特許第5649074号(P5649074)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5649074ナノサイズの一次乳化物を利用する二段階乳化によるリポソーム製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5649074
(24)【登録日】2014年11月21日
(45)【発行日】2015年1月7日
(54)【発明の名称】ナノサイズの一次乳化物を利用する二段階乳化によるリポソーム製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/127 20060101AFI20141211BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20141211BHJP
   A61K 47/28 20060101ALI20141211BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20141211BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20141211BHJP
   A61K 47/18 20060101ALI20141211BHJP
   A61K 47/06 20060101ALI20141211BHJP
   A61K 8/14 20060101ALI20141211BHJP
   A61K 8/55 20060101ALI20141211BHJP
   B01J 13/04 20060101ALI20141211BHJP
   A23L 1/035 20060101ALI20141211BHJP
   A23L 1/00 20060101ALN20141211BHJP
【FI】
   A61K9/127
   A61K47/24
   A61K47/28
   A61K47/26
   A61K47/10
   A61K47/18
   A61K47/06
   A61K8/14
   A61K8/55
   B01J13/02 A
   A23L1/035
   !A23L1/00 C
【請求項の数】3
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2011-505984(P2011-505984)
(86)(22)【出願日】2010年3月16日
(86)【国際出願番号】JP2010054399
(87)【国際公開番号】WO2010110116
(87)【国際公開日】20100930
【審査請求日】2013年2月28日
(31)【優先権主張番号】特願2009-69879(P2009-69879)
(32)【優先日】2009年3月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】元杭 康之
(72)【発明者】
【氏名】和田 武志
(72)【発明者】
【氏名】磯田 武寿
(72)【発明者】
【氏名】市川 創作
(72)【発明者】
【氏名】黒岩 崇
【審査官】 澤田 浩平
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2005/053643(WO,A1)
【文献】 特開昭52−046382(JP,A)
【文献】 特開2006−272196(JP,A)
【文献】 黒岩崇ら,多相エマルションを基材とした脂質カプセル作製における水相組成の影響,化学工学会 第74回年会(2009年)要旨集(CD−ROM版),2009年 2月18日,G201,http://www.jstage.jst.go.jp/article/scej/2009/0/260/_pdf/-char/ja/に掲載有
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K8/00−9/72,
A61K31/33−31/80,
A61K38/00−38/58,
A61K47/00−47/48,
A61P1/00−A61Q90/00,
B01J13/00−13/02,
C08B37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性溶媒(W1)、有機溶媒(O)、ならびにリン脂質、ステロール類、糖脂質、グリコール、脂肪族アミンおよび長鎖脂肪酸から選ばれるリポソーム脂質膜を構成する脂質成分を用いて一次乳化することにより得られた体積平均粒子径20nm以上200nm以下かつCV値40%以下のW1/Oエマルションと、水性溶媒(W2)とを用い、外水相となる前記水性溶媒(W2)にリポソーム脂質膜を破壊しないタンパク質乳化剤を含有させて、マイクロチャネル乳化法により二次乳化を行い、W1/O/W2エマルションを形成させ、その後W1/O/W2エマルションから有機溶媒相を除去して単胞リポソームを形成させることを特徴とする単胞リポソームの製造方法。
【請求項2】
前記W1/Oエマルションの油相の主成分がヘキサンであることを特徴とする請求項に記載の単胞リポソームの製造方法。
【請求項3】
前記リポソームに内包させる物質として医療用の薬剤類を用い、かつ得られるリポソームの体積平均粒子径を20nm以上300nm以下とすることを特徴とする請求項1または2に記載の単胞リポソームの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品、化粧品、食品などの分野で用いられるリポソームの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リポソームは、単層または複数層の脂質二重膜からなる閉鎖小胞体であり、内水相および脂質二重膜内部にそれぞれ水溶性および疎水性の薬剤類を保持させることができ、またリポソームの脂質二重膜は生体膜と類似しているため生体内での安全性が高いことなどから、たとえばDDS(ドラック・デリバリー・システム)用の医薬品など、各種の用途が注目され研究開発が進められている。
