特許第5649674号(P5649674)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5649674インクジェットインク用顔料分散液、活性エネルギー線硬化型インクジェットインク、及び印刷物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5649674
(24)【登録日】2014年11月21日
(45)【発行日】2015年1月7日
(54)【発明の名称】インクジェットインク用顔料分散液、活性エネルギー線硬化型インクジェットインク、及び印刷物
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/326 20140101AFI20141211BHJP
   C09D 11/38 20140101ALI20141211BHJP
   C09D 17/00 20060101ALI20141211BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20141211BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20141211BHJP
【FI】
   C09D11/326
   C09D11/38
   C09D17/00
   B41M5/00 E
   B41J2/01 501
【請求項の数】4
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2013-20835(P2013-20835)
(22)【出願日】2013年2月5日
(65)【公開番号】特開2013-177580(P2013-177580A)
(43)【公開日】2013年9月9日
【審査請求日】2014年7月10日
(31)【優先権主張番号】特願2012-23439(P2012-23439)
(32)【優先日】2012年2月6日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183923
【氏名又は名称】株式会社DNPファインケミカル
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】井島 由紀子
(72)【発明者】
【氏名】杉田 行生
【審査官】 牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−311021(JP,A)
【文献】 特開2009−013228(JP,A)
【文献】 特開2013−147023(JP,A)
【文献】 Technical Data Sheet of BYKJET-9150,[online],2011年,[検索日 2013.03.22], インターネット<URL:http://www.byk.com/en/additives/additives-by-name/bykjet-915>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00〜11/54
B41J 2/01〜 2/21
B41M 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料と、顔料分散剤と、エチレン性不飽和二重結合を有する化合物と、ポリアルキレンオキシド鎖及び/又は炭素数が12以上の脂肪族炭化水素鎖を有する化合物であって、アミド基を含んでいてもよく、末端がアミノ基であってもよく、当該アミノ基が塩を形成していてもよい化合物とを含有し、
前記エチレン性不飽和二重結合を有する化合物を分散媒とし、
前記顔料分散剤が、アミン価が20mgKOH/g以下、且つ、酸価が10mgKOH/g以下であって、スチレン由来の繰り返し単位と、炭素数が12以上の不飽和脂肪酸由来の繰り返し単位と、エチレン性不飽和二重結合を有するポリアルキレンオキシド由来の繰り返し単位とを有し、前記炭素数が12以上の不飽和脂肪酸由来の繰り返し単位1モルに対して、前記スチレン由来の繰り返し単位数が1〜10モルであり、前記エチレン性不飽和二重結合を有するポリアルキレンオキシド由来の繰り返し単位数が10〜60モルである共重合体、前記共重合体のアルカリ金属塩、前記共重合体のアルカリ土類金属塩、前記共重合体のアンモニウム塩、及び前記共重合体のアミン誘導体よりなる群から選択される1種以上を含み、
前記ポリアルキレンオキシド鎖及び/又は炭素数が12以上の脂肪族炭化水素鎖を有する化合物が、ポリアルキレンオキシド鎖を有し、片側末端にアミノ基を有する化合物及び、炭素数12以上の脂肪族炭化水素鎖を有し、当該脂肪族炭化水素鎖が脂肪酸由来であって片側末端にアミノ基を有する化合物より選択される1種以上であり、
前記ポリアルキレンオキシド鎖及び/又は炭素数が12以上の脂肪族炭化水素鎖を有する化合物の含有量が、前記顔料分散剤100質量部に対して、10〜50質量部である、インクジェットインク用顔料分散液。
【請求項2】
前記エチレン性不飽和二重結合を有する化合物の1g当たりの不飽和二重結合当量が100〜300g/eqで、且つ、酸価がアクリル酸換算で0.1質量%以下である、請求項1に記載のインクジェットインク用顔料分散液。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のインクジェットインク用顔料分散液と、光重合開始剤とを含有する、活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物。
【請求項4】
被記録媒体上に、請求項3に記載の活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成部を硬化させて形成された層を有する印刷物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットインク用顔料分散液、活性エネルギー線硬化型インクジェットインク、及び当該インクジェットインクを硬化させて形成された層を有する印刷物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、活性エネルギー線を用いたインクジェット印刷方式が活発に研究されている。この方式は、液状のインクを紙、プラスチックなどに塗布したのち、例えば紫外線を照射することにより、硬化・架橋させる方式であり、従来の熱で乾燥させるインクジェット印刷方式とは異なり、速乾性があり、無溶剤で、インクを吸収しない媒体への印刷が可能であるなどの利点がある。また、インクジェット方式は、印刷時に版を必要とせず、必要とされる画像部のみにインクを吐出し、被記録媒体上に直接画像形成を行うため、インクを効率よく使用でき、活性エネルギー線を用いたインクジェット印刷方式は注目されている。
【0003】
活性エネルギー線硬化型インク組成物は、通常、溶媒を用いないため、当該インク組成物中の重合性化合物を分散媒として顔料を分散する場合が多い。このため、従来のような溶媒を含むインク組成物よりも粘度が高くなる場合が多く、インクの経時安定性を保つことが困難であった。
【0004】
特許文献1には、C.I.ピグメントイエロー150を含む顔料分散体の粘度の経時安定性を向上する手法として、櫛型骨格を持つ塩基性顔料分散体を含む顔料分散体が記載されている。
また、特許文献2には、酸価とアミン価の両方をもち、かつ酸価がアミン価よりも大きい分散剤を用いた活性光線硬化型インクジェットインクが記載されている。引用文献2の手法によれば、高精細な画像を再現性よく安定に記録することができると記載されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に記載のインクジェットインクは、加熱時における粘度安定性が悪いという問題があった。また、インクジェットヘッドのノズルプレート部のようなインク吐出面に、付着、或いは残留しやすく、飛行曲がりやノズル詰まりが生じやすいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−195694号公報
【特許文献2】特許第4748063号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、常温保管時のみならず高温下においても長期間安定で、インク吐出面に対する撥液性を向上するインクジェットインク用顔料分散液、常温保管時のみならず高温下においても長期間安定で、インク吐出面に対する撥液性が良好で、インクジェットの目詰まりが生じにくい活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物、並びに、当該活性エネルギー線硬化型インクジェット組成物を用いることにより、均質で再現性の高いインク層を有する印刷物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るインクジェットインク用顔料分散液は、顔料と、顔料分散剤と、エチレン性不飽和二重結合を有する化合物と、ポリアルキレンオキシド鎖及び/又は炭素数が12以上の脂肪族炭化水素鎖を有する化合物であって、アミド基を含んでいてもよく、末端がアミノ基であってもよく、当該アミノ基が塩を形成していてもよい化合物とを含有し、
前記エチレン性不飽和二重結合を有する化合物を分散媒とし、
前記顔料分散剤が、アミン価が20mgKOH/g以下、且つ、酸価が10mgKOH/g以下であって、スチレン由来の繰り返し単位と、炭素数が12以上の不飽和脂肪酸由来の繰り返し単位と、エチレン性不飽和二重結合を有するポリアルキレンオキシド由来の繰り返し単位とを有し、前記炭素数が12以上の不飽和脂肪酸由来の繰り返し単位1モルに対して、前記スチレン由来の繰り返し単位数が1〜10モルであり、前記エチレン性不飽和二重結合を有するポリアルキレンオキシド由来の繰り返し単位数が10〜60モルである共重合体、前記共重合体のアルカリ金属塩、前記共重合体のアルカリ土類金属塩、前記共重合体のアンモニウム塩、及び前記共重合体のアミン誘導体よりなる群から選択される1種以上を含み、
前記ポリアルキレンオキシド鎖及び/又は炭素数が12以上の脂肪族炭化水素鎖を有する化合物が、ポリアルキレンオキシド鎖を有し、片側末端にアミノ基を有する化合物及び、炭素数12以上の脂肪族炭化水素鎖を有し、当該脂肪族炭化水素鎖が脂肪酸由来であって片側末端にアミノ基を有する化合物より選択される1種以上であり、
前記ポリアルキレンオキシド鎖及び/又は炭素数が12以上の脂肪族炭化水素鎖を有する化合物の含有量が、前記顔料分散剤100質量部に対して、10〜50質量部であることを特徴とする。
【0010】
本発明に係るインクジェットインク用顔料分散液においては、前記エチレン性不飽和二重結合を有する化合物の1g当たりの不飽和二重結合当量が100〜300g/eqで、且つ、酸価がアクリル酸換算で0.1質量%以下であることが、常温保管時、及び高温下において、粘度を長期間安定なものとする点から好ましい。不飽和二重結合当量が小さいとインクジェット部材に対する腐食性が高くなり、大きいと粘度が高くなるため吐出安定性が悪くなる恐れがある。また、酸価が高くなると、長期保管や加熱時にゲル化や増粘してしまう恐れがある。
【0011】
本発明に係る活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物は、前記本発明に係るインクジェットインク用顔料分散液と、光重合開始剤とを含有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、被記録媒体上に、前記本発明に係る活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物を硬化させて形成された層を有する印刷物を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、常温保管時のみならず高温下においても長期間安定で、インク吐出面に対する撥液性を向上するインクジェットインク用顔料分散液、常温保管時のみならず高温下においても長期間安定で、インク吐出面に対する撥液性が良好で、インクジェットの目詰まりが生じにくい活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物、並びに、当該活性エネルギー硬化型インクジェット組成物を用いることにより、均質で再現性の高いインク層を有する印刷物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳しく説明する。
