特許第5649188号(P5649188)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5649188クルマエビ科生物の急性ウイルス血症に対するワクチン
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5649188
(24)【登録日】2014年11月21日
(45)【発行日】2015年1月7日
(54)【発明の名称】クルマエビ科生物の急性ウイルス血症に対するワクチン
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/12 20060101AFI20141211BHJP
   A61K 38/00 20060101ALI20141211BHJP
   A61P 31/20 20060101ALI20141211BHJP
   A61P 7/00 20060101ALI20141211BHJP
   A01K 61/00 20060101ALI20141211BHJP
   A23K 1/18 20060101ALI20141211BHJP
   A23K 1/16 20060101ALI20141211BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20141211BHJP
   C07K 14/01 20060101ALN20141211BHJP
【FI】
   A61K39/12ZNA
   A61K37/02
   A61P31/20
   A61P7/00
   A01K61/00 B
   A23K1/18 102B
   A23K1/16 303F
   !C12N15/00 A
   !C07K14/01
【請求項の数】8
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2011-521875(P2011-521875)
(86)(22)【出願日】2010年6月22日
(86)【国際出願番号】JP2010060503
(87)【国際公開番号】WO2011004697
(87)【国際公開日】20110113
【審査請求日】2013年6月10日
(31)【優先権主張番号】特願2009-162802(P2009-162802)
(32)【優先日】2009年7月9日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構「生物系産業創出のための異分野融合研究支援事業」、産業技術力強化法19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504224153
【氏名又は名称】国立大学法人 宮崎大学
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(72)【発明者】
【氏名】酒井 正博
(72)【発明者】
【氏名】伊丹 利明
(72)【発明者】
【氏名】河野 智哉
【審査官】 小森 潔
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−063302(JP,A)
【文献】 特表2003−506338(JP,A)
【文献】 特表2005−538721(JP,A)
【文献】 Diseases of Aquatic Organisms,2008年,Vol.82,No.2,p89−96
【文献】 Journal of Virology,2004年,Vol.78,No.4,p2057−2061
【文献】 バイオサイエンスとインダストリー,2007年,Vol.65,No.1,p11−17
【文献】 生物工学会誌,2007年,Vol.85,No.9,p417
【文献】 日本寄生虫学会大会プログラム・抄録集,2009年 2月,Vol.78,p83,2A−23
【文献】 日本化学会講演予稿集,2008年,Vol.88,No.2,p808,3 A2−35
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/12
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホワイトスポットシンドロームウイルス(WSSV)のVP28遺伝子によりコードされるVP28タンパク質であって、コムギ胚芽由来のタンパク質合成画分を用いた無細胞タンパク質合成系で作製され、当該無細胞タンパク質合成系に含まれるコムギ由来タンパク質成分とVP28タンパク質有効成分とした、クルマエビ科生物の急性ウイルス血症予防用のワクチン。
【請求項2】
請求項1記載のワクチンを有効成分とするクルマエビ科生物の急性ウイルス血症予防剤。
【請求項3】
注射投与製剤である、請求項記載のクルマエビ科生物の急性ウイルス血症予防剤。
【請求項4】
経口投与製剤である、請求項記載のクルマエビ科生物の急性ウイルス血症予防剤。
【請求項5】
展着剤を更に含む、請求項記載のクルマエビ科生物の急性ウイルス血症予防剤。
【請求項6】
請求項記載のワクチンをクルマエビ科生物に投与することを特徴とする、クルマエビ科生物の急性ウイルス血症を予防する方法。
【請求項7】
上記ワクチンを経口投与する、請求項記載の方法。
【請求項8】
上記ワクチン及び展着剤を含む飼料を投与する、請求項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、甲殻類におけるウイルス感染の予防に有効なワクチンに関する。
【背景技術】
【0002】
