【文献】
DEAN, Brian et al.,Identification of UGT2B9*2 and UGT2B33 isolated from female rhesus monkey liver,Archives of Biochemistry and Biophysics,2004年,Vol.426,p.55-62
【文献】
NAWAJI Mutsuki et al.,Enzymatic α-glucosaminylation of maltooligosaccharides catalyzed by phosphorylase,Carbohydr Research,2008年,Vol.343,p.2692-2696
【文献】
NAWAJI Mutsuki at al.,Enzymatic Synthesis of α-D-Xylosylated Malto-oligosaccharides by Phosphorylase-catalyzed Xylosylati,Journal of Carbohydrate Chemistry,2008年,Vol.27,p.214-222
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
グルカンの少なくとも1つの非還元末端にグルクロン酸残基が結合しているが、非還元末端以外の位置にはグルクロン酸残基が存在しないグルクロン酸含有グルカンであって、該グルカンが分岐状α−1,4グルカンまたは直鎖状α−1,4グルカンである、グルクロン酸含有グルカン。
前記グルカンが分岐状α−1,4グルカンであり、該分岐状α−1,4グルカンの複数の非還元末端のうちの少なくとも1つの非還元末端にグルクロン酸残基が結合している請求項1に記載のグルクロン酸含有グルカン。
前記分岐状α−1,4グルカンが分岐マルトオリゴ糖、デンプン、アミロペクチン、グリコーゲン、デキストリン、酵素合成分岐グルカン及び高度分岐環状デキストリンからなる群より選択される請求項2に記載のグルクロン酸含有グルカン。
請求項1に記載のグルクロン酸含有グルカンの水酸基修飾物であって、該修飾が、前記グルカンのアルコール性水酸基の一部又は全てへの修飾であり、該修飾が、ヒドロキシアルキル化、アルキル化、アセチル化、カルボキシメチル化、硫酸化及びリン酸化からなる群より独立して選択される、水酸基修飾物。
請求項1に記載のグルクロン酸含有グルカン、その水酸基修飾物又はそれらの還元末端修飾物のカルボキシル基修飾物であって、該修飾が、前記グルクロン酸残基のカルボキシル基の一部又は全てへの修飾であり、該修飾が該カルボキシル基とカルボキシル基修飾試薬との反応により得られたものであり、該カルボキシル基修飾試薬は、少なくとも1つのアミン基および少なくとも1つの別の官能基を有する、カルボキシル基修飾物。
前記カルボキシル基修飾試薬が、N−ヒドロキシスクシンイミド、N,N−ジスクシンイミドカーボネート、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール、N−ヒドロキシ−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボキシイミド、N−ヒドロキシフタルイミド、イソブチルクロロホルメートおよび4−ヒドロキシフェニルジメチルスルホニウム・メチルスルフェートからなる群より選択される、請求項6に記載のカルボキシル基修飾物。
α−グルカンホスホリラーゼが、Aquifex aeolicus VF5由来のα−グルカンホスホリラーゼのアミノ酸配列に対して95%以上の配列同一性を有しかつグルクロン酸をグルカンの非還元末端に転移する活性を有する、請求項11に記載の方法。
前記薬効成分が、低分子量有機化合物、タンパク質、ペプチド、抗体、抗体フラグメント、受容体、受容体フラグメント、DNA、RNA、siRNAおよびRNAアプタマーからなる群より選択される、請求項13に記載の医薬品。
請求項1に記載のグルクロン酸含有グルカン、その水酸基修飾物、それらの還元末端修飾物、又はそれらのカルボン酸基修飾物と、薬効成分との結合体であって、該薬効成分は、前記グルクロン酸残基のカルボキシル基のうちの少なくとも1つと、直接共有結合しているか、又はスペーサーを介して結合している、結合体。
前記医薬品DDS用微小粒子状キャリアが、リポソーム、ウイルス粒子、高分子ミセルおよび疎水化高分子ナノゲルからなる群より選択される、請求項17に記載のキャリア。
Xが、グルコサミン、N−アセチルグルコサミン、グルコン酸、ソルビトール、スクロース、トレハロース、シクロデキストリン、環状デキストリン、環状アミロース、デンプン、セルロース、キチン、キトサン、デキストラン、タンパク質、ペプチド、リン脂質、脂肪酸、界面活性剤、アスコルビン酸グルコシド、ハイドロキノングルコシド、ヘスペリジングルコシド、ルチングルコシド、パラニトロフェニルマルトペンタオース、ドデシルマルトース、フラボノイド配糖体類、テルペン配糖体類、フェノール配糖体類、カルコン配糖体類、ステロイド配糖体類、アミノ酸及びドデシルアミンからなる群より選択される、請求項22に記載のグルクロン酸含有グルカン、グルクロン酸含有グルカン水酸基修飾物又はそれらの還元末端修飾物。
前記官能基が、カチオン性官能基またはアニオン性官能基である、請求項24に記載のグルクロン酸含有グルカン、グルクロン酸含有グルカン水酸基修飾物、それらの還元末端修飾物、又はそれらのカルボキシル基修飾物。
前記官能基が、疎水性官能基である、請求項24に記載のグルクロン酸含有グルカン、グルクロン酸含有グルカン水酸基修飾物、それらの還元末端修飾物、又はそれらのカルボキシル基修飾物。
前記官能基が、マレイミド基、チオール基及びアルデヒド基からなる群より選択される、請求項24に記載のグルクロン酸含有グルカン、グルクロン酸含有グルカン水酸基修飾物、それらの還元末端修飾物、又はそれらのカルボキシル基修飾物。
前記カルボキシル基修飾試薬が、N−ヒドロキシスクシンイミド、N,N−ジスクシンイミドカーボネート、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール、N−ヒドロキシ−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボキシイミド、N−ヒドロキシフタルイミド、イソブチルクロロホルメートおよび4−ヒドロキシフェニルジメチルスルホニウム・メチルスルフェートからなる群より選択される、請求項24に記載のグルクロン酸含有グルカン、グルクロン酸含有グルカン水酸基修飾物、それらの還元末端修飾物、又はそれらのカルボキシル基修飾物。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、上記問題点の解決を意図するものである。
【0019】
安全に利用可能な、理想的な薬効成分の改質材料は、以下のような特徴を有しているものと考えられる。
【0020】
(1)薬効成分と結合又は相互作用できる官能基を備えている高分子材料であること;
(2)生体内で分解され得る高分子材料であり、投与後は体内に通常存在する成分にまで分解されるか又は完全に体外へ排泄されて体内に蓄積しないこと;
(3)医薬品に使用できる程度に安定した品質を備えていること。すなわち、構造が特定でき、毎回同じ品質のものを製造できること。
【0021】
本発明者らは、薬効成分の改質材料として最も優れている高分子物質はグルカン(本明細書においてグルカンとは、α−1,4−グルカン、及びα−1,6−結合により分岐したα−1,4−グルカンをいう)であると考えた。動物及び植物が貯蔵用多糖として体内に蓄積するグリコーゲン又は澱粉はグルカンの一種であることから、ヒトの体内常在成分であり、生体適合性に優れている。さらに、グルカンは、体内のα−アミラーゼによる加水分解を受けて、体内常在成分であるグルコース又はマルトオリゴ糖になる。そのため、グルカンは、最も安全な高分子材料といえる。
【0022】
グルカンはその構造の設計が容易であることも有利な点である。グルカンの構造を人為的に加工することも容易である。グルカンの分子量、分岐の程度、環状化などを制御する方法が公知である。グルコース残基がα−1,4−結合のみで結合している完全直鎖状のグルカン、一部のグルコース残基がα−1,6−結合により結合していることにより高頻度に分岐したグルカンなどが入手できる。分岐グルカンにおいては、α−1,6−結合がひとつ増えるたびに、新たな非還元末端がひとつ生ずることになる。このため、高頻度に分岐した分岐グルカン分子は、非常にたくさんの非還元末端を有する。α−1,6−結合の数はグルカン分子の合成の際に所望に応じて適切に調節することが可能である。このようにグルカンは構造がカスタマイズ可能である点も、薬効成分の改質材料として使用する上で有利に作用するものと考えられる。
【0023】
一方、グルカンを薬効成分の改質材料として利用する上での最大の課題は、薬効成分と結合又は相互作用できる官能基を備えていない点である。グルカン中に多数存在する水酸基に対して、化学反応によりカチオン性又はアニオン性の官能基を導入することは可能である。しかし、このような手法を用いる場合、官能基の導入位置はランダムであり、同一品質のものを得ることが困難であり、医薬品への利用には好ましくない。さらに、化学的に置換基が導入されたグルカンはアミラーゼによる分解が抑制されること、分解によって生じる、置換を受けたグルコースは、通常体内に存在する成分ではなく、安全性への懸念が生じてしまうことなどの問題もある。
【0024】
本発明者らは、グルクロン酸をグルカン鎖の非還元末端に導入することが、最も理想的なグルカンの改質方法であると考えた。グルクロン酸はカルボキシル基を有する単糖であり、体内に通常存在する成分であり、安全性への懸念がないからである。グルクロン酸のカルボキシル基は、薬効成分との結合又は相互作用に利用可能である。グルカンの非還元末端に、グルクロン酸を選択的に導入できれば、導入位置がランダムではないため、同一品質のものを再現性よく製造可能であり、医薬品への利用に適している。グルカンへのグルクロン酸残基の導入量を増やしたい場合には、分岐頻度の高いグルカンを使用することなどにより導入量の調整が可能である。さらに、導入位置が末端であるため、グルカンのα−アミラーゼでの分解性にも影響はないと考えられる。高度に分岐した分岐グルカンの場合、非還元末端はグルカン分子の最外層に分布しているので、導入されたグルクロン酸残基は、グルクロン酸残基導入後のグルカン分子の最外層に分布し、薬効成分との相互作用や結合に理想的となると考えられる。このように、非還元末端に選択的にグルクロン酸残基が結合したグルカンは、優れた薬効成分の改質材料になりうる可能性を有している。しかしながら、非還元末端にグルクロン酸残基が結合したグルカンを製造する方法は知られておらず、その機能を確認することも出来ていなかった。それゆえ、本発明者らは、グルカンの非還元末端に選択的に官能基を導入する技術を探索していた。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究したところ、Aquifex aeolicus VF5由来のα−グルカンホスホリラーゼが、その本来の基質ではないグルクロン酸−1−リン酸に作用し、グルクロン酸残基を直鎖状グルカンの非還元末端に1分子のみ転移する反応を触媒できることを見出し、これに基づいて本発明を完成させた(例えば、
図1参照)。さらに本発明者らは、Aquifex aeolicus VF5由来のα−グルカンホスホリラーゼが、グルクロン酸−1−リン酸に作用し、グルクロン酸残基を分岐状グルカンの1つ以上の非還元末端に転移する反応を触媒できることを見出し、これに基づいて本発明を完成させた(例えば、
図2参照)。
【0026】
本発明は、新規なウロン酸含有グルカン、その修飾物およびそれらの結合体を開発することを目的とする。本発明のウロン酸含有グルカン、その修飾物およびそれらの結合体は、非還元末端のみにウロン酸残基が結合している。本発明のグルクロン酸含有グルカン、その修飾物およびそれらの結合体は、非還元末端のみにグルクロン酸残基が結合している。本発明においては、α−グルカンホスホリラーゼ(EC2.4.1.1)を用いてグルクロン酸残基の転移を行っている。このため、グルカンへのグルクロン酸残基の結合はα結合である。従来アグリコンへグルクロン酸を転移可能な酵素としては、EC2.4.1.17に分類されるグルクロノシルトランスフェラーゼ(Glucuronosyl transferase,UDP−glucuronate β−D−glucuronosyltransferase)がよく知られているが、グルクロノシルトランスフェラーゼはグルクロン酸残基をβ結合でアグリコンへ転移する酵素である。そのため、本発明の方法で使用するα−グルカンホスホリラーゼとは、グルクロン酸残基をアグリコンへ結合する際の立体配置が異なる。さらに、グルクロノシルトランスフェラーゼはマルトオリゴ糖などのグルカンを受容体にすることができない。そのため、グルクロノシルトランスフェラーゼを使用しても、グルクロン酸残基が結合したグルカンを得ることはできない。従って、α−グルカンホスホリラーゼを使用することによって初めてグルクロン酸含有グルカンを生成することができた。本発明のウロン酸含有グルカン、その修飾物およびそれらの結合体はウロン酸を末端に有するため、グルカン末端が負電荷を帯び、グルカンの物理化学的性質が変化する。本ウロン酸含有グルカン、その修飾物およびそれらの結合体は食品、化粧品、医薬品などに幅広く利用が期待される。
【0027】
本発明により、例えば以下が提供される:
(項目1) グルカンの少なくとも1つの非還元末端にグルクロン酸残基が結合しているが、非還元末端以外の位置にはグルクロン酸残基が存在しないグルクロン酸含有グルカンであって、該グルカンが分岐状α−1,4グルカンまたは直鎖状α−1,4グルカンである、グルクロン酸含有グルカン。
(項目2) 前記グルカンが分岐状α−1,4グルカンであり、該分岐状α−1,4グルカンの複数の非還元末端のうちの少なくとも1つの非還元末端にグルクロン酸残基が結合している項目1に記載のグルクロン酸含有グルカン。
(項目3) 前記分岐状α−1,4グルカンが分岐マルトオリゴ糖、デンプン、アミロペクチン、グリコーゲン、デキストリン、酵素合成分岐グルカン及び高度分岐環状デキストリンからなる群より選択される項目2に記載のグルクロン酸含有グルカン。
(項目4) 項目1〜3のいずれか1項に記載のグルクロン酸含有グルカンの水酸基修飾物であって、該修飾が、前記グルカンのアルコール性水酸基の一部又は全てへの修飾であり、該修飾が、ヒドロキシアルキル化、アルキル化、アセチル化、カルボキシメチル化、硫酸化及びリン酸化からなる群より独立して選択される、水酸基修飾物。
(項目5) 項目1〜3のいずれか1項に記載のグルクロン酸含有グルカン又はその水酸基修飾物の還元末端修飾物。
(項目6) 項目1〜3のいずれか1項に記載のグルクロン酸含有グルカン、その水酸基修飾物又はそれらの還元末端修飾物のカルボキシル基修飾物であって、該修飾が、前記グルクロン酸残基のカルボキシル基の一部又は全てへの修飾であり、該修飾が該カルボキシル基とカルボキシル基修飾試薬との反応により得られたものであり、該カルボキシル基修飾試薬は、少なくとも1つのアミン基および少なくとも1つの別の官能基を有する、カルボキシル基修飾物。
(項目7) 前記官能基が、カチオン性官能基またはアニオン性官能基である、項目6に記載のカルボキシル基修飾物。
(項目8) 前記官能基が、疎水性官能基である、項目6に記載のカルボキシル基修飾物。
(項目9) 前記官能基が、マレイミド基、チオール基及びアルデヒド基からなる群より選択される、項目6に記載のカルボキシル基修飾物。
(項目10) 前記カルボキシル基修飾試薬が、N−ヒドロキシスクシンイミド、N,N−ジスクシンイミドカーボネート、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール、N−ヒドロキシ−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボキシイミド、N−ヒドロキシフタルイミド、イソブチルクロロホルメートおよび4−ヒドロキシフェニルジメチルスルホニウム・メチルスルフェートからなる群より選択される、項目6に記載のカルボキシル基修飾物。
(項目11) グルカンとグルクロン酸−1−リン酸を含む水溶液にα−グルカンホスホリラーゼを作用させることを特徴とするグルクロン酸含有グルカンの製造方法。
(項目12) α−グルカンホスホリラーゼが、Aquifex aeolicus VF5由来のα−グルカンホスホリラーゼのアミノ酸配列に対して95%以上の配列同一性を有しかつグルクロン酸をグルカンの非還元末端に転移する活性を有する、項目11に記載の方法。
(項目13) 項目1〜3のいずれか1項に記載のグルクロン酸含有グルカン、その水酸基修飾物、それらの還元末端修飾物、又はそれらのカルボン酸基修飾物と、薬効成分とを含む、医薬品。
(項目14) 前記薬効成分が、低分子量有機化合物、タンパク質、ペプチド、抗体、抗体フラグメント、受容体、受容体フラグメント、DNA、RNA、siRNAおよびRNAアプタマーからなる群より選択される、項目13に記載の医薬品。
(項目15) 項目1〜3のいずれか1項に記載のグルクロン酸含有グルカン、その水酸基修飾物、それらの還元末端修飾物、又はそれらのカルボン酸基修飾物と、薬効成分との結合体であって、該薬効成分は、前記グルクロン酸残基のカルボキシル基のうちの少なくとも1つと、直接共有結合しているか、又はスペーサーを介して結合している、結合体。
(項目16) 項目1〜3のいずれか1項に記載のグルクロン酸含有グルカン、その水酸基修飾物、それらの還元末端修飾物、又はそれらのカルボン酸基修飾物を含む、臨床診断用組成物。
(項目17) 項目1〜3のいずれか1項に記載のグルクロン酸含有グルカン、その水酸基修飾物、それらの還元末端修飾物、又はそれらのカルボン酸基修飾物を含む、医薬品DDS用微小粒子状キャリア。
(項目18) 前記医薬品DDS用微小粒子状キャリアが、リポソーム、ウイルス粒子、高分子ミセルおよび疎水化高分子ナノゲルからなる群より選択される、項目17に記載のキャリア。
(項目19) 項目1〜3のいずれか1項に記載のグルクロン酸含有グルカン、その水酸基修飾物、それらの還元末端修飾物、又はそれらのカルボン酸基修飾物を含有する臨床診断用造影剤。
(項目20) 式5からなる構造を有するグルクロン酸含有グルカン:
【0028】
【化3】
【0029】
ここでmは1以上の整数であり、R
1は独立して、H、式Aの構造を有するグルカン鎖または式Bの構造を有するグルカン鎖であり、
【0030】
【化4】
【0031】
式Aにおいて、kは1以上の整数であり、R
2は独立して、H、式Aの構造を有するグルカン鎖または式Bの構造を有するグルカン鎖であり、
【0032】
【化5】
【0033】
式Bにおいて、sは1以上の整数であり、R
3は独立して、H、式Aの構造を有するグルカン鎖または式Bの構造を有するグルカン鎖である、グルクロン酸含有グルカン。
(項目21) 式6からなる構造を有する、グルクロン酸含有グルカン又はグルクロン酸含有グルカン水酸基修飾物:
【0034】
【化6】
【0035】
ここでmは1以上の整数であり、R
1は独立して、H、ヒドロキシアルキル基、アルキル基、アセチル基、カルボキシメチル基、硫酸基、リン酸基、式6Aの構造を有するグルカン鎖または式6Bの構造を有するグルカン鎖であり、
【0036】
【化7】
【0037】
式6Aにおいて、kは1以上の整数であり、R
2は独立して、H、ヒドロキシアルキル基、アルキル基、アセチル基、カルボキシメチル基、硫酸基、リン酸基、式6Aの構造を有するグルカン鎖または式6Bの構造を有するグルカン鎖であり、
【0038】
【化8】
【0039】
式6Bにおいて、sは1以上の整数であり、R
3は独立して、H、ヒドロキシアルキル基、アルキル基、アセチル基、カルボキシメチル基、硫酸基、リン酸基、式6Aの構造を有するグルカン鎖または式6Bの構造を有するグルカン鎖であり、
式6、式6Aおよび式6Bにおいて、R
4は、H、ヒドロキシアルキル基、アルキル基、アセチル基、カルボキシメチル基、硫酸基およびリン酸基からなる群から独立して選択される、グルクロン酸含有グルカンまたはグルクロン酸含有グルカン水酸基修飾物。
(項目22) 式7からなる構造を有する、グルクロン酸含有グルカン、グルクロン酸含有グルカン水酸基修飾物又はそれらの還元末端修飾物:
【0040】
【化9】
【0041】
ここでmは1以上の整数であり、R
1は独立して、H、ヒドロキシアルキル基、アルキル基、アセチル基、カルボキシメチル基、硫酸基、リン酸基、式6Aの構造を有するグルカン鎖または式6Bの構造を有するグルカン鎖であり、
【0042】
【化10】
【0043】
式6Aにおいて、kは1以上の整数であり、R
2は独立して、H、ヒドロキシアルキル基、アルキル基、アセチル基、カルボキシメチル基、硫酸基、リン酸基、式6Aの構造を有するグルカン鎖または式6Bの構造を有するグルカン鎖であり、
【0044】
【化11】
【0045】
式6Bにおいて、sは1以上の整数であり、R
3は独立して、H、ヒドロキシアルキル基、アルキル基、アセチル基、カルボキシメチル基、硫酸基、リン酸基、式6Aの構造を有するグルカン鎖または式6Bの構造を有するグルカン鎖であり、
式7、式6Aおよび式6Bにおいて、R
4は、H、ヒドロキシアルキル基、アルキル基、アセチル基、カルボキシメチル基、硫酸基およびリン酸基からなる群から独立して選択され、
式7において、Xは、単糖、非還元性糖質類、生体適合性高分子、リポソーム構成成分、配糖体およびアミン基含有低分子量物質からなる群より独立して選択される、グルクロン酸含有グルカン、グルクロン酸含有グルカン水酸基修飾物又はそれらの還元末端修飾物。
