特許第5650117号(P5650117)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5650117
(24)【登録日】2014年11月21日
(45)【発行日】2015年1月7日
(54)【発明の名称】炭素繊維強化樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/00 20060101AFI20141211BHJP
   C08L 23/26 20060101ALI20141211BHJP
   C08K 9/04 20060101ALI20141211BHJP
   C08J 5/06 20060101ALI20141211BHJP
【FI】
   C08L23/00
   C08L23/26
   C08K9/04
   C08J5/06CES
【請求項の数】9
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2011-530750(P2011-530750)
(86)(22)【出願日】2010年9月8日
(86)【国際出願番号】JP2010005503
(87)【国際公開番号】WO2011030544
(87)【国際公開日】20110317
【審査請求日】2012年9月7日
(31)【優先権主張番号】特願2009-208078(P2009-208078)
(32)【優先日】2009年9月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】505130112
【氏名又は名称】株式会社プライムポリマー
(74)【代理人】
【識別番号】100086759
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 喜平
(74)【代理人】
【識別番号】100112977
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 有子
(74)【代理人】
【識別番号】100141944
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 猛
(72)【発明者】
【氏名】岩下 亨
(72)【発明者】
【氏名】石居 利之
(72)【発明者】
【氏名】大西 陸夫
【審査官】 鈴木 亨
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭57−016041(JP,A)
【文献】 特開2005−089706(JP,A)
【文献】 特開2005−213479(JP,A)
【文献】 特開2005−213478(JP,A)
【文献】 特開2005−125581(JP,A)
【文献】 特開平02−084566(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/101269(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00− 13/08
C08L 1/00−101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリオレフィン樹脂、(B)酸変性ポリオレフィン樹脂、(C)アミノ基含有変性樹脂の付着量が0.2〜5.0質量%である変性炭素繊維からなり、(A):(B)の質量比が0〜99.5:100〜0.5で、かつ[(A)+(B)]:(C)の質量比が40〜97:60〜3であり、前記アミノ基含有変性樹脂が、アミノ基を有し、かつ分子内に下記式(I)で表わされる反復単位を70〜99.98モル%と、下記式(II)で表わされる反復単位を0.02〜30モル%含有する共重合体である炭素繊維強化樹脂組成物。
【化1】
(式(I),(II)中、R及びRは各々独立に水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数3〜8のシクロアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数1〜4のアルコキシ基、又は炭素数〜18のアルコキシカルボニル基を示し、R及びRは各々独立に水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を示し、Rは炭素数1〜12のアルキレン基、炭素数5〜17のシクロアルキレン基、炭素数6〜12のアリーレン基、炭素数7〜12のアリールアルキレン基又は炭素数4〜30のポリオキシアルキレン基を示す。R〜Rは、それぞれ反復単位ごとに同一でもよいし、異なってもよい。)
【請求項2】
(A):(B)の質量比が80〜99:20〜1である請求項1記載の炭素繊維強化樹脂組成物。
【請求項3】
[(A)+(B)]:(C)の質量比が50〜95:50〜5である請求項1又は2記載の炭素繊維強化樹脂組成物。
【請求項4】
前記変性炭素繊維(C)は、前記アミノ基含有変性樹脂を炭素繊維の表面に付着させた後、200〜300℃で5秒〜3分熱処理して得られるものである請求項1〜3のいずれか記載の炭素繊維強化樹脂組成物。
【請求項5】
前記変性炭素繊維(C)は、前記アミノ基含有変性樹脂を炭素繊維の表面に付着させた後、220〜240℃で20秒〜40秒熱処理して得られるものである請求項1〜3のいずれか記載の炭素繊維強化樹脂組成物。
【請求項6】
前記アミノ基含有変性樹脂が、135℃のテトラリン中で測定した極限粘度が0.05〜1.0dL/gである請求項1〜5のいずれか記載の炭素繊維強化樹脂組成物。
【請求項7】
前記アミノ基含有変性樹脂が、エチレン−エチルアクリレート−無水マレイン酸共重合体、無水マレイン酸グラフトポリエチレン系樹脂、及び無水マレイン酸グラフトポリプロピレン系樹脂からなる群より選ばれた1種の化合物と、2つ以上のアミノ基を有する化合物との反応物である請求項1〜6のいずれか記載の炭素繊維強化樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか記載の炭素繊維強化樹脂組成物と、熱可塑性樹脂とを含み、前記変性炭素繊維(C)を3〜60質量%含有する樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか記載の炭素繊維強化樹脂組成物又は請求項8記載の樹脂組成物から製造される成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維強化樹脂組成物及びそれを用いて得られる成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からの炭素繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物の用途として、金属やガラス繊維強化樹脂組成物の代替が知られている。例えば、自動車部品、住宅設備部品等である。しかし、上記金属やガラス繊維強化樹脂と比較して強度が不足しているため、その代替範囲は限られていた。これは、ポリオレフィン樹脂は無極性であるため、炭素繊維との界面接着性が悪く、炭素繊維が補強材としての強度向上効果を十分に発揮できていなかったためである。
【0003】
ポリオレフィン樹脂と炭素繊維との界面接着性を向上させる手法として、マトリックス樹脂に酸変性ポリオレフィン樹脂を添加する方法、ポリオレフィン樹脂とシランカップリング剤より構成するサイジング剤で炭素繊維をサイジング処理する方法、特許文献1−3に開示されるように酸変性ポリプロピレンを必須成分とするサイジング剤で炭素繊維をサイジング処理する方法が知られている。
【0004】
しかしながら、マトリックス樹脂に酸変性ポリオレフィン樹脂を添加する方法では、酸変性ポリオレフィン樹脂を多量に添加する必要があり、リサイクル性、経済性において優れたものとはならない。また、シランカップリング剤を含むサイジング剤でサイジング処理する方法では、炭素繊維はガラス繊維に比べて表面に存在する水酸基がそれほど多くないため界面接着性を向上させる効果が少なかった。また酸変性ポリプロピレンを必須成分とするサイジング剤でサイジング処理する方法はガラス繊維とは比較的良好な界面接着性を実現するが、炭素繊維の場合ではその効果は十分ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−107442号公報
【特許文献2】特開平2−84566号公報
【特許文献3】特開2006−124847号公報
【発明の概要】
【0006】
本発明は、引張破壊応力、曲げ強さ等の強度特性を向上させた炭素繊維強化樹脂組成物を提供することを目的とする。
【0007】
本発明によれば、以下の炭素繊維強化樹脂組成物、樹脂組成物、及びこれらからなる成形品が提供される。
1.(A)ポリオレフィン樹脂、(B)酸変性ポリオレフィン樹脂、(C)アミノ基含有変性ポリオレフィン樹脂の付着量が0.2〜5.0質量%である変性炭素繊維からなり、(A):(B)の質量比が0〜99.5:100〜0.5で、かつ[(A)+(B)]:(C)の質量比が40〜97:60〜3である炭素繊維強化樹脂組成物。
2.(A):(B)の質量比が80〜99:20〜1である1記載の炭素繊維強化樹脂組成物。
3.[(A)+(B)]:(C)の質量比が50〜95:50〜5である1又は2記載の炭素繊維強化樹脂組成物。
4.前記変性炭素繊維(C)は、前記アミノ基含有変性ポリオレフィン樹脂を炭素繊維の表面に付着させた後、200〜300℃で5秒〜3分熱処理して得られるものである1〜3のいずれか記載の炭素繊維強化樹脂組成物。
5.前記変性炭素繊維(C)は、前記アミノ基含有変性ポリオレフィン樹脂を炭素繊維の表面に付着させた後、220〜240℃で20秒〜40秒熱処理して得られるものである1〜3のいずれか記載の炭素繊維強化樹脂組成物。
6.前記アミノ基含有変性ポリオレフィン樹脂が、135℃のテトラリン中で測定した極限粘度が0.05〜1.0dL/gである1〜5のいずれか記載の炭素繊維強化樹脂組成物。
7.前記アミノ基含有変性ポリオレフィン樹脂が、エチレン−エチルアクリレート−無水マレイン酸共重合体、無水マレイン酸グラフトポリエチレン系樹脂、及び無水マレイン酸グラフトポリプロピレン系樹脂からなる群より選ばれた1種の化合物と、2つ以上のアミノ基を有する化合物との反応物である1〜6のいずれか記載の炭素繊維強化樹脂組成物。
