【実施例1】
【0034】
図1と
図2は、本発明に係るトンネル覆工コンクリートの養生装置10の実施例を示している。
前記養生装置10は、脱型後のトンネル覆工コンクリート20の表面を養生するための装置である。
この養生装置10は、縦材と横材とを骨組みしてなるアーチフレーム1と、前記アーチフレームの外周部に設けられた複数のバルーン2と、前記バルーン2の外周部に前記アーチフレーム1を覆うように張設された非通気性の保温シート3と、前記アーチフレーム1の下部に設けられた車輪4とからなり、
予め加熱された空気や水等の流体により膨張させたバルーン2が前記非通気性の保温シート3を、打設型枠を取り外したトンネル覆工コンクリート20の表面形状(内側面形状)に沿うように密着させて養生する構成とされている。
また、本実施例に係る養生装置10は、移動式コンクリート打設型枠装置の後部に連結され、当該打設型枠装置の移動に伴い、トンネル構内の地面21に敷設されたレール19に沿って追従可能な構成とされている。
ちなみに、
図1中の符号17は送風管を示し、符号18は、アーチフレーム1から垂下されたリング状の送風管支持部材を示している。この送風管支持部材18は、トンネル長手方向に所定の間隔をあけて複数設けられている。
以下、養生装置10の構成をさらに具体的に説明する。
【0035】
前記アーチフレーム1は、打設型枠を取り外したトンネル覆工コンクリート20の表面形状と比して一回り小さい類似形状で、トンネル長手方向へ所定の間隔をあけて並設された複数の金属製の縦材1aと、前記複数の縦材1aを溶接、ボルト等の接合手段で固定する複数の金属製の横材1bとを骨組みしてなる。縦材1aと横材1bの材質は金属製に限定されず、ポリ塩化ビニル製やグラスファイバー製で実施することもできる。
ちなみに、本実施例に係る縦材1aは、トンネル覆工コンクリート20の表面との間隔を200mm程度確保したアーチ形状で、且つアーチフレーム1の前端部と後端部に相当する部位に計2本、および中間部に2本の計4本をほぼ等間隔に並設している。
なお、前記間隔は200mm程度に限定されず、バルーン2の膨張形態に応じて適宜増減される。勿論、縦材1a、横材1bの使用本数もアーチフレーム1の大きさに応じて適宜増減される。
また、前記アーチフレーム1(養生装置10)のスパンは10.5mで実施している。これは、通常、移動式コンクリート打設型枠装置の長さが10.5mであり、トンネル覆工コンクリート20が、通常10.5mの長さを1スパンとして施工されることに対応させたものである。脱型した移動式コンクリート打設型枠装置が1スパン前進する毎に養生装置を1スパン分前進させながら養生する構成で実施している。
なお、アーチフレーム1の形態は実施例に限定されず、例えば、図示例に係るアーチフレーム1を2連、3連に連結して実施することもできる。アーチフレーム1の1スパンも10.5mに限定されず、適宜増減される。
【0036】
前記複数のバルーン2は、
図2に斜線部で示したように、アーチフレーム1の外周部のトンネル長手方向に断続的(又は連続的)に4体配置され、各バルーン2は、
図1に示したように、アーチ状に膨張するように前記アーチフレーム1の外周部のトンネル周方向に沿って設けられている。
本実施例にかかるバルーン2は、アーチフレーム1の外周部のトンネル長手方向に、膨張させた状態で10〜20cm程度の間隔S(
図2参照)をあけて断続的に配置されている。各バルーン2は、幅が1.5m〜2.5m程度で、膨張させると、
図1に示したように、非通気性の保温シート3を、前記トンネル覆工コンクリート20の表面に隙間なく密着させるように取り付けられている。
前記バルーン2には、変化追従性と耐久性に優れた材質が好適に用いられる。ちなみに、本実施例に係るバルーン2は、前記送風管17に用いる材質と同じポリ塩化ビニルが用いられている。
