特許第5649077号(P5649077)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ パネフリ工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5649077-線虫防除剤及び線虫防除方法 図000003
  • 特許5649077-線虫防除剤及び線虫防除方法 図000004
  • 特許5649077-線虫防除剤及び線虫防除方法 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5649077
(24)【登録日】2014年11月21日
(45)【発行日】2015年1月7日
(54)【発明の名称】線虫防除剤及び線虫防除方法
(51)【国際特許分類】
   A01N 65/12 20090101AFI20141211BHJP
   A01N 65/00 20090101ALI20141211BHJP
   A01N 65/08 20090101ALI20141211BHJP
   A01P 5/00 20060101ALI20141211BHJP
【FI】
   A01N65/12
   A01N65/00 D
   A01N65/08
   A01P5/00
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-48672(P2012-48672)
(22)【出願日】2012年3月6日
(65)【公開番号】特開2013-184890(P2013-184890A)
(43)【公開日】2013年9月19日
【審査請求日】2013年9月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】591100448
【氏名又は名称】パネフリ工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】永松ゆきこ
(72)【発明者】
【氏名】高良綾乃
【審査官】 太田 千香子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−120749(JP,A)
【文献】 特開2003−171217(JP,A)
【文献】 特開2012−232951(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 65/08
A01N 65/12
A01N 65/00
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネコブセンチュウを防除対象とする線虫防除剤であって、アワユキセンダングサの抽出物と木酢液とテルミナリア・チェブラ果実の抽出物を有効成分とする線虫防除剤。
【請求項2】
請求項1に記載の線虫防除剤において、前記アワユキセンダングサの抽出物が、溶媒として水、親水性有機溶媒又は水と親水性有機溶媒の混合液を用いて抽出されたものであることを特徴とする線虫防除剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の線虫防除剤において、前記テルミナリア・チェブラ果実の抽出物が、溶媒として水、親水性有機溶媒又は水と親水性有機溶媒の混合液を用いて抽出されたものであることを特徴とする線虫防除剤。
【請求項4】
ネコブセンチュウを防除対象とする線虫防除方法であって、前記請求項1から3のいずれか1項に記載の防除剤を用いることを特徴とする線虫防除方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は線虫防除剤及び線虫防除方法、特にネコブセンチュウの防除剤及び防除方法に関し、栽培作物に対する害虫の防除技術の分野に属する。
【背景技術】
【0002】
近年、栽培作物に対する寄生性線虫類による被害が拡大し、問題となっている。この問題は特定作物を連作する場合に特に顕著となり、その作物への寄生性の強い線虫の土壌中の密度が高くなる結果、作物の生育を阻害したり、収量を低下させたりするなどの被害をもたらす。
【0003】