【0003】
これまでにリポソームの製造方法は数多く提案されてきたが、医薬品として承認されうるリポソームを製造できる、コスト的・工業的に優れた汎用的な技術は少ない。水溶性薬剤はリポソームの内水相に含ませることができるが、一般的には良いとされている方法でも内包率(リポソーム懸濁液に含まれる薬剤類の総質量、換言すれば製造原料として用いた薬剤類の総質量に対する、リポソームに内包された薬物類の質量の割合)は20%程度であり、これよりも内包率の高い製造方法は再現性が悪く、工業的に適さない(たとえば逆相蒸発法)。このため、水溶性薬剤(たとえば核酸医薬やタンパク質)を効率的に内包させることができ、しかもナノサイズ(好ましくは静脈注射に適する200nm以下)の平均粒径を有するリポソームを製造できる方法が望まれている。
【0004】
なお、日本国内では「ビジュダイン(VISUDYNE)」(登録商標)、「アムビゾーム(AmBisome)」(登録商標)および「ドキシル(DOXIL)」(登録商標)の3種類のリポソーム製剤が市販されている。しかしながら、ビジュダインおよびアムビゾームは、リポソームに内包させやすい疎水性の薬剤を内包するものである。また、ドキシルは、リポソーム形成後に外水相に薬剤を添加し、内外濃度差を利用して薬剤をリポソームに内包するリモートローディング法と呼ばれる方法により、80%以上の高い内包率を達成しているが、この方法は、初期は水溶性であるが内水相内で塩を形成することができ、かつリポソームの脂質膜を通過することのできる特殊な低分子水溶性薬剤でなければ用いることはできない。
【0005】
リポソームの粒径を小さくするための工程として、比較的サイズの大きなリポソームを調製した後にエクストルーダで粒径を小さくするサイジングが従来から行われているが、この工程により粒径をナノサイズにすることはできるものの、リポソームに内包される薬剤の量は大幅に減少してしまう。
【0006】
非特許文献1では、2段階で乳化したW/O/Wエマルションを液中乾燥により油相を除去し、リポソームを形成するマイクロカプセル化法が提案されている。この方法は他の方法と比較して効率的に薬剤類を内包できるが、得られるリポソームのサイズは大きく、また水溶性の高い(logPの低い)薬剤類の内包率はあまり向上しない。
【0007】
特許文献1には、2段階の乳化工程を含むリポソーム製剤の製造方法において、リポソームの脂質成分として炭素数がより大きな脂質を用いることにより、薬剤類の内包率を向上させることができることが記載されている。しかしながら、この方法により得られるリポソームはほとんどが多胞リポソーム(多数の非同心の水性小室を内包するもの)で、かつ平均粒径もマイクロメートルサイズであり、この方法により均一なナノサイズの単層のリポソームを得ることは困難である。
【0008】
また、本出願人の一部は先に、高い内包率と粒子径の制御を同時に達成することを目的として、マイクロチャネル乳化法を用いたベシクル(リポソーム)の製造方法を提案している(特願2008−135009号)。この方法によれば、内包率をたとえば76%程度にまで向上させることができることが実施例に示されているが、得られるベシクルの平均粒径は約1μmであり、平均粒径を静脈注射用製剤として要求される約200nmとしつつ上記と同程度の内包率を達成することは実現されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2001−505549号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】J Dispersion Sci Technol,9(1),1-15(1988)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、ナノサイズの粒径を有するリポソームが効率的に得られ、また薬剤類(特に水溶性のもの)の内包率を従来よりも高めることができる、単胞リポソームの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、平均粒子径900nm以下、特に平均粒子径200nm以下かつCV値40%以下のW1/Oエマルションを用いて二次乳化を行うことにより上記の課題を解決しうることを見出し、本発明を完成させるに至った。同量のリポソーム膜の原料(混合脂質成分)を用いてミクロンサイズのリポソームとナノサイズのリポソームを製造した場合、通常であればリポソーム内部の体積の総和が大きくなるミクロンサイズの方が内包率が高く、ナノサイズにするとかえって内包率が低下してしまうと予想されるところ、実際には意外にも、上記のような方法によりナノサイズのリポソームとした方が内包率が高くなり、課題とされていたナノサイズかつ高内包率を同時に達成することができる。
【0013】
すなわち、本発明の単胞リポソームの製造方法は、平均粒子径20nm以上900nm以下のW1/Oエマルションを用いて、二次乳化を行い、W1/O/W2エマルションを形成させ、その後液中乾燥により単胞リポソームを形成させることを特徴とする。ただし、上記W/Oエマルションを調製する一次乳化工程は、さらにリポソームに内包させる物質を添加した上で行ってもよい。
【0014】
