(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記複数の周波数は、少なくとも第1の周波数とこれよりも大きい第2の周波数とを含み、前記第1の周波数の超音波の界面エコー高さのろう材の厚さの増加に伴う変動サイクルが、前記第2の周波数の超音波の界面エコー高さのろう材の厚さの増加に伴う変動サイクルの2倍以上である、請求項1に記載のろう厚測定装置。
前記複数の周波数は、少なくとも第1の周波数とこれよりも大きい第2の周波数とを含み、前記第2の周波数は前記第1の周波数の2倍以上である、請求項1に記載のろう厚測定装置。
前記エコー高さ−ろう厚情報は、前記複数の周波数、前記母材の物性値および前記ろう材の物性値、又は、これらに加えて実験値に基づいている、請求項1から3のいずれか一項に記載のろう厚測定装置。
前記複数の周波数は、少なくとも第1の周波数とこれよりも大きい第2の周波数とを含み、前記第1の周波数の超音波の界面エコー高さのろう材の厚さの増加に伴う変動サイクルが、前記第2の周波数の超音波の界面エコー高さのろう材の厚さの増加に伴う変動サイクルの2倍以上である、請求項5に記載のろう厚測定方法。
前記複数の周波数は、少なくとも第1の周波数とこれよりも大きい第2の周波数とを含み、前記第2の周波数は前記第1の周波数の2倍以上である、請求項5に記載のろう厚測定方法。
前記エコー高さ−ろう厚情報を作成するステップは、前記複数の周波数、前記母材の物性値および前記ろう材の物性値、又は、これらに加えて実験値に基づいて前記エコー高さ−ろう厚情報を作成する、請求項5から7のいずれか一項に記載のろう厚測定方法。
【背景技術】
【0002】
従来、金属材料間、非金属材料間、或いは、金属材料と非金属材料間を接合するために、ろう接が用いられている。ろう接は、母材よりも融点の低いろう(鑞)材を溶融させて接着剤として用いることにより、母材を溶融させずにぬれ現象で母材間を接合する接合手段である。ろう接として、硬ろうを用いるろう付と、軟ろう(はんだ)を用いるはんだ付とがある。硬ろうは、一般的に、金ろう、銀ろう、黄銅ろうなどの合金である。
【0003】
非特許文献1には、ろう付継手の強さに影響を与える因子はろう付すきま(ろう材の厚さ=ろう厚)、ろう付面積および母材強度等であり、これらの因子が複合的に作用してろう付強さが決まることが記載されている。
図5は、非特許文献1の71頁
図2に示された「突合せ継手および重ね継手のろう付強さへのろう付すきま、ろう付面積および母材強度の影響」から、ろう付強さとろう付すきまの関係のみを抽出したものである。
図5に示されるように、ろう材の厚さ(ろう付すきま)が極めて小さい範囲では接合強度(せん断強さまたは引張強さ)が著しく小さく、ろう材の厚さの増加に伴って接合強度が増大している。ところが、接合強度は、ろう材の厚さが所定の値(突合せ継手ではT1,重ね継手ではT2)となったときにピークとなり、ここからろう材の厚さの増加に伴って減少している。このような接合強度とろう材の厚さの関係は、ろう接された母材間を接合しているろう材の厚さに好適な範囲があることを示している。
【0004】
上述の通り、ろう付による接合部の接合強度はろう材の厚さに影響を受けることから、製品の保証のためにろう材の厚さを管理することが望ましい。従来は、母材間を接合しているろう材の厚さは、試験的に母材をろう接し、これを切断して実測していた。しかし、ろう材の厚さはろう接状態(例えば、欠陥など)により変化することがあり、個々のろう接接合部においてろう材の厚さを測定できれば、より高い精度で製品を管理することが可能となる。このために、ろう接接合部のろう材の厚さを非破壊で測定する技術が望まれている。
【0005】
