特許第5649117号(P5649117)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5649117芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体及びその製造方法、並びにゴム組成物及びタイヤ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5649117
(24)【登録日】2014年11月21日
(45)【発行日】2015年1月7日
(54)【発明の名称】芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体及びその製造方法、並びにゴム組成物及びタイヤ
(51)【国際特許分類】
   C08F 236/10 20060101AFI20141211BHJP
   C08F 4/54 20060101ALI20141211BHJP
   C08L 9/06 20060101ALI20141211BHJP
   C08F 4/6192 20060101ALI20141211BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20141211BHJP
【FI】
   C08F236/10
   C08F4/54
   C08L9/06
   C08F4/6192
   B60C1/00 A
【請求項の数】13
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2010-515927(P2010-515927)
(86)(22)【出願日】2009年6月4日
(86)【国際出願番号】JP2009060291
(87)【国際公開番号】WO2009148140
(87)【国際公開日】20091210
【審査請求日】2012年5月30日
(31)【優先権主張番号】特願2008-147015(P2008-147015)
(32)【優先日】2008年6月4日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(73)【特許権者】
【識別番号】000004178
【氏名又は名称】JSR株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】独立行政法人理化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 和幸
(74)【代理人】
【識別番号】100136858
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 浩
(72)【発明者】
【氏名】中川 隆二
(72)【発明者】
【氏名】松下 純子
(72)【発明者】
【氏名】小澤 洋一
(72)【発明者】
【氏名】会田 昭二郎
(72)【発明者】
【氏名】オリビエ タルディフ
【審査官】 藤本 保
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−064313(JP,A)
【文献】 特開2002−069117(JP,A)
【文献】 特開2000−154210(JP,A)
【文献】 特開2006−137898(JP,A)
【文献】 特開2003−301073(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/129670(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F236/00−236/18
C08F212/00−212/36
C08F4/54
C08F4/60−4/70
C08L9/06
B60C1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I):
【化1】
(式中、Mは、ランタノイド元素、スカンジウム又はイットリウムを示し、Cpは、それぞれ独立して無置換もしくは置換インデニルを示し、R〜Rは、それぞれ独立して炭素数1〜3のアルキル基もしくは水素原子を示し、Lは、中性ルイス塩基を示し、wは、0〜3の整数を示す)で表されるメタロセン錯体、及び下記一般式(II):
【化2】
(式中、Mは、ランタノイド元素、スカンジウム又はイットリウムを示し、Cpは、それぞれ独立して無置換もしくは置換インデニルを示し、Xは、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシド基、チオラート基、アミド基、シリル基又は炭素数1〜20の炭化水素基を示し、Lは、中性ルイス塩基を示し、wは、0〜3の整数を示す)で表されるメタロセン錯体、並びに下記一般式(III):
【化3】
(式中、Mは、ランタノイド元素、スカンジウム又はイットリウムを示し、CpR’は、無置換もしくは置換シクロペンタジエニル、インデニル又はフルオレニルを示し、Xは、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシド基、チオラート基、アミド基、シリル基又は炭素数1〜20の炭化水素基を示し、Lは、中性ルイス塩基を示し、wは、0〜3の整数を示し、[B]は、非配位性アニオンを示す)で表されるハーフメタロセンカチオン錯体からなる群より選択される少なくとも1種類の錯体を含む重合触媒組成物の存在下、芳香族ビニル化合物及び共役ジエン化合物を付加重合して得られた、共役ジエン化合物部分のシス−1,4結合量が80%以上で、芳香族ビニル化合物部分の繰り返し単位のNMR測定でのブロック量が、全芳香族ビニル化合物部分の13%以下である芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体。
【請求項2】
ゲル浸透クロマトグラフィーで測定したポリスチレン換算数平均分子量が80,000以上であることを特徴とする請求項1に記載の芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体。
【請求項3】
結合芳香族ビニル化合物量が10質量%以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体。
【請求項4】
前記共役ジエン化合物部分のビニル結合量が10%以下であることを特徴とする請求項1に記載の芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体。
【請求項5】
芳香族ビニル化合物部分の繰り返し単位のNMR測定でのブロック量が、全芳香族ビニル化合物部分の10%以下であることを特徴とする請求項1に記載の芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体。
【請求項6】
DSC測定において、融点(Tm)を有することを特徴とする請求項1に記載の芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体。
【請求項7】
スチレン−ブタジエン共重合体であることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体。
【請求項8】
請求項1に記載の芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体を製造する芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体の製造方法であって、
下記一般式(I):
【化4】
(式中、Mは、ランタノイド元素、スカンジウム又はイットリウムを示し、Cpは、それぞれ独立して無置換もしくは置換インデニルを示し、R〜Rは、それぞれ独立して炭素数1〜3のアルキル基もしくは水素原子を示し、Lは、中性ルイス塩基を示し、wは、0〜3の整数を示す)で表されるメタロセン錯体、及び下記一般式(II):
【化5】
(式中、Mは、ランタノイド元素、スカンジウム又はイットリウムを示し、Cpは、それぞれ独立して無置換もしくは置換インデニルを示し、Xは、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシド基、チオラート基、アミド基、シリル基又は炭素数1〜20の炭化水素基を示し、Lは、中性ルイス塩基を示し、wは、0〜3の整数を示す)で表されるメタロセン錯体、並びに下記一般式(III):
【化6】
