(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5650114
(24)【登録日】2014年11月21日
(45)【発行日】2015年1月7日
(54)【発明の名称】有機エレクトロニクス素子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 51/50 20060101AFI20141211BHJP
C09K 11/06 20060101ALI20141211BHJP
【FI】
H05B33/22 A
C09K11/06 690
H05B33/14 A
【請求項の数】9
【全頁数】32
(21)【出願番号】特願2011-528186(P2011-528186)
(86)(22)【出願日】2009年9月25日
(65)【公表番号】特表2012-503867(P2012-503867A)
(43)【公表日】2012年2月9日
(86)【国際出願番号】DE2009001359
(87)【国際公開番号】WO2010034304
(87)【国際公開日】20100401
【審査請求日】2012年6月25日
(31)【優先権主張番号】102008049286.8
(32)【優先日】2008年9月26日
(33)【優先権主張国】DE
(31)【優先権主張番号】102008056391.9
(32)【優先日】2008年11月7日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】599133716
【氏名又は名称】オスラム オプト セミコンダクターズ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Osram Opto Semiconductors GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(74)【代理人】
【識別番号】100061815
【弁理士】
【氏名又は名称】矢野 敏雄
(74)【代理人】
【識別番号】100112793
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 佳大
(74)【代理人】
【識別番号】100128679
【弁理士】
【氏名又は名称】星 公弘
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100156812
【弁理士】
【氏名又は名称】篠 良一
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(72)【発明者】
【氏名】ギュンター シュミート
(72)【発明者】
【氏名】ラルフ クラウゼ
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス カーニツ
(72)【発明者】
【氏名】ユルゲン アードラー
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン ザイデル
(72)【発明者】
【氏名】アーヴィト フンツェ
【審査官】
大竹 秀紀
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−100479(JP,A)
【文献】
特開2005−072012(JP,A)
【文献】
特開2007−027587(JP,A)
【文献】
特表2007−526640(JP,A)
【文献】
特開2005−056757(JP,A)
【文献】
国際公開第2007/054345(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 51/50
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
− 基板(1)と、
− 第1の電極(2)と、
− 第2の電極(4)と、
− 前記電極の少なくとも一方と電気伝導性に接続されるように配置されている電子伝導性層(3)とを有し、
前記電子伝導性層(3)は、金属中心原子を有する金属錯体と有機化合物との一緒の蒸着によって得られ、
前記有機化合物は次のもの:
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
から選択される、
有機エレクトロニクス素子。
【請求項2】
前記金属錯体は1つより多い金属中心原子を有する、請求項1記載の有機エレクトロニクス素子。
【請求項3】
前記金属中心原子又は複数の金属中心原子は、Cr、Mo又はWから選択される、請求項1または2記載の有機エレクトロニクス素子。
【請求項4】
前記有機化合物の少なくとも一部が2つの金属錯体を相互に架橋して、前記金属錯体の鎖状の構造が形成され、及び/又は、前記有機化合物の少なくとも一部が2つより多くの金属錯体を相互に架橋して、前記金属錯体の網状の構造が形成される、請求項1から3までのいずれか1項記載の有機エレクトロニクス素子。
【請求項5】
更に有機発光層(5)を有する有機LED(OLED)として構成された、請求項1から4までのいずれか1項記載の有機エレクトロニクス素子。
【請求項6】
有機エレクトロニクス素子の製造方法において、次の方法工程
A) 基板(1)を準備する工程、
B) 第1の電極(2)を設ける工程、
C) 前記基板(1)上に電子伝導性層(3)を析出させる工程、
D) 第2の電極(4)を設ける工程を有し、
前記電子伝導性層(3)の析出は金属錯体と有機化合物との同時蒸着により行い、
前記同時蒸着の際に前記有機化合物を気相中で前記金属錯体に配位させ、
前記有機化合物は次のもの:
【化9】
【化10】
【化11】
【化12】
【化13】
【化14】
【化15】
から選択される、
有機エレクトロニクス素子の製造方法。
【請求項7】
