【文献】
L.W.Sang et al.,Reduction in threading dislocation densities in AlN epilayer by introducing a pulsed atomic-layer epitaxial buffer layer,APPLIED PHYSICS LETTERS,2008年,vol.93, No.12,p.122104
【文献】
Da-Bing Li et al.,Improved surface morphology of flow-modulated MOVPE grown AlN on sapphire using thin medium-temperature AlN buffer layer,Applied Surface Science,2007年,Vol.253,pp.9395-9399
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
入射した光の少なくとも一部を波長の異なる光として入射面とは反対側の面から放射する光変換材料基板と、前記光変換材料基板上に形成されたAlを含む少なくとも2層以上の窒化物層とを有する発光素子形成用複合基板であり、前記光変換材料基板は、Al2O3相と少なくとも1つの蛍光を発する酸化物相とを含む、2つ以上の酸化物相が連続的かつ三次元的に相互に絡み合った組織を有し、前記窒化物層は光変換材料基板上に形成されたAlを含む窒化物層からなる第1の層を厚さ0.5〜5μmと、1×1012/cm2以下の転位密度のAlNからなる第2の層を厚さ4〜9μmで有し、前記第1の層及び前記第2の層は、前記光変換材料基板の前記2つ以上の酸化物相の全ての相上にわたって、均一な連続層を成し、かつ空隙を実質的に含まない層である、発光素子形成用複合基板。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2に記載の方法において、光変換材料基板上へ公知の技術を用いて、従来の青色発光ダイオード素子と同等以上の特性をもつ素子を形成するのは困難であり、優れた白色発光ダイオード素子を得るには限界がある。その理由として、光変換材料基板はAl
2O
3相とY
3Al
5O
12相などの異相が存在するためである。従来の青色発光ダイオード素子は、結晶構造が類似したサファイアや、同じ結晶構造をもつGaN等を基板としている。そのため、サファイアやGaNを基板として窒化物半導体層を形成する公知の技術を用いて、光変換材料基板上にGaN層を形成した場合、Al
2O
3相上へは優先的にGaN層を形成できるものの、GaNと格子不整合率が大きいY
3Al
5O
12:Ce相上へはGaN層が形成できず、また、形成できても表面平滑性や結晶性が悪く、青色発光ダイオード素子の特性の低下を招いている。
【0006】
そこで、本発明は上記の課題を解決するために、上面に高品質な窒化物系発光ダイオードを容易に形成することができ、得られた基板付発光ダイオードは白色等の任意色の発光が可能な発光素子として機能する、発光素子形成用複合基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は発光素子形成用複合基板について鋭意研究を重ねた結果、Al
2O
3相と少なくとも1つの蛍光を発する酸化物相を含む、2つ以上の酸化物層が連続的かつ三次元的に相互に絡み合った組織を有する光変換材料基板上に、特定の方法でAlを含む窒化物層を形成し、最表面に平坦で欠陥の少ないAlN層を形成することで、その上に発光特性の良好なGaN系発光ダイオード素子の形成が可能となり、良好な発光ダイオード素子を得られることを見出し、この知見に基づき本発明をなすにいたった。
【0008】
すなわち、入射した光の少なくとも一部を波長の異なる光として入射面とは反対側の面から放射する光変換材料基板と、前記光変換材料基板上に形成されたAlを含む少なくとも2層以上の窒化物層とを有する発光素子形成用複合基板であり、前記光変換材料基板は、Al
2O
3相と少なくとも1つの蛍光を発する酸化物相とを含む、2つ以上の酸化物相が連続的かつ三次元的に相互に絡み合った組織を有し、前記窒化物層は前記光変換材料基板を構成するそれぞれの酸化物相上に形成されたAlを含む窒化物層からなる第1の層と、該第1の層上に形成された表面に平坦で欠陥のない連続的に連なったAlN層からなる第2の層を有することを特徴とする発光素子形成用複合基板に関する。具体的には、第2の層は、転位密度1×10
