(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
質量%で、C:0.05%以上0.40%以下、Si:1.0%以下、Mn:1.0%以下、P:0.03%以下、S:0.03%以下、Cr:2.0%以下、Al:0.1%以下、Ti:0.05%以上0.30%以下、Mo:0.05%以上1.0%以下、N:0.0060%以下およびO:0.0020%以下を含み、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になり、Tiを含む析出物で直径:5nm以上30nm以下のものが30個/μm2以上存在し、直径:5nm以上50nm以下のTi析出物の5nm以上の全Ti析出物に対する個数比率が50%以上であることを特徴とする、冷間鍛造性、靭性および結晶粒度特性に優れた肌焼鋼。
質量%でさらに、Pb:0.1%以下およびBi:0.1%以下のうちから選んだ一種または二種を含有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の肌焼鋼。
質量%でさらに、Nb:0.5%以下、V:0.5%以下、Zr:0.5%以下およびW:0.5%以下のうちから選んだ一種または二種以上を含有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の肌焼鋼。
【背景技術】
【0002】
自動車、建設機械、その他各種の産業機械として用いられる機械部品において、高疲労強度や耐摩耗性が要求される部品には、従来から浸炭、窒化および浸炭窒化などの表面硬化熱処理が施される。これらの用途には、通常、JIS規格でSCr、SCM、SNCMなどの肌焼鋼が用いられ、鍛造や切削等の機械加工により所望の部品形状に成形したのち、上記した表面硬化熱処理を施される。その後、研磨などの仕上げ工程を経て部品へと製造される。
【0003】
近年、自動車、建設機械、その他の産業機械等に使用される部品の製造コストの低減が強く望まれており、鍛造・切削等の機械加工にかかるコストを低減する取り組みがなされている。例えば、切削加工から鍛造加工への変更や、鍛造でも熱間鍛造に代えて、寸法精度が高く、鍛造後の切削コストを低減できる冷間鍛造が指向されている。
【0004】
また、浸炭処理工程では、従来のガス浸炭に代えて真空浸炭が用いられるようになってきている。真空浸炭は、高温で行うため浸炭時間を短縮でき、また浸炭部品表面の粒界酸化に伴う浸炭異常層が軽減されるという利点がある。
しかしながら、高温で処理されるため、オーステナイト粒(γ粒)の粗大化が起こりやすいという問題がある。その結果、焼入れ後に熱歪が生じ、部品寸法が変化するため、仕上げ加工や研磨等の余分な工程が必要となり、生産性が著しく阻害され、コスト上昇を招く。
【0005】
このような事情から、冷間鍛造に適し、しかも高温あるいは真空浸炭処理にも適用できるような肌焼鋼が強く求められている。このため、浸炭時における肌焼鋼の結晶粒粗大化を防止するために、これまでにも様々な技術が提案されていて、Al,Nb,Ti等の元素を添加することによって、AlN,Nb(CN),TiC等の析出物を微細に分散させる技術が汎用されている。
【0006】
例えば、特許文献1および2にはそれぞれ、Al,Nb,N量を調整し、AlとNb窒化物のピン止め効果によって粗大化の発生を抑制する技術が提案されている。しかしながら、この技術では、工業的に安定して粗大化の発生を抑制することができないという問題があった。
【0007】
また、特許文献3および4は、Al,Nb,Tiなどの窒化物、炭化物、炭窒化物形成元素の含有量と、各析出物の大きさ、分布密度、ベイナイト組織分率、フェライトバンド評点および圧延条件を制御することによって、上記した問題の解決を図っているが、種々の寸法形状の鋼材を圧延により製造する実操業では、これら多数のパラメーターを制御することは事実上不可能であった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の実情に鑑み開発されたもので、冷間鍛造を行っても良好な鍛造性を示すだけでなく、浸炭処理のための加熱による結晶粒の粗大化を効果的に抑制することのできる肌焼鋼を、その有利な製造方法と共に提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
