(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0024】
[第1の実施の形態]
(蛍光体)
第1の実施の形態に係る蛍光体は、Y
3Al
5O
12(YAG)結晶を母結晶とするYAG系蛍光体であり、例えば、Y
3-x-yL
xM
yAl
5-ZN
ZO
12-w(Lは、Gd又はLu、Mは、Ce,Tb,Eu,Yb,Pr,Tm,Smからなる群から選択される1種類以上の元素、Nは、Ga又はIn、0≦x<3、0<y≦1、0≦z≦5、−0.2≦w≦0.2)で表される組成を有する。ここで、Lは、Yを置換する発光中心とならない成分である。Mは、Yを置換する発光中心となり得る成分(付活剤)である。また、NはAlを置換する成分である。
【0025】
なお、上記の蛍光体の組成のうち、一部の原子は結晶構造上の異なる位置を占めることがある。
【0026】
この蛍光体は、例えばCZ法(Czochralski Method)、EFG法(Edge Defined Film Fed Growth Method)、ブリッジマン法、FZ法(Floating Zone Method)等の液相成長法によって得ることができる。
【0027】
上記yで表される付活剤の濃度は、0.003以上かつ0.2以下であるとよい。これは、付活剤濃度が0.003未満では、求められる光量の蛍光を得るために必要な蛍光体の厚みtが厚くなるため(例えばt>3mm)、蛍光体の単結晶インゴットから切り出せる数が減少してしまうためである。また、付活剤の濃度が0.2を超えると、蛍光体を薄くする必要があるため(例えばt<0.1mm)、機械的強度の低下により蛍光体に割れや欠け等が発生しやすくなるとともに、濃度消光が発生し得るためである。なお、濃度消光とは、隣接分子間のエネルギー移動が発生して本来のエネルギーが十分に蛍光として外部に放射されないこと(非発光遷移)等により、付活剤の高濃度化に応じて蛍光強度が増大しなくなる現象である。
【0028】
また、さらに好適には、上記yで表される付活剤の濃度は、0.01以上かつ0.2以下であるとよい。y≧0.01とすることで、蛍光体を発光装置に用いるために適切な厚み(例えば、t≦2mm)とすることができる。つまり、蛍光体の厚みは、0.1mm以上、3.0mm以下とすることが好適であり、0.1mm以上、2.0mm以下であることがさらに望ましい。
【0029】
本実施の形態の蛍光体は、優れた量子効率を有する。例えば、励起光の波長が460nmであるときの25℃での量子効率が92%以上である。具体的には、例えば、蛍光体が、仕込み組成をY
2.91Gd
0.03Ce
0.06Al
5O
12として製作した単相の単結晶である場合は、励起光の波長が460nmのときの量子効率は97%である。また、蛍光体が、仕込み組成をY
2.8Gd
0.2Ce
0.06Al
5O
12として製作した単相の単結晶である場合は、励起光の波長が460nmのときに92%以上の量子効率を得ることができる。
【0030】
本実施の形態の蛍光体を使うことで、より輝度の高い発光装置が可能となる。従来販売されている蛍光体の量子効率は80〜90%程度であり、本発明の量子効率はこれらよりも概ね10〜20%程度高い。青色発光素子はジャンクション温度が設計上限温度近傍の100℃に上昇すると、発光効率は概ね10〜20%程度低下する。本発明の蛍光体を用いることで、輝度を一定の明るさ以上(従来の蛍光体を用いた発光装置において、素子温度が上昇前の明るさ)に保つことが可能となる。
【0031】
また、例えば、文献 Solid-State Lighting Research and Development: Multi Year Program Plan March 2011 (Updated May 2011) P.69 の表 A1.3 によれば、量子効率(Quantum Yield (25°C) across the visible spectrum)の2010年の数値は90%であり、2020年の目標値が95%であることが記載されている。このことから、業界では、2年で1%程度の量子効率の向上が期待されていることがわかり、本実施の形態の蛍光体は、出願時において目標とされる数値を超えた量子効率を有する優れた蛍光体であるといえる。
【0032】