なお、本発明において(メタ)アクリロイルとは、アクリロイル及び/又はメタクリロイルを意味し、(メタ)アクリルとは、アクリル及び/又はメタクリルを意味し、(メタ)アクリレートとは、アクリレート及び/又はメタクリレートを意味する。
また、本発明において、活性エネルギー線とは、可視及び非可視領域の波長の電磁波のみならず、電子線のような粒子線、及び、電磁波と粒子線を総称する放射線又は電離放射線が含まれる。
【0015】
<インクジェットインク用顔料分散液>
本発明に係るインクジェットインク用顔料分散液は、顔料と、顔料分散剤と、エチレン性不飽和二重結合を有する化合物とを含有し、前記顔料分散剤が、アミン価が20mgKOH/g以下、且つ、酸価が10mgKOH/g以下であって、スチレン由来の繰り返し単位と、炭素数が12以上の不飽和脂肪酸由来の繰り返し単位と、エチレン性不飽和二重結合を有するポリアルキレンオキシド由来の繰り返し単位とを有する共重合体、前記共重合体のアルカリ金属塩、前記共重合体のアルカリ土類金属塩、前記共重合体のアンモニウム塩、及び前記共重合体のアミン誘導体よりなる群から選択される1種以上を含むことを特徴とする。
【0016】
本発明のインクジェットインク用顔料分散液は、実質的に溶剤を含有しないにもかかわらず、常温保管時のみならず高温下においても経時安定性に優れている。また、上記本発明のインクジェットインク用顔料分散液を用いた活性エネルギー線硬化性インクジェットインク組成物は、インク吐出面に対する撥液性が良好になり、インクジェットの目詰まりが生じず、吐出安定性に優れている。更に、当該インクジェットインク組成物を硬化させて形成されたインク層は再現性が高く、均質なものとなるため、品質の高い印刷物を得ることができる。
【0017】
上記特定の組み合わせにより、上記のような効果を発揮する作用としては、未解明であるが以下のように推定される。
活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物は、通常溶媒を用いないため、重合性モノマーが分散媒としての役割を担っている。重合性モノマーを分散媒とする顔料分散液においては、当該重合性モノマーの重合反応等が徐々に進行し、保存下で粘度が上昇するという問題があった。特に、分散時の摩擦による昇温や、加熱条件下で使用することによりゲル化が発生したり、分散安定性が悪くなって粘度が上昇するという問題があった。通常、顔料分散剤は塩基性基や酸性基などの極性基が比較的多く含まれ、電気的反発により分散安定性を保っている。しかしながら、加熱条件下では、当該極性基がモノマーの重合反応を引き起こすため、ゲル化が発生したり、分散安定性が特に悪くなるものと推定される。
本発明のインクジェットインク用顔料分散液は、重合性モノマーであるエチレン性不飽和二重結合を有する化合物を分散媒とし、顔料分散剤として、スチレン由来の繰り返し単位と、炭素数が12以上の不飽和脂肪酸由来の繰り返し単位と、エチレン性不飽和二重結合を有するポリアルキレンオキシド由来の繰り返し単位とを有する共重合体、前記共重合体のアルカリ金属塩、前記共重合体のアルカリ土類金属塩、前記共重合体のアンモニウム塩、及び前記共重合体のアミン誘導体よりなる群から選択される1種以上を組み合わせて用いる。当該顔料分散剤は、スチレン由来の芳香環及び炭素数が12以上の不飽和脂肪酸の極性基などが、酸塩基相互作用やπ−π相互作用により、顔料に吸着するものと推定される。一方、ポリアルキレンオキシド鎖は、分散媒となるエチレン性二重結合を有する化合物との相溶性に優れている。このように、ポリアルキレンオキシド鎖の立体保護層により分散安定性を保つとともに、スチレン由来の芳香環や炭素数が12以上の不飽和脂肪酸由来の脂肪酸が吸着して顔料を覆っている。また、本発明において顔料分散剤は、アミン価が20mgKOH/g以下、且つ、酸価が10mgKOH/g以下と、酸性基及び塩基性基が少ない低極性の顔料分散剤である。このため、加温した場合や、長期間保存した場合であっても極性基を誘因としたエチレン性不飽和二重結合の重合反応の促進を抑制ないし低減できると推定される。その結果、加温した場合や、長期間保存した場合であっても、粘度変化が小さいものと推定される。
また、上記のような低極性の顔料分散剤を用いることにより、インクジェットヘッドのインク吐出面に対する付着も少なく、撥液性に優れるものと推測される。
【0018】
本発明に係るインクジェットインク用顔料分散液は、少なくとも、顔料と、顔料分散剤と、エチレン性不飽和二重結合を有する化合物とを含有するものであり、必要に応じて他の成分を含有しても良いものである。
以下、このような本発明のインクジェットインク用顔料分散液の各成分について順に詳細に説明する。
【0019】
(顔料)
本発明において顔料は特に限定されず、従来インクジェットインクに使用されている顔料、例えば、酸化チタン、炭酸カルシウム、マイクロシリカ等の無彩色の無機顔料、又は有彩色の有機顔料等が挙げられる。これらは1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。具体的な有機顔料としては、例えば、不溶性アゾ顔料、溶性アゾ顔料、染料からの誘導体、フタロシアニン系有機顔料、キナクリドン系有機顔料、ペリレン系有機顔料、イソインドリノン系有機顔料、ピランスロン系有機顔料、チオインジゴ系有機顔料、縮合アゾ系有機顔料、ベンズイミダゾロン系有機顔料、キノフタロン系有機顔料、イソインドリン系有機顔料、その他の顔料として、カーボンブラック、ニッケルアゾエロー、ジオキサジンバイオレット等が挙げられる。
有機顔料をカラーインデックス(C.I.)ナンバーで例示すると、C.I.ピグメントイエロー1、2、3、12、13、14、16、17、20、24、73、74、75、83、93、95、97、98、109、110、114、117、120、125、128、129、130、137、138、139、147、148、150、151、153、154、155、166、168、180、185、213、214
C.I.ピグメントレッド5、7、9、12、48、49、52、53、57、97、112、122、123、149、168、177、180、184、192、202、206、209、215、216、217、220、223、224、226、227、228、238、240、254、
C.I.ピグメントオレンジ16、36、43、51、55、59、61、
C.I.ピグメントバイオレット19、23、29、30、37、40、50、
C.I.ピグメントブルー15、15:1、15:3、15:4、15:6、16、22、60、64、
C.I.ピグメントグリーン7、36、58
C.I.ピグメントブラウン23、25、26等が挙げられる。
【0020】
また、前記無機顔料の具体例としては、酸化チタン、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、亜鉛華、硫酸鉛、黄色鉛、亜鉛黄、べんがら(赤色酸化鉄(III))、カドミウム赤、群青、紺青、酸化クロム緑、コバルト緑、アンバー、チタンブラック、合成鉄黒等を挙げることができる。この他にアルミペースト、合成マイカを挙げることができる。
【0021】
顔料の分散粒径は、所望の発色が可能なものであればよく、特に限定されない。用いる顔料の種類によっても異なるが、顔料の分散性及び分散安定性が良好で、充分な着色力を得る点から、メジアン径が10〜300nmの範囲内であることが好ましく、20〜250nmであることがより好ましい。メジアン径が上記の上限値以下であれば、インクジェットヘッドのノズル目詰まりを起こしにくく、再現性の高い均質な画像を得ることができ、得られる印刷物を高品質のものとすることができる。
なお、上記顔料の分散粒径は、分散体中に分散している顔料粒子の分散粒径であって、レーザー光散乱粒度分布計により測定されるものである。レーザー光散乱粒度分布計による粒径の測定としては、分散体の分散媒として用いられるモノマー等で、分散体をレーザー光散乱粒度分布計で測定可能な濃度に適宜希釈(例えば、1000倍など)し、レーザー光散乱粒度分布計(例えば、大塚電子株式会社製、濃厚系粒径アナライザーFPAR−1000等)を用いて動的光散乱法により23℃にて測定することができる。
【0022】
本発明において、顔料の含有量は適宜調整されればよい。顔料の種類によっても異なるが、インクジェットインク用顔料分散液全体における、顔料の含有量は、分散性と着色力を両立する点から、5〜60質量%が好ましく、10〜50質量%がより好ましい。分散性と着色力を両立する点から、有機顔料の場合、中でも、5〜30質量%が好ましく、10〜25質量%がより好ましい。また、分散性と着色力を両立する点から、無機顔料の場合、中でも、10〜60質量%が好ましく、20〜50質量%がより好ましい。
【0023】
(顔料分散剤)
本発明において顔料分散剤は、アミン価が20mgKOH/g以下、且つ、酸価が10mgKOH/g以下であって、スチレン由来の繰り返し単位と、炭素数が12以上の不飽和脂肪酸由来の繰り返し単位と、エチレン性不飽和二重結合を有するポリアルキレンオキシド由来の繰り返し単位とを有する共重合体(以下単に「共重合体」と称する場合がある。)、前記共重合体のアルカリ金属塩、前記共重合体のアルカリ土類金属塩、前記共重合体のアンモニウム塩、及び前記共重合体のアミン誘導体よりなる群から選択される1種以上(以下単に「共重合体等」と称する場合がある。)を含むものであり、本発明の効果を損なわない限り、必要に応じて他の顔料分散剤を含んでいてもよい。
【0024】
本発明においては、上記特定の顔料分散剤を用いることにより、後述するエチレン性不飽和二重結合を有する化合物を分散媒として用いた顔料分散液の粘度の経時安定性及び撥液性を良好なものとすることができる。
【0025】
[顔料分散剤のアミン価及び酸価]
本発明の顔料分散剤は、アミン価が20mgKOH/g以下、且つ、酸価が10mgKOH/g以下である。このような顔料分散剤を用いることにより、保存安定性、及びインクジェット吐出面に対する撥液性に優れた顔料分散液を得ることができる。2種以上の顔料分散剤を組み合わせて用いる場合には、当該顔料分散剤全体としてアミン価及び酸価が上記範囲内にあればよい。
顔料分散剤のアミン価は、保存安定性及びインクジェット吐出面に対する撥液性に優れる点から、中でも、17mgKOH/g以下であることが好ましい。また、顔料分散剤の酸価は、保存安定性及びインクジェット吐出面に対する撥液性に優れる点から、中でも、7mgKOH/g以下であることが好ましい。
なお、本発明においてアミン価とは、固形分1gを中和するのに必要な塩酸量に対して当量となる水酸化カリウムの質量(mg)を表し、JIS K7237に記載の方法により測定することができる。
また、本発明において酸価とは、固形分1gを中和するのに要するKOHの質量(mg)を表し、JIS K0070に記載の方法により測定することができる。
なお、本発明において固形分とは、溶媒や分散媒を除く成分を意味する。
【0026】
[スチレン由来の繰り返し単位と、炭素数が12以上の不飽和脂肪酸由来の繰り返し単位と、エチレン性不飽和二重結合を有するポリアルキレンオキシド由来の繰り返し単位とを有する共重合体]
