(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5649080
(24)【登録日】2014年11月21日
(45)【発行日】2015年1月7日
(54)【発明の名称】接着剤、複合膜材料および成膜方法
(51)【国際特許分類】
B32B 9/00 20060101AFI20141211BHJP
B05D 1/36 20060101ALI20141211BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20141211BHJP
C09D 1/00 20060101ALI20141211BHJP
C09D 7/12 20060101ALI20141211BHJP
【FI】
B32B9/00 A
B05D1/36 Z
B05D7/24 303B
B05D7/24 303E
C09D1/00
C09D7/12
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-167384(P2012-167384)
(22)【出願日】2012年7月27日
(65)【公開番号】特開2014-24990(P2014-24990A)
(43)【公開日】2014年2月6日
【審査請求日】2013年7月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】591040236
【氏名又は名称】石川県
(74)【代理人】
【識別番号】100137394
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 敏弘
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 一裕
(72)【発明者】
【氏名】豊田 丈紫
【審査官】
岩田 行剛
(56)【参考文献】
【文献】
特開平09−199518(JP,A)
【文献】
特開2007−118276(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 9/00
B05D 1/36
B05D 7/24
C09D 1/00−1/12
C09J 1/00−1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
酸化チタンと、
前記酸化チタンを前記基板上に接着している、有機分子で修飾された修飾金属粒子と
を有し、
前記修飾金属粒子の金属粒子の粒径は、10nm以下であり、
前記有機分子は、酸化チタンと結合するシラノール基と、前記金属粒子と親和性を持つチオール基とを有し、
溶媒中において、前記有機分子で表面を取り囲まれて修飾されている修飾金属粒子の溶液を、前記基材に塗布する第1の工程と、
前記修飾金属粒子の溶液が塗布された基材に、前記酸化チタンの溶液を塗布する第2の工程と
で形成された
複合膜材料。
【請求項2】
溶媒中において、有機分子で表面を取り囲まれて修飾されている修飾金属粒子の溶液を、基材に塗布する第1の工程と、
前記修飾金属粒子の溶液が塗布された基材に、酸化物の溶液を塗布する第2の工程と
を有し、
前記修飾金属粒子の金属粒子の粒径は、10nm以下であり、
前記有機分子は、酸化物と結合するシラノール基と、前記金属粒子と親和性を持つチオール基とを有する
成膜方法。
【請求項3】
前記酸化物は、酸化チタンであり、
前記第1の工程と、前記第2の工程とを交互に複数回繰り返して、酸化チタンの積層膜を生成する
請求項2に記載の成膜方法。
【請求項4】
溶媒中において、有機分子で表面を取り囲まれて修飾されている修飾金属粒子と、酸化物との混合溶液を、基材に塗布する塗布工程と、
前記混合溶液が塗布された基材を乾燥させる乾燥工程と
を有し、
前記修飾金属粒子の金属粒子の粒径は、10nm以下であり、
前記有機分子は、酸化物と結合するシラノール基と、前記金属粒子と親和性を持つチオール基とを有する
成膜方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物を接着するための接着剤、この接着剤を用いた複合膜材料、および、酸化物の薄膜を生成する成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば酸化チタン膜は、新型の太陽電池である色素増感型太陽電池の電極や光触媒として利用分野が広いために数多く研究開発され実用化されている。
しかし、酸化チタン膜を得るためには酸化チタン粒子などを焼結(500℃の高温で焼き固める製造法)している。そのため、高温に耐えられる基材(ガラス等)上にしか成膜できず融点の低い基材(プラスチック等)上では成膜できないという課題があった。
【0003】
これに対し、例えば、特許文献1には、真空容器内に不活性ガスを導入し、基材とチタンターゲットとの間に高電圧を印加してスパッタリングを行い、前記基材上にチタン膜を作製し、つぎに酸素原子を有するガスを導入し、前記高電圧の極性を変えて再び高電圧を印加し、前記チタン膜を酸化する酸化チタン膜の作製方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、チタニアナノシートが懸濁したゾルとカチオン性ポリマー溶液に基板を交互に浸漬する操作を反復することにより、基板上にナノシートとポリマーをそれぞれサブnm〜nmレベルの厚さに吸着させ、該成分が交互に繰り返す多層膜を累積することによってチタニア超薄膜を製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−137101号公報
