特許第5649451号(P5649451)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5649451トレハロースを含む安定化第IX因子製剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5649451
(24)【登録日】2014年11月21日
(45)【発行日】2015年1月7日
(54)【発明の名称】トレハロースを含む安定化第IX因子製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/43 20060101AFI20141211BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20141211BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20141211BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20141211BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20141211BHJP
   A61K 47/34 20060101ALI20141211BHJP
   A61K 9/19 20060101ALI20141211BHJP
   A61P 7/04 20060101ALI20141211BHJP
【FI】
   A61K37/465
   A61K47/26
   A61K47/22
   A61K47/10
   A61K47/02
   A61K47/34
   A61K9/19
   A61P7/04
【請求項の数】9
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2010-539710(P2010-539710)
(86)(22)【出願日】2008年12月16日
(65)【公表番号】特表2011-507871(P2011-507871A)
(43)【公表日】2011年3月10日
(86)【国際出願番号】US2008087031
(87)【国際公開番号】WO2009082648
(87)【国際公開日】20090702
【審査請求日】2011年8月1日
(31)【優先権主張番号】61/016,230
(32)【優先日】2007年12月21日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】514065070
【氏名又は名称】シーエヌジェイ ホールディングス,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100100549
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 嘉之
(74)【代理人】
【識別番号】100126505
【弁理士】
【氏名又は名称】佐貫 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100131392
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 武司
(72)【発明者】
【氏名】マンカリウス,サミア
(72)【発明者】
【氏名】グリフィス,マイケル ジェイ.
【審査官】 中尾 忍
(56)【参考文献】
【文献】 特表2003−520764(JP,A)
【文献】 特表平11−503719(JP,A)
【文献】 特開平11−246593(JP,A)
【文献】 ZLB Behring,“Coagulation Factor IX (Human) Mononine- Monoclonal Antibody Purified”,Productsheet,ABO Pharmaceuticals ,2004年12月,[online],2004年12月,ZLB Behling,[検索日 2013年2月13日],インターネ ット<http://www.abopharmaceuticals.com/ProductSheets/Mononine.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/43
A61K 9/19
A61K 47/02
A61K 47/10
A61K 47/22
A61K 47/26
A61K 47/34
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第IX因子トレハロース、ヒスチジン、マンニトール、塩化ナトリウム、及びポリソルベート80を含む凍結乾燥組成物であって、トレハロースが凍結乾燥前に0.5〜3%の量で存在し、6カ月間25℃での保管後に第IX因子の凝固活性の90%超を保持する、組成物。
