特許第5649267号(P5649267)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5649267高められた耐衝撃/静荷重強度を有するガラス積層基板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5649267
(24)【登録日】2014年11月21日
(45)【発行日】2015年1月7日
(54)【発明の名称】高められた耐衝撃/静荷重強度を有するガラス積層基板
(51)【国際特許分類】
   C03B 23/203 20060101AFI20141211BHJP
   B32B 17/00 20060101ALI20141211BHJP
【FI】
   C03B23/203
   B32B17/00
【請求項の数】2
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2007-546778(P2007-546778)
(86)(22)【出願日】2005年12月8日
(65)【公表番号】特表2008-522950(P2008-522950A)
(43)【公表日】2008年7月3日
(86)【国際出願番号】US2005044664
(87)【国際公開番号】WO2006065657
(87)【国際公開日】20060622
【審査請求日】2008年11月7日
(31)【優先権主張番号】11/011,323
(32)【優先日】2004年12月13日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100090468
【弁理士】
【氏名又は名称】佐久間 剛
(72)【発明者】
【氏名】ラップ,ホセ シー
(72)【発明者】
【氏名】グラティ,スレッシュ ティー
【審査官】 山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】 特公昭62−040297(JP,B2)
【文献】 米国特許第03673049(US,A)
【文献】 特開2001−261355(JP,A)
【文献】 特開平11−322367(JP,A)
【文献】 特表2006−525150(JP,A)
【文献】 特開昭55−003390(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 17/06
23/00−35/26
C03C 15/00−23/00
27/00−29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層基板において、
予め定められたスキン層熱膨張係数、及び残留圧縮応力を有するものとなるように形成されている透明ガラススキン層、
予め定められたコア熱膨張係数、及び残留引っ張り応力を有するものとなるように形成されている透明ガラスコア、及び
前記透明ガラススキン層と前記透明ガラスコアの間に配置された、予め定められた中間層熱膨張係数、及び残留圧縮応力を有するものとなるように形成されている透明ガラス中間層、
を有し、
前記中間層熱膨張係数が、前記スキン層熱膨張係数より大きく、かつ、前記コア熱膨張係数より小さく定められたものであり、
前記透明ガラスコア、前記透明ガラス中間層、及び前記透明ガラススキン層が、前記積層基板の内部から該積層基板の表裏両面それぞれに向けて、この順に積層されていることを特徴とする積層基板。
【請求項2】
前記ガラススキン層が、1000psi(6.9MPa)より大きい残留圧縮応力を有するものとなるように形成されたものであり、
前記ガラスコアが、4000psi(27.6MPa)より小さい残留引っ張り応力を有するものとなるように形成されたものであり、
フラットパネルディスプレイに用いられるものであることを特徴とする請求項記載の積層基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子基板に関し、さらに詳しくは、基板の耐静/衝撃荷重強度を高めるために基板の選択された層が残留圧縮応力または残留引っ張り応力を有する、例えばフラットパネルディスプレイに用いられるような、ガラス積層基板に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス基板は、例えば液晶ディスプレイ(LCD)などの、ディスプレイに用いられることが多い。LCDは、電卓、時計、ビデオゲーム、オーディオ及びビデオ機器、携帯型コンピュータ、さらには自動車のダッシュボードにおいて情報を表示するために益々普及してきている。LCDの品質及び大きさの改善により、LCDはテレビセット及びデスクトップコンピュータディスプレイに従来用いられていた陰極線管(CRT)の魅力的代替品になった。さらに、プラズマディスプレイ(PD)、電界放出ディスプレイ(FED)及び有機発光高分子材ディスプレイ(OLED)などの、別のタイプのフラットパネルディスプレイ(FPD)がLCDの代替として開発されている。
