特許第5649453号(P5649453)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5649453NSAIDs誘発性消化管粘膜障害軽減剤及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5649453
(24)【登録日】2014年11月21日
(45)【発行日】2015年1月7日
(54)【発明の名称】NSAIDs誘発性消化管粘膜障害軽減剤及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/26 20060101AFI20141211BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20141211BHJP
   A61K 31/616 20060101ALI20141211BHJP
   A61K 31/405 20060101ALI20141211BHJP
   A61K 31/196 20060101ALI20141211BHJP
   A61K 31/192 20060101ALI20141211BHJP
   A61K 31/5415 20060101ALI20141211BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20141211BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20141211BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20141211BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20141211BHJP
   A61K 47/48 20060101ALI20141211BHJP
   C07D 209/28 20060101ALN20141211BHJP
   C07C 57/32 20060101ALN20141211BHJP
   C07C 69/157 20060101ALN20141211BHJP
   C07C 229/42 20060101ALN20141211BHJP
   C07D 279/02 20060101ALN20141211BHJP
   C07C 229/58 20060101ALN20141211BHJP
【FI】
   A61K47/26
   A61K45/00
   A61K31/616
   A61K31/405
   A61K31/196
   A61K31/192
   A61K31/5415
   A61P29/00
   A61K9/20
   A61K9/14
   A61K9/48
   A61K47/48
   !C07D209/28
   !C07C57/32
   !C07C69/157
   !C07C229/42
   !C07D279/02
   !C07C229/58
【請求項の数】16
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2010-541245(P2010-541245)
(86)(22)【出願日】2009年12月3日
(86)【国際出願番号】JP2009006603
(87)【国際公開番号】WO2010064441
(87)【国際公開日】20100610
【審査請求日】2012年11月30日
(31)【優先権主張番号】特願2008-310085(P2008-310085)
(32)【優先日】2008年12月4日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301032160
【氏名又は名称】株式会社ネクスト21
(74)【代理人】
【識別番号】100116850
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 隆行
(74)【代理人】
【識別番号】100161322
【弁理士】
【氏名又は名称】白坂 一
(74)【代理人】
【識別番号】100120570
【弁理士】
【氏名又は名称】中 敦士
(72)【発明者】
【氏名】鄭 雄一
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 伸雄
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 茂樹
【審査官】 池上 京子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−139165(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 47/00−47/48
A61K 9/00−9/72
A61K 31/00−31/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二糖類と非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を共溶解した混合溶液を乾燥、又は溶融混合して得られる分子間化合物を有効成分として含む,NSAIDsの抗炎症作用を発揮しつつ,前記NSAIDsにより誘発される消化管粘膜障害を軽減する,NSAIDs誘発性消化管粘膜障害軽減剤。
【請求項2】
前記NSAIDsは,
酸性NSAIDsである,
請求項1に記載の剤。
【請求項3】
前記NSAIDsは,
アスピリン,サリチル酸ナトリウム,サリチルアミド,サザピリン,ジフルニサル,エテンザミド,アスピリンアルミニウム,5−アミノサリチル酸,インドメタシン,エトドラク,ジクロフェナクナトリウム,スリンダク,アンフェナクナトリウム,マレイン酸プログルメタシン,アセメタシン,ナブメトン,モフェゾラク,イブプロフェン,ナプロキセン,ロキソプロフェン,フルルビプロフェン,フルルビプロフェンアキセチル,オキサプロジン,チアプロフェン酸,プラノプロフェン,アルミノプロフェン,ザルトプロフェン,メフェナム酸,トルフェナム酸,フルフェナム酸アルミニウム,ケトフェニルブタゾン,クロフェゾン,ブコローム,ピロキシカム,ロルノキシカム,テノキシカム,メロキシカム,アンピロキシカム,エピリゾール,チアラミド,及びエルモファゾンからなる群から選ばれる1又は2種以上である,
請求項1に記載の剤。
【請求項4】
前記二糖類は,トレハロース,マルトース,ラクトース及びスクロースのいずれか1種以上である,
請求項1に記載の剤。
【請求項5】
前記NSAIDs誘発性消化管粘膜障害軽減剤は,
錠剤,顆粒剤,又はカプセル剤のいずれかである,
請求項1に記載の剤。
【請求項6】
前記NSAIDsは,インドメタシンであり,
前記二糖類は,トレハロースであり,
前記分子間化合物は,
示差走査熱量測定法(DSC)による測定で得られたDSC曲線の第1のピークと第2のピークの頂点が,それぞれ80〜95℃と260〜270℃に存在する,
請求項1に記載の剤。
【請求項7】
前記NSAIDsは,イブプロフェンであり,
前記二糖類は,トレハロースであり,
前記分子間化合物は,
示差走査熱量測定法(DSC)による測定で得られたDSC曲線の第3のピークと第4のピークの頂点が,それぞれ175〜190℃と130〜145℃に存在する,
請求項1に記載の剤。
【請求項8】
前記NSAIDsは,アスピリンであり,
前記二糖類は,トレハロースであり,
前記分子間化合物は,
示差走査熱量測定法(DSC)による測定で得られたDSC曲線の第1のピークと第2のピークの頂点が,それぞれ110〜120℃と135〜145℃に存在する,
請求項1に記載の剤。
【請求項9】
前記NSAIDsは,ジクロフェナクナトリウムであり,
前記二糖類は,トレハロースであり,
前記分子間化合物は,
示差走査熱量測定法(DSC)による測定で得られたDSC曲線の第1のピークと第2のピークの頂点が,それぞれ90〜100℃と130〜145℃に存在する,
請求項1に記載の剤。
【請求項10】
前記NSAIDsは,メフェナム酸であり,
前記二糖類は,トレハロースであり,
前記分子間化合物は,