前記W1/Oエマルションは、好ましくは平均粒径20nm以上400nm以下であり、より好ましくは平均粒子径20nm以上200nm以下かつCV値40%以下である。前記二次乳化の方法としてマイクロチャネル乳化法を用いることが好ましい。前記W1/Oエマルションの油相の主成分はヘキサンであることが好ましい。前記リポソームに内包させる物質として医療用の薬剤類を用い、かつ得られるリポソームの平均粒径を20nm以上300nm以下とすることが好ましい。
【0015】
なお、本発明におけるリポソームまたはW/Oエマルションの「平均粒径」は体積平均粒子径を指す。また、「CV値」(変動係数)は、リポソームの粒径またはW/Oエマルションの数平均(上記平均粒径)および標準偏差を用いた次式により求められる値である;
CV値(%)=(標準偏差/平均粒径)×100
【発明の効果】
【0016】
本発明の製造方法によれば、医薬品用としても好適なナノサイズの平均粒径有する単胞リポソームを効率的に製造できるようになる。また、一次乳化工程をさらにリポソームに内包させる物質(特に水溶性の薬剤類)を添加した上で行った場合には、リポソームに上記のような性状を賦与しつつ従来よりも高い内包率(たとえば80%以上)を達成することができる。このような本発明のリポソームの製造方法を利用することにより、各種の用途に好適なリポソームの生産性を著しく改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の製造方法の一態様におけるリポソーム形成のイメージ図。たとえば、リン脂質1、薬剤(カルセイン色素)2、有機溶媒(ヘキサン)3および内水相(水)4を用いた一次乳化工程(step 1)により平均粒子径20nm以上200nm以下かつCV値40%以下のW/Oエマルション(a)を調製した場合、外水相としてカゼイン水溶液5を用いた二次乳化工程(step 2)により、平均粒子径が2000nm以下のW/O/Wエマルション(b)が得られ、液中乾燥(溶媒除去)工程(step 3)を経て、平均粒子径20nm以上200nm以下の単胞のリポソーム(c)が形成される。このような製造方法では、W/O/W由来の平均粒子径が20μm以下の多胞リポソーム(d)や平均粒子径が2μm以下程度のミクロンサイズのリポソーム(e)のような好ましくないリポソームの形成を抑制することができる。
図2】実施例1で得られたリポソーム分散液の光学顕微鏡写真。ミクロンサイズの粒子(矢印)は少ない。
図3】実施例2で得られたリポソーム分散液の光学顕微鏡写真。ミクロンサイズの粒子はほとんどない。
図4】実施例3で得られたリポソーム分散液の光学顕微鏡写真。ミクロンサイズの粒子は少ない。
図5】実施例4で得られたリポソーム分散液の光学顕微鏡写真。ミクロンサイズの粒子は多い。
図6】実施例5で得られたリポソーム分散液の光学顕微鏡写真。ミクロンサイズの粒子は多い。
【発明を実施するための形態】
【0018】
− 製造原料 −
・混合脂質成分(F1)・(F2)
一次乳化工程で用いる混合脂質成分(F1)は主としてリポソームの脂質二重膜の内膜を構成し、場合によっては外膜の構成にも寄与する。混合脂質成分(F2)は主として外膜を構成する。混合脂質成分(F1)および(F2)は、同一の組成であっても、異なる組成であってもよい。
【0019】
これらの混合脂質成分の配合組成は特に限定されるものではないが、一般的には、リン脂質(動植物由来のレシチン;ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジン酸またはそれらの脂肪酸エステルであるグリセロリン脂質;スフィンゴリン脂質;これらの誘導体等)と、脂質膜の安定化に寄与するステロール類(コレステロール、フィトステロール、エルゴステロール、これらの誘導体等)とを中心に構成され、さらに糖脂質、グリコール、脂肪族アミン、長鎖脂肪酸(オレイン酸、ステアリン酸、パルミチン酸等)、その他各種の機能性を賦与する化合物が配合されていてもよい。特にF2には、PEG化リン脂質などDDSとしての機能性の付与に必要な脂質成分を含むことで、リポソーム表面に効率的な修飾が可能となる。混合脂質成分の配合比も、脂質膜の安定性やリポソームの生体内での挙動などの性状を考慮しながら、用途に応じて適切に調整すればよい。
【0020】
・水性溶媒(W1)・(W2)、有機溶媒(O)
水性溶媒(W1)および(W2)ならびに有機溶媒(O)は公知の一般的なものを用いることができる。一次乳化工程で用いられる水性溶媒(W1)および有機溶媒(O)は、それぞれW1/Oエマルションの水相および油相をなし、二次乳化工程で用いられる水性溶媒(W2)は、W1/O/W2エマルションの外水相をなす。水性溶媒としては、たとえば純水に必要に応じて水と混合する他の溶媒、浸透圧調整のための塩類・糖類、pH調整のための緩衝液などを配合したものが挙げられる。有機溶媒としては、たとえばヘキサン(n−ヘキサン)やクロロホルムなど、水性溶媒と混合しない化合物からなるものが挙げられるが、ヘキサンを主成分(50体積%以上)とする有機溶媒、より好ましくはヘキサンが60体積%以上である有機溶媒は、得られるナノサイズのW1/Oエマルションの単分散性が良好であるため好ましい。
【0021】
・内包させる物質
本発明において、リポソームに内包させる物質(薬剤類と総称する)は特に限定されるものではなく、リポソームの用途に応じて医薬品、化粧品、食品などの分野で知られている各種の物質を用いることができる。
【0022】