前記電子伝導性層(3)は、鎖状の構造又は網状の構造として析出される、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記電子伝導性層(3)の架橋の程度を、蒸着時の金属錯体と有機化合物との比率により制御する、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記有機化合物を前記蒸着の前に金属錯体と配位させない、請求項6から8までのいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、ドイツ国特許出願第102008049286.8号および同第102008056391.9号の優先権を主張するものであり、その開示内容は関連づけにより本願に含まれるものとする。
【0002】
請求項1による有機エレクトロニクス素子が記載されている。
【0003】
有機エレクトロニクス素子における更に拡張された問題は、極めて高い電子伝導性を有する層を提供することである。この素子中の電子伝導性は、この素子の効率及び寿命にとってしばしば重大な値である。有機LED(OLED)の場合に、電子とホールとの再結合により励起子が形成され、この励起子が放射線を発する物質を励起することができる。このような素子の場合、このルミネッセンスも励起子密度に直接依存し、かつこのルミネッセンスはまた電子とホールとの再結合に依存する。多くの素子において電子輸送のために純粋に結晶質の層が使用される。この純粋に結晶質の層は、多様な導電率の範囲を有することが欠点である。これは電荷キャリアが常に最小の抵抗の経路を選択する結果を生じる。従って、この層中で不均一な電子の流れが生じる。明らかに高められた電子の流れを生じる箇所では、この層中での過熱が生じ、従って損傷が生じる。
【0004】
エレクトロルミネッセンス素子の場合には、この不均一な電子の流れは更に不均質な放射を生じさせる。高い電子の流れが生じかつより多くの励起子が形成される領域内で、この素子はより多くの放射線を発し、従って、低い電子の流れが存在する領域内よりもより明るくなる。
【0005】
本発明の実施態様の課題は、有機エレクトロニクス素子中に、高い電子伝導性を有する電子伝導性層を提供することである。
【0006】
前記課題は、請求項1記載の有機エレクトロニクス素子によって解決される。他の実施態様並びにこの有機エレクトロニクス素子の製造方法は、他の特許請求項の主題である。
【0007】
この有機エレクトロニクス素子の実施態様は、基板、第1の電極、第2の電極及び前記電極の少なくとも一方と電気伝導性に接続されているように配置されている電子伝導性層を有し、その際、この電子伝導性層は有機化合物と金属錯体との一緒の蒸着によって得られる。
【0008】
有機化合物と金属錯体との一緒の蒸着によって、この両方の化合物は気相中で又は基板表面上で相互に出会う際に相互作用する。この相互作用は、これらの化合物の相互の配位を生じさせる。これらの化合物は、配位された状態で析出されるため、近距離秩序が存在する1つの層が形成される。この近距離秩序とは、この全体の層自体は結晶性ではないが、この金属錯体の周囲でこの直近の周辺環境においてこの有機化合物が所定のパターンに従って配置されていて、このパターンは選択された金属錯体及び有機化合物に依存すると解釈される。この全体の層自体は、しかしながら非晶質であり、従って長距離秩序は示さない。この有機化合物の金属錯体への配位、及びこの配位と関連するこの軌道の重なりによって、金属錯体−配位子−電子移動により付加的な電子が金属から配位子へ移動することができる(Metall-Ligand-Charge-Transfer−錯体)。この電子は、有機エレクトロニクス素子中で電子移動のために使用することができる。この「自由」電子を高めることにより、この素子中での電子伝導性は明らかに改善される。これにより、有機エレクトロニクス素子の効率及び寿命は高められる。
【0009】
この有機エレクトロニクス素子の実施態様の場合に、この有機化合物は金属原子に配位される。
【0010】
この有機化合物の中心原子への配位は、他の原子を介して直接行うか又は芳香族系を介して行うこともできる。この有機化合物の配位の際又は配位後に、有利に金属錯体の予め存在する配位子は脱離されることはなく、つまり配位子交換は行われない。この金属錯体は、つまり、他の付加的な配位子を取り込むことができ、従って、中心原子には空いた配位位置を有し、この空いた配位位置を他の配位子により埋めることができる。
【0011】
この関係で、F. A. Cottonの文献が指摘される(F. A. Cotton et al.著, Organometallics, 1999, 18, 2724-2726)。このCottonの刊行物中には、芳香族のような、この場合6箇所メチル化されたベンゼン環はロジウム錯体に配位することが指摘されている。この芳香族系の配位により鎖形成を生じさせることができ、この場合に2つの金属錯体が1つの有機化合物により橋かけされることが記載されている。この芳香族は、この場合、結合する隣り合う金属錯体の間で垂直又はほぼ垂直に位置している。
【0012】
有機エレクトロニクス素子の他の実施態様の場合には、この金属錯体は1つより多い中心原子を有する。
【0013】
1つより多い中心原子の存在は、複数の有機化合物が同時にこの金属錯体に配位する可能性を改善する。有利に、この金属錯体は2つの金属中心原子を有する。この場合、両方の中心原子のそれぞれは、立体障害を引き起こすことなく1つの配位位置を有する。この金属錯体の両方の中心原子は、この場合、互いに相互作用するか又は相互作用しなくてもよい。2つの中心原子を有する金属錯体は、鎖の形成のために特に良好に適している。この関連で、またもや、Cottonの刊行物Organometallicsが指摘される。これには、2つのロジウム中心原子を有する金属錯体の鎖形成が考察されている。金属錯体と、2つの隣接する錯体を架橋する芳香族との鎖状の連続が示されている。この場合、この芳香族はこの金属錯体の間で垂直に位置し、Rh−Rh軸はこの芳香族に対して垂直である。本発明による実施態様のために、2つの中心原子を有し、この中心原子軸の延長線上にまだ配位子を有していない金属錯体が有利であるため、この中心原子はなお2つの空いた有利に向かい合う配位位置を有する。このことは例えばロジウム錯体についてCottonの刊行物中に挙げられている。このような金属錯体について、立体的な理由から、特に簡単に、中心原子軸の延長線上で、両方の向かい合う側に付加的な配位子を付加することができる。
