特許第5650194号(P5650194)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5650194ポリアスパラギン酸前駆体ポリマーおよびポリアスパラギン酸塩の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5650194
(24)【登録日】2014年11月21日
(45)【発行日】2015年1月7日
(54)【発明の名称】ポリアスパラギン酸前駆体ポリマーおよびポリアスパラギン酸塩の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/10 20060101AFI20141211BHJP
   C08L 101/16 20060101ALI20141211BHJP
【FI】
   C08G73/10ZBP
   C08L101/16
【請求項の数】12
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2012-500572(P2012-500572)
(86)(22)【出願日】2011年2月10日
(86)【国際出願番号】JP2011052858
(87)【国際公開番号】WO2011102293
(87)【国際公開日】20110825
【審査請求日】2012年4月9日
(31)【優先権主張番号】特願2010-33542(P2010-33542)
(32)【優先日】2010年2月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】福村 考記
(72)【発明者】
【氏名】窪井 浩徳
(72)【発明者】
【氏名】福田 敬一
【審査官】 久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】 特表平08−505178(JP,A)
【文献】 特開昭63−255261(JP,A)
【文献】 特開昭49−035325(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 73/00−73/26
C08L 1/00−101/16
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無水マレイン酸とアンモニアの反応物およびマレアミド酸から選択される少なくとも1種をモノマーとして用いて重合するポリアスパラギン酸前駆体ポリマーの製造方法であって、該モノマー中のカルボキシル基の総モル数の15%以上が3級アミン塩であることを特徴とするポリアスパラギン酸前駆体ポリマーの製造方法。
【請求項2】
モノマー中のカルボキシル基の総モル数の30%以上が3級アミン塩である請求項1記載のポリアスパラギン酸前駆体ポリマーの製造方法。
【請求項3】
3級アミン塩を構成する3級アミンが、下記一般式(1)
【化1】
[式中、R、R、Rは、水素原子の一部がハロゲン原子、ヒドロキシ基および/または炭素数1〜3のアルコキシ基で置換されてもよいアルキル基、若しくは、水素原子の一部が炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基および/またはハロゲン原子で置換されてもよいアリール基を示し、それらは同一でも異なってもよい。また、R1とR2および/またはR2とR3が結合して3級の窒素原子または3級の窒素原子と他のヘテロ原子を含む環を形成してもよい。]
で表される化合物である請求項1記載のポリアスパラギン酸前駆体ポリマーの製造方法。
【請求項4】
3級アミンが、プロトン化された3級アミンの共役酸の水中またはジメチルスルホキシド中でのpKaが8.0以上を示すものである請求項1記載のポリアスパラギン酸前駆体ポリマーの製造方法。
【請求項5】
3級アミンが、トリアルキルアミンである請求項記載のポリアスパラギン酸前駆体ポリマーの製造方法。
【請求項6】
3級アミンが、トリエチルアミンである請求項記載のポリアスパラギン酸前駆体ポリマーの製造方法。
【請求項7】
モノマーを重合させる際に、重合反応前および/または重合反応中に、水または非プロトン性極性溶媒を添加する請求項1記載のポリアスパラギン酸前駆体ポリマーの製造方法。
【請求項8】
添加する水または非プロトン性極性溶媒のモル数が、重合させるモノマーの総モル数に対して10〜300%である請求項記載のポリアスパラギン酸前駆体ポリマーの製造方法。
【請求項9】
水または非プロトン性極性溶媒の添加を、分割添加により行う請求項記載のポリアスパラギン酸前駆体ポリマーの製造方法。
【請求項10】
水を添加する請求項記載のポリアスパラギン酸前駆体ポリマーの製造方法。
【請求項11】
請求項1記載の方法で得られるポリアスパラギン酸前駆体ポリマー。
【請求項12】
請求項1記載の方法で得たポリアスパラギン酸前駆体ポリマーを、塩基水溶液で処理することを特徴とするポリアスパラギン酸塩の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアスパラギン酸塩の製造に有用なポリアスパラギン酸前駆体ポリマーの製造方法、ならびに、それらを用いたポリアスパラギン酸塩の製造方法に関する。本発明によって製造されるポリアスパラギン酸塩は、キレート剤、スケール防止剤、洗剤用ビルダー、分散剤、肥料用添加剤などとして有用である。
【背景技術】
【0002】
ポリアスパラギン酸およびその塩は、環境に適合する生分解性の水溶性ポリマーとして知られており、工業用途としてキレート剤、スケール防止剤、洗剤用ビルダー、分散剤としての代替が期待されている。また農業用途として、肥料に混合することにより作物の成長促進剤としての効果が知られていると共に、殺虫剤、殺菌剤としての価値も認められている。
【0003】