(式中、Mは、ランタノイド元素、スカンジウム又はイットリウムを示し、CpR’は、無置換もしくは置換シクロペンタジエニル、インデニル又はフルオレニルを示し、Xは、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシド基、チオラート基、アミド基、シリル基又は炭素数1〜20の炭化水素基を示し、Lは、中性ルイス塩基を示し、wは、0〜3の整数を示し、[B]は、非配位性アニオンを示す)で表されるハーフメタロセンカチオン錯体からなる群より選択される少なくとも1種類の錯体を含む重合触媒組成物の存在下、芳香族ビニル化合物及び共役ジエン化合物を付加重合させる工程を含むことを特徴とする芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体の製造方法。
【請求項9】
芳香族ビニル化合物及び共役ジエン化合物を重合して得られた芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体であって、
共役ジエン化合物部分のシス−1,4結合量が80%以上で、共役ジエン化合物部分のビニル結合量が5%以下で、芳香族ビニル化合物部分の繰り返し単位のNMR測定でのブロック量が全芳香族ビニル化合物部分の13%以下で、ゲル浸透クロマトグラフィーで測定したポリスチレン換算数平均分子量が80,000以上であることを特徴とする芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体。
【請求項10】
結合芳香族ビニル化合物量が10質量%以上であることを特徴とする請求項9に記載の芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体。
【請求項11】
請求項1〜7、請求項9、及び請求項10のいずれかに記載の芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体をゴム成分として用いたことを特徴とするゴム組成物。
【請求項12】
請求項11に記載のゴム組成物をタイヤ部材のいずれかに用いたことを特徴とするタイヤ。
【請求項13】
前記タイヤ部材がトレッドであることを特徴とする請求項12に記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体及びその製造方法、並びに該共重合体を用いたゴム組成物及びタイヤに関し、特にトレッドに用いることで、タイヤに優れた耐摩耗性及び耐ウェットスキッド性を付与することが可能な芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スチレン−ブタジエン共重合体等の芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体は、通常のアニオン系及びラジカル系重合開始剤等を用いた重合により合成され、その共役ジエン化合物部分の異性構造の一つである1,4構造は、トランス-1,4構造が一般に多く含まれる。また、該共役ジエン化合物部分の異性構造は、ビニル結合量以外の構造制御が困難であった。
【0003】
これに対し、共役ジエン化合物部分の立体規則性、例えば、シス-1,4構造の含有率を制御するため、配位子と金属原子とからなる金属触媒を用いて、芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体を生成させる手法が知られている(例えば、特許第3207502号公報、特開2006−137897号公報及び特許第3738315号公報参照)。しかしながら、該手法により得られる芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体は、芳香族ビニル化合物部分のブロック化や低分子量化等の問題を含む場合があった。
【発明の概要】
【0004】
ところで、本発明者らが検討したところ、共役ジエン化合物部分のシス-1,4結合量が高い芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体は、他のミクロ構造を多く含む芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体より、タイヤに耐摩耗性及び耐ウェットスキッド性を付与する傾向があることが分かった。
【0005】
そこで、本発明の目的は、上記従来技術の問題を解決し、タイヤに優れた耐摩耗性及び耐ウェットスキッド性を付与することが可能な芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体と、該芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体の製造方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、かかる芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体をゴム成分として用いたゴム組成物と、該ゴム組成物を用いたタイヤを提供することにある。
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、特定のメタロセン錯体を含む重合触媒組成物の存在下、芳香族ビニル化合物及び共役ジエン化合物を付加重合させることにより、共役ジエン化合物部分のシス-1,4結合量が80%以上の芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体が得られ、該芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体をゴム成分として用いたゴム組成物をタイヤに適用することで、耐摩耗性及び耐ウェットスキッド性を大幅に向上できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
即ち、本発明の第一の芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体は、下記一般式(I):
【化1】
(式中、Mは、ランタノイド元素、スカンジウム又はイットリウムを示し、Cpは、それぞれ独立して無置換もしくは置換インデニルを示し、R〜Rは、それぞれ独立して炭素数1〜3のアルキル基もしくは水素原子を示し、Lは、中性ルイス塩基を示し、wは、0〜3の整数を示す)で表されるメタロセン錯体、及び下記一般式(II):
【化2】
(式中、Mは、ランタノイド元素、スカンジウム又はイットリウムを示し、Cpは、それぞれ独立して無置換もしくは置換インデニルを示し、Xは、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシド基、チオラート基、アミド基、シリル基又は炭素数1〜20の炭化水素基を示し、Lは、中性ルイス塩基を示し、wは、0〜3の整数を示す)で表されるメタロセン錯体、並びに下記一般式(III):
【化3】
(式中、Mは、ランタノイド元素、スカンジウム又はイットリウムを示し、CpR’は、無置換もしくは置換シクロペンタジエニル、インデニル又はフルオレニルを示し、Xは、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシド基、チオラート基、アミド基、シリル基又は炭素数1〜20の炭化水素基を示し、Lは、中性ルイス塩基を示し、wは、0〜3の整数を示し、[B]は、非配位性アニオンを示す)で表されるハーフメタロセンカチオン錯体からなる群より選択される少なくとも1種類の錯体を含む重合触媒組成物の存在下、芳香族ビニル化合物及び共役ジエン化合物を付加重合して得られ、共役ジエン化合物部分のシス−1,4結合量が80%以上で、芳香族ビニル化合物部分の繰り返し単位のNMR測定でのブロック量が、全芳香族ビニル化合物部分の13%以下であることを特徴とする。
本発明の第一の芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体において、ゲル浸透クロマトグラフィーで測定したポリスチレン換算数平均分子量が80,000以上であることが好ましい。
本発明の第一の芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体において、結合芳香族ビニル化合物量が、10質量%以上であることが好ましい。
【0008】
ここで、メタロセン錯体は、一つ又は二つ以上のシクロペンタジエニル又はその誘導体が中心金属に結合した錯体化合物であり、特に、中心金属に結合したシクロペンタジエニル又はその誘導体が一つであるメタロセン錯体を、ハーフメタロセン錯体と称することがある。
【0009】