本発明において顔料分散剤として用いられる上記特定の共重合体は、スチレン由来の繰り返し単位と、炭素数が12以上の不飽和脂肪酸由来の繰り返し単位と、エチレン性不飽和二重結合を有するポリアルキレンオキシド由来の繰り返し単位とを有するものであればよく、更に他の繰り返し単位を有していてもよいものである。上記特定の共重合体は、少なくともモノマーとして、(1)スチレン、(2)炭素数が12以上の不飽和脂肪酸、及び、(3)エチレン性不飽和二重結合を有するポリアルキレンオキシドを用いて、各モノマーのエチレン性不飽和二重結合により共重合されてなるものである。各モノマー由来の繰り返し単位とは、各モノマーのエチレン性不飽和二重結合が開いた構造(二重結合(C=C)が単結合(−C−C−)になった構造)を意味する。
以下、上記共重合体を構成する繰り返し単位について順に説明するが、(1)スチレンについては、その単位構造が明らかであるため、ここでの説明は省略する。
【0027】
(2)炭素数が12以上の不飽和脂肪酸
炭素数が12以上の不飽和脂肪酸は、エチレン性二重結合を1つ以上有していればよく、特に限定されない。中でも、顔料の分散性及び分散安定性の点から、炭素数が12〜30の不飽和脂肪酸であることが好ましく、炭素数が15〜20の不飽和脂肪酸であることが好ましく、炭素数が16〜18の不飽和脂肪酸であることが更に好ましい。
上記不飽和脂肪酸の炭素鎖中におけるエチレン性二重結合の位置は、特に限定されない。顔料の分散性及び分散安定性の点から、末端の炭素原子、及び、カルボキシ基のα位(2位)の炭素原子がエチレン性二重結合を有しないことが好ましく、中央か中央付近、すなわち、例えば炭素数が16〜18の不飽和脂肪酸の場合、4位から12位のいずれかの隣接する炭素に二重結合を有することが好ましい。
【0028】
炭素数が12以上の不飽和脂肪酸の具体例としては、例えば、パルミトレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、バクセン酸、リノール酸、リノレン酸、エレオステアリン酸、アラキドン酸、エルカ酸、ネルボン酸等が挙げられる。中でも、パルミトレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、バクセン酸が好ましい。
炭素数が12以上の不飽和脂肪酸は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
上記炭素数が12以上の不飽和脂肪酸由来の繰り返し単位は、末端のカルボキシ基がエステル化及び/又はアミド化されたものであってもよい。
エステル化に用いられるアルコールは、特に限定されない。例えば、炭素数1〜30の直鎖又は分岐のアルコールが挙げられ、更に芳香族基、脂環式基等の置換基を有していてもよく、炭素鎖中に、酸素原子等の異種原子が含まれていてもよい。エステル化に用いられるアルコールの具体例としては、例えば、2−ブトキシエタノール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、2−フェノキシエタノール、2−(2−フェノキシエトキシ)エタノール等が挙げられる。
上記アルコールは1種単独であっても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
また、アミド化に用いられる化合物は、特に限定されない。例えば、アンモニアの他、1級アミン、2級アミン、炭素数1〜20のアミノアルコール等が挙げられる。アミド化に用いられる化合物の具体例としては、例えば、シクロへキシルアミン、オクタデセニルアミン、ジブチルアミン、ベンジルアミン、ジイソトリデシルアミン等が挙げられる。
上記アミド化に用いられる化合物は、1種単独であっても2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0031】
カルボキシ基のエステル化及び/又はアミド化は、公知の方法を用いることができ、特に限定されない。また、カルボキシ基のエステル化及び/又はアミド化は、上記共重合体の重合前に行ってもよく、重合後に行ってもよい。
【0032】
(3)エチレン性不飽和二重結合を有するポリアルキレンオキシド
エチレン性不飽和二重結合を有するポリアルキレンオキシドは、特に限定されない。中でも、顔料の分散性及び分散安定性の点から、下記一般式(1)で表されるポリアルキレンオキシアリルエーテルであることが好ましい。
一般式(1): CH=CH−CH−O−[AO]−R
一般式(1)中、AOは炭素数2〜10のアルキレンオキシ単位を表し、複数あるAOは互いに同一であっても異なっていてもよい。Rは、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、又は−C(=O)−Rで表される基であって、Rは炭素数1〜6のアルキル基を表す。nはAOの繰り返し単位数を表し、nは2以上の整数である。
【0033】
AOにおけるアルキレンオキシ単位としては、中でも、エチレンオキシ単位及び/又はプロピレンオキシ単位であることが好ましく、エチレンオキシ単位であることがより好ましい。
上記エチレン性不飽和二重結合を有するポリアルキレンオキシドの平均繰り返し単位数は、特に限定されない。中でも、顔料の分散性及び分散安定性の点から、不飽和脂肪酸由来の繰り返し単位1モルに対して、10〜60モルであることが好ましく、20〜50モルであることがより好ましく、30〜40モルであることが更により好ましい。
【0034】
エチレン性不飽和二重結合を有するポリアルキレンオキシドの具体例としては、例えば、ポリオキシエチレンアリルメチルエーテル、ポリオキシプロピレンモノアリルメチルエーテル、ポリオキシプロピレンモノアリルエーテルモノアセテート、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアリルメチルエーテル等が挙げられる。
エチレン性不飽和二重結合を有するポリアルキレンオキシドは1種単独であっても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
エチレン性不飽和二重結合を有するポリアルキレンオキシドは、例えば、アリルアルコールと、オキシラン環を有するアルキレンオキサイドとから、公知の方法で得ることができる。
【0036】
(4)その他の繰り返し単位
顔料分散剤として用いられる、上記共重合体は、更にその他の繰り返し単位を有していてもよい。その他の繰り返し単位としては、エチレン性不飽和結合を有するジカルボン酸化合物由来の繰り返し単位等が挙げられる。具体例としては、例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸等が挙げられ、無水マレイン酸、無水シトラコン酸等のような酸無水物となっていてもよい。
【0037】
上記ジカルボン酸化合物由来の繰り返し単位は、カルボキシ基がエステル化、アミド化、又はイミド化されたものであってもよい。エステル化に用いられるアルコール及び、アミド化又はイミド化に用いられる化合物は、特に限定されない。例えば、上記炭素数が12以上の不飽和脂肪酸におけるエステル化に用いられるアルコールやアミド化に用いられる化合物と同様のものを用いることができる。
【0038】
また、その他の繰り返し単位として、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、トリフルオロメチル(メタ)アクリレート、ヘキサフルオロプロピル(メタ)アクリレート、テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル;α−メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルシクロヘキサン;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ブタン酸ビニル、ヘキサン酸ビニル、オクタン酸ビニル、デカン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、プロピオン酸ビニル、アジピン酸ジビニル、セバシン酸ジビニル、2−エチルヘキサン酸ビニル、トリフルオロ酢酸ビニル等の脂肪族又は芳香族カルボン酸のビニルエステル類;酢酸アリル、プロピオン酸アリル、ブタン酸アリル、ヘキサン酸アリル、オクタン酸アリル、デカン酸アリル、ステアリン酸アリル、パルミチン酸アリル、サリチル酸アリル、乳酸アリル、シュウ酸ジアリル、ステアリン酸アリル、コハク酸ジアリル、グルタール酸ジアリル、アジピン酸ジアリル、ピメリン酸ジアリル、マレイン酸ジアリル、フタル酸ジアリル、イソフタル酸ジアリル等の脂肪族又は芳香族のアリルエステル類;ビニルエチルエーテル、ビニルポリエーテル等のアルキルビニルエーテル類が含まれていてもよい。
【0039】
(5)上記共重合体の製造方法
顔料分散剤として用いられる上記共重合体は、上記スチレン由来の繰り返し単位と、上記炭素数が12以上の不飽和脂肪酸由来の繰り返し単位と、上記エチレン性不飽和二重結合を有するポリアルキレンオキシド由来の繰り返し単位と、必要に応じて他の繰り返し単位とを、例えば、エマルジョン、サスペンション、析出、溶液及びバルク重合のような公知の重合方法で製造することができる。中でも、フリーラジカル溶液重合及びバルク重合が好ましい。
【0040】
本発明において顔料分散剤は、上記の共重合体をそのまま用いてもよい。一方、上記共重合体中にカルボン酸が残存する場合には、当該カルボン酸を、水酸化アルカリ金属、水酸化アルカリ土類金属、アンモニア、又はアミノアルコールで中和することにより、前記共重合体のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、及びアミン誘導体として用いてもよい。
【0041】
上記共重合体は、スチレン由来の繰り返し単位と、炭素数が12以上の不飽和脂肪酸由来の繰り返し単位と、エチレン性不飽和二重結合を有するポリアルキレンオキシド由来の繰り返し単位とが共重合されてなり、不飽和脂肪酸由来の炭化水素鎖、及び、ポリアルキレンオキシド鎖が側鎖となる櫛型構造を有することが好ましい。また、上記共重合体は、各繰り返し単位がランダムに重合していてもよく、各繰り返し単位が、各々ブロックを構成したブロック共重合体であってもよい。中でも、局所的に顔料吸着が強くなり、また、立体保護層が厚くなることにより分散安定性を向上できる点から、スチレン由来の繰り返し単位と炭素数12以上の不飽和脂肪酸由来の繰り返し単位が局所的に密集している、すなわちブロックを形成していることが好ましく、また、ポリアルキレンオキシド由来の繰り返し単位が、ブロックを形成していることが好ましい。
【0042】
上記共重合体等において、各構成成分のモル比は、分散性及び分散安定性の点から、不飽和脂肪酸由来の繰り返し単位1モルに対して、スチレン由来の平均繰り返し単位数が1〜10モルであることが好ましく、2〜5モルであることがより好ましい。また、分散媒との相溶性を高め、顔料の分散性及び分散安定性を向上する点から、不飽和脂肪酸由来の繰り返し単位1モルに対して、エチレン性不飽和二重結合を有するポリアルキレンオキシド由来の平均繰り返し単位数が10〜60モルであることが好ましく、20〜50モルであることがより好ましく、30〜40モルであることが更により好ましい。繰り返し単位数を上記範囲内とすることにより、分散媒との相溶性を高め、分散媒中でポリアルキレンオキシド鎖が広がり、顔料の分散性及び分散安定性を向上することができる。
【0043】
また、上記共重合体等の分子量は特に限定されない。中でも、顔料の分散性、分散安定性、顔料分散液の粘度の点から、重量平均分子量が5000〜30000であることが好ましく、8000〜20000であることがより好ましく、10000〜15000であることが更により好ましい。なお、ここでの重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定される標準ポリスチレン換算で求めたものである。
【0044】
また、上記共重合体等は、本発明の効果を損なわない範囲で、酸性基又は塩基性基を有していてもよいが含有量が少ない方が好ましい。なお、本発明において酸性基とは、水中でHを放出し酸性を示す基のことをいい、例えば、カルボキシ基、スルホ基等が挙げられる。また本発明において塩基性基とは、水中でHを受け取り塩基性を示す基のことをいい、例えば、アミノ基等が挙げられる。
