(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5649111
(24)【登録日】2014年11月21日
(45)【発行日】2015年1月7日
(54)【発明の名称】球状黒鉛鋳鉄からなるプレス成形用金型及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C21D 5/00 20060101AFI20141211BHJP
C22C 37/04 20060101ALI20141211BHJP
C21D 1/52 20060101ALI20141211BHJP
C21D 1/08 20060101ALI20141211BHJP
C21D 1/18 20060101ALI20141211BHJP
B21D 37/01 20060101ALI20141211BHJP
B21D 37/20 20060101ALI20141211BHJP
【FI】
C21D5/00 T
C22C37/04 Z
C21D1/52 Z
C21D1/08
C21D1/18 E
B21D37/01
B21D37/20 Z
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2010-143730(P2010-143730)
(22)【出願日】2010年6月24日
(65)【公開番号】特開2011-236493(P2011-236493A)
(43)【公開日】2011年11月24日
【審査請求日】2013年5月14日
(31)【優先権主張番号】特願2010-92449(P2010-92449)
(32)【優先日】2010年4月13日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】590000721
【氏名又は名称】株式会社キーレックス
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077931
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 弘
(74)【代理人】
【識別番号】100110939
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100110940
【弁理士】
【氏名又は名称】嶋田 高久
(74)【代理人】
【識別番号】100113262
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 祐二
(74)【代理人】
【識別番号】100117581
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 克也
(74)【代理人】
【識別番号】100117710
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 智雄
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100124671
【弁理士】
【氏名又は名称】関 啓
(74)【代理人】
【識別番号】100131060
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 靖也
(74)【代理人】
【識別番号】100131200
【弁理士】
【氏名又は名称】河部 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100131901
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 雅典
(74)【代理人】
【識別番号】100132012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩下 嗣也
(74)【代理人】
【識別番号】100141276
【弁理士】
【氏名又は名称】福本 康二
(74)【代理人】
【識別番号】100143409
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 亮
(74)【代理人】
【識別番号】100157093
【弁理士】
【氏名又は名称】間脇 八蔵
(74)【代理人】
【識別番号】100163186
【弁理士】
【氏名又は名称】松永 裕吉
(74)【代理人】
【識別番号】100163197
【弁理士】
【氏名又は名称】川北 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100163588
【弁理士】
【氏名又は名称】岡澤 祥平
(73)【特許権者】
【識別番号】597039788
