(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
一般に、アルミニウム缶、スチール缶等の金属容器は、例えば、ビール、コーラ、サイダー等の炭酸飲料や果汁飲料、各種お茶類等の飲料用の容器、缶詰食品の容器、各種液体製品の容器等に広く使用されている。
そして、このような各種の金属容器には、例えば商品名や内容物の成分、生産者、生産地、賞味期限等、所定の商品情報を表示した文字やバーコード等が付されている。この種の商品情報の表示は、通常、金属容器の外面に直接印刷されたり、ラベルに印刷されて貼付されるようになっている。
【0003】
ところが、商品情報等を表示するラベルや印刷は、容器のデザイン等を損なわないよう小さく表示されるのが一般的であり、その結果、表示面積や表示される文字の大きさ、文字数等が限られたものとなり、充分な商品情報が表示できないという問題があった。
また、バーコード表示の場合、リーダで読み取るためにバーコード自体を容器表面に平面状に表示等しなければならず、また、傷や汚れ等があると読み取り不能となってしまい、しかも、バーコードでコード化できる情報量は限られていることから、文字による表示の場合と同様に、商品情報を表示、認識する手段としては一定の限界があった。
【0004】
そこで、このような従来の商品情報表示の不利・不便を解消し、必要かつ十分な商品情報を簡易かつ正確に表示等する手段として、最近ではICタグが利用されるようになってきている。
ICタグは、非接触ICタグ、RFID(Radio Frequency Identification)タグ、RFタグ等とも呼ばれ、ICチップと無線アンテナを樹脂やガラス等で封止してタグ(荷札)状に形成した超小型の通信端末で、ICチップに所定の情報を記録して対象物にタグを取り付け、記録した情報を無線通信により読取装置(リーダ・ライタ)側でピックアップすることにより、ICチップに記録された情報を認識、表示するものである。
【0005】
このようなICタグは、ICチップのメモリに数百ビット〜数キロビットのデータが記録可能であり、十分な情報等を記録でき、また、読取装置側と非接触であるため接点の磨耗や傷、汚れ等の心配もなく、さらに、タグ自体は無電源にすることができるため対象物に合わせた加工や小型化・薄型化が可能となる。
そして、このようなICタグを用いることで、商品に関する種々の情報、例えば商品の名称や重量、内容量、製造・販売者名、製造場所、製造年月日、使用期限・賞味期限等の種々の情報が記録可能となり、従来の文字やバーコードによる商品表示では不可能であった多種多様な商品情報であっても、小型・薄型化されたタグを商品に装着するだけで利用することが可能になった。
【0006】
ところが、このようなICタグをアルミニウム缶やスチール缶のような金属容器に取り付けた場合、金属容器の導電性によってICタグが影響を受けてしまい、正確な無線通信が行えなくなるという問題が発生した。
ICタグを容器に取り付けると、ICタグが発生する磁束は容器を貫通する方向に生じることになる。このため、タグを金属容器に取り付けた場合、アンテナ部が発する磁波・電磁波が金属容器側に吸収される熱損失等が生じてしまい、タグの通信特性が損なわれる事態が生じる。
【0007】
例えば、
図19(a)に示すように、ICタグ100を金属容器101に取り付けると、
図19(b)に示すように、タグ100が発する磁束により金属容器101の表面に渦電流が誘起され、この渦電流によって、ICタグ100の磁束が打ち消されて熱損失が生じる。
また、金属容器101の影響によりタグ100のアンテナコイル部のインダクタンス等が変化してしまい、これによりアンテナの共振回路の共振周波数もずれてしまう。
このようにして、通常の汎用されているICタグをそのまま金属容器に取り付けると、タグが誤動作したり、リーダ・ライタとの無線通信が行えないという問題が発生した。
【0008】
そこで、これまで、アルミニウム缶やスチール缶のような金属容器にICタグを取り付ける場合には、ICタグの構成を金属容器専用のものに変更して、金属容器からの影響を回避しようとする提案がなされている(例えば、特許文献1−3参照。)。
具体的には、
図20に示すように、従来提案されている金属容器専用のICタグ102は、タグ内部の金属容器101と対向する側に、シート形状等に形成した磁性体(高透磁率体)103や誘電体が配設されるようになっており、これによって、ICタグ102が発する磁束を磁性体103内に通過させて、金属容器101側に渦電流が発生することを防止するようになっていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来提案されている金属容器用のICタグは、汎用のICタグに比べ厚さ等の寸法が大きく、金属容器の表面に装着すると、外見上タグが装着されていることが明らかになってしまい、金属容器の外観を損なうおそれがあるとともに、商品の出荷、陳列等の際に他の商品や器具等と接触して破損するおそれもあり、さらに、人為的に剥離、損壊等することも可能で、管理システムに支障を来す可能性があった。
また、外見上目立たないようにICタグを小型化することも可能であるが、この場合には、必要なアンテナ長を確保できずに、無線通信の距離(範囲)が狭い範囲に限られたり、隣接する金属容器の影響等によって通信特性が損なわれるおそれがあった。
【0011】
本発明は、以上のような従来の技術が有する課題を解決するために提案されたものであり、ICチップを開封用のタブに電気的に接触させることにより、金属蓋自体をICタグのアンテナとして機能させるとともに、ICタグと金属蓋とのインピーダンス整合を図る整合回路を備えることにより、ICタグを小型化しつつ、良好な通信特性が得られるようにし、既存のICチップを用いても良好な通信特性が得られ、リーダ・ライタとの通信距離を長く確保することができる、アルミニウム缶やスチール缶等の金属容器に好適なICタグ付き金属蓋及び金属容器の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明のICタグ付き金属蓋は、タブを有する金属蓋であって、前記タブに搭載されるICタグ用のICチップと、ICタグ用のアンテナと、前記アンテナ及び前記ICチップ間のインピーダンス整合をとる整合回路と、を備えている。
【0013】