ポリアスパラギン酸およびその塩の製造方法として、非特許文献1には、アスパラギン酸を200℃で2〜3時間加熱縮合させてポリコハク酸イミドを得、これを加水分解して分子量10000のポリアスパラギン酸を製造する方法が開示されている。特許文献1には、アスパラギン酸を窒素雰囲気下で180℃以上の温度で3〜6時間攪拌しながら流動床にて重合させてポリコハク酸イミドを得、これを加水分解してポリアスパラギン酸を製造する方法が開示されている。特許文献2には、アスパラギン酸を非水溶性溶媒中200〜230℃に加熱してポリコハク酸イミドを得、これをアルカリ水溶液で加水分解してポリアスパラギン酸塩を製造する方法が開示されている。その実施例1の記載では、重量平均分子量(Mw)が24000のポリアスパラギン酸塩が得られている。
【0004】
以上の各方法では、比較的容易にMwが10000以上のポリアスパラギン酸およびその塩を製造できる。しかし、ポリコハク酸イミドが溶融せず固結する問題が有るので、それを粉砕する為に特殊な装置を用いたり、縣濁重合にする為に高沸点溶媒を用いるなどの工程上の煩雑さがある。また、原料であるアスパラギン酸が高価な点も工業的製法としては不利である。
【0005】
一方、マレアミド酸または無水マレイン酸とアンモニアを原料としてポリコハク酸イミドを得、これを加水分解してポリアスパラギン酸を製造する方法が有る。例えば、特許文献3には、マレアミド酸を160〜330℃の温度で加熱してポリコハク酸イミドを得る方法が開示されている。また、特許文献4には、無水マレイン酸を水溶媒中でアンモニア水と反応させ、その後少なくとも170℃の温度に加熱してポリコハク酸イミドを得、これを塩基加水分解してポリアスパラギン酸塩を製造する方法が開示されている。
【0006】
以上の各方法は、比較的安価な無水マレイン酸とアンモニアを原料として使用するので工業的には有利な方法である。しかし、アスパラギン酸原料の場合と同様に、ポリコハク酸イミドの固結の問題が伴う。その問題を解消する為に、例えば前記特許文献3では、(1)ゼオライト、珪酸塩などの加工助剤の使用、(2)テトラヒドロナフタレン、界面活性剤などの希釈剤の使用、(3)スルホラン、ジメチルスルホキシドなどの溶剤の使用が提案されている。しかし、(1),(2)の方法では、加工助剤および希釈剤との分離が必要となり工程が煩雑である。また、(3)の方法も、再沈殿などの方法によりポリコハク酸イミドを取り出す必要があり工程が煩雑である。しかも、実施例記載のポリアスパラギン酸類のMwは2000程度である。さらに、重合温度が高いのでポリマーの着色が大きいことも問題となる。
【0007】
また、特許文献5には、アスパラギン酸または無水マレイン酸とアンモニアの反応物を水溶媒中で熱重合させ、加水分解によってポリアスパラギン酸塩を得ている。しかし、重合温度が150〜300℃必要なので高圧反応となり、高圧反応用の反応機を使用しなければならない。さらに、得られるポリアスパラギン酸類の分子量に関して、Mw=500−10000(好ましくはMw=1000−5000)と記載されており、Mwが10000を超えるポリアスパラギン酸類を得るのは困難である。また、重合温度が高いのでポリマーの着色が大きいことも問題となる。
【0008】
また、特許文献6、特許文献7および特許文献8には、マレアミド酸またはマレイン酸無水物とアンモニアの反応物の重合を連続重合装置によって行い、得られたポリコハク酸イミドを加水分解してポリアスパラギン酸塩を得る方法が開示されている。しかし、これらの方法では、塊状重合の困難さを克服する為に特殊な重合装置が必要となる。また滞留時間の制限により、得られるポリアスパラギン酸およびその塩の分子量に関して、Mw=500−10000(好ましくはMw=1000−5000)と記載されており、Mwが10000を超えるポリアスパラギン酸類を得るのは困難である。
【0009】
一方、特許文献9には、マレアミド酸、または無水マレイン酸とアンモニアとの反応物を、ビニル重合禁止剤および塩基性触媒の存在下で水素移動重合させるポリアスパラギン酸の製造法が開示されている。その実施例の記載では、触媒としてナトリウムt−ブトキシドまたは水酸化ナトリウムを用い、マレアミド酸をテトラヒドロフラン溶媒中でヒドロキノン存在下に重合させ、Mw>20000のポリアスパラギン酸が得られると記載されている。しかし、実施例には詳細な記載が無いが、反応中に水が副生する旨の記載があることから、この反応においてもポリコハク酸イミドが生成しており、再沈殿による取り出しが必要になる等、煩雑な操作が避けられない。
【0010】
以上の各従来技術の課題から明らかなように、従来技術においては、安価なマレアミド酸または無水マレイン酸とアンモニアの反応物から工業的に容易にポリアスパラギン酸およびその塩を製造する満足のいく方法があるとは言い難い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許5057597号
【特許文献2】特許3384420号公報
【特許文献3】特開平6−145350号公開
【特許文献4】特許3431154号公報
【特許文献5】特許3419067号公報
【特許文献6】特許3178955号公報
【特許文献7】特許3683064号公報
【特許文献8】特許3385587号公報
【特許文献9】特開2000−290368号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】J.Am.Chem.Soc.,80,3361(1958)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、マレアミド酸または無水マレイン酸とアンモニアの反応物から、工業的に安価かつ容易にポリアスパラギン酸塩を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、鋭意検討の結果、安価な無水マレイン酸とアンモニアの反応物、およびマレアミド酸から選択される少なくとも1種のモノマーとして、特定種類のモノマーを使用することにより優れた効果が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0015】
