(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5649606
(24)【登録日】2014年11月21日
(45)【発行日】2015年1月7日
(54)【発明の名称】置敷き床材
(51)【国際特許分類】
E04F 15/04 20060101AFI20141211BHJP
E04F 15/00 20060101ALI20141211BHJP
【FI】
E04F15/04 601Z
E04F15/00 601D
E04F15/04 F
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-74547(P2012-74547)
(22)【出願日】2012年3月28日
(65)【公開番号】特開2013-204312(P2013-204312A)
(43)【公開日】2013年10月7日
【審査請求日】2013年2月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000204985
【氏名又は名称】大建工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082429
【弁理士】
【氏名又は名称】森 義明
(74)【代理人】
【識別番号】100162754
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 真樹
(72)【発明者】
【氏名】秋山 明功
(72)【発明者】
【氏名】笹栗 章吾
(72)【発明者】
【氏名】吉田 貴信
【審査官】
五十幡 直子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−224548(JP,A)
【文献】
特開2000−167811(JP,A)
【文献】
特開2007−056561(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04F 15/00−15/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に表面化粧シートが貼着され、既設床面上に敷設された時、既設床面を保護する木質基材と、木質基材の裏面に貼着された裏打ちシートと、裏打ちシートの裏面に貼着され、既設床面に吸着する吸着層とで構成され、
表面化粧シートの透湿抵抗値が200m2・h・mmHg/g以上であり、
表面化粧シートと裏打ちシートの透湿抵抗値の差が400m2・h・mmHg/g以下であり、
総厚が3〜7mmであり、
表面化粧シートの透湿抵抗値が、裏打ちシートの透湿抵抗値よりも大きく設定されている事を特徴とする置敷き床材。
【請求項2】
木質基材は比重が0.60以上である中密度繊維板であることを特徴とする請求項1に記載の置敷き床材。
【請求項3】
吸着層がアクリル樹脂発泡体からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の置敷き床材。
【請求項4】
木質基材の四周に接合部が形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の置敷き床材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は既設の床材の上に敷設されて使用される置敷きタイプの簡易床材に関し、更に詳しくは敷設時に反りを生じることなく、既設床面の傷付き防止効果と本物感を伴った置敷き床材に係る。
【背景技術】
【0002】
オフィスなどで既設の床材の上にデスクを設置し、該床材上でキャスター付きの椅子を用いることが一般的に行われている。この場合、キャスター付きの椅子に腰掛けて長期間使用していると、既設床面上を回転や前後左右に繰り返して移動する硬いキャスターによって次第に丸いキャスター痕が付く。また、重い家具を該床材上に設置すると、その重みで圧痕が床材の表面に形成される。
【0003】
このような既設床面の傷付きを防止するために、カーペット、ラグ、下敷きボード、ウッドカーペット或いはチェアマット等を敷くことがある。しかし、カーペットやラグではキャスター付きの椅子や重い家具に対しての傷付き防止に対しては必ずしも十分であるとはいえない。
【0004】
そこで、置敷き床材として用いられる下敷きボードが提案された。この下敷きボードは、硬質塩化ビニルからなる硬質層の表裏両面に軟質塩化ビニルを張った3層構造のものである(先行文献1)。このものは表面の軟質層が塩化ビニルで形成されているため、その上を歩くと冷たくて足の裏に吸着するペタ付き感があり、足触り感が悪いという問題があるし、既設床面への吸着性も劣るためその上を歩行すると下敷きボードが既設床面に対して滑りやすいという問題もある。また、既設床面が木質系の場合、樹脂製の下敷きボードを敷設すると、材質が大幅に異なるためにこの部分が目立ってしまい、外観が悪いという問題もある。換言すれば、木質床材の上に敷くと木質床材の質感が壊され、クリア(透明)であっても住空間内で異質な存在感を出してしまっていた。