特許文献1では、ろう材の厚さではなく表面被膜の膜厚を測定する方法ではあるが、超音波を用いて非破壊で膜厚を測定する技術が開示されている。この技術は、ダンピングの大きい超音波探触子を用いて低い周波数のパルス成分と高い周波数のパルス成分とを含む超音波パルスを被験体に放射し、被験体から得られる表面エコー又は底面エコーの受信信号をフーリエ変換し、フーリエ変換したデータにおいて低い周波数側のピーク値と高い周波数側のピーク値とを得て、そのうち一方を正規化した値に基づいて被膜の膜厚を測定するものである。ここでは、1つの超音波の内部に2種類の成分を内在させることのできる超音波探触子が利用され、その送信波形は、2つのピークを有する双山の周波数分布を持っている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来、ろう接接合部のろう材の厚さを非破壊で測定する技術は存在しない。また、上記特許文献1に記載の膜厚測定方式を応用させて、ろう接接合部のろう材の厚さを測定したとしても、測定対象に制限がある。なぜなら、上記特許文献1に記載された膜厚測定方式は、高い周波数の超音波の方が低い周波数の超音波よりも減衰しやすいという特性を利用して、超音波の減衰量の差に基づいて膜厚を測定する。このため、実際には、母材と比較して超音波減衰量の極めて大きな被膜の膜厚しか測定することができない。
【0009】
そこで、本発明は、ろう接された母材間のろう材の厚さを非破壊で測定する装置および方法を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るろう厚測定装置は、ろう接された母材間のろう材の厚さを測定するろう厚測定装置であって、複数の周波数の超音波の発振と受信が可能な超音波探触子と、前記複数の周波数の超音波の各々につき、前記超音波探触子が発振して受信した超音波のエコー高さを測定するエコー測定部と、前記複数の周波数の超音波の前記母材と前記ろう材の2つの接合界面で反射した超音波のエコー高さ(以下、「界面エコー高さ」という)と前記ろう材の厚さとの相関関係を示すエコー高さ−ろう厚情報を格納した第1の記憶部と、前記エコー高さ−ろう厚情報を用いて、測定された前記エコー高さより得られる前記複数の界面エコー高さから前記ろう材の厚さを算出するろう厚演算部とを備えるものである。
【0011】
同様に、本発明に係るろう厚測定方法は、ろう接された母材間のろう材の厚さを測定するろう厚測定方法であって、複数の周波数の超音波の各々につき、超音波探触子が発振して受信した超音波のエコー高さを測定するステップと、複数の周波数の超音波の界面エコー高さと前記ろう材の厚さとの相関関係を示すエコー高さ−ろう厚情報を作成するステップと、前記エコー高さ−ろう厚情報を用いて、測定された前記エコー高さより得られる前記複数の界面エコー高さから前記ろう材の厚さを算出するステップとを含むものである。
【0012】
上記ろう厚測定装置およびろう厚測定方法では、複数の周波数の超音波を母材に入射して反射エコー高さを測定し、得られた複数の界面エコー高さに基づいて、ろう材の厚さを測定している。このように、本発明によれば、ろう接された母材間のろう材の厚さを非破壊で測定することができる。しかも、ろう材の厚さを測定するにあたって超音波の減衰を利用しないので、母材とろう材との超音波の減衰率が比較的小さくても、ろう材の厚さを測定することができる。さらに、母材とろう材の物性値を用いれば、既知の対比試験片などを利用することなく、ろう材の厚さを測定することができる。
【0013】
前記ろう厚測定装置および前記ろう厚測定方法において、前記複数の周波数は、少なくとも第1の周波数とこれよりも大きい第2の周波数とを含み、前記第1の周波数の超音波の界面エコー高さのろう材の厚さの増加に伴う変動サイクルが、前記第2の周波数の超音波の界面エコー高さのろう材の厚さの増加に伴う変動サイクルの2倍以上であることがよい。
【0014】
または、前記ろう厚測定装置および前記ろう厚測定方法において、前記複数の周波数は、少なくとも第1の周波数とこれよりも大きい第2の周波数とを含み、前記第2の周波数は前記第1の周波数の2倍以上であることがよい。
