(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ガイドロールの表面に、ウエブに対する滑り止め加工が施された滑り止め加工部が、一又は複数の間隙を介して複数形成され、かつ、複数の前記滑り止め加工部が前記ガイドロールの幅方向の中心に関して左右対称に形成され、
前記滑り止め加工部以外の表面が平滑に形成され、
前記ガイドロールとは異なる他のガイドロールから前記ガイドロールに前記ウエブが搬送された場合に、前記ガイドロールの軸心と前記他のガイドロールの軸心との間に角度誤差であるミスアライメントがあり、
前記各滑り止め加工部にそれぞれ対応し、前記ウエブの皺発生時の臨界剪断応力によるウエブのそれぞれの臨界スキュー角が、ミスアライメントより大きい、
ことを特徴とするガイドロール。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施例のガイドロール10について、
図1〜
図3に基づいて説明する。
【0011】
本実施例のガイドロール10は、
図1に示すように、紙、布帛、金属箔、フィルムなどのウエブWを搬送するためのガイドロール10であって、ガイドロール10自身は駆動せず、ウエブWの力によって回転する他動式である。
【0012】
また、ガイドロール10は、
図2に示すように、ウエブWの搬送路上に設けられ、1つ手前のガイドロール22から送られてきたウエブWを他の方向に回転させて搬送する。なお、このガイドロール10とガイドロール22との間には、ミスアライメントθが有るものとする。ここで「ミスアライメントθ」とは、
図2に示すように、ガイドロール10の軸心とガイドロール22の軸心の角度誤差θを意味する。
【0013】
(1)ガイドロール10の構成
図1に示すように、ガイドロール10は、円柱状のロール本体12の両端部から左右一対の軸14,14が突出している。ガイドロール10の材質は、樹脂含浸を行ったカーボンファイバー、又は、金属製である。ガイドロール10の直径は、70〜200mm(好適には、100mm〜150mmである)であり、全幅M0=250mm〜5m(好適には1.5〜3mである)である。
【0014】
このロール本体12の表面には、2個の滑り止め加工部16,16が間隙20を介して設けられている。滑り止め加工部16,16は、螺旋状の溝を刻設することによって滑り止めを行う。滑り止め加工部16,16は、ガイドロール10の幅方向における中心に関して左右対称に設けられている。滑り止め加工部16,16の幅方向の長さM1,M2の合計M1+M2=Mは、ロール本体12の全幅をM0とした場合、MはM0に対し20〜70%、好適には40〜60%である。これにより、ウエブWとガイドロール10との間の滑りを防止して皺の発生を防止できる。
【0015】
ガイドロール10の滑り止め加工部16,16に対応した各臨界スキュー角θ
crがミスアライメントθより大きく設定されている。これにより、ミスアライメントθによる皺が発生しない。この理由については後から説明する。
【0016】
ガイドロール10の滑り止め加工部16,16以外の両側部18,18と、2個の滑り止め加工部16,16の間にある間隙20には、平滑なメッキ加工がそれぞれ施されている。間隙20の幅方向の長さは、1〜10cmである。
【0017】
(3)2個の滑り止め加工部16,16を設ける理由
次に、本発明者が、2個の滑り止め加工部16,16を設ける構成に至った理由、すなわち、本実施例のガイドロール10において、2個の滑り止め加工部16,16を設けることによって、ミスアライメントθによる皺が発生しない理由について以下説明する。
【0018】
まず、ガイドロール10上のウエブWの限界座屈応力について説明する。ガイドロール10上のウエブWの限界座屈応力σ
zcrは、次の(1)式で表される。
【0019】
σ
zcr=L
2/(i
2×a
2){σ
c(1+ξ
1i
4a
4/L
4+ξ
2i
2a
2/L
2)−σ
x} ・・・(1)
上記の(1)式中の各符号は次の(1−1)式から(1−6)式で表される。
【0020】
σ
x=−T/t