このような構成からなる本発明のICタグ付き金属蓋によれば、金属蓋において、ICチップとアンテナとが整合回路によってインピーダンス整合をとることができるので、ICタグの性能が劣化することなく通信を行なうことができる。これにより、ICタグは、リーダ・ライタとの通信距離を長く確保することができる。
【0014】
特に、本発明のICタグ付き金属蓋は、ICチップが搭載される基板と、該基板上に導電性金属で形成された整合回路としての回路パターンとを備えることが好ましく、また、前記整合回路は、前記タブに電気的に接触するとともに当該タブが前記アンテナとして機能する構成とすることが好ましい。
【0015】
このような構成からなる本発明の金属蓋は、ICチップと整合回路が一体となっており、ICタグを小型化することができる。
また、金属蓋を構成するタブとICチップを、整合回路を介して電気的に接続することにより、タブをICタグ用のアンテナとして機能させ、タブとICチップが一体となってICタグを構成するようにしてある。
これにより、金属容器の蓋部等にICチップを実装するだけで、ICタグ付きの金属容器を構成することができ、ICタグ本体を小型化しつつ、金属容器からなるアンテナによって、通信に必要となる十分なアンテナ長を確保することができ、金属による通信特性の劣化等の問題も解消することができる。
さらに、タブをアンテナとすることにより、タグ側のアンテナを省略することができ、アンテナ用のコストを削減できるとともに、タグを可能な限り小型化することができ、小型かつ低コストな金属用ICタグを実現することができる。
【0016】
また、本発明のICタグ付き金属蓋は、前記整合回路が、当該整合回路のインピーダンス(Zma)の実数部成分{Re(Zma)}と、ICチップのインピーダンス(Zic)の実数部成分{Re(Zic)}と、前記タブのインピーダンス(Zan)の実数部成分{Re(Zan)}との関係が、下記式(1)の関係に設定されるとともに、当該整合回路のインピーダンス(Zma)の虚数部成分{Im(Zma)}と、前記ICチップのインピーダンス(Zic)の虚数部成分{Im(Zic)}と、前記タブのインピーダンスZanの虚数部成分{Im(Zan)}との関係が、下記式(2)の関係に設定されることが好ましい。
式(1):Re(Zma)=Re(Zic)−Re(Zan)
式(2):Im(Zma)=−Im(Zic)−Im(Zan)
このような構成とすると、ICチップ及びアンテナであるタブ間のインピーダンス整合を行なうことができる。
【0017】
また、本発明のICタグ付き金属蓋は、前記ICタグ用アンテナとして所定の動作利得が得られるインピーダンスを有する所定形状に形成されている。
例えば、タブのリング部の周囲長を所定の長さとすることによりタブの構造を変化させて、インピーダンスの虚数部成分を調整することができる。
これにより、タブのアンテナ動作利得を向上させることができ、この点でも通信距離を延長することができる。また、整合回路の回路長や、回路パターンを簡略化することができるようになり、ICタグの小型化を容易に行なうことができる。
また、整合回路及びタブの構造の双方でインピーダンス整合を行なうので、どちらか一方だけでインピーダンス整合を行なう場合に比較して、整合回路の回路パターンやタブの形状を、複雑なものとすることなくICチップとアンテナ間のインピーダンス整合を行なうことができる。そのため、製造コストを低減することができる。
【0018】
また、本発明のICタグ付き金属蓋は、前記タブが固定される蓋パネルを備え、前記タブの先端側端縁と前記蓋パネルの内径との間に、指を挿入可能な空間が形成される形状に前記タブが形成されている。
このような構成からなる金属蓋は、タブ自体が邪魔になることなく缶の開封を行なうことができる。
【0019】
また、本発明のICタグ付き金属蓋は、前記タブが、前記蓋パネルと電気的に接触し、該タブ及び該蓋パネルがアンテナとして機能する構成としている。
このような構成からなる金属蓋は、ICチップを実装するだけで、ICタグ付きの金属容器を構成することができ、ICタグ本体を小型化しつつ、金属蓋からなるアンテナによって、通信に必要となる十分なアンテナ長を確保することができ、金属による通信特性の劣化等の問題も解消することができる。
【0020】
また、本発明のICタグ付き金属蓋は、前記蓋パネルが、前記タブ側に突出するとともに当該タブに接触する一又は二以上の突出部を備えている。
このような構成からなる金属蓋は、突出部が設けられることにより、タブを流れる電流長を調整することができる。
すなわち、突出部を、その位置や数を異ならせて設けることにより電流長を調整して、タブのインピーダンスを適当なものとすることができるので、より容易に所望の通信周波数帯域での通信を行なうことが可能となる。
【0021】
また、本発明の金属容器は、容器本体と、該容器本体に被せられる金属蓋とを備える金属容器であって、前記金属蓋が、本発明に係る金属蓋からなる構成としている。
このような構成からなる本発明の金属容器によれば、本発明に係るICタグ付き金属蓋を備えることで、アルミニウム缶、スチール缶等の金属容器において、容器の外観・デザインを損なうことなく、また、ICタグの破損・脱落等を防止しつつ、リーダ・ライタとの間で良好な無線通信を行うことができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、アンテナ及びICチップ間のインピーダンス整合をとる整合回路と、を備えたので、ICチップとアンテナとが整合回路によってインピーダンス整合をとることができるようになり、ICタグの性能が劣化することなく通信を行なうことができる。これによって、ICタグのリーダ・ライタとの通信距離を長く確保することができる。
また、ICチップを金属蓋と電気的に接触させることにより、金属蓋自体をICタグのアンテナとして機能させ、金属蓋とICチップとが一体となってICタグを構成することができる。これによって、タグ本体を小型化しつつ、必要なアンテナ長を確保でき、金属による通信特性への影響も回避することができ、外見上タグが目立たなくなって金属容器等の外観が保たれ、かつ、リーダ・ライタとの間で良好な無線通信が行えるようになる。
従って、本発明によれば、特に、アルミニウム缶やスチール缶等の金属容器に好適なICタグ付き金属蓋を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係るICタグ付き金属蓋及びこの金属蓋を備えた金属容器の好ましい実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