また、本実施の形態の蛍光体は、優れた温度消光特性を有する。例えば、励起光の波長が460nmであり、温度を25℃から100℃まで上げたときの蛍光強度の低下が3%未満である。
【0033】
図1は、第1の実施の形態の蛍光体と、比較例としての従来のセラミック粉末蛍光体の、励起光の波長が460nmであるときの蛍光強度の温度依存性を表すグラフである。
図1の横軸は蛍光体の温度(℃)を表し、縦軸は蛍光体の25℃における蛍光強度を基準とした相対蛍光強度を表す。
【0034】
図1の上側の線は、□で示される本実施の形態の蛍光体の温度ごとの蛍光強度の測定値に基づいて得られた、本実施の形態の蛍光体の蛍光強度の温度依存性を示す線である。
図1の下側の線は、◇で示される従来のセラミック粉末蛍光体の温度ごとの蛍光強度の測定値に基づいて得られた、従来のセラミック粉末蛍光体の蛍光強度の温度依存性を示す線である。
【0035】
図1に示されるように、上側の線は水平に近く、本実施の形態の蛍光体の蛍光強度の温度依存性は小さい。例えば、温度を25℃から100℃まで上げたときの本実施の形態の蛍光体の蛍光強度の減少は1%未満と近似することができ、明らかに3%未満であることがわかる。
【0036】
一方、下側の線は傾きが大きく、従来のセラミック粉末蛍光体の蛍光強度の温度依存性は本実施の形態の蛍光体のものよりも強い。例えば、温度を25℃から100℃まで上げたときの従来のセラミック粉末蛍光体の蛍光強度の減少は10%以上と近似することができる。
【0037】
したがって、本実施の形態の蛍光体は、従来のセラミック粉末蛍光体と比較して、温度の上昇に伴う蛍光強度の低下が少なく、優れた温度特性を有するといえる。このため、従来よりも高出力(例えば5W以上)の発光装置にも本実施の形態の蛍光体を用いることができる。
【0038】
また、例えば、文献 Solid-State Lighting Research and Development: Multi Year Program Plan March 2011 (Updated May 2011) P.69 の表 A1.3 によれば、温度特性(25℃から150℃)の2010年の数値は90%(低下10%)であり、2020年の目標値が95%(低下5%)であることが記載されており、本実施の蛍光体は目標値をほぼ満足する蛍光体であるといえる。
【0039】
また、本実施の形態の蛍光体は、励起光の波長を変化させたときの蛍光の波長の変化が小さいという性質を有する。例えば、励起光の波長を460nmから480nmへ変化させたときの、相対蛍光強度が0.5である蛍光波長の変化が1.5nm以下である。
【0040】
図2は、第1の実施の形態の蛍光体と、比較例としての従来のセラミック粉末蛍光体の発光スペクトルの励起波長依存性を表すグラフである。
図2の横軸は蛍光の波長(nm)を表し、縦軸は発光スペクトル強度の最大値を1.0とした場合の相対強度を表す。
【0041】
図2には、励起光の波長が460nm、480nmであるときの本実施の形態の蛍光体の発光スペクトル、励起光の波長が460nm、480nmであるときの従来のセラミック粉末蛍光体の発光スペクトルが示されている。
【0042】
図2に示されるように、本実施の形態の蛍光体の励起光の波長が460nmであるときの発光スペクトルと励起光の波長が480nmであるときの発光スペクトルの波形の差は、従来のセラミック粉末蛍光体の励起光の波長が460nmであるときの発光スペクトルと励起光の波長が480nmであるときの発光スペクトルの波形の差よりも小さい。
【0043】
例えば、励起光の波長を460nmから480nmへ変化させたときの、蛍光スペクトルの半値幅(相対蛍光強度が0.5である部分の幅)の変化は、従来のセラミック粉末蛍光体が2.7nmであるのに対し、本実施の形態の蛍光体では1.5nmである。
図2中のW1、W2は、それぞれ励起光の波長が460nm、480nmであるときの本実施の形態の蛍光体の蛍光スペクトルの半値幅を表す。また、W3、W4は、それぞれ励起光の波長が460nm、480nmであるときの従来のセラミック粉末蛍光体の蛍光スペクトルの半値幅を表す。すなわち、W2とW1の差が1.5nmであり、W4とW3の差が2.7nmである。
【0044】
本実施の形態の蛍光体は励起波長に対する発光スペクトル変動が小さいため、本実施の形態の蛍光体を用いて、より特性変動の少ない発光装置をつくることができる。
