(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記エステル(a)は、カルボン酸を構成する成分の60質量%以上がヒドロキシステアリン酸であることを特徴とする請求項1に記載の電子写真用トナー用ワックス組成物。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
本発明に係る電子写真用トナー用ワックス組成物(以下、ワックス組成物と略す。)は特定の2種類のエステルの混合物からなる独自の組成物である。該ワックス組成物は、一般的な電子写真用トナーを構成するワックスとしてトナーを構成する結着樹脂に限定されることなく使用することができ、例えば、結着樹脂としてポリスチレン樹脂、ポリアクリル酸エステル樹脂、スチレン−アクリル酸エステル共重合体樹脂、スチレン−メタクリル酸エステル共重合体樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニリデン、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、脂環式オレフィン系樹脂等を単独もしくは複合して採用した電子写真用トナーに使用することで優れた効果を得ることができる。
【0018】
本発明に係るトナーは、結着樹脂と前記ワックス組成物とを含むことで格別顕著な効果を得ることができ、他に、必要に応じてその他の添加剤として着色剤、電荷制御剤、磁性体、別のワックス成分等を適宜添加することができる。
【0019】
以下、本発明に係るトナーの好適な材料として発明の実施の形態を詳細に説明するが、本発明は例示した材料に限定されるものではない。
【0020】
[A.ワックス組成物]
本発明におけるワックス組成物は、エステル(a)とエステル(b)との混合物からなる独自の組成物である。
【0021】
<エステル(a)>
エステル(a)は、水酸基1個を有する炭素数12〜24の直鎖飽和モノカルボン酸および炭素数12〜24の直鎖飽和モノカルボン酸からなる混合カルボン酸とグリセリンとのエステルである。
【0022】
前記水酸基1個を有する炭素数12〜24の直鎖飽和モノカルボン酸は、化学式
CH
3−[CH
2]
x−CHOH−[CH
2]
y−COOH
(ただし上式のx、yは、x+y=(炭素数)−3 を満足する0以上の整数である。)
で示され、例えばヒドロキシミリスチン酸、ヒドロキシパルミチン酸、ヒドロキシステアリン酸、ヒドロキシアラキジン酸、ヒドロキシベヘニン酸等が挙げられ、これらの中でも炭素数18であるヒドロキシステアリン酸がより好ましい。水酸基の位置は特に限定されないが、水酸基が12位についた12−ヒドロキシステアリン酸が好ましい。
【0023】
前記炭素数12〜24の直鎖飽和モノカルボン酸は、化学式
CH
3−[CH
2]
z−COOH
(ただし上式のzは、z=(炭素数)−2 を満足する正の整数である。)。
で示され、例えば、ラウリル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘニン酸、テトラコサン酸等が挙げられる。
【0024】
エステル(a)を構成するカルボン酸は、前記水酸基を有する炭素数18の直鎖飽和モノカルボン酸が60質量%以上で構成されていることが好ましく、65〜95質量%の範囲であれば更に好ましい。水酸基を有する炭素数18の直鎖飽和モノカルボン酸が60質量%以上であれば、トナーの離型性が良好となり、印刷画像において前記巻き付きや低温オフセットが発生しにくくなり好ましい。
【0025】
前記エステル(a)において、水酸基を有する直鎖飽和モノカルボン酸および水酸基を含まない直鎖飽和モノカルボン酸を骨格を構成する炭素数が12以上の場合には、トナーを温度50℃程度の温度環境で保存してもトナー粒子のブロッキングが発生しにくく、該炭素数が24以下の場合には、トナーの離型性が良好となり、印刷画像において前記巻き付きや低温オフセットが発生しにくくなり好ましい。さらに水酸基を有する直鎖飽和モノカルボン酸および水酸基を含まない直鎖飽和モノカルボン酸を骨格を構成する炭素数14〜22の直鎖飽和モノカルボン酸が、印刷画像において用紙の定着ロールへの巻き付き防止や低温オフセットの防止効果が顕著となるので好ましい。
【0026】
エステル(a)の酸価は、3mgKOH/g以下が好ましく、2mgKOH/g以下が更に好ましい。酸価が3mgKOH/g以下の場合には、帯電性や、高温保存時の安定性の点で好ましい。
【0027】
エステル(a)は、その調製方法に限定はなく、上記の要件を満たせばよいが、例えば、天然に存在するひまし油等の油脂を硬化、抽出、蒸留、ろ過、晶析、カラムクロマトグラフィー等の精製処理を単独もしくは複数組み合わせて行うことにより、分離したエステルを使用してもよい。また、単一組成のカルボン酸とグリセリンとを原料として、エステルを合成した後に、上記のカルボン酸組成を持つように各エステルを配合して調製する方法や、合成したエステルが上記のカルボン酸組成となるように、あらかじめ原料であるモノカルボン酸を調製した後に、エステル化して調製する方法等がある。エステル化を行う場合には、例えば、酸化反応による合成法、カルボン酸およびその誘導体からの合成、カルボン酸化合物とアルコール化合物からの脱水縮合反応を利用する方法、酸ハロゲン化物とアルコール化合物からの反応、エステル交換反応等の製造方法が挙げられる。反応の際には、触媒を使用してもよく、触媒としては、酸性またはアルカリ性触媒、例えば酢酸亜鉛、チタン化合物が挙げられる。反応する際には、原料カルボン酸と原料アルコールとの同量のモル比の反応、あるいは1成分を過剰に添加し反応させる。その後、再結晶法、蒸留法、溶剤抽出法などにより精製を行ってもよい。
