【実施例1】
【0021】
本発明の無線式踏切警報システムの実施例1について、その具体的な構成を、図面を引用して説明する。
図1は、無線式踏切警報システム20の概要模式図、(b)がその詳細ブロック図である。また、
図2は、(a)が速度照査パターンPvのイメージ図、(b)が時間差可変調整の決定手順の説明図、(c)が時間差可変調整表27の一例である。
【0022】
無線式踏切警報システム20の説明に先だって設置先の列車10や軌道11を概説する。簡明化のため単線の場合を図示したが(
図1(a)参照)、列車10の走行する軌道11を横切る踏切12(踏切道)には踏切警報機24が設置されている。踏切警報機24は、警報灯や警報音発生器を装備しており、図示したのは一個だけであるが、通常は一対のものが踏切道の両端に分かれて設置されている。また、第3種の踏切には踏切しゃ断機が無くて踏切警報機24が単独で設置されているが、第1種の踏切には踏切警報機24に加えて図示しない踏切しゃ断機が併設されている。
【0023】
無線式踏切警報システム20は(
図1(a)参照)、踏切しゃ断機の併設された又はされていない踏切警報機24に加えて、その警報出力を制御するために地上側に設置されて踏切警報機24とケーブル接続されている無線式踏切警報制御装置25と、列車10に搭載されて無線式踏切警報制御装置25と無線で通信する車上装置21とを具えている。踏切警報機24は従来機を踏襲したもので良いが、車上装置21と無線式踏切警報制御装置25は、通信の無線化にとどまらず、踏切12に係る踏切警報始動点位置ADCと踏切警報終止点位置BDCをデータ保持するようになっている。また、後で詳述するが、踏切警報開始から速度照査解除までの時間差を可変調整するようにもなっている。
【0024】
車上装置21は(
図1(b)参照)、フェールセーフコンピュータに無線機を接続したものからなり、搭載先の列車10の車軸計から自列車の先頭位置を取得する列車位置取得プログラム22と、予め設定された搭載先列車10の列車長と各踏切に係る情報とをデータ保持している不揮発性メモリと、自列車の先頭位置を列車位置としそれに列車長と列車識別番号など適宜なデータを加えて列車情報としこの列車情報を無線で無線式踏切警報制御装置25へ送信する無線通信プログラムと、列車10の踏切警報始動点位置ADCへの接近又は到達に応じて停止用の速度照査パターンPvを用いた速度照査を行う速度照査プログラム23とを具えている。
【0025】
ここで、踏切に係る情報としては、線区における踏切12の位置や,既述した踏切警報始動点位置ADC,踏切警報終止点位置BDCなどが、基点からの距離を示す所謂キロ程で規定されている。また、速度照査パターンPvは(
図2(a)参照)、急停止より穏やかで安全だが比較的速やかに停止可能な例えば一定減速度で列車が減速したときに踏切12の手前に列車が停止するような上限速度を規定するパターンであり、ここでは区間最高速度Vmax 以下の規制も加味したものとする。この例では、どの踏切にも共通な一つの固定パターンを図示したが、個々の踏切や類似の踏切群それぞれに異なる速度照査パターンPvを割り当てても良く、列車進行に合わせて動的に生成し直すようにしても良い。
【0026】
速度照査プログラム23は(
図1参照)、自列車の先頭位置と踏切警報始動点位置ADCとのデータ比較を随時行って、列車が踏切警報始動点位置ADCに接近して速度照査可能範囲に入ったか或いは踏切警報始動点位置ADCに到達したばかりか又は到達して通過したことが判明したときには、速度照査を開始するとともに、適宜な時期に、運転席の表示器にパターン接近の表示を行わせたり、ベルを鳴動させることも行うようになっている。速度照査では、列車10の速度計から列車速度を取り込むことと、速度照査パターンPvに自列車の先頭位置を照らして現時点の上限速度を求めることと、列車速度が上限速度を上回っていれば非常ブレーキを作動させることが行われる。また、速度照査プログラム23は、速度照査解除通知を受信すると、速度照査を解除するようになっている。
【0027】
無線式踏切警報制御装置25も(
図1(b)参照)、フェールセーフコンピュータに無線機を接続したものからなり、無線通信可能範囲に進入した列車10の車上装置21から列車情報が送信されて来ると、その受信を試行して正常に受信できたときにはその旨の受信ACKを無線で返信する無線通信プログラムを具えている。この無線通信プログラムは、踏切警報機24の警報出力の制御に関する踏切警報開始の通知と速度照査解除の通知と踏切警報停止の通知を無線で車上装置21へ送信するようにもなっている。無線式踏切警報制御装置25と車上装置21の無線機は、同期式通信であれ非同期通信であれ数秒に1回以上の頻度で交信できるものであれば良い。
【0028】
