(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記低炭素濃度領域には、前記ゲート電極のゲート長方向の中央部の下側から前記ソース電極側に位置する領域に、前記第1のIII族窒化物半導体層の絶縁性を高める不純物が添加されてなる高抵抗領域が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の電界効果トランジスタ。
前記基板と前記第1のIII族窒化物半導体層との間に形成された少なくとも1層のバッファ層をさらに備えていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の電界効果トランジスタ。
【背景技術】
【0002】
窒化ガリウム(GaN)を代表とする化合物半導体であるIII族窒化物半導体は、シリコン(Si)又はヒ化ガリウム(GaAs)等と比べて、バンドギャップ、絶縁破壊電界及び電子の飽和ドリフト速度のいずれもが大きい。また、面方位の(0001)面(=C面)を主面とする基板上に形成された窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)/窒化ガリウム(GaN)からなるヘテロ構造には、自発分極及びピエゾ分極によりヘテロ界面に2次元電子ガス(2-Dimensional Electron Gas:2DEG)が生じ、不純物をドープしなくとも、1×10
13cm
−2以上のシートキャリア濃度が得られる。この高濃度の2次元電子ガスをキャリアとして用いた電界効果トランジスタ(Field Effect Transistor:FET)が近年注目を集めており、種々の構造が提案されている。
【0003】
GaN系FETは、損失が少ないパワートランジスタを実現できるものの、素子面積が比較的に大きいため、高価なサファイア基板よりもシリコン(Si)又はグラファイト(C)等の安価な導電性基板上に成膜することが望まれている。しかしながら、これらの異種基板の上にGaN系の窒化物半導体を成膜すると、基板と窒化物半導体との格子定数及び熱膨張率の違いから、窒化物半導体の膜厚が大きくなるほどウェハが反ったり、成長した半導体膜にクラックが入ったりするという問題が発生し易くなる。このため、なるべく薄い膜厚で、耐圧及び信頼性を確保することが重要となる。
【0004】
図12は、従来のAlGaN/GaNヘテロ構造を有する電界効果型トランジスタの模式的な断面構成を示している(例えば、特許文献1を参照。)。
【0005】
図12に示すように、従来のIII族窒化物半導体を用いた電界効果トランジスタは、基板11の上に順次形成された、低温GaNバッファ層12、GaN又はAlGaNからなる高抵抗バッファ層13、アンドープGaN層14及びアンドープAlGaN層15を有している。アンドープAlGaN層15の上には、Ti及びAlからなるソース電極16及びドレイン電極18が形成されている。さらに、Ni、Pt及びAuからなるゲート電極17が、アンドープAlGaN層15の上のソース電極16とドレイン電極18との間の領域に形成されている。
【0006】
このような構造を持つ電界効果トランジスタは、アンドープAlGaN層15とアンドープGaN層14との界面に形成される2次元電子ガスがキャリアとして利用される。ソース電極16とドレイン電極18との間に電圧を印加すると、チャネル内の電子がソース電極16からドレイン電極18に向かって移動する。このとき、ゲート電極17に印加される電圧を制御して、アンドープAlGaN層15におけるゲート電極17の直下の空乏層の厚さを変化させることにより、ソース電極16からドレイン電極18に移動する電子、すなわちドレイン電流を制御することができる。
【0007】
ところで、GaN系半導体を用いたFETにおいては、電流コラプスと呼ばれる現象が観測され、デバイスの動作時に問題となることが知られている。この現象は、ソースとドレインとの間、ソースとゲートとの間又はドレインと基板との間等に一旦強い電界が印加されると、その後、ソースとドレインとの間のチャネル電流が減少してしまうという現象である。特許文献1においては、オン状態におけるドレインとソースとの間の電圧を0V〜10V及び0V〜30Vで掃引し、得られる電流値の比率を電流コラプス値と定義している。さらに、高抵抗バッファ層13に添加される炭素の濃度を10
17cm
−3以上且つ10
20cm