【0028】
<エステル(b)>
エステル(b)は、価数4〜6の脂肪族多価アルコールと、炭素数14〜30の直鎖飽和モノカルボン酸とのエステルである。
【0029】
前記脂肪族多価アルコールは価数4〜6であることが必要である。価数が3以下ではトリエステルであるエステル(a)に対して優れた効果を付加することができず、価数が7以上では分子が嵩高くなりトナー粒子中に分散し難くなり、ともに本発明の効果が得られない。価数4〜6である脂肪族多価アルコールとしては、例えば、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン、ソルビタン、ソルビトール、キシリトール等が挙げられる。これらの中でも特にペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールは耐熱性が高いので好ましくいることができる。
【0030】
前記炭素数14〜30の直鎖飽和モノカルボン酸は、化学式
CH
3−[CH
2]
w−COOH
(ただし上式のwは、w=(炭素数)−2 を満足する正の整数である。)
で示され、例えば、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘニン酸、テトラコサン酸、ヘキサコサン酸、オクタコサン酸、トリアコンタン酸等が挙げられる。
【0031】
エステル(b)を構成するカルボン酸において、前記直鎖飽和モノカルボン酸の炭素数が14以上であれば、トナーを50℃程度の温度環境で保存してもトナーのブロッキングが発生しにくく、また印刷画像において十分な定着強度が得られるので好ましく、直鎖飽和モノカルボン酸の炭素数が30以下であれば、トナーの離型性が良好となり、印刷画像において前記巻き付きや低温オフセットが発生しにくくなり好ましい。
【0032】
さらに、エステル(b)を構成するカルボン酸が炭素数18〜22の直鎖飽和モノカルボン酸を65質量%以上含むとトナーの離型性を十分に得ることができ、印刷画像において巻き付き防止や低温オフセット防止の効果をさらに顕著に得ることができ、高温保存時の安定性がさらに向上し前記トナーのブロッキングが発生しにくくなり好ましい。
【0033】
エステル(b)の酸価は3mgKOH/g以下が好ましく、1mgKOH/g以下が更に好ましい。酸価が3mgKOH/g以下の場合には、帯電性や、高温保存時の安定性の点で好ましい。
【0034】
エステル(b)の水酸基価は5mgKOH/g以下が好ましく、4mgKOH/g以下が更に好ましい。水酸基価が5mgKOH/g以下の場合には、帯電性や、高温保存時の安定性の点で好ましい。
【0035】
エステル(b)は、その調製方法に限定はなく、上記の要件を満たせばよい。例えば、酸化反応による合成法、カルボン酸およびその誘導体からの合成、カルボン酸化合物とアルコール化合物からの脱水縮合反応を利用する方法、酸ハロゲン化物とアルコール化合物からの反応、エステル交換反応等の製造方法が挙げられる。反応の際には、触媒を使用してもよく、触媒としては、酸性またはアルカリ性触媒、例えば酢酸亜鉛、チタン化合物が挙げられる。反応する際には、カルボン酸とアルコールとの同量のモル比の反応、あるいは1成分を過剰に添加し反応させる。その後、再結晶法、蒸留法、溶剤抽出法などにより高純度化させてもよい。
【0036】
<ワックス組成物>
本発明のワックス組成物は、前記エステル(a)とエステル(b)との混合物であって、エステル(a)とエステル(b)との質量比は30:70以上60:40以下である。
【0037】
エステル(a)とエステル(b)との質量比が30:70よりも小さい場合には、定着温度付近の温度環境でトナーの溶融粘度が高めになりやすくトナーの離型性が不十分となり、印刷画像において用紙の定着ロールへの巻き付きや低温オフセットを防止する効果が得られにくくなる。
【0038】
エステル(a)とエステル(b)との質量比が60:40よりも大きい場合には、トナーを温度50℃程度の温度環境で保存した際にトナー粒子がブロッキングしてしまう恐れがあるとともに、トナーの流動性が低下してトナーの摩擦帯電が阻害されるために、画像濃度が低下したり廃トナーが増大したりする恐れがあるので好ましくない。
【0039】
本発明のワックス組成物を得る方法については特に限定されるものではないが、エステル(a)およびエステル(b)をそれぞれ調製して混合してもよい。その調製方法についても特に限定されるものではない。混合する場合、好ましくは、それぞれ別に調製したエステル(a)とエステル(b)とを透明融点以上の温度で加熱溶解して均一に混合した後、冷却固化して粉砕または造粒して製造する。
【0040】
本発明のワックス組成物には、必要に応じて酸化防止剤などの添加剤を適宜加えてもよい。
【0041】
