【実施例】
【0032】
ヒト第IX因子をコードするcDNAでトランスフェクションしたチャイニーズハムスター卵巣細胞中で、組換え第IX因子を調製した。宿主細胞タンパク及びDNAを含む培地成分から所望の産物を分離するための陰イオン交換クロマトグラフィー及び陽イオン交換クロマトグラフィーを含むプロセスを用いて、馴化培地から第IX因子を精製した。
【0033】
当業界において既知の手段によって凍結乾燥を行った。凍結乾燥に関する情報は、Carpenter, J. F. and Chang, B. S., Lyophilization of Protein Pharmaceuticals, Biotechnology and Biopharmaceutical Manufacturing, Processing and Preservation, K. E. Avis and V. L. Wu, eds. (Buffalo Grove, Ill.: Interpharm Press, Inc.), pp. 199-264 (1996)に見出すことができる。本発明の文脈においては、「フリーズドライ」及び「凍結乾燥」という用語は、アニール段階及び乾燥段階を含め、試料を濃縮する段階の全てを包含するために同義的に用いられる。好ましい実施形態では、凍結乾燥は1〜3回のアニール段階を含む。好ましい実施形態では、凍結乾燥は1回のアニール段階と共に行う。「アニール」という用語は、凍結乾燥を経る医薬調製物の凍結乾燥プロセスにおいて、調整物をフリーズドライする前に、調整物の温度を低温から高温に上昇させてから、ある期間経過後に再び冷却する段階を示す。乾燥段階は減圧下で、典型的には50〜300マイクロバールの範囲で行う。
【0034】
代表的なプロトコールを下記の表1に示す。
【0035】
【表1】
【0036】
一段階式第IX因子凝固アッセイによって活性を割り出した。一段階式アッセイは当業界において既知である。本発明で用いたアッセイは、第IX因子活性の基準としてUniversal Coagulation Reference Plasma(UCRP)を、較正基準と未知の試料との希釈用に第IX因子欠損血漿を利用するものである。このアッセイは、血漿を活性化剤及び塩化カルシウムと混合して凝固カスケードを開始させ、フィブリン塊の形成をマイクロプレートリーダーでの吸光度によって測定する。このアッセイで測定される凝固時間は、aPTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)、すなわち、吸光度が所定の閾値を超えるのに要する時間である。第IX因子活性の正確な判定は、同時にアッセイされる、未知の試料の信号と第IX因子の標準試料(UCRP)とを比較することによって実現される。示されている全てのデータは、各温度、各タイムポイントにつき1本のバイアルから得たものであることに留意されたい。
【0037】
実施例1
トレハロースを含む安定化製剤中の第IX因子では、25℃及び40℃での保管中における安定性が向上する。
【0038】
下記の表2に示されている2つの候補製剤のそれぞれにおいて、第IX因子を凍結乾燥した。いずれの製剤も、10mMのヒスチジン、3%のマンニトール、66mMのNaCl、0.0075%のポリソルベート80(pH6.8)を含んでいた。一方の製剤(R2)は、トレハロース(1%)を更に含んでいた。これらの製剤を26週間にわたって、−20℃及び2〜8℃のリアルタイムの保管条件、並びに、25℃/60%RH及び40℃/75%RHの条件で評価した。サイズ排除(SE)−HPLC、イオン交換(IE)−HPLC、逆相(RP)−HPLC、SDS−PAGE、タンパク濃度、濁度、pH、外観(ケーク及び再構成液)残留湿気、及び活性を含む一連の解析方法による調査全体を通じて、0.4mg/mLの第IX因子を評価した。製剤の構成は、10mLのガラスバイアルにおいて5mLであった。
【0039】
各保管条件における測定値を、−20℃で保管した調合産物(定義上、100%を示すものとして定めた)に関して得られた測定値で除すことによって、各タイムポイントで得られたアッセイ結果を正規化した。このアプローチは、調査期間中に研究所でのアッセイのばらつきを最小限に抑えるために採用した。
【0040】
【表2】
【0041】
【表3】
【0042】
表3に示されている結果によって示されているように、トレハロース(1%)を添加したところ、40℃/75%RHでの保管中における凍結乾燥第IX因子の安定性が劇的に向上した。トレハロースを含まない製剤の比活性、すなわち再構成薬品中のタンパクの第IX因子活性ユニット/mgは、40℃/75%RHで12週間保管中に約15%に低下したが、トレハロースと共に調合した第IX因子の比活性は、わずかしか低下しなかった。