さて、発明者らは、上記の目的を達成すべく、鋼組成や析出物の存在形態などについて鋭意研究を重ねた結果、鋼組成を特定した上で、Tiを含む析出物の大きさおよびその個数を規定することによって、優れた結晶粒度特性と冷間鍛造性を兼ね備えた肌焼鋼が得られることを見出した。
本発明は、上記の知見に立脚するものである。
【0011】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.質量%で、C:0.05%以上0.40%以下、Si:1.0%以下、Mn:1.0%以下、P:0.03%以下、S:0.03%以下、Cr:2.0%以下、Al:0.1%以下、Ti:0.05%以上0.30%以下、Mo:0.05%以上1.0%以下、N:0.0060%以下およびO:0.0020%以下を含み、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になり、Tiを含む析出物で直径:
5nm以上30nm以下のものが30個/μm
2以上存在し、直径:5nm以上50nm以下のTi析出物の
5nm以上の全Ti析出物に対する個数比率が50%以上であることを特徴とする、冷間鍛造性、靭性および結晶粒度特性に優れた肌焼鋼。
【0012】
2.質量%でさらに、Ni:3.0%以下を含有することを特徴とする前記1に記載の肌焼鋼。
【0013】
3.質量%でさらに、B:0.0010%超0.0030%以下を含有することを特徴とする前記1または2に記載の肌焼鋼。
【0014】
4.質量%でさらに、Ca:0.010%以下を含有することを特徴とする前記1乃至3のいずれかに記載の肌焼鋼。
【0015】
5.質量%でさらに、Pb:0.1%以下およびBi:0.1%以下のうちから選んだ一種または二種を含有することを特徴とする前記1乃至4のいずれかに記載の肌焼鋼。
【0016】
6.質量%でさらに、Nb:0.5%以下、V:0.5%以下、Zr:0.5%以下およびW:0.5%以下のうちから選んだ一種または二種以上を含有することを特徴とする前記1乃至5のいずれかに記載の肌焼鋼。
【0017】
7.前記1乃至6のいずれかに記載
の肌焼鋼を製造するに当たり、
前記1乃至6のいずれかに記載の成分組成になる溶鋼を、連続鋳造時の凝固開始から終了までの冷却速度を5℃/分以上として鋳片とし、該鋳片を1200℃以上の温度に加熱後、鋼片圧延し、次いで900〜1050℃に加熱後、棒鋼圧延を施すことを特徴とする、冷間鍛造性、靭性および結晶粒度特性に優れた肌焼鋼の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、冷間鍛造によっても良好な鍛造性を示すだけでなく、浸炭処理のための加熱による結晶粒の粗大化が効果的に抑制され、しかも浸炭時の浸炭異常層を有効に抑制した肌焼鋼を得ることができ、かかる肌焼鋼は各種機械部品用の素材として極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を具体的に説明する。
まず、本発明において、鋼の成分組成を前記の範囲に限定した理由について説明する。なお、成分に関する「%」表示は特に断らない限り質量%を意味するものとする。
【0020】
C:0.05%以上0.40%以下
Cは、機械部品として必要な強度を確保する上で重要な元素であり、0.05%以上含有させる。C量が0.05%未満では硬さが不足し、部品としての強度が低下する。一方、C量が多過ぎると、過度に硬くなり鍛造性や被削性が低下するので、0.40%以下に抑制する必要がある。このため、C含有量は0.05%以上0.40%以下の範囲とした。なお、好ましいC量は0.15〜0.35%の範囲である。
【0021】
Si:1.0%以下
Siは、強度向上に有用なだけでなく、焼き戻し軟化抵抗を向上させ、浸炭部の表層硬さを確保するのに有効な元素である。これらの効果はその含有量が増加するにつれて大きくなるが、Si含有量があまりに多くなると素材の変形抵抗が増し、鍛造性が劣化することに加え、浸炭時の粒界酸化を助長し、面疲労強度を低下させる。それ故、Si含有量は1.0%以下に限定する。好ましくは0.75%以下であり、より好ましくは0.50%以下である。
【0022】
Mn:1.0%以下