【0045】
図3は、570nmにて測定した、第1の実施の形態の蛍光体及び比較例としての従来のセラミック粉末蛍光体の励起スペクトルを表すグラフである。
図3の横軸は励起波長(nm)を表し、縦軸は蛍光強度(相対値)を表す。
図3に示されるように、本実施の形態の蛍光体の励起範囲は、従来のセラミック粉末蛍光体の励起範囲よりも狭く、再励起による損失を抑制する効果が期待される。例えば、本実施の形態の蛍光体の励起スペクトルの半値幅W
6は、69nm程度であり、83nm程度である従来のセラミック粉末蛍光体の励起スペクトルの半値幅W
5よりも小さい。
【0046】
また、本実施の形態の蛍光体は、ガーネット単相であることを特徴とする。
図4A、
図4Bは、それぞれ第1の実施の形態の蛍光体及び比較例としての従来のセラミック粉末蛍光体の粉末X線回折パターンを表すグラフである。
図4A、
図4Bの横軸は回折角であり、縦軸は回折強度を表す。
【0047】
図4BのX線回折パターンにおける矢印が付されたピークは、ガーネット構造以外の第2相に起因するピークである。すなわち、従来のセラミック粉末蛍光体にはガーネット構造以外の第2相が含まれている。一方、
図4Aに示されるように、本実施の形態の蛍光体のX線回折パターンには、第2の相に起因するピークはみられず、本実施の形態の蛍光体は単相であるといえる。
【0048】
また、本実施の形態の蛍光体は、Ba、Sr等の2族元素及びF、Br等の17族元素を含まず、高い純度を有することを特徴とする。これらの特徴により高輝度で高寿命な蛍光体を実現できる。
【0049】
以下に、本実施の形態に係る蛍光体の製造方法の一例について説明する。以下の例においては、チョクラルスキー法(CZ法)によりCe、Gdを含むYAG単結晶蛍光体を育成する。
【0050】
(蛍光体の製造)
まず、出発原料として、高純度(99.99%以上)のY
2O
3、Al
2O
3、CeO
2、Gd
2O
3の粉末を用意し、乾式混合を行い、混合粉末を得る。なお、Y、Al、Ce、及びGdの原料粉末は、上記のものに限られない。
【0051】
例えば、Y
2.91Gd
0.03Ce
0.06Al
5O
12-w(−0.2≦w≦0.2)単結晶を育成する場合は、Y
2O
3粉末、Al
2O
3粉末、Gd
2O
3粉末、及びCeO
2粉末を2.91:5:0.03:0.12のモル比で混合する。
【0052】
図5は、CZ法によるYAG単結晶蛍光体の引き上げを模式的に示す断面図である。結晶育成装置80は、イリジウム製のルツボ81と、ルツボ81を収容するセラミックス製の筒状容器82と、筒状容器82の周囲に巻回される高周波コイル83とを主として備えている。
【0053】
得られた混合粉末をルツボ81内に入れ、窒素雰囲気中で高周波コイル83により30kWの高周波でルツボ81に誘導電流を生じさせ、ルツボ81を加熱する。これにより混合粉末を溶融し、融液90を得る。
【0054】
次に、YAG単結晶である種結晶91を用意して、その先端を融液90に漬けた後、種結晶91を、10rpmの回転数で回転させながら、1mm/h以下の引き上げ速度、1960℃以上の引き上げ温度で<111>方向にYAG単結晶蛍光体92を引き上げる。YAG単結晶蛍光体92の引き上げは、筒状容器82内に毎分2Lの流量で窒素を流し込み、大気圧下、窒素雰囲気中で行われる。こうして、例えば、直径約2.5cm、長さ約5cmのYAG単結晶蛍光体92が得られる。
【0055】
YAG単結晶蛍光体92を所望の大きさに切り出すことにより、例えば、発光装置に用いる板状の単結晶蛍光体を得ることができる。また、YAG単結晶蛍光体92を粉砕することにより、粒子状の蛍光体を得ることができる。
【0056】
本実施の形態に係る蛍光体を製造するためには、上記の製法において、単結晶の引き上げ温度、及び引き上げ速度が特に重要である。本発明者等は、YAGにGdを添加することにより融点が大きく上昇するため、Gdを添加しないYAG単結晶の通常の引き上げ温度よりも高い1960℃以上の引き上げ温度が必要になることを見出した。また、巣、バブル、クラック等の欠陥の発生を抑えるために、無添加のYAG単結晶の通常の引き上げ速度よりも遅い1mm/h以下の引き上げ速度が求められる。
【0057】