甲殻類の急性ウイルス血症(ホワイトスポットシンドローム、白斑病などとも称される)は、甲殻類の養殖において最も甚大な被害が報告されているウイルス性疾病である。この疾病は感染から数日間で高い致死性を示し、有効な予防・治療方法も確立されていない。そのため、その病原ウイルスであるホワイトスポットシンドロームウイルス(White Spot Syndrome Virus; WSSV)を養殖場に持ち込まないことが、この疾病に対する現在唯一の実効性ある対策とされている。しかし、病原ウイルスがいったん養殖場に入り込んでしまうと、ウイルスを排除するためにはそこで飼育している甲殻類を全て廃棄するしかなく、経済的損失が非常に大きくなる。またこの病原ウイルスWSSVは、甲殻類において広い宿主域を有し(非特許文献1)、単離株の間での遺伝的変異もほとんど観察されない(非特許文献2)ことから、ある1種の甲殻類でのWSSV感染が近くで養殖されている別種の甲殻類へと一気に拡大する危険も高い。そのため、この疾病に対する簡便でより効果的な予防法の開発が切望されている。
【0003】
甲殻類におけるウイルス性疾患の予防法として、特許文献1及び2には、WSSVの構造タンパク質をワクチンとして、又はそのような構造タンパク質をコードする遺伝子を導入した弱毒化生細菌若しくはウイルスベクターをワクチンとして、甲殻類に投与する方法が開示されている。
【0004】
水生動物用の他の抗ウイルス剤としては、ウイルスタンパク質をコードするベクターを有効成分とする魚介類用DNAワクチンの開発も進められている(特許文献3)。DNAワクチンは感染性を持たず、長期間生体内で保持されて体液性免疫応答と細胞性免疫応答の両方を惹起することができ、また製造や貯蔵も容易である。しかしDNAワクチンについては、投与方法によっては免疫応答を効果的に惹起できないという問題がしばしば生じる。
【0005】
近年、DNAワクチンにおける免疫刺激性を高めるために、細菌に特徴的な非メチル化CpGモチーフ(メチル化されていないシトシンとグアニンに富むDNA配列)をアジュバントとしてDNAベクターに組み込む方法が知られている(例えば、非特許文献3及び特許文献3)。この方法では、非メチル化CpGモチーフが受容体TLR9によって認識され、免疫担当細胞内に取り込まれることにより、種々の炎症性サイトカイン産生等の免疫活性化反応が引き起こされ、免疫応答が増強されると考えられている。しかし非メチル化CpGモチーフを始めとする免疫刺激配列のもつ免疫賦活機能については、未だ不明な点も多い。
【0006】
以上のような諸問題を解決するため、本発明者らは、WSSVウイルスの構造タンパク質をコードする遺伝子を哺乳動物発現用DNAベクターであるpTargeTTMベクター中に組み込んで作製されたDNAワクチンをクルマエビに投与したところ、WSSVによる急性ウイルス血症を非常に効果的に予防できることを見いだした(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2003−506338号公報
【特許文献2】特表2004−508818号公報
【特許文献3】特開平9−285291号公報
【特許文献4】特開2008−169131号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Flegel T.W., World J. Microbiol. Biotechnol. (1997) 13, p.433-442
【非特許文献2】Lo C.F. et al., Diseases of Aquatic Organisms, (1999) 35, p.175-185
【非特許文献3】Krieg A. et al., Nature, (1995) 374: p.546-549
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、現在、WSSVに起因する甲殻類生物の疾病に対する予防方法として上述したようなワクチンは実用されていない。本発明は、甲殻類急性ウイルス血症の予防に有効であり優れた予防効果を奏するワクチンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、WSSVウイルスの構造タンパク質遺伝子のうち特定の遺伝子によりコードされる構造タンパク質をワクチンとして甲殻類に投与したところ、WSSVによる急性ウイルス血症を非常に効果的に予防できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下を包含する。
【0012】
(1)ホワイトスポットシンドロームウイルス(WSSV)のVP28遺伝子によりコードされるVP28タンパク質を抗原とした、甲殻類急性ウイルス血症予防用のワクチン。
【0013】
(2)上記VP28タンパク質は、無細胞タンパク質合成系で作製されたタンパク質であることを特徴とする(1)記載のワクチン。
【0014】
(3)甲殻類がクルマエビ科である(1)又は(2)に記載のワクチン。
【0015】
(4)上記(1)乃至(3)いずれかに記載のワクチンを有効成分とする甲殻類急性ウイルス血症予防剤。
【0016】
(5)注射投与製剤である(4)記載の甲殻類急性ウイルス血症予防剤。
【0017】
(6)経口投与製剤である(4)記載の甲殻類急性ウイルス血症予防剤。
【0018】
(7)展着剤を更に含む(6)記載の甲殻類急性ウイルス血症予防剤。
【0019】
(8)上記(1)乃至(3)いずれかに記載のワクチンを甲殻類に投与することを特徴とする、甲殻類急性ウイルス血症を予防する方法。
【0020】
(9)甲殻類がクルマエビ科である(8)に記載の方法。
【0021】
(10)上記ワクチンを経口投与する(8)に記載の方法。
【0022】
(11)上記ワクチン及び展着剤を含む飼料を投与する(8)に記載の方法。
【0023】
本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願2009-162802号の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係るワクチンは、甲殻類にホワイトスポットシンドロームウイルスに対する高い防御能を付与し、甲殻類急性ウイルス血症を予防することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】合成したrVP28のSDS-PAGEの結果を示す写真を示す特性図である。
図2】α-lactalbuminの定量値を用いて作成した検量線を示す特性図である。