[第一実施形態]
まず、
図1〜9を参照して、本発明の第一実施形態に係るICタグ付き金属蓋及びこの金属蓋を備えた金属容器について説明する。
(金属容器)
図1は、本発明の第一実施形態に係るICタグ付き金属蓋を備えた金属容器を示す斜視図であり、
図2は、本実施形態に係る金属容器を示す部分断面図、
図3は、同じく本実施形態に係る金属容器の巻締め部を示す断面図である。
これらの図に示すように、本実施形態の金属容器10は、飲料が充填されるアルミニウム缶、スチール缶等の缶容器であり、缶の胴部及び底部からなる容器本体20と、缶の蓋部となる金属蓋30とで構成されている。
そして、このような金属容器10の金属蓋30に、リーダ・ライタとの間で通信を行うICタグ40が装着されるようになっている。
【0025】
金属容器10を構成する缶容器は、いわゆるスリーピース缶の場合には、胴部と蓋部及び底部がそれぞれ分離しており、胴部に蓋部及び底部を巻締めることにより形成され、いわゆるツーピース缶の場合には、底部と胴部が一体化されて容器本体を構成し、この容器本体に蓋部が巻締められることにより形成される。
本実施形態の金属容器10は、胴部及び底部を形成する容器本体20に、蓋部を形成する金属蓋30を巻締めるツーピース缶によって構成してある。
但し、金属容器10は、スリーピース缶によって構成してもよい。
【0026】
図2及び
図3に示すように、容器本体20と金属蓋30との巻締め部は、容器本体20の上端縁に形成されたボディフック21と、金属蓋30の外周縁に形成されたカバーフック31とを重ね合わせ、かつ、巻込み状に圧着することにより形成されている。
この巻締め部は、金属容器10に充填された内容物の品質保持に大きな影響を与える部分であり、通常は、巻締め部の重ね合わせ部分にウレタン樹脂P等を塗布し、必要な密封性が確保されるようになっている。
このような構成により、金属容器10は、容器本体20と金属蓋30は、絶縁部材であるウレタン樹脂Pを介して絶縁されるが、厳密には、容器本体20と金属蓋30が直接接触する部分も存在しているので、完全な絶縁状態とはなっていない。
【0027】
ここで、アルミニウム缶やスチール缶等の缶容器では、容器胴部を構成する金属材にPET樹脂等のプラスチック樹脂を被覆した樹脂被覆缶容器が広く知られている。
このような樹脂被覆缶容器では、容器胴部を構成する金属材の外面や内面にPET樹脂等が被覆されており、このような樹脂被覆された胴部と蓋部とは、ウレタン樹脂等の有無に拘わらず、もともと完全な絶縁状態にある。
従って、容器本体20をこのような樹脂被覆缶容器で構成し、この樹脂被覆缶容器の蓋部にICチップを実装することで、胴部側と完全に絶縁された蓋部をICタグ用アンテナとして機能させることができる。これによって、巻締め部に別途絶縁部材の充填等を必要とすることなく、金属蓋30を容器本体20と完全に絶縁された状態として、良好な通信特性が得られるようになる。
【0028】
図4は、このような樹脂被覆された金属容器を示す部分断面図である。
同図に示す金属容器10は、蓋部(金属蓋30)と胴部(容器本体20)が樹脂被覆によって絶縁されるようになっており、これによって胴部を構成する金属からの影響を回避して良好な通信特性が得られるようになる。
具体的には、本実施形態では、容器本体20を樹脂被覆金属で構成することで(樹脂被覆層23,23参照)、金属蓋30と容器本体20とがほぼ完全に絶縁されるようにしてある。
【0029】
容器本体20は、例えば、ティンフリースチール板の両面に予めポリエステル樹脂、ポリプロピレン樹脂等の熱可塑性樹脂フィルムをラミネートした厚さが0.1〜0.4mmの樹脂被覆金属板によって形成される。
樹脂被覆金属板は、例えば、厚さが0.18mmのティンフリースチール板等の金属薄板の両面に、厚み20μmのポリブチレンテレフタレートフィルムやポリエチレンテレフタレートフィルムをラミネートしたものが好適に用いられる。
また、金属薄板に被覆される樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレート,エチレンテレフタレート−イソフタレート共重合体,エチレンテレフタレート−アジペート共重合体,ブチレンテレフタレート−イソフタレート共重合体等のポリエステル系樹脂,ポリエチレン,ポリプロピレン,エチレン−ポリプロピレン共重合体,エチレン−酢酸共重合体,アイオノマー等のポリオレフィン系樹脂,ナイロン6,ナイロン66等のポリアミド系樹脂などがある。
【0030】
なお、本発明によれば、後述する整合回路50を備えることにより、容器本体20と金属蓋30が絶縁されていなくても、ICタグ(ICチップ)の通信が行えるようになっている。その意味で、容器本体20と金属蓋30とは、絶縁されていることがより好ましいが、絶縁されていなくても良いことになる。
従って、金属容器10の構成は、容器本体20及び金属蓋30が導通するタイプ(
図3参照)、これらが絶縁させられるタイプ(
図4参照)のどちらであってもよい。
【0031】
(金属蓋)
図5は、本発明の第一実施形態に係るICタグ付き金属蓋を及びこの金属蓋を備える金属容器の一部拡大斜視図である。
図6は、本実施形態に係る金属蓋及び金属容器を示す図であって、(a)は、平面図、(b)は、側面断面図である。
これらの図に示すように、金属蓋30は、円形の蓋パネル32と開封用タブ33を備えた構成となっている。
蓋パネル32は、円形の金属板であり、周縁部には、上述したカバーフック31が形成され、中央部オフセット位置には、開口予定領域を囲むようにスコア34が形成されている。
【0032】
開封用タブ33は、剛性のある金属板状部材であって、リベット35を介して蓋パネル32に固定される固定部36と、固定部36から蓋パネル32に沿って延びるリング部37とが一体的に備られており、リベット35を介して蓋パネル32と電気的に導通されている。
また、タブ33は、タブ33の先端側端縁と蓋パネル32の内径との間に、指を挿入可能な空間が形成される形状に形成されている。
固定部36は、スコア34に囲まれた開口予定領域にオーバーラップするように蓋パネル32に固定されており、リング部37は、スコア34から遠ざかる方向に延びている。