示差走査熱量測定法(DSC)による測定で得られたDSC曲線の第1のピークと第2のピークの頂点が,それぞれ225〜235℃と90〜110℃に存在し,
前記第1のピーク及び第2のピークの頂点の絶対値は,
DSCによる測定で得られた前記メフェナム酸のDSC曲線の90〜110℃及び225〜235℃に存在するピークの頂点の絶対値よりも大きい,
請求項1に記載の剤。
【請求項11】
前記NSAIDsは,ピロキシカムであり,
前記二糖類は,トレハロースであり,
前記分子間化合物は,
示差走査熱量測定法(DSC)による測定で得られたDSC曲線の第1のピークと第2のピークの頂点が,90〜105℃と195〜205℃に存在し,
前記第1のピーク及び第2のピークの頂点の絶対値は,
DSCによる測定で得られた前記ピロキシカムのDSC曲線の90〜105℃及び195〜205℃に存在するピークの頂点の絶対値よりも小さい,
請求項1に記載の剤。
【請求項12】
請求項1に記載の剤であって,
NSAIDs誘発性胃粘膜障害軽減剤として用いられる剤。
【請求項13】
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の抗炎症作用を発揮しつつ,前記NSAIDsにより誘発される消化管粘膜障害を軽減する,NSAIDs誘発性消化管粘膜障害軽減剤の製造方法であって,
二糖類及び前記NSAIDsを溶解した混合溶液をつくる混合工程と,
前記混合溶液を乾燥させる乾燥工程と,
を含む,NSAIDs誘発性消化管粘膜障害軽減剤の製造方法。
【請求項14】
前記NSAIDsは,
酸性NSAIDsである,
請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
前記NSAIDsは,
アスピリン,サリチル酸ナトリウム,サリチルアミド,サザピリン,ジフルニサル,エテンザミド,アスピリンアルミニウム,5−アミノサリチル酸,インドメタシン,エトドラク,ジクロフェナクナトリウム,スリンダク,アンフェナクナトリウム,マレイン酸プログルメタシン,アセメタシン,ナブメトン,モフェゾラク,イブプロフェン,ナプロキセン,ロキソプロフェン,フルルビプロフェン,フルルビプロフェンアキセチル,オキサプロジン,チアプロフェン酸,プラノプロフェン,アルミノプロフェン,ザルトプロフェン,メフェナム酸,トルフェナム酸,フルフェナム酸アルミニウム,ケトフェニルブタゾン,クロフェゾン,ブコローム,ピロキシカム,ロルノキシカム,テノキシカム,メロキシカム,アンピロキシカム,エピリゾール,チアラミド,及びエルモファゾンからなる群から選ばれる1又は2種以上である,
請求項13に記載の製造方法。
【請求項16】
前記二糖類は,トレハロース,マルトース,ラクトース及びスクロースのいずれか1種以上である,
請求項13に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,消化管粘膜障害を抑制するNSAIDs誘発性消化管粘膜障害軽減剤などに関する。
【背景技術】
【0002】
NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)は,鎮痛剤,解熱剤,抗炎症剤として広く用いられている。しかし,NSAIDsは好適な作用を示すものの,胃粘膜障害を引き起こすという問題があった。
【0003】
特開2005−343886号公報には,NSAIDsに分類されるイブプロフェンによる胃粘膜障害が,糖を配合することによって軽減されることが開示されている(特許文献1)。しかし,イブプロフェンと糖を乾燥状態で混合,配合することによる胃粘膜障害抑制効果は十分ではない。
【0004】
特開2005−139165号公報には,ロキソプロフェンなどのNSAIDsと糖を配合することによって,胃粘膜障害が軽減されることが開示されている(特許文献2)。しかし,NSAIDsと糖を乾燥状態で混合,配合することによる胃粘膜障害抑制効果は十分ではない。
【特許文献1】特開2005−343886号公報
【特許文献2】特開2005−139165号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は,NSAIDsによる消化管粘膜障害を軽減したNSAIDs誘発性消化管粘膜障害軽減剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は,新規物質であるNSAIDsと二糖類との分子間化合物を見出したことに基づくものである。そして,実施例により実証されたとおり,この新規物質である分子間化合物は,NSAIDs消化管粘膜障害軽減作用を飛躍的に高めることができる。また,本発明は,この分子間化合物の製造工程を含む,薬剤の製造方法に関する。
【0007】
本発明の第1の側面は,非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)の抗炎症作用を発揮しつつ,NSAIDsにより誘発される消化管粘膜障害を軽減する,NSAIDs誘発性消化管粘膜障害軽減剤に関する。本発明の剤は二糖類及びNSAIDsを溶解した混合溶液を作る混合工程と,混合溶液を乾燥させる乾燥工程とを含む製造方法によって製造することができ、又は溶融混合することにより製造することができる。後述する実施例で示されたとおり,このような工程で製造することによって,二糖類によるNSAIDs消化管粘膜障害軽減作用を飛躍的に高めることができる。NSAIDs誘発性消化管粘膜障害軽減剤の例は,NSAIDs誘発性胃粘膜障害軽減剤である。
【0008】
後述する実施例で示されたとおり,このような製造方法で製造された本発明の剤は,分子間で相互作用を有する。後述する実施例で示されたとおり,本発明の剤(共溶解乾燥物)は,二糖類及びNSAIDsの混合物(粉体混合物)よりも,効果的にNSAIDsによる消化管粘膜障害を軽減する。すなわち,上記製造方法で製造された本発明の剤は,二糖類とNSAIDs間に分子間相互作用を有し(分子間結合物を形成し),それにより二糖類がNSADIsの消化管粘膜障害を効果的に軽減することができると考えられる。
【0009】
後述する実施例で示されたとおり,本発明のNSAIDsは,酸性NSAIDsであることが好ましい。さらに,NSAIDsは,アスピリン,サリチル酸ナトリウム,サリチルアミド,サザピリン,ジフルニサル,エテンザミド,アスピリンアルミニウム,5−アミノサリチル酸,インドメタシン,エトドラク,ジクロフェナクナトリウム,スリンダク,アンフェナクナトリウム,マレイン酸プログルメタシン,アセメタシン,ナブメトン,モフェゾラク,イブプロフェン,ナプロキセン,ロキソプロフェン,フルルビプロフェン,フルルビプロフェンアキセチル,オキサプロジン,チアプロフェン酸,プラノプロフェン,アルミノプロフェン,ザルトプロフェン,メフェナム酸,トルフェナム酸,フルフェナム酸アルミニウム,ケトフェニルブタゾン,クロフェゾン,ブコローム,ピロキシカム,ロルノキシカム,テノキシカム,メロキシカム,アンピロキシカム,エピリゾール,チアラミド,及びエルモファゾンからなる群から選ばれる1又は2種以上であることが好ましい。これらの中では,NSAIDsは,アスピリン,インドメタシン,ジクロフェナクナトリウム,イブプロフェン,ピロキシカム,ロキソプロフェン,又はメフェナム酸のいずれか1つ又は2つ以上を含むことが好ましい。このようなNSAIDsを用いることで,二糖類によるNSAIDs消化管粘膜障害軽減作用を飛躍的に高めることができる。
【0010】
本発明の第1の側面の好ましい態様は,二糖類として,トレハロース,マルトース,ラクトース及びスクロースのいずれか1種,又は2種以上を用いるものである。二糖類として,トレハロースが好ましい。
【0011】
本発明の第1の側面の好ましい態様は,NSAIDs誘発性消化管粘膜障害軽減剤は,
錠剤,顆粒剤,又はカプセル剤である。一度共溶解した二糖類とNSAIDsを乾燥し,錠剤,顆粒剤,又はカプセル剤とすることで,二糖類とNSAIDsが好適に分子間相互作用によって結合される。よって,このような剤形とすることで,優れたNSAIDs消化管粘膜障害軽減作用効果を得ることができる。
【0012】