すなわち本発明は、無水マレイン酸とアンモニアの反応物およびマレアミド酸から選択される少なくとも1種をモノマーとして用いて重合するポリアスパラギン酸前駆体ポリマーの製造方法であって、該モノマー中のカルボキシル基の総モル数の15%以上が3級アミン塩であることを特徴とするポリアスパラギン酸前駆体ポリマーの製造方法である。
【0016】
また本発明は、上記方法においてモノマーを重合させる際に、水または非プロトン性極性溶媒を添加することを特徴とするポリアスパラギン酸前駆体ポリマーの製造方法である。
【0018】
さらに本発明は、上記方法で得られるポリアスパラギン酸前駆体ポリマーである。
【0019】
さらに本発明は、上記方法で得たポリアスパラギン酸前駆体ポリマーを、塩基水溶液で処理することを特徴とするポリアスパラギン酸塩の製造方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、安価な無水マレイン酸とアンモニアの反応物、およびマレアミド酸から選択される少なくとも1種をモノマーとして用いて重合する際に、該モノマー中のカルボキシル基を3級アミン塩とすることで、従来困難だった溶融状態での重合反応が可能となり、特殊な設備を用いずに容易に高分子量のポリアスパラギン酸前駆体ポリマーを製造できる。さらにモノマーを重合させる際に、水または非プロトン性極性溶媒を添加することで重合粘度をより低減化できるため、幅広い汎用設備の利用が可能である。また、比較的低温での重合が可能なことから、その前駆体ポリマーを塩基水溶液で処理することで容易に色相が優れたポリアスパラギン酸塩を製造できる。しかも、使用後の3級アミンは通常の方法で容易に回収可能なので、工業的な見地から非常に効果的な製造方法である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施例1のIRチャートである。
図2】実施例1のNMRチャートである。
図3】実施例3のIRチャートである。
図4】実施例4のIRチャートである。
図5】実施例5のIRチャートである。
図6】実施例6のIRチャートである。
図7】実施例7のIRチャートである。
図8】実施例8のIRチャートである。
図9】比較例1のIRチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の方法では、無水マレイン酸とアンモニアの反応物、およびマレアミド酸から選択される少なくとも1種をモノマーとして用いる。そして、このモノマー中のカルボキシル基の少なくとも一部が3級アミン塩を形成していることが必要である。
【0023】
無水マレイン酸とアンモニアの反応物、およびマレアミド酸は、公知の方法で容易に合成できる。これらはそれぞれ単独で用いても混合して用いてもよい。また、単離して用いてもよいし、単離操作をせず合成反応組成物のまま用いることもできる。これらモノマーを溶媒の存在下または不存在下に3級アミンと混合して反応させることで、モノマー中のカルボキシル基を3級アミン塩にすることができる。3級アミンは、モノマー中のカルボキシル基と塩を生成しうる3級アミンであれば特に制限はない。3級アミン塩を構成する3級アミンは、好ましくは下記一般式(1)
【0024】
【化1】
【0025】
[式中、R、R、Rは、水素原子の一部がハロゲン原子、ヒドロキシ基および/または炭素数1〜3のアルコキシ基で置換されてもよいアルキル基、若しくは、水素原子の一部が炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基および/またはハロゲン原子で置換されてもよいアリール基を示し、それらは同一でも異なってもよい。また、RとRおよび/またはRとRが結合して3級の窒素原子または3級の窒素原子と他のヘテロ原子を含む環を形成してもよい。]
で表される化合物である。
【0026】
一般式(1)において、R、R、Rの定義中の「水素原子の一部がハロゲン原子、ヒドロキシ基および/または炭素数1〜3のアルコキシ基で置換されてもよいアルキル基」は、直鎖、分岐状、環状の何れの形態のアルキル基であってもよい。このアルキル基は、その水素原子の一部(通常1〜3個の水素原子)が、ハロゲン原子、ヒドロキシ基および/または炭素数1〜3のアルコキシ基で置換されてもよい。ハロゲン原子の具体例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。炭素数1〜3のアルコキシ基の具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、n‐プロピロキシ基、イソプロピロキシ基が挙げられる。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n‐プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、デシル基などが挙げられる。これらの中で、原料の入手し易さから炭素数1〜4の低級アルキル基が好ましい。また、水素原子の一部が置換されたアルキル基としては、例えば、2,2,2-トリフルオロエチル基、2−ヒドロキシエチル基、2−メトキシエチル基、3−クロロプロピル基等が挙げられる。
【0027】