−3以下とするか、又は2次元電子ガス層から高抵抗バッファ層13の上面までの厚さ(以下、チャネル層と呼ぶ。)を0.05μm以上とすれば、電流コラプスは実用上問題がないレベルとなることが記載されている。一方、高抵抗バッファ層13の炭素濃度を10
17cm
−3以上とし、且つチャネル層の厚さを1μm以下とすれば、商用電源で必要とされる耐圧400V以上も確保できると記載されている。
【発明を実施するための形態】
【0031】
(一実施形態)
本発明の一実施形態に係る電界効果トランジスタについて
図1〜
図7を参照しながら説明する。
【0032】
図1に示すように、本実施形態に係る電界効果トランジスタFET100は、基板101の主面上に順次形成された半絶縁性の第1バッファ層102a、第2バッファ層102b及び第3バッファ層102cを介して、第1のIII族窒化物半導体からなる第1の半導体層103、及び第1のIII族窒化物半導体よりもバンドギャップが大きい第2のIII族窒化物半導体からなる第2の半導体層104を有している。
【0033】
第2の半導体層104の上には、ソース電極105及びドレイン電極107が互いに間隔をおいて形成されている。第2の半導体層104の上のソース電極105とドレイン電極107との間の領域には、ゲート電極106が形成されている。なお、ここでは、第2の半導体層104とゲート電極106の間に、p型GaN層110を設けている。このように、第2の半導体層104とゲート電極106の間にp型GaN層110を設けることにより、閾値電圧が正側に増大して、FET100はノーマリオフ型のトランジスタとなる。
【0034】
ここで、基板101の上面から各バッファ層102a〜102c、第1の半導体層103及び第2の半導体層104を含むドレイン電極107までの半導体層の総膜厚をd1(μm)とし、低炭素濃度層である第1の半導体層103の厚さをd2とする。
【0035】
基板101には、コストの面から、主面の面方位が(111)面のシリコンからなる基板を用いることが好ましい。なお、基板101に、シリコンカーバイド(SiC)又はグラファイト(C)を用いることもできる。
【0036】
半絶縁性の各バッファ層102a、102b及び102cは、基板101と第1の半導体層103との格子定数の違いによる応力を緩和し、第1の半導体層103の結晶性を制御するために設けている。例えば、第1バッファ層102aには、窒化アルミニウム(AlN)が良く、第2バッファ層102bには、Al
xGa
1−xN/Al
yGa
1−yNを対として複数積層してなる超格子構造又は複数層のAlGaNが良い。また、第3バッファ層102cには、GaN又は少量のAlを含むAlGaN等が良い。なお、各バッファ層102a、102b及び102cの材料には、III族窒化物のうちのAl
xGa
1−xN(但し、0≦x≦1である。)が適してはいるものの、窒化ホウ素(BN)等の他の材料であっても結晶性の制御に適していれば用いることは可能である。但し、各バッファ層102a、102b及び102cは半絶縁性である必要から、Al
xGa
1−xNであれば、炭素(C)等の不純物により高抵抗化されている必要がある。従って、各バッファ層102a、102b及び102cは、炭素を添加する場合には10
18cm
−3以上、さらに好ましくは10
19cm
−3以上且つ10
21cm
−3以下の炭素濃度を持たせることが、耐圧を確保するために望ましい。また、第1バッファ層102aのバンドギャップをE
g1とし、第2バッファ層102bのバンドギャップをE
g2とし、第3バッファ層のバンドギャップをE
g3としたとき、以下の(式1)の関係を満たすことが好ましい。
【0037】
E
g1>E
g2>E
g3 …(式1)
第3バッファ層102cの上に形成される第1の半導体層103は、GaNを主成分とするIII族窒化物半導体からなり、従って、GaNに限られず、In又はAlを若干含むInAlGaNでもよい。さらには、Al組成が小さいAlGaNの上にGaNを積層したり、GaNの上にInGaNを積層したりする積層構造でもよい。なお、第1の半導体層103は、電流コラプスを低減するために、その炭素濃度が8×10
16cm
−3以下である低炭素濃度層とする。また、いわゆる低炭素濃度層を形成する成膜条件では、成長レートが極めて遅くなる場合が多いため、第1の半導体層103は、電流コラプスを低減できる条件で、なるべく薄く形成する方が生産性が高まる。
【0038】