【0033】
リング部37は、リング孔38を有する環状のつまみ部であり、リング部37の先端部に指を掛けて引き起すと、リベット35を支点として固定部36の先端部が下動し、いわゆる梃子の原理でスコア34を破断する。これにより、開口予定領域が開封され、内容物の注出が可能になる。
リング部37の一部又は全体は、蓋パネル32の表面から離間するように形成することが好ましい。このようにすると、リング部37と蓋パネル32の間に指掛け空間が確保されるので、リング部37の指掛けや引き起しが容易になる。
【0034】
そして、本実施形態では、この開封用タブ33のリング部37のリング孔38上にICタグ40が備えられるようになっている。
開封用タブのリング孔は、一般には、開封操作時の指掛け用の孔として認識されているが、近年の開封用タブは、開封後も金属蓋から分離されない構造となっており、小型化され、容器から完全に切り離される旧来の大型のプルタブとは異なり、リング孔も小さいものとなっている。本実施形態の開封用タブ33も、このような開封後も金属蓋から分離されない、リング孔の小さいタイプのものとなっている。そして、このようなタイプの開封用タブのリング孔は、実際にはリング孔38に指が入れられることはなく、せいぜい開封時に指の腹で押えられる程度のものとなっている。
そこで、本実施形態では、このように実際にはデッドスペース化している開封用タブ33のリング部37のリング孔38にまたがってICタグ40(ICチップ41)を搭載することによりリング孔38を装着空間として有効活用するようにしてある。
【0035】
(ICタグ)
図5及
図6に示すように、ICタグ40は、金属蓋30の開封用タブ33に装着される。
一般に、ICタグは、ICチップとアンテナとを有し、これらを樹脂などからなる基材に搭載して構成されるが、本実施形態に係るICタグ40は、専用のアンテナを備えず、金属容器10の一部を、ICタグ用のICチップ41に電気的に接続し、ICタグ40のアンテナとして機能させるようにしてある。
具体的には、ICタグ40は、矩形状の基板45(
図8参照)上に搭載されるICチップ41と、基板45上に形成され、ICチップ41及びタブ33に電気的に接触されるとともに、ICチップ41とタブ33間のインピーダンス整合をとる整合回路50(
図7、8参照)とを備えている。
そして、このICタグ40は、金属蓋30の開封用タグ33に装着されている。
【0036】
ICチップ41が搭載される基板45は、ガラスエポキシ樹脂などで形成されており、ICチップ41側と金属蓋30側とが絶縁されている。ただし、基板は、樹脂フィルムなどで形成してもよい。
ICチップ41は、メモリ等の半導体チップからなり、例えば数百ビット〜数キロビットのデータが記録可能となっている。
そして、金属蓋30で構成されるアンテナを介して図示しないリーダ・ライタとの間で無線通信による読み書き(データ呼び出し・登録・削除・更新など)が行われ、ICチップ41に記録されたデータが認識されるようになっている。
ICチップ41に記録されるデータとしては、例えば、商品の識別コード、名称、重量、内容量、製造・販売者名、製造場所、製造年月日、使用期限等、任意のデータが記録可能であり、また、書換も可能である。
【0037】
ICタグ40で使用される周波数帯としては、例えば、135kHz以下の帯域、13.56MHz帯、いわゆるUHF帯に属する860M〜960MHz帯、2.45GHz帯等の数種類の周波数帯がある。そして、使用される周波数帯によって無線通信が可能な通信距離が異なるとともに、周波数帯によって最適なアンテナ長などや配線パターンが異なってくる。
本実施形態では、金属蓋30をアンテナとして機能させることから、金属蓋30の径・面積を所定の値に設定することで、特定周波数帯(例えば2.45GHz帯)に適したアンテナとすることができる。
【0038】
図7は、本実施形態に係るICタグ付き金属蓋及び金属容器における等価回路図であり、
図8は、本発明の第一実施形態に係るICタグ付き金属蓋及び金属容器におけるICタグの回路パターンを示す図である。
これらの図に示すように、整合回路50は、基板45上に、例えば、アルミニウムなどの導電性金属で形成された回路パターンで構成されている。そして、整合回路50は、基板45を貫通してタブ33に接触するコンタクト部51を備えている。
また、このコンタクト部51は、整合回路50とタブ33とを電気的に接続している。
なお、コンタクト部51は、少なくとも1箇所においてタブ33と電気的に接続していれば良く、従って、コンタクト部51は複数設けられていても良い。
【0039】
この整合回路50は、無線通信などに用いられる高周波の電気信号の伝送路において、信号の送り出し側回路の出力インピーダンスと、信号を受ける側回路の入力インピーダンスとを合わせる(整合)ために設けられる。
インピーダンス整合は、ICチップ41、アンテナ(タブ33)及び整合回路50のインピーダンスにおいて、ICチップ41の実数部成分の値と、アンテナ及び整合回路の実数部成分の和の値とが一致し({Re(Zic)}={Re(Zan)}+{Re(Zma)})、かつ、ICチップ41、アンテナ及び整合回路の虚数部成分の和の値が0({Im(Zic)}+{Im(Zan)}+{Im(Zma)}=0)となれば最高の性能となる。
そして、これらが不整合になれば、それだけICタグ40の性能は劣化することになる。
【0040】
そこで、本実施形態では、整合回路50が、所定の通信周波数帯域(本実施形態では、2.40GHz〜2.4835GHz)において、整合回路のインピーダンス(Zma)の実数部成分{Re(Zma)}と、ICチップのインピーダンス(Zic)の実数部成分{Re(Zic)}と、タブのインピーダンス(Zan)の実数部成分{Re(Zan)}との関係が、下記式(1)の関係となるよう設定されている。
式(1):Re(Zma)=Re(Zic)−Re(Zan)
【0041】
また、整合回路50は、通信周波数帯域内において、整合回路のインピーダンス(Zma)の虚数部成分{Im(Zma)}と、ICチップのインピーダンス(Zic)の虚数部成分{Im(Zic)}と、タブのインピーダンスZanの虚数部成分{Im(Zan)}との関係が、下記式(2)の関係となるよう設定されている。
式(2):Im(Zma)=−Im(Zic)−Im(Zan)
なお、本回路は、整合回路の一例であって、上述の式(1)及び式(2)を満たす回路であればどのような回路であってもよい。
