特許第5649772号(P5649772)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5649772-フッ素樹脂系成形物の表面改質方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5649772
(24)【登録日】2014年11月21日
(45)【発行日】2015年1月7日
(54)【発明の名称】フッ素樹脂系成形物の表面改質方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 7/00 20060101AFI20141211BHJP
【FI】
   C08J7/00 306
   C08J7/00CEW
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2008-115770(P2008-115770)
(22)【出願日】2008年4月25日
(65)【公開番号】特開2009-263529(P2009-263529A)
(43)【公開日】2009年11月12日
【審査請求日】2011年3月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000229564
【氏名又は名称】日本バルカー工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】303029317
【氏名又は名称】株式会社プラズマイオンアシスト
(74)【代理人】
【識別番号】100073461
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 武彦
(72)【発明者】
【氏名】油谷 康
(72)【発明者】
【氏名】日比野 豊
(72)【発明者】
【氏名】窪島 隆一郎
【審査官】 中尾 奈穂子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/022174(WO,A2)
【文献】 特表2009−504330(JP,A)
【文献】 特開昭62−101636(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/104107(WO,A1)
【文献】 特表2009−529589(JP,A)
【文献】 特開平06−049244(JP,A)
【文献】 特開2007−144938(JP,A)
【文献】 特開2001−342269(JP,A)
【文献】 特開2008−174791(JP,A)
【文献】 特開平09−208726(JP,A)
【文献】 国際公開第98/044026(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 7/00− 7/02
C08J 7/12− 7/18
B29C 71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂系成形物表面における接着剤、塗料、インクの付着性を向上させるためのプラズマ照射による表面改質方法であって、フッ素樹脂系成形物表面に対しプラズマ照射を行うに際して、成形物表面に負電圧を印加することにより、成形物表面にプラズマ中のイオンを注入して粗面化する物理的改質(ただし、「小繊維構造が破壊しないか又は実質的に変化しない程度の物理的改質」は除く)と、成形物表面におけるフッ素原子をフッ素原子以外の原子に置換する化学的改質を行う、フッ素樹脂系成形物の表面改質方法。
【請求項2】
前記プラズマ照射は反応性ガス存在下または反応性ガスと不活性ガスの混合ガス存在下で行う、請求項1に記載のフッ素樹脂系成形物の表面改質方法。
【請求項3】
前記プラズマ照射が減圧プラズマ照射であり、前記負電圧が接地電位に対して5〜20kVの範囲である、請求項1または2に記載のフッ素樹脂系成形物の表面改質方法。
【請求項4】
前記フッ素樹脂系成形物が厚み0.01〜5mmのシート状成形物である、請求項1から3までのいずれかに記載のフッ素樹脂系成形物の表面改質方法。
【請求項5】
プラズマ照射したのちの処理表面にシランカップリング剤を塗布する、請求項1から4までのいずれかに記載のフッ素樹脂系成形物の表面改質方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不活性なフッ素樹脂系成形物の表面を改質し、他の素材などとの接着性を付与するための表面改質方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などを主成分とするフッ素樹脂系成形物は、耐熱性、耐薬品性、耐候性、電気絶縁性などの優れた性質を有するため、種々の分野での応用が検討されている一方で、表面が不活性であり、接着剤、塗料、インクなどが付着し難く、他の素材との複合物を得ることが難しいという問題があった。