【請求項2】
トレハロースが凍結乾燥前に1〜2%の量で存在する、請求項に記載の組成物。
【請求項3】
凍結乾燥前に濃度5〜20mMのヒスチジンと、濃度2〜5%のマンニトールと、濃度50〜80mMの塩化ナトリウムと、濃度0.001〜0.005体積%のポリソルベート80含む、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
第IX因子を含む溶液をトレハロース、ヒスチジン、マンニトール、塩化ナトリウム、及びポリソルベート80と混合して、凍結保護溶液を得る工程と、
該凍結保護溶液をフリーズドライして、第IX因子の安定的な乾燥組成物を得る工程と、を含む、第IX因子の安定的な乾燥組成物の調製法であって、
トレハロースが凍結保護溶液中0.5〜3%の量で存在し、
第IX因子の該乾燥組成物が、6カ月間25℃で保管したときに90%超の凝固活性を保っている、方法。
【請求項5】
トレハロースが凍結保護溶液中1〜2%の量で存在する、請求項に記載の方法。
【請求項6】
前記溶液が、濃度5〜20mMのヒスチジンと、濃度2〜5%のマンニトールと、濃度50〜80mMの塩化ナトリウムと、濃度0.001〜0.005体積%のポリソルベート80含む、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
前記フリーズドライ工程が1回のアニール段階を含む、請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
第IX因子トレハロース、ヒスチジン、マンニトール、塩化ナトリウム、及びポリソルベート80を含む医薬製剤を凍結乾燥する方法であって、
(a)第IX因子トレハロース、ヒスチジン、マンニトール、塩化ナトリウム、及びポリソルベート80を含む医薬製剤を−40℃以下の温度で凍結するステップと、
(b)該医薬製剤を約−20℃〜−35℃でアニールするステップと、
(c)該医薬製剤の温度を−40℃以下まで低下させるステップと、
(d)該医薬製剤を第1の乾燥段階において5℃〜20℃にて減圧下で乾燥するステップと、
(e)該医薬製剤を第2の乾燥段階において45℃〜55℃にて減圧下で乾燥するステップと、
を含み、トレハロースが凍結乾燥前に医薬製剤中0.5〜3%の量で存在する、方法。
【請求項9】
前記医薬製剤が、凍結乾燥前に濃度5〜20mMのヒスチジンと、濃度2〜5%のマンニトールと、濃度50〜80mMの塩化ナトリウムと、濃度0.001〜0.005体積%のポリソルベート80含む、請求項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本出願は、2007年12月21日に提出した米国仮出願第61/016,230号に基づく優先権を主張するものであり、該仮出願は、参照により本明細書に取り込まれる。
【0002】
(共同研究契約の当事者)
本成果は、インスピレーション・バイオファーマシューティカルズ社とアイコス社との間の研究契約の結果、生まれたものである。
【背景技術】
【0003】
本発明の実施形態は、凍結乾燥及び保管中におけるタンパクの構造と活性の安定化、特に第IX因子のような血液凝固因子の安定化に関する。
【0004】
(関連技術の説明)
第IX因子は、凝固経路に関与する一本鎖糖タンパクである。第IX因子は、Ca2+の結合を担うGlaドメインに加えて、アミノ末端シグナルペプチドとプレプロリーダー配列(双方とも循環血液中への分泌前に切断される)を含む複雑な構造の分子である。このタンパクにカルシウムが結合して、このタンパクのコンフォメーション変化(凝固活性に必須である)を誘発することによって、カルシウム結合は第IX因子の機能において重要な役割を果たす。カルシウムの結合の結果、それまで埋もれていた疎水性結合部分が露出し、この結合部分が、効率的な凝固のためにリン脂質への結合を促す。活性タンパクを産生するためには、第IX因子のカルシウム結合特性の維持が欠かせない。一本鎖の第IX因子は、活性化ペプチドが切断されると、鎖間のジスルフィド結合によってつながっている二本鎖の糖タンパクである活性化酵素、第IXa因子になる。加えて、この分子は複数のN及びO結合型糖鎖結合部位を含む。第IX因子の欠損は血友病Bを引き起こすが、現在、血友病Bには、第IX因子の組換え型であるベネフィックス(登録商標)、及びヒト血漿由来のモノニン(Mononine)(登録商標)を含め、いくつかの治療法がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