8.前記アミノ基含有変性ポリオレフィン樹脂が、アミノ基を有し、かつ分子内に下記式(I)で表わされる反復単位を70〜99.98モル%と、下記式(II)で表わされる反復単位を0.02〜30モル%含有する共重合体である1〜7のいずれか記載の炭素繊維強化樹脂組成物。
【化1】
(式(I),(II)中、R及びRは各々独立に水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数3〜8のシクロアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数1〜4のアルコキシ基、炭素数1〜18のアルコキシカルボニル基又は炭素数1〜17のアルキルカルボキシル基を示し、R及びRは各々独立に水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を示し、Rは炭素数1〜12のアルキレン基、炭素数5〜17のシクロアルキレン基、炭素数6〜12のアリーレン基、炭素数7〜12のアリールアルキレン基又は炭素数4〜30のポリオキシアルキレン基を示す。R〜Rは、それぞれ反復単位ごとに同一でもよいし、異なってもよい。)
9.1〜8のいずれか記載の炭素繊維強化樹脂組成物と、熱可塑性樹脂とを含み、前記変性炭素繊維(C)を3〜60質量%含有する樹脂組成物。
10.1〜8のいずれか記載の炭素繊維強化樹脂組成物又は9記載の樹脂組成物から製造される成形品。
【0008】
本発明は、アミノ基含有変性樹脂の付着量が0.2〜5.0質量%である変性炭素繊維を用いることにより、炭素繊維のポリオレフィン樹脂に対する界面接着性が良好となり、炭素繊維強化樹脂組成物の強度特性(引張破壊応力、曲げ強さ)を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の炭素繊維強化樹脂組成物は、(A)ポリオレフィン樹脂、(B)酸変性ポリオレフィン樹脂、(C)アミノ基含有変性樹脂の付着量が0.2〜5.0質量%である変性炭素繊維を含む。
【0010】
ポリオレフィン樹脂(A)としては、エチレン、プロピレン、ブテン−1,3−メチルブテン−1,4−メチルブテン−1、オクテン−1等のα−オレフィンの単独重合体やこれらの共重合体又はこれらと他の共重合可能な不飽和単量体との共重合体等であり、共重合体としては、ブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体等が挙げられる。
【0011】
具体的には、高密度、中密度、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、等のポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン、エチレン−プロピレンブロック共重体やランダム共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン−1共重合体等のポリプロピレン系樹脂、ポリブテン−1、ポリ4−メチルペンテン−1等を挙げることができる。
【0012】
これらポリオレフィン樹脂は、単独で用いても混合物で用いてもよいが、特にポリプロピレン系樹脂が好適である。
ポリプロピレン系樹脂は市販のものを使用でき、有機過酸化物で流動性を調整したものも使用できる。
【0013】
メルトフローレート(MFR)は好ましくは10〜500g/10分、より好ましくは60〜300g/10分、さらに好ましくは100〜200g/10分(JIS K7210に準拠し、温度230℃、荷重2.16kgの条件で測定)である。MFRが10g/10分より小さいと成形体中の強化繊維の分散性が低下し、成形体の外観不良が見られることがあり、MFRが500g/10分より大きいと衝撃強度が低下するため好ましくない。
【0014】
なお、上記ポリオレフィン樹脂には、エチレン−α−オレフィン系共重合体ゴム、エチレン−α−オレフィン−非共役ジエン系共重合体ゴム(例えば、EPDM等)、エチレン−芳香族モノビニル化合物−非共役ジエン系共重合体ゴム、これらの水素添加物等のゴム類が含まれていてもよい。
【0015】
不飽和カルボン酸又はその誘導体等の酸で変性された変性ポリオレフィン樹脂(B)は、変性炭素繊維とのあるいは変性炭素繊維とポリオレフィン樹脂との界面強度を向上させ、破壊応力や曲げ強さ等の強度特性を大幅に向上させる。変性するポリオレフィン樹脂としては、上記ポリオレフィン樹脂(A)と同じでも異なってもよいが、同じ樹脂が好ましい。例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂が好適であり、特にポリプロピレンが好ましい。
【0016】
変性に用いる酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、シトラコン酸、ソルビン酸、メサコン酸、アンゲリカ酸等の不飽和カルボン酸が挙げられる。また、これら不飽和カルボン酸の誘導体も使用でき、その誘導体としては、酸無水物、エステル、アミド、イミド、金属塩等を挙げることができ、例えば、無水マレイン酸、無水イタコン酸、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、マレイン酸エチル、アクリルアミド、マレイン酸アミド、アクリル酸ナトリウム、メタクリル酸ナトリウム等を挙げることができる。
【0017】
これらの中でも、不飽和ジカルボン酸又はその誘導体が好ましく、無水マレイン酸はさらに好ましい。これら不飽和カルボン酸又はその誘導体は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。変性の方法についても特に制限はなく、公知の方法が採用される。例えば、ポリオレフィン樹脂を溶媒に溶解し、不飽和カルボン酸又はその誘導体及びラジカル発生剤を添加して加熱、撹拌する方法、上記各成分を押出機に供給してグラフト共重合させる方法等がある。
【0018】
不飽和カルボン酸又はその誘導体等の酸変性ポリオレフィン樹脂中の酸含量は、好ましくは0.1〜10質量%、より好ましくは0.8〜8質量%である。酸含量量は、樹脂のIRスペクトルを測定し、1670cm−1〜1810cm−1のピーク面積から決定する。
【0019】
酸変性ポリオレフィン樹脂の135℃、テトラリン中で測定した極限粘度[η]は、0.1〜3.0dL/gが好ましい。0.1dL/g未満では、成形品の強度特性等の物性が落ちる恐れがあり、3.0dL/gを超えると、組成物の流動性が低くなり、成形が困難となる恐れがある。
【0020】
本発明では、アミノ基含有変性樹脂の付着量が0.2〜5.0質量%である変性炭素繊維(C)を用いる。
【0021】
アミノ基含有変性樹脂の付着方法としては詳しくは後述するが、サイジング剤としてアミノ基含有変性樹脂を含むサイジング剤水分散液を用い、該サイジング剤水分散液を炭素繊維束に付着させる方法(以下、この方法を「サイジング処理」という。)が好ましい。
【0022】
アミノ基含有変性樹脂の付着量は0.2〜5.0質量%であり、0.4〜4.0質量%が好ましく、0.5〜4.0質量%がより好ましい。付着量が上記範囲内であれば、炭素繊維の単繊維表面を覆う分子層が1〜3層程度と好適なものとなる。付着量が0.2質量%未満であると、アミノ基含有変性樹脂を付着させる効果が不十分となる恐れがあり、工程通過性、取り扱い性、サイジング剤との親和性が低下することがある。一方、付着量が5質量%を超えると、単繊維間にアミノ基含有変性樹脂が介在してブリッジングが発生し、単繊維同士の擬似接着により単繊維間の動きが拘束され、炭素繊維束の広がり性が低下しやすくなる。その結果、炭素繊維束の均一性が損なわれる恐れがある。また、サイジング剤の浸透性が阻害され、均一な変性炭素繊維束を得ることが困難となり、炭素繊維束としての特性が低下する懸念がある。
【0023】
アミノ基含有変性樹脂の付着量は、例えばアミノ基含有変性樹脂を含有するサイジング剤水分散液の固形分濃度を調整することにより、調節できる。具体的には、サイジング剤水分散液の固形分濃度を高くすると付着量は増加する傾向にある。
【0024】
なお、アミノ基含有変性樹脂の付着量は、SACMA法のSRM14−90に準拠し、熱分解法により熱分解処理前後における質量差から炭素繊維束に付着したサイジング剤合計の量を測定し、熱分解処理前の炭素繊維束に対する付着率として算出する。具体的には下記式(1)により求めることができる。ただし、サイジング剤として、アミノ基含有変性樹脂とそれ以外の成分とを併用した場合、アミノ基含有変性樹脂の付着量は、サイジング剤水分散液中の固形成分を総体として、アミノ基含有変性樹脂の含有質量比を用いて算出する。また、サイジング処理の前にプレサイジング処理を行った場合は、プレサイジング剤の付着量に対する増加分をサイジング剤合計の量として算出し、下記式(1)より付着量を求める。
付着量(%)=100×(W1−W2)/W1・・・(1)
W1:熱分解処理前の炭素繊維の質量
W2:熱分解処理後の炭素繊維の質量
【0025】
アミノ基含有変性樹脂(以下、「化合物(a)」と略す場合がある。)は、変性炭素繊維束と、ポリオレフィン樹脂及び酸変性ポリオレフィン樹脂(併せて、以下「ポリオレフィン系樹脂」ということがある。)との複合化の際に、分子中のアミノ基が炭素繊維束表面との相互作用を増強させる。一方、化合物(a)と酸変性ポリオレフィン樹脂との強い相互作用及びこれらの骨格のポリオレフィン鎖が分子の絡み合いによりポリオレフィン系樹脂と強固な結合を生じさせる、有用なカップリング剤として働く成分である。
化合物(a)は、主鎖が炭素−炭素結合で形成され、側鎖又は主鎖の末端の少なくとも一部にアミノ基を有する。
【0026】
このような化合物(a)の具体例としては、(i)酸変性されたポリオレフィン樹脂(以下、「化合物(b)」と略す場合がある。)とアミノ基を有する化合物との反応物や、(ii)エポキシ化ポリオレフィン樹脂(以下、「化合物(c)」と略す場合がある。)とアミノ基を有する化合物との反応物等が挙げられる。
特に、化合物(b)又は化合物(c)と、2つ以上のアミノ基を有する化合物との反応物が、1級アミノ基を有することから、化合物(a)として好適である。1級アミノ基を有すれば、ポリオレフィン系樹脂や炭素繊維表面での相互作用が良好となり、より強固な結合を生じさせる。
【0027】