上記問題を解消するべく、従来、フッ素樹脂系成形物の表面を改質して、接着性を付与する試みが行われてきた。
反応に充分な温度下において、フッ素樹脂系成形物表面にアルカリ金属、アルカリ土類金属、マンガンおよび亜鉛の中から選ばれる金属を反応させて、フッ素樹脂系成形物表面を活性化する表面改質方法が知られている(特許文献1参照)。しかし、このような金属は反応性が高く、発火などの危険性がある。
【0003】
そこで、危険性を伴うことなくフッ素樹脂系成形物表面を改質するための別法として、以下の表面改質方法も知られている。
雰囲気圧0.0005〜0.5torrの条件下でフッ素樹脂系成形物をスパッタエッチング処理することにより、成形物表面に凹凸を形成して接着性を付与する表面改質方法が知られている(特許文献2参照)。さらに、前記特許文献2の技術により表面改質された成形物表面が耐磨耗性の低い点に着目して、スパッタエッチング処理ののち、不飽和炭化水素を含有する雰囲気下で放電処理を行うことで、耐磨耗性を付与させるようにした技術も知られている(特許文献3参照)。
【0004】
特許文献2、3の技術は、スパッタエッチングにより凹凸形成することで、上記特許文献1の技術のような危険性を伴うことなく、フッ素樹脂系成形物に強い接着性を付与することができるが、特許文献2の技術では耐磨耗性が低いために接着性が低下するという問題があり、また、特許文献3の技術では、スパッタエッチング処理という物理的処理と放電処理という化学的処理の2つの工程を行う必要があるが、これらの工程は別々の装置を使って行われるので、装置が大掛かりになってしまい、経済的にも不利であるという問題がある。
【特許文献1】米国特許第2789063号公報
【特許文献2】特開昭51−125455号公報
【特許文献3】特開2000−129015号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、危険性を伴うことなく成形物表面に充分な接着性を付与することができ、かつ、その処理を簡易に行い得る、フッ素樹脂系成形物の表面改質方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、前記課題を解決するため、鋭意検討を行った。その結果、フッ素樹脂系成形物表面に対しプラズマ照射を行うに際して、成形物表面に負電圧を印加することにより、成形物表面にプラズマ中のイオンを注入して成形物表面を粗面化する物理的改質と、成形物表面におけるフッ素原子をフッ素原子以外の原子に置換する化学的改質を行うようにすれば、すなわち、プラズマ中のイオンが成形物表面に衝突するときに生じる熱により、成形物表面の結合を切断、再構成させて凹凸を生じさせる物理的改質と、前記した再構成の際に、衝突したプラズマ中のイオンに由来するフッ素原子以外の原子にフッ素原子が置換されることにより親水性を改善させる化学的改質を起こすようにすれば、これら物理的改質と化学的改質との併用効果によって、成形物表面に充分な接着性を付与することができるとともに、前記物理的改質および化学的改質がプラズマ照射という一つの処理の中で行われることにより、処理の簡素化が可能となることを見出し、それを確認して、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明にかかるフッ素樹脂系成形物の表面改質方法は、フッ素樹脂系成形物表面における接着剤、塗料、インクの付着性を向上させるためのプラズマ照射による表面改質方法であって、フッ素樹脂系成形物表面に対しプラズマ照射を行うに際して、成形物表面に負電圧を印加することにより、成形物表面にプラズマ中のイオンを注入して粗面化する物理的改質(ただし、「小繊維構造が破壊しないか又は実質的に変化しない程度の物理的改質」は除く)と、成形物表面におけるフッ素原子をフッ素原子以外の原子に置換する化学的改質を行う、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明にかかるフッ素樹脂系成形物の表面改質方法によれば、物理的処理と化学的処理の併用により、成形物表面に充分な接着性を付与することができ、かつ、前記物理的処理と化学的処理とがプラズマ照射により一体的に行われるので、装置が大掛かりにならず、経済性にも優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明にかかるフッ素樹脂系成形物の表面改質方法について詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらに拘束されることなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更実施し得る。