図3】本発明に係る注射ワクチンの接種7日後にWSSVで感染させたクルマエビの生残率を示す特性図である。
図4】大腸菌発現系により作製したワクチンの接種7日後にWSSVで感染させたクルマエビの生残率を示す特性図である。
図5】本発明に係る経口ワクチンの投与7日後にWSSVで感染させたクルマエビの生残率を示す特性図である。
図6】リアルタイムPCRに使用したプライマーおよびプローブの設計位置を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0027】
本発明に係るワクチンは、ホワイトスポットシンドロームウイルス(WSSV)の構造タンパク質をコードする遺伝子のうちVP28遺伝子によりコードされるVP28タンパク質を抗原として作製されたものであり、本発明に係る甲殻類急性ウイルス血症の予防方法は、当該ワクチンを利用した方法である。
【0028】
ホワイトスポットシンドロームウイルス(WSSV)のタンパク質成分については各種研究が進められており、現在、少なくとも39種の構造タンパク質(VP15、VP19、VP24、VP26、VP28、VP31、VP35、VP51C、VP36B、VP41A、VP12B、VP73、VP180、VP664等)が知られている(Jyh-Ming Tsai et al., Journal of Virology, (2006) p.3021-3029)。本発明のワクチンにおいては、それらのうちVP28遺伝子によりコードされるVP28タンパク質を抗原として含有している。ここで、VP28遺伝子に含まれるオープンリーディングフレーム配列を配列番号1に、その配列によってコードされるアミノ酸配列を配列番号2に示す。本発明に係るワクチンにおいて、抗原タンパク質となるVP28タンパク質はその全長配列であってもよいし、末端が切断されているが抗原性は保持している構造タンパク質の部分配列であってもよい。また、抗原タンパク質となるVP28タンパク質は、配列番号2に示すアミノ酸配列において、例えば1〜100個(好ましくは1〜10個)のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつその抗原性を保持しているタンパク質又はペプチドであってもよい。
【0029】
なお、WSSV構造タンパク質遺伝子については、国際塩基配列データベースやGenBankなどの周知の塩基配列データベースに多数例の塩基配列が登録されている。例えば、限定するものではないが、VP15遺伝子:AY374120、AY249451;VP28遺伝子:AY324881、AY249443;VP26遺伝子:AY249438、AY249439;VP19遺伝子:AY316119、AY249444;VP24遺伝子:AY249457、AY249458;VP35遺伝子:AY325896、VP14遺伝子:AY422226などがある。
【0030】
当業者であれば、VP28遺伝子の塩基配列に基づき、VP28タンパク質をコードするDNAを常法により単離又は作製することができる。例えばWSSVから常法により抽出したゲノムDNAを鋳型とし、VP28遺伝子の塩基配列の情報から当該遺伝子領域を挟むように設計した特異的プライマー対を用いてPCRを行うことにより、VP28遺伝子を含むDNA増幅産物を得ることができる。得られたDNA増幅産物については、Kunkel法、Gapped duplex法を始めとする公知の部位特異的突然変異誘発法等によって、塩基配列に変異を導入してもよい。部位特異的突然変異誘発は、例えばMutan-K C、Mutan -Super Express Km(タカラバイオ社製)、TAKARA LA PCRTM in vitro Mutagenesisキット(タカラバイオ社製)等の市販品を用いて行うこともできる。なお、得られたDNA増幅産物は、当業者に周知の任意の精製法、例えば陰イオン交換クロマトグラフィー法等によって精製してもよい。
【0031】
また、当業者であれば、得られたVP28遺伝子を使用してVP28タンパク質を定法に従って取得することができる。例えば、得られたVP28遺伝子をタンパク質発現ベクターに組み込み、このベクターを宿主細胞に導入し、得られた宿主細胞内に発現したVP28タンパク質を単離精製するといった工程により、抗原タンパク質として使用するVP28タンパク質を取得することができる。
【0032】
ここで、無細胞系タンパク質合成系としては、コムギ胚芽由来のタンパク質合成画分、大腸菌由来のタンパク質合成画分、ウサギ網状赤血球由来のタンパク質合成画分及び昆虫細胞由来のタンパク質合成画分を利用したシステムが知られており、これらを適宜使用することができる。特に、後述の実施例に示すように、VP28タンパク質は、コムギ胚芽由来のタンパク質合成画分を用いた無細胞タンパク質合成系を利用して作製することができる。
【0033】
コムギ胚芽由来のタンパク質合成画分を用いた無細胞タンパク質合成系を利用する場合には、コムギ由来の成分は含まれるものの、甲殻類に対する細胞毒性を示す内毒素(リポポリサッカライドなど)が含まれず、安全性が高く、優れたワクチンとして利用することができる。また、コムギ由来の成分には、多数種類のビタミン類やミネラル類、食物繊維等の成分が含まれている。したがって、コムギ胚芽由来のタンパク質合成画分を用いた無細胞タンパク質合成系を利用し、抗原タンパク質となるVP28タンパク質を未精製のまま使用することで、これらコムギ由来の成分を含むワクチンを製造することができる。これらコムギ由来の成分を含むワクチンは、抗原タンパク質となるVP28タンパク質による甲殻類急性ウイルス血症の予防効果を更に高めることができる(特に、経口投与時)。したがって、本発明に係るワクチンは、コムギ胚芽由来のタンパク質合成画分を用いた無細胞タンパク質合成系を利用して合成し、未精製のVP28タンパク質を有効成分とすることが好ましい。
【0034】