また、本製法によれば、Ceの原料としてCeO
2を用いて単結晶蛍光体92を育成することができる。蛍光体としての機能を発揮するためには、Ceが3価の状態でYAG結晶中に含まれることが求められるため、Ceが3価の状態で含まれるCe
2O
3やCe有機化合物を出発原料として用いる方が、Ceが4価の状態で含まれるCe
2O
3を出発原料として用いるよりも、Ceを3価の状態でYAG結晶中に取り込ませることが容易であると考えられている。一方、Ce
2O
3やCe有機化合物は、CeO
2と比較して非常に高価であるという欠点がある。本製法によれば、CeO
2を用いる場合もCeを3価の状態で結晶に添加することができるため、安価に蛍光体を製造することができる。
【0058】
[第2の実施の形態]
本発明の第2の実施の形態は、第1の実施の形態に係る蛍光体を用いた発光装置である。以下に、第2の実施の形態について、
図6A、
図6Bを参照して説明する。
図6Aは、第2の実施の形態に係る発光装置1の断面図であり、
図6Bは、発光装置1を構成する発光素子10及びその周辺部の断面図である。
【0059】
図6Aに示すように、発光装置1は、LEDからなる発光素子10と、発光素子10の光出射面を覆うように設けられた単一の単結晶からなる蛍光体2と、発光素子10を支持するAl
2O
3等のセラミック基板3と、白色の樹脂からなる本体4と、発光素子10及び蛍光体2を封止する透明樹脂8とを備えて構成されている。
【0060】
セラミック基板3は、例えばタングステン等の金属によってパターン形成された配線部31,32を有している。配線部31,32は、発光素子10のn側電極15A及びp側電極15B(後述)に電気的に接続されている。
【0061】
本体4は、セラミック基板3上に形成され、その中央部に開口部4Aが形成されている。開口部4Aは、セラミック基板3側から外部に向かって徐々に開口幅が大きくなるテーパ状に形成されている。開口部4Aの内面は、発光素子10の発光光を外部に向かって反射する反射面40となっている。
【0062】
図6Bに示すように、発光素子10は、そのn側電極15A及びp側電極15Bがセラミック基板3の配線部31,32にバンプ16,16によって接続されて、セラミック基板3に実装されている。
【0063】
発光素子10は、例えばGaN系半導体化合物を用いたフリップチップ型であり、例えば380〜490nmの波長に光量のピークを有する青色系の光を発光する。この発光素子10は、サファイア等からなる素子基板11の第1の主面11aに、n型GaN層12、発光層13、及びp型GaN層14がこの順に形成されている。n型GaN層12の露出部分にはn側電極15Aが、p型GaN層14の表面にはp側電極15Bが、それぞれ形成されている。
【0064】
発光層13は、n型GaN層12及びp型GaN層14からキャリアが注入されることにより、青色系の光を発する。この発光光は、n型GaN層12及び素子基板11を透過して、素子基板11の第2の主面11bから出射される。すなわち、素子基板11の第2の主面11bは発光素子10の光出射面である。
【0065】
また、素子基板11の第2の主面11b側には、第2の主面11bの全体を覆うように、蛍光体2が配置されている。蛍光体2は、第1の実施の形態に係るYAG系蛍光体からなる。
【0066】
蛍光体2は、その全体が単一の単結晶からなる平板状の単結晶蛍光体である。ここで、単一の単結晶とは、実質的に全体が一つの単結晶とみなせるものをいう。蛍光体2は、第2の主面11bと同等もしくはそれ以上の大きさを有する。また、蛍光体2は、素子基板11に対向する第1の面2aが、素子基板11の第2の主面11bとの間に他の部材を介することなく、素子基板11に直接接触している。蛍光体2と素子基板11とは、分子間力によって接合されている。
【0067】
以上のように構成された発光素子10に通電すると、配線部31、n側電極15A、及びn型GaN層12を介して電子が発光層13に注入され、また配線部32、p側電極15B、及びp型GaN層14を介して正孔が発光層13に注入されて、発光層13が発光する。発光層13の青色の発光光は、n型GaN層12及び素子基板11を透過して素子基板11の第2の主面11bから出射され、蛍光体2の第1の面2aに入射する。
【0068】