12/cm
2以下であり、さらに好ましくは表面粗さ(二乗平均平方根粗さRMS)5nm以下である。
【0009】
本発明における前記光変換材料基板において、前記第1の層及び前記第2の層は、前記光変換材料基板の前記2つ以上の酸化物相の全ての相上にわたって、均一な連続層を成していることを特徴とする。好ましい態様において、前記光変換材料基板における前記第1の層及び前記第2の層は空隙を実質的に含まないことを特徴とする。
【0010】
また、本発明における前記光変換材料基板の蛍光を発する酸化物相は、Y
3Al
5O
12:Ce相であり、Al
2O
3(0001)面とY
3Al
5O
12(111)面を主面とすることを特徴とする。
【0011】
また、本発明における前記第1の層のAlを含む窒化物層および前記第2の層のAlN層は前記光変換材料基板上にMOCVD法により結晶成長されていることを特徴とする。
【0012】
また、本発明における前記第1の層のAlを含む窒化物層はAlNであることを特徴とする。
また、本発明における前記第1の層の膜厚は0.1〜5μmであることを特徴とする。
また、本発明における前記第2の層の膜厚は
4〜9μmであることを特徴とする。
【0013】
また、本発明は請求項1記載の発光素子形成用複合基板上に半導体発光層を形成した発光ダイオード素子であり、半導体発光層からの光の少なくとも一部を波長変換した光を前記発光素子形成用複合基板から放射する機能を有する発光ダイオード素子に関する。
【0014】
また、本発明は請求項2に記載の発光素子形成用複合基板上に青色を発光する半導体発光層を形成した発光ダイオード素子であり、半導体発光層からの光の一部を波長変換した光を、半導体発光層からの光とともに、前記発光素子形成用複合基板から放射する機能を有する白色発光ダイオード素子に関する。
【0015】
また、本発明は入射した光の少なくとも一部を波長の異なる光として入射面とは反対側の面から放射する、Al
2O
3相と少なくとも1つの蛍光を発する酸化物相を含む2つ以上の酸化物層が連続的かつ三次元的に相互に絡み合った組織を有する光変換材料基板をH
2ガス、N
2ガス、NH
3ガスの混合ガス雰囲気のもと1000〜1300℃で熱処理を行う第1の工程と、前記光変換材料基板上に少なくともH
2ガス、N
2ガス、NH
3ガスとAlを含む有機金属化合物ガスを供給し、Alを含む窒化物層からなる第1の層を形成する第2の工程と、前記第1の層上にH
2ガス、N
2ガス、NH
3ガス、Alを含む有機金属化合物ガスの混合ガスを供給し1350〜1480℃でAlNからなる第2の層を形成する第3の工程を有することを特徴とする上記(請求項1に記載)の発光素子形成用複合基板の製造方法に関する。
【0016】
また、本発明における前記第1の工程、前記第2の工程及び前記第3の工程は、MOCVD法によって行われることを特徴とする。
【0017】
また、本発明における前記第3の工程におけるNH
3ガス中のNとAlを含む有機金属化合物ガス中のAlのモル比が、前記第2の工程におけるNH
3ガス中のNとAlを含む有機金属化合物ガス中のAlのモル比よりも小さいことを特徴とする。
【0018】
また、本発明における前記工程1における熱処理時間は10〜90分であることを特徴とする。
【0019】
また、本発明における前記Alを含む窒化物層はAlNからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明における、発光素子形成用複合基板は、Al
2O
3相と蛍光を発する付活剤を含有する酸化物相からなる光変換材料基板上に、Alを含む窒化物層と最表面がAlNからなる層を形成した基板であり、最表面のAlN層の表面平滑性と結晶性が良好であるため、この複合基板を用いることで容易に任意の発光色を放つ高品質な発光ダイオード素子を形成することができ、得られた基板付発光ダイオード素子は光変換材料基板の蛍光と混ざり合い、特性の良好な任意の色を発光させることができる。
【0021】
また、本発明は蛍光を発する付活剤をCeとすることで、黄色発光を示し、Ceを付活剤とした発光素子形成用複合基板上に青色発光ダイオードを形成することで、白色光を発光させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施形態において、本発明の発光素子形成用複合基板について説明する。
【0024】