【0015】
上記のように入射する複数の超音波の周波数の関係を定めることにより、測定された界面エコー高さからろう厚を特定することが容易となる。
【0016】
前記ろう厚測定装置において、前記エコー高さ−ろう厚情報は、前記複数の周波数、前記母材の物性値および前記ろう材の物性値、又は、これらに加えて実験値に基づいて作成することができる。同様に、前記ろう厚測定方法において、前記エコー高さ−ろう厚情報を作成するステップは、前記複数の周波数、前記母材の物性値および前記ろう材の物性値、又は、これらに加えて実験値に基づいて前記エコー高さ−ろう厚情報を作成することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、非破壊でろう接接合部のろう材の厚さを測定することができる。しかも、測定に入射した超音波の減衰量を利用しないので、母材とろう材との超音波減衰量の差が小さくてもろう材の厚さの測定が可能である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら、詳細に説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複説明を省略する。
【0020】
図1に示すように、本実施の形態に係る超音波式ろう厚測定装置1は、水浸法に則って、探触子2と被験体10を共に水中に浸漬しつつ、探触子2から発振した超音波を被験体10の母材11へ入射し、被験体10で反射して返ってきた超音波の測定を行うように構成されている。超音波式ろう厚測定装置1は、探触子2と、超音波送受信器3と、A/D変換器4と、演算制御装置5と、入力装置61と、出力装置62と、探触子2と被験体10とを水中に浸漬させるための水槽7とを備えている。
【0021】
被験体10は、ろう接された第1の母材11と第2の母材12を接合しているろう材13である。本実施形態では、第1の母材11および第2の母材12の材質ともにSUS403であり、ろう材13は金ろうである。第1の母材11と第2の母材12は、箔状のろうを用いた置きろう付によりろう接されており、接合部10Aのろう材13の厚さ(以下では、「ろう厚T」ともいう)は、マイクロメーターオーダーである。なお、厚さとは接合面と略直交する方向の大きさである。
【0022】
探触子2は、超音波を発振するとともに、超音波の反射波を受信するように構成されている。但し、探触子2は、複数の異なる周波数の超音波の発振と受信が可能であればその態様には限定されず、発振する周波数を或帯域で自由に可変な超音波探触子、発振する周波数を複数の値で変化させることのできる超音波探触子、および一定の周波数の超音波の発振と受信が可能な複数の超音波探触子などから適宜選択して用いることができる。
【0023】
探触子2は超音波送受信器3と有線又は無線により接続されている。超音波送受信器3は、パルス発振部31と、受信部32と、増幅部33とを備えている。パルス発振部31は、探触子2へパルス信号を送信する。受信部32は、探触子2が受けた超音波の反射波の検出信号(反射波信号)を受信する。増幅部33は、この反射波信号を所定の増幅率で増幅してA/D変換器4へ送信する。A/D変換器4は、超音波送受信器3から受けたアナログの反射波信号をデジタル化し、そのデジタルデータを演算制御装置5へ出力する。なお、超音波送受信器3の増幅部33の増幅率は、エコー検出感度に相当するものである。エコー検出感度の基準感度は、標準試験体の底面エコー高さが80%となるように設定されている。
【0024】