(項目23) Xが、グルコサミン、N−アセチルグルコサミン、グルコン酸、ソルビトール、スクロース、トレハロース、シクロデキストリン、環状デキストリン、環状アミロース、デンプン、セルロース、キチン、キトサン、デキストラン、タンパク質、ペプチド、リン脂質、脂肪酸、界面活性剤、アスコルビン酸グルコシド、ハイドロキノングルコシド、ヘスペリジングルコシド、ルチングルコシド、パラニトロフェニルマルトペンタオース、ドデシルマルトース、フラボノイド配糖体類、テルペン配糖体類、フェノール配糖体類、カルコン配糖体類、ステロイド配糖体類、アミノ酸及びドデシルアミンからなる群より選択される、項目22に記載のグルクロン酸含有グルカン、グルクロン酸含有グルカン水酸基修飾物又はそれらの還元末端修飾物。
(項目24) 式8からなる構造を有する、グルクロン酸含有グルカン、グルクロン酸含有グルカン水酸基修飾物、それらの還元末端修飾物、又はそれらのカルボキシル基修飾物:
【0046】
【化12】
【0047】
ここでmは1以上の整数であり、R
1は独立して、H、ヒドロキシアルキル基、アルキル基、アセチル基、カルボキシメチル基、硫酸基、リン酸基、式6Aの構造を有するグルカン鎖、式8Aの構造を有するグルカン鎖、または式6Bの構造を有するグルカン鎖であり、
【0048】
【化13】
【0049】
式6Aにおいて、kは1以上の整数であり、R
2は独立して、H、ヒドロキシアルキル基、アルキル基、アセチル基、カルボキシメチル基、硫酸基、リン酸基、式6Aの構造を有するグルカン鎖、式8Aの構造を有するグルカン鎖、または式6Bの構造を有するグルカン鎖であり、
【0050】
【化14】
【0051】
式8Aにおいて、pは1以上の整数であり、R
5は独立して、H、ヒドロキシアルキル基、アルキル基、アセチル基、カルボキシメチル基、硫酸基、リン酸基、式6Aの構造を有するグルカン鎖、式8Aの構造を有するグルカン鎖、または式6Bの構造を有するグルカン鎖であり、
【0052】
【化15】
【0053】
式6Bにおいて、sは1以上の整数であり、R
3は独立して、H、ヒドロキシアルキル基、アルキル基、アセチル基、カルボキシメチル基、硫酸基、リン酸基、式6Aの構造を有するグルカン鎖、式8Aの構造を有するグルカン鎖、または式6Bの構造を有するグルカン鎖であり、
式8、式6A、式8A、および式6Bにおいて、R
4は、H、ヒドロキシアルキル基、アルキル基、アセチル基、カルボキシメチル基、硫酸基およびリン酸基からなる群から独立して選択され、
式8において、Xは、単糖、非還元性糖質類、生体適合性高分子、リポソーム構成成分、配糖体およびアミン基含有低分子量物質からなる群より独立して選択され、
式8及び式8Aにおいて、Yは、薬効成分との結合のために導入される置換基であり、Yは、カルボキシル基修飾試薬との反応により得られ、該カルボキシル基修飾試薬は、少なくとも1つのアミン基および少なくとも1つの別の官能基を有する、グルクロン酸含有グルカン、グルクロン酸含有グルカン水酸基修飾物、それらの還元末端修飾物、又はそれらのカルボキシル基修飾物。
(項目25) 前記官能基が、カチオン性官能基またはアニオン性官能基である、項目24に記載のグルクロン酸含有グルカン、グルクロン酸含有グルカン水酸基修飾物、それらの還元末端修飾物、又はそれらのカルボキシル基修飾物。
(項目26) 前記官能基が、疎水性官能基である、項目24に記載のグルクロン酸含有グルカン、グルクロン酸含有グルカン水酸基修飾物、それらの還元末端修飾物、又はそれらのカルボキシル基修飾物。
(項目27) 前記官能基が、マレイミド基、チオール基及びアルデヒド基からなる群より選択される、項目24に記載のグルクロン酸含有グルカン、グルクロン酸含有グルカン水酸基修飾物、それらの還元末端修飾物、又はそれらのカルボキシル基修飾物。
(項目28) 前記カルボキシル基修飾試薬が、N−ヒドロキシスクシンイミド、N,N−ジスクシンイミドカーボネート、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール、N−ヒドロキシ−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボキシイミド、N−ヒドロキシフタルイミド、イソブチルクロロホルメートおよび4−ヒドロキシフェニルジメチルスルホニウム・メチルスルフェートからなる群より選択される、項目24に記載のグルクロン酸含有グルカン、グルクロン酸含有グルカン水酸基修飾物、それらの還元末端修飾物、又はそれらのカルボキシル基修飾物。
【0054】
本発明により、例えば以下もまた提供される:
(項目1)グルカンの非還元末端にウロン酸残基が結合しているウロン酸含有グルカン。(項目2)グルカンが直鎖状グルカンである項目1に記載のウロン酸含有グルカン。
(項目3)直鎖状グルカンがマルトオリゴ糖、アミロースおよび酵素合成アミロースからなる群より選択される項目2に記載のウロン酸含有グルカン。
(項目4)グルカンが分岐状グルカンであり、分岐状グルカンの複数の非還元末端の少なくともひとつの非還元末端にウロン酸残基が結合している項目1に記載のウロン酸含有グルカン。
(項目5)分岐状グルカンが分岐マルトオリゴ糖、デンプン、アミロペクチン、グリコーゲン、デキストリン、酵素合成分岐グルカンおよびアミロースがグラフトされたグルカンからなる群より選択される項目4に記載のウロン酸含有グルカン。
(項目6)非還元末端のウロン酸残基のカルボキシル基がさらに修飾されているウロン酸含有グルカン。
(項目7)ウロン酸残基がグルクロン酸残基である項目1〜6に記載のウロン酸含有グルカン。
(項目8)グルカンとグルクロン酸−1−リン酸を含む水溶液にα−グルカンホスホリラーゼを作用させることを特徴とするウロン酸含有グルカンの製造方法。
(項目9)α−グルカンホスホリラーゼが、Aquifex aeolicus VF5由来のα−グルカンホスホリラーゼである、項目8に記載のウロン酸含有グルカンの製造方法。
(項目10)項目1〜7のいずれか1項に記載のウロン酸含有グルカンの食品用途における利用。
(項目11)項目1〜7のいずれか1項に記載のウロン酸含有グルカンの化粧品用途における利用。
(項目12)項目1〜7のいずれか1項に記載のウロン酸含有グルカンの医薬品用途における利用。
(項目13)項目1〜7のいずれか1項に記載のウロン酸含有グルカンの化学品用途における利用。
【発明の効果】
【0055】
本発明のウロン酸含有グルカン、その水酸基修飾物、それらの還元末端修飾物、それらのカルボキシル基修飾物およびそれらの結合体は、グルカンの非還元末端のみにウロン酸残基が結合している。本ウロン酸含有グルカン、その水酸基修飾物、それらの還元末端修飾物、それらのカルボキシル基修飾物およびそれらの結合体はウロン酸を末端に有するため、グルカン末端が負電荷を帯び、グルカンの物理化学的性質が変化する。本ウロン酸含有グルカン、その水酸基修飾物、それらの還元末端修飾物、それらのカルボキシル基修飾物およびそれらの結合体は食品、化粧品、医薬品などに幅広く利用が期待される。
【0056】
本発明のウロン酸含有グルカン、その水酸基修飾物、それらの還元末端修飾物、それらのカルボキシル基修飾物は、生体内で分解され、血中半減期が非修飾グルカンよりも長いため、薬効成分、臨床診断剤、造影剤およびDDS用微小粒子状キャリアの改質材料として有用である。本発明のウロン酸含有グルカン、その水酸基修飾物、それらの還元末端修飾物、それらのカルボキシル基修飾物は、酵素反応により構造を制御し得ることから、品質安定性にも優れている。
【0057】
本発明のウロン酸含有グルカンおよびその修飾物は、グルカンの非還元末端のみにウロン酸残基が結合しているため、他の分子と相互作用する部位とアミラーゼにより分解を受ける部位とを構造的に分離できている。このためDDSキャリアとして体内で利用しても体内の酵素によって分解されるため、体内に過度に長期間留まって残留性の問題を引き起こすことがない。
【発明を実施するための形態】
【0060】
本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。
【0061】
(1.材料)
(1.1)グルカンおよびグルカンの修飾物
「グルカン」とは、本明細書中で用いられる場合、D−グルコースを構成単位とする多糖である。本発明においては、グルカンとしてα−D−グルカンを使用することが好ましい。本明細書においては、特に断りのない限り、「グルカン」とは、「α−D−グルカン」をいう。α−D−グルカンは、主にα−1,4−グルコシド結合によって2以上のD−グルコース単位が連結されているグルカンである。本発明で使用される好ましいグルカンは、直鎖状グルカンおよび分岐状グルカンであり、より好ましくは直鎖状α−1,4−グルカン及びα−1,6−結合により分岐したα−1,4−グルカン(分岐状α−1,4グルカンともいう)である。本発明で使用されるグルカンは、α−1,3−結合を含まないことが好ましい。
【0062】
直鎖状α−D−1,4−グルカンとは、D−グルコース単位がα−1,4−グルコシド結合のみで2糖単位以上結合されている多糖をいう。本明細書中では、特に断りのない限り、直鎖状α−D−1,4−グルカンを直鎖状グルカン又は直鎖状α−1,4グルカンという。マルトオリゴ糖及びアミロースは、直鎖状グルカンおよびα−1,4−グルカンに分類される。直鎖状グルカンは、ひとつの非還元末端を有する。
【0063】
本発明に好適に利用される直鎖状グルカンの例としては、マルトオリゴ糖およびアミロースが挙げられる。
【0064】
本明細書中では、用語「マルトオリゴ糖」とは、約2個〜約10個のD−グルコースが脱水縮合して生じた物質であって、D−グルコース単位がα−1,4結合によって連結された物質をいう。マルトオリゴ糖の重合度は、好ましくは約3以上であり、より好ましくは約4以上であり、さらに好ましくは約5以上である。マルトオリゴ糖の重合度は、例えば、約10以下、約9以下、約8以下、約7以下などであってもよい。マルトオリゴ糖の例としては、マルトース、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、マルトヘプタオース、マルトオクタオース、マルトノナオース、マルトデカオースなどのマルトオリゴ糖が挙げられる。
【0065】
本明細書中では用語「アミロース」とは、α−1,4結合によって連結されたグルコース単位から構成される直鎖分子をいう。アミロースは、天然の澱粉中に含まれる。アミロースは、天然の澱粉から抽出した天然アミロースであってもよく、酵素反応によって合成したアミロース(本明細書中では「酵素合成アミロース」ともいう)であってもよい。天然アミロースは、分岐部分を含む場合があるが、酵素合成アミロースは分岐を含まない。さらに、天然アミロースは分散度が大きく分子量にばらつきがあるが、酵素合成アミロース(特に、国際公開第WO02/097107号パンフレットに記載されるSP−GP法によって合成した酵素合成アミロース)は分散度が小さく極めて均一な分子量を有する。そのため、本発明においては、酵素合成アミロースを使用することが好ましい。本発明において使用されるアミロースの重合度は、好ましくは約2以上であり、より好ましくは約3以上であり、さらに好ましくは約10以上であり、最も好ましくは約30以上である。本発明において使用されるアミロースの重合度は、好ましくは約2000以下であり、より好ましくは約1000以下であり、さらに好ましくは約700以下であり、最も好ましくは約500以下である。
【0066】
本明細書中では用語「分岐状α−D−グルカン」とは、D−グルコースがα−1,4−グルコシド結合により連結した直鎖状グルカンが、α−1,4−グルコシド結合以外の結合により分岐しているグルカンをいう。本明細書中では、特に断りのない限り、分岐状α−D−グルカンを分岐状グルカンという。分岐結合は、α−1,6−グルコシド結合、α−1,3−グルコシド結合、またはα−1,2−グルコシド結合のいずれかであるが、最も好ましくはα−1,6−グルコシド結合である。本発明で使用する分岐状α−D−グルカンはα−1,3−グルコシド結合およびα−1,2−グルコシド結合を含まないことが好ましい。分岐状グルカンは、通常、分岐結合の数と同数の非還元末端を有する。α−1,6−グルコシド結合のみを選択的に分解する酵素(例えば、イソアミラーゼ、プルラナーゼなど)で分岐状グルカンを処理すると、直鎖状α−1,4−グルカンの混合物に分解できる。これらを分岐グルカンの単位鎖といい、その重合度を単位鎖長という。
【0067】
本発明に好適に利用される分岐状グルカンの例としては、分岐マルトオリゴ糖、デンプン、アミロペクチン、グリコーゲン、デキストリン、酵素合成分岐グルカン及び高度分岐環状デキストリンなどが挙げられる。
【0068】
本明細書中では用語「分岐マルトオリゴ糖」とは、約3個〜約10個のD−グルコースが脱水縮合して生じた物質であって、D−グルコース単位が主にα−1,4結合によって連結されており、かつ1つ以上の分岐結合を含む物質をいう。分岐マルトオリゴ糖の重合度は、好ましくは約4以上であり、より好ましくは約5以上であり、さらに好ましくは約6以上である。分岐マルトオリゴ糖の重合度は、例えば、約10以下、約9以下、約8以下、約7以下などであってもよい。
【0069】
本明細書中では用語「デンプン」とは、アミロースとアミロペクチンとの混合物をいう。デンプンとしては、通常市販されているデンプンであればどのようなデンプンでも用いられ得る。デンプンに含まれるアミロースとアミロペクチンとの比率は、デンプンを産生する植物の種類によって異なる。モチゴメ、モチトウモロコシなどの有するデンプンのほとんどはアミロペクチンである。他方、アミロースのみからなり、かつアミロペクチンを含まないデンプンは、通常の植物からは得られない。デンプンは、天然のデンプン、デンプン分解物および化工デンプンに区分される。
【0070】
天然のデンプンは、原料により、いも類デンプンおよび穀類デンプンに分けられる。いも類デンプンの例としては、馬鈴薯デンプン、タピオカデンプン、甘藷デンプン、くずデンプン、およびわらびデンプンなどが挙げられる。穀類デンプンの例としては、コーンスターチ、小麦デンプン、および米デンプンなどが挙げられる。天然のデンプンは、ハイアミロースデンプン(例えば、ハイアミロースコーンスターチ)またはワキシーデンプンであってもよい。デンプンはまた、可溶性デンプンであってもよい。可溶性デンプンとは、天然のデンプンに種々の処理を施すことにより得られる、水溶性のデンプンをいう。デンプンは、可溶性デンプン、ワキシーデンプンおよびハイアミロースデンプンからなる群から選択され得る。デンプンはまた、化工デンプンであってもよい。
【0071】
本発明において使用されるデンプンの重合度は、好ましくは約1000以上であり、より好ましくは約5000以上であり、さらに好ましくは約10000以上であり、最も好ましくは約20000以上である。本発明において使用されるデンプンの重合度は、好ましくは約1×10
7以下であり、より好ましくは約3×10
6以下であり、さらに好ましくは約1×10
6以下であり、最も好ましくは約3×10
5以下である。
【0072】
アミロペクチンとは、α−1,4結合によって連結されたグルコース単位に、α−1,6結合でグルコース単位が連結された、分岐状分子である。アミロペクチンは天然のデンプン中に含まれる。アミロペクチンとしては、例えば、アミロペクチン100%からなるワキシーコーンスターチが用いられ得る。本発明において使用されるアミロペクチンの重合度は、好ましくは約1000以上であり、より好ましくは約5000以上であり、さらに好ましくは約10000以上であり、最も好ましくは約20000以上である。本発明において使用されるアミロペクチンの重合度は、好ましくは約1×10
7以下であり、より好ましくは約3×10
6以下であり、さらに好ましくは約1×10
6以下であり、最も好ましくは約3×10
5以下である。
【0073】
グリコーゲンは、グルコースから構成されるグルカンの一種であり、高頻度の枝分かれを有するグルカンである。グリコーゲンは、動植物の貯蔵多糖としてほとんどあらゆる細胞に顆粒状態で広く分布している。グリコーゲンは、植物中では、例えば、トウモロコシの種子などに存在する。グリコーゲンは、代表的には、グルコースのα−1,4−結合の糖鎖に対して、グルコースおよそ3単位おきに1本程度の割合で、平均重合度12〜18のグルコースのα−1,4−結合の糖鎖がα−1,6−結合で結合している。また、α−1,6−結合で結合している分枝鎖にも同様にグルコースのα−1,4−結合の糖鎖がα−1,6−結合で結合している。そのため、グリコーゲンは網状構造を形成する。グリコーゲンは酵素合成することも可能である。本発明において使用されるグリコーゲンの重合度は、好ましくは約500以上であり、より好ましくは約1000以上であり、さらに好ましくは約2000以上であり、最も好ましくは約3000以上である。本発明において使用されるグリコーゲンの重合度は、好ましくは約1×10
7以下であり、より好ましくは約3×10
6以下であり、さらに好ましくは約1×10
6以下であり、最も好ましくは約3×10
5以下である。
【0074】
デキストリンは、グルコースから構成されるグルカンの一種であり、デンプンとマルトースとの中間の複雑さをもつグルカンである。デキストリンは、デンプンを酸、アルカリまたは酵素によって部分的に分解することによって得られる。本発明において使用されるデキストリンの重合度は、好ましくは約10以上であり、より好ましくは約20以上であり、さらに好ましくは約30以上であり、最も好ましくは約50以上である。本発明において使用されるデキストリンの重合度は、好ましくは約10000以下であり、より好ましくは約9000以下であり、さらに好ましくは約7000以下であり、最も好ましくは約5000以下である。
【0075】
酵素合成分岐グルカンとは、酵素を使用して合成された分岐グルカンをいう。SP−GP法でのアミロースの合成の際に反応液中にブランチングエンザイムを加えることにより、生成物を分岐させることができる。分岐の程度はブランチングエンザイムの添加量によって調節され得る。酵素合成分岐グルカンは、天然の分岐グルカンと比較して均一な構造を有しているため、製薬材料として使用する際に非常に有利である。例えば、本発明において使用される酵素合成分岐グルカンの重合度は、好ましくは約20以上であり、より好ましくは約50以上であり、さらに好ましくは約100以上であり、最も好ましくは約200以上である。本発明において使用される酵素合成分岐グルカンの重合度は、好ましくは約2×10
5以下であり、より好ましくは約1×10
5以下であり、さらに好ましくは約5×10
4以下であり、最も好ましくは約3×10
4以下である。
【0076】
本明細書中では、用語「高度分岐環状グルカン」とは、内分岐環状構造部分と外分岐構造部分とを有する、重合度が50以上であるグルカンをいう。高度分岐環状グルカンは、分子全体として少なくとも1つの分岐を有すればよい。本発明で使用され得る高度分岐環状グルカンの分子全体としての重合度は、好ましくは約50以上であり、より好ましくは約60以上であり、さらに好ましくは約100以上である。本発明で使用され得る高度分岐環状グルカンの分子全体としての重合度は、好ましくは約10,000以下であり、より好ましくは約7,000以下であり、さらに好ましくは約5,000以下である。
【0077】
高度分岐環状グルカンに存在する、内分岐環状構造部分の重合度は、好ましくは約10以上であり、より好ましくは約15以上であり、さらに好ましくは約20以上である。高度分岐環状グルカンに存在する、内分岐環状構造部分の重合度は、好ましくは約500以下であり、より好ましくは約300以下であり、さらに好ましくは約100以下である。
【0078】
高度分岐環状グルカンに存在する、外分岐構造部分の重合度は、好ましくは約40以上であり、より好ましくは約100以上であり、さらに好ましくは約300以上であり、さらにより好ましくは約500以上である。高度分岐環状グルカンに存在する、外分岐構造部分の重合度は、好ましくは約3000以下であり、より好ましくは約1000以下であり、さらに好ましくは約500以下であり、さらにより好ましくは約300以下である。
【0079】
高度分岐環状グルカンに存在する、内分岐環状構造部分のα−1,6−グルコシド結合は少なくとも1個あればよく、例えば1個以上、5個以上、10個以上などであり得る;内分岐環状構造部分のα−1,6−グルコシド結合は例えば約200個以下、約50個以下、約30個以下、約15個以下、約10個以下などであり得る。
【0080】
高度分岐環状グルカンは、1種類の重合度のものを単独で用いてもよいし、種々の重合度のものの混合物として用いてもよい。好ましくは、高度分岐環状グルカンの重合度は、最大の重合度のものと最小の重合度のものとの重合度の比が約100以下、より好ましくは約50以下、さらにより好ましくは約10以下である。
【0081】
高度分岐環状グルカンは、好ましくは、内分岐環状構造部分と外分岐構造部分とを有する、重合度が50から5000の範囲にあるグルカンであって、ここで、内分岐環状構造部分とはα−1,4−グルコシド結合とα−1,6−グルコシド結合とで形成される環状構造部分であり、そして外分岐構造部分とは、該内分岐環状構造部分に結合した非環状構造部分である、グルカンである。この外分岐構造部分の各単位鎖の重合度は、平均で好ましくは約10以上であり、好ましくは約20個以下である。高度分岐環状グルカンおよびその製造方法は、特開平8−134104号(特許第3107358号)に詳細に記載されており、その記載に従って製造され得る。高度分岐環状グルカンは、例えば、江崎グリコ株式会社から「クラスターデキストリン」として市販されている。本発明において使用される高度分岐環状デキストリンの重合度は、好ましくは約50以上であり、より好ましくは約70以上であり、さらに好ましくは約100以上であり、最も好ましくは約150以上である。本発明において使用される高度分岐環状デキストリンの重合度は、好ましくは約10000以下であり、より好ましくは約7000以下であり、さらに好ましくは約5000以下であり、最も好ましくは約4000以下である。