【0014】
この有機エレクトロニクス素子の実施態様は、Cr、Mo又はWから選択される1つの中心原子又は複数の中心原子である。
【0015】
この場合、Wが有利な金属中心原子である。この金属錯体中の全ての中心原子がWである場合が特に有利である。元素Cr、Mo及びWは、2つの理由から特に有利であることが判明した。一方でこれらの元素は付加的な配位子と配位結合する可能性を提供し、他方でその金属錯体はリガンドの適切な選択で極めて低いイオン化エンタルピーを有する。これは「自由」電子を供給しやすい準備及び可能性を提供することを意味する。これらの電子は、例えば付加的に結合する配位子に移動することができる。この配位及びこれと関連する金属錯体−配位子−電子移動(Charge-transfer-complex)によって、この電子伝導性層は付加的な電子を電荷輸送のために提供することができる。これらの電子によって有機エレクトロニクス素子中の電荷輸送を高めることができ、このことはこの素子の効率を高める。これとの関連で、F.A. Cottonの刊行物(F. A. Cotton et al.著, Science, Vol. 298, 2002, p. 1971-1974)が指摘される。このCottonの刊行物中には、次の図中に図示されているようなW
2(TBD−A)
4錯体が考察されている:
【化1】
【0016】
Cottonは上記刊行物中で、この錯体は、その電子配置が完結し、つまり満たされた電子殻を有する化合物に属しているが、それにもかかわらず極端に低いイオン化ポテンシャルを提供することを明らかにしている。Cottonは、更に、この中心原子がこの錯体中で極めて高い酸化状態をとることができることを明らかにしている。従って、この2つのW中心原子から多くの電子を引き渡すことができる。
【0017】
Cottonの他の刊行物(F.A. Cotton et al.著, Inorganic Chemistry Communications, Vol. 6, 2003, p. 121- 126)では、CottonによりW
2(TBD−A)
4錯体用の合成経路が示されている。
【0018】
この有機エレクトロニクス素子の他の実施態様の場合に、有機化合物はヘテロ芳香族を有する。
【0019】
有利に、この有機化合物は1つより多いヘテロ芳香族を有する。これは、この有機化合物が複数の金属錯体に同時に配位することを可能にしている。このヘテロ芳香族は芳香族と比べて、これが、上記に引用されているCottonの刊行物Organometallics中に記載されているように、この芳香族系を介して金属錯体に配位できるだけでなく、更にこの配位はヘテロ原子を介して直接行うこともできるという利点を有する。有機化合物中のヘテロ芳香族の数が多ければそれだけ、金属錯体用の可能な配位位置の数は多くなる。この場合、Nは有利なヘテロ原子である。Nは、大抵はその自由電子対に基づいて、金属錯体に対して極めて良好な配位能力を有する。
【0020】
有機エレクトロニクス素子の他の実施態様の場合に、この有機化合物は、C−C結合を介して芳香族と共役しているヘテロ芳香族を有する。
【0021】
C−C結合とは、炭素−炭素単結合であると解釈され、このヘテロ芳香族及び芳香族は縮合されていない。ヘテロ芳香族が他の芳香族とC−C単結合を介して結合しているこの種の系は、縮合した系と比べて、立体的にそれほど要求が高くなくかつ嵩張らず、それにより比較的容易に1つの金属錯体に配位できるか、又は比較的良好に複数の金属錯体と同時に配位できるという利点を有する。このヘテロ芳香族中のヘテロ原子は、N、O又はSであるのが有利であり、その際、Nが特に有利である。
【0022】
この有機エレクトロニクス素子の他の実施態様の場合に、この有機化合物は縮合した系を構成しないヘテロ芳香族だけを有する。このヘテロ芳香族は、つまり他のヘテロ芳香族系又は芳香族系と縮合されていない。この場合でも、縮合した系と比べて、縮合していない系のこの立体的な利点が生じる。このヘテロ芳香族中のヘテロ原子は、N、O又はSであるのが有利であり、その際、Nが特に有利である。
【0023】
この有機エレクトロニクス素子の他の実施態様の場合に、この有機化合物は1つ又は2つのヘテロ原子を有するヘテロ原子だけを有する。ヘテロ芳香族とは、全体として縮合した系であると解釈される。このヘテロ芳香族中の1つのヘテロ原子又は複数のヘテロ原子は、N、O又はSであるのが有利であり、その際、Nが特に有利である。
【0024】
この有機エレクトロニクス素子の他の実施態様の場合に、この有機化合物は、6つの原子からなる環を形成するヘテロ芳香族だけを有する。このヘテロ芳香族を介して、他のヘテロ芳香族又は芳香族との共役において、付加的な電荷を収容することができる非局在化π電子系を構成できることが最良である。このヘテロ芳香族中のヘテロ原子は、N、O又はSであるのが有利であり、その際、Nが特に有利である。
【0025】
この有機エレクトロニクス素子の他の実施態様の場合には、この有機化合物は次の一般式を有する:
【化2】
前記式中、
− 環原子A〜Fは相互に無関係にCを表すか又は1つもしくは2つの環原子はNであることができ、
− nは2〜8であり、この場合、この末端の自由原子価はそれぞれ相互に無関係に、H、メチル、フェニル、2−ピリジル、3−ピリジル又は4−ピリジルにより飽和されていてもよく、
− R
1〜R
4は、それぞれ相互に無関係に、H、メチル、フェニル、2−ピリジル、3−ピリジル又は4−ピリジルである及び/又はR
1及びR
2又はR
3及びR
4は、相互にブタジエン又はアザブタジエン単位により結合されていてもよいため、6員環を形成し、並びにn番目の環とn+1番目の環との間でエチレン単位又はアゾメチン単位により結合されていて、その際、フェナントレン単位又はアザフェナントレン単位が形成される。