本発明の発光素子形成用複合基板を構成する光変換材料基板は、単一金属酸化物及び複合金属酸化物から選ばれる少なくとも2つ以上の酸化物相が連続的にかつ三次元的に相互に絡み合って形成されている凝固体からなり、該凝固体中の酸化物相のうち少なくとも1つはAl
2O
3結晶相であり、また前記凝固体中の酸化物相のうち少なくとも1つは蛍光を発する金属元素酸化物を含有している。Al
2O
3結晶相は、波長が200〜4000nmの紫外線、可視光、赤外線を透過する性質を有する。本発明の発光素子形成用複合基板を構成する光変換材料基板は、少なくともAl
2O
3結晶相が基板上に形成される発光層からの光(たとえば、青色光)を透過し、少なくとも1つの蛍光層が発光層からの光を吸収して蛍光(たとえば、黄色光)を発光し、その透過光と蛍光とが混合されて、その混合された光(たとえば、白色光)が光変換材料基板の発光層と反対側から、すなわち発光素子から放出(発光)される。
【0025】
単一金属酸化物とは、1種類の金属の酸化物であり、複合金属酸化物は、2種以上の金属の酸化物である。それぞれの酸化物は単結晶状態となって三次元的に相互に絡み合った構造をしている。このような単一金属酸化物としてはAl
2O
3、ZrO
2、MgO、SiO
2、TiO
2、BaO、BeO、CaO、Cr
2O
3等の他、La
2O
3、Y
2O
3、CeO
2、Pr
6O
11、Nd
2O
3、Sm
2O
3、Gd
2O
3、Eu
2O
3、Tb
4O
7、Dy
2O
3、Ho
2O
3、Er
2O
3、Tm
2O
3、Yb
2O
3、Lu
2O
3等の希土類元素酸化物が挙げられる。また複合金属酸化物としてはLaAlO
3、CeAlO
3、PrAlO
3、NdAlO
3、SmAlO
3、EuAlO
3、GdAlO
3、DyAlO
3、ErAlO
3、Yb
4Al
2O
9、Y
3Al
5O
12、Er
3Al
5O
12、Tb
3Al
5O
12、11Al
2O
3・La
2O
3、11Al
2O
3・Nd
2O
3、3Dy
2O
3・5Al
2O
3、2Dy
2O
3・Al
2O
3、11Al
2O
3・Pr
2O
3、EuAl
11O
18、2Gd
2O
3・Al
2O
3、11Al
2O
3・Sm
2O
3、Yb
3Al
5O
12、CeAl
11O
18、Er
4Al
2O
9等が挙げられる。
【0026】
光変換材料基板の単一金属酸化物及び複合金属酸化物から選ばれる少なくとも2つ以上の酸化物相は、基板表面上における各相の寸法としては、限定されるものではないが、たとえば、複合金属酸化物相の長径が数10μm〜数100μm、短径が数μm〜数10μmの寸法を有している。
【0027】
その中で本発明を構成している光変換材料基板は2種類以上の酸化物相からなり、個々の酸化物相の屈折率が異なるため、酸化物相間の界面で様々な方向に屈折・反射されることで基板の内表面での全反射が起こりにくくなり、良好な光の取り出し効率も得ることができる。また、光変換材料基板は蛍光体でもあるため、半導体層中の発光層からの光により均一な蛍光も発することができる。
【0028】
その中で、発光素子形成用複合基板を白色発光ダイオード素子用の基板として用いる場合は、蛍光を発する酸化物相にCeで付活された複合金属酸化物であるガーネット型結晶単結晶が好ましい。ガーネット型結晶はA
3X
5O
12の構造式で表され、構造式中AにはY、Tb、Sm、Gd、La、Erの群から選ばれる1種以上の元素、同じく構造式中XにはAl、Gaから選ばれる1種以上の元素が含まれる場合が特に好ましい。中でもCeで付活されたY
3Al
5O
12は強い蛍光を発するため好適である。この場合、前記光変換材料基板は、Al
2O
3単結晶とY
3Al
5O
12:Ce単結晶から構成され、各酸化物相が連続的にかつ3次元的に相互に絡み合って形成されており、全体として2個の単結晶の相から構成されている。この場合の光変換材料の切り出し方位はAl
2O
3(0001)面とY
3Al
5O
12(111)面を主面とすることが特に好ましい。これは光変換材料基板上にIn
xAl
yGa
1−x−yN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1)で表される半導体層を形成する場合、In
xAl
yGa
1−x−yN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1)は六方晶系の結晶構造を有することから、Al
2O
3(0001)面とY
3Al
5O
12(111)面と格子整合性が比較的に良好であり、良質な半導体層を形成することが可能となる。