Mnは、焼入れ性と強度を向上させるために含有させる。しかしながら、Mn含有量の増加に伴って偏析が顕著となり、材質が不均一となって、冷間加工性が低下するだけでなく、浸炭時の粒界酸化を助長し、面疲労強度を低下させる。そのため、Mn含有量は1.0%以下に限定する。好ましくは0.9%以下であり、より好ましくは0.85%以下である。
【0023】
P:0.03%以下
Pは、鋼中に不可避的に混入し、結晶粒界に偏析して靭性を低下させるので、極力低減することが望ましい。このため、P含有量は0.03%以下に抑制するものとした。なお、P含有量の好ましい上限は0.02%、より好ましい上限は0.015%である。
【0024】
S:0.03%以下
Sは、本発明のようなTi添加鋼ではTi硫化物あるいは炭硫化物を生成する作用がある。また、Mnと硫化物を形成し、部品の疲労強度、靭性を低下させる作用がある。一方でTiやMnの硫化物は、被削性を向上させる作用も有するので、その含有量は許容範囲内で適宜調整することが望ましい。本発明では、疲労強度および靭性の観点から、S含有量は0.03%以下に抑制するものとした。なお、S含有量の好ましい上限は0.020%、より好ましい上限は0.017%である。
【0025】
Cr:2.0%以下
Crは、強度および靭性の向上に有効な元素である。また、焼入れ性を向上させる効果も有する。上記の効果を発揮させるためには、Cr含有量は0.8%以上とすることが好ましい。しかしながら、Cr含有量があまりに多くなると、素材が過度に硬くなり、被削性および加工性が劣化するので、Cr含有量は2.0%以下とする。なお、Cr含有量の好ましい上限は1.5%である。
【0026】
Al:0.1%以下
Alは、脱酸剤として有効に作用し、鋼材の品質を向上させる効果がある。しかしながら、Al含有量があまりに多くなると、粗大なAl
2O
3非金属介在物がクラスター状に生成することに加え、浸炭時の粒界酸化を助長し、面疲労強度を低下させる。このため、Al含有量は0.1%以下に抑制するものとした。なお、Alの好ましい上限は0.05%であり、より好ましい上限は0.04%である。
【0027】
Ti:0.05%以上0.30%以下
Tiは、Ti炭窒化物およびTi炭硫化物あるいはMoと共にTi-Mo炭化物を形成し、浸炭時のγ粒の粗大化を抑制する作用を有する。しかしながら、Ti含有量が0.05%未満では、十分な数量の析出物が得られないため、γ粒の粗大化を抑制できず、一方0.30%を超えると、粗大なTiNが生成し、被削性や面疲労強度を低下させるだけでなく、冷間加工性を低下させる。従って、Ti含有量は0.05%以上0.30%以下の範囲に限定する。なお、好ましいTi含有量の上限は0.25%である。
【0028】
Mo:0.05%以上1.0%以下
Moは、本発明において重要な役割を持つ元素である。Moは、浸炭焼入れ時の焼入れ性を向上させる効果に加え、靭性の向上に有効であり、さらに浸炭時のSiやAl,Cr,Mnといった元素の粒界酸化に伴う浸炭異常層の生成を抑制する上でも有効である。このような効果は、Moを0.05%以上含有させることにより発現する。しかしながら、Mo含有量が1.0%を超えると、その効果が飽和するだけでなく、素材が過度に硬くなり、被削性や冷間鍛造性、靭性が低下するので、Mo含有量は1.0%以下とする。より好ましくは0.10%以上0.50%以下の範囲である。
【0029】
N:0.0060%以下
Nは、極力低減することが好ましい不純物元素である。N含有量があまりに多くなると粗大なTiNが生成して被削性や面疲労強度を低下させる。また、TiNは、炭窒化物の析出サイトとなりやすく、微細な析出物を減少させる弊害もある。また、素材の硬さ、変形抵抗を増大させて、冷間加工性を低下させる不利もある。このような理由からN含有量は0.0060%以下に抑制する。より好ましくは0.0040%以下である。
【0030】
O:0.0020%以下
Oは、鋼中に不可避的に含まれる不純物元素であり、過剰に含まれると、粗大な酸化物系介在物が生成して、種々の疲労特性や靭性を低下させるので、極力低減することが望ましい。このようなことからO含有量は0.0020%以下に抑制する。好ましくは0.0015%以下、より好ましくは0.0010%以下である。
【0031】
本発明における基本成分は、上記したとおりであり、残部はFeおよび不可避的不純物である。かかる不可避的不純物としては、原料、製造設備等から不可避的に混入する不純物が挙げられる。
【0032】
