(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5650079
(24)【登録日】2014年11月21日
(45)【発行日】2015年1月7日
(54)【発明の名称】ダイナミックマイクロホンユニットおよびダイナミックマイクロホン
(51)【国際特許分類】
H04R 9/08 20060101AFI20141211BHJP
【FI】
H04R9/08
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2011-191660(P2011-191660)
(22)【出願日】2011年9月2日
(65)【公開番号】特開2013-55466(P2013-55466A)
(43)【公開日】2013年3月21日
【審査請求日】2014年6月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000128566
【氏名又は名称】株式会社オーディオテクニカ
(74)【代理人】
【識別番号】100088856
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 佳之夫
(72)【発明者】
【氏名】秋野 裕
【審査官】
千本 潤介
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭62−169591(JP,U)
【文献】
実開昭60−186798(JP,U)
【文献】
実開昭60−193797(JP,U)
【文献】
特開2009−260722(JP,A)
【文献】
特開2010−062888(JP,A)
【文献】
特開2005−260306(JP,A)
【文献】
特開2006−019791(JP,A)
【文献】
米国特許第03581015(US,A)
【文献】
英国特許出願公告第01173623(GB,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 9/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
音波を受けて振動する振動板と、この振動板に固着されて上記振動板とともに振動するボイスコイルと、上記ボイスコイルが配置される磁気ギャップを含みこの磁気ギャップに磁場を生成する磁気回路と、上記振動板の背面側に形成されている後部空気室と、上記ボイスコイルの後方に形成されていて上記後部空気室に連通している第2空気室と、を備えているダイナミックマイクロホンユニットであって、
上記第2空気室には、弾性力を有する薄板状の音響抵抗体が、上記第2空気室の容積を制限しかつ上記ボイスコイルがその最大変位内で接することができる位置に張力を付与して配置されているダイナミックマイクロホンユニット。
【請求項2】
第2空気室は、円筒形状のボイスコイルと同心の円形に形成され、この円形の上記第2空気室にリング状の音響抵抗保持体が配置され、この音響抵抗保持体は、上記ボイスコイルとの対向面側で音響抵抗体を保持している請求項1記載のダイナミックマイクロホンユニット。
【請求項3】
音響抵抗保持体は、後部空気室と第2空気室をつなぐ孔を有し、この孔を覆って音響抵抗体が配置されている請求項2記載のダイナミックマイクロホンユニット。
【請求項4】
音響抵抗保持体の孔は、音響抵抗体配置面側の径が大きくなっていて、ボイスコイルが接したときに撓むことができる音響抵抗体の面積が拡大されている請求項3記載のダイナミックマイクロホンユニット。
【請求項5】
磁気回路は、ヨークと、このヨークに固定されている磁石と、この磁石に固定されているポールピースを有してなり、上記ヨークには、後部空気室と第2空気室を連通させる孔が形成されている請求項1乃至4のいずれかに記載のダイナミックマイクロホンユニット。
【請求項6】
マイクロホンケースにダイナミックマイクロホンユニットが組み込まれてなるダイナミックマイクロホンであって、上記ダイナミックマイクロホンユニットは請求項1乃至5のいずれかに記載されているダイナミックマイクロホンユニットであるダイナミックマイクロホン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイナミックマイクロホンユニットおよびダイナミックマイクロホンに関するもので、特に、過大な音圧が加わって振動板が大きく変位したときに生じる衝撃音の軽減を図ったものである。