化合物(b)としては、アミノ基と反応する官能基を有するように酸変性されていれば特に制限はされない。また、ポリオレフィン骨格は、エチレン、プロピレン、ブテン等の単独のオレフィンであってもよく、複数の異なるオレフィンであってもよい。オレフィンの例としては、炭素数2〜8のオレフィンが挙げられる。
このような化合物(b)としては、例えば以下に示すものが挙げられる。
【0028】
(1)化合物(b−1)
下記式(I)及び下記式(III)で表される骨格を有する酸変性ポリオレフィン樹脂
【0029】
【化2】
【0030】
式(I)中、R及びRは各々独立に水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数3〜8のシクロアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数1〜4のアルコキシ基、又は炭素数〜18のアルコキシカルボニル基を示す。
式(III)中、R及びRは各々独立に水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を示す。
〜Rは、それぞれ反復単位ごとに同一でもよいし、異なってもよい。
【0031】
式(I)で表される骨格及び式(III)で表される骨格を有する酸変性ポリオレフィン樹脂は、例えばオレフィンと無水マレイン酸を共重合させることにより得られる。また、オレフィンとマレイン酸を脱水しつつ共重合してもよい。この場合、他の不飽和カルボン酸類とともに共重合させることができる。不飽和カルボン酸類としては、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート等のアクリル酸エステル、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート等のメタクリル酸エステル等の不飽和カルボン酸エステル、さらには酢酸ビニル等の不飽和カルボン酸類の一種又は二種以上を使用することができる。
【0032】
式(I)で表される骨格及び式(III)で表される骨格を有する酸変性ポリオレフィン樹脂としては、具体的にエチレン−無水マレイン酸共重合体、プロピレン−無水マレイン酸共重合体、エチレン−プロピレン−無水マレイン酸共重合体、エチレン−エチルアクリレート−無水マレイン酸共重合体、エチレン−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体等を挙げることができる。
【0033】
(2)化合物(b−2)
上記式(I)で表される骨格を主鎖に有し、下記式(IV)で表される基を側鎖に有する酸変性ポリオレフィン樹脂
【0034】
【化3】
【0035】
式(I)で表される骨格を主鎖に有し、式(IV)で表される基を側鎖に有する酸変性ポリオレフィン樹脂としては、例えば、マレイン酸、無水マレイン酸、とポリオレフィン樹脂とをラジカル開始剤とともに溶融混練等により反応させて得られる酸変性ポリオレフィン樹脂が挙げられる。
ここで、ポリオレフィン樹脂としては、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン等のオレフィンの単独あるいは複数を、いわゆるチィーグラー・ナッタ触媒等の重合触媒の存在下、重合させて得られるポリオレフィン樹脂が挙げられる。好ましくは、ポリプロピレン単独重合体である。
ラジカル開始剤としては特に制限はなく、例えばブチルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド等が挙げられる。ラジカル開始剤の使用量は、ポリオレフィン樹脂100質量部に対して、0.01〜1質量部程度使用すればよい。
また、溶融混練温度は一般に160〜270℃程度である。
【0036】
(3)化合物(b−3)
上記式(I)で表される骨格を主鎖に有し、下記式(V)で表される基を側鎖に有する酸変性ポリオレフィン樹脂
【0037】
【化4】
【0038】
式(I)で表される骨格を主鎖に有し、式(V)で表される基を側鎖に有する酸変性ポリオレフィン樹脂としては、例えばオレフィンと不飽和カルボン酸を共重合したり、オレフィンと不飽和カルボン酸エステルを共重合した後、加水分解したりすることで得られる。
不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸等が挙げられる。一方、不飽和カルボン酸エステルとしては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート等のアクリル酸エステル、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート等のメタクリル酸エステル、さらには酢酸ビニル等が挙げられる。
また、ここで使用できるオレフィンとしては、先に例示したオレフィンが挙げられる。重合条件、加水分解条件は特に制限なく、公知の方法で行えばよい。
【0039】
化合物(b−1)、(b−3)においては、上記式(I)で表される構成単位を70〜99.98モル%と、それぞれの化合物に対応する上記式(III)、(V)の基を導入するための化合物に起因する構成単位を0.02〜30モル%含有することが好ましい。化合物(b−2)においては、上記式(IV)の基を0.5〜20質量%含有することが好ましい。
各化合物において、構成単位や基の含有量がそれぞれ上記の下限値未満であると、炭素繊維との接着性が不十分となり、それぞれ上記の上限値を超えると、ポリオレフィンとの親和性が不十分となる。
化合物(b)においては、本発明の効果を損なわない範囲内で、上記式(I)、(III)以外の反復単位や、上記式(IV)、(V)で表される側鎖以外の側鎖を含んでもよい。
【0040】
上述化合物(b)としては、例えば、エチレン−エチルアクリレート−無水マレイン酸共重合体、無水マレイン酸グラフトポリエチレン系樹脂、及び無水マレイン酸グラフトポリプロピレン系樹脂からなる群より選ばれた1種の化合物である。
化合物(b)としては、市販のものを使用することができる。例えば三洋化成工業社製のユーメックスシリーズ(商品名、無水マレイン酸グラフトポリエチレン、無水マレイン酸グラフトポリプロピレン)、アトフィナ社製のボンダインシリーズ(商品名、エチレン−エチルアクリレート−無水マレイン酸共重合体)、日本ポリオレフィン社製のレクスパールETシリーズ(商品名、エチレン−エチルアクリレート−無水マレイン酸共重合体)、クラリアント社製のHostamont AR503、AR504(商品名、無水マレイン酸グラフトポリプロピレン)等が挙げられる。
【0041】
化合物(c)としては、グリシジルメタクリレート、メチルグリシジルメタクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチルアクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチルメタアクリレート等のエポキシ基含有モノマーをオレフィンと共重合させたものが好適である。
ポリオレフィン骨格としては、エチレン、プロピレン、ブテン等のオレフィンの単独でもよく、これらの共重合でもよい。さらに共重合は、ランダム共重合でもよく、ブロック共重合でもよい。
化合物(b)及び化合物(c)の質量分子量は、目的に応じて適宜選択すればよいが、通常、3000〜60万である。
【0042】
化合物(b)又は化合物(c)と反応させるアミノ基を有する化合物としては、2つ以上のアミノ基を有する化合物が好ましく、具体的には例えは下記式(VI)で表されるジアミンが挙げられる。
N−R−NH (VI)
【0043】
式(VI)中、Rは炭素数1〜12のアルキレン基(好ましくは炭素数1〜8のアルキレン基)、炭素数5〜17のシクロアルキレン基(好ましくは炭素数6〜10のシクロアルキレン基)、炭素数6〜12のアリーレン基、炭素数7〜12のアリールアルキレン基(好ましくは炭素数8〜10のアリールアルキレン基)、炭素数数4〜30のポリオキシアルキレン基(好ましくは炭素数4〜15のポリオキシアルキレン基)を示す。
アルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、テトラメチレン基、ヘキサメチレン基等が挙げられる。
シクロアルキレン基としては、シクロヘキシレン基、メチレンシクロヘキシルメチレン基等が挙げられる。
アリーレン基としては、フェニレン,オキシジフェニレン等が挙げられる。
アリールアルキレン基としては、キシリレン等が挙げられる。
ポリオキシアルキレン基としては、ポリオキシメチレン基、ポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基等が挙げられる。
【0044】
このようなジアミンの具体例としては、エチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,5−ジアミノペンタン、ヘキサメチレンジアミン、1,7−ジアミノヘプタン、1,8−ジアミノオクタン、1,9−ジアミノノナン、1,10−ジアミノデカン、ピペラジニルアミノエタン、2,2,5−トリメチルヘキサンジアミン、2,2,4−トリメチルヘキサンジアミン等の直鎖又は分岐の脂肪族のアルキレンジアミン類;イソホロンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビスアミノメチルヘキサヒドロ−4,7−メタンインダン、1,4−シクロヘキサンジアミン、1,3−シクロヘキサンジアミン、2−メチルシクロヘキサンジアミン、4−メチルシクロヘキサンジアミン、ビス(4−アミノ−3,5−ジメチルシクロヘキシル)メタン等の脂環式ジアミン類;m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン等のアリールアルキルジアミン;p−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル等のアリールジアミン;ポリオキシプロピレンジアミン、ポリオキシエチレンジアミン等のポリオキシアルキレンジアミン等が例示できる。これらの中でも特に好ましいものは、脂肪族及び脂環式ジアミンである。ここでは、上記ジアミンの塩が用いられ、ジアミンの部分中和塩(モノ塩)あるいは完全中和塩(ジ塩)のいずれであってもよいが、部分中和塩を用いた方が、反応効率が高く好ましい。
【0045】