モノニン(Mononine)(登録商標)製剤は、ヒスチジン、マンニトール、塩化ナトリウム、及びポリソルベート80からなる。これらの大部分は、凍結中に共晶転移(結晶化事象)を示すことで知られている賦形剤である。しかし、モノニン(Mononine)(登録商標)製剤は凍結保護剤又は安定化剤を含まず、緩衝剤、充填剤、等張化剤、及び界面活性剤のみを含む。その結果、凍結、凍結乾燥、及び続いて行われる保管の間、このタンパクは比較的、氷、水、及び空気への暴露による変性作用から物理的に保護されない。本発明で取り組んだ技術的課題は、凍結、凍結乾燥、及び保管中における安定性が向上した改良型第IX因子製剤である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、凍結、凍結乾燥、及び保管中に第IX因子組成物にトレハロースを含めると、第IX因子のカルシウム結合能が安定化し、精製タンパクの生物活性が維持されることを発見した。
【0007】
本発明の実施形態は、第IX因子とトレハロースとを含む凍結乾燥組成物に関する。トレハロースは、凍結乾燥、及び25℃における6カ月間の保管時に第IX因子のカルシウム結合特性の90%超を保持するのに十分な量で存在するのが好ましい。
【0008】
トレハロースは0.5〜3体積%の量で存在するのが好ましい。トレハロースは1〜2体積%の量で存在するのが更に好ましい。
【0009】
いくつかの好ましい実施形態では、前記組成物は緩衝剤としてヒスチジンを含む。いくつかの好ましい実施形態では、前記組成物はマンニトールを含む。いくつかの好ましい実施形態では、前記組成物は塩化ナトリウムを含む。いくつかの好ましい実施形態では、前記組成物はポリソルベート80を含む。
【0010】
最も好ましい実施形態では、前記組成物は第IX因子とトレハロースとを含み、更に、濃度5〜20mMのヒスチジンと、濃度2〜5体積%のマンニトールと、濃度50〜80mMの塩化ナトリウムと、濃度0.001〜0.005体積%のポリソルベート80とを含む。
【0011】
本発明の実施形態は、第IX因子とトレハロースとを含む溶液を混合して凍結保護溶液を得て、その凍結保護溶液をフリーズドライして第IX因子の安定的な乾燥組成物を得ることによって、第IX因子の安定的な乾燥組成物を調製する方法に関する。第IX因子の乾燥組成物は、6カ月間25℃で保管したときに90%超のカルシウム結合活性を保っているのが好ましい。
【0012】
トレハロースは0.5〜3体積%の量で存在するのが好ましい。トレハロースは1〜2体積%の量で存在するのが更に好ましい。
【0013】
いくつかの実施形態では、前記溶液は緩衝剤としてヒスチジンを含む。いくつかの好ましい実施形態では、前記溶液はマンニトールを含む。いくつかの好ましい実施形態では、前記溶液は塩化ナトリウムを含む。いくつかの好ましい実施形態では、前記溶液はポリソルベート80を含む。
【0014】
最も好ましい実施形態では、前記溶液は第IX因子とトレハロースとを含み、更に、濃度5〜20mMのヒスチジンと、濃度2〜5体積%のマンニトールと、濃度50〜80mMの塩化ナトリウムと、濃度0.001〜0.005体積%のポリソルベート80とを含む。
【0015】
前記フリーズドライ工程は、1回のアニール段階を含むのが好ましい。
【0016】
本発明の実施形態は、下記のステップの1つ以上を含む方法によって、第IX因子とトレハロースとを含む医薬製剤を凍結乾燥する方法に関する。
(a)第IX因子とトレハロースとを含む医薬製剤を−40℃以下の温度で凍結するステップ
(b)前記医薬製剤を約−20℃〜−35℃の温度でアニールするステップ
(c)前記医薬製剤の温度を−40℃以下まで低下させるステップ
(d)第1の乾燥段階で、5℃〜20℃にて減圧下で前記医薬製剤を乾燥するステップ
(e)第2の乾燥段階で、45℃〜55℃にて減圧下で前記医薬製剤を乾燥するステップ
【0017】
前記医薬製剤は、濃度5〜20mMのヒスチジンと、濃度2〜5体積%のマンニトールと、濃度50〜80mMの塩化ナトリウムと、濃度0.001〜0.005体積%のポリソルベート80も含むのが好ましい。
【0018】
本発明の更なる態様、特徴、及び利点は、後掲の発明を実施するための形態から明らかになるであろう。
【0019】
本発明の上記及びその他の特徴について、好ましい実施形態の図面を参照しながら説明していくが、好ましい実施形態は、本発明を例示するためのものであり、本発明を限定するためのものではない。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、40℃/75%RHにおける第IX因子の安定性を示している。「■」は、10mMのヒスチジン、3%のマンニトール、66mMのNaCl、0.0075%のポリソルベート80(pH6.8)中の0.4mg/mlの第IX因子タンパク(R1)を表している。「●」は、10mMのヒスチジン、3%のマンニトール、66mMのNaCl、0.0075%のポリソルベート80(pH6.8)中の0.4mg/mlの第IX因子タンパクに1%のトレハロースを添加したもの(R2)を表している。
