特許第5649790号(P5649790)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5649790
(24)【登録日】2014年11月21日
(45)【発行日】2015年1月7日
(54)【発明の名称】はすば歯車の高周波焼入装置
(51)【国際特許分類】
   C21D 9/32 20060101AFI20141211BHJP
   C21D 1/10 20060101ALI20141211BHJP
   H05B 6/36 20060101ALI20141211BHJP
【FI】
   C21D9/32 B
   C21D1/10 A
   C21D1/10 R
   H05B6/36 F
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2009-23773(P2009-23773)
(22)【出願日】2009年2月4日
(65)【公開番号】特開2010-180444(P2010-180444A)
(43)【公開日】2010年8月19日
【審査請求日】2012年2月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】390026088
【氏名又は名称】富士電子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100480
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 隆
(72)【発明者】
【氏名】己之上 潤二
(72)【発明者】
【氏名】宇田川 彰
【審査官】 森井 隆信
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−122220(JP,A)
【文献】 特開平11−061241(JP,A)
【文献】 特開2001−172716(JP,A)
【文献】 特開平11−162626(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 9/32
C21D 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
異径部を備えた外歯車であるはすば歯車の高周波焼入装置であって、
高周波電流が供給される加熱導体部を有し、
前記加熱導体部は、前記はすば歯車の歯部の歯先又は歯元に対して同方向に45°乃至135°の範囲の傾斜角を成して対向し且つつなぎ曲線部を介して互いに接続された2つの曲線部を有し、
前記つなぎ曲線部は、はすば歯車の歯部の全周囲の半分よりも狭い範囲に対向し、
さらに前記加熱導体部の一部が異径部に対向し、
加熱導体部とはすば歯車とが軸方向と直交する方向に相対移動して誘導加熱可能に対向可能、且つ、離間可能であることを特徴とするはすば歯車の高周波焼入装置。
【請求項2】
加熱導体部は、歯部と異径部の間の段部に沿って対向する部位を有することを特徴とする請求項1に記載のはすば歯車の高周波焼入装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異径部を備えたはすば歯車を誘導加熱によって焼入する高周波焼入装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
歯車を高周波誘導焼入する際には、高周波電流が供給される加熱導体部材を歯車に対向配置し、歯車の歯部の表面に沿って歯先から歯元に至るように誘導電流を生じさせると歯部を一様に誘導加熱することができる。すなわち、突出した歯先の表面からくぼんだ歯元の表面に至るまで一様な焼入層を形成することができる。
このような歯車を高周波焼入することができる焼入装置が、例えば特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−73456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のように歯先から歯元に至るまで誘導加熱することが困難な形状を有する歯車も存在する。すなわち、はすば歯車20を従来の焼入装置で誘導加熱する際、加熱導体部の長手方向に対して、はすば歯車の歯の傾斜が急であると、誘導電流は歯先に沿って流れることが多い。
【0005】