酸性基又は塩基性基を含む繰り返し単位の含有量は、当該共重合体等中に、40質量%以下であることが好ましく、更に30質量%以下であることがより好ましい。
【0045】
上記共重合体等のアミン価及び酸価は、顔料分散剤全体としてアミン価が20mgKOH/g以下、且つ、酸価が10mgKOH/g以下となるものであれば特に限定されない。中でも、保存安定性に優れる点から、共重合体等のアミン価は20mgKOH/g以下であることが好ましく、17mgKOH/g以下であることがより好ましい。また、保存安定性に優れる点から、共重合体等の酸価は10mgKOH/g以下であることが好ましく、7mgKOH/g以下であることがより好ましい。
【0046】
上記共重合体等として、例えば、ビックケミー社製のBYKJET−9150等を用いることができる。
【0047】
本発明のインクジェットインク用顔料分散液において、顔料分散剤の含有量は特に限定されない。インクジェットインク用顔料分散液全体における顔料分散剤の含有量は、顔料100質量部に対して通常20〜60質量部であり、分散性及び分散安定性の点から、25〜55質量部が好ましく、30〜50質量部がより好ましい。また、インクジェットインク用顔料分散液全体に対する顔料分散剤の含有量が、2〜30質量%であることが好ましく、4〜25質量%であることがより好ましい。顔料分散剤の含有量が少ないと立体保護層が形成されず顔料が凝集する恐れがある。また、含有量が多すぎると粘度が高くなる場合があり、吐出性が悪くなる恐れがある。但し、顔料分散剤の含有量は固形分換算である。
【0048】
本発明のインクジェットインク用顔料分散液において、スチレン由来の繰り返し単位と、炭素数が12以上の不飽和脂肪酸由来の繰り返し単位と、エチレン性不飽和二重結合を有するポリアルキレンオキシド由来の繰り返し単位とを有する共重合体、前記共重合体のアルカリ金属塩、前記共重合体のアルカリ土類金属塩、前記共重合体のアンモニウム塩、及び前記共重合体のアミン誘導体よりなる群から選択される1種以上を含む顔料分散剤の含有量は特に限定されない。インクジェットインク用顔料分散液全体における当該共重合体等の含有量は、顔料100質量部に対して通常20〜60質量部であり、分散性及び分散安定性の点から、25〜55質量部が好ましく、30〜50質量部がより好ましい。また、インクジェットインク用顔料分散液全体に対する当該共重合体等の含有量が、2〜30質量%であることが好ましく、4〜25質量%であることがより好ましい。但し、上記共重合体等の含有量は固形分換算である。
【0049】
また、本発明のインクジェットインク用顔料分散液においては、本発明の効果を損なわない限り、必要に応じて、更に他の顔料分散剤を含んでいてもよい。
他の顔料分散剤は、特に限定されない。例えば、カチオン系、アニオン系、ノニオン系、両性、シリコン系、フッ素系等の界面活性剤を使用できる。界面活性剤としては、次に例示するような高分子界面活性剤(高分子分散剤)が挙げられる。
【0050】
高分子分散剤としては、例えば、ポリエステル系、ポリアクリル系、ポリウレタン系、ポリアミン系、ポリカプトラクトン系の主鎖を有し、側鎖に、アミノ基、カルボキシ基、スルホ基、ヒドロキシ基等の極性基を有する分散剤等が挙げられる。このような高分子分散剤としては、例えば、ポリアクリル酸エステル等の不飽和カルボン酸エステルの(共)重合体類;ポリアクリル酸等の不飽和カルボン酸の(共)重合体の(部分)アミン塩、(部分)アンモニウム塩や(部分)アルキルアミン塩類;水酸基含有ポリアクリル酸エステル等の水酸基含有不飽和カルボン酸エステルの(共)重合体やそれらの編成物;ポリウレタン類;不飽和ポリアミド類;ポリシロキサン類;長鎖ポリアミノアミドリン酸塩類;ポリエチレンイミン誘導体(ポリ(低級アルキレンイミン)と遊離カルボキシル基含有ポリエステルとの反応により得られるアミドやそれらの塩基);ポリアリルアミン誘導体(ポリアリルアミンと、遊離のカルボキシル基を有するポリエステル、ポリアミド又はエステルとアミドの共縮合物(ポリエステルアミド)の3種の化合物の中から選ばれる1種以上の化合物とを反応させて得られる反応生成物)等が挙げられる。
このような高分子分散剤としては、市販品を用いることができ、例えば、ルーブリゾール社製のSOLSPERSE、ビックケミー社製のDISPERBYK、エフカアディティブズ社製のEFKA等が挙げられる。
【0051】
本発明のインクジェットインク用顔料分散液において、上記その他の顔料誘導体の含有量は、本発明の効果を損なわない限り、特に限定されないが、顔料分散剤全体の10質量%以下であることが好ましく、実質的に含有していないことが好ましい。
【0052】
(エチレン性不飽和二重結合を有する化合物)
本発明に係る活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物において用いられるエチレン性不飽和二重結合を有する化合物は、後述する光重合開始剤の作用によって重合可能なものであればよく、特に限定されない。
エチレン性不飽和二重結合は上記化合物中に1個のみ有していても2個以上有していてもよい。得られるインクの硬化性及び膜強度の点からは、エチレン性不飽和二重結合を2個以上有する化合物が好ましい。一方、硬化時の収縮が小さく、被記録媒体への密着性の点からは、エチレン性不飽和二重結合を1個のみ有する化合物が好ましい。
【0053】
エチレン性不飽和二重結合を有する化合物におけるエチレン性不飽和二重結合の構造は、特に限定されない。例えば、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、アリル基等が挙げられる。中でも、エチレン性不飽和二重結合が(メタ)アクリロイル基であることが、インクの硬化性の点から好ましい。
【0054】
本発明においては、エチレン性不飽和二重結合を有する化合物としては、中でも、低粘度であって、得られるインクの硬化性に優れ、かつ硬化時の収縮が小さい点から、(メタ)アクリレート基を化合物中に1個のみ有する単官能(メタ)アクリレート、又は(メタ)アクリレート基を化合物中に2個有する二官能(メタ)アクリレートであることが好ましい。単官能(メタ)アクリレートは、低粘度で、かつ、硬化収縮が小さいため柔軟性を要する用途に特に適している。また二官能(メタ)アクリレートは、低粘度で、かつ、硬化時に架橋密度が高くなるため、耐性を要する用途に特に適している。
【0055】
単官能(メタ)アクリレートは特に限定されない。例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、n−ペンチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、n−デシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、tert−ブチルシクロへキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、1−アダマンチル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、2,2’−オキシビス(メチレン)ビス−2−プロペノエート、エチルカルビトール(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシルエチル(メタ)アクリレート、2−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、アクリロイルモルフォリン、N−アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタルイミド、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0056】
中でも、硬化収縮が小さく、密着性が良好な点から、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等の芳香族炭化水素単官能(メタ)アクリレート、及び、イソボルニル(メタ)アクリレート、シクロへキシル(メタ)アクリレート、3,3,5−トリメチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、4−t−ブチルシクロへキシル(メタ)アクリレート、ノルボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート等の脂環式炭化水素単官能(メタ)アクリレートが好ましい。
【0057】
二官能(メタ)アクリレートは特に限定されない。例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、長鎖脂肪族ジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ステアリン酸変性ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレンジ(メタ)アクリレート、トリグリセロールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコール変性トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、アリル化シクロヘキシルジ(メタ)アクリレート、メトキシ化シクロヘキシルジ(メタ)アクリレート、アクリル化イソシアヌレート、ビス(アクリロキシネオペンチルグリコール)アジペート、ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、テトラブロモビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールSジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、フタル酸ジ(メタ)アクリレート、リン酸ジ(メタ)アクリレート、亜鉛ジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0058】
二官能(メタ)アクリレートとしては、低粘度かつ架橋密度が高くなる点から、中でも、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、及びプロポキシ化ネオペンチルグリコールジアクリレートからなる群から選択される1種以上であることが好ましい。
また、単官能(メタ)アクリレートと、二官能(メタ)アクリレートを適宜組み合わせて用いることもできる。単官能(メタ)アクリレートと、二官能(メタ)アクリレートを組み合わせて用いる場合の含有比率は、用途に応じて適宜調整すればよく、特に限定されない。中でも、密着性と膜強度を両立させる点から、単官能(メタ)アクリレートに対して、二官能(メタ)アクリレートが0〜60質量%であることが好ましく、0〜50質量%であることがより好ましい。
【0059】
アクリロイル基以外では、ビニル基が好ましく用いられ、単官能ビニルモノマーとしてはN−ビニルカプロラクタムが低粘度かつ密着性良好であるためより好ましい。二官能ビニルモノマーとしては、トリエチレングリコールジビニルエーテルが低粘度かつ粘度を低下させる能力に長けているためより好ましい。
【0060】
上記エチレン性不飽和二重結合を有する化合物は、1種単独で、又は2種以上組み合わせて用いることができる。本発明のインクジェットインク組成物においては、無溶剤型、すなわち有機溶剤を含まないことが好ましいため、通常、当該エチレン性不飽和結合を有する化合物が溶媒乃至分散媒の代わりとなる。そのため、硬化性や、硬化後の膜物性の他に、溶媒乃至分散媒となり得、且つ、インクジェット適性を有する観点から、適宜選択して組み合わせることが好ましい。
【0061】
上記溶媒乃至分散媒となり得るエチレン性不飽和二重結合を有する化合物としては、1g当たりの不飽和二重結合当量(以下、単に不飽和二重結合当量(g/eq)とする)は、低粘度、且つ、インク組成物中に含まれる分散剤や他のエチレン性不飽和二重結合等と相溶性がよくなる点から、100〜300g/eqであることが好ましく、120〜250g/eqであることがより好ましい。