【0026】
この一般式を有する化合物は金属錯体に配位することができる。更に、この一般式の化合物は、スイッチオフされた状態での有機エレクトロニクス素子の色感覚を調節するために適している。
【0027】
金属錯体及び有機化合物の適切な選択により、スイッチオフされたエレクトロニクス作動状態で少なくとも所望の外観のための予め決定された色感覚を保証することができる。これは、電子伝導性層の中での電荷移動錯体の構成によっても可能である。この場合、金属錯体と有機化合物とは、吸収帯が有利に可視波長領域にある電子−供与体−受容体錯体を形成する。この電荷移動錯体の吸収帯は、この場合、それぞれ相対的にそのHOMO及びLUMOのそれぞれのエネルギー状態に依存する。この電荷移動錯体は、従って、予め決定された色感覚を可能にする。
【0028】
これらの化合物は付加的に良好な電荷輸送特性を有し、これは環系中の窒素原子の数によって制御することができる。
【0029】
共縮合により形成された錯体の吸収帯は、スイッチオフされた状態でのこの素子の生じる色感覚に適切に影響を及ぼす。このオリゴ−ピリジル−及び/又は−ピリミジル−アレーンは、その配置において自由に入れ替え可能であり、その周囲にまたフェニル、ピリジル及びピリミジル並びに水素及びメチルを置換基として有することができる。オリゴとは、n=2〜8の値の範囲であると解釈される。
【0030】
この有機エレクトロニクス素子の他の実施態様の場合に、この有機化合物は次のものから選択される:
【化3】
【化4】
【化5】
【0031】
構造I〜XIIIにおいて示された化合物は、この電子伝導性層用の有機化合物として特に良好に適している。これらの化合物のそれぞれは、芳香族も、窒素ヘテロ環も有している。これらの化合物のそれぞれは、従って金属錯体のための複数の配位位置を有する。これらの化合物I〜XIIIは、二次元の鎖の形成を可能にするだけでなく、その多数の配位位置により三次元のネットワークの形成を可能にする。この場合、有機化合物は、2つより多くの金属錯体に配位する。更に、これらの化合物は、相互に電子共役している例えば複数の縮合した芳香族又は芳香族のような大きな非局在化した電子系を提供する。この非局在化した電子系は、極めて良好に他の負電荷を収容及び輸送する化合物を可能にする、それというのも、この付加的な電荷はこの分子中の他の原子に簡単に分配することができるためである。従って、この配位した金属錯体は良好に負電荷をこの金属錯体に配位した有機化合物に移動することができる。更に、この有機化合物I〜XIIIの電子は、この有機化合物自体の中でも良好に伝達することができる。これは、同様に、電子伝導性層中の良好な電子伝導性のために重要である。
【0032】
この有機エレクトロニクス素子の他の実施態様の場合に、この有機化合物は次のものから選択される:
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
構造I、II、XIV〜XXIIIにおいて示された化合物は、この電子伝導性層用の有機化合物として特に良好に適している。これらの化合物のそれぞれは窒素ヘテロ環、並びに更に他の窒素ヘテロ環又はC原子から構成されているホモ芳香族を有する。これらの化合物のそれぞれは、従って金属錯体のための複数の配位位置を有する。これらの化合物I、II、XIV〜XXIIIは、二次元の鎖の形成を可能にするだけでなく、その多数の配位位置により三次元のネットワークの形成も可能にする。この場合、有機化合物は、2つより多くの金属錯体に配位する。更に、これらの化合物は、相互に電子共役している例えば複数の縮合した芳香族又は芳香族のような大きな非局在化した電子系を提供する。この非局在化した電子系は、極めて良好に他の負電荷を収容及び輸送する化合物を可能にする、それというのも、この付加的な電荷はこの分子中の他の原子に簡単に分配することができるためである。従って、この配位した金属錯体は良好に負電荷をこの金属錯体に配位した有機化合物に移動することができる。更に、この有機化合物I、II、XIV〜XXIIIの電子は、この有機化合物自体の中でも良好に伝達することができる。これは、同様に、電子伝導性層中の良好な電子伝導性のために重要である。
【0033】
有機エレクトロニクス素子の実施態様の場合に、この有機化合物の少なくとも一部が2つの金属錯体を相互に架橋するため、鎖状の構造を形成する及び/又はこの有機化合物の少なくとも一部が2より多くの金属錯体を相互に架橋するため、網状の構造を形成する。
【0034】
金属錯体、例えば二核金属錯体の適切な選択により、及び有機化合物、例えば化合物I〜XXIIIの適切な選択により、金属錯体と有機化合物との一緒の蒸着により気相中で又は析出する表面上で相互作用を生じさせて、前記の化合物同士を配位させる。この配位は、電子伝導性層の形成の場合でも維持される。この配位は、二次元の鎖又は三次元の網を形成することができる。この鎖又は網は、それ自体、蒸着プロセスにおいて析出され、それ自体、有機エレクトロニクス素子中の電子伝導性層中に存在する。鎖状又は網状の構造の形成は、金属錯体から付加的な電子を有機化合物へと移動させることができ、この付加的な電子は次いで電荷輸送のために電子伝導性層中で提供される。これとの関連で、F.A. Cottonの刊行物(F. A. Cotton et al.著, Inorganic Chemistry, Vol. 41, No. 11, 2002, p. 2903-2908)が指摘される。この刊行物中には、特に、2つのロジウム中心原子及び有機ケイ素化合物を有する金属錯体について指摘されていて、例えば複数の金属錯体の1つの有機化合物への多重配位によって鎖状の構造を形成することができる。Cottonの刊行物中の他の例において、トリピリジン−メタノール(HO−C−(C
5H
4N)