第1の面2aから入射した光の一部は、励起光として蛍光体2中の電子を励起する。蛍光体2は、発光素子10からの青色系の光の一部を吸収し、吸収した光を例えば500〜630nmの波長に光量のピークを有する黄色系の光に波長変換する。
【0069】
蛍光体2に入射した青色系の光のうちの一部は蛍光体2に吸収されて波長変換され、黄色系の光として蛍光体2の第2の面2bから出射される。また、蛍光体2に入射した光のうちの残りの一部は蛍光体2に吸収されずに蛍光体2の第2の面2bから出射される。青色と黄色は補色関係にあるので、発光装置1は、青色光と黄色光とを混合した白色光を放射する。
【0070】
また、発光装置1が発する白色光の色温度は、3800〜7000Kであることが望ましい。より望ましい発光装置1の白色光の色温度は、4000〜5500Kである。白色光の色温度は、蛍光体2の付活剤濃度や厚み等によって調整することができる。
【0071】
[第3の実施の形態]
次に、本発明の第3の実施の形態について、
図7A、
図7B、
図7Cを参照して説明する。
図7Aは、第3の実施の形態に係る発光装置1Aの断面図、
図7Bは、発光装置1Aを構成する発光素子10Aの断面図、
図7Cは、発光素子10Aの平面図である。
【0072】
本実施の形態に係る発光装置1Aは、発光素子の発光光を単一の単結晶からなる蛍光体に入射して波長変換する構成は第2の実施の形態に係る発光装置1と共通するが、発光素子の構成及び発光素子に対する蛍光体の配置位置が第2の実施の形態とは異なっている。以下、第2の実施の形態について説明したものと同一の機能及び構成を有する発光装置1Aの構成要素については共通する符号を付して説明を省略する。
【0073】
図7A及び
図7Bに示すように、発光装置1Aは、発光素子10Aの素子基板11がセラミック基板3側を向くように配置されている。また、発光素子10Aの開口部4A側に、蛍光体21が接合されている。蛍光体21は、第2の実施の形態に係る蛍光体11と同様に、第1の実施の形態に係るYAG系蛍光体からなる。
【0074】
図7B及び
図7Cに示すように、発光素子10Aは、素子基板11、n型GaN層12、発光層13、p型GaN層14を有し、さらにp型GaN層14の上にITO(Indium Tin Oxide:酸化インジウムスズ)からなる透明電極140を有している。透明電極140の上にはp側電極15Bが形成されている。透明電極140は、p側電極15Bから注入されたキャリアを拡散してp型GaN層14に注入する。
【0075】
蛍光体21は、
図7Cに示すように、p側電極15B、及びn型GaN層12上に形成されたn側電極15Aに対応する部分に切り欠きを有する略四角形状に形成されている。また、蛍光体21は、透明電極140側の第1の面21aが透明電極140の表面140bに分子間力によって接合されている。蛍光体21の組成は、第1の実施の形態における蛍光体2の組成と同様である。
【0076】
図7Aに示すように、発光素子10Aのn側電極15Aは、ボンディングワイヤ311によってセラミック基板3の配線部31に接続されている。また、発光素子10Aのp側電極15Bは、ボンディングワイヤ321によってセラミック基板3の配線部32に接続されている。
【0077】
以上のように構成された発光素子10Aに通電すると、配線部31、n側電極15A、及びn型GaN層12を介して電子が発光層13に注入され、また配線部32、p側電極15B、透明電極140、及びp型GaN層14を介して正孔が発光層13に注入されて、発光層13が発光する。
【0078】
発光層13の青色の発光光は、p型GaN層14及び透明電極140を透過して透明電極140の表面140bから出射される。すなわち、透明電極140の表面140bは発光素子10Aの光出射面である。透明電極140の表面140bから出射された光は、蛍光体21の第1の面21aに入射する。
【0079】
第1の面21aから蛍光体21に入射した光の一部は、励起光として蛍光体21中の電子を励起する。蛍光体21は、発光素子10Aからの青色光の一部を吸収し、吸収した光を主として黄色光に波長変換する。より詳細には、蛍光体21は、発光素子10Aからの380〜490nmの波長に発光ピークを有する青色系の光を吸収して500〜630nmの波長に発光ピークを有する黄色系の光を発する。
【0080】