薬剤類のうち医療用の水溶性のものとしては、たとえば、造影剤(X線造影用の非イオン性ヨード化合物、MRI造影用のガドリニウムとキレート化剤とからなる錯体等)、抗がん剤(アドリアマイシン、ビラルビシン、ビンクリスチン、タキソール、シスプラチン、マイトマイシン、5−フルオロウラシル、イリノテカン、エストラサイト、エピルビシン、カルボプラチン、イントロン、ジェムザール、メソトレキセート、シタラビン等)、抗菌剤、抗酸化性剤、抗炎症剤、血行促進剤、美白剤、肌荒れ防止剤、老化防止剤、発毛促進性剤、保湿剤、ホルモン剤、ビタミン類、核酸(DNAもしくはRNAのセンス鎖もしくはアンチセンス鎖、プラスミド、ベクター、mRNA、siRNA等)、タンパク質(酵素、抗体、ペプチド等)、ワクチン製剤(破傷風などのトキソイドを抗原とするもの;ジフテリア、日本脳炎、ポリオ、風疹、おたふくかぜ、肝炎などのウイルスを抗原とするもの;DNAまたはRNAワクチン等)などの薬理的作用を有する物質や、色素・蛍光色素、キレート化剤、安定化剤、保存剤などの製薬助剤が挙げられる。
【0023】
− リポソームの製造方法 −
本発明のリポソームの製造方法は、下記工程(1)〜(3)を有し、必要に応じてその他の工程を適宜組み合わせることができるものである。以下、図面を参照しながら各工程について説明する。
【0024】
(1)一次乳化工程
一次乳化工程は、有機溶媒(O)、水性溶媒(W1)、および混合脂質成分(F1)を乳化することにより、平均粒子径20nm以上900nm以下のW1/Oエマルションを調製する工程である(図1参照)。平均粒子径20nm未満のW1/Oエマルションないしリポソームを調製することは困難とされている。上記W1/Oエマルションは、好ましくは平均粒子径が20nm以上400nm以下であり、より好ましくは、平均粒子径が20nm以上200nm以下かつCV値が40%以下である。本発明の製造方法により得られるリポソーム分散液を光学顕微鏡で観察すると、ミクロンオーダーの粒子(ミクロンオーダーの単胞リポソームと推定される)も多胞リポソームと同時に観察されるが(サブミクロン以下にできた、目的のリポソームは光学顕微鏡ではほとんど見えない)、そのような粒子は、W1/Oエマルションの平均粒径を400nm以下にすることで少なくなり(図2,4参照)、さらに平均粒径200nm以下かつCV値40%以下とすることでほとんど観察されなくなる(図3参照)。本発明の製造方法によれば、多胞リポソームの割合(フィルターろ過等で分離した多胞リポソームに内包されている薬剤類の重量から算出)は、たとえば5%以下、好ましくは2%以下にまで抑制することも可能である。
【0025】
W1/Oエマルションを調製するための方法は、上記の要件を満たすW1/Oエマルションが得られる限り特に限定されるものではなく、超音波乳化機、撹拌乳化機、膜乳化機、高圧ホモジナイザーなどの装置を用いて行うことができるが、たとえば平均粒径20nm以上200nm以下かつCV値40%以下のエマルションを製造するような場合には超音波処理または高圧ホモジナイザーにより乳化を行う方法が好適である。特に手段は限定されないが、平均粒径を広い範囲で制御でき、かつ得られるW1/Oエマルションが単分散であることが好ましい。平均粒径20nm以上200nm以下かつCV値40%以下のW1/Oエマルションを用いた場合には、特に多胞リポソームやミクロンサイズのリポソームの粒子数を大幅に減少しほとんどない状態にできる。
【0026】
水性溶媒(W1)のpHは3〜10の範囲に選択され、pHの調整には適切な緩衝液を用いればよい。たとえば、混合脂質成分にオレイン酸を用いる場合、pHは6〜8.5とすることが好ましい。
【0027】
一次乳化工程における、有機溶媒(O)に添加する混合脂質成分(F1)の割合、有機溶媒(O)と水性溶媒(W1)の体積比、その他の操作条件は、続く二次乳化工程の条件や最終的に調製するリポソームの態様などを考慮しながら、採用する乳化方法に応じて適宜調整することができる。通常、混合脂質成分(F1)の割合は有機溶媒(O)に対して1〜50質量%であり、有機溶媒(O)と水性溶媒(W1)の体積比は100:1〜1:2である。
【0028】
本発明では、リポソームに内包したい水溶性薬剤類を、一次乳化工程の水性溶媒(W1)にあらかじめ溶解または懸濁させておく。これにより、二次乳化工程/溶媒除去工程を通じて、それを内包するリポソームが得られる。本発明の製造方法では、上記の方法を用いた場合であっても内包率が高く、効率的にリポソームに水溶性薬剤類を内包させることができる。なお、非水溶性薬剤類についても、一次乳化工程の時点であらかじめ油相に溶解または懸濁しておくことにより、リポソームに内包させることができる。
【0029】
(2)二次乳化工程
二次乳化工程は、上記工程(1)により得られたW1/Oエマルションを用いて、W1/O/W2エマルションを形成する工程である(図1参照)。
【0030】
この二次乳化では種々の乳化方法を用いることができるが、乳化操作時の液滴の崩壊および液滴からの内包物質の漏出を抑えるため、乳化処理に大きな機械的剪断力を必要としないマイクロチャネル乳化法を用いることが好適である。その他にも膜乳化法などを用いることができる。
【0031】
マイクロチャネル乳化法では、たとえば、シリコン製マイクロチャネル基板(a)およびこの基板上部を覆うガラス板(b)から構成される、マイクロチャネル乳化装置モジュールを使用する。上記(a)および(b)により形成される溝型マイクロチャネルの出口側、あるいは上記(a)上に加工された貫通型マイクロチャネルの出口側には、外水相をなす水性溶媒(W2)を満たしておき、マイクロチャネルの入口側からW1/Oエマルションを圧入することで、W1/O/W2エマルションを形成できる。マイクロチャネル基板(a)としては、デッドエンド型、クロスフロー型、貫通孔型など、種々の形態のものを用いることができる。
【0032】