【0062】
上記溶媒乃至分散媒となり得るエチレン性不飽和二重結合を有する化合物としては、室温(25℃)で液状であるものの中から適宜選択すればよく、例えば、分子量が150〜400のものが好適に用いられる。
【0063】
また、上記溶媒乃至分散媒となり得るエチレン性不飽和二重結合を有する化合物は、中でも、インクジェットインク組成物のゲル化を防ぐ観点から、水酸基やカルボキシ基を含まないものが好ましい。
また、顔料分散液のゲル化防止や粘度上昇を抑制する点から、上記エチレン性不飽和二重結合を有する化合物の酸価が、アクリル酸換算で0.1質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以下であることがより好ましい。なお、アクリル酸換算した酸価(質量%)は、(上記エチレン性不飽和二重結合を有する化合物の1g当たりの酸価(mgKOH/g))/1000×(アクリル酸の分子量)/(水酸化カリウムの分子量)×100により求めることができる。
【0064】
中でも、低粘度で粘度安定性に優れ、且つ、インク組成物中に含まれる分散剤や他のエチレン性不飽和二重結合等と相溶性がよくなる点から、1g当たりの不飽和二重結合当量が100〜300g/eqで、且つ、酸価がアクリル酸換算で0.1質量%以下のエチレン性不飽和二重結合を有する化合物を用いることが好ましい。
【0065】
上記溶媒乃至分散媒となり得るエチレン性不飽和二重結合を有する化合物として、好ましいものの具体例としては、例えば、フェノキシエチルアクリレート、イソボルニルアクリレート、t−ブチルシクロヘキシルアクリレート、エチルカルビトールアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、プロポキシ化ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジビニルエーテル等が挙げられる。
【0066】
上記エチレン性不飽和二重結合を有する化合物の含有量は、特に限定されない。中でも、硬化性の点から、本発明のインクジェットインク用顔料分散液全体における上記エチレン性不飽和二重結合を有する化合物の含有量が、10〜93質量%であることが好ましく、25〜90質量%であることがより好ましく、40〜86質量%であることが特に好ましい。
【0067】
(他の成分)
本発明のインクジェットインク用顔料分散液は、更に他の成分を含有してもよい。他の成分としては、例えば、シリコン系界面活性剤等を含む界面活性剤、可塑剤、表面調整剤、紫外線防止剤、光安定化剤、酸化防止剤、重合禁止剤等が挙げられる。中でも、本発明の顔料分散液は、更に、ポリアルキレンオキシド鎖及び/又は炭素数が12以上の脂肪族炭化水素鎖を有する化合物であって、アミド基を含んでいてもよく、末端がアミノ基であってもよく、当該アミノ基が塩を形成していてもよい化合物を含むことにより、インク吐出面に対する撥液性が更に向上する。また、本発明においては、後述する重合禁止剤を含有することにより、顔料分散液の保存安定性を更に向上することができる。
【0068】
[ポリアルキレンオキシド鎖及び/又は炭素数が12以上の脂肪族炭化水素鎖を有する化合物]
本発明の顔料分散液は、インク吐出面に対する撥液性の点から、更に、ポリアルキレンオキシド鎖及び/又は炭素数が12以上の脂肪族炭化水素鎖を有する化合物を含むことが好ましい。当該化合物は、アミド基を含んでいてもよく、末端がアミノ基であってもよく、当該アミノ基が塩を形成していてもよい。
上記特定の化合物は、顔料や、遊離した顔料分散剤が有する極性基や疎水性基と相互作用することで、インク吐出面に対する吸着を抑制することができるため、撥液性に優れている。
【0069】
ポリアルキレンオキシド鎖及び/又は炭素数が12以上の脂肪族炭化水素鎖を有する化合物としては、中でも、ポリアルキレンオキシド鎖を有し、片側末端にアミノ基を有する化合物、ポリアルキレンオキシド鎖及び炭素数12以上の脂肪族炭化水素を有し当該脂肪族炭化水素鎖が脂肪酸由来である化合物、及び、炭素数12以上の脂肪族炭化水素鎖を有し、当該脂肪族炭化水素鎖が脂肪酸由来であって片側末端にアミノ基を有する化合物が好ましい。
このような化合物としては、例えば、ルーブリゾール社製SOLSPERSE20000、SOLSPERSE9000、ビックケミー社製Disperbyk−191等が挙げられる。
【0070】
本発明のインクジェットインク用顔料分散液において、更に、ポリアルキレンオキシド鎖及び/又は炭素数が12以上の脂肪族炭化水素鎖を有する化合物を用いる場合、その含有量は、中でもインク吐出面に対する撥液性の点から、顔料分散剤として用いられる前記共化合物等100質量部に対して、10〜50質量部であることが好ましく、20〜35質量部であることがより好ましい。但し、それぞれ固形分換算である。
【0071】
[重合禁止剤]
本発明において重合禁止剤は特に限定されず、従来公知のものを適宜用いることができる。例えば、公知のヒンダートアミン類重合禁止剤、ヒンダートフェノール類重合禁止剤、キノン類重合禁止剤、ニトロソアミン類重合禁止剤、フェノチアジン類重合禁止剤等が挙げられる。本発明において重合禁止剤は、保存安定性を向上する点から、中でも、ニトロソアミン類重合禁止剤及び/又はフェノチアジン類重合禁止剤を用いることが好ましく、ニトロソアミン類重合禁止剤とフェノチアジン類重合禁止剤とを組み合わせて用いることがより好ましい。
【0072】
ヒンダートアミン類重合禁止剤としては、例えば、ビス(1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジニ−4−イル)セバケート、デカン二酸ビス(2,2,6,6−テトラメチル−1−(オクチルオキシ)−4−ピペリジニル)エステルなどが挙げられる。中でも、ビス(1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジニ−4−イル)セバケートが好ましい。ヒンダートアミン類重合禁止剤としては、チバ社製の“IRGASTAB UV−10”、“TINUVIN 292”などが挙げられる。
【0073】
ヒンダートフェノール類重合禁止剤としては、例えば、2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、2−tert−ブチル−4,6−ジメチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,4,6−トリ−tert−ブチルフェノール等が挙げられ、中でも2,6−ジ−tert−ブチルフェノールおよび2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノールが好ましい。
【0074】
キノン類重合禁止剤としては、例えば、2,5−ジ−tert−ブチル−1,4−ベンゾキノン、2,6−ジ−tert−ブチル−1,4−ベンゾキノン、2,5−ジ−tert−アミルベンゾキノン、2−tert−ブチル−1,4−ベンゾキノン、2,5−シクロヘキサジエン−1−オン,2,6−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−(フェニルエチレン)−(9Cl)などが挙げられる。中でも、2,5−シクロヘキサジエン−1−オン,2,6−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−(フェニルエチレン)−(9Cl)が好ましい。キノン類重合禁止剤としては、例えば、BASF社製の“IRGASTAB UV−22”等が挙げられる。
【0075】
フェノチアジン類重合禁止剤は、フェノチアジン及びその誘導体からなる重合禁止剤をいう。フェノチアジン類重合禁止剤を用いることで、長期間保存後であっても黄変が少なく、特に顔料を含有しないインクジェットインク組成物を、黄変のないクリアなものとすることができる。また、分散時の摩擦による昇温や、加熱条件下で使用することによりゲル化が発生したり、分散安定性が悪くなって粘度が上昇するのを抑制することができる。
フェノチアジン類重合禁止剤の具体例としては、例えば、フェノチアジン、2−メトキシフェノチアジン、2−シアノフェノチアジン、ビス(α−メチルベンジル)フェノチアジン、3,7−ジオクチルフェノチアジン、ビス(α、α−ジメチルベンジン)フェノチアジン、等が挙げられる。中でも、フェノチアジン類重合禁止剤は、フェノチアジン、2−メトキシフェノチアジン、又は2−シアノフェノチアジンであることが好ましい。
【0076】
ニトロソアミン類重合禁止剤は、ニトロソアミン及びニトロソアミン誘導体からなる重合禁止剤をいう。ニトロソアミン類重合禁止剤は、無酸素雰囲気下でのラジカル補足性能に特に優れており、更にニトロソアミンが遊離酸を中和するため、酸による重合反応を抑制することができる点から好ましい。ニトロソアミン類重合禁止剤をフェノチアジン類重合禁止剤に組み合わせて用いることは、酸素存在下での安定性を更に向上し、無酸素雰囲気下での安定性を特に向上する点から好ましい。
ニトロソアミン類重合禁止剤は、例えば、N−ニトロソ−N−フェニルヒドロキシアミンアンモニウム塩、N−ニトロソ−N−フェニルヒドロキシアミンアルミニウム塩、N−ニトロソ−N−フェニルヒドロキシアミンセリウム塩、N−ニトロソ−N−フェニルヒドロキシアミンナトリウム塩、N−ニトロソ−ジフェニルアミン、N−ニトロソ−N−シクロへキシルアニリン、N−ニトロソ−N−メチルアニリン、N−ニトロソジメチルアミン等が挙げられる。中でも、N−ニトロソ−N−フェニルヒドロキシアミンアンモニウム塩、N−ニトロソ−N−フェニルヒドロキシアミンアルミニウム塩、N−ニトロソ−N−フェニルヒドロキシアミンセリウム塩、及びN−ニトロソ−N−フェニルヒドロキシアミンナトリウム塩であることが好ましい。
【0077】
上記重合禁止剤は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。上記重合禁止剤の含有量は特に限定されない。中でも、上記エチレン性不飽和二重結合を有する化合物の重合反応を効率的に抑え、且つインクの硬化性が良好な点から、インクジェットインク組成物全体に対して0.002〜0.4質量%であることが好ましく、0.021〜0.150質量%であることがより好ましく、0.025〜0.120質量%であることが更により好ましい。
【0078】
上記重合禁止剤として、フェノチアジン類重合禁止剤を用いる場合は、その含有量は特に限定されない。中でも、上記エチレン性不飽和二重結合を有する化合物の重合反応を効率的に抑え、且つインクの硬化性が良好な点から、インクジェットインク組成物全体に対して0.001〜0.2質量%であることが好ましく、0.01〜0.1質量%であることがより好ましく、0.02〜0.05質量%であることが更により好ましい。
また、上記重合禁止剤として、ニトロソアミン類重合禁止剤を用いる場合は、その含有量は特に限定されない。中でも、上記エチレン性不飽和二重結合を有する化合物の重合反応を効率的に抑え、且つインクの硬化性が良好な点から、インクジェットインク組成物全体に対して0.001〜0.2質量%であることが好ましく、0.002〜0.1質量%であることがより好ましく、0.005〜0.05質量%であることが更により好ましい。
フェノチアジン類重合禁止剤とニトロソアミン類重合禁止剤を組み合わせて用いる場合には、インク組成物中の重合禁止剤の含有割合を従来よりも低くした場合であっても、重合反応を充分に抑制することができる。このため、活性エネルギー線を照射した際には、光重合開始剤が効率よく機能するため、エチレン性不飽和二重結合の重合反応が充分に進行し、硬化性にも優れている。
【0079】
(顔料分散液の製造方法)
本発明においてインクジェットインク用顔料分散液の製造方法は特に限定されないが、通常顔料分散工程を有するものである。