【0043】
図1に示されているように、12週間の期間にわたる比活性の減衰速度の解析によって、トレハロースが40℃/75%RHにおいて減衰速度をほぼ20倍(−0.0096wk
-1対−0.187wk
-1)低下させることが示唆されている。
【0044】
室温条件下(名目的には25℃/60%)で保管した凍結乾燥第IX因子の安定性に対するトレハロースの保護作用も注目に値する。トレハロースの見かけ上の作用は、比活性の減衰速度を0.0196wk
-1から0.0039wk
-1まで約5倍低下させることである(表3)。トレハロースと共に調合された第IX因子の見かけ上の減衰速度によって、凍結乾燥産物が、室温で最大26週間(6カ月間)保管したときに安定していることが示されている。比活性の測定値、計算値のいずれも、トレハロースを調合した第IX因子が26週間目に約90%の活性を保つことができることの裏付けを与えている(表3)。
【0045】
実施例2
サイズ排除HPLC(SE―HPLC)によって示されているように、トレハロースを含む第IX因子製剤の方が、凍結乾燥産物の保管中における凝集度が低い。
【0046】
サイズ排除クロマトグラフィー(SE−HPLC)によって検出される高分子量の凝集体の形成は、第IX因子調製物の見かけ上の純度と比活性を低下させる。トレハロース(1%)をR1製剤の緩衝液に添加すると、凍結乾燥産物の保管中における第IX因子の凝集が実質的に回避されるようである。R1及びR2調合産物の12週間保管後のSE−HPLC溶出プロファイルが
図2に示されている。
【0047】
第IX因子のサイズ排除は、Agilent 1100 series HPLCにおいてTosoh G3000SWxlカラム(7.8mm×30cm、5μm、250Å)を用いて行った。この定組成法では、移動相として50mMのトリス、200mMのNaCl(pH7.5)を用いた。
【0048】
実施例3
カルシウム存在下におけるサイズ排除HPLCによって、トレハロースと共に保管した第IX因子が、カルシウム誘発性のコンフォメーション変化を起こす力を維持することが示されている。
【0049】
カルシウムイオンは、第IX因子タンパクに結合して、このタンパクのコンフォメーション変化(凝固活性に必須である)を誘発することによって、第IX因子の機能において重要な役割を果たす。溶液中のタンパクの流体力学的体積を減少させるカルシウム誘発性のコンフォメーション変化は、SE−HPLCのような方法によって、見かけ上の分子量の低下として検出することができる。
【0050】
第IX因子活性を直接測定したときに観察されたように(表3)、トレハロース(1%)を製剤緩衝液に添加すると、第IX因子の機能、このケースでは、カルシウムと結合してカルシウム誘発性のコンフォメーション変化を起こす力を保持するという点で、保管中における凍結乾燥第IX因子の安定性が劇的に向上する。トレハロース存在下(R2)及びトレハロース非存在下(R1)の第IX因子組成物の12週間保管後の、カルシウム存在下におけるSE−HPLC溶出プロファイルが
図3に示されている。調合薬品R1(トレハロースを含まない)中における機能的な第IX因子のパーセンテージは、40℃/75%RHでの12週間の保管中に約31%まで低下したが、調合薬品R2(トレハロースを含む)中における機能的な第IX因子のパーセンテージは、低温(−20℃、2〜8℃)で保管した第IX因子よりもわずかに低いだけであった。
【0051】
図4に示されているように、12週間の期間にわたる機能(カルシウム誘発性のコンフォメーション変化)の減衰速度の解析によって、トレハロースが40℃/75%RHで減衰速度を約19倍(−0.0046wk
-1対−0.0853wk
-1)低下させることが示唆されており、これは、効力の減衰速度が約20倍低下した(
図1)のとよく似ている。
【0052】
実施例4
トレハロースと共に調合した第IX因子は、高分子量の混入物質によるコンタミが少ない。
【0053】
SDS−PAGEを行って、様々な条件下で12週間保管後の凍結乾燥第IX因子の純度を直接視覚的に比較した。
図5のパネルAに示されているように、全ての試料において、微量の高分子量混入物質が存在するようであるが、その量は、高い温度で保管されていた第IX因子ほど漸進的に大きくなっている。これは、非還元下のSDS−PAGEゲルのレーン8及び10で最もよく見られる(レーン8には、25℃/60%RHで保管した調合第IX因子R1(トレハロースを含まない)、レーン10には、40℃/75%RHで保管した調合第IX因子R1から取った試料が示されている)。調合第IX因子R2(トレハロースを含む)から取った対応する試料(レーン9及び11に示されている)は、2〜8℃又は−20℃で保管した調合第IX因子R1又はR2のいずれかの試料(レーン4〜7)と比べて、高分子量混入物質量の増加の兆候をほとんど示していない。