【0003】
いくつかのFPDでは、ピクセルアドレス指定のための導電体層、カラーフィルタ、LCDの液晶配向または配列層あるいはFED及びPDの蛍光体層などの、機能層を載せるために2枚のガラス板が用いられる。機能層を有する2枚のガラス板の間に、液晶化合物(LCD)、発光高分子材(OLED)またはプラズマ形成ガス(PD)が配される。
【0004】
プラスチックシートによるガラス板の置換えが特許文献1に開示されている。プラスチックシートは、柔軟性(よって良好な耐クラック強度を与える)及び耐衝撃/静荷重強度により、ガラス板より薄くつくることができる。プラスチックシートはガラス板より小さい比重も有し、したがってプラスチック基板によるLCDはガラス基板によるLCDより軽く、薄い。
【0005】
残念ながら、プラスチックシートにはディスプレイへの適用を制限する、ガラスシートより、低いガラス転移温度、低い可視光透過率及び高いガス透過率という3つの特性がある。低ガラス転移温度のためにプラスチックシートの最高使用温度が制限される。すなわち、プラスチックシートは、LCDおよびOLEDディスプレイに用いられる種類のa(アモルファス)-Siまたはp(多結晶)-SiベースのTET(薄膜トランジスタ)の作成に必要な、高い、300〜600℃の温度にさらされると、熱分解するであろう。低光透過率は画像の明るさを弱める。プラスチックシートのガス透過率はOLEDディスプレイに用いられる有機発光材料の劣化を生じさせ得る。そのような制限はディスプレイにおけるプラスチックの適用を制約する。
【特許文献1】特開平06-175143号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、ガラスシートの利点を高められた強度とともに提供できるガラス積層基板が未だに必要とされている。バルクで形成することができ、続いてスクラップによるかなりの損失を受けずに寸法を小さくすることができる、強化ガラス積層基板も必要とされている。さらに、薄化し、したがって軽量化することができ、同時に高められた耐荷重強度を提供することができる、ガラス積層基板が必要とされている。実質的にあらかじめ定められた耐衝撃/静荷重強度を有するガラス積層基板も必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のガラス積層基板は、基板の耐荷重強度を高めるために残留圧縮応力または残留引っ張り応力を有する、選択された層を有する。
【0008】
本ガラス積層基板は、焦点面アレイ、光電子デバイス、光電池、光デバイス、フラットパネルディスプレイ並びにウエハ段階及び組立段階における集積回路などの、ただしこれらには限定されない、電子基板として用いることができる。
【0009】
一般に、ガラス積層基板は透明ガラスコア及び一対の透明ガラススキン層を有し、コアはスキン層より高い熱膨張係数を有する。スキン層に対するコアの比厚及び熱膨張係数は、スキン層に残留圧縮応力を発生させ、コアに残留引っ張り応力を発生させるように選ばれる。残留応力は基板の耐荷重強度を高める。スキン層の圧縮応力及びコアの引っ張り応力は、許容できないレベルの基板破損または砕片発生をおこさずに、以後の基板のスクライビング及び分割を可能にするように選ぶことができる。
【0010】
一構成において、ガラス積層基板は例えばフラットパネルディスプレイに用いることができ、基板は、間隔をおいて配置された第1の熱膨張係数を有する一対の透明ガラススキン層及びスキン層の間に配置された透明ガラスコアを有し、透明ガラスコアは、ガラススキン層がほぼ1000psi(6.9MPa)より大きい残留圧縮応力を有し、ガラスコアがほぼ4000psi(27.6MPa)より小さい残留引っ張り応力を有するように、第1の熱膨張係数より高い第2の熱膨張係数を有する。
【0011】
スキン層に少なくともほぼ4000(27.6MPa)の圧縮応力を保持し、コアにほぼ1000psi(6.9MPa)より小さい引っ張り応力を有するようにガラス積層基板が選ばれる構成もある。
【0012】