【0005】
置敷き床材と構成的に似たものとして特許文献2が挙げられる。このものは床をリフォームするときなど、床材を既存のフロア上に短時間で貼設できまた、既存の床面の一部分のみを貼り替えようとするときも、既存の床材の接合部を損傷することなく容易に貼り替えができる直貼り用床材である。その構成は、上層として化粧層が施された木質系基板、接着剤を介して木質系基板の下面に貼着される下層としての拘束材とで構成されている。木質系基板は、床材の芯材として機能し、3プライ〜7プライの合板、パーティクルボード、配向性ストランドボード、MDF(中密度繊維板)、無垢の木板或いはこれら2種以上を貼り合せたもので、厚さが2.5mmのものである。拘束材は、床下地面の形状に応じて馴染み変形して床下地面の不陸を吸収しまた、床材を低重心化させて床材の変位を抑えさらに、床下地面からの浮き上がりを抑止し床鳴りを防止して良好な歩行をもたらすべく機能するもので、塩化ビニル樹脂、ウレタン系樹脂、合成ゴム系樹脂、ポリエチレン系樹脂、オレフィン系樹脂のほか各種再利用プラスチック、更にはこれらに炭酸カルシウム、シリカ、アルミナ、カーボンブラック、金属粉或いは金属酸化物粉等の比重の高い無機質粉末を適宜混入したものが使用される。その厚さは1.0mmである。木質系基板の表面に施される化粧層は、天然木化粧単板、たとえば木目調印刷が施された化粧紙、塩化ビニル樹脂シートなどで、その厚さは0.3mmで、総厚は3.8mmである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10-137091
【特許文献2】特開2001-288880
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この特許文献2はリフォーム床材であって置敷き床材ではないが、仮に置敷き床材として用いた場合、上述のように0.3mmと薄い化粧層に対して1mmという厚い拘束層が設けられているため、表面側で乾燥しやすい木質系基板の表面側が、薄い化粧層を通して乾燥しやすく、或いは逆に湿気を吸収しやすく、その結果、拘束層側に比べて化粧層側が大きく伸縮し、その結果、反りを生じやすい。従って、両面テープなどで既設床面に固定せざるを得ない。
【0008】
本発明は、木質或いは樹脂床等の既設の床材上を椅子の固いキャスターや重い家具から保護すると共に意匠性の高いシートを表面にもってくることで、既設床面上に質感の高い木目調や石目調等のフロア空間を演出することが出来るようにするだけでなく、必要に応じて自由に取り外しや交換が出来、且つ、反りもない置敷き床材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は、
表面に表面化粧シート(2)が貼着され、既設床面(10)上に敷設された時、既設床面(10)を保護する木質基材(1)と、木質基材(1)の裏面に貼着された裏打ちシート(3)と、裏打ちシート(3)の裏面に貼着され、既設床面(10)に吸着する吸着層(4)とで構成され、
表面化粧シート(2)の透湿抵抗値が200m
2・h
・mmHg/g以上であり、
表面化粧シート(2)と裏打ちシート(3)の透湿抵抗値の差が400m
2・h
・mmHg/g以下であり、
総厚(T)が3〜7mmであ
り、
表面化粧シート(2)の透湿抵抗値が、裏打ちシート(3)の透湿抵抗値よりも大きく設定されている事を特徴とする置敷き床材(A)である。
【0010】
このような本発明の置敷き床材(A)を既設床面(10)上に施工することで、キャスター付きの椅子や重い家具等による既設床面(10)の傷付きを防止できるが、同時に、置敷き床材(A)の基材(1)を木質系とすることで、合成樹脂製のように踏んだ時に冷たく且つ足の裏の汗によるべとつき感や足ざわりの悪さがなく、しかも、上記合成樹脂製のように既設床面(10)と異質であって目立つため、意匠性に劣るということもない。また、吸着層(4)により既設床面(10)に置敷き床材(A)が高い摩擦力を持って吸着するため、その上を歩行したり運動したりしても置敷き床材(A)がずれるというようなこともない。しかも単に吸着しているだけであるから、置敷き床材(A)の端を持って引き上げれば容易に剥がすことができる。また、透湿抵抗を上記のような値にすることで、総厚(T)が3〜7mmと非常に薄い場合で、既設床面(10)に載せ置くだけの場合でも、反りを発生しない。
【0011】