本発明に係る電子写真用トナー用ワックス組成物のトナー粒子(外添剤を除く、以下同じ)中の含有量は、0.5〜10質量%の範囲が好ましく、より好ましくは0.7〜8質量%、さらに好ましくは1〜6質量%である。ワックスの添加量が前記範囲より多すぎると、トナーを温度50℃程度の温度環境で保存した際にトナー粒子のブロッキングが発生する恐れや、トナーの流動性が低下するためにトナーの帯電が不足して画像濃度が不足する等の恐れがある。ワックスの添加量が前記範囲より少なすぎると、トナーの離型性が不十分となりやすく、高温保存時においてトナーのブロッキングが発生する恐れがあり、印刷画像において巻き付きや低温オフセットが発生する恐れがある。
【0042】
[B.脂環式オレフィン系樹脂 ]
次に、脂環式オレフィン系樹脂について説明する。
本発明に係るトナーを構成する脂環式オレフィン系樹脂は、少なくとも1種類の環状オレフィンを含有し、下記の(重合体a)、(重合体b)、(重合体c)等が例示できる。
(重合体a)1種類の環状オレフィンを構成単位としている単独重合体
(重合体b)2種類以上の環状オレフィンを構成単位としている共重合体
(重合体c)環状オレフィンと非環式不飽和単量体とを構成単位としている共重合体
【0043】
前記環状オレフィンとしては、例えば、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテンなどの単環環状オレフィン又はこれらの誘導体、シクロペンタジエン、シクロヘキサジエン、シクロヘプタジエン、シクロオクタジエンなどの環状共役ジエン又はこれらの誘導体、ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、トリシクロデセン、テトラシクロドデセン、ヘキサシクロヘプタデセンなどの多環状オレフィン又はこれらの誘導体、ビニルシクロブタン、ビニルシクロブテン、ビニルシクロペンタン、ビニルシクロペンテン、ビニルシクロヘキサン、ビニルシクロヘキセン、ビニルシクロヘプタン、ビニルシクロヘプテン、ビニルシクロオクタン、ビニルシクロオクテンなどのビニル脂環式炭化水素又はこれらの誘導体、スチレンなどのビニル芳香族系単量体の芳香環部分の水素化物又はこれらの誘導体、などの、少なくとも1つの二重結合を有する環式および/又は多環式オレフィン系化合物が例示できる。これらの環状オレフィンは単独で又は2種類以上を組み合わせて使用できる。前記誘導体としては、アルキル置換体、アルキリデン置換体、アルコキシ置換体、アシル置換体、ハロゲン置換体、カルボキシル置換体等が挙げられる。脂環式構造を構成する炭素原子数は、成形性および透明性等の観点から、通常、4〜30個、好ましくは5〜20個、より好ましくは5〜15個程度である。
【0044】
前記非環式不飽和単量体としては、環状オレフィンと共重合可能な非環式不飽和単量体であれば特に制限されないが、オレフィン系単量体;アクリル酸系単量体;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチルなどのアクリル酸C
1−6アルキルエステルを含むアクリル酸エステル系単量体;メタクリル酸系単量体;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチルなどのメタクリル酸C
1−6アルキルエステルを含むメタクリル酸エステル系単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニル化エステル単量体;メタアクリロニトリルやアクリロニトリルなどのシアン化ビニル系単量体;ブタジエン、1,4−ペンタジエン、イソプレンなどのジエン系単量体、などが例示でき、これらの中でも特にオレフィン系単量体はトナーに柔軟性を付与して定着強度向上や低温オフセット防止の効果が期待できる点から前記非環式不飽和単量体としてより好ましい。これらの非環式不飽和単量体は単独で又は2種類以上組み合わせて使用してもよい。
【0045】
オレフィン系単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブチレン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン等のα−C
2−10オレフィン(好ましくはα−C
2−6オレフィン、さらに好ましくはα−C
2−4オレフィン)、イソブテン、イソプレンなどの分枝鎖状オレフィンなどが挙げられる。これらのオレフィン系単量体は、単独で又は2種類以上組み合わせて使用してもよい。これらのオレフィン系単量体のうち、エチレン、プロピレンが特に好ましい。
【0046】
非環式不飽和単量体を使用する場合の使用量は、環状オレフィン100モルに対して、100モル以下、好ましくは90モル以下、さらに好ましくは80モル以下程度の範囲から選択できる。
【0047】
環状オレフィンと非環式不飽和単量体とを構成単位としている共重合体は、例えばメタロセン系、チーグラー系触媒を用いた重合反応を用いて製造することができる。
【0048】
前記(重合体a)〜(重合体c)に示した脂環式オレフィン系樹脂の中でも、環状オレフィンと非環式不飽和単量体とを構成単位としている共重合体(重合体c)は、トナー熱特性の設計しやすさ、トナー製造時の溶融混練、粉砕、分級、外添の各工程における安定性および収率の高さ、トナー使用時の耐久性の高さの観点で有利であり、特に、不飽和二重結合が無く、無色透明で高い光透過率を有するものであるのが好ましい。具体的には環状オレフィンとしてノルボルネン、非環式不飽和単量体としてエチレン又はプロピレンを選択した共重合体(エチレン−ノルボルネン共重合体、プロピレン−ノルボルネン共重合体など)が特に好ましく使用できる。
