【実施例1】
【0016】
図1は、本発明の実施例1に係るエレベータのかご内監視装置の基本構成を示した概略ブロック図である。このエレベータのかご内監視装置は、ロープ2により吊されると共に、建物に設備された昇降路の多階床間を昇降するエレベータの乗りかご1と、乗りかご1内に設置されると共に、乗りかご1内を映像・音声によりモニタリングしてセンシングデータを取得するセンサ3と、乗りかご1外の遠隔地に設置されると共に、センサ3に含まれる撮像手段であるカメラで撮像された撮像データから乗りかご1内での滞留物を検知して分析処理するコンピュータ機能を持つ滞留物分析処理装置4と、乗りかご1内に設置されると共に、滞留物分析処理装置4での分析処理により設定された滞留物の種別分類に適したメッセージを受けて利用者へ提供するメッセージ提供部6と、乗りかご1内の操作部によるかご呼び、多階床の乗り場(ホール)の操作部による乗り場呼びで操作設定された呼び方向データを含むエレベータ運行データに基づいて、乗りかご1の昇降路における多階床間での昇降動作及び停止動作を含む運転制御を行うエレベータ制御装置5と、を備えて構成される。
【0017】
このうち、センサ3は、映像データ取得用に乗りかご1内を撮像して撮影データを得るカメラの他、音声データ取得用に乗りかご1内で集音して音声データを得るマイク、臭いを検出する臭いセンサ等を含んで構成され、乗りかご1内からセンシングデータを取り込む。即ち、センシングデータには、日時データと同期して取得される映像データ、音声データが含まれる。
【0018】
滞留物分析処理装置4は、パソコン(PC)や各種マイコン機器等が実装されて構成され、センサ3からのセンシングデータを取り込んで格納した上、分析処理を行う。具体的に云えば、滞留物分析処理装置4は、分析処理により撮像データに基づく滞留物の有無の検知、並びに滞留物の特徴を認識して落し物、忘れ物、ゴミ、液体飛散等の種別分類の診断を行う診断部41と、診断部41により診断された滞留物の種別分類に対応して報知に供するメッセージを選択して設定するメッセージ選択部42と、を備える。
【0019】
メッセージ提供部6は、メッセージ選択部42から伝送される文字を含んだ映像データのメッセージを表示するための表示装置を備える他、音声データを発声するスピーカ等を含んでいる。エレベータ制御装置5は、利用者が乗りかご1に乗り込んだ階床(フロア)等のエレベータ運行データを管理する。因みに、エレベータ運行データには、上述した呼び方向データの他、乗降フロア番号データや運転方向データが含まれる。
【0020】
その他、滞留物分析処理装置4におけるメッセージ選択部42は、診断部41により滞留物の形状に基づいて滞留物を診断して得られた種別分類に対応したメッセージを選択し、メッセージ提供部6へ伝達する。また、診断部41は、検知された滞留物を含む撮像データの映像を一定期間分リスト化してメッセージ選択部42を介してメッセージ提供部6の表示装置へ伝達し、表示装置における表示画面上での閲覧表示に供する。
【0021】
更に、診断部41は、滞留物を検知すると、メッセージ選択部42を介してエレベータ制御装置5から収集して得られるエレベータ運行データに含まれる情報であって、利用者が乗りかご1に乗り込んだ階床情報(乗降フロア番号データ)に応じて、発生頻度の高い滞留物の種別分類を抽出してメッセージ選択部42に伝送する。これにより、メッセージ選択部42は発生頻度の高い滞留物の種別分類に対応したメッセージを選択してメッセージ提供部6へ伝達する。
【0022】
加えて、診断部41は、滞留物を検知すると、乗りかご1のドア開閉動作を制御する図示されないかごドア制御部へ乗りかご1のドア開時間を延長するための指令信号を送出する。これにより、かごドア制御部は、指令信号に従って乗りかご1のドア開時間を延長する制御を行う。
【0023】
図2は、上述した滞留物分析処理装置4に係る全体的な動作処理を示したフローチャートである。滞留物分析処理装置4の動作処理では、まずカメラ、マイク等により乗りかご1内から取得したセンシングデータ、エレベータ制御装置5からメッセージ選択部42を介してエレベータ運行データを診断部41が取り込む(ステップ201)処理を行った後、滞留物検知処理(後文で詳述する)によりカメラの撮像データから滞留物の検知・消失を確認する(ステップ202)処理を行う。
【0024】