また、無線式踏切警報制御装置25は、プログラムメモリに上述の無線通信プログラムと共に踏切警報制御プログラム26がインストールされており、データ保持用の不揮発性メモリには警報対象踏切に係る踏切係属情報と時間差可変調整表27とが設定されている。ここで、警報対象踏切は、有線接続されて制御対象になっている踏切警報機24が臨設されている踏切12を指し、その警報対象踏切に係る情報としては、既述した踏切警報始動点位置ADC,踏切警報終止点位置BDCなどが、キロ程で規定されている。また、時間差可変調整表27は、踏切警報開始から速度照査解除までの時間差Δtを警報開始遅れ時間dtから求めるのに参照される表であり、区間最高速度Vmax と速度照査パターンPvと列車最大加速度αなどに基づいて予め算出されたデータ値が設定されている。その算出については後で詳述する。
【0029】
踏切警報制御プログラム26は、踏切警報開始前には、無線で受信した列車情報に含まれている列車位置に基づき、列車の先頭が踏切警報始動点位置ADCに達したか否かに応じて、警報対象の踏切12への列車10の接近を判定し、列車10が踏切警報始動点位置ADCに達したことが判明したときには踏切警報機24に警報出力を開始させるようになっている。なお、上記の列車の踏切警報始動点位置ADCへの到達には、受信した列車情報に含まれている列車位置が踏切警報始動点位置ADCに一致するか過ぎている場合はもちろん、直前の列車位置と経過時間とから到達したと推定される場合も含まれる。
【0030】
また、踏切警報制御プログラム26は、上述した列車接近判定と警報出力制御を行うに際して、列車10から無線で初めて受信した列車情報に含まれている列車位置が踏切警報始動点位置ADCを通過していたときには、規定警報時間を確保するため、踏切警報開始から速度照査解除までの時間差Δtを可変調整するようになっている。具体的には、列車10の列車位置と踏切警報始動点位置ADCとの位置関係と速度から警報開始遅れ時間dtを求め、遅れが無ければ警報開始遅れ時間dtをゼロにし、遅れが有るときには端数を切り上げて警報開始遅れ時間dtを整数化してから、時間差可変調整表27に対する表引き等にて、時間差Δtを求めるようになっている。
【0031】
時間差可変調整表27は(
図2(c)参照)、警報開始遅れ時間dtをゼロから一秒刻みで分けて、それぞれに対応する適切な時間差Δtの算出値を設定した対応表・変換表である。警報開始遅れ時間dtの各区分値に対応した時間差Δtの典型的な算出例は(
図2(b)参照)、仮に時間差Δtを変数として想定範囲内で変化させて、警報開始遅れ時間dtと時間差Δtとの合計時間は速度照査パターンPvの速度で走行し、その直後から列車最大加速度αで区間最高速度Vmax まで加速する速度Vfで走行したときの所用時間Stを算出して、所用時間Stと規定警報時間とが一致するような時間差Δtを採択する、というものである。こうして算出されて時間差可変調整表27に設定された時間差Δtは、踏切警報開始から速度照査解除までの時間、より具体的に言えば踏切警報開始時に車上装置21へ無線で踏切警報開始済み通知を送信してから速度照査解除通知を送信するまでの時間として、踏切警報制御プログラム26によって使用されるものである。
【0032】
また、このような時間差可変調整表27に基づいて警報開始遅れ時間dtから時間差Δtを得る踏切警報制御プログラム26は、無線で踏切警報開始済み通知を送信してから時間差Δt後に無線で速度照査解除通知を送るものである。時間差Δt後の速度照査解除通知によって規定警報時間以上の所用時間Stを確保できる。なお、時間差可変調整表27として、ここでは、どの列車にも共通な一つの固定表を例示したが、個々の列車や列車種別毎に異なる時間差可変調整表27を準備しておいて、選択使用するようにしても良い。
【0033】
この実施例1の無線式踏切警報システム20について、その使用態様及び動作を、図面を引用して説明する。
図3(a)〜(d)及び
図4(a)〜(e)は、何れも、列車10の走行状態と無線式踏切警報システム20の概要模式図であり、そのうち
図3は警報開始遅れが無いときのシステム動作を時系列で示し、
図4は警報開始が遅れたときのシステム動作を時系列で示している。上述したように、軌道11を走行する列車10に車上装置21が搭載されるとともに、軌道11の踏切12に設置された踏切警報機24に無線式踏切警報制御装置25がケーブル接続されて、無線式踏切警報システム20が使用される。
【0034】
ここでは、そのような使用状況の下で、先ず通信状態が良好で警報開始遅れが無いときのシステム動作を説明し(
図3参照)、次いで通信の何らかの不具合で警報開始が遅れたときのシステム動作を説明する(
図4参照)。
通信状態が良好な場合(
図3参照)、列車10が踏切12に向かって進行して踏切警報始動点位置ADCに近づくと(
図3(a)参照)、車上装置21から列車情報が無線で送信され、それが無線式踏切警報制御装置25によって受信されるとともに、車上装置21では速度照査プログラム23によって速度照査パターンPvに基づく速度照査が開始されるが、この位置では未だ区間最高速度Vmax での走行が列車10に許されている。