本発明では、上述のように取得したVP28タンパク質を、WSSV感染によって生じる甲殻類急性ウイルス血症を予防するためのワクチンの有効成分として使用することができる。この場合、有効成分とするVP28タンパク質は、当業者に周知の任意の精製法、例えば陰イオン交換クロマトグラフィー法等によって単離精製してもよい。また、上述したように、コムギ胚芽由来のタンパク質合成画分を用いた無細胞タンパク質合成系を利用した場合には、未精製のままワクチンとして使用することが好ましい。
【0035】
本発明において「ワクチン」とは、抗原タンパク質を有効成分とするサブユニットワクチン製剤を意味する。本発明におけるワクチンは、VP28タンパク質の有効量に加えて、製薬上許容される(例えば、医薬品や水産物製剤に添加されうる)担体又は添加剤が配合されたワクチン組成物であってもよい。担体及び添加剤としては、水、等張液、水性緩衝液、許容される有機溶剤及び界面活性剤、助剤、安定化剤、酸化防止剤、保存剤などが挙げられる。担体及び添加剤のより具体的な例としては、限定するものではないが、滅菌水、生理食塩水、リンゲル液、PBS、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、ゼラチン、寒天、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン、マンニトール、ソルビトール、ラクトースなどの他、リポゾームなどの人工細胞構造物なども挙げられる。それらの担体及び添加剤は、ワクチンの投与経路、剤形、貯蔵形態等に応じて適宜選択される。本発明のワクチンはさらにアジュバントを含有してもよいが、もともと高い免疫賦活機能を有するので必ずしも追加的なアジュバントを配合しなくてもよい。本発明のワクチンは、さらに他の薬理成分を含有してもよい。
【0036】
本発明に係るワクチンは、甲殻類に投与することにより、甲殻類急性ウイルス血症の予防に高い効果を発揮する。本発明において「甲殻類急性ウイルス血症」とは、ホワイトスポットシンドロームウイルス(WSSV)によって引き起こされる甲殻類の感染症(ホワイトスポットシンドローム、白斑病等とも呼ばれる)を意味する。この疾患には、典型的には体表に白い斑点が現れ、極めて高率で死に至るという特徴がある。本発明における「甲殻類急性ウイルス血症の予防」とは、生体内に侵入したWSSVを排除し及び/又はその増殖を抑制し、その結果、甲殻類急性ウイルス血症の発症を阻止するか又はその発症率を有意に減少させることをいう。本発明のワクチンの投与(ワクチン接種)によって得られる甲殻類急性ウイルス血症の予防効果は、典型的には、WSSV存在下での生存率の上昇(死亡率の低下)によって示される。
【0037】
本発明においてワクチンの投与対象となる甲殻類は、WSSVに感染しうる任意の甲殻類(Crustacea)であってよく、例えばエビ類、カニ類、シャコ類、ザリガニ類、オキアミ類、ミジンコ類などが挙げられる。これら甲殻類の特に好適な例としては、限定するものではないが、十脚目の甲殻類、例えばクルマエビ科、オキエビ科、サクラエビ科、タラバエビ科、アカザエビ科、イセエビ科、セミエビ科、アメリカザリガニ科などに属する生物、十脚目アサヒガニ科、クモガニ科、クリガニ科、ワタリガニ科、イワガニ科、サワガニ科に属する生物などが挙げられる。投与対象として好適な甲殻類のより具体的な例としては、限定するものではないが、クルマエビ科(Penaeidae)の生物、例えばFarfantepenaeus、Fenneropenaeus、Litopenaeus、Marsupenaeus、Melicertus、Metapenaeopsis、Metapenaeus、Penaeus、Trachypenaeus、Xiphopenaeus属等に属するエビが挙げられる。投与対象として好適なクルマエビ科のうち、例えば、食用エビとしては、クルマエビ(Marsupenaeus japonicus)、ミナミクルマエビ(Melicertus canaliculatus)、ウシエビ(ブラックタイガー)(Penaeus monodon)、コウライエビ(Penaeus chinensis)、クマエビ(Penaeus semisulcatus)、フトミゾエビ(Penaeus latisulcatus)、インドエビ(Fenneropenaeus indicus)、ヨシエビ(Metapenaeus ensis)、トサエビ(Metapenaeus intermedius)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0038】
本発明に係るワクチンは、任意の適当な投与方法により、甲殻類に投与されうる。本発明のワクチンは、限定するものではないが、例えば注射、浸漬、噴霧等により、又は経口的に、甲殻類に投与することができる。より好適には、本発明のワクチンは、筋肉内、腹腔内等への注射によって甲殻類に投与するか、飼料等に含ませるかたちで経口的に甲殻類に投与することができる。ワクチンの投与量は、1回当たり、投与する動物1匹当たり0.1〜50μg、より好ましくは1〜10μgのタンパク質量とすることが好ましい。ワクチンの投与は、1回のみ行ってもよいが、間隔を空けて2回以上繰り返し行ってもよい。
【0039】
特に、本発明に係るワクチンを経口投与する際には、経口投与に適した製剤とすることが好ましい。経口投与する際には、例えば飼料成分に本発明に係るワクチンを混合して固形状の製剤とすることが好ましい。この場合、甲殻類に対しては、通常の飼料を与えながら本発明に係るワクチンを投与することができる。なお、飼料を甲殻類に供給する場合、通常、海水中に飼料を投入するため、甲殻類が摂餌する前に有効成分であるVP28タンパク質が海水中へ漏れ出すことを防止することが好ましい。例えば、VP28タンパク質を有効成分として含む飼料は、飼料成分の他に展着剤を含有していることが好ましい。
【0040】