別の構成において、ガラス積層基板はスキン層とコアの間に配置された少なくとも1つのガラス中間層を有する。スキン層、中間層及びコアを形成するガラスのそれぞれの、硬化点及び熱膨張係数を選ぶことにより、コアの残留引っ張り応力を下げ、スキン層の残留圧縮応力を維持または高めることができる。
【0013】
スキン層の残留圧縮応力及びガラスコアの残留引っ張り応力は、傷の発生及び傷の伝播に対する耐性を提供する蓄積エネルギーをガラス積層基板に生じさせ、蓄積エネルギーは、基板を破損させずに、あるいは粒子または砕片などの有害な汚染ガラス砕片を発生させずに、基板のスクライビング及び分割を可能にするに十分に低い。
【0014】
上述した全般的説明及び以下の詳細な説明はいずれも、本発明の実施形態を提示し、特許請求されるような本発明の本質及び特徴の理解のための概観または枠組みの提供が目的とされていることは当然である。添付図面は本発明のさらなる理解を提供するために含められ、本明細書に組み入れられて本明細書の一部をなす。図面は本発明の様々な例示的実施形態を示し、記述とともに本発明の原理及び動作の説明に役立つ。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、フラットパネルディスプレイに使用するための(図3及び4の例に示されるような)ガラス積層基板60を含む。本明細書で用いられるような、術語「フラットパネルディスプレイ」は電子基板の一例であって、液晶ディスプレイ(LCD)、プラズマディスプレイ(PD)、電界放出ディスプレイ(FED)及び有機発光高分子材ディスプレイ(OLED)を含めることができるが、これらには限定されない。
【0016】
図1を参照すれば、(積層なしで示される)ガラスシート20,30が液晶材料で満たされている間隙40によって隔てられた、LCDの略図が与えられる。シート20,30の縁端は低弾性率高分子接着剤44で互いに封止され、比較的硬いフレーム(図示せず)に配される。拡散板46が所定の間隔でシート30から隔てておかれ、拡散板はバックライト源としてはたらく。
【0017】
シート20は露出表面22及び間隙表面24を有し、シート30は間隙表面32及び露出表面34を有する。
【0018】
図2に示されるように荷重Lが印加されると、表面22及び32は圧縮を受け、したがって比較的耐荷重強度が大きい。しかし、表面24及び表面34は、荷重の激烈さ並びに表面24及び34に見られる内在傷に依存して、シート20,30の破損をもたらし得る、強められた引っ張り応力を受ける。
【0019】
一般に、ガラスシートはクラックを生じさせるに十分に大きな内部歪をつくる衝撃によって破壊され、ガラスの破壊は圧縮歪によるよりも引っ張り歪みにより容易におこる。したがって、衝撃による破壊は一般に引っ張り応力によると見なすことができる。本発明にしたがって作成されるようなガラス積層基板60は、基板への荷重印加にともなう引っ張り歪みに少なくともある程度対抗するために残留圧縮応力を用いる。以下でさらに説明するように、ガラス積層基板60の残留圧縮応力と残留引っ張り応力の関係は、スクライビングプロセス及び分割プロセスにおいて許容できないレベルの砕片(または基板破損)を発生させずに耐衝撃/静荷重強度を高めるために選ぶこともできる。
【0020】
本発明のガラス積層基板60は、ガラスシート20,30の代りに用いて、露出表面及び間隙表面において高められた強度を与え、よって得られるディスプレイの衝撃/静荷重に耐える能力を高めることができる。
【0021】
図3の例に示されるように、3層構成において、ガラス積層基板60は、間隔をおいて配置された一対のガラススキン層80,90に挟まれたガラスコア(層)70を有する。ガラス積層基板60は一般に、スキン層80,90の残留圧縮応力とコア70の残留引っ張り応力のあらかじめ定められた関係を有するように構成される。選ばれた構成において、スキン層80,90はガラスコア70と直接に接合される。
【0022】
しかし、コア70とスキン層80,90の間に中間層を配置できることも当然である。そのような中間層には、ガラス中間層85,95を含めることができるが、これには限定されない。図4の例に見られるように、5層構造において、中間層85,95がスキン層80,90とガラスコア70の間に配置され、スキン層及び中間層は残留圧縮応力を有し、コアは残留引っ張り応力を有する。すなわち、スキン層80,90はコア70に直接に、一体として、コア70に接合させることができ、あるいは間接に、例えば、少なくとも1つの中間層85,95のそれぞれを介して、コアに接合させることができる。
【0023】
ガラス積層基板60の3層(コア70及びスキン層80,90)構成において、例えば、スキン層80,90の応力σは式(1):