本発明の第一の芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体において、前記共役ジエン化合物部分のビニル結合量は10%以下であることが好ましい。
【0010】
本発明の第一の芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体において、芳香族ビニル化合物部分の繰り返し単位のNMR測定でのブロック量が、全芳香族ビニル化合物部分の10%以下であることが好ましい。
【0011】
本発明の第一の芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体は、DSC測定において、融点(Tm)を有することが好ましい。
【0012】
本発明の第一の芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体の好適例においては、スチレン−ブタジエン共重合体である。
【0013】
また、本発明の芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体の製造方法は、本発明の芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体を製造する芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体の製造方法であって、
下記一般式(I)
【化4】
(式中、Mは、ランタノイド元素、スカンジウム又はイットリウムを示し、Cpは、それぞれ独立して無置換もしくは置換インデニルを示し、R〜Rは、それぞれ独立して炭素数1〜3のアルキル基もしくは水素原子を示し、Lは、中性ルイス塩基を示し、wは、0〜3の整数を示す)で表されるメタロセン錯体、及び下記一般式(II)
【化5】
(式中、Mは、ランタノイド元素、スカンジウム又はイットリウムを示し、Cpは、それぞれ独立して無置換もしくは置換インデニルを示し、Xは、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシド基、チオラート基、アミド基、シリル基又は炭素数1〜20の炭化水素基を示し、Lは、中性ルイス塩基を示し、wは、0〜3の整数を示す)で表されるメタロセン錯体、並びに下記一般式(III)
【化6】
(式中、Mは、ランタノイド元素、スカンジウム又はイットリウムを示し、CpR’は、無置換もしくは置換シクロペンタジエニル、インデニル又はフルオレニルを示し、Xは、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシド基、チオラート基、アミド基、シリル基又は炭素数1〜20の炭化水素基を示し、Lは、中性ルイス塩基を示し、wは、0〜3の整数を示し、[B]は、非配位性アニオンを示す)で表されるハーフメタロセンカチオン錯体からなる群より選択される少なくとも1種類の錯体を含む重合触媒組成物の存在下、芳香族ビニル化合物及び共役ジエン化合物を付加重合させる工程を含むことを特徴とする。
【0014】
更に、本発明の第二の芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体は、芳香族ビニル化合物及び共役ジエン化合物を重合して得られた芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体であって、
共役ジエン化合物部分のシス−1,4結合量が80%以上で、共役ジエン化合物部分のビニル結合量が5%以下で、芳香族ビニル化合物部分の繰り返し単位のNMR測定でのブロック量が全芳香族ビニル化合物部分の13%以下で、ゲル浸透クロマトグラフィーで測定したポリスチレン換算数平均分子量が80,000以上であることを特徴とする。
本発明の第二の芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体において、結合芳香族ビニル化合物量が、10質量%以上であることが好ましい。
【0015】
また更に、本発明のゴム組成物は、上記の芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体をゴム成分として用いたことを特徴とし、本発明のタイヤは、該ゴム組成物をタイヤ部材、とりわけトレッドに用いたことを特徴とする。
【0016】
本発明によれば、特定のメタロセン錯体を含む重合触媒組成物の存在下、芳香族ビニル化合物及び共役ジエン化合物を付加重合することで、共役ジエン化合物部分のミクロ構造が80%以上のシス-1,4結合量を有し、タイヤに耐摩耗性及び耐ウェットスキッド性を付与することが可能な芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体と、該芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体の製造方法を提供することができる。また、該芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体を用いることで、耐摩耗性及び耐ウェットスキッド性に優れたゴム組成物及びタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明を詳細に説明する。本発明の芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体は、上記一般式(I)及び一般式(II)で表されるメタロセン錯体、並びに上記一般式(III)で表されるハーフメタロセンカチオン錯体からなる群より選択される少なくとも1種類の錯体を含む重合触媒組成物の存在下、芳香族ビニル化合物及び共役ジエン化合物を付加重合して得られ、共役ジエン化合物部分のシス-1,4結合量が80%以上であることを特徴とする。
【0018】
本発明の芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体は、共役ジエン化合物部分のシス-1,4結合量が非常に高く、該芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体をゴム成分として用いたゴム組成物は、アニオン重合することで得られた従来の芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体を用いたゴム組成物及び従来の芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体とシス-1,4結合量が高い共役ジエン化合物の単独重合体とをブレンドして用いたゴム組成物と比較して、耐ウェットスキッド性を高度に維持しながら、耐摩耗性を向上させることができる。この理由は、必ずしも明らかではないが、共役ジエン化合物部分のシス-1,4結合量に由来する結晶性により耐摩耗性の向上効果があるためだと思われる。ここで、上記共役ジエン化合物部分のシス-1,4結合量は、80%以上であることを要し、90%以上であることが好ましい。該共役ジエン化合物部分のシス-1,4結合量が80%未満では、シス連鎖が不十分のため、融点(Tm)は測定されず、耐摩耗性は低下する。なお、共役ジエン化合物部分のシス-1,4結合量は、1H-NMRスペクトル及び13C-NMRスペクトルの積分比より求めることができ、その具体的な手法は特開2004−27179号公報に開示されている。
【0019】
また、本発明の芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体は、共役ジエン化合物部分のビニル結合量が10%以下であることが好ましく、5%以下であることが更に好ましい。共役ジエン化合物部分のビニル結合量が10%を超えると、シス-1,4結合量が低下し、耐摩耗性の向上効果が十分に得られなくなる。
【0020】
上記芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体は、後で詳細に説明する重合触媒組成物を用いる以外は特に制限されず、例えば、通常の配位イオン重合触媒を用いる付加重合体の製造方法と同様にして、単量体である芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物との混合物を共重合して得ることができる。なお、重合方法としては、溶液重合法、懸濁重合法、液相塊状重合法、乳化重合法、気相重合法、固相重合法等の任意の方法を用いることができる。また、重合反応に溶媒を用いる場合、用いられる溶媒は重合反応において不活性であればよく、該溶媒の使用量は任意であるが、重合触媒組成物に含まれる錯体の濃度を0.1〜0.0001mol/lとする量であることが好ましい。ここで、芳香族ビニル化合物としては、スチレン、p-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、α-メチルスチレン、クロロメチルスチレン、ビニルトルエン等が挙げられ、これらの中でも、スチレンが好ましい。一方、共役ジエン化合物としては、1,3-ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチルブタジエン等が挙げられ、これらの中でも、1,3-ブタジエンが好ましい。従って、本発明の芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体としては、スチレン−ブタジエン共重合体が特に好ましい。