第2の半導体層104は、第1の半導体層103よりもバンドギャップが大きいAlGaN又はAlInGaNからなり、その厚さは25nm〜60nm程度である。
【0039】
第2の半導体層104の上には、化学気相堆積(CVD)法等によって成膜された、窒化シリコン(SiN)、二酸化シリコン(SiO
2)又は酸化ハフニウム(HfO
2)等からなる絶縁膜108を設けている。ゲート電極106は、例えば白金(Pt)又はパラジウム(Pd)と金(Au)との積層膜で構成し、オーミック接続するソース電極105とドレイン電極106とは、例えばチタン(Ti)とアルミニウム(Al)との積層膜を用いることができる。
【0040】
絶縁膜108におけるゲート電極106の上側部分には、該ゲート電極106の上面を露出する開口部が設けられている。さらに、絶縁膜108の上には、一端が開口部に充填され、他端がドレイン電極107側に延びるフィールドプレート109が形成されている。フィールドプレート109は、ゲート電極106の端部に高い電界が印加されることを防ぎ、電流コラプスを軽減する効果を有する。本実施形態においては、フィールドプレート109を、最も電界強度が高くなりやすい、ゲート電極106におけるドレイン電極側の端部からゲート電極106とドレイン電極107との中間部までを覆う金属又は半導体からなる導電膜により構成している。なお、フィールドプレート109は、
図1のようにゲート電極106と導通させてもよく、またソース電極105と導通させてもよい。
【0041】
以下、前記のように構成された電界効果トランジスタFET100の製造方法の一例を説明する。
【0042】
図1に示すように、例えば、有機金属気相堆積(MOCVD)法により、主面の面方位が(111)面であるp型シリコンからなる基板101の主面上に、第1バッファ層102aから第2の半導体層104までをエピタキシャル成長により順次成膜する。
【0043】
ここで、III族原料には、トリメチルガリウム(TMG)、トリエチルガリウム(TAG)及びトリメチルアルミニウム(TMA)を用いる。V族原料(窒素原料)には、アンモニア(NH
3)を用い、キャリアガスには水素(H
2)又は窒素(N
2)を用いる。
【0044】
第1バッファ層102aは、厚さが約200nmのAlNを用い、第2バッファ層102bは、厚さが5nmのAl
0.2Ga
0.8Nと厚さが20nmのGaNとを積層した超格子を50対とし、総膜厚を1.25μmとする。第3バッファ層102cは、厚さが約1μmのGaNを用いる。各バッファ層102a〜102cの成膜温度は1100℃としている。二次イオン質量分析計(Secondary Ion Mass Spectroscopy:SIMS)による元素分析によると、各バッファ層102a〜102cの炭素濃度は、1×10
18cm
−3〜5×10
19cm
−3である。
【0045】
次に、第3バッファ層102cの上に、GaNからなる第1の半導体103を成膜し、続いて、第1の半導体103の上に、厚さが約50nmのAl
0.2Ga
0.8Nからなる第2の半導体層104を成膜する。第1の半導体層103における炭素濃度は、成膜温度、原料におけるV族/III族比の値、及び圧力をいずれも高く設定すると、各半導体層103、104における炭素濃度を下げることができる。
【0046】
次に、第2の半導体層104の上に、マグネシウム(Mg)をドープしたp型GaN層110を成膜する。その後、リソグラフィ法及びエッチング法により、p型GaN層110に対して所定のパターニングを行う。
【0047】
次に、第2の半導体層104におけるp型GaN層110の両側方の領域に、電子ビーム(EB)蒸着法及び公知の微細加工技術によって、Ti/Alの積層膜からなるソース電極105及びドレイン電極107を形成する。その後、EB蒸着法及び公知の微細加工技術により、p型GaN層110の上に、Pd/Auからなるゲート電極106形成する。なお、ソース電極105及びドレイン電極107とゲート電極106との形成順序は特に問われない。
【0048】
次に、熱CVD法により、ソース電極105、ドレイン電極107及びゲート電極106を含む第2の半導体層104の上に、厚さが100nmの窒化シリコンからなる絶縁膜108を成膜する。その後、リソグラフィ法及びエッチング法により、成膜した絶縁膜108におけるソース電極105、ドレイン電極107及びゲート電極106の上側部分に、コンタクト形成用の開口部を形成する。続いて、真空蒸着法等により、絶縁膜108上におけるゲート電極106の上側の開口部からドレイン電極107側に延びる、Ti/Auからなるフィールドプレート109を形成する。