【氏名又は名称】友鉄工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】笹川 俊明
(72)【発明者】
【氏名】川本 浩夫
(72)【発明者】
【氏名】友廣 和照
(72)【発明者】
【氏名】角井 洵
(72)【発明者】
【氏名】川后 敬二
【審査官】
佐藤 陽一
(56)【参考文献】
【文献】
特開平09−111395(JP,A)
【文献】
特開昭59−056518(JP,A)
【文献】
特開昭64−036749(JP,A)
【文献】
特開平08−311599(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 5/00
C22C 37/00−37/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量比で、C:3.3〜3.8%、Si:1.8〜2.4%、Mn:0.3〜0.5%、Mg:0.03〜0.06%、Cu:0.4〜0.6%、Ni:0.3〜1.2%、Cr:0.3〜1.0%、Mo:0.3〜0.5%、残部Feの組成を有し、引張強さ800N/mm2以上、伸び2%以上、硬さHB240〜340の機械的性質を有する球状黒鉛鋳鉄からなり、必要個所の硬さが火炎焼入れによりHRc58以上とされたプレス成形用金型。
【請求項2】
重量比で、C:3.3〜3.8%、Si:1.8〜2.4%、Mn:0.3〜0.5%、Mg:0.03〜0.06%、Cu:0.4〜0.6%、Ni:0.3〜1.2%、Cr:0.3〜1.0%、Mo:0.3〜0.5%、残部Feの組成を有する球状黒鉛鋳鉄製部材の必要個所表面を火炎焼き入れ部材で加熱し、
この火炎焼き入れ部材による加熱の直後に加熱部分を水で急冷することで、引張強さ800N/mm2以上、伸び2%以上、硬さHB240〜340の機械的性質を有し、かつ焼き入れ部分がHRc58以上の硬度からなるプレス金型を製造することを特徴とするプレス成形用金型の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車のボディー等に用いる鉄板をプレス成形にて得るために用いるプレス成形用金型及びその製造方法に係り、特に、特定組成の球状黒鉛鋳鉄を用いて鋳造によりプレス金型を製造し、その金型表面を表面硬化焼入れしたプレス成形用金型及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車のボディー等に用いる鉄板の成形、切断、打ち抜きにはプレス金型が用いられている。そして、このプレス金型は、硬さ、耐久性等の点から金型本体は鋳鉄材により鋳造し、また切刃部または曲げ刃部は鋳鋼で別途に製造した上、この鋳鋼製切刃部または曲げ刃部をボルト等で金型本体に一体に取り付けることにより得られている。この1例として、プレハードン・フレームハードニング金型用鋼の切刃部を火炎焼入れしたプレス金型が提案されている(特許文献1)。
【0003】
しかし、一般的な鋳鋼では、火炎焼入れ場所が隣接する場合に、焼入れ時の焼戻し軟化抵抗性が不足し、既に焼入れした部分が焼き戻し効果によって軟化してしまう。また、小寸法の金型の場合に切刃部に火炎焼入れを行うと、金型全体が昇温してしまい、焼入れ性が不足し所定の焼入れ硬度が得られないとともに変形が生じる可能性が増加する。その上、火炎焼入れは、加熱時の熱影響が大きく、加熱部近傍のベイナイト組織が分解され、元の高靭性が失われる傾向にある。そのために、一般的な鋳鋼では硬度不足であり、高硬度を要求される場合には、使用できない課題を有している。
【0004】
そのために、高張力鋼板等をプレス成形するために、硬さ(HRc)の高い工具鋼材で切刃部または曲げ刃部を製作することは良く行われている。しかし、この場合には、この工具鋼材からなる直方体のブロックから削りだして成形上の形状を製作するために、加工工数が多大であり、材料歩留まりも悪くコストアップの要因になっている。
【0005】
以上の観点から、プレス金型を、炭素鋼や鋳鋼でなく球状黒鉛鋳鉄で製造する試みも知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭63−259057号公報
【特許文献2】特開平09−111395号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、素材が炭素鋼であり、しかも焼入れ、焼戻し処理を行った後に切刃部を火炎焼入れするものであるために、コスト高であり、採用範囲が限られている。プレハードン処理をする際に、鋼材の焼入れ時の曲がりを極力少なくするために、焼入れ冷却は空冷で行うこととしている。焼入れしてもHRc硬度はせいぜい55程度でしかない。そのために、厚物鋼板や高張力鋼板にプレス金型を適用した場合に、切刃部の耐摩耗性が不足する。また、特殊な鋼材であるので、高コストになっている。
