78a内を第2軸55bの他端(図7(a)において上端)が移動可能に挿通している。
【0022】
この第1ホルダ71と、第2ホルダ74と、皿ばね76とによりトルクリミッター70が構成される。皿ばね76の付勢力は、シートベルトが必要以上の力で乗員の身体を締め付けることを防止するため、第1ギヤ54と第2ギヤ56とのトルク差が所定値を超えた場合に、非係合となるように設定される。
【0023】
クラッチ61は、図1及び図2に示すように、外周面にファイナルギヤ58が形成されたギヤホイール57、一対のパウル41、フリクションスプリング42、カバーリング43、ブッシュ44、ベアリングブッシュ45、及びクラッチハウジング50とから構成される。
【0024】
クラッチハウジング50は、スピンドル12と結合する連結部51がブッシュ44を介してアウターギヤカバー26に回転自在に支持されてスピンドル12と一体に回転する。また、連結部51の外径側には内周面にパウル41が係合する内歯50aが形成された筒部52が設けられ、連結部51と筒部52とがリトラクタフレーム11側で互いに連結される。
【0025】
ギヤホイール57は、外周面にファイナルギヤ58が形成された大径側筒部57bと、大径側筒部57bより軸方向長さの短い小径側筒部57aを有し、小径側筒部57aと大径側筒部57bとがアウターギヤカバー26側で互いに連結され、大径側筒部57bのファイナルギヤ58が第2ギヤ56と噛合して、モータ34の動力が伝達される。小径側筒部57aと大径側筒部57bとの間にはクラッチハウジング50の筒部52がリトラクタフレーム11側から挿入され、ギヤホイール57内にクラッチハウジング50を収容する。大径側筒部57bの内周面はクラッチハウジング50の筒部52の外周面と相対回転自在に対向し、小径側筒部57aの外周面はクラッチハウジング50の内周面に形成された内歯50aと相対回転自在に対向する。小径側筒部57aの内周面はアウターギヤカバー26の凸部26aにベアリングブッシュ45を介して回転自在に支持される。この凸部26aは、アウターギヤカバー26から軸方向に沿って環状に突出し、クラッチハウジング50と同心に形成される。
【0026】
ギヤホイール57の小径側筒部57aには、リトラクタフレーム11側の端面に、一対のパウル41を保持する一対のパウル摺動溝57cが形成される。一対のパウル摺動溝57cは小径側筒部57aの外周面の対極位置(180°回転した位置)に、パウル41の係合部41aがクラッチハウジング50の内歯50aに臨むように開口する開口部57dを有し、開口部57dからパウル41の形状に沿って互いに反対方向に伸びる。
【0027】
一対のパウル41は、それぞれ一端側に係合部41aを有し一端側から他端側に僅かに湾曲する湾曲形状をなして、パウル摺動溝57cに摺動可能に保持される。そして、パウル摺動溝57c内で、モータ34が作動していない時に位置する第1の位置P1(図3参照)と、モータ34が作動して係合部41aがクラッチハウジング50の内歯50aと係合する時に位置する第2の位置P2(図4参照)と、プリテンショナー機構15が作動した時に第1の位置P1に対して第2の位置P2と反対側に位置する第3の位置P3(図6参照)と、を移動する。さらに、パウル41には、リトラクタフレーム11側の端面の略中央部にフリクションスプリング42の後述する屈曲部42bを保持する保持凹部41bが設けられている。なお、パウル41のリトラクタフレーム11側の端面は、保持凹部41bに後述するフリクションスプリング42の屈曲部42bを保持するため、ギヤホイール57の小径側筒部57aのリトラクタフレーム11側の端面よりリトラクタフレーム11側に位置する。
【0028】
フリクションスプリング42は、図3他に示すように、両端が開放された開放部42aを有する略リング状をなし、アウターギヤカバー26に形成された凸部26aの外周面に、自身の付勢力によってスピンドル12の回転軸中心方向に凸部26aを付勢することで当接保持され、リトラクタフレーム11側からカバーリング43で覆われている。フリクションスプリング42には、開放部42aから両側90°の位置に外径側に突出するように屈曲部42bが2箇所形成され、屈曲部42bはそれぞれ各パウル41の保持凹部41b内に保持される。これにより、フリクションスプリング42は、回転方向の力を受けると、アウターギヤカバー26の凸部26aとの間で、回転方向と逆方向の摩擦力を発生する。