3)の例について、このピリジンが同時に窒素ヘテロ原子を介して及び芳香族系を介して2つの金属錯体に配位できることが示されている。この分子の両方の他のピリジン置換基は同様に他の金属錯体に配位することができる。この例は、有機化合物の適切な選択により、同時に複数の金属錯体に配位することが可能であることを明らかに示している。金属錯体の相応する選択によって、1つより多くの有機化合物がこの金属錯体に配位することができ、それにより、電子伝導性層中で鎖状の構造及び/又は網状の構造を生じさせる。
【0035】
この有機エレクトロニクス素子の実施態様の場合に、この電子伝導性層は非晶質でありかつ微結晶質〜ナノ結晶質の近距離構造(Nahstruktur)を有する。
【0036】
例えば電子伝導性層のために使用される有機化合物を蒸着によって析出させる場合、この有機化合物の結晶化を生じさせることができる。純粋に結晶性の電子伝導性層は不利であることが明らかである、それというのもこの層は多様な導電性の範囲を有するためである。従って、電圧の印加によりこの層内で多様な電流密度が生じる。極めて高い電流密度を有する領域では過熱が生じ、電子伝導性層が損傷しかねない。発光素子の場合には、この多様な導電性が更に不均質な放射を生じさせる。この問題は、巨視的〜微視的(nanoskopisch)に非晶質の電子伝導性層により低減される。このような層は、有機化合物と金属錯体との一緒の蒸着によって得られ、その際、有機化合物は金属錯体に配位し、それにより結晶化が妨げられる。しかしながら、この金属錯体により、巨視的〜微視的(nanoskopisch)に非晶質の構造は、いまだに良好な電子伝導性特性を有することを保証しなければならない。このことは、付加的な化合物が付加的電荷キャリアを提供することにより行うことができる。金属錯体と配位し、従って微晶質構造を形成する有機化合物は、中心原子から提供される付加的電荷キャリアを収容することができる。従って、結晶質層と比べて低減された電荷キャリアの移動度は、電荷キャリアの数を高めることによって補償される。このような層を有する有機エレクトロニクス素子、例えばOLEDは、均質に発光する。巨大結晶質層を有するOLED装置の粒界では導電性が変化するため、不均一な光の形成が生じるか、又は例えばLEDは所定の箇所での過電流によって破壊される。
【0037】
有機エレクトロニクス素子の実施態様の場合に、この電子伝導性層は放射線を発する物質を有していない。
【0038】
従って、この実施態様の場合には、電子伝導性層から放射線を発することはできない。この有機化合物も金属錯体も、この実施態様の場合に放射線を発することができない。
【0039】
有機エレクトロニクス素子の実施態様は、金属錯体のHOMO(highest occupied molecular orbital)が、そのイオン化エネルギーに関して、付加的にこの金属錯体に配位する有機化合物のLUMO(lowest unoccupied molecular orbital)よりも近い金属錯体を有する。
【0040】
これは、完結した電子構造を有する金属錯体も、錯体−配位子−電荷輸送によって錯体から配位子に電子を移動させることを可能にする。この移動される電子は、電子伝導性層の電子伝導性に著しく寄与する。この関連で、またも、既に上述の段落で議論されたCottonの刊行物Scienceが指摘される。この文献中では、Cottonは、一般式M
2(TBD−A)
4の錯体の極端に低いイオン化エンタルピーを記載していて、この場合、この刊行物中では中心原子Mは、Cr、Mo又はWから選択される。TBD−Aは、1,5,7−トリアザビシクロ[4.4.0]デセ−5−エンのアニオンを表す。Cottonはその刊行物中で金属錯体並びにTBD−A配位子の軌道の正確な考察を行っている。この場合、この低いイオン化エンタルピーは特にTBD−A配位子のLUMOに対して相対的な金属錯体のHOMOの状態に原因があることを明らかにされている。
【0041】
この有機エレクトロニクス素子は、有利にエレクトロルミネッセンス層を有する有機LED(OLED)として構成される。この有機エレクトロニクス素子は、しかしながら例えば有機電界効果トランジスタ、有機太陽電池又は有機受光素子であることができる。有機電界効果トランジスタ(OFET)は3つの接続部:ソース、ゲート及びドレインを有する。この基板は、この場合、ゲート電極として利用することができる。これがそうである場合には、この基板から絶縁層が生じ、この上にソース及びドレイン接続部が配置されている。ソースとドレインとの間にも並びに両方の接続部の上にも有機半導体層が配置されている。有機太陽電池の場合には、基板上に2つの電極が積み重ねられ、この間に有機光活性層が存在する。この光活性層は光を吸収し、それによりこの層中で電荷分離が生じる。こうして形成された電子はアノードに移動し、ホールはカソードに移行し、それにより電流が発生する。
【0042】
この電子伝導性層は、特に有機エレクトロニクス素子のために適しており、この素子の効率は特に良好な電子輸送に依存している。例えばOLEDの場合にこのルミネッセンスは生成される励起子の数に直接依存する。このルミネッセンスはまた、どれくらいの電子とホールとが再結合したかに依存する。良好な電子輸送及びホール輸送は、従って高い再結合率を生じさせ、従ってこのOLEDの良好なルミネッセンス及び効率を生じさせる。
【0043】
有機エレクトロニクス素子自体の他に、この有機エレクトロニクス素子の製造方法も請求されている。
【0044】
有機エレクトロニクス素子の製造方法の変法は、方法工程A)として基板を準備する方法工程、方法工程B)として第1の電極を設ける方法工程、方法工程C)としてこの基板上に電子伝導性層を析出させる方法工程、方法工程D)として第2の電極を設ける方法工程を有し、この場合、この電子伝導性層の析出は金属錯体と有機化合物との同時蒸着により行う。
【0045】
請求項1に請求されているように、このような方法の1つにより例えば有機エレクトロニクス素子を作成することができる。この電子伝導性層は、この場合、基板に直接析出させるか、又は基板上に予め他の層、例えば電極層を析出させ、次いで電子伝導性層をこの既に基板上に存在する層状に析出させることができる。この電子伝導性層の析出は、金属錯体と有機化合物との同時蒸着により行われる。この同時蒸着は、これらの分子同士を相互作用させることができる。