演算制御装置5は、エコー測定機能部50と、ろう厚測定機能部70とを具備している。本実施形態では、エコー測定機能部50と厚測定機能部70は一つの演算制御装置5に備わっているが、これらは各々異なる演算制御装置に搭載されていても良い。演算制御装置5には、A/D変換器4と、演算制御装置5に対し情報を入力するためのキーボードなどの入力装置61と、演算制御装置5から処理結果を出力するためのディスプレイやプリンタなどの出力装置62とが接続されている。演算制御装置5は、いわゆるコンピュータであって、CPU(Central Processing Unit)と、CPUが実行するプログラムおよびこれらプログラムに使用されるデータを書き替え可能に記憶するEEPROM(Electrically Erasable and Programmable Read Only Memory)と、プログラム実行時にデータを一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)とを含んで構成されている。
【0025】
演算制御装置5では、CPUで所定のプログラムが実行されることにより、演算制御装置5を構成する各機能部の機能が実現される。演算制御装置5のエコー測定機能部50は、発振制御部51、エコー測定部52および記憶部53を備えている。また、ろう厚測定機能部70は、ろう厚演算部71、接合強度評価部72、第1記憶部73および第2記憶部74を備えている。これらの各機能部の処理内容については後述する。
【0026】
なお、上記構成の超音波式ろう厚測定装置1は、演算制御装置5のろう厚測定機能部70を除いて、市販されている超音波式検査装置と特別な差異はない。超音波式検査装置とは、例えば、超音波式探傷装置などの、被験体に超音波を入射し、その反射波の強さおよび位置などを測定する機能を備えた装置である。よって、ろう厚測定装置1は、前述の公知の超音波式検査装置に、演算制御装置5の厚測定機能部70としての機能を備えて構成することができる。超音波式検査装置については良く知られているので、これ以上の詳細な説明は省略する。
【0027】
上記構成の超音波式ろう厚測定装置1を用いて被験体10のろう接接合部のろう厚測定を行なうにあたって、演算制御装置5に入力装置61を介して測定条件が入力される。測定条件には、被験体10のデータ、感度、第1の超音波の周波数、第2の超音波の周波数等が含まれる。被験体10のデータは、母材11,12の厚さ(接合面と直交する方向の大きさ)と、母材11,12およびろう材13の物性値(材質、密度、超音波の音速など)とを含んでいる。また、エコー検出感度は、前述の通り定められる。
【0028】
ここで、第1の超音波の周波数(第1周波数f
1)と、第2の超音波の周波数(第2周波数f
2)について詳細に説明する。
図2は探触子が受信する反射波の種類を説明する図である。
図2に示すように、探触子2から被験体10へ接合面に対して垂直に超音波が入射すると、超音波の一部は第1の母材11とろう材13との接合界面で反射し、残部は透過する。透過した超音波は、ろう材13と母材12との接合界面で反射する。このため、超音波が母材11,12とろう材13との2つの接合界面で反射して、測定される反射波(以下、「界面エコーh」ともいう)のエコー高さ(以下、「界面エコー高さH」ともいう)は、これらの波の干渉の影響を受けて、ろう厚Tに依存して変化する。この界面エコーhの他、測定される反射波には、第1の母材11に入射する前に第1の母材11の表面で反射した表面反射波や、第1の母材11、ろう材13および第2の母材12を透過して第2の母材12の底面で反射した底面反射波などがある。界面エコーhと、表面反射波および底面反射波とは、到達時間差により区別することができる。
【0029】
探触子2からろう材13が介在する2面間に垂直入射された超音波の、ろう材13の透過率rは次に示す数式1で求めることができる。この数式1では、母材11,12とろう材13との2つの接合界面でそれぞれ音圧と速度が連続であると仮定している。そして、数式1と次に示す数式2を利用して、母材11,12およびろう材13の物性値と、第1周波数f
1又は第2周波数f