【0042】
本実施形態においては、整合回路50は、回路パターンを所定形状に形成することにより、そのインピーダンス(Zma)の実数部成分{Re(Zma)}及び虚数部成分{Im(Zma)}を上記のような所定の値となるようにしている。
ICチップ41は、そのインピーダンス(Zic)の虚数部成分{Im(Zic)}がマイナスである。これは、ICチップ41は、リーダ・ライタ側からの電波のエネルギーを直流成分に変換するための整流回路を備えており、これがリアクタンス成分を有していることに起因する。
そのため、ICチップ41及びアンテナであるタブ33のインピーダンスの整合を行なうには、実数部及び虚数部の成分をともに増やす必要がある。
【0043】
そこで、本実施形態において、整合回路50は、虚数部成分{Im(Zma)}を増やすため、ICチップ41を取り付ける場所を含むループ回路を備えている(
図8中符号55)。この部分55は、インダクタ成分を付与して虚数部成分を増加している。
また、整合回路50は、インピーダンス(Zma)の実数部成分{Re(Zma)}を増やすため、コの字状の部分を備えている(
図8中、符号56)。この部分56は、回路長を長くするのでインピーダンスの実数部成分{Re(Zma)}の値を増やすことができる。また、この部分56においても、虚数部成分{Im(Zma)}の値の調整も行なっている。
【0044】
(通信特性)
以上のような構成からなる本発明の第一実施形態に係る金属蓋及び金属容器の通信特性について以下に説明する。
以下の例では、ICチップ41として、インピーダンスが、Zic=10−j100程度のものを使用し、特定小電力のリーダ・ライタとの間で通信を行った。リーダ・ライタに接続したアンテナは、約6dBiの直線偏波である。
また、ICタグ40は、大きさが、縦×横=約10mm×10mm、厚さ0.8mmであり、基板45として、誘電率3.9の基板を用いた。
そして、このICタグ40を、市販されているスチール缶(190ml、缶蓋径約φ50mm)のプルタブに取り付けた。
図9は、金属蓋及び金属容器に実装・装着した場合のICタグの共振周波数と無線信号の強度の関係を示すグラフ図であって、(a)本発明の第一実施形態に係るグラフ図、(b)比較例に係るグラフ図である。
【0045】
図9(a)に示すように、通信周波数帯域fbが、2.40GHz≦fb≦2.4835GHzの範囲内において、リターンロスが約−9.5dB(通信周波数=2.42GHz)となった。
また、通信距離は、2.0〜2.5cmであった。
これに比較して、本発明に係る整合回路を備えない従来の同様のタイプのICタグを、上記のスチール缶に取り付けた場合は、通信周波数帯域内において、リターンロスの最大性能が、約−1.5dB(通信周波数=2.40GHz)であった(
図9(b)参照)。
また、このものの通信距離は、整合回路をもつものより減少し、リーダアンテナと接触しないと読み取りは不可能となった。このことより、整合回路が、通信距離に影響を及ぼすことを確認した。
【0046】
以上説明したように、本実施形態のICタグ付き金属蓋によれば、金属容器10の金属蓋30のタブ33とICチップ41とを、整合回路50を介して電気的に接続することにより、ICチップ41及びアンテナであるタブ33間のインピーダンス整合を行なっているので、リターンロスを低減することができる。
そのため、このICタグ40を金属容器10に装着した場合、整合回路50を備えない既存のICタグと比較して、通信距離を大幅に延長することができる。
【0047】
また、本実施形態では、ICチップ41と独立して構成された整合回路50を用いてインピーダンス整合を行なっているので、整合回路50を追加することによって、既存のICチップをそのまま用いることが可能となる。すなわち、インピーダンスの整合をICチップ内で行なう場合には、ICチップ内にインダクタ成分を設けるなどの設計変更を行なわなければならず、しかも、その設計も難しいものとなる。さらに、仮にそのような設計変更ができたとしても、アンテナから信号を出力するためのエネルギーのロスが大きくなり現実的でなかった。
従って、本実施形態の金属蓋30及び金属容器10によれば、ICチップの設計変更等が一切不要となり、製造コストを低減することができるとともに、既存の汎用タグのICチップを使用することができ、小型かつ安価に構成でき、汎用性、拡張性に優れ、低コストで良好な通信特性が得られる金属対応のICタグを実現することができる。
【0048】
また、ICチップ41が、タブ33に電気的に接触するので、金属蓋30をICタグ用のアンテナとして機能させ、金属蓋30とICチップ41とが一体となってICタグ40を構成するようになる。
これにより、金属容器10の蓋部にICチップ41を実装するだけで、ICタグ付きの金属容器10を構成することができ、ICタグ40本体を小型化しつつ、金属蓋30からなるアンテナによって、通信に必要となる十分なアンテナ長を確保することができ、金属による通信特性の劣化等の問題も解消することができる。
さらに、金属容器10の一部又は全部をアンテナとすることにより、ICタグ40側のアンテナを省略することができ、アンテナ用のコストを削減できるとともに、タグを可能な限り小型することができ、小型かつ低コストな金属用ICタグを実現することができる。
【0049】
また、本実施形態では、容器の外観上デッドスペースとなる金属蓋30にICチップ41が実装されるのみでICタグ40を構成できるので、金属蓋30によって構成されるICタグ40は、金属容器10の天面に配設されることになり、容器の外観が損なわれず、しかも、金属容器10が保管・陳列された状態でも、他の容器や商品等で隠れてしまうことがなく、どのような状態でもリーダ・ライタとの通信が行えるようになり、ICタグとしての機能・特性を十分に発揮させることができる。
【0050】
このように、本実施形態によれば、ICタグ40が金属容器10の蓋部によって構成されることにより、容器の外見上ICタグが目立たなくなり、ICタグ40の装着によって容器の外観が損なわれることなく、容器本来の外観・デザインを維持することができる。
また、ICタグ40が外観上目立たなくなることで、人目に付きにくくなり、人為的なICタグ40の剥離、損壊等も抑制することができる。