【0082】
特定の実施形態では、分岐状グルカンは、粒子状となりうる。直径約4nm以下の粒子は腎臓から排出され、直径約4nm〜約200nmの粒子は血中を長時間循環し、直径約200nm〜約7μmの粒子は細網内皮系に捕捉され、直径約7μm以上の粒子は毛細血管を閉塞させることが公知である。細網内皮系は肝臓および脾臓に分布する。そのため、分岐グルカンの粒径を制御することにより、本発明のグルクロン酸含有グルカン及びその修飾物及びそれらの結合体の体内での動態を制御することができる。血中に長時間循環させることを意図する場合、粒子状分岐グルカンの粒径は、好ましくは直径約4nm以上であり、より好ましくは約10nm以上であり、好ましくは約200nm以下であり、より好ましくは約100nm以下である。このような粒径の粒子状分岐グルカンの分子量は、好ましくは約5×10
5以上であり、より好ましくは約1×10
6以上であり、好ましくは約5×10
7以下であり、より好ましくは約2×10
7以下である。例えば、直径20〜50nmの粒子はがん細胞に蓄積することが公知であるので、がん細胞に蓄積させることを意図する場合、粒子状分岐グルカンの粒径は、好ましくは直径約10nm以上であり、より好ましくは約15nm以上であり、好ましくは約100nm以下であり、より好ましくは約50nm以下である。このような粒径の粒子状分岐グルカンの分子量は、好ましくは約5×10
5以上であり、より好ましくは約1×10
6以上であり、好ましくは約2×10
7以下であり、より好ましくは約5×10
6以下である。
【0083】
α−グルカンの分岐の数(すなわち、α−1,6−グルコシド結合の数)は、好ましくは約1個以上であり、より好ましくは約10個以上であり、さらに好ましくは約30個以上である。α−グルカンの分岐の数(すなわち、α−1,6−グルコシド結合の数)は、好ましくは約5000個以下であり、より好ましくは約2000個以下であり、さらに好ましくは約1000個以下である。
【0084】
本発明で使用される分岐状α−グルカンにおいては、α−1,6−グルコシド結合の数に対するα−1,4−グルコシド結合の数の比(「α−1,6−グルコシド結合の数」:「α−1,4−グルコシド結合の数」)は、好ましくは1:1〜1:10000であり、より好ましくは1:10〜1:5000であり、さらに好ましくは1:50〜1:1000であり、さらに好ましくは1:100〜1:500である。
【0085】
α−1,6−グルコシド結合は、α−グルカン中に無秩序に分布していてもよいし、均質に分布していてもよい。α−グルカン中に糖単位で5個以上の直鎖状部分ができる程度の分布であることが好ましい。
【0086】
本発明においては、グルカンの代わりにグルカンの修飾物を使用してもよい。グルカンの修飾物の例としては、化工デンプンおよび上記で説明したグルカンのエステル化物などが挙げられる。グルカンの修飾物はまた、水酸基修飾物または還元末端修飾物であってもよい。また、後述するように、グルカンの少なくとも1つの非還元末端にグルクロン酸残基を結合させた後にグルカン部分を修飾してもよい。
【0087】
化工デンプンは、天然のデンプンに加水分解、エステル化、またはα化などの処理を施して、より利用しやすい性質を持たせたデンプンである。糊化開始温度、糊の粘度、糊の透明度、老化安定性などを様々な組み合わせで有する幅広い種類の化工デンプンが入手可能である。化工デンプンの種類には種々ある。このようなデンプンの例は、デンプンの糊化温度以下においてデンプン粒子を酸に浸漬することにより、デンプン分子は切断するが、デンプン粒子は破壊していないデンプンである。
【0088】
化工デンプン以外のグルカンの修飾物の例としては、非修飾グルカンのアルコール性水酸基のうちの少なくとも1つが修飾されたもの(以下、本明細書中では「グルカンの水酸基修飾物」という)、グルカンの非還元末端のうちの一部が修飾されたもの(以下、本明細書中では「グルカンの非還元末端修飾物」という)およびグルカンの還元末端が修飾されたもの(以下、本明細書中では「グルカンの還元末端修飾物」という)が挙げられる。
【0089】
水酸基での修飾の例としては、ヒドロキシアルキル化、アルキル化、アシル化、カルボキシメチル化、硫酸化及びリン酸化が挙げられる。水酸基での修飾は、体内の酵素によって除去され得る修飾であることが好ましい。グルカンの水酸基修飾物は、好ましくはアシル化グルカンであり、さらに好ましくはアセチル化グルカンである。アルコール性水酸基への修飾基の導入頻度は、グルカンの修飾反応の際に任意に設定することができる。アルコール性水酸基への修飾基の導入頻度はDSとして表し、DS1はグルコース残基あたりひとつの修飾基が導入されている状態を意味する。DSは、DS=(修飾基数)/(グルコース残基数)によって計算され得る。非修飾グルコース残基には2位、3位および6位にOH基があるため、理論上、グルコース残基1個あたり最大3個の修飾基を導入し得る。そのため、DSの上限値は通常3である。アルコール性水酸基への修飾基の導入頻度は、約DS0.01以上であり、より好ましくは約DS0.03以上であり、さらに好ましくは約DS0.05以上であり、特に好ましくは約DS0.07以上であり、最も好ましくは約DS0.1以上である。修飾基の導入頻度は、好ましくは約DS1.5以下であり、より好ましくは約DS1.3以下であり、さらに好ましくは約DS1.1以下であり、特に好ましくは約DS1.0以下であり、最も好ましくは約DS0.9以下である。グルカンを修飾することにより血液内あるいは体内でのグルカンの分解が抑制される。
【0090】
非還元末端での修飾の例としては、マンノース残基、ガラクトース残基などの標的製分子との結合が挙げられる。非還元末端での修飾については、以下の2.7および3において詳細に説明する。非還元末端修飾物は、好ましくはマンノース残基との結合物又はガラクトース残基との結合物である。
【0091】
還元末端での修飾の例としては、単糖、非還元性糖質類、生体適合性高分子、リポソーム構成成分、配糖体及びアミン基含有低分子量物質との結合が挙げられる。非還元末端での修飾については、以下の2.7および3において詳細に説明する。
【0092】
(1.2)ウロン酸
ウロン酸は、単糖を酸化して得られる誘導体のうち、主鎖の末端のヒドロキシメチル基がカルボキシル基に変わったカルボン酸の総称である。ウロン酸はまた、単糖類のカルボニル基から最も離れている第一アルコール基(−CH
2OH)をカルボキシル基(−COOH)に酸化して得られる酸であってもよい。ウロン酸は、単糖をグリコシドへと誘導したのちに6位を酸化することにより、又はアルダル酸を還元することにより合成され得る。
【0093】
代表的なウロン酸の例としては、グルクロン酸、ガラクツロン酸、マンヌロン酸などが挙げられる。グルクロン酸はグルコースの酸化物であり、ガラクツロン酸はガラクトースの酸化物であり、マンヌロン酸はマンノースの酸化物である。本発明におけるウロン酸としてはグルクロン酸が最も好ましい。
【0094】
本発明の方法においては、ウロン酸−1−リン酸が使用される。ウロン酸−1−リン酸は、市販のものであってよく、化学的方法、酵素的方法または醗酵などの生物学的方法により合成してもよい。ウロン酸は、ウロン酸−1−リン酸を合成するために使用されてもよい。
【0095】
(2.ウロン酸含有グルカンの製造法)
(2.1)グルクロン酸−1−リン酸
本発明において利用されるグルクロン酸−1−リン酸としては、化学的な方法、酵素的な方法、醗酵などの生物学的方法により合成されたものが使用できる。特にグルコース−1−リン酸の化学的酸化反応により合成されたグルクロン酸−1−リン酸が好ましい。グルコース−1−リン酸の化学的酸化反応によりグルクロン酸−1−リン酸を合成する方法は、Heeresら、Carbohydr.Res.1997、299、221−227に開示されている。
【0096】
グルクロン酸−1−リン酸としては、非塩形態のグルクロン酸−1−リン酸および塩の形態のグルクロン酸−1−リン酸のいずれをも使用し得る。例えば、グルクロン酸−1−リン酸の金属塩を使用することができ、グルクロン酸−1−リン酸のアルカリ金属塩(例えば、グルクロン酸−1−リン酸二ナトリウムおよびグルクロン酸−1−リン酸二カリウム)を使用することができる。
【0097】
(2.2)α−グルカンホスホリラーゼ
本明細書において「α−グルカンホスホリラーゼ」および「GP」は、特に示さない限り互換可能に用いられる。本明細書において用語「α−グルカンホスホリラーゼ」は、α−グルカンホスホリラーゼ活性を有する酵素を意味する。α−グルカンホスホリラーゼは、EC2.4.1.1に分類される。α−グルカンホスホリラーゼ活性とは、無機リン酸とα−1,4−グルカンとから、グルコース−1−リン酸およびα−1,4−グルカンの部分分解物を作る反応またはその逆反応を触媒する活性をいう。α−グルカンホスホリラーゼは、ホスホリラーゼ、スターチホスホリラーゼ、グリコーゲンホスホリラーゼ、マルトデキストリンホスホリラーゼなどと呼ばれる場合もある。α−グルカンホスホリラーゼは、加リン酸分解の逆反応であるα−1,4−グルカン合成反応をも触媒し得る。反応がどちらの方向に進むかは、基質の量に依存する。生体内では、無機リン酸の量が多いので、α−グルカンホスホリラーゼは加リン酸分解の方向に反応が進む。無機リン酸の量が少ないと、α−1,4−グルカンの合成の方向に反応が進む。
【0098】
全ての既知のα−グルカンホスホリラーゼは、活性のためにピリドキサール5’−リン酸を必要とし、そして類似した触媒機構を共有するようである。異なった起源に由来する酵素は、基質の優先性および調節形態が異なっているが、全てのα−グルカンホスホリラーゼは、多数のα−グルカンホスホリラーゼを含む大きなグループに属する。この大きなグループは、細菌、酵母および動物由来のグリコーゲンホスホリラーゼ、植物由来のデンプンホスホリラーゼ、ならびに細菌由来のマルトデキストリンホスホリラーゼを含む。α−グルカンホスホリラーゼは、デンプンまたはグリコーゲンを貯蔵し得る種々の植物、動物および微生物中に普遍的に存在すると考えられる。
【0099】
植物のα−グルカンホスホリラーゼは、グリコーゲンへの親和性によって、タイプLとタイプHとに分けられる。タイプLα−グルカンホスホリラーゼとは、グリコーゲンへの親和性が低いα−グルカンホスホリラーゼをいう。
【0100】
一般に、タイプLのα−グルカンホスホリラーゼは、基質として、グリコーゲンよりも、マルトデキストリン、アミロースおよびアミロペクチンを好む(Hiroyuki Moriら著、「A Chimeric α−Glucan Phosphorylase of Plant Type L and H Isozymes」、The Journal of Biological Chemistry、1993、vol.268,No.8,pp.5574−5581)。タイプH α−グルカンホスホリラーゼとは、グリコーゲンへの親和性が高いα−グルカンホスホリラーゼをいう。
【0101】
一般に、タイプH α−グルカンホスホリラーゼは、グリコーゲンを含め、種々のグルカンについての極めて高い親和性を有する。植物のα−グルカンホスホリラーゼのタイプLとタイプHは植物細胞内での局在性にも違いがある。タイプHは、細胞質に局在しており、タイプLはプラスチドに局在している。
【0102】
α−グルカンホスホリラーゼのグルカン合成反応のための最小のプライマー分子はマルトテトラオースであることが報告されている。グルカン分解反応のために有効な最小の基質はマルトペンタオースであることも報告されている。一般に、これらは、α−グルカンホスホリラーゼに共通の特徴であると考えられていた。
【0103】
しかし、近年、Thermus thermophilus由来のα−グルカンホスホリラーゼおよびThermococcus litoralis由来のα−グルカンホスホリラーゼは、他のα−グルカンホスホリラーゼとは異なる基質特異性を有すると報告されている。これらのα−グルカンホスホリラーゼについては、グルカン合成についての最小のプライマーがマルトトリオースであり、グルカン分解についての最小の基質がマルトテトラオースである。また、近年、種々の細菌のゲノム解析が行なわれ、種々の細菌由来α−グルカンホスホリラーゼの塩基配列及びアミノ酸配列が報告されている。Aquifex aeolicus由来のα−グルカンホスホリラーゼ、Thermotga maritima由来のα−グルカンホスホリラーゼ、Thermococcus zilligii由来のマルトデキストリンホスホリラーゼ、Thermoanaerobacter pseudethanolicus由来のα−グルカンホスホリラーゼなどのアミノ酸配列及び遺伝子配列が報告されている。
【0104】
本発明で使用するα−グルカンホスホリラーゼは、Aquifex aeolicus VF5由来α−グルカンホスホリラーゼであることが好ましい。
【0105】
Aquifex aeolicus VF5由来α−グルカンホスホリラーゼの塩基配列を配列番号1に示し、そしてアミノ酸配列を配列番号2の1位〜692位に示す。Aquifex aeolicus VF5由来α−グルカンホスホリラーゼのアミノ酸配列は、植物のα−グルカンホスホリラーゼのアミノ酸配列に対して約21%〜約24%の配列同一性を有し、Thermus thermophilus由来のα−グルカンホスホリラーゼのアミノ酸配列に対して約34%の配列同一性を有し、そしてThermococcus litoralis由来のα−グルカンホスホリラーゼのアミノ酸配列に対して約38%の配列同一性を有する。Thermotga maritima由来のα−グルカンホスホリラーゼのアミノ酸配列に対して約38%の配列同一性を有し、Thermococcus zilligii由来のマルトデキストリンホスホリラーゼのアミノ酸配列に対して約38%の配列同一性を有し、そしてThermoanaerobacter pseudethanolicusに対して約33%の配列同一性を有する。
【0106】
本明細書中では、酵素がある生物に「由来する」とは、その生物から直接単離したことのみを意味するのではなく、その生物を何らかの形で利用することによりその酵素が得られることをいう。例えば、その生物から入手したその酵素をコードする遺伝子を大腸菌に導入して、その大腸菌から酵素を単離する場合も、その酵素はその生物に「由来する」という。
【0107】
本明細書において配列(例えば、アミノ酸配列、塩基配列など)の「同一性」とは、2つの配列の間で同一のアミノ酸(塩基配列を比較する場合は塩基)の出現する程度をいう。一般に、2つのアミノ酸または塩基の配列を比較して、付加または欠失を含み得る最適な様式で整列されたこれら2つの配列を比較することによって決定され得る。
【0108】
本明細書では配列の同一性は、GENETYX−WIN Ver.4.0(株式会社ゼネティックス)のマキシマムマッチングを用いて算出される。このプログラムは、解析対象となる配列データに対して、比較対象となる配列データを置き換えおよび欠損を考慮しながら、配列間で一致するアミノ酸対が最大になるように並べ替え、その際、一致(Matches)、不一致(Mismatches)、ギャップ(Gaps)についてそれぞれ得点を与え合計を算出して最小となるアライメントを出力しその際の同一性を算出する(参考文献:Takashi,K.,およびGotoh,O.1984.Sequence Relationships among Various 4.5 S RNA Spacies J.Biochem.92:1173−1177)。
【0109】
例えば、本発明で使用されるα−グルカンホスホリラーゼのアミノ酸配列は、配列番号2と同一、すなわち、100%同一であってよい。別の実施形態では、グルクロン酸をグルカンの非還元末端に転移する活性を有する限り、このアミノ酸配列は、対照アミノ酸配列と比較してある一定の数までアミノ酸が変化していてもよい。このような変化は、少なくとも1個のアミノ酸の欠失、置換(保存および非保存置換を含む)または挿入からなる群より選択され得る。このような変化は配列番号2のアミノ酸配列のアミノ末端もしくはカルボキシ末端の位置で生じてもよく、またはこれら末端以外のどの位置で生じてもよい。アミノ酸残基の変化は、1残基ずつ点在していてもよく、数残基連続していてもよい。例えば、本発明で使用されるα−グルカンホスホリラーゼは、酵素の精製を容易にするため、安定性を高めるためなどの理由で配列番号2のアミノ酸配列のいずれかの末端に(好ましくは約20残基以下、より好ましくは約10残基以下、さらに好ましくは約5残基以下の)アミノ酸残基を付加したものであってもよい。
【0110】
本発明で使用されるα−グルカンホスホリラーゼは、配列番号2のアミノ酸配列に対して好ましくは約50%以上、より好ましくは約60%以上、さらに好ましくは約70%以上、なおいっそう好ましくは約80%以上、特に好ましくは約90%以上、最も好ましくは約95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、グルクロン酸をグルカンの非還元末端に転移する活性を有する。本発明で使用されるα−グルカンホスホリラーゼは、配列番号2のアミノ酸配列に対して約96%以上、約97%以上、約98%以上または約99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し得る。
【0111】
反応開始時の溶液中に含まれるα−グルカンホスホリラーゼの量は、好ましくは約0.01U/ml以上であり、より好ましくは約0.1U/ml以上であり、特に好ましくは約0.5U/ml以上であり、最も好ましくは約1U/ml以上である。反応開始時の溶液中に含まれるα−グルカンホスホリラーゼの量は、好ましくは約1000U/ml以下であり、より好ましくは約100U/ml以下であり、特に好ましくは約50U/ml以下であり、最も好ましくは約20U/ml以下である。α−グルカンホスホリラーゼの重量が多すぎると、反応中に変性した酵素が凝集しやすくなる場合がある。使用量が少なすぎると、反応自体は起こるものの、グルカンの収率が低下する場合がある。なお、α−グルカンホスホリラーゼの単位量は、以下のとおりに定義される:
α−グルカンホスホリラーゼの単位量は、1分間に1μmolの無機リン酸(Pi)を生成するα−グルカンホスホリラーゼ活性を1単位(U又はUnit)とする。このα−グルカンホスホリラーゼ活性の測定は、G−1−Pから生じた遊離の無機リン酸(Pi)を定量する。200μlの反応液(100mM酢酸緩衝液(pH6.0)中、12.5mM G−1−P、1%デキストリンおよび酵素液を含む)を50℃に15分間インキュベートした後、800μlのモリブデン試薬(15mMモリブデン酸アンモニウム、100mM酢酸亜鉛)を加え、攪拌し反応を停止する。200μlの568mMのアスコルビン酸(pH5.8)を加え、混合し、30℃に15分間インキュベートした後、分光光度計を用いて850nmの吸光度を測定する。濃度既知の無機リン酸を用いて同様に吸光度を測定し、標準曲線を作成し、この標準曲線に試料で得られた吸光度を当てはめ、試料中の無機リン酸を求める。無機リン酸は、リン酸イオンとして定量される。グルコース−1−リン酸の量は定量されない。
【0112】
α−グルカンホスホリラーゼは、精製されていても未精製であってもよい。精製されたα−グルカンホスホリラーゼが好ましい。α−グルカンホスホリラーゼは、固定化されていても固定化されていなくともよい。α−グルカンホスホリラーゼは、固定化されることが好ましい。固定化の方法としては、担体結合法(たとえば、共有結合法、イオン結合法、または物理的吸着法)、架橋法または包括法(格子型またはマイクロカプセル型)など、当業者に周知の方法が使用され得る。α−グルカンホスホリラーゼは、担体上に固定化されていることが好ましい。
【0113】
(2.3)α−グルカンホスホリラーゼの製造
本発明で用いられるα−グルカンホスホリラーゼは、上記のような自然界に存在する、α−グルカンホスホリラーゼを産生する生物から直接単離され得る。あるいは、本発明で用いられるα−グルカンホスホリラーゼは、上記の生物から単離したα−グルカンホスホリラーゼをコードする遺伝子を用いて遺伝子組換えされた微生物(例えば、細菌、真菌など)から単離してもよい。
【0114】
好ましい実施形態では、Aquifex aeolicus VF5由来α−グルカンホスホリラーゼは、配列番号1の遺伝子断片を化学合成し、この遺伝子断片を含む発現ベクターを構築し、この発現ベクターを微生物へ導入して組換え微生物を作製し、この組換え微生物を培養してα−グルカンホスホリラーゼを生産させ、そして生産されたα−グルカンホスホリラーゼを回収することにより生産される。遺伝子組換えによる酵素生産方法は、当業者に周知である。本願発明に用いられる宿主微生物には、原核生物および真核生物が含まれ、中温菌が好ましい。特に好ましい微生物としては、例えば大腸菌などが挙げられるが、これに限定されない。
【0115】