【背景技術】
【0002】
ダイナミックマイクロホンの無指向性成分は抵抗制御である。そのため、振動板の直後に音響抵抗を配置することによって周波数応答を平坦にすることができる。
【0003】
図7、
図8は、従来のダイナミックマイクロホンユニットの一例を示している。
図7、
図8において、符号1は、マイクロホンユニットの基体をなすユニットケースを示している。ユニットケース1は、外形が有底の円筒形状で、内方には上端部から下方に向かって延びた内筒11が一体成形によって形成され、内筒11の下端部には半径方向内側に延びた円形の庇部12が形成されている。
【0004】
ユニットケース1の内筒11内には、以下のような磁気回路形成部材が収納されることによって磁気回路が構成されている。まず、上記内筒11内にはシャーレ状のヨーク2が嵌められ、内筒11の庇部12で支持されるとともに、ヨーク2の周壁の外周面は上記内筒11の内周面に接している。ヨーク2の底板の上には、ヨーク2の周壁の内径よりも外径の小さい円板状の磁石3が固定され、磁石3の上には円板状のポールピース4が固定されている。ヨーク2の周壁の上端面にはリングヨーク21が固定されている。ポールピース4とリングヨーク21は厚さがほぼ同じで、略同じ高さ位置に固定され、ポールピース4の外周面とリングヨーク21の内周面が適宜の間隔をおいて対向し、円形の磁気ギャップを形成している。上記磁気回路構成部材はほぼ上記内筒11内に収納され、ポールピース4の上端面と上記内筒11の上端面とがほぼ同一の高さ位置にある。
【0005】
磁石3から出る磁束は、ヨーク2、リングヨーク21、上記磁気ギャップ、ポールピース4で構成される磁気回路を通って磁石3に戻る。よって、上記磁気ギャップを磁束が横切っている。磁石3の外径はポールピース4の外径よりも小さく、上記磁気ギャップの下方には磁石3の外周面と内筒11の内周面との間に空気室9が形成されている。磁石3の外径はポールピース4の外径よりも小さく、上記磁気ギャップの下方には、磁石3の外周側に、磁気ギャップよりも幅広の空気室9が形成されている。ヨーク2にはその底部に相当する部分を上下に貫通して複数の孔22が形成され、孔22は、上記空気室9とユニットケース1の円形の庇部12で囲まれている空間をつないでいる。
【0006】
ユニットケース1の上端にはユニットケース1の外周に沿って突縁部14が形成されるとともに、ユニットケース1の上端部には上記突縁部14よりも内方においてかつ突縁部14よりも低い位置に突起13が突縁部14と同心の円に沿って形成されている。上記突起13の上面には、振動板5の外周縁部が固着されている。振動板5は合成樹脂や金属の薄膜を素材としてなり、この素材を成形することによって、センタードーム51とこのセンタードーム51を囲むサブドーム52を備えている。センタードーム51は球面の一部を切り取った形であるのに対し、サブドーム52は断面が部分円弧形状でセンタードーム51の外周縁に連続して形成され、サブドーム52の外周縁部が上記突起13の上面に固着されている。振動板5は、上記のようにサブドーム52の外周縁部が固定されているため、音波を受けるとその音圧によりサブドーム52の外周縁部を支点として前後方向(
図7において上下方向)に振動することができる。
【0007】
振動板5にはセンタードーム51とサブドーム52の円形の境界線に沿ってボイスコイル6が固着されている。ボイスコイル6は、細い導線を巻き回すことにより円筒形状に形成されかつ固められたもので、円筒形状の一端が振動板5に固着されている。振動板5のサブドーム52の外周縁部が上記のように固着されている状態で、ボイスコイル6が前記磁気ギャップ内に位置し、ボイスコイル6はリングヨーク21からもポールピース4からも離間している。
【0008】
振動板5の正面側には、振動板5の保護部材を兼ねたイコライザー8が、その外周縁部をユニットケース1の突縁部14に固着することによって配置されている。イコライザー8の中心部の天井面はドーム状に形成され、振動板5のセンタードーム51との間に一定間隔の隙間が保たれている。イコライザー8は外部からの音波を振動板5に導くための複数の孔82を有している。
【0009】