図2図2は、12週間保管後の第IX因子組成物のSE−HPLC溶出プロファイルを示している。図2Aは、10mMのヒスチジン、3%のマンニトール、66mMのNaCl、及び0.0075%のポリソルベート80(pH6.8)中の0.4mg/mlの第IX因子タンパク(R1)を示している。図2Bは、10mMのヒスチジン、3%のマンニトール、66mMのNaCl、0.0075%のポリソルベート80(pH6.8)中の0.4mg/mlの第IX因子タンパクに1%のトレハロースを添加したもの(R2)を示している。
図3図3は、12週間保管後の第IX因子のSE−HPLC(カルシウム)溶出プロファイルを示している。図3Aは、10mMのヒスチジン、3%のマンニトール、66mMのNaCl、及び0.0075%のポリソルベート80(pH6.8)中の0.4mg/mlの第IX因子タンパク(R1)を示している。図3Bは、10mMのヒスチジン、3%のマンニトール、66mMのNaCl、0.0075%のポリソルベート80(pH6.8)中の0.4mg/mlの第IX因子タンパクに1%のトレハロースを添加したもの(R2)を示している。
図4図4は、40℃/75%RHにおける第IX因子のカルシウム結合の安定性を示している。「■」は、10mMのヒスチジン、3%のマンニトール、66mMのNaCl、0.0075%のポリソルベート80(pH6.8)中の0.4mg/mlの第IX因子タンパク(R1)を表している。「●」は、10mMのヒスチジン、3%のマンニトール、66mMのNaCl、0.0075%のポリソルベート80(pH6.8)中の0.4mg/mlの第IX因子タンパクに1%のトレハロースを添加したもの(R2)を表している。
図5図5は、12週間保管後の第IX因子製剤の非還元条件下(A)及び還元条件下(B)でのSDS−PAGE解析を示している。パネルAのレーン1はブランク、レーン2はマーカー、レーン3は第IX因子の標準試料(モノニン(Mononine)(登録商標))、レーン4は0.4mg/ml、R1、凍結乾燥、−20℃、レーン5は0.4mg/ml、R2、凍結乾燥、−20℃、レーン6は0.4mg/ml、R1、凍結乾燥、2〜8℃、レーン7は0.4mg/ml、R2、凍結乾燥、2〜8℃、レーン8は0.4mg/ml、R1、凍結乾燥、25℃、レーン9は0.4mg/ml、R2、凍結乾燥、25℃、レーン10は0.4mg/ml、R1、凍結乾燥、40℃、レーン11は0.4mg/ml、R2、凍結乾燥、40℃、レーン12はマーカーである。パネルBでは、レーン1及び2はマーカー、レーン3は第IX因子の標準試料(モノニン(Mononine)(登録商標))、レーン4は0.4mg/ml、R1、凍結乾燥、−20℃、レーン5は0.4mg/ml、R2、凍結乾燥、−20℃、レーン6は0.4mg/ml、R1、凍結乾燥、2〜8℃、レーン7は0.4mg/ml、R2、凍結乾燥、2〜8℃、レーン8は0.4mg/ml、R1、凍結乾燥、25℃、レーン9は0.4mg/ml、R2、凍結乾燥、25℃、レーン10は0.4mg/ml、R1、凍結乾燥、40℃、レーン11は0.4mg/ml、R2、凍結乾燥、40℃、レーン12はマーカーである。
図6図6は、12週間保存後の第IX因子組成物の陰イオン交換HPLC溶出プロファイルを示している。図6Aは、10mMのヒスチジン、3%のマンニトール、66mMのNaCl、0.0075%のポリソルベート80(pH6.8)中の0.4mg/mlの第IX因子タンパク(R1)を示している。図6Bは、10mMのヒスチジン、3%のマンニトール、66mMのNaCl、0.0075%のポリソルベート80(pH6.8)中の0.4mg/mlの第IX因子タンパクに1%のトレハロースを添加したもの(R2)を示している。
【発明を実施するための形態】
【0021】
記載されている実施形態は本発明の好ましい実施形態を表しているが、当業者であれば、本発明の趣旨から逸脱することなく、その修正形態を考え付くと理解されるべきである。したがって、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ定められるものとする。
【0022】
本発明の実施形態は、トレハロースの存在下で第IX因子を凍結乾燥する方法と、トレハロースを含む第IX因子製剤とに関する。凍結乾燥プロセス中に結晶化しない凍結保護剤であるトレハロースを添加した場合と添加しなかった場合の第IX因子製剤を評価した。トレハロースは、低温まで凍結するとガラス転移を起こす濃縮物として存続する。したがってタンパクは、トレハロースの存在下で保持され、混合したアモルファス状態で保たれ、凍結及びフリーズドライによって安定化する。トレハロースは安定性を向上させると共に、保管されている第IX因子タンパクの凝集を防いだ。トレハロースを前記製剤に含めたところ、第IX因子活性に必要なカルシウム誘発性のコンフォメーション変化の保持度が有意に向上したことも驚くべきことに明らかになった。カルシウム結合能の見かけ上の喪失は、効力の喪失と相関していた。このカルシウム結合能と効力の喪失は、トレハロースを含む製剤では大きく抑えられた。
