【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明者らは鋭意研究を進めた結果、クラッド材のろう材に添加するMg量を適正な範囲に収めることで、密着した接合継手を、減圧を伴うことなく非酸化性雰囲気中で、Mg蒸気を逃がさないようにするための覆いを用いなくとも、良好なろう付状態が得られることを見出した。この際、ろう付前に材料表面の初期酸化皮膜をあえて除去する必要はなく、通常生産されているアルミニウム材が使用可能であるが、ろう材表面に酸化皮膜の欠陥部を増加させると、接合の安定性を飛躍的に向上することを新たに見出した。しかし、実用化には更なる安定化が必要との判断に達した。
そこで本件発明者らは、より汎用性の高いフラックスレスろう付用アルミニウム合金部材の開発に着手し、ろう材表面のSi粒子サイズに着目し、一定サイズ以上の割合を高め、さらに面積率を適正に調整することで、フラックスレスろう付性の安定化が図れることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0013】
すなわち、本発明のアルミニウム材のフラックスレスろう付方法のうち、第1の本発明は、質量%で、Mgを0.1〜5.0%、Siを3〜13%含有するAl−Si系ろう材が最表面に位置するアルミニウムクラッド材を用いるろう付け方法であって、前記Al−Si系ろう材に含まれるSi粒子は、表層面方向の観察において、円相当径で0.8μm以上の径をもつものの数の内、円相当径で1.75μm以上の径のものの数が25%以上であり、且つ、円相当径で1.75μm以上の径をもつものの面積率が対表面積で0.1〜1.5%の範囲であり、減圧を伴わない非酸化性雰囲気で、前記Al−Si系ろう材と被ろう付け部材とを接触密着させ、加熱温度559〜620℃において、前記Al−Si系ろう材によりフラックスレスで接触密着部の密着面において前記芯材と前記被ろう付け部材とを接合することを特徴とする。
【0014】
第2の本発明のアルミニウム材のフラックスレスろう付方法は、前記第1の本発明において、前記Al−Si系ろう材に、さらに質量%で0.1〜5.0%のZnを含有することを特徴とする。
【0015】
また本発明のフラックスレスろう付用アルミニウム合金ブレージングシートは、前記第1または第2の本発明に記載のAl−Si系ろう材が芯材にクラッドされて最表面に位置しており、減圧を伴わない非酸化性雰囲気で、前記Al−Si系ろう材を被ろう付け部材に接触密着させて前記Al−Si系ろう材により接触密着面において前記被ろう付け部材と接合するようにフラックスレスのろう付けに供されることを特徴とする。
【0016】
以下に、本発明で規定する成分等の限定理由について以下に説明する。なお、各成分量はいずれも質量%で示される。
【0017】
1.ろう材
本発明ではAl−Si−Mg系合金をベースとしたろう材が使用され、下記含有量でSiおよびMgを必須成分として含有する。
【0018】
Si:3〜13%
SiはAlに含有することにより、その融点を低下させ、ろう付温度にて溶融して所定の継手を形成する基本的な元素である。ろうとして機能する適正な含有量の範囲として、3〜13%とする。3%未満では生成する液相量が不足するため十分な流動性が得られず、13%を超えると初晶Siが急激に増加して加工性が悪化するとともに、ろう付時に接合部のろう侵食が著しく促進される。Si含有量の一層好ましい下限は6%、上限は12%である。
【0019】
Mg:0.1〜5.0%
Mgは材料表面の酸化皮膜(A1
20
3)を還元、分解して、接合性とろうの濡れ性を向上する効果を有する。本発明において十分な接合を得るためのMg含有量は0.1〜5.0%である。0.1%未満では本発明の効果であるろう付時接合面の酸化皮膜破壊効果が得られず、5.0%を越えるとその効果が飽和し、かつ、アルミニウム材料の加工性に難を生じる。