ユニットケース1の下端は閉じられて、ユニットケース1の内部に比較的大きな空気室15が形成されている。前記ヨーク2の下面に密着させて音響抵抗体16が配置されている。ユニットケース1の前記庇部12の内周面は円筒面になっていて、この庇部12の内周面で音響抵抗体16の外周が支持されている。音響抵抗体12は不織布などを厚く重ねることによって形成されている。音響抵抗体16は振動板5の背面側に配置され、振動板5の背面側の空間が、上記磁気ギャップ、空気室9、ヨーク2の孔22を経て音響抵抗体16に通じ、さらに空気室15に通じている。
【0010】
振動板5は、音波を受けるとその音圧の変化にしたがって前後に振動し、振動板5とともにボイスコイル6も前後に振動する。ボイスコイル6が振動するとき前記磁気ギャップを通っている磁束をボイスコイル6が横切り、ボイスコイル6が音圧の変化に対応した音声信号を発電する。このようにして電気音響変換が行われ、例えば、サブドーム52の背面に沿って引き回されているボイスコイル6の両端から音声信号が外部に出力される。
【0011】
上記のように構成されたダイナミックマイクロホンユニットによれば、振動板5の背面側の空間がボイスコイル6によってセンタードーム51の背面側空間と、サブドーム52の背面側空間に分割され、これらの空間が、ボイスコイル6の内周面側磁気ギャップおよび外周側磁気ギャップを経て連通している。ダイナミックマイクロホンユニットの感度を高めるためは、上記磁気ギャップを狭くすることが有効であることから、ボイスコイル6がポールピース4およびリングヨーク21に接触しない範囲で可能な限り上記磁気ギャップを狭くしている。そのため、振動板5の背面側の空間が、ボイスコイル6によって、上記のように実質的にセンタードーム51の背面側空間とサブドーム52の背面側空間に分割されたのと同じになっている。
【0012】
いま、センタードーム51の背面側空間の音響容量をSc、サブドーム52の背面側空間の音響容量をSs、ボイスコイル6の内周面とポールピース4の外周面との間に生じている隙間による音響質量をmgi、音響抵抗をrgi、ボイスコイル6の外周面とリングヨーク21の内周面との間に生じている隙間による音響質量をmgo、音響抵抗をrgoとする。また、振動板5に前面側からかかる音圧をP1、前記ユニットケース1の空気室11内に配置された音響抵抗体16の音響抵抗をr1、振動板5の前面側空気室の音響質量をmo、音響容量をSoとする。さらに、ヨーク2の周壁内周面と磁石3の外周面との間に生じている前記空気室9の音響容量をSgとすると、上記二つの空間の音響容量ScとSsが、
図8に示すように、上記音響質量mgi、音響抵抗rgi、音響容量Sg、音響質量mgo、音響抵抗rgoを経てつながっている。
【0013】
図9は、上に述べた各音響質量、音響容量、音響抵抗を有してなる
図7、
図8に示すマイクロホンユニットの等価回路である。
図9に示すように、音圧P1、音響質量mo、音響容量So、音響質量mgi、音響抵抗rgi、音響抵抗rgo、音響質量mgo、音響容量Ssが直列に接続されている。音響容量Soと音響質量mgiの接続点と、音圧P1と音響容量Ssの接続点とが、音響容量Scで接続されるとともに、音響抵抗rgiと音響抵抗rgoの接続点と、音圧P1と音響容量Ssの接続点とが、直列接続された音響抵抗r1と音響容量S1で接続されている。また、音響抵抗r1と音響容量S1の直列接続に対して並列に音響容量Sgが接続された構成になっている。
【0014】
図9から明らかなように、ボイスコイル6で分割されている磁気ギャップの内周側音響質量mgiと空気室9の音響容量Sgが共振回路を構成し、また、上記磁気ギャップの外周側音響質量mgoとサブドーム52の背面側空間の音響容量Ssが共振回路を構成している。上記空気室9の容積は、ユニットケース1の下半部を占める空気室11の容積と比較して小さくなっており、その音響容量Sgが上記音響質量mgiと協働して共振しやすくなっている。この共振が発生すると、特定の周波数においてピークが発生し、周波数特性が劣化する。
【0015】
上記共振を低減するために、空気室9の容積をより一層小さくして音響容量Sgを無視できる程度に極小にし、音響質量mgiと共振しにくくすることが考えられる。