【0029】
本発明を構成する第1の層は、Alを含む窒化物層からなるが、この窒化物層は単層でも複数の層であっても良い。
【0030】
第1の層は、Alを含む窒化物層からなることで、光変換材料基板を構成するAl
2O
3相と少なくとも1つは蛍光を発する酸化物相の両相間にわたって、均一な連続膜を形成することを可能にするものである。ここで、均一な連続膜とは、基板全面に第1の層が形成され、第1の層に不連続領域がない膜のことをいう(
図5の不連続層と
図2,4の連続層とが対照される)。また、本発明における光変換材料基板において、第1の層は、光変換材料基板の2つ以上の酸化物相の全ての相上にわたって、均一な連続層を成しているので、その上に第2の層を形成したとき、基板の全面において基板と第1の層と第2の層は基板に垂直方向においても連続しており、好ましくは基板と第2の層との間に空隙(第1の層の連続性の不完全性の故の空隙)が実質的に形成されることはない。
【0031】
また、第1の層は、AlN層からなる第2の層を形成する際のバッファ層的な役割を持ち、第1の層を形成することで、Al
2O
3相とY
3Al
5O
12相のそれぞれの相上に形成された第2の層において結晶粒界を含まず、転位等の結晶欠陥の少なく、表面平滑性の優れた第2の層を形成することを可能にする。
【0032】
第1の層は、AlN、AlGaN、InAlGaN等のIn
xAl
yGa
1−x−yN(0≦x≦1、0<y≦1、0<x+y≦1)で表されるAlを含む窒化物層が好ましく、その中でも特に光変換材料基板を構成するAl
2O
3相と少なくとも1つは蛍光を発する酸化物相の両相間にわたって、均一な連続膜を形成することが可能であり、第2の層や半導体層の表面平滑性や結晶性の低下を防ぐ効果があることから、第1の層はAlNの単一層であることが特に好ましい。
【0033】
第1の層における膜厚は0.1μm以下であるとAl
2O
3相とそれ以外の酸化物相間で段差が生じやすく、また膜厚が5μm以上であると表面にクラックが入りやすくなることから、第1の層の膜厚は0.1〜5μmであることが好ましく、特に光変換材料基板がAl
2O
3層とY
3Al
5O
12:Ce相で構成され、第1の層がAlNの単一層である場合は、3〜5μmであることが好ましい。
【0034】
本発明を構成する第2の層はAlNからなる。第1の層は、光変換材料基板を構成するAl
2O
3相と少なくとも1つは蛍光を発する酸化物相の両相間にわたって、均一な連続膜を形成することを目的とし、その目的に適した成長条件で形成されるため、第1の層は表面にピットや凹凸、欠陥などが発生し易く、表面平滑性が低くなり傾向がある(
図4参照)。しかし、本発明によれば、第1層の上にAlNからなる第2の層を形成し、第2の層の成長条件を調整することで、第1の層に発生した表面のピットや凹凸、欠陥などを低減し、表面平滑性を示す表面粗さ(二乗平均平方根粗さRMS値)に小さい表面を有する第2の層を形成することができること、またこのような第2の層上には、良質な半導体層を形成することができ、結果として発光ダイオード素子の特性を向上させることが可能であることを見出した。
【0035】
第1の層がAlNの単一層であり、第2の層がAlNの層である場合、第1の層と第2の層との区別は、光変換材料基板を構成するAl
2O
3相以外の酸化物相上の第1の層と第2の層の転位密度で区別でき、第1の層は第2の層よりも高い転位密度を有している。
【0036】
本発明におけるAlNからなる第2の層の転位密度は1×10
12/cm
2以下であることができる。好ましくは1×10
10/cm
2以下、さらに好ましくは1×10
9/cm
2以下である。AlNからなる第2の層がこのように低い転位密度を有することで、第2の層上に、良質な半導体層、とりわけ窒化物系化合物の半導体層を形成することが可能になる。
【0037】
また、本発明の発光素子形成用複合基板のAlNからなる第2の層は、表面粗さ(二乗平均平方根粗さRMS)が5nm以下であることができる。好ましくは2nm以下、さらに好ましくは1nm以下、特に好ましくは0.7nm以下である。AlNからなる第2の層がこのように低い平面平滑性を有することが、第2の層上に、良質な半導体層、とりわけ窒化物系化合物の半導体層を形成するために好適である。
【0038】