本発明の方法で用いられるα−グルカンホスホリラーゼは、例えば、以下のようにして調製され得る。まず、α−グルカンホスホリラーゼを産生する微生物(例えば、細菌、真菌など)を培養する。この微生物は、α−グルカンホスホリラーゼを直接生産する微生物であってもよい。また、α−グルカンホスホリラーゼをコードする遺伝子をクローン化し、得られた遺伝子でα−グルカンホスホリラーゼ発現に有利な微生物(例えば、細菌、真菌など)を遺伝子組換えして組換えされた微生物を得、得られた微生物からα−グルカンホスホリラーゼを得てもよい。
【0116】
α−グルカンホスホリラーゼ遺伝子での遺伝子組換えに用いられる微生物は、α−グルカンホスホリラーゼの発現の容易さ、培養の容易さ、増殖の速さ、安全性などの種々の条件を考慮して容易に選択され得る。α−グルカンホスホリラーゼは、夾雑物としてアミラーゼを含まないことが好ましいので、アミラーゼを産生しないかまたは低レベルでしか発現しない微生物(例えば、細菌、真菌など)を遺伝子組換えに用いることが好ましい。α−グルカンホスホリラーゼの遺伝子組換えのためには、大腸菌または枯草菌のような中温菌を用いることが好ましい。アミラーゼを産生しないかまたは低レベルでしか発現しない微生物(例えば、細菌、真菌など)を用いて産生されるα−グルカンホスホリラーゼは、アミラーゼを実質的に含まないため、本発明の方法での使用に好ましい。
【0117】
クローン化した遺伝子での微生物(例えば、細菌、真菌など)の遺伝子組換えは、当業者に周知の方法に従って行われ得る。クローン化した遺伝子を用いる場合、この遺伝子を、構成性プロモーターまたは誘導性プロモーターに作動可能に連結することが好ましい。「作動可能に連結する」とは、プロモーターと遺伝子とが、そのプロモーターによって遺伝子の発現が調節されるように連結されることをいう。誘導性プロモーターを用いる場合、培養を、誘導条件下で行うことが好ましい。種々の誘導性プロモーターは当業者に公知である。
【0118】
発現ベクターとは、目的の遺伝子が転写および翻訳されるように目的の遺伝子に作動可能に連結されており、さらに必要に応じて微生物内での複製および組換え体の選択に必要な因子を備えた媒体をいう。また、発現産物(α−グルカンホスホリラーゼ)の分泌生産が意図される場合は、分泌シグナルペプチドをコードする塩基配列が、目的のタンパク質をコードするDNAの上流に正しいリーディングフレームで結合される。シグナルペプチドをコードする塩基配列は当業者に公知である。発現ベクターの種類が使用する微生物宿主に応じて代わり得ることは、当業者に周知である。
【0119】
好ましい発現ベクターとしては、大腸菌中でも発現可能なpTRC99A(ファルマシア製)などが挙げられる。上記発現ベクター内の転写および翻訳に必要な因子に作動可能に連結するために、目的のα−グルカンホスホリラーゼ遺伝子を加工しなければならない場合がある。これらは例えばプロモーターとコード領域との間が長すぎて転写効率の低下が予想される場合、またはリボゾーム結合部位と翻訳開始コドンとの間隔が適切でない場合などである。加工の手段としては、制限酵素による消化、Bal31、ExoIIIなどのエキソヌクレアーゼによる消化、あるいはM13などの一本鎖DNAまたはPCRを使用した部位特異的突然変異の導入が挙げられる。
【0120】
本発明で使用されるα−グルカンホスホリラーゼをコードする塩基配列は、発現のために導入される生物におけるコドンの使用頻度にあわせて変更され得る。コドン使用頻度は、その生物において高度に発現される遺伝子での使用頻度を反映する。例えば、大腸菌において発現させることを意図する場合、公開されたコドン使用頻度表(例えば、Sharpら,Nucleic Acids Research 16 第17号,8207頁(1988))に従って大腸菌での発現のために最適にすることができる。
【0121】
発現ベクターを導入してα−グルカンホスホリラーゼ生産能力を獲得した形質転換株によって目的遺伝子を生産するために、使用する宿主微生物および発現ベクター内の発現を調節する因子の種類、ならびに発現される物質に応じて適切な条件が選択される。例えば、通常の振とう培養方法が用いられ得る。
【0122】
用いる培地は、使用される宿主微生物が生育するものであれば特に限定されない。培地には炭素源、窒素源の他、無機塩、例えば、リン酸、Mg
2+、Ca
2+、Mn
2+、Fe
2+、Fe
3+、Zn
2+、Co
2+、Ni
2+、Na
+、K
+等の塩が必要に応じて、適宜混合して、または単独で用いられ得る。また、必要に応じて形質転換体の生育、酵素の生産に必要な各種無機物、有機物が添加され得る。
【0123】
培養の温度は用いる形質転換体の生育に適した温度を選択し得る。通常約15℃〜約60℃である。本願発明の好ましい実施態様において中温菌を使用する場合、約25℃〜約40℃での培養が好ましい。また、形質転換株の培養は、α−グルカンホスホリラーゼの生産のために十分な時間続行されるが、本願発明の好ましい実施態様では、培養時間は約24時間程度である。
【0124】
誘導性のプロモーターを有する発現ベクターを使用する場合は、誘導物質の添加、培養温度の変更、培地成分の調整などにより発現が制御され得る。例えば、ラクトース誘導性プロモーターを有する発現ベクターを使用する場合は、イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)を添加することにより発現が誘導され得る。
【0125】
例えば、発現されたα−グルカンホスホリラーゼが形質転換細胞内に蓄積する場合、形質転換細胞を適切な条件下で培養した後、培養物を遠心分離または濾過することによって細胞を回収し、次いで適切な緩衝液に懸濁する。次いで超音波処理などにより細胞を破砕した後、遠心分離もしくは濾過することによってα−グルカンホスホリラーゼを含む上清を得る。あるいは、発現されたα−グルカンホスホリラーゼが形質転換細胞外に分泌される場合、形質転換細胞を適切な条件下で培養した後、培養物を遠心分離または濾過することによって形質転換細胞を除去してα−グルカンホスホリラーゼを含む上清を得る。α−グルカンホスホリラーゼが形質転換細胞内に蓄積する場合も、形質転換細胞外に分泌される場合も、このようにして得られたα−グルカンホスホリラーゼ含有上清を通常の手段(例えば、塩析法、溶媒沈澱、または限外濾過)を用いて濃縮し、α−グルカンホスホリラーゼを含む画分を得る。この画分を濾過、あるいは遠心分離、脱塩処理などの処理を行い粗酵素液を得る。さらにこの粗酵素液を、凍結乾燥、等電点電気泳動、イオン交換クロマトグラフィー、晶出などの通常の酵素の精製手段を適宜組み合わせることによって、比活性の向上した粗酵素あるいは精製酵素が得られる。α−アミラーゼ等のα−グルカンを分解する酵素、およびホスファターゼ等のグルコース−1−リン酸を分解する酵素が含まれていなければ、その粗酵素がそのまま以後の反応に用いられ得る。
【0126】
Aquifex aeolicus VF5由来α−グルカンホスホリラーゼは耐熱性であるので、このα−グルカンホスホリラーゼをコードする遺伝子を大腸菌などの中温菌で発現させた場合、発現されたα−グルカンホスホリラーゼは簡便に精製され得る。簡単に述べると、Aquifex aeolicus VF5由来α−グルカンホスホリラーゼを含む酵素画分を60℃で加熱処理することにより、夾雑酵素が不溶化する。この不溶化物を遠心分離などで除去して透析処理を行うことにより、精製された酵素液が得られる。
【0127】
(2.4)ウロン酸含有グルカンの製造
本発明のウロン酸含有グルカンは、グルクロン酸−1−リン酸、グルカン、およびグルクロン酸残基をグルカンの非還元末端に転移する反応を触媒し得るα−グルカンホスホリラーゼ(例えば、Aquifex aeolicus VF5由来α−グルカンホスホリラーゼ)を含む反応溶液を反応させる工程を含む方法により製造され得る。この方法においてグルカンの代わりにグルカン修飾物を使用することによりウロン酸含有グルカンの修飾物を製造することができる。以下においては、例示として、グルカンを用いる方法について説明する。
【0128】
図1に、直鎖状グルカンの非還元末端にグルクロン酸残基を含むウロン酸含有グルカンの製造方法の概略の一例を示す。
図1に示す反応においては、直鎖状グルカンを受容体として使用すると、直鎖状グルカンの非還元末端にグルクロン酸を1分子のみ転移する。
図2に、分岐状グルカンの非還元末端にグルクロン酸残基を含むウロン酸含有グルカンの製造方法の概略の一例を示す。
【0129】
まず、反応溶液を調製する。反応溶液は、例えば、適切な溶媒に、グルクロン酸−1−リン酸、グルカン、およびα−グルカンホスホリラーゼを添加することにより調製され得る。この反応溶液には、酵素反応を阻害しない限り、必要に応じて、pHを調整する目的で任意の緩衝剤、及び無機塩類を加えてもよい。この反応溶液には、必要に応じてα−グルカンホスホリラーゼの本来の基質である、グルコース−1−リン酸を添加してもよい。グルクロン酸−1−リン酸とグルコース−1−リン酸を共存させた反応の場合、受容体グルカンの非還元末端にグルコース残基を結合させる反応と、グルクロン酸残基を結合させる反応が同時に行われることになる(例えば、
図3参照)。グルカンの非還元末端にグルクロン酸残基が結合すると、α−グルカンホスホリラーゼはグルクロン酸残基の非還元末端にさらに分子を転移させることができない。しかし、グルカンの非還元末端にグルコース残基が結合すると、α−グルカンホスホリラーゼは得られる分子の非還元末端にさらにグルコース残基またはグルクロン酸残基を転移することができる。そのため、グルコース−1−リン酸が共存するとグルカンの鎖長を伸ばすことができる。従って、最終的に得られるウロン酸含有グルカンの構造は、グルクロン酸−1−リン酸とグルコース−1−リン酸の添加比率により制御されることになる。この反応溶液には、必要に応じて、枝切り酵素、ブランチングエンザイム、4−α−グルカノトランスフェラーゼおよびグリコーゲンデブランチングエンザイムからなる群より選択される酵素を添加してもよい。
【0130】
次いで、反応溶液を、当該分野で公知の方法によって必要に応じて加熱することにより、反応させる。反応温度は、本発明の効果が得られる限り、任意の温度であり得る。反応温度は代表的には、約30℃〜約90℃の温度であり得る。この反応工程における溶液の温度は、所定の反応時間後に反応前のこの溶液に含まれるα−グルカンホスホリラーゼの活性の約50%以上、より好ましくは約80%以上の活性が残る温度であることが好ましい。反応温度は好ましくは約35℃〜約80℃であり、より好ましくは約35℃〜約70℃、さらにより好ましくは約35℃〜約65℃である。Aquifex aeolicus VF5由来のα−グルカンホスホリラーゼは耐熱性酵素であり、その反応至適温度は約80〜90℃である。反応速度の面からは、反応温度がある程度高いことが好ましい。一方、酵素の反応至適温度の面からは約80〜90℃での反応が可能である。しかし、得られる生成物の安定性、グルクロン酸−1−リン酸やグルコース−1−リン酸の安定性などの観点から、反応温度はAquifex aeolicus VF5由来のα−グルカンホスホリラーゼの反応至適温度よりも少し低いことが好ましい。反応温度は、好ましくは約30℃以上であり、より好ましくは約35℃以上であり、さらに好ましくは約40℃以上である。特定の実施形態では、反応温度は約45℃以上または約50℃以上であってもよい。反応温度は、好ましくは約90℃以下であり、より好ましくは約80℃以下であり、さらに好ましくは約70℃以下である。特定の実施形態では、反応温度は約65℃以下または約60℃以下であってもよい。
【0131】
反応時間は、反応温度、酵素の残存活性を考慮して、任意の時間で設定され得る。反応時間は、代表的には約1時間〜約100時間、より好ましくは約1時間〜約72時間、さらにより好ましくは約2時間〜約36時間、最も好ましくは約2時間〜約24時間である。特定の実施形態では、反応時間は、例えば、約1時間以上、約2時間以上、約5時間以上、約10時間以上、約12時間以上、約24時間以上であってもよい。特定の実施形態では、反応時間は、例えば、約100時間以下、約72時間以下、約60時間以下、約48時間以下、約36時間以下、約24時間以下であってもよい。
【0132】
加熱は、どのような手段を用いて行ってもよいが、溶液全体に均質に熱が伝わるように、攪拌を行いながら加熱することが好ましい。溶液は、例えば、温水ジャケットと攪拌装置を備えたステンレス製反応タンクの中に入れられて攪拌される。
【0133】
本発明の方法ではまた、反応がある程度進んだ段階で、グルクロン酸−1−リン酸、グルカン、およびα−グルカンホスホリラーゼのうちの少なくとも1つを反応溶液に追加してもよい。
【0134】
このようにして、ウロン酸含有グルカンを含有する溶液が生産される。
【0135】
反応終了後、反応溶液は、必要に応じて例えば、100℃にて10分間加熱することによって反応溶液中の酵素を失活させ得る。あるいは、酵素を失活させる処理を行うことなく後の工程を行ってもよい。反応溶液は、そのまま保存されてもよいし、生産されたウロン酸含有グルカンを単離するために処理されてもよい。
【0136】
反応終了後、ウロン酸含有グルカンを精製してから、またはウロン酸含有グルカンの精製前に、得られたウロン酸含有グルカンのグルカン部分のアルコール性水酸基のうちの少なくとも1つを修飾することによりウロン酸含有グルカンの水酸基修飾物を製造してもよい。ウロン酸含有グルカンを精製してから修飾を行うことが好ましい。修飾は、当該分野で公知の方法に従って行われ得る。修飾の例としては、ヒドロキシアルキル化、アルキル化、アシル化、カルボキシメチル化、硫酸化およびリン酸化が挙げられる。アシル化が好ましく、アセチル化がより好ましい。ウロン酸含有グルカン又はウロン酸含有グルカン水酸基修飾物を製造した後に、グルカンの還元末端を修飾することによりウロン酸含有グルカン又はウロン酸含有グルカン水酸基修飾物の還元末端修飾物を製造してもよい。さらに、これらのグルカン部分のウロン酸が結合していない非還元末端を修飾してもよい。グルカンに対するウロン酸残基の結合、水酸基の修飾、還元末端の修飾及び非還元末端の一部へのウロン酸残基以外の修飾基での修飾は、任意の順序で行われ得る。
【0137】
(2.5)ウロン酸含有グルカンの精製
<精製方法>
生産されたウロン酸含有グルカン(又はその修飾物)は、必要に応じて精製され得る。精製することにより除去される不純物の例は、無機リン酸、グルクロン酸−1−リン酸、無機塩類などである。グルカンの精製法の例としては、有機溶媒を用いる方法(T.J.Schochら、J.American Chemical Society,64,2957(1942))および有機溶媒を用いない方法がある。
【0138】
有機溶媒を用いる精製に使用され得る有機溶媒の例としては、アセトン、n−アミルアルコール、ペンタゾール、n−プロピルアルコール、n−ヘキシルアルコール、2−エチル−1−ブタノール、2−エチル−1−ヘキサノール、ラウリルアルコール、シクロヘキサノール、n−ブチルアルコール、3−ペンタノール、4−メチル−2−ペンタノール、d,l−ボルネオール、α−テルピネオール、イソブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、2−メチル−1−ブタノール、イソアミルアルコール、tert−アミルアルコール、メントール、メタノール、エタノールおよびエーテルが挙げられる。
【0139】
有機溶媒を用いない精製方法の例としては、ウロン酸含有グルカン生産反応後、水に溶解しているウロン酸含有グルカンを沈澱させずに、限外ろ過膜を用いた膜分画もしくはクロマトグラフィーに供して無機リン酸、グルクロン酸−1−リン酸、無機塩類を除去する方法がある。
【0140】
精製に使用され得る限外濾過膜の例としては、分画分子量約1,000〜約100,000、好ましくは約5,000〜約50,000、より好ましくは約10,000〜約30,000の限外濾過膜(ダイセル製UF膜ユニット)が挙げられる。
【0141】
クロマトグラフィーに使用され得る担体の例としては、ゲル濾過クロマトグラフィー用担体、配位子交換クロマトグラフィー用担体、イオン交換クロマトグラフィー用担体および疎水クロマトグラフィー用担体が挙げられる。
【0142】
(2.6)α−グルカンホスホリラーゼを利用した糖質合成についての概略
酵素を触媒とする糖鎖伸長反応は無保護の基質を用いて穏和な条件下で進行し、位置・立体選択性の制御が容易であることから構造明確なオリゴ糖鎖の合成に有用である。ホスホリラーゼ(EC 2.4.1.1)はα−D−グルコース−1−リン酸(Glc−1−P)を基質として認識し、α−1,4−グルカンを生成する糖鎖伸長反応を触媒することが知られている。ホスホリラーゼが、より多くの糖リン酸エステルを基質として認識することができれば、新しい糖鎖合成につながると考えられる。このような観点から、我々はすでにホスホリラーゼがα−D−キシロース−1−リン酸を基質として認識し、マルトオリゴ糖の酵素的キシロシル化反応を触媒することを報告している(文献1(M.Nawaji,H.Izawa,Y.Kaneko,J.Kadokawa,J.Carbohydr.Chem.,2008,27,214))。本研究では、α−D−グルコサミン−1−リン酸(GlcN−1−P)(文献2(M.Nawaji,H.Izawa,Y.Kaneko,J.Kadokawa,Carbohydr.Res.,2008,343,2692))とその誘導体(N−ホルミルグルコサミン−1−リン酸(GlcNF−1−P)、N−アセチルグルコサミン−1−リン酸(GlcNAc−1−P))及びグルクロン酸−1−リン酸(GlcA−1−P)を新しい基質として取り上げ、ホスホリラーゼによるマルトオリゴ糖への酵素的糖鎖伸長化反応を検討した(
図4)。
【0143】
GlcN−1−Pを基質に用いるマルトオリゴ糖への糖鎖伸長反応は、酢酸緩衝液(200mmol/l、pH6.5)中にプライマー(マルトテトラオース,Glc4)、GlcN−1−P及びホスホリラーゼ(60U)を加えて40℃で48時間撹拌することにより行った(
図5)。反応終了後、MALDI−TOF MSによる解析を容易にするために粗生成物のN−アセチル化を行った。得られたアセチル化物のMALDI−TOF MS測定を行ったところ、マルトオリゴ糖の非還元末端にN−アセチルグルコサミン残基を有するN−アセチル−α−グルコサミニル1,4−マルトオリゴ糖(GlcNAc−Glcn)の存在が確認され、マルトオリゴ糖へのグルコサミニル化反応の進行が示唆された。
【0144】
さらに、グルコ−アミラーゼ(EC 3.2.1.3)を用いて残存しているマルトオリゴ糖の加水分解反応を行い、主生成物をHPLCによって単離した。この構造を1H NMR、MALDI−TOF MSスペクトルより確認したところ、N−アセチル−α−グルコサミニル1,4−マルトテトラオースであることがわかった。また、GlcNF−1−P、GlcNAc−1−P及び、GlcA−1−Pを基質に用いて反応を行ったところ、GlcNF−1−PとGlcA−1−Pはホスホリラーゼに基質として認識されて、対応する単糖ユニットが非還元末端に転移したオリゴ糖が得られることが明らかになった。
【0145】
(2.7)ウロン酸含有グルカン及びその修飾物及び結合体
本発明のウロン酸含有グルカン及びその修飾物をさらに、ウロン酸残基のカルボキシル残基において薬効成分と結合させることにより、結合体を得ることができる。ウロン酸含有グルカンと薬効成分とが結合したものを「ウロン酸含有グルカン−薬効成分結合体」といい、ウロン酸含有グルカンの修飾物と薬効成分とが結合したものを「ウロン酸含有グルカン修飾物−薬効成分結合体」という。同様に、ウロン酸がグルクロン酸の場合、グルクロン酸含有グルカンと薬効成分とが結合したものを「グルクロン酸含有グルカン−薬効成分結合体」といい、グルクロン酸含有グルカンの修飾物と薬効成分とが結合したものを「グルクロン酸含有グルカン修飾物−薬効成分結合体」という。
【0146】
ウロン酸含有グルカン修飾物は、水酸基修飾物、非還元末端修飾物または還元末端修飾物であり得る。
【0147】
水酸基修飾物については上記のとおりである。
【0148】
非還元末端修飾物について説明する。ウロン酸含有グルカン又はその修飾物のグルカン部分が分岐状α−1,4−グルカンであってウロン酸残基が結合していない非還元末端が存在する場合、ウロン酸残基が結合していない非還元末端において他の物質と結合させることができる。好ましい実施形態では、ウロン酸残基が結合していない非還元末端に標的性分子を結合させる。本明細書中では、用語「標的性分子」とは、組織ターゲット機能を有する分子をいう。標的性分子の例としては、マンノース、ガラクトース、グルコサミン、キシロース、フコース、ガラクトサミン、抗体、抗体フラグメント、受容体、受容体フラグメント及び受容体リガンドが挙げられる。特にガラクトースは肝実質細胞表面に存在するアシアロ糖タンパクレセプターに認識されるため、有効である。またマンノースはクッパー細胞をはじめとする種々のマクロファージや肝臓の類洞血管内皮細胞上に発現しているマンノースレセプターに認識されるため有効である。マンノースおよびガラクトースは、例えば、マンノース1−リン酸又はガラクトース1−リン酸を基質にα−グルカンホスホリラーゼを作用させることによりウロン酸含有グルカン又はその修飾物の非還元末端に結合され得る。酵素反応により結合させる場合、マンノースおよびガラクトースはウロン酸残基が結合していない非還元末端グルコース残基の4位において結合する。
【0149】