なお、前記バルーン2は、特に固定手段を講ずることなく、前記アーチフレーム1の外周部のアーチ形状に沿って載置するだけで、良好な膨張状態と膨張形態を保持することができる。勿論、アーチフレーム1の縦材1aと一致する曲率で湾曲されたベニア板等の薄板部材をアーチフレーム1の外周部に固定し、当該薄板部材に両面接着テープを貼り付け、その上にバルーン2を接着固定する等の固定手段も適宜採用することもできる。
【0037】
前記非通気性の保温シート3は、
図3A〜Cに例示したような、市販の気泡緩衝シートが好適に用いられ、当該非通気性の保温シート3の端部同士を一部ラップさせる等して互いに貼り合わせて前記アーチフレーム1の全体を十分に覆う程度の大きさに形成し、前記バルーン2の外周部にバランスよく載置されている。勿論、非通気性の保温シート3(気泡緩衝シート)は、バルーン2の外周部に両面接着テープ等の接着手段で貼り付けて実施することもできる。
ちなみに、
図3Aに係る非通気性の保温シート3は、キャップシート31と、キャップシート31の底部側に貼り合わせた平坦なバックシート32とで形成された気泡緩衝シートで、前記キャップシート31の凸部(多数の円柱体)の頂部を前記トンネル覆工コンクリート20の表面へ向けた状態でバルーン2の外周部(上面)に載置されて実施される。この非通気性の保温シート3によれば、保温性に優れた養生を行うことができる。また、キャップシート31とバックシート32がポリエチレン製であることから保湿性にも優れた養生を行うことができる。
図3Bに係る非通気性の保温シート3は、前記キャップシート31と前記バックシート32に加え、バックシート32の裏面側に積層状に貼り合わせた平坦な外層シート(アルミ蒸着フィルムやアルミ箔)33とで形成された気泡緩衝シートで、前記キャップシート31の凸部の頂部を前記トンネル覆工コンクリート20の表面へ向けた状態でバルーン2の外周部に載置されて実施される。この非通気性の保温シート3によれば、
図3Aに係る非通気性の保温シート3に外層シート33を設けているので、さらに保温性及び保湿性に優れた養生を行うことができる。
図3Cに係る非通気性の保温シート3は、前記キャップシート31と前記バックシート32と前記外層シート33に加え、前記キャップシート31の凸部の頂部に貼り合わせた平坦なライナーシート34とで形成された気泡緩衝シートで、前記ライナーシート34の上面を前記トンネル覆工コンクリート20の表面へ向けた状態でバルーン2の外周部に載置されて実施される。この非通気性の保温シート3によれば、
図3Bに係る非通気性の保温シート3にライナーシート34を設けているので、さらに保温性及び保湿性に優れた養生を行うことができる。
ちなみに、本実施例では、この
図3Cに係る非通気性の保温シート3が用いられている。
【0038】
次に、上記構成の養生装置10を用いて行うトンネル覆工コンクリート20の養生方法について説明する。
上記構成の養生装置10を、移動式コンクリート打設型枠装置1の移動に伴い追従して前進させて、打設型枠を取り外して露出させたトンネル覆工コンクリート20を養生する養生区間で停止させる。
前記養生装置10のアーチフレーム1の外周部に設けた前記4体のバルーン2を、電動送風機(図示略)を作動させてほぼ同時に膨張させる。
そうすると、前記4体のバルーン2はそれぞれ、
図1、
図2、更には
図4に示したように、前記トンネル覆工コンクリート20の表面との間隔(本実施例では200mm程度)を隙間なく埋めるように十分に膨張する。これに伴い、バルーン2の外周部に設けた前記非通気性の保温シート3の凸部(本実施例では、ライナーシート34)が、トンネル覆工コンクリートの表面形状に沿うように一様に隙間なく密着し、トンネル覆工コンクリート20を速やかに養生することができる。
この密着状態を電動送風機を作動させつつ、2日間程度の養生を行う。養生期間は、さらに後部に連結される前記養生装置10の台数を増やすことで適宜増やすことができる。
【0039】