二次乳化工程では、水性溶媒(W2)およびW1/Oエマルション以外にさらに、混合脂質成分(F2)の一部として、またはこれに代えて、混合脂質成分(F1)からなるリポソーム脂質膜を破壊しない水溶性乳化剤を用いてもよい。界面化学の分野では多くの乳化剤が知られており、代表的には、タンパク質、多糖類および非イオン性界面活性剤などが、水溶性乳化剤として乳化・分散プロセスに用いられている。タンパク質としてはカゼインナトリウム、多糖類としてはデキストラン、非イオン性界面活性剤としてはポリアルキレングリコール誘導体が例示できる。たとえば、混合脂質成分(F1)にホスファチジルコリンを配合する場合、カゼインナトリウムのようなタンパク質乳化剤はそのような水溶性乳化剤として好ましい。
【0033】
上記水性溶媒(W2)、W1/Oエマルション、水溶性乳化剤および/または混合脂質成分(F2)の混合態様(添加順序等)は特に限定されるものではなく、適切な態様を選択すればよい。たとえばF2が主として水溶性脂質からなる場合、あらかじめそのようなF2および/または水溶性乳化剤をW2に添加しておき、それにW1/Oエマルションを添加して乳化処理を行うことができる。一方、F2が主として脂溶性脂質からなる場合、あらかじめ(W1/Oエマルション調製後)そのようなF2をW1/Oエマルションの油相に添加しておき、それを、必要に応じて水溶性乳化剤が添加されているW2に添加して乳化処理を行うことができる。
【0034】
二次乳化工程における、水性溶媒(W2)ないしW1/Oエマルションの有機溶媒(O)に添加する混合脂質成分(F2)の割合、W1/Oエマルションと水性溶媒(W2)の体積比、その他の操作条件は、最終的に調製するリポソームの用途などを考慮しながら適宜調節することができる。
【0035】
(3)溶媒除去工程
溶媒除去工程は、前記二次乳化工程により得られたW1/O/W2エマルションに含まれる有機溶媒相(O)を除去し、リポソームを形成させる工程である(図1参照)。すなわち、W1/O/W2エマルションを回収し、開放容器内に移し静置あるいは撹拌することで、W1/O/W2エマルションに含まれる有機溶媒(O)を蒸発除去することができる。これにより、混合脂質膜成分(F1)および(F2)からなる脂質膜を内水相の周囲に形成し、リポソームを得ることができる。
【0036】
W1/O/W2エマルションからの溶媒除去の方法は、定法に従い加温や減圧によってW1/O/W2エマルションの溶媒を溜去できるが、これに限定されない。用いる溶媒種に影響されるが、溶媒が突沸することのない条件範囲が設定され、温度条件は0〜60℃の範囲が好ましく、0〜25℃がより好ましい。また、減圧条件は溶媒の飽和蒸気圧〜大気圧の範囲内に設定されることが好ましく、溶媒の飽和蒸気圧の+1%〜10%の範囲内に設定されることがより好ましい。異なる溶媒を混合して用いる場合、より飽和蒸気圧の高い溶媒種に合わせた条件が好ましい。これらの除去条件は、溶媒が突沸しない範囲で組み合わせてもよく、例えば、熱に弱い薬剤を使用する際は、より低温側でかつ減圧条件で溶媒を溜去することが好ましい。溶媒除去にはW1/O/W2エマルションの攪拌が無くともよいが、攪拌をしたほうがより均一に溶媒除去が進む。
【0037】
本発明の製造方法により得られるリポソームには、製法の工程上、W/O/Wエマルション由来の多胞リポソームがある程度の割合含まれることがあるが、これを減じるのに、撹拌と減圧が、さらにはそれらを組み合わせて行うことが効果的である。重要なのは、溶媒の大半が抜ける時間より長く減圧と撹拌を行なうことにある。このことによりリポソームを構成する脂質の水和が進み、多胞リポソームが解けて、単胞のリポソーム状態にばらばらになると考えている。さらに驚くべきことに、これらの操作をおこなっても内包物の漏出は起こらない。このような操作をしても残った多胞リポソームがある場合には、フィルターにより除去することもできる。
【0038】
(単分散性、平均粒径の測定方法)
本発明において、単分散性とは、粒径の標準偏差/平均粒径をいい、下記の測定方法で測定した値(CV値)をいう。平均粒径は体積平均粒径である。
【0039】
W1/Oエマルションあるいはリポソーム水溶液をクロロホルム/ヘキサン混合溶媒(体積比:4/6)で10倍に希釈し、動的光散乱式ナノトラック粒度分析計(UPA−EX150、日機装株式会社)を用いて粒度分布(単分散性)、体積平均粒径を算出する。
【0040】
以上のような本発明の製造方法により最終的に得られるリポソームの平均粒径は、好ましくは20nm以上300nm以下とすることができる。このようなサイズのリポソームは、毛細血管を閉塞するおそれがほとんどなく、またがん組織近辺の血管にできる間隙を通過することもできるため、医薬品等として人体に投与されて使用する上で好都合である。
【実施例】
【0041】
(単分散性、平均粒径の測定)
以下に述べる実施例および比較例の一次乳化工程で得られたW1/Oエマルションをクロロホルム/ヘキサン混合溶媒(体積比:4/6、内水相と比重を同じくした)で10倍に希釈し、動的光散乱式ナノトラック粒度分析計(UPA−EX150、日機装株式会社)を用いて体積平均粒径および単分散性(CV値)を測定した。なお、CV値は(標準偏差/平均粒径)×100[%]である。
【0042】
実施例1
(一次乳化工程によるW1/Oエマルションの製造)