請求項2に記載の発明は木質基材(1)に関し、「木質基材(1)は比重が0.60以上である中密度繊維板である」ことを特徴とするもので、上記密度以上であれば、置敷き床材(A)上に物を落としても木質基材(1)がその衝撃を吸収して既存床面(10)を傷付けない。
【0012】
請求項3に記載の発明は吸着層(4)に関し、「吸着層(4)がアクリル樹脂発泡体からなる」ことを特徴とするもので、アクリル樹脂発泡体で形成された吸着層(4)は、既設床面(10)への固定、取り外しが容易に行え、取り外し後も既設床面(10)の表面のべとつきや汚れもない。
【0013】
請求項4に記載の発明は木質基材(1)に関し、「木質基材(1)の四周に接合部(5)が形成されている」ことを特徴とするもので、木質基材(1)の四周に接合部(5)を有する場合には並べて置いた置敷き床材(A)同士も面一に敷設することができ、僅かに下地である既設床面(10)に不陸があっても隣接の置敷き床材(A)同士には段差が発生しない。
【発明の効果】
【0014】
以上のように本発明の置敷き床材(A)を既設床面(10)上に施工することで、3〜7mmと薄いにも拘わらず、既設床面(10)の傷付きを防止、足ざわりの悪さ、意匠性の劣化、歩行中のずれ、反りの発生も解消できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の置敷き床材のハッチングを省略した断面図である。
【
図2】本発明の他の置敷き床材のハッチングを省略した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を図示実施例に従って詳述する。本発明の置敷き床材(A)は、表面に表面化粧シート(2)が貼着された木質基材(1)と、木質基材(1)の裏面に貼着された裏打ちシート(3)と、裏打ちシート(3)の裏面に貼着され、既設床面(10)に吸着する吸着層(4)とで構成され、全体の厚み(T)が3〜7mmである。
【0017】
木質基材(1)は、互いに対向する2つの長辺と、互いに対向する2つの短辺とを有する平面視略四角形の長尺板状のもので、
図1ように、四辺に実を設けない形としてもよいが、
図2のように、その少なくとも一長辺および短辺には、雄実5を形成し、他方の長辺および短辺には、該雄実5と嵌合する雌実6を形成するようにしてもよい。その厚みは、2.7〜5.5mm程度の例えばMDF(中密度繊維板)が使用される。使用するMDFの密度としては、0.35〜0.80g/cm
2が該当するが、後述するように、最適な密度としては0.60〜0.80g/cm
2となる。密度が低いとキャスターの押圧時に置敷き床材(A)の表面に凹みが目立ち、逆に密度が高すぎると、重量物を落とした時にその衝撃が置敷き床材(A)を突き抜けて既設床面(10)に衝撃を与えて既設床面(10)に凹みを生じさせてしまう。なお、木質基材(1)の上面には、一般的な「表面仕上げ」としての化粧シート(2)が貼着されている。
【0018】
表面化粧シート(2)は、木目、石目、抽象柄、ベース色のシート、例えばインクジェットプリント等によるダイレクト印刷によって様々な模様が印刷される。材質はオレフイン、PVC、PET等の一般的な樹脂シートで、厚みは0.13〜1.0mmのもの、通常は0.26mmのものが使用されるが、0.13mm以下というように薄すぎると木質基材(1)の繊維が目立ち、逆に、1.0mm以上というように厚すぎると置敷き床材(A)に反りが発生する原因となる。これらのシート(2)は透湿抵抗を有する。
【0019】
裏打ちシート(3)は、樹脂製の薄いシートで、表面化粧シート(2)と裏打ちシート(3)が後述する範囲内の透湿抵抗を持つ。同程度である事が反り防止に対してより好ましい。裏打ちシート(3)にある程度高い防湿性を付与することにより、表面化粧シート(2)側の反りを打ち消すことができる。
【0020】
表面化粧シート(2)と裏打ちシート(3)における透湿抵抗値であるが、木質基材(1)の表裏両面に設ける両シート(2)(3)の透湿抵抗値の差は400m
2・h
・mm
Hg/g以下であり、且つ、表面化粧シート(2)の透湿抵抗値が200m
2・h・mmHg/g以上であることが好ましい。表裏のシート(2)(3)の透湿抵抗値の差が大であると、木質基材(1)の表裏からの水分の出入りのバランスが崩れて水分の減った側が収縮して反ってしまうことになる。木質基材(1)の表面(表面化粧シート(2))側は一般的に空調で強制的に乾燥させられたり、日光が当って乾燥し易く、裏面(裏打ちシート(3))側よりも含水率が下がって収縮し易くなる。従って、表面側はあまり透湿抵抗が低いと水分が蒸発し易くなり反り易くなる。逆に、梅雨など湿気の高い日が続いたり、甚だしくは、水をこぼして表面側を濡らした場合、表面側が裏面側より伸びることになり、いずれにしても水分バランスが崩れて反りを生じやすくなる。
【0021】