本発明が対象とするフッ素樹脂系成形物は、フッ素樹脂を主たる成分とする成形物であり、前記フッ素樹脂としては、特に限定されず、フッ素を含有するモノマーの単独重合体や、他のモノマーとの共重合体を用いれば良い。具体的には、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−ビニリデンフルオライド系(THV)、ポリビニリデンフルオライド系(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン系(PCTFE)、クロロトリフルオロエチレン−エチレン系(ECTFE)、テトラフルオロエチレン−エチレン系(ETFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン系(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル系(PFA)などが挙げられる。
【0010】
前記フッ素樹脂系成形物の成形形態としては、特に限定されず、例えば、シート状、板状などの成形物が挙げられる。本発明にかかる表面改質方法では、物理的改質により粗面化されるので、前記粗面化が成形物の性能に影響を与えない程度の厚みを有することが好ましく、例えば、厚み0.01〜5mmのシート状成形物が好適である。ただし、シート状の成形物には、厚みの薄いフィルム状のものも含まれる。
本発明にかかるフッ素樹脂系成形物の表面改質方法は、上記したようなフッ素樹脂系成形物の表面を改質する方法であって、フッ素樹脂系成形物表面に対しプラズマ照射を行うに際して、成形物表面に負電圧を印加することにより、成形物表面にプラズマ中のイオンを注入して粗面化する物理的改質と、成形物表面におけるフッ素原子をフッ素原子以外の原子に置換する化学的改質を行う。具体的に以下に説明する。
【0011】
〔プラズマ照射〕
本発明にかかるプラズマ照射は、例えば、図1に示す如き装置により行うことができる。
図1に示すように、容器10内のガスは、ガス排出口11から排気ポンプ(図示せず)によって排出される一方で、ガス供給源12から任意のガスを供給することができる。これにより雰囲気ガスの種類を様々に変え得るとともに、圧力を所望の範囲に設定することができる。容器10内のガスをプラズマ化するために、プラズマ源20が備えられており、容器の内部に陰極であるフィラメント21があり、接地された容器の壁面13が陽極となっている。
【0012】
このようにして成形物30の周囲にプラズマを発生した状態で、電源40により、成形物30に対しパルス電圧を印加することにより、成形物30の周囲に一様にイオンシースが形成され、成形物30の表面に一様にイオンが注入される。その結果、成形物30の表面が粗面化されるとともに、成形物表面におけるフッ素原子が他の原子へと置換される。
具体的な条件について以下に説明するが、まず、プラズマを安定に得ることができる点で好ましい態様である、減圧下でのプラズマ照射について説明する。
プラズマ照射に用いる雰囲気ガスとしては、例えば、ヘリウム、アルゴン、窒素、二酸化炭素、アンモニア、酸素、水素、空気、水蒸気、四フッ化炭素などが用いられる。特に、反応性ガス単独、または、反応性ガスと不活性ガスの混合ガスを用いることが好ましい。なお、ここでいう不活性ガスとはヘリウムやアルゴンなどの希ガス族や二酸化炭素などの反応性の低いガスのことであり、反応性ガスとは前記不活性ガス以外の気体(例えば、水素、酸素、アンモニアなど)のことである。
【0013】
減圧プラズマ照射時の圧力としては、特に限定するわけではないが、例えば、0.05〜50Paとすることが好ましい。0.05Pa未満では、プラズマ照射の度に、減圧と大気開放を繰り返し行う必要があるので、この操作に時間が掛かり、生産効率が悪くなるおそれがあり、50Paを超えると、フッ素原子を水素原子に置換することが困難となるおそれがある。より好ましくは0.1〜30Pa、さらに好ましくは0.5〜10Paである。
プラズマ源の出力としては、特に限定するわけではないが、例えば、10〜1000Wとすることが好ましい。10W未満では、照射時間が長くなるおそれがあり、1000Wを超えると、処理基材表面の材料強度が劣化するおそれがある。より好ましくは10〜600Wであり、さらに好ましくは20〜400Wである。
【0014】
プラズマ源のプラズマ励起電界周波数は、特に限定されず、直流、交流、ラジオ波、マイクロ波などを利用することができる。中でも、13.56MHzのRF電源が好ましく利用できる。
減圧プラズマ照射の時間は、圧力、雰囲気ガス、温度などによって様々であるが、上述した範囲の圧力、雰囲気ガス、温度を採用した場合、通常、5秒〜60分である。好ましくは10秒〜20分である。5秒未満ではフッ素原子を水素原子に置換することが困難となるおそれがあり、60分を超えると処理基材表面の材料強度が劣化するおそれがある。