以上、本発明の基本成分について説明したが、本発明では、その他にも必要に応じて、以下に述べる元素を適宜含有させることができる。
Ni:3.0%以下
Niは鋼材の耐食性を向上させるのに有効な元素である。また、Niは、靭性の向上にも有効に作用する。従って、Niは0.1%以上、好ましくは0.3%以上含有させることが望ましい。しかしながら、Ni含有量が3.0%を超えると、コスト上昇を招くので、Niは3.0%以下で含有させることが好ましい。好ましくは2.0%以下、より好ましくは1.5%以下である。
【0033】
B:0.0010%超0.0030%以下
Bは、鋼材の焼入れ性を高める作用があり、しかも結晶粒界に偏析することで粒界を強化し、靭性を大幅に高める作用がある。このような作用は、0.0010%超添加することで有効に発揮される。しかしながら、これらの効果は、含有量が0.0030%を超えると飽和するばかりでなく、B含有量があまりに多くなるとB窒化物が生成し易くなり、冷間加工性および熱間加工性が劣化する。好ましいB含有量は0.0025%以下であり、より好ましくは0.0020%以下である。
【0034】
Ca:0.010%以下
Caは、硫化物の展伸を抑制して衝撃特性を向上させる効果がある。この効果は、Ca含有量が0.0005%以上で発現する。しかしながら、Ca含有量が0.010%を超えると、粗大な酸化物が生成し強度が低下する。なお、Ca含有量の好適下限は0.0008%であり、またCa含有量の好ましい上限は0.0030%、さらに好ましい上限は0.0020%である。
【0035】
Pb:0.1%以下およびBi:0.1%以下のうちから選んだ一種または二種
PbおよびBiはいずれも、鋼材の被削性を向上させる元素であり、必要に応じて含有させる。しかしながら、含有量があまりに多くなると強度が低下するので、いずれも0.1%以下とすることが好ましい。なお、含有量の好ましい下限はいずれも0.02%、より好ましい下限は0.03%であり、一方より好ましい上限はいずれも0.07%、さらに好ましい上限は0.06%である。
【0036】
Nb:0.5%以下、V:0.5%以下、Zr:0.5%以下およびW:0.5%以下のうちから選んだ一種または二種以上
Nb,V,ZrおよびWはいずれも、炭素および窒素と親和力が強い元素であり、微細な析出物を生成することで、γ粒の粗大化を抑制する効果があり、この効果の面からいずれも0.5%以下の範囲で含有させることができる。より好ましくは0.3%以下、さらに好ましくは0.2%以下である。
【0037】
以上、本発明の好適成分組成範囲について説明したが、本発明は、成分組成を上記の範囲に調整しただけでは不十分で、鋼組織についても調整することが重要である。
すなわち、本発明の肌焼鋼では、Tiを含有させることによって炭化物等の析出物が生成するが、これら析出物の形態および個数を規定することが重要である。
これらを規定した理由は次のとおりである。
【0038】
Tiを含む析出物で直径:30nm以下のものが30個/μm
2 以上
Tiを含む析出物は、微細なものほど結晶粒の粗大化を抑制するピニング効果が強い。しかしながら、鋼の凝固時に溶鋼中のNがTiと結合することにより、不可避的に生成するTiN析出物は粗大であり、結晶粒の成長を抑制する効果はない。このような析出物のうち、粗大な析出物は鋼材の加工性を低下させるので、できるだけ微細に生成させることが好ましい。そこで、Tiを含む析出物で直径が30nm以下のものの個数を、単位面積μm
2当たり30個以上と規定した。
【0039】
直径:5nm以上50nm以下のTi析出物の全Ti析出物に対する個数比率が50%以上
直径が30nm以下の微細なTi析出物は、結晶粒の粗大化抑制に効果がある。しかし、50nm超のTi析出物の全Ti析出物に対する存在比率(個数比率)が大きくなると、疲労特性に悪影響を及ぼす。疲労特性を確保するためには、50nm以下のTi析出物の全Ti析出物に対する存在比率(個数比率)50%以上とする必要がある。
なお、本発明では、後述するレプリカ法でTi析出物の個数比率の測定を行うが、直径:5nm未満のTi析出物についてはこの方法での確認は困難である。よって、直径:5nm以上50nm以下のTi析出物の全Ti析出物に対する個数比率を50%以上とすればよい。
【0040】
なお、Tiを含む析出物としては、例えばTiC、Ti(C,S)および(Ti,Mo)Cが挙げられる。