本発明の第1の側面の好ましい態様は,NSAIDsがインドメタシンであり,二糖類がトレハロースのものである。この態様では,分子間化合物は,示差走査熱量測定法(DSC)による測定で得られたDSC曲線の第1のピークと第2のピークの頂点が,それぞれ80〜95℃と260〜270℃に存在するものであることが好ましい。
【0013】
本発明の第1の側面の好ましい態様は,NSAIDsは,イブプロフェンであり,二糖類がトレハロースのものである。この態様では,分子間化合物は,示差走査熱量測定法(DSC)による測定で得られたDSC曲線の第3のピークと第4のピークの頂点が,それぞれ175〜190℃と130〜145℃に存在するものであることが好ましい。
【0014】
本発明の第1の側面の好ましい態様は,NSAIDsは,アスピリンであり,二糖類がトレハロースのものである。この態様では,分子間化合物は,示差走査熱量測定法(DSC)による測定で得られたDSC曲線の第1のピークと第2のピークの頂点が,それぞれ110〜120℃と135〜145℃に存在するものであることが好ましい。
【0015】
本発明の第1の側面の好ましい態様は,NSAIDsは,ジクロフェナクナトリウムであり,二糖類がトレハロースのものである。この態様では,分子間化合物は,示差走査熱量測定法(DSC)による測定で得られたDSC曲線の第1のピークと第2のピークの頂点が,それぞれ90〜100℃と130〜145℃に存在するものであることが好ましい。
【0016】
本発明の第1の側面の好ましい態様は,NSAIDsは,メフェナム酸であり,二糖類がトレハロースのものである。この態様では,分子間化合物は,示差走査熱量測定法(DSC)による測定で得られたDSC曲線の第1のピークと第2のピークの頂点が,それぞれ225〜235℃と90〜110℃に存在する。さらに,第1のピーク及び第2のピークの頂点の絶対値(DSC測定値)は,DSCによる測定で得られた前記メフェナム酸のDSC曲線の90〜110℃及び225〜235℃に存在するピークの頂点の絶対値よりも大きいものであることが好ましい。
【0017】
本発明の第1の側面の好ましい態様は,NSAIDsは,ピロキシカムであり,二糖類がトレハロースのものである。この態様では,分子間化合物は,示差走査熱量測定法(DSC)による測定で得られたDSC曲線の第1のピークと第2のピークの頂点が,90〜105℃と195〜205℃に存在する。さらに,第1のピーク及び第2のピークの頂点の絶対値は,DSCによる測定で得られたピロキシカムのDSC曲線の90〜105℃及び195〜205℃に存在するピークの頂点の絶対値よりも小さいものであることが好ましい。
【0018】
本発明の第2の側面の好ましい態様は,非ステロイド性抗炎症薬NSAIDsの抗炎症作用を発揮しつつ,前記NSAIDsにより誘発される消化管粘膜障害を軽減する,NSAIDs誘発性消化管粘膜障害軽減剤の製造方法に関する。本発明の製造方法は,二糖類及び前記NSAIDsを溶解した混合溶液をつくる混合工程と,前記混合溶液を乾燥させる乾燥工程とを含む。後述する実施例で示されたとおり,このような工程で製造することによって,二糖類によるNSAIDs消化管粘膜障害軽減作用を飛躍的に高めることができる剤を製造することができる。
【0019】
後述する実施例で示されたとおり,本発明のNSAIDsは,酸性NSAIDsであることが好ましい。NSAIDsは,アスピリン,サリチル酸ナトリウム,サリチルアミド,サザピリン,ジフルニサル,エテンザミド,アスピリンアルミニウム,5−アミノサリチル酸,インドメタシン,エトドラク,ジクロフェナクナトリウム,スリンダク,アンフェナクナトリウム,マレイン酸プログルメタシン,アセメタシン,ナブメトン,モフェゾラク,イブプロフェン,ナプロキセン,ロキソプロフェン,フルルビプロフェン,フルルビプロフェンアキセチル,オキサプロジン,チアプロフェン酸,プラノプロフェン,アルミノプロフェン,ザルトプロフェン,メフェナム酸,トルフェナム酸,フルフェナム酸アルミニウム,ケトフェニルブタゾン,クロフェゾン,ブコローム,ピロキシカム,ロルノキシカム,テノキシカム,メロキシカム,アンピロキシカム,エピリゾール,チアラミド,及びエルモファゾンからなる群から選ばれる1又は2種以上であることが好ましい。さらに,NSAIDsは,アスピリン,インドメタシン,ジクロフェナクナトリウム,イブプロフェン,ピロキシカム,ロキソプロフェン,又はメフェナム酸のいずれか1つ又は2つ以上を含むことが好ましい。このようなNSAIDsを用いることで,二糖類によるNSAIDs消化管粘膜障害軽減作用が高いNSAIDs誘発性消化管粘膜障害軽減剤を製造することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば,NSAIDsの効果を損なわずに,NSAIDsによる消化管粘膜障害を軽減することができる,NSAIDs誘発性消化管粘膜障害軽減剤を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は,各被験物質を投与した際の潰瘍指数(mm)を示す図面に替わるグラフである。
図2図2は,インドメタシン単独,あるいはインドメタシン・トレハロース混合,あるいはインドメタシン・トレハロース凍結乾燥投与時のラット潰瘍指数(mm)を示す図面に替わるグラフである。
図3図3は,アスピリン単独,あるいはアスピリン・トレハロース混合,あるいはアスピリン・トレハロース凍結乾燥投与時のラット潰瘍指数(mm)を示す図面に替わるグラフである。
図4図4は,ジクロフェナク単独,あるいはジクロフェナク・トレハロース混合,あるいはジクロフェナク・トレハロース凍結乾燥投与時のラット潰瘍指数(mm)を示す図面に替わるグラフである。
図5図5は,凍結乾燥状態と混合状態での胃粘膜障害作用効果を示す図面に替わるグラフである。図5Aは,細胞生存率を示す図面に替わるグラフである。図5Bは,細胞致死率を示す図面に替わるグラフである。
図6図6は,トレハロース単独,インドメタシン単独,インドメタシン・トレハロース混合,あるいはインドメタシン・トレハロース凍結乾燥のDSC結果を示す図面に替わるグラフである。
図7図7は,トレハロース単独,イブプロフェン単独,イブプロフェン・トレハロース混合,あるいはイブプロフェン・トレハロース凍結乾燥のDSC結果を示す図面に替わるグラフである。
図8図8は,トレハロース単独,アスピリン単独,アスピリン・トレハロース混合,あるいはアスピリン・トレハロース凍結乾燥のDSC結果を示す図面に替わるグラフである。
図9図9は,トレハロース単独,ジクロフェナク単独,ジクロフェナク・トレハロース混合,あるいはジクロフェナク・トレハロース凍結乾燥のDSC結果を示す図面に替わるグラフである。
図10図10は,トレハロース単独,ピロキシカム単独,ピロキシカム・トレハロース混合,あるいはピロキシカム・トレハロース凍結乾燥のDSC結果を示す図面に替わるグラフである。
図11図11は,トレハロース単独,メフェナム酸単独,メフェナム酸・トレハロース混合,あるいはメフェナム酸・トレハロース凍結乾燥のDSC結果を示す図面に替わるグラフである。
図12図12は,マルトース,スクロース,及びラクトースをそれぞれ,アスピリンと凍結乾燥させて,分子間化合物を形成させた場合について潰瘍面積を測定した結果を示す図面に替わるグラフである。
図13図13は,マルトース及びラクトースをそれぞれ,ジクロフェナクと凍結乾燥させて,分子間化合物を形成させた場合について潰瘍面積を測定した結果を示す図面に替わるグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の第1の側面は,二糖類及びNSAIDsを含むNSAIDs誘発性消化管粘膜障害軽減剤に関する。本発明の剤は,例えば,二糖類及びNSAIDsを共溶解した混合溶液をつくる混合工程と,混合溶液を乾燥させる乾燥工程とを含む,製造方法によって製造される。NSAIDs誘発性消化管粘膜障害軽減剤とは,NSAIDsの抗炎症作用を発揮しつつ,NSAIDsにより誘発される消化管粘膜障害を軽減できる医薬である。本発明の剤は,二糖類とNSAIDsの間に分子間相互作用を有するものであるまた,本発明の剤は,NSAIDsの消化管粘膜障害を軽減するために有効な量の二糖類を含有することが好ましい。すなわち,NSAIDsと分子間相互作用を形成する二糖類は,NSAIDs誘発性消化管粘膜障害軽減のための有効成分である。