第1の層より転位密度が少なく表面平滑性が小さい表面を有するAlNからなる第2の層を形成する成長条件としては、第1の層と比べて第2の層において、AlNが基板表面に対して平行方向に成長する速度と基板表面に対して垂直方向に成長する速度との比がより大きい成長条件が好ましい。さらには、第2の層において、AlNが基板表面に対して平行方向に成長する速度が基板表面に対して垂直方向に成長する速度よりも速い成長条件がより好ましく、またAlNが基板表面に対して平行方向に成長する速度と基板表面に対して垂直方向に成長する速度と比がより大きいことがより好ましい。このようなAlN成長条件で第2の層を形成することにより、第1の層を形成する際に発生した表面のピットや凹凸、欠陥などを低減し、表面平滑性が優れた表面を有する第2の層を得ることができる。第1の層と比べて第2の層においてAlNが基板表面に対して垂直方向に成長する速度よりも基板表面に対して平行方向に成長する速度の速い成長を実現する条件としては、例えば、第1の層がAlNからなる場合の成長温度よりも高い温度でAlNを成長すること、また、気相成長法におけるAl原料とN原料のN/Al比(モル比)が第1の層がAlNからなる場合のN/Al比よりも小さくすることを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0039】
第2の層の膜厚は2〜9μmであることが好ましい。第2の層における膜厚は2μm未満であると、第1の層における表面のピットや凹凸の埋め込みが不完全である可能性があり、表面の結晶性や平滑性が悪くなりやすい。一方、膜厚が9μm超であると、クラックや異常核が発生しやすくなる。特に、転位密度がより低く(例えば、1×10
9/cm
2以下)で表面平滑性が良好な第2の層を形成するためには、膜厚が5〜7μmであることが好ましい。
【0040】
本発明の発光ダイオード素子は上記した発光素子形成用複合基板上に発光層を含む半導体層を形成することで得られる。
【0041】
発光層を含む半導体層は、In
xAl
yGa
1−x−yN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1)で表される窒化物系化合物半導体により構成されることが好ましい。
【0042】
また、発光層は少なくとも可視光を発する窒化物層からなることが好ましく、可視光が本発明の発光素子形成用複合基板を構成する光変換材料基板を透過する際に波長変換された蛍光と変換前の可視光が混合されて混合された光の波長に応じて、新たな擬似的な光を得ることができる。さらに、可視光は波長が400〜500nmの紫〜青色を発することが好ましく、発光色が紫〜青色である場合、発光層からの光が光変換材料基板を構成するY
3Al
5O
12:Ce単結晶に入射することにより、Y
3Al
5O
12:Ce結晶から黄色蛍光が発生し、Al
2O
3結晶では紫〜青色の光がそのまま透過する。これらの光が光変換材料基板内の連続的にかつ三次元的に相互に絡み合った組織により混合され放出されるため、色むらのない均質な白色を得ることができる。
【0043】
次に本発明の発光素子形成用複合基板の製造方法について説明する。
【0044】
本発明を構成する光変換材料基板の製造方法において光変換材料基板を構成する凝固体は、原料金属酸化物を融解後、凝固させることで作製される。例えば、所定温度に保持した坩堝に仕込んだ溶融物を、冷却温度を制御しながら冷却凝結させる簡単な方法で凝固体を得ることができ、最も好ましいのは一方向凝固法により作製されたものである。一方向凝固を行うことにより含まれる結晶相が単結晶で連続的に成長し、各相が単一の結晶方位となるためである。
【0045】
本発明の発光素子形成用複合基板の製造方法における下記の第1の工程から第3の工程は発光ダイオード素子の半導体層までを同一装置内での形成が可能であることから、MOCVD法によって行われることが好ましい。
【0046】
MOCVD法を用いる場合、第1の工程において、光変換材料基板をMOCVD装置内に導入後、基板表面の吸着ガスや埃等を除去するため、H
2ガス、N
2ガスを流し、温度1000〜1300℃、5〜15分の範囲でサーマルクリーニングを行う。サーマルクリーニングの温度としては、特に基板上への窒化物層の形成温度か、それ以上の温度にすることで、窒化物層形成時の温度での脱ガス等による膜質への影響を抑えることができる。
【0047】
その後、1000〜1300℃の温度で、H
2ガス、N
2ガス、NH
3ガスを流し、基板表面に薄い窒化膜層を形成するために10〜120分程度の窒化処理を行う。この窒化膜層は基板直上にAlを含む窒化物層を形成する際の核となる層であり、特に光変換材料基板を構成するその他の酸化物相がY