還元末端修飾物について説明する。「グルクロン酸含有グルカンの還元末端修飾物」とは、本発明のグルクロン酸含有グルカンに存在する還元末端に別の物質を結合させたものをいう。好ましい実施形態では、還元末端において他の物質と結合させる方法は以下の2通りがある。第一は、公知の酵素的、あるいは公知の化学的手法により、他の物質に重合度2以上、より好ましくは重合度3以上、さらに好ましくは重合度4以上のマルトオリゴ糖の還元末端を結合させ、その後本発明の方法を用いてグルクロン酸をマルトオリゴ糖の非還元末端に結合させる方法である。第二の方法は、本発明のグルクロン酸含有グルカンの還元末端を、公知の酵素的手法により、他の物質に結合させる方法である。
【0150】
第一の方法における酵素的に他の物質にマルトオリゴ糖を結合する方法は、例えば、特開平5−276883号公報、特開平07−241181号公報及び国際公開番号WO01/073106に開示されている。
【0151】
第一の方法における酵素的に他の物質にマルトオリゴ糖を結合する方法は、アミン基を有する物質に対して用いることが出来る。例えばマルトペンタオースとアミン基を有する物質の化学的結合方法には、以下の三種がある:
(A)マルトペンタオースの還元末端アルデヒドとアミン基を有する物質を還元アミノ化により結合する方法;
(B)マルトペンタオースの還元末端アルデヒドを酸化してマルトテトラオシルグルコン酸としたのち、アミン基を有する物質と縮合剤により脱水縮合する方法;および
(C)マルトペンタオースの還元末端アルデヒドを酸化してマルトテトラオシルグルコン酸としたのち脱水してマルトテトラオシルグルコノラクトンを調製し、これを、アミン基を有する物質と無水溶媒条件で加熱して結合させる方法。(A)(B)(C)の3種の方法は、特願2008−121693に詳細に記載されている。
【0152】
第二の本発明のグルクロン酸含有グルカンの還元末端を、酵素的手法により、他の物質に結合させる方法に利用可能な酵素は、糖質及び配糖体にのみ適用可能である。酵素には、ブランチングエンザイム、CGTase、D酵素、アミロマルターゼなどのいわゆるグルカン鎖転移酵素を用いる。これら酵素はグルクロン酸含有グルカン中のα−1,4結合を切断し、その非還元末端側のフラグメント(グルクロン酸含有フラグメント)を受容体分子(ここでは糖質もしくは配糖体)に転移する。
【0153】
結合させる物質の例としては、単糖、非還元性糖質類、生体適合性高分子、リポソーム構成成分、配糖体、アミン基含有低分子量物質が挙げられる。
【0154】
単糖類の例としては、グルコサミン、N−アセチルグルコサミン、グルコン酸などの官能基を有する単糖類が挙げられる。非還元性糖質類の例としては、ソルビトール、スクロース、トレハロース、シクロデキストリン、環状デキストリン、及び環状アミロースが挙げられる。生体適合性高分子の例としては、デンプン、セルロース、キチン、キトサン、デキストラン、タンパク質、及びペプチドが挙げられる。リポソーム構成成分の例としては、リン脂質、脂肪酸、及び界面活性剤が挙げられる。配糖体の例としては、アスコルビン酸グルコシド、ハイドロキノングルコシド、ヘスペリジングルコシド、ルチングルコシド、パラニトロフェニルマルトペンタオース、ドデシルマルトース、フラボノイド配糖体類、テルペン配糖体類、フェノール配糖体類、カルコン配糖体類、及びステロイド配糖体類が挙げられる。アミン基含有低分子物質の例としては、各種アミノ酸、ドデシルアミン、などが挙げられる。
【0155】
ウロン酸含有グルカン又はその修飾物のウロン酸残基のカルボキシル残基に別の物質を結合させる実施形態については以下の「3」に詳述する。
【0156】
(3.ウロン酸含有グルカン及びその修飾物の利用)
本発明のウロン酸含有グルカン及びその修飾物は、非還元末端にウロン酸残基が結合しているため、非還元末端にカルボキシル基を有しており、その結果、グルカンを負に帯電させることができる。たとえば分岐グルカンの非還元末端に多数のウロン酸が結合している本発明のウロン酸含有分岐グルカン及びその修飾物は、溶媒のpHを変化させることにより、非還元末端のウロン酸のカルボキシル基が解離した状態と、非解離の状態とを作り出すことが出来る。非還元末端のウロン酸残基のカルボキシル基が解離した状態では、静電反発により、ウロン酸含有分岐グルカン、その修飾物及びそれらの結合体は伸びきった構造となり、非解離の状態ではウロン酸含有分岐グルカン及びその修飾物は収縮した状態となると考えられる。このようなpH依存的な分岐多糖ミクロゲルのコンホメーション変化は、医薬品デリバリーへの利用が可能である。
【0157】
本発明のウロン酸含有グルカン及びその修飾物は、非還元末端にカルボキシル基を有しており、このカルボキシル基に対して陽イオンをキレートすることが出来る。本発明のウロン酸含有グルカン又はその修飾物を含む溶液にさらにカルシウムなどの2価陽イオンを添加した場合には、カルシウムを介した架橋形成が起こり、ウロン酸含有グルカン及びその修飾物のミクロゲルやマクロゲルを得ることできる。このようなウロン酸含有グルカン及びその修飾物のミクロゲルやマクロゲルは化粧品、医薬品、食品、日用品などの広い産業分野で利用できる。
【0158】
本発明のウロン酸含有グルカン及びその修飾物は、非還元末端に反応性基であるカルボキシル基を有する。このためこのカルボキシル基を介して、別の物質(例えば、薬効成分)にグルカン鎖を直接的または適切なスペーサーを介して間接的に結合させることが出来る。その結果、当該物質の物性を改変したり、当該物質に対して機能を付与したりすることが可能である。ここで言う別の物質とは、低分子量有機化合物、高分子有機化合物、医薬品DDS用微小粒子状キャリア(高分子ミセル、ウイルス粒子、リポソームなど)、無機物質(例えば、磁性微粒子)のいずれでもかまわない。別の物質は好ましくは薬効成分である。たとえば本発明のウロン酸含有グルカン及びその修飾物は、カルボジイミドなどの適当な縮合剤の存在下、アミノ基を有する物質と反応させることにより、アミノ基を有する物質に容易に結合させることが出来る。アミノ基を有する物質がペプチド、タンパク質などのアミノ基を含有する薬効成分の場合、得られる化合物は、ウロン酸含有グルカン又はその修飾物と薬効成分とが直接的に結合した結合体である。あるいは、薬効成分をウロン酸含有グルカン又はその修飾物にスペーサーを介して結合させることができる。この場合、ウロン酸含有グルカン又はその修飾物のカルボキシル基に、アミン基及び薬効成分との結合に利用可能な官能基を有する化合物を結合させることができる。薬効成分などとの結合のためにカルボキシル基に別の化合物を結合させることを「カルボキシル基の修飾」という。グルカン鎖の付与による物性の改変効果としては、水溶性の改善、水和層形成による生体親和性の付与などが期待できる。
【0159】
カルボキシル基の修飾には、アミノ基(すなわち、一級アミン基)または二級アミン基と別の官能基とを有する修飾試薬を使用することができる。本明細書中では、グルクロン酸含有グルカン及びグルクロン酸含有グルカン修飾物のカルボキシル基の修飾に使用されるアミン基を有する物質を「カルボキシル基修飾試薬」ともいう。カルボキシル基修飾試薬は、少なくとも1つのアミン基および少なくとも1つの別の官能基を有する。この官能基の例としては、カチオン性官能基、アニオン性官能基、疎水性基、マレイミド基、チオール基及びアルデヒド基が挙げられる。カチオン性官能基の例としては、アミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、トリメチルアミノ基、アンモニウム基、ピリジニウム基が挙げられる。カチオン性官能基を有する修飾試薬の例としては、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、ジメチルアミノエチルアミン、ジエチルアミノエチルアミン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジンが挙げられる。アニオン性官能基の例としては、リン酸基、スルホン酸基、硫酸基が挙げられる。アニオン性官能基を有する修飾試薬の例としては、4−アミノ−3,5−ジクロロ安息香酸、O−フォスフォエタノールアミン、アミノエチルスルホン酸が挙げられる。疎水性基の例としては、ステアリル基、パルミチル基、メチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基、フェニル基、ベンジル基、トリル基等のアリール基が挙げられる。疎水性基を有する修飾試薬の例としては、ステアリルアミン、メチルアミン、ベンジルアミン、イソブチルアミン、2,4,6−トリメチルアニリンが挙げられる。マレイミド基を有する修飾試薬の例としては、N−(4−アミノフェニル)マレイミドが挙げられる。チオール基は、メルカプト基とも呼ばれる。チオール基を有する修飾試薬の例としては、メルカプトアミン、メルカプトエチルアミンが挙げられる。アルデヒド基の例としては、飽和非環式アルデヒド基、不飽和非環式アルデヒド基、飽和脂環式アルデヒド基、芳香族アルデヒド基が挙げられる。アルデヒド基を有する修飾試薬の例としては、2−アミノ−3,5−ジブロモベンズアルデヒド、4-ジメチルアミノベンズアルデヒドが挙げられる。カルボキシル基修飾試薬はまた、N−ヒドロキシスクシンイミド、N,N−ジスクシンイミドカーボネート、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール、N−ヒドロキシ−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボキシイミド、N−ヒドロキシフタルイミド、イソブチルクロロホルメートおよび4−ヒドロキシフェニルジメチルスルホニウム・メチルスルフェートからなる群より選択され得る。これらの試薬を使用した場合、カルボキシル基とカルボキシル基修飾試薬との間でスクシンイミジルエステルが形成される。このようにしてカルボキシル基を修飾することにより、本発明のウロン酸含有グルカン及びその修飾物を他の分子に結合させるためのスペーサー部分を形成することができる。
【0160】
例えばアミノ基を有する物質がキトサンの場合には、キトサンの主鎖に対し、本発明のウロン酸含有グルカンを多数グラフト化する(すなわち、結合させる)ことが可能となり、キトサンの物性を大きく変化させることが出来る。この場合、ウロン酸含有グルカン又はその修飾物とキトサンとの結合体が形成される。この結合体においては、ウロン酸含有グルカン又はその修飾物とキトサンとが直接結合している。
【0161】
また、アミノ基を有する物質がリン脂質の場合には、本発明のウロン酸含有グルカン又はその修飾物が結合したリン脂質を得ることが出来る。このようなリン脂質を、ウロン酸含有グルカン又はその修飾物とリン脂質との結合体ともいう。この結合体においては、ウロン酸含有グルカン又はその修飾物とリン脂質とが直接結合している。このようなグルカン結合リン脂質を用いてリポソームを製造することにより、医薬品のデリバリーに利用可能なグルカン鎖結合リポソームを容易に得ることが出来る。
【0162】
アミノ基を有する物質がタンパク質又はペプチドなどのタンパク質性薬効成分の場合には、グルカン鎖が結合したタンパク質又はペプチドなどのタンパク質性薬効成分を得ることが出来る。このようなタンパク質又はペプチドを、ウロン酸含有グルカン又はその修飾物とタンパク質又はペプチドとの結合体ともいう。この結合体においては、ウロン酸含有グルカン又はその修飾物とタンパク質又はペプチドとが直接結合している。この技術はタンパク性薬効成分(医薬品)の体内動態の改良に利用することが出来る。
【0163】
アミノ基を有する物質が磁性微粒子である場合には、グルカン鎖が結合した磁性微粒子を得ることが出来、これは臨床診断用造影剤として利用できる。この場合、ウロン酸含有グルカン又はその修飾物と磁性微粒子との結合体が形成される。この結合体においては、ウロン酸含有グルカン又はその修飾物と磁性微粒子とが直接結合している。
【0164】
アミノ基を有する物質が金属配位子(キレート剤)である場合には、グルカン鎖が結合した金属配位子を得ることが出来、これは放射性金属元素を配位することにより、臨床診断用造影剤として利用できる。この場合、ウロン酸含有グルカン又はその修飾物と金属配位子との結合体が形成される。この結合体においては、ウロン酸含有グルカン又はその修飾物と金属配位子とが直接結合している。
【0165】
本発明のグルクロン酸含有グルカンは、非還元末端に反応性基であるカルボキシル基を有する。カルボキシル基は中性条件下、負電荷を帯びる。一方、このカルボキシル基を化学的に修飾することにより、カチオン性官能基又は疎水性基を、グルカンの末端に導入することが出来る。一方、本発明のグルカン部分には様々な構造や分子量のグルカンが利用できる。これら技術を組み合わせると、例えば、タンパク質を包み込むことが出来る程度の分子量の分岐グルカンの末端に、アニオン性官能基、カチオン性官能基、疎水性基などをコントロールして導入することが出来る。このような修飾グルカンの末端はフレキシブルに移動することが可能で、タンパク質表面に存在する電荷を帯びた部分と静電的相互作用を、疎水性領域と、疎水性相互作用を行い、結果として本発明のグルカンは、タンパク質と非共有結合によるコンプレックスを形成する。従って、本発明のウロン酸含有グルカン又はその修飾物とタンパク質、ペプチドなどとを溶液中で混合することにより、本発明のウロン酸含有グルカン又はその修飾物とタンパク質、ペプチドなどとのコンプレックスを形成することができる。同様に、核酸、リポソーム、ウイルス粒子、高分子ミセル、低分子量化合物と効果的に非共有結合的なコンプレックス形成ができるグルカンの末端構造を設計することも出来る。このように、本発明のグルカン及びその末端誘導体は、タンパク質、核酸、低分子量化合物、又は医薬品DDS用微小粒子状キャリア(例えば、リポソーム、高分子ミセル、ウイルス粒子)と効果的にコンプレックスを形成し、これらの安定化、物性、吸収性、体内動態(例えば、臓器集積性、組織ターゲティング特性、血中滞留性)などに影響を与えることが出来る。このように本発明のグルカンは、医薬品の薬効成分のDDSキャリアとして、また医薬品DDS用微小粒子状キャリアの改質剤として有効に利用できる。
【0166】
本発明のウロン酸含有グルカンを、医薬品の薬効成分の改質材料として利用する場合には、体内での改質材料の分解を制御する必要がある。グルカンが直鎖状α−1,4−グルカンである場合、α−アミラーゼによりすみやかな分解を受け、体内での存在時間が短くなりすぎる場合がある。このような場合、改質材料としての目的を果たすことが出来ない可能性がある。そこで、グルカンを構成するグルコースの水酸基の一部又はすべてを修飾することにより、分解に要する時間をコントロールすることが出来る。このようなウロン酸含有グルカンの水酸基修飾物は本発明において好ましい。修飾は、エーテル化又はエステル化である。エーテル化は好ましくはハロゲン化アルキルまたはアルコールとのエーテル化である。エーテル化に使用されるハロゲン化アルキルまたはアルコールの炭素数は好ましくは1〜10であり、より好ましくは1〜5であり、さらに好ましくは1〜3である。ハロゲン基は好ましくはフルオロ、クロロ、ブロモまたはヨードであり得る。エステル化は好ましくはカルボン酸またはハロゲン化アシルとのエステル化である。エステル化に使用されるカルボン酸またはハロゲン化アシルの炭素数は好ましくは1〜10であり、より好ましくは1〜5である。修飾は望ましくはエステル化である。エステル化はより好ましくはアシル化であり、さらに好ましくはアセチル化である。
【0167】
このように本発明のウロン酸含有グルカン及びその修飾物及びそれらの結合体(好ましくはグルクロン酸含有グルカン及びその修飾物及びそれらの結合体)は、グルカンの構造とその非還元末端の構造が自在に設計でき、これを利用することにより、医薬品の薬効成分の体内動態を自在にコントロールできる。体内で完全に分解可能な構造であり、蓄積による毒性を懸念することなく、安全に利用できる医薬品の薬効成分の改質材料である。
【0168】
従って、本発明によれば、本発明のウロン酸含有グルカン又はその修飾物(好ましくはグルクロン酸含有グルカン及びその修飾物)と、薬効成分とを含む、医薬品が提供される。本発明の医薬品においては、薬効成分は、好ましくは、低分子量有機化合物、タンパク質、ペプチド、抗体、抗体フラグメント、受容体、受容体フラグメント、DNA、RNA、siRNAおよびRNAアプタマーからなる群より選択される。
【0169】
本発明の特定の実施形態によれば、本発明のグルクロン酸含有グルカン、その水酸基修飾物、それらの還元末端修飾物、又はそれらのカルボン酸基修飾物と、薬効成分との結合体であって、該薬効成分は、前記グルクロン酸残基のカルボキシル基のうちの少なくとも1つと、直接共有結合しているか、又はスペーサーを介して結合している、結合体が提供される。該薬効成分は好ましくは、低分子量有機化合物、タンパク質、ペプチド、抗体、抗体フラグメント、受容体、受容体フラグメント、DNA、RNA、siRNAおよびRNAアプタマーからなる群より選択される。
【0170】
特定の実施形態によれば、本発明によれば、本発明のウロン酸含有グルカン、その水酸基修飾物、それらの還元末端修飾物、又はそれらのカルボン酸基修飾物(好ましくはグルクロン酸含有グルカン、その水酸基修飾物、それらの還元末端修飾物、又はそれらのカルボン酸基修飾物)を含む、臨床診断用組成物が提供される。
【0171】
特定の実施形態によれば、本発明によれば、本発明のウロン酸含有グルカン、その水酸基修飾物、それらの還元末端修飾物、又はそれらのカルボン酸基修飾物(好ましくはグルクロン酸含有グルカン、その水酸基修飾物、それらの還元末端修飾物、又はそれらのカルボン酸基修飾物)を含む、医薬品DDS用微小粒子状キャリアが提供される。この医薬品DDS用微小粒子状キャリアは、好ましくは、リポソーム、ウイルス粒子、高分子ミセルおよび疎水化高分子ナノゲルからなる群より選択される。
【0172】
特定の実施形態によれば、本発明によれば、本発明のウロン酸含有グルカン、その水酸基修飾物、それらの還元末端修飾物、又はそれらのカルボン酸基修飾物(好ましくはグルクロン酸含有グルカン、その水酸基修飾物、それらの還元末端修飾物、又はそれらのカルボン酸基修飾物)を含む、医薬品DDS用微小粒子状キャリアが提供される。
【0173】
(4.本発明のウロン酸含有グルカン及びその修飾物及びそれらの結合体)
本発明のウロン酸含有グルカンは、好ましくはグルクロン酸含有グルカンである。本明細書中では、グルカンの少なくとも1つの非還元末端にウロン酸残基が結合しているが非還元末端以外の位置にはウロン酸残基が存在しないグルカンを「ウロン酸含有グルカン」という。本明細書中では、グルカンの少なくとも1つの非還元末端にグルクロン酸残基が結合しているが非還元末端以外の位置にはグルクロン酸残基が存在しないグルカンを「ウロン酸含有グルカン」という。
【0174】
本発明のグルクロン酸含有グルカンは、グルカンの少なくとも1つの非還元末端にグルクロン酸残基が結合しているが、非還元末端以外の位置にはグルクロン酸残基が存在しないグルクロン酸含有グルカンであって、該グルカンが分岐状α−1,4グルカンまたは直鎖状α−1,4グルカンである。
【0175】
グルクロン酸含有グルカンのグルカン部分が直鎖状グルカンの場合、非還元末端は1つなので、その非還元末端に1つのグルクロン酸残基が結合している。グルクロン酸含有グルカンのうちのグルカン部分が分岐状グルカンの場合、非還元末端は2つ以上あるので、そのうちの1つ以上の非還元末端にグルクロン酸残基が結合している。本発明のグルクロン酸含有グルカンにおいては、非還元末端以外の位置にはグルクロン酸残基が存在しない。非還元末端以外の位置にグルクロン酸残基が存在しないことは、例えば、グルクロン酸含有グルカンをα−アミラーゼとイソアミラーゼで処理することにより確認することができる。α−アミラーゼはα−1,4グルカンに作用してマルトースとグルコースを生じるが、グルクロン酸化されたα−1,4グルカン鎖はα−アミラーゼに抵抗性を示す。非還元末端のみにグルクロン酸残基を含むグルカンはα−アミラーゼとイソアミラーゼで処理することにより、グルクロノシルマルトース、マルトース、グルコースを生じる。一方、非還元末端以外にもグルクロン酸残基を含むグルカンはα―アミラーゼとイソアミラーゼで処理することにより、グルクロノシルマルトース、マルトース、グルコース以外の糖を生じる。この方法により、非還元末端以外の位置にグルクロン酸残基が結合していないことを確認することができる。
【0176】
(4.1)グルクロン酸残基が結合した分岐状グルカン、その修飾物及びそれらの結合体
本発明のグルクロン酸含有グルカンに含まれるグルカン部分が分岐状α−1,4グルカンである場合、グルクロン酸含有グルカンは、この分岐状α−1,4グルカンが有する複数の非還元末端のうちの少なくとも1つにグルクロン酸残基が結合している。本発明によれば、グルクロン酸残基が結合した分岐状グルカンの修飾物もまた提供される。本発明によれば、グルクロン酸残基が結合した分岐状グルカン又はその修飾物の結合体もまた提供される。修飾物の修飾については上記に詳述したとおりである。結合体で結合する物質についても上記に詳述したとおりである。
【0177】
本発明のグルクロン酸含有分岐状グルカン、その修飾物及びそれらの結合体に含まれる分岐状グルカン部分は、好ましくは分岐マルトオリゴ糖、デンプン、アミロペクチン、グリコーゲン、デキストリン、酵素合成分岐グルカン及び高度分岐環状デキストリン、からなる群より選択される。これらの分岐状グルカン部分の好適な範囲については、「(1.1)グルカンおよびグルカンの修飾物」において説明したとおりである。
【0178】
本発明のグルクロン酸含有分岐状グルカンの分子量は、好ましくは約1000以上であり、より好ましくは約3000以上であり、さらに好ましくは約5000以上である。本発明のグルクロン酸含有分岐状グルカンの分子量は、好ましくは約1×10
