(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5650028
(24)【登録日】2014年11月21日
(45)【発行日】2015年1月7日
(54)【発明の名称】塩化カルシウムの回収方法
(51)【国際特許分類】
C01F 11/24 20060101AFI20141211BHJP
C02F 5/00 20060101ALI20141211BHJP
C02F 1/42 20060101ALI20141211BHJP
【FI】
C01F11/24
C02F5/00 610C
C02F5/00 620B
C02F1/42 E
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2011-65156(P2011-65156)
(22)【出願日】2011年3月24日
(65)【公開番号】特開2012-201521(P2012-201521A)
(43)【公開日】2012年10月22日
【審査請求日】2013年9月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106563
【弁理士】
【氏名又は名称】中井 潤
(72)【発明者】
【氏名】田村 典敏
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 紳一郎
【審査官】
森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−87973(JP,A)
【文献】
特開2007−237057(JP,A)
【文献】
特開2002−146691(JP,A)
【文献】
特開平07−003485(JP,A)
【文献】
特開2001−122616(JP,A)
【文献】
特開2005−305265(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F 11/00 − 11/48
C02F 1/42
C02F 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化カルシウムを含む溶液を、両性イオン交換樹脂を用いて塩化カルシウム濃度の高い溶液と、塩化カルシウム濃度の低い溶液とに分離し、該塩化カルシウム濃度の高い溶液から塩化カルシウムを回収することを特徴とする塩化カルシウムの回収方法。
【請求項2】
前記塩化カルシウム濃度の高い溶液から水を蒸発させて塩化カルシウムを回収することを特徴とする請求項1に記載の塩化カルシウムの回収方法。
【請求項3】
前記塩化カルシウムを、塩化カルシウム濃度が35%以上の液体として回収することを特徴とする請求項1又は2に記載の塩化カルシウムの回収方法。
【請求項4】
前記塩化カルシウムを、塩化カルシウム濃度が25%以上の液体として回収することを特徴とする請求項1又は2に記載の塩化カルシウムの回収方法。
【請求項5】
前記塩化カルシウムを、塩化カルシウム濃度が40%以上の固体として回収することを特徴とする請求項1又は2に記載の塩化カルシウムの回収方法。
【請求項6】
前記塩化カルシウムを含む溶液は、カルシウムスケールを誘発させる液体であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の塩化カルシウムの回収方法。
【請求項7】
前記塩化カルシウムを含む溶液は、最終処分場の浸出水であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の塩化カルシウムの回収方法。
【請求項8】
前記塩化カルシウムを含む溶液は、焼却灰又は/及び塩素バイパスダストを水洗して得られたろ液であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の塩化カルシウムの回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化カルシウムの回収方法に関し、特に、最終処分場やセメント製造工程等において発生し、スケールトラブルを誘発させる塩水等から塩化カルシウムを回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塩化カルシウムは、吸湿性に富み、潮解性が強く、水に容易に溶解し、低温でも凍結し難いという性質を備えるため、融雪剤、除湿剤、製紙・織物のサイジング、排水処理、試薬等に使用される。この塩化カルシウムを製造するには、塩と石灰石を主原料とし、アンモニアを副原料とする無水炭酸ナトリウムの製造時に生ずる塩化カルシウムの水溶液を濃縮することが一般的であり、塩素と石灰乳等を反応させて塩化カルシウムを生成することもできる。
【0003】