【0023】
本明細書において,NSAIDs誘発性消化管粘膜障害には,NSAIDsが原因となって誘発される胃粘膜の病的変化(糜爛,潰瘍,浮腫など)に加えて,胃部の近接部位である十二指腸の障害や,小腸及び大腸の障害も含む。すなわち,本明細書において消化管には,胃,十二指腸,小腸及び大腸が含まれる。NSAIDsは,小腸の消化管穿孔を起こすことがある。本発明のNSAIDs誘発性消化管粘膜障害軽減剤はこのようにNSAIDsにより惹起される小腸の消化管穿孔を軽減するためにも有効である。実施例で実証されたとおり,胃粘膜障害に対して本発明をもっとも良好に用いることができる。すなわち,本発明のNSAIDs誘発性消化管粘膜障害軽減剤のもっとも有効な利用態様は,NSAIDs誘発性胃粘膜障害軽減剤である。
【0024】
二糖類の例は,マルトース,スクロース,セロビオース,ラクトース,及びトレハロースである。これらの中では,マルトース,スクロース,ラクトース,及びトレハロースが好ましく,トレハロースが特に好ましい。
【0025】
トレハロースとは,2分子のD−グルコースが結合した二糖である。トレハロースには,互いに結合様式が相違するα,α体(α−D−グルコピラノシル=α−D−グルコミラノシド(α−D−glucopyranosyl α−D−glucopyranoside),α,β(β−D−グルコピラノシル=α−D−グルコピラノシド(β−D−glucopyranosyl α−D−glucopyranoside))体及びβ,β体(β−D−グルコピラノシル=β−D−グルノピラノシド(β−D−glucopyranoyl β−D−glucopyranoside))とよばれる3種類の異性体が存在する。本発明においては,これらの異性体の1又は複数が全体として有効量含まれてさえいれば,その調製方法,純度及び性状は問わない。トレハロースは,市販のものを適宜利用することができる。
【0026】
NSAIDs(non−steroidal anti−inflammatory drugs)とは,非ステロイド性抗炎症薬である。本発明の剤は,酸性NSAIDs及び塩基性NSAIDsのどちらも使用することができる。本発明のNSAIDsは,好ましくは,酸性NSAIDsである。本発明のNSAIDsは,カルボン酸系であることがさらに好ましい。本発明の剤は,1種または2種以上のNSAIDsを含んでもよい。NSAIDsを2種以上の含む場合は,同分類(例えば,サリチル酸系NSAIDs同士)のものを2種以上含んでもよいし,他分類(例えば,サリチル酸系NSAIDsとアリール酢酸系NSAIDs)のものを2種以上含んでもよい。このようなNSAIDsは公知の方法で作製してもよいし,市販のものを適宜利用してもよい。
【0027】
NSAIDsは,サリチル酸系,アリール酢酸系,プロピオン酸系,フェナム酸系,エノール酸系,及び塩基性NSAIDsのように区分できる。サリチル酸系NSAIDsの例は,アスピリン,サリチル酸ナトリウム,サリチルアミド,サザピリン,ジフルニサル,エテンザミド,アスピリンアルミニウム,及び5−アミノサリチル酸である。
【0028】
アリール酢酸系NSAIDsの例は,インドメタシン,エトドラク,ジクロフェナクナトリウム,スリンダク,アンフェナクナトリウム,マレイン酸プログルメタシン,アセメタシン,ナブメトン,及びモフェゾラクである。
【0029】
プロピオン酸系NSAIDsの例は,イブプロフェン,ナプロキセン,ロキソプロフェン,フルルビプロフェン,フルルビプロフェンアキセチル,オキサプロジン,チアプロフェン酸,プラノプロフェン,アルミノプロフェン,及びザルトプロフェンである。
【0030】
フェナム酸系NSAIDsの例は,メフェナム酸,トルフェナム酸,及びフルフェナム酸アルミニウムである。
【0031】
エノール酸系NSAIDsの例は,ピラゾロン系,ピリミジン系,及びオキシカム系NSAIDsである。ピラゾロン系NSAIDsの例は,ケトフェニルブタゾン,及びクロフェゾンである。ピリミジン系NSAIDsの例は,ブコロームである。オキシカム系NSAIDsの例は,ピロキシカム,ロルノキシカム,テノキシカム,メロキシカム,及びアンピロキシカムである。
【0032】
塩基性NSAIDsの例は,エピリゾール,チアラミド,及びエルモファゾンである。
【0033】
本発明の剤は,分子間相互作用により分子間結合を生じていると考えられる。分子間結合とは,2以上の分子同士が結合することをいう。このような分子間結合として,例えば,イオン結合,錯体結合,疎水結合,水素結合,ファンデルワールス結合があげられる。このような特性を有する本発明の剤は,後述する方法で製造することができる。製造した剤に含まれるNSAIDsと二糖類が,分子間相互作用を有することは,公知の方法を用いて調べることができる。たとえば,DSC(示差走査熱量測定)法,FTIR(フーリエ変換赤外分光)法,XPS(X線光電子分光分析)法,NMR(核磁気共鳴)法があげられる。当業者であれば適宜公知の方法を用いて調べることができる。
【0034】
本発明の剤には,薬学的に許容される担体又は媒体が含まれてもよい。薬学的に許容される担体又は媒体は,例えば,安定化剤,抗酸化剤,又は保存剤など薬学的に許容される物質があげられる。また,ポリエチレングリコール(PEG)などの高分子材料やシクロデキストリン等の抱合化合物を使用することもできる。以下,具体例をあげるが,本発明はそれらに限定されるものではなく,公知のものを使用することができる。安定化剤としては,アルブミン,ゼラチン,ソルビトール,マンニトール,乳糖,ショ糖,マルトース,グルコースなどがあげられる。抗酸化剤としては,亜硫酸ナトリウム,アスコルビン酸,トコフェノール,塩酸システイン,チオグリコール酸,カテコールなどがあげられる。保存剤としては,フェノール,チメロサール,塩化ベンザルコニウムなどがあげられる。
【0035】
本発明の剤は,二糖類及びNSAIDsを共溶解した混合溶液をつくる混合工程と,混合溶液を乾燥させる乾燥工程とを含む製造方法をもちいて製造することができる。本発明の乾燥工程としては,凍結乾燥工程,流動層造粒乾燥工程,スプレードライ工程,又は乾燥粉砕造粒工程があげられる。通常であれば,粉末のNSAIDsと粉末の二糖類を混合することで粉体の剤を製造する。また,液剤を製造する場合は,NSAIDs溶液と二糖類溶液を混合するか,NSAIDs粉末と二糖類粉末それぞれを,又はNSAIDs粉末と二糖類粉末を含む粉体混合物を溶液に中で撹拌して溶解させる。しかし,後述する実施例に示したように,NSAIDs溶液と二糖類溶液を瞬間的に混合した直後の混合液では,二糖類によるNSAIDs誘発性消化管粘膜障害抑制作用は十分に発揮されない。これは,二糖類とNSAIDsが分子間結合を充分に形成しないためであると考えられる。本発明はNSAIDsと二糖類をあえて一度混合液とし相互作用を発生させた後,その後混合液を乾燥させることによって,二糖類によるNSAIDs誘発性消化管粘膜障害軽減作用を得るというものである。また,このような製造方法で製造した剤は,後述するように分子間相互作用を有する。すなわち,このような製造方法で製造した剤は,二糖類とNSAIDs間で分子間相互作用を有する。これにより,本発明の剤は,NSAIDsの分子が含む分子間相互作用を持った状態で,二糖類中に分散されることになるので,好適にNSAIDs誘発性消化管粘膜障害を軽減することができる。
【0036】
[混合工程]
混合工程は,二糖類及びNSAIDsを共溶解した混合溶液をつくる工程である。二糖類及びNSAIDsを共溶解させる溶液としては,水,蒸留水,イオン交換水,MiliQ水,生理食塩水など製剤に用いられる公知の溶液を用いることができる。混合溶液は,あらかじめ別々に溶解させた二糖類溶液とNSAIDs溶液を混合してもよいし;二糖類又はNSAIDsの一方を溶解させた溶液に,粉末状の他方を混合・溶解させてもよく;溶液に粉末状の二糖類及びNSAIDsを加え混合・溶解させてもよい。また,溶けにくいNSAIDsを溶解させるために,エタノールなどで一度溶解した後,共溶解させる溶液に混合させてもよい。混合液におけるNSAIDsと二糖類の重量比は,1×10:1〜1:1×10があげられ,好ましくは1×10:1〜1:5×10であり,より好ましくは1:1〜1:1×30である。本発明の剤を製造するときの混合溶液中の二糖類濃度は,1×10−2〜5×10重量%があげられ,好ましくは,1×10〜4.5×10重量%であり,より好ましくは,1×10〜4×10重量%である。