【数1】
【0024】
で表すことができる。
【0025】
コア70の応力σは式(2):
【数2】
【0026】
で表すことができる。
【0027】
ここで、E及びEはそれぞれコアガラス及びスキンガラスの弾性率、ν及びνはそれぞれコアガラス及びスキンガラスのポアソン比、αは室温から硬化点(T)までのスキン層ガラスの平均熱膨張係数、αは室温から硬化点(T)までのコアガラスの平均熱膨張係数、Tはコアガラスの硬化点とスキンガラスの硬化点の低い方(硬化点はガラス歪点より5℃高い温度と定義される)、tはそれぞれのスキン層の厚さ、及びtはコア厚の1/2である。
【0028】
式(1)及び(2)から、対称積層について、比σcは:
【数3】
【0029】
と書くことができ、これは:
【数4】
【0030】
と書き換えることができる。
【0031】
スキン層80,90のガラス及びコア70のガラスに対して適切な熱膨張係数(CTE)を選ぶことにより、スキン層に残留圧縮応力を形成することができ、コアに残留引っ張り応力を形成することができる。
【0032】
式(1)及び(2)にしたがって、コア70及びスキン層80,90の厚さ並びにそれぞれの硬化点及びCTEを制御することにより、残留応力(スキン層の圧縮応力及びコアの引っ張り応力)の大きさを設定することができる。
【0033】
一般に、スキン層80,90のガラス材料はコアガラス材料のCTEより小さいCTEを有する。有利な構成の1つではほぼ35%以内のスキン層CTE及びコアCTEが用いられるが、以下の実施例で実証されるように、スキンガラスとコアガラスの間の様々なCTE差のいずれをも用い得ることは当然である。
【0034】
実施例1:
【表1】
【数5】
【数6】
【表2】
【0035】
実施例2:
【表3】
【数7】
【数8】
【表4】
【0036】
実施例3:
【表5】
【数9】
【数10】
【表6】
【0037】
弾性率E及びEが10.3×10psi(ポンド/平方インチ)(7.1×10MPa),ポアソン比ν及びνが0.22で、T=671℃,α=37.8×10−7,α=31.8×10−7,t=0.30mm,t=0.05mmの代表的なガラス積層基板60は、4400psi(30.3MPa)のスキン層の残留圧縮応力及び725psi(5MPa)のコア70の内部引っ張り応力を与える。そのような積層は、工業界で既知のリングオンリング強度試験で測定すると、対応する無積層コアよりほぼ10%〜25%高い表面強度を有する。ほぼ1000psi(6.9MPa)より小さい内部引っ張り応力により、かなりの破砕リスクをおかさず、またはガラス表面を汚染し得るかなりのガラス粒子を生成させずに、ガラス積層基板のスクライビング及び切分けが可能となることがわかった。
【0038】
ガラス積層基板60の、許容できないレベルの砕片の発生または基板の破損をおこすことのない、スクライビング及び分割はコア70の4000psi(27.6MPa)もの高い引っ張り応力があっても満足に行い得ると考えられる。しかし、コア70の残留引っ張り応力が小さくなるとともに砕片発生及び基板破損の量が少なくなるから、コア70の残留引っ張り応力は、約2000psi(13.8MPa)より小さいことが望ましく、約1500psi(10.3MPa)より小さいことがさらに望ましい。ほぼ1000psi(6.9MPa)より小さく、ほぼ750psi(5.2MPa)より小さいことが有益な、コア70の残留引っ張り応力により、スクライビング及び分割プロセス中の許容できるレベルの砕片発生及び基板破損(破砕)を与えると同時に、耐衝撃/静荷重強度を高めるに十分なスキン層80,90の残留圧縮応力が可能になると考えられる。
【0039】
したがって、スキン層80,90の残留圧縮応力はほぼ3000〜15000psi(20.7〜103.4MPa)の範囲にあることが有利であり、ガラスコア70の引っ張り応力は、ほぼ4000psi(27.6MPa)より小さく、約2000psi(13.8MPa)より小さくことが有利であり、選ばれた構成ではほぼ1500psi(10.3MPa)より小さいような、破砕またはかなりの砕片発生をおこさずにガラス積層基板60のスクライビング及び分割を可能にするレベル以下に維持される。
【0040】
コア70の許容できる残留引っ張り応力は、コアの特定の組成により、またスキン層80,90のガラスの特定の組成によっても、少なくともある程度決定され、したがって、残留引っ張り応力を変えても優れた結果を得ることができる。さらに、残留引っ張り応力に対する残留圧縮応力の絶対値の比はほぼ2からほぼ20の範囲とすることができ、残留引っ張り応力はほぼ4000psi(27.6MPa)より小さく、1500psi(10.3MPa)より小さいことがさらに一層有利である。