前記ジアミンは、好ましくは酸の部分中和塩として用いられるが、そのような酸としては、カルボン酸より酸強度が大きい酸を選択することが望ましい。具体的には、硫酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸等のスルホン酸類;塩酸、フッ化水素酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸等のハロゲノ酸;硝酸、ホウ酸、リン酸等がある。これらのうち塩酸やトルエンスルホン酸が好ましい。
ジアミン化合物の塩を製造するに当たっては、上記ジアミンと上記酸のモル比は、ジアミンの全アミノ基を基準にして酸の当量で50〜100%の中和度に相当する塩の形となることが好ましい。50%未満であると反応時に架橋やゲル化が起こりやすくなる。また100%を超えると反応に長時間を要し経済的に不利となる。より好ましい範囲は50〜80%である。
【0046】
ジアミンの塩は、相当するジアミンと相当する酸の中和反応により容易に調製することができる。例えば、酸のアルコール溶液に、ジアミンを滴下し必要に応じ濃縮し、アルコールで再結晶して単離して原料として用いてもよい。また、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMI)、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルスルホン、ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、ヘキサメチレンリン酸−トリアミド、テトラメチル尿素のような非プロトン性極性溶剤中でジアミンと酸の部分中和塩を形成させて、そのまま反応に用いてもよい。操作上、後者の方が簡便で好ましい。
【0047】
化合物(a)は、例えば前記化合物(b)又は化合物(c)と、前記ジアミンとを、常法により、反応させることで得られる。
化合物(b−1)又は化合物(b−2)と上記ジアミンとの反応は、イミド化反応であり、化合物(b−3)と上記ジアミンとの反応は酸アミド化反応である。
反応の方法としては特に制限はないが、例えば上記化合物(b)と、上記ジアミンの塩とを反応(イミド化反応又は酸アミド化反応)させた後、塩基と接触させて脱酸することにより、化合物(a)を効率よく製造できる。
【0048】
前記イミド化反応又は酸アミド化反応は、スクリュー押出機等を用いて、無溶剤溶融状態で行うこともできるが、反応を均一ならしめる目的で不活性溶媒を使用することが望ましい。そのような目的で使用できる溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン、シメン、エチルトルエン、プロピルベンゼン、ジエチルベンゼン等の芳香族炭化水素;メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、エチルシクロペンタン、メチルシクロヘキサン、1,1−ジメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素;ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、メチルヘプタン、3−エチルヘキサン、トリメチルペンタン等の脂肪族炭化水素;DMI、テトラメチル尿素、ジメチルスルホン、ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、ヘキサメチレンリン酸トリアミド、DMSO、N−メチル−2−ピロリドン等の非プロトン性極性溶媒が挙げられる。
【0049】
イミド化反応又は酸アミド化反応は、極性のかなり異なった反応基質同士を反応させることになるので、一般には非極性溶媒と極性溶媒を同時に使用することが好ましい。
溶媒の使用量は、特に制限はなく状況に応じて適宜選定すればよいが、通常は原料として使用する化合物(b−1)〜(b−3)(即ち、アミノ基と反応する置換若しくは非置換無水コハク酸基又はカルボキシル基を官能基として有する化合物)に対し、質量比で0.3〜20倍、好ましくは1倍〜10倍の範囲で定めればよい。0.3倍より少ない場合は、希釈効果が不十分となるため反応混合物が高粘度になり、取り扱い上、困難をきたす場合がある。一方、20倍よりも多くしても、使用量に相当する効果の向上は特に認められず、経済的に不利となる。
【0050】
イミド化反応又は酸アミド化反応は特に触媒を必要としないが、使用する場合は、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、1,8−ジアザビシクロ(5.4.0)ウンデセン−7等の3級アミンが好適である。
また、イミド化反応又は酸アミド化反応では、原料の化合物(b)と、ジアミンの塩との使用比率は、使用する原料の種類や状況により異なり、一義的に定めることはできないが、通常は原料中に含まれる置換若しくは非置換無水コハク酸基又はカルボキシル基1モルに対し、ジアミンの未中和アミノ基準で1.0〜10倍、好ましく1.05〜5.0倍である。1.0倍未満であると反応完結後もイミド化又は酸アミド化されずに残る無水コハク酸基又はカルボキシル基が存在しやすくなる。その結果、後工程である脱酸工程で再生される第一級アミノ基と該無水コハク酸基又はカルボキシル基が反応してアミド架橋によりゲル化を起こし、本発明の効果を覆す恐れがある。一方、モル比が10倍を超えるとイミド化や酸アミド化の反応自体は速く進行する利点はあるが、反応試薬を多量に要するため、経済的に不利となる。
【0051】
イミド化、酸アミド化方法において、反応温度及び反応時間は、使用する溶媒及び触媒の有無によって異なるが、通常100〜300℃、好ましくは130〜260℃で1〜20時間である。反応温度が100℃未満であると反応に長時間を要することがあり、300℃を超えると反応物の着色と原料化合物の熱分解による物性の低下をきたすようになる。
【0052】
また、反応原料の仕込み順序等は特に制限はなく、様々な態様で行うことができるが、通常は、原料である化合物(b)を前記溶媒に均一に溶解した後、前記ジアミンと酸の塩の粉末又は溶液を徐々に加えるか、あるいはその逆の順序がとられる。この間の仕込みは、溶媒の加熱還流下に行われてもよい。
反応は、水の生成を伴いながら進行するので、生成した水が用いた溶媒と共に共沸してくる。従って、この共沸する水をディーン・スターク分水器等により反応系外へ除去することにより、効率的に反応を進行させることができる。
イミド化反応の完結は、共沸水がもはや認められなくなること、及び反応混合物を一部採取して赤外吸収スペクトルの測定により1700cm−1付近のイミドのカルボニルの吸収強度の増大がもはや認められなくなったことで確認できる。また、酸アミド化反応の完結は、共沸水がもはや認められなくなること、及び反応混合物を一部採取して赤外吸収スペクトルの測定により1650cm−1付近の酸アミドのカルボニルの吸収強度の増大がもはや認められなくなったことで確認できる。
【0053】
かくして得られた反応混合物中には、第一級アミノ基がイミド結合又は酸アミド結合を介して結合した化合物(a)の塩が含まれる。この反応混合物をそのままで、又は必要に応じメタノール、イソプロパノール、イソブタノール、ヘキサン等の非溶媒に投入して粉末化した後、塩基の水溶液、又は必要に応じて塩基のメタノール/水混合溶液と接触させることにより脱酸し、遊離のアミンに変換することができる。
脱酸に用いられる塩基の具体例を挙げれば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、重炭酸ナトリウム、重炭酸カリウム、アンモニア、メチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン等水溶性塩基であればよい。そのうち、経済的な理由から、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウムが好ましい。
【0054】
このようにして化合物(a)を得ることができる。このような化合物(a)として、上記(b−1)と上記式(VI)で表されるジアミンとを反応させることにより得られる、下記式(I)で表される反復単位を70〜99.98モル%と、下記式(II)で表される反復単位を0.02〜30モル%含有する化合物が好ましい。また、下記式(I)で表される反復単位を75〜99.70モル%と、下記式(II)で表される反復単位を0.30〜25モル%含有することがより好ましく、下記式(I)で表される反復単位を80〜99.50モル%と、下記式(II)で表される反復単位を0.50〜20モル%含有することがさらに好ましい。
【0055】
【化5】
【0056】
なお、式(I)、(II)中、R及びRは各々独立に水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数3〜8のシクロアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数1〜4のアルコキシ基、又は炭素数〜18のアルコキシカルボニル基を示す。
アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等が挙げられる。
シクロアルキル基としては、シクロヘキシル基、シクロオクチル基、シクロデシル基等が挙げられる。
アリール基としては、フェニル基、p−メチルフェニル基、m−メチルフェニル基等が挙げられる。
アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等が挙げられる。
アルコキシカルボニル基としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基等が挙げられる。
アルキルカルボキシル基としては、メチルカルボキシル基、エチルカルボキシル基、プロピルカルボキシル基、ブチルカルボキシル基等が挙げられる。
【0057】
及びRは各々独立に水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を示す。
アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。
【0058】
