【課題を解決するための手段】
【0014】
ろう付に際しては、ろう付熱処理過程でアルミニウム材料表面の酸化皮膜が成長することが知られている。アルミニウム材料の初期酸化皮膜は比較的ポーラスな状態であり、熱処理過程で酸化皮膜の欠陥部等から酸素が侵入して酸化皮膜の成長に至るものと考えられる。従来法では、フッ化物系フラックスあるいはアルミニウム材料へ添加したMgの蒸発作用によって酸化皮膜を破壊してろう付を行っているが、加熱中の材料表面の酸化皮膜成長を抑制することができれば、フラックスや過剰なMgを酸化皮膜破壊活動に費やす必要がなくなる。
【0015】
すなわち、本発明のフラックスレスろう付用アルミニウム合金ブレージングシートのうち、第1の本発明は、質量%で、Siを3〜13%、Mgを0.1〜5.0%含有するAl−Si系ろう材が芯材にクラッドされ、該Al−Si系ろう材は、少なくとも、ろう付に際し被ろう付け部材と接触密着する接触密着部の表面上に、
表面における欠陥部の面積率が5%以下である無孔質陽極酸化皮膜が形成されていることを特徴とする。
【0016】
第2の本発明のフラックスレスろう付用アルミニウム合金ブレージングシートは、前記第1の本発明において、前記無孔質陽極酸化皮膜は、0.1〜25nmの厚さを有することを特徴とする。
【0017】
第3の本発明のフラックスレスろう付用アルミニウム合金ブレージングシートは、前記第1または第2の本発明において、前記芯材が、質量%で、Mgを0.1〜1.0%含有することを特徴とする。
【0019】
第
4の本発明のアルミニウム材のフラックスレスろう付方法は、
第1〜第3の本発明のいずれかに記載のアルミニウム合金ブレージングシートを用いて、減圧を伴わない非酸化性雰囲気で、加熱温度559〜620℃において、前記Al−Si系ろう材と被ろう付け部材とを接触密着させ、前記Al−Si系ろう材によりフラックスレスで接触密着部の密着面において前記芯材と前記被ろう付け部材とを接合することを特徴とする。
【0020】
第
5の本発明のアルミニウム材のフラックスレスろう付方法は、前記第
4の本発明において、前記被ろう付け部材は、少なくとも、ろう付に際し前記アルミニウム合金ブレージングシートと接触密着する接触密着部の表面上に、無孔質陽極酸化皮膜が形成されていることを特徴とする。
【0021】
第
6の本発明のアルミニウム材のフラックスレスろう付方法は、前記第
5の本発明において、前記無孔質陽極酸化皮膜は、0.1〜25nmの厚さを有することを特徴とする。
【0022】
以下に、本発明で規定する成分等の限定理由について以下に説明する。なお、各成分量はいずれも質量%で示される。
【0023】
1.ろう材
本発明ではAl−Si系合金をベースとしたろう材が使用され、下記含有量でSiおよびMgを必須成分として含有する。該ろう材は、残部をAlと不可避不純物とするものであってもよく、また、上記Si、Mgの作用を損なわない限りは他の成分を含有するものであってもよい。
【0024】
Si:3〜13%
SiはAlに含有することにより、その融点を低下させ、ろう付温度にて溶融して所定の継手を形成する基本的な元素である。ろうとして機能する適正な含有量の範囲として、3〜13%とする。3%未満では生成する液相量が不足するため十分な流動性が得られず、13%を超えると初晶Siが急激に増加して加工性が悪化するとともに、ろう付時に接合部のろう侵食が著しく促進される。同様の理由でSi含有量の望ましい下限は5%、上限は12%である。
【0025】
Mg:0.1〜5.0%
Mgは材料表面に生成する緻密なアルミニウムの酸化皮膜(A1
20
3)をろう付加熱時に還元、分解して、接合性とろうの濡れ性を向上する効果を有する。本発明において十分な接合を得るためのMg含有量は0.1〜5.0%である。0.1%未満では本発明の効果であるろう付時接合面の酸化皮膜破壊効果が得られず、5.0%を越えるとその効果が飽和し、かつ、アルミニウム材料の加工性に難を生じる。