9以下であり、より好ましくは約3×10
8以下であり、さらに好ましくは約1×10
8以下である。
【0179】
本発明のグルクロン酸含有分岐状グルカンの修飾物の分子量は、好ましくは約1000以上であり、より好ましくは約3000以上であり、さらに好ましくは約5000以上である。本発明のグルクロン酸含有分岐状グルカンの修飾物の分子量は、好ましくは約1×10
9以下であり、より好ましくは約3×10
8以下であり、さらに好ましくは約1×10
8以下である。
【0180】
本発明の結合体においては、上記のような好適な分子量のグルクロン酸含有分岐状グルカンに対して他の物質(例えば、標的性分子、薬効成分など)が結合していることが好ましい。
【0181】
本発明においては、グルクロン酸含有分岐状グルカン修飾物が好ましい。修飾はアシル化またはエーテル化であることが好ましく、アセチル化がより好ましい。アシル化度は、好ましくは約0.1以上であり、さらに好ましくは約0.2以上であり、特に好ましくは約0.3以上である。アシル化度は、アルカリ条件下での加熱により遊離する酢酸の定量によって計算される。エーテル化度は、好ましくは約0.1以上であり、さらに好ましくは約0.2以上であり、特に好ましくは約0.3以上である。エーテル化度は、NMRによって計算される。
【0182】
本発明のグルクロン酸含有分岐状グルカン、その修飾物及びそれらの結合体に結合しているグルクロン酸残基の数は、1分子あたり、好ましくは1個以上であり、より好ましくは2個以上であり、さらに好ましくは3個以上である。本発明のグルクロン酸含有分岐状グルカン又はその修飾物に結合しているグルクロン酸残基の数は、これらに限定されず、例えば、1分子あたり、5個以上、10個以上、15個以上、20個以上、50個以上、100個以上などであってもよい。目的により適切に調整され得る。本発明のグルクロン酸含有分岐状グルカン又はその修飾物に結合しているグルクロン酸残基の数の上限は、分岐状グルカン部分の非還元末端の数である。本発明のグルクロン酸含有分岐状グルカン又はその修飾物に結合しているグルクロン酸残基の数は、例えば、1分子あたり、約1000個以下、約800個以下、約700個以下、約600個以下、約500個以下、約400個以下、約300個以下、約200個以下、約100個以下、約50個以下などであり得る。
【0183】
特定の実施形態では、本発明のグルクロン酸含有分岐状グルカン、その修飾物及びそれらの結合体に結合しているグルクロン酸残基の数は、分岐状グルカン部分が有する非還元末端の数の好ましくは約10%以上であり、より好ましくは約20%以上であり、特に好ましくは約30%以上であり、例えば、約40%以上、約50%以上または約60%以上であり得る。特定の実施形態では、本発明のグルクロン酸含有分岐状グルカン、その修飾物及びそれらの結合体に結合しているグルクロン酸残基の数は、分岐状グルカン部分が有する非還元末端の数の好ましくは約100%以下であり、より好ましくは約90%以下であり、特に好ましくは約80%以下であり、例えば、約70%以下、約60%以下または約50%以下であり得る。
【0184】
(4.2)グルクロン酸残基が結合した直鎖状グルカン、その修飾物及びそれらの結合体
本発明のグルクロン酸含有直鎖状グルカンは、直鎖状グルカン部分の非還元末端にグルクロン酸残基が結合している。直鎖状グルカンは非還元末端を1つしか有さないので、本発明のグルクロン酸含有直鎖状グルカンは、グルクロン酸残基を1つしか含まない。本発明によれば、グルクロン酸残基が結合した直鎖状グルカンの修飾物もまた提供される。本発明によれば、グルクロン酸残基が結合した直鎖状グルカン又はその修飾物の結合体もまた提供される。修飾物の修飾については上記に詳述したとおりである。結合体で結合する物質についても上記に詳述したとおりである。
【0185】
本発明のグルクロン酸含有直鎖状グルカン又はその修飾物に含まれる直鎖状グルカン部分は、好ましくはマルトオリゴ糖、アミロース(例えば、天然のアミロースまたは酵素合成アミロース)及びそれらの誘導体からなる群より選択される。これらの直鎖状グルカン部分の好適な範囲については、「(1.1)グルカンおよびグルカンの修飾物」において説明したとおりである。
【0186】
本発明のグルクロン酸含有直鎖状グルカンの分子量は、好ましくは約450以上であり、より好ましくは約600以上であり、さらに好ましくは約1000以上である。本発明のグルクロン酸含有直鎖状グルカンの分子量は、好ましくは約200000以下であり、より好ましくは約150000以下であり、さらに好ましくは約100000以下である。
【0187】
本発明のグルクロン酸含有直鎖状グルカンの修飾物の分子量は、好ましくは約450以上であり、より好ましくは約600以上であり、さらに好ましくは約1000以上である。本発明のグルクロン酸含有直鎖状グルカンの修飾物の分子量は、好ましくは約200000以下であり、より好ましくは約150000以下であり、さらに好ましくは約100000以下である。
【0188】
本発明の結合体においては、上記のような好適な分子量のグルクロン酸含有直鎖状グルカンに対して他の物質(例えば、標的性分子、薬効成分など)が結合していることが好ましい。
【0189】
本発明においては、グルクロン酸含有直鎖状グルカンの修飾物が好ましい。修飾は、アシル化またはエーテル化であることが好ましく、アセチル化がより好ましい。アシル化度は、好ましくは約0.1以上であり、さらに好ましくは約0.2以上であり、特に好ましくは約0.3以上である。アシル化度は、アルカリ条件下での加熱により遊離する酢酸の定量によって計算される。エーテル化度は、好ましくは約0.1以上であり、さらに好ましくは約0.2以上であり、特に好ましくは約0.3以上である。エーテル化度は、NMRによって計算される。
【0190】
本発明のグルクロン酸含有直鎖状グルカンは、例えば以下の式1によって示され得る:
【0192】
ここでnは1以上の整数である。nは好ましくは約1以上であり、より好ましくは約2以上であり、さらに好ましくは約3以上である。nは好ましくは約1200以下であり、より好ましくは約900以下であり、さらに好ましくは約600以下である。
【0193】
本発明のグルクロン酸含有直鎖状グルカンおよびその還元末端修飾物は、例えば以下の式2によって示され得る:
【0195】
ここでnは1以上の整数である。nは好ましくは約1以上であり、より好ましくは約2以上であり、さらに好ましくは約3以上である。nは好ましくは約1200以下であり、より好ましくは約900以下であり、さらに好ましくは約600以下である。Xは、水素、単糖、非還元性糖質類、生体適合性高分子、リポソーム構成成分、配糖体およびアミン基含有低分子量物質からなる群より選択される。Xは、好ましくは、水素、グルコサミン、N−アセチルグルコサミン、グルコン酸、ソルビトール、スクロース、トレハロース、シクロデキストリン、環状デキストリン、環状アミロース、デンプン、セルロース、キチン、キトサン、デキストラン、タンパク質、ペプチド、リン脂質、脂肪酸、界面活性剤、アスコルビン酸グルコシド、ハイドロキノングルコシド、ヘスペリジングルコシド、ルチングルコシド、パラニトロフェニルマルトペンタオース、ドデシルマルトース、フラボノイド配糖体類、テルペン配糖体類、フェノール配糖体類、カルコン配糖体類、ステロイド配糖体類、アミノ酸及びドデシルアミンからなる群より選択される。Xが水素の場合、この分子はグルクロン酸含有直鎖状グルカンであり、Xが水素以外の物質である場合、この分子はグルクロン酸含有直鎖状グルカン還元末端修飾物である。
【0196】
本発明のグルクロン酸含有直鎖状グルカン、グルクロン酸含有直鎖状グルカン水酸基修飾物およびその還元末端修飾物は、例えば以下の式3によって示され得る:
【0198】
ここでnは1以上の整数である。nは好ましくは約1以上であり、より好ましくは約2以上であり、さらに好ましくは約3以上である。nは好ましくは約1200以下であり、より好ましくは約900以下であり、さらに好ましくは約600以下である。Xは、好ましくは、水素、単糖、非還元性糖質類、生体適合性高分子、リポソーム構成成分、配糖体およびアミン基含有低分子量物質からなる群より選択される。Xは、より好ましくは、水素、グルコサミン、N−アセチルグルコサミン、グルコン酸、ソルビトール、スクロース、トレハロース、シクロデキストリン、環状デキストリン、環状アミロース、デンプン、セルロース、キチン、キトサン、デキストラン、タンパク質、ペプチド、リン脂質、脂肪酸、界面活性剤、アスコルビン酸グルコシド、ハイドロキノングルコシド、ヘスペリジングルコシド、ルチングルコシド、パラニトロフェニルマルトペンタオース、ドデシルマルトース、フラボノイド配糖体類、テルペン配糖体類、フェノール配糖体類、カルコン配糖体類、ステロイド配糖体類、アミノ酸及びドデシルアミンからなる群より選択される。ここで、Rは、好ましくは、水素、ヒドロキシアルキル基、アルキル基、アセチル基、カルボキシメチル基、硫酸基およびリン酸基からなる群より独立して選択される。Xおよび全てのRが水素の場合、この分子はグルクロン酸含有直鎖状グルカンであり;Xが水素であってRがそれぞれ独立して水素または他の基であるがただし少なくとも1つのRが水素以外の基である場合、この分子はグルクロン酸含有直鎖状グルカンの水酸基修飾物であり;Xが水素以外の物質であって全てのRが水素である場合、この分子はグルクロン酸含有直鎖状グルカン還元末端修飾物であり;Xが水素以外の物質であってRがそれぞれ独立して水素または他の基であるがただし少なくとも1つのRが水素以外の基である場合、この分子はグルクロン酸含有直鎖状グルカン水酸基修飾物の還元末端修飾物である。
【0199】
本発明のグルクロン酸含有直鎖状グルカン、グルクロン酸含有直鎖状グルカン水酸基修飾物、それらの還元末端修飾物およびそれらのカルボキシル基修飾物は、例えば以下の式4によって示され得る:
【0201】
ここでnは1以上の整数である。nは好ましくは約1以上であり、より好ましくは約2以上であり、さらに好ましくは約3以上である。nは好ましくは約1200以下であり、より好ましくは約900以下であり、さらに好ましくは約600以下である。Xは、水素、単糖、非還元性糖質類、生体適合性高分子、リポソーム構成成分、配糖体およびアミン基含有低分子量物質からなる群より選択される。Xは、好ましくは、水素、グルコサミン、N−アセチルグルコサミン、グルコン酸、ソルビトール、スクロース、トレハロース、シクロデキストリン、環状デキストリン、環状アミロース、デンプン、セルロース、キチン、キトサン、デキストラン、タンパク質、ペプチド、リン脂質、脂肪酸、界面活性剤、アスコルビン酸グルコシド、ハイドロキノングルコシド、ヘスペリジングルコシド、ルチングルコシド、パラニトロフェニルマルトペンタオース、ドデシルマルトース、フラボノイド配糖体類、テルペン配糖体類、フェノール配糖体類、カルコン配糖体類、ステロイド配糖体類、アミノ酸及びドデシルアミンからなる群より選択される。ここで、Rは、好ましくは、水素、ヒドロキシアルキル基、アルキル基、アセチル基、カルボキシメチル基、硫酸基およびリン酸基からなる群より独立して選択される。ここで、Yは、好ましくは、水酸基、カチオン性置換基、疎水性置換基、マレイミド基含有置換基およびスクシンイミド基からなる群より選択される。Xおよび全てのRが水素であってYが水酸基である場合、この分子はグルクロン酸含有直鎖状グルカンであり;Xおよび全てのRが水素であってYが水酸基以外の基である場合、この分子はグルクロン酸含有直鎖状グルカンのカルボキシル基修飾物であり;Xが水素であってRがそれぞれ独立して水素または他の基であるがただし少なくとも1つのRが水素以外の基であってYが水酸基である場合、この分子はグルクロン酸含有直鎖状グルカンの水酸基修飾物であり;Xが水素であってRがそれぞれ独立して水素または他の基であるがただし少なくとも1つのRが水素以外の基であってYが水酸基以外の基である場合、この分子はグルクロン酸含有直鎖状グルカンの修飾物の水酸基修飾物のカルボキシル基修飾物であり;Xが水素以外の物質であって全てのRが水素であってYが水酸基である場合、この分子はグルクロン酸含有直鎖状グルカン還元末端修飾物であり;Xが水素以外の物質であって全てのRが水素であってYが水酸基以外の基である場合、この分子はグルクロン酸含有直鎖状グルカンカルボキシル基修飾物の還元末端修飾物であり;Xが水素以外の物質であってRがそれぞれ独立して水素または他の基であるがただし少なくとも1つのRが水素以外の基であってYが水酸基である場合、この分子はグルクロン酸含有直鎖状グルカン水酸基修飾物の還元末端修飾物であり;Xが水素以外の物質であってRが独立して水素または他の基であるがただし少なくとも1つのRが水素以外の基であってYが水酸基以外の基である場合、この分子はグルクロン酸含有直鎖状グルカン水酸基修飾物のカルボキシル基修飾物である。
【0202】
本発明のグルクロン酸含有グルカンは、例えば以下の式5によって示され得る:
【0204】
ここでmは1以上の整数である。mは好ましくは約1以上であり、より好ましくは約2以上であり、さらに好ましくは約3以上であり、mは好ましくは約1200以下であり、より好ましくは約900以下であり、さらに好ましくは約600以下である。R
1は独立して、H、式Aの構造を有するグルカン鎖または式Bの構造を有するグルカン鎖である。全てのR
1がHの場合、式5に示されるグルカンは直鎖状グルカンである。少なくとも1つのR
1が式Aまたは式Bの構造を有する場合、式5に示されるグルカンは分岐状グルカンである。
【0206】
式Aにおいて、kは1以上の整数である。kは好ましくは約1以上であり、より好ましくは約2以上であり、さらに好ましくは約3以上であり、kは好ましくは約100以下であり、より好ましくは約25以下であり、さらに好ましくは約20以下である。式Aにおいて、R
2はそれぞれ独立して、H、式Aの構造を有するグルカン鎖または式Bの構造を有するグルカン鎖である。
【0208】
式Bにおいて、sは1以上の整数である。sは好ましくは約1以上であり、より好ましくは約2以上であり、さらに好ましくは約3以上であり、sは好ましくは約100以下であり、より好ましくは約25以下であり、さらに好ましくは約20以下である。式Bにおいて、R
3は独立して、H、式Aの構造を有するグルカン鎖または式Bの構造を有するグルカン鎖である。
【0209】
上記で説明したように、式5において、R
1は、式Aの構造を有する基のR
2または式Bの構造を有する基のR
3の位置において何度か式Aの構造を有する基または式Bの構造を有する基によって置換された構造を有し得る。式Aと式Bで置換された回数の合計は、式5で表された分岐グルカン分子の単位鎖数に等しい。分岐グルカン分子の単位鎖数は、好ましくは約1以上であり、より好ましくは約10以上であり、さらに好ましくは約30以上である。分岐グルカン分子の単位鎖数は、好ましくは約5000以下であり、より好ましくは約2000以下であり、さらに好ましくは約1000以下である。
【0210】
本発明のグルクロン酸含有グルカン又はグルクロン酸含有グルカン水酸基修飾物は、例えば以下の式6によって示され得る:
【0212】
ここでmは1以上の整数である。mは好ましくは約1以上であり、より好ましくは約2以上であり、さらに好ましくは約3以上であり、mは好ましくは約1200以下であり、より好ましくは約900以下であり、さらに好ましくは約600以下である。R
1は独立して、H、ヒドロキシアルキル基、アルキル基、アセチル基、カルボキシメチル基、硫酸基、リン酸基、式6Aの構造を有するグルカン鎖または式6Bの構造を有するグルカン鎖である。
【0214】
式6Aにおいて、kは1以上の整数である。kは好ましくは約1以上であり、より好ましくは約2以上であり、さらに好ましくは約3以上であり、kは好ましくは約100以下であり、より好ましくは約25以下であり、さらに好ましくは約20以下である。式6Aにおいて、R
2はそれぞれ独立して、H、ヒドロキシアルキル基、アルキル基、アセチル基、カルボキシメチル基、硫酸基、リン酸基、式6Aの構造を有するグルカン鎖または式6Bの構造を有するグルカン鎖である。
【0216】
式6Bにおいて、sは1以上の整数である。sは好ましくは約1以上であり、より好ましくは約2以上であり、さらに好ましくは約3以上であり、sは好ましくは約100以下であり、より好ましくは約25以下であり、さらに好ましくは約20以下である。式6Bにおいて、R
3は独立して、H、ヒドロキシアルキル基、アルキル基、アセチル基、カルボキシメチル基、硫酸基およびリン酸基、式6Aの構造を有するグルカン鎖または式6Bの構造を有するグルカン鎖である。
【0217】
式6、式6Aおよび式6Bにおいて、R
4は、H、ヒドロキシアルキル基、アルキル基、アセチル基、カルボキシメチル基、硫酸基、リン酸基からなる群から独立して選択される。
本発明のグルクロン酸含有グルカン、グルクロン酸含有グルカン水酸基修飾物およびそれらの還元末端修飾物は、例えば以下の式7によって示され得る:
【0219】
ここでmは1以上の整数である。mは好ましくは約1以上であり、より好ましくは約2以上であり、さらに好ましくは約3以上であり、mは好ましくは約1200以下であり、より好ましくは約900以下であり、さらに好ましくは約600以下である。R
1は独立して、H、式6Aの構造を有するグルカン鎖または式6Bの構造を有するグルカン鎖である。式6Aおよび式6Bについては、上記式6についての定義と同様である。
【0220】
式7、式6Aおよび式6Bにおいて、R
4は、水素、ヒドロキシアルキル基、アルキル基、アセチル基、カルボキシメチル基、硫酸基およびリン酸基からなる群から独立して選択され、
式7において、Xは、好ましくは、単糖、非還元性糖質類、生体適合性高分子、リポソーム構成成分、配糖体およびアミン基含有低分子量物質からなる群より独立して選択される。Xは、より好ましくは、水素、グルコサミン、N−アセチルグルコサミン、グルコン酸、ソルビトール、スクロース、トレハロース、シクロデキストリン、環状デキストリン、環状アミロース、デンプン、セルロース、キチン、キトサン、デキストラン、タンパク質、ペプチド、リン脂質、脂肪酸、界面活性剤、アスコルビン酸グルコシド、ハイドロキノングルコシド、ヘスペリジングルコシド、ルチングルコシド、パラニトロフェニルマルトペンタオース、ドデシルマルトース、フラボノイド配糖体類、テルペン配糖体類、フェノール配糖体類、カルコン配糖体類、ステロイド配糖体類、アミノ酸及びドデシルアミンからなる群より選択される。
【0221】
本発明のグルクロン酸含有グルカン、グルクロン酸含有グルカン水酸基修飾物、それらの還元末端修飾物、又はそれらのカルボキシル基修飾物は、例えば以下の式8によって示され得る:
【0223】
ここでmは1以上の整数である。mは好ましくは約1以上であり、より好ましくは約2以上であり、さらに好ましくは約3以上であり、mは好ましくは約1200以下であり、より好ましくは約900以下であり、さらに好ましくは約600以下である。R
1は独立して、H、ヒドロキシアルキル基、アルキル基、アセチル基、カルボキシメチル基、硫酸基、リン酸基、式6Aの構造を有するグルカン鎖、式8Aの構造を有するグルカン鎖、または式6Bの構造を有するグルカン鎖である。
【0225】
式6Aにおいて、kは1以上の整数である。kは好ましくは約1以上であり、より好ましくは約2以上であり、さらに好ましくは約3以上であり、kは好ましくは約100以下であり、より好ましくは約25以下であり、さらに好ましくは約20以下である。式6Aにおいて、R
2はそれぞれ独立して、H、ヒドロキシアルキル基、アルキル基、アセチル基、カルボキシメチル基、硫酸基、リン酸基、式6Aの構造を有するグルカン鎖、式8Aの構造を有するグルカン鎖、または式6Bの構造を有するグルカン鎖である。
【0227】
式8Aにおいて、pは1以上の整数である。pは好ましくは約1以上であり、より好ましくは約2以上であり、さらに好ましくは約3以上であり、pは好ましくは約100以下であり、より好ましくは約25以下であり、さらに好ましくは約20以下である。式8Aにおいて、R
5は独立して、H、ヒドロキシアルキル基、アルキル基、アセチル基、カルボキシメチル基、硫酸基、リン酸基、式6Aの構造を有するグルカン鎖、式8Aの構造を有するグルカン鎖、または式6Bの構造を有するグルカン鎖である。
【0229】
式6Bにおいて、sは1以上の整数である。sは好ましくは約1以上であり、より好ましくは約2以上であり、さらに好ましくは約3以上であり、sは好ましくは約100以下であり、より好ましくは約25以下であり、さらに好ましくは約20以下である。式6Bにおいて、R
3はそれぞれ独立して、H、ヒドロキシアルキル基、アルキル基、アセチル基、カルボキシメチル基、硫酸基、リン酸基、式6Aの構造を有するグルカン鎖、式8Aの構造を有するグルカン鎖、または式6Bの構造を有するグルカン鎖である。
【0230】
式8、式6A、式8A、および式6Bにおいて、R
4は、水素、ヒドロキシアルキル基、アルキル基、アセチル基、カルボキシメチル基、硫酸基およびリン酸基からなる群から独立して選択され、
式8において、Xは、単糖、非還元性糖質類、生体適合性高分子、リポソーム構成成分、配糖体およびアミン基含有低分子量物質からなる群より独立して選択され、
式8及び式8Aにおいて、Yは、薬効成分との結合のために導入される置換基であり、Yは、カルボキシル基修飾試薬との反応により得られ、該カルボキシル基修飾試薬は、少なくとも1つのアミン基および少なくとも1つの別の官能基を有する。
【0231】
本発明のグルクロン酸含有グルカンの修飾例と修飾の目的を以下の表1にまとめる。表中の構造は一例である。
【実施例】