図10に示す従来例はその一例である。この例では、ヨーク2の周壁内周面と磁石3の外周面との間に生じている前記空気室9に音響抵抗体25を配置するとともに、音響抵抗体25をヨーク2の底面に接するように片寄せて配置し、音響抵抗体25の上面側に空気室9を形成している。したがって、空気室9の容積が音響抵抗体25によって制限され、空気室9の音響容量Sgが極めて小さくなっている。音響抵抗体25の音響抵抗をr1とすると、この音響抵抗r1とヨーク2の孔22を経て音響容量Sgが音響容量S1につながっている。これを等価回路で表したものが
図11である。
図11に示す等価回路は、
図10について説明したように、音響容量Sgは音響抵抗体25が存在することによって無視できる程度に極めて小さい容量に制限されているため、音響容量Sgの図示は省略されている。このように、
図10に示す例は空気室9に起因する共振が起こりにくくなっており、可聴周波数帯域においてピークのない良好な周波数特性を得ることができる。
【0016】
上記のようにボイスコイル6の背後の空気室9に音響抵抗体25を配置して空気室9の容積を極めて小さくするためには、音響抵抗体25をボイスコイル6に接近させる必要がある。音響抵抗体25がフェルト状のもの、不織布あるいは不織布に類似の構造のものである場合、
図10に符号251で示すように、音響抵抗体25を構成する繊維の一部が立ち上がる。振動板5が大きく振動したとき、ボイスコイル6が上記繊維の立ち上がり25に接触して異音を発生するとともに、音波に忠実なボイスコイル6の振動が阻害され、忠実な電気音響変換ができなくなる。したがって、音響抵抗体25をボイスコイル6に接近させるにも限界があり、上記空気室9の容積を制限して音響容量Sgを小さくするにも限界があって、空気室9に起因する共振の防止にも限界がある。
【0017】
ところで、楽器の音を収音するために、楽器に取り付けて使用するダイナミックマイクロホンがある。特に、バスドラムのように、低い周波数で大きな音圧の音波を発生する楽器の音を収音するダイナミックマイクロホンでは、振動板が大きく変位するため、ボイスコイルの引き出し部がヨークの角と振動板とに挟まれて断線することがある。そこで、本発明者は、ボイスコイルの引き出し線がリングヨークと対向する振動板のサブドームの内面に沿って配線されているダイナミックマイクロホンにおいて、振動板がポールピース側に向かって振れるときの最大変位位置を、上記引き出し線が上記リングヨークに当接しない位置に規制する振幅規制手段を磁気発生回路側に設けたことを特徴とする発明を先に提案した(特許文献1参照)。
【0018】
また、本発明者は、振動板が磁気発生回路に押しつけられてもボイスコイルの引き出し線が断線しないように、ボイスコイルと隣接する振動板のサブドームの内面側に弾性層を塗布し、この弾性層を介して上記引き出し線をサブドーム側に弾性的に保持したことを特徴とするダイナミックマイクロホンに関する発明を先に提案した(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開2005−260306号公報
【特許文献2】特開2006−019791号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
特許文献1および特許文献2に記載されている発明によれば、大きな音圧が加わって振動板が大きく変位したとき、振動板が、固定部である磁気発生回路に当たって、振動板の動きを止めている。かかる構成にすることによって、ボイスコイルの引き出し線の断線を防止できる効果が得られる。
しかしながら、振動板が固定部に当たるとき雑音が発生する難点がある。
【0021】
本発明は、上記従来のダイナミックマイクロホンユニットの問題点を解消すること、すなわち、振動板が大きく変位したときに生ずる衝撃音を軽減することができるダイナミックマイクロホンユニットおよびこのマイクロホンユニットを用いたダイナミックマイクロホンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明は、音波を受けて振動する振動板と、この振動板に固着されて上記振動板とともに振動するボイスコイルと、上記ボイスコイルが配置される磁気ギャップを含みこの磁気ギャップに磁場を生成する磁気回路と、上記振動板の背面側に形成されている後部空気室と、上記ボイスコイルの後方に形成されていて上記後部空気室に連通している第2空気室と、を備えているダイナミックマイクロホンユニットであって、上記第2空気室には、弾性力を有する薄板状の音響抵抗体が、上記第2空気室の容積を制限しかつ上記ボイスコイルがその最大変位内で接することができる位置に張力を付与して配置されていることを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