一般式(1)において、R、R、Rの定義中の「水素原子の一部が炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基および/またはハロゲン原子で置換されてもよいアリール基」は、芳香族炭化水素系アリール基、ヘテロ芳香族系のアリール基の何れでもよい。このアリール基は、その水素原子の一部(通常1〜3個の水素原子)が、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基および/またはハロゲン原子で置換されてもよい。炭素数1〜4のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n‐プロピル基、イソプロピル基、n‐ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソブチル基が挙げられる。炭素数1〜3のアルコキシ基の具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、n‐プロピロキシ基、イソプロピロキシ基が挙げられる。ハロゲン原子の具体例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、ピリジル基、キノリル基、フリル基、チエニル基が挙げられる。また、水素原子の一部が置換されたアリール基としては、例えば、4−メチルフェニル基、4−メトキシフェニル基、3−フルオロフェニル基、2,4−ジクロロフェニル基等が挙げられる。
【0028】
一般式(1)において、「RとRおよび/またはRとRが結合して3級の窒素原子または3級の窒素原子と他のヘテロ原子を含む環を形成してもよい」とは、RとRおよび/またはRとRが結合して3級の窒素原子を1つまたはそれ以上含む環の形成、または3級の窒素原子と他のヘテロ原子を含む環の形成を意味する。3級の窒素原子を1つまたはそれ以上含む環としては、例えば、N−メチルピロリジン、N−メチルピペリジン、キヌクリジン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(以下「DABCO」と略す)、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン(以下「DBU」と略す)、N−メチルインドールが挙げられる。3級の窒素原子と他のヘテロ原子を含む環としては、例えば、N−メチルモルホリン、N−メチルチオモルホリンが挙げられる。
【0029】
3級アミン塩を構成する3級アミンは、モノマー中のカルボキシル基との塩の形成し易さから、塩基性が高い方が好ましい。具体的には、例えばプロトン化された3級アミンの共役酸の水中またはジメチルスルホキシド中でのpKaが8以上を示すものであることが好ましい。このような3級アミンの具体例としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、ジ(イソプロピル)エチルアミン、キヌクリジン、N−メチルピロリジン、N−メチルピペラジン、DABCO、DBU、4−(N,N−ジメチルアミノ)ピリジンが挙げられる。これらの中で、工業的な入手し易さと回収の容易さから、トリメチルアミン、トリエチルアミン等のトリアルキルアミンが好ましく、特にトリエチルアミンがより好ましい。
【0030】
モノマーを溶媒の存在下に3級アミンと混合して反応させる場合、その溶媒に特に制限は無い。溶媒の具体例としては、n−ペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン等の炭化水素系溶媒、トルエン、キシレン、クメン、メシチレン、クロルベンゼン、オルソジクロロベンゼン等の芳香族系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル、アニソール、ジフェニルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系溶媒、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、t−ブタノール、n−ペンタノール、n−オクタノール、エチレングリコール、ポリエチレングリコール等のアルコール系溶媒、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、スルホラン等の非プロトン性極性溶媒が挙げられる。ここで言う溶媒には、モノマーおよび/またはモノマーの3級アミン塩を溶解しない液体媒質も含まれる。反応温度は特に制限はないが、用いる3級アミンの沸点以下、溶媒を使用する場合は溶媒の沸点以下が好ましい。
【0031】
モノマーと3級アミンを混合する際、モノマー中のカルボキシル基と3級アミンのモル比は、特に制限されない。ただし、少なくともカルボキシル基の一部が3級アミン塩になることが必要である。モノマー中のカルボキシル基:3級アミンのモル比は、通常は1:0.05〜1.5、好ましくは1:0.15〜1.2、より好ましくは1:0.3〜1である。モノマーと3級アミンの混合方法に特に制限は無い。攪拌等によってモノマーと3級アミンが均一に接触できるとより好ましい。このような方法により、カルボキシル基の少なくとも一部が3級アミン塩である特定のモノマーを得ることができる。以下、これを「モノマーの3級アミン塩」と称す。
【0032】
生成したモノマーの3級アミン塩は、単離することなく、そのまま重合反応に使用できる。また必要であれば、ろ過や脱溶媒など通常の操作によって単離できる。
【0033】
本発明では、以上説明したモノマーの3級アミン塩を重合させることを特徴とする。その重合物はポリコハク酸イミドではなく、部分的にポリアスパラギン酸の3級アミン塩構造をもった新規なポリアスパラギン酸前駆体ポリマーである。そして、このポリアスパラギン酸前駆体ポリマーは、ポリコハク酸イミドと異なり明確な融点を持つので、融点より高い重合温度を設定すれば重合が流動可能な溶融状態で進行する。さらに、このポリアスパラギン酸前駆体ポリマーは3級アミン塩によるイオン対構造を持つので水溶性があり、水または非プロトン性極性溶媒を添加することで重合粘度を大きく低減化することができる。一方、従来技術では、通常のモノマーを重合させるのでポリコハク酸イミドが生成し、そのポリコハク酸イミドは明確な融点を持たず熱分解するまで固体状態を保ち、かつ水溶性も無いので、重合中に固結するのなどの問題が生じてしまう。
【0034】