以上説明したように、この実施例1に係る養生装置および養生方法によると、非通気性の保温シート3として用いた気泡緩衝シートは三層構造で構成されているため、熱伝導率が低く、熱伝導によるトンネル覆工コンクリート20の表面の温度低減の抑制ができる。また、非通気性の保温シート3をトンネル覆工コンクリート20の表面に密着させることから、熱対流によるトンネル覆工コンクリート20の表面の温度低減の抑制もできる。さらに、気泡緩衝シートの裏面側には外層シート33(アルミ蒸着フィルム又はアルミ箔)が装着されており、熱放射によるトンネル覆工コンクリート20の表面の温度低減をも抑制することができる。よって、トンネル覆工コンクリート20の表面の保温養生を効果的に行うことができ、トンネル覆工コンクリート20の表面と、該コンクリート20の前記温度ひび割れを抑制することができ、さらにはトンネル覆工コンクリート20の表面の強度(初期強度、長期強度)を増大させることも期待できる。
加えて、前記バルーン2を、予め加熱された空気や水等の流体により膨張させて
いるので、トンネル覆工コンクリート20の表面温度を上昇させ、その内部(奥部)の温度との差を小さくして実施できるので、前記温度ひび割れを更に抑制することができる。さらに前記温風又は温水の温度をトンネル覆工コンクリート20の表面と内部の温度差に起因するひび割れを低減することが可能な温度に調整して膨張させて実施する場合は、トンネル覆工コンクリート20の表面温度を、その内部の温度と同等程度にすることができるので、前記温度ひび割れを飛躍的に抑制することができる。
【0040】
外層シート33を除く、キャップシート31、バックシート32、及びライナーシート34はポリエチレン製であることから非通気性であり、水蒸気を通さないことから保湿性にも優れている。よって、湿潤養生を効果的に行うことができ、乾燥によるトンネル覆工コンクリート20の表面の前記乾燥収縮ひび割れを抑制することができ、さらにはトンネル覆工コンクリート20の強度増大も期待できる。
このように、実施例1に係る養生装置および養生方法によれば、簡易な構成で、保温養生および保湿養生を効果的、且つ経済的に行うことができ、ひいては品質、耐久性に優れたトンネル覆工コンクリート20を実現することができる。
【0041】
その他、この実施例1に係る養生装置および養生方法によれば、以下のような作用効果も奏する。
トンネル覆工コンクリート20の表面に直接密着させるのは非通気性の保温シート3であり、バルーン2は、いわば非通気性の保温シート3の支持部材に過ぎない。
よって、隣接するバルーン2、2同士は連続的に隙間なく設ける必要はなく、経済的である。これに伴い、隣接するバルーン2、2同士の外周面を面一に製作する必要もまったくなく、簡易、且つ経済的にバルーン2を製作できる。
また、バルーン2は、アーチフレーム1の外周部に載置するだけで良好な膨張状態と膨張形態を保持できるので、取り付け作業に手間もかからない。
さらに、バルーン2は、トンネル覆工コンクリート20の表面に非通気性の保温シート3を介し間接的に密着しているに過ぎない構成なので、トンネル覆工コンクリート20との摩擦等により当該コンクリート20の表面に傷をつけたり、バルーン2が破損する虞もない。破損する虞のある非通気性の保温シート(気泡緩衝シート)3は安価な市販品なので、取り替えも容易で、経済的である。
【0042】
非通気性の保温シート3は、薄く(3〜4mm程度)、しかも可撓性に優れているので、バルーン2を膨張させた後の当該非通気性の保温シート3の密着状態を、弛みの有無等で即座に確認できる。また、非通気性の保温シート3は、バルーン2の押圧力で張設されているだけなので、万一、密着状態が不十分な部位を確認した場合は、作業員の手作業により容易に微細な補整をフレキシブルに行うことができ、ひいてはトンネル覆工コンクリート20の表面形状に沿うように一様に隙間なく密着する状態を実現でき、非常に良好な保温養生および湿潤養生を行うことができる。
【実施例3】
【0044】
図7と
図8は、本発明に係る養生装置及び養生方法の異なる実施例を示している。