特に、ネコブセンチュウは寄主範囲、生息範囲が広く、作物の根に侵入し、組織細胞を栄養にして成長するとともに、根の組織をコブ状にして機能を低下させることから、国内外において大きな問題となっている。また、極めて多くの植物に寄生し、野菜類ではトマト、ナス、ウリ類、アブラナ科、ホウレンソウ、シュンギク、ネギ類、ショウガ、マメ科、花卉類ではキク科、アスター、ガーベラ、ダリア、カーネーション、ストック、スイセン、スイートピー、シャクヤク、グラジオラス、ケイトウ、リンドウ、花木類ではモモ、ヤナギ、アカシヤ、ナンテン、ウメ、サクラ、バラ、ツバキ、サザンカ、クレマチスなどに対して、収穫低下などの被害を及ぼす。
【0004】
その対策として、従来、堆肥等の粗大有機物が用いられてきたが、この方法は、有害線虫に対する抑制効果は高いものの、大量に用いる必要があるので、労働負担が高く、さらに、作物の異常生長を招いたり、土壌中に病原菌が蔓延しやすくなるなどの欠点がある。
【0005】
また、土壌中での線虫の繁殖を抑制する化学的物質を含有する植物、例えばマリーゴールド、クロタラリア、ギニアグラスなどを栽培作物と併せて植え付ける方法もあるが、この方法は目的とする作物の作付面積を制約するという難点がある。
【0006】
さらに、播種あるいは植付け前にくん蒸処理用の農薬を用いた土壌消毒はコストも低く、現在最も汎用的に使用されている防除法であり、土壌中の線虫除去に効果を有するが、この方法は人畜に対する安全性を損なう懸念があり、また、有用微生物を死滅させるなど、土壌生態系への影響が大きい。さらに、リサージェンス(誘導多発性)と呼ばれるように、処理後、かえって対象病害あるいは他の病害が増加するという被害の常態化をしばしば誘発することが知られている。
【0007】
また、物理的防除方法として、ハウスでの太陽熱を利用した消毒や、大量の潅水と熱とによる還元消毒なども効果的ではあるが、この方法は大規模な設備が必要で、コストや労働負担が高い。
【0008】
そして、これらの対策方法は、いずれも予防的な方法であって、作付中に一旦寄生されると、それを排除して土壌を回復するのはきわめて困難であり、さらなる汚染を防ぐしかないのが実情である。
【0009】
このような実情に対処するものとして、特許文献1にはネコブセンチュウに有効な天然物由来の防除剤が開示されており、アワユキセンダングサ、ヒメジョオン、オオアレチノギク、セイタカアワダチソウなどのキク科植物の抽出物が、ネコブセンチュウに対して防除効果を有することが記載されている。また、特許文献2には、植物精油や精油の成分、木酢液などの植物還流液、ホウ酸又はその塩、タンニンなどを有効成分とした線虫防除剤及び土壌活性化剤が記載されている。
【0010】
なお、本件出願人は、テルミナリア・チェブラ果実の抽出物を有効成分とする線虫防除剤の発明について先に出願したところである(特願2011−104049号)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許4528982号
【特許文献2】特開2003−171217号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前記特許文献1に記載のものは、実施例2に示されている製造方法で得られたアワユキセンダングサの煮沸水抽出物を原液として用いて、実施例2および3に示されるように、抽出物の原液をそのまま、10倍に希釈、20倍に希釈、50倍に希釈して用いると、ネコブセンチュウに対して直接その活動を停止させる(不動化)、あるいは致死させるなどの防除効果を発揮するが、圃場において実際に使用する場合、原液のままでは膨大な量の原料が必要となるため、実用性および経済性を考慮すると抽出物を最低でも10倍以上に希釈して用いる必要がある。しかし、希釈率を高くすると、有効成分の含有量が低下し、防除効果が現れるまで長期間を要することが考えられる。
【0013】
また、実施例3では、ネコブセンチュウを各種濃度の抽出物に添加してから7日経過後の状態から不動化の判断をしているが、土壌中にある程度の密度でネコブセンチュウが存在する圃場環境では、ネコブセンチュウが植物の根と接触する確率は格段に上昇するため、より短期間に不動化の効果を発揮する必要があると考えられる。
【0014】