モノマーの3級アミン塩は、モノマー中のカルボキシル基の一部が3級アミン塩であればよい。ただし、3級アミン塩の割合が高い方が重合時の溶融粘度が低くなるので好ましい。通常は、モノマー中のカルボキシル基の総モル数の5モル%以上が3級アミン塩であり、好ましくは15モル%以上が3級アミン塩であり、より好ましくは30モル%以上が3級アミン塩である。
【0035】
重合反応は、溶媒の存在下、または不存在下で行うことができる。本発明の方法では特に溶媒は必要としないが、伝熱の均等性や放熱効率向上のために溶媒を使用することも問題ない。ここで言う溶媒とは、原料および/または重合物を溶解しない液体媒質も含まれる。溶媒を用いた重合形式としては、溶液重合、懸濁重合、2相重合などがある。溶媒は、反応に悪影響を及ぼさないものであればよく、特に制限は無い。溶媒の具体例としては、トルエン、キシレン、クメン、ヘキサン等の炭化水素系溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリジノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等の非プロトン性極性溶媒が挙げられる。特に、炭化水素系溶媒、ハロゲン系溶媒など水にほとんど溶解しない溶媒は、アルカリ水溶液による処理でポリアスパラギン酸類を得る際に分液で容易に分離できるので好ましい。また各溶媒は、任意の比率で混合溶媒としても使用できる。
【0036】
重合反応には、必要に応じて触媒の使用も可能である。ただし、酸触媒は3級アミン塩が遊離する可能性があるので好ましくない。
【0037】
また、重合反応の際に必要に応じて、水または非プロトン性極性溶媒を添加することもできる。本発明の方法で得られるポリアスパラギン酸前駆体ポリマーは溶融性に加えて水溶性があるため、水または非プロトン性極性溶媒の添加によって重合粘度をより低減化することが可能である。特に水を添加する態様は、重合粘度を低減化する効果が高く、かつその後の工程で分離の必要がないので最も好ましい。水または非プロトン性極性溶媒の添加は、重合反応前および/または重合反応中に行うことができる。添加する水または非プロトン性極性溶媒の量は特に制限はないが、通常、重合させるモノマーの総モル数(100モル%)に対して10〜300モル%が好ましい。この範囲の下限値は、重合粘度低減化の効果の点で意義がある。また上限値は、低減化の効果の向上にも限界がある点、及び、重合速度の低下を防止する点で意義がある。特に、重合反応前に水を添加する場合は、重合速度の低下を防止する点から、10〜100モル%がより好ましい。水または非プロトン性極性溶媒は、その全量を一括して添加しても良いし、分割して添加しても良い。例えば、重合粘度の上昇時に随時水または非プロトン性極性溶媒を分割添加する態様は、重合粘度を常時低く抑えることができるので好ましい。
【0038】
重合温度は、反応が進行する温度でかつ得られるポリアスパラギン酸前駆体ポリマーの融点より高ければ特に制限は無い。具体的には、3級アミンの種類や3級アミン塩の含有量に応じて重合温度を適宜設定すればよい。重合温度は、通常0℃〜350℃、好ましくは50℃〜200℃、より好ましくは80℃〜140℃である。重合温度を適度な範囲内に設定すれば、ポリマーの着色を防止し、かつ実用的な重合速度で重合物を溶融することによってポリマーの固結による問題を解決できる。
【0039】
重合時間は、目的とするポリアスパラギン酸前駆体ポリマーの最適分子量、3級アミンの種類や3級アミン塩の含有量、重合温度などの条件に応じて適宜設定すればよい。通常1分から100時間、好ましくは5分〜30時間、特に好ましくは15分〜15時間である。重合時間を適度な範囲内に設定すれば、目的とするポリマーの最適分子量が得られ、原料の残存が少なく、また生産効率も良くなる。
【0040】
重合方法はバッジ式もしくは連続のどちらでもよい。重合装置は特に制限無く、公知の装置を使用できる。
【0041】
本発明によって得られるポリアスパラギン酸前駆体ポリマーは、ポリコハク酸イミドではなく、部分的にポリアスパラギン酸の3級アミン塩構造をもった新規なポリアスパラギン酸前駆体ポリマーである。すなわち下記一般式(2)および(3)
【0042】
【化2】
【0043】
【化3】
【0044】
[式中、R、R、Rは、前記一般式(1)と同じ意味を表す。]
で表される部分構造の両方を含有することを特徴とするポリアスパラギン酸前駆体ポリマーである。
【0045】
これらの部分構造はIRによるイミドの吸収(1700cm−1付近)と、アミドの吸収(1580cm−1付近)並びにカルボキシル基の3級アミン塩の吸収(2700〜2250cm−1付近の幅広い吸収)によって確認できる。
【0046】
一般式(2)と一般式(3)の部分構造の比は特に制限は無い。ただし、一般式(3)の部分構造が多いほど、ポリマーの融点が低くなり、流動開始温度が低下するので好ましい。通常は、一般式(3)の部分構造の含有率が全部分構造に対して5%以上であり、好ましくは15%以上であり、より好ましくは30%以上である。一般式(3)で表される部分構造の含有率は、得られたポリアスパラギン酸前駆体ポリマー中の3級アミン量を1H−NMRの積分比から算出することで求めることができる。
【0047】
ポリアスパラギン酸前駆体ポリマーの分子量は、通常標準物質により分子量校正を行ったGPC分析によって求めることができる。また、この場合、ポリアスパラギン酸前駆体ポリマーそのもの、または塩基水溶液で処理しポリアスパラギン酸塩として求めることができる。
【0048】
ポリアスパラギン酸前駆体ポリマーの分子量に特に制限は無い。その重量平均分子量(Mw)は、通常は2000〜100000、好ましくは5000〜30000、より好ましくは7000〜20000である。ポリアスパラギン酸前駆体ポリマーの融点は、ポリマーの分子量、3級アミンの種類、3級アミン塩の含有量等によって決まるが、通常は0〜200℃、好ましくは30〜120℃である。