【0035】
そして(
図3(b)参照)、列車10が踏切警報始動点位置ADCに到達したか到達しそうな時刻には、無線式踏切警報制御装置25の制御によって踏切警報機24が踏切警報の出力を開始するとともに、無線式踏切警報制御装置25から踏切警報開始済み通知が無線で送信され、それが車上装置21によって受信される。また、無線式踏切警報制御装置25では、時間差可変調整表27に基づいて警報開始遅れ時間dtから時間差Δtが求められるが、この場合は、警報開始遅れ時間dtが“0”秒なので、時間差Δtは“16.0”秒になる。
【0036】
それから(
図3(c)参照)、数秒毎に車上装置21から列車情報が無線で送信され、それが無線式踏切警報制御装置25によって受信されて、列車10の位置が無線式踏切警報制御装置25にも確認されるとともに、踏切警報機24が踏切警報を出力する状態が継続するが、この位置でも未だ区間最高速度Vmax での走行が列車10に許されている。
その状態で時間差Δtの16.0秒ほど時間が経過すると(
図3(d)参照)、無線式踏切警報制御装置25から速度照査解除通知が無線で送信され、それが車上装置21によって受信されると、車上装置21では速度照査が解除されるので、それ以後も区間最高速度Vmax での走行が列車10に許される。そして、列車10が踏切12に到達したときには、踏切警報開始から例えば35秒の規定警報時間が経過するので、踏切12の安全が確保される。
【0037】
次に(
図4参照)、通信の不具合で警報開始が遅れた状況を述べる。雷等で一時的に通信が途絶えたり、外来電波等で通信距離が不所望に短縮されたような場合を想定する。
この場合(
図4(a)参照)、列車10が踏切12に向かって進行して踏切警報始動点位置ADCに近づくと、車上装置21から列車情報が無線で送信されるが、それが通信の不具合によって無線式踏切警報制御装置25まで届かず受信されないので、無線式踏切警報制御装置25は列車10の接近を検知できない。もっとも、車上装置21では速度照査プログラム23によって速度照査パターンPvに基づく速度照査が開始され、この位置では未だ区間最高速度Vmax での走行が列車10に許されている。
【0038】
そして、列車10が踏切警報始動点位置ADCを通過して(
図4(b)参照)、車上装置21と無線式踏切警報制御装置25とが十分に近づくと、列車情報が無線式踏切警報制御装置25に届いて受信される。すると(
図4(c)参照)、無線式踏切警報制御装置25の制御によって踏切警報機24が踏切警報の出力を開始するとともに、無線式踏切警報制御装置25から踏切警報開始済み通知が無線で送信され、それが車上装置21によって受信される。また、無線式踏切警報制御装置25では、時間差可変調整表27に基づいて警報開始遅れ時間dtから時間差Δtが求められるが、この場合は、警報開始遅れ時間dtがゼロでなく例えば“9”秒だったとすれば、時間差Δtは“28.5”秒になる。
【0039】
それから(
図4(d)参照)、数秒毎に車上装置21から列車情報が無線で送信され、それが無線式踏切警報制御装置25によって受信されて、列車10の位置が無線式踏切警報制御装置25にも確認されるとともに、踏切警報機24が踏切警報を出力する状態が継続するが、やがて列車10には区間最高速度Vmax での走行が許されなくなり、列車10は速度照査パターンPvの制約下での減速を余儀なくされる。そして、その減速のため、列車10が踏切12に到達する前に時間差Δtの28.5秒の時間が経過する。すると(
図4(e)参照)、無線式踏切警報制御装置25から速度照査解除通知が無線で送信され、それが車上装置21によって受信されると、車上装置21では速度照査が解除されるので、それ以後は区間最高速度Vmax に達するまでは列車最大加速度αで加速しながら走行することが列車10に許される。
【0040】
そして、この場合も、列車10が踏切12に到達したときには、踏切警報開始から規定警報時間たとえば35秒が経過するので、踏切12の安全が確保される。
なお、何れの場合も、列車10が踏切警報終止点位置BDCを通過したことが車上装置21からの列車情報に基づき無線式踏切警報制御装置25によって確認されると、無線式踏切警報制御装置25の制御によって踏切警報機24の警報出力が停止させられるとともに、そのことが無線式踏切警報制御装置25から車上装置21へ無線で通知される。
【0041】
[その他]
本願発明の無線式踏切警報システムは、有線式踏切警報装置の設備更新を契機として開発されたものであるが、併用も可能である。例えば、踏切警報装置の設置されている踏切と無線式踏切警報制御装置の設置された踏切とが同じ路線に混在していても良い。あるいは、踏切警報制御装置が老朽化していても踏切制御子は未だ使用できるような場合には、無線式踏切警報制御装置に踏切制御子の出力も取り込んで安全側を優先採用する等のことにより、一つの踏切に係る設備で協動させるようにしても良い。