【0021】
本発明の芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体の合成に用いる重合触媒組成物は、上記一般式(I)及び式(II)で表されるメタロセン錯体、並びに上記一般式(III)で表されるハーフメタロセンカチオン錯体からなる群より選択される少なくとも一種の錯体を含むことを要し、更に、通常のメタロセン錯体を含む重合触媒組成物に含有される他の成分、例えば助触媒等を含むことが好ましい。
【0022】
上記一般式(I)及び式(II)で表されるメタロセン錯体において、式中のCpRは、無置換インデニル又は置換インデニルである。インデニル環を基本骨格とするCpRは、C97-XX又はC911-XXで示され得る。ここで、Xは0〜7又は0〜11の整数である。また、Rはそれぞれ独立してヒドロカルビル基又はメタロイド基であることが好ましい。ヒドロカルビル基の炭素数は1〜20であることが好ましく、1〜10であることが更に好ましく、1〜8であることが一層好ましい。該ヒドロカルビル基として、具体的には、メチル基、エチル基、フェニル基、ベンジル基等が好適に挙げられる。一方、メタロイド基のメタロイドの例としては、ゲルミルGe、スタニルSn、シリルSiが挙げられ、また、メタロイド基はヒドロカルビル基を有することが好ましく、メタロイド基が有するヒドロカルビル基は上記のヒドロカルビル基と同様である。該メタロイド基として、具体的には、トリメチルシリル基等が挙げられる。置換インデニルとして、具体的には、2-フェニルインデニル、2-メチルインデニル等が挙げられる。なお、一般式(I)及び式(II)における二つのCpRは、それぞれ互いに同一でも異なっていてもよい。
【0023】
上記一般式(III)で表されるハーフメタロセンカチオン錯体において、式中のCpR’は、無置換もしくは置換のシクロペンタジエニル、インデニル又はフルオレニルであり、これらの中でも、無置換もしくは置換のインデニルであることが好ましい。シクロペンタジエニル環を基本骨格とするCpR’は、C55-XXで示される。ここで、Xは0〜5の整数である。また、Rはそれぞれ独立してヒドロカルビル基;メタロイド基であることが好ましい。ヒドロカルビル基の炭素数は1〜20であることが好ましく、1〜10であることが更に好ましく、1〜8であることが一層好ましい。該ヒドロカルビル基として、具体的には、メチル基、エチル基、フェニル基、ベンジル基等が好適に挙げられる。一方、メタロイド基のメタロイドの例としては、ゲルミルGe、スタニルSn、シリルSiが挙げられ、また、メタロイド基はヒドロカルビル基を有することが好ましく、メタロイド基が有するヒドロカルビル基は上記のヒドロカルビル基と同様である。該メタロイド基として、具体的には、トリメチルシリル基等が挙げられる。シクロペンタジエニル環を基本骨格とするCpR’として、具体的には、以下のものが例示される。
(式中、Rは水素原子、メチル基又はエチル基を示す。)
【0024】
一般式(III)において、上記インデニル環を基本骨格とするCpR’は、一般式(I)のCpRと同様に定義され、好ましい例も同様である。
【0025】
一般式(III)において、上記フルオレニル環を基本骨格とするCpR’は、C139-XX又はC1317-XXで示され得る。ここで、Xは0〜9又は0〜17の整数である。また、Rはそれぞれ独立してヒドロカルビル基;メタロイド基であることが好ましい。ヒドロカルビル基の炭素数は1〜20であることが好ましく、1〜10であることが更に好ましく、1〜8であることが一層好ましい。該ヒドロカルビル基として、具体的には、メチル基、エチル基、フェニル基、ベンジル基等が好適に挙げられる。一方、メタロイド基のメタロイドの例としては、ゲルミルGe、スタニルSn、シリルSiが挙げられ、また、メタロイド基はヒドロカルビル基を有することが好ましく、メタロイド基が有するヒドロカルビル基は上記のヒドロカルビル基と同様である。該メタロイド基として、具体的には、トリメチルシリル基等が挙げられる。
【0026】
一般式(I)、式(II)及び式(III)における中心金属Mは、ランタノイド元素、スカンジウム又はイットリウムである。ランタノイド元素には、原子番号57〜71の15元素が含まれ、これらのいずれでもよい。中心金属Mとしては、サマリウムSm、ネオジムNd、プラセオジムPr、ガドリニウムGd、セリウムCe、ホルミウムHo、スカンジウムSc及びイットリウムYが好適に挙げられる。
【0027】
一般式(I)で表されるメタロセン錯体は、ビストリアルキルシリルアミド配位子[−N(SiR3)2]を含む。ビストリアルキルシリルアミドに含まれるアルキル基R(一般式(I)におけるRa〜Rf)は、それぞれ独立して炭素数1〜3のアルキル基であり、メチル基であることが好ましい。なお、Ra〜Rfは、アルキル基の他、水素原子であってもよい。
【0028】
一般式(II)で表されるメタロセン錯体は、シリル配位子[−SiX3]を含む。シリル配位子[−SiX3]に含まれるXは、下記で説明される一般式(III)のXと同様に定義される基であり、好ましい基も同様である。
【0029】
一般式(III)において、Xは水素原子、ハロゲン原子、アルコキシド基、チオラート基、アミド基、シリル基及び炭素数1〜20の炭化水素基からなる群より選択される基である。ここで、上記アルコキシド基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基等の脂肪族アルコキシ基;フェノキシ基、2,6-ジ-tert-ブチルフェノキシ基、2,6-ジイソプロピルフェノキシ基、2,6-ジネオペンチルフェノキシ基、2-tert-ブチル-6-イソプロピルフェノキシ基、2-tert-ブチル-6-ネオペンチルフェノキシ基、2-イソプロピル-6-ネオペンチルフェノキシ基等のアリールオキシド基が挙げられ、これらの中でも、2,6-ジ-tert-ブチルフェノキシ基が好ましい。
【0030】
一般式(III)において、Xが表すチオラート基としては、チオメトキシ基、チオエトキシ基、チオプロポキシ基、チオn-ブトキシ基、チオイソブトキシ基、チオsec-ブトキシ基、チオtert-ブトキシ基等の脂肪族チオラート基;チオフェノキシ基、2,6-ジ-tert-ブチルチオフェノキシ基、2,6-ジイソプロピルチオフェノキシ基、2,6-ジネオペンチルチオフェノキシ基、2-tert-ブチル-6-イソプロピルチオフェノキシ基、2-tert-ブチル-6-チオネオペンチルフェノキシ基、2-イソプロピル-6-チオネオペンチルフェノキシ基、2,4,6-トリイソプロピルチオフェノキシ基等のアリールチオラート基が挙げられ、これらの中でも、2,4,6-トリイソプロピルチオフェノキシ基が好ましい。
【0031】
一般式(III)において、Xが表すアミド基としては、ジメチルアミド基、ジエチルアミド基、ジイソプロピルアミド基等の脂肪族アミド基;フェニルアミド基、2,6-ジ-tert-ブチルフェニルアミド基、2,6-ジイソプロピルフェニルアミド基、2,6-ジネオペンチルフェニルアミド基、2-tert-ブチル-6-イソプロピルフェニルアミド基、2-tert-ブチル-6-ネオペンチルフェニルアミド基、2-イソプロピル-6-ネオペンチルフェニルアミド基、2,4,6-tert-ブチルフェニルアミド基等のアリールアミド基;ビストリメチルシリルアミド基等のビストリアルキルシリルアミド基が挙げられ、これらの中でも、ビストリメチルシリルアミド基が好ましい。
【0032】
一般式(III)において、Xが表すシリル基としては、トリメチルシリル基、トリス(トリメチルシリル)シリル基、ビス(トリメチルシリル)メチルシリル基、トリメチルシリル(ジメチル)シリル基、トリイソプロピルシリル(ビストリメチルシリル)シリル基等が挙げられ、これらの中でも、トリス(トリメチルシリル)シリル基が好ましい。
【0033】