一方、ごみ処分場等の最終処分場は、リサイクルが困難な廃棄物等を処分するための施設であるが、枯渇化の虞に鑑み、これまで最終処分場で処理されていた廃棄物等の有効利用が推進されている。例えば、都市ごみなどを焼却した際に発生する焼却灰は、最終処分場での処分に代えて、近年、セメント原料としてリサイクルしている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、セメント製造設備には、プレヒータの閉塞等の問題を引き起こす原因となる塩素を除去する塩素バイパス設備が用いられているが、近年の廃棄物処理量の増加に伴い、セメントキルンに持ち込まれる塩素等の揮発成分の量も増加し、塩素バイパスダストの発生量も増加している。そのため、塩素バイパスダストをすべてセメント粉砕工程で利用することができず、塩素バイパスダストについても水洗処理されていた(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
【特許文献1】特開平11−100243号公報
【特許文献2】特開2001−129513号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記最終処分場の浸出水や、塩素バイパスダストの水洗ろ液等の塩水には、塩化カルシウムが含まれているが、従来、塩化カルシウムを効率的に分離する方法が存在しなかったため、塩化カルシウムを有効利用することができなかった。
【0007】
一方、最終処分場では、その浸出水に含まれるカルシウムイオン(Ca
2+)と、SO
42-から硫酸カルシウム(CaSO
4)が生じ、ろ過装置や後段の排水処理工程においてスケールとして装置に付着し、安定運転が阻害されるという問題があった。また、セメント製造工程における焼却灰や塩素バイパスダストの水洗ろ液についても、上記最終処分場の浸出水と同様の問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、上記従来の技術における問題点に鑑みてなされたものであって、最終処分場やセメント製造工程等におけるスケールの付着による運転への悪影響を最小限に抑えながら、最終処分場の浸出水や、塩素バイパスダストの水洗ろ液等の塩水から塩化カルシウムを回収することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明は、塩化カルシウムの回収方法であって、塩化カルシウムを含む溶液を、両性イオン交換樹脂を用いて塩化カルシウム濃度の高い溶液と、塩化カルシウム濃度の低い溶液とに分離し、該塩化カルシウム濃度の高い溶液から塩化カルシウムを回収することを特徴とする。
【0010】
そして、本発明によれば、両性イオン交換樹脂を利用して、塩化カルシウムを含む溶液から塩化カルシウムを回収することができる。
【0011】
上記塩化カルシウムの回収方法において、塩化カルシウム濃度の高い溶液から水を蒸発させて塩化カルシウムを回収することができ、塩化カルシウム濃度の高い液体又は固体を得ることができる。
【0012】
前記塩化カルシウムを、塩化カルシウム濃度が35%以上の液体として回収することができ、回収した液体を融雪剤等として有効利用することができる。また、前記塩化カルシウムを、塩化カルシウム濃度が25%以上の液体や、塩化カルシウム濃度が40%以上の固体として回収することもできる。
【0013】
さらに、上記塩化カルシウムの回収方法において、前記塩化カルシウムを含む溶液を、カルシウムスケールを誘発させる液体とすることができ、カルシウムスケールの付着による装置等の運転への悪影響を最小限に抑えながら、塩化カルシウムを回収することができる。
【0014】
前記塩化カルシウムを含む溶液を、最終処分場の浸出水や、焼却灰又は/及び塩素バイパスダストを水洗して得られたろ液とすることで、最終処分場やセメント製造工程等におけるスケールの付着による運転への悪影響を最小限に抑えながら、塩化カルシウムを回収することができる。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明によれば、最終処分場やセメント製造工程等におけるスケールの付着による運転への悪影響を最小限に抑えながら、塩化カルシウムを回収することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明にかかる塩化カルシウムの回収方法を適用した最終処分場の浸出水処理システムの一例を示すフローチャートである。
【
図2】
図1に示す処理システムに用いられるイオン交換樹脂の動作を説明するための概略図である。
【
図3】
図2に示すイオン交換樹脂の運転例を示すグラフである。
【
図4】
図1に示す処理システムの第1実施例を示すフローチャートである。
【
図5】
図1に示す処理システムの第2実施例を示すフローチャートである。
【
図6】