【0049】
以上のようにして作製された本実施形態に係る電界効果トランジスタFET100に対して、本願発明者らは、スイッチング動作時の電流コラプスを、印加電圧及び温度を変えて評価し、スイッチング動作時の電流コラプスを改善できる構成を鋭意検討した。
【0050】
電流コラプスは、結晶欠陥又は不純物からなる電荷トラップに捕捉された電子が、2次元電子ガス(2DEG)の形成を妨げることによって生じる。窒化ガリウム(GaN)中の炭素(C)は、エネルギー準位が深いトラップを形成し、GaN中の電子を捕捉して高抵抗化することができものの、一方で電流コラプスの原因となる。従って、低炭素濃度層(第1の半導体層103)は電流コラプスを抑えるために有効ではあるものの、オフ電圧(ドレインソース間電圧)に起因して、その厚さを適性化しないと電流コラプスが解消できないという知見を得ている。
【0051】
図2に評価に用いた評価系(測定回路)を示す。
図2に示すように、FET100のドレイン端子には、負荷抵抗R
dが直列に接続されており、測定回路の全体に駆動電圧V
ddが印加される。測定回路は、例えばFET100に照明装置を直列に接続し、FET100のデューティ比を制御して該照明装置の照度を制御する場合の電気回路に対応する。
【0052】
すなわち、FET100のゲートソース間電圧V
GSを制御して、FET100をオン状態とオフ状態との間でスイッチングし、ドレイン端子の電圧V
d及び電流値I
dを電流プローブによって読み取る。これにより、FET100におけるオン抵抗R
on=V
d/I
dの関係から、オン抵抗R
onを決定することができる。FET100を所定の時間、例えば150秒間だけオフ状態とした後、オン状態にスイッチし、その直後から100μs後のオン抵抗を測定する。駆動電圧V
ddを5V程度の低電圧から徐々に増加させながら、オン抵抗を繰り返し測定する。駆動電圧V
ddが極めて低い場合は、電流コラプスはほとんど発生しないため、駆動電圧V
dd=5Vのときのオン抵抗を緩和状態のオン抵抗R
on0とし、該オン抵抗R
on0で、比較的に高い駆動電圧V
ddにおけるR
onを除した比であるR
on/R
on0の値をRon比として、電流コラプス値の指標とする。従って、R
on比の値が1に近いと、電流コラプスは小さく、また、R
on比の値が1よりも大きくなるほど、電流コラプスが大きいことになる。
【0053】
図3は、
図1に示すFET100の構成において、低炭素濃度層である第1の半導体層103の厚さd2を4通りに変えて作製した複数のFETについて、125℃の温度下で、駆動電圧V
ddを横軸に取り、R
on比の対数値を縦軸に取った特性図である。
【0054】
図3において、符号301に示す曲線は、第1の半導体層103の厚さd2を0.6μmとし、第1の半導体層103における炭素濃度を2×10
17cm
−3とやや大きくした場合を示す。この場合のR
on比は、低電圧からほぼ直線的に増加する。これに対し、いずれも炭素濃度が1×10
17cm
−3未満、例えば10
16cm
−3台であって、符号302に示す厚さd2が0.5μmの曲線、符号303に示す厚さが0.75μmの曲線、及び符号304に示す厚さd2が1.0μmの曲線においては、それぞれの閾値電圧V
th以下では、電流コラプスが非常に小さいものの、閾値電圧V
th以上では電流コラプスが急増する。また、閾値電圧V
thは、第1の半導体層103の厚さd2が大きいほど増大していることが分かる。なお、閾値電圧V
thの値は、厚さd2=0.5μm、0.75μm、及び1.0μmにおいて、それぞれ225V、280V及び330Vである。ここで、炭素濃度は2次イオン質量分析計(SIMS)で測定しており、10
16cm
−3台半ばが測定限界である。従って、測定限界に近い1×10
17cm
−3未満の低炭素濃度層が、第1の半導体
層103と第2の半導体層104の境界面から下側に設けられている場合に、曲線302から304に示すように、高電圧まで電流コラプスが低くなり、閾値的な電圧依存が見られる。
【0055】
本願発明者らは、上記の現象の原因を、FET素子の内部における電界強度分布を数値計算することにより考察した。その結果を
図4(a)及び
図4(b)に示す。ここで、一例として、
図4(a)は駆動電圧V