上記減圧プラズマ照射に代えて、大気圧プラズマ照射を行うこともできる。大気圧プラズマ照射は、電極表面に誘電体を設ける、電極間に高周波電界を印加する、ヘリウムなどの不活性ガスを雰囲気ガスとして使用する、という条件を満たすことで可能となる。真空装置が不要であるために設備費や処理コストが低減できるという利点と、プラズマ密度が高いために短時間で優れた接着性を付与できるという利点がある。
【0015】
大気圧プラズマ照射を行う場合には、雰囲気ガスとして、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガスを用いるとともに、必要に応じて他のガスを用いればよい。不活性ガスは、例えば、雰囲気ガス全量に対して、体積比基準で、50〜90%、好ましくは70〜90%とすればよい。また、プラズマ照射時の圧力を、例えば、大気圧(1×10Pa)とし、プラズマ照射源の出力を、例えば、10〜1000W、好ましくは20〜400Wとし、プラズマ照射の時間を、例えば、5秒〜60分、好ましくは10秒〜30分とすればよい。
本発明においては、上述の如きプラズマ照射に際して、成形物表面に負電圧を印加するが、前記負電圧としては、特に限定されず、例えば、減圧プラズマ照射の場合、接地電位に対して5〜20kVの範囲とすることが好ましい。5kV未満では処理時間が長くなるおそれがあり、20kVを超えると一旦凹凸が形成されても直ぐに削り取られてしまい、結果として、物理的改質効果が小さくなってしまうおそれがある。より好ましくは8〜12kVであり、さらに好ましくは10〜12kVである。大気圧プラズマ照射の場合には、負電圧はより大きいほうが好ましく、例えば、20kV〜1MVとすることが好ましい。
【0016】
さらに、上記プラズマ照射に加え、後処理を行っても良い。例えば、前述したプラズマ照射と基本的に同様の条件において、雰囲気ガスとして、アンモニア、酸素などの反応性ガスを用いて化学的改質を行うことができる。これにより、接着強度の更なる向上が実現できる。前述のプラズマ照射が化学的改質と物理的改質を行うものであるのに対して、後処理としてのこのプラズマ照射では化学的改質のみが行われる。したがって、後処理として行われるこのプラズマ照射の印加電圧は5kV未満で行われるようにする。5kV以上では、イオン注入が起こって、物理的改質が行われてしまう。
〔その他の工程〕
上述のようにして、成形物表面にプラズマ照射を施したのちに、さらに、処理表面にシランカップリング剤を塗布するようにすれば、接着性の更なる向上が可能となる。シランカップリング剤は、1つの分子中に反応性の異なる2種類以上の官能基を持っているものであり、具体的には、フッ素樹脂系成形物と親和性の高い官能基(例えば、メトキシ基、エトキシ基など)と、接着剤などの他の素材と親和性の高い官能基(例えば、ビニル基、エポキシ基、アミノ基、メタクリル基、メルカプト基など)を有し、フッ素樹脂系成形物と他の素材との間に介在して両者の接着性を高める役割を果たすのである。
【0017】
前記シランカップリング剤としては、特に限定されないが、例えば、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、イミダゾールシランなどが挙げられる。
〔表面改質したフッ素樹脂系成形物の用途〕
本発明にかかる表面改質方法を適用したフッ素樹脂系成形物は、表面が活性化され、接着性が付与されている。そのため、接着剤、塗料、インクなどと容易に接着し、特に接着剤を介して種々の素材との複合物を得ることができる。
【0018】
前記接着剤としては、特に限定されず、被着体に適当なものを適宜選択すれば良い。表面改質された成形物表面に対して、親和性の高い接着剤、具体的には、例えば、成形物表面に親水性を付与した場合には、この成形物表面と同様に親水性を有する接着剤が好ましい。特に、耐熱性を重視する場合には、例えば、エポキシ系やポリイミド系のものが好ましい。
【実施例】
【0019】
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。
実施例および比較例では接着強度、表面元素比を見ているが、その測定方法および評価方法は以下に示すとおりである。
<接着強度>
表面改質されたフッ素樹脂系成形物について、他の素材との接着強度(N/mm)を以下のようにして測定した。
表面改質後のフッ素樹脂系成形物を縦25mm×横60mm×厚み1mmに切断して試験片を作成し、その表面に、エポキシ系接着剤(商品名「ボンドEセット」、コニシ社製)を塗付し、SUS304と貼り合わせ、100℃で30分間処理することにより接着剤を加熱硬化させた。これを、25℃の温度で90度剥離強さ試験に供し、接着強度(N/mm)を測定した。
【0020】
<表面元素比>
表面改質されたフッ素樹脂系成形物について、処理表面における元素比(atm%)を以下のようにして測定した。