ここで展着剤とは、VP28タンパク質を他の飼料成分に付着させた状態を維持する物質であり、増粘剤と呼称される場合もある。展着剤としては、従来より公知の物質を何ら限定されることなく使用することができる。例えば、展着剤としては、カゼイン、アルギン酸ナトリウム、キトサン及びシクロデキストリン等を使用することができる。また、飼料中の展着剤としては、3重量%以上であることが好ましい。展着剤を3重量%以上含有する場合には、飼料を海水中に投入した後、数時間は元の形状を維持することができるため、甲殻類に対して確実にVP28タンパク質を投与することができる。
【0041】
通常の飼料製造工程においては、飼料に対して高温をかける熱処理を実施し、飼料が海水中において形状を維持できるようにしている。しかし、上述したように、本発明に係るワクチンを含む飼料に展着剤が含まれる場合には、高温にかける熱処理を実施しなくとも、海水中において形状を維持することができる。すなわち、本発明に係るワクチンを含む飼料に展着剤を使用することによって、熱処理によるワクチンの変性といった問題を回避することができる。また、熱処理を行わないことで、熱処理に要するコストを削減することができる。
【0042】
本発明に係るワクチンを投与することにより、甲殻類の生体内で、VP28タンパク質に対する体液性免疫応答と細胞性免疫応答の両方が惹起される。本発明においては、VP28タンパク質を抗原タンパク質として使用することによって、特に優れた免疫賦活効果を得ることに成功した。本発明のワクチン投与によれば、このような免疫応答の惹起と顕著な免疫賦活効果により、甲殻類急性ウイルス血症を非常に効果的に予防することができる。
【0043】
本発明のワクチンは、従来のウイルスタンパク質、弱毒化ウイルス、改変ウイルス等をワクチン抗原とする従来のワクチンと比較して、免疫増強効果が顕著に高い。従って本発明のワクチンを投与することによる甲殻類急性ウイルス血症の予防方法は、例えば甲殻類の養殖産業において大変有利に使用することができる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0045】
1. ワクチンの作製
1-1. WSSVのDNAの抽出
WSSV感染クルマエビより心臓を摘出し、DNeasy Blood & Tissue Kit (QIAGEN, USA)を用いてプロトコールに従ってDNAを抽出した。
【0046】
1-2. PCR
抽出したDNAを鋳型として、VP28遺伝子に特異的なプライマーVP28-F.w.(GGATCCATGGATCTTTCTTTCAC(配列番号3))およびVP28-R.v.(ACTAGTTTACTCGGTCTCAGTGC(配列番号4))を用いてPCRを行った。なお、発現ベクターにVP28遺伝子を導入するために、ベクターのマルチクローニングサイトに存在する酵素サイトを2箇所(BamHI, SpeI)選択した。このサイトにVP28遺伝子を組み込むために、プライマーVP28-F.w.及びVP28-R.v.の5’末端にBamHIおよびSpeI酵素サイトをそれぞれ付加した。
【0047】
PCRはGene Taq (NIPPON GENE社製)を用いて行った。反応液はD.W.(28.5μl)、10×Gene Taq Universal Buffer(15mmol/l Mg2+ )(5μl)、dNTP Mixture (2.5mmol/each)(5μl)、F.w. Primer (5μM)(5μl)、R.v. Primer(5μM)(5μl)、Gene Taq(5 units/μl)(0.5μl)、Template (1μl)を混合し、50μlのボリュームで行った。反応条件は、94℃で3分間の変性反応後、94℃で30秒間の変性反応、60℃で30秒間のアニーリング反応、72℃で1分間の伸長反応を35サイクル反応させ、最後に72℃で5分間の伸長反応を行った。PCR反応はC1000 Thermal Cycler(BIORAD社製)を用いて行った。反応終了後、0.5×TBE buffer[Tris(1.35g)、Boric Acid(0.69g)、0.5M EDTA(pH 8.0)(500μl)をD.W.で全量を250μlにしたもの]中で1.5%アガロースゲル[Agarose-S Gel(1.5g)、0.5×TBE buffer(100ml)、エチジウムブロマイド(10ng/μl)(10μl)]電気泳動し、バンドの有無を確認した。
【0048】
1-3. ライゲーション
PCR産物をpGEM T Easy Vector Systems (PROMEGA社製)を用いてライゲーションした。5×T4 DNA Ligase Buffer(5μl)、T Easy vector(50ng/μl) (1μl)、T4 DNA Ligase(3 Weiss units/μl)(1μl)、PCR産物(3μl)を混合し、4℃で16時間反応させた。本実験系では一度クローニングベクターに組み込み、PCR産物を環状化させることで、酵素処理を行う際のPCR産物に付加された酵素サイトの正確な認識、また処理後のPCR産物(発現ベクターに組み込むVP28遺伝子)の回収効率を高めることができた。
【0049】
1-4. 形質転換
ライゲーション産物をヒートショック法によりTAM competent cell (ACTIFMOTIF社製)に形質転換した。TAM competent cell(50μl)にライゲーション産物(3μl)を加え氷上で30分間静置した。42℃で45秒間反応後、氷上で2分間静置した。菌液全量をSOC培地(INVITROGEN社製)(450μl)に加えて、37℃で90分間振盪培養した。培養液を50μg/mlのアンピシリンを含むMacConkey寒天培地(SIGMA社製)に植菌し、37℃で16時間培養した。培養後レッドホワイトコレクションによりポジティブクローンをスクリーニングした。
【0050】
1-5. コロニーPCR