ddが160Vの場合のFET素子の電界強度分布を示し、
図4(b)は駆動電圧V
ddが400Vの場合のFET素子の電界強度分布を示す。なお、
図4(a)及び
図4(b)には、電界強度の数値(単位:V/m)を参考に付している。
図4(a)と
図4(b)とを比べると、電界強度を示す等高線が共に変化しているものの、フィールドプレート109の右側(ドレイン電極107側)の端部付近の電界強度の変化が大きいことが分かる。
【0056】
図5は、
図4(b)に示すフィールドプレート109の右側の端部から0.2μmだけ離れた部位(一転鎖線A)における断面の電界強度を、駆動電圧V
ddを変化させて得たグラフである。
図5において、横軸に第2の半導体層104の表面を0μmとして深さY(μm)を取り、縦軸に電界強度(V/cm)の対数表記を取り、各曲線上に駆動電圧V
ddの値を記している。
図5から分かるように、第2の半導体層104の深い領域においては電界強度の変化は小さく、逆に、第2の半導体層104の表面に近い領域においては、その表面に近付く程、電界強度が急激に高くなる。
【0057】
図5のグラフ中に、
図3において電流コラプスが急増する駆動電圧V
dd(=閾値電圧V
th)に対応する曲線上で、且つ横軸が第1の半導体層103の厚さd2とそれぞれ一致する点を菱形の点302、303及び304としてプロットしている。すなわち、各菱形の点302、303及び304は、電流コラプスが急増する駆動電圧V
ddを印加したときの、第1の半導体層103と第3バッファ層102cとの界面での電界強度を表している。従って、
図5からは、第1の半導体層103と第3バッファ層102cとの界面での電界強度が0.8×10
6V/cm〜1×10
6V/cmを超えるときに、電流コラプスが急増していることが分かる。この電界強度は、GaNの衝突イオン化係数(電子の単位距離走行により何個の電子正孔対を生成するかを示す係数)が増大し、アバランシェ破壊によるリーク電流が発生し始める電界強度と一致している(例えば、上記の非特許文献1を参照。)。
【0058】
このことから、オフ電圧が高くなると電流コラプスが急増する原因は、オフ電圧の増大に伴って、強電界が深い層に拡がり、衝突イオン化により電荷が発生するものの、炭素濃度が5×10
16cm
−3以下の低炭素濃度層である第1の半導体層103においては電流コラプスはほとんど劣化(悪化)せず、強電界が炭素濃度が高い第3バッファ層102cに達することにより、電流コラプスが急増すると考えられる。逆にいえば、電流コラプスを実用上問題がない程度にまで抑制するには、炭素濃度が高いバッファ層、ここでは、第3バッファ層102cにおける、特にゲート電極106のドレイン電極107側の端部又はフィールドプレート109のドレイン電極107側の端部に印加される電界強度を、10
5V/cm台の前半、すなわち、5×10
5V/cm以下に抑えれば、電流コラプスを抑制することができる。
【0059】
第3バッファ層102cに印加される電界強度を抑えるには、第1の半導体層103の厚さd2を大きくして、該第3バッファ層102cを第1の半導体層103と第2の半導体層104との界面から遠ざけるとよい。または、各バッファ層102a〜102c、第1の半導体層103及び第2の半導体層104を含む半導体層の総膜厚d1を大きくしてもよい。
【0060】
図6に、閾値電圧V
thがそれぞれ異なる複数のFET素子を温度125℃に加熱して、電流コラプスが急増する閾値電圧V
thを横軸に取り、該閾値電圧V
thをd1とd2との積で除したα=V
th/(d1・d2)を縦軸にプロットした散布図を示す。具体的には、同一工程で作製した複数のサンプルの、炭素濃度が1×10
17cm
−3未満の低炭素濃度層の厚さd2と半導体層の総膜厚d1とを、二次イオン質量分析計(SIMS)及び断面走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)を用いて測定する。さらに、
図2に示した評価系により、各サンプルの温度を125℃に設定して電流コラプスをそれぞれ測定し、該電流コラプスが急増する電圧を閾値電圧V
thとしてプロットしたグラフである。
【0061】
図6に示すように、αは平均値110を中心にして、ややばらつきはあるものの、閾値電圧V
thに依存することなく一定の値を取る。すなわち、閾値電圧V
thはd1・d2の積に比例する。閾値電圧V