顔料分散工程は、例えば、分散媒として好適なエチレン性不飽和二重結合を有する化合物に、顔料と、顔料分散剤と必要に応じて他の成分を加えて、ディゾルバー等で攪拌した後、ビーズミルを用いて、ジルコニアビーズ等で分散することが挙げられる。必要に応じて、ビーズ径が比較的大きめなジルコニアビーズ等を用いて上記分散の前に予備分散をしてもよい。得られた分散体を、必要に応じてメンブランフィルター等で濾過することにより、本発明のインクジェットインク用顔料分散液を得ることができる。
他の成分として、ポリアルキレンオキシド鎖及び/又は炭素数が12以上の脂肪族炭化水素鎖を有する化合物を用いる場合には、当該化合物は顔料分散時に添加してもよく、顔料分散後に添加してもよく、いずれの場合でも、インクジェットインク組成物をインク吐出面に対する撥液性に優れたものとすることができる。
【0080】
<活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物>
本発明に係る活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物は、前記本発明に係るインクジェットインク用顔料分散液と、光重合開始剤とを含有することを特徴とする。
本発明に係る活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物は、前記本発明のインクジェットインク用顔料分散液を用いることにより常温保管時のみならず高温下においても長期間安定で、インク吐出面に対する撥液性に優れ、インクジェットの目詰まりが生じにくい。
【0081】
本発明に係る活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物は、少なくとも、顔料と、顔料分散剤と、エチレン性不飽和二重結合を有する化合物と、光重合開始剤とを含有するものであり、必要に応じて他の成分を含有しても良いものである。
以下、このような本発明の活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物の各成分について順に詳細に説明するが、顔料、顔料分散液、エチレン性不飽和二重結合を有する化合物については、上記顔料分散剤におけるものと同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0082】
(光重合開始剤)
本発明の活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物において用いられる光重合開始剤は、活性エネルギー線の照射により前記エチレン性不飽和二重結合を有する化合物の重合反応を促進するものであれば特に限定されず、従来公知の光重合開始剤を用いることができる。
【0083】
光重合開始剤としては、例えば、チオキサントン等を含む芳香族ケトン類、α−アミノアルキルフェノン類、α−ヒドロキシケトン類、アシルフォスフィンオキサイド類、芳香族オニウム塩類、有機過酸化物、チオ化合物、ヘキサアリールビイミダゾール化合物、ケトオキシムエステル化合物、ボレート化合物、アジニウム化合物、メタロセン化合物、活性エステル化合物、炭素ハロゲン結合を有する化合物、及びアルキルアミン化合物等が挙げられる。
【0084】
本発明において、光重合開始剤としては、重合反応を促進し、硬化性を向上する点から、中でも、アシルフォスフィンオキサイド類、α−ヒドロキシケトン類、及びα−アミノアルキルフェノン類よりなる群から選択される1種以上を用いることが好ましい。
【0085】
アシルフォスフィンオキサイド類としては、例えばビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニル−フォスフィンオキサイド(例えば、商品名:イルガキュア819、BASF社製等)、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチル−ペンチルフェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド(例えば、商品名:Darocur TPO:BASF社製、商品名:Lucirin TPO:BASF社製等)等が挙げられる。
【0086】
また、α−ヒドロキシケトン類としては、例えば、2−ヒドロキシ−1−{4−〔4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル〕−フェニル}−2−メチル−プロパン−1−オン(例えば、商品名:イルガキュア127、BASF社製等)、2−ヒドロキシ−4’−ヒドロキシエトキシ−2−メチルプロピオフェノン(例えば、商品名:イルガキュア2959、BASF社製等)、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン(例えば、商品名:イルガキュア184、BASF社製等)、オリゴ{2−ヒドロキシ−2−メチル−1−[4−(1−メチルビニル)フェニル]プロパノン}(例えば、商品名:ESACURE ONE、Lamberti社製等)等が挙げられる。
【0087】
また、α−アミノアルキルフェノン類としては、例えば、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1(例えば、商品名:イルガキュア369、BASF社製等)、2−ジメチルアミノ−2−[(4−メチルフェニル)メチル]−1−[4−(4−モルホリニル)フェニル]−1−ブタノン(例えば、商品名:イルガキュア379、BASF社製等)等が挙げられる。
【0088】
上記の中でも、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイドや2−ヒドロキシ−1−{4−〔4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル〕−フェニル}−2−メチル−プロパン−1−オンは、酸素による重合阻害を発生し難いために、インクジェットで形成された薄膜の硬化性に特に有効である。
また、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド、2−ヒドロキシ−4’−ヒドロキシエトキシ−2−メチルプロピオフェノン、オリゴ{2−ヒドロキシ−2−メチル−1−[4−(1−メチルビニル)フェニル]プロパノン}および2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、2−ジメチルアミノ−2−[(4−メチルフェニル)メチル]−1−[4−(4−モルホリニル)フェニル]−1−ブタノンは内部硬化性に優れているため、厚膜での硬化性に特に有効である。特に、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイドは活性エネルギー線に高感度で反応するため、インク組成物中1〜12質量%、好ましくは2〜8質量%含有させるとよい。
また、本発明においては、アシルフォスフィンオキサイド類とα−ヒドロキシケトン類とα−アミノアルキルフェノン類とを組み合わせて使用することが、薄膜と厚膜両方の硬化性に優れ、活性エネルギー線に対して高感度かつ短時間で硬化させることができる点から好ましい。
【0089】
また、上記光重合開始剤の中でも、光増感作用を有するもの(以下、「増感剤」と称する場合がある。)を用いることも好ましい。このような光重合開始剤を単独で、或いは他の光重合開始剤と組み合わせて用いることにより、LED光源等のような、単位時間当たりの照射エネルギーが低い光源を用いた場合であっても、インクジェットインク組成物を高感度且つ短時間で硬化することができる。
【0090】
上記光増感作用を有する光重合開始剤としては、特に限定されない。例えば、芳香族ケトン類、アルキルアミン化合物、チオ化合物等が挙げられる。
芳香族ケトン類の具体例としては、例えば、2,4−ジエチルチオキサントン(例えば、商品名:KAYACURE DETX−S、日本化薬社製等)、イソプロピルチオキサントン(例えば、商品名:Chivacure ITX、ダブルボンドケミカル社製等)等が挙げられる。
アルキルアミン化合物の具体例としては、例えば、p−ジメチルアミノ安息香酸エチル(例えば、商品名:DAIDO UV−CURE EDB、大同化成工業社製等)、4,4‘−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン(例えば、商品名:EAB−SS、大同化成工業社製等)等が挙げられる。
また、チオ化合物の具体例としては、例えば、4−ベンゾイル−4‘−メチルジフェニルスルフィド(例えば、商品名:SPEED CURE BMS、Lambson社製等)、2−メルカプトベンゾチアゾール(例えば、商品名:M、川口化学工業社製等)等が挙げられる。
増感剤としては、中でも、2,4−ジエチルチオキサントン、4,4‘−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、及び4−ベンゾイル−4‘−メチルジフェニルスルフィドからなる群より選択される1種類以上を用いることが好ましい。
【0091】
本発明のインクジェットインク組成物においては、中でも、長波長域に吸収を持つアシルフォスフィンオキサイド類、その中でも、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイドと、2,4−ジエチルチオキサントン、4,4‘−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、及び4−ベンゾイル−4‘−メチルジフェニルスルフィドからなる群より選択される1種類以上とを組み合わせることにより、385nm、395nmなどのLED光源に対して高感度かつ短時間で硬化させることができる点で好ましい。
【0092】
本発明において光重合開始剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明において光重合開始剤の含有量は、本発明の効果を損なわない限り、特に限定されない。中でも、硬化性と長期保存安定性を両立する点から、インクジェットインク組成物全体における、光重合開始剤の含有量が、2〜20質量%であることが好ましく、4〜15質量%であることがより好ましい。光重合開始剤を2種以上組み合わせて用いる場合には、光重合開始剤の合計の含有量が上記の範囲内であることが好ましい。
【0093】
(他の成分)
本発明の活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物は、更に他の成分を含有してもよい。他の成分としては、例えば、前記顔料分散剤の項で例示したものの他、増感剤等が挙げられる。
本発明の活性エネルギー線硬化型インクジェットインクは重合禁止剤を含有することにより、保存安定性を更に向上することができる。
【0094】
(活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物の粘度及び表面張力)
本発明のインクジェットインク組成物の粘度は、インクジェットの吐出性、吐出安定性の点から、40℃での粘度が5〜20mPa・sであることが好ましい。
また、本発明のインクジェットインク組成物の表面張力は、インクジェットの吐出性、吐出安定性、基材へのレベリング性の点から、40℃での表面張力が20〜40mN/mであることが好ましい。
【0095】
(活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物中の各成分の含有割合)
本発明に係る活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物において、顔料の含有量は、分散性と着色力を両立する点から、インクジェットインク組成物全量に対して0.1〜40質量%が好ましく、0.2〜20質量%がより好ましい。有機顔料の場合、中でも、0.1〜20質量%が好ましく、0.2〜10質量%がより好ましい。また、分散性と着色力を両立する点から、無機顔料の場合、中でも、1〜40質量%が好ましく、5〜20質量%がより好ましい。