本発明では、上記Mg成分範囲における酸化皮膜破壊活動のみでもろう付性を確保できるが、さらに、Mg含有量を最適化してAl−Si−Mg系ろう材の固相線温度の低下効果を利用すれば、優れたろう付性を発揮できる。この場合のMgの最適含有量は、Si含有量により変動するが、例えばSi含有量が6〜12%の場合は、Mg含有量は0.75〜1.5%が好ましい。この範囲であれば、ろうの融点低下が十分に得られ、Mgによる酸化皮膜破壊効果との相乗効果により、より良好なろう付性を得ることが可能となる。具体的には、Al−Si−Mg合金で最も低い固相線温度の559℃以上でろう付が可能となる。
【0020】
本発明のろう材は、上記Si、Mgを含有し、その他をAlと不可避不純物とするものでもよく、また、上記Si、Mgの作用を損なわないように、その他の成分を含有するものであってもよい。以下に、所望によって含有するその他の成分を説明する。
【0021】
Zn:0.1〜5.0%
Znはろう材の電位を低下させ、犠牲陽極効果によりブレージングシートの耐食性を向上させる効果を有するので所望によりろう材に含有させる。Znの含有量は0.1〜5.0%が望ましい。0.1%未満では電位がほとんど変化しないため十分な耐食性向上効果が得られず、5.0%を超えると腐食速度が著しく増大する。なお、Zn含有量の一層好ましい下限は0.5%、上限は3.0%である。また、Znを積極的に添加しない場合でも、該Znを不可避不純物として0.1%未満で含むものであってもよい。
【0022】
ろう材表層面でのSi粒子の分布
(1)円相当径0.8μm以上のSi粒子のうち、円相当径が1.75μmのものの数が25%以上存在する
そして、本発明を実施するにあたっては、ろう材表面に比較的粗大なSi粒子が存在していることが好ましい。通常、アルミニウム材料表面には緻密なAl
2O
3等の酸化皮膜が存在し、ろう付け熱処理過程ではこれがさらに成長し厚膜となる。酸化皮膜の厚みが増すほど、酸化皮膜の破壊作用を阻害する傾向が強くなるのが一般的な見解である。本発明では、ろう材表面に粗大なSi粒子が存在することで、粗大Si粒子表面にアルミニウムの緻密な酸化皮膜が成長せず、この部位がアルミニウム材料表面の酸化皮膜欠陥として働く。すなわち、アルミニウム材料表面の酸化皮膜がろう付け熱処理中に厚膜となっても、Si粒子部分からろう材の染み出し等が発生し、この部位を起点に酸化皮膜破壊作用が進んでいくものと考えられる。ここで言うSi粒子とは、組成上Si単体成分によるSi粒子、及び、例えば、Fe-Si系化合物や、Fe-Siを主成分とするAl-Fe-Si系の金属間化合物等をも含むものとする。本発明の説明においては、これらを便宜的にSi粒子と表記する。具体的には、ろう材表面のSi粒子を円相当径でみなし、0.8μm以上のSi粒子数をカウントした場合に1.75μm以上のものが25%以上存在すると、この効果が十分に得られる。なお、ここでろう材の表面とは、酸化皮膜を除いたアルミニウム合金生地の表面を意味しており、10μmに至る深さ範囲のいずれかの面方向において、上記条件を満たしていればよい。
ろう材表面のSi粒子はそのサイズが小さ過ぎると、酸化皮膜の欠陥部として作用する効果が不十分となる。したがって、1.75μm以上のSi粒子の数が、0.8μm以上のSi粒子の数の25%以上とした。25%未満では、酸化皮膜の欠陥部として作用する効果が不十分となる。
【0023】
(2)円相当径1.75μm以上のSi粒子の面積率が対表面積で0.1〜1.0%以上の範囲内にある。
また、Si粒子の分布密度が低い場合は、ろう材の染み出しが発生する箇所が少なく、酸化皮膜の破壊や分断も不十分となるため、安定した接合状態を得ることが困難となる。本発明では、円相当径1.75μm以上のSi粒子の面積率を規定することで、ろう材の染み出しが発生する箇所を十分に確保する。
対表面積に対する上記面積率が下限未満であると、接合面内の接合起点が少なすぎ、充分な接合状態が得られない。一方、上記面積率が上限を超えると、粗大Si粒子部において材料側ろう侵食が顕著となり、ろう付不具合の原因となる。よって、Si粒子の面積率を前記範囲に定めている。
【0024】