f ・・・(1−1)
σ
c=π
2×D
XX/(a
2×t
f) ・・・(1−2)
ξ
1=E
Z/E
X、 ・・・(1−3)
ξ
2=4(1−ν
Xν
Z)/{1+ν
X+(1+ν
Z)/ξ
1}+ν
Z+ν
Xξ
1
・・・(1−4)
D
XX=E
Xt
f3/{12×(1−ν
Xν
Z)} ・・・(1−5)
D
ZZ=E
Zt
f3/{12×(1−ν
Xν
Z)} ・・・(1−6)、
但し、E
Xは幅方向でのヤング率、E
Zは走行方向でのヤング率、LはウエブWの幅、Tは単位幅上の張力値、t
fはウエブWの厚み、ν
Xは走行方向でのポアソン比、ν
Zは幅方向でのポアソン比、aはロール間のスパン長である。
【0021】
そして、(1)式中のiは次の(2)式の条件を満たす整数値である。
【0022】
σ
c{1−i
2(i+1)
2ξ
1×a
4/L
4}<σ
x<σ
c{1−(i−1)
2ξ
1×a
4/L
4} ・・・(2)
皺発生時の臨界剪断応力τ
crは、次の(3)式で表される。
【0023】
τ
cr=√(σ
zcr2−σ
x×σ
zcr) ・・・(3)
臨界剪断応力τ
crによるウエブWの臨界スキュー角θ
crは、次の(4)式で表される。ここで「ウエブWの臨界スキュー角θ
cr」とは、臨界剪断応力τ
crによる剪断皺がウエブWに発生しないミスアライメントθに対応した最大角度を意味する。
【0024】
θ
cr=6a
2τ
cr/(E
X×L
2) ・・・(4)
ウエブW上の剪断皺の発生条件としては、次の(5)式を満たす必要がある。
【0025】
θ>θ
cr ・・・(5)
次に、ウエブWの幅Lと臨界スキュー角θ
crの具体的な関係について、上記(1)式〜(4)式を用いた計算例で説明する。
【0026】
第1の計算例では、ウエブWの幅L=1000mm、ウエブWの厚みt
f=40μm、ポアソン比ν
X=ν
z=0.3、ヤング率E
X=E
z=2.5(GPa)、スパンa=1000mm、ウエブWの張力T=400N/mとすると、θ
cr=0.04773(°)となる。
【0027】
第2の計算例では、ウエブWの幅L=500mm、ウエブWの厚みt
f=40μm、ポアソン比ν
X=ν
z=0.3、ヤング率E
X=E
z=2.5(GPa)、スパンa=1000mm、ウエブWの張力T=400N/mとすると、θ
cr=0.190984(°)となる。
【0028】
2つの計算結果よりウエブWの幅Lが小さい方が、ウエブWの臨界スキュー角θ
crは大きいことがわかる。材料力学の観点からみれば、ウエブWの幅Lが小さくなることによって、幅方向上の2次モーメント値は小さくなる。それによって同じスキュー角に対し、狭いウエブWの幅の方で生じた剪断応力は小さくてすむからである。そのため、狭い幅のウエブWの方はより大きな臨界スキュー角θ
crとなる。
【0029】
一方、ガイドロールの回転中で、ウエブWとガイドロールの運動によって、ウエブWとガイドロールの間に空気膜層が形成される。空気層の厚みによって、ウエブWとガイドロール間の接触状態が変化する。ウエブWとガイドロール間の接触状態の変化によって、ガイドロールとウエブW間の摩擦係数は低下し、ガイドロールを回転する必要な駆動力を確保できないこともありうる。そのとき、ガイドロールとウエブWの間にスリップが発生し、ウエブWに損傷を与えることになる。
【0030】
ガイドロールとウエブW間のスリップを避け、ガイドロールとウエブW間の摩擦力を確保するために、ガイドロール表面に滑り止め加工が行われる。但し、ガイドロールとウエブW間の摩擦力が大きすぎると皺の発生原因になる。そこで、特許文献1に示すように、その皺の発生を防止するために、
図9に示すように、ガイドロール100の中央表面に滑り止め加工部102を設けた。
【0031】
しかし、特許文献1のガイドロール100では、中央表面に滑り止め加工部102を設けているため、ウエブWとガイドロール100の接触部分は1つ連続的な区域となる。したがって、上記で説明したように、この中央にある滑り止め加工部102とウエブWとが接触することによる臨界スキュー角θ
crが小さくなる。そのため、この臨界スキュー角θ
