(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、発明の実施の形態を説明する。
まず始めに、本発明に係る組立治具を用いる対象物たる電池パックについて、
図1および
図2を用いて説明をする。
図1および
図2に示す如く、組立治具を用いて組立作業が行われる対象物である電池パックは、スタックアッシー23、ロアケース24、バスバー25・25等によって構成されている。
【0016】
スタックアッシー23は、複数の単位電池21・21・・・を積層するとともに、その積層方向の両端部において、エンドプレート22・22を配置し、各エンドプレート22・22によって各単位電池21・21・・・を挟圧して積層状態を保持するものである。
また、ロアケース24は、アッパケース(図示せず)とともにスタックアッシー23を収容する電池ケースを構成し、スタックアッシー23を車両等に搭載するに際し、当該車両等に対するスタックアッシー23の締結を容易にする等のために介設される部材であり、スタックアッシー23の下面部に締結されるものである。
さらに、バスバー25・25は、各単位電池21・21・・・を電気的に接続するための導電部材であり、スタックアッシー23の対面する2方の側面に締結されるものである。
【0017】
そして、このような各部材23・24・25・・・等により構成される電池パックの組立作業においては、まずスタックアッシー23とロアケース24を締結するために、ロアケース24側からスタックアッシー23側に向けて図示しないボルトを差し込むとともに、当該ボルトを締め付ける作業が予定されている。この作業により、スタックアッシー23にロアケース24が組み付けられて、電池パックが構成される。
各部材23・24・25が、
図1および
図2に示すような配置状態(スタックアッシー23とロアケース24を締結するためのボルトを下方から上方へ向けて差し込むことになる状態)で固定されている場合には、このような作業は上向きで行うことが強いられるため、作業性が悪い。
【0018】
またさらに、電池パックの組立作業においては、スタックアッシー23の対面する2方の側面にそれぞれバスバー25を締結する作業が予定されている。各部材23・24・25が、
図1および
図2に示すような配置状態で固定されている場合には、このような作業は、スタックアッシー23に対して2方向から行う必要があり、作業者の移動が伴うため、作業性が悪い。
【0019】
本発明の一実施形態に係る治具は、電池パックの組立作業において予定されているスタックアッシー23とロアケース24の締結作業およびスタックアッシー23に対する一対のバスバー25・25の締結作業を容易に行えるようにするものである。
【0020】
次に、本発明の一実施形態に係る組立治具の全体構成について、
図1〜
図5を用いて説明をする。
図1〜
図5に示す如く、本発明の一実施形態に係る組立治具1は、スタックアッシー23、ロアケース24、バスバー25・25等により構成される電池パックの組立作業において使用される治具であり、作業台2、支持アーム3、把持部4、回転機構7等を備えている。
尚、組立治具1を使用する作業者の作業方向は、
図1、
図2および
図4に示す矢印αの方向として、その作業方向において、作業者と対面する側を組立治具1の前面と呼ぶものとする。
【0021】
図1〜
図4に示す如く、作業台2は、電池パックの構成要素たるスタックアッシー23およびロアケース24(「スタックアッシー23」および「ロアケース24」については、以下、適宜「部品23」、「部品24」と記載する)を配置するための略テーブル状の部位であり、該作業台2の上面部2aにおいて、各部品23・24を載置するための一対の配置部2b・2bが上方に向けて突設されている。
【0022】
また、
図5に示す如く、各配置部2b・2bには、該配置部2b・2b上に載置されるロアケース24を位置決めするための、凸状の位置決め部2c・2cが形成されている。
さらに、
図1〜
図5に示す如く、作業台2の上面部2aには、把持部4および回転機構7を支持するための部位である支持アーム3が立設されている。
【0023】
支持アーム3は、第一アーム3aと第二アーム3bを備える構成としており、第一アーム3aが上面部2aに立設され、第二アーム3bが第一アーム3aに対して軸部3cによって回転可能な状態で連結される構成としている。
軸部3cは、組立治具1を前面から見たときに左右の水平方向に向くように支持されている。
【0024】
このような構成により、第二アーム3bは、軸部3c回りに、
図4中に示す矢印Aの方向に往復回動することができ、第二アーム3bが上面部2aに対して水平となる姿勢から第二アーム3bが上面部2aに対して略垂直となる姿勢の範囲で回動できる構成としている。
【0025】