【0037】
[凍結乾燥工程]
凍結乾燥工程とは,減圧下で凍結状態の試料から水を昇華させる工程である。凍結乾燥工程は,以下の工程で行われる。(1)試料(混合溶液)を室温4℃,常圧下に2〜3時間置き,冷却する(冷却工程)。(2)室温−50℃,常圧下に12〜15時間置き,凍結させる(凍結工程)。(3)室温−20℃,常圧下に4〜6時間置き結晶化させる。(結晶化工程)。(4)室温−50℃,常圧下に14〜16時間置き,再凍結させる(再凍結工程)。(5)室温−13℃,圧力10〜20kPa下(高真空下)に24〜26時間置く(第1乾燥工程)。(6)室温24℃,圧力10〜20kPa下(高真空下)に10〜121時間置く(第2乾燥工程)。(7)室温24℃,常圧下に置く。このように凍結乾燥法では,低温で凍結させ,高真空下で水分(氷)を昇華させて除いていく。本発明の凍結乾燥物は,上記の方法で製造できる。しかし,上記工程に限定されるものではなく,当業者であれば,適宜各工程の温度,圧力,時間などのパラメータに変更を加えることができる。
【0038】
[流動層造粒乾燥工程]
流動層造粒乾燥法とは,水分を含む試料に温風を当てて流動させながら,造粒乾燥する方法である。流動層造粒乾燥物は,公知の流動層造粒乾燥機を用いて製造してもよい。本発明の剤は,以下の工程で製造することができる。(1)試料(混合溶液)を撹拌しながら,温度50〜100℃,風速1〜2m/sの温風を10〜30分あてる(略乾燥工程)。(2)試料に温度20〜50℃,風速2〜3m/sの温風30分〜1時間あてる(造粒工程)。(3)試料に温度50〜100℃,風速1〜2m/sの温風を30分〜2時間あてる(乾燥工程)。(4)試料に温度5〜20℃,風速1〜2m/sの冷風を10〜60分あてる(冷却工程)。このように流動造粒乾燥法では,試料に温風をあて,試料を空中で流動させながら,乾燥させることで造粒していく。本発明の剤は,上記方法で製造することができる。しかし,上記工程に限定されるものではなく,当業者であれば,試料の水分量などに応じて,適宜各工程の温度,風速等のパラメータを変更することができる。
【0039】
本発明の剤を,流動造粒乾燥工程を用いて製造する際の剤形としては,錠剤,顆粒剤,トローチ剤,又はカプセル剤があげられる。錠剤,顆粒剤,又はトローチ剤は,湿式造粒法で造粒した剤を公知の圧縮法で圧縮成形して製造することができる。カプセル剤は,錠剤又は顆粒剤を充てんして製造することができる。各剤形の大きさは特に限定されず,二糖類やNSAIDsの含有量などに応じて,当業者であれば適宜調整することができる。本発明の剤は,NSAIDsと二糖類間が分子間結合で結合されることによって,より効果的にNSAIDs誘発性消化管粘膜障害を軽減することができる。そのため,本発明の剤は,NSAIDsと二糖類が結着した上記の剤形であることが好ましい。
【0040】
[スプレードライ工程]
スプレードライ(噴霧乾燥)工程とは,試料溶液を熱風とともに細い孔径のノズルから噴霧し,チャンバー内で微小な液滴とし,短時間で乾燥させる方法である。スプレードライ物は,公知のスプレードライヤー(噴霧乾燥機)を用いて製造してもよい。本発明の剤は,例えば以下の工程で製造することができる。(1)試料(混合溶液)を孔径0.5〜1mmのノズルから,100〜300℃の熱風とともに,チャンバー内に,空気圧0.5〜2.5kg/m,流量25〜50L/minで噴霧する(噴霧工程)。(2)噴霧した試料に温度150〜300℃,速度0.5〜1m/sの熱風をあて,30秒〜5分乾燥させる(乾燥工程)。このようにスプレードライ法では,試料を高温チャンバー内にスプレーしてできた微小な液滴に熱風をあてて乾燥造粒させる方法である。本発明の剤は,上記方法で製造することができる。しかし,上記工程に限定されるものではなく,当業者であれば,適宜各工程の温度,時間等のパラメータを変更することができる。
【0041】
[乾燥粉砕造粒工程]
乾燥粉砕造粒法とは,水分を含む試料を乾燥させた後,粉砕することで造粒物をえる方法である。本発明の剤は,例えば以下の工程で製造することができる。(1)試料(混合溶液)に50〜80℃の温風をあてながら,撹拌速度10〜100/minで1〜5時間撹拌する(乾燥工程)。(2)乾燥した試料に5〜15℃の冷風をあて,冷却させる(冷却工程)。(3)冷却させた試料を粉砕機で粉砕する(粉砕工程)。(4)粉砕した試料を所定サイズのふるい機でふるいにかける(ふるい工程)。このように乾燥粉砕造粒法は,一度大きな塊として製造した試料を粉砕することで所望サイズの粒を製造する方法である。本発明の剤は,上記方法で製造することができる。しかし,上記工程に限定されるものではなく,当業者であれば,適宜各工程の温度,時間等のパラメータを変更することができる。
【0042】
二糖類及びNSAIDsの分子間化合物は,上記の製造方法のほか,嫌気条件下にて二糖類及びNSAIDsの融点以上の温度で溶融混合することによっても製造できる。ただし,NSAIDsによる消化管粘膜障害を軽減する作用は,上記の製造方法によって得られた分子間化合物が最も優れていた。
【0043】
溶融混合を行うための装置は既に知られている。本発明においても,既に知られた装置を用いて,適宜溶融混合を行えばよい。溶融混合を行うための装置の例は,撹拌装置である。すなわち,糖類及びNSAIDsの融点以上の温度で混合液を攪拌し,所定の時間後撹拌をやめて静置晶析を行うことで,分子間化合物の結晶を得ることができる。得られた結晶を溶解させ,撹拌し静置晶析を繰り返し行うことで,純度の高い分子間化合物を得ることができる。
【0044】
溶融混合は嫌気的条件下で行う。具体的には,窒素又は不活性ガスの存在下で溶融混合を行う。不活性ガスの例は希ガスであり,希ガスの例はヘリウム,ネオン,アルゴン,及びクリプトンである。希ガスを用いる場合,アルゴンを用いることが好ましい。
【0045】
溶融混合は,大気圧下で行っても,減圧下であっても,高圧下であってもよい。溶融混合は,公知の触媒を用いてもよい。
【0046】
二糖類及びNSAIDsの分子間化合物は,上記の製造方法のほか,二糖類及びNSAIDsの結晶を接点融解させる方法によっても製造できる。ただし,NSAIDsによる消化管粘膜障害を軽減する作用は,はじめに説明した製造方法によって得られた分子間化合物が最も優れていた。
【0047】
たとえば双結晶炉を用いることで,二糖類及びNSAIDsの結晶を接点融解させることができる。双結晶炉は,異なる二つの種結晶と,原料となる結晶の接点部分を局所的に溶解し,鋳型を移動することによって種結晶を成長させ種結晶同士が接する境界(粒界)を任意に制御することができる装置である。具体的に説明すると,接点融解させる方法は,二糖類及びNSAIDsの結晶を長時間粉砕し続け,結晶の接点部分を局所的に溶解し,二糖類及びNSAIDsの分子間化合物を成長させる方法である。
【0048】
上記のように製造された本発明の二糖類及びNSAIDsを含む剤は,NSAIDsが有する抗炎症作用,鎮痛作用,解熱作用などを有する。本発明の二糖類及びNSAIDsを含有する剤は,NSAIDsによる消化管粘膜障害が軽減されるので,NSAIDsが治療及び予防に有効な疾患の患者に,本発明の剤を有効量投与する治療方法又は予防方法として好適に利用することができる。すなわち,本発明は,対象に分子間相互作用を有する二糖類及びNSAIDsを含むNSAIDs誘発性消化管粘膜障害軽減剤を投与する治療方法又は予防方法をも提供する。そして,分子間相互作用を有するNSAIDs及び二糖類を含むNSAIDs誘発性消化管粘膜障害軽減剤の好ましい例は,先に説明したとおり,凍結乾燥工程又は湿式造粒工程により得られたものである。
【0049】
NSAIDsは,一般的に酸味や苦味といった刺激性を有し,服用(経口投与)するには好ましくない味覚を有する。しかし,本発明の剤では,甘味料である二糖類と,NSAIDsとが分子間相互作用を有する。そのため,二糖類によって,NSAIDsが有する刺激性が緩和される。これにより,NSAIDsを含有する錠剤,特に顆粒剤の味覚を著しく改善することができる。よって,NSAIDsを含有する錠剤,特に顆粒剤を服用しやすくなる。さらに,二糖類は酸化防止作用を有するので,NSAIDsの化学的安定性を高めることもできる。