【0046】
他の変法の場合には、一緒の蒸着によって有機化合物は金属錯体に配位する。
【0047】
金属錯体と有機化合物とのこの同時蒸着により、両方の化合物は相互に同時に気相中に存在する。これは、この有機化合物が金属錯体に気相中で配位することを可能にしている。この配位は、例えば有機化合物中のヘテロ芳香族を介して行うことができる。この配位は、電子伝導性層に析出する際にも維持される。
【0048】
しかしながら、この金属錯体及び有機化合物は被覆されるべき表面上で初めて又は表面に衝突する際に相互に出会いかつ電子導電性層を形成しながらこの有機化合物が金属錯体に配位することも可能である。
【0049】
更なる変法の場合に、この電子伝導性層は鎖状の又は網状の構造として析出される。
【0050】
有機化合物の金属錯体への気相中での配位により、鎖状の又は網状の構造を形成することができる。この鎖状の又は網状の構造は次いでそれ自体析出され、それ自体有機エレクトロニクス素子中の電子伝導性層中にも存在する。
【0051】
表面上に突き当たる際に、この分子は、配位位置を見出しかつ相応するエネルギー寄与が生じるまで、つまり配位が生じることができるまでは可動である。
【0052】
この変法の場合に、電子伝導性層の架橋の程度は、蒸着時の金属錯体と有機化合物との比率により制御される。
【0053】
金属錯体と有機化合物との比率に応じて、架橋の程度及びひいては網状又は鎖状の構造の形成を制御することができる。有利に、この有機化合物は金属錯体のモル比に対して過剰量で蒸着される。
【0054】
この場合、金属錯体と有機化合物とを有する層中の金属錯体の割合は、1〜50mol%であり、有利に5〜25mol%であり、10〜15mol%の割合が特に有利である。
【0055】
更に有利な実施態様の場合に、この有機化合物は蒸着の前に金属錯体に配位しない。
【0056】
この金属錯体及び有機化合物は、例えば2つの異なる、空間的に相互に隔てられた容器から蒸着させることができる。しかしながら、この両方の化合物を1つの容器中に入れ、固相の形でこれらの化合物の反応又は配位を行わず、かつこの化合物を次いで一緒の容器から蒸着させることも可能である。
【0057】
次に、実施例を用いて例示的に製造方法の変法を詳細に記載する。
【0058】
真空容器中に電気加熱可能な石英坩堝又はセラミック坩堝中にW
2(TBD−A)
4 200mgを装入する。他の石英坩堝又はセラミック坩堝中に、上述の構造Iの有機化合物を装入する。構造化されたITO(酸化インジウムスズ)電極を備えたガラスプレート(60mm×60mm)を上記坩堝から約25cm離して基板ホルダーに固定する。この基板シャッタを閉じ、両方のソースを4.5nm/秒の析出速度に調節する。蒸着の際の金属錯体と有機化合物とのモル比は1対9であった。150nmの層厚の電子伝導性層が析出される。この電子伝導性層は、金属錯体W
2(TBD−A)
4と有機化合物Iとからなる三次元的ネットワークを有する。この有機エレクトロニクス素子は、150nmの厚さのアルミニウム電極を用いて完成させる。
【0059】
OLEDである有機エレクトロニクス素子用の上述の製造方法の他の変法の場合に、電子伝導性層の前に、上述の構造Iの有機化合物の10nmの厚さの層を蒸着させる。この僅かな層厚のために、有機化合物の結晶化は生じない。有機化合物Iからなる予め蒸着された層は、W
2(TBD−A)
4錯体による発光の消光を低減する。これは、素子中に再び吸収される放射線の割合が低減されることを意味する。
【0060】
更なる変法の場合に、上述の構造Iの有機化合物の代わりに、上述の構造IIの有機化合物が使用される。
【0061】
次に本発明の変法を、図面及び実施例に基づいてより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【
図1】OLEDとして形成されていてかつ別個の発光層を有する実施態様の側面図を示す。
【
図2】OLEDとして形成されていてかつ9つの層を有する実施態様の側面図を示す。
【
図3】OLED中に使用される3種の化合物の構造式を示す。
【
図4】オプトエレクトロニクス素子の実施態様の場合のエネルギー準位を示す。
【
図5】電流密度を電圧に対してプロットしたOLEDの実施態様の3つの測定曲線を示す。
【
図6】ルミネッセンスを電圧に対してプロットしたOLEDの実施態様の3つの測定曲線を示す。
【
図7】放射効率をルミネッセンスに対してプロットしたOLEDの実施態様の3つの測定曲線を示す。
【
図8】ルミネッセンスを時間に対してプロットしたOLEDの実施態様の3つの測定曲線を示す。
【
図9】有機電界効果トランジスタとして構成されている実施態様の側面図を示す。
【0063】
図1は、基板1、その上に配置された第1の電極2及び第2の電極4を有する層順序を示す。この両方の電極の間には電子伝導性層3、並びに発光層5がある。この電極への電圧の印加により、両方の電極の一方、カソードから、電子を層3及び5中へ注入し、他方の電極からホールを注入する。電子及びホールの再結合によって、励起子を形成することができる。
図1中に示した実施態様の場合に、発光層5から放射線が発せられる。この発光層中には、励起子により発光を引き起こすことができる物質が存在する。この場合、例えば燐光性物質又は蛍光性物質であることができる。
【0064】
図2は、OLEDとして構成されている素子の実施態様を示す。この図中には、9つの層からなる積層体の側面図が示されている。この場合、例えばガラスからなる基板1上に、例えば透明でありかつITO(酸化インジウムスズ)からなる第1の電極2が配置されている。この電極2上にホール注入層13が配置されていて、その上にまたホール輸送層14が配置されている。このホール輸送層14上に、有機発光層5である有機活性層が存在し、その上にまたホールブロック層16、その上に電子輸送層17が続き、その上に電子注入層18が配置されている。この電子注入層18上に、第2の電極4、例えば金属電極が存在する。