そこで発明者らは、各種濃度に設定したアワユキセンダングサの煮沸水抽出物にネコブセンチュウを添加してから2時間後、6時間後、24時間後の不動化率を測定した。その結果、原液では2時間経過後にほぼ100%不動化したのに対し、水で10倍に希釈した抽出液では2時間経過後もほとんど不動化しなかった。また、水で20倍以上に希釈した抽出液では、6時間経過後もほとんど不動化しなかった。すなわち、このことは経済性を考慮してアワユキセンダングサの抽出物の使用量を減らすと、不動化に至るまでの時間が多くかかるため、ネコブセンチュウが作物の根に侵入してしまう可能性が高まり、ネコブセンチュウに対する防除効果が低下し、実際の圃場において満足する防除効果が得られないことが明らかとなった。
【0015】
また、特許文献2に記載のものは、例えば実施例3において、線虫で汚染した鉢用人工培養土に木酢液からなる防除剤を混和法および潅注法で処理しているが、土壌1ml中の線虫数が対照例ではそれぞれ0.94、0.83であるのに対し、それぞれ0.37、0.55と減少し、これは対照例の約39%、約66%に相当する。したがって両処理法における防除効果はそれぞれ約61%、約34%となり、防除効果は必ずしも高いとはいえない。また、表3に示されているように、2重量%添加条件の場合は対照例が2.02であるのに対し、0.18に減少し、これは対照例の約9%である。したがって、その防除効果は約91%と高いものの、2重量%添加条件では作物の発芽能が低下するなど、作物への悪影響を生じる可能性があり、防除効果や作物への影響の点で、必ずしも満足できるものではない。
【0016】
また、寄生性線虫密度の高い鉢用人口培養土に、各種濃度の試料を添加してから3週間室温で放置後、ベールマン法で土壌1ml当たりに生存する寄生性線虫密度を測定することで各種防除剤の効果を検討しているが、土壌中にある程度の密度でネコブセンチュウが存在する圃場環境では、ネコブセンチュウが植物の根と接触する確率は格段に上昇するため、より短期間に不動化の効果を発揮する必要があると考えられる。
【0017】
また、自然界あるいは圃場の土壌は酸性からアルカリ性まで様々なpHを呈することが知られ、その緩衝作用によって安定化されていることが知られているが、発明者らが実際に検討した結果、木酢液は、特にアルカリ性の土壌環境下においてネコブセンチュウに対する防除効果が著しく低下したことから、実際の圃場において満足する防除効果が得られない場合があることが明らかとなった。
【0018】
以上のように、従来報告されている線虫防除剤は、商品作物を安定供給しなくてはならない農家にとっては、満足できるような効果を示していないといえる。すなわち、人体や作物に対する安全性はもちろん、なるべく経済的で、実施の容易性等に優れ、植物の生長を阻害することなく、なおかつできるだけ多様なpHの土壌環境においても、線虫に対して迅速な防除効果を奏することのできる防除剤の実現が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、前記課題を解決するためになされたものであって、まず、請求項1に記載の発明は、ネコブセンチュウを防除対象とする線虫防除剤であって、アワユキセンダングサの抽出物と木酢液とテルミナリア・チェブラ果実の抽出物を有効成分とすることを特徴とする。
【0020】
ここで、アワユキセンダングサ(Bidens pilosa ver.radiata Scherff)は、キク科センダングサ属植物の中でも亜熱帯地方においてより繁殖力の強い優占雑草であり、資源量が多いため、栽培や入手がしやすく、かつ食履歴もあり、高い安全性を有する。また、抽出物の調製方法としては、特に制限されるものではなく、例えば、浸漬抽出法、振とう抽出法、ソックスレイ抽出法、水蒸気蒸留法などの一般的な植物成分抽出手法を用いることができる。
【0021】
また、アワユキセンダングサは、生の状態でも乾燥した状態でもよく、根を除く全草を用いることができる。抽出用の溶媒としては水だけでなく、メタノール、エタノールなどの低級アルコール類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、アセトニトリル、酢酸エチルなどの親水性有機溶媒、およびエチルエーテル、イソプロピルエーテルなどのエーテル類、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、塩化メチレン、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素類などの疎水性有機溶媒が挙げられ、さらにそれぞれの混合溶媒が挙げられるが、水およびエタノール以外の有機溶媒については、抽出後に完全に留去させることが望ましい。