【0050】
上記の製造方法で製造される剤は,主に経口投与用に用いる。しかし,本発明の剤は非経口投与用としても利用することができる。経口投与する場合は,本発明の剤を水などの薬学的に許容される溶液とともに摂取すればよい。非経口投与としては,たとえば注射投与があげられる。注射投与を行う場合は,本発明の剤を所定の薬学的に許容される溶液に,所望濃度となるように溶解して用いればよい。薬学的に許容される溶液は,注射液として用いることができる公知の溶液を用いればよい。注射液としては,たとえば,注射用水,生理食塩水,又はブドウ糖液があげられる。
【0051】
投与量は,投与する対象,年齢,症状などによって変化する。一般的には,1日の投与量は,NSAIDsの有効成分で個体あたり10mg〜1000mgがあげられ,好ましくは100mg〜500mgである。本発明の剤は,1日分の投与量を2〜5回に分けて投与することが好ましい。複数回に分けて投与することで,血中薬剤濃度の急激な変動を避けることができるので,副作用を軽減し,患者への負担を減らすことができる。
【0052】
本発明の好ましい態様として,NSAIDs誘発性消化管粘膜障害軽減剤を製造するために,NSAIDsと二糖類を使用することがあげられる。すなわち,本発明は,NSAIDs誘発性消化管粘膜障害軽減剤を製造するためのNSAIDs及び二糖類の使用をも提供する。また,本発明は,NSAIDs誘発性消化管粘膜障害軽減剤を製造するための分子間結合を有するNSAIDs及び二糖類の使用をも提供する。そして,分子間結合を有するNSAIDs及び二糖類の好ましい例は,先に説明したとおり,凍結乾燥又は湿式造粒法により得られたものである。そして,このNSAIDsの使用において,先に示したNSAIDsを1種または2種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
【0053】
以下,本発明の実施例について記載するが,本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0054】
NSAIDsの消化管粘膜障害に対するトレハロースの抑制効果
1.被験物質
NSAIDsとして,アスピリン,インドメタシン,イブプロフェン,ジクロフェナクナトリウムを使用した。アスピリン,インドメタシン,イブプロフェンは和光純薬工業,ジクロフェナクナトリウムはCaymanから購入した。トレハロースは林原生物化学研究所製,カルボキシメチルセルロース・ナトリウム(CMC・Na)は第一工業製薬製のものを使用した。
【0055】
2.トレハロース・NSAIDs凍結乾燥品の調製
トレハロースは精製水(ミリQグレード(milliQ水))にて30%(w/v)溶液を調整した。各種NSAIDsは,エチルアルコール(99.5%)にて適量を溶解し,トレハロース溶液と望ましい比率にて混合し,十分に撹拌した後,凍結乾燥機(東京理化器機株式会社,EYELA 凍結乾燥機,FDU−1100)を用いて48時間以上乾燥させた。
【0056】
具体的には,以下の手順で行った。
(1)トレハロースをmilliQ水に溶解し,30w/v%トレハロース溶液を作製した。
(2)1.0gNSAIDsを2.0mLエチルアルコールに溶解した。
(3)必要量のトレハロース溶液を各NSAIDs溶解エチルアルコール溶液に添加した。インドメタシン及びイブプロフェンは,この段階で必要量のトレハロース溶液を全量加えると沈殿する。そのため,沈殿するかしないかの量のトレハロース溶液を添加したのち,10〜20分程度撹拌した。
(4)最終エチルアルコール濃度が10%以下(できれば5%以下)になるように,milliQ水を適量加えた。アスピリン及びジクロフェナクナトリウムは,沈殿がほぼ見られないので,この段階で10〜20分程度撹拌した。
(5)凍結乾燥機(東京理化器機株式会社,EYELA 凍結乾燥機,FDU−1100)にかけ,48時間以上乾燥させた。
【0057】
各被験物質は,試験当日に0.5%CMC・Na溶液に懸濁もしくは溶解して調整した。投与液量は,体重1kgあたり9mLを経口投与し,対照群には同量の0.5%CMC・Na溶液を投与した。
【0058】
3.動物
Wistar雄性ラット(日本SLC)8週齢を購入した。ラットは,温度20〜26℃,湿度30〜70%のラット飼育ゲージに2〜3匹入れ,(マウス・ラット飼育用CE−2)及び水フィルターを通した水道水を自由に摂取させて飼育した。7日間の予備飼育後,1群5〜10匹を実験に用いた。試験前24時間は絶食とし,さらに試験1時間前は絶水とした。
【0059】
4.方法
試験前日11時より絶食した当日に被験物質を経口投与して5時間後,二酸化炭素ガスにより致死せしめ胃を摘出した。十二指腸を結札し,食道部から中性ホルマリン6mLを注入し,中性ホルマリン液中で30分間固定した。胃を大弯沿いに切り開き,生理食塩水で軽く洗浄後,実体顕微鏡下で出血斑の有無を観察した。
潰瘍指数として,出血斑の面積を0.5mm×0.5mm単位で測定して,各動物の合計を求めた。各被験物質単独投与群の潰瘍指数と,トレハロース併用群における潰瘍指数を基に,潰瘍抑制率を次式より求めた。
【数1】
【0060】
5.試験結果
得られたトレハロース併用軍の潰瘍抑制率の結果を表1及び図1に示す。
【表1】
【0061】
図1は,各被験物質を単独で投与した場合,あるいはトレハロースとともに凍結乾燥した各種NSAIDsを投与した際の潰瘍指数(mm)を示す図面に替わるグラフである。図1の横軸は投与した被験物質を示す。図1の縦軸は潰瘍面積を示す。試験の結果,いずれのNSAIDsにおいても,トレハロースとともに凍結乾燥したものを投与した場合には,NDAIDs単独投与時に比して,潰瘍発生を抑制する傾向が認められた。
【0062】
インドメタシン誘発胃潰瘍モデルの場合には,インドメタシン単独(30mg/kg)の場合には,4.83±0.90(10例の平均値±標準誤差)mmの潰瘍が認められたのに対し,インドメタシンとトレハロースを凍結乾燥したもの(インドメタシン30mg/kg,トレハロース800mg/kg)では,潰瘍面積は2.98±0.54(10例の平均値±標準誤差)mmであり,潰瘍抑制率は38.8%であった。
【0063】
イブプロフェン誘発胃潰瘍モデルの場合には,イブプロフェン単独(400mg/kg)の場合には,5.35±1.86(5例の平均値±標準誤差)mmの潰瘍が認められたのに対し,イブプロフェンとトレハロースを凍結乾燥したもの(イブプロフェン400mg/kg,トレハロース800mg/kg)では,潰瘍面積は1.90±0.69(10例の平均値±標準誤差)mmであり,潰瘍抑制率は64.5%であった。
【0064】
アスピリン誘発胃潰瘍モデルの場合には,アスピリン単独(200mg/kg)の場合には,10.40±2.80(5例の平均値±標準誤差)mmの潰瘍が認められたのに対し,アスピリンとトレハロースを凍結乾燥したもの(アスピリン200mg/kg,トレハロース800mg/kg)では,潰瘍面積は3.00±1.20(5例の平均値±標準誤差)mmであり,潰瘍抑制率は71.2%であった。
【0065】
ジクロフェナク誘発胃潰瘍モデルの場合には,ジクロフェナク単独(40mg/kg)の場合には,4.30±0.71(10例の平均値±標準誤差)mmの潰瘍が認められたのに対し,アスピリンとトレハロースを凍結乾燥したもの(アスピリン40mg/kg,トレハロース800mg/kg)では,潰瘍面積は1.65±0.43(10例の平均値±標準誤差)mmであり,潰瘍抑制率は61.6%であった。
【0066】
実施例1より,NSAIDsとトレハロースを併用することによって,潰瘍が抑制されることが分かった。
【実施例2】
【0067】
トレハロース・NSAIDsの分子間相互作用による胃粘膜障害の抑制効果1
1.被験物質
NSAIDsとして,インドメタシン,アスピリン,及びジクロフェナクナトリウムを使用した。インドメタシンは和光純薬工業,ジクロフェナクナトリウムはCaymanから購入した。トレハロースは林原生物化学研究所,カルボキシメチルセルロース・ナトリウム(CMC・Na)は第一工業製薬製のものを使用した。