【0049】
トナー用結着樹脂としての脂環式オレフィン系樹脂の分子量分布は、適宜設計事項であるが、分子量が比較的高い成分を一定範囲で含むと、トナー製造時の溶融混練物の成形性の良さ、樹脂の透明性の高さに起因するトナーの発色の良さの観点で有利となる場合がある。具体的には、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した数平均分子量(以下、Mnと略称する。)が4万以上の分子量体の含有率が10〜40質量%であり、かつMnが40万以上の分子量体の含有率が5〜20質量%であることが好ましい。
【0050】
また、脂環式オレフィン系樹脂において、低分子量成分と高分子量成分とを併用してよく混合した樹脂をトナーの結着樹脂として使用すると、その広い分子量分布によりトナーの定着温度幅を広くするのに有利となる場合がある。前記低分子量成分の平均分子量としては、Mnが7500未満、好ましくは1000〜7500、さらに好ましくは3000〜7500であって、重量平均分子量(以下、Mwと略称する。)が15000未満、好ましくは1000〜15000、さらに好ましくは4000〜15000の範囲である。前記高分子量成分の平均分子量としては、Mnが7500以上、好ましくは7500〜50000であって、Mwが15000以上、好ましくは15000〜100000の範囲である。トナーの結着樹脂の合計量中、前記脂環式オレフィン系樹脂の高分子量成分の含有量は、50質量%以下であることが低温定着における十分な定着強度を得るために好ましい。該低分子量成分の存在によりトナーの低温定着性および定着強度を向上する効果が期待でき、高分子量成分の存在により高温オフセットを防止する効果が期待できる。
【0051】
脂環式オレフィン系樹脂のガラス転移温度は、50〜200℃程度であり、用途や成形温度に応じて適宜選択できる。トナー用としては、50〜80℃、好ましくは50〜70℃、さらに好ましくは50℃〜65℃程度である。脂環式オレフィン系樹脂のガラス転移温度が80℃を越えて高いと、定着特性が悪化するとともに、剛性や耐衝撃性が高くなるためトナーの成形性も十分でない恐れがあり、50℃未満の場合は、定着特性が悪化するとともに、耐融着性が低下する恐れがある。
【0052】
脂環式オレフィン系樹脂が前記(c)環状オレフィンと非環式不飽和単量体とを構成単位としている共重合体である場合、そのガラス転移温度は環状オレフィンと非環式不飽和単量体との組成比で適宜設計することができ、トナーの熱特性を設計しやすい。
【0053】
本発明において、前記の特性を満足する脂環式オレフィン系樹脂は、他の樹脂を混合して用いてもよい。この場合、脂環式オレフィン系樹脂とその他の樹脂との使用割合は、脂環式オレフィン系樹脂とその他の樹脂との合計量中、脂環式オレフィン系樹脂が1〜100質量%、好ましくは20〜90質量%、さらに好ましくは50〜90質量%であり、脂環式オレフィン系樹脂が1質量%未満では低温定着における十分な定着強度を得ることが困難になる。
【0054】
その他の樹脂としては、ポリスチレン樹脂、ポリアクリル酸エステル樹脂、スチレン−アクリル酸エステル共重合体樹脂、スチレン−メタクリル酸エステル共重合体樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニリデン、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂等が挙げられ、特にトナーの定着性能を向上させる目的で、溶融開始温度(軟化点)ができるだけ低いもの(例えば120〜150℃)が好ましく、また、保存安定性を向上させるために、ガラス転移点が65℃以上の高いものが好ましい。
【0055】
トナーの結着樹脂が脂環式オレフィン系樹脂とその他の樹脂とで構成され、かつ前記低分子量成分と高分子量成分とを併用する場合、結着樹脂において前記脂環式オレフィン系樹脂の高分子量成分を50質量%以下とすれば低温定着における十分な定着強度を得ることができ好ましい。
【0056】
さらに、脂環式オレフィン系樹脂に溶融空気酸化法または無水マレイン酸変性等によりカルボキシル基を導入することにより、他の樹脂との相溶性、顔料の分散性を向上させることができる。また、水酸基、アミノ基を既知の方法により導入することによっても、同様の向上が実現できる。さらに、脂環式オレフィン系樹脂に、ノルボルナジエン、シクロヘキサジエン、テトラシクロドデカジエン等のジエンモノマーとの共重合により、あるいはカルボキシル基を導入した脂環式オレフィン系樹脂に、亜鉛、銅、カルシウム等の金属の添加により架橋構造を導入することにより、定着性を向上させることができる。
【0057】
[C.その他の成分]
<着色剤>