ボイスコイルの後方の第2空気室は、薄板状の音響抵抗体によって容積が制限され、磁気ギャップ部の音響質量と上記第2空気室の音響容量との共振が生じにくく、良好な周波数特性を得ることできる。上記薄板状の音響抵抗体は張力を付与して配置されており、ボイスコイルが大きく変位して上記音響抵抗体に接したとき、音響抵抗体は撓むことによって、ボイスコイルの当接による衝撃力を緩和し、雑音の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明に係るダイナミックマイクロホンユニットの実施例の要部を示す縦断面図である。
【
図2】上記実施例においてボイスコイルが大きく変位して音響抵抗体に接した状態を
図1に準じて示す縦断面図である。
【
図3】上記実施例中の音響抵抗保持体を示す平面図である。
【
図5】上記音響抵抗保持体と音響抵抗体との固着工程の一部を示す縦断面図である。
【
図6】上記固着工程を経た音響抵抗保持体と音響抵抗体の最終形態を示す縦断面図である。
【
図7】従来のダイナミックマイクロホンユニットの一例を示す縦断面図である。
【
図8】上記従来例においてボイスコイルが大きく変位した状態を、要部を拡大して示す縦断面図である。
【
図9】従来のダイナミックマイクロホンユニットの等価回路図である。
【
図10】従来のダイナミックマイクロホンユニットの別の例を、要部を拡大して示す縦断面図である。
【
図11】
図10に示す従来のダイナミックマイクロホンユニットの等価回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係るダイナミックマイクロホンユニットの実施例を、図面を参照しながら説明するとともに、本発明に係るダイナミックマイクロホンについても言及する。なお、
図7、
図8、
図10に示す従来のダイナミックマイクロホンユニットの構成部分と同じ構成部分には共通の符号を付した。
【実施例】
【0026】
図1、
図2において、符号1は、マイクロホンユニットの基体をなすユニットケースを示している。ユニットケース1は、前記従来例のユニットケース1と同様に、外形が有底の円筒形状で、内方には上端部から下方に向かって延びた内筒11が一体成形によって形成され、内筒11の下端部には半径方向内側に延びた庇部12が内筒11の全周にわたって形成されている。
【0027】
ユニットケース1の内筒11内には、以下のような磁気回路形成部材が収納されることによって磁気回路が構成されている。まず、上記内筒11内にはシャーレ状のヨーク2が嵌められ、ヨーク2は内筒11の庇部12で支持されるとともに、ヨーク2の周壁の外周面は上記内筒11の内周面に接している。ヨーク2の底板の上には、ヨーク2の周壁の内径よりも外径の小さい円板状の磁石3が接着により固定され、磁石3の上には円板状のポールピース4が接着によって固定されている。ヨーク2の周壁の上端面にはリングヨーク21が接着により固定されている。ポールピース4とリングヨーク21は厚さがほぼ同じで、略同じ高さ位置に固定され、ポールピース4の外周面とリングヨーク21の内周面が適宜の間隔をおいて対向し、この対向空間が円形の磁気ギャップを形成している。上記磁気回路構成部材は上記内筒11内に収納され、ポールピース4の上端面と上記内筒11の上端面とがほぼ同一の高さ位置にある。
【0028】
磁石3から出る磁束は、ヨーク2、リングヨーク21、上記磁気ギャップ、ポールピース4で構成される磁気回路を通って磁石3に戻る。よって、上記磁気ギャップを磁束が横切っている。磁石3の外径はポールピース4の外径よりも小さく、上記磁気ギャップの下方には磁石3の外周面と内筒11の内周面との間に空気室9が形成されている。磁石3の外径はポールピース4の外径よりも小さく、上記磁気ギャップの下方には、磁石3の外周側に、磁気ギャップよりも幅広の空気室9が形成されている。ヨーク2にはその底部に相当する部分を上下に貫通して複数の孔22が形成され、孔22は、上記空気室9とユニットケース1の円形の庇部12で囲まれている空間、さらには、ユニットケース1内部の比較的大きな空気室15をつないでいる。空気室15は、振動板5の背面側に形成されている主要な空気室で、これを後部空気室という。これに対して、上記磁気ギャップの後部の空気室9は小さな空気室で、以下、これを第2空気室という。