本発明では、上記Mg成分範囲における酸化皮膜破壊活動のみでもろう付性を確保できるが、さらに、Mg含有量を最適化してAl−Si−Mg系ろう材の固相線温度の低下効果を利用すれば、優れたろう付性を発揮できる。この場合のMgの最適含有量は、Si含有量により変動するが、例えばSi含有量が6〜12%の場合は、Mg含有量は0.75〜1.5%が好ましい。この範囲であれば、ろうの融点低下が十分に得られ、Mgによる酸化皮膜破壊効果との相乗効果により、より良好なろう付性を得ることが可能となる。具体的には、Al−Si−Mg合金で最も低い固相線温度の559℃以上でろう付が可能となる。
【0026】
ろう材における無孔質陽極酸化皮膜
Al−Si系ろう材は、少なくとも、ろう付に際し被ろう付け部材と接触密着する接触密着部の表面上に、無孔質陽極酸化皮膜を形成すると、この無孔質陽極酸化皮膜がバリアー層となり、ろう付熱処理過程での表面酸化皮膜成長を抑制し、ろう付熱処理中の酸化皮膜とアルミニウム材料の熱膨張率差による酸化皮膜破壊活動のみで、ろう付を得ることが可能となる。無孔質陽極酸化皮膜は、ろう材表面の全面に形成するものであってもよいが、本発明としては、少なくとも、ろう付に際し被ろう付け部材と接触密着する接触密着部の表面上に無孔質陽極酸化皮膜が形成されていればよい。また、接触密着部の表面の一部に無孔質陽極酸化皮膜が形成されているものも含まれる。但し、本原理のみでは、酸化皮膜破壊後の新生面再酸化防止作用がなく、必ずしも充分な接合率を安定的に得ることは難しいため、前記のようにろう材にMgを添加し、Mgによる酸化皮膜還元作用を併用して安定的なろう付性を確保する。
【0027】
なお、Al−Siろう材の表面に無孔質陽極酸化皮膜を形成処理する場合、ろう材に含まれるSi粒子上にはアルミニウムマトリクス上と同じような無孔質陽極酸化皮膜の成長が得られないことが判っているが、Si粒子とアルミニウムマトリクスとの界面に無孔質陽極酸化皮膜が形成されることで、前述したバリアー効果が十分に発揮されるものと考えられる。また、Si粒子上の可視表面で熱処理による酸化皮膜成長が生じたとしても、可視表面外のアルミニウムマトリクスとの接触部からSiは固相・液相拡散し、最終的に液相ろうとして機能する為、ろう付に問題は生じない。
【0028】
無孔質陽極酸化皮膜の厚さ:0.1〜25nm
無孔質陽極酸化皮膜の厚さが0.1nm未満であると、ろう付熱処理時の酸化皮膜成長バリアー効果が低く、25nm超では、無孔質陽極酸化皮膜自体がろうの濡れ拡がり性を阻害する傾向が強まる。したがって、無孔質陽極酸化皮膜の厚さは0.1〜25nmが望ましい。なお、望ましい下限は0.5nm、望ましい上限は10nmである。
【0029】
無孔質陽極酸化皮膜の欠陥部面積率:5%以下
無孔質陽極酸化皮膜表面における欠陥部の総和の面積率を5%以下とすることで、バリアー効果によってろう付熱処理時の酸化皮膜成長を効果的に抑制することができる。
無孔質陽極酸化皮膜表面における欠陥部の面積率が5%を超えると、ろう付熱処理時のバリアー効果が十分に発揮されなくなる。したがって、欠陥部の面積率は5%以下が望ましい。同様の理由で、欠陥部面積率は1%以下であることがより望ましい。
無孔質陽極酸化皮膜の欠陥部の面積率は、陽極酸化処理の条件によって制御することができる。
【0030】
2.芯材
Mg:0.1〜1.0%
本発明に用いるアルミニウムクラッド材の芯材組成は、特に限定されるものではなく、芯材にはMgを添加しなくても接合は可能である。しかし、本発明にてフラックスレスろう付を実現したことにより、芯材において高強度化を狙ったMg添加を積極的に行なうことも可能となる。
すなわち、Mgは、アルミニウム合金の強度を向上させる効果を有する。また、ろう付加熱中にろう材から拡散してきたSiとも反応し、同様の強度効果を有する。さらに一部はろう材中に拡散し、ろう材表面の酸化皮膜破壊、酸化皮膜成長抑制作用に寄与する。0.1%未満ではこれら効果が不十分であり、1.0%を超えると融点が低下し、芯材が溶融する。このため、Mg含有量は上記範囲が望ましい。
【0031】