この滞留物検知処理では、新たな滞留物についての存在の有無と、検知済みの滞留物が消失したか否かを確認する必要があるため、引き続いて、新たな滞留物が検知されたか否かの判定(ステップ203)を行う。この判定の結果、新たな滞留物が検知されると、滞留物分類処理(後文で詳述する)によりその滞留物の特徴(形状等)を認識して種別分類し、その種別分類の結果をメッセージ選択部42に伝送し、メッセージ選択部42が種別分類に対応した提供メッセージを選択する(ステップ204)処理を行った後、選択したメッセージをメッセージ提供部6へ伝送して提供する(ステップ205)処理を行ってから最初のセンシングデータ、エレベータ運行データを取り込む(ステップ201)処理の前にリターンしてその後の処理を繰り返す。
【0025】
一方、新たな滞留物が検知されたか否かの判定(ステップ203)の結果、新たな滞留物が検知されていなければ、引き続いて、診断部41が検知済みの滞留物が消失したか否かの判定(ステップ206)を行う。この判定の結果、検知済みの滞留物が消失していなければ、最初のセンシングデータ、エレベータ運行データを取り込む(ステップ201)処理の前にリターンしてその後の処理を繰り返すが、検知済みの滞留物が消失していれば、その滞留物に対応する表示用の提供メッセージを消去(ステップ207)した後、全ての滞留物が消失したか否かの判定(ステップ208)を行う。この判定の結果、全ての滞留物が消失していれば、動作処理を終了するが、全ての滞留物が消失していなければ、最初のセンシングデータ、エレベータ運行データを取り込む(ステップ201)処理の前にリターンしてその後の処理を繰り返す。
【0026】
図3は、上述した滞留物分析処理装置4に係る滞留物検知処理を示したフローチャートである。この滞留物分析処理装置4に係る滞留物検知処理は、診断部41によりカメラからの撮像データに滞留物が存在しているか否かを認識する画像認識手法であり、動きベクトル検出法で滞留物の検知を行うものである。因みに、その他にも特許文献2で開示されている背景差分法による滞留物の検知を適用することができる。
【0027】
診断部41による滞留物検知処理(動きベクトル検出法)では、まずカメラから取り込んだ撮像データを対象とし、勾配法等を用いて動きベクトルを算出した後、最短距離法等のクラスタリング手法を用いて動きベクトル群を抽出する動きベクトル群の検出(ステップ301)の処理を行った後、抽出した動きベクトル群の大きさ及び移動方向(速度)と数が予め設定した範囲内であるか否かの判定(ステップ302)を行う。この判定の結果、動きベクトル群の速度と数が予め設定した範囲内でなければ、最初の動きベクトル群の検出(ステップ301)の処理の前にリターンしてその後の処理を繰り返すが、予め設定した範囲内であれば、滞留物(例えばここでは落下物に該当する)と判断し、その動きベクトル群が消失するまでの時間、並びに消失した位置を検出する消滅時間・位置確認(ステップ303)の処理を行った後、検出した時間・位置が予め設定した範囲内であるか否かの判定(ステップ304)を行う。
【0028】
この判定の結果、動きベクトル群の消滅時間・位置が予め設定した範囲内でなければ、最初の動きベクトル群の検出(ステップ301)の処理の前にリターンしてその後の処理を繰り返すが、予め設定した範囲内であれば、滞留物(例えばここでは落下物に該当する)と判断し、その動きベクトル群が消失した領域を滞留物の映像(画像)として保存してから処理を終了する。
【0029】
図4は、上述した滞留物分析処理装置4に係る滞留物分類処理を示したフローチャートである。この滞留物分析処理装置4に係る滞留物分類処理では、まず診断部41によりエレベータ制御装置5からメッセージ選択部42を介して取得したエレベータ運行データを参照し、乗降フロア、扉の開閉、荷重センサ等の諸データから利用者の乗降が発生したか否かの判定(ステップ401)を行う。この判定の結果、乗降が発生していなければ、処理を終了するが、乗降が発生していれば、センサ3からのセンシングデータ(カメラによる撮像データ)に基づいて抽出された滞留物の認識領域としての差分映像(差分画像)、或いは動きベクトル群の面積で示される大きさが予め設定された閾値以上であるか否かの判定(ステップ402)を行う。
【0030】
この判定の結果、大きさが閾値以上でなければ(閾値未満であれば)、滞留物を落し物・ゴミと判断(ステップ404)してそれに対応するメッセージをメッセージ選択部42に伝送してから処理を終了するが、大きさが閾値以上であれば、引き続いて、滞留物の滞留時間が予め設定された閾値以上であるか否かの判定(ステップ403)を行う。因みに、滞留物が落し物・ゴミと判断(ステップ404)されたとき、メッセージ選択部42は、落し物・ゴミに対応するメッセージを設定してメッセージ提供部6の表示装置の表示画面に表示させる。
【0031】