【0029】
ユニットケース1の上端にはユニットケース1の外周に沿って突縁部14が形成されるとともに、ユニットケース1の上端部には上記突縁部14よりも内方においてかつ突縁部14よりも低い位置に突起13が突縁部14と同心の円に沿って形成されている。上記突起13の上面には、振動板5の外周縁部が固着されている。振動板5は合成樹脂や金属の薄膜を素材としてなり、この素材を成形することによって、センタードーム51とこのセンタードーム51を囲むサブドーム52を備えている。センタードーム51は球面の一部を切り取った形であるのに対し、サブドーム52は断面が部分円弧形状でセンタードーム51の外周縁に連続して形成され、サブドーム52の外周縁部が上記突起13の上面に固着されている。振動板5は、上記のようにサブドーム52の外周縁部が固定されているため、音波を受けるとその音圧によりサブドーム52の外周縁部を支点として前後方向(
図7において上下方向)に振動することができる。
【0030】
振動板5にはセンタードーム51とサブドーム52の円形の境界線に沿ってボイスコイル6が固着されている。ボイスコイル6は、細い導線を巻き回すことにより円筒形状に形成されかつ固められたもので、円筒形状の一端が振動板5に固着されている。振動板5のサブドーム52の外周縁部が上記のように固着されている状態で、ボイスコイル6が前記磁気ギャップ内に位置し、ボイスコイル6はリングヨーク21からもポールピース4からも離間している。
【0031】
振動板5の正面側には、振動板5の保護部材を兼ねたイコライザー8が、その外周縁部をユニットケース1の突縁部14に固着することによって配置されている。イコライザー8の中心部の天井面はドーム状に形成され、振動板5のセンタードーム51との間に一定間隔の隙間が保たれている。イコライザー8は外部からの音波を振動板5に導くための複数の孔82を有している。
【0032】
振動板5は、音波を受けるとその音圧の変化にしたがって前後に振動し、振動板5の振動とともにボイスコイル6も前後に振動する。ボイスコイル6は、前後に振動することによって前記磁気ギャップを通っている磁束を横切り、音圧の変化に対応した音声信号を発電する。このようにして電気音響変換が行われ、例えば、サブドーム52の背面に沿って引き回されているボイスコイル6の両端から音声信号が外部に出力される。
【0033】
本実施例の大きな特徴は、前記第2空気室9に、弾性力を有する薄板状の音響抵抗体50が、第2空気室9の容積を制限しかつボイスコイル6がその最大変位内で接することができる位置に張力を付与して配置されていることである。第2空気室9は、磁石3の外周面とヨーク2の周壁内周面との間に、円筒形状のボイスコイル6と同心の円形に形成されていて、この円形の第2空気室9にリング状の音響抵抗保持体40が配置されている。
【0034】
上記音響抵抗保持体40の構造を
図3、
図4に示す。
図3、
図4において、リング状の音響抵抗保持体40には、その上下面に、同心円に沿って所定の幅の溝42が形成され、この溝42の両側、すなわち溝42を挟んで内周側と外周側に円形の平面43,44が形成されている。音響抵抗保持体40は上下反転しても差し支えがないように対称形に形成されている。上記溝42内には、音響抵抗保持体40を上下方向(厚さ方向)に貫通する複数の孔41が周方向に等間隔に形成されている。音響抵抗保持体40の上下方向の片面、図示の例では上面に音響抵抗体50が固着され、音響抵抗体50は上記溝42を上側から覆っている。したがって、音響抵抗体50は上記孔41を上側から覆っていることにもなる。
【0035】
図5、
図6は音響抵抗保持体40に対する音響抵抗体50の固着方法の例を示す。
図5は音響抵抗保持体40の上面に音響抵抗体50が固着された状態を示しているが、