【0041】
適切なガラス組成及びコア/スキン層の厚さ比を選ぶことによって、スキン層80,90の残留圧縮応力を約9,000psi(62.01MPa)とすることができ、よってガラス積層基板60の表面強度をほぼ50%高めることができる。
【0042】
スキン層80,90の圧縮応力を(コア70の残留引っ張り応力と少なくともある程度バランスをとって)最大化することによって最大化されたガラス積層基板60の強度が得られるが、そのような強度最大化ガラス積層基板60におけるエネルギーの放出により、スクライビング及び分割プロセスにおいてかなりの基板破損率及び砕片発生が生じ得る。したがって、特定のガラス積層基板60の得られる強度を、スクライビング及び分割プロセス中にかなりの基板破損率または砕片発生をおこさずに最適に高めるように、残留圧縮応力及び残留引っ張り応力が選ばれる。
【0043】
説明の目的のため、及び利用できる文献に基づき、残留応力を有するガラスの50mm×50mm面積に対する砕片発生数の推定値は、N50=β(σ/KICで与えられ、ここで、β=2.5×10-3α/16であり、σは中心引っ張り応力値、KICはガラスの破壊靭性であって、(ポアソン比ν=0.23に対して)α=16/15√3(1+ν)=0.5,β=39×10−6,N=39×10−6(σ/KIC,よってKIC=0.75MPa√mに対してN=123.2×10−6σ/mである。
【0044】
したがって、そのようなコアの様々な引っ張り応力についての砕片数Nは、
【表7】
【0045】
で与えられる。
【0046】
厚さ0.7mm(代表的なフラットパネルディスプレイ寸法)の例示的な3層−1m×1mガラス積層基板60は形成された縁端に沿って1平方インチ(6.45cm)を若干こえる表面積を有する。粒子の破片は存在しないから、スクライビング及び分割プロセスに対して1平方インチ(6.45cm)当り1個ないしそれ以下の粒子発生を維持するためには、ほぼ2000psi(13.8MPa)のコア70の残留引っ張り応力が勧められる。スクライビング及び分割プロセス中に許容できる砕片発生及び基板破損率を示すため、ほぼ4000psi(27.6MPa)までの残留引っ張り応力をコア70に与えるように、ガラス積層基板60を構成できることは当然である。
【0047】
コア70の要件を満たすガラス材料がコーニング(Corning)コード1737ガラスであることがわかり、スキン層80,90の要件を満たすガラス材料がコーニングで製造されたEAGLE2000(商標)ガラスであることがわかった。選ばれた構成において、ガラスは一致するかまたは同等の屈折率を有することができる。スキン厚がほぼ0.02mmから0.2mmの積層に用いた場合に、これらの材料はディスプレイの取扱い、組立及び寿命中の表面損傷に対する十分な保護を提供することがわかった。
【0048】
ディスプレイへの組込みに向けられるガラス積層基板60については、重量の最小化が一要因になる。したがって、フラットパネルディスプレイ用途に関してガラス積層基板60は約2.0mmより薄い厚さを有することになり、ほぼ1.5mmより薄くすることができ、代表的な厚さは約1.1mmないしそれより薄く、スキン層80,90(及び、用いられる場合は中間層85,95)及びコア70は実質的に平坦な積層を形成する。携帯型フラットパネルディスプレイについては重量の最小化が第一義的な要件であることが多く、したがってガラス積層基板60の厚さはほぼ0.4mmからほぼ0.6mmであることが多い。テレビまたはデスクトップディスプレイなどの据置型フラットパネルディスプレイについては、ガラス積層基板60はほぼ0.7mmの厚さを有することができる。
【0049】
一般に、フラットパネルディスプレイに使用するために作成されたガラス積層基板の総厚はほぼ0.4mmとほぼ1.1mmの間とすることができよう。スキン層80,90の厚さは総基板厚のほぼ8%と15%の間に選ばれ、スキン層厚のさらに最適な厚さは総基板厚のほぼ10%である。したがって、ガラス積層基板60は一般に薄すぎてガラスの焼き戻しができない厚さを有するが、残留応力によって高められた強度を与える。したがって、ガラス積層基板60は焼き戻しされないガラスで構成することができる。
【0050】