【0049】
ポリアスパラギン酸前駆体ポリマーは、重合後冷却することでガラス状固体として得られる。重合時に溶媒を用いた場合は、デカント分離や溶媒留去などの通常の方法によって溶媒を除去し、ポリマーを取り出すことができる。また取り出すことなく、必要に応じて重合後、塩基水溶液処理によってポリアスパラギン酸塩に変換してもよい。
【0050】
ポリマーが所望の分子量になるまで重合反応を行った後、得られたポリアスパラギン酸前駆体ポリマーを塩基水溶液で処理することにより、ポリアスパラギン酸塩を得ることができる。塩基水溶液としては、3級アミンよりも塩基性が強い塩基を使用する。塩基水溶液の具体例としては、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物または炭酸塩の水溶液が挙げられる。特に、NaOH、KOHまたはLiOHの水溶液が好ましく、NaOHの水溶液がより好ましい。塩基の濃度は特に制限は無いが、通常は0.5〜50質量%溶液が好ましい。場合によっては、あらかじめ重合組成物中に水を添加した後に、塩基または塩基水溶液を入れて処理することもできる。
【0051】
塩基水溶液の使用量は、ポリアスパラギン酸前駆体ポリマーをポリアスパラギン酸塩に変換するのに十分な量であればよい。通常、用いる塩基のモル数がポリアスパラギン酸前駆体ポリマー中のカルボキシル基およびイミド基を合わせたモル数の90〜120%の範囲内であれば特に問題ない。塩基水溶液で処理する際の温度は、ポリマー主鎖の加水分解が起こらない温度であればよく、通常は10℃〜120℃が好ましい。
【0052】
この塩基水溶液での処理によって、ポリアスパラギン酸前駆体ポリマーから3級アミンが遊離して来る。この遊離した3級アミンは、分液、抽出、蒸留、ろ過など通常の操作で容易に分離回収でき、これを再利用できる。
【0053】
以上のようにして得たポリアスパラギン酸塩水溶液は、そのまま使用することもできるが、凍結乾燥などの手段で粉体として取り出すこともできる。また、適宜酸で中和してポリアスパラギン酸として取り出すこともできる。本発明の方法で得たポリアスパラギン酸塩は、通常の方法で得られるポリアスパラギン酸塩に較べて、水溶液の色相にも優れている。
【0054】
なお、本発明に使用するマレアミド酸の3級アミン塩は、それ自体が新規化合物である。本発明に特に好適に使用出来るマレアミド酸の3級アミン塩としては、その3級アミンが下記一般式(4)
【0055】
【化4】
[式中、R、R、Rは、炭素数1〜4の直鎖または分岐のアルキル基を示し、それらは同一でも異なってもよい。]
で表されるマレアミド酸の3級アミン塩が挙げられる。特に、マレアミド酸のトリエチルアミン塩が最も好ましい。
【実施例】
【0056】
以下に本発明の実施例を記載する。ただし本発明はこれらに制限されない。各物性の測定方法は以下の通りである。
【0057】
(1)IR測定:
PERKIN−ELMER製 Spectrum One(商品名)を用い、以下の条件で反射法にて測定した。
・波長範囲:4000〜400cm−1
・積算回数:16回
・分解能:4cm−1
【0058】
(2)GPC分析:
以下の条件で測定した。
・使用カラム:shodex Ashahipak GF−7M HQ(商品名)
・溶離液:0.1M NaCl水溶液
・カラム温度:40℃
・流量:1ml/min
・検出器:RI
・分子量校正曲線の作成:
プルランの分子量標準品としてShodex STANDARD(商品名) P−5(Mp=5900)、P−10(Mp=9600)、P−20(Mp=21100)、P−50(Mp=47100)を用いて分子量校正曲線を作成した。
【0059】
(3)融点測定:
BUCHI社製融点測定器B−545型を用い、目視にて測定を行った。
【0060】
(4)流動開始温度の測定:
島津製作所製キャピラリーレオメーター CFT−500D(商品名)を用いて、サンプルポリマー0.8gを加熱体にて40℃で5分間予熱し、その後3℃/分にて昇温させながら100Kgfの加重をピストンに加え、溶融ポリマーが流出し始めた温度を流動開始温度とした。ただし200℃を上限とした。
【0061】
(5)YI値測定:
日本電色工業株式会社製分光色彩計SE−2000を用い、ポリアスパラギン酸塩の5%水溶液を透過測定用セルに入れ、3回の測定値の平均よりYI値を算出した。
【0062】
(6)重合粘度の測定(攪拌トルク値の測定):
東京理科機械製の攪拌モーターEYELA MAZELA Z(商品名)を用い、重合中の粘度変化を攪拌トルク値で表した。
【0063】
<実施例1:マレアミド酸のトリエチルアミン塩の製造>
温度計、還流冷却管、機械攪拌機、滴下ロートを備えた500ml4口フラスコを用いて、窒素雰囲気下、トルエン200g中にマレアミド酸115gを懸濁させ、この懸濁液を攪拌しながら室温でトリエチルアミン102gを加えた。次いで60℃まで加熱し、その温度を2時間保持し、その後冷却した。ロータリーエバポレーターを用いて冷却後の反応マスからトルエンを減圧下で留去し、さらさらの白色粉体188gを得た。
【0064】
この白色粉体に対してIR測定を行い、マレアミド酸のトリエチルアミン塩が生成していることを確認した。そのIRチャートを図1に示す。またNMR測定を行い、1H−NMRの積分比からトリエチルアミン塩化率が75%であることを確認した。そのデータを以下に示し、NMRチャートを図2に示す。
1H−NMR(DMSO−d6,400MHz) δ1.51(t,6.76H,J=7.2Hz),2.99(q,4.46H,J=7.2Hz),5.82(d,1H,J=13.2Hz),6.15(d,1H,J=13.2Hz),7.39(bs,1H),9.84(bs,1H)
【0065】
<実施例2:マレアミド酸のトリエチルアミン塩の重合によるポリアスパラギン酸ナトリウムの製造(溶媒使用の例)>