2と、入射波の強さとから、界面エコー高さH(反射波の強さ)を求めることができる。
【0032】
上記数式1中、Z
1は母材11の音響インピーダンス、Z
2は母材12の音響インピーダンス、Z
3はろう材13の音響インピーダンス、Tはろう厚、kは2π/λ(λはろう材13中の波長)をそれぞれ表している。なお、音響インピーダンスZは、式[Z=C
L×ρ]に基づき、材料中の縦波音速C
Lと密度ρから求めることができる。また、上記数式2中、rはろう付部の反射率、Hはろう付部のエコー高さ(反射波の強さ)、r
0は対比試験片での反射率、H
0は対比試験片のエコー高さをそれぞれ表している。
【0033】
図3に示すグラフ1には、界面エコー高さH(界面エコーhの最大エコー高さ)とろう厚Tの関係を示すエコー高さ−ろう厚曲線の一例が示されている。このエコー高さ−ろう厚曲線は、数式1,2の連立方程式に、母材11,12およびろう材13の物性値と、第1周波数f
1又は第2周波数f
2と、対比試験片のエコー高さを代入して得られる。ここで、母材はステンレス鋼であり、ろう材は金ろうである。グラフ1中、鎖線は超音波の周波数が5MHzのときのエコー高さ−ろう厚曲線を示し、実線は超音波の周波数が10MHzのときのエコー高さ−ろう厚曲線を示している。周波数が5MHzのときのエコー高さ−ろう厚曲線は、ろう厚が0μmから約180μmの間はろう厚Tの増大に伴ってエコー高さが0%から約20%まで増加し、ろう厚Tが約180μmから約360μmの間はろう厚Tの増大に伴ってエコー高さが約20%から0%まで減少し、以上のエコー高さの増加と減少からなる1サイクルをろう厚の増加に伴って繰り返している。また、周波数が10MHzのときのエコー高さ−ろう厚曲線は、ろう厚が0μmから約90μmの間はろう厚Tの増大に伴ってエコー高さが0%から約20%まで増加し、ろう厚Tが約90μmから約180μmの間はろう厚Tの増大に伴ってエコー高さが約20%から0%まで減少し、以上のエコー高さの増加と減少からなる1サイクルをろう厚の増加に伴って繰り返している。周波数が5MHzのときのエコー高さ−ろう厚曲線の変動の1サイクルは、周波数が10MHzのときのエコー高さ−ろう厚曲線の変動の1サイクルの2倍である。
【0034】
上述の通り、界面エコー高さHはろう厚Tの増加に伴って周期的に変動し、その変動周期は超音波の周波数により異なる。この特性を利用すれば、複数の異なる周波数の超音波を被験体10に入射して界面エコー高さHを測定することにより、ろう厚Tを特定することが可能である。なお、本実施形態では、被験体10に入射する超音波の周波数は2種類であるが、超音波の周波数は2種類以上であればよい。超音波の周波数の種類が増えるほど測定誤差が生じにくくなると共に、より高精度にろう厚Tを測定することが可能となる。但し、使用する探触子2の構造や測定時間を考慮すれば、発振できる超音波の周波数は数種類が適当である。なお、測定される界面エコー高さHはろう厚Tの増加に伴って周期的に変動することから、用いる周波数が1種類であると、ろう厚Tの特定に誤りが生じるおそれがあり好ましくない。また、特に、干渉による界面エコー高さHの変化が数%と小さい母材とろう材の組み合わせである場合に、超音波の周波数が1種類であると測定されるろう厚Tが界面エコー高さHの測定誤差の影響を大きく受けるおそれがあり好ましくない。このような理由から、超音波の周波数は2種類以上でなければならない。
【0035】
また、超音波の第1周波数f
1と第2周波数f
2とは、その超音波の波長よりもろう厚Tが薄くなるように定められる。第1周波数f
1および第2周波数f
2は、その波長λが厚Tの2倍より大きくなる値(2T<λ)であることが好ましい。なお、ろう厚Tは測定対象であるが、被験体10のろう厚Tのおおよその値は設計されている。上記超音波の波長λとろう厚Tとの関係は、このような設計されたおおよそのろう厚Tに基づいて定められる。