上記Si粒子の分布は、アルミニウム合金ブレージングシートを製造する際の熱管理によって制御することができる。
例えば、鋳造時の凝固速度や均質化処理の温度と時間、熱間圧延時の最大圧延率等によってSi粒子の大きさを制御でき、鋳造時の凝固速度によって円相当径1.75μmを越えるような粗大なSi粒子の面積率を制御することができる。
すなわち、鋳造時の凝固速度が遅いほど粗大なSi粒子が生成され、凝固速度が速いほど微細なSi粒子が生成される。また、鋳造時の凝固速度が遅いとSi粒子の粗大化により、ある一定サイズ以上の粗大Si粒子の面積率は上昇するが、極端な凝固速度の低下は粗大化が進みすぎることにより、ある一定サイズ以上の粗大Si粒子としては面積率の低下を生じる。さらに、凝固速度が極端に速い場合には微細Si粒子の面積率が大きくなり、粗大Si粒子の面積率は低下する。
また、均質化処理を高温で長時間実施するほど、粗大なSi粒子が生成され、低温で短時間実施することで微細なSi粒子となる。
また、熱間圧延時の圧下率は、一度の圧下率が大きいほどSi粒子が微細に破砕される。
これらの条件を複合的に制御することでSi粒子の分布(大きさ、粗大な粒子の比率、面積率)を変えることができる。
【0025】
2.芯材
本発明に用いるアルミニウムクラッド材の芯材組成は、特に限定されるものではなく、芯材にはMgを添加しなくても接合は可能である。しかし、本発明にてフラックスレスろう付を実現したことにより、高強度化を狙ったMg添加を積極的に行なうことも可能となる。
芯材成分としては、質量比でSi:0.1〜1.2%、Mg:0.01〜2.0%を含有し、残部がAlと不可避不純物からなるもの、あるいは質量比で、Mn:0.2〜2.5%、Cu:0.05〜1.0%、Si:0.1〜1.2%、Fe:0.1〜1.0%、を含有し、残部Alと不可避不純物とからなるものが示される。
また、質量比でSi:0.1〜1.2%、Mg:0.01〜2.0%を含有し、さらに、Mn:0.2〜2.5%、Cu:0.05〜1.0%、Fe:0.1〜1.0%の内1種または2種以上を含有し、残部がAlと不可避不純物からなるもの、さらにはZr:0.01〜0.3%、Ti:0.01〜0.3%、Cr:0.01〜0.5%の内1種または2種以上を含有し、残部がAlと不可避不純物からなるものが示される。
芯材における各元素の作用及び限定理由は以下の通りである。
【0026】
Si:0.1〜1.2%
Si単体でマトリックスに固溶して材料強度を向上させる他、本発明においては、Mgの積極添加との相乗効果によって得られるMg
2Siの析出により、材料強度を向上させる。このMg
2Siの析出は、ろう付熱処理後の時効硬化により、飛躍的な材料強度向上に寄与する。従来の JISA3003合金等をベースとした合金設計においては、Al−Mn−Si化合物として分散して、材料強度を向上させる。下限未満ではこれら効果が不十分であり、上限を越えると、融点が低下し、芯材が溶融するので、上記範囲が望ましい。
なお、Si含有量の一層好ましい下限は0.3%、上限は1.0%である。Mn等の含有によりSiの積極的な含有を要しない場合、0.1%未満のSiを不純物として含有することは許容される。
【0027】
Mg:0.01〜2.0%
Mgは、Siと同時に添加されることでろう付後に微細な金属間化合物Mg
2Siとして析出し、時効硬化により著しく強度が向上する効果を有する。また、ろう付加熱中にろう材から拡散してきたSiとも反応し、同様の強度効果を有する。さらに一部はろう材中に拡散し、ろう材表面の酸化皮膜破壊、酸化皮膜成長抑制作用に寄与する。下限未満ではこれら効果が不十分であり、上限を超えると融点が低下し、芯材が溶融する。このため、Mg含有量は上記範囲が望ましい。
【0028】
Mn:0.2〜2.5%
Mnは、金属間化合物として晶出または析出し、ろう付後の強度を向上させる。また、芯材の電位を貴にして耐食性も向上させる。下限未満ではこれら効果が不十分であり、上限を超えると、圧延などの加工性が低下する。また、一層の効果は得られない。これら理由によりMn含有量は上記範囲が望ましい。なお、Mn含有量の一層好ましい下限は0.5%、上限は1.5%である。