本発明で用いられる着色剤は、ブラック用顔料としてはランプブラック、サーマルブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック等のカーボンブラック、ニグロシン染料等が、マゼンタ用顔料としてはローズベンガル、デュポンオイルレッド、C.I.ピグメントレッド1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、21、22、23、30、31、32、37、38、39、40、41、48、49、50、51、52、53、54、55、57、58、60、63、64、68、81、83、87、88、89、90、112、114、122、123、163、202、206、207、209;C.I.ピグメントバイオレット19;C.I.バイオレット1、2、10、13、15、23、29、35等が、シアン用顔料としてはアニリンブルー、カルコオイルブルー、ウルトラマリンブルー、メチレンブルークロールイド、フタロシアニンブルー、C.I.ピグメントブルー2、3、15、16、17;C.I.バットブルー6;C.I.アシッドブルー45等が、イエロー用顔料としてはクロムイエロー、キノリンイエロー、C.I.ピグメントイエロ−1、2、3、4、5、6、7、10、11、12、13、14、15、16、17、23、65、73、74、83、93、97、128、155、180が単独もしくは混合されて用いられる。特に混色性が良く色の再現性に優れているためにフルカラー用として好ましい着色剤としては、マゼンタはC.I.ピグメントレッド57、122、シアンはC .I.ピグメントブルー15 、イエローはC.I.ピグメントイエロー17、93、155、180が挙げられる。
【0058】
着色剤の添加量は適宜設計事項であるが、例えば、トナー粒子(外添剤を除く)に対して0〜20質量%程度の割合で含有すればよく、3.0〜8.0質量%程度であれば印刷物において良好な呈色を得られる。8.0質量%を越えると、トナー粒子が光を隠ぺいしすぎてフルカラー印刷等において混色効果を得にくくなる傾向が顕著となりやすく、3.0質量%未満では印刷画像濃度が淡くなりやすい。また、フルカラー用トナーにおいて、顔料を予め結着樹脂と樹脂中に高濃度に分散させたマスターバッチを着色剤として使用すれば、トナー粒子中に顔料がより微細かつ均一に分散されるため印刷物の発色が良くなる効果を得やすくなる。
【0059】
<別のワックス成分>
本発明に係るトナーには、本発明に係る前記ワックス組成物を添加することが必要であるが、これに加えてトナーの溶融開始温度を低下させるとともに低温定着性をさらに良好に調節するため、本発明に係る電子写真用トナー用ワックス組成物とは別のワックス成分として、公知の合成ワックス、石油系ワックス等を必要に応じて適宜追加して含有させることができる。合成ワックスとしては、ポリプロピレンワックス、フィッシャートロプシュワックス等が挙げられ、石油系のワックスとしては、パラフィンワックス、マイクロワックス、ペトロタム等が挙げられる。また、カルナウバワックス、ライスワックス、キャンデリラワックス、ビーズワックス等の植物系、動物系天然ワックス、ステアリン酸アミド、ベヘニン酸アミド、エチレンビスステアリルアミド等の油脂系合成ワックス等を含有させてもよい。
【0060】
前記別のワックス成分のトナー粒子中の含有量は適宜設計事項であるが、0〜5質量%の範囲が好ましい。該ワックス成分の添加量が前記範囲より多すぎるとワックス成分が脱離しやすくなるため、トナー製造時には成型性が悪化する恐れがあり、トナー使用時には耐融着性、耐久性などが悪化する恐れがある。
【0061】
<電荷制御剤>
電荷制御剤は、トナーに極性を付与するために添加され、正帯電トナー用と負帯電トナー用とに分けられる。電荷制御剤としては公知のものを適宜添加することができ、特に制限するものではない。例えば、正帯電トナー用の電荷制御剤としては、ニグロシン染料、第4級アンモニウム塩、ビリジニウム塩およびアジン等を用いることができ、負帯電トナー用としては、例えばアゾ系含金属錯体やサリチル酸系金属錯体が用いられる。樹脂系の電荷制御剤を適宜用いることもできる。
【0062】
電荷制御剤の添加およびその量は適宜設計事項であるが、例えば、トナー粒子(外添剤を除く)に対して0.1〜5.0質量%である。0.1質量%未満では、トナーの帯電を安定的に制御することが困難であり、5.0質量%を越えるとトナー中に分散しにくくなりトナー粒子間の帯電量分布が広くなってしまうために印刷画像にカブリを生じる等の不具合が起こりやすくなる。本発明に係るトナーにおいて、ブラックトナー以外のトナーの成分として電荷制御剤を添加する場合には、色目への影響を考慮して無色あるいは淡色であることが好ましい。
【0063】
<外添剤>
外添剤は、トナーの流動性、帯電性、クリーニング性および保存性等の制御のためにトナー粒子の表面に付着させることによりトナー粒子を表面処理するものである。外添剤としては公知のものを適宜選択することができ、特に制限するものではない。例えば、シリカ、アルミナ、タルク、クレー、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化チタン、各種の樹脂などの微粒子が用いられる。外添剤の付着およびその量は適宜設計事項であるが、例えば、トナー粒子100質量部に対して後添加により0.01〜3質量部程度の割合で添加される。
【0064】
[トナーの製造]
本発明におけるトナーの製造は、溶融混練粉砕法、重合法など、公知のいかなる方法によっても構わないが、溶融混練粉砕法を用いるとトナー粒子中の材料の熱物性の制御、均一な混合、分散の制御がしやすいため、製造品にばらつきが生じにくく特に好ましい。
【0065】
溶融混練粉砕法では前記トナーの原材料に記した各成分を任意の比率で乾式混合し、熱溶融混練工程、粉砕工程、分級工程を経て粉体とし、さらに必要に応じて分級工程の前や後で外添剤を混合する等の粉体の表面処理を施すことにより、所望の粒子径および粒子形状のトナーを得ることができる。