【0036】
さらに、超音波の第1周波数f
1と第2周波数f
2とは、グラフ1に示すように、一方の周波数の超音波のエコー高さ−ろう厚曲線の変動の1サイクルに、他方の周波数の超音波のエコー高さ−ろう厚曲線の変動の1サイクルが2つ以上含まれる関係であることが好ましい。換言すれば、一方の周波数の超音波のエコー高さ−ろう厚曲線の変動の1サイクルが、他方の周波数の超音波のエコー高さ−ろう厚曲線の変動の1サイクルの2倍以上であることが好ましい。より望ましくは、グラフ1に示されるように、一方の周波数の超音波のエコー高さ−ろう厚曲線の変動の1サイクルが、他方の周波数の超音波のエコー高さ−ろう厚曲線の変動の1サイクルの2倍であることが好ましい。このような第1周波数f
1と第2周波数f
2の組み合わせの一例として、一方の周波数を5MHzとし他方の周波数をその2倍の10MHzとすることができる。他方の周波数が一方の周波数の2倍以上であれば、上記のような第1周波数f
1と第2周波数f
2との関係にあてはまる。なお、エコー高さ−ろう厚曲線は母材11,12およびろう材13の物性値により異なるので、母材11,12とろう材13との組み合わせに応じて適宜第1周波数f
1と第2周波数f
2との組み合わせが選択されることとなる。超音波の第1周波数f
1と第2周波数f
2とが上記関係を有することにより、測定された複数の界面エコー高さHから、ろう厚Tを特定することが容易となる。
【0037】
次の表1に示すテーブル1は、複数の異なる周波数(5MHzと10MHz)の超音波の界面エコー高さHとろう厚Tとの相関関係を示すエコー高さ−ろう厚情報の一例である。テーブル1では、列が10MHzの超音波の界面エコー高さH(%)を表し、行が5MHzの超音波の界面エコー高さH(%)を表し、行列の成分がろう厚T(μm)を表している。テーブル1を参照して、例えば、測定された10MHzの超音波の界面エコー高さHが13%であり、測定された5MHzの超音波の界面エコー高さHが19%であるときには、ろう厚Tは130−160μmである。
【0039】
エコー高さ−ろう厚情報は、エコー高さ−ろう厚曲線に基づいて作成することができる。前述の通り、エコー高さ−ろう厚曲線は超音波の周波数、母材11,12の物性値、およびろう材13の物性値により変化するので、超音波の周波数と母材11,12とろう材13との組み合わせに応じてエコー高さ−ろう厚情報が作成される。エコー高さ−ろう厚情報は、超音波の周波数と母材11,12とろう材13との組み合わせに、予め行った実験で得られた実験値を加味して、作成することもできる。作成されたエコー高さ−ろう厚情報は、ろう厚測定機能部70の第1記憶部73に格納されて、後述するろう厚演算部71の処理で利用されるように設定される。
【0040】
ここで、
図6を参照しながら、被験体10のろう接接合部のろう厚測定の流れを説明する。前述の通り測定条件を演算制御装置5に入力し、被験体10を水槽7に沈めた後、探触子2を所望の測定点に位置させる。そして、探触子2を作動させて、第1周波数f
1の超音波の反射エコー測定を開始する(ステップS1)。演算制御装置5の発振制御部51は、測定条件に基づいて、超音波の第1周波数f
1などの情報を含むパルス生成指令を超音波送受信器3へ送信する。超音波送受信器3のパルス発振部31は、パルス生成指令に基づきパルスを発振する。超音波送受信器3のパルス発振部31が発振したパルス電圧が探触子2(詳細には、探触子2が備える振動素子)に加えられて、探触子2から第1周波数f
1の超音波(縦波)が発生する。探触子2から発生した超音波は、水槽7に湛えられた媒体(水)を介して被験体10の第1の母材11へ、接合面に対して垂直に入射する。
【0041】