インクジェットインク組成物において顔料分散剤の含有割合は、特に限定されず、顔料の種類によっても異なるが、顔料100質量部に対して、顔料分散剤は、通常20〜60質量部であり、分散性及び分散安定性の点から、25〜55質量部が好ましく、30〜50質量部がより好ましい。
また、インクジェットインク組成物におけるエチレン性不飽和二重結合を有する化合物の含有量は、特に限定されない。中でも、硬化性の点から、本発明のインクジェットインク組成物全体における上記エチレン性不飽和二重結合を有する化合物の含有量が、30〜95質量%であることが好ましく、45〜95質量%であることがより好ましく、60〜90質量%であることが特に好ましい。
インクジェットインク組成物における顔料分散剤の含有量は特に限定されない。インクジェットインク組成物全体における顔料分散剤の含有量は、0.02〜24質量%であることが好ましく、中でも0.03〜20質量%であることが好ましく、0.06〜10質量%であることがより好ましい。顔料分散剤の含有量が少ないと立体保護層が形成されず顔料が凝集する恐れがある。また、含有量が多すぎると粘度が高くなる場合があり、吐出性が悪くなる恐れがある。
本発明のインクジェットインク組成物において、スチレン由来の繰り返し単位と、炭素数が12以上の不飽和脂肪酸由来の繰り返し単位と、エチレン性不飽和二重結合を有するポリアルキレンオキシド由来の繰り返し単位とを有する共重合体、前記共重合体のアルカリ金属塩、前記共重合体のアルカリ土類金属塩、前記共重合体のアンモニウム塩、及び前記共重合体のアミン誘導体よりなる群から選択される1種以上を含む顔料分散剤の含有量は特に限定されない。インクジェットインク組成物全体における当該共重合体等の含有量は、0.02〜24質量%であることが好ましく、中でも0.03〜20質量%であることが好ましく、0.06〜10質量%であることがより好ましい。該共重合体等の含有量が少ないと立体保護層が形成されず顔料が凝集する恐れがある。また、含有量が多すぎると粘度が高くなる場合があり、吐出性が悪くなる恐れがある。但し、上記顔料分散剤及び上記共重合体等の含有量はそれぞれ固形分換算である。
【0096】
(活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物の製造方法)
本発明に係る活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物の製造方法は、特に限定されない。本発明のインクジェットインク用顔料分散液に、光重合開始剤と、必要に応じて重合禁止剤等を加えて、均一になるまで攪拌することによりインクジェットインク組成物を得ることができる。
【0097】
<印刷物>
本発明に係る印刷物は、被記録媒体上に、前記本発明に係る活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物を硬化させて形成された層を有することを特徴とする。
本発明の印刷物は、保存安定性に優れ、且つ、硬化性にも優れた前記本発明に係る活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物を用いることにより、再現性が良く、高品質なものとなる。
以下、本発明の印刷物について説明するが、活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物については前述したとおりであるため、ここでの説明は省略する。
【0098】
(被記録媒体)
本発明の印刷物において、被記録媒体は特に限定されない。例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂等、インク非吸収性樹脂や、合成紙、ガラス類、金属類、ゴムなどを挙げることができる。
【0099】
(印刷物の製造方法)
上記印刷物の製造方法は特に限定されないが、被記録媒体上に、前記本発明に係るインクジェットインク組成物を吐出する工程、及び、吐出されたインクジェットインク組成物に活性エネルギー線を照射して、該インクジェットインク組成物を硬化させる工程を含む、インクジェット記録方法を用いることが好ましい。
以下、上記各工程について説明する。
【0100】
(1)被記録媒体上に、インクジェットインク組成物を吐出する工程
本工程では、通常、インクジェット方式により被記録媒体上に、インクジェットインク組成物を吐出する。インクジェット組成物を吐出して、所望の像を描画してもよいし、比較的広範囲にクリア層を形成してもよい。本発明においては、安定性に優れ、粘度の変化が少ない前記本発明に係るインクジェットインク組成物を用いるため、吐出安定性に優れる。
【0101】
(2)活性エネルギー線を照射して、インクジェットインク組成物を硬化させる工程
活性エネルギー線の線種は、上記光重合開始剤との組み合わせで、適宜選択されるものであり、特に制限されない。例えば、波長365nmの紫外線等が好適に用いられる。
活性エネルギー線の光源としては、紫外線を照射する場合には、例えば、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、低圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、紫外線レーザー、発光ダイオード(LED)等を用いることができ、特に制限されない。
インクジェットインク組成物が、被記録媒体に着弾後、直ちに活性エネルギー線を照射することが好ましい。
【実施例】
【0102】
以下、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。なお、実施例中、「部」は「質量部」を表す。また、固形分の含有割合を記載していない顔料分散剤は、固形分100質量%である。
【0103】
参考例1:黄色顔料分散液の調製)
ジプロピレングリコールジアクリレート(SR508、sartomer製、不飽和二重結合当量121g/eq、酸価0.05質量%(アクリル酸換算))74.2部に、スチレン由来の繰り返し単位と、炭素数が16及び18の不飽和脂肪酸由来の繰り返し単位と、エチレン性不飽和二重結合を有し不飽和脂肪酸由来の繰り返し単位1モルに対して10〜60モルのポリアルキレンオキシド由来の繰り返し単位とを有する共重合体、前記共重合体のアルカリ金属塩、前記共重合体のアルカリ土類金属塩、前記共重合体のアンモニウム塩、及び前記共重合体のアミン誘導体よりなる群から選択される1種以上を含む顔料分散剤(bykJET9150、ビックケミー社製、アミン価12mgKOH/g、酸価5mgKOH/g、固形分約70質量%)10.7部を溶解させ、PigmentYellow155(PY155、クラリアント社製 イエロー顔料)15部、フェノチアジン(TDP、川口化学薬品社製)0.1部を加え、ペイントシェイカーで、1mm直径のジルコニアビーズを用いて顔料粒子径(メジアン径)が200nm以下となるように分散し、参考例1の黄色顔料分散液を得た。粒子径は、大塚電子製 FPAR−1000によって測定した。
【0104】
参考例2:黄色顔料分散液の調製)
上記参考例1において、SR508の代わりに、イソボルニルアクリレート(IBXA、共栄社化学社製、不飽和二重結合当量208g/eq、酸価0.003質量%(アクリル酸換算))74.2部を用いた以外は、参考例1と同様にして、参考例2の黄色顔料分散液を得た。
【0105】
参考例3:黄色顔料分散液の調製)
上記参考例1において、SR508の代わりに、フェノキシエチルアクリレート(SR339A、sartomer社製、不飽和二重結合当量192g/eq、酸価0.02質量%(アクリル酸換算))74.2部を用いた以外は、参考例1と同様にして、参考例3の黄色顔料分散液を得た。
【0106】
(実施例4:黄色顔料分散液の調製)
上記参考例1において、SR508を72.7部とした以外は、参考例1と同様にして分散液を得た後、当該分散液に、ポリアルキレンオキシド鎖を有し、片側末端にアミノ基を有する化合物(SOLSPERSE20000、ルーブリゾール社製(以下、S20000と称する場合がある。))1.5部を加えて攪拌し、実施例4の黄色顔料分散液を得た。
【0107】
(比較例1:黄色顔料分散液の調製)
上記参考例1において、SR508を77.4部とし、bykJET9150の代わりに、櫛型骨格を持つ塩基性顔料分散剤(SOLSPERSE24000、ルーブリゾール社製、アミン価42mgKOH/g、酸価25mgKOH/g(以下、S24000と称する場合がある。))7.5部を用いた以外は、参考例1と同様にして、比較例1の黄色顔料分散液を得た。
【0108】
(比較例2:黄色顔料分散液の調製)
上記参考例1において、SR508を77.4部とし、bykJET9150の代わりに、櫛型骨格を持つ塩基性顔料分散剤(SOLSPERSE32000、ルーブリゾール社製、アミン価31mgKOH/g、酸価15mgKOH/g(以下、S32000と称する場合がある。))7.5部を用いた以外は、参考例1と同様にして、比較例2の黄色顔料分散液を得た。
【0109】
(比較例3:黄色顔料分散液の調製)
上記参考例1において、SR508を77.4部とし、bykJET9150の代わりに、櫛型骨格を持つ塩基性顔料分散剤(SOLSPERSE33000、ルーブリゾール社製、アミン価41mgKOH/g、酸価26mgKOH/g(以下、S33000と称する場合がある。))7.5部を用いた以外は、参考例1と同様にして、比較例3の黄色顔料分散液を得た。
【0110】
(比較例4:黄色顔料分散液の調製)
上記参考例1において、SR508を77.4部とし、bykJET9150の代わりに、櫛型骨格を持つ塩基性顔料分散剤(SOLSPERSE39000、ルーブリゾール社製、アミン価29mgKOH/g、酸価33mgKOH/g(以下、S39000と称する場合がある。))7.5部を用いた以外は、参考例1と同様にして、比較例4の黄色顔料分散液を得た。
【0111】
(比較例5:黄色顔料分散液の調製)
上記参考例1において、SR508を77.4部とし、bykJET9150の代わりに、櫛型骨格を持つ塩基性顔料分散剤(PB821、味の素ファインテクノ社製、アミン価9mgKOH/g、酸価13mgKOH/g)7.5部を用いた以外は、参考例1と同様にして、比較例5の黄色顔料分散液を得た。
【0112】
(比較例6:黄色顔料分散液の調製)
上記参考例1において、SR508を77.4部とし、bykJET9150の代わりに、櫛型骨格を持つ塩基性顔料分散剤(PB881、味の素ファインテクノ社製、アミン価17mgKOH/g、酸価17mgKOH/g)7.5部を用いた以外は、参考例1と同様にして、比較例6の黄色顔料分散液を得た。
【0113】
(比較例7:黄色顔料分散液の調製)
上記参考例1において、SR508を77.4部とし、bykJET9150の代わりに、櫛型骨格を持つ塩基性顔料分散剤(byk9076、ビックケミー社製、アミン価44mgKOH/g、酸価38mgKOH/g)7.5部を用いた以外は、参考例1と同様にして、比較例7の黄色顔料分散液を得た。
【0114】
(比較例8:黄色顔料分散液の調製)
上記参考例1において、SR508を77.4部とし、bykJET9150の代わりに、櫛型骨格を持つ酸性顔料分散剤(byk145、ビックケミー社製、アミン価71mgKOH/g、酸価76mgKOH/g)7.5部を用いた以外は、参考例1と同様にして、比較例8の黄色顔料分散液を得た。
【0115】
(比較例9:黄色顔料分散液の調製)
上記参考例1において、SR508を59.9部とし、bykJET9150の代わりに、櫛型骨格を持つ塩基性顔料分散剤(byk168、ビックケミー社製、アミン価11mgKOH/g、固形分約30質量%)25部を用いた以外は、参考例1と同様にして、比較例9の黄色顔料分散液を得た。
【0116】
<分散液の経時安定性評価(1)>
上記実施例4、参考例1〜3及び比較例1〜9で得られた黄色顔料分散液の粘度を、AntonPaar製AMVn粘度計を用いて40℃の条件下で測定した。