吸着層(4)はシート状部材で、所定の柔軟性を有していて既設床面(10)に吸着して高い摩擦力を示すものであればよい。即ち、既設床面(10)を吸着する「吸着機能」を有することが好ましい。そして、吸着層(4)の下面すなわち吸着面には、長手方向へ延びる複数の浅い条溝(4m)が互いに間隔を隔てて平行に形成されている。そして、この吸着層(4)が裏打ちシート(3)を介して木質基材(1)の下面に接着剤等によって接合されている。なお、吸着層(4)の木質基材(1)側への接着面には、薄い不織布(4a)が全面的、且つ、一体的に設けられており、厳密に言えば薄い不織布(4a)を介して吸着層(4)が木質基材(1)の下面に接着されていることになる。薄い不織布(4a)の効果としては、若干のクッション性向上に寄与する。
【0022】
吸着層(4)の材質としては、下面すなわち吸着面に無数の微細穴(4k)が開口されており、且つ、この実施例では、発泡倍率2〜3倍のアクリル系重合体からなるアクリル樹脂発泡体が用いられている。従って、吸着層(4)においては、各微細穴が「吸盤」として機能することとなり、置敷き床材(A)を既設床面(10)に押圧して各微細穴(4k)から空気を追い出すことによって、既設床面(1)に対する吸着力を発生させることができる(
図1の拡大図参照)。
【0023】
なお、吸着層(4)がアクリル樹脂発泡体で構成されている場合には、その厚さは0.5〜1mmの範囲内であることが望ましい。その厚さが0.5mmより薄いと、柔軟性が損なわれて「弾力性」や「衝撃吸収機能」を発揮できず、「軽量床衝撃音性能」や「吸着性」を低下させるからである。一方、その厚さが1mmよりも厚いと、置敷き床材(A)の総厚(T)が大きくなり過ぎるからである。
【0024】
また、吸着層(4)がアクリル樹脂発泡体で構成されている場合には、その密度は0.1〜0.5g/cm
3の範囲内であることが望ましい。その密度が0.1g/cm
3より小さいと、強度が低下して耐久性が損なわれることがあり、その密度が0.5g/cm
3より大きいと、微細穴の数が減少して吸着力が損なわれることがあるからである。なお、吸着層(4)の吸着面には、「離型紙」であるポリプロピレン等の合成樹脂によって形成されている保護シートが張り付けられている。
【0025】
保護シートを剥いでからこの置敷き床材(A)を必要範囲で隙間なく既設床面(10)に並べ(実(5)(6)を有するものは実結合して必要範囲で隙間なく既設床面(10)に並べ)、上から押圧して各微細穴から空気を追い出すことによって、既設床面(1)に吸着させる。この状態で、置敷き床材(A)の上に重い家具を置いても木質基材(1)がこれを受け止めて既設床面(10)の傷付きを防止する。また、この上をキャスター付き椅子が回転や移動を繰り返しても同様に木質基材(1)がこれを受け止めて既設床面(10)の傷付きを防止する
【0026】
また、このように敷設された置敷き床材(A)において、木質基材(1)の表裏に前述のようなシート(2)(3)が全面に亙って設けられているので、エアコン環境や直射日光が当たっても、或いは湿気の高い日が続いたり、水をこぼしたとしても木質基材(1)表裏の湿度差が過大になることはなく、単に既設床面(10)上に並べただけであるにも拘わらず反りを生じることはない。なお、置敷き床材(A)の全体の厚み(T)が3〜7mmと薄いので、歩行者が置敷き床材(A)の角に蹴躓くことがない。なお、防水防滑シート(7)を既設床面(10)に敷設し、その上に置敷き床材(A)を敷いてもよい。
【0027】
(1) 反り量の変動値推移(裏打ちシート(PVC)厚は0.36mm)
【0029】
検討:表裏の透湿抵抗の差が小さい水準の方が、反りが小さくなる傾向が見られた。実施例2のオレフィンシートを使用して施工試験を行った場合、上記と同様の温湿度変化で外観上問題は見られなかった。また、凸反り傾向の場合も環境試験で問題は発生しない。以上のことから、表裏の透湿抵抗の差は400m
2・h・mmHg/g以下程度が望ましい。
【0030】
(2) 既設床面の落球凹み試験
既設床面の上に吸着材を介して比重の異なるMDFを積層し、落球試験をした。
落球の重量約530g、直径約51mmの鋼鉄製球体を75cm高さから落下させた際の凹みを測定。(JIS A 1408から準拠)
経験上、耐傷性の基準として凹み量0.15mm以下が耐傷性ありと判断した。
【0033】
結果と考察
・MDFの比重が0.60未満になると、上貼りフロアの傷付きが目立ち始めるため、最適な範囲は比重0.60以上である。但し、0.60でも下地の保護効果は有り、そういう観点では、0.60でも問題は無い。比重の上限は特に設定する必要は無いと考えられる。
【符号の説明】
【0034】
(A)置敷き床材 (T)総厚 (1)木質基材 (2)表面化粧シート (3)裏打ちシート (4)吸着層 (10)既設床面