コロニーPCRによりインサートの確認を行った。コロニーPCRはGene Taqを用いて行った。D.W(14.6μl)、10×Gene Taq Universal Buffer(15mmol/l Mg2+ )(2μl)、dNTP Mixture (2.5mmol/each)(1.6μl)、Fw-primer(5μM)(0.8μl)、Rv-primer(5μM)(0.8μl)、Gene Taq(0.2μl)を混合した。反応液に滅菌した爪楊枝でコロニーを掻き取り懸濁させた。反応条件は、94℃で3分間の変性反応後、94℃で30秒間の変性反応、60℃で30秒間のアニーリング、72℃で1分間の伸長反応を30サイクル行い、最後に72℃で5分間の伸張反応を行った。PCR反応はC1000 Thermal Cycler(BIORAD社製)を用いて行った。反応終了後、1.5%アガロースゲル電気泳動し、バンドの有無を確認した。
【0051】
1-6. プラスミドDNAの抽出
コロニーPCRでインサートが確認できたコロニーを50μg/mlのアンピシリンを含むLB broth[Bacto Tryptone(1g)、Yeast Extract(0.5g)、NaCl(0.5g)を全量100mlになるようにD.W.で溶かし滅菌したもの](3ml)に植菌し、37℃で16時間振盪培養した。菌液半量を新しいチューブに移し遠心分離(8,000rpm、3分間)し上清を捨てた。この操作をもう一度繰り返した。続いて、QIAprep Spin Miniprep Kit(QIAGEN社製)を用いてプロトコールに従ってプラスミドDNAを抽出した。
【0052】
1-7. シークエンシング
1-7-1. シークエンス反応
1-6で得られたプラスミドDNAを鋳型にSP6(ATTTAGGTGACACTATAGAA(配列番号5))又はT7(TAATACGACTCACTATAGGG(配列番号6))プライマーを用いてシークエンス反応を行った。まず、プラスミドDNA(4μl)を95分で1分間プレヒートした。次にプライマー(1.6pmol/μl)(2μl)、DTCS Quick Start Master Mix (Beckman coulter社製)(2μl)、D.W.(2μl)を加えて反応させた。反応条件は96℃で20秒間、50℃で20秒間、60℃で4分間を30サイクル反応させた。シークエンス反応にはC1000 Thermal Cycler(BIORAD社製)を用いて行った。
【0053】
1-7-2. 精製
反応終了後、サンプルをエタノール沈殿によって精製した。まず、NaOac(3M)(2μl)、EDTA (100mM)(2μl)、Glycogen (20mg/ml)(Beckman coulter社製)(1μl)を混合しStop Solutionを調整した。サンプルにStop Solution(5μl)を加え攪拌し反応を止めた。次に100%エタノール(WAKO社製)(60μl)を加え攪拌し、直ちに遠心分離(14,000rpm、15分間)した。次に、上清を除き70%エタノール(200μl)を加え遠心分離(14,000rpm、2分間)後上清を除いた。この操作をもう一度繰り返した。最後に15分間風乾してエタノールを完全に除き、ペレットをSample Loading Solution (Beckman coulter社製)(40μl)に溶解させた。
【0054】
1-7-3. 電気泳動
1-7-2で精製したサンプルを全量CEQサンプルプレート(Beckman coulter社製)に移し、ミネラルオイル(Beckman coulter社製)を1滴添加した。CEQ8000 Automated Sequencer(Beckman coulter社製)にCEQサンプルプレートをセットし電気泳動した。
【0055】
1-7-4. 解析
得られた配列を解析し、WSSVのVP28遺伝子(配列番号1)がクローニングされていることを確認した。
【0056】
1-8. タンパク質発現用ベクターの作製
上記で得られたプラスミドDNAまたはタンパク質発現用ベクター(pEU-E01-MCSベクター)(CELLFREE SCIENCE社製)をBamH1(NIPPON GENE社製)およびSpeI(NIPPON GENE社製)で制限酵素処理した。DNA(1μl)、BamH1(5 units/μl)(0.5μl)、SpeI(5 units/μl)(0.5μl)、10×B Buffer(1μl)、D.W. (7μl)を混合し37°Cで2時間反応させた。反応後1%アガロースLゲル[Agarose-L Gel(1.5g)、0.5×TBE buffer(100ml)、エチジウムブロマイド(10ng/μl)(10μl)]電気泳動した。ゲルから目的サイズのバンドを切り出し、QIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN社製)を用いてプロトコールに従ってDNAを抽出した。次に、pEU-E01-MCSベクターのマルチクローニングサイトへライゲーションした。5×T4 DNA Ligase Buffer (5μl)、制限酵素処理したpEU-E01-MCSベクター(1μl)、T4 DNA Ligase(3 Weiss units/μl)(1μl)、制限酵素処理したプラスミドDNAより切り出したDNA(1μl)、D.W.(2μl)を混合し、4℃で16時間反応させた。このプラスミドDNAを1-4, 7の方法で配列を確認し、タンパク質発現用ベクターにVP28遺伝子が組み込まれていることを確認した。
【0057】
1-9. プラスミドDNAの精製
配列を確認したプラスミドDNAに等量のPhenol/Chloroform/Isoamyl Alcohol(25:24:1)(WAKO社製)を加えて遠心分離(13,000rpm、5分間)し上清を捨てた。2.5倍量の100%エタノールと1/10量のNaOac(3M)を加えて遠心分離(13,000rpm、30分間)し上清を捨てた。70%エタノール(500μl)を加え遠心分離(10,000rpm、5分間)し上清を捨てた。最後に15分間風乾してエタノールを完全に除き、ペレットをBuffer EBで溶解させ、プラスミドDNAの濃度を1μg/μlに調製した。
【0058】
1-10. VP28組み換えタンパク質の作製