また、上記実施例4、参考例1〜3及び比較例1〜9の黄色顔料分散液をそれぞれ50ccのガラス瓶にインク組成物を40cc充填し、60℃で7日間保管し、保管後の顔料分散液の粘度を上記と同様の方法で測定し、保管後の粘度の保管前の粘度に対する変化率を求め、分散液の経時安定性評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0117】
[経時安定性評価基準]
A:変化率が−5%以上+5%未満であった。
B:変化率が5%以上10%未満であった。
C:変化率が10%以上20%未満であった。
D:変化率が20%以上であった。
経時安定性評価がAであれば、当該顔料分散液は経時安定性が特に優れている。また、経時安定性評価がBであれば、当該顔料分散液は実用上問題なく使用できる。
【0118】
<インク吐出面に対する撥液性評価>
上記実施例4、参考例1〜3及び比較例1〜9で得られた黄色顔料分散液をそれぞれ40ccと京セラ社製ノズル材料(SUS430+撥水膜)を50ccのガラス瓶に充填し、60℃で7日間浸漬した。浸漬後、当該ノズル材料を取り出して45度に傾けたときに分散体が流れ落ちる秒数を測定した。評価結果を表1に示す。
【0119】
[撥液性評価基準]
A:5秒未満で流れ落ちた。
B:5秒以上10秒未満で流れ落ちた。
C:10秒以上かかって流れ落ちた。
D:付着した。
撥液性評価がAであれば、当該顔料分散液は撥液性が特に優れている。また、撥液性評価がBであれば、当該顔料分散液は実用上問題なく使用できる。
【0120】
【表1】
【0121】
表1の結果から、エチレン性不飽和二重結合を有する化合物を分散媒とし、スチレン由来の繰り返し単位と、炭素数が12以上の不飽和脂肪酸由来の繰り返し単位と、エチレン性不飽和二重結合を有するポリアルキレンオキシド由来の繰り返し単位とを有する共重合体、前記共重合体のアルカリ金属塩、前記共重合体のアルカリ土類金属塩、前記共重合体のアンモニウム塩、及び前記共重合体のアミン誘導体よりなる群から選択される1種以上を含む顔料分散剤を有する顔料分散液は、経時安定性及びインク吐出面に対する撥液性に優れていることがわかった。
中でも、ポリアルキレンオキシド鎖及び/又は炭素数が12以上の脂肪族炭化水素鎖を有する化合物を含む実施例4の顔料分散液は、撥液性試験の結果が2〜3秒であり、参考例1〜3の3〜4秒よりも更に優れていることが明らかとなった。
【0122】
参考例4:マゼンタ色顔料分散液の調製)
参考例1において、bykJET9150を9.4部とし、PY155の代わりに、PigmentRed122(PR122,DIC社製、マゼンタ色顔料)22部とし、SR508の代わりにフェノキシエチルアクリレート(SR339A、サートマー社製)68.5部とした以外は、参考例1と同様にし、参考例4のマゼンタ色顔料分散液を得た。
【0123】
参考例5:マゼンタ色顔料分散液の調製)
参考例4において、SR339Aの代わりに、SR508を68.5部とした以外は、参考例4と同様にし、参考例5のマゼンタ色顔料分散液を得た。
【0124】
(実施例7:マゼンダ色顔料分散液の調製)
実施例5において、SR339Aを66.3部とした以外は、実施例5と同様にして分散液を得た後、当該分散液にSOLSPERSE20000、ルーブリゾール社2.2部を加えて攪拌し、実施例7のマゼンタ色顔料分散液を得た。
【0125】
(実施例8:マゼンタ色顔料分散液の調製)
参考例4において、SR339Aの代わりに、SR508を66.3部とした以外は、参考例4と同様にして分散液を得た後、当該分散液に、SOLSPERSE20000 2.2部を加えて攪拌し、実施例8のマゼンタ色顔料分散液を得た。
【0126】
(実施例9:マゼンタ色顔料分散液の調製)
実施例5において、SR339Aの代わりに、SR508を66.3部とした以外は、実施例5と同様にして分散液を得た後、当該分散液にSOLSPERSE9000、ルーブリゾール社製(以下、S9000と称する場合がある。を2.2部加えて攪拌し、実施例9のマゼンタ色顔料分散液を得た。
【0127】
(比較例10:マゼンタ色顔料分散液の調製)
参考例4において、bykJET9150の代わりに、SOLSPERSE33000を11部とし、SR339Aの代わりに、SR508を66.9部とした以外は、参考例4と同様にし、比較例10のマゼンタ色顔料分散液を得た。
【0128】
実施例7〜9、参考例4〜5及び比較例10のマゼンタ色顔料分散液についてそれぞれ、上記と同様の方法により、分散液の経時安定性評価(1)及び撥液性評価を行った。結果を表2に示す。
【0129】
【表2】
【0130】
表2の結果から、PR122を用いた顔料分散液においても、PY155を用いた顔料分散液と同様に、エチレン性不飽和二重結合を有する化合物を分散媒とし、スチレン由来の繰り返し単位と、炭素数が12以上の不飽和脂肪酸由来の繰り返し単位と、エチレン性不飽和二重結合を有するポリアルキレンオキシド由来の繰り返し単位とを有する共重合体、前記共重合体のアルカリ金属塩、前記共重合体のアルカリ土類金属塩、前記共重合体のアンモニウム塩、及び前記共重合体のアミン誘導体よりなる群から選択される1種以上を含む顔料分散剤を有する顔料分散液は、経時安定性及びインク吐出面に対する撥液性に優れていることがわかった。更に参考例4及び5と実施例7〜9との比較から、顔料分散剤として、ポリアルキレンオキシド鎖及び/又は炭素数が12以上の脂肪族炭化水素鎖を有する化合物を含むことにより、インク吐出面に対する撥液性が更に向上することがわかった。
【0131】
(実施例10:紫色顔料分散液の調製)
参考例1において、bykJET9150を9.4部とし、SR508を66.3部とし、PY155の代わりに、PigmentVioret19(PV19、クラリアント社製、紫色顔料)22部とした以外は、参考例1と同様にして分散剤を得た後、当該分散剤に、SOLSPERSE20000を2.2部加えて攪拌し、実施例10の紫色顔料分散液を得た。
【0132】
(実施例11:青色顔料分散液の調製)
参考例1において、bykJET9150を6.8部とし、SR508を79.9部とし、PY155の代わりに、PigmentBlue15:4(東洋インキ社製、シアン色顔料)12部とした以外は、参考例1と同様にして分散剤を得た後、当該分散剤に、SOLSPERSE20000を1.2部加えて攪拌し、実施例11の紫色顔料分散液を得た。
【0133】
(実施例12:黒色顔料分散液の調製)
参考例1において、bykJET9150を6.8部とし、SR508を79.9部とし、PY155の代わりに、カーボンブラック(degusa社製、黒色顔料)12部とした以外は、参考例1と同様にして分散剤を得た後、当該分散剤に、SOLSPERSE20000を1.2部加えて攪拌し、実施例12の紫色顔料分散液を得た。
【0134】
実施例10〜12の各顔料分散液についてそれぞれ、上記と同様の方法により、分散液の経時安定性評価(1)撥液性評価を行った。結果を表3に示す。
【0135】
【表3】
【0136】
参考例6:活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物の調製)
参考例3で得られた黄色顔料分散液に、エチレン性二重結合を有する化合物であるN−ビニルカプロラクタム(V−CAP、ISPジャパン社製、)、2−ヒドロキシ−3−フェノキシエチルアクリレート(M600A、共栄社化学社製、)、ビスフェノールAジアクリレート(EO20モル変性体)(A−BPE−20、新中村化学社製、)、イソボルニルアクリレート(IBXA、共栄社化学社製、)、及びフェノキシエチルアクリレート(SR339A、sartomer社製、)、光重合開始剤として、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド(Lucirin TPO、BASF社製)、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1(イルガキュア369、BASF社製)、及び1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン(イルガキュア184、BASF社製)と、重合禁止剤としてフェノチアジン(TDP、川口化学薬品社製)、シリコン系界面活性剤(Tegorad2300)を下記表4の組成になるようにそれぞれ配合し、参考例6の活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物を得た。
なお、表4中、各成分は質量部で表される。
【0137】
(実施例14〜25:活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物の調製)
参考例6において、参考例3の黄色顔料分散液の代わりに、実施例4の黄色顔料分散液を用いて、下記表4の組成となるように、各成分を配合し、参考例6と同様に実施例14〜25の活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物を得た。
なお、表4中のエチレン性二重結合を有する化合物及び重合禁止剤の略号は以下のとおりである。
TBCH:t−ブチルシクロヘキシルアクリレート、BASF社製
FA−511AS:ジシクロペンテニルアクリレート、日立化成工業社製
EC−A:エチルカルビトールアクリレート、共栄社化学社製
1,9−NDA:1,9−ノナンジオールジアクリレート、共栄社化学社製
SR9003:プロポキシ化ネオペンチルグリコールジアクリレート、sartomer社製
V#335HP:テトラエチレングリコールジアクリレート、大阪有機化学社製
4HBA:4−ヒドロキシブチルアクリレート、大阪有機化学社製
SR257:ステアリルアクリレート、sartomer社製
【0138】
(比較例11:活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物の調製)
参考例6において、参考例3の黄色顔料分散液の代わりに、比較例9の黄色顔料分散液用いて、下記表4の組成となるように、各成分を配合し、参考例6と同様に比較例11の活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物を得た。
【0139】
(実施例26〜28:活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物の調製)
参考例6において、参考例3の黄色顔料分散液の代わりに、実施例8のマゼンタ色顔料分散液、実施例11の青色顔料分散液、及び実施例12の黒色顔料分散液をそれぞれ用いて、下記表5の組成となるように、各成分を配合し、参考例6と同様に実施例26〜28の活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物を得た。なお、表5中、各成分は質量部で表される。
【0140】
<分散液の経時安定性評価(2)>
上記実施例14〜28、参考例6及び比較例11で得られた活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物の粘度を、AntonPaar製AMVn粘度計を用いて40℃の条件下で測定した。
また、上記実施例14〜28、参考例6及び比較例11で得られた活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物をそれぞれ50ccのガラス瓶にインク組成物を40cc充填し、60℃で4週間保管し、保管後のインク組成物の粘度を上記と同様の方法で測定し、保管後の粘度の保管前の粘度に対する変化率を求め、分散液の経時安定性評価を行った。評価基準は、上記分散液の経時安定性評価(1)と同じである。評価結果を表4及び5に示す。
【0141】
【表4】
【0142】
【表5】
【0143】
表4及び表5の結果から、本発明のインクジェットインク用顔料分散液を用いて得られた、活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物は、インク吐出面に対する撥液性に優れ、また、長期間保管後においても粘度変化がほとんどなく、経時安定性に優れていることがわかった。