また、第二アーム3bには、接続部12において、バランサー11から巻き出されたワイヤー11aが接続されている。バランサー11は、第一アーム3aの後方に配置されている。
バランサー11から巻き出されたワイヤー11aには、バランサー11の図示しない内部機構によって、ワイヤー11aに作用する操作力に応じた、その操作力を相殺する方向への力が作用する構成としている。
このため、第二アーム3bを回動させると、ワイヤー11aの巻出し長さが変化して、第二アーム3bには、そのとき第二アーム3bに対して加えた操作力を相殺する力がバランサー11によって付与されるため、作業者は、第二アーム3bをほとんど負担を感じることなく回動させることができる。
【0026】
また、第二アーム3bを回動させる動作をやめたとき(即ち、操作力が「0」のとき)には、そのとき第二アーム3bに作用している重力に応じた力がバランサー11から付与されるため、回動操作をやめた位置で第二アーム3bの回動位置(傾斜角度)が保持される。
【0027】
把持部4は、組立治具1における各部品23・24を把持するための部位であり、第二アーム3bによって支持され、フレーム5、クランプ部材6・6、トグルクランプ9等を備えている。
また、把持部4と第二アーム3bの間には、回転機構7が介設されている。
【0028】
回転機構7は、第二アーム3bと固定される部位である基部7aと、該基部7aから突設される軸状の部位である軸部7bと、該軸部7bにより回転可能に支持される部位である回転部7cと、を備える構成としている。
そして、回転部7cは、軸部7bを軸心として、基部7aに対して相対回転可能に構成されている。
【0029】
ここで、把持部4の構成および把持部4による把持動作について、
図6を用いてさらに詳細に説明をする。
図6に示す如く、把持部4は、フレーム5、クランプ部材6・6、爪部8・8・・・、トグルクランプ9・9等を備えている。
【0030】
把持部4は、フレーム5が、回転機構7の回転部7cに対して固定されている。
このような構成により、把持部4は、軸部7bを軸心として、第二アーム3bに対して回転可能に支持される構成としている。
【0031】
フレーム5には、回転部7cに対して固定するための部位である基部5aが形成されており、また、基部5aの両端部には、一対の支持部5b・5bが立設されている。そして、各支持部5b・5bには、一対のトグルクランプ9・9を配設しており、フレーム5の内側に向けて、各トグルクランプ9・9が備える変位軸9a・9aを突設させる構成としている。
そして、各変位軸9a・9aの端部には、クランプ部材6・6を設けている。
【0032】
クランプ部材6は、組立対象たるスタックアッシー23を挟圧して保持するための部位であって、変位軸9aに固定される基部6aと、スタックアッシー23に直接当接する部位であって、弾性を有する部材からなる当接部6bを備えている。
【0033】
把持部4では、トグルクランプ9・9のハンドル9b・9bを回動させると、変位軸9a・9aが、組立治具1における左右の水平方向に変位する構成としている。
そして、変位軸9a・9aが、フレーム5の内側方向に伸びるように変位すると、各クランプ部材6・6の離間距離が小さくなり、各クランプ部材6・6間にその離間距離より大きな幅を有する部材を配置したときには、各クランプ部材6・6の当接部6b・6bが前記部材に圧接して、各クランプ部材6・6によって当該部材を挟圧することができる構成としている。
尚、この変位軸9a・9aがフレーム5の内側方向に伸びるようなハンドル9b・9bの回転方向を拘束方向と呼び、その逆の回転方向を解除方向と呼ぶものとする。
【0034】
さらに、把持部4では、トグルクランプ9・9を所定の回転角度で拘束位置まで回動させると、変位軸9a・9aの変位状態が保持されるため、各クランプ部材6・6により部材を挟圧した状態を保持することができる。
また把持部4では、トグルクランプ9・9を所定の解除方向に回動させたときには、クランプ部材6・6の離間距離を、当該部材の幅以上の距離とすることができ、各クランプ部材6・6による部材の挟圧状態を解除することができる。
【0035】
そして、把持部4では、トグルクランプ9・9を所定の解除方向に回動させたときには、クランプ部材6・6の離間距離を、スタックアッシー23の積層方向における幅以上の距離とすることができ、また、トグルクランプ9・9を所定の拘束方向に回動させたときには、スタックアッシー23の積層方向における幅より小さい距離となるように設定している。
これにより、把持部4によって、スタックアッシー23を確実に把持することができる構成としている。
【0036】
把持部4に備えられた各爪部8・8・・・は、スタックアッシー23に対して位置決めされたロアケース24を、位置決めされた状態に保持するための部位である。