さらに、金属蓋30は、容器の保管、出荷、陳列等の際にも、他の容器や器具、他の商品等とほとんど接触することがなく、金属蓋30に装着されたICチップ41が他の容器や商品等と接触して破損したり、容器から脱落したりすることも有効に防止できるようになる。
【0051】
[第二実施形態]
次に、本発明の第二実施形態に係る金属蓋及び金属容器について、
図10〜14を参照して説明する。
図10は、本実施形態に係る金属蓋及び金属容器の一部を拡大した状態で示す斜視図である。
図11は、本実施形態に係る金属蓋を示す図であって、(a)は平面図を(b)は側面断面図をそれぞれ示している。
また、
図12は、本実施形態に係る金属蓋のICタグの回路パターンを示す平面図である。
これらの図に示すように、本実施形態に係る金属蓋30のタブ33aの形状及び整合回路50aの回路パターンが、上記第一実施形態のものと異なる。
【0052】
タブ33aは、アンテナとして高い動作利得が得られうるように、タブ形状を設計している。
具体的には、タブ33aのリング部37aが、第一実施形態のものに比較して横幅が大きな、ほぼ涙滴状に形成されている。また、リング孔38は、外形にそって大きく形成されている。
また、リング部37aは、リング孔38を横断する架設される架設バー71を備えている。
【0053】
また、蓋パネル32には、リング部37aにおいて、固定部35から先端部のほぼ中央位置に、このリング部37aに先端が接触するように突設形成された二つの突出部60が備えられている。
突出部60は、本実施形態では、約0.3mmに形成してある。
このように、金属蓋30に突出部60を設け、この突出部60をタブ33aと接触させることにより、タブ33aを流れる電流長を調整することができる。
突出部60は、その位置や数を異ならせて設けることにより電流長を調整して、タブ33aのインピーダンスを適当なものとすることができるので、より容易に所望の通信周波数帯域での通信を行なうことが可能となる。
【0054】
なお、リング部37aの先端と、蓋パネル32の外周縁のフックには、第一実施形態と同様に、開封時に指を挿入し得る空間が形成されている。さらに、リベット部35及び固定部36は、第一実施形態と同様の形態とし、開封性を維持している。
整合回路50aは、
図12に示すように、ループ部、コの字状部がなく、また全長も短い構成となっていることから、第一実施形態の整合回路のインピーダンスに比較して、虚数部成分Im(Zma)の値が小さくなっている。
【0055】
(通信特性)
以上のような構成からなる本発明の第二実施形態に係る金属蓋及び金属容器の通信特性について、以下に説明する。
本実施形態においては、上記第一実施形態と同様に、例えば、インピーダンスがZic=10−j100程度のICチップ41、特定小電力のリーダ・ライタ及びリーダ・ライタに接続されるとともに約6dBiの直線偏波を出力するアンテナを用いる。
図13は、本発明の第二実施形態に係る金属蓋及び金属容器に実装・装着した場合のICタグに対する角度と無線信号のアンテナ利得の関係を示すグラフ図である。また、
図14は、比較例に係る金属蓋及び金属容器に実装・装着した場合のICタグに対する角度と無線信号のアンテナ利得の関係を示すグラフ図である。
本実施形態の金属蓋30は、アンテナ利得が、真上では−2.5dBiであった(
図13参照)。また、この金属蓋30の通信距離は、約7.0〜7.5cmであった。
【0056】
これと比較して、本実施形態に係る整合回路50aを備えない従来のICタグを、既存のタブに搭載した金属蓋及び金属容器は、アンテナ利得は、蓋パネル中心の真上位置で、−9.7dBiとなっている(
図14参照)。また、通信距離も、リーダ・ライタとほぼ接触させた状態の数mm程度しかなかった。
【0057】
以上のように、本実施形態の金属蓋30及び金属容器10は、整合回路50aを備えるとともに、タブ33aのリング部37aを所定形状に形成することで、ICチップ41とアンテナであるタブ33aとのインピーダンス整合を図ることにより、通信距離を長く確保できるようにしてある。
これにより、整合回路50aの回路長や、回路パターンを簡略化することができるようになり、ICタグ40の小型化を容易に行なうことができる。
また、整合回路50a及びタブ33aの構造の双方でインピーダンス整合を行なうので、どちらか一方だけでインピーダンス整合を行なう場合に比較して、回路パターンやタブの形状を、複雑なものとすることなくICチップ41とアンテナ間のインピーダンス整合を行なうことができる。そのため、製造コストを低減することができる。
【0058】
[第三実施形態]
次に、本発明の第三実施形態に係る金属蓋及び金属容器について、
図15〜16を参照しつつ説明する。
図15は、本実施形態に係る金属蓋及び金属容器を示す図であって、(a)は平面図、(b)はタブ部分の拡大平面図である。
同図に示すように、本実施形態に係る金属蓋及び金属容器は、ICタグ40において、ICチップ41及び整合回路50が形成された基板45が封止部材42で封止された状態で、金属蓋30の開封用タブ33のリング孔38内に装着される点で上記実施形態と異なる。
【0059】
具体的には、ICタグ40aは、ICチップ41から外部に突出するコンタクト部材43を備え、コンタクト部材43を介して整合回路50と金属容器10の金属蓋30とが電気的に接触・導通するようになっている。
そして、このICタグ40aは、樹脂やゴム等の封止部材42で封止された状態で、金属蓋30の開封用タグ33に装着されるようになっている。
【0060】
また、ICタグ40aは、金属蓋30に備えられる開封用タブ33のリング孔38の孔内に、ICチップを封止した封止部材42が圧入状態で装着されることにより、金属蓋30に装着されるようになっている。
そして、整合回路から突出するコンタクト部材43が、封止部材42から外部に突出し、開封用タブ33に接触し、ICチップ41は金属蓋30と電気的に導通することになる。
【0061】
ここで、
図15に示す実施形態では、コンタクト部材43は、ワイヤ状(棒状)のコンタクト部材が複数本(4本)、タグ外部に向かって突出している。但し、コンタクト部材43の形態や本数等は特に限定されない。また、突出するコンタクト部材43のすべてがICチップと電気的に接続・導通している必要はない。
例えば、