【0022】
また、抽出後、必要によりカラム分画法や溶媒分画法などにより精製することも可能である。さらに必要により溶媒を留去させて濃縮および乾燥することも可能である。
【0023】
また、木酢液は広葉樹や針葉樹等の木材を乾留した際に得られる乾留液であり、木材を炭化する際に発生する燻煙を利用して得られる副産物で、赤褐から暗褐色の液体で、その約90%は水分であるが、約5%は酢酸を主体とする有機酸、約5%はフェノール類やアルコール類等、約200種類の成分から構成されている。しかし、乾留の条件、採取する画分によっては成分に大きなばらつきを生じ、有害な成分も含まれる可能性があることから、乾留排煙塔の80℃から150℃領域を冷却することで凝縮する液体部分を回収し、これを3ヶ月間貯留後、タールや樹脂類等からなる沈殿層とテルペン油等からなる上層を除去した中間層の水溶性成分のみを採取して使用することが望ましい。
【0024】
また、テルミナリア・チェブラはミラボラン、ミラボラム、ミロバラン、呵梨靱(かりろく)などとも呼ばれており、インドやネパール、ミャンマーに分布するシクンシ科の落葉高木である。また、この果実を熱水あるいはアルコールなどの各種親水性溶媒で抽出後、溶媒を留去させて得られた乾燥抽出物は、タンニンを多く含むため、皮革産業における皮なめし用途において、ミラボランタンニンなどと呼ばれて利用されているが、発明者らは、先に、このテルミナリア・チェブラ果実の抽出物がネコブセンチュウおよび/又はネグサレセンンチュウに対して防除効果があることを見出した。
【0025】
すなわち、アワユキセンダングサの抽出物と木酢液とテルミナリア・チェブラ果実の抽出物から構成される防除剤は、人体や作物に対する安全性が高く、経済的に、かつあらゆるpHの土壌環境において、さらに迅速にネコブセンチュウに対する防除効果を奏することとなる。
【0026】
また、本防除剤を適用する際、土壌や植物体地下部に効果的に施用するため、液剤、あるいは溶媒を乾燥させて粉剤や粒剤などとして、あるいは担体に担持させるなどして製剤化することが可能であり、土壌に混和して使用したり、水あるいは水と親水性有機溶媒の混合溶媒に溶解希釈して用いたりすることで、目的に応じた濃度に調整して使用することができる。
【0027】
また、必要に応じて、他の病害防除成分、展着剤、乳化剤、湿潤剤、保存料、酸化防止剤、紫外線吸収剤や、色素、顔料などの添加剤を加えることも可能である。
【0028】
また、請求項に記載の発明は、請求項に記載の線虫防除剤において、前記アワユキセンダングサの抽出物が、溶媒として水、親水性有機溶媒又は水と親水性有機溶媒の混合液を用いて抽出されたものであることを特徴とする。
【0029】
また、請求項に記載の発明は、請求項1又は2に記載の線虫防除剤において、前記テルミナリア・チェブラ果実の抽出物が、溶媒として水、親水性有機溶媒又は水と親水性有機溶媒の混合液を用いて抽出されたものであることを特徴とする。
【0030】
ここで、抽出物を得る際に用いられる溶媒は、安全性、汎用性、経済性を考慮すると、水が望ましいが、親水性有機溶媒であるエタノールやメタノールなど水溶性アルコール類のほか、アセトン、ジメチルスルホキシドなどを用いることも可能であり、これらを複数混合させても良い。
【0031】
また、得られた抽出物は、各種溶媒に溶解した状態で用いても良いが、溶媒を留去し、乾燥させ、固形状あるいは粉末状にして用いても良く、水、親水性有機溶媒又は水と親水性有機溶媒の混合液で溶解して希釈することで、目的に応じた濃度に調整して使用することができる。
【0032】
また、請求項に記載の発明は、ネコブセンチュウを防除対象とする線虫防除方法であって、前記請求項1からのいずれか1項に記載の防除剤を用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0033】
本発明に係る線虫防除剤およびこれを用いた線虫防除方法によれば、アワユキセンダングサの抽出物木酢液およびテルミナリア・チェブラ果実の抽出物を有効成分とする防除剤がいずれもネコブセンチュウに作用し、ネコブセンチュウが寄生することによる作物被害を防止もしくは軽減する。
【0034】
また、この防除剤は、いずれも植物を原料とし、人畜や環境への影響がなく、土壌生態系を損なうおそれもない。