表面元素比は、X線光電子分光分析装置(XPS、クラトス社製、ESCA−3300)を用いた。Mg−KαモノクロX線源(1253.3eV)を用いて測定し、O1s、N1s、F1sの各ピークはC1sにおけるC−C結合の束縛エネルギーE=285.0eVを基準に補正し、それぞれのピーク面積比から各元素の構成割合を算出した。
〔実施例1〕
フッ素樹脂系成形物として、縦150mm×横150mm×厚み1mmのシート状に成形したポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を準備した。この成形物表面に、図1に示す装置を用いて、下記条件で、プラズマ照射を行うことにより、本発明の表面改質方法が適用されたフッ素樹脂系成形物を得た。
【0021】
<プラズマ照射条件>
圧力 :0.5Pa
雰囲気ガス :水素とアルゴンの混合ガス(体積基準でH:Ar=1:2)
プラズマ源 :プラズマイオンアシスト社製
プラズマ源出力:300W
負の印加電圧 :5kV
照射時間 :10分
<後処理としてのプラズマ照射条件>
圧力 :1Pa
雰囲気ガス :アンモニアガス
プラズマ源 :プラズマイオンアシスト社製
プラズマ源出力:300W
負の印加電圧 :1kV
照射時間 :15分
〔実施例2〜17〕
プラズマ照射条件を表1に示すように変更したこと以外は実施例1と同様にして、本発明の表面改質方法が適用された各フッ素樹脂系成形物を得た。
【0022】
なお、シランカップリング処理を施す場合の具体的な方法は以下のとおりである。
すなわち、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランをメタノール溶液で15重量%となるように希釈し、この希釈液を、25℃の条件下、各フッ素樹脂系成形物の表面改質処理面に塗布し、そののち、100℃で10分間乾燥した。
【0023】
【表1】
【0024】
〔比較例1〕
実施例1で用いたものと同様のフッ素樹脂系組成物(縦150mm×横150mm×厚み1mmのシート状に成形したPTFE)を比較例1とした。
〔比較例2〕
実施例1で用いたものと同様のフッ素樹脂系組成物(縦150mm×横150mm×厚み1mmのシート状に成形したPTFE)を、金属ナトリウム1重量%を液体アンモニアに溶解した溶液中に浸漬することにより、化学的に表面改質(親水化)されたフッ素樹脂系成形物を得た。
【0025】
〔結果および考察〕
実施例1〜17および比較例1、2にかかるフッ素樹脂系成形物の接着強度(N/mm)、表面元素比(atm%)を上述した方法で測定・評価し、その結果を上記表1に併せて示した。
また、実施例1〜17および比較例1、2にかかるフッ素樹脂系成形物の処理表面を、SEM(走査型電子顕微鏡)により観察した結果、実施例1〜17にかかるフッ素樹脂系成形物表面には表面全体に均一に凹凸が形成されていることが分かった。比較例1、2にかかるフッ素樹脂系成形物にはこのような凹凸は認められず、平滑であった。
【0026】
上記に示す結果から以下のことが分かる。
(1)実施例1〜17では、表面改質を施したフッ素樹脂系成形物が、優れた接着性を有するものであった。これは、上述したように成形物の表面全体に均一に凹凸が形成されていることと、表1の表面元素比の結果から分かるようにフッ素原子がフッ素原子以外の他の原子に置換されていることによる2つの改質効果の発現と判断される。
(2)後処理を施した実施例1〜10,14,15,17、シランカップリング剤を塗布した実施例5,6,13,14、特に後処理とシランカップリング剤の塗布の両方を行った実施例5,6,14における接着性の向上は極めて顕著であった。
(3)実施例1〜4、実施例7〜10において、それぞれ、負の印加電圧と接着性の関係性について見ると、負の印加電圧が10,12,15kV程度の場合に、特に優れた接着性が得られることが分かる。
(4)成形物をPFA(テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル)に代えたり、雰囲気ガスをアンモニアとアルゴンの混合ガスに代えたりしても、やはり、優れた接着性が得られることが、実施例16、実施例17の結果から分かる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明にかかるフッ素樹脂系成形物の表面改質方法は、例えば、接着剤、塗料、インクなどと接着し難いフッ素樹脂系成形物の表面を改質し、接着性を付与することにより、他素材との複合化も容易なフッ素樹脂系成形物を得るための方法として好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明にかかるフッ素樹脂系成形物の表面改質方法を実施するための装置の一例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0029】
10 容器
20 プラズマ源
30 成形物
40 電源
図1