【0029】
次に、本実施形態のシートベルト用リトラクタ10の作動について説明する。図示しない監視センサ等によって衝突の可能性が検出されると、図示しないECUによって衝突前にモータ34を駆動して、動力伝達機構19を介してスピンドル12を回転させてシートベルトを巻き取る。また、衝突の可能性がなくなると、モータ34を逆転させて、シートベルトを引き出し可能な状態に戻す。一方、衝突時には、プリテンショナー機構15が作動して、クラッチ61を機械的に解除して、シートベルトを強制的に巻き取る。
【0030】
ここで、クラッチ61の作動について図3図6を参照して説明する。
まず、図3に示すように、モータ34による巻き取りが行なわれていない場合は、パウル41は、パウル摺動溝57cの略中央部に位置し、パウル41の係合部41aはクラッチハウジング50の内歯50aより内径側に位置し、クラッチハウジング50とパウル41とは非係合である(第1の位置P1)。このため、スピンドル12と一体のクラッチハウジング50のみ回転可能となり、シートベルトの通常の巻き取り及び引き出しが可能である。
【0031】
モータ34が巻き取り側に回転すると、モータ34の回転軸に取り付けられたモータギヤ35から第1ギヤ54に伝達された動力はトルクリミッター70を介して第2ギヤ56に伝達され、第2ギヤ56からファイナルギヤ58に伝達され、ギヤホイール57が時計方向(矢印A)へ回転する。この際、フリクションスプリング42の屈曲部42bを保持凹部41b内に保持する各パウル41はフリクションスプリング42とアウターギヤカバー26の凸部26aとの間の摩擦力により付勢され、その場に留まろうとする。従って、パウル41がパウル摺動溝57c内で略中央部から開口部57dへ相対的に移動することになる。
【0032】
そして、図4に示すように、ギヤホイール57が所定の角度だけ回転すると、パウル41の係合部41aが開口部57dを超えて移動しクラッチハウジング50の内歯50aとの係合を完了する(第2の位置P2)。
【0033】
そして、ギヤホイール57がシートベルト巻き取り方向(矢印A)に所定の角度を越えてさらに回転すると、パウル41の係合部41aとギヤホイール57の内歯50aとが係合した状態で、ギヤホイール57、クラッチハウジング50、フリクションスプリング42、及びパウル41が巻き取り方向(矢印A)に一体回転して、電動アクチュエータからの動力がスピンドル12に伝達され、シートベルトの僅かな緩み、所謂「スラック」が解消される。
【0034】
このとき、図7に示すように、皿ばね76の付勢力により、トルクリミッター70を構成する第1ギヤアッセンブリ72の第1ホルダ71と、第2ギヤアッセンブリ75の第2ホルダ74は噛み合って一体に回転し、モータ34からの動力がモータギヤ35から第1ギヤ54に伝達され、第2ギヤ56からファイナルギヤ58に伝達されている。
【0035】
さらに、上述の如く「スラック」が解消された状態では、乗員の身体が障害となり基本的にはそれ以上スピンドルにシートベルトを巻き取ることができないため、モータ34の動力が伝達される第1ギヤ54と、スピンドル12側から反力が伝達される第2ギヤ56との間には所定値を越えるトルク差が生じることとなる。このとき、第1ギヤ54からの動力が皿ばね76の付勢力に抗して、皿ばね76を撓ませて第2ギヤアッセンブリ75を軸方向に沿って上方に移動させ(図7(a)、図8においてTb<Ta)、ギヤの山を乗り越えた状態で第2ギヤアッセンブリ75が保持される。これにより、第1ギヤ54は空転し、モータ34の動力がスピンドル12に伝達されることがなくなる。これにより、必要以上の力でシートベルトが乗員を締め付けることが防止されるとともに、ギヤ機構60に所定値以上の荷重が作用することが防止される。
【0036】
なお、モータ34が解除側に回転した場合には、第1ギヤ54と第2ギヤ56との間のトルク差は解消されて、モータ34からの動力でギヤホイール57が反時計回り(矢印Aとは反対方向)に回転する。その場合、パウル41はフリクションスプリング42とアウターギヤカバー26の凸部26aとの間の摩擦力により、パウル41はその場に留まろうとするため、ギヤホイール57の回転に伴ってパウル摺動溝57c内を開口部57dから奥側に相対的に移動し、パウル41の係合部41aはクラッチハウジング50の内歯50aから離れ、第1の位置P1に戻される。