滞留物の滞留時間が予め設定された閾値以上であるか否かの判定(ステップ403)の結果、閾値以上でなければ(閾値未満であれば)、滞留物を忘れ物と判断(ステップ405)してそれに対応するメッセージをメッセージ選択部42に伝送してから処理を終了するが、閾値以上であれば、滞留物を液体こぼし等の汚れ、危険物(液体飛散等の長期残存物)と判断(ステップ406)してそれに対応するメッセージをメッセージ選択部42に伝送してから処理を終了する。因みに、メッセージ選択部42は、滞留物が忘れ物と判断(ステップ405)されたとき、忘れ物に対応するメッセージを設定してメッセージ提供部6の表示装置の表示画面に表示させ、液体こぼし等の汚れ、危険物と判断(ステップ406)されたとき、長期残存物に対応するメッセージを設定してメッセージ提供部6の表示装置の表示画面に表示させる。
【0032】
以下は、実施例1に係るエレベータのかご内監視装置の滞留物分析処理装置4が工場における荷物運搬用エレベータに適用され、作業員が台車を使用して2階(2F)にある部品収納フロアから1階(1F)にある組み立てフロアに部品を運搬するとき、台車からボルト等の組み立て部品が乗りかご1内に落下する事例を想定して説明する。こうした場合、滞留物分析処理装置4では、センサ3のセンシングデータに含まれるカメラの撮像データ(映像データ)が診断部41に取り込まれ、
図3を参照して説明した滞留物検知処理(背景差分法や動きベクトル検出等の画像認識手法)により滞留物が認識される。特に、動きベクトル検出の画像認識手法を適用すれば、落し物の所持者が乗りかご1内から退出する前にメッセージ提供部6に対して適切なメッセージを提供することができるため、乗りかご1内に滞留物が放置されることを事前に防止することができる。また、部品が乗りかご1の床へ落下した推定時刻において、センサ3のマイクから音声データが診断部41に取り込まれるため、診断部41で落下音を認識して滞留物の認識に供すれば検知精度を向上させることができる。更に、センサ3が臭いセンサを含んでセンシングデータの臭いデータを診断部41に取り込ませ、臭いを認識させれば、臭気のある液体等の滞留物についても検知させることができる。何れにしても、滞留物が検知されると、
図4を参照して説明した滞留物分類処理により認識部41が滞留物を落し物・ゴミ、忘れ物、液体こぼし等の汚れ、危険物(長期残存物)として分類し、それらに対応するメッセージがメッセージ選択部42で選択されて設定され、メッセージ提供部6へ提供されることになる。
【0033】
図5は、上述した滞留物分析処理装置4に係る滞留物分析処理の結果の一例として、滞留物が落し物と種別分類されたときの落し物を含む映像のメッセージ表示画面を例示した図である。
図5を参照すれば、ここでのメッセージ表示画面は、センサ3のカメラによる撮像データに基づく検知画像502がねじであり、提供メッセージ501が年月日及び時刻を付記した「落し物ありませんか?」である場合を示している。診断部41が利用者の乗りかご1に乗り込んだ階床情報に応じて、発生頻度の高い滞留物の種別分類を抽出してメッセージ選択部42に伝送する例として、例えば2階の部品格納フロアから利用者が乗り込んだ場合、2階を特定フロアとして登録し、予め落し物として頻度の高いねじをメッセージ映像として登録しておき、表示に提供するようにしても良い。提供メッセージ501については、メッセージ提供部6のスピーカから音声として発音させる他、ブザーや照明のフラッシュ等でエレベータの利用者に報知させるようにしても良い。その他、メッセージ提供の手法として、ドアの開時間を延長することで利用者に滞留物の存在を知らしめるようにしても良い。この場合、乗りかご1のドア開閉動作を制御する略図するかごドア制御部に対し、診断部41が滞留物を検知すると、乗りかご1のドア開時間を延長するための指令信号を送出し、かごドア制御部が指令信号に従って乗りかご1のドア開時間を延長する制御を行うものである。
【0034】
図6は、同様な滞留物分析処理の結果の他例として、滞留物が忘れ物と種別分類されたときの忘れ物を含む映像のメッセージ表示画面を例示した図である。
図6を参照すれば、ここでのメッセージ表示画面は、センサ3のカメラによる撮像データに基づく検知画像602がビニール袋であり、提供メッセージ601が年月日及び時刻を付記した「忘れ物ありませんか?」である場合を示している。ここでも提供メッセージ601については、メッセージ提供部6のスピーカから音声として発音させる他、ブザーや照明のフラッシュ等でエレベータの利用者に報知させるようにしたり、或いはその他のメッセージ提供の手法として、ドアの開時間を延長することで利用者に滞留物の存在を知らしめるようにしても良い。