【0233】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は、実施例に限定されるものではない。実施例において使用したAquifex aeolicus VF5由来α−グルカンホスホリラーゼは、以下の製造例1によって調製したAquifex aeolicus VF5由来α−グルカンホスホリラーゼである。
【0234】
(製造例1:Aquifex aeolicus VF5由来α−グルカンホスホリラーゼの調製)
(A)Aquifex aeolicus VF5由来α−グルカンホスホリラーゼ遺伝子の作製
Aquifex aeolicus VF5由来α−グルカンホスホリラーゼ遺伝子のアミノ酸配列(配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列;米国生物工学情報センター(NCBI; National Center for Biotechnology Information)のGenBank塩基配列データベースのACCESSION番号AE000657の491380−493458番目までの塩基配列を翻訳して得られるアミノ酸配列)をコードする塩基配列(GenBank塩基配列データベースのACCESSION番号AE000657の491380−493458番目までの塩基配列)を有する核酸(「α−グルカンホスホリラーゼ遺伝子」ともいう)を、当業者に周知の方法により、化学的に合成した。なお、Aquifex aeolicus VF5由来α−グルカンホスホリラーゼをコードする遺伝子の塩基配列は、本願が優先権を主張する基礎となる出願の出願日の時点ではACCESSION番号AE000704の86〜2164番目として登録されていたが、2010年3月9日にACCESSION番号およびその位置が変更された。このα−グルカンホスホリラーゼ遺伝子の翻訳開始コドン上流にはNdeIサイトを設けた。また、翻訳停止コドン下流にはBamHIサイトを設け、この合成遺伝子をNdeIおよびBamHIで切断し、NdeIおよびBamHIであらかじめ切断したプラスミドpET11c(Novagen社製)に挿入し、Aquifex aeolicus VF5由来α−グルカンホスホリラーゼ遺伝子をもったプラスミドpET−AqGPを作製した。
【0235】
(B)Aquifex aeolicus VF5由来α−グルカンホスホリラーゼ遺伝子の大腸菌における発現
このプラスミドpET−AqGPで、大腸菌BL21(DE3)を常法に従って形質転換し、形質転換体を得た。形質転換体を含む液体を、アンピシリン含有LB寒天培地(100μg/mlアンピシリン、Difco製トリプトン1%、Difco製酵母エキス0.5%、NaCl0.5%、寒天1.5%、pH7.3)に独立したコロニーが得られるように希釈して塗布し、37℃で一晩培養した。このアンピシリン含有LB寒天培地で増殖した大腸菌は、導入したプラスミドを保有し、かつ発現することができる形質転換体である。このようにしてα−グルカンホスホリラーゼ遺伝子を発現する大腸菌を作製できた。
【0236】
(C)Aquifex aeolicus VF5由来α−グルカンホスホリラーゼ酵素の調製
上記(B)で作製した、Aquifex aeolicus VF5由来α−グルカンホスホリラーゼ遺伝子を発現する大腸菌を、LB培地(50μg/mlアンピシリン、Difco製トリプトン1%、Difco製酵母エキス0.5%、NaCl、0.5%、pH 7.3)に植菌し、37℃で5時間培養した。次いで、最終濃度が0.1mM IPTG(イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド)および1mM塩酸ピリドキシンとなるようにこの培養液にIPTGおよび塩酸ピリドキシンを加え、さらに37℃で24時間培養した。次いで、培養液を遠心分離することにより菌体を回収し、20mMクエン酸緩衝液(pH6.7)で培地成分を洗浄し、除去した。洗浄後の菌体を20mMクエン酸緩衝液(pH6.7)に懸濁し、超音波破砕機によって菌体を破砕し、遠心分離し、その上清を菌体抽出液とした。得られた菌体抽出液を、60℃30分間加熱した。次いで、この菌体抽出液を予め平衡化されたQ−SepharoseFFカラムにロードし、20mMクエン酸緩衝液(pH 6.7)中、0.1Mから0.3MのNaClの濃度勾配で溶出し、GP精製酵素含有活性画分を回収した。
【0237】
得られた精製酵素含有活性画分を約1μg使用して、ネイティブPAGE(Native polyacrylamide gel electrophoresis)を行った。その結果、α−グルカンホスホリラーゼを発現する大腸菌から得られた画分では、分子量約150kDaの位置に単一のバンドが認められ、他の場所にはバンドが見られなかった。Aquifex aeolicus VF5由来α−グルカンホスホリラーゼの分子量は、アミノ酸配列から計算して約75kDaであると推定されるので、このネイティブPAGEの結果、このα−グルカンホスホリラーゼは、ダイマー構造をとっていると考えられる。このようにして、Aquifex aeolicus VF5由来α−グルカンホスホリラーゼが均質に精製されたことが示された。
【0238】
(製造例2:組換え馬鈴薯α−グルカンホスホリラーゼの組換え生産)
特表2004−526463に示された下記の方法によりタイプL馬鈴薯α−グルカンホスホリラーゼを組換え生産した。
【0239】
馬鈴薯グルカンホスホリラーゼ遺伝子(Nakanoら、Journal of Biochemistry(Tokyo)106(1989)691)のN末端およびC末端にBamHIサイトを設け、この遺伝子をBamHIで切断し、BamHIであらかじめ切断したpET3d(STRATAGENE社製)に組み込み、プラスミドpET−PGP113を得た。このプラスミドでは、グルカンホスホリラーゼ遺伝子を、イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)誘導性プロモーターの制御下に作動可能に連結した。このプラスミドを、大腸菌TG−1(STRATAGENE社製)に、コンピテントセル法により導入した。この大腸菌を、抗生物質アンピシリンを含むLB培地(1%トリプトン、0.5%酵母エキス(ともにDifco社製)、1%塩化ナトリウム、1.5%寒天))を含むプレートにプレーティングして、37℃で一晩培養した。このプレート上で増殖した大腸菌を選択することにより、馬鈴薯由来グルカンホスホリラーゼ遺伝子が導入された大腸菌を得た。得られた大腸菌がグルカンホスホリラーゼ遺伝子を含むことを、導入された遺伝子の配列を解析することによって確認した。また、得られた大腸菌がグルカンホスホリラーゼを発現していることを、活性測定によって確認した。
【0240】
この大腸菌を、抗生物質アンピシリンを含むLB培地(1%トリプトン、0.5%酵母エキス(ともにDifco社製)、1%塩化ナトリウム)1リットルに接種し、120rpmで振盪させながら37℃で3時間振盪培養した。その後、IPTGを0.1mM、ピリドキシンを1mMになるようにそれぞれこの培地に添加し、22℃でさらに20時間振盪培養した。次いで、この培養液を5,000rpmにて5分間遠心分離して、大腸菌の菌体を収集した。得られた菌体を、50mlの0.05%のTritonX−100を含む20mMトリス−塩酸緩衝液(pH7.0)中に懸濁し、次いで超音波処理により破砕し、菌体破砕液50mlを得た。この破砕液中には、4.7U/mgのグルカンホスホリラーゼが含まれていた。
【0241】
この菌体破砕液を、55℃で30分間加熱する。加熱後、8,500rpmにて20分間遠心分離し、不溶性のタンパク質などを除去して上清を得る。得られた上清を、あらかじめ平衡化しておいた陰イオン交換樹脂Q−Sepharoseに流してグルカンホスホリラーゼを樹脂に吸着させた。樹脂を、200mM塩化ナトリウムを含む緩衝液で洗浄して不純物を除去した。続いて、タンパク質を300mM塩化ナトリウムを含む緩衝液で溶出させ、組換え馬鈴薯グルカンホスホリラーゼ酵素溶液とした。
【0242】
(製造例3:3種の微生物由来α−グルカンホスホリラーゼの調製)
Aquifex aeolicus VF5由来α−グルカンホスホリラーゼ遺伝子の代わりに、Thermotoga maritima MSB8由来α−グルカンホスホリラーゼのアミノ酸配列をコードする塩基配列(GeneBank塩基配列データベースのACCESSION番号AJ001088に記載される76〜544番目までの塩基配列)を有する核酸、Thermococcus zilligii AN1由来α−グルカンホスホリラーゼのアミノ酸配列をコードする塩基配列(GeneBank塩基配列データベースのACCESSION番号AJ318499に記載される1〜2151番目までの塩基配列)を有する核酸、またはThermoanaerobacter pseudethanolicus ATCC33223由来α−グルカンホスホリラーゼのアミノ酸配列をコードする塩基配列(GeneBank塩基配列データベースのACCESSION番号CP000924に記載される1〜1626番目までの塩基配列)を有する核酸を使用して製造例1と同様にしてそれぞれのα−グルカンホスホリラーゼ液を得た。
【0243】
(比較例1:馬鈴薯由来α−グルカンホスホリラーゼを使用した酵素反応)
50mMグルクロン酸−1−リン酸、100mMクエン酸緩衝液(pH6.7)、10mMマルトテトラオース及び製造例2で作製した精製馬鈴薯由来α−グルカンホスホリラーゼ(タイプL、12Unit/ml)を含む反応液を37℃で40時間保温後反応液の糖組成を、そのまま、あるいはグルコアミラーゼ消化した後、DIONEX社製HPAEC−PAD装置(送液システム:DX300、検出器:PAD−2、分析カラム:CarboPacPA100)により分析した。溶出は、流速:1ml/分、NaOH濃度:150mM、酢酸ナトリウム濃度:0分−50mM、2分−50mM、23分−350mM(Gradient curve No.3)、28分−850mM(Gradient curve No.7)、30分−850mMの条件で行った。結果を
図6にしめす。
図6Aは標準サンプルとして、100mMグルコース(Glc)、100mMマルトース(Mal)、100mMグルコース1リン酸(G1P)、200mMグルクロン酸(GlcA)、200mMグルクロン酸1リン酸(GlcA1P)を混合したものに、マルトオリゴ糖の標準サンプルとして100mMマルトトリオース(G4)、100mMマルトヘプタオース(G7)を加えたサンプルを用い、溶出位置を確認したものである。
図6Bに示すように、馬鈴薯由来α−グルカンホスホリラーゼを用いた酵素反応産物を分析した結果、マルトオリゴ糖を含む複数のピークが確認された。グルコアミラーゼはマルトオリゴ糖を非還元末端から分解する酵素であるが、非還元末端にグルクロン酸が結合している場合は消化することができない。このグルコアミラーゼ(0.1mg/ml)を用いて
図6Bの産物を消化したところ、
図6Cで示すように、すべてのピークが消失し、グルクロン酸残基が結合したグルカンは検出されず、馬鈴薯由来α−グルカンホスホリラーゼではグルクロン酸残基が結合したグルカンは合成できないことがわかった。
【0244】
(比較例2〜4:他の微生物由来α−グルカンホスホリラーゼを使用した酵素反応)
50mMグルクロン酸−1−リン酸、100mMクエン酸緩衝液(pH6.7)、10mMマルトテトラオース及び製造例3で作製したThermotoga maritima由来α−グルカンホスホリラーゼ(3Unit/ml)を含む反応液を37℃で40時間反応した糖組成を、そのまま、あるいはグルコアミラーゼ消化した後、DIONEX社製HPAEC−PAD装置で分析した。この分析条件は比較例1と同条件である。グルクロン酸残基が結合したグルカンは検出されず、Thermotoga maritima由来α−グルカンホスホリラーゼではグルクロン酸残基が結合したグルカンは合成できないことがわかった。Thermotoga maritima由来α−グルカンホスホリラーゼのかわりにThermococcus zilligii由来α−グルカンホスホリラーゼ(43Unit/ml)またはThermoanaerobacter pseudethanolicus由来α−グルカンホスホリラーゼ(19Unit/ml)を用いて同様の酵素反応を行ったが、グルクロン酸残基が結合したグルカンは合成できなかった。
【0245】
(実施例1:マルトテトラオースを原料として使用したグルクロン酸含有グルカンの製造)
50mMグルクロン酸−1−リン酸、100mM クエン酸緩衝液、10mMマルトテトラオース及びAquifex aeolicus VF5由来α−グルカンホスホリラーゼ(37.5Unit/ml)を含む反応液を37℃で40時間保温後反応液の糖組成を、そのまま、あるいはグルコアミラーゼ消化した後、DIONEX社製HPAEC−PAD装置で分析した。この分析条件は比較例1と同条件である。結果を
図7に示す。
図7Aは標準サンプルの溶出位置を確認した図である。
図7Bに示すように、Aquifex由来α−グルカンホスホリラーゼを用いた酵素反応産物を分析した結果、マルトオリゴ糖を含む複数のピークが確認できた。グルコアミラーゼ(0.1mg/ml)を用いて
図7BのAquifex由来α−グルカンホスホリラーゼ産物を消化した結果、
図7Cで示すように、星印で示すピークは分解されなかったことから、これらの星印で示すピークは非還元末端にグルクロン酸残基を含むグルカン化合物であることがわかった。さらに、α−1,4グルコシル結合をマルトース単位でランダムに分解する酵素であるα−アミラーゼを用いてこの産物を消化したところ、
図7Dで示すようにすべてのピークが印で示す2ピークにシフトしたことから、グルクロン酸残基を含むグルカンがα−1,4グルカンであることが確認できた。マルトオリゴ糖の非還元末端に、グルクロン酸残基が1分子結合したグルカンが得られた。この結果、Aquifex aeolicus VF5由来α−グルカンホスホリラーゼを使用することにより、グルクロン酸含有グルカン(
図7C星印)を製造できることが確認された。
【0246】
(実施例2:マルトヘプタオースを原料として使用したグルクロン酸含有グルカンの製造)
50mMグルクロン酸−1−リン酸、100mM クエン酸緩衝液、10mMマルトヘプタオース及びAquifex aeolicus VF5由来α−グルカンホスホリラーゼ(37.5Unit/ml)を含む反応液を37℃で40時間保温後反応液の糖組成を、そのまま、あるいはグルコアミラーゼ消化した後、DIONEX社製HPAEC−PAD装置で分析した。この分析条件は比較例1と同条件である。結果を
図8に示す。
図8Aは標準サンプルの溶出位置を確認した図である。
図8Bに示すように、Aquifex由来α−グルカンホスホリラーゼを用いた酵素反応産物を分析した結果、マルトオリゴ糖を含む複数のピークが確認できた。マルトテトラオースを用いた時より産物の平均重合度は大きかった。グルコアミラーゼ(0.1mg/ml)を用いて
図8BのAquifex由来α−グルカンホスホリラーゼ産物を消化したところ、
図8Cで示すように、星印で示すピークは分解されなかったことから、これらは非還元末端にグルクロン酸残基を含むグルカン化合物であることがわかった。さらに、α−アミラーゼを用いてこの産物を消化したところ、
図8Dで示すようにすべてのピークが印で示す2ピークにシフトしたことから、グルクロン酸残基を含むグルカンが確かにα−1,4グルカンであることが確認できた。マルトテトラオースを用いた時より分子サイズの大きい、マルトオリゴ糖の非還元末端にグルクロン酸が1分子付加されたグルカン(
図8C星印)が得られた。
【0247】
(実施例3:グルクロン酸含有グルカンの分子量測定および構造同定)
実施例1で得られたグルクロン酸含有グルカンの構造を決定するため、
図9A(
図7Cと同じ図である)のクロマトグラムの矢印で示したピークを分取した。分取は、HPAEC−PAD装置のカラムと検出器の間のチューブに分岐を設け、目的ピークの溶出時に分取側への流路切り替えを行うことで行った。分取後のサンプルをHPAEC−PAD装置で分析した結果を
図9Bにしめす。これらの分析条件は比較例1と同条件である。このサンプルをSephadexG−10カラム(容量20ml)を用い脱塩、凍結乾燥した後、TOF−MS(島津製Voyager Biospectrometry Workstation Ver.5.1)により分子量を求めたところ、703.22という値となった。この分子量はグルクロン酸を末端に有するマルトトリオースの理論値と一致した。
図9Bの物質(
図9A矢印の物質と同じ)の構造を
図9Cに示す。
【0248】
(実施例4:分岐デキストリンを原料として使用したグルクロン酸含有グルカンの製造)
50mMグルクロン酸−1−リン酸、100mM クエン酸緩衝液、2%分岐デキストリン(商品名:クラスターデキストリン;分子量190KDa:江崎グリコ株式会社製)及びAquifex aeolicus VF5由来グルカンホスホリラーゼ(37.5Unit/ml)を含む反応液を37℃で18時間保温し、酵素反応させた。クラスターデキストリンはトウモロコシ由来ワキシーコーンスターチにブランチングエンザイムを作用させることにより低分子量化したデキストリンであり、α−1,6結合によって結合した分岐鎖を含む高分子量分岐デキストリンである。酵素反応産物の構造をDIONEX社製HPAEC−PAD装置で分析した結果を
図10にしめす。この分析条件は比較例1と同条件である。
図10Aは標準サンプルの溶出位置を確認した図である。
図10Bは酵素反応前のクラスターデキストリンの分岐部分をイソアミラーゼで消化した後HPAEC−PAD装置により分析したものであり、クラスターデキストリン分子のグルカン直鎖部分の長さの分布を示したものである。
図10CはAquifex由来α−グルカンホスホリラーゼを用いた酵素反応産物をイソアミラーゼにより消化し分析した結果である。マルトオリゴ糖を含む複数のピークが確認でき、特に9分以降に矢印で示す部分に大きなピーク群が見られた。グルコアミラーゼ(0.1mg/ml)を用いて
図10Cのイソアミラーゼ消化物を消化したところ、
図10Dで示すように、矢印で示すピーク群はグルコアミラーゼによって分解されず、これらは非還元末端にグルクロン酸残基を含むグルカン化合物であることがわかった。これらの結果から、多数の非還元末端にグルクロン酸残基がそれぞれ1分子残基した高分子量分岐デキストリンが得られたことを確認した。非還元末端へのグルクロン酸導入率を求めたところ、非還元末端の約70%に、グルクロン酸残基が導入できていることを確認した。このようにして、多数の非還元末端にグルクロン酸残基が結合した構造を有する、本発明のグルクロン酸含有グルカン(
図2に示す)が製造できた。
【0249】
(製造例4:構造の異なる各種グルカンの製造)
(製造例4−1:分岐グルカン(B)の製造)
50gのワキシーコーンスターチ(三和澱粉工業(株)製)を1000mlの10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)に懸濁し、約100℃に加熱することにより糊化させた。約70℃まで冷却した糊液に特開2000−316581の実施例1に記載された方法に従って調製した高度耐熱性ブランチングエンザイムを200,000単位添加して反応液を調製した後、70℃で16時間反応させた。反応液を100℃で20分間加熱した後、6,500rpmで10分間遠心後の上清を孔径0.8μmの膜でろ過した。次に、濾液をゲルろ過クロマトグラフィー(AKTA purifer)システム(カラム:GEヘルスケア製 HiPrep
TM 26/10 Desalting)を用い脱塩し、低分子量多糖を除去した。約1000mlの濾液を7.5mlのアリコートに分けてゲルろ過クロマトグラフィーシステムにアプライし、それぞれ流速10ml/分の2.7分から3.7分までの溶出画分を分取した。1000mlの濾液から得られた溶出画分を合わせて孔径0.2μmの膜でろ過した後凍結乾燥することにより、分岐グルカン(B)の粉末約35gを得た。分岐グルカン(B)の重量平均分子量は多角度レーザー光散乱光度計(ワイアットテクノロジー社製、DAWN DSP)と示差屈折計(昭和電工(株)製、Shodex RI−71)を備えた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)システム(カラム:昭和電工(株)製、OHPAK SB−806MHQ)を用いて調べた。分岐グルカン(B)の粉末20mgを10mlの100mM硝酸ナトリウム水溶液に溶解し、孔径0.45μmの膜でろ過して濾液を得た。得られた濾液のうちの100μlを上記HPLCシステムに注入した。分岐グルカン(B)の重量平均分子量は約110K(重合度にして約670)であることが示された。
【0250】
上述の分岐グルカン(B)にイソアミラーゼを作用させ、還元力を改変パークジョンソン法(Hizukuriら、Starch,Vol.,35,pp.348−350, (1983))により調べたところ、分岐の平均単位鎖長は約17、分岐数は約40であることが示された。
【0251】
(製造例4−2:分岐グルカン(P)の製造)