このように、蛍光体21に入射した青色光のうちの一部は蛍光体21に吸収されて波長変換され、黄色光として蛍光体21の第2の面21bから出射される。また、蛍光体21に入射した青色光のうちの残りの一部は蛍光体21に吸収されずにそのまま蛍光体21の第2の面21bから出射される。青色と黄色は補色関係にあるので、発光装置1Aは、青色光と黄色光とを混合した白色光を放射する。
【0081】
[第4の実施の形態]
次に、本発明の第4の実施の形態について、
図8を参照して説明する。
図8は、第4の実施の形態に係る発光装置1Bの断面図である。
【0082】
本実施の形態に係る発光装置1Bは、発光素子の発光光を単一の単結晶からなる蛍光体に入射して波長変換する構成は第2の実施の形態に係る発光装置1と共通するが、蛍光体の配置位置が第2の実施の形態とは異なっている。以下、第2又は第3の実施の形態について説明したものと同一の機能及び構成を有する発光装置1Bの構成要素については共通する符号を付して説明を省略する。
【0083】
図8に示すように、発光装置1Bは、セラミック基板3上に、第2の実施の形態と同様の構成を有する発光素子10を備えている。発光素子10は、本体4の開口部4A側に位置する素子基板11(
図6B参照)の第2の主面11bから本体4の開口部4A側に向かって青色光を出射する。
【0084】
本体4には、その開口部4Aを覆うように、蛍光体22が接合されている。蛍光体22は平板状に形成され、本体4の上面4bに接着剤等により結合されている。蛍光体22は、第2の実施の形態に係る蛍光体11と同様に、第1の実施の形態に係るYAG系蛍光体からなる。また、蛍光体22は、発光素子10よりも大きく、全体が実質的に一つの単結晶である。
【0085】
以上のように構成された発光装置1Bに通電すると、発光素子10が発光し、第2の主面11bから蛍光体22に向かって青色光を出射する。蛍光体22は、発光素子10の出射面に面した第1の面22aから発光素子10の青色の発光光を吸収し、黄色の蛍光を第2の面22bから外部に放射する。
【0086】
このように、蛍光体22に入射した青色光のうちの一部は蛍光体22に吸収されて波長変換され、黄色光として蛍光体22の第2の面22bから出射される。また、蛍光体22に入射した青色光のうちの残りの一部は蛍光体22に吸収されずに蛍光体22の第2の面22bから出射される。青色と黄色は補色関係にあるので、発光装置1Bは、青色光と黄色光とを混合した白色光を放射する。
【0087】
本実施の形態においては、発光素子10と蛍光体22とが離間しているので、発光素子10の出射面に蛍光体を接合する場合に比較して大型の蛍光体22を用いることができ、発光装置1Bの組み付けの容易性が高まる。
【0088】
[第5の実施の形態]
次に、本発明の第5の実施の形態について、
図9を参照して説明する。
図9は、第5の実施の形態に係る発光装置1Cの断面図である。
図9に示すように、本実施の形態では、発光素子と、発光素子が実装される基板及び蛍光体との位置関係が第4の実施の形態とは異なっている。以下、第2、第3又は第4の実施の形態について説明したものと同一の機能及び構成を有する発光装置1Cの構成要素については共通する符号を付して説明を省略する。
【0089】
本実施の形態に係る発光装置1Cは、白色の樹脂からなる本体5と、本体5に形成されたスリット状の保持部51に保持された透明基板6と、本体5の開口部5Aを覆うように配置されたYAG系の単一の単結晶からなる蛍光体22と、透明基板6の蛍光体22側の面とは反対側の面に実装された発光素子10Aと、発光素子10Aに通電するための配線部61,62とを備えて構成されている。蛍光体22は、第2の実施の形態に係る蛍光体11と同様に、第1の実施の形態に係るYAG系蛍光体からなる。
【0090】
本体5は、その中心部に曲面上の凹部が形成され、この凹部の表面が発光素子10Aの発光光を蛍光体22側に反射する反射面50となっている。
【0091】
透明基板6は、例えばシリコーン樹脂やアクリル樹脂、PET等透光性をもつ樹脂、又はガラス状物質、サファイア、セラミックス、石英等単結晶若しくは多結晶からなる透光性をもつ部材からなり、発光素子10Aの発光光を透過させる透光性及び絶縁性を有している。また、透明基板6には、配線部61,62の一部が接合されている。発光素子10Aのp側電極及びn側電極と配線部61,62の一端部との間は、ボンディングワイヤ611,621により電気的に接続されている。配線部61,62の他端部は、本体5の外部に引き出されている。