は炭素数1〜12のアルキレン基(好ましくは炭素数1〜8のアルキレン基)、炭素数5〜17のシクロアルキレン基(好ましくは炭素数6〜10のシクロアルキレン基)、炭素数6〜12のアリーレン基、炭素数7〜12のアリールアルキレン基(好ましくは炭素数8〜10のアリールアルキレン基)又は炭素数数4〜30のポリオキシアルキレン基(好ましくは炭素数4〜15のポリオキシアルキレン基)を示す。
アルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、テトラメチレン基、ヘキサメチレン基等が挙げられる。
シクロアルキレン基としては、シクロヘキシレン基、メチレンシクロヘキシルメチレン基等が挙げられる。
アリーレン基としては、フェニレン、オキシジフェニレン等が挙げられる。
アリールアルキレン基としては、キシリレン等が挙げられる。
ポリオキシアルキレン基としては、ポリオキシメチレン基、ポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基等が挙げられる。
なお、R〜Rは、それぞれ反復単位ごとに同一でもよいし、異なってもよい。
【0059】
上記式(II)で表される反復単位の含有量が0.02モル%未満であると炭素繊維との接着性が不十分となり、30モル%を超えるとポリオレフィン系樹脂との親和性が不十分となる。
上記式(II)の骨格を導入するための化合物としては、無水マレイン酸が好ましい。
上記式(I)で表される反復単位と、上記式(II)で表される反復単位とで構成される化合物(a)においては、本発明の効果を損なわない範囲内で、上記式(I)で表される反復単位や、上記式(II)で表される反復単位以外の反復単位を含んでもよい。
【0060】
化合物(a)の分子量については特に制限がないが、分子量の尺度である極限粘度(135℃のテトラリン中で測定)が0.05〜1.0dL/gであることが好ましい。
極限粘度が1.0dL/gを超えると、単位質量あたりのポリマーの分子数が減少し、界面接着性を十分に強くすることができなくなる。一方、極限粘度が0.05dL/g未満であると、炭素繊維と樹脂の界面相におけるカップリング効果が小さくなり、十分な接着性を得ることができなくなる。
【0061】
また、化合物(a)は、アミノ基含有率(mol%)が、0.02〜30mol%であることが好ましく、より好ましくは0.05〜5.0mol%である。
アミノ基含有率が0.02mol%未満であると、炭素繊維束の単繊維表面との相互作用が不十分であり、高い界面接着性が得られにくくなる。アミノ基含有率が30mol%を超えると、ポリオレフィン系樹脂との親和性が不十分となり、その結果、分子との絡み合いが不十分となり、界面接着性を強くすることが困難となる。
【0062】
なお、本発明においては、化合物(a)として、ポリ−N−ビニルアセトアミド等を用いることもできる。また、ポリ−N−ビニルアセトアミドは、エチレン、プロピレン、ブテン等との共重合体でもよく、さらに共重合体は、ランダム共重合体でもブロック共重合体いずれでもよい。
【0063】
本発明に用いる炭素繊維としては特に限定されず、単繊維でも複数本まとめた炭素繊維束であってもよいが、円周長さ2μm×繊維軸方向長さ1μmの領域での最高部と最低部の高低差が40nm以上となる皺を表面に複数有する単繊維を複数本まとめた炭素繊維束が好ましい。通常は、平均直径5〜8μm程度の単繊維が1000〜50000本程度まとまった形態をなしている。
円周長さ2μm×繊維軸方向長さ1μmの領域での最高部と最低部の高低差は、単繊維の直径の10%以下であることが好ましい。
【0064】
また、炭素繊維束の単繊維表面に存在する皺の深さは、円周長さ2μm×繊維軸方向長さ1μmの領域での最高部と最低部の高低差によって規定されるものである。単繊維表面の皺とは、ある方向に1μm以上の長さを有する凹凸の形態を指すものである。またその方向には特に限定はなく、繊維軸方向に平行、垂直、又はある角度を有するものでもよい。炭素繊維束の一般的な製造方法から、通常の炭素繊維表面には繊維軸方向にほぼ平行な皺が存在する。高低差は、走査型原子間力顕微鏡(AFM)を用いて単繊維の表面を走査して得られる表面形状を基に見積もることができる。
【0065】
炭素繊維束の単繊維は、断面の長径と短径との比(長径/短径)が1.03〜2.00であることが好ましく、1.05〜1.70が特に好ましい。長径/短径が1.03より小さいと、サイジング処理後、サイジング剤により単繊維同士の接着が強く、樹脂との混合・含浸時の単繊維へのバラケ性が悪くなり、均一に分散した成型品が得られなくなる場合がある。一方、長径/短径が2.00より大きいと、単繊維同士の接着が弱く、バラケ易い炭素繊維束となり、所定長さの切断工程の安定性、切断後の炭素繊維束の形態安定性が悪くなる場合がある。
【0066】
このような単繊維を複数有する炭素繊維束としては、例えば、三菱レイヨン社製のTR50S、TR30S、TRH50、TR40、MR60H(以上、商品名)等が挙げられる。
なお、炭素繊維束を構成する単繊維としては、アクリロニトリル重合体や、石油、石炭から得られるピッチ等を繊維化し炭素化することで得られるものである。後述するようなサイジング剤でサイジング処理される前の炭素繊維束は、炭素化処理後のもの、電解酸化処理して表面に酸素含有官能基を導入したものや、詳しくは後述するがプレサイジング処理された状態のものも使用できる。
【0067】
炭素繊維束は、連続繊維の状態でもよく、所定の長さに切断された状態でもよい。連続繊維の状態の炭素繊維束の場合、目付けが0.2〜15g/mであることが好ましく、より好ましくは0.4〜10g/mであり、特に好ましくは0.8〜8g/mである。炭素繊維束の目付けが0.2g/m未満であると、経済的に不利である。一方、目付けが15g/mを越えると、サイジング剤水分散液の炭素繊維束への浸透が完全に行われにくくなり、形状の安定した炭素繊維束を製造することが困難となる場合がある。また、本発明の変性炭素繊維束を用いて炭素繊維含有樹脂ペレットを製造する際(ペレット製造工程)に、樹脂含浸槽内での変性炭素繊維束内への樹脂の含浸が均一にならず、未含浸部が生じてしまうことがある。
【0068】
一方、所定の長さに切断された状態の炭素繊維束の場合、目付けが0.4〜15g/mであることが好ましく、より好ましくは0.6〜10g/mであり、特に好ましくは0.8〜8g/mである。炭素繊維束の目付けが0.4g/m未満であると、経済的に不利であり、更にペレット製造工程での変性炭素繊維束の導入工程通過性を悪化させる場合がある。一方、目付けが15g/mを越えると、サイジング剤水分散液の炭素繊維束への浸透が完全に行われにくくなり、形状の安定した炭素繊維束を製造することが困難となる場合がある。
【0069】
炭素繊維束の切断方式としては特に制限はないが、ロータリーカッター方式等が好適である。また、切断長(炭素繊維束の長さ)は、2〜30mmが好ましく、より好ましくは4〜24mmであり、特に好ましくは6〜20mmである。ロータリーカッター方式では、用いる装置の歯先間隔を調節することにより切断長を調整することができる。
ロータリーカッター方式での切断に際しては、炭素繊維束の厚みが厚くなり過ぎると切り損じを生じたり、ロータに炭素繊維束が巻き付いて操作不能になったり、切断後の形状不良が生じたりするので、炭素繊維束の厚みは薄い方が有利である。また、炭素繊維束の目付けが1.5g/mを超える太目付けの炭素繊維束の場合、炭素繊維束をできるだけ開繊させ、炭素繊維束内部までサイジング剤水分散液を均一に付着させることが好ましい。従って、ガイドロール、コームガイド、スプレッダーバー等を用いて、炭素繊維束の幅/厚みが大きくなるように制御しながら、かつ炭素繊維束には実質的に撚りの無いように走行させることが好ましい。
【0070】
ただし、所定長さに切断された炭素繊維束は、幅が広くなると繊維配向方向に沿って縦割れし易くなり、製造中や製造後の使用時にその形態を維持することが困難な傾向にある。このことは特に太目付けの炭素繊維束において顕著である。従って、炭素繊維束の幅と厚みとの比(幅/厚み)が3〜10になるように、ロータリーカッターに付随するガイドの幅を調節し、炭素繊維束の幅を制御することが好ましい。幅/厚みが3以上であれば、ロータリーカッターでの切断工程でのミスカットの発生を抑制することできる。一方、幅/厚みが10を超えると、切断時のミスカットが発生し難くなるものの、炭素繊維束の厚みが薄くなりすぎて切断後に炭素繊維束の縦割れが生じ易くなり、後の工程通過性が悪化する恐れがある。また、太目付けの炭素繊維束を汎用タイプ並みに薄く広げて切断するには、同時に処理可能な炭素繊維本数が減少し、その減少分を補うためにカッターの幅広化或いは処理速度の高速化等が必要となり、設備面の負荷や生産効率の低下を招く恐れがある。
【0071】
なお、炭素繊維束の切断は、炭素繊維束にサイジング剤水分散液を付着させた後、湿潤状態にある炭素繊維束に対して行うのが好ましい。これは、サイジング剤水分散液の表面張力による収束効果と、切断時の衝撃性のせん断力を湿潤状態の柔軟な状態で吸収して繊維割れを防ぐことを利用したものである。この切断時においては、炭素繊維束の含水率が20〜60質量%、特に25〜50質量%の湿潤状態であると好ましい。含水率が20質量%未満であると、切断時に繊維割れや毛羽が発生しやすくなる恐れがある。また、含水率が60質量%を超えると、単繊維表面に水が過剰に付着した状態となるため、水の表面張力により単繊維が丸く収束し、切断時にミスカットや刃の目詰まりの発生頻度が高くなる恐れがある。また、必要に応じて、含水率を調整するために、切断前に水やサイジング剤水分散液を用いて、追加処理を行ってもよい。含水量は所定の長さに切断された炭素繊維束を、110℃で1時間乾燥させ、その乾燥前後の質量変化分を含水量として測定する。
【0072】
切断後に炭素繊維束を乾燥する方法としては、熱風乾燥法等が挙げられる。また、熱風乾燥法を採用する場合、水分の蒸発効率を向上させると共に、炭素繊維束同士の接着を防止するために、振動させた状態で移送しながら乾燥を行うことが好ましい。なお、乾燥時の振動が強すぎると、繊維割れが発生し易くなり、炭素繊維束の幅と厚みとの比(幅/厚み)が3未満の炭素繊維束の割合が多くなる。また、振動が弱すぎると、繊維同士の擬似接着が起こり、団子状になってしまう。従って、適切な振動条件に設定する必要がある。また、細分化された炭素繊維束を振るい落とすだけでなく、熱風の通りをよくするために、メッシュ振動板上を移送させながら、振動乾燥することがより好ましい。また、乾燥効率を向上させるために、赤外線放射等の補助手段を併用することもできる。