3Al
5O
12:Ce相である場合、その上へ良質な窒化物層を形成するためには、圧力76Torr、温度1270℃、H
2ガス流量12slm、N
2ガス流量3slm、NH
3ガス50sccmで、90分の窒化処理が好ましい。
【0048】
光変換材料基板のサーマルクリーニング及び窒化処理後、第2の工程として、Alを含む窒化物層からなる第1の層の形成を行う。その際の基板直上に形成する窒化物層はIn
xAl
yGa
1−x−yN(0≦x≦1、0<y≦1、0<x+y≦1)が好ましく用いられ、第1の層の形成温度は400〜1300℃の範囲で形成できる。特に、光変換材料基板の全面にわたって窒化物層を形成させるためには、形成温度は1000〜1300℃が好ましい。また、第1の層は例えば、400〜600℃の温度で形成したAlNバッファ層上に、所望の温度で形成したAlGaN層や、400〜600℃の温度で形成したAlNバッファ層上に、バッファ層の形成温度より高い温度で形成したAlN層等からなる多層膜であっても良い。特に光変換材料基板を構成する相がAl
2O
3相、Y
3Al
5O
12:Ce相の場合は、両相間にわたって最も良好な膜が形成できることからAlNの単一層が好ましく、この時のAlN層の形成条件としては、MOCVD装置構成に依存するので、一概ではないが、一般的には、圧力50〜100Torr(6.7×10
3〜1.3×10
4Pa)、温度1000〜1300℃、H
2ガス流量10〜14slm、N
2ガス流量0.5〜3slm、NH
3ガス20〜100sccm、TMA(トリメチルアルミニウム)ガスなどのアルミニウム原料ガス20〜100sccmであることが好ましい。アルミニウム原料ガスはTMA(トリメチルアルミニウム)ガスのほかTEA(トリエチルアルミニウム)ガスなどでもよい。特に、圧力76Torr、温度1270℃、H
2ガス流量12slm、N
2ガス流量3slm、NH
3ガス50sccm、TMA(トリメチルアルミニウム)ガス50sccmであることが好ましい。
【0049】
第3の工程として、第1の層上にAlNからなる第2の層を形成する。このAlNからなる第2の層は、第1の層における表面の凹凸やピット、転位密度を低減する層である。
第1の層より転位密度が少なく表面平滑性が小さい表面を有するAlNからなる第2の層を形成する成長条件としては、先に述べたように、第1の層と比べて第2の層において、AlNが基板表面に対して平行方向に成長する速度と基板表面に対して垂直方向に成長する速度との比がより大きい成長条件が好ましい。さらには、第2の層において、AlNが基板表面に対して平行方向に成長する速度が基板表面に対して垂直方向に成長する速度よりも速い成長条件がより好ましく、またAlNが基板表面に対して平行方向に成長する速度と基板表面に対して垂直方向に成長する速度と比がより大きいことがより好ましい。
【0050】
なお、本発明の方法では、第2の層を形成する際のNH
3ガス中のNとAlを含む有機金属化合物ガス中のAlのモル比が、第1の層を形成する際のNH
3ガス中のNとAlを含む有機金属化合物ガス中のAlのモル比よりも小さいことが重要であるから、限定されるわけではないが、第1の層であるAlNを形成する際のアルミニウム原料ガスの供給量に対するN原料ガス(NH
3ガス)の供給量の比(Alに対するNのモル比)は、一般的には80〜110が好ましく、90〜100であることがより好ましく、第2の層であるAlNを形成する際のアルミニウム原料ガスの供給量に対するN原料ガス(NH
3ガス)の供給量の比(Alに対するNのモル比)は、57以下が好ましく、19以下であることがより好ましい。
【0051】
このようなAlNの形成条件としては、形成温度1350〜1480℃であることが好ましい。また、特に第1の層がAlNの単一層の場合、良質な第2の層を得るためにはAlN層の形成条件としては、MOCVD装置構成に依存するので、一概ではないが、一般的には、圧力50〜100Torr(6.7×10
3〜1.3×10
4Pa)、温度1350〜1480℃、H
2ガス流量4〜14slm、N
2ガス流量0.5〜3slm、NH
3ガス5〜20sccm、TMA(トリメチルアルミニウム)ガスなどのアルミニウム原料ガス20〜100sccmであることが好ましい。アルミニウム原料ガスはTMA(トリメチルアルミニウム)ガスのほかTEM(トリエチルアルミニウム)などでもよい。特に、圧力76Torr、温度1410℃、H