【0092】
以上のように構成された発光装置1Cに通電すると、発光素子10Aが発光し、発光光の一部は透明基板6を透過して蛍光体22の第1の面22aに入射する。また、発光素子10Aの他の一部は本体5の反射面50で反射して透明基板6を透過し、蛍光体22の第1の面22aに入射する。
【0093】
蛍光体22に入射した光のうちの一部は蛍光体22に吸収されて波長変換され、残りの一部は蛍光体22に吸収されずに蛍光体22の第2の面22bから出射される。このように、発光装置1Cは、発光素子10Aが発した青色光と蛍光体22で波長変換された黄色光とを混合した白色光を放射する。
【0094】
本実施の形態によれば、発光素子10Aから蛍光体22側とは反対側に出射した光が反射面50で反射して透明基板6を透過し、蛍光体22に入射するので、発光装置1Cの光取り出し効率が高くなる。
【0095】
[第6の実施の形態]
次に、本発明の第6の実施の形態について、
図10A、
図10Bを参照して説明する。
図10Aは、第6の実施の形態に係る発光装置1Dの断面図、
図10Bは、発光装置1Dを構成する発光素子7の断面図である。
図10Aに示すように、本実施の形態では、発光素子の構成及びその配置が第4の実施の形態とは異なっている。以下、第2、第3又は第4の実施の形態について説明したものと同一の機能及び構成を有する発光装置1Dの構成要素については共通する符号を付して説明を省略する。
【0096】
発光装置1Dには、セラミック基板3に設けられた配線部32上に、発光素子7が配置されている。発光素子7は、
図10Bに示すように、Ga
2O
3基板70、バッファ層71、Siドープのn
+−GaN層72、Siドープのn−AlGaN層73、MQW(Multiple-Quantum Well)層74、Mgドープのp−AlGaN層75、Mgドープのp
+−GaN層76、p電極77をこの順に積層して形成されている。また、Ga
2O
3基板70のバッファ層71と反対側の面には、n電極78が設けられている。
【0097】
Ga
2O
3基板70は、n型の導電型を示すβ−Ga
2O
3からなる。MQW層74は、InGaN/GaNの多重量子井戸構造を有する発光層である。p電極77は、ITO(Indium Tin Oxide)からなる透明電極であり、配線部32と電気的に接続されている。n電極78は、ボンディングワイヤ321によってセラミック基板3の配線部31に接続されている。なお、素子基板としては、β−Ga
2O
3に替えて、SiCを用いてもよい。
【0098】
以上のように構成された発光素子7に通電すると、n電極78、Ga
2O
3基板70、バッファ層71、n
+−GaN層72、及びn−AlGaN層73を介して電子がMQW層74に注入され、またp電極77、p
+−GaN層76、p−AlGaN層75を介して正孔がMQW層74に注入されて、青色系の光を発する。この青色系の発光光は、Ga
2O
3基板70等を透過して発光素子7の出射面7aから出射され、蛍光体22の第1の面22aに入射する。
【0099】
蛍光体22は、発光素子7の出射面に面した第1の面22aから発光素子10の青色系の発光光を吸収し、黄色の蛍光を第2の面22bから外部に放射する。
【0100】
このように、蛍光体22に入射した青色光のうちの一部は蛍光体22に吸収されて波長変換され、黄色光として蛍光体22の第2の面22bから出射される。また、蛍光体22に入射した青色光のうちの残りの一部は蛍光体22に吸収されずに蛍光体22の第2の面22bから出射される。青色と黄色は補色関係にあるので、発光装置1Dは、青色光と黄色光とを混合した白色光を放射する。
【0101】
[第7の実施の形態]
次に、本発明の第7の実施の形態について、
図11を参照して説明する。
図11は、第7の実施の形態に係る発光装置1Eの断面図である。
図11に示すように、本実施の形態では、蛍光体の状態及びその配置が第2の実施の形態とは異なっている。以下、第2の実施の形態について説明したものと同一の機能及び構成を有する発光装置1Eの構成要素については共通する符号を付して説明を省略する。
