(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5649510
(24)【登録日】2014年11月21日
(45)【発行日】2015年1月7日
(54)【発明の名称】プラズマ処理装置,成膜方法,DLC皮膜を有する金属板の製造方法,セパレータの製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 16/503 20060101AFI20141211BHJP
C23C 16/27 20060101ALI20141211BHJP
H05H 1/24 20060101ALI20141211BHJP
【FI】
C23C16/503
C23C16/27
H05H1/24
【請求項の数】10
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2011-105944(P2011-105944)
(22)【出願日】2011年5月11日
(65)【公開番号】特開2012-62568(P2012-62568A)
(43)【公開日】2012年3月29日
【審査請求日】2014年2月27日
(31)【優先権主張番号】特願2010-183592(P2010-183592)
(32)【優先日】2010年8月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000227294
【氏名又は名称】キヤノンアネルバ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100143395
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 今日文
(72)【発明者】
【氏名】徐 舸
【審査官】
後藤 政博
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭62−27569(JP,A)
【文献】
特開平5−222520(JP,A)
【文献】
特開2003−302774(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/00〜16/56
C23C 14/00〜14/58
H05H 1/24
H01L 21/302、21/461
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理材と通電した状態で前記被処理材を保持するホルダーを真空容器内に備えるプラズマ処理装置であって、
導電シートを巻き取ることができ、プラズマ処理の際に前記被処理材と異なる電位とされる第1巻き取り部と、
前記第1巻き取り部から引き出され、前記被処理材が保持された際に、この被処理材の処理面に対向する位置を経由する前記導電シートを巻き取ることができる第2巻き取り部とを有することを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項2】
前記第1巻き取り部と前記第2巻き取り部の間の前記導電シートに接して配置され、前記導電シートと前記被処理材との距離を規制する規制部を、さらに有することを特徴とする請求項1に記載のプラズマ処理装置。
【請求項3】
前記第1巻き取り部と前記第2巻き取り部の間の前記導電シートは、前記ホルダーに搭載された被処理材の表裏面の両側に配設されることを特徴とする請求項1又は2に記載のプラズマ処理装置。
【請求項4】
前記ホルダーに搭載された被処理材の表裏面のうち、任意の一方を第1処理面、他方を第2処理面とし、
前記導電シートの表裏面のうち、任意の一方を第1電極面とすると、
前記第1巻き取り部と前記第2巻き取り部の間の前記導電シートは、前記第1処理面と前記第2処理面のいずれにも前記第1電極面が対向するように配設されることを特徴とする請求項3に記載のプラズマ処理装置。
【請求項5】
前記ホルダーに搭載された被処理材の表裏面のうち、任意の一方を第1処理面、他方を第2処理面とし、前記導電シートの表裏面のうち、任意の一方を第1電極面、他方を第2電極面とすると、
前記第1巻き取り部と前記第2巻き取り部の間の前記導電シートは、前記第1処理面に前記第1電極面が対向し、前記第2処理面に前記第2電極面が対向するように配設されることを特徴とする請求項3に記載のプラズマ処理装置。
【請求項6】
前記第1巻き取り部又は前記第2巻き取り部には、冷却媒体を流通する冷媒流路が設けられていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項7】
前記ホルダーに保持された前記被処理材を基準として、前記導電シートの背後に磁石を有することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載されたプラズマ処理装置を用いて所定の金属板の表面にカーボン膜コーティングを形成する成膜方法であって、