【0073】
本発明で用いる変性炭素繊維は、上述した炭素繊維の単繊維や炭素繊維束の表面に、化合物(a)を0.2〜5.0質量%付着させることで得られる。
本発明においては、化合物(a)を炭素繊維束に付着させた後、200〜300℃で5秒〜3分熱処理を施すことが好ましい。熱処理を施すことにより、炭素繊維束の表面に付着した化合物(a)が穏やかな熱分解を受け、より強固に炭素繊維束の表面に結合するようになる。その結果、化合物(a)による炭素繊維束とオレフィン系樹脂とのカップリング作用が向上し、オレフィン系樹脂との界面接着性により優れた変性炭素繊維束とすることができる。
【0074】
熱処理時間は、5秒〜3分が好ましい。熱処理時間が5秒未満であると、上述した熱分解が不十分となる恐れがあり、カップリング作用の向上効果が十分に得られにくくなる場合がある。一方、熱処理時間が3分を超えると、熱分解の程度が過度となり、分子量の低下や付着物の分解飛散が顕著なものとなり、カップリング作用の低下を招く恐れがある。より好ましい熱処理条件は、200〜300℃で5秒〜3分であり、更に好ましくは、200〜260℃で15秒〜3分であり、特に好ましくは、220〜240℃で20秒〜40秒である。
【0075】
熱処理を施す際には、熱風式乾燥機、パネルヒーター乾燥機、マッフル炉、ロール式乾燥機等を用いることができる。熱処理方法としては、炭素繊維束を連続で上記乾燥機に通して行うこともでき、また管状のものに炭素繊維束を巻きつけ、これらを熱風乾燥機やパネル乾燥機にてバッチ処理を行うこともできる。好ましい熱処理方法は、均一な熱処理が可能な連続処理である。
熱処理の雰囲気は特に制限はなく、空気中、窒素中、あるいは不活性ガス中で処理することができる。
【0076】
化合物(a)を炭素繊維束に付着させるに当たっては、サイジング剤として化合物(a)を単独で、又は化合物(a)を他のサイジング剤とともに水に溶解又は分散させたサイジング剤水分散液を調製し、該サイジング剤水分散液を炭素繊維束に付着させる方法(サイジング処理)が好ましい。サイジング処理により、炭素繊維束の収束性を高めることが可能となると同時に、得られる変性炭素繊維束とポリオレフィン系樹脂との親和性を高めることが可能となる。
化合物(a)の付着量は、上述したように、サイジング剤水分散液の固形分濃度を調整することにより、調節できる。
【0077】
また、サイジング処理によりサイジング剤水分散液を炭素繊維束の表面に付着させた後、乾燥処理を施し、さらに熱処理を施すことが好ましい。乾燥処理を施すことにより、炭素繊維束に付着したサイジング剤水分散液中の水分を熱処理の前に蒸発させることができ、化合物(a)の熱分解物が水分とともに飛散するのを抑制できる。従って、熱処理の前に乾燥処理を施すことで、より強固に安定して化合物(a)を炭素繊維束の表面に付着できる。乾燥処理は、炭素繊維束に付着したサイジング剤水分散液中の水分を熱処理の前に蒸発させることができれば、どんな方法でもよいが、100〜200℃で乾燥処理を行うこともできる。
【0078】
サイジング剤水分散液の濃度は特に限定はないが、サイジング剤の濃度で5〜60質量%となるように水で希釈するのが好ましい。
また、サイジング剤水分散液には、補助成分としてオレフィン系熱可塑性エラストマー樹脂を含有させてもよい。オレフィン系熱可塑性エラストマー樹脂は、炭素繊維束に十分な収束性とドレープ性を付与するものである。またポリオレフィン系樹脂との十分な親和性を確保することができる。
オレフィン系熱可塑性エラストマー樹脂としては、水添スチレン系熱可塑性エラストマー、エチレンプロピレンジエンモノマー共重合体等が挙げられる。
【0079】
オレフィン系熱可塑性エラストマーは、ASTM D1525−70に準じて測定されるビカット軟化点が120℃以下であることが好ましく、より好ましくは110℃以下であり、特に好ましくは90℃以下である。これは、炭素繊維束の単繊維表面にサイジング剤水分散液を付着させ、その後水分を蒸発させる工程(乾燥処理)が100〜200℃で行われるのに対し、その際オレフィン系熱可塑性エラストマー樹脂が十分に軟化している方が、乾燥後の炭素繊維束の収束性が良好となるためである。
化合物(a)とオレフィン系熱可塑性エラストマーは、上述のような重要な役割を担っていることから、その役割を効果的に発現させるために、それぞれ独立して最低の含有量が決定される。これらは質量比(化合物(a)/オレフィン系熱可塑性エラストマー)で15/1〜1/1であることが好ましい。
【0080】
サイジング処理を行う際は、工業的な生産を考慮すると、安全面及び経済面の点から、サイジング剤が水に分散した水性エマルジョンを用いるのが好ましい。その場合、構成成分を水に均一に分散させる目的で、界面活性剤が乳化剤として用いられる。
乳化剤としては特に限定されるものではなく、アニオン系、カチオン系、ノニオン系乳化剤等を用いることができる。中でも、アニオン系又はノニオン系乳化剤が、乳化性能及び低価格の点から好ましい。また、後述するように、水性エマルジョンにシランカップリング剤を添加する場合、シランカップリング剤の水中での安定性、さらには成形品の物性安定性の点からノニオン系乳化剤が特に好ましい。
【0081】
ノニオン系乳化剤としては、ポリエチレングリコール型(高級アルコールエチレンオキサイド付加物、アルキルフェノールエチレンオキサイド付加物、脂肪酸エチレンオキサイド付加物、ポリプロピレングリコールエチレンオキサイド付加物等)、多価アルコール型(グリセリンの脂肪酸エステル、ソルビトール脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミド等)等の乳化剤が挙げられる。ただし、ノニオン系乳化剤のHLBは通常8〜20のものを用いる。HLBがこの範囲外のノニオン系乳化剤を用いると、安定な水性エマルジョンが得られないことがある。
【0082】
アニオン系乳化剤としては、カルボン酸塩型(オレイン酸カリウム、オレイン酸ナトリウム等)、スルホン酸塩型(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸アンモニウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム等)、硫酸エステル塩型(ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム等)等が挙げられる。
【0083】
乳化方法としては、攪拌翼を備えたバッチを用いる方法、ボールミルを用いる方法、振盪器を用いる方法、ガウリンホモジナイザ等の高せん断乳化機を用いる方法等が挙げられる。
また、前記乳化剤は、サイジング剤を乳化できれば特に制限はないが、通常5〜30質量%程度添加すればよい。
【0084】
サイジング剤が分散した水性エマルジョンには、必要に応じて、他のサイジング剤エマルジョン(例えば酢酸ビニル樹脂エマルジョン、ウレタン樹脂エマルジョン、アクリル樹脂エマルジョン、エポキシ樹脂エマルジョン等)や、シランカップリング剤、帯電防止剤を含有させてもよい。さらに潤滑剤や平滑剤を含有させてもよい。
シランカップリング剤としては、分子中にエポキシ基、ビニル基、アミノ基、メタクリル基、アクリル基、及び直鎖アルキル基のいずれか1つを有するシランカップリング剤等が使用できる。シランカップリング剤は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いることもできる。シランカップリング剤の中でも、特に、分子中にエポキシ基、アミノ基、直鎖アルキル基を有するエポキシシラン系、アミノシラン系、直鎖アルキルシラン系が好適である。
【0085】
エポキシシラン系シランカップリング剤のエポキシ基としては、グリシジル基、脂環式エポキシ基等が好適であり、かかるシランカップリング剤としては、日本ユニカー社製のA−186、A−187、AZ−6137、AZ−6165(以上、商品名)等が具体的に挙げられる。
アミノシラン系シランカップリング剤の例としては、1級アミン、2級アミン或いはその双方を有するものが挙げられ、日本ユニカー社製のA−1100、A−1110、A−1120、Y−9669、A―1160(以上、商品名)等が具体的に挙げられる。
直鎖アルキルシラン系シランカップリング剤の直鎖アラルキル基の例としては、ヘキシル基、オクチル基、デシル基を有するものが挙げられ、かかるシランカップリング剤としては、日本ユニカー社製のAZ−6171、AZ―6177(以上、商品名)、信越シリコーン(株)製KBM−3103C(商品名)等が具体的に挙げられる。
【0086】
シランカップリング剤の添加量は、サイジング剤が分散した水性エマルジョンの水以外の総成分量(総固形分量)100質量%に対して、5質量%以下が好ましく、より好ましくは4質量%以下である。添加量が5質量%を超えると、シランカップリング剤の架橋が進行し、炭素繊維束が硬く脆弱となり、縦割れが発生しやすくなる。また、界面接着性を低下させる原因となる恐れがある。
【0087】
サイジング剤水分散液を用いてサイジング処理する方法の例としては、サイジング剤水分散液に炭素繊維束を接触させる方法が挙げられる。具体的には、サイジング剤水分散液中にロールの一部を浸漬させ表面転写した後、このロールに単繊維からなる炭素繊維束を接触させてサイジング剤水分散液を付着させるタッチロール方式、単繊維からなる炭素繊維束を直接サイジング剤水分散液中に浸漬させ、その後必要に応じてニップロールを通過させてサイジング剤水分散液の付着量を制御する浸漬方式等が挙げられる。
なお、タッチロール方式の場合、炭素繊維束を複数のタッチロールに接触させ、複数段階でサイジング剤水分散液を付着させる方式が、サイジング剤の付着量や束幅制御の観点から特に好適である。
サイジング処理の後は、上述したように乾燥処理及び熱処理を順次行うのが好ましい。
【0088】
サイジング処理の前に、プレサイジング剤で炭素繊維束をプレサイジング処理してもよい。
なお、本発明におけるプレサイジング処理とは、炭素繊維束にプレサイジング剤を付着させる処理のことである。このプレサイジング処理により、炭素繊維束の収束性を高めると同時に、炭素繊維束と前述したサイジング剤との親和性を高めることが可能となる。
【0089】