芯材成分としては、上記したMg:0.1〜1.0%の他に、質量比でSi:0.1〜1.2%、Mn:0.2〜2.5%、Cu:0.05〜1.0%、Fe:0.1〜1.0%の内1種または2種以上含有するものが例示され、さらに、Zr:0.01〜0.3%、Ti:0.01〜0.3%、Cr:0.01〜0.5%の内1種または2種以上を含有するものが例示される。
【0032】
3.クラッド材
本発明に使用する上記クラッド材においては、少なくとも片面に上記Al−Si系ろう材がクラッドされていればよく、適宜、片面クラッド材と両面クラッド材を使い分けることができる。両面クラッド材では、芯材の両面にろう材がクラッドされているものであってもよく、また片面に上記ろう材がクラッドされ、他の片面に犠牲材等のその他の材料がクラッドされているものであってもよい。
【0033】
4.被ろう付け部材の材質
ろう材以外の被ろう付け部材としては、一般的に用いられているアルミニウム合金であれば何れも問題なく使用可能である。
【0034】
5.被ろう付け部材の無孔質陽極酸化皮膜
被ろう付け部材は、少なくとも、ろう付けに際しアルミニウム合金ブレージングシートと接触密着する接触密着部の表面上に、無孔質陽極酸化皮膜が形成されているのが望ましい。被ろう付け部材表面の無孔質陽極酸化皮膜は、前記ろう材における無孔質陽極酸化皮膜と同様に、ろう付熱処理過程での表面酸化皮膜成長を抑制し、ろう付熱処理中の酸化皮膜とアルミニウム材料の熱膨張率差による酸化皮膜破壊活動のみで、ろう付を得ることが可能となる。無孔質陽極酸化皮膜は、被ろう付け部材表面の全面に形成するものであってもよいが、本発明としては、少なくとも、ろう付に際しアルミニウム合金ブレージングシートと接触密着する接触密着部の表面上に無孔質陽極酸化皮膜が形成されていればよい。
被ろう付け部材に形成する無孔質陽極酸化皮膜は、ろう材のものと同様に、厚さが0.1〜25nmが望ましく、欠陥部面積率は5%以下が望ましい。
【0035】
なお、本発明としては、本発明のブレージングシートのろう材同士を接触密着させてろう付けするものであってもよい。その場合、各ろう材では、本発明で規定する無孔質陽極酸化皮膜がいずれも形成されているのが望ましい。
【0036】
6.炉内雰囲気
本発明を実施するに当っては、炉内雰囲気が大気であってもろう付は可能であるが、アルミニウム材料に多めのMgを添加し高強度化を図るような場合で、ろう付昇温過程に要する時間が長い場合等には、材料表面でMgO酸化皮膜成長が進み、ろう付後製品表面が黒ずむ等の外観不良を生じる可能性は考えられる。この場合は、ろう付雰囲気を高純度窒素ガス雰囲気等の非酸化性ガス雰囲気とすることで対策可能である。ガスとしては、他にアルゴン、ヘリウム等の不活性ガス、水素、アンモニア、一酸化炭素等の還元ガスも使用できる。雰囲気中の酸素濃度管理範囲としては、5〜500ppmがよい。5ppm未満の場合は、接合に不具合は生じないが、雰囲気の管理に多量のガスを使用する等、製造コストの増大懸念が生じるためである。500ppm超ではろう材および被ろう付け部材の再酸化が進みやすくなり、特にろう材が表面にないベア構成部材とろう材間の接合が十分に得られない為である。雰囲気中の酸素濃度が低いほど接合状態は良好となるため、全ての接合部で安定した接合状態を得るには、ろうが溶融後の酸素濃度は50ppm以下に制御することが望ましい。
【0037】
7.ろう付温度
本発明の実施に当たり特に条件を制限するものではない。製品到達温度は使用するろう材の溶融温度(固相線温度)以上とする。本発明においては、Al−Si系ろう材合金の最も低い固相線温度である559℃以上でろう付ができるが、当然、従来からのAl−Siろう材によるろう付温度範囲も適用可能である。具体的には559〜620℃が良い。559℃未満ではろうが溶融しないためろう付ができず、620℃超ではろう侵食が顕著となり、製品形状の維持等に問題が生じるため好ましくない。但し、この温度範囲においても、ろうの合金組成によって固相線温度が低い場合には、ろう侵食が顕著になる場合もあり、その際は、この温度範囲の中で合金組成にあったろう付温度を選択するのが好ましい。昇温速度は、Mgの材料表面での酸化による変色抑制のため、20℃/min以上が望ましい。