図15に示すワイヤ状のコンタクト部材の例では、4本突出しているコンタクト部材43のうち、実際にICと接触するコンタクト部材は、アンテナの設計により1本でも2本でもよく、その他のコンタクト部材はICと導通させず、ICタグ40aとタブとの固定・支持の役割だけとしても構わない。
また、後述する
図16に示すように、コンタクト部材43を板状、薄膜状等に形成して封止部材42から突出させて開封用タブ33と接触・導通させることもできる。
【0062】
また、コンタクト部材43の材質としては、Cu製やAl製が好適であるが、ICとの導通性が必要な場合には、金属のような導電性のある材質で形成し、一方、タブとの固定だけでICとの導通性が必要ない場合には、金属等の導電性物質である必要はなく、樹脂材料等、ICタグ40aの支持・固定に好適な任意の材質・部材を使用することができる。
【0063】
このように、ICチップ41を開封用タブ33のリング孔38内に装着することで、開封用タブ33のリング孔38をICタグの装着空間として利用できるとともに、装着されたICチップ41を開封用タブ33のリング部37によって保護することができる。
上述したように、現在流通している金属容器の開封用タブのリング孔は、実際には孔に指が入れられることはなく、せいぜい開封時に指の腹で押えられる程度のものとなっている。そこで、本実施形態では、実際にはデッドスペース化している開封用タブ33はリング孔38をICタグ40aの装着空間として有効活用して、開封用タブ33のリング孔38にICチップを装着してある。
このようにすることで、開封用タブ本来の機能を損なうことなく、金属蓋30の空間を有効に利用でき、また、ICチップをリング孔38内に隠蔽して、外観上目立たなくすることができるとともに、リング部37によってICタグを保護することもできる。
【0064】
また、
図15に示す実施形態では、開封用タブ33に、ICタグ40aの封止部材42から突出しているワイヤ状のコンタクト部材43が係止する係止溝39が設けてあり、この係止溝39にコンタクト部材43が係止・接触することで、ICチップと開封用タブ33が電気的に導通されるようになっている。
具体的には、ICタグ40aからは放射状に4本のワイヤ状のコンタクト部材43が突出しており、これらコンタクト部材43が係止可能な4本の係止溝39が、開封用タブ33のリング部37の上面部に形成してある。
【0065】
このような係止溝39を開封用タブ33側に形成することで、コンタクト部材43をより確実に開封用タブ33と接触させることができ、ICチップ41の装着の際の位置決め等も容易となり、開封用タブ33に対するコンタクト部材43の接続作業が容易に行えるようになる。
また、コンタクト部材43を溝に係止・係合させることで、コンタクト部材43は係止溝39によって堅固に保持され、コンタクト部材43の接続不良等を長期に亘って防止することもできるようになる。
【0066】
ICタグ40を封止する封止部材42は、開封用タブ33のリング孔38に圧入できるように、一定の弾性を有する部材であることが好ましく、例えば、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリプロピレン樹脂、フェノール樹脂、シリコーンゴムやSBR、ウレタンゴムなどのゴム材料等がある。また、樹脂による埋め込みをする場合には、ウレタン樹脂やポリエステル樹脂に硬化剤としてイソシアネート樹脂を混ぜても良い。
封止部材42によるICチップ41及び整合回路50の封止は、例えば、ウレタン樹脂に硬化剤のイソシアネート樹脂を混合し、整合回路50及びICチップ41を設けた基板を入れた型に流し込み、硬化させて行なう。基板は、樹脂フィルムからなるフレキシブル基板で構成してもよい。また、樹脂やゴムで形成された外装材をICタグが装着できるように予め成形し、挟み込んだり装着したりすることで封止してもよい。
また、後述する
図16に示すように、フィルム状の基板にICチップ41と整合回路50を形成し、そのフィルム状基板を樹脂・ゴム等で形成した封止部材42の表面に貼着・接着することで、封止部材42とICチップ41(及び整合回路50)を一体的に構成することもできる。
【0067】
そして、以上のようにしてICチップ41を封止した封止部材42は、上述した開封用タブ33のリング孔38の内径よりやや大きくなるように形成され、リング孔38内に圧入状態で装着できるようになっている。
これにより、樹脂やゴム等の弾性部材で封止がなされたICタグ40aは、装着のための基材や接着剤等を必要とすることなく、金属蓋30に脱落不能に取り付けることができ、ICタグ40aの装着作業はきわめて容易に行うことができる。また、このように圧入状態で装着されたICタグ40aは、取り外しも簡単に行え、容器の使用後の廃棄・回収の際にも、容器とICタグとの分別が容易となりリサイクルに資する金属容器を実現することができる。
さらに、ゴム等の弾性部材で封止がなされたICタグ40aは、外部からの接触・衝撃等からも保護されることになる。
【0068】
ここで、
図16に、
図15で示した実施形態の変形例を示す。
同図に示すように、この例では、まず、薄膜状に形成したフィルム樹脂等により構成された基板上に、ICチップ41が搭載されるとともに、フィルム状基板の表面に配線パターンが印刷等されて、ICチップ41と電気的に接続される整合回路50が形成される。
さらに、フィルム状基板の一端縁からはICチップ41及び整合回路50の配線パターンと電気的に導通した金属薄膜からなるコンタクト部材43が突出するように形成されている。
そして、このようにフィルム状に形成された基板が、樹脂,ゴム等で開封用タブのリング孔38に圧入可能に形成された封止部材42の表面に貼着・接着されることで、封止部材42とICチップ41及び整合回路50が一体的に構成されるようになっている。
【0069】
このとき、フィルム状基板は、ICチップ41が搭載されている方の面が、封止部材42の表面と接触するようにして、封止部材42に重ね合わされ貼着される。これによって、ICチップ41(及び整合回路50)は、封止部材42とフィルム状基板の間に挟持された状態で封止・保護されることになる。
また、フィルム状基板は、ICチップ41が搭載されている方と逆の面が、封止部材42の表面と接触するようにして、封止部材42に重ね合わされ貼着されてもよい。この場合、ICチップ41を保護するため、ICチップ41上にエポキシ樹脂などの樹脂で覆ってもよい。
また、フィルム状基板は、基板縁部から突出している薄膜状のコンタクト部材43が、封止部材42の一端縁(