【0023】
好ましい実施形態では、第IX因子組成物中にトレハロースを含めることによって、凍結、凍結乾燥、及び保管中に第IX因子のカルシウム結合能の少なくとも50%、より好ましくは少なくとも70%、更に好ましくは少なくとも80%、更に好ましくは少なくとも90%が保持される。トレハロースは、凍結、凍結乾燥、及び25℃で少なくとも3カ月、より好ましくは25℃で少なくとも6カ月、更に好ましくは25℃で少なくとも1年間保管中に第IX因子のカルシウム結合特性の90%超を保持するのに十分な量で存在するのが好ましい。
【0024】
製剤成分
好ましい実施形態では、本発明の第IX因子組成物は緩衝剤、充填剤、等張化剤、界面活性剤、及び凍結保護剤/安定化剤を含む。いくつかの実施形態では、その他の賦形剤も含めてよい。これらの組成物は、凍結乾燥調製物中の第IX因子、更には液体状態の第IX因子の安定性を最大化する。
【0025】
好ましい実施形態では、緩衝剤が前記組成物中に含まれている。そのpHは、凍結乾燥及び保管中に好ましくは6〜8の範囲、より好ましくはpH約6.8に保たなければならない。緩衝剤は、ヒスチジン、トリス−(ヒドロキシメチル)−アミノメタン(トリス)、1,3−ビス−[トリス−(ヒドロキシ−メチル)メチルアミノ]−プロパン(ビス−トリスプロパン)、ピペラジン−N,N’−ビス−(2−エタンスルホン酸)(PIPES)、3−(N−モルホリノ)プロパンスルホン酸(MOPS)、N−2−ヒドロキシエチル−ピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸(HEPES)、2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)、及びN−2−アセトアミド−2−アミノエタンスルホン酸(ACES)を含め、緩衝剤として働く力を有するいずれかの生理学的に許容可能な化学物質、又は化学物質の組み合わせであってもよい。典型的には、緩衝剤は5〜20mMの濃度で含める。最も好ましい実施形態では、緩衝剤は濃度約10mMのヒスチジンである。
【0026】
充填剤は、医薬調製物を凍結乾燥後、医薬調製物の「ケーク」、すなわち残渣固形塊に構造をもたらす化学物質であり、医薬調製物を崩壊から守る。本発明の製剤で用いられる充填剤は、マンニトール、グリシン、及びアラニンを含むがこれらに限定されない群から選択する。マンニトール、グリシン、又はアラニンは、1〜10%、好ましくは2〜5%、より好ましくは約3%の量で存在する。
【0027】
本発明の製剤には、塩化ナトリウムを30〜100mM、好ましくは50〜80mM、最も好ましくは約66mMの量で含める。
【0028】
好ましい実施形態では、第IX因子組成物は界面活性剤を好ましくは0.1%以下の量で、より好ましくは0.001〜0.005%の量で含む。界面活性剤は例えば、ポリソルベート20、ポリソルベート80、プルロニックポリオル、及びBRIJ35(ポリオキシエチレン23ラウリルエーテル)を含むがこれらに限定されない群から選択できる。いくつかのグレードのプルロニックポリオル(プルロニックという商品名で販売されている。BASFワイアンドット社製)が入手可能である。様々な分子量(1,000〜16,000超)と様々な物理化学的特性を持つこれらのポリオルは、界面活性剤として用いられてきている。分子量5,000のプルロニックF−38と分子量9,000のプルロニックF−68はいずれも、(重量比で)疎水性ポリオキシエチレン基を80パーセント、疎水性ポリオキシプロピレン基を20パーセント含む。好ましい実施形態では、ポリソルベート80を約0.0075%の濃度で含む。
【0029】
本発明の製剤では、安定化剤を用いるのが好ましい。安定化剤は、スクロース、トレハロース、ラフィノース、及びアルギニンを含むがこれらに限定されない群から選択する。これらの安定化剤は本発明の製剤中に、0.5〜3%、好ましくは1〜2%、より好ましくは約1%の量で存在する。非常に好ましい実施形態では、本組成物中にトレハロースを1%の濃度で含める。
【0030】
好ましい実施形態では、本発明の組成物で用いられる第IX因子は、高純度のヒト血漿由来第IX因子であるか、より好ましくは、組換え技術によって作られた第IX因子であるか、のいずれかであってよい。組換え第IX因子は、第IX因子分子をコードするDNA配列を有するベクターでトランスフェクションしたチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞によって製造することができる。このようなトランスフェクションCHO細胞を作製する方法はとりわけ、Toole, Jr.の米国特許第4,757,006号に記載されているが、当業界では代替的な方法も知られている(例えば、上記と同様にToole, Jr.の米国特許第4,868,112号、及び国際公開第A−91/09122号を参照のこと)。