爪部8は、その一端部8aが、フレーム5からクランプ部材6の変位方向に対して直交する向き(前後の水平方向)に突設されたピン5cにより回転可能な状態で支持されており、また、爪部8の長さ方向における中途部に形成された長孔8bには、クランプ部材6からピン5cに対して平行に突設されたピン6cが挿通されている。
【0037】
このため、爪部8は、クランプ部材6が往復変位すると、それに従って、ピン5cによる支持位置を支点として、往復回動するように構成されている。
このとき、爪部8の他端部に形成された爪先部8cは、ロアケース24をスタックアッシー23側に押圧する方向に変位するように、長孔8bの形成位置や爪先部8cの形成角度等を調整している。
【0038】
これにより、爪先部8cで、スタックアッシー23の下方に配置されたロアケース24をその下方において支持する構成としており、ロアケース24は、爪部8・8・・・により支持されることによって、スタックアッシー23に対して位置決めされた状態を保持することができる。
【0039】
そして、把持部4では、各トグルクランプ9・9を拘束方向に回動させる操作に伴って、各爪部8・8・・・の爪先部8c・8c・・・を略上下方向に変位させる構成としており、トグルクランプ9・9の操作のみで、スタックアッシー23を把持する動作と、ロアケース24の位置決め状態を保持する動作を実現する構成としている。
【0040】
ここで、回転機構7の動作について、
図7を用いて説明をする。
図7に示す如く、回転機構7は、基部7a、軸部7b、回転部7c等を備えている。
また、回転機構7には、該回転機構7の回転を規制するための部位であるトグルクランプ10が付設されている。
【0041】
回転部7cの外周部には、軸部7bの軸心回りに180度位相が異なる位置において、2箇所の切欠き部7d・7dが形成されている。
そして、トグルクランプ10の変位軸10aが切欠き部7dに挿入されている状態では、回転部7cが軸部7b回りの回転することが規制される構成としている。
【0042】
組立治具1では、回転機構7において、切欠き部7d・7dが、180度位相が異なる位置に形成されているため、把持部4を180度反転させた2通りの姿勢を取ることができるとともに、その2通りの姿勢を保持することができる構成としている。
【0043】
本発明の一実施形態に係る組立治具1を用いた一連の組立作業の流れについて、
図8〜
図12を用いて説明をする。
図8に示す如く、まず始めに、第二アーム3bを矢印Bの方向(上方)に向けて回動させておき、作業台2上の配置部2b・2bにロアケース24およびスタックアッシー23を配置することができる状態とする。
【0044】
そして、まず配置部2b・2b上にロアケース24を配置する(
図5参照)。
このとき、ロアケース24に形成されているボルト孔24a・24aに、各配置部2b・2bに形成されている凸状の位置決め部2c・2cを挿通させることによって、上面部2a上(各配置部2b・2b)の所定位置にロアケース24を位置決めする。
【0045】
そして次に、ロアケース24上の所定位置にスタックアッシー23を配置する(
図5参照)。
このようにして、組立治具1における所定位置にロアケース24およびスタックアッシー23を配置する構成としている。
【0046】
図9に示す如く、組立治具1における所定位置にロアケース24およびスタックアッシー23が配置されると、次に、第二アーム3bが前後の水平方向に向く角度まで矢印Cの方向(下方)に回動させて、配置部2b・2b上のロアケース24およびスタックアッシー23を、把持部4によって把持できる状態としておく。
【0047】
そして、まずトグルクランプ9・9の各ハンドル9b・9bを拘束方向に回動させて、各クランプ部材6・6により、スタックアッシー23を挟持する。
またこのとき同時に、トグルクランプ9・9の各ハンドル9b・9bを拘束方向に回動させることによって、各爪部8・8・・・の爪先部8c・8c・・・により、ロアケース24を下方から支持して、該ロアケース24がスタックアッシー23に対して位置決めされた状態を保持する。
【0048】
このように本発明の一実施形態に係る組立治具1では、トグルクランプ9・9の各ハンドル9b・9bを拘束方向に回動させる一つの動作で、スタックアッシー23の挟持と、ロアケース24の位置決め状態の保持という二つの作用を得ることができ、効率よく組立作業を行うことができるように構成している。
【0049】
即ち、本発明の一実施形態に係る組立治具1において、把持部4は、クランプ部材6・6によるスタックアッシー23を保持するための操作(即ち、トグルクランプ9・9のハンドル9b・9bを拘束方向に回動する操作)に従って、各爪部8・8・・・の爪先部8c・8c・・・が、電池ケースを構成するロアケース24を係止するものである。
このような構成により、電池パックの組立作業をより効率よく行うことができる。
【0050】