プレサイジング剤としては、エポキシ樹脂からなるプレサイジング剤を用いることができる。かかるプレサイジング剤は、炭素繊維の単繊維との親和性や取り扱い性に優れ、少量で単繊維を収束させることができることから、好適である。また、かかるプレサイジング剤でプレサイジング処理された炭素繊維束は、後のサイジング処理の工程において、ローラへの炭素繊維束の巻き付きが発生しない等、優れた工程通過性を有するものとなる。また、プレサイジング剤処理によりサイジング剤との濡れ性も良好となり、サイジング剤を均一に付着させることが可能になる。
【0090】
プレサイジング剤で炭素繊維束をプレサイジング処理するに際しては、通常、水溶性又は水分散性エポキシ樹脂を水に溶解又は分散させた水系プレサイジング剤溶液を用いる。
水溶性又は水分散性のエポキシ樹脂としては特に限定されるものではなく、公知のものを用いることができる。また、水系で使用できるものであれば、変性エポキシ樹脂を用いることもできる。これらエポキシ樹脂は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いることもできる。また、前述したサイジング処理の工程における通過性等の観点から、エポキシ樹脂は、室温で液状のものと固状のものとを併用することがより好ましい。
【0091】
水溶性のエポキシ樹脂としては、エチレングリコール鎖の両端にグリシジル基を有するものや、A型、F型、S型等のビスフェノールの両端にエチレンオキサイドが付加され、その両端にグリシジル基を有するもの等が挙げられる。また、グリシジル基の代わりに、脂環式エポキシ基を有するものを用いることもできる。
水分散性のエポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン骨格型エポキシ樹脂、脂肪族系エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂(例えば大日本インキ化学工業社製のHP7200(商品名))、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、DPPノボラック型エポキシ樹脂(例えばジャパンエポキシレジン社製のエピコート157S65(商品名))等が挙げられる。また、グリシジル基の代わりに、脂環式エポキシ基を有するものを用いることもできる。
【0092】
水分散性のエポキシ樹脂からなるプレサイジング剤を用いる場合には、さらに乳化剤が添加された水性エマルジョンを用いて、プレサイジング処理するのが好ましい。乳化剤としては特に限定されるものではないが、アニオン系、カチオン系、ノニオン系乳化剤等を用いることができる。中でも、乳化性能が良好で、また低価格であることから、アニオン系又はノニオン系乳化剤が好ましい。また、サイジング剤の安定性を阻害しないことから、ノニオン系乳化剤が特に好ましい。
【0093】
プレサイジング処理により炭素繊維束に付着するプレサイジング剤の付着量は、炭素繊維束全体に対して0.1〜2.0質量%が好ましく、0.2〜1.2質量%がより好ましい。プレサイジング剤の付着量が上記範囲内であれば、炭素繊維の単繊維表面を覆うプレサイジング剤の分子層が1〜3層程度と好適なものとなる。付着量が0.1質量%未満であると、プレサイジング剤を付着させる効果が発現せず、工程通過性、取り扱い性、サイジング剤との親和性に優れた炭素繊維束が得られなくなる場合がある。一方、付着量が2.0質量%を超えると、単繊維間にプレサイジング剤が介在してブリッジングが発生し、単繊維同士の擬似接着により、単繊維間の動きが拘束され、炭素繊維束の広がり性が低下しやすくなる。その結果、炭素繊維束の均一性が損なわれる恐れがある。また、後のサイジング処理の工程で付着させるサイジング剤の浸透性が阻害され、均一な炭素繊維束を得ることが難しくなる等、炭素繊維束としての特性が悪化する恐れもある。プレサイジング剤の付着量は、JIS R7604に準拠して、メチルエチルケトンによるソックスレー抽出法によりプレサイジング処理後の炭素繊維束のプレサイジング剤付着量を測定する。
【0094】
本発明で用いる変性炭素繊維は、炭素繊維の単繊維や炭素繊維束に、アミノ基含有変性樹脂(化合物(a))が0.2〜5.0質量%付着した変性炭素繊維である。変性炭素繊維は、変性炭素繊維の単繊維でも変性炭素繊維束でもよい。
化合物(a)は、その分子中のアミノ基が炭素繊維表面との相互作用を増強する一方、化合物(a)と酸変性ポリオレフィン樹脂との強い相互作用及びこれらの骨格のポリオレフィン鎖が分子の絡み合いにより、ポリオレフィン系樹脂と強固な結合を生じさせる、有効なカップリング剤として働く成分である。従って化合物(a)が炭素繊維の表面に0.2〜5質量%付着した本発明の変性炭素繊維は、ポリオレフィン系樹脂との良好な界面接着性を発現でき、複合化に適している。
特に、化合物(a)を炭素繊維の表面に0.2〜5質量%付着させ、その後に200〜300℃で5秒〜3分熱処理を施すことで得られる変性炭素繊維をポリオレフィン系樹脂と複合化すれば、引張破壊応力、曲げ強度、衝撃強度、曲げ弾性率により優れた熱可塑性樹脂組成物が得られる。
【0095】
本発明の組成物における成分(A)〜(C)の配合割合(質量比)は、(A):(B)は0〜99.5:100〜0.5である。(B)が0.5未満の場合は、これら成分の複合効果が十分得られない恐れがある。複合効果を効率よく得るためには、好ましくは80〜99:20〜1である。
また、[(A)+(B)]:(C)は、質量比で、40〜97:60〜3であり、好ましくは50〜95:50〜5である。(C)が、3未満であると成形品の物性向上効果が不十分となる恐れがある。また、60を超えると、それ以上の著しい向上効果が得られないとともに、ペレット製造時の工程安定が低下し、またペレットに斑等が生じ、成形品の品質安定性が悪化する恐れがある。
【0096】
その他の成分として、用途に応じて、各種添加剤、例えば、酸化防止剤、着色剤、耐電防止剤、安定剤、発泡剤等を添加することができる。
さらに必要によりガラス繊維、タルク、マイカ、炭酸カルシウム等の無機充填剤を添加することができる。
【0097】
本発明の繊維強化樹脂組成物は長繊維ペレットであることが好ましく、例えば以下の方法で製造できる。長繊維強化樹脂ペレットは、数千本からなる変性炭素繊維(C)束を含浸ダイスに導き、フィラメント間に溶融したポリオレフィン樹脂(A)及び酸変性ポリオレフィン樹脂(B)を均一に含浸させた後に必要な長さに切断することによって得られる。例えば、押出機先端に設けられた含浸ダイス中に押出機より溶融樹脂を供給する一方、連続状変性炭素繊維束を通過させ、変性炭素繊維束に溶融樹脂を含浸させたのちノズルを通過して引き抜き、所定の長さにペレタイズする方法がとられる。
【0098】
短繊維ペレットは(A)〜(C)成分を溶融混練して製造できる。またペレット長は好ましくは3〜100mm、より好ましくは5〜50mmである。
【0099】
本発明の樹脂組成物は、本発明の炭素繊維強化樹脂組成物と、熱可塑性樹脂(希釈樹脂)とを含む。熱可塑性樹脂は、炭素繊維強化樹脂組成物に含まれるポリオレフィン樹脂(A),(B)と同じでも異なってもよい。希釈樹脂は、特に制限はないが、上記ポリオレフィン樹脂が好ましい。樹脂組成物に含まれる変性炭素繊維(C)含有量は、3〜60質量%であり、好ましくは5〜50質量%である。
希釈樹脂は、樹脂組成物全体に占める変性炭素繊維(C)の含有量が上記の範囲に含まれるように、炭素繊維強化樹脂組成物100質量部に対し、通常0〜1900質量部加える。好ましくは、10質量部から500質量部加える。
【0100】
樹脂組成物は、好ましくは、ペレット状の炭素繊維強化樹脂組成物と、ペレット状の希釈樹脂を混合して製造する。
【0101】
本発明の成形品は、上記の炭素繊維強化樹脂組成物又は樹脂組成物から製造する。
成形品は、炭素繊維強化樹脂組成物又は樹脂組成物を用いて射出成形法、押出成形法、中空成形法、圧縮成形法、射出圧縮成形法、ガス注入射出成形法、発泡射出成形法等の公知の成形法により製造できる。
【0102】
また、成形品は酸化防止剤、光安定剤、光吸収剤、金属不活性剤、顔料、ゴム類、充填剤等を含有してもよい。
【実施例】
【0103】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
なお、本実施例における各種特性の測定及び評価は、以下の方法により行った。
【0104】
(1)炭素繊維束の単繊維表面の皺の深さの測定
炭素繊維束の単繊維表面に存在する皺の深さは、円周長さ2μm×繊維軸方向長さ1μmの領域での最高部と最低部の高低差によって規定される。高低差は、走査型原子間力顕微鏡(AFM)を用いて単繊維の表面を走査して得られる表面形状を基に測定した。具体的には以下の通りである。
炭素繊維束の単繊維を数本試料台上にのせ、両端を固定し、さらに周囲にドータイトを塗り測定サンプルとした。原子間力顕微鏡(セイコーインスツルメンツ社製、「SPI3700/SPA−300(商品名)」)により、シリコンナイトライド製のカンチレバーを使用して、AFMモードにて単繊維の円周方向に2〜7μmの範囲を、繊維軸方向長さ1μmに渡り少しずつずらしながら繰り返し走査した。得られた測定画像を二次元フーリエ変換にて低周波成分をカットした後、逆変換を行った。そうして得られた単繊維の曲率を除去した断面の平面画像より、円周長さ2μm×繊維軸方向長さ1μmの領域での最高部と最低部の高低差を読み取って評価した。
【0105】
(2)炭素繊維束の単繊維断面の長径と短径との比(長径/短径)の算出
内径1mmの塩化ビニル樹脂製のチューブ内に測定用の炭素繊維束を通した後、これをナイフで輪切りにして試料とした。
ついで、試料を断面が上を向くようにしてSEM試料台に接着し、さらにAuを約10nmの厚さにスパッタリングしてから、走査型電子顕微鏡(PHILIPS社製、「XL20(商品名)」)により、加速電圧7.00kV、作動距離31mmの条件で断面を観察し、単繊維断面の長径及び短径を測定することで評価した。
【0106】
(3)ストランド強度、及びストランド弾性率の測定
JIS R7608に準拠して測定した。
【0107】
(4)サイジング剤の付着量の測定
SACMA法のSRM14−90に準拠し、熱分解法により、熱分解処理前後における質量差から炭素繊維束に付着したサイジング剤合計の量を測定し、熱分解処理前の炭素繊維束に対する付着率として、下記式(1)より付着量を求めた。
付着量(%)=100×(W1−W2)/W1 ・・・(1)