【0066】
乾式混合の方法としては、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、リボンミキサーなどの攪拌機による方法を用いることができる。
【0067】
熱溶融混練の方法としては、2軸押出機による方法、バンバリーミキサーによる方法、加圧ロールによる方法、加圧ニーダーによる方法、オープンロール型連続混練機による方法などを用いることができる。特に、溶融混練物の成形性が良いとともに連続的な生産が可能である等の優位性から、1軸または2軸の連続式押出機による方法が好ましい。
【0068】
2軸押出機による方法では、結着樹脂、着色剤、およびその他の添加剤を乾式混合したものを、2軸押出機により溶融混練し、先端部より押出すことにより溶融混練物を得られる。2軸押出機の混練温度は50〜220℃、好ましくは70〜200℃程度である。
【0069】
粉砕の方法としては、ハンマーミル、カッターミルあるいはジェットミル等の粉砕機による公知の粉砕の方法を使用できる。分級の方法としては、乾式遠心分級機のような気流式分級機等を用いた公知の方法を使用できる。
【0070】
このようにして得られたトナーの体積平均粒子径は、通常、5〜10μm程度であり、好ましくは6〜9μmである。体積平均粒子径は、粒度分布測定装置(マルチサイザーII、ベックマン・コールター社製)を用いて測定した体積50%径である。
【0071】
さらに、トナー粒子の表面に前記外添剤を適宜付着させれば、トナー粒子に流動性、帯電性、保存性等の性能を付与できるので好ましい。外添の方法としてはトナーと外添剤とをタービン型攪拌機、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー等の攪拌機を用いて攪拌する公知の方法を使用すれば良い。
【0072】
本発明のトナーをフルカラー印刷用トナーもしくはカラー印刷用トナーとして使用する場合には、発色を妨げる磁性体等の有色成分をトナー粒子中に含まなくて済むことから、非磁性一成分現像方式用または二成分系現像方式用のトナーとして使用することが好ましい。本発明のトナーを黒色印刷用トナーとして使用する場合には、前記非磁性一成分現像方式または二成分系現像方式のトナーとしてだけでなく、磁性一成分現像方式用として磁性体を添加したトナーとして使用することも可能である。
【実施例】
【0073】
以下に本発明のワックス組成物の調製例およびそれを用いたトナーの製造方法を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【0074】
[I.エステルの製造および評価]
[I−1.エステル(a)の製造]
エステル(a)の実施例および比較例のためにエステルA−1〜10を調製した。
【0075】
[I−1−1.エステルA−1〜4、7、10]
グリセリンエステル市販品をエステルA−1として使用した。A−1はグリセリンの水酸基がエステル化されたエステルであり、カルボン酸組成、酸価、水酸価は表1に示した通りである。A−1と同様、A−2〜A−4、A−7、A−10もグリセリンのエステルであり、カルボン酸組成、酸価、水酸基価を表1に示した。
【0076】
[I−1−2.エステルA−5]
温度計、窒素導入管、攪拌機および冷却管を取り付けた4つ口フラスコに、カルボン酸612.0g(2.000mol)およびグリセリン61.4g(0.667mol)を加え、窒素気流下、220℃で反応水を留去しつつ、10時間常圧で反応を行った。130℃で濾過を行い、エステルワックス(エステルA−5)1085.8gを得た。このグリセリンエステルの酸価は0.8mgKOH/g、水酸基価は144mgKOH/gであった。
【0077】
[I−1−3.エステルA−6、8]
前記エステルA−5の製造で使用したカルボン酸に替えて表1に記載の各カルボン酸を各質量%値の比率で添加した以外は、前記エステルA−5の製造と同様の方法でエステルA−6、8を調製した。
【0078】
[I−1−4.エステルA−9の製造]
温度計、窒素導入管、攪拌機および冷却管を取り付けた4つ口フラスコに、カルボン酸600.0g(2.000mol)およびステアリルアルコール567.0g(2.100mol)を加え、窒素気流下、200℃で反応水を留去しつつ、12時間常圧で反応を行った。130℃で濾過を行い、エステルワックス(エステルA−9)1085.8gを得た。このエステルの酸価は5.0mgKOH/g、水酸基価は90mgKOH/gであった。
【0079】
[I−2.エステル(b)の製造]
エステル(b)の実施例および比較例のためにエステルB−1〜12を調製した。
【0080】
[I−2−1.エステルB−1の製造]
温度計、窒素導入管、攪拌機および冷却管を取り付けた4つ口フラスコに、ステアリン酸896.0g(3.155mol)およびペンタエリスリトール100.0g(0.734mol)を加え、窒素気流下、220℃で反応水を留去しつつ、15時間常圧で反応を行った。得られたエステル化粗生成物の量は930gであり、酸価10.0mgKOH/gであった。このエステル化粗生成物930gにトルエン186gおよびエタノール37g(エステル化粗成生物100質量部に対し、炭化水素溶媒は20質量部、分離用アルコール溶媒は4質量部)を入れ、エステル化粗生成物の酸価の1.5倍当量に相当する量の水酸化カリウムを含む10%水酸化カリウム水溶液を加え、70℃で30分間攪拌した。30分間静置して水層部を分離・除去した。廃水のpHが中性になるまで水洗を4回繰り返した。残ったエステル層を180℃、1kPaの減圧条件下で溶媒を留去し、濾過を行い、エステル(B−1)865gを得た。このエステルの酸価は0.1mgKOH/g、水酸基価は1.2mgKOH/gであった。