ここで図6(a)は、ラインコイルではすば歯車を誘導加熱した場合の焼入パターンを示す断面略図であり、図6(b)は、環状コイルではすば歯車を誘導加熱した場合の焼入パターンを示す断面略図であり、(c)は(a)のc−c断面図である。以下、図6(a)〜(c)を参照しながら従来の焼入装置の不具合を説明する。
【0006】
図6(a)に示すように、はすば歯車の歯の軸に対する傾斜角が急な場合には、誘導電流が歯元を通りにくく、高周波焼入装置にラインコイル23を採用すると、歯車20の歯先25,26,27は誘導加熱されるが、歯元31,32には誘導電流が流れにくく、したがって歯元31,32は誘導加熱されにくい。すなわち、歯車20の表面には焼入パターン34が形成され、歯先25〜27部分の焼入深さは深くなるが、歯元31,32部分の焼入深さは浅くなる。
【0007】
そこで、図6(b)に示すように環状の加熱導体部材(環状コイル24)を歯部22の周囲に配置すると、歯先から歯元を経由して別の歯先へと誘導電流を流すことができる。よって、環状コイル24を採用すると、歯先から歯元にかけて一様に誘導加熱することができ、歯先の焼入深さと歯元の焼入深さとがほぼ均一になる。
【0008】
ところが、異径部21を備えたはすば歯車20を焼入する場合に、環状コイル24を採用すると、異径部21と歯部22の間に形成された段部39には誘導電流が流れにくい。すなわち、歯部22を流れる電流は、異径部21側に流れにくい。そのため、歯部22に形成される焼入パターン36と、異径部21に形成される焼入パターン35とを連続させることができにくくなる。その結果、はすば歯車の表面に連続した焼入パターンを形成するのは困難であった。
そこで本発明は、はすば歯車の表面を一様に焼入することができる高周波焼入装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための請求項1の発明は、異径部を備えた外歯車であるはすば歯車の高周波焼入装置であって、高周波電流が供給される加熱導体部を有し、前記加熱導体部は、前記はすば歯車の歯部の歯先又は歯元に対して同方向に45°乃至135°の範囲の傾斜角を成して対向し且つつなぎ曲線部を介して互いに接続された2つの曲線部を有し、前記つなぎ曲線部は、はすば歯車の歯部の全周囲の半分よりも狭い範囲に対向し、さらに前記加熱導体部の一部が異径部に対向し、加熱導体部とはすば歯車とが軸方向と直交する方向に相対移動して誘導加熱可能に対向可能、且つ、離間可能であることを特徴とするはすば歯車の高周波焼入装置である。
【0010】
請求項1の発明では、加熱導体部がはすば歯車の歯部の歯先又は歯元に対して45°乃至135°の範囲の傾斜角を成して対向するので、加熱導体部に電流が流れると、歯部には該電流とは逆向きの誘導電流が流れる。加熱導体部に供給される電流は高周波の交流電流であるが、これが仮に直流電流であったとすると、歯部を流れる誘導電流は、歯先から歯元に至り、さらに歯元から隣接する別の歯先に達する。すなわち、誘導電流は歯先に沿って流れず、歯先と歯元とを交互に通過するように流れる。よって、請求項1の発明を実施すると、はすば歯車の歯部を一様に焼入することができる。
さらに、前記加熱導体部が異径部にも対向するので、異径部にも誘導電流が流れる。この誘導電流は歯部側から異径部側に、又は異径部側から歯部側に流れるので、異径部から歯部にかけてはすば歯車の表面には一様な焼入パターンが形成される。
【0011】
請求項1の発明では、加熱導体部とはすば歯車とが軸方向と直交する方向に相対移動して対向可能である。よって、はすば歯車の軸芯を固定した状態で加熱導体部とはすば歯車のうちの少なくともいずれか一方を軸方向と直交する方向に移動させて両者を誘導加熱可能に対向配置する、又は両者を離間させることができる。また、はすば歯部車を軸方向に移動させて加熱導体部に対向させる場合と比較して高周波焼入装置の小型化を図ることができる。
【0012】
請求項2の発明は、加熱導体部は、歯部と異径部の間の段部に沿って対向する部位を有することを特徴とする請求項1に記載のはすば歯車の高周波焼入装置である。
【0013】
請求項2の発明では、加熱導体部の一部が、歯部と異径部の間の段部に沿って対向するので、段部には確実に誘導電流が流れる。その結果、はすば歯車の段部の焼入パターンが、歯部の焼入パターンと異径部の焼入パターンにつながり、はすば歯車の表面には一様な焼入パターンが形成される。