また、かようなTi含有析出物を、上記したように微細に分散させるためには、製造工程中、連続鋳造、鋼片圧延時の加熱(均熱処理)、棒鋼圧延時の加熱工程が重要で、これらの工程における処理条件を以下に説明する条件とする必要がある。
【0041】
本発明に従う肌焼鋼の具体的な製造方法について説明する。
本発明に係る肌焼鋼は、上述した成分組成になる溶鋼を、連続鋳造により鋳片となし、該鋳片を均熱処理した後に鋼片に熱間圧延し(以下、鋼片圧延と呼ぶ)、さらに得られた鋼片を加熱して熱間圧延して棒鋼とすること(以下、棒鋼圧延と呼ぶ)で製造される。ここで、連続鋳造時の凝固開始から終了までの冷却速度を5℃/分以上とし、また、均熱処理温度を1200℃以上とし、さらに棒鋼圧延時の加熱温度:900〜1050℃とするのがとりわけ好適である。
また、本発明では、上記した棒鋼圧延を施した後に、さらに、球状化熱処理を施すことができる。この時の処理温度は、740℃以上が好ましい。
【0042】
以下、各処理条件を上記のように限定した理由について説明する。
連続鋳造時の凝固開始から終了までの冷却速度:5℃/分以上
連続鋳造時の凝固開始から終了までの冷却速度が遅い場合には、冷却中に析出するTi析出物が大きくなり、鋳片の均熱処理時に析出物を十分に固溶させることができない。その結果、最終的に粗大なTi析出物が残り、直径:5〜50nmのTi析出物の全Ti析出物に対する個数比率が50%未満となってしまう。そのため、冷却速度を5℃/分以上とし、Ti析出物を微細化する必要がある。より好ましくは、8℃/分以上とする。
【0043】
鋳片加熱温度(均熱処理温度):1200℃以上
本発明では、鋼片圧延に際し、鋳片を均熱処理し析出物を十分に固溶させ、熱間加工時およびその後の冷却過程で微細に分散析出させる。その際、加熱温度が1200℃未満では、析出物を十分に固溶させることができない。このため、熱間加工後に粗大な析出物が生成し、浸炭時にγ粒の粗大化を抑制することができない。そのため、鋳片加熱温度は1200℃以上に規定した。例えば、鋳造後の鋼片圧延前の均熱条件を1200〜1300℃の温度域で30分以上程度とすることで、析出物が固溶し、熱間圧延後に微細に析出しやすくなるためγ粒粗大化抑制に有効である。
なお、均熱処理は鋼片圧延直前の加熱処理時に行っても良いし、均熱処理を鋼片圧延直前の加熱に先立って別途行っても良い。別途均熱処理を行う場合、鋼片圧延直前の加熱温度は1200℃以上に限定するものではない。
【0044】
上記の鋳片加熱後、鋼片圧延を行うが、この圧延については特に制限は無く、従来どおりの方法で行えば良い。
【0045】
棒鋼圧延時の加熱温度:900〜1050℃
熱間加工前の加熱時に析出物を十分に固溶させ、熱間加工時およびその後の冷却過程で析出物を微細分散させる。その際、一旦、鋳片加熱で析出物を固溶させた後、鋼片圧延を実施し、その後の棒鋼圧延時の加熱において、加熱温度が1050℃を超えると、冷却過程で微細な析出物が得られず、一方900℃未満ではフェライトや粗大な炭化物が残留し、圧延後に均一な組織が得られない。
なお、棒鋼圧延時に、圧延後の冷却過程で、直径:5〜50nmの微細なTi析出物を確保する観点から、圧延後600〜850℃の温度範囲の冷却速度を2℃/s以下とすることが好ましい。
【0046】
本発明では、上記の棒鋼圧延後、さらに、球状化熱処理を施すことができるが、この熱処理については特に制限は無く、従来どおりの方法で行えば良い。この時の処理温度も特に制限はないが、冷間鍛造性確保の観点から740〜800℃の温度範囲が好ましい。というのは、740℃未満で球状化熱処理をおこなった場合、冷間鍛造性の向上が望めず、800℃超で球状化熱処理をおこなった場合、その効果が飽和するからである。
【実施例1】
【0047】
以下、実施例を示し、本発明の構成および作用効果をより具体的に説明する。しかし、本発明は下記の実施例によって制限を受けるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適宜変更することも可能で、これらは何れも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0048】