小麦胚芽無細胞タンパク質合成系(CELLFREE SCIENCE社製)を用いてVP28組み換えタンパク質(rVP28)を作製した。同時に、プラスミドDNAの代わりにD.W.を加えてコントロール(Wheat)を作製した。まず、プラスミドDNA(1μg/μl)(25μl)にpre MIX(225μl)を加え、37℃で6時間転写反応を行った。転写反応はC1000 Thermal Cycler(BIORAD社製)を用いて行った。反応後、アガロースゲル電気泳動を行いmRNAの合成量を確認した。なお、転写反応に使用するプラスミドDNAについて、プロトコールでは濃度:1mg/ml、純度:OD260nm/280nm比が1.70〜1.85と規定されているが、本実験では濃度:1mg/ml、純度:OD260nm/280nm比が1.75〜1.80と規定した。特に、OD比が1.85付近になると、mRNAの転写効率が落ちることがあったため、本実験では1.75〜1.80をプラスミドDNAの最適純度とした。
【0059】
次に、重層法により翻訳反応を行った。転写反応で合成したmRNA(250μl)、WEPRO1240(250μl)およびCreatine Kinase(20mg/ml)(1μl)を混合した。1×SUB-AMIX(5.5ml)を6 Well Plate(IWAKI社製)に加え、1×SUB-AMIXの下層に混合液を重層した。パラフィルムで蓋をして22℃で24時間翻訳反応を行ってrVP28を合成した。
【0060】
なお、CELLFREE SCIENCE社のプロトコールにおいて翻訳反応は、15℃で20時間(推奨)または26℃で8〜16時間保温するとなっている。本実験では、翻訳効率について検討した結果、15℃または26℃での翻訳に比べ、22℃での翻訳が最も効率的であることを見出した。また、時間については、24時間程度まで合成量が増加することを確認した。
【0061】
1-11. 合成タンパク質の確認
1-11-1. SDS-PAGE
1-10で作製したrVP28またはα-lactalbumin(10μg/ml, 20μg/ml, 40μg/ml)(SIGMA社製)を10μlずつチューブに入れ、等量のサンプルバッファーを加え混和した。99℃、5分間インキュベートした後、氷上で2分間清置した。READY GELS J(Biorad社製)にサンプルを全量アプライし、Tris/Glycine/SDS Buffer(BIORAD社製)中で、150Vで1時間電気泳動した(図1)。
【0062】
1-11-2. 半定量解析
電気泳動写真(図1)をパソコンに取り込み、Science Lab99 Image Gauge software (FUJIFILM, JAPAN)を用いて、半定量解析を行った。α-lactalbuminの定量値(下記表1)を用いて検量線(y=96.345x-2244.5)を作成してrVP28の合成量を測定した(図2)。rVP28の合成量は、0.5μg/5μlであった。コムギ由来のタンパク質成分を含む総タンパク質は、70.1μg/5μlであった。
【表1】
【0063】
1-12. 経口ワクチンの作製
クルマエビ用飼料100g中に、1-10で作製したrVP28を5mgの割合で混合した(表2)。なお、グルタミン酸ナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウムを有効成分とする展着剤:SD展着1号(シェリング・プラウアニマルヘルス株式会社)3%量を混合した。
【0064】
2. 効果の判定
2-1. 注射ワクチンの効果判定
2-1-1. 注射ワクチン接種
サブユニットワクチン(rVP28)[5μg/100μl:rVP28(100μg/ml)(50μl)にPBS(50μl)を加えたもの]、コントロールとしてPBS(pH 7.6)[NaCl(28.4g)、MgCl2・6H20(1g)、MgSO4・7H20(2g)、CaCl2・2H2O(2.25g)、KCl(0.7g)、Glucose(1g)、Hepes(2.38g)をD.W.で全量1Lにしたもの](100μl)または小麦由来のタンパク質:Wheat[rVP28の総タンパク質量と同じ量(701μg/100μl):Wheat(13.92mg/ml)(50.34μl)にPBS(49.66μl)を加えたもの]を各区平均体重12gのクルマエビ25尾にそれぞれ接種した(表2)。クルマエビは60cm水槽で22℃の人工海水中で飼育した。
【表2】
【0065】
2-1-2. 感染実験
ワクチンまたはコントロールを接種してから1週間後にWSSVで感染実験を行った。WSSV感染クルマエビより心臓、鰓、肝膵臓を摘出しPBS中でホモジナイズした。ホモジナイズ液の一部(100μl)からDNeasy Blood & Tissue Kit を用いてDNAを抽出し、抽出したDNA中のWSSVのDNA量をリアルタイムPCR(下記、参考実験の項目参照)により定量した。定量後、ホモジナイズ液を希釈した。人工海水4L中にホモジナイズ液をWSSVのDNA量が1×109 copies含まれるように加え、この中でワクチンまたはコントロールを接種したクルマエビを2時間半浸漬した。その後、クルマエビを水槽に戻し、WSSV感染後の累積死亡数をカウントした。
【0066】
2-1-3. 効果の判定
χ2検定を行った。また、ワクチンの有効率を示すRelative percent survival:RPS=(1−ワクチン区の死亡率/コントロール区の死亡率)×100を計算した。
【0067】
2-2. 経口ワクチンの効果判定
2-2-1.給餌
ワクチン区には、1-12で作製した経口ワクチンを、一日当たり2.5μg/g・shrimpのrVP28を7日間隔日投与(1, 3, 5, 7日)した(表3)。また、2、4、6日目は、ワクチンを含まない飼料を与えた。コントロール区は、7日間全てにワクチンを含まない飼料を給餌した区(control A)と市販飼料を給餌した区(control B)の2区を設けた。各区、平均体重3gのクルマエビ33尾を設けた。クルマエビは、60l水槽で、22℃の人工海水中で飼育した。
【表3】
【0068】
2-2-2.感染実験
感染実験については、上記2-1-2と同様な方法で行った。
【0069】
2-2-3. 効果の判定
経口ワクチンの効果判定については、上記2-1-3と同様な方法で行った。