一般式(III)において、Xが表すハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子のいずれでもよいが、塩素原子又は臭素原子が好ましい。また、Xが表す炭素数1〜20の炭化水素基として、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、オクチル基等の直鎖又は分枝鎖の脂肪族炭化水素基;フェニル基、トリル基、ナフチル基等の芳香族炭化水素基;ベンジル基等のアラルキル基等の他;トリメチルシリルメチル基、ビストリメチルシリルメチル基等のケイ素原子を含有する炭化水素基等が挙げられ、これらの中でも、メチル基、エチル基、イソブチル基、トリメチルシリルメチル基等が好ましい。
【0034】
一般式(III)において、Xとしては、ビストリメチルシリルアミド基又は炭素数1〜20の炭化水素基が好ましい。
【0035】
一般式(III)において、[B]で示される非配位性アニオンとしては、例えば、4価のホウ素アニオンが挙げられる。該4価のホウ素アニオンとして、具体的には、テトラフェニルボレート、テトラキス(モノフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(ジフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(トリフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(テトラフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(テトラフルオロメチルフェニル)ボレート、テトラ(トリル)ボレート、テトラ(キシリル)ボレート、(トリフェニル,ペンタフルオロフェニル)ボレート、[トリス(ペンタフルオロフェニル),フェニル]ボレート、トリデカハイドライド-7,8-ジカルバウンデカボレート等が挙げられ、これらの中でも、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートが好ましい。
【0036】
上記一般式(I)及び式(II)で表されるメタロセン錯体、並びに上記一般式(III)で表されるハーフメタロセンカチオン錯体は、更に0〜3個、好ましくは0〜1個の中性ルイス塩基Lを含む。ここで、中性ルイス塩基Lとしては、例えば、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジメチルアニリン、トリメチルホスフィン、塩化リチウム、中性のオレフィン類、中性のジオレフィン類等が挙げられる。ここで、上記錯体が複数の中性ルイス塩基Lを含む場合、中性ルイス塩基Lは、同一であっても異なっていてもよい。
【0037】
また、上記一般式(I)及び式(II)で表されるメタロセン錯体、並びに上記一般式(III)で表されるハーフメタロセンカチオン錯体は、単量体として存在していてもよく、二量体又はそれ以上の多量体として存在していてもよい。
【0038】
上記一般式(I)で表されるメタロセン錯体は、例えば、溶媒中でランタノイドトリスハライド、スカンジウムトリスハライド又はイットリウムトリスハライドを、インデニルの塩(例えばカリウム塩やリチウム塩)及びビス(トリアルキルシリル)アミドの塩(例えばカリウム塩やリチウム塩)と反応させることで得ることができる。なお、反応温度は室温程度にすればよいので、温和な条件で製造することができる。また、反応時間は任意であるが、数時間〜数十時間程度である。反応溶媒は特に限定されないが、原料及び生成物を溶解する溶媒であることが好ましく、例えばトルエンを用いればよい。以下に、一般式(I)で表されるメタロセン錯体を得るための反応例を示す。
(式中、X’’はハライドを示す。)
【0039】
上記一般式(II)で表されるメタロセン錯体は、例えば、溶媒中でランタノイドトリスハライド、スカンジウムトリスハライド又はイットリウムトリスハライドを、インデニルの塩(例えばカリウム塩やリチウム塩)及びシリルの塩(例えばカリウム塩やリチウム塩)と反応させることで得ることができる。なお、反応温度は室温程度にすればよいので、温和な条件で製造することができる。また、反応時間は任意であるが、数時間〜数十時間程度である。反応溶媒は特に限定されないが、原料及び生成物を溶解する溶媒であることが好ましく、例えばトルエンを用いればよい。以下に、一般式(II)で表されるメタロセン錯体を得るための反応例を示す。
(式中、X’’はハライドを示す。)
【0040】
上記一般式(III)で表されるハーフメタロセンカチオン錯体は、例えば、次の反応により得ることができる。
【0041】
ここで、一般式(IV)で表される化合物において、Mは、ランタノイド元素、スカンジウム又はイットリウムを示し、CpR’は、それぞれ独立して無置換もしくは置換シクロペンタジエニル、インデニル又はフルオレニルを示し、Xは、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシド基、チオラート基、アミド基、シリル基又は炭素数1〜20の炭化水素基を示し、Lは、中性ルイス塩基を示し、wは、0〜3の整数を示す。また、一般式[A][B]で表されるイオン性化合物において、[A]は、カチオンを示し、[B]は、非配位性アニオンを示す。
【0042】
[A]で表されるカチオンとしては、例えば、カルボニウムカチオン、オキソニウムカチオン、アミンカチオン、ホスホニウムカチオン、シクロヘプタトリエニルカチオン、遷移金属を有するフェロセニウムカチオン等が挙げられる。カルボニウムカチオンとしては、トリフェニルカルボニウムカチオン、トリ(置換フェニル)カルボニウムカチオン等の三置換カルボニウムカチオン等が挙げられ、トリ(置換フェニル)カルボニルカチオンとして、具体的には、トリ(メチルフェニル)カルボニウムカチオン等が挙げられる。アミンカチオンとしては、トリメチルアンモニウムカチオン、トリエチルアンモニウムカチオン、トリプロピルアンモニウムカチオン、トリブチルアンモニウムカチオン等のトリアルキルアンモニウムカチオン;N,N-ジメチルアニリニウムカチオン、N,N-ジエチルアニリニウムカチオン、N,N-2,4,6-ペンタメチルアニリニウムカチオン等のN,N-ジアルキルアニリニウムカチオン;ジイソプロピルアンモニウムカチオン、ジシクロヘキシルアンモニウムカチオン等のジアルキルアンモニウムカチオン等が挙げられる。ホスホニウムカチオンとしては、トリフェニルホスホニウムカチオン、トリ(メチルフェニル)ホスホニウムカチオン、トリ(ジメチルフェニル)ホスホニウムカチオン等のトリアリールホスホニウムカチオン等が挙げられる。これらカチオンの中でも、N,N-ジアルキルアニリニウムカチオン又はカルボニウムカチオンが好ましく、N,N-ジアルキルアニリニウムカチオンが特に好ましい。
【0043】
上記反応に用いる一般式[A][B]で表されるイオン性化合物としては、上記の非配位性アニオン及びカチオンからそれぞれ選択し組み合わせた化合物であって、N,N-ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリフェニルカルボニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート等が好ましい。また、一般式[A][B]で表されるイオン性化合物は、メタロセン錯体に対して0.1〜10倍モル加えることが好ましく、約1倍モル加えることが更に好ましい。なお、一般式(III)で表されるハーフメタロセンカチオン錯体を重合反応に用いる場合、一般式(III)で表されるハーフメタロセンカチオン錯体をそのまま重合反応系中に提供してもよいし、上記反応に用いる一般式(IV)で表される化合物と一般式[A][B]で表されるイオン性化合物を別個に重合反応系中に提供し、反応系中で一般式(III)で表されるハーフメタロセンカチオン錯体を形成させてもよい。また、一般式(I)又は式(II)で表されるメタロセン錯体と一般式[A][B]で表されるイオン性化合物とを組み合わせて使用することにより、反応系中で一般式(III)で表されるハーフメタロセンカチオン錯体を形成させることもできる。
【0044】
一般式(I)及び式(II)で表されるメタロセン錯体、並びに上記一般式(III)で表されるハーフメタロセンカチオン錯体の構造は、X線構造解析により決定することが好ましい。
【0045】
上記重合触媒組成物に用いることができる助触媒は、通常のメタロセン錯体を含む重合触媒組成物の助触媒として用いられる成分から任意に選択され得る。該助触媒としては、例えば、アルミノキサン、有機アルミニウム化合物、上記のイオン性化合物等が好適に挙げられる。これら助触媒は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