【0035】
また、この防除剤は、植物に対する影響が少ないため、ネコブセンチュウの寄生被害が作物に対して認められてからであっても処理を行なうことができ、ネコブセンチュウによる被害を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1参考例1に係るアワユキセンダングサの抽出物と木酢液から構成された防除剤で処理した場合のネコブセンチュウの不動化状態を示す写真である。
図2実施例1に係るアワユキセンダングサの抽出物と木酢液とテルミナリア・チェブラ果実の抽出物から構成された防除剤で処理した場合のネコブセンチュウの不動化状態を示す写真である。
図3】ネコブセンチュウの生存状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明の防除剤は、そのまま、あるいは水、親水性有機溶媒又は水と親水性有機溶媒の混合液で溶解希釈後、土壌中へ散布、混和したり、土壌表面又は土壌中に配置して用いたり、植物の苗の根元に灌注して用いることができる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0039】
本発明に係るアワユキセンダングサの抽出物は以下のようにして製造した。
【0040】
1.アワユキセンダングサの抽出物の製造
(1)琉球大学構内にて自生するアワユキセンダングサから採取した種を培土を充填したセルポットに1粒〜5粒ずつ播種し、幼苗まで栽培してから圃場に定植、開花期まで栽培後、根以外の全草を採取した。
(2)全草を平型乾燥機により70℃にて約12時間乾燥させた後、粉砕機で0.5cm〜2.5cm程度に粉砕し、乾燥粉砕物を得た。
(3)乾燥粉砕物4kgを不織布製の袋に入れ、抽出槽に投入後、20Lの水を加えて加熱し、100℃で30分間保持後、抽出槽内の乾燥粉砕物を圧搾して抽出物(原液)を得た。
【0041】
また、本発明に係るテルミナリア・チェブラ果実の抽出物は、熱水抽出物の乾燥粉末(川村通商(株)製ミラボランタンニン)を用いた。
【0042】
また、本発明に係る木酢液は、ウバメガシ原木から紀州備長炭を製造する過程で得られる木酢液(みなべ川森林組合製)を用いた。
【0043】
2.試験用線虫の準備
ミニトマトのネコブセンチュウ被害根を採取し、水で十分洗浄後、被害根に付着した卵のうを医療用メスにて摘出した。摘出した卵のうは、水で湿らせたキムワイプの上に置き、これを少量の水をはったシャーレ内に設置して暗所室温にて静置した。数日毎に、シャーレ内の水に分離した線虫を線虫懸濁液としてパスツールピペットで三角フラスコに移し、パラフィルムなどで蓋をした。この線虫懸濁液は暗室下15℃条件にて冷蔵保管し、2週間以内に実験に供試した。
【0044】
3.試験用線虫懸濁液の密度調整
(1)三角フラスコ中で15℃に保存されている線虫の懸濁液をパスツールピペットを用いて遠沈管に入れ、遠心分離機を用いて、3000rpm条件で3分間遠心分離し、線虫を沈殿させた。
(2)パスツールピペットを用いて上澄みを取り除き、線虫の高密度懸濁液を得た。
(3)この高密度懸濁液をタッチミキサーでよく撹拌した後、ピペットマンを用いて0.1ml採取し、これをプレパラート上に広げた。
(4)光学顕微鏡(40倍)で観察しながら、カウンターを用いてプレパラート上の線虫をすべてカウントし、高密度懸濁液0.1mlあたりの線虫密度を求めた。
(5)必要に応じて蒸留水あるいは、高密度線虫懸濁液を加えて、線虫密度が0.1mlあたり130頭〜140頭の線虫懸濁液を調製した。
【0045】
4.線虫防除(不動化)試験
(1)リン酸二水素ナトリウム二水和物(和光純薬工業(株)製)、リン酸水素二ナトリウム12水和物(和光純薬工業(株)製)より、それぞれpH7.8のアルカリ性緩衝液とpH5.8の酸性緩衝液を調製した。中性条件としては蒸留水を用いた。
(2)まず、本発明の参考例1に係る防除剤として、アワユキセンダングサの抽出物(原液)を0.5ml、木酢液を0.025ml秤取して試験管に入れ、ここへ蒸留水あるいは、アルカリ性緩衝液あるいは、酸性緩衝液を3.975ml加えて撹拌、溶解させ、これらをそれぞれ参考例1−ア(中性条件)、参考例1−イ(アルカリ製条件)、参考例1−ウ(酸性条件)とした。