探触子2は、前述のような反射波を受信(検出)し、反射波の検出信号を超音波送受信器3の受信部32へ送信する。この反射波信号は、超音波送受信器3の増幅部33で増幅されて、A/D変換器4でデジタルデータに変換されて、演算制御装置5へ出力される。演算制御装置5のエコー測定部52は、反射波信号のデジタルデータを処理して反射エコー高さを測定する。測定された第1の反射エコー高さデータ(反射波形情報)は記憶部53に格納される。以上が、第1周波数f
1の超音波の反射エコー測定動作の流れである。同様にして、ろう厚測定装置1で、第2周波数f
2の超音波の反射エコー測定動作を行い(ステップS2)、記憶部53に第2の反射エコー高さデータが格納される。
【0042】
上述のように第1周波数f
1の超音波の反射エコー測定と、第2周波数f
2の超音波の反射エコー測定が終わると、ろう厚測定機能部70のろう厚演算部71は、エコー測定機能部50の記憶部53に格納された第1および第2の反射エコー高さデータに基づいてろう厚Tを演算する。各反射エコー高さデータは、例えば、
図4のグラフ2に示す受信波形として表すことができる。受信波形は、縦軸が反射エコー高さを示し、横軸がビーム路程(時間)を示すグラフ上に表される。
【0043】
ろう厚演算部71は、まず、第1の反射エコー高さデータを記憶部53から読み出し、第1の反射エコー高さデータに含まれる界面エコーhの最大の反射エコー高さを第1の界面エコー高さH
1として取得する(ステップS3)。例えば、
図4のグラフ2に示す受信波形では、1つめの検出波が表面反射波であり、2つめの検出波が界面エコーhであり、この界面エコーhの最大の反射エコー高さが界面エコー高さHである。同様に、ろう厚演算部71は、第2の反射エコー高さデータを記憶部53から読み出し、第2の反射エコー高さデータに含まれる界面エコーhの最大の反射エコー高さを第2の界面エコー高さH
2として取得する(ステップS4)。
【0044】
続いて、ろう厚演算部71は、第1記憶部73からエコー高さ−ろう厚情報を読み出し(ステップS5)、このエコー高さ−ろう厚情報を参照して、第1の界面エコー高さH
1と第2の界面エコー高さH
2との組み合わせからろう厚Tを特定する(ステップS6)。以上の流れで、算出されたろう厚Tは、例えば、ディスプレイなどの出力装置62に出力することができる。
【0045】
次に、接合強度評価部72は、算出されたろう厚Tに基づいて、ろう接の接合強度を算出する。接合強度とろう厚Tとの相関関係を示す接合強度−ろう厚情報は第2記憶部74に格納され、接合強度評価部72の処理で利用するように設定されている。ろう接の接合強度とろう厚Tとの関係は母材11,12とろう材13の組み合わせ、接合面積、およびろう厚Tにより定まる。そこで、接合強度−ろう厚情報は、母材11,12とろう材13の組み合わせおよび接合面積を定め、このときの接合強度とろう厚Tとの関係を試験的又は理論的に求めて、作成されている。接合強度−ろう厚情報は、例えば、
図5に示すような、接合強度(せん断強さまたは引張強さ)とろう厚T(ろう付すきま)との関係である。なお、
図5において、縦軸に示された突合せ継手の場合の引張強さまたは重ね継手の場合のせん断強さが接合強度と対応し、横軸に示されたろう付すきまがろう厚Tと対応している。
【0046】
接合強度評価部72は、第2記憶部74から接合強度−ろう厚情報を読み出し(ステップS7)、この接合強度−ろう厚情報を参照して、算出されたろう厚Tから接合強度を特定する(ステップS8)。このように算出された接合強度は、例えば、ディスプレイなどの出力装置62にろう厚Tとともに表示されるように出力することができる。
【0047】
さらに、接合強度評価部72は、算出された接合強度から、接合の良・不良を評価する。例えば、
図5に表されるように、接合強度に或しきい値αが設定され、このしきい値αを境界として接合良範囲と接合不良範囲とが定められている。すなわち、接合強度がしきい値α以上の範囲は接合良範囲であり、接合強度がしきい値αに満たない範囲は接合不良範囲である。このしきい値αは、第2記憶部74に格納される接合強度−ろう厚情報に含まれていてもよいし、測定毎に入力装置61で測定条件の一つとして入力されてもよい。