上記アルミノキサンとしては、アルキルアルミノキサンが好ましく、例えば、メチルアルミノキサン(MAO)、修飾メチルアルミノキサン等が挙げられる。また、修飾メチルアルミノキサンとしては、MMAO−3A(東ソーファインケム社製)等が好ましい。なお、上記重合触媒組成物におけるアルミノキサンの含有量は、メタロセン錯体の中心金属Mと、アルミノキサンのアルミニウム元素Alとの元素比率Al/Mが、10〜1000程度、好ましくは100程度となるようにすることが好ましい。
【0047】
一方、上記有機アルミニウム化合物としては、例えば、トリアルキルアルミニウム、ジアルキルアルミニウムクロライド、アルキルアルミニウムジクロライド、ジアルキルアルミニウムハイドライド等が挙げられ、これらの中でも、トリアルキルアルミニウムが好ましい。また、トリアルキルアルミニウムとしては、例えば、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム等が挙げられる。なお、上記重合触媒組成物における有機アルミニウム化合物の含有量は、メタロセン錯体に対して1〜50倍モルであることが好ましく、約10倍モルであることが更に好ましい。
【0048】
更に、上記重合触媒組成物においては、一般式(I)及び式(II)で表されるメタロセン錯体、並びに上記一般式(III)で表されるハーフメタロセンカチオン錯体をそれぞれ、適切な助触媒と組み合わせることで、シス-1,4結合量や得られる共重合体の分子量を増大できる。
【0049】
本発明の芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体の製造方法は、上記一般式(I)及び一般式(II)で表されるメタロセン錯体、並びに上記一般式(III)で表されるハーフメタロセンカチオン錯体からなる群より選択される少なくとも1種類の錯体を含む重合触媒組成物の存在下、芳香族ビニル化合物及び共役ジエン化合物を付加重合させる工程を含むことを特徴とする。また、本発明の製造方法は、重合触媒として上述した重合触媒組成物を用いること以外は、従来の配位イオン重合触媒を用いる付加重合反応による付加重合体の製造方法と同様とすることができる。ここで、本発明の製造方法は、例えば、(1)単量体として芳香族ビニル化合物及び共役ジエン化合物を含む重合反応系中に、重合触媒組成物の構成成分を別個に提供し、該反応系中において重合触媒組成物としてもよいし、(2)予め調製された重合触媒組成物を重合反応系中に提供してもよい。また、(2)においては、助触媒によって活性化されたメタロセン錯体(活性種)を提供することも含まれる。なお、重合触媒組成物に含まれるメタロセン錯体の使用量は、単量体に対して1/10000〜1/100倍モルの範囲が好ましい。
【0050】
また、得られる本発明の共重合体の数平均分子量(Mn)は、特に限定されず、低分子量化の問題が起きることもない。なお、本発明の芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物重合体は、ゲル浸透クロマトグラフィーで測定したポリスチレン換算数平均分子量が80,000以上であることが好ましい。更に、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比で表される分子量分布(Mw/Mn)は、3以下が好ましく、2以下が更に好ましい。ここで、平均分子量及び分子量分布は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりポリスチレンを標準物質として求めることができる。
【0051】
また、上記付加重合反応は、不活性ガス、好ましくは窒素ガスやアルゴンガスの雰囲気下において行われることが好ましい。
【0052】
上記付加重合反応の重合温度は、特に制限されないが、例えば−100℃〜200℃の範囲が好ましく、室温程度とすることもできる。なお、重合温度を上げると、重合反応のシス-1,4選択性が低下することがある。一方、上記付加重合反応の反応時間も特に制限されず、例えば1秒〜10日の範囲が好ましいが、重合される単量体の種類、触媒の種類、重合温度等の条件によって適宜選択することができる。
【0053】
また、本発明の芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体は、芳香族ビニル化合物部分の繰り返し単位のNMR測定でのブロック量が、全芳香族ビニル化合物部分の13%以下であることが好ましく、10%以下であることが更に好ましく、7%以下であることが一層好ましく、0%であることが特に好ましい。上記重合触媒組成物を用いて得られる本発明の共重合体は、芳香族ビニル化合物がランダムに重合する傾向があり、芳香族ビニル化合物のブロック化を抑制することができる。ここで、ランダムとは、芳香族ビニル化合物部分の繰り返し単位のNMR測定でのブロック量(以下、ブロック芳香族ビニル化合物含有率と称することがある)が、全芳香族ビニル化合物部分の10%以下であることをいい、ブロックとは、芳香族ビニル化合物−芳香族ビニル化合物の結合を有する芳香族ビニル化合物部分を指す。上記ブロック芳香族ビニル化合物含有率が13%を超えると、芳香族ビニル化合物の単独重合体としての挙動が現われ、ガラス転移温度が上昇し、耐摩耗性が低下する場合がある。なお、ブロック芳香族ビニル化合物含有率は、1H-NMRスペクトルの積分比より求めることができる。
【0054】
更に、本発明の芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体は、DSC測定(示差走査熱量測定)において、融点(Tm)を示す。ここで、DSC測定における融点(Tm)は、共役ジエン化合物部分の連鎖に由来する静的結晶の融点を指す。
【0055】
本発明のゴム組成物は、上記の芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体をゴム成分として用いたことを特徴とし、更に充填剤を含有することが好ましい。ここで、充填剤の配合量は、特に限定されるものではないが、上記芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体100質量部に対して10〜200質量部の範囲が好ましい。充填剤の配合量が10質量部未満では、充分な補強性が得られない場合があり、200質量部を超えると、加工性が悪化する場合がある。ここで、充填剤としては、カーボンブラック及びシリカが好ましい。なお、カーボンブラックとしては、GPF,FEF,SRF,HAF,ISAF,SAFグレードのものが好ましく、HAF,ISAF,SAFグレードのものが更に好ましい。一方、シリカとしては、湿式シリカ及び乾式シリカ等が好ましく、湿式シリカが更に好ましい。これら補強性の充填剤は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0056】
本発明のゴム組成物には、上記芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体、充填剤の他に、ゴム工業界で通常使用される配合剤、例えば、老化防止剤、軟化剤、シランカップリング剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、加硫剤等を、本発明の目的を害しない範囲内で適宜選択して配合することができる。これら配合剤としては、市販品を好適に使用することができる。本発明のゴム組成物は、芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体に、必要に応じて適宜選択した各種配合剤を配合して、混練り、熱入れ、押出等することにより製造することができる。
【0057】
本発明のタイヤは、上記ゴム組成物を用いたことを特徴とし、上記ゴム組成物をトレッドに用いることが好ましい。上記ゴム組成物をトレッドに用いたタイヤは、耐摩耗性及び耐ウェットスキッド性に優れる。なお、本発明のタイヤは、上述のゴム組成物をタイヤ部材のいずれかに用いる以外特に制限は無く、常法に従って製造することができる。また、該タイヤに充填する気体としては、通常の或いは酸素分圧を調整した空気の他、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを用いることができる。
【0058】
<<実施例>>