本発明のガラス積層基板はガラスの傷発生及び傷伝播にも対処して改善された耐損傷強度をもつ基板を提供する。詳しくは、図3の例のガラス積層基板60は、スキン層が残留圧縮応力の大きさによって損傷に一層耐えるような、残留圧縮応力をもつスキン層80,90を提供する。例えば、また本開示の範囲を限定することなく、スキン層80,90に5000psi(34.5MPa)の表面圧縮応力をもつガラス積層基板60に対して傷をつけるには、非積層ガラスに同じ大きさの傷をつけるに必要な応力に比較して、さらに5000psi(34.5MPa)の応力が必要である。したがって、本発明のガラス積層基板は、LCDなどのフラットパネルディスプレイの作成の取扱い/処理工程中に損傷を受け難いであろう。さらに、残留応力の結果、ガラス積層基板60の永久的強化効果が得られる。すなわち、ガラス積層基板60にクラックを伝播させるに必要なレベルと同じレベルの引っ張り応力を生成するには、スキン層の残留圧縮応力を上回る応力が必要であろう。ここでも、スキン層に5000psi(34.5MPa)の残留圧縮応力をもつ本例を用いれば、積層ガラス基板面内でクラックを伝播させるには非積層ガラス面内に比べて5000psi(34.5MPa)大きい引っ張り応力が必要である。
【0051】
一般に、スキン層80,90のそれぞれは同じ厚さを有する同じ材料からなり、したがってコア70に関して対称な応力を与える。同様に、5層構成において、中間層85,95のそれぞれは同じ厚さを有する同じ材料からなり、したがってコア70に関して対称な応力を与える。すなわち、スキン層80,90(または中間層85,95)の残留圧縮応力は実質的に等しくなり得る。しかし、与えられたコア70上のスキン層80,90(及び/または中間層85,95)を異なる材料、CTEまたは厚さをもつ層とし得ることは当然であり、これは荷重が非対称な用途に対して有利になり得る。例えば、一方のスキン層の厚さを2倍にすることにより、ガラス積層基板60は、ラック保管時のような、水平方向での曲がりに対して高められた耐力を示すことができる。そのような非対称構造においては、垂直方向に配置される際に残留応力が定向曲がりを生じさせ得る。したがって、協同するガラス積層基板60は、そのような非対称残留応力に打ち勝つかまたはそれを補償するために、フレームで固定して保持することができる。すなわち、スキン層の非対称残留応力は、例えばほぼ10%のような、あらかじめ定められたレベルに設定することができる。一構成において、スキン層80,90の相互の残留圧縮応力はほぼ20%以内であり、ほぼ5%以内であるように、ほぼ10%以内であることが有利である。
【0052】
図4に例示されるような)中間層85,95を有するガラス積層基板60の構成において、ガラスコア70の引っ張り応力は、スキン層80,90の残留圧縮応力に悪影響を及ぼさずに、さらに制限することができる。実施例4は、図4に見られる5層構成の代表的構成材料である。
【0053】
実施例4:中間層構成に対し、k=E/(1−ν)として:
【表8】
【0054】
ガラス積層基板60に中間層85,95を含めることの利点は、スキン層80,90に比較的大きな残留圧縮応力を維持しながらコア70の残留引っ張り応力を低くできる能力にある。
【0055】
圧縮応力の値はガラスコア70の厚さに対する中間層85,95及びスキン層80,90のそれぞれの厚さに関係する。5層ガラス積層基板60の最終応力は次式:
【数11】
【数12】
【数13】
【0056】
で与えられる。
【0057】
ここで、eは最も低い硬化点温度におけるそれぞれのガラスのΔL/Lを指し、添字c,i及びsはそれぞれコアガラス、中間層ガラス及びスキンガラスを指す。よってeは:
【数14】
【0058】
で与えられる。
【0059】
例えば、積層の総厚が0.7mmであり、中間層85,95及びスキン層80,90の厚さがいずれも0.0133mm(実施例3の構成と同じ)である場合:
=0.3234mm,
=5215×10−6
σ=(5449−5215)×13.33=3119psi(21.5MPa) (コア内引っ張り応力)
σ=(2785−5215)×13.61=−33072psi(227.9 MPa)(中間層内圧縮応力)
σ=(2007−5215)×13.38=−42923psi(295.7 MPa)(スキン層内圧縮応力)
である。
【0060】
したがって、5層-3ガラス積層基板60は、コーニングコード0317ガラスコア70及びコーニングによる「EAGLE2000」ガラスのスキン層80,90を有する3層-2ガラス積層に比較して、11%低いコアの引っ張り応力及び11%低い中間層85,95の圧縮応力を有し、スキン層の圧縮応力は1%高い。すなわち、中間層85,95をもつ5層-3ガラス系はスキン層80,90の圧縮応力は維持しながらコア70の引っ張り応力をかなり低減するという利点を提供する。コア70の低減された内部引っ張り応力はスクライビング及び分割プロセス中の破砕及び砕片発生の低減に役立つ。