この養生装置11は、上記実施例1で説明した養生装置10と比して、バルーン2の配置および形態が相違する。それ以外の構成は、上記実施例1に係る養生装置10と同様なので、同一の符号を付してその説明を省略する。
この実施例3に係るバルーン12の配置は、いわば、上記実施例1に係るバルーン2の向きと真逆である。すなわち、この実施例3に係るバルーン12は、
図7と
図8の斜線部で示したように、アーチフレーム1の外周部のトンネル周方向に断続的(又は連続的)に複数配置され、各バルーンは、マット状(又は柱状)に膨張するように前記アーチフレーム1の外周部のトンネル長手方向に沿って取り付けられている。
【0045】
具体的に、前記バルーン12は、幅が1m〜2m程度で、アーチフレーム1の外周部のトンネル周方向に、膨張させた状態で10〜20cm程度の間隔S(
図7参照)をあけて断続的に7体配置されている。各バルーン12は、膨張させると、非通気性の保温シート3を介して前記トンネル覆工コンクリート20の表面に隙間なく膨張するように取り付けられている。前記バルーン12の材質は、上記実施例1に係るバルーン2と同じポリ塩化ビニルが用いられている。
なお、この実施例3に係るバルーン12は、前記アーチフレーム1に、紐、或いは金属製の針金等の線材で位置決め固定されている。
【0046】
したがって、この実施例3によれば、上記実施例1と同様に、膨張させたバルーン12が、前記非通気性の保温シート3を、トンネル覆工コンクリートの表面形状に沿うように一様に隙間なく密着する状態を実現できるので、やはり上記実施例1と同様の作用効果を奏する(上記段落[0039]〜[0042]参照)。
また、上記実施例2に倣い、アーチフレーム1のアーチ部に相当する長さに湾曲した金属製の線材(図示略)を、前記バルーン12と直交する方向に、トンネル長手方向に所定の間隔をあけて複数配置して実施することもできる。このような構成で実施することにより、前記作用効果に加え、前記湾曲した金属製の線材が非通気性の保温シート3を弛みなく支持することができるので、より確実にトンネル覆工コンクリート20の表面形状に沿うように一様に隙間なく密着する状態を実現できる。また、前記線材5の支持効果により、バルーン12、12同士の配置間隔をさらに広げて設置できるなど、バルーン2の省力化、小型化(円柱状、楕円柱状)に寄与することができる。
【0047】
以上に実施例を図面に基づいて説明したが、本発明は、図示例の限りではなく、その技術的思想を逸脱しない範囲において、当業者が通常に行う設計変更、応用のバリエーションの範囲を含むことを念のために言及する。
例えば、前記非通気性の保温シート3の上面に、吸水した水を逃がさず養生水として利用できる湿潤養生シート(図示の便宜上省略)を重ね合わせ、前記複数のバルーン2(12)を膨張させることにより、前記湿潤養生シートを、打設型枠を取り外したトンネル覆工コンクリート20の表面形状に沿うように密着させて養生することもできる(請求項2、請求項6記載の発明)。要するに、非通気性の保温シート3とトンネル覆工コンクリート20との間に湿潤養生シートを介在させて実施することもできる。この場合、上述した作用効果(段落[0039]〜[0042]参照)を更に高めることが期待できる。ちなみに、前記湿潤養生シートの材質は、吸水性、可撓性に優れたアクリル繊維等が好適である。
また、前記非通気性の保温シート3は、気泡緩衝シートのほかに、発泡ポリスチレンシート、発泡ポリエチレンシート、発泡ウレタンシート等の発泡シートでも同様に実施でき、同様の作用効果を奏することができる。前記発泡シートと、該発泡シートの片面側に積層状に貼り合わせた平坦な外層シートとの組み合わせでも同様に実施でき、同様の作用効果を奏することができる。
さらに、上記実施例1〜3に係る養生装置10、11は、アーチフレーム1を自立式で実施しているがこの限りでなく、
図9に示したように、アーチフレーム1を支保部材6で支持する構成で実施することも勿論できる。この場合、車輪4は支保部材6の下部に設ける等の設計変更は適宜行われる。