ホスファチジルコリン含量が95%である卵黄レシチン「COATSOME NC-50」(日油株式会社)0.3g、コレステロール(Chol)0.152gおよびオレイン酸(OA)0.108gを含むヘキサン15mLを有機溶媒相(O)とし、カルセイン(0.4mM)を含むトリス−塩酸緩衝液(pH8、50mmol/L)5mLを内水相用の水分散相(W1)とした。50mLのビーカーにこれらの混合液を入れ、直径20mmのプローブをセットした超音波分散装置(UH−600S、株式会社エスエムテー)により、25℃にて15分間超音波を照射し(出力5.5)、乳化処理を行った。上記方法に従って測定したところ、この一次乳化工程で得られたW1/Oエマルションは平均粒径220nmの単分散W/Oエマルションであることが確認され、CV値は33%であった。
【0043】
(二次乳化工程によるW1/O/W2エマルションの製造)
続いて、上記一次乳化工程により得られたW1/Oエマルションを分散相とし、実験用デッドエンド型マイクロチャネル乳化装置モジュールを使用して、マイクロチャネル乳化法によるW1/O/W2エマルションの製造を行った。
【0044】
上記モジュールのマイクロチャネル基板はシリコン製であり、マイクロチャネル基板のテラス長、チャネル深さおよびチャネル幅はそれぞれ約60μm、約11μmおよび約16μmであった。上記マイクロチャネル基板にガラス板を圧着させてチャネルを形成し、このチャネルの出口側に外水相溶液(W2)である3%のカゼインナトリウムを含むトリス−塩酸緩衝液(pH8、50mmol/L)を満たしておき、チャネルの入口側から前記W1/Oエマルションを供給して、W1/O/W2エマルションを製造した。
【0045】
(有機溶媒相の除去によるリポソームの製造)
次に、上記W1/O/W2エマルションを蓋のない開放ガラス製容器に移し替え、室温下で約20時間静置し、ヘキサンを揮発させた。微細なリポソーム粒子の懸濁液が得られ、この粒子内にはカルセインが含まれていることが確認された。
【0046】
実施例2
(一次乳化工程によるW1/Oエマルションの製造)
ホスファチジルコリン含量が95%である卵黄レシチン「COATSOME NC-50」(日油株式会社)1.08g、コレステロール(Chol)0.547gおよびオレイン酸(OA)0.389gを含むヘキサン54mLを有機溶媒相(O)とし、カルセイン(0.4mM)を含むトリス−塩酸緩衝液(pH8、50mmol/L)18mLを内水相用の水分散相(W1)とした。150mLの容器にこれらの混合液を入れ、直径25mmのプローブをセットしたホモミキサー(ULTRA TURRAX T25 basic、IKA社)により、25℃にて24000rpmで10分間、プレ分散処理を行った。その後、このプレ分散液を、卓上湿式微粒化装置NV-200-D(吉田機械株式会社)を用いて、150MPaで10パス処理した。上記方法に従って測定したところ、この一次乳化工程で得られたW1/Oエマルションは平均粒径170nmの単分散W/Oエマルションであることが確認され、CV値は33%であった。
【0047】
(二次乳化工程によるW1/O/W2エマルションの製造)
続いて、上記一次乳化工程により得られたW1/Oエマルションを分散相とし、実験用デッドエンド型マイクロチャネル乳化装置モジュールを使用して、マイクロチャネル乳化法によるW1/O/W2エマルションの製造を行った。
【0048】
上記モジュールのマイクロチャネル基板はシリコン製であり、マイクロチャネル基板のテラス長、チャネル深さおよびチャネル幅はそれぞれ約60μm、約11μmおよび約16μmであった。上記マイクロチャネル基板にガラス板を圧着させてチャネルを形成し、このチャネルの出口側に外水相溶液(W2)である3%のカゼインナトリウムを含むトリス−塩酸緩衝液(pH8、50mmol/L)を満たしておき、チャネルの入口側から前記W1/Oエマルションを供給して、W1/O/W2エマルションを製造した。
【0049】
(有機溶媒相の除去によるリポソームの製造)
次に、上記W1/O/W2エマルションを蓋のない開放ガラス製容器に移し替え、室温下で約20時間静置し、ヘキサンを揮発させた。微細なリポソーム粒子の懸濁液が得られ、この粒子内にはカルセインが含まれていることが確認された。
【0050】
実施例3
(一次乳化工程によるW1/Oエマルションの製造)
カルセイン(0.4mM)を含むトリス−塩酸緩衝液(50mmol/L)のpHを9に変更し、超音波処理時間を5minとしたこと以外は、実施例1と同様にして、乳化処理を行った。上記方法に従って測定したところ、この一次乳化工程で得られたW1/Oエマルションは平均粒径320nmの単分散W/Oエマルションであることが確認され、CV値は42%であった。
【0051】
(二次乳化工程によるW1/O/W2エマルションの製造)
外水相溶液(W2)である3%のカゼインナトリウムを含むトリス−塩酸緩衝液(50mmol/L)のpHを9に変更した以外は実施例1と同様にして、マイクロチャネル乳化法によるW1/O/W2エマルションの製造を行った。
【0052】
(有機溶媒相の除去によるリポソームの製造)
次に、上記W1/O/W2エマルションを蓋のない開放ガラス製容器に移し替え、室温下で約20時間静置し、ヘキサンを揮発させた。微細なリポソーム粒子の懸濁液が得られ、この粒子内にはカルセインが含まれていることが確認された。
【0053】
実施例4
(一次乳化工程によるW1/Oエマルションの製造)
超音波処理出力を3.0としたこと以外は、実施例3と同様にして、乳化処理を行った。上記方法に従って測定したところ、この一次乳化工程で得られたW1/Oエマルションは平均粒径550nmの単分散W/Oエマルションであることが確認され、CV値は55%であった。
【0054】
(二次乳化工程によるW1/O/W2エマルションの製造)
実施例3と同様にして、マイクロチャネル乳化法によるW1/O/W2エマルションの製造を行った。
【0055】
(有機溶媒相の除去によるリポソームの製造)