図10に示す如く、把持部4によってロアケース24およびスタックアッシー23が把持されると、次に、ロアケース24をスタックアッシー23に対して締結する作業を行うために、第二アーム3bを矢印Dの方向(上方)に回動させる。
【0051】
このとき、第二アーム3bは、水平方向に対して角度θ1の傾きを有する角度に保持される。また、このときの第二アーム3bを回動させる動作は、バランサー11の作用により、作業者が小さな操作力を負担するだけで行うことができる。さらに、このときの第二アーム3bの傾斜角度(回動位置)は、バランサー11の作用により保持される。
角度θ1としては、約75度程度とするのが好適であるが、作業者の体格等に応じて、作業者が作業しやすい角度を自由に選択することができる。また、ロアケース24をスタックアッシー23に対して締結する作業を行うときに、第二アーム3bの角度θ1を所定の角度で固定しておくためのストッパー等(図示せず)を別途備える構成としても良い。
【0052】
そして作業者は、目前にボルトを締結すべき部位が配置されているため、無理の無い姿勢で作業性よくロアケース24をスタックアッシー23に対して締結する作業を行うことができる。
【0053】
図11に示す如く、ロアケース24をスタックアッシー23に対して締結する作業が完了すると、次に、スタックアッシー23に対してバスバー25・25を締結する作業を行うべく、第二アーム3bを矢印Eの方向(下方)に回動させる。
【0054】
このとき、第二アーム3bは、水平方向に対して角度θ2の傾きを有する角度に保持される。また、このときの第二アーム3bを回動させる動作も、バランサー11の作用により、作業者が小さな操作力を負担するだけで行うことができる。またさらに、このときの第二アーム3bの傾斜角度(回動位置)も、バランサー11の作用により保持される。
角度θ2としては、約15度程度とするのが好適であるが、ここでも作業者の体格等に応じて、作業者が作業しやすい角度を自由に選択することができる。また、バスバー25をスタックアッシー23に対して締結する作業を行うときに、第二アーム3bの角度θ2を所定の角度で固定しておくためのストッパー等(図示せず)を別途備える構成としても良い。
【0055】
そして作業者は、目前にバスバー25を締結すべき第一の部位(矢印Xで指し示す側の部位)が配置されており、無理の無い姿勢で作業性よく第一の部位に対してバスバー25を締結する作業を行うことができる。
【0056】
さらに
図12に示す如く、次に、バスバー25を締結すべき第二の部位(矢印Yで指し示す側の部位)に対してバスバー25を締結する作業を行うべく、第3のトグルクランプ10のハンドル10bを解除方向に回動させて、変位軸10aによる回転部7cの係止を解除する。これにより、回転機構7における回転部7cが角度θ2で傾斜した面上を回転可能な状態とする。
【0057】
そして、回転機構7により把持部4を180度回転させて、バスバー25を締結すべき第二の部位(矢印Yで指し示す側の部位)が、作業者に対面する位置となる姿勢にスタックアッシー23およびロアケース24を配置する。
そして、作業者は、目前にバスバー25を締結すべき第二の部位(矢印Yで指し示す側の部位)が配置された状態で、無理の無い姿勢で作業性よく第二の部位に対してバスバー25を締結する作業を行うことができる。
【0058】
即ち、本発明の一実施形態に係る組立治具1は、さらにバランサー11を備え、バランサー11によって、支持アーム3に対して、該支持アーム3の傾斜角度を変更するために付与した操作力に対応する、該操作力とは逆向きの応力を付与するものである。
このような構成により、電池パックの組立作業における作業者の負担を軽減し、作業性を改善することができる。
【0059】
尚、組立治具1は、組立治具1を使用する作業者が、組立治具1の周囲を動き回らなくても全ての作業を行える構成としている。
このように、組立治具1を用いて組立作業を行う場合、作業者の作業方向は、常に
図1、
図2および
図4に示す矢印αの方向となっており、組立治具1の回りを動き回らなくても、スタックアッシー23における2方向の各側面にバスバー25・25を締結することができるため、効率よく電池パックの組立作業を行うことができる。
【0060】
即ち、本発明の一実施形態に係る組立治具1は、スタックアッシー23を挟圧して保持するクランプ部材6・6と、スタックアッシー23に対して位置決めした電池ケースを構成するロアケース24を係止する係止部たる爪部8・8・・・と、を備える把持部4と、把持部4を支持する、該把持部4の基準面(本実施形態では水平面(上面部2a))に対する傾斜角度を変更可能な支持アーム3と、把持部4を前記傾斜角度で傾斜された面上で回転可能に支持する回転機構7と、を備えるものである。
このような構成により、電池パックの組立作業を、簡易な治具によって、効率よく行うことができる。