【0031】
本願に記載されている第IX因子組成物は、示されている濃度で凍結乾燥及び再構成することができるが、これらの調製物は、更に希釈した状態でも再構成できることを当業者は理解するであろう。例えば、凍結乾燥及び/又は一般には2mlの溶液中で再構成される本発明による調製物は、5mlのような更に大きい体積の希釈剤中で再構成させることもできる。これは、第IX因子調製物を患者に直接注入するときに特に適している。このケースでは、第IX因子が活性を失う可能性が低いからであり、この活性の喪失は、第IX因子溶液が薄いほど急速に起こり得る。
【実施例】
【0032】
ヒト第IX因子をコードするcDNAでトランスフェクションしたチャイニーズハムスター卵巣細胞中で、組換え第IX因子を調製した。宿主細胞タンパク及びDNAを含む培地成分から所望の産物を分離するための陰イオン交換クロマトグラフィー及び陽イオン交換クロマトグラフィーを含むプロセスを用いて、馴化培地から第IX因子を精製した。
【0033】
当業界において既知の手段によって凍結乾燥を行った。凍結乾燥に関する情報は、Carpenter, J. F. and Chang, B. S., Lyophilization of Protein Pharmaceuticals, Biotechnology and Biopharmaceutical Manufacturing, Processing and Preservation, K. E. Avis and V. L. Wu, eds. (Buffalo Grove, Ill.: Interpharm Press, Inc.), pp. 199-264 (1996)に見出すことができる。本発明の文脈においては、「フリーズドライ」及び「凍結乾燥」という用語は、アニール段階及び乾燥段階を含め、試料を濃縮する段階の全てを包含するために同義的に用いられる。好ましい実施形態では、凍結乾燥は1〜3回のアニール段階を含む。好ましい実施形態では、凍結乾燥は1回のアニール段階と共に行う。「アニール」という用語は、凍結乾燥を経る医薬調製物の凍結乾燥プロセスにおいて、調整物をフリーズドライする前に、調整物の温度を低温から高温に上昇させてから、ある期間経過後に再び冷却する段階を示す。乾燥段階は減圧下で、典型的には50〜300マイクロバールの範囲で行う。
【0034】
代表的なプロトコールを下記の表1に示す。
【0035】
【表1】
【0036】
一段階式第IX因子凝固アッセイによって活性を割り出した。一段階式アッセイは当業界において既知である。本発明で用いたアッセイは、第IX因子活性の基準としてUniversal Coagulation Reference Plasma(UCRP)を、較正基準と未知の試料との希釈用に第IX因子欠損血漿を利用するものである。このアッセイは、血漿を活性化剤及び塩化カルシウムと混合して凝固カスケードを開始させ、フィブリン塊の形成をマイクロプレートリーダーでの吸光度によって測定する。このアッセイで測定される凝固時間は、aPTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)、すなわち、吸光度が所定の閾値を超えるのに要する時間である。第IX因子活性の正確な判定は、同時にアッセイされる、未知の試料の信号と第IX因子の標準試料(UCRP)とを比較することによって実現される。示されている全てのデータは、各温度、各タイムポイントにつき1本のバイアルから得たものであることに留意されたい。
【0037】
実施例1
トレハロースを含む安定化製剤中の第IX因子では、25℃及び40℃での保管中における安定性が向上する。
【0038】
下記の表2に示されている2つの候補製剤のそれぞれにおいて、第IX因子を凍結乾燥した。いずれの製剤も、10mMのヒスチジン、3%のマンニトール、66mMのNaCl、0.0075%のポリソルベート80(pH6.8)を含んでいた。一方の製剤(R2)は、トレハロース(1%)を更に含んでいた。これらの製剤を26週間にわたって、−20℃及び2〜8℃のリアルタイムの保管条件、並びに、25℃/60%RH及び40℃/75%RHの条件で評価した。サイズ排除(SE)−HPLC、イオン交換(IE)−HPLC、逆相(RP)−HPLC、SDS−PAGE、タンパク濃度、濁度、pH、外観(ケーク及び再構成液)残留湿気、及び活性を含む一連の解析方法による調査全体を通じて、0.4mg/mLの第IX因子を評価した。製剤の構成は、10mLのガラスバイアルにおいて5mLであった。
【0039】
各保管条件における測定値を、−20℃で保管した調合産物(定義上、100%を示すものとして定めた)に関して得られた測定値で除すことによって、各タイムポイントで得られたアッセイ結果を正規化した。このアプローチは、調査期間中に研究所でのアッセイのばらつきを最小限に抑えるために採用した。