(3)また、実施例に係る防除剤として、アワユキセンダングサの抽出物(原液)を0.5ml、木酢液を0.025ml、テルミナリア・チェブラ果実の抽出物を0.05g秤取して試験管に入れ、ここへ蒸留水あるいは、アルカリ性緩衝液あるいは、酸性緩衝液をそれぞれ3.975ml加えて撹拌、溶解させ、これらをそれぞれ実施例−ア(中性条件)、実施例−イ(アルカリ製条件)、実施例−ウ(酸性条件)とした。
(4)また、実施例に係る防除剤として、アワユキセンダングサの抽出物(原液)を0.5ml、木酢液を0.025ml、テルミナリア・チェブラ果実の抽出物を0.02g秤取して試験管に入れ、ここへ蒸留水あるいは、アルカリ性緩衝液あるいは、酸性緩衝液をそれぞれ3.975ml加えて撹拌、溶解させ、これらをそれぞれ実施例−ア(中性条件)、実施例−イ(アルカリ性条件)、実施例−ウ(酸性条件)とした。
(5)一方、アワユキセンダングサの抽出物のみの検討として、比較例1では0.5ml、比較例2では0.125ml、比較例3では0.1mlのアワユキセンダングサの抽出物(原液)を秤取して試験管に入れ、ここへ蒸留水あるいは、アルカリ性緩衝液あるいは、酸性緩衝液をそれぞれ比較例1では4ml、比較例2では4.375ml、比較例3では4.4ml加えて撹拌、溶解させ、これらをそれぞれ比較例1−ア(中性条件)、比較例1−イ(アルカリ製条件)、比較例1−ウ(酸性条件)などとした。なお、比較例3は、中性条件の比較例3−アのみ検討した。
(6)また、木酢液のみの検討として、比較例4では0.025ml、比較例5では0.017mlの木酢液を秤取して試験管に入れ、ここへ蒸留水あるいは、アルカリ性緩衝液あるいは、酸性緩衝液をそれぞれ比較例4では4.475ml、比較例5では4.483ml加えて撹拌、溶解させ、これらをそれぞれ比較例4−ア(中性条件)、比較例4−イ(アルカリ製条件)、比較例4−ウ(酸性条件)などとした。
(7)また、テルミナリア・チェブラ果実の抽出物のみの検討として、比較例6では0.05g、比較例7として0.02gのテルミナリア・チェブラ果実の抽出物を秤取して試験管に入れ、ここへ蒸留水あるいは、アルカリ性緩衝液あるいは、酸性緩衝液をそれぞれ4.5ml加えて撹拌、溶解させ、これらをそれぞれ比較例6−ア(中性条件)、比較例6−イ(アルカリ製条件)、比較例6−ウ(酸性条件)などとした。
(8)また、比較例8として、蒸留水あるいは、アルカリ性緩衝液あるいは、酸性緩衝液のみをそれぞれ4.5ml入れ、これらをそれぞれ比較例8−ア(中性条件)、比較例8−イ(アルカリ製条件)、比較例8−ウ(酸性条件)などとした。(対照試験)
(9)各試験管にピペットマンを用いて上記の密度調整済み線虫懸濁液を0.5mlずつ加えてタッチミキサーでよく撹拌し、全液量が5.0mlで、その1mlあたりに線虫が130頭〜140頭存在する試験液を調整した。各試験液はパラフィルムで蓋をし、遮光下25℃条件にて静置した。
(10)各試験液はそれぞれ線虫を加えてから2時間後、6時間後、24時間後にタッチミキサーで撹拌し、ピペットマンを用いてその0.3mlをプレパラートに広げ、光学顕微鏡(40倍)にて観察し、動いている(生存)線虫と動かない(不動化)線虫の数をそれぞれカウントし、全線虫のうちの不動化した線虫の割合(不動化率)を求めた。なお、1回の測定においてこの操作を2回繰り返し、その平均値を各試験液の不動化率とした。
【0046】
5.試験結果
ネコブセンチュウにおける防除(不動化)試験結果は、表1に示すとおりである。
【表1】
【0047】
参考例1のネコブセンチュウに対する防除効果について、中性条件のアと酸性条件のウは、試験開始2時間後から不動化率がそれぞれ約76%、約96%と比較的高かった。また、アルカリ条件のイは、2時間後に約14%、6時間後に30%と徐々に不動化率が向上し、24時間後に100%となった。このことから、アワユキセンダングサの抽出物10%と木酢液0.5%から構成される防除剤を用いることによって、アルカリ性の土壌環境下においては不動化効果がやや低いが、中性および酸性の土壌環境下においては、防除剤を処理してから2時間後には多くのネコブセンチュウが不動化し、作物の根への寄生を効果的に抑制できることが示された。また、処理後のネコブセンチュウは図1に示すように形態が通直になり、一部は原形質内に気泡が発生していた。
【0048】