【発明の効果】
【0014】
本発明を実施すると、誘導電流が歯部の歯先から歯元に流れ、さらに該歯元から別の歯先へ流れるので、はすば歯車の歯面に歯先から歯元に至るまで一様に誘導加熱することができる。また、加熱導体部が異径部にも対向するので、誘導電流が歯部側と異径部側の間を流れる。その結果、はすば歯車の歯部から異径部に至る表面に、一様な焼入パターンが形成される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】(a)は本発明の高周波焼入装置の加熱コイルをはすば歯車の周囲に配置した状態を示す斜視図であり、(b)は本発明の高周波焼入装置の回路図である。
図2】(a)は本発明を実施した高周波焼入装置の正面図であり、(b)は(a)の右側面図であり、(c)は(a)の平面図であり、(d)ははすば歯車の歯部に誘導電流が流れる状況を示す部分断面図であり、(e)は本発明の高周波焼入装置で焼入されたはすば歯車の焼入状態を示す断面略図である。
図3図1(a)に示す加熱コイルとは別の形状の加熱コイルをはすば歯車の周囲に配置した状態を示す斜視図である。
図4】(a)は図1(a)の加熱コイルの変形例を示す斜視図であり、(b)は(a)の加熱コイルの側面図である。
図5図1(a),図4(a)の加熱コイルのさらに別の変形例を示す斜視図である。
図6】(a)はラインコイルではすば歯車を誘導加熱した場合の焼入パターンを示す断面略図であり、(b)は環状コイルではすば歯車を誘導加熱した場合の焼入パターンを示す断面略図であり、(c)は(a)のc−c断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1(a)は本発明の高周波焼入装置の加熱導体部をはすば歯車の周囲に配置した状態を示す斜視図であり、図1(b)は本発明の高周波焼入装置の回路図である。また、図2(a)は本発明を実施した高周波焼入装置の正面図であり、図2(b)は図2(a)の右側面図であり、図2(c)は図2(a)の平面図であり、図2(d)ははすば歯車の歯部に誘導電流が流れる状況を示す部分断面図であり、図2(e)は本発明の高周波焼入装置で焼入されたはすば歯車の焼入状態を示す断面略図である。図1(b)に示すように高周波焼入装置10は、電源とインバータとを有する高周波電源1、誘導コイル2、加熱コイル3(加熱導体部)とを備えている。
【0017】
高周波電源1は高周波の交流電流を誘導コイル部2に供給し、加熱コイル3に高周波の誘導電流を生じさせる。この加熱コイル3が、さらにワーク4に対向配置され、ワーク4の表面に高周波の誘導電流を生じさせ、ワーク4の表面を誘導加熱する。ここでワーク4は、小径部4a(異径部)と歯部4bとを有するはすば歯車であり、小径部4aと歯部4bの間には段部4cが形成されている。本発明の高周波焼入装置10の特徴は、このワーク4の表面を誘導加熱する加熱コイル3の構造(形状)にある。ワーク4は、図示しないモータによって回転駆動が可能である。
【0018】
図1(a)に示すように、加熱コイル3には第1直線部3a,第2直線部3b,曲線部3c,及びつなぎ曲線部3dが設けられている。誘導加熱時には、第1直線部3aはワーク4の小径部4aに対向配置され、第2直線部3bはワーク4の段部4cに対向配置され、さらに曲線部3c及びつなぎ曲線部3dは歯部4bに対向配置される。
【0019】
ここで歯部4bの周囲には図2(d)に符号5aで示される複数の歯が設けられている。符号5aは、各々歯の歯先と歯元とを略式に示すものである。また、符号5bは、符号5aで示される歯に隣接している歯の歯先と歯元とを略式に示している。
【0020】
加熱コイル3の曲線部3cは、ワーク4の歯部4bの歯5aに対して角度r1を形成している。すなわち角度r1が、45°乃至135°の範囲内に収まるように、曲線部3cは形成されている。ここで角度r1は、実際には加熱コイル3の曲線部3cがワーク4の歯5aと交差するわけではないが、加熱コイル3をワーク4上に最短距離で投影させた際に、ワーク4上に生じた影と歯5aとが成す角度である。また、つなぎ曲線部3dは歯部4bの歯5aに対して角度r2を形成している。角度r2も角度r1と同様に45°乃至135°の範囲内に収まっている。
【0021】