2ガス流量12slm、N
2ガス流量3slm、NH
3ガス10sccm、TMAガスなどのアルミニウム原料ガス50sccmであることが好ましい。
【0052】
第2の層の形成条件は、第1層の形成条件と比べて、第1には、成長温度がより高温であることを特徴とする。さらには、アルミニウム原料ガスの供給量に対するN原料ガス(NH
3ガス)の供給量の比が小さいことが好ましい。すなわち、第2の層であるAlNを形成する際に、成長温度がより高温であるのみならず、原料中の窒素原子とアルミニウム原子のモル比が第1の層のモル比よりも低くなるように、NH
3ガスとTMAガスを設定することが好ましい(このときN
2ガスは不活性であり、AlNの原料ではないので、その量は考慮しない)。これは、第2の層のAlN形成のための上記モル比を低くすることにより、形成されるAlNの成長が基板表面に対して平行方向に成長する速度と基板表面に対して垂直方向に成長する速度の比が、第1の層のそれより大きい成長モードとなり、さらには形成されるAlNの成長が基板表面に対して平行方向に成長する速度が基板表面に対して垂直方向に成長する速度より大きい成長条件となることを促成するからである。これにより、より好適に、第1の層における表面の凹凸やピット、転位密度を低減させることが可能となり、また光変換材料基板を構成するそれぞれの酸化物層上に結晶粒界を含まない第2の層を得ることができる。
【0053】
本発明の発光素子形成用複合基板を用いて発光ダイオードを製造するには、本発明の発光素子形成用複合基板上に所望の半導体層を公知の方法で結晶成長させればよい。本発明の発光素子形成用複合基板は、最表面を第2の層として、その上に所望の半導体層を直接に形成することができることを特徴とするが、それらの間に別の層(中間層)を介在させてもよい。
【0054】
半導体層や中間層の結晶成長方法としては、液相法、気相法等のいずれでもよく、特に、本発明の発光素子形成用複合基板の窒化物層をMOCVD法で形成する場合、発光ダイオードの半導体層もMOCVD法で形成することが好ましい。また、本発明の発光素子形成用複合基板を構成する窒化物層は、表面の結晶性や表面平滑性等が良好であることから、In
xAl
yGa
1−x−yN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1)で表される半導体層をエピタキシャル成長させることが可能である。
【実施例】
【0055】
実施例1
α−Al
2O
3粉末(純度99.99%)とY
2O
3粉末(純度99.999%)をモル比で82:18となるよう、また、CeO
2粉末(純度99.99%)を仕込み酸化物の反応により生成するY
3Al
5O
12が1モルとなるように秤量した。これらの粉末をエタノール中、ボールミルによって16時間湿式混合した後、エバポレーターを用いてエタノールを脱媒して原料粉末を得た。原料粉末は真空炉中で予備溶解し一方向凝固の原料とした。
【0056】
次に、この原料をそのままモリブデン坩堝に仕込み、一方向凝固装置にセットし、1.33×10
−3Pa(10
−5Torr)の圧力下で原料を融解した。次に同一の雰囲気において坩堝を5mm/時間の速度で下降させ、ガーネット型結晶であるY
3Al
5O
12:Ceとα型酸化アルミニウム型結晶であるAl
2O
3からなる凝固体を得た。
【0057】
次に、Al
2O
3結晶の(0001)面とY
3Al
5O
12:Ce結晶の(111)面が主面となるように光変換材料基板の切り出しを行った。そして基板を研磨、洗浄し、0.43mmの厚みの光変換材料基板を得た。
【0058】
次に得られた光変換材料基板をMOCVD装置チャンバー内に導入し、H
2ガス流量12slmとN
2ガス流量3slmの混合ガス雰囲気中で圧力を76Torr(1×10
4Pa)とし、光変換材料基板を1270℃まで昇温し、5分間サーマルクリーニングを行った後、NH
3ガス流量50sccmで90分流し基板表面の窒化を行った。
【0059】
次に、サーマルクリーニング及び窒化後の光変換材料基板上に、H
2ガス流量12slm、N
2ガス流量3slm、NH
3ガス流量50sccm、TMA(トリメチルアルミニウム)ガス流量50sccmで、同一の圧力で成長温度を1270℃として60分間反応させ、AlNからなる第1の層を厚さ約5μmに形成した。
【0060】
次に、AlN層からなる第1の層上に、H
2ガス流量12slm、N
2ガス流量3slm、NH