【0068】
2.トレハロース・NSAIDs凍結乾燥品の調製
トレハロースは,精製水(ミリQグレード(milliQ水))にて30%(w/v)溶液を調整した。各種NSAIDsはエチルアルコール(99.5%)にて適量を溶解し,トレハロース溶液と望ましい比率にて混合し,十分に撹拌した後,凍結乾燥器(東京理化器機株式会社,EYELA 凍結乾燥機,FDU−1100)を用いて48時間以上乾燥させた。
【0069】
3.投与薬液の調製
投与薬液は,試験当日に調製した。NSAIDs単独投与群は,秤量したNSAIDsを0.5%CMC・Na溶液に懸濁もしくは溶解し,NSAIDsとトレハロース溶液の混合投与群は,NSAIDsのみの懸濁液と,トレハロースのみを溶解した溶液を個別に調整し,投与直前に等量混合して用いた。トレハロースとNSAIDsの凍結乾燥品は,あらかじめ所定の比率で混合,凍結乾燥したものを一定量秤量し,0.5%CMC・Na溶液を加えて投与薬液を調整した。いずれの投与群においても投与薬液量は,ラット1kgあたり8mLとした。
【0070】
4.動物
Wistar雄性ラット(日本SLC)8週齢を購入し,温度20〜26℃,湿度30〜70%のラット飼育ゲージに2〜3匹入れ,飼料(マウス・ラット飼育用CE−2)および水フィルターを通した水道水を自由に摂取させて飼育した。7日間の予備飼育後,1群5〜10匹を実験に用いた。試験前24時間は絶食とし,さらに試験1時間前は絶水とした。
【0071】
5.胃粘膜障害の作製と評価方法
試験前日11時より絶食した動物に被験物質を経口投与して5時間後,二酸化炭素ガスにより致死せしめ胃を摘出した。十二指腸を結札し,食道部から中性ホルマリン6mLを注入し,中性ホルマリン液中で30分間固定した。胃を大弯沿いに切り開き,生理食塩液で軽く洗浄後,実体顕微鏡下で出血斑の有無を観察した。
【0072】
潰瘍指数として,出血斑の面積を0.5mm×0.5mm単位で測定して各動物の合計を求めた。各被験物質単独投与群の潰瘍指数と,トレハロース併用群における潰瘍指数を基に,潰瘍抑制率を次式より求めた。
【数2】
【0073】
6.試験結果
インドメタシン単独あるいはトレハロース併用(混合,あるいは凍結乾燥)投与時のラット潰瘍指数を表2に示す。
【表2】
【0074】
アスピリン単独,あるいはトレハロース併用(混合,あるいは凍結乾燥)投与時のラット潰瘍面積を表3に示す。
【表3】
【0075】
ジクロフェナク単独,あるいはトレハロース併用(混合,あるいは凍結乾燥)投与時のラット潰瘍面積を表4に示す。
【表4】
【0076】
インドメタシン,アスピリン,あるいはジクロフェナクを投与した際の潰瘍指数(mm)の結果を図2図3,及び図4に示す。
【0077】
図2は,インドメタシン単独,あるいはインドメタシン・トレハロース混合,あるいはインドメタシン・トレハロース凍結乾燥投与時のラット潰瘍指数(mm)を示す図面に替わるグラフである。図2の横軸は投与した被験物質を示す。図2の縦軸は潰瘍面積を示す。インドメタシン単独投与(30mg/kg)の場合には,4.83±0.90(10例の平均値±標準誤差)mmの潰瘍が認められたのに対し,インドメタシン・トレハロース混合(インドメタシン30mg/kg,トレハロース800mg/kg)投与群では,潰瘍面積は4.15±0.86(5例の平均値±標準誤差)mmであり,潰瘍抑制率は14.0%であった。一方,インドメタシン・トレハロース凍結乾燥(インドメタシン30mg/kg,トレハロース800mg/kg)では,潰瘍面積は2.98±0.54(10例の平均値±標準誤差)mmであり,潰瘍抑制率は38.8%であった。
【0078】
図3は,アスピリン単独,あるいはアスピリン・トレハロース混合,あるいはアスピリン・トレハロース凍結乾燥投与時のラット潰瘍指数(mm)を示す図面に替わるグラフである。図3の横軸は投与した被験物質を示す。図3の縦軸は潰瘍面積を示す。図3中,*は有意差があることを示す。アスピリン単独投与(200mg/kg)の場合には,10.40±2.73(5例の平均値±標準誤差)mmの潰瘍が認められたのに対し,アスピリン・トレハロース混合(アスピリン200mg/kg,トレハロース800mg/kg)投与群では,潰瘍面積は9.25±3.54(5例の平均値±標準誤差)mmであり,潰瘍抑制率は11.5%であった。一方,アスピリン・トレハロース凍結乾燥(アスピリン200mg/kg,トレハロース800mg/kg)では,潰瘍面積は2.95±1.14(5例の平均値±標準誤差)mmであり,潰瘍抑制率は71.6%であった。
【0079】
図4は,ジクロフェナク単独,あるいはジクロフェナク・トレハロース混合,あるいはジクロフェナク・トレハロース凍結乾燥投与時のラット潰瘍指数(mm)を示す図面に替わるグラフである。図4の横軸は投与した被験物質を示す。図4の縦軸は潰瘍面積を示す。図4のpは棄却率を示す。ジクロフェナク単独投与(40mg/kg)の場合には,4.30±0.71(10例の平均値±標準誤差)mmの潰瘍が認められたのに対し,ジクロフェナク・トレハロース混合(ジクロフェナク40mg/kg,トレハロース800mg/kg)投与群では,潰瘍面積は4.20±1.11(5例の平均値±標準誤差)mmであり,潰瘍抑制率は2.3%であった。一方,ジクロフェナク・トレハロース凍結乾燥(ジクロフェナク40mg/kg,トレハロース800mg/kg)では,潰瘍面積は1.65±0.43(10例の平均値±標準誤差)mmであり,潰瘍抑制率は61.6%であった。
【0080】
実施例2より,NSAIDsとトレハロースを凍結乾燥した物を用いることで,潰瘍を顕著に抑制することができることが分かった。
【実施例3】
【0081】
トレハロース・NSAIDsの分子間結合による胃粘膜障害の抑制効果2
NSAIDs(ジクロフェナク)とトレハロースの分子間相互作用による胃粘膜障害抑制を検討するために,細胞生存率と細胞致死率を測定した。粉体のジクロフェナク単独(図5中「Dic」と表記),又はジクロフェナク−トレハロース凍結乾燥品(重量比 ジクロフェナク:トレハロース=1:20)(図5中「Lyo」と表記)を,ジクロフェナクの最終濃度が2mMとなるようにDMEM培地(Sigma社製)に添加し完全に溶解させた。その後,口腔上皮細胞Ca9−22細胞に加えた。また,1mMジクロフェナクを含む培地又は1mMジクロフェナク5%トレハロースを含む培地(ジクロジェナク溶液,トレハロース溶液を個別に添加し調整した培地(図5中「Mix」と表記)を先ほどと異なるCa9−22細胞に加えた。各細胞を16時間培養し,LIVE/DEAD Assay(Molecular Probes社製)によって,細胞生存率及び細胞致死率を測定した。また,コントロールとして通常の培地で培養した細胞に関しても解析を行った。なお,例数(N)は,4〜6で行った。その結果を図5にしめした。
【0082】
図5は,凍結乾燥状態と混合状態での胃粘膜障害作用効果を示す図面に替わるグラフである。図5Aは,細胞生存率を示す図面に替わるグラフである。図5Aの縦軸は細胞生存率(%)を示し,値が高いほど生存している細胞が多いことを示す。図5Bは,細胞致死率を示す図面に替わるグラフである。図5Bの縦軸は,細胞致死率(%)を示し,値が高いほど死亡している細胞が多いことを示す。よって,細胞生存率が高く,細胞致死率が低いほど,ジクロフェナク誘発性細胞障害が抑制されていることを示す。
【0083】
図5の結果,単に液体状態で個別に調製した条件(図5中「Mix」)でも,トレハロースによるジクロフェナク誘発性細胞障害抑制効果が見られた。しかし,凍結乾燥品(図5中「Lyo」)を用いた方が,より高いジクロフェナク誘発性細胞障害抑制効果を示すことが明らかとなった。
【実施例4】
【0084】
トレハロース・NSAIDsの分子間結合の検討
NSAIDs(インドメタシン,イブプロフェン,アスピリン,ジクロフェナク,ピロキシカム,及びメフェナム酸)とトレハロースの分子間結合を検討するために示差走査熱量測定法(DSC)を用いて測定を行った。それぞれ,トレハロース単独,NSAIDs単独,トレハロースとNSAIDsの混合物,トレハロースとNSAIDsとの凍結乾燥物を用いてDSC用いて測定を行った。トレハロースとNSAIDsの重量比は下記表5に示した。
【表5】
【0085】