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0059】
まず、実施例1〜2において、共通して使用した一般式(III)で表されるハーフメタロセンカチオン錯体を合成し、その構造を1H-NMR及びX線結晶構造解析により確認した。なお、1H-NMRはTHF-d8を溶媒とし、室温で測定を行った。X線結晶構造解析は、RAXISCS(リガク)を用いて行った。
【0060】
<[(2-MeC96)GdN(SiMe3)2(THF)3][B(C65)4]の合成例>
窒素雰囲気下、(2-MeC96)2GdN(SiMe3)2(0.150g,0.260mmol)のTHF溶液5mLに、トリエチルアニリニウムテトラキスフェニルボレート(Et3NHB(C66)4)(0.110g,0.260mmol)を添加し室温で12時間攪拌した。その後、THFを減圧留去し、得られた残査をヘキサンで3回洗浄したところ、オイル状化合物を得た。その残査をTHF/ヘキサン混合溶媒で再結晶を行い、白色結晶として[(2-MeC96)GdN(SiMe3)2(THF)3][B(C65)4](150mg,59%)を得た。構造確認はX線結晶解析で行った。
【0061】
<Gd(N(SiHMe2)2)3(THF)2の合成例>
窒素雰囲気下、ストレム社製GdCl3(2.90g,11mmol)のTHF溶液100mLに、n-BuLiとNH(SiHMe2)2とから合成されるLiN(SiHMe2)2(4.18g,30mmol)を含むエーテル溶液15mLをゆっくり滴下し、室温で12時間攪拌した。その後、溶媒を減圧留去し、代わりにヘキサン100mLを加え、沈殿物をフィルターでろ過した。その後、ヘキサンをゆっくり減圧留去したところ、白色結晶のGd(N(SiHMe2)2)3(THF)2(4.60g,66%)を得た。構造決定は、得られた単結晶のX線結晶構造解析により行われた。なお、解析結果を以下に示す。
【0062】
<(2-PhC96)2GdN(SiHMe2)2の合成例>
窒素雰囲気下、Gd(N(SiHMe2)2)3(THF)2(2.79g,4mmol)とアルドリッチ社より販売される2-PhC97(2-フェニルインデン)(1.50g,7.8mmol)をトルエン60mlに溶解した後、120℃にて4時間攪拌した。その後、トルエンを減圧留去し、再度トルエン60mLを加え、120℃にて15時間攪拌した。その後、トルエンを減圧留去し、残留物をヘキサンで数回洗浄したところ、黄色固体である(2-PhC96)2GdN(SiHMe2)2(1.92g,73%)を得た。
【0063】
<(2-PhC96)2TbN(SiHMe2)2の合成例>
GdCl3に代えてTbCl3を用いた以外は、Gd(N(SiHMe2)2)3(THF)2の合成例と同様にして、Tb(N(SiHMe2)2)3(THF)2を得た。次いで、Gd(N(SiHMe2)2)3(THF)2に代えてTb(N(SiHMe2)2)3(THF)2を用いた以外は、(2-PhC96)2GdN(SiHMe2)2の合成例と同様にして、(2-PhC96)2TbN(SiHMe2)2(1.85g,70%)を得た。
【0064】
(実施例1)
窒素雰囲気下のグローブボックス中で、十分に乾燥した1L耐圧ガラスボトルに、スチレン104g(1mol)及びトルエン50gを添加し、ボトルを打栓した。その後、グローブボックスからボトルを取り出し、1,3-ブタジエンを54g(1mol)仕込み、モノマー溶液とした。一方、窒素雰囲気下のグローブボックス中で、ガラス製容器に、ビス(2-メチルインデニル)ガドリニウム(トリメチルシリルアミド)[(2-MeC96)2GdN(SiMe3)2]を40μmol、トリフェニルカルボニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート(Ph3CB(C65)4)を40μmol、ジイソブチルアルミニウムハライドを1mmol仕込み、トルエン10mlで溶解させ触媒溶液とした。その後、グローブボックスから触媒溶液を取り出し、モノマー溶液へ添加し、70℃で30分間重合を行った。重合後、2,6-ビス(t-ブチル)-4-メチルフェノール(BHT)の10質量%のメタノール溶液10mlを加えて反応を停止させ、さらに大量のメタノール/塩酸混合溶媒で重合体を分離させ、60℃で真空乾燥した。得られた重合体の収量は47gであった。
【0065】
(実施例2)
触媒溶液におけるジイソブチルアルミニウムハライドの使用量を0.8mmolとした以外は、実施例1と同様の方法で重合を行った。得られた重合体の収量は46gであった。
【0066】
(比較例4)
窒素雰囲気下のグローブボックス中で、十分に乾燥した30ml耐圧ガラスボトルに、ジメチルアルミニウム(μ-ジメチル)ビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)サマリウム[(Cp*)2Sm(μ-Me)2AlMe2](Cp*:ペンタメチルシクロペンタジエニル配位子)を0.03mmol仕込み、トルエン1mlに溶解した。ついで、トリイソブチルアルミニウム0.09mmol、トリフェニルカルボニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート(Ph3CB(C65)4)0.03mmolを添加してボトルを打栓した。その後、グローブボックスからボトルを取り出し、1,3-ブタジエンを0.49g、スチレンを2.4ml仕込み、50℃で12時間重合を行った。重合後、2,6-ビス(t-ブチル)-4-メチルフェノール(BHT)の10質量%のメタノール溶液10mlを加えて反応を停止し、さらに大量のメタノール/塩酸混合溶媒で重合体を分離して60℃で真空乾燥した。得られた重合体の収率は20質量%であった。
【0067】
(比較例5)
1,3-ブタジエンを0.65g、スチレンを2.0ml仕込み、50℃で6時間重合を行った以外は、比較例4と同様の方法で重合体を得た。得られた重合体の収率は20質量%であった。
【0068】
(比較例6)
撹拌機付き1.5L容量のオートクレーブを窒素置換し、溶剤としてトルエンを300ml、シクロペンタジエニルチタントリクロライド(CpTiCl3)を2.1mmol、メチルアルミノキサン(MAO)を210mmol、クロラニールを2.1mmol(CpTiCl3/クロラニール=1/1(モル比))投入し、1,3-ブタジエン37.5mlとスチレン37.5mlを添加して60℃で30分間重合を行った。重合開始10分後に、重合禁止剤であるp-t-ブチルカテコールを少量溶かしたメタノール溶液を重合溶液に添加し、重合反応を停止させた。この溶液からトルエンを除去することにより、重合体を得た。
【0069】
上記のようにして製造した実施例1〜2及び比較例1〜6の重合体について、数平均分子量(Mn)、分子量分布(Mw/Mn)、ミクロ構造、結合スチレン量、ブロックスチレン含有率、ガラス転移点(Tg)、融点(Tm)を下記の方法で測定した。結果を表1に示す。
【0070】
(1)数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー[GPC:東ソー製HLC−8020、カラム:東ソー製GMH−XL(2本直列)、検出器:示差屈折率計(RI)]で単分散ポリスチレンを基準として、各重合体のポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)を求めた。
【0071】
(2)ミクロ構造及び結合スチレン量
重合体のミクロ構造を1H-NMRスペクトル及び13C-NMRスペクトルの積分比より求め、重合体の結合スチレン量を1H-NMRスペクトルの積分比より求めた。なお、1H-NMR及び13C-NMRは1,1,2,2-テトラクロロエタンを溶媒とし、120℃で測定を行った。
【0072】
(3)ブロックスチレン含有率
スチレン部分の繰り返し単位のNMR測定でのブロック量(ブロックスチレン含有率)が全スチレン部分に占める割合を1H-NMRスペクトルの積分比より求めた。
【0073】
(4)ガラス転移点(Tg)(℃)及び融点(Tm)(℃)
サンプルを10mg±0.5mg秤量し、アルミニウム製の測定パンに入れ蓋をしたものを、DSC装置(TAインスツルメント社製)にて、室温から50℃まで加温し、10分間安定させた後、-80℃まで冷却し、-80℃で10分間安定させてから、10℃/minの昇温速度で50℃まで昇温しながらガラス転移点(Tg)及び融点(Tm)を測定した。
【0074】
なお、サンプルの詳細NMRデータから、特にスチレン−スチレン結合が確認されなかった。
【0075】
【0076】
*1 ポリブタジエン,旭化成工業社製,商品名:NF35.