次に、上記W1/O/W2エマルションを蓋のない開放ガラス製容器に移し替え、室温下で約20時間静置し、ヘキサンを揮発させた。微細なリポソーム粒子の懸濁液が得られ、この粒子内にはカルセインが含まれていることが確認された。
【0056】
実施例5
(一次乳化工程によるW1/Oエマルションの製造)
超音波処理出力を2.5としたこと、処理時間を3minとした以外は、実施例3と同様にして、乳化処理を行った。上記方法に従って測定したところ、この一次乳化工程で得られたW1/Oエマルションは平均粒径880nmの単分散W/Oエマルションであることが確認され、CV値は69%であった。
【0057】
(二次乳化工程によるW1/O/W2エマルションの製造)
実施例3と同様にして、マイクロチャネル乳化法によるW1/O/W2エマルションの製造を行った。
【0058】
(有機溶媒相の除去によるリポソームの製造)
次に、上記W1/O/W2エマルションを蓋のない開放ガラス製容器に移し替え、室温下で約20時間静置し、ヘキサンを揮発させた。微細なリポソーム粒子の懸濁液が得られ、この粒子内にはカルセインが含まれていることが確認された。
【0059】
実施例6
(一次乳化工程によるW1/Oエマルションの製造)
カルセイン(0.4mM)を含む緩衝液(50mmol/L)をpHを6に調整したクエン酸緩衝液に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、乳化処理を行った。上記方法に従って測定したところ、この一次乳化工程で得られたW1/Oエマルションは平均粒径220nmの単分散W/Oエマルションであることが確認され、CV値は36%であった。
【0060】
(二次乳化工程によるW1/O/W2エマルションの製造)
外水相溶液(W2)である3%のカゼインナトリウムを含むトリス−塩酸緩衝液(50mmol/L)を3%のカゼインナトリウムを含むpHを6に調整したクエン酸緩衝液(50mmol/L)に変更した以外は実施例1と同様にして、マイクロチャネル乳化法によるW1/O/W2エマルションの製造を行った。
【0061】
(有機溶媒相の除去によるリポソームの製造)
次に、上記W1/O/W2エマルションを蓋のない開放ガラス製容器に移し替え、室温下で約20時間静置し、ヘキサンを揮発させた。微細なリポソーム粒子の懸濁液が得られ、この粒子内にはカルセインが含まれていることが確認された。
【0062】
実施例7
(一次乳化工程によるW1/Oエマルションの製造)
リン脂質を「NC−50」からホスファチジルコリン含量が80%である卵黄レシチン「PL−100M」(キューピー株式会社)に変更したことを除いては、実施例1と同様にして、乳化処理を行った。上記方法に従って測定したところ、この一次乳化工程で得られたW1/Oエマルションは平均粒径250nmの単分散W/Oエマルションであることが確認され、CV値は35%であった。
【0063】
(二次乳化工程によるW1/O/W2エマルションの製造)
実施例1と同様にして、マイクロチャネル乳化法によるW1/O/W2エマルションの製造を行った。
【0064】
(有機溶媒相の除去によるリポソームの製造)
次に、上記W1/O/W2エマルションを蓋のない開放ガラス製容器に移し替え、室温下で約20時間静置し、ヘキサンを揮発させた。微細なリポソーム粒子の懸濁液が得られ、この粒子内にはカルセインが含まれていることが確認された。
【0065】
実施例8
(一次乳化工程によるW1/Oエマルションの製造)
ホスファチジルコリン含量が95%である卵黄レシチン「COATSOME NC-50」(日油株式会社)0.3g、コレステロール(Chol)0.152gおよびオレイン酸(OA)0.108gを含むヘキサン15mLを有機溶媒相(O)とし、カルセイン(0.4mM)を含むトリス−塩酸緩衝液(pH8、50mmol/L)5mLを内水相用の水分散相(W1)とした。50mLのビーカーにこれらの混合液を入れ、高圧ホモジナイザー(ナノマイザー、吉田機械興業社製)を用いて100MPaの圧力条件で乳化処理を行った。上記方法に従って測定したところ、この一次乳化工程で得られたW1/Oエマルションは平均粒径125nmの単分散W/Oエマルションであることが確認され、CV値は39%であった。
【0066】
(二次乳化工程によるW1/O/W2エマルションの製造)
続いて、上記一次乳化工程により得られたW1/Oエマルションを分散相とし、実験用デッドエンド型マイクロチャネル乳化装置モジュールを使用して、マイクロチャネル乳化法によるW1/O/W2エマルションの製造を行った。
【0067】
上記モジュールのマイクロチャネル基板はシリコン製であり、マイクロチャネル基板のテラス長、チャネル深さおよびチャネル幅はそれぞれ約60μm、約11μmおよび約16μmであった。上記マイクロチャネル基板にガラス板を圧着させてチャネルを形成し、このチャネルの出口側に外水相溶液(W2)である3%のカゼインナトリウムを含むトリス−塩酸緩衝液(pH8、50mmol/L)を満たしておき、チャネルの入口側から前記W1/Oエマルションを供給して、W1/O/W2エマルションを製造した。
【0068】
(有機溶媒相の除去によるリポソームの製造)
次に、上記W1/O/W2エマルションを蓋のない開放ガラス製容器に移し替え、室温下で約20時間静置し、ヘキサンを揮発させた。微細なリポソーム粒子の懸濁液が得られ、この粒子内にはカルセインが含まれていることが確認された。
【0069】
実施例9
水分散相(W1)のトリス−塩酸緩衝液(50mmol/L)のpHを9に変更し、有機溶媒相(O)を酢酸エチル/ヘキサン=2/8(体積比)の混合物に変更したことを除いては、実施例1と同様にして、リポソーム粒子の懸濁液を作製した。この一次乳化工程で得られたW1/Oエマルションの平均粒径は261nmであり、CV値は41%であった。