砂糖水溶液(砂糖150gを1000mlの蒸留水に溶かし孔径0.2μmの膜でろ過することにより調製した)800ml、5%分岐グルカン(B)水溶液(上述の分岐グルカン製造例4−1で製造した分岐グルカン(B)5%水溶液を孔径0.2μmの膜でろ過することにより調製した)20ml、1Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)4ml、国際公開第WO02/097107号パンフレットの実施例2.5に記載されたとおりの方法で調製した組換えStreptococcus mutansスクロースホスホリラーゼ1,800U、本願製造例1で製造したグルカンホスホリラーゼ1,200U、製造例4−1で使用した特開2000−316581に記載されたブランチングエンザイム600,000Uを混合し、蒸留水で液量を1000mlに調整した後、55℃で24時間反応させた。反応液を100℃で20分間加熱した後、6,500rpmで20分間遠心後その上清を孔径0.8μmの膜でろ過した。さらに、得られた濾液をゲルろ過クロマトグラフィー(AKTA purifer)システム(カラム:GEヘルスケア製 HiPrep
TM 26/10 Desalting)を用いて脱塩し、低分子量多糖を除去した。約1000mlの濾液を7.5mlのアリコートに分けてゲルろ過クロマトグラフィーシステムにアプライし、それぞれ流速10ml/分で2.7分から3.7分までの溶出画分を分取した。1000mlの濾液から得られた溶出画分を合わせて溶出画分を孔径0.2μmの膜でろ過した後凍結乾燥することにより、分岐グルカン(P)約40gを得た。分岐グルカンの製造例4−1と同様にグルカンの重量平均分子量を調べたところ、分岐グルカン(P)の重量平均分子量は約4,000K(重合度にして約25,000)であることが示された。また、分岐の平均単位鎖長は約15、分岐数は約1,600であることが示された。さらに分岐グルカン(P)の平均粒径を濃厚系粒径アナライザー(大塚電子製、FPAR−1000)で測定したところ、平均粒径約37μmであった。
【0252】
(実施例5:グルクロン酸転移率の異なる各種グルクロン酸含有分岐グルカンの製造)
製造法4−1で製造した分岐グルカン(B)、グルクロン酸−1−リン酸、100mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)を含む反応液に製造例1で調製したAquifex aeolicus VF5由来α−グルカンホスホリラーゼ(14Unit/ml)を50℃で18時間作用させ、グルクロン酸転移率の異なる3種のグルクロン酸含有分岐グルカン(BA1、BA2及びBA3)を製造した。各種グルクロン酸含有分岐グルカンの反応条件(分岐グルカン(B)濃度、グルクロン酸−1−リン酸濃度、分岐グルカン(B)とグルクロン酸−1−リン酸の添加割合)、および得られたグルクロン酸含有分岐グルカンのグルクロン酸転移率を表3に示した。
【0253】
分岐グルカン(B)へのグルクロン酸転移率は、反応液の反応液中の遊離の無機リン酸量を定量し、以下の式を用いて算出した:
(反応液中に生じた無機リン酸数/反応液中の平均単位鎖数)×100(%)
無機リン酸量は、無機リン酸を含む水溶液(200μl)に対し、800μlのモリブデン試薬(15mM モリブデン酸アンモニウム、100mM 酢酸亜鉛)を混合し、続いて200μlの568mMアスコルビン酸水溶液(pH5.0)を加えて攪拌し、反応系を得る。この反応系を、30℃で20分間保持した後、分光光度計を用いて850nmでの吸光度を測定した。濃度既知の無機リン酸を用いて同様に吸光度を測定し、標準曲線を作成する。この標準曲線に試料で得られた吸光度を当てはめ、試料中の無機リン酸を求めた。
【0254】
表3に示したように分岐グルカン(B)に対するグルクロン酸−1−リン酸の添加割合(「分岐グルカン(B)の濃度」:「グルクロン酸−1−リン酸濃度」(モル比))を1:0.5、1:1、または1:2と変えることで、分岐グルカンの非還元末端へのグルクロン酸転移率をそれぞれ25%、50%、70%と調節することができた。このようにしてグルクロン酸含有分岐グルカン(BA1、BA2、およびBA3)が製造された。
【0255】
【表3】
【0256】
(実施例6:単位鎖長の異なる分岐グルカンを用いたグルクロン酸含有分岐グルカン製造)
製造法4−1で製造した分岐グルカン(B)、グルコース1−リン酸、100mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)を含む反応液にAquifex aeolicus VF5由来α−グルカンホスホリラーゼ(1Unit/ml)を50℃で18時間作用させ、単位鎖を伸長し、単位鎖長の異なる2種の分岐グルカン(B2及びB3)を合成した。分岐グルカン(B2及びB3)の単位鎖長は、反応液中の無機リン酸量を定量し算出した。反応液中の無機リン酸量は伸長されたグルコース量に相当し、そのグルコース量と分岐グルカンの非還元末端数(40)から分岐グルカンの非還元末端に伸長されたグルコース数(平均単位鎖長)を求めた。分岐グルカンB2及びB3の非還元末端に伸長されたグルコース数は、それぞれ20及び40であり、分岐グルカンB2及びB3の平均単位鎖長は反応前の分岐グルカン(B)の単位鎖長17と伸長されたグルコース数との合計であるので、単位鎖長はそれぞれ37、57であった。
【0257】
分岐グルカン(B2及びB3)の伸長反応条件(分岐グルカン(B)の濃度およびグルコース1−リン酸の濃度)、非還元末端に伸長されたグルコース数、分岐グルカン(B2及びB3)の単位鎖長を表4に示した。
【0258】
【表4】
【0259】
次に、この分岐グルカン(B2及びB3)の合成反応液を100℃で10分間加熱し12,000rpmで遠心後反応液の上清を回収し、PD−10カラムを用いて、脱塩し、低分子量分子を除去し、単位鎖の異なる分岐グルカン(B2及びB3)を製造した。
【0260】
分岐グルカンB、B2又はB3と、グルクロン酸1−リン酸、100mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)にAquifex aeolicus VF5由来α−グルカンホスホリラーゼ(14Unit/ml)を50℃で20時間作用させ、グルクロン酸含有分岐グルカン(BA4〜BA9)を製造した。BA4〜BA9のグルクロン酸転移率を実施例5の方法で求め、表5に示した。
【0261】
【表5】
【0262】
(実施例7:グルクロン酸含有分岐グルカンの単位鎖伸長)
実施例5で得られたグルクロン酸含有分岐グルカン(BA1又はBA3)、グルコース1−リン酸及び100mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)を含む反応液にAquifex aeolicus VF5由来α−グルカンホスホリラーゼ(5Unit/ml)を50℃で18時間作用させ、単位鎖長の異なる各種グルクロン酸含有分岐グルカン(BA10〜BA17)を合成した。その反応条件を表6に示した。
【0263】
【表6】
【0264】
グルクロン酸含有分岐グルカン(BA10〜BA17)の平均単位鎖長を、反応液中の無機リン酸量を定量し実施例6と同じ方法で求めた。さらに単位鎖長から分岐グルカンの単位鎖の平均分子量を求めた。こうして表7に示すグルクロン酸含有分岐グルカン(BA10〜BA17)を製造した。
【0265】
【表7】
【0266】
それぞれのグルクロン酸含有分岐グルカン(BA10〜BA17)を実施例4と同じ方法でイソアミラーゼ消化した後、さらにグルコアミラーゼ消化し、グルクロン酸残基を含むグルカンであることを確認した。
【0267】
また、これらグルクロン酸含有分岐グルカン(BA10〜BA17)反応液10μlをそれぞれ0.05molのヨウ素液1mlに加えヨウ素染色を行い、ヨウ素の包接能力を比較した。ヨウ素の包接能力は分光光度計を用いて660nmの吸光度を測定した。結果を表8に示した。吸光度の値が大きくなるほどヨウ素の包接能力が高いことを示す。水の吸光度の値は0.01であり、分岐グルカン(B)の吸光度の値は0.04であり、これらの分子には包接能力がないことを示している。一方、単位鎖長が長いほど吸光度の値は大きく、包接能力の高いことが示された。グルクロン酸含有分岐グルカンのグルクロン酸が結合していない単位鎖を伸長することにより、本発明のグルカンに包接能力を付与することが出来た。
【0268】
【表8】
【0269】
また、平均単位鎖長15,000の分岐グルカン伸長物(グルクロン酸付加無しの対照物)とBA17のグルクロン酸含有分岐グルカンを凍結保存後室温解凍するといずれも老化沈殿したが、BA17のグルクロン酸含有分岐グルカンは加熱により簡単に溶解した。一方、平均単位鎖長15,000の分岐グルカン伸長物は溶解できなかった。非還元末端にグルクロン酸を結合させることにより分岐グルカン伸長物の溶解性を高めることができた。
【0270】
(実施例8:グルクロン酸含有分岐グルカン(BA1)を用いたマンノース含有分岐グルカンの製造)
実施例5で得られたグルクロン酸含有分岐グルカン(10mM BA1)、10mMマンノース1−リン酸、100mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)を含む反応液にAquifex aeolicus VF5由来α−グルカンホスホリラーゼ(14Unit/ml)を50℃で18時間作用させ、マンノース含有分岐グルカンを合成した。分岐グルカン中のマンノース転移率は実施例5と同じ方法で求めた。こうしてグルクロン酸含有率25%、マンノース転移率44%の分岐グルカンを製造した。さらに本実施例のマンノース含有分岐グルカンは、グルクロン酸残基を含むグルカン、マンノース残基を含むグルカンを有することを、実施例4同様にイソアミラーゼ消化した分岐グルカンをグルコアミラーゼ消化したあとのHPAEC−PAD装置による分析で確認した。
【0271】
(実施例9:グルクロン酸含有分岐グルカン(BA1)を用いたガラクトース含有分岐グルカンの製造)
実施例5で得られたグルクロン酸含有分岐グルカン(10mM BA1)、10mMガラクトース1−リン酸、100mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)を含む反応液にAquifex aeolicus VF5由来α−グルカンホスホリラーゼ(14Unit/ml)を50℃で18時間作用させ、ガラクトース含有分岐グルカンを合成した。分岐グルカン中のガラクトース転移率は実施例5と同じ方法で求めた。こうしてグルクロン酸含有率25%、ガラクトース転移率39%の分岐グルカンを製造した。さらに本実施例のガラクトース含有分岐グルカンは、グルクロン酸残基を含むグルカン、ガラクトース残基を含むグルカンを有することを、実施例4同様にイソアミラーゼ消化した分岐グルカンをグルコアミラーゼ消化したあとのHPAEC−PAD装置による分析で確認した。
【0272】
(実施例10:グルクロン酸転移率の異なる各種グルクロン酸含有分岐グルカン(PA1、PA2およびPA3)の製造)
製造法4−2で製造した分岐グルカン(P)、グルクロン酸1−リン酸、100mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)を含む反応液にAquifex aeolicus VF5由来α−グルカンホスホリラーゼ(14Unit/ml)を50℃で18時間作用させ、グルクロン酸転移率の異なる3種のグルクロン酸含有分岐グルカン(PA1、PA2およびPA3)を製造した。各種グルクロン酸含有分岐グルカンの反応条件((分岐グルカン(P)、グルクロン酸1−リン酸濃度、(分岐グルカン(P)とグルクロン酸1−リン酸の添加割合)、および得られたグルクロン酸含有分岐グルカンのグルクロン酸転移率を表9に示した。
【0273】
分岐グルカン(P)へのグルクロン酸転移率は、実施例5の方法で算出した。表9に示したように(分岐グルカン(P)に対するグルクロン酸−1−リン酸の添加割合をそれぞれ1:0.5、1:1、1:3と変えることで、分岐グルカンの非還元末端へのグルクロン酸含有率をそれぞれ30%、40%、70%に調節したグルクロン酸含有分岐グルカン(PA1、PA2およびPA3)が製造できた。
【0274】
【表9】
【0275】
(実施例11:グルクロン酸含有グルカンのカチオン化(BC))
実施例5で得られたグルクロン酸含有グルカン(BA2)を用いて2wt%水溶液を調製した。調製した水溶液1mlと1Nの塩酸2μlを試験管に加え、10℃で撹拌し、pH5の水溶液とした。この水溶液にN,N−ジエチルエチレンジアミンを2μl加えて撹拌し、さらに1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)2mgを加え、10℃で3時間撹拌を続けた。3時間後、反応液をゲルろ過カラム(PD−10)に1mlのせ、1.5mlの超純水で通液し、その後2mlを超純水で回収しグルクロン酸含有グルカンのカチオン化物(BC)を得た。
【0276】
(実施例12:用途例1:タンパク質の高分子化(BAとインスリンを脱水縮合))
2mgのアルブミン(ウシ血清由来)と実施例5のグルクロン酸含有グルカン(BA2)2mgを700μlの0.1M 2−[N−モルホリノ]エタンスルホン酸(2−[N−morpholino]ethane sulfonic acid;MES)緩衝液(pH 5.0)に溶解した。1mgの1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)を添加し、2時間室温で反応させた後、反応液を水で4分の1に希釈した後PD−10カラム(GE社製)を用いて脱塩した。得られた溶液をSuperose 6 10/300 GLカラム(サイズ分画用カラム、GE社製)を用いたFPLC分析によって分析した。溶離液(50mM リン酸緩衝液(pH7.0)、150mM 塩化ナトリウム)を用い、0.5ml/分で溶出し、生成物をUV(280nm)で検出した。グルクロン酸含有グルカンとアルブミンを縮合反応したサンプルの生成物は溶出時間が早く、分子サイズが大きいことが示された。したがって、グルクロン酸含有グルカンとタンパク質を脱水縮合し高分子化できることが示された。
【0277】
(実施例13:用途例2:タンパク質の安定化及び複合体形成(BA))
塩基性タンパク質であるFGF−basic(Pepro Tech Ec,Inc.製)20μgと実施例5のグルクロン酸含有グルカン(BA2)0.5mgを0.1mlのイオン交換水中で混合した後、Superose 6 10/300 GLカラム(サイズ分画用カラム、GE社製)を用いたFPLC分析によって分析した。イオン交換水を溶離液とし、0.5ml/分で溶出し、生成物をUV(280nm)で検出した。グルクロン酸含有をFGF−basic溶液に添加しなかった場合と比較して、添加した場合は生成物の溶出時間が早く、分子サイズが大きいことが示された。したがって、グルクロン酸含有グルカンは塩基性タンパク質との複合体を形成できることが示された。結果を
図11に示す。
【0278】
(実施例14:用途例3:核酸の安定化及び複合体形成(BC))
実施例11で得られたカチオン化グルカン(BC)0.2μgとラムダDNA−HindIII断片(タカラバイオ製)0.5μgを20μlのイオン交換水中に溶解し、5分間室温で静置した後、1%アガロースゲル電気泳動を行った。カチオン化グルカンを添加しなかった場合と比較して、添加した場合は著しくDNA断片の移動度が遅かった。したがって、カチオン化グルカンはDNAとの複合体を形成できる。結果を
図12に示す。
【0279】
(実施例15:各種グルカン(B及びP)のアセチル化(AcB及びAcP))
製造例4で得られたグルカン(BおよびP)をそれぞれDMSOに溶解し、表10の仕込みで混合し、25℃で1時間撹拌を行った。得られた溶液を超純水で2倍に希釈し、ゲルろ過カラム(PD−10)に1mlのせ、1.5mlの超純水で通液し、その後2mlを超純水で回収し精製した。精製後のサンプル300μlに5N 水酸化ナトリウム水溶液 200μlを加え、55℃で30分の加熱を行い、脱アセチル化反応を行った。この反応液に1N トリスバッファー(pH7)を300μl加え、さらに5N塩酸を200μl加え中和をした。中和後の溶液をフェノール硫酸法でグルコース定量し、また、遊離酢酸定量キットにて遊離酢酸の定量を行い、アセチル化度を求めたところ、アセチル化度が0.1〜1.3のアセチル化グルカン(AcB1〜AcB5およびAcP1〜AcP5)が得られた(表11)。各サンプル水溶液を凍結乾燥してアセチル化グルカンの粉末を得た。
【0280】
【表10】
【0281】
【表11】
【0282】
(実施例16:各種アセチル化グルカンのアミラーゼ分解性)
実施例15で得られたアセチル化度の異なるアセチル化グルカン(AcB1、AcB2、AcB3、AcB4およびAcP1、AcP3、AcP4、AcP5)の粉末をそれぞれ使用して0.2wt%水溶液を調製した。これらの水溶液200μlにそれぞれ1M酢酸バッファー4μlを加え、さらに94unit/mlに調整した豚膵臓由来のα−アミラーゼを2μl加え、α−アミラーゼによる分解性を確認した。結果を
図13に示す。
図13の黒丸はAcB、黒三角はAcPを示す。
図13に示すように、アセチル化度0.5以上のアセチル化グルカンはα−アミラーゼによる分解が抑制されることがわかった。
【0283】
(実施例17:各種アセチル化グルカンの血清アセチラーゼ分解性)
人の全血を1時間室温で静置し、5,000rpmで15分間遠心を行った。上清を血清として回収し、得られた血清200μlと実施例15で得られたアセチル化グルカン(AcB2、AcB3、AcB4およびAcP1、AcP3、AcP5)の0.2wt%調整水溶液200μlを混合した。37℃で2、4及び6時間目に80μlずつサンプリングを行い、遊離酢酸定量キットにて遊離酢酸の定量を行った。サンプリング6時間目の結果を
図14に示す。どのアセチル化グルカンにおいても血清中のアセチラーゼによりアセチルが遊離したことがわかった。
【0284】
(実施例18:各種アセチル化グルカンへのグルクロン酸付加(AcBA))
実施例15で得られたアセチル化グルカン(AcB2)160mgを含む、30mMグルクロン酸−1−リン酸、50mM 酢酸緩衝液(pH5.5)及びAquifex aeolicus VF5由来グルカンホスホリラーゼ(18Unit/ml)を含む反応液を60度で16時間保温し、酵素反応させた。実施例5に記載の方法で無機リン酸含量を測定したところ、アセチル化グルカンの非還元末端の41.7%にグルクロン酸が導入されたことが分かった。
【0285】
(実施例19:グルクロン酸含有グルカンの蛍光ラベル化(F−B、F−AcBA))
製造例4−1で得られたBおよび実施例18で得られたAcBA2の各グルカンを2wt%のDMSO溶液に調製した。各グルカンDMSO溶液2mlを試験管に入れ、90℃で撹拌した。これに1.25Mに調整したフルオレセインイソチオシアネート(FITC)のDMSO溶液を20μl加え、ピリジン1滴、ジラウリン酸ジ−n−ブチルすず1滴を滴下し90℃で2時間撹拌を行った。反応終了後、反応液にエタノールを5ml加え、10,000rpmで5分遠心を行い、沈殿を回収した。さらにエタノールを加え洗浄を行い、これを超純水1mlで溶解し、ゲルろ過カラム(PD−10)に1mlのせ、1.5mlの超純水で通液し、その後2mlを超純水で回収し精製を行った。得られたサンプルを凍結乾燥し、グルクロン酸含有グルカンの蛍光ラベル化物(F−B、F−AcBA)を得た。得られたサンプルの一部は490nmにおけるUV吸収を測定した。ウラニンを標準物質とし、各FITC導入量を求めたところ、表12に示すFITCの導入が確認できた。
【0286】
【表12】
【0287】
(実施例20:用途例3:グルクロン酸含有アセチル化グルカンの体内動態試験(F−B、F−AcBA))
実施例19で得られたFITCラベル化グルカン(F−B、F−AcBA)を2.6wt%となるように生理食塩水で調製した。頚静脈にカニューレを施した体重350g程度のラット(SD,10週齢,♂)のカテーテル部分より、調整したサンプル水溶液を400μl注入し、その後さらに生理食塩水100μlを注入しカテーテルを洗浄した。サンプル投与を0時間として、1、10、20、30及び40分後にカニューレより採血を行った。血液は12,000rpmで1分間遠心を行い、上清の血清を得た。得られた血清100μlに30%のトリクロロ酢酸を10μl加え混合した。10,000rpm、5分間の遠心を行い、上清50μlを回収した。この上清をpH7の1Mリン酸バッファーと5N水酸化ナトリウム水溶液で中和した。中和後の各サンプルは、ゲルろ過を用いた蛍光分析を行い、Ex=490nm,Em=518nmにて蛍光強度を測定した。結果を
図15に示す。黒三角はF−B、黒四角はF−AcBAを示す。血液中に存在するグルカン量の経時変化を示した
図15から、グルクロン酸含有アセチル化グルカン(F−AcBA)は未修飾グルカン(F−B)に比べ、血中滞留時間が大幅に延長されることが分かった。
【0288】
(実施例21:グルクロン酸含有グルカンの還元末端修飾物(3種)の製造)
(A)還元末端修飾マルトオリゴ糖(マルトトリオシルαシクロデキストリン、パラニトロフェニルマルトペンタオシド又はマルトシルスクロース)、(B)グルクロン酸1−リン酸、100mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)を含む反応液に製造例1で調製したAquifex aeolicus VF5由来α−グルカンホスホリラーゼ(14Unit/ml)を50℃18時間作用させ、グルクロン酸含有グルカンの還元末端修飾物(3種)を製造した。反応条件を表13に示した。
【0289】
3種の還元末端修飾マルトオリゴ糖へのグルクロン酸転移率は、実施例5と同様の方法で求めた。結果を表13に示す。表13に示したようにグルクロン酸含有グルカンの還元末端修飾物が製造された。
【0290】
【表13】
【0291】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。