【0035】
図7は、同様な滞留物分析処理の結果の別例として、滞留物が長期残存物と種別分類されたときの長期残存物を含む映像のメッセージ表示画面を例示した図である。
図7を参照すれば、ここでのメッセージ表示画面は、センサ3のカメラによる撮像データに基づく検知画像702が液体の汚れであり、提供メッセージ701が年月日及び時刻を付記した「長期残存物」である場合を示している。ここでも提供メッセージ701については、メッセージ提供部6のスピーカから音声として発音させる他、ブザーや照明のフラッシュ等でエレベータの利用者に報知させるようにしたり、或いはその他のメッセージ提供の手法として、ドアの開時間を延長することで利用者に滞留物の存在を知らしめるようにしても良い。因みに、滞留物分析処理装置4では、診断部41により滞留物の滞留時間が一定値を超えた場合を検知し、長期残存物に係る検知画像702や提供メッセージ701をエレベータの管理者の端末(監視端末、パソコン、携帯電話等の携帯端末)へ伝達させ、その端末の表示画面上に表示させることもできる。
【0036】
ところで、上述した各種滞留物に係るメッセージ表示画面に表示された検知画像502、602、702や提供メッセージ501,601、701は、診断部41により滞留物の形状に基づいて滞留物を診断して得られた種別分類に対応したメッセージをメッセージ選択部42が選択して設定し、メッセージ提供部6へ伝達するため、特に滞留物が落し物や忘れ物で回収されなかった場合には、検知された落し物や忘れ物を含む撮像データの映像を一定期間分リスト化してメッセージ選択部42を介してメッセージ提供部6の表示装置へ伝達し、表示画面上での閲覧表示に供することもできる。
【0037】
図8は、滞留物が落し物である場合の表示機能として、落し物を含む撮像データの映像を一定期間分リスト化した落し物掲示板表示画面を例示した図である。
図8を参照すれば、この落し物掲示板表示画面では、画面項目名801を落し物掲示板としてのタイトルとメッセージを示す「11月の落し物(連絡は、○○まで)」として、一定期間(1ヶ月分)を示す11月の落し物を対象とすると共に、具体的な滞留物の映像データとして、センサ3のカメラによる撮像データに基づく検知画像502のねじ、検知画像602のビニール袋等を含む該当する落し物の全てに年月日及び時刻を付記した各画像を纏めて一覧表示することにより、11月の落し物をリスト化して表示画面上に一覧表示する様子を示している。このように、1ヶ月間に検知されたエレベータでの落し物(紛失物)を落し物掲示板リストとして、落し物の画像を一覧表示すれば、利用者が落し物を管理者に問い合わせた際に容易に見つけることができる。勿論、落し物と同様に忘れ物についても掲示板代わりに表示することができる。因みに、こうした滞留物の一覧は、検知日時、検知物についての大きさ・色・形状等の特徴、対象ビルのエレベータ設備条件等により表示内容を変更することができる。
【0038】
図9は、
図8で説明した落し物掲示板表示画面への検索機能として、落し物の時期及び品目を指定して検索可能にした落し物検索画面を例示した図である。
図9を参照すれば、この落し物検索画面では、画面項目名901を落し物検索画面とすると共に、具体的な滞留物の映像データとして、検知画像602のビニール袋等を含む該当する落し物の全てに年月日及び時刻を付記した各画像を表示するとき、落し物検索画面内に検索キーワード入力部902と検索指示部903とを持たせ、検索キーワード入力部902内で落し物の時期及び品目として例えば「11月 カバン」を指定し、検索指示部903の「検索」を指示して実行させることにより、11月分の落し物にあってのカバンを指定して検索できる様子を示している。検索キーワード入力部902に入力する検索キーワードは、検知日時や対象ビル、落し物の色・形状・大きさ等の特徴であっても良く、検索指示部903の「検索」を指示することで蓄積された落し物の画面を検索することができる。
【0039】
尚、上述した
図5〜
図7に示したメッセージ表示画面、
図8に示した落し物掲示板表示画面、並びに
図9に示した落し物検索画面は、インターネット等のネットワークの通信回線を介してエレベータの管理者の端末(監視端末、パソコン、携帯電話等の携帯端末)へ伝達させ、その端末の表示画面上に表示させることもできる。また、乗りかご1内で滞留物が消失する前後の撮像データ(画像)を蓄積して表示すれば、滞留物を回収(除去)した利用者を認識できるので、特に滞留物が高価な貴重品や危険物である場合には拾得者や功労者として謝礼を行う等の用途にも適用させることができる。