【0070】
実施例10
水分散相(W1)のトリス−塩酸緩衝液(50mmol/L)のpHを9に変更し、有機溶媒相(O)をクロロホルム/ヘキサン=2/8(体積比)の混合物に変更したことを除いては、実施例1と同様にして、リポソーム粒子の懸濁液を作製した。この一次乳化工程で得られたW1/Oエマルションの平均粒径は300nmであり、CV値は35%であった。
【0071】
実施例11
水分散相(W1)のトリス−塩酸緩衝液(50mmol/L)のpHを9に変更し、有機溶媒相(O)をクロロホルム/ヘキサン=4/8(体積比)の混合物に変更したことを除いては、実施例1と同様にして、リポソーム粒子の懸濁液を作製した。この一次乳化工程で得られたW1/Oエマルションの平均粒径は310nmであり、CV値は50%であった。
【0072】
比較例1
一次乳化工程によるW1/Oエマルションの製造において、カルセイン(0.4mM)を含むトリス−塩酸緩衝液のpHを9に調整したものを使用し、超音波処理による乳化を超音波水槽(出力300W)中で緩やかに振とうすることにより行ない、W2に使用する3%のカゼインナトリウムを含むトリス−塩酸緩衝液のpHを9に変更した以外は、実施例1と同様にして、リポソーム分散液を作製した。この一次乳化工程で得られたW1/Oエマルションの平均粒径は1.6μmであり、CV値は40%であった。
【0073】
比較例2
一次乳化工程によるW1/Oエマルションの製造において、内水相用の水分散相(W1)として、カルセイン(0.4mM)を含むトリス−塩酸緩衝液のpHを9に調整したものを使用し、有機溶媒相(O)をクロロホルム/ヘキサン=2/8の混合物とし、リン脂質を「NC−50」からホスファチジルコリン含量が80%である卵黄レシチン「PL−100M」(キューピー株式会社)に変更し、W2に使用する3%のカゼインナトリウムを含むトリス−塩酸緩衝液のpHを9に変更したことを除いては、実施例1と同様にして、リポソーム粒子の懸濁液を作製した。この一次乳化工程で得られたW1/Oエマルションの平均粒径は920nmであった。また、この粒径分布としては約200nmにメインピークがあるものの、約1.2μmにもかなり大きなサブピークがあり、CV値も52%であった。
【0074】
実施例12
水分散相(W1)に、カルセイン(0.4mM)に代えて、シタラビン(4mM)を溶解させた以外は、実施例3と同様にして、リポソーム粒子の懸濁液を作製した。この一次乳化工程で得られたW1/Oエマルションの平均粒径は320nmであり、CV値は48%であった。また、最終的に得られたリポソーム粒子の平均粒子径は258nmであった。
【0075】
実施例13
水分散相(W1)に、カルセイン(0.4mM)に代えて、シタラビン(4mM)を溶解させた以外は、実施例4と同様にして、リポソーム粒子の懸濁液を作製した。この一次乳化工程で得られたW1/Oエマルションの平均粒径は607nmであり、CV値は30%であった。また、最終的に得られたリポソーム粒子の平均粒子径は581nmであった。
【0076】
比較例3
水分散相(W1)に、カルセイン(0.4mM)に代えて、シタラビン(4mM)を溶解させた以外は、比較例1と同様にして、リポソーム粒子の懸濁液を作製した。この一次乳化工程で得られたW1/Oエマルションの平均粒径は1820nmであり、CV値は51%であった。また、最終的に得られたリポソーム粒子の平均粒子径は1910nmであった。
【0077】
上記実施例および比較例で得られたリポソームの、カルセインまたはシタラビンの内包率を、下記の方法に従って測定した。結果は表1に示す通りであった。また、上記実施例により得られたリポソームは何れも単分散性の高いものであった。
【0078】
(カルセインの内包率の測定方法)
リポソーム水溶液(3mL)全体の蛍光強度(Ftotal)を分光光度計(U−3310、日本分光株式会社)により測定した。次に0.01M,CoCl2トリス塩酸緩衝液30μLを加えて外水相に漏出したカルセインの蛍光をCo2+により消光することで、ベシクル内の蛍光強度(Fin)を測定した。さらに、カルセインを加えないでサンプルと同じ条件でベシクルを作製し、脂質自身が発する蛍光(Fl)を測定した。内包率は下記式より算出した;
内包率E(%) = (Fin−Fl)/(Ftotal−Fl)×100
【0079】
(シタラビンの内包率の測定方法)
超遠心装置で固形分(リポソーム)を分離(デカント)し、上澄と固形分をそれぞれHPLCで定量した。HPLCカラムとしてVarian Polaris C18-A (3μm, 2x40 mm)を用いてアッセイされた。内包されていない当該化合物と内包されている当該化合物の絶対値から、シタラビンの内包率を算出した。
【0080】
(ミクロンサイズの粒子の数の観察方法)
上記実施例および比較例で得られたリポソーム分散液に残るミクロンサイズの粒子の数を、光学顕微鏡で観察することにより評価した。結果は表1および図1〜5に示す通りであった。このとき、前述のW/O/Wエマルション由来の多胞リポソームが少しの割合、残存するので、より観察しやすくすることを目的として、多胞リポソームを減らして、単胞リポソームにするために、1日撹拌をし続けたものを用いて、評価した(多胞リポソームがばらばらにならないと(単胞リポソームにならないと)正確なミクロンサイズの粒子の数の差を比較できないため)。
【0081】
【表1】
【符号の説明】
【0082】
1:リン脂質
2:薬剤(カルセイン色素)
3:有機溶媒(ヘキサン)
4:内水相(水)
5:外水相(カゼイン水溶液)
図1
図2
図3
図4
図5
図6