【0081】
[I−2−2.エステルB−2〜B−10、B−12の製造]
前記エステルB−1の製造で使用したステアリン酸に替えて表2に記載の各カルボン酸を各質量%値の比率で添加した以外は、前記エステルB−1の製造と同様の方法でエステルB−2〜B−10、B−12を調製した。
【0082】
[I−2−3.エステルB−11の製造]
温度計、窒素導入管、攪拌機および冷却管を取り付けた4つ口フラスコに、カルボン酸1182.4g(2.850mol)およびペンタエリスリトール100.0g(0.734mol)を加え、窒素気流下、240℃で反応水を留去しつつ、20時間常圧で反応させた。130℃で濾過を行い、エステルワックス(エステルB−11)1181.9gを得た。このエステルの酸価は0.9mgKOH/g、水酸基価は3.2mgKOH/gであった。
【0083】
[I−3.エステル(a)およびエステル(b)の評価]
前記エステル(a)およびエステル(b)について、以下の評価を行った。
(1)エステルの酸価:JOCS 2.3.1−96に準拠した。
(2)エステルの水酸基価:JOCS 2.3.6.2−1996に準拠した。
【0084】
以上のようにして得たエステル(a)の組成および評価結果を表1に示し、エステル(b)の組成および評価結果を表2に示した。
【0085】
【表1】
【0086】
【表2】
【0087】
[I−4.ワックス組成物の製造]
以下のようにして得たワックス組成物W−1〜W−25の組成を表3に示した。
【0088】
[I−4−1.ワックス組成物W−1の製造]
エステル(a)としてエステルA−1を42.0g、エステル(b)としてエステルB−1を58.0gをとり、合計100.0gとして100℃で加熱溶解して、均一になるように混合し、冷却・固化後粉砕してワックス組成物W−1を得た。
【0089】
[I−4−2.ワックス組成物W−2〜W−23、W−25の製造]
ワックス組成物W−1におけるエステル(a)、エステル(b)をそれぞれ表3に示した配合比率で合計100gとなるようにした以外は、ワックス組成物W−1と同様の方法で調製を行い、ワックス組成物W−2〜W−23、W−25を得た。
【0090】
[I−4−3.ワックス組成物W−24]
エステルA−10をそのままワックス組成物W−24として用いた。
【0091】
【表3】
【0092】
[II.トナーの製造および評価]
[II−1.トナーの製造]
[実施例1]
以下の配合比からなる原料をスーパーミキサーで混合し、二軸のエクストルーダーにて熱溶融混練後、ジェットミルにて粉砕し、その後乾式気流分級機で分級して体積平均粒径が9.0μmのトナー粒子を得た。トナー粒子のMnは4100、Mwは14000、Mw/Mnは3.41であった。トナーの組成比は配合比と同等であった。
・脂環式オレフィン系樹脂 91.0質量%
(TOPAS Advanced Polymers社製、Mw78000、Mn6500、Tg58℃、
商品名:TOPAS COC)
・ワックス組成物 W−1 3.0質量%
・電荷制御剤 2.0質量%
(ホウ素錯体粒子、商品名:LR−147、日本カーリット社製)
・顔料(マゼンタ色) 4.0質量%
(大日精化工業社製、キナクリドン系、商品名:ピグメント57−1)
【0093】
上記トナー粒子100質量部に対し疎水性シリカ(商品名:R972、日本アエロジル社製)0.3質量部を添加し、ヘンシェルミキサーにて周速40m/secで4分間混合し、実施例1のトナーT−1を得た。
【0094】
[実施例2〜16]および[比較例1〜9]
実施例1のトナーT−1におけるワックス組成物W−1の代わりにそれぞれW−2〜W−25からひとつ選択した以外は同一の製造方法にて、実施例2〜16のトナーT−2〜T−16、比較例1〜9のトナーT−17〜T−25をそれぞれ作製した。なお、比較例1〜3のトナーT−17〜T−19はエステル(b)成分における脂肪族多価アルコールの価数を本発明の数値範囲から逸脱させており、比較例4及び5のトナーT−20〜21はエステル(b)成分における直鎖飽和モノカルボン酸の炭素数を本発明の数値範囲から逸脱させており、比較例6、8〜9のトナーT−22、T−24〜T−25はエステル(a)成分とエステル(b)成分との質量比を本発明の数値範囲から逸脱させており、比較例7のトナーT−23はエステル(a)成分におけるアルコール成分を本発明に規定されるグリセリンに替えてステアリルアルコールとした。
【0095】
[参考例1〜4]
実施例1のトナーT−1における脂環式オレフィン系樹脂およびワックス組成物W−1の配合を、参考例1では93.5質量%および0.5質量%、参考例2では84.0質量%および10.0質量%、参考例3では93.7質量%および0.3質量%、参考例4では83.0質量%および11.0質量%、にした以外は同一の製造方法にて、参考例1〜4のトナーT−26、27、28、29をそれぞれ作製した。
【0096】
[II−2.トナーの評価]