【特許文献2】特開2001−270022号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
比較的簡易な機材を用いて、従来では困難であった低温(150℃以下)での酸化チタンなどの酸化物の膜を生成する。また、比較的強度の高い薄膜を生成する。
低温で低融点基材上に成膜できれば、コストダウンや用途の拡大が図られるだけではなく、焼結に要するエネルギーも節約できるために省エネにも繋がる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の接着剤は、金属粒子と、前記金属粒子と親和性を持つ有機分子とを含む。
【0008】
好適には、前記金属粒子の粒径は、10nm以下であり、前記有機分子は、酸化物と結合するシラノール基と、前記金属粒子と親和性を持つチオール基とを有する。
【0009】
また、本発明の複合膜材料は、基材と、酸化チタンと、前記酸化チタンを前記基板上に接着する、有機分子で修飾された修飾金属粒子とを有する。
【0010】
また、本発明の成膜方法は、有機分子で修飾された修飾金属粒子の溶液を、基材に塗布する第1の工程と、前記修飾金属粒子の溶液が塗布された基材に、酸化物の溶液を塗布する第2の工程とを有する。
【0011】
好適には、前記酸化物は、酸化チタンであり、前記第1の工程と、前記第2の工程とを交互に複数回繰り返して、酸化チタンの積層膜を生成する。
【0012】
また、本発明の成膜方法は、有機分子で修飾された修飾金属粒子と、酸化物との混合溶液を、基材に塗布する塗布工程と、前記混合溶液が塗布された基材を乾燥させる乾燥工程とを有する。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、比較的簡易な機材を用いて、低温(150℃以下)での酸化チタンなどの酸化物の膜を生成することができる。また、比較的強度の高い薄膜の生成が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施形態にかかる接着剤を説明するための説明図である。
【
図2】実施形態にかかる有機分子を例示する図である。
【
図3】本実施形態にかかる成膜方法の概要を説明するための説明図である。
【
図4】積層膜の生成方法を説明するための説明図である。
【
図5】成膜方法を用いて製造される複合膜材料を例示する図である。
【
図6】銀ナノ粒子のTEM写真及びTEMから見積もった粒径分布を示す図である。
【
図7】白金ナノ粒子のTEM写真及びTEMから見積もった粒径分布を示す図である。
【
図8】(A)は、銀ナノ粒子のUVスペクトルであり、(B)は、銀ナノ粒子と修飾部(MPE)とのモル比を変化させた場合のUVピーク波長を示すグラフである。
【
図9】(A)は、
図4の成膜方法で形成された積層膜(積層数が異なる)のUV吸収スペクトルであり、(B)は、各積層膜によるピーク波長の吸光度を示すグラフであり、(C)は、
図4の成膜方法で形成された4層の積層膜のX線回折の測定結果を示す図である。
【
図10】変形例における酸化チタン膜の概要及びそのSEM画像を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0016】
(接着剤)
図1は、本実施形態にかかる接着剤を説明するための説明図である。
本実施形態にかかる接着剤は、金属粒子と、金属と親和性を有する有機分子とを含む。より具体的には、
図1(A)に例示するように、接着剤10は、金属粒子100と、この金属粒子100を取り囲むように結合した有機分子110とからなる。
金属粒子100は、例えば、粒径10nm以下の金属ナノ粒子であり、より好ましくは、粒径4nm以下の金属ナノ粒子である。より具体的には、金属粒子100は、銀又は白金のナノ粒子である。
有機分子110は、
図1(B)に例示するように、酸化物と結合する酸化物結合部位112と、金属と親和性を持つ金属粒子結合部位114とを有する有機化合物である。酸化物結合部位112は、例えば、シラノール基である。また、金属粒子結合部位114は、チオール基である。より具体的には、有機分子110は、
図2に例示するように、(3−メルカプトプロピル)トリメトキシシラン、又は、(3−メルカプトプロピル)トリエトキシシランなどである。
図1(C)に例示するように、この有機分子100の金属粒子結合部位114が、金属ナノ粒子100の表面に結合して、接着剤10が構成される。接着剤10の外表面には、酸化物結合部位112が多数配列され、これによって、酸化物の接着が達成される。
【0017】
(成膜方法)
図3は、本実施形態にかかる成膜方法の概要を説明するための説明図である。
図3(A)に例示するように、基材20の表面に、接着剤10と酸化物30の混合溶液を塗布し、その後、これを乾燥させることにより、基材20の上に、酸化物30の薄膜が形成される。酸化物30は、
図3(B)に例示するように、接着剤10によって互いに結合されている。
図3(C)は、粒径10〜100nmの酸化チタンナノ粒子と、白金ナノ粒子を核とする接着剤10とを、(白金)/(酸化チタン)が0.005以上となるように、混合した混合溶液を、プラスチックの基材20に塗布し乾燥させた場合のSEM画像である。
【0018】