【0040】
【表2】
【0041】
【表3】
【0042】
表3に示されている結果によって示されているように、トレハロース(1%)を添加したところ、40℃/75%RHでの保管中における凍結乾燥第IX因子の安定性が劇的に向上した。トレハロースを含まない製剤の比活性、すなわち再構成薬品中のタンパクの第IX因子活性ユニット/mgは、40℃/75%RHで12週間保管中に約15%に低下したが、トレハロースと共に調合した第IX因子の比活性は、わずかしか低下しなかった。
【0043】
図1に示されているように、12週間の期間にわたる比活性の減衰速度の解析によって、トレハロースが40℃/75%RHにおいて減衰速度をほぼ20倍(−0.0096wk-1対−0.187wk-1)低下させることが示唆されている。
【0044】
室温条件下(名目的には25℃/60%)で保管した凍結乾燥第IX因子の安定性に対するトレハロースの保護作用も注目に値する。トレハロースの見かけ上の作用は、比活性の減衰速度を0.0196wk-1から0.0039wk-1まで約5倍低下させることである(表3)。トレハロースと共に調合された第IX因子の見かけ上の減衰速度によって、凍結乾燥産物が、室温で最大26週間(6カ月間)保管したときに安定していることが示されている。比活性の測定値、計算値のいずれも、トレハロースを調合した第IX因子が26週間目に約90%の活性を保つことができることの裏付けを与えている(表3)。
【0045】
実施例2
サイズ排除HPLC(SE―HPLC)によって示されているように、トレハロースを含む第IX因子製剤の方が、凍結乾燥産物の保管中における凝集度が低い。
【0046】
サイズ排除クロマトグラフィー(SE−HPLC)によって検出される高分子量の凝集体の形成は、第IX因子調製物の見かけ上の純度と比活性を低下させる。トレハロース(1%)をR1製剤の緩衝液に添加すると、凍結乾燥産物の保管中における第IX因子の凝集が実質的に回避されるようである。R1及びR2調合産物の12週間保管後のSE−HPLC溶出プロファイルが図2に示されている。
【0047】
第IX因子のサイズ排除は、Agilent 1100 series HPLCにおいてTosoh G3000SWxlカラム(7.8mm×30cm、5μm、250Å)を用いて行った。この定組成法では、移動相として50mMのトリス、200mMのNaCl(pH7.5)を用いた。
【0048】
実施例3
カルシウム存在下におけるサイズ排除HPLCによって、トレハロースと共に保管した第IX因子が、カルシウム誘発性のコンフォメーション変化を起こす力を維持することが示されている。
【0049】
カルシウムイオンは、第IX因子タンパクに結合して、このタンパクのコンフォメーション変化(凝固活性に必須である)を誘発することによって、第IX因子の機能において重要な役割を果たす。溶液中のタンパクの流体力学的体積を減少させるカルシウム誘発性のコンフォメーション変化は、SE−HPLCのような方法によって、見かけ上の分子量の低下として検出することができる。
【0050】
第IX因子活性を直接測定したときに観察されたように(表3)、トレハロース(1%)を製剤緩衝液に添加すると、第IX因子の機能、このケースでは、カルシウムと結合してカルシウム誘発性のコンフォメーション変化を起こす力を保持するという点で、保管中における凍結乾燥第IX因子の安定性が劇的に向上する。トレハロース存在下(R2)及びトレハロース非存在下(R1)の第IX因子組成物の12週間保管後の、カルシウム存在下におけるSE−HPLC溶出プロファイルが図3に示されている。調合薬品R1(トレハロースを含まない)中における機能的な第IX因子のパーセンテージは、40℃/75%RHでの12週間の保管中に約31%まで低下したが、調合薬品R2(トレハロースを含む)中における機能的な第IX因子のパーセンテージは、低温(−20℃、2〜8℃)で保管した第IX因子よりもわずかに低いだけであった。
【0051】
図4に示されているように、12週間の期間にわたる機能(カルシウム誘発性のコンフォメーション変化)の減衰速度の解析によって、トレハロースが40℃/75%RHで減衰速度を約19倍(−0.0046wk-1対−0.0853wk-1)低下させることが示唆されており、これは、効力の減衰速度が約20倍低下した(図1)のとよく似ている。
【0052】
実施例4
トレハロースと共に調合した第IX因子は、高分子量の混入物質によるコンタミが少ない。
【0053】