次に前記トナーT−1〜T−29をそれぞれ沖電気社のフルカラープリンターMICROLINE3020Cの現像機に投入し、画像比率が5%のA4原稿をA4の市販のPPC用紙に10000枚まで中温中湿(N/N:20℃、58%RH)の環境下で定着ロール表面温度を150℃(オフセットの評価時は120℃、190℃)に設定して印刷し、それぞれのトナーを評価した。また、高温高湿の環境下で保存性を確認した。評価方法は下記のとおりである。
【0097】
[II−2−1.巻き付きの評価]
巻き付きは、トナーの離型性が悪い場合に、印刷時において定着ロールに印刷用紙が巻き付く現象である。巻き付き有無を目視確認して評価した。
○は印刷用紙の巻き付きが1回も発生していないもの、
×は印刷用紙の巻き付きが1回以上発生したものである。
【0098】
[II−2−2.定着強度の評価]
定着強度は、25mm×25mmのベタ画像を500g/cm
2の加圧で砂消しゴムで3往復擦り、擦る前の画像濃度Xと後の画像濃度Yをそれぞれマクベス反射濃度計RD−914で3回測定した平均値から下記式により求めた擦り定着強度(残存率%)で評価した。
擦り定着強度(残存率%)=Y/X×100
○は残存率%が90%以上であったもの、
×は残存率%が90%未満であったものである。
【0099】
[II−2−3.オフセットの評価]
オフセットは、低温オフセットおよび高温オフセットについて、それぞれ定着ロール表面温度を120℃および190℃に設定して印刷し、目視により定着機および画像を確認した。
○はオフセットが発生しなかったもの、
○△は50%未満の頻度でオフセットが発生したもの、
△×は50%以上80%未満の頻度でオフセットが時々発生したもの、
×はオフセットが80%以上の頻度で発生したものである。
【0100】
[II−2−4.感光体汚れ(トナー付着)の評価]
感光体汚れは目視により、感光体へのトナー付着の有無を確認した。
○はトナー付着が発生しなかったもの、
×はトナー付着が発生したものである。
【0101】
[II−2−5.保存性の評価]
保存性は、高温高湿(H/H:50℃、85%RH)で72時間保存した後のトナー粒子のブロッキングの有無を目視確認して評価した。
○はトナーのブロッキンングが発生しなかったもの、
△はトナーのブロッキンングが発生したものの、軽微であって指で押せば
簡単に崩れる程度であったもの、
×はトナーのブロッキンングが発生して固着したものである。
【0102】
以上の実施例および比較例のトナーT−1〜T−29について、原材料の配合比率を表4に示し、トナーの評価結果を表5にまとめた。
【0103】
【表4】
【0104】
【表5】
【0105】
表4のように、実施例1〜9、11、13のトナーは、定着強度、印刷用紙の定着ロールへの巻き付き、定着可能温度幅、保存性において優れていた。また、実施例10のトナーは、ワックス組成物中のエステル(b)成分の骨格を構成するカルボン酸の炭素数が16であり、最も好ましい18より小さいために高温オフセットが出現する場合があり、保存性もやや劣っていたが、定着可能温度幅としては実用上問題ないレベルであった。一方、実施例12のトナーは、ワックス組成物中のエステル(b)成分の骨格を構成するカルボン酸の炭素数が24であり、最も好ましい18より大きいために低温オフセットが出現する場合があったが、定着可能温度幅としては実用上問題ないレベルであり、他の特性は優れていた。
【0106】
また、実施例14のトナーはワックス組成物中のエステル(a)成分の骨格を構成するカルボン酸がヒドロキシステアリン酸に加えて水酸基を有さない炭素数が12と小さいカルボン酸をも含んでおり、保存安定性がやや劣っていたが、他の特性は優れていた。また、実施例15のトナーはワックス組成物中のエステル(a)成分の骨格を構成するカルボン酸に占めるヒドロキシステアリン酸の割合が60質量%であり、水酸基を有さないステアリン酸の割合が40質量%と多く、高温オフセットが出現する場合があったが、定着可能温度幅としては実用上問題ないレベルであり、他の特性は優れていた。一方、実施例16のトナーはワックス組成物中のエステル(a)成分の骨格を構成するカルボン酸がヒドロキシステアリン酸に加えて水酸基を有さない炭素数が24と大きいカルボン酸をも含んでおり、低温オフセットが出現する場合があったが、定着可能温度幅としては実用上問題ないレベルであり、他の特性は優れていた。
【0107】
これに対し、比較例1〜9のトナーは本願発明の範囲から外れていたために、実用上問題があった。
【0108】
さらに、参考例1のトナーは実施例1のトナーよりワックス成分が少なく低温オフセットが出現する場合があったが、実用上は問題ないレベルであった。また、参考例2のトナーは実施例1のトナーよりワックス成分が多く高温オフセットが出現する場合があったが、実用上は問題ないレベルであった。一方、参考例3及び4のトナーは、本発明の電子写真用トナーにおける好ましいワックス配合量を逸脱しているため、いずれかの評価項目において実用上問題があった。
【0109】
以上説明したように、本発明に係る電子写真用トナー用ワックス組成物を用いることにより、十分な画像濃度が得られるとともに、定着温度の低温化にも拘わらず高い定着強度を得ることができ、オフセットが発生しない定着温度幅を十分得ることができるという画期的効果を奏する本発明のトナーを提供することができる。本発明のトナーは十分な光沢度があることから、フルカラー印刷における発色性、混色性においても問題がなくフルカラー用トナーに好適に使用可能である。