【0008】
特許文献2では、特殊な合金組成とした球状黒鉛鋳鉄を用いて切刃部または曲げ刃部をも含めた金型全体を鋳造するものであって、この鋳造時に切刃部または曲げ刃部のみ冷却する手段を設け、その後、この鋳造金型を鋳放しの状態で上記切刃部または曲げ刃部を火
炎焼入れするものである。
【0009】
このものでは、鋳造後に火炎焼き入れして空令することで、硬度アップを図っている。しかし、HRc硬度は、最大で53であり、平均的には51レベルでしかない。また、鋳造時に切刃部または曲げ刃部に相当する部位に、強制冷却通路を設けるために、プレス金型の形状が限られ、形状に自由度が悪いものであった。
【0010】
従来では、鋳鋼材、鋳物材のいずれにしても、高靭性と高硬度との両特性を兼ね備えるプレス金型を得ることができなかった。
【0011】
しかし、本発明者らは、上述した切刃部または曲げ刃部を有するプレス金型であって、高靭性と高硬度との両特性を兼ね備えるプレス金型を得ることについて、さらに追求して研究した。
【0012】
特に、金型部材を球状黒鉛鋳鉄とすることとして、研究を進めていった。その時に、球状黒鉛鋳鉄材として、特殊な組成としかつ焼き入れ工程を工夫することで、高靭性と高硬度との両特性を兼ね備えるプレス金型を得ることにたどり着いた。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明では、球状黒鉛鋳鉄の具体的な組成は、Cu、Ni、Cr、Moを適切な量で加入して通常に鋳造してベースの硬度及び靭性を確保し、その後、切刃部または曲刃部を強制水冷による火炎焼入れで硬度アップを図るとともに、変形を最小限に留めるようにしている。
【0014】
具体的には、請求項1記載の発明のプレス成形用金型は、重量比で、C:3.3〜3.8%、Si:1.8〜2.4%、Mn:0.3〜0.5%、Mg:0.03〜0.06%、Cu:0.4〜0.6%、Ni:0.3〜1.2%、Cr:0.3〜1.0%、Mo:0.3〜0.5%、残部Feの組成を有し、引張強さ800N/mm
2以上、伸び2%以上、硬さHB240〜340の機械的性質を有する球状黒鉛鋳鉄からなり、必要個所の硬さが火炎焼入れ
によりHRc58以上とされたことを特徴とする。
【0015】
請求項2記載の発明のプレス成形用金型の製造方法は、重量比で、C:3.3〜3.8%、Si:1.8〜2.4%、Mn:0.3〜0.5%、Mg:0.03〜0.06%、Cu:0.4〜0.6%、Ni:0.3〜1.2%、Cr:0.3〜1.0%、Mo:0.3〜0.5%、残部Feの組成を有する球状黒鉛鋳鉄製部材の必要個所表面を火炎焼き入れ部材で加熱し、
その直後に強制水冷
して火炎焼入れを施すことで、引張強さ800N/mm
2以上、伸び2%以上、硬さHB240〜340の機械的性質を有し、かつ焼き入れ部分がHRc58以上の硬度からなるプレス金型を製造することを特徴とする。
【0016】
プレス成形用金型の必要個所は、例えば切刃部または曲げ刃部である。この切刃部または曲げ刃部は、大きな摩擦と衝撃がかかるため、高硬度と靱性が必要であり、このために均一で緻密な焼入れ組織にする必要がある。しかし、一般に鋳鉄は鋼と異なって、強力な黒鉛化促進元素であるSiの添加量が高いため、オーステナイト化の温度が高く、オーステナイト中に炭素が固溶し難いので均一な焼入れ組織が得難いと言われている。また、焼入れ組織は硬度は高いが、靱性に欠ける傾向があり、化学成分、特に合金元素の量に大きく影響されると言われている。
【0017】
そのために、本発明では、Mo、Ni、Cuの合金元素を特定割合で添加している。この発明による球状黒鉛鋳鉄の各組成の限定範囲及びその理由を記載する。
【0018】
C:3.3〜3.8重量%(以下、単に%と表示する)
Cは、3.3%未満では黒鉛量が不足、白銑化が促進され、流動性が不足し、3.8%を超えると、黒鉛量が過多となり強度が低下する。
【0019】
Si:1.8〜2.4%
Siは、1.8%未満では、流動性低下、白銑化を進展させ、2.4%超えると、フェライトの析出多く、高強度化が困難となる。
【0020】
Mn:0.3〜0.5%
Mnは、組織を緻密にし、強さ、硬さを増し、焼入れ性を高める働きをするために、0.3%以上必要であり、0.5%を超えると、加工性を阻害する。
【0021】
Mg:0.03〜0.06%
Mgは、0.03%未満では黒鉛が球状化不良となり、0.06%を超えるとドロスが多くなる。
【0022】
Cu:0.4〜0.6%
Cuは黒鉛粒が微細になり、基地が緻密に強化されるために、0.4%以上必要である。また、Cuは、焼入れ性の向上にも寄与する。0.6%を超えると、延性が著しく低下し、被削性を悪くする。