th以下の電圧範囲では電流コラプスは小さいため、動作耐圧V
mに対して、V
m<V
th≦α×(d1・d2)の範囲にd1、d2を作製すれば、電流コラプスは実用上問題がない程度に抑制することができる。なお、
図6は、使用温度が125℃の場合を想定しているが、使用温度が変わると、電流コラプスが急増する閾値電圧V
thも変わる。例えば、温度が25℃の場合には、閾値電圧V
thは温度が125℃の場合の1.45倍となり、また、温度が50℃の場合には、閾値電圧V
thは温度が125℃の場合の1.25倍となる。従って、使用温度が125℃の高温でも安定した動作可能なFETの条件式として、(式2)を満たせばよい。
【0062】
V
m≦110×(d1・d2) …(式2)
図7は、横軸に半導体層の総膜厚d1を取り、縦軸に低炭素濃度層である第1の半導体層103の厚さd2を取り、異なる動作耐圧V
mに対して(式2)を描いた相関図である。
図7において、動作耐圧V
mがそれぞれ200V、400V、600V及び800Vのときの境界が双曲線401〜404となる。総膜厚d1及び厚さd2が共に厚い方が電流コラプスは軽減されるが、総膜厚d1には、基板101又は半導体の膜構成等に応じて、反りやクラックが発生する臨界膜厚があり、該臨界膜厚よりもやや薄く、安定した成膜が可能な膜厚が総膜厚d1の上限となる。例えば、
図7において、総膜厚d1が3.5μmであるとの場合、動作耐圧V
m=400Vの場合に、電流コラプスを抑制できる低炭素濃度層の厚さd2の下限値は約1.04μmである。また、動作耐圧V
mが200Vの場合でも、低炭素濃度層の厚さd2は0.5μm以上が必要である。この値は、従来例に示した、オン電圧で掃引した場合の電流コラプスが低炭素濃度層の厚さd2を0.05μm以上とすれば問題がなくなるというのとは、その桁が異なっている。これは、従来例においては、オン状態のときに、2DEGがソースとドレインとの間の全体に存在しており、強い電界が深い層へ拡がることがないためと考えられる。これに対し、本発明が課題とするスイッチング時の電流コラプスとは発生のメカニズムが異なっており、別の課題といえる。
【0063】
前述したように、低炭素濃度層は成膜レートが遅く、半導体層が厚いとリークが増えやすいため、低炭素濃度層の厚さd2はなるべく薄くした方が好ましい。従って、動作耐圧V
mの範囲で電流コラプスを抑制できる低炭素濃度層の厚さd2は、(式2)の下限値に、マージンを0.5μmだけ見込んで、(式3)の範囲とするのが良い。
【0064】
V
m/(110・d1)≦d2<V
m/(110・d1)+0.5 …(式3)
動作耐圧V
mが非常に大きくなると、(式3)から低炭素濃度層の厚さd2が大きくなるが、
図1の構成のように、低炭素濃度層である第1の半導体層103の厚さd2が均一な場合は、リーク電流が増える。
図4に示した電界強度分布から分かるように、強電界はゲート電極106とフィールドプレート109とのドレイン電極107側の端部に発生し、他の領域の電界強度は弱い。フィールドプレート109を設けている場合は、ゲート端の電界強度は一定値で飽和し、電界強度が0.5×10
6V/cm以上となるのは半導体層の表面からの深さが0.5μm程度までである。一方、フィールドプレート109のドレイン電極107側の端部の近傍の電界強度は、駆動電圧V
ddが高くなればなるほど深い層に拡がる。従って、低炭素濃度層である第1の半導体層103におけるフィールドプレート109のドレイン電極107側の端部の近傍、及びゲート電極106のドレイン電極107側の端部の近傍を厚くすれば、電流コラプスは抑制できる。さらに、第1の半導体層103における他の領域で、電界強度が弱い部分の厚さd2を小さくすれば、リーク電流を抑制することが可能となる。
【0065】
以下に、低炭素濃度層である第1の半導体層103の厚さを不均一とし、特にフィールドプレート109におけるドレイン電極107側の端部の下側部分の厚さを大きくする第1変形例、及びゲート電極106におけるソース電極105側の一部に高抵抗化領域を形成する第2変形例を説明する。
【0066】
(一実施形態の第1変形例)
以下、本発明の一実施形態の第1変形例について
図8及び
図9を参照しながら説明する。以下の各変形例においては、上述の一実施形態と同一の構成部材には同一の符号を付している。
【0067】