このように、酸化チタンなどの酸化物と接着する機能を持つ材料で修飾された金属粒子(修飾金属粒子)を接着剤10として利用することで、低温で酸化物同士を接着させることで、比較的強度の高い酸化物の薄膜を生成できる。なお、酸化チタンの形状としては粒子だけでなく、
図4に例示するように、シート状のものを用いて成膜を行ってもよい。また、
図4に例示する成膜方法によれば、積層膜の生成が可能になる。すなわち、
図4(A)に例示するように、まず、基材20を、接着剤10の溶液(有機分子110で修飾された金属ナノ粒子の溶液)に浸し(第1の工程)、続いて、その基材20を、酸化チタンナノシートの楊永輝に浸す(第2の工程)。その後、第1の工程及び第2の工程を交互に所望の回数繰り返すことにより、
図4(B)に例示するような酸化チタンの積層膜が、プラスチック等の基材20の上に形成される。
図4(C)は、
図4(A)の成膜方法により形成された酸化チタン膜のSEM画像である。
【0019】
図5は、上記成膜方法を用いて製造される複合膜材料を例示する図である。
図5に例示するように、PET及び透明電極からなる基材に、上記成膜方法で酸化チタン膜を形成して色素吸着酸化チタン膜とし、その上に、電解質、電極の各層を形成することにより、色素増感型太陽電池が作成される。また、低温成膜であるために層ごとに色素を吸着させて、異なる多数の色素を吸着させた酸化チタン膜も得られる。
【0020】
(実施例)
以下、上記実施形態の実施例を説明する。
銀ナノ粒子は、アセトン溶媒中で修飾材である(3-メルカプトプロピル)トリエトキシシラン溶液0.3ml(4.16mM)に硝酸銀溶液(2.5mM)を0.5ml加えた。溶液を60℃で攪拌しながら20mMの水酸化ホウ素ナトリウム溶液を0.2ml添加し、30分攪拌した。
また、白金ナノ粒子は、アセトン溶媒中で修飾材である(3-メルカプトプロピル)トリエトキシシラン溶液0.6ml(4.16mM)にヘキサクロロ白金酸六水和物溶液を9.5ml加えた。溶液に20mMの水酸化ホウ素ナトリウム溶液を2ml添加し、30分間超音波器で超音波をかけた。
【0021】
(接着剤の評価)
得られたそれぞれの金属ナノ粒子は、Hitachi H-7650電子顕微鏡を用いて観察し、平均粒径及びサイズ分布を算出した。
【0022】
図6は、銀ナノ粒子のTEM写真及びTEMから見積もった粒径分布を示す。また、
図7は、白金ナノ粒子のTEM写真及びTEMから見積もった粒径分布を示す。金属(銀、白金)ナノ粒子において、修飾材兼保護材である(3-メルカプトプロピル)トリエトキシシランが金属(銀、白金)の表面を保護し、粒子同士の凝集を防いでおり、単分散で微細な金属ナノ粒子が合成されていることが確認できた。銀ナノ粒子の平均粒径は、1.75nmであり、その標準偏差は0.66nmであった。また、白金ナノ粒子の平均粒径は3.9nmであり、その標準偏差は0.68nmであった。
銀ナノ粒子は60℃で加温しながら合成し、白金ナノ粒子は超音波下で合成することほぼ均一に分散している金属ナノ粒子を得ることができた。
図8(A)は、銀ナノ粒子のUVスペクトルであり、
図8(B)は、銀ナノ粒子と修飾部(MPE)とのモル比を変化させた場合のUVピーク波長を示すグラフである。
【0023】
(成膜)
上記で合成された接着剤(銀ナノ粒子を核とする接着剤、及び、白金ナノ粒子を核とする接着剤)を用いて、酸化チタン膜を生成した。
図3(C)は、粒径10〜100nmの酸化チタンナノ粒子と、白金ナノ粒子を核とする接着剤とを、(白金)/(酸化チタン)が0.005以上となるように、混合した混合溶液を、プラスチックの基材に塗布し乾燥させた場合のSEM画像である。また、
図4(C)は、
図4(A)の成膜方法で形成された酸化チタン膜のSEM画像である。
図9(A)は、
図4の成膜方法で形成された積層膜(積層数が異なる)のUV吸収スペクトルであり、
図9(B)は、各積層膜によるピーク波長の吸光度を示すグラフである。積層数を増やすごとに、直線的に吸光度が増加している。
図9(C)は、
図4の成膜方法で形成された4層の積層膜のX線回折の測定結果である。積層膜が層を形成しているため、低角にピークが存在する。
【0024】
以上説明したように、本実施形態にかかる接着剤によれば、比較的簡易な機材で、かつ、低温(150℃以下)環境下で、酸化チタンなどの酸化物の薄膜を形成することができる。また、本接着剤により形成された酸化物膜は、高い強度が期待できる。
【0025】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0026】
なお、上記実施形態では、酸化チタンナノ粒子又は酸化チタンナノシートを択一的に用いる形態を説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、これら両方と、接着剤との混合溶液を基材に塗布して、酸化チタン膜を形成してもよい。具体的には、ナノ粒子を核とする接着剤を用いる場合には、(白金)/(酸化チタンナノ粒子)のモル比が0.005以上であり、かつ、(白金)/(酸化チタンナノシート)のモル比が0.01以上となるように、酸化チタンナノ粒子、酸化チタンナノシート及び接着剤(白金ナノ粒子が核となる接着剤)の混合溶液を調整する。この混合溶液を基材に塗布し、塗布後に乾燥させることにより、
図10(A)に例示する酸化チタン膜が形成される。
図10(B)は、本変形例により形成された酸化チタン膜のSEM画像である。
【符号の説明】
【0027】
10 …接着剤
100 …金属粒子
110 …有機分子