【0102】
図11に示すように、発光装置1Eは、LEDからなる発光素子10と、発光素子10を支持するセラミック基板3と、白色の樹脂からなる本体4と、発光素子10を封止する透明部材101とを備えて構成されている。
【0103】
透明部材101中には、粒状の蛍光体102が分散している。蛍光体102は、第1の実施の形態の蛍光体の粒状のものであり、例えば、第1の実施の形態において製造されたYAG単結晶蛍光体92を粉砕することにより得られる。
【0104】
透明部材101は、例えば、シリコーン系樹脂やエポキシ系樹脂等の透明樹脂、またはガラス等の透明無機材料である。
【0105】
透明部材101中に分散した蛍光体102は、発光素子10から発せられた青色系の光の一部を吸収し、例えば500〜630nmの波長の黄色系の蛍光を発する。蛍光体102に吸収されなかった青色系の光と、蛍光体102から発せられた黄色系の蛍光が混合し、白色の光が発光装置1Eから発せられる。
【0106】
なお、本実施の形態の透明部材101及び蛍光体102は、他の実施の形態に適用されてもよい。すなわち、本実施の形態の透明部材101及び蛍光体102を、第3の実施の形態の透明樹脂8及び蛍光体21の代わりに用いてもよい。
【0107】
[第8の実施の形態]
次に、本発明の第8の実施の形態について、
図12A、
図12Bを参照して説明する。
図12Aは、第8の実施の形態に係る発光装置1Fの断面図であり、
図12Bは、発光装置1Fを構成する発光素子10及びその周辺部の断面図である。
図12A、
図12Bに示すように、本実施の形態では、蛍光体の状態及びその配置が第2の実施の形態とは異なっている。以下、第2の実施の形態について説明したものと同一の機能及び構成を有する発光装置1Eの構成要素については共通する符号を付して説明を省略する。
【0108】
図12Aに示すように、発光装置1Fは、LEDからなる発光素子10と、発光素子10の光出射面を覆うように設けられた透明部材103と、発光素子10を支持するセラミック基板3と、白色の樹脂からなる本体4と、発光素子10及び透明部材103を封止する透明樹脂8とを備えて構成されている。
【0109】
透明部材103中には、粒状の蛍光体104が分散している。蛍光体104は、第1の実施の形態の蛍光体の粒状のものであり、例えば、第1の実施の形態において製造されたYAG単結晶蛍光体92を粉砕することにより得られる。
【0110】
透明部材103は、例えば、シリコーン系樹脂やエポキシ系樹脂等の透明樹脂、またはガラス等の透明無機材料である。透明部材103は、例えば、第2の実施の形態の蛍光体2と同様の形状、大きさを有する。
【0111】
透明部材103中に分散した蛍光体104は、発光素子10から発せられた青色系の光の一部を吸収し、例えば500〜630nmの波長の黄色系の蛍光を発する。蛍光体104に吸収されなかった青色系の光と、蛍光体104から発せられた黄色系の蛍光が混合し、白色の光が発光装置1Fから発せられる。
【0112】
なお、本実施の形態の透明部材103及び蛍光体104は、他の実施の形態に適用されてもよい。例えば、本実施の形態の透明部材103及び蛍光体104を、第3の実施の形態の蛍光体21、又は第4、5、6の実施の形態の蛍光体22の代わりに用いてもよい。
【0113】
(実施の形態の効果)
上記実施の形態によれば、量子効率や温度消光特性に優れた蛍光体を得ることができる。また、量子効率や温度消光特性に優れた蛍光体を用いることにより、高輝度、高出力、長寿命等の優れた特徴を有する発光装置を得ることができる。
【0114】
以上の説明からも明らかなように、本発明は、上記実施の形態及び図示例に限定されるものではなく、各請求項に記載した範囲内で様々に設計変更が可能である。例えば、蛍光体の製造方法について一例を示したが、本発明の蛍光体は、この一例によって製造されたものに限定されない。また、発光素子及び蛍光体をいわゆる砲弾型の樹脂により封止してもよい。また、一つの発光装置が複数の発光素子を有する構成としてもよい。またさらに、青色系の光を発する発光素子の光を励起光として黄色系の光を発する単一の単結晶からなる蛍光体と、前記蛍光体と異なる色調の光を発する単一の単結晶からなる蛍光体など複数の単一の単結晶からなる蛍光体を組み合わせて発光装置を構成してもよい。