前記カーボン膜コーティングを形成する際に、表面に絶縁性膜が堆積した部分の前記導電シートが前記第2巻き取り部に巻き取られて収納されるとともに、表面に絶縁性膜が堆積していない部分の前記導電シートが前記ホルダーに保持された前記被処理材の処理面に対向することを特徴とする成膜方法。
【請求項9】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載されたプラズマ処理装置を用いて所定の金属板の表面にカーボン膜コーティングを形成する処理を有するDLC皮膜を有する金属板の製造方法であって、
前記カーボン膜コーティングを形成する際に、表面に絶縁性膜が堆積した部分の前記導電シートが前記第2巻き取り部に巻き取られて収納されるとともに、表面に絶縁性膜が堆積していない部分の前記導電シートが前記ホルダーに保持された前記被処理材の処理面に対向することを特徴とするDLC皮膜を有する金属板の製造方法。
【請求項10】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載されたプラズマ処理装置を用いて所定の金属板の表面にカーボン膜コーティングを形成する処理を有するセパレータの製造方法であって、
前記カーボン膜コーティングを形成する処理において、表面に絶縁性膜が堆積した部分の前記導電シートが前記第2巻き取り部に巻き取られて収納されるとともに、表面に絶縁性膜が堆積していない部分の前記導電シートが前記ホルダーに保持された前記被処理材の処理面に対向することを特徴とするセパレータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ処理装置,成膜方法,DLC皮膜を有する金属板の製造方法,セパレータの製造方法に係り、特に、電極に絶縁皮膜が堆積されるプラズマ処理に適したプラズマ処理装置,成膜方法、或いは、そのようなプラズマ処理装置を用いるDLC皮膜を有する金属板の製造方法,セパレータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
硬質カ−ボン膜(DLC膜)はその特性(高硬度、耐摩耗性、潤滑性、耐薬品性)から各種機械、電子部品への保護コ−ティング、あるいは機能性デバイスへの応用が期待されている。このDLC(Diamond Like Carbon)膜の形成方法としては炭化水素系ガスをプラズマ分解し、基板へ堆積させて成膜するプラズマCVDが知られている。
【0003】
このうち、被処理材にDCまたはパルスDC電力を印加するプラズマCVD法は、被処理材を陰極とし、真空容器または被処理材を囲むシールドを陽極とする処理方法である(非特許文献1参照)。被処理材とシールドの間のプラズマ放電で生成された炭化水素ガスイオンを、被処理材の表面に衝突させることによって、被処理材の表面にDLC膜を形成することができる。また、DCまたはパルスDC放電によるDLC成膜は、RF放電に比べて装置の構成が安価で大面積かつ複雑な形状の被処理材にも容易に対応できることから広く採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−191754号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「素形材」、Vol.48(2007).12月、(財)素形材センター発行、第15〜20 ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来のDCまたはパルスDC放電によるDLC成膜は、真空容器または被処理材を囲むシールドとなる陽極にも炭化水素ガスの分解によるカーボン膜が堆積される。陽極上に堆積したカーボン膜は、膜中の水素含有量が多く、高い絶縁性を持つ。そのため、絶縁性膜が陽極に堆積することにより、陽極の近傍に発生する陽極グローの状態が次第に変化し、放電と成膜の再現性が得られなくなるおそれがある。また、陽極への膜堆積が均一ではないため、膜堆積が少なく導電性が残る箇所に陽極グローが集中し、異常放電がおきやすくなるおそれがある。
【0007】
従来は、放電と成膜を安定させるために、絶縁性の膜が堆積された陽極電極となるシールドを定期的に新しいものに交換する対応がとられていた。しかし、交換作業のために真空室を大気開放する必要があるためメンテナンス時間が増大するおそれがあった。
【0008】
一方、エッチングガス、例えば炭素膜の場合は酸素などを導入し放電することによって、真空室内の堆積膜をエッチングし除去する方法もある。しかし、陽極上の堆積膜はイオンアシスタント効果が無いため、エッチングレートが低く、堆積膜を完全にエッチングするには成膜時間以上の時間を要した。
【0009】
また、特許文献1には、小型陽極の採用により、陽極に電流を極端に集中させることによって高温に加熱し、堆積された炭素膜を導電性膜に変えることで長時間放電の安定性を維持する技術が開示されている。しかしその陽極の集中放電によって全体放電の偏りを生じ、特に大型基板には成膜の均一性を確保することが困難であるという問題があった。
【0010】