W1:熱分解処理前の炭素繊維の質量
W2:熱分解処理後の炭素繊維の質量
【0108】
(5)極限粘度[η]の測定
アミノ基含有変性樹脂の極限粘度[η]は、自動粘度計((株)離合社製、「VNR−53型」)を用いて測定した。溶媒には、酸化防止剤として2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール(以下、BHT)を1g/L添加したテトラリンを用い、ウベローデ型毛管粘度計で、測定温度135℃、試料濃度0.8〜1.6g/Lの条件で測定を行った。
【0109】
(6)アミノ基含有率の測定
アミノ基含有変性樹脂のアミノ基含有率は、Macromolecules、第26巻、2087−2088頁、(1993年)に記載された方法に準拠して測定した。
まず、アミノ基含有変性樹脂1.0g、p−キシレン50mL、ピリジン10mL、ベンゾイルクロライド5mLを、200mLの二口ナスフラスコに加え、窒素雰囲気下、140℃で6時間、加熱攪拌し、ポリマー溶液を得た。
次いで、得られたポリマー溶液を1Lのメタノールに加え十分に攪拌し、析出した固体部(ポリマー)を濾過回収した。更に、これをメタノールで数回洗浄した後、80℃で6時間真空乾燥した。こうして得られたポリマーを190℃でプレス成形した後、赤外吸収スペクトルを測定した。
アミノ基の定量には、アミノ基とベンゾイルクロライドの反応で生成したカルボニル基(C=O)の吸収(1645cm−1)と、ポリオレフィンに特有な吸収バンドとの吸光度の比を用いた。定量に際しては、ポリオレフインパウダーと種々量の1−ブチル(2−メチルプロピル)ベンズアミドのブレンド物(190℃、プレス成形品)の赤外吸収スペクトルより検量線を作成し、この検量線を使用した。
【0110】
(7)メルトフローレート(MFR)の測定
JIS K 7210に準拠し、温度230℃、荷重2.16kgの条件で測定した。
【0111】
(8)引張破壊応力の評価
JIS K 7161に従って測定した。
【0112】
(9)曲げ強さ、及び曲げ弾性率の評価
JIS K 7171に従って測定した。
【0113】
(10)シャルピー衝撃強さの評価
JIS K 7111従って測定した。
【0114】
製造例1
<アミノ基含有変性樹脂(化合物(a−1))の製造>
(1)エチレンジアミンのp−トルエンスルホン酸部分中和塩の調製
温度計、攪拌機、滴下ロート、還流冷却器を備えた内容積5Lのセパラブルフラスコに、メタノール1.5Lとp−トルエンスルホン酸・1水和物475g(2.5モル)を仕込み溶解した。氷浴で冷却しながら、エチレンジアミン750g(12.5モル)をメタノール1.5Lに溶解した液を、温度を10〜20℃に保つような速度で滴下した。滴下終了後、70℃に加熱し、次いで減圧にして、メタノール及び未反応のエチレンジアミンを留去したところ、663gの白色固体が析出した。
得られた白色固体を取り出し、トルエン1.5Lでスラリー状にして濾過し、更に0.5Lのトルエンで2回洗浄し、得られた白色粉末を減圧乾燥した。収量は540gであった。この白色粉末を、ブロモフェノールブルーを指示薬として0.5規定の塩酸で滴下したところ、4.21×10−3eq/gであり、エチレンジアミンのp−トルエンスルホン酸の一中和塩であることが確認された。
【0115】
(2)化合物(a−1)の調製
温度計、攪拌機、滴下ロート、ディーン・スターク分水器を備えた内容積5Lのセパラブルフラスコに、p−キシレン3L、エチレン−エチルアクリレート−無水マレイン酸(質量比:67.8/29.1/3.1)共重合体(質量平均分子量:Mw=50000、数平均分子量:20000)500gを仕込み、オイルバスを用い、加熱して140℃、p−キシレン還流下で溶解した。
ついで、(1)で調製したエチレンジアミンのp−トルエンスルホン酸部分中和塩75.0gを含む、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMI)の溶液390gを3時間かけて徐々に滴下した。この間、反応混合物はp−キシレン還流下の温度に保持され、イミド化の結果、生成し共沸してくる水をディーン・スターク分水器で系外へ除去した。
上記ジアミンの部分中和塩の滴下開始より10時間反応を続けた後、冷却し、反応混合物を25Lのメタノール中へ投入し、生成物を沈殿物として回収した。この沈殿物を、炭酸カリウム30gを含む水/メタノール(容積比1/1)溶液に一夜浸漬した後、濾別し、水及びメタノールで十分洗浄後、乾燥し、化合物(a−1)を得た。収量は500gであった。
こうして得られた化合物(a−1)の一部を190℃でプレス成形し、これの赤外吸収スペクトルを測定したところ、3400cm−1にアミノ基の吸収が、1775cm−1及び1695cm−1にはイミド環に基づく吸収が観測され、目的のアミノ基含有変性樹脂が得られていることが確認された。
また、得られた化合物(a−1)の極限粘度(135℃のテトラリン中で測定)は0.3dL/gであった。また、アミノ基含有率は、1.0mol%であった。
【0116】
製造例2
<変性炭素繊維束の製造>
(1)サイジング剤水分散液の調製
製造例1で得られたアミノ基含有変性樹脂(化合物(a−1))を用い、以下のようにしてサイジング剤水分散液を調製した。
まず、サイジング剤主成分であるアミノ基含有変性樹脂を粒子径20μm以下の粉体に粉砕し、この粉体とノニオン系界面活性剤(旭電化社製、「プルロニックF108(商品名)」)を、質量比(粉体/界面活性剤)80/20で混合し、サイジング剤とした。該サイジング剤を濃度が35質量%となるように、高せん断攪拌翼を有するホモミキサーにより水中に分散させた。引き続き、超高圧ホモジナイザー(みづほ工業(株)製、「マイクロフルイダイザー M−110−E/H」)に3回通過させ、安定な水乳化物(サイジング剤水分散液)を得た。
得られたサイジング剤水分散液中のサイジング剤の濃度は34質量%、平均粒子径は、0.2μmであった。
【0117】
(2)変性炭素繊維束(CF−1)の作製
炭素繊維束として、ポリアクリル繊維を原料とする炭素繊維束(三菱レイヨン社製、「TR50S-15L」、いずれもプレサイジング未処理品)を用いた。炭素繊維束の物性を表1に示す。
【0118】
【表1】
【0119】
アミノ基含有変性樹脂として化合物(a−1)を用いて調製したサイジング剤水分散液を、濃度が2.0質量%になるように希釈した液で満たしてあるフリーローラーを有する浸漬槽内に、炭素繊維束を浸漬させた後、150℃で1分間熱風乾燥処理してからボビンに巻き取り、変性炭素繊維束(CF−1)を得た。得られた変性炭素繊維束(CF−1)のサイジング剤の付着量を表2に示す。
【0120】
(3)変性炭素繊維束(CF−2)
先の変性炭素繊維束(CF−1)の製造において、ボビン巻きしてある炭素繊維束から、炭素繊維束(CF−1)を引き取り、マッフル炉にて230℃で25秒熱処理を行った後、再度ボビンに巻き取り、変性炭素繊維束(CF−2)を得た。熱処理の雰囲気は、空気中で実施した。得られた変性炭素繊維束(CF−2)のサイジング剤の付着量を表2に示す。
【0121】
(4)変性炭素繊維束(CF−3)
化合物(a)の代わりに、無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂(東洋化成社製、「H−1100P」、135℃のテトラリン中で測定した極限粘度[η]:0.58dl/g、無水マレイン酸含量:5.6質量%)を用いた以外は、先に示したサイジング剤水分散液の調製方法と同様にして、サイジング剤水分散液(濃度2.8質量%)を調製した。該サイジング剤水分散液で満たしてあるフリーローラーを有する浸漬槽内に浸漬させた以外は、変性炭素繊維束(CF−1)の製造と同様にして、変性炭素繊維束(CF−3)を得た。得られた変性炭素繊維束(CF−3)のサイジング剤の付着量を表2に示す。
【0122】
【表2】
【0123】
実施例1〜5、比較例1
表3に示す種類と配合量のポリオレフィン樹脂、酸変性ポリオレフィン樹脂及び変性炭素繊維束を用い、以下のようにして炭素繊維含有ペレットを製造した。
なお、表3に示す樹脂は、以下の通りである。
(1)ポリオレフィン樹脂(A)
PP−1:ポリプロピレン単独重合体(プライムポリマー社製、「J−3000GV」、MFR=30g/10分)
PP−2:ポリプロピレン単独重合体(プライムポリマー社製、「H−50000」、MFR=500g/10分)
(2)酸変性ポリオレフィン樹脂(B)
MPP−1:無水マレイン酸変性ポリプロピレン(東洋化成社製、「H−1100P」、135℃のテトラリン中で測定した極限粘度[η]:0.58dl/g、無水マレイン酸含量:5.6wt%)
【0124】
まず、表3に示す配合量にてPP−1、PP−2、MPP−1を混合し、280℃で溶融して押出機からダイ内の含浸槽へ供給した。
別途、表3に示す配合量の変性炭素繊維束を熱温度200℃の予熱部を通して予熱した後、280℃に加熱した上記の溶融された樹脂が供給されている含浸槽へ導いた。供給速度を10m/分に調整して変性炭素繊維束をダイ内に送り込み、含浸槽で溶融樹脂を含浸させ、ダイから引き出して冷却し、ペレタイザーで切断して長さ8mm、直径2.2mmの炭素繊維含有ペレットを得た。
【0125】
得られた炭素繊維含有ペレット100質量部と、希釈樹脂として表3に示す量のPP−1とを混合し、炭素繊維強化ポリプロピレン樹脂ブレンドを製造した。
得られた炭素繊維強化ポリプロピレン樹脂ブレンドを用いて射出成形し、前記評価項目の測定規格用の試験片を作製した。該試験片の機械的性能(引張破壊応力、曲げ強さ、曲げ弾性率、及びシャルピー衝撃強さ)を評価した。結果を表3に示す。
【0126】
【表3】
【0127】
実施例1〜5で得られた成形品は、引張り破壊応力、曲げ強さ、曲げ弾性率、シャルピー衝撃強さに優れ、またこれらのバランスに優れている。
【産業上の利用可能性】
【0128】
本発明の炭素繊維強化樹脂組成物及びそれを用いて得られる成形品は、自動車部品(フロントエンド、ファンシュラウド、クーリングファン、エンジンカバー、エンジンアンダーカバー、ラジエターボックス、サイドドア、バックドアインナー、バックドアアウター、外板、ドアハンドル、ラゲージボックス、ホイールカバー、クーリングモジュール、エアークリーナーケース、ペダル等)、二輪・自転車部品、住宅関連部品(浴室部品、温水洗浄便座部分、椅子の足、バルブ類、メーターボックス等)等に使用される。