また、実施例では、中性条件のアと酸性条件のウにおいて、いずれも試験開始2時間後から不動化率がそれぞれ約89%、約91%と高かった。また、アルカリ性条件のイは、2時間後は不動化率が約18%と低いが、6時間後に約83%まで向上した。このことから、アワユキセンダングサの抽出物10%と木酢液0.5%に加え、テルミナリア・チェブラ果実の抽出物1%から構成される防除剤を用いることによって、中性および酸性の土壌環境下においては、防除剤を処理してから2時間後、アルカリ性の土壌環境下においても6時間後には、高い割合でネコブセンチュウが不動化し、作物の根への寄生をさらに効果的に抑制できることが示された。また、処理後のネコブセンチュウはいずれも図2に示すように形態が変形し、原形質が収縮していた。
【0049】
また、実施例では、中性条件のアにおいて、試験開始2時間後から不動化率が約92%と高かった。また、酸性条件のウも、2時間後に約63%、6時間後に67%、24時間後に89%まで向上した。また、アルカリ条件のイは、2時間後に22%、6時間後に55%と徐々に不動化率が向上し、24時間後にほぼ90%となった。このことから、アワユキセンダングサの抽出物10%と木酢液0.5%に加え、テルミナリア・チェブラ果実の抽出物0.4%から構成される防除剤を用いることによって、中性および酸性の土壌環境下においては、防除剤を処理してから2時間後、アルカリ性の土壌環境下においては6時間後には、少なくとも半数以上のネコブセンチュウが不動化し、作物の根への寄生を抑制できることが示された。また、処理後のネコブセンチュウはいずれも図2に示すように形態が変形し、原形質が収縮していた。
【0050】
一方、比較例1では、中性条件のアと酸性条件のウにおいて、いずれも試験開始2時間後の不動化率が約3%、15%と低く、6時間後にそれぞれ100%、約97%まで向上した。しかし、アルカリ性条件のイは、2時間後で約6%、6時間後でも約8%と不動化率が低く、24時間後で約93%まで向上した。このことから、アワユキセンダングサの抽出物10%のみから構成される防除剤では、中性、酸性、アルカリ性、いずれのpHを有する土壌環境下においても、防除剤を処理してから2時間後までの不動化率が非常に低く、ネコブセンチュウが植物の根に寄生する可能性が高いことが示された。
【0051】
また、比較例2では、中性条件のア、アルカリ性条件のイ、酸性条件のウにおいて、いずれも試験開始2時間後、6時間後ともほとんど不動化せず、24時間後でそれぞれ約90%以上に不動化率が向上した。このことから、アワユキセンダングサの抽出物2.5%のみから構成される防除剤では、中性、酸性、アルカリ性、いずれのpHを有する土壌環境下においても、6時間後までの不動化率が非常に低く、ネコブセンチュウが植物の根に寄生する可能性が非常に高いことが示された。
【0052】
また、比較例3では、中性条件においてのみの検討ではあるが、試験開始24時間後までほとんど不動化しなかった。このことから、アワユキセンダングサの抽出物2%のみから構成される防除剤では、少なくとも中性の土壌環境下において、24時間後までほとんど不動化効果を発現せず、ネコブセンチュウが植物の根に寄生する可能性が非常に高いことが示された。
【0053】
また、比較例4では、中性条件のアと酸性条件のウにおいて、いずれも試験開始2時間後から不動化率がそれぞれ100%、約98%と非常に高かった。しかし、アルカリ性条件のイは、24時間後でも約16%しか不動化しなかった。このことから、木酢液0.5%のみから構成される防除剤では、中性および酸性の土壌環境下においては、防除剤を処理してから2時間後には高い防除効果を奏するが、特にアルカリ性の土壌環境下においては、24時間後までの不動化率が低く、ネコブセンチュウが植物の根に寄生する可能性が高いことが示された。
【0054】
また、比較例5では、中性条件のアにおいて、試験開始2時間後で100%不動化し、酸性条件のウは、2時間後で約58%であった。しかし、アルカリ性条件のイは、24時間後でも約15%しか不動化しなかった。このことから、木酢液0.3%のみから構成される防除剤では、中性の土壌環境下においては、防除剤を処理してから2時間後には高い防除効果を奏し、酸性の土壌環境下においても防除剤を処理してから2時間後に半数以上のネコブセンチュウが不動状態になり、防除効果を奏するといえるが、特にアルカリ性土壌環境下においては、24時間までの不動化率が低く、ネコブセンチュウが植物の根に寄生する可能性が高いことが示された。