【0037】
一方、図4に示すパウル41の係合部41aとクラッチハウジング50の内歯50aとが係合した状態で、プリテンショナー機構15が作動した場合には、クラッチハウジング50がギヤホイール57に対し巻き取り方向(矢印A)に高速で回転する。このとき、図5に示すように、パウル41の係合部41aがクラッチハウジング50の内歯50aに弾かれて、パウル41がパウル摺動溝57c内を開口部57dから奥側に移動する(矢印B)。その際に、モータ34が停止することで図6に示すようにギヤホイール57の回転も停止する。
【0038】
以上、説明したシートベルト用リトラクタ10によれば、動力伝達機構19は、プリテンショナー機構15が作動したとき、モータ34からスピンドル12への動力伝達を遮断可能なクラッチ61と、モータ34に機械的に連結される第1ギヤ54と、クラッチ61に機械的に連結される第2ギヤ56と、を少なくとも有し、モータ34からの動力をクラッチ61に伝達するギヤ機構60と、第1ギヤ54と第2ギヤ56との間で所定値を越えるトルク差が生じたときに、第1ギヤ54と第2ギヤ56との相対的な空転を許容するトルクリミッター70と、を備えるので、モータ34によってシートベルトを一定量巻き取って乗員を軽拘束する際、「スラック」が解消された状態であっても、必要以上の力でシートベルトが乗員を締め付けることを防止することができる。同時に、ギヤ機構60に所定値以上の荷重が作用することを防止することができ、ギヤ機構60の破損等を防止することができる。
さらに、第1ギヤ54が取り付けられる第1軸55aと、第1軸55aと同軸上に配置され第2ギヤ56が取り付けられる第2軸55bとが、スピンドル12とは異なる回転軸線上に位置するので、クラッチ61の外径寸法を大きくせずに、シートベルト用リトラクタ10の径方向の寸法を小さくすることができる。
【0039】
また、第2ギヤ56は、ウォームギヤを構成するので、小型な構造で大きな減速比を得ることができる。
【0040】
また、トルクリミッター70は、第1ホルダ71と、第2ホルダ72と、付勢部材である皿ばね76と、から構成され、第1ホルダ71は、第1ギヤ54が取り付けられた第1軸55aの一方側端部に設けられて、第1軸55aと第1ギヤ54とともに第1ギヤアッセンブリ72を構成し、第2ホルダは、前記第2ギヤが取り付けられた第2軸55bの一方側端部に設けられて第1ホルダ71と噛合し、第2軸55bと第2ギヤ56とともに第2ギヤアッセンブリ75を構成し、皿ばね76は、第2ギヤアッセンブリ75を第1ギヤアッセンブリ72側に付勢するので、組立性が良い。
【0041】
上述した本実施形態のシートベルト用リトラクタ10は、本発明の好ましい例であって、これ以外の実施態様も、各種の方法で実施又は遂行できる。特に本願明細書中に限定される主旨の記載がない限り、この発明は、添付図面に示した詳細な部品の形状、大きさ、および構成配置等に制約されるものではない。また、本願明細書の中に用いられた表現および用語は、説明を目的としたもので、特に限定される主旨の記載がない限り、それに限定されるものではない。
例えば、上記実施形態では付勢部材として皿ばね76を例示したが、これに限定されず圧縮コイルばねなど公知のばね部材を用いることができる。
【0042】
なお、本出願は、2009年11月11日出願の日本特許出願(特願2009−258071)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【符号の説明】
【0043】
10 シートベルト用リトラクタ
12 スピンドル
15 プリテンショナー機構
19 動力伝達機構
34 モータ(電動アクチュエータ)
54 第1ギヤ
55a 第1軸
55b 第2軸
56 第2ギヤ
60 ギヤ機構
61 クラッチ
70 トルクリミッター
71 第1ホルダ
72 第1ギヤアッセンブリ
74 第2ホルダ
75 第2ギヤアッセンブリ
76 皿ばね(付勢部材)
a スピンドルの回転軸線
b 第1、第2軸の回転軸線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8