表1に示す成分組成になる鋳片を連続鋳造により製造した。その際、凝固開始から終了までの冷却速度を表2に示すとおりとした。得られた鋳片を表2に示す温度にて60分間の均熱処理を行い、150mm角に鋼片圧延後、表2に示す棒鋼圧延時加熱温度条件下で、直径:50mmの棒鋼を製造した。ここで、圧延後は600〜850℃の温度範囲を1.5℃/sで冷却した。その後、740℃にて球状化熱処理を施した棒鋼あるいは圧延ままの棒鋼の断面における直径方向の1/4位置からφ8mm×12mmの冷間鍛造性試験片を作製した。
【0049】
上記の試験片を用い、プレス機で据込圧縮試験を行い、圧下率:75%の圧縮時における割れの有無を観察することによって冷間鍛造性を評価した。なお、いずれの試験も工具は端面拘束金型を用いて5回の試験を行い、その際、一つでも割れが観察されたものは不良(×)、一方観察されなかったものは良好(○)とした。
【0050】
γ粒粗大化試験は、上記試験片を端面拘束条件で加工率:70%の圧縮加工を行った後、真空浸炭炉で1000℃にて均熱時間が80分、浸炭および拡散時間が80分の浸炭処理を、アセチレン雰囲気中で行った。その後、860℃で30分保持してから80℃まで油冷した後、オーステナイト結晶粒度をJIS G 0551オーステナイト結晶粒度試験方法に従って測定し、結晶粒度番号で5番以下の粗大粒の有無によって結晶粒度特性を評価した。その際、粗大粒が観察されたものは不良(×)、観察されなかったものは良好(○)とした。
【0051】
さらに、上記棒鋼について、圧延方向と平行に、10mm角×55mm長さ、10R2mm Uノッチ衝撃試験片を作製した。この試験片について、浸炭炉でCP:0.9%のガス雰囲気中にて930℃で均熱時間が80分、浸炭および拡散時間が80分の浸炭処理を行った。その後、860℃で30分加熱してから70℃まで油冷し、180℃で2時間の焼き戻し処理後、JIS Z 2242で規定されるシャルピー衝撃試験を行い、吸収エネルギーを測定した。
【0052】
また、その後、740℃にて、球状化熱処理を施した棒鋼、あるいは圧延ままの棒鋼の中心部から、圧延方向に平行にローラーピッチング疲労試験片を採取した。この試験片について、ガス浸炭炉でCP:1.0%の雰囲気で950℃、均熱時間が90分、浸炭および拡散時間が90分の浸炭処理を行った。その後、860℃で30分均熱処理し、60℃まで油冷した後、180℃で2時間の焼戻し処理後、試験に供して転動疲労寿命を求めた。
この時の試験条件は、すべり率:40%、負荷応力:4000MPaおよび回転数:2000rpmとした。また、B10寿命(累計破損確率が10%での剥離発生までの総負荷回数)を、得られた結果がワイブル分布に従うものとして、ワイブル確率紙上にプロットして求めた。求めたB10寿命を、鋼記号S(JIS SCM420H相当鋼)の寿命を1とした場合の指数で、各鋼の特性の良否を評価した。
これらの試験結果を、棒鋼圧延後の粒径:30nm以下のTi含有析出物の個数(数密度(個/μm
2 ))および直径:5〜50nmのTi析出物の全Ti析出物に対する個数比率(度数分布(% ))について調査した結果と共に、表2に示す。
【0053】
ここに、Ti析出物の観察は、球状化焼鈍後の棒鋼あるいはこの焼鈍を行っていないものは圧延したままの棒鋼からサンプル採取し、透過型電子顕微鏡(TEM)およびEDXによって行った。直径:30nm以下のTi含有析出物の数密度は、抽出レプリカ法により試料を作製し、10万倍の倍率で、各鋼毎に20視野観察し、EDXにてTi含有析出物と検出されたものについて画像処理により円相当径ならびにその密度を算出することで求めた。この際、直径が5nm未満の析出物は正確に計測するのが困難であるため、5〜30nm径の析出物を計測した。
また、直径:5〜50nmのTi析出物の個数分布は抽出レプリカ法により試料を作製し、10万倍の倍率で、各鋼についてそれぞれ20視野観察し、EDXにてTi析出物と検出されたものについて、画像処理により個数分布を求めた。この際、直径が5nm未満の析出物は正確に計測するのが困難であるため、5〜50nm径の析出物を計測した。
【0054】
【表1】
【0055】
【表2】
【0056】
表2から明らかなように、No.1〜9およびNo.24〜32の発明例はいずれも、結晶粒度特性についてはいうまでもなく、冷間鍛造性、シャルピー衝撃値および転動疲労寿命のいずれも良好であることが分かる。
これに対し、No.10〜23の比較例は、結晶粒度特性、冷間鍛造性、シャルピー衝撃値および転動疲労寿命のうち、いずれかの特性に劣っており、発明の目的が達成されていない。