【0055】
また、比較例6では、中性条件のアにおいて、試験開始2時間後に約45%、6時間後に約70%、24時間後に97%と徐々に不動化率が向上した。しかし、アルカリ条件のイは、2時間後、6時間後とも約24%と不動化率は低く、24時間後に約71%まで向上した。また、酸性条件のウは、24時間でも約38%程度しか不動しなかった。このことから、テルミナリア・チェブラ果実の抽出物1%のみから構成される防除剤では、中性の土壌環境下においては、防除剤を処理してから2時間後には半数程度のネコブセンチュウが不動化状態になり、ある程度の防除効果を奏するといえるが、アルカリ性の土壌環境下においては6時間後まで、酸性の土壌環境下においては24時間後までの不動化率が低く、ネコブセンチュウが植物の根に寄生する可能性が高いことが示された。しかし、処理後のネコブセンチュウはいずれも実施例およびであるアワユキセンダングサの抽出物と木酢液とテルミナリア・チェブラ果実の抽出物から構成された防除剤で処理した場合と同様に、形態が変形し、原形質が収縮していたことから、この防除剤の不動化効果がテルミナリア・チェブラ果実の抽出物の効果に起因していることが示唆された。
【0056】
また、比較例7では、中性条件のアにおいて、試験開始2時間後は約48%が不動化し、24時間後に77%と徐々に不動化率が向上した。しかし、アルカリ性条件のイは、2時間後、6時間後でそれぞれ約12%、約19%と不動化率は低く、24時間後に約50%まで向上した。また、酸性条件のウは、24時間までまったく不動化しなかった。このことから、テルミナリア・チェブラ果実の抽出物0.4%のみから構成される防除剤では、中性の土壌環境下においては、防除剤を処理してから2時間後に約半数のネコブセンチュウが不動化状態になり、ある程度の防除効果を奏するといえるが、アルカリ性の土壌環境下では、6時間までの不動化率が非常に低く、酸性の土壌環境下でも、24時間後までまったく不動化せず、ネコブセンチュウが植物の根に寄生する可能性が非常に高いといえる。しかし、処理後のネコブセンチュウはいずれも実施例およびであるアワユキセンダングサの抽出物と木酢液とテルミナリア・チェブラ果実の抽出物から構成された防除剤で処理した場合と同様に、形態が変形し、原形質が収縮していたことから、この防除剤の不動化効果がテルミナリア・チェブラ果実の抽出物の効果に起因していることが示唆された。
【0057】
また、比較例8では、中性条件のア、アルカリ性条件のイ、酸性条件のウにおいて、いずれもほとんど不動化しなかった。このことから、用いたネコブセンチュウの活動性に異常がなく、かつ蒸留水、リン酸緩衝液自体のネコブセンチュウに対する影響はほとんどないことが示された。
【0058】
以上の結果から、アワユキセンダングサの抽出物と木酢液とテルミナリア・チェブラ果実の抽出物を有効成分とする防除剤を用いることによって、あらゆるpHを有する土壌環境においても、さらに迅速にネコブセンチュウを防除可能であるといえる。
【0059】
また、本発明における防除剤において、これを構成するアワユキセンダングサの抽出物の濃度は経済性を考慮すると、10%以下であることが望ましく、かつネコブセンチュウに対する迅速な防除効果および各種pHでの土壌環境への適応性能を考慮すると、2.5%以上であることが望ましいといえる。
【0060】
また、木酢液の濃度は、植物体への悪影響を考慮すると、1%以下にすることが望ましく、かつネコブセンチュウに対する迅速な防除効果および各種pHでの土壌環境への適応性能を考慮すると、0.5%以上であることが望ましいといえる。
【0061】
また、テルミナリア・チェブラ果実の抽出物の濃度は、植物体への悪影響を考慮すると、2%未満にすることが望ましく、かつネコブセンチュウに対する迅速な防除効果および各種pHでの土壌環境への適応性能を考慮すると、0.4%以上であることが望ましいといえる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明に係る防除剤は、環境や人畜に対する安全性に優れ、かつ低コストで実施可能でありながら、植物の生長を阻害することなく、幅広いpHを有する土壌環境下において、ネコブセンチュウに対する迅速かつ高い防除効果を発現することから、農産物の生産業において好適に利用される可能性がある。
図1
図2
図3