本発明は、上記の課題を鑑みてなされたものであり、長時間の連続稼動においても、プラズマの放電条件を安定させ、成膜処理の高い再現性を得ることができる成膜用のプラズマ処理装置,成膜方法を提供することを目的とする。また、成膜処理の高い再現性を得ることができるプラズマ処理装置又は成膜方法を用いたDLC皮膜を有する金属板の製造方法,セパレータの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るプラズマ処理装置は、被処理材と通電した状態で被処理材を保持するホルダーを真空容器内に備えるプラズマ処理装置であって、導電シートを巻き取ることができ、プラズマ処理の際に被処理材と異なる電位とされる第1巻き取り部と、第1巻き取り部から引き出され、被処理材が保持された際に、この被処理材の処理面に対向する位置を経由する導電シートを巻き取ることができる第2巻き取り部とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
適時に絶縁膜に覆われた導電シート(金属シート)を収納し、新たな金属面を繰り出すことで、電極への絶縁膜堆積による放電変化や異常放電の発生を回避することができ、長期間、安定した成膜ができる。またシールドへの堆積膜のクリーニングが必要ないため、装置の利用効率と生産性を大幅に高めることができ、生産コストの低減につながる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る成膜装置の説明図である。
【
図2】本発明の第1実施形態に係る成膜装置の説明図である。
【
図3】本発明の第2実施形態に係る成膜装置の説明図である。
【
図4】本発明の第3実施形態に係る成膜装置の説明図である。
【
図5】実施例の陰極と陽極上の成膜レートとエッチングレートの比較表である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1実施形態)
図1に本発明の第1実施形態に係る真空処理装置の概略図を示す。
図1の真空処理装置(プラズマ処理装置)は、真空室(真空容器)が複数繋がり、処理品を順次に搬送して、連続処理を行うインライン型の真空処理装置の側面図である。各真空室(1a,1b,1c)は図示していない排気系によって排気され、かつ各真空室間にゲートバルブ4を設けて、独立した特定の真空処理を行うことができるようになっている。また、各真空室(1a,1b,1c)内には、処理品11(被処理材、金属板)を順次に搬送する搬送装置が備えられている。搬送装置は、処理室を貫通して設けられた搬送ルートに沿って、処理品を搭載したホルダー12を搬送するものである。
【0015】
真空処理装置には、任意の真空処理を行うこができる処理室を複数連結することができるが、
図1に示した真空処理装置は、加熱処理用の真空室1a、プラズマCVDによるプラズマ処理(成膜処理)を行う真空室1b、冷却ユニットとしての真空室1cとを有している。すなわち、真空室1a(加熱ユニット)では処理品を所定温度に加熱処理する。真空室1b(放電ユニット)ではプラズマCVDによる成膜処理をする。真空室1c(冷却ユニット)では基板を所定温度に冷却する。
【0016】
各真空室の処理が完了した後、ゲートバルブ4を開け、ホルダー12に乗せた被処理材としての処理品11を次の真空室に搬送する。搬送が完了した後、ゲートバルブ4を閉め、各真空室が次の処理品に対し、同様な処理を繰り返し行う。なお、
図1の真空処理装置は真空室を3つ有して描かれているが、連結される真空室の数は任意である。
【0017】
図2は、
図1に示した真空処理装置の横断面図である。
図2の真空処理装置は処理品11の両面に同時に成膜する構成となっているが、片面に成膜する状況にも適用できることは勿論である。真空室1(真空容器)に、成膜ガスを真空室内に導入し、ガス流量と排気口2のコンダクタンス制御で所定の圧力まで到達した後に、陰極となるホルダー12と処理品11にDCまたはパルスDC電力30を印加して、陽極となる接地電位の金属シート20(導電シート)との間にプラズマ31を生成する。プラズマによって成膜ガスが分解され、さらに陰極電位によって加速されたイオンによって処理品表面11への成膜が行われる。なお、ホルダー12は処理品11を保持した状態で処理品11と通電できるように構成されているため、処理品11にはホルダー12を介してDCまたはパルスDC電力30を印加することができる。
【0018】
金属シート20はローラー21と22に巻かれて収納されており、ローラー21から引き出されて、処理品11の処理面に対向する位置を経由した後にローラー22に巻き取られる。はじめはすべての未使用金属シートがローラー21(第1巻き取り部)に収納されている。処理品11の連続成膜処理を進行するに従って、金属シート表面(第1電極面、又は第2電極面)に絶縁性膜の堆積が進み、抵抗が高くなる。金属シート20表面の抵抗増加が放電の安定性に影響しないように、ある一定数量の処理品成膜が完了し、次の処理品に成膜する前の時間に、ローラー22(第2巻き取り部)を回転させ着膜済金属シールを収納し、それと同時に未使用の金属シートをローラー21から繰り出し、新たな金属表面を放電空間に向かせる。それによって陽極となる金属シート20の表面抵抗を再び低くすることができ、放電の安定性を確保できる。