DSC測定結果を図6図11に示した。図6はインドメタシン,図7はイブプロフェン,図8はアスピリン,図9はジクロフェナク,図10はピロキシカム,図11はメフェナム酸のDSC結果を示す。図6図11中,「混合」はトレハロースとNSAIDsの混合品のDSC測定結果を示す。図6図11中,「凍結乾燥」はトレハロースとNSAIDsの凍結乾燥品のDSC測定結果を示す。図6図11中,縦軸は,トレハロース単独又はNSAIDs単独ではそれぞれの単位モルあたりの熱流(W/mol)を示し,混合又は凍結乾燥はトレハロース量の単位モルあたりの熱流(W/mol)を示す。図6図11中,横軸は温度(セ氏温度)を示す。
【0086】
図6図11の結果,NSAIDsとトレハロースを混合しただけのピークは,NSAIDs単独及びトレハロース単独のピークを足し合わせたピークに近い。それに対し,凍結乾燥したものは,トレハロース由来の120℃のピークが消滅又は120℃より低温又は高温側にシフトしている。このことから,NSAIDsとトレハロースの間に相互作用があることが示された。
【0087】
さらに,図6に示した結果から,インドメタシンとトレハロースの混合物には,98〜102℃に第1のピーク,190〜210℃に第2のピーク,及び115〜125℃に第3のピークが存在することが明らかになった。なお,第1のピークは,DSC曲線において最も高いピーク(DSC測定値の絶対値が大きいピーク)をさす。この混合物の結果は,トレハロース単独のDSC曲線のピークとほぼ一致する。それに対し,インドメタシンとトレハロースの凍結乾燥物では,80〜95℃に第1のピーク,及び260℃〜270℃に第2のピークが存在することが明らかになった。また,インドメタシンとトレハロースの凍結乾燥物は,270℃〜280℃にも第3のピークが観測された。このように混合物と凍結乾燥物とでDSCの結果が異なることから,インドメタシンとトレハロースを共溶解後,凍結乾燥することで,インドメタシンとトレハロースの分子間化合物が形成されたことが明らかになった。
【0088】
図7に示した結果から,イブプロフェンとトレハロースの混合物には,98〜102℃に第1のピーク,70〜80℃に第2のピーク,190〜210℃に第3のピーク及び115〜125℃に第4のピークが存在することが明らかになった。この混合物の結果は,トレハロース単独及びイブプロフェン単独のDSC曲線のピークとほぼ一致する。それに対し,インドメタシンとトレハロースの凍結乾燥物には,98〜102℃に第1のピーク,70〜80℃に第2のピーク,175〜190℃に第3ピーク,及び130〜145℃に第4のピークが存在することが明らかになった。インドメタシンとトレハロースの凍結乾燥物のDSC曲線のうち175〜190℃のピークと130〜145℃のピークは,イブプロフェンとトレハロースの混合物には存在しないことが明らかになった。このように混合物と凍結乾燥物とでDSCの結果が異なることから,イブプロフェンとトレハロースを共溶解後,凍結乾燥することで,イブプロフェンとトレハロースの分子間化合物が形成されたことが明らかになった。
【0089】
図8に示した結果から,アスピリンとトレハロースの混合物には,145〜150℃に第1のピーク,及び98〜102℃に第2のピークが存在することが明らかになった。それに対して,アスピリンとトレハロースの凍結乾燥物には,110〜120℃に第1のピーク,及び135〜145℃に第2のピークが存在することが明らかになった。このように混合物と凍結乾燥物とでDSCの結果が異なることから,アスピリンとトレハロースを共溶解後,凍結乾燥することで,アスピリンとトレハロースの分子間化合物が形成されたことが明らかになった。
【0090】
図9に示した結果から,ジクロフェナクナトリウムとトレハロースの混合物には,95〜110℃に第1のピーク,及び190〜220℃に第2のピークが存在することが明らかになった。それに対して,ジクロフェナクナトリウムとトレハロースの凍結乾燥物には,90〜100℃に第1のピーク,及び135〜145℃に第2のピークが存在することが明らかになった。このように混合物と凍結乾燥物とでDSCの結果が異なることから,ジクロフェナクとトレハロースを共溶解後,凍結乾燥することで,ジクロフェナクとトレハロースの分子間化合物が形成されたことが明らかになった。
【0091】
図10に示した結果から,メフェナム酸とトレハロースの混合物には,98〜102℃に第1のピーク,225〜235℃に第2のピーク,及び190〜210℃に第3のピークが存在することが明らかになった。それに対して,メフェナム酸とトレハロースの凍結乾燥物には,225〜235℃に第1のピーク,及び90〜110℃に第2のピークが存在することが明らかになった。そして,凍結乾燥物の第1のピーク及び第2のピークの頂点の絶対値(DSC測定値の絶対値)は,メフェナム酸単独のDSC曲線における225〜235℃及び90〜110℃のピーク頂点の絶対値よりも大きい。このように混合物と凍結乾燥物とでDSCの結果が異なり,さらにメフェナム酸単独と凍結乾燥物のDSCの結果も異なることから,メフェナム酸とトレハロースを共溶解後,凍結乾燥することで,メフェナム酸とトレハロースの分子間化合物が形成されたことが明らかになった。
【0092】
図11に示した結果から,ピロキシカムとトレハロースの混合物には,98〜102℃に第1のピーク,225〜235℃に第2のピーク,及び190〜210℃に第3のピークが存在することが明らかになった。それに対して,ピロキシカムとトレハロースの凍結乾燥物には,90〜105℃に第1のピーク,及び195〜205℃に第2のピークが存在することが明らかになった。そして,凍結乾燥物の第1のピーク及び第2のピークの頂点の絶対値は,ピロキシカム単独のDSC曲線における90〜105℃及び195〜205℃のピーク頂点の絶対値よりも大きい。このように混合物と凍結乾燥物とでDSCの結果が異なり,さらにピロキシカム単独と凍結乾燥物のDSCの結果も異なることから,ピロキシカムとトレハロースを共溶解後,凍結乾燥することで,ピロキシカムとトレハロースの分子間化合物が形成されたことが明らかになった。
【0093】
図6図11の結果,NSAIDsとトレハロースを混合しただけのピークは,NSAIDs単独及びトレハロース単独のピークを足し合わせたピークに近い。一方,凍結乾燥したものは,トレハロース由来の120℃のピークが消滅又は120℃より低温又は高温側にシフトしている。このことから,NSAIDsとトレハロースの間に相互作用があることが示された。
【0094】
上記のとおり,本発明のトレハロースとNSAIDsを含む剤は,トレハロースとNSAIDsの間に分子間相互作用(分子間結合)を有することで,NSAIDsによって誘発されうる胃粘膜障害などの消化管粘膜障害を軽減することができる。よって,本発明の剤は,NSAIDs誘発性消化管粘膜障害軽減作用を有することが示された。
【実施例5】
【0095】
トレハロースを,マルトース,スクロース,及びラクトースに替えた他は,実施例2と同様にして,潰瘍面積を測定した。なお,マルトース,スクロース,及びラクトースは,アスピリンと凍結乾燥させて,分子間化合物を形成させた。潰瘍面積を測定した結果を図12に示す。図3図12とを比較すると,アスピリンは,マルトース,スクロース,又はラクトースと分子間化合物を形成することで,潰瘍を顕著に抑制することができることが分かった。
【実施例6】
【0096】
トレハロースを,マルトース,及びラクトースに替えた他は,実施例2と同様にして,潰瘍面積を測定した。なお,マルトース,及びラクトースは,ジクロフェナクと凍結乾燥させて,分子間化合物を形成させた。潰瘍面積を測定した結果を図13に示す。図4図13とを比較すると,ジクロフェナクは,マルトース,又はラクトースと分子間化合物を形成することで,潰瘍を顕著に抑制することができることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明は,医薬産業で用いることができる。
図1
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図10
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図13