【0023】
Ni:0.3〜1.2%
Niは、黒鉛の粗大化を防ぎ、組織を緻密にし、機械的性質を著しく改善するために、0.3%以上必要であり、1.2%を超えると機械的性質の増大は認められずコストアップになる。
【0024】
Cr:0.3〜1.0%
Crは、炭化物を安定にし、組織を緻密にするために、0.3%以上必要であり、1.0%を超えると機械的性質の増大は認められずコストアップになる。
【0025】
Mo:0.3〜0.5%
Moは、焼入れ性の向上、組織の緻密化を促すために、0.3%以上必要であるが、0.5%を越えると、炭化物形成、粒界に析出し強度低下の原因となる。
【0026】
また、本発明では、各組成成分を特定範囲で有することで、球状黒鉛鋳鉄の機械的強度、即ち引張り強さを800N/mm
2以上、伸びを2%以上持たせるとともに、硬度をHB240〜340の範囲とし、その上でプレス成形用金型の切刃部または曲げ刃部の硬度をHRc58以上として必要な高度を持たせたものである。
【0027】
プレス成形用金型の切刃部または曲げ刃部の硬度をHRc58以上とするために、本発明では、強制水冷する火炎焼入れを行う。本発明の火炎焼入れの工程について説明する。
【0028】
実際には、火炎焼き入れ部材の直後に水冷部材を配置し、
火炎焼き入れ部材で所定の温度に加熱した直後に、この火炎焼き入れ
部材による加熱部分を直ぐに上記水冷部材からの水で急冷することで、高硬度を付与させている。
【0029】
例えば、強制水冷せずにそのまま放置して空冷するようにすると、その部分が加熱部分の高温度の影響を受けて、軟化して焼鈍されたようになり変形も大きくなる。この状態を防止するために、強制水冷による火炎焼入れを行っている。
【0030】
なお、この水冷部材からの水の供給量や供給スピードについては、通常に工場で使用されている水道水で良く、供給量や供給スピード、素材の表面状態で適時調整すればよい。また、焼き入れ時に隣接部分が焼き戻し状態になることを更に効果的に防止するために、火炎焼き入れ部材の直前でも強制水冷を行うようにしても良い。
【0031】
本発明では、プレス金型は、切刃部または曲げ刃部を有する部分を上記球状黒鉛鋳鉄製とし、金型本体を炭素鋼にして、後から上記球状黒鉛鋳鉄製部分も含めた金型部分をボルト等で上記金型本体に一体に取り付けるようにしても良い。又は、金型本体自体を上記球状黒鉛鋳鉄で製造するようにしても良い。
【発明の効果】
【0032】
請求項1の発明のプレス成形用金型によれば、引張強さ800N/mm
2以上、伸び2%以上の靭性を有し硬度はHB240〜340で加工性にも優れ、HRc58以上の硬さとなる焼入れ性にも優れている。従って、工具鋼鋼材に代替する金型材となり、加工工数の減少及び材料歩留まりの上昇によりコストダウンに寄与するものである。
【0033】
請求項2の発明のプレス成形用金型の製造方法によれば、引張強さ800N/mm
2以上、伸び2%以上の靭性を有し硬度はHB240〜340であって加工性にも優れるとともに、特定表面については、焼き入れによって、HRc58以上の硬さを確保でき、高硬度で高靭性のプレス金型を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係るプレス金型を示す断面図である。
【
図2】
図2はテストピースの形状を示す斜視図である。
【
図3】
図3は、
図2に示すテストピースに、火炎焼入れし、その直後に水冷を行なう状態を模式的に示す概略図である。
【
図4】
図4は実施例と比較例との性能比較表を示す。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0036】
図1は、本発明の実施形態に係るプレス金型1を示す。このプレス金型1は、高張力鋼板を断面ハット型に深絞りするためのプレス金型であり、曲げ刃部13を有する上型11と下型12とが本発明の球状黒鉛鋳鉄とされている。そして、曲げ刃部13は強制水冷による火炎焼入れを施したものである。上型11と下型12は、それぞれ金型本体21,22にボルト(図示省略)等で取り付けられている。
【0037】
このプレス金型1の上型11と下型12は、重量比で、C:3.3〜3.8%、Si:1.8〜2.4%、Mn:0.3〜0.5%、Mg:0.03〜0.06%、Cu:0.4〜0.6%、Ni:0.3〜1.2%、Cr:0.3〜1.0%、Mo:0.3〜0.5%、残部Feの組成を有し、引張強さ800N/mm
2以上、伸び2%以上、硬さHB240〜340の機械的性質を有する球状黒鉛鋳鉄からなる。そして、上型11と下型12の曲げ刃部13(必要個所)の硬さが火炎焼入れ
によりHRc58以上とされている。
【0038】