図8に示すように、第1変形例に係るFET200は、低炭素濃度層である第1の半導体層103の構成を、ゲート電極106におけるドレイン電極107側の端部からフィールドプレート109におけるドレイン電極107側の端部の近傍までの領域にのみ、上記の(式3)を満たす厚さd2とし、他の領域の厚さd3をd2よりも薄く形成している。
【0068】
具体的には、ゲート電極106におけるドレイン電極107側の端部からフィールドプレート109におけるドレイン電極107側の端部の近傍までの領域を、第1の下部半導体層103Aと第1の上部半導体層103Bとにより構成し、他の領域を第1の下部半導体層103Aと同等の厚さを持ち、且つ炭素濃度が1×10
19cm
−3のGaNからなる第4バッファ層102dにより構成している。従って、第1の上部半導体層103Bの厚さはd3となる。
【0069】
ここで、動作耐圧V
mを400Vとし、各バッファ層102a〜102c、第1の下部半導体層103A、第1の上部半導体層103B及び第2の半導体層104を含むドレイン電極107までの半導体層の総膜厚d1を3.5μmとするなら、第1の下部半導体層103A及び第1の上部半導体層103Bの厚さd2は1.2μm程度となる。その上、第1の上部半導体層103Bの厚さd3を0.5μm〜0.1μmとすることにより、リーク電流を抑制することが可能となる。なお、第1の上部半導体層103Bは、2DEGが分布している層の厚さよりも薄くすると、オン抵抗の増大を招くため、第1の上部半導体層103Bの厚さd3は、0.1μm以上とすることが望ましい。
【0070】
以下、前記のように構成されたFET200の製造方法について
図9(a)〜
図9(c)を参照しながら説明する。
【0071】
まず、FET100の製造方法と同様に、MOCVD法等により、第1バッファ層102aから第3バッファ層102cまでをエピタキシャル成長により形成する。
【0072】
次に、
図9(a)に示すように、第3バッファ層102cの上に、強電界が印加されるゲート電極のドレイン電極側の端部からフィールドプレートのドレイン電極側の端部の近傍に跨る領域に、例えば酸化シリコン(SiO
2)からなるマスク膜150を選択的に形成する。続いて、再度、MOCVD法等により、マスク膜150が形成された第3バッファ層102cの上に、厚さが1μmで炭素濃度が1×10
19cm
−3程度のGaNからなる第4バッファ層102dを成長する。これにより、第3バッファ層102c上におけるマスク膜150を除く領域に第4バッファ層102dが自己整合的に形成される。
【0073】
次に、
図9(b)に示すように、マスク膜150をフッ酸(HF)等の水溶液で除去する。その後、第1の下部半導体層103Aを、横方向(基板101の主面に平行な方向)に成長する条件、例えばV族原料としてジメチルヒドラジンを用いて成膜する。このとき、第1の下部半導体層103Aは、C軸方向(主面に垂直な方向)には成長せず、C面内で横方向に成長する。これにより、第4バッファ層102dの凹部を低炭素濃度層である第1の下部半導体層103Aによって埋めることができる。
【0074】
次に、
図9(c)に示すように、V族原料をトリメチルガリウムに戻して、第4バッファ層102d及び第1の下部半導体層103Aの上に、厚さが0.3μmの低炭素濃度層である第1の上部半導体103Bを成膜する。ここで、後工程でフィールドプレートが形成される領域に成膜された、第1の下部半導体層103Aと第1の上部半導体103Bとを合わせた厚さd2は1.3μmであり、フィールドプレートが形成される領域を除く部分の低炭素濃度層の厚さは、第1の上部半導体103Bのみの0.3μmである。
【0075】
その後は、一実施形態と同様の工程によって、
図8に示すFET200を作製する。
【0076】
第1変形例に係るFET200は、半導体層の総膜厚d1が約3.8μmであり、低炭素濃度層である第1の下部半導体層103Aと第1の上部半導体103Bとを合わせた厚さd2は1.3μmである。この構成を持つFET200は、駆動電圧が500V強に達するまで、電流コラプスは3以下と小さくできる。また、リーク電流は、膜厚が1.3μmの均一な厚さを有する低炭素濃度層の場合と比べて、5分の1以下にまで低減できることを確認している。
【0077】
(一実施形態の第2変形例)
以下、本発明の一実施形態の第2変形例について
図10及び
図11を参照しながら説明する。
【0078】