【0019】
なお、ローラー21,22は内部に冷却水(冷媒媒体)が流通する冷媒流路を備える構造としてもよい。ローラー21,22を冷却することで、金属シート20の温度の上昇を抑えることができる。具体的には、ローラー21又は22の芯部には冷却媒体を流通する流路が形成されると好適である。
【0020】
金属シート20は、材質や厚さを限定されるものではないが、コストと収納性などの考慮から厚み0.1mm以下と薄いもの、例えば厚さ0.01−0.05mmアルミニウム薄板を採用するのが望ましい。ローラー21、22と処理品11の間にガイドローラー23(規制部)を設けている。ガイドローラー23の位置によって金属シート20と処理品11、つまり放電陽極と放電陰極との間の距離を規制することが可能である。そして、金属シート20がローラー21,22への収納状況が変わっても、その距離を一定に保つことができる。また、ガイドローラー23は金属シート20の張力調整の役割も果たしている。具体的には、ばねなどの弾性部材を介してガイドローラー21,22をスライド可能に取り付けることによって、金属シート20を一定荷重で押圧するように構成するとよい。もちろん、ローラー21,22のいずれか一方、又は両方の回転方向にテンションを付加し続けることで金属シート20の張力調整をしてもよい。
【0021】
真空室壁には、膜付着を防ぐための放電空間を囲むシールド13が設置されている。複数のパーツからなるシールド13には、処理品11の表裏面(第1,2処理面)と金属シート20の平面部(第1,2電極面)が向かい合うように開口が設けられている。シールド13は浮遊電位とされているため、連続処理によってシールド上の膜堆積が増加しても放電に影響を与えることはない。
【0022】
陽極上の膜堆積が進んだときに、適宜、ローラー21,22を適量回転し、着膜済みの金属シートを片方のローラー22に巻き取りつつ、他方のローラー21から新たな未着膜金属シートを繰り出し、陰極と対向する部分に露出させるとよい。具体的には、本実施形態では、金属シート20の片面(第1、2電極面)を使用するため、膜堆積した金属シートを巻き取って新しい金属シート20に切り替えるとき、ローラー21からローラー22間に張られている部分の金属シートを巻き取ることが望ましい。この巻き取り動作により、膜堆積した金属シートはローラー22に巻き取られ、代わりに、ローラー21からローラー22の間にはローラー21から引き出された新しい金属シートが陰極と対向して展開されることになる。
【0023】
ローラー21に巻かれていた金属シートを使いきった際には、ローラー21,22を同時に交換する。具体的には、膜堆積した金属シートを巻き取ったローラー22を新しいものに交換するとともに、金属シートを使い切ったローラー21を新しい金属シートが巻かれたローラー21に交換する。
【0024】
(第2実施形態)
図3は、本発明の第2実施形態に係る真空処理装置の横断面図である。
図2の第1実施形態との主な違いは、陰極となる処理品11の両面に向かい合う金属シート20の面はそれぞれ違う面になっていることである。具体的な構成としては第1実施形態と比べて、未使用の金属シート収納のローラー21の配置変更とガイドローラー24が追加されている。
【0025】
本実施形態では、金属シートの両面を使用するため、膜堆積した金属シートを巻き取って新しい金属シートに切り替える方法が上述の第1実施形態と同じではない。すなわち、上下に対になるガイドローラー23の間に展開された、成膜放電に露出した部分の金属シートだけを切り替えればよい。具体的には、被処理材の面(第1処理面又は第2処理面)に対向して金属シートを支持するために上下方向に配置された一対のガイドローラー23,23間の長さだけ、ローラー21から金属シートを引き出すことで、成膜放電に露出した部分の金属シートは新しい部分に入れ替えることができる。そのため、上述した第1実施形態に比べて、金属シート使用量の半分以下となる。それにより、連続運転時間可能時間の向上と金属シートの使用量の低減が見込まれる。
【0026】
(第3実施形態)
図4は、本発明の第3実施形態に係る真空処理装置の横断面図である。
図2の第1実施形態との主な違いは、ローラー21,22のセットを2セット備え、陰極となる処理品11の両側に1セットずつ配置されていることである。なお、
図4に図示されているように、処理品11の一方側に展開される金属シート20を巻き付けるローラーセットR1をローラー21a,22aと、処理品11の逆側に展開される金属シート20を巻き付けるローラーセットR2をローラー21b,22bとする。
【0027】
ローラー22a,22bは、1つのモータの駆動軸と同期して駆動するように連結されている。また、