このプレス金型1を製造する方法では、上記組成を有する球状黒鉛鋳鉄製部材である上型11と下型12の曲げ刃部13(必要個所)表面を火炎焼き入れ治具(
図3参照)で所定の温度まで加熱し、この直後に水冷具(
図3参照)からの水で、火炎焼き入れ
しようとする加熱部分を急冷する。このことで、引張強さ800N/mm
2以上、伸び2%以上、硬さHB240〜340の機械的性質を有し、かつ焼き入れ部分がHRc58以上の硬度からなるプレス金型を製造する。
【実施例】
【0039】
次に、テストピースを例にして、本発明と比較例を実験した例を説明する。
図2に示すテストピース31を実施例1、実施例2及び比較例1について作製した。
【0040】
(実施例1)
テストピース31の大きさ及び材料は以下のとおりである。
【0041】
<テストピース>
高さ:45mm、幅:95mm、長さ:190mm
材料 C:3.73%、Si:1.97%、Mn:0.39%、Mg:0.043%、Cu:0.54%、Ni:0.39%、Cr:0.45%、Mo:0.32%、残部Feの球状黒鉛鋳鉄
【0042】
図3に示すように、このテストピース31のエッジ部分に、火炎焼入れ冶具32を用いて加熱した直後に水冷具33を用いて強制水冷を行うことで、強制水冷による火炎焼入れを行った。焼入れ条件及び強制水冷条件は以下のとおりである。
【0043】
<焼入れ条件>
火炎焼入れ治具:バーナー(溶接用)
酸素圧力 :1.0Kgf/cm
2
アセチレン圧力:0.17Kgf/cm
2
焼入れ温度 :950℃〜1000℃
焼入れ速度 :約5mm/秒
<強制水冷条件>
通常に工場で得られる水道水を使用して冷却
【0044】
(実施例2)
実施例1に対し、テストピース31の材料及び焼入れ条件のみを変えたものである。その他は実施例1と同じである。
【0045】
<テストピース>
高さ:45mm、幅:95mm、長さ:190mm
材料 C:3.53%、Si:1.97%、Mn:0.42%、Mg:0.035%、Cu:0.52%、Ni:0.99%、Cr:0.31%、Mo:0.44%、残部Feの球状黒鉛鋳鉄
<焼入れ条件>
火炎焼入れ治具:バーナー(切断用)
酸素圧力 :5.0Kgf/cm
2
アセチレン圧力:0.5Kgf/cm
2
焼入れ温度 :950℃〜1000℃
焼入れ速度 :約7.5mm/秒
【0046】
(比較例1)
実施例1と異なり、バーナー(溶接用)による火炎焼き入れ後にそのまま放置しておき、自然空冷させたものである。その他は実施例1と同じである。
【0047】
図2のA、B及びCはそれぞれの長さ寸法を示し、D、E及びFはそれぞれの高さ寸法を示す。点G、H、I、J、K及びLは、硬度及び変形量を測定したポイント(エッジから2mmの部位)を示す。これらについて、実施例1、実施例2と比較例1との焼き入れ後の変形量を
図4(a)に、また硬度を
図4(b)にそれぞれ示す。変形量は、長さ寸法
A、B、C及び高さ寸法D、E、Fで、処理前と処理後の寸法差を変形量とした。エコーチップ硬さ試験機(D型ショア硬さ試験機の改良型)にて、点G、H、I、J、K及びLの硬さを測定した。測定結果は、それらの最大値、最小値および平均値を硬さ換算対照表によってロックウエルC硬さに換算して示した。
【0048】
図4に示すように、実施例1及び実施例2では、全ての測定ポイントにおいて、HRc58以上を示しており、火炎焼入れ部分全体がほぼ均一で良好な硬度を有しているのに対して、比較例1では、HRc58未満の値の測定ポイントがあった。
【0049】
また、変形量では、実施例1及び実施例2では大きな変形が無く、数点の測定にてその最大、最小の幅が小さかった。それに対して、比較例1では、大きく変形する測定点があり、変形上で良くなかった。
【0050】
そして、実施例1では、焼入れしていない部分では、引張強さ900N/mm
2、伸び2.5%以上の特性を有し、硬度はHB300であり、実施例2では、焼入れしていない部分では、引張強さ880N/mm
2、伸び2.3%以上の特性を有し、硬度はHB280であり、加工性にも優れ、満足できる値であった。また、靭性として、
図4(c)に実施例1、実施例2及び比較例1のシャルピー衝撃試験結果を示す。
図4(c)に示すように、実施例1、実施例2は5.0J/cm
2であり、比較例1の3.0J/cm
2よりも高い値を示し、本実施例では比較例に対して靭性でも向上した結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0051】
この発明は、自動車のボディー等に用いる鉄板をプレス成形にて得るために用いるプレス成形用金型等に利用できる。
【符号の説明】
【0052】
1 プレス金型
11 上型
12 下型
13 曲げ刃部
31 テストピース
32 火炎焼き入れ治具
33 水冷具