ワーク4が回転駆動されると、曲線部3cに対向する歯5aの位置が変化し、ワーク4が一回転すると、全ての歯が曲線部3cに順に対向する。すなわち、ワーク4が一回転する間に歯部4bの全領域が曲線部3cと対向する。その際、曲線部3cに高周波電流が流れると、歯部4bには図2(d)に示すように誘導電流が生じる。
【0022】
図2(d)に示すように、加熱コイル3の曲線部3cに高周波電流が供給されると、ワーク4(はすば歯車)の歯部4bの表面に沿って矢印12で示すように誘導電流が流れる。すなわち、誘導電流は歯5aから歯5bを経て歯5c側へと各歯の歯先と歯元とを経て歯部の表面に沿って流れる。
【0023】
上述のように歯部4bの各歯5と曲線部3cとの成す角度r1が、45°乃至135°の範囲内に設定されているので、各歯に生じた誘導電流は、歯先に沿って流れず、例えば歯5aの歯先から歯元に下がり、さらに歯5aの歯元から歯5bの歯先へと流れる。その結果、歯部4bの全ての歯の歯先から歯元が、一様に誘導加熱され、焼入パターン15が形成される。
【0024】
ところで、曲線部3cと第1直線部3aには同じ高周波電流が流れるため、ワーク4の歯部4b側と小径部4a(異径部)側との間(すなわち段部4c)にも誘導電流が流れる。よって、段部4cも誘導加熱されるが、加熱コイル3の第2直線部3bが、ワーク4の段部4cに対向しているため、段部4cに積極的に誘導電流を生じさせることができる。その結果、第2直線部3bが設けられていない場合よりも段部4cを良好に誘導加熱することができる。また、第2直線部3bを設けることによって、第1直線部3aと小径部4aの距離が短くなり、小径部4aには誘導電流が生じ易くなる。よって、小径部4aは誘導加熱され易くなる。
【0025】
以上、説明したように加熱コイル3が構成されているので、ワーク4の表面(歯部4bと小径部4a)には、図2(e)に符号15で示すように一様な焼入パターンが形成される。すなわち、歯部4bの各歯の歯先から歯元に至るまで良好に誘導加熱することができると共に、ワーク4の段部4cにも良好な誘導加熱を施すことができる。
【0026】
次に、図1(a)に示す加熱コイル3とは別の加熱コイル13を備えた場合を説明する。図3は、図1(a)に示す加熱コイルとは別の形状の加熱コイルをはすば歯車の周囲に配置した状態を示す斜視図である。
【0027】
図3に示す加熱コイル13は、第1直線部13a,第2直線部13b,曲線部13c,及びつなぎ曲線部13dが設けられている点は図1に示す加熱コイル3と同じであるが、つなぎ曲線部13dの長さは、加熱コイル3のつなぎ曲線部3dよりも短い。その結果、加熱コイル13に対向配置されたワーク4は、加熱コイル13に接触することなく矢印14で示す方向に移動することができる。すなわち、矢印14で示す方向とは逆方向にワーク4を移動させて加熱コイル13に対向配置することができる。
【0028】
図3に示すように加熱コイル13を形成すると、加熱コイル3(図1)に対してワーク4を軸方向に移動させて対向配置したり対向位置から退避させる場合よりも、容易にワーク4を加熱コイル13に対向させることができる。
【0029】
図1図3に示す例では、加熱コイル3,13は、ワーク4の段部に対向させる第2直線部3b(13b)を備えていたが、図4(a)、(b)に示すように第2直線部3b(13b)を省略することもできる。
【0030】
また、ワーク4の小径部4aの直径が小さくズブ焼になる懸念がある場合には、図5に示すように第1直線部3aを外側へ退避させる第3直線部3fを設けてもよい。図5は、図1(a),図4(a)の加熱コイルのさらに別の変形例を示す斜視図である。図5に示すように加熱導体部を構成すると、直径が小さい小径部4aがズブ焼になることを防止することができる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、異径部と歯部の境界部分に強度が必要なはすば歯車を焼入するのに利用できる。
【符号の説明】
【0032】
3 加熱コイル(加熱導体部)
4 ワーク(はすば歯車)
4a 小径部(異径部)
4b 歯部
5a,5b,5c 歯
10 高周波焼入装置
11 高周波電流
12 誘導電流
15 焼入パターン
r1,r2 加熱コイルと歯とが成す角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6