【0065】
第1及び第2の電極層2、4の間に電圧を印加する際に、この素子を通して電流が流れ、この発光層5中で放射線が発せられ、この放射線は、例えば可視光線の形で、例えば第1の電極層2及び基板1を通してこの素子から外方に放射することができる。これとは別に、付加的に又は単独で、第2の電極層4は透明に構成させることができ、この光をこの素子から両方の電極層を介して又は第2の電極層4だけを介して出すことができる。
【0066】
本発明によるこの電子伝導性層は、この場合に電子を輸送する層であることができる。有利に、本発明によるこの電子伝導性層は、電子輸送層17又は電子注入層18である。この改善された電子輸送によりより多くの電子及びホールを再結合することができ、それによりより多くの励起子が形成される。この向上された数の励起子により、放射ひいては発光効率が高められる。
【0067】
本発明によるこの電子伝導性層3は、この場合、電荷キャリア発生層(図中には示されていない)でもある。この電荷キャリア発生層は、中間層あり又は中間層なしで、ホール輸送層に接していることができる。電荷キャリア発生層は、例えば異なるOLEDを相互に積層することができる。この電荷キャリア発生層は、この目的で、2つのOLED積層体の間の中間層として配置され、他の電圧供給部を設けることができる。これは、特に、この中間層を、2つのOLED積層体に異なる電圧電位で作動させることができるように調節できることを意味する。
【0068】
図3は、例示的にOLED中に使用することができる3種の化合物の構造を示す。第1の構造式はNPB(N,N′−ジ(ナフチル−1−イル)−N,N′−ジフェニル−ベンジジン)を示し、これは例えばホール輸送層として及び発光材料用のマトリックスとして適している。第2の構造式はIr(ac)(イリジウム(III)ビス(2−メチルジベンゾ−[f,h]キノキサリン(アセチルアセトナト))を示す。このIr錯体は、例えば赤色の燐光を発する染料としてOLED中に使用することができる。この第3の構造式はTPBI(1,3,5−トリス(1−フェニル−1H−ベンズイミダゾール−2−イル)ベンゼン)、有機化合物IIIを示す。この化合物は、特にホールブロック層のために並びに電子伝導性層3のために使用することができる。
【0069】
図4は、OLEDとして構成されている本発明による装置の実施態様の個々の層のエネルギー準位を示す。これらの個々の層のLUMO及びHOMO、並びにこれらの個々の層の層厚がそれぞれ示されている。ITOから作成された透明なアノードに続いてNPBからなる30nmの厚さの層が配置される。ホール輸送機能を担うNPBからなるこの第1の層に続いて、NPBをマトリックス材料として用いた他の層が配置される。NPBからなるこの第2の層は7nmの厚さであり、更に、
図3中で構造式が示されているイリジウム(III)ビス(2−メチルジベンゾ−[f,h]キノキサリン)(アセチルアセトナト)(Ir(ac))10モル%の割合を有する。この燐光を発する物質のIr(ac)のLUMOもHOMOも、マトリックス材料NPDの相応するエネルギー準位をかろうじて下回る。発光層に続いて、有機化合物IIIのTPBIからなる10nmの厚さの層が配置される。この層は、ホールブロック機能を有する。TPBIのエネルギー準位は、燐光を発する物質の相応するエネルギー準位をそれぞれ下回る。このホールブロック層に続いて、電子伝導性層(ETL)が配置される。これは、この実施態様の場合に30nmの層厚を有する。この電子伝導性層は、本発明の実施態様の場合に、金属錯体及び有機化合物を有する。この電子伝導性層は、金属錯体と有機化合物との一緒の蒸着によって得られる。この電子伝導性層は、この実施態様の場合には、電子注入層の機能も、電子輸送層の機能も担う。この電子伝導性層のエネルギー準位は、ホールブロック層の相応するエネルギー準位を上回る。この電子伝導性層に続いてAlからなるカソードが配置される。アノードとカソードとに電圧が印加される場合、アノードからホールが、カソードから電子がホール輸送層中へ又は電子輸送層内へ導入される。そこから、正の電荷キャリアであるホール、及び電子が、燐光を発する物質がドープされているNPB層内へ移動する。このホールと電子とが赤色のエミッタ上で再結合する際に励起子が形成され、この励起子が燐光を発する物質に発光を生じさせる。
【0070】
次の
図5〜8において、ETL中に金属錯体を有する本発明による実施態様の、並びにETL中に金属錯体を含有しない本発明によらない実施態様の測定曲線が示されている。この場合、その都度ETLは変えられている。
【0071】
図5は、電流密度Jを電圧Uに対してプロットした3つの測定曲線(21,22,23)が示されている。これらの測定曲線に対して、それぞれ120nmの厚さの酸化インジウムスズ電極に続き150nmの厚さの電子伝導性層、その上に150nmの厚さのAl電極が配置されている3つのOLED素子を作成した。この測定の際に、この3つの素子の電子伝導性層3の全ての3つの測定のために、同じ有機化合物、つまり構造Vの有機化合物を使用した。測定曲線21の場合には、この有機化合物V中に、金属錯体としてW
2(TBD−A)
4 10mol%の割合が存在する。この測定曲線22の場合には、金属錯体としてW
2(TBD−A)
4の割合は1mol%であるにすぎない。測定曲線23は、純粋な有機化合物Vを用いて、つまり金属錯体なしで実施した。
図5中に示されたグラフは、金属錯体について1mol%の割合(測定曲線22)で既に、比較的高い電圧の場合に極めて良好な電流密度が達成できることを示している。低い電圧の場合でも、1mol%の金属錯体(測定曲線22)で達成された電流密度は、純粋な有機化合物を用いて達成された電流密度(測定曲線23)よりも既に明らかに良好である。10mol%の含有量のW
2(TBD−A)