図1に示す処理システムの第3実施例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら説明する。尚、以下の説明においては、最終処分場の浸出水から塩化カルシウムを回収する場合を例にとって説明する。
【0018】
図1は、本発明にかかる塩化カルシウムの回収方法を適用した最終処分場の浸出水処理システム(以下、「処理システム」と略称する)を示し、この処理システム1は、最終処分場2からの浸出水Wを貯留する調整槽3と、調整槽3からの浸出水Wをカルシウムイオン濃度が高く、塩化カルシウム濃度の高い溶液(以下「塩化カルシウム含有水」という)L3と、カルシウムイオン濃度が低くSO
42-濃度の高い溶液(以下「SO
4含有水」という)L4とに分離する両性イオン交換樹脂4と、両性イオン交換樹脂4に供給する再生水L5を貯留する再生水タンク5と、両性イオン交換樹脂4から排出された塩化カルシウム含有水L3及びSO
4含有水L4を各々貯留する塩化カルシウム含有水タンク6、SO
4含有水タンク7と、重金属除去装置8と、COD処理装置9とを備える。
【0019】
調整槽3は、最終処分場2のごみ層を浸透した雨水等の浸出水Wを集め、浸出水Wの水質、水量の変化を抑えて均一化を図るために備えられ、その前段には、土砂を沈降分離する沈砂槽等が備えられる。
【0020】
両性イオン交換樹脂4は、調整槽3から排出された浸出水Wに含まれる塩化カルシウムを回収するために備えられる。両性イオン交換樹脂とは、母体を架橋ポリスチレン等とし、同一官能基鎖中に四級アンモニウム基とカルボン酸基等を持たせて、陽イオン陰イオンの両方とイオン交換をさせる機能を持たせた樹脂である。例えば、三菱化学株式会社製の両性イオン交換樹脂、ダイヤイオン(登録商標)、AMP03を用いることができる。この両性イオン交換樹脂4は、水溶液中の電解質と非電解質の分離を行うことができるとともに、電解質の相互分離を行うこともできる。
【0021】
重金属除去装置8は、SO
4含有水L4に含まれる鉛等の重金属を除去するために備えられ、薬液反応槽、フィルタープレス等一般的に用いられる装置を利用することができる。
【0022】
COD処理装置9は、重金属除去装置8において重金属が除去されたSO
4含有水L4のCODを低下させるために備えられ、一般的な浄化槽等を利用することができる。
【0023】
次に、上記構成を有する処理システム1の動作について、
図1を参照しながら説明する。
【0024】
最終処分場2の浸出水Wを調整槽3に集めて水質、水量の変化を抑えた後、両性イオン交換樹脂4に供給し、浸出水Wを塩化カルシウム含有水L3とSO
4含有水L4とに分離する。
図2に示すように、この両性イオン交換樹脂4は、バッチ処理を連続的に行うものであって、予め水を充填し(
図2(a))、その後、調整槽3より両性イオン交換樹脂4に浸出水Wを導入し、次に両性イオン交換樹脂4の再生を行うための再生水L5を導入する(
図2(b))。すると、
図2(c)に示すように、まずSO
4含有水L4が排出され、その後、塩化カルシウム含有水L3が時間経過とともにこの順序で排出される。
【0025】
ここで、このSO
4含有水L4、塩化カルシウム含有水L3の切換タイミングを、両性イオン交換樹脂4から排出される処理液のCa
2+、SO
42-、塩化物及びPb
2+の濃度の測定結果、電気伝導度及びpHからなる群から選択される一つ以上の測定結果に基づいて制御することができる。両性イオン交換樹脂4から排出されたSO
4含有水L4及び塩化カルシウム含有水L3は、各々SO
4含有水タンク7及び塩化カルシウム含有水タンク6に一旦貯留する。
【0026】
次に、塩化カルシウム含有水タンク6に貯留した塩化カルシウム含有水L3から塩化カルシウムを回収する。塩化カルシウム含有水L3から水を蒸発させて塩化カルシウムを回収してもよく、塩化カルシウム濃度が25%以上の液体、好ましくは35%以上の液体として回収したり、塩化カルシウム濃度が40%以上の粒状の固体として回収してもよい。一方、SO
4含有水タンク7に貯留したSO
4含有水L4は、重金属除去装置8を用いて重金属を除去し、さらにCOD処理装置9でCODを低減した後、放流する。
【0027】
次に、上記処理システム1に用いた塩化カルシウムの回収方法の第1実施例について説明する。両性イオン交換樹脂4として、上述の三菱化学株式会社製の両性イオン交換樹脂、ダイヤイオンAMP03を用い、原水として、表1に示す化学成分を有する最終処分場2の浸出水Wを両性イオン交換樹脂4に通液し、再生水L5として浸出水Wの2倍の量の新水を通液した。通液量と、両性イオン交換樹脂4を通過した処理液に含まれる各成分の濃度の関係及びその際の処理システム1における水バランスを各々表2、
図3及
図4に示す。
図4において、楕円中の数字が各水の重量比を示す。尚、表1、表2及び