【0048】
接合強度評価部72は、算出された接合強度としきい値αとを比較し(ステップS9)、接合強度がしきい値α以上のときは接合良と評価し(ステップS10)、接合強度がしきい値αに満たないときは接合不良と評価する(ステップS11)。この接合良又は不良の評価結果は、例えば、ディスプレイなどの出力装置62にろう厚Tおよび接合強度とともに表示されるように出力することができる。
【0049】
上述の通り、本実施形態に係るろう厚測定装置1を用いたろう厚測定方法では、予め界面エコー高さHとろう材13の厚さとの相関関係を示すエコー高さ−ろう厚情報を作成しておき、複数の周波数の超音波の各々につき、探触子2が発振して受信した超音波の反射エコー高さを測定し(ステップS1,2)、測定された反射エコー高さより得られる複数の界面エコー高さHからろう材13の厚さを算出している(ステップS3,4,5,6)。このようにして、非破壊でろう接された母材間のろう材の厚さを測定することができる。しかも、ろう材の厚さを測定するにあたって超音波の減衰を利用しないので、母材とろう材との超音波の減衰率が比較的小さくても、ろう材の厚さを測定することができる。さらに、母材とろう材の物性値を用いれば、既知の対比試験片などを利用することなく、ろう材の厚さを測定することができる。
【0050】
以上、本発明の好適な一実施形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて、様々な設計変更を行うことが可能である。
【0051】
例えば、上述の実施形態では、第1周波数f
1の超音波の反射エコー測定動作を行ってから、第2周波数f
2の超音波の反射エコー測定動作を行っているが、反射エコー測定の流れはこれに限定されない。例えば、第1周波数f
1の超音波と第2周波数f
2の超音波とを所定の間隔をおいて発振して反射エコー測定を行い、1つの反射エコー高さデータを得て、1つの反射エコー高さデータから第1の界面エコー高さH
1と第2の界面エコー高さH
2を得ることもできる。つまり、反射エコー測定の手段及び方法は、異なる種類の周波数の超音波の界面エコー高さをそれぞれ取得することができるものであれば、上記実施形態に限定されない。
【0052】
また、上述の実施形態では、超音波式ろう厚測定装置1は探触子と被験体とを水没させる全没水浸法を採用しているが、母材11の超音波の入射面と探触子の間だけ局部的に水を介在させる局部水浸法を採用してもかまわない。さらに、高精細且つ誤差の少ない探傷を行うために水浸法を用いることが望ましいが、被験体10の状況によっては水浸法を採用しなくともよい。
【0053】
さらに、上述の実施形態では、超音波式ろう厚測定装置1が備える探触子2は、点集束型探触子である。但し、これに代えて、他の種類の探触子を用いることが可能である。
【0054】
また、上述の実施形態では、ろう厚測定装置1で測定されたろう厚Tは母材11,12間の接合強度の評価に利用されているが、ろう厚Tはその他にも利用することができる。例えば、測定されたろう厚Tをろう材13の超音波探傷に利用することができる。ろう材13の欠陥を超音波探傷する場合には、超音波を被験体10に入射し、得られた反射エコー高さとしきい値とを比較して、欠陥の有無を判断する。このときのしきい値をろう材の厚さ基づいて定めることができる。
【0055】
なお、超音波式ろう厚測定装置1の測定対象であるろう厚は、ろう付された母材11,12間のろう材13のろう厚Tに限られない。本発明に係るろう厚測定装置および方法によれば、はんだ付された母材間のろう材(はんだ)の厚さを測定することもできる。さらに、本発明に係るろう厚測定装置および方法によれば、母材間に水などの媒体で満たされた微小間隙がある場合に、この微小間隙の大きさを測定することもできる。