【0070】
3. 結果
3-1. 注射ワクチン
注射ワクチンを投与した実験の結果を図3に示した。図3に示した結果より各区の生残率は、ワクチン区(rVP28)が91.3%、コントロール1区(PBS)が47.8%、コントロール2区(Wheat)が34.8%であった。rVP28区の生残率はコントロール区の生残率と比べて有意に高くなり、RPS(ワクチンの有効率)の値はPBS区に対して91.7%、Wheat区に対して93.3%になった。したがって、ワクチン接種7日後において、WSSVに対するワクチンの有効性が確認された。なお、RPS(%)は、1−(ワクチン投与区の死亡率/対照区の死亡率)×100として算出した。
【0071】
また、比較のために、大腸菌を宿主細胞として使用してrVP28を調製し、同様にして製造したサブユニットワクチンを接種した結果を図4に示した。図4に示した結果より、PBSのみを接種した区と比較して、大腸菌発現系により製造したrVP28では非常に死亡率が高くなった。これは、大腸菌の内毒素がエビに対して毒性を示すもので、ワクチン接種後内毒素によってエビがWSDVによる攻撃に耐えられなかった結果だと考えられる。このために、大腸菌発現系を用いてワクチンを作製する場合には、エビに対して毒性を示す成分を除去するための精製処理が必要であることが分かった。
【0072】
3-1. 経口ワクチン
経口ワクチンを投与した実験の結果を図5に示した。図5に示した結果より各区の生残率は、ワクチン区(rVP28)が85.7 %、コントロールA区(ワクチンを含まない飼料)が26.3%、コントロールB区(市販飼料)が0%であった。rVP28区の生残率は、コントロール区の生残率と比べて有意に高くなり、RPSの値はコントロールA区に対して80.6%、コントロールB区に対して85.7 %になった。したがって、1週間の経口ワクチン投与後、WSDVに対するワクチンの有効性が確認された。
【0073】
〔参考実験〕
リアルタイムPCR
(1)プライマーおよびプローブの設計
WSSV-DNA遺伝子塩基配列(AF369029; van Hulten et al. 2001)に基づいて4つのプライマーおよびプローブを設計した(図6参照)。
【0074】
(2)PCR
WSSV感染エビの組織から抽出したDNAを鋳型に、WSSV ORF-36遺伝子に特異的なプライマーWSSV F3.(AAACACCGGATGGGCTAA(配列番号7))およびWSSV R3.(CAAGGCAATACAGAATGCG(配列番号8))を用いてPCRを行った。反応液は1-1-2と同じ組成で行った。反応条件は、4℃で3分間の変性反応後、94℃で30秒間の変性反応、55℃で30秒間のアニーリング、72℃で1分間の伸長反応を30サイクル反応させ、72℃で5分間の伸長反応を行った。PCR反応はC1000 Thermal Cycler(BIORAD社製)を用いて行った。反応終了後、3.0%アガロースゲル電気泳動し、バンドの有無を確認した。
【0075】
(3) クローニングおよびシークエンシング
1-3, 7の方法でPCR産物をクローニングおよびシークエンシングし、WSSVのORF-36遺伝子がクローニングされていることを確認した。
【0076】
(4)検量線の作製
(4-1)検量線作成用の標準プラスミドDNAの調製
プラスミドDNAの濃度を、Nano Drop Spectrophotometer ND-1000(THERMO SCIENTIFIC社製)で測定し、アボガドロ定数(1mol = 6.02×1023分子)を用いてコピー数を算出した。さらに、求めたコピー数が、サンプルプラスミド溶液1μl中に1×1010、1×109、1×108、1×107、1×106コピー含まれるように、D.W.で希釈し、標準プラスミドDNAを作製した。
【0077】
(4-2)検量線の作製
作製した標準プラスミドDNA( 1×1010、1×109、1×108、1×107、1×106コピー/μl)と、ブランク試料液(NTC:no template control)を鋳型に、WSSV ORF-36遺伝子に特異的なプライマーWSSV Fw.(TGGAACAAAAGATGCTGCTCAA(配列番号9))、WSSV Rv.(TGCGGGTCGTCGAATGT(配列番号10))および、TaqMan MGB Probe(AGAATGTGGATCTTGGGC(配列番号11))を用いてリアルタイムPCRを行った(図6参照)。TaqMan Universal PCR Master Mix (Applied Biosystems社製) (12.5μl)、TaqMan MGB Probe(2.5μl)、F.w.-Primer (10pmol/μl)(2.25μl)、R.v.-Primer (10pmol/μl)(2.25μl)、D.W.(4.5μl)を混合し、96 Well Plate(Applied Biosystems社製)に25μlずつ分注した。ABI PRISM Optical Adhesive Cover(Applied Biosystems社製)で蓋をし、7300 Real-time PCR System(Applied Biosystems社製)にセットして反応させた。反応条件は、50℃で2分間保持した後95℃で10分間加温し、ホットスタート法で反応を開始した。その後、95℃で15秒間のアニーリング、60℃で1分間の伸長反応を40サイクル反応させた。
【0078】
(5)サンプルDNAの定量
検量線用の標準プラスミドDNA とサンプルDNAを(3-2)の方法で反応させて、サンプルDNA中のWSSVのDNAのコピー数を定量した。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明に係るワクチン及び甲殻類急性ウイルス血症を予防する方法は、養殖産業において、甚大な被害をもたらす甲殻類ウイルス血症に対する効果的な予防手段として使用することができる。
【0080】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]