図3では、測定した電気伝導度をCl
-濃度に換算して示している。
【0030】
図3に示したグラフおいて、通水量/原水量0.14〜1.43までがSO
4含有水L4、通水量/原水量1.43以降が塩化カルシウム含有水L3となる。尚、SO
4含有水L4には、SO
42-に加え、Na
+、Pb
2+、COD及びNH
4+も分離することができるため、これらは塩化カルシウム含有水L3に極僅かしか含まれず、塩化カルシウム含有水L3の塩化カルシウム濃度を高めることができる。
【0031】
表2及び
図3に明示されるように、塩化カルシウム(Ca
2+とCl
-)の両性イオン交換樹脂内の通過速度が遅い現象を利用し、塩化カルシウム含有水L3と、SO
4含有水L4の切換タイミングを両性イオン交換樹脂4から排出される溶液のカルシウムイオン濃度に基づいて制御することができ、塩化カルシウム含有水L3へ鉛等の有害物質が混入するのを回避することができる。この際、両性イオン交換樹脂4から排出される溶液が、両性イオン交換樹脂4に導入される浸出水Wのカルシウムイオン濃度3000mg/lの1/20以上、すなわち150mg/l以上、好ましくは1/100以上の30mg/l以上、さらに好ましくは1/300以上の10mg/l以上になった時とすることで塩化カルシウム濃度を精度よく調整することができる。
【0032】
あるいは、両性イオン交換樹脂4から排出される溶液が、両性イオン交換樹脂4に導入される浸出水Wの塩素イオン濃度7000mg/lの1/10以下、すなわち700mg/l以下になった時、好ましくは1/2以下、すなわち3500mg/l以下、さらに好ましくは2/3以下、すなわち4700mg/l以下とすることで、同じく塩化カルシウム濃度を精度よく調整できる。尚、塩素イオン濃度と電気伝導度とは比例関係にあるので、塩素イオン濃度に代えて電気伝導度でも制御することができる。
【0033】
また、このときの水バランスは、
図4に示すように、重量0.67の浸出水Wと重量1.33の再生水L5を両性イオン交換樹脂4に供給すると、重量1の塩化カルシウム含有水L3と重量1のSO
4含有水L4とが発生する。
【0034】
図5は、上記処理システム1に用いた塩化カルシウムの回収方法の第2実施例における水バランスを示し、本実施例は、処理システム1の排水処理設備を小規模とするため、再生水L5の使用量を抑えた場合を示している。
図5において、楕円中の数字が各水の重量比を示す。本実施例では、最終処分場2の浸出水Wと同量の再生水L5を通液し、重量1の塩化カルシウム含有水L3と重量1のSO
4含有水L4とが発生する。
【0035】
図6は、上記処理システム1に用いた塩化カルシウムの回収方法の第3実施例を示し、本実施例では、
図4に示した構成に加え、塩化カルシウム含有水タンク6の下流側に、塩化カルシウム含有水タンク6から排出された塩化カルシウム含有水L3に僅かに含まれる有害物質を処理するための重金属処理装置等の有害物質処理装置10を設け、鉛等の重金属を含む有害物質を除去している。
【0036】
尚、上記実施の形態においては、本発明にかかる塩化カルシウムの回収方法を最終処分場の浸出水処理システムに適用した場合を例示したが、この浸出水処理システム以外にも、焼却灰やセメント製造工程で得られる塩素バイパスダストを水洗して得られたろ液等の塩水から塩化カルシウムを回収することもできる。
【0037】
例えば、塩素バイパスダストを水洗して得られたろ液を上記両性イオン交換樹脂に通過させ、塩化カルシウム濃度の高い溶液と、塩化カルシウム濃度の低い溶液とに分離し、塩化カルシウム濃度の高い溶液から塩化カルシウムを回収することもできる。
【0038】
表3は、その試験例として、両性イオン交換樹脂を通過させる前の原水(塩素バイパスダストを水洗して得られたろ液)、該原水を両性イオン交換樹脂に通過させた後の塩化カルシウム濃度の低い溶液(KCl水)、及び塩化カルシウム濃度の高い溶液(CaCl
2水)の化学分析値を示す。尚、各々の液体をサンプリングして化学分析をしているため、各化学成分のKCl水とCaCl
2水の合量は、必ずしも原水の化学成分とはならない。また、表4は、上記原水、KCl水及びCaCl
2水を乾燥させた後の化学分析値を示す。
【0041】
表4に示すように、CaCl
2水のCa濃度は19.8%であるため、これをCaCl
2に換算すると、CaCl
2(%)=19.8×Cl
2Ca/Ca
=19.8×(40+35.5×2)/40
=54.9
となり、CaCl
2濃度が55%程度の塩化カルシウム含有水が得られる。
【符号の説明】
【0042】
1 最終処分場の浸出水処理システム
2 最終処分場
3 調整槽
4 両性イオン交換樹脂
5 再生水タンク
6 塩化カルシウム含有水タンク
7 SO
4含有水タンク
8 重金属除去装置
9 COD処理装置
10 有害物質処理装置