SDS−PAGEを行って、様々な条件下で12週間保管後の凍結乾燥第IX因子の純度を直接視覚的に比較した。図5のパネルAに示されているように、全ての試料において、微量の高分子量混入物質が存在するようであるが、その量は、高い温度で保管されていた第IX因子ほど漸進的に大きくなっている。これは、非還元下のSDS−PAGEゲルのレーン8及び10で最もよく見られる(レーン8には、25℃/60%RHで保管した調合第IX因子R1(トレハロースを含まない)、レーン10には、40℃/75%RHで保管した調合第IX因子R1から取った試料が示されている)。調合第IX因子R2(トレハロースを含む)から取った対応する試料(レーン9及び11に示されている)は、2〜8℃又は−20℃で保管した調合第IX因子R1又はR2のいずれかの試料(レーン4〜7)と比べて、高分子量混入物質量の増加の兆候をほとんど示していない。
【0054】
本調査で使用した第IX因子の調製物中では、低級化形状の第IX因子が検出可能であったが、その量は、いずれの実験条件下でも保管時間と共には増えなかったようであった。第IX−ガンマ因子(第IXγ因子)は、第IX因子の面取りされた低分子量形状であり、Arg318〜Ser319のペプチド結合又はその近辺で元のタンパクがタンパク分解によって切断されて、この分子のカルボキシ末端領域から10kDaのペプチドが解放されるときに形成される。第IX因子製剤中に存在する第IXγ因子は、非還元下のSDS−PAGEゲル(パネルA)で、見かけ上の分子量約45kDaで移動する小さいバンドとして見ることができる。図5のパネルAに示されているゲルの目視検査によって、本調査の期間にわたって保管中において、第IX因子の第IXγ因子への有意なタンパク分解が起こらなかったことが示唆されている。
【0055】
実施例5
イオン交換クロマトグラフィーによって、トレハロースが第IX因子組成物を安定化させたことが示されている。
【0056】
イオン交換クロマトグラフィーは、電荷及び/又は電荷分布の異なるタンパクのアイソフォームを部分的に分離する潜在力を有する。GE Healthcare Tricorn MonoQ 5/50GLカラム(5×50mm、10μm)を用いて第IX因子の陰イオン交換クロマトグラフィーを行った。この二元勾配法では、移動相Aとして50mMのトリス(pH7.5)を、移動相Bとして50mMのトリス、1MのNaCl(pH7.5)を用いた。
【0057】
本調査で行ったような陰イオン交換クロマトグラフィーによって、調合第IX因子R1(トレハロースなし)は、40℃/75%RHでは保管時間にわたって広くなっている単一の左右対称なピークとして溶出されたが、調合第IX因子R2(トレハロースを含む)の溶出は、この点については、実質的に不変のようであった。これらの結果は図6に示されている。
【0058】
結論
2〜8℃において少なくとも2年間、高純度の凍結乾燥第IX因子を安定化させることで知られる製剤にトレハロース(1%)を添加することによって、タンパクの構造と機能を維持するという点で更に優れた製剤が得られる。トレハロースを含まない第IX因子組成物(R1)は、室温(25℃/60%RH)において約1カ月間安定したようであった。トレハロース存在下(R2)では、第IX因子薬品は、約6カ月間安定していた(≧90%に維持された活性に基づく)。
【0059】
ヒスチジン、マンニトール、塩化ナトリウム、及びポリソルベート80を含む凍結乾燥製剤中に、トレハロースを含む第IX因子とトレハロースを含まない第IX因子を調合すると、おそらく乾燥された二糖のアモルファス特性によって生じる凍結保護効果が原因で、トレハロースを含む製剤の方が、25℃及び40℃で保管中に優れた安定性プロファイルを示す。
【0060】
トレハロースを含む第IX因子製剤は、冷蔵温度で保管した第IX因子の安定性データに匹敵する安定性データを示した。このデータは、トレハロースを含む製剤中の第IX因子薬品を室温で数週間、潜在的には更に長い期間にわたって、温度変化に暴露できる可能性を裏付けている。
【0061】
トレハロースを含まない製剤中の第IX因子を40℃/75%RHで保管したところ、以下の現象を招いた。
−高分子量化学種の増大(SE−HPLCによって同定)
−12週間にわたって活性が低下する傾向(一段階式凝固アッセイによって測定)
−IE−HPLCクロマトグラフプロファイルの有意な拡大
【0062】
また、トレハロースを含まない製剤中の第IX因子を25℃/60%RHで保管したところ、程度は小さかったものの、上記のように低級化した。
【0063】
ケーク形態、濃度、再構成産物の濁度、又はRP−HPLCに関しては、製剤間で有意な差は観察されなかった。
【0064】
冷蔵及び冷凍温度における第IX因子の26週間での安定性は、双方の製剤において同様であった。
【0065】
残渣水分レベルと再構成時間はそれぞれ、トレハロースを含む製剤の方が、トレハロースを含まない製剤よりもわずかに高かった。
【0066】
当業者であれば、本発明の趣旨から逸脱することなく、数多くの様々な修正を行えることを理解するであろう。したがって、本発明の形態は説明のためのものに過ぎず、本発明の範囲を限定する意図はないことを明確に理解すべきである。
図1
図2
図3
図4
図6
図5