crがミスアライメントθより小さくなって皺が発生しやすくなる。なお、この場合に滑り止め加工部102以外の両側部104,104は平滑加工が施されているので、この両側部104,104とウエブWとは滑り、臨界スキュー角θ
crに影響を与えない。
【0032】
そこで、本実施例では、ガイドロール10の表面の滑り止め加工部16,16の総加工面積を特許文献1における滑り止め加工部102と変化させずに、かつ、ウエブWの走行方向上の中心線に対し、左右対称に2個の滑り止め加工部16,16を設けて、接触幅を分割している。この分割することによって、1個当りの滑り止め加工部16の接触幅は小さくなって、各滑り止め加工部16に対応した臨界スキュー角θ
crが、ガイドロール10,22間のミスアライメントθより大きくなり、皺が発生しにくくなる。
【0033】
以上の説明した理由で、2個の滑り止め加工部16,16を設けると共に、滑り止め加工部16,16に対応した各臨界スキュー角θ
crがミスアライメントθより大きく設定されていることによって、ガイドロール10の回転に対して必要な摩擦力を確保しながら、ガイドロール10,22間のミスアライメントθによる皺の発生を防止できる。
【0034】
ところで、本実施例のガイドロール10においては、間隙20を設けることにより、2個の滑り止め加工部16を設けているが、間隙20の長さxは、
図3に示すようにウエブWの皺の最大幅yよりも大きければよいが、加工精度の問題から1cm〜10cmが好適である。x>yにする理由は、皺の最大幅yより間隙xが小さいと、ウエブWが2個の滑り止め加工部16,16を1つの滑り止め加工部として接触するためである。なお、滑り止め加工部16,16に刻設された溝の間隔は1〜500ミクロンであり、前記間隔20よりも充分に小さい。
【0035】
(3)効果
本実施例によれば、2個の滑り止め加工部16,16を設けると共に、滑り止め加工部16,16に対応した各臨界スキュー角θ
crが、ガイドロール10,22間のミスアライメントθより大きく設定されているので、ミスアライメントθによる皺の発生を防止できる。
【0036】
また、ガイドロール10であると、滑り止め加工部16,16の幅方向の長さM1,M2の合計M1+M2=Mは、ロール本体12の全幅M0の20〜70%に設定しているため、ガイドロール10とウエブWの間に必要な摩擦力が確保され、ガイドロール10とウエブWとの間に滑りが生じず、ウエブWが傷つくことがない。
【0037】
また、滑り止め加工部16,16は、ガイドロール10の幅方向における中心に関して左右対称に設けられているので、ウエブWの走行中に左右にぶれたりすることがない。
【0038】
また、ガイドロール10の両側部18,18は、平滑なメッキ加工を施しているため、その部分における摩擦力が少なくなり、ウエブWやこのウエブWを搬送する装置に歪みがあっても、両側部18,18の摩擦力が少ないため幅方向にずれて、歪みによる皺が発生しない。
【0039】
(4)変更例
本発明は上記各実施例に限らず、その主旨を逸脱しない限り種々に変更することができる。
【0040】
上記実施例では、滑り止め加工部16を2個設けたが、これに限らず、変更例1では、
図4に示すように、間隙20を2個設け、滑り止め加工部16を3個設けている。この場合にも、上記実施例と同様に、滑り止め加工部16,16,16の合計の長さM1+M2+M3=Mが、ロール本体12の全幅M0に対し20〜70%の範囲にあればよい。また、滑り止め加工部16,16,16を設ける位置も、上記実施例と同様に、ガイドロール10の幅方向における中心に関して左右対称に設ける。
【0041】
上記実施例では、滑り止め加工部16における溝は螺旋状の溝を設けたが、これに限らず、変更例2では、
図5に示すような平行な溝を設けている。
【0042】
変更例3では、
図6に示すような中央部を対称にした螺旋状の溝を設けている。
【0043】
変更例4では、
図7に示すような格子状の溝を設けている。
【0044】
変更例5では、滑り止め加工部16は、
図8に示すような梨地状に加工を施している。