3ガス流量10sccm、TMAガス流量50sccmで同一の圧力で成長温度を1410℃として90分間反応させAlNからなる第2の層を厚さ約6μmに形成した。
【0061】
以上により得られた基板の断面のSEM(走査型電子顕微鏡)写真を
図2に示す。
図2の光変換材料基板1における白い部分6がY
3Al
5O
12:Ce相で黒い部分7がAl
2O
3相である。
図2に示す光変換材料基板1上に形成した第1の層2のさらに上に形成したAlNからなる第2の層3の断面SEM写真より、光変換材料基板1上へ上記条件で形成することにより、第1の層2がAl
2O
3相とY
3Al
5O
12:Ce相上に形成され、その第1の層2上に形成された第2の層3が連続的に連なった層となり、表面が平坦化されていることがわかった。また、TEM(透過型電子顕微鏡)により第2の層の表面付近を観察した結果、転位密度が〜1.1×10
9/cm
2であり結晶性も良好であることがわかった。また、AFM(原子間力顕微鏡)で表面粗さを測定した結果、表面二乗平均平方根粗さ(RSM)が0.69mmであった。
【0062】
その後、得られた発光素子形成用複合基板上に、H
2ガス、NH
3ガス、TMG(トリメチルガリウム)ガスを用い、MOCVD法による公知の方法でGaN層を形成し、さらにその上にH
2ガス、N
2ガス、NH
3ガス、TMGガス、TMI(トリメチルインジウム)ガスを用い、InGaN井戸層・障壁層からなる3層量子井戸構造型発光層を形成した。
【0063】
以上により得られた発光層のPL(フォトルミネッセンス)測定結果を
図3に示す。
図3より、波長のピークが422nmの発光が得られており、上記実施例における発光素子形成用複合基板上に、良質な発光層が形成できることがわかった。
【0064】
比較例1
上記実施例の効果を確認するために、比較例1として、以下のような方法で発光素子形成用複合基板を形成した。
【0065】
まず、光変換材料基板をMOCVDチャンバー内に導入し、実施例1と同条件で基板表面のクリーニング及び窒化を行い、AlN層からなる第1の層を形成した。
【0066】
得られた基板の断面SEM写真を
図4に示す。図の白い部分6がY
3Al
5O
12:Ce相で黒い部分7がAl
2O
3相である。
図4より、光変換材料基板上に形成した第1の層2は、Al
2O
3相上では平坦な膜が形成されているが、Y
3Al
5O
12:Ce相上では表面の凹凸が大きく平滑性が悪いことがわかった(RSM 5.262nm)。また、TEM観察により第1の層の表面付近を観察した結果、転位が多く転位密度評価が不可能であった。
【0067】
その後、比較例1で得られた発光素子形成用複合基板上に、実施例1で示した公知の方法でGaN層を形成し、さらにその上へ発光層を形成した。
【0068】
TEM観察の結果、Y
3Al
5O
12:Ce相上に位置するGaN層は多くの転位や結晶粒界等の結晶欠陥を含む多結晶層であることかった。またPL(フォトルミネッセンス)測定の結果、Al
2O
3相、Y
3Al
5O
12相に関係なく、その上の発光層には多くの非発光領域が存在し、発光特性が悪いことがわかった。
【0069】
比較例2
上記実施例の効果を確認するため、比較例2として本発明の発光素子形成用複合基板の製造方法を用いず、以下に示す公知の方法で光変換材料基板上へのGaN層の形成と、そのGaN層上へのInGaN井戸層・障壁層からなる3層量子井戸構造型発光層の形成を試みた。
【0070】
まず光変換材料基板をMOCVD装置チャンバー内に導入し、1100℃で基板表面のクリーニング及び窒化を行った後、温度を500℃まで降温し、クリーニング及び窒化後の光変換材料基板上にH
2ガス、N
2ガス、NH
3ガス、TMGガスを用いGaNバッファ層を形成した。その後、温度を1100℃まで昇温し、H
2ガス、N
2ガス、NH
3ガス、TMGガスを用い、成長温度を1100℃としGaN層(厚さ約 5μm)を形成した。
【0071】
得られたGaN層の断面SEM写真を
図5に示す。図の白い部分6がY
3Al
5O
12:Ce相で黒い部分7がAl
2O
3相である。
図5より、光変換材料基板上に形成したGaN層は、Al
2O
3相上には平坦なGaN層が形成されるものの、Y
3Al
5O
12:Ce相上にGaN層が形成できず、Al
2O
3相上のGaN層とY
3Al
5O
12相上のGaN層とで段差が生じていることがわかった。
【0072】
この結果より発光特性の低下は明らかであることから、GaN層上への発光層の形成は行わなかった。