図4の構成ではローラー22a,22bを上方にローラー21a,21bを下方に配置しているが、これらのローラーの上下の配置は逆にしてもよい。本実施形態では、金属シートを取り回す距離が短く装置構成を簡単なものにすることができる。また、ローラー21,22を2セット配設することで、真空室内に一度に配置する金属シートの量を多くして、連続運転時間可能時間の向上を図ることができる。
【0028】
上述した各実施形態においては、インライン型の真空処理装置を構成する処理室の1つに本発明に係る金属シートを展開するローラー21,22やガイドローラー23が設けられたものであるが、本発明はインライン型の真空処理装置に限定されるものではない。例えば、バッチ処理用に構成されたプラズマCVD処理チャンバにも適用できることはもちろんである。
【実施例】
【0029】
処理品の200mm角、厚さ0.1mmのステンレス鋼板(金属板)を、アルミ製の基板ホルダーによって垂直方向に保持し、複数真空室間に搬送し処理を行う。その中の一室のCVD処理室において、処理品にパルスDCパワーを印加して、炭化水素ガス、例えばエチレンガスのプラズマCVDによる処理品のカーボン膜コーティングを行う。処理品の両面に面して、厚さ0.05mmのアルミシートが陽極(接地電位)として展開されている。放電を閉じこみ、プラズマ密度を高める手段として、陽極となるアルミシートの背後(処理品と逆側)に、複数の永久磁石によって構成されたマグネットアレイ(磁石)を配置している。陽極となるアルミシートと陰極となる処理品の間の距離は60mmと一定に保っている。なお、金属シート20の背後に配置されるマグネットアレイには電磁石を用いてもよいことはもちろんである。
【0030】
成膜条件として、エチレンガス100sccm導入し、処理室内圧力を4Paに調整した。処理品とホルダーに−400V、150kHzのパルスDC電力を印加して30秒間放電を行い、カーボン膜を成膜した。段差計による膜厚測定の結果、陰極となるステンレス鋼板と陽極となるアルミシートの中心の成膜レートがそれぞれ1.2nm/secと1.4nm/secと判明した。イオン衝撃とそれによる温度上昇が原因で、陰極上の成膜レートが陽極上より若干低くなっている。
【0031】
また、酸素ガス500sccm、圧力7Paにて、陰極に−300V、150kHzのパルスDC電力を印加して15秒間放電を行い、陰極と陽極上堆積されたカーボン膜のエッチングレートを評価した。段差計による測定の結果、陰極となるステンレス鋼板と陽極となるアルミシートの中心のエッチングレートがそれぞれ4.0nm/secと0.4nm/secと判明した。イオン衝撃のアシスト効果で陰極上のエッチングレートが陽極上の約10倍となっている。
【0032】
以上の結果を
図5に示す。陽極上のカーボン成膜レートが酸素放電によるエッチングレートの3倍以上速いという結果が得られた。ダミー基板を陰極として使い、酸素放電エッチングによる陽極のクリーニングを行う場合、成膜時間よりも3倍も長い処理時間も要し、装置の生産性がクリーニングなしの連続成膜処理の1/4以下に低下する。また陰極への印加パワーを増やしてエッチングレートを増やす方策も考えられるが、すでに陰極に大きなパワーが印加されており、それ以上の高圧、大電流放電は異常放電やホルダーダメージになる恐れがある。
そのため、本発明のローラー収納の金属シートを陽極として採用した場合、クリーニングなしの連続成膜処理ができ、高い生産性を維持することができる。
【0033】
なお、上述した実施形態や実施例においては、処理品表面11にDLC皮膜を成膜する例について記載したが、TiN、TiCN、TiAlN、TiAlCN、TiAlON、TiAlSiCNO系など、陰極に絶縁皮膜が形成されるプラズマ処理(成膜処理)に適用することができることはもちろんである。また、上述した実施形態においては、被処理材を陰極、金属シート20を陽極としたプラズマCVD成膜処理について記載したが、被処理材を陽極、金属シート20を陰極としたプラズマエッチング装置にも本発明を適用できることはもちろんである。
【0034】
また、上述した実施形態や実施例の適用例としては、本発明に係るプラズマ処理装置や成膜方法を用いて固体高分子形燃料電池(PEFC:polymer electrolyte fuel cell)に用いられるセパレータの製造する例が挙げられる。本発明に係るプラズマ処理装置や成膜方法は、所定形状のステンレス鋼板の表面にカーボン膜コーティングを形成する処理工程に適用される。具体的には、200mm角、厚さ0.1mmのステンレス鋼板を、アルミ製の基板ホルダーによって垂直方向に保持し、複数真空室間に搬送し処理を行う。その中の一室のCVD処理室において、処理品にパルスDCパワーを印加して、エチレンガスのプラズマCVDによる処理品のカーボン膜コーティングを行う。
【符号の説明】
【0035】
1,1a,1b,1c 真空室
2 排気口
3 真空室間バルブ
11 処理品(陰極)
12 ホルダー
13 シールド
20 金属シート(陽極)
21 ローラー(未使用金属シート収納ローラー、第1巻き取り部)
22 ローラー(着膜済金属シート収納ローラー、第2巻き取り部)
23,24 ガイドローラー
30 DCまたはパルスDC電源
31 プラズマ発生領域