温度計、還流冷却管、機械攪拌機、滴下ロートを備えた500ml4口フラスコを用いて、窒素雰囲気下、実施例1で得たマレアミド酸のトリエチルアミン塩80gとキシレン53gを仕込み、攪拌しながら120℃まで温度を上げ、その温度で8.5時間重合させた。重合前は白色スラリー状態であったが、重合反応が進むと溶融塩を経て赤褐色の溶融ポリマーが生成した。この重合反応中、ポリマーは固結することなく攪拌機によって攪拌されていた。次いで、30gの水を添加して60℃まで温度を下げ、さらに50%NaOH水41gを添加して60〜80℃で処理を行った。ポリマーが完全に水に溶解したのを確認した後、攪拌を止めて静置し、2相分離させた。
【0066】
2相分離液からトリエチルアミンを含むキシレン相を除き、55質量%のポリアスパラギン酸ナトリウム水溶液を得た。このポリアスパラギン酸ナトリウムの重量平均分子量(Mw)は12000であった。
【0067】
<実施例3:マレアミド酸のトリエチルアミン塩の重合によるポリアスパラギン酸前駆体ポリマーの製造>
磁気攪拌子を備えた100mlの試験管に、マレアミド酸3g、キシレン3gおよびトリエチルアミン2.68g(100モル%/マレアミド酸)を仕込み、窒素雰囲気下、攪拌しながら加熱した。加熱途中でマレアミド酸がトリエチルアミン塩となって溶融したのを確認した後、100℃で12時間重合させた。重合中、ポリマーは溶融状態であった。このポリマー溶融液からキシレンをデカント分離して室温まで冷却し、赤橙色のガラス状ポリマーを得た。
【0068】
この赤橙色のガラス状ポリマーに対してIR測定を行い、ポリコハク酸イミド構造とポリアスパラギン酸の3級アミン塩の構造を持つポリアスパラギン酸前駆体ポリマーが生成していることを確認した。そのIRチャートを図3に示す。また、このポリマーのNaOH水溶液処理後のMwは10895であった。
【0069】
<実施例4〜8:マレアミド酸のトリエチルアミン塩の重合によるポリアスパラギン酸前駆体ポリマーの製造(トリエチルアミン量の影響)>
磁気攪拌子を備えた100mlの試験管各々に、マレアミド酸10gを仕込み、トリエチルアミンをそれぞれ15、30、50、75、100モル%/マレアミド酸と量を変えて添加し、窒素雰囲気下、攪拌しながら加熱した。120℃で6時間重合させてそれぞれポリアスパラギン酸前駆体ポリマーを得た。各々の重合条件、重合時の状態、および各種物性値を表1にまとめて示す。また、図4〜8に実施例4〜8で得たポリマーのIRチャートをそれぞれ示す。
【0070】
<比較例1:マレアミド酸の重合によるポリコハク酸イミドの製造>
トリエチルアミンを添加せず、また重合温度を130℃としたこと以外は、実施例4の方法と同じ条件で行ったところ、ポリコハク酸イミドを得た。重合条件、重合時の状態および得られたポリコハク酸イミドの各種物性値を表1にまとめて示す。また、図9にポリコハク酸イミドのIRチャートを示す。
【0071】
<実施例9:マレアミド酸のトリエチルアミン塩の重合によるポリアスパラギン酸ナトリウムの製造(無溶媒法の例)>
島津製作所製キャピラリーレオメーター CFT−500D(商品名)を用いて、実施例1で得たマレアミド酸のトリエチルアミン塩の粉体0.82gをシリンダー内に仕込み、130℃で2時間加熱し、ピストンで押出し溶融状態の赤橙色のポリマーを得た。これを10%NaOH水で処理し、5質量%のポリアスパラギン酸ナトリウム水溶液を得た。このポリアスパラギン酸ナトリウムのMwは9000であった。
【0072】
<比較例2:マレアミド酸の重合によるポリアスパラギン酸ナトリウムの製造(無溶媒法)>
原料をマレアミド酸に変更したこと以外は、実施例9の方法と同様に行ったところ、重合後ポリマーはストランド状で得られた。また、NaOH水溶液処理後のポリアスパラギン酸ナトリウムのMwは4800であった。
【0073】
<実施例10:マレアミド酸のトリエチルアミン塩の重合によるポリアスパラギン酸ナトリウムの製造>
温度計、還流冷却管、機械攪拌機、滴下ロートを備えた500ml4口フラスコを用い、窒素雰囲気下、マレアミド酸60gとキシレン53gを仕込み、攪拌しながら加熱し、50℃でトリエチルアミン15.9g(30モル%/マレアミド酸)を添加し造塩した。さらに120℃まで温度を上げ、その温度で7時間重合させたところ、白色スラリー液から、溶融塩を経て赤褐色の溶融ポリマーが生成した。重合中、ポリマーは固結することなく攪拌機によって攪拌されていた。次いで、29gの水を添加し60℃まで温度を下げ、その後50%NaOH水41gを添加して60〜80℃で処理を行った。ポリマーが完全に水に溶解したのを確認した後、攪拌を止めて静置し2相分離させた。分液によりトリエチルアミンを含むキシレン相を除き、55質量%のポリアスパラギン酸ナトリウム水溶液を得た。このポリアスパラギン酸ナトリウムのMwは11700であった。
【0074】
<比較例3:マレアミド酸の重合によるポリアスパラギン酸ナトリウムの製造(溶媒使用の例)>
温度計、還流冷却管、機械攪拌機、滴下ロートを備えた300ml4口フラスコを用い、窒素雰囲気下、マレアミド酸40gとキシレン40gを仕込み、攪拌しながら130℃まで温度を上げた。その温度で4.5時間重合させたところ、白色スラリー液から、赤橙色フォーム状重合物が生成し始め、重合1.5時間で固結して攪拌が止まった。そのまま3時間重合させたが固結状態は解消されなかった。冷却後、得られたフォーム状固体を粉砕し、NaOH水溶液で処理し、分液でキシレンを除き55質量%のポリアスパラギン酸ナトリウム水溶液を得た。このポリアスパラギン酸ナトリウムのMwは9500であった。
【0075】
<実施例11および12:マレアミド酸のトリエチルアミン塩の重合によるポリアスパラギン酸ナトリウムの製造(3級アミン塩の含有量)>
添加するトリエチルアミンの量をそれぞれ26g(50モル%/マレアミド酸)および40g(75モル%/マレアミド酸)に変えたこと以外は、実施例10と同様にしてポリアスパラギン酸ナトリウム水溶液を得た。重合時のポリマーの状態、攪拌機の状態、および分子量を、実施例10および比較例3と合わせて表2に示す。