【0061】
ガラス積層基板60の3層構成に関連して述べたように、コア70,中間層85,95及びスキン層80,90の厚さ、それぞれの硬化点及びそれぞれのCTEを制御することにより、(スキン層及び中間層では圧縮、コアでは引っ張りの)残留応力の大きさを設計で設定することができる。すなわち、(スキン層80,90及び中間層85,95では圧縮、コア70では引っ張りの)残留応力の大きさを実質的にあらかじめ定めることができる。
【0062】
ガラス積層基板60の残留応力は複数の層を構成層ガラスの最も低い硬化点より高い温度において接合することで形成される。(スキン層80,90に対するコア70,あるいはコア及びスキン層に対する中間層85,95などの)隣接層間で十分な接合を達成するためには、溶融ガラスをシート形態にする間に積層が行われることが有利であろう。ガラス形成の当業者には、そのような構造、そのような積層化引下げ及び積層化融合プロセスを達成するための複数の方法が既知である。
【0063】
一般に、スキン(及び中間層)ガラス及びコアガラスの融合引きがガラス積層基板60の形成の要件を満たす方法である。しかし、スロット引き、二重スロット引きまたはその他の適する接合方法のような別の方法をガラス積層基板60の形成に用い得ることは当然である。コア70及びスキン層80,90(及び中間層85,95)のガラス材料は、実質的に透明であり、歪みのない界面を形成するために同等な粘度を与えるように選ばれる。
【0064】
代表的な積層化引下げプロセスまたはスロットプロセスにおいては、白金などの耐熱金属でつくられたスロットオリフィスに溶融ガラスが送り込まれる。積層化引下げ装置は、互いに並列に配置された複数のスロットオリフィスを有し、それぞれのオリフィスに別々の溶融ガラス流を送り込むことができる能力を有する。形成条件(一般に100000ポアズ(10000Pa秒))におけるガラスの流動性によって複数のガラス流はオリフィスをでる際に融合させられ、別々の層からなる一体ガラスシートを形成する。複数の層の厚さは個々のスロットオリフィスの寸法によって制御される。層の接合を補助するために下流のローラーがガラスシートに接し得ることは当然である。
【0065】
一般に、積層化融合プロセスにおいては、米国特許第4214886号明細書に説明されているように、コア70及びスキン層80,90(及びガラス中間層85,95)が形成部材に沿って同時に流れてから、所望の厚さをもつ単一のガラス積層基板を形成するに適する粘度まで冷却されるような、制御可能なオーバーフロー分配システム及び形成部材によってガラス積層基板60が形成される。この明細書の開示は本明細書に参照として特に組み入れられる。
【0066】
対称形成プロセスの一例についての図5を参照すれば、コア70を形成するガラス及びスキン層80,90を形成するガラスが個別に溶融され、それぞれが適切な配送システムによって対応するオーバーフロー分配器170,180に配送される。オーバーフロー分配器180はオーバーフロー分配器170の上方に据えられ、オーバーフロー分配器180からのガラスはオーバーフロー分配器180の上端部分をこえて流れ、側面を流れ下って、オーバーフロー分配器180の上端部分の下で両側面上に適切な厚さの一様なフロー層を形成する。
【0067】
下段のオーバーフロー分配器170は分配器170に付帯するくさび形形成部材200を有する。形成部材200は、オーバーフロー分配器170の側壁と上端でつながり、延伸線において収斂下端で終端する、収斂側壁部分を有する。下段のオーバーフロー分配器170をオーバーフローする溶融ガラスは分配器壁に沿って下方に流れて、形成部材200の収斂外表面に隣接する初期ガラスフローを形成し、一方、分配器180をオーバーフローする溶融ガラスは上方から下方に上段分配器の壁にかけて流れて、コア層の外表面部分にかけて流れ、よって積層化ガラス流をつくる。形成部材200のそれぞれの収斂側壁からの2つの個々のガラス層は延伸線において1つに合されて融合し、単一の連続積層を形成する。コアガラスの2つの層は融合してコア70を形成し、スキン層を隔てる。
【0068】
3層構成において、残留応力はスキン層80,90とコア70の間のCTEの差及びそれぞれの硬化点の差から得られる。スキンガラス及びコアガラスは高温で接合され、材料が周囲温度まで冷却されると、コアガラス(高CTE)はスキンガラス(低CTE)より大きく収縮しようとする。層は接合されているから、スキン層80,90に圧縮応力が発生し、引っ張り応力がコア70に発生する。