4を有する測定曲線21の場合に達成される電流密度は、全ての測定範囲にわたり、他の2つの測定曲線22及び23の同じ電圧での相応する値を明らかに上回る。
図5は、従って、電流密度に関する金属錯体の影響を明らかに示す。この金属錯体から付加的に準備された「自由」電子は、OLED素子中の電子輸送のために大きな貢献をすることができる。
【0072】
図6は、ルミネッセンスLを電圧Uに対してプロットした3つの測定曲線(31,32,33)が示されている。この3つの測定曲線に対して、
図4についての実施態様に記載されている構造に相応する構造の3つの素子を作成した。この3つの異なる測定曲線について、電子伝導性層のためのそれぞれの材料を変えた。曲線31について、W
2(TBD−A)
4 10mol%の割合を有する有機化合物IIからなる電子伝導性層を使用した。曲線32について、W
2(TBD−A)
4 10mol%の割合を有する有機化合物Iからなる電子伝導性層を使用した。曲線33について、有機化合物Iからなる電子伝導性層と、この電子伝導性層とAl電極との間にLiFからなる0.7nmの厚さの付加的な層とを備えた素子を使用した。この測定曲線33の場合には、従って、電子伝導性層中には金属錯体が存在していない。
図6からは、測定曲線31及び32の場合に、つまり電子伝導性層中にそれぞれ10mol%の金属錯体を有する測定曲線は、純粋な有機化合物だけからなる電子伝導性層を有する測定曲線よりも改善されたルミネッセンスを達成することが明らに示されている。この試験装置の場合に、有機化合物IIによって、有機化合物Iによるよりも改善された値が達成された。
図6からは、金属錯体がルミネッセンスに関して有利な作用を有することが明らかに示されていて、これは測定曲線32と33との直接的な比較からも明らかである。
【0073】
図7は、放射効率EをルミネッセンスLに対してプロットした3つの測定曲線(41,42,43)を示す。これらの測定曲線に対して使用した素子の構造は、
図4についての実施態様に記載されている構造と相応する。電子伝導性層の材料を測定曲線ごとに変えた。測定曲線41の場合に、W
2(TBD−A)
4 10mol%の割合を有する有機化合物Iからなる電子伝導性層を有する素子を使用した。測定曲線42に対して、W
2(TBD−A)
4 10mol%の割合を有する有機化合物IIからなる電子伝導性層を有する素子を使用した。この測定曲線43は、化合物Iを使用するが、金属錯体なしの素子の測定の結果を示す。測定曲線43の素子は、電子伝導性層とAl電極との間に、0.7nmの厚さのLiFからなる付加的な層を有する。
図7から明らかに解るように、電子伝導性層は有機化合物の他にそれぞれ付加的に10mol%の含有量の金属錯体を有する測定曲線41及び42は、金属錯体を有しない電子伝導性層を有する測定曲線43と比較して明らかに改善された効率を有する。
図7中の測定値から、従って、この素子の効率は、有機化合物と一緒に蒸着された金属錯体により明らかに向上させることができることが明らかに認識できる。
【0074】
図8は、ルミネッセンスLを時間tに対してプロットした3つの測定曲線(51,52,53)が示されている。この「寿命」は、当初に設定された輝度(この場合、1000cd/m
2)の50%値として定義されている。素子が500cd/m
2の閾値を下回る場合に、もはや使用不可能であるとみなされ、その「寿命」は過ぎたとみなされる。この測定曲線に対して、
図4についての図面の説明に記載されている構造に相応する構造のそれぞれの素子を使用した。この3つの測定曲線について、それぞれ電子伝導性層を変えた。測定曲線51の場合に、電子伝導性層が有機化合物1だけからなる素子を使用した。この素子は、付加的に、電子伝導性層とAl電極との間に、0.7nmの厚さのLiFの他の層を有する。曲線52の場合に、W
2(TBD−A)
4 10mol%の割合を有する有機化合物Iからなる電子伝導性層を使用した。この測定曲線52に対して、W
2(TBD−A)
4 10mol%の割合を有する有機化合物IIからなる電子伝導性層を有する素子を使用した。
図8は、電子伝導性層が金属錯体を有する両方の測定曲線52及び53の場合に、電子伝導性層が金属錯体を有しない測定曲線51の場合よりも明らかな寿命の改善を達成できたことを明らかに示す。
【0075】
この測定において、有機化合物IIを用いた測定曲線53(>2500h)ではさらに、有機化合物Iを用いた測定曲線52(235h)よりも明らかに改善された寿命を達成することができた。
【0076】
図5〜8において示された測定曲線は、それぞれ、電子伝導性層の形成のために有機化合物と一緒に蒸着させた金属錯体の存在が、それぞれ測定された電気的パラメータ及びオプトエレクトロニクスパラメータに関して有利な影響を及ぼすことを明らかに示す。相応する有機エレクトロニクス素子の場合に、金属錯体と有機化合物との一緒の蒸着によって、より高い電流密度、より高いルミネッセンス、より高い効率及びより高い寿命を達成することができた。
【0077】
図9は、有機電界効果トランジスタ(OFET)として構成されている本発明による装置の実施態様の側面図を示す。基板1上に、第1の電極2が配置されていて、この第1の電極2はゲート電極層として作成されている。この第2の電極2上に、例えば誘電体を有することができる絶縁層60が続いて配置されている。この第2の電極4は、ソース−ドレイン接続層として作成され、かつ電子伝導性層を有する。ソース接続層及びドレイン接続層の間には、ホール伝導性材料からなる半導体80が配置されている。この有機電界効果トランジスタは、更に、例えばカプセル化のために利用することができるカバー層70を有する。
【0078】
本発明は実施例に基づく説明に限定されるものではない。むしろ、本発明は、あらゆる新規の特徴ならびにそれらの特徴のあらゆる組み合わせを含むものであり、この特徴又はこれらの組み合わせ自体が特許請求の範囲あるいは実施例に明示的には記載されていないに場合であっても、特に特許請求の範囲に記載した特徴のあらゆる組み合わせが含まれる。