【0076】
<実施例13:マレアミド酸のトリエチルアミン塩の重合によるポリアスパラギン酸ナトリウムの製造(高分子量の例)>
磁気攪拌子を備えた100mlの試験管に、マレアミド酸2gとトリエチルアミン0.88g(50モル%/マレアミド酸)を仕込み、窒素雰囲気下、攪拌しながら加熱した。加熱途中でマレアミド酸がトリエチルアミン塩となって溶融したのを確認した後、140℃で4時間重合させた。重合中ポリマーは溶融状態であった。これをNaOH水溶液で処理し、キシレン抽出でトリエチルアミンを除き、5質量%のポリアスパラギン酸ナトリウム水溶液を得た。このポリアスパラギン酸ナトリウムのMwは14600であった。
【0077】
<実施例14〜18:マレアミド酸の各種3級アミン塩の重合によるポリアスパラギン酸ナトリウムの製造>
磁気攪拌子を備えた100mlの試験管に、キシレン3g、マレアミド酸3gおよび15モル%の各種3級アミンン仕込み、窒素雰囲気下、攪拌しながら100℃で6時間重合させた。これをNaOH水溶液で処理しポリアスパラギン酸ナトリウム水溶液を得た。使用した3級アミンの種類、pK値、ポリマーの分子量を表3に示す。
【0078】
<比較例4:マレアミド酸の重合によるポリアスパラギン酸ナトリウムの製造>
3級アミンを使用しなかったこと以外は、実施例14と同様に行ったところ、マレアミド酸は重合せず原料回収であった。結果を表3に示す。
【0079】
<実施例19および20:マレアミド酸のトリエチルアミン塩の重合によるポリアスパラギン酸ナトリウムの製造(色相の比較)>
磁気攪拌子を備えた100mlの試験管に、キシレン3g、マレアミド酸3gおよび15モル%のトリエチルアミンを仕込み、窒素雰囲気下、攪拌しながら90℃で15時間、または100℃で12時間で重合させた。これをNaOH水溶液で処理し、ポリアスパラギン酸ナトリウム水溶液を得た。このポリアスパラギン酸ナトリウムのMw、および5%水溶液のYI値を表4に示す。
【0080】
<比較例5:マレアミド酸の重合によるポリアスパラギン酸ナトリウムの製造(色相の比較)>
トリエチルアミンを使用せず、かつ130℃で12時間重合させたこと以外は、実施例19と同様にしてポリアスパラギン酸ナトリウム水溶液を得た。このポリアスパラギン酸ナトリウムのMwおよび5%水溶液のYI値を表4に示す。
【0081】
<実施例21:マレアミド酸のトリエチルアミン塩の重合によるポリアスパラギン酸ナトリウムの製造(重合中の水の添加)>
温度計、還流冷却管、機械攪拌機、滴下ロートを備えた500ml4口フラスコを用い、窒素雰囲気下、マレアミド酸60gとキシレン53gを仕込み、攪拌しながら加熱し、80℃でトリエチルアミン26g(50モル%/マレアミド酸)を添加し造塩した。さらに120℃まで温度を上げて重合反応を開始した。この時点で白色スラリーから溶融塩状態に変化しており、機械攪拌機の攪拌トルク値は0.05N・mであった。さらに、重合の進行とともに赤橙色の溶融ポリマーが生成して粘度の上昇がみられ、重合開始から2時間の時点で、攪拌トルク値が0.15N・mまで上昇した。そこで、水6.6g(マレアミド酸に対して70モル%)を添加したところ粘度が下がり、トルク値は0.05N・mまで低下した。その後6時間重合させたが、トルク値は0.1N・mを超えなかった。次いで、29gの水を添加し60℃まで温度を下げ、その後50%NaOH水41gを添加して60〜80℃で処理を行った。ポリマーが完全に水に溶解したのを確認した後、攪拌を止めて静置し2相分離させた。分液によりトリエチルアミンを含むキシレン相を除き、55質量%のポリアスパラギン酸ナトリウム水溶液を得た。このポリアスパラギン酸ナトリウムのMwは9342であった。
【0082】
<実施例22:マレアミド酸のトリエチルアミン塩の重合によるポリアスパラギン酸ナトリウムの製造(重合前の水添加)>
水の添加を、重合前のマレアミド酸をトリエチルアミンで造塩した時点で実施した以外は実施例21と同様に行ったところ、重合中攪拌トルク値は0.1N・mを超えなかった。得られたポリアスパラギン酸ナトリウムのMwは8875であった。
【0083】
<実施例23:マレアミド酸のトリエチルアミン塩の重合によるポリアスパラギン酸ナトリウムの製造(水の分割添加)>
実施例21において、水を攪拌トルクが0.1N・mとなった時点でマレアミド酸に対して10モル%ずつ添加する方法に変えた以外は同様に行ったところ、重合開始から8時間で5回水を添加し、重合中攪拌トルク値は0.1N・mを超えなかった。得られたポリアスパラギン酸ナトリウムのMwは10839であった。
【0084】
<実施例24:マレアミド酸のトリエチルアミン塩の重合によるポリアスパラギン酸ナトリウムの製造(重合中ジメチルホルムアミドの添加)>
実施例21において、水の代わりにジメチルホルムアミド6.6g(マレアミド酸に対して18モル%)を攪拌トルク値が0.15N・mになった時点で添加したところ、トルク値は0.14と僅かに下がった。さらにジメチルホルムアミド19.1g(マレアミド酸に対して52モル%)を追加で添加したところ、粘度が下がりトルク値は0.05N・mまで低下した。その後6時間で重合させたが、トルク値は0.1N・mを超えなかった。得られたポリアスパラギン酸ナトリウムのMwは9454であった。
【0085】
【表1】
【0086】
【表2】
【0087】
【表3】
【0088】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明によって製造されるポリアスパラギン酸塩は、例えば、キレート剤、スケール防止剤、洗剤用ビルダー、分散剤、肥料用添加剤などの各種用途に有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9