*2 スチレン−ブタジエン共重合体,旭化成工業社製,商品名:タフデン1000.
*3 スチレン−ブタジエン共重合体,旭化成工業社製,商品名:タフデン2000.
【0077】
次に、上記実施例1〜2及び比較例1〜6の重合体を用いて、表2に示す配合処方のゴム組成物を調製し、通常の条件で加硫して得た加硫ゴムに対し、該ゴム組成物の耐ウェットスキッド性及び耐摩耗性を下記の方法により測定した。結果を表3に示す。
【0078】
(5)耐ウェットスキッド性
BPST(British Portable Skid Resistance Tester)を用いて、湿潤路面でのゴム組成物の耐ウエットスキッド性を測定し、比較例1を100として指数表示した。指数値が大きい程、耐ウェットスキッド性が良好であることを示す。
【0079】
(6)耐摩耗性
ランボーン型摩耗試験機を使用して室温で摩耗量を測定し、該摩耗量の逆数を算出し、比較例1を100として指数表示をした。指数値が大きい程、摩耗量が少なく、耐摩耗性が良好であることを示す。
【0080】
【0081】
*4 実施例1〜4及び比較例1〜6の重合体,使用した重合体の種類を表3に示す.
*5 旭カーボン社製,HAFグレード.
*6 N-(1,3-ジメチルブチル)-N-フェニル-p-フェニレンジアミン.
*7 ジフェニルグアニジン.
*8 ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド.
*9 N-t-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド.
【0082】
【0083】
共役ジエン化合物部分のシス-1,4結合量が80%以上の実施例1〜2の重合体をゴム成分として用いたゴム組成物は、シス-1,4結合量が低いポリブタジエン(比較例1)を用いたゴム組成物との比較から、耐ウェットスキッド性及び耐摩耗性が良好であることが分かる。
【0084】
また、実施例1〜2の重合体を用いたゴム組成物は、シス-1,4結合量が低いスチレン−ブタジエン共重合体(比較例2〜3)との比較から、同程度の耐ウェットスキッド性を保持しつつ、耐摩耗性が大幅に向上していることが分かる。
【0085】
更に、実施例1〜2の重合体を用いたゴム組成物は、従来のメタロセン触媒系にて合成した重合体を用いたゴム組成物(比較例4〜6)との比較から、耐ウェットスキッド性及び耐摩耗性が高度にバランスされていることが分かる。
【0086】
(実施例3)
窒素雰囲気下のグローブボックス中で、十分に乾燥した1L耐圧ガラスボトルに、スチレン104g(1mol)及びトルエン50gを添加し、ボトルを打栓した。その後、グローブボックスからボトルを取り出し、1,3-ブタジエンを54g(1mol)仕込み、モノマー溶液とした。一方、窒素雰囲気下のグローブボックス中で、ガラス製容器に、ビス(2-フェニルインデニル)ガドリニウム(ジメチルシリルアミド)[(2-PhC96)2GdN(SiHMe2)2]を100μmol、トリフェニルカルボニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート(Ph3CB(C65)4)を100μmol、ジイソブチルアルミニウムハライドを900μmol仕込み、トルエン10mlで溶解させ触媒溶液とした。その後、グローブボックスから触媒溶液を取り出し、モノマー溶液へ添加し、95℃で30分間重合を行った。重合後、2,6-ビス(t-ブチル)-4-メチルフェノール(BHT)の10質量%のメタノール溶液10mlを加えて反応を停止させ、さらに大量のメタノール/塩酸混合溶媒で重合体を分離させ、60℃で真空乾燥した。得られた重合体の収量は54gであった。
【0087】
(実施例4)
窒素雰囲気下のグローブボックス中で、十分に乾燥した1L耐圧ガラスボトルに、スチレン125g(1.2mol)及びトルエン50gを添加し、ボトルを打栓した。その後、グローブボックスからボトルを取り出し、1,3-ブタジエンを32.4g(0.6mol)仕込み、モノマー溶液とした。一方、窒素雰囲気下のグローブボックス中で、ガラス製容器に、ビス(2-フェニルインデニル)ガドリニウム(ジメチルシリルアミド)[(2-PhC96)2GdN(SiHMe2)2]を60μmol、トリフェニルカルボニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート(Ph3CB(C65)4)を60μmol、ジイソブチルアルミニウムハライドを720μmol仕込み、トルエン10mlで溶解させ触媒溶液とした。その後、グローブボックスから触媒溶液を取り出し、モノマー溶液へ添加し、70℃で30分間重合を行った。重合後、2,6-ビス(t-ブチル)-4-メチルフェノール(BHT)の10質量%のメタノール溶液10mlを加えて反応を停止させ、さらに大量のメタノール/塩酸混合溶媒で重合体を分離させ、60℃で真空乾燥した。得られた重合体の収量は31.5gであった。
【0088】
上記のようにして製造した実施例3〜4の重合体について、数平均分子量(Mn)、分子量分布(Mw/Mn)、ミクロ構造、結合スチレン量、ブロックスチレン含有率、ガラス転移点(Tg)、融点(Tm)を上記の方法で測定した。結果を表4に示す。
【0089】
【0090】
次に、上記実施例3〜4の重合体を用いて、表2に示す配合処方のゴム組成物を調製し、通常の条件で加硫して得た加硫ゴムに対し、該ゴム組成物の耐ウェットスキッド性及び耐摩耗性を上記の方法により測定した。結果を表5に示す。
【0091】