図10に示すように、第2変形例に係るFET300において、厚さがd2の低炭素濃度層である第1の半導体層103は、第1の下部半導体層103Lとその上部に形成された、厚さがd3の第1の上部半導体層103Hとから構成されている。さらに、第1の下部半導体層103Lにおけるゲート電極106のソース電極105側の端部からソース電極105側の領域の一部に、鉄(Fe)、ホウ素(B)、マグネシウム(Mg)、亜鉛(Zn)又はルビジウム(Rb)等の、窒化ガリウム(GaN)を高抵抗化する不純物をドープした高抵抗領域120を設けている。
【0079】
低炭素濃度層が厚いと、ゲート電極106から離れた深い箇所がリークパスとなる。しかし、低炭素濃度層である第1の下部半導体層103Lに設けた高抵抗領域120は、電子トラップとなる不純物を多く含むため、リークを抑えることができる。なお、第1の下部半導体層103Lにおけるゲート電極106のドレイン電極107側の端部は強電界が印加されるため、電界が弱いゲート電極106の中央部よりもソース電極105側の深い部分に、
図8の第1変形例と同様に(式3)におけるd2よりも薄い厚さd3を持つ第1の上部半導体層103Hの下に、高抵抗領域120を設けるのがよい。
【0080】
以下、前記のように構成されたFET300の製造方法について
図11(a)〜
図11(c)を参照しながら説明する。
【0081】
まず、FET100の製造方法と同様に、MOCVD法等により、第1バッファ層102aから第3バッファ層102cまでをエピタキシャル成長により形成する。
【0082】
次に、
図11(a)に示すように、第3バッファ層102cの上に、厚さが1μmで炭素濃度が5×10
16cm
−3程度の低炭素濃度の第1の下部半導体層103Lを成長する。
【0083】
次に、
図11(b)に示すように、リソグラフィ法により、第1の下部半導体層103Lの上に、高抵抗領域を形成する領域に開口パターンを有するレジスト膜151を形成する。続いて、レジスト膜151を介して、第1の下部半導体層103Lに、例えばホウ素をイオン注入することにより、第1の下部半導体層103Lの所定の領域に高抵抗領域120が選択的に形成される。
【0084】
次に、
図11(c)に示すように、レジスト膜151を除去した後、高抵抗領域120を含む第1の下部半導体層103Lの上に、厚さが0.3μmで低炭素濃度の第1の上部半導体層103Hを成長する。その後、第1の上部半導体層103Hの上に第2の半導体層104を成膜し、さらに、第2の半導体層104の上にp型GaN層110を選択的に形成する。その後、第2の半導体層104の上にソース電極105及びドレイン電極107を形成し、さらに、p型GaN層110の上にゲート電極106を形成する。
【0085】
その後は、一実施形態と同様の工程によって、
図10に示すFET300を作製する。
【0086】
第2変形例に係るFET300は、第1の下部半導体層103Lに設けた高抵抗領域120におけるゲート電極106側の端部が、ゲート電極106のソース電極105側の端部から0.5μmに位置しており、ゲート電極106と重なっている。また、高抵抗領域120におけるソース電極105側の端部は、ソース電極105とゲート電極106との中間位置にまで広がっている。また、注入されたホウ素は第3バッファ層102cにまで達している。
【0087】
このように、第2変形例に係るFET300は、半導体層の総膜厚d1が約3.8μmであり、低炭素濃度層である第1の下部半導体層103Lと第1の上部半導体103Hとを合わせた厚さd2は1.3μmである。この構成を持つFET300は、駆動電圧が500V強に達するまで、電流コラプスは3以下と小さくできる。また、リーク電流は、膜厚が1.3μmの均一な厚さを有する低炭素濃度層の場合と比べて、5分の1以下にまで低減できることを確認している。
【0088】
以上、本発明の一実施形態及びその変形例に係る電界効果トランジスタについて説明したが、本発明は、これらの実施形態に限定されない。すなわち、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で当業者が思いつく各種変形を施したものも本発明の範囲内に含まれる。
【0089】
例えば、上記の実施形態において、第1の半導体層103には、GaNを用いたが、GaNに限られず、少量のAl及びIn等を含んだAl
1−x−yGa
xIn
yN(0≦x≦1、0≦y≦1)系の半導体材料を用いてもよく、また、Al
1−x−yGa
xIn
yN(0≦x≦1、0≦y≦1)とGaN等の積層構造を用いてもよい。