【0054】
本調査で使用した第IX因子の調製物中では、低級化形状の第IX因子が検出可能であったが、その量は、いずれの実験条件下でも保管時間と共には増えなかったようであった。第IX−ガンマ因子(第IXγ因子)は、第IX因子の面取りされた低分子量形状であり、Arg318〜Ser319のペプチド結合又はその近辺で元のタンパクがタンパク分解によって切断されて、この分子のカルボキシ末端領域から10kDaのペプチドが解放されるときに形成される。第IX因子製剤中に存在する第IXγ因子は、非還元下のSDS−PAGEゲル(パネルA)で、見かけ上の分子量約45kDaで移動する小さいバンドとして見ることができる。
図5のパネルAに示されているゲルの目視検査によって、本調査の期間にわたって保管中において、第IX因子の第IXγ因子への有意なタンパク分解が起こらなかったことが示唆されている。
【0055】
実施例5
イオン交換クロマトグラフィーによって、トレハロースが第IX因子組成物を安定化させたことが示されている。
【0056】
イオン交換クロマトグラフィーは、電荷及び/又は電荷分布の異なるタンパクのアイソフォームを部分的に分離する潜在力を有する。GE Healthcare Tricorn MonoQ 5/50GLカラム(5×50mm、10μm)を用いて第IX因子の陰イオン交換クロマトグラフィーを行った。この二元勾配法では、移動相Aとして50mMのトリス(pH7.5)を、移動相Bとして50mMのトリス、1MのNaCl(pH7.5)を用いた。
【0057】
本調査で行ったような陰イオン交換クロマトグラフィーによって、調合第IX因子R1(トレハロースなし)は、40℃/75%RHでは保管時間にわたって広くなっている単一の左右対称なピークとして溶出されたが、調合第IX因子R2(トレハロースを含む)の溶出は、この点については、実質的に不変のようであった。これらの結果は
図6に示されている。
【0058】
結論
2〜8℃において少なくとも2年間、高純度の凍結乾燥第IX因子を安定化させることで知られる製剤にトレハロース(1%)を添加することによって、タンパクの構造と機能を維持するという点で更に優れた製剤が得られる。トレハロースを含まない第IX因子組成物(R1)は、室温(25℃/60%RH)において約1カ月間安定したようであった。トレハロース存在下(R2)では、第IX因子薬品は、約6カ月間安定していた(≧90%に維持された活性に基づく)。
【0059】
ヒスチジン、マンニトール、塩化ナトリウム、及びポリソルベート80を含む凍結乾燥製剤中に、トレハロースを含む第IX因子とトレハロースを含まない第IX因子を調合すると、おそらく乾燥された二糖のアモルファス特性によって生じる凍結保護効果が原因で、トレハロースを含む製剤の方が、25℃及び40℃で保管中に優れた安定性プロファイルを示す。
【0060】
トレハロースを含む第IX因子製剤は、冷蔵温度で保管した第IX因子の安定性データに匹敵する安定性データを示した。このデータは、トレハロースを含む製剤中の第IX因子薬品を室温で数週間、潜在的には更に長い期間にわたって、温度変化に暴露できる可能性を裏付けている。
【0061】
トレハロースを含まない製剤中の第IX因子を40℃/75%RHで保管したところ、以下の現象を招いた。
−高分子量化学種の増大(SE−HPLCによって同定)
−12週間にわたって活性が低下する傾向(一段階式凝固アッセイによって測定)
−IE−HPLCクロマトグラフプロファイルの有意な拡大
【0062】
また、トレハロースを含まない製剤中の第IX因子を25℃/60%RHで保管したところ、程度は小さかったものの、上記のように低級化した。
【0063】
ケーク形態、濃度、再構成産物の濁度、又はRP−HPLCに関しては、製剤間で有意な差は観察されなかった。
【0064】
冷蔵及び冷凍温度における第IX因子の26週間での安定性は、双方の製剤において同様であった。
【0065】
残渣水分レベルと再構成時間はそれぞれ、トレハロースを含む製剤の方が、トレハロースを含まない製剤よりもわずかに高かった。
【0066】
当業者であれば、本発明の趣旨から逸脱することなく、数多くの様々な修正を行えることを理解するであろう。したがって、本発明の形態は説明のためのものに過ぎず、本発明の範囲を限定する意図はないことを明確に理解すべきである。