図5の状態に至る前に、以下のような工程を経る。まず、音響抵抗体50の薄板状素材を平坦な定盤の上に適度の張力を与えた状態でその周縁部を接着テープなどで接着しておく。音響抵抗体50の素材は、適度の張力を付与した状態で外力を加えると撓むことができ、かつ、適度の音響抵抗を持っている素材を用いる。このような素材の一つとして、例えば、ナイロンメッシュがある。次に、上記音響抵抗保持体40の片面側における内周面側平面43と外周側平面44に接着剤を塗布し、上記のようにして張力を与えられた状態の音響抵抗体50の素材に、音響抵抗保持体40の接着剤塗布面を押し付け、この状態を保って接着剤を硬化させる。
【0036】
図5は、接着剤が硬化して音響抵抗保持体40と音響抵抗体50の素材が固着した後、音響抵抗保持体40を上下反転させた状態を示している。次に、
図5に矢印で示すように、音響抵抗保持体40の内周および外周に沿って音響抵抗体50の素材を切り落とす。こうして、
図6に示すように、音響抵抗保持体40と音響抵抗体50の組立体が完成する。
【0037】
上記音響抵抗保持体40と音響抵抗体50組み立体は、
図1、
図2に示すように前記第2空気室9に落とし込まれ、音響抵抗保持体40の底面をヨーク2の内側の底面に当接させて固定される。このような組立態様において、音響抵抗保持体40は、ボイスコイル6との対向面側で音響抵抗体50を保持しており、音響抵抗保持体40と音響抵抗体50によって、第2空気室9を、ボイスコイル6との対向面側の極小さい容積に制限している。また、ボイスコイル6の下端が音響抵抗保持体40の溝42に対向しており、溝42を上面側から覆っている音響抵抗体50は、ボイスコイル6がその最大変位内で接することができる位置に配置されている。換言すれば、ボイスコイル6が音響抵抗体50に向かって大きく変位すると、
図2に示すように、ボイスコイル6の下端が音響抵抗体50に接するとともに、音響抵抗体50を下方に向かって撓ませるようになっている。
【0038】
音響抵抗体50は、弾性力を有するとともに、適宜の張力が与えられて音響抵抗保持体40の溝42の上方で保持されているため、ボイスコイル6の下端が音響抵抗体50から離間すると、
図1に示すように平板状に復帰する。よって、音響抵抗体50は、ボイスコイル6の下端が当接したとき、ボイスコイル6の当接エネルギーを吸収するダンパーのような働きをし、ボイスコイル6の当接による衝撃力を吸収し、衝撃音の発生を無くしあるいは衝撃音を軽減する。
【0039】
音響抵抗保持体40は、前記後部空気室15と第2空気室9を連通させる孔41に直接的に音響抵抗体50を固着する構造ではなく、孔41の上方に、孔41の径よりも幅の大きい溝42を全周にわたり形成し、この溝42を上から覆うように音響抵抗体50を固着している。したがって、ボイスコイル6が当接することによって音響抵抗体50が撓むことができる面積が、孔41の径に対応した幅の溝の面積よりも拡大され、音響抵抗体50にボイスコイル6が当接したときの衝撃音軽減効果を高めることができる。
【0040】
従来のダイナミックマイクロホンについて述べたように、ボイスコイルの両端線は、振動板5のサブドーム52の背面に沿って固着され、外部に信号を出力するようになっている。したがって、振動板5が大きく変位すると、磁気回路を構成する部材、例えばリングヨーク21の角にボイスコイル6の上記端線が当たり、端線が切断される恐れがあった。しかし、本実施例によれば、ボイスコイル6およびボイスコイル6が固着されている振動板5の
図1、
図2における下方への変位は、上記のように音響抵抗体50によって規制されるため、磁気回路を構成する部材とボイスコイル6の端線との当接を回避し、上記端線の切断を防止できる利点もある。
【0041】
上記実施例によれば、ボイスコイル6の後方の第2空気室9は、薄板状の音響抵抗体50およびこれを保持する音響抵抗保持体40によって容積が制限されているため、磁気ギャップ部の音響質量と第2空気室9の音響容量との共振が生じにくく、良好な周波数特性を得ることできる。
【0042】
以上説明した実施例にかかるダイナミックマイクロホンユニットは、これをマイクロホンケースに組み付けることにより、さらには、マイクロホンケースにマイクロホンユニットの出力信号を外部に出力するためのマイクロホンコネクタを組み付けることにより、ダイナミックマイクロホンが構成される。
【符号の説明】
【0043】
1 ユニットケース
2 ヨーク
3 磁石
4 ポールピース
5 振動板
6 ボイスコイル
8 イコライザー
9 第2空気室
15 後部空気室
21 リングヨーク
40 音響抵抗保持体
41 孔
42 溝
50 音響抵抗体