図16の例では封止部材42の長手方向の一端縁)から突出するように位置合わせされて、封止部材42に接着・固定される。
なお、フィルム状基板と封止部材42は接着剤等を用いて剥離不能に接着・固定することができるが、接着方法はどのような方法であってもよい。
【0070】
このような構成により、ICチップ41及び整合回路50と一体化された封止部材42の縁部からは、整合回路50に導通した薄膜状のコンタクト部材43が突出するようになっている。
そして、このようにフィルム状のICチップ41及び整合回路50が一体化された封止部材42を、外部に突出したコンタクト部材43が開封用タブ33に接触するように、開封用タブ33の上面又は下面からリング孔38内に装着・圧入する。
【0071】
このようにしても、上述した
図15で示したワイヤ状のコンタクト部材43を備える場合と同様、樹脂やゴム等の弾性部材で保護・封止されたICタグ40aは、装着のための基材や接着剤等を必要とすることなく、金属蓋30に脱落不能に取り付けることができ、ICタグ40aの装着作業はきわめて容易に行うことができる。また、ゴム等の弾性部材で封止がなされたICタグ40aは、外部からの接触・衝撃等からも保護されることになる。
また、
図16に示したような構成によれば、ICタグ40aを構成する基板を樹脂フィルムにより形成してあるので、ガラス基板等の場合と比較して小型化、薄膜化することができる。さらに、開封用タブ33と電気的導通を取るためのコンタクト部材43も薄膜形成することで、ワイヤ状のコンタクト部材43を設ける場合と比較して、ICタグ40aの全体をより小型化、薄膜化することができ、また、製造も容易となる。
【0072】
(ICタグの装着方法)
次に、金属蓋30に対するICタグ40aの装着方法について、
図15に示すワイヤ状のコンタクト部材43を備えるICタグ40aを例にとって説明する。なお、以下に示す装着方法は、
図16に示すICタグ40aでも同様である。
まず、ICタグ40aは、上述したように、ICチップ41が予め封止部材42で被覆・封止される。ICチップ41を封止した封止部材42は、適度な弾性を有している。
また、ICタグ40aを被覆・封止した封止部材42の外形は、開封用タブ33に形成されるリング孔38の形状に対応しており、リング孔38よりも若干大きく形成される。
また、ICタグ40aからは、整合回路に電気的に接続されたコンタクト部材43が四方に延出されており、このコンタクト部材43が封止部材42を貫通して外部に突出している。
【0073】
そして、このように封止されたICタグ40aが、開封用タブ33のリング孔38に圧入状態で装着される。
装着作業は、封止部材42から突出するコンタクト部材43と開封用タブ33の係止溝39とを位置合わせしつつ、弾性を有する封止部材42をリング孔38に押し込むようにして簡単に装着することができる。
ICタグ40aが装着されると、突出するコンタクト部材43がリング部37に当接して開封用タブ33と導通するとともに、リング部37に形成された係止溝39に係止・保持される。
【0074】
以上のようにして装着されたICタグ40aは、コンタクト部材43を介して開封用タブ33とICチップ41とが整合回路50を介して電気的に導通され、金属蓋30をICタグ40aのアンテナとして機能させることができる。
そして、容器の使用後等に廃棄・回収する際には、リング孔38に圧入状態で装着されている封止部材42を押し出すことで、ICタグ40aを開封用タブ33から取り外すことができる。
【0075】
[第四実施形態]
次に、本発明の第四実施形態に係る金属蓋及び金属容器について、
図17を参照しつつ説明する。
図17は、本実施形態に係る金属蓋及び金属容器の一部を拡大して示す図であって、(a)は平面図、(b)は側面断面図である。
同図に示すように、本実施形態に係る金属蓋30のタブ33bの形状が、上記第二実施形態のものと異なる。
【0076】
タブ33bは、第二実施形態のものに比較して、そのリング部37bの先端部において、固定部36側に、ほぼ三角形状に凹設形成された凹設部72が形成されている。その他の構成は、上述した第二実施形態と同様である。
このような構成とすると、タブ33bのリング部37bの形状が大きくなるので、通信周波数帯域内におけるアンテナとしてのインピーダンス(Zan)の実数部成分{Re(Zan)}及び虚数部成分{Im(Zan)}を所定の値以上とすることができる。
そのため、整合回路を簡略化することができる。
【0077】
[第五実施形態]
さらに、
図18を参照して、本発明の第五実施形態に係る金属蓋及び金属容器について説明する。
図18は、本実施形態に係る金属蓋及び金属容器の一部を拡大して示す図であって、(a)は平面図、(b)は側面断面図である。
同図に示すように、本実施形態に係る金属蓋30は、タブ33cの形状が、そのリング部37cの先端部において、固定部36側にほぼVの字状に凹設形成された凹設部70を有した、ほぼハート型形状に形成されている点で第二実施形態のものと異なる。
【0078】
このような構成とすると、タブ33cのリング部37cの形状が大きくなるので、通信周波数帯域内におけるアンテナとしてのインピーダンス(Zan)の実数部成分{Re(Zan)}及び虚数部成分{Im(Zan)}を所定の値大きくすることができる。
そのため、整合回路を簡略化することができる。
その他の構成は、上述した第二実施形態と同様である。
【0079】
以上、本発明のICタグ付き金属蓋及び金属容器について、好ましい実施形態を示して説明したが、本発明に係るICタグ付き金属蓋及び金属容器は、上述した実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲で種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。
例えば、上述した実施形態では、本発明を適用する金属容器として、飲料等が充填される金属製の缶容器を例にとって説明したが、本発明を適用できる金属容器としては、容器の用途や収納する内容物、容器の構成成分等は特に限定されるものではない。すなわち、ICチップと電気的に導通されてアンテナとして機能できる金属蓋等を備える容器であれば、どのような大きさ、形状、材質等の容器であってもよく、また、容器に収納される内容物がどのようなものであってもよい。