【0069】
図6に見られるように、追加のオーバーフロー分配器及びそれに付帯する形成部材(及びそれぞれのガラス配送システム)を積み重ねることによって、ガラス積層基板60に、中間層85,95のような、付加層を組み込むことができる。すなわち、図4に示される5層ガラス積層基板60は、(スキン層80,90を形成する)オーバーフロー分配器180が(中間層85,95を形成する)オーバーフロー分配器185の上方にあり、オーバーフロー分配器185は(コア70を形成する)オーバーフロー分配器170の上方にある、図6に示されるシステムによって形成することができる。
【0070】
図6をまた参照すれば、オーバーフロー分配器180は、2つの異なるガラスを分配器から流し出し、よってスキン層90とは異なる材料のスキン層80の形成を可能にするための中央壁体185を有することができる。中央壁体182を有するオーバーフロー分配器180が示されているが、代りにオーバーフロー分配器185が中央壁体を有し、よって相異なる材料からなる中間層85及び95を与え得ることは当然である。
【0071】
形成部材を傾けることによるかまたは流量を変えて異ならせることによるか、あるいはこれらの組合せによるような、与えられたいずれかのオーバーフロー分配器(及び付帯する形成部材)の2つの側面上の相対ガラスフローの調節によって、非対称層厚を達成することができる。
【0072】
寸法制御及び得られる初期ガラス表面状態により、融合プロセス、すなわちオーバーフロープロセスは、ガラス積層基板60を作成するための満足できる方法となる。
【0073】
5層構成のガラス積層基板60の例に対する作成プロセスにおいては、スキンガラスのコーニング製「EAGLE2000」ガラスが初めに硬化し、無応力で収縮するであろう。コア70のガラス、コーニングコード0317はガラス積層基板60の中で最も軟らかいガラスであり、581℃の硬化点を有し、したがってコアガラスが581℃に冷却されるまではコアガラスに応力が生じない。しかし、中間層ガラスのコーニングコード7059は598℃の硬化点を有し、よって中間層ガラスはコアガラスより先に硬化して、張力を受け、積層60が598℃から581℃に冷却される間にスキンガラスに圧縮を誘起するであろう。ほぼ581℃において、コアガラスが硬化し始め、コアガラスが最も高いCTE値を有することから、コアガラスが最も大きな張力を受け、中間層85,95及びスキン層80,90のいずれにも正味の圧縮を誘起するであろう。
【0074】
ガラス積層基板60が形成されてしまうと、機能層を含む、様々な層、コーティングまたはフィルムのいずれをもガラス積層基板に施すことができる。これらの付加層は一般に有意な残留圧縮応力または残留引っ張り応力を有することはないが、本明細書で論じたように、スキン層80,90(及び、用いられれば、中間層85,95)を、以降に基板上に被着される層を補償するように構成することができる。例えば、スキン層80,90及び/または中間層85,95の厚さ(または材料)を、そのような付加層を受け入れるための補償残留応力をつくるように選ぶことができる。すなわち、ガラス積層基板60は、以降の層がコア70の相対面にかかる圧縮応力の等化に貢献するような、不平衡表面圧縮応力を示すように形成することができる。
【0075】
本発明を本発明の特定の例示的実施形態に関して説明したが、上述の説明に鑑みれば、当業者には多くの別形、改変及び変型が明らかであろう。したがって、本発明は、添付される特許請求項の精神及び広汎な範囲内に入れば、そのような別形、改変、及び変型の全てを包含するとされる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
図1】間隔をおいて配置された2枚のガラスシートを有する従来のLCDの簡略な断面図である
図2】荷重がかけられている図1のガラスシートの部分断面図である
図3】フラットパネルディスプレイなどの、本発明にしたがって作成されたガラス積層基板の断面図である
図4】中間層を有する、本発明のガラス基板の別の例示的構成の断面図である
図5】ガラス積層基板を作成するためのオーバーフロー分配器システム及び形成部材の断面図である
図6】別の構成のガラス積層基板を作成するための別のオーバーフロー分配器システム及び形成部材の断面図である
【符号の説明】
【0077】
60 ガラス積層基板
70 ガラスコア
80,90 スキン層
85,95 中間層
図1
図2
図3
図4
図5
図6