【0029】
Cu:0.05〜1.0%
Cuは、固溶してろう付後の強度を向上させると共に、芯材の電位を貴にして耐食性を向上させる。下限未満ではこれら効果が不十分であり、上限を超えると、融点が低下し、芯材が溶融する。このため、Cu含有量は上記範囲が望ましい。なお、Cu含有量の一層好ましい下限は0.1%、上限は0.7%である。
【0030】
Fe:0.1〜1.0%
Feは金属間化合物として晶出または析出し、ろう付後の強度を向上させる。また、最終焼鈍時とろう付時の再結晶を促進する。下限未満ではこれら効果が不十分であり、上限を超えると、腐食速度が速くなりすぎる。また、最終焼鈍後の結晶粒径が細かくなりすぎて成形時に加工の導入されない部分でろうの侵食が著しく大きくなる。これら理由によりFe含有量が上記範囲が望ましい。なお、Fe含有量の一層好ましい下限は0.2%、上限は0.5%である。
【0031】
Zr、Ti:0.01〜0.3%、Cr:0.01〜0.5%
Zr、TiまたはCrは、ろう付後に微細な金属間化合物として分散し、強度を向上させる。上記記載の下限未満では効果が不十分であり、上限を超えると加工性が低下する。このため、これら成分の含有量は上記範囲が望ましい。
【0032】
3.クラッド材
本発明に使用する上記クラッド材においては、少なくとも片面に上記Al−Si系ろう材がクラッドされていればよく、適宜、片面クラッド材と両面クラッド材を使い分けることができる。両面クラッド材では、芯材の両面にろう材がクラッドされているものであってもよく、また片面に上記ろう材がクラッドされ、他の片面に犠牲材等のその他の材料がクラッドされているものであってもよい。
【0033】
4.被ろう付け部材の材質
ろう材以外の被ろう付け部材としては、一般的に用いられているアルミニウム合金であれば何れも問題なく使用可能である。
【0034】
5.被ろう付け部材の初期酸化膜厚
本発明の実施に当たっては、ろう材および被ろう付け部材は、特に材料表面の初期酸化皮膜を抑制するような材料製作は必要としない為、通常、アルミニウムの量産コイル材として作製される初期酸化膜厚20〜500Å程度のアルミニウム材料を使用できる。初期酸化皮膜厚さを20Å未満とするためには、従来技術に示したような酸洗浄等が必要となる。また、初期酸化皮膜厚さが500Åを超えても本発明材であれば接合は可能であるが、良好な接合状態が得られにくくなるため、初期酸化皮膜はなるべく薄くしておくことが望ましい。
【0035】
6.炉内雰囲気
本発明の実施にあたっては、炉内雰囲気を不活性ガス、或いは還元性ガス等の非酸化性ガスとすることで、雰囲気中の酸素濃度や露点を低下させ、ろう材および被ろう付け部材の再酸化を抑制する必要がある。使用する置換ガスの種類としては、接合を得るにあたり特に限定されるものではないが、コストの観点で、不活性ガスとしては窒素、アルゴン、還元性ガスとしては水素、アンモニア、一酸化炭素を用いることが好適である。雰囲気中の酸素濃度管理範囲としては、5〜500ppmがよい。5ppm未満の場合は、接合に不具合は生じないが、雰囲気の管理に多量のガスを使用する等、製造コストの増大懸念が生じるためである。500ppm超ではろう材および被ろう付け部材の再酸化が進みやすくなり、特にろう材が表面にないベア構成部材とろう材間の接合が十分に得られない為である。
【0036】
7.ろう付温度
本発明においては、Al−Si−Mg系ろう材合金の最も低い固相線温度である559℃以上でろう付ができるが、当然、従来からのAl−Siろう材によるろう付温度範囲も適用可能である。具体的には559〜620℃が良い。559℃未満ではろうが溶融しないためろう付ができず、620℃超ではろう侵食が顕著となり、製品形状の維持等に問題が生じるため好ましくない。但し、この温度範囲においても、ろうの合金組成によって固相線温度が低い場合には、ろう侵食が顕著になる場合もあり、その